説明

2サイクルエンジン、それを備えたエンジン作業機、およびその2サイクルエンジンのシリンダブロックの製造方法

【課題】製造コストを増加させること無く、出力の向上や排気ガス特性を向上させることのできる2サイクルエンジンを提供する。
【解決手段】2サイクルエンジン1は、クランクケース4に接続され、シリンダボア2の側壁に開口する第1掃気開口10と外側の壁面に開口する第1外部開口15とを接続し、シリンダボア2の軸線13方向視において略直線の長手方向の軸線を有する第1水平方向掃気路と、第1水平方向掃気路からシリンダボア2の軸線13方向において下死点の方向に延びてクランク室に接続する第1垂直方向掃気路とが形成されたシリンダブロック3と、第1水平方向掃気路の第1垂直方向掃気路が接続される位置より第1外部開口15側に設けられ、第1水平方向掃気路を閉鎖する第1ねじ部材19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルエンジン、特に刈払い機、チェンソーおよびブロア等の手持ちエンジン作業機に好適な2サイクルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
2サイクルエンジンにおいては、シリンダボア内での掃気の流れを制御して出力の向上や排気ガス特性の向上を実現するために、シリンダボアに開口する掃気口や、掃気通路の形状が工夫されている。一方で、掃気通路の構造を簡略化するため、例えば特許文献1に示すように、掃気通路を外側から閉鎖板により覆うよう構成したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−42401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の2サイクルエンジンでは上述のような閉鎖板を取り付けるために、シリンダブロックに取付部を備えている。このため、部品点数が増加するとともに組立て工数が増加して製造コストが増加してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、製造コストを増加させること無く、出力の向上や排気ガス特性を向上させることのできる2サイクルエンジン等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点にかかる2サイクルエンジンは、
ピストンを摺動可能に収容するシリンダボアの側壁に開口する掃気開口と外側の壁面に開口する外部開口とを接続し前記シリンダボアの軸線方向視において略直線の長手方向の軸線を有する第1掃気路と、該第1掃気路から前記シリンダボアの軸線方向において下死点の方向に延びてクランクケース内に形成されるクランク室に接続する第2掃気路と、が形成されるシリンダブロックと、
前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置より前記外部開口側に設けられ、前記第1掃気路を閉鎖する閉鎖部材と、を備え、
前記第1掃気路は、前記第2掃気路が接続される位置と前記外部開口との間に、ねじ山が形成された雌ねじ部を有し、
前記閉鎖部材は外側面にねじ山が形成され、
前記雌ねじ部に前記閉鎖部材が螺合する、
ことを特徴とする。
【0007】
また、前記第1掃気路の前記雌ねじ部の断面積が、前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置より前記掃気開口側の断面積より大きくてもよい。
【0008】
さらに、前記第1掃気路と前記雌ねじ部は略同軸上に形成されてもよい。
【0009】
また、前記第1掃気路は、前記シリンダボアの軸線方向において、前記長手方向の軸線の前記シリンダボア内に延びる延長線が上死点に近づくように形成されてもよい。
【0010】
さらに、前記第1掃気路は、前記第2掃気路が接続される位置と前記雌ねじ部との間に、前記閉鎖部材のねじ山が形成された前記外側面の外径より小さい内径を有する縮径部を有することが好ましい。
【0011】
また、前記縮径部の前記雌ねじ部側の端部は、前記第1掃気路と前記第2掃気路とが接続する前記雌ねじ部側の位置より前記雌ねじ部側に位置してもよい。
【0012】
さらに、前記シリンダブロックは、前記第2掃気路と前記シリンダボアとの間に、
上死点側の肉厚が下死点側の肉厚より厚い隔壁を有してもよい。
【0013】
また、前記掃気開口は、前記シリンダボアの軸線方向視において前記シリンダボアの軸線と前記シリンダボアの側壁に開口する排気開口とを通る中心線に対して少なくとも一対が略対称に設けられ、前記掃気開口は前記排気開口と反対側に向けて開口してもよい。
【0014】
さらに、前記掃気開口は、前記シリンダボアの軸線方向視において前記シリンダボアの軸線と前記シリンダボアの側壁に開口する排気開口とを通る中心線に対して片側に少なくとも二つ以上設けられ、それぞれの掃気開口に接続される第1掃気路は、前記シリンダボアから離れる方向に向かうに従って遠ざかるよう構成されてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点にかかるエンジン作業機は、上述の2サイクルエンジンを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の観点にかかる2サイクルエンジンのシリンダブロックの製造方法は、
シリンダボアの側壁に開口する掃気開口と外側の壁面に開口する外部開口とを接続し前記シリンダボアの軸線方向視において略直線の長手方向の軸線を有する第1掃気路と、該第1掃気路から前記シリンダボアの軸線方向において下死点の方向に延びる第2掃気路とを有する2サイクルエンジンのシリンダブロックを製造する方法であって、
前記シリンダボアと、前記第2掃気路と、第1掃気路と、を備えた粗シリンダブロックを金型鋳造により成形する工程と、
前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置と前記外部開口との間にねじ山を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の観点にかかる2サイクルエンジンのシリンダブロックの製造方法は、
シリンダボアの側壁に開口する掃気開口と外側の壁面に開口する外部開口とを接続し前記シリンダボアの軸線方向視において略直線の長手方向の軸線を有する第1掃気路と、該第1掃気路から前記シリンダボアの軸線方向において下死点の方向に延びる第2掃気路とを有する2サイクルエンジンのシリンダブロックを製造する方法であって、
前記シリンダボアおよび前記第2掃気路を備えた粗シリンダブロックを鋳造成形する工程と、
前記粗シリンダブロックの外側から前記第1掃気路を切削加工する工程と、
前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置と前記外部開口との間にねじ山を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シリンダブロックに掃気開口とシリンダブロック外側の外部開口とを接続する第1掃気路が形成されるので、シリンダブロックの製造が容易となり、出力の向上や排気ガス特性の向上させることのできる2サイクルエンジンを低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の2サイクルエンジンを搭載した刈払機を示す図。
【図2】本発明の2サイクルエンジンを排気開口、第1掃気開口、および、第2掃気開口を含むようにシリンダボアの軸線と垂直な面で分割した断面図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】図2のシリンダブロックの製造途中を示す図3に相当する断面図。
【図5】本発明の2サイクルエンジンの変形例に係る要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を添付図面に沿って説明する。図1に示すように、2サイクルエンジン1(以下エンジン)を搭載した刈払機1001は、操作桿1002の先端に回転刃1003が取り付けられ、操作桿1002の後端にエンジン1が取り付けられている。エンジン1の出力は、操作桿1002内に挿通させたドライブシャフトを介して回転刃1003に供給される。操作者は操作桿1002に取り付けられたハンドル1004を把持して刈払機1001を操作する。
【0021】
図2に示すように、エンジン1はシリンダボア2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の下方に取付けられてシリンダボア2と連通するクランク室(図示せず)を有するクランクケース4と、シリンダボア2内を上死点と下死点との間で往復同するピストン(図示せず)とを備える。シリンダボア2の内周面には、シリンダボア2内の燃焼ガスを排気するための排気ポート5に接続する排気開口6と、図示しないキャブレターから供給される混合気をシリンダボア2からクランク室に導入するための吸気ポート7に接続する吸気開口8とが設けられている。また、シリンダボア2の内周面には、クランク室内の混合気をシリンダボア2内に導くための、第1掃気通路9に接続する第1掃気開口10と、第2掃気通路11に接続する第2掃気開口12とが設けられている。シリンダボア2の軸線13方向視において、第1掃気通路9、第1掃気開口10、第2掃気通路11、および第2掃気開口12は、それぞれ、シリンダボア2の中心軸線(シリンダボア2の軸線)13を通り排気開口6をシリンダボア2の円周方向に2等分する中心線14に関して略対称に一組ずつ配置されている。
【0022】
図3に示すように、第1掃気通路9は、第1掃気開口10とシリンダブロック3の外側に開口する第1外部開口15との間を連通する第1水平方向掃気路(第1掃気路)16と、上死点側(図3の上方)の端部において第1水平方向掃気路16に接続し、シリンダブロック3の外側の側壁とシリンダボア2との間を下死点方向(図3の下方)に向かって延びてクランク室(図示せず)に接続する第1垂直方向掃気路(第2掃気路)17とから構成されている。第1水平方向掃気路16には、第1外部開口15から第1水平方向掃気路16と第1垂直方向掃気路17との接続位置に向かってねじ山が形成された第1雌ねじ部18が設けられている。第1雌ねじ部18には第1外部開口15からシリンダボア2に向かって第1ねじ部材19がねじ込まれ、第1ねじ部材19は第1水平方向掃気路16をシリンダブロック3の外側から閉鎖する。
【0023】
また、第2掃気通路11は、第2掃気開口12とシリンダブロック3の外側に開口する第2外部開口20との間を連通する第2水平方向掃気路(第1掃気路)21と、上死点側(図3の上方)の端部において第2水平方向掃気路21に接続し、シリンダブロック3の外側の側壁とシリンダボア2との間を下死点方向(図3の下方)に向かって延びてクランク室(図示せず)に接続する第2垂直方向掃気路(第2掃気路)22とから構成されている。第2水平方向掃気路21には、第2外部開口20から第2水平方向掃気路21と第2垂直方向掃気路22との接続位置に向かってねじ山が形成された第2雌ねじ部23が設けられている。第2雌ねじ部23には第2外部開口20からシリンダボア2に向かって第2ねじ部材24がねじ込まれ、第2ねじ部材24は第2水平方向掃気路21をシリンダブロック3の外側から閉鎖する。
【0024】
図2に示すように、第1掃気通路9の第1掃気開口10は、シリンダボア2の軸線13方向視において、排気開口6に対向するシリンダボア2の内周面に向かって、つまり軸線13を挟んで排気開口6の反対の吸気口8側に向かって、開口している。これは、第1掃気開口10のシリンダボア2の円周方向の中心から、第1水平方向掃気路16(図3参照)の吸気口8側の側面と略平行にシリンダボア2内に伸びる延長線25が、吸気口8に近づくように延び、第1水平方向掃気路16がシリンダボア2の内部に向かって延びるものである。なお、シリンダボア2の軸線13方向視において、延長線25は第1掃気開口10の略中心と第1外部開口15の略中心とを通る第1水平方向掃気路16の長手方向の軸線に対応する。そして、図3に示すように、第1掃気通路9の第1水平方向掃気路16および第1掃気開口10は、シリンダボア2の軸線13方向において、上死点に向かうように傾いて開口している。これは、第1水平方向掃気路16の上死点側の側面とシリンダボア2の軸線13と垂直な平面とが、所定の角度αを成すように、第1水平方向掃気路16がシリンダボア2の内部に向かって斜め上方に向かって延びるものである。また、第1水平方向掃気路16の第1垂直方向掃気路17との接続位置より第1掃気開口10側の内径d1は、第1垂直方向掃気路17との接続位置より第1外部開口15側の第1雌ねじ部18が形成された部分の内径d2より小さく、第1水平方向掃気路16には内径が段差状に変化する第1の段差部26が形成される。そして、第1雌ねじ部18にねじ込まれた第1ねじ部材19は、シリンダボア2に面する端部外周縁が第1の段差部26に当接することで、最もシリンダボア2側に位置する端部が第1垂直方向掃気路17の外側壁(シリンダボア2から離れて位置する側面)の延長線27よりシリンダボア2側に入り込むこと無く位置決めされる。
【0025】
また、図2に示すように、第2掃気通路11の第2掃気開口12は、シリンダボア2の軸線13方向視において、排気開口6に対向するシリンダボア2の内周面に向かって、つまり軸線13を挟んで排気開口6の反対の吸気口8側に向かって、開口している。これは、第2掃気開口12のシリンダボア2の円周方向の中心から、第2水平方向掃気路21の吸気口8側の側面と略平行にシリンダボア2内に伸びる延長線28が吸気口8に近づくように延びて、第2水平方向掃気路21がシリンダボア2の内部に向かって延びるものである。第2水平方向掃気路21から伸びる延長線28は、第1水平方向掃気路16(図3参照)から伸びる延長線25より、中心線14に沿うように形成され、第2水平方向掃気路21(図3参照)と第1水平方向掃気路16とは、シリンダボア2から離れる方向に向かうに従って遠ざかるよう構成されている。なお、シリンダボア2の軸線13方向視において、延長線28は第2掃気開口12の略中心と第2外部開口20の略中心とを通る第2水平方向掃気路21の長手方向の軸線に対応する。そして、図3に示すように、第2掃気通路11の第2水平方向掃気路21および第2掃気開口12は、シリンダボア2の軸線13方向において、軸線13と略垂直を成すように開口している。そして、第2水平方向掃気路21の上死点側の側面がシリンダボア2の軸線13と略垂直に延びるものである。また、第2水平方向掃気路21の第2垂直方向掃気路22との接続位置より第2掃気開口12側の内径d3は、第2垂直方向掃気路22との接続位置より第2外部開口20側の第2雌ねじ部23が形成された部分の内径d4より小さく、第2水平方向掃気路21には内径が段差状に変化する第2の段差部29が形成される。そして、第2雌ねじ部23にねじ込まれた第2ねじ部材24は、シリンダボア2に面する端部外周縁が第2の段差部29に当接することで、最もシリンダボア2側に位置する端部が第2垂直方向掃気路22の外側壁(シリンダボア2から離れて位置する側面)よりシリンダボア2側に入り込むこと無く位置決めされる。
【0026】
図3に示すように、第1掃気通路9の第1垂直方向掃気路17を構成するシリンダボア2側の第1内側壁30は、第1掃気開口10側の端部から下死点の方向(図の下方)に向かうに従って、シリンダボア2の径方向の肉厚が薄くなるように構成されている。また、第2掃気通路11の第2垂直方向掃気路22を構成するシリンダボア2側の第2内側壁31も、第2掃気開口12側の端部から下死点の方向(図の下方)に向かうに従って、シリンダボア2の径方向の肉厚が薄くなるように構成されている。
【0027】
次に、このような構成のシリンダブロック3の製造方法について説明する。図4に示すように、シリンダブロック3の製造は、最初に、シリンダボア2と、吸気開口および吸気ポートと、排気開口6および排気ポートと第1垂直方向掃気路17および第2垂直方向掃気路22とを備えた粗シリンダブロックをダイカスト型(図示せず)を用いてダイカスト成形(金型鋳造)する。そして、シリンダブロック3の外側の第1外部開口15(図3参照)に対応する位置からシリンダボア2の第1掃気開口10(図3参照)に向けてドリル加工等の切削加工を行う。なお、この切削加工は、例えば、段付きドリルを用いて図3に示す第1水平方向掃気路16の第1垂直方向掃気路17との接続位置より第1掃気開口10側の内径d1に対応する孔と第1垂直方向掃気路17との接続位置より第1外部開口15側の内径d2に対応する孔を一度に開けても良いし、最初に第1掃気開口10側の内径d1に対応する孔を開けた後に第1外部開口15側の内径d2に対応する孔を開ける、あるいは、その逆の順に孔を開けてもよい。そして、第1水平方向掃気路16の第1外部開口15側の内径d2に対応する孔の周面に、第1外部開口15側からねじ切り加工を行って第1雌ねじ部18を形成し、第1水平方向掃気路16は機械加工により形成される。なお、第1水平方向掃気路16の内径d1に対応する孔と内径d2に対応する孔は同軸上に形成されることが望ましいが、互いの孔の中心が偏心していてもよい。
【0028】
また、シリンダブロック3の外側の第2外部開口20(図3参照)に対応する位置からシリンダボア2の第2掃気開口12(図3参照)に向けてドリル加工等の切削加工を行う。なお、この切削加工は、例えば、段付きドリルを用いて図3に示す第2水平方向掃気路21の第2垂直方向掃気路22との接続位置より第2掃気開口12側の内径d3に対応する孔と第2垂直方向掃気路22との接続位置より第2外部開口20側の内径d4に対応する孔を一度に開けても良いし、最初に第2掃気開口12側の内径d3に対応する孔を開けた後に第2外部開口20側の内径d4に対応する孔を開ける、あるいは、その逆の順に孔を開けてもよい。そして、第2水平方向掃気路21の第2外部開口20側の内径d4に対応する孔の周面に、第2外部開口20側からねじ切り加工を行って第2雌ねじ部23を形成し、第2水平方向掃気路21は機械加工により形成される。なお、第2水平方向掃気路21の第2外部開口20側の内径d4に対応する孔は、一度内径d3に対応する孔を開けた後に内径d4に対応する孔にねじ切り加工を行うことで形成してもよい。また、第2水平方向掃気路21の内径d3に対応する孔と内径d4に対応する孔は同軸上に形成されることが望ましいが、互いの孔の中心が偏心していてもよい。
【0029】
このようなシリンダブロック3を持つ2サイクルエンジン1によれば、第1掃気通路9および第2掃気通路11は、それぞれ第1垂直方向掃気路17、第2垂直方向掃気路22をダイカストにより形成した後に第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21を形成し、第1ねじ部材19および第2ねじ部材24により第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21をシリンダブロック3の外側から閉じている。このため、ダイカスト成形時に型抜きがし易く、型の構造が複雑になることが無く型のコストを低減できる。これは特に、第1内側壁30および第2内側壁31のシリンダボア2の径方向の肉厚が下死点の方向に向かうに従って薄くなるように構成されることにより、型抜きが大幅にし易くなるものである。さらに、第1掃気通路9および第2掃気通路11は、シリンダブロック3に入り込んだ第1ねじ部材19および第2ねじ部材24によって直接閉鎖する構成であるため、部品点数を低減できコストを削減することが可能である。また、各掃気通路はシリンダブロック3の加工後に別部品により閉鎖する構成としているため、外側から加工することが可能となり第1掃気通路9、第1掃気開口10、第2掃気通路11、および第2掃気開口12について角度や通路の断面積等加工の自由度が向上し、掃気特性の向上を図ることが可能となる。また、第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21をダイカスト成形後に加工するため、それぞれの掃気路16、21について角度や通路の断面積等加工の自由度がさらに大きくなり、加工精度も容易に確保することが可能となる。さらに、第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21は、第1ねじ部材19および第2ねじ部材24によってシリンダブロック3の外側から塞がれ、第1ねじ部材19および第2ねじ部材24は第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21にねじ込まれる際に、各水平方向掃気路16、26に設けられた第1の段差部26および第2の段差部29に当接する。そして、第1ねじ部材19および第2ねじ部材24のシリンダボア2側に位置するそれぞれの端部が、第1垂直方向掃気路17の外側壁の延長線27および第2垂直方向掃気路22の外側壁よりシリンダボア2側に入り込むこと無く位置決めされて停止する。したがって、組立てが容易となり作業効率が増大し、この点からも製造コストを低減することができる。
【0030】
また、第1掃気通路9の第1水平方向掃気路16および第1掃気開口10は、シリンダボア2の軸線13方向において、上死点に向かうように傾いて開口し、第2掃気通路11の第2水平方向掃気路21および第2掃気開口12は、シリンダボア2の軸線13方向において、軸線13と略垂直を成すように開口し、第1水平方向掃気路16と第1掃気開口10および第2水平方向掃気路21と第2掃気開口12は、それぞれシリンダボア2の軸線13方向視において、軸線13を挟んで排気開口6の反対の吸気口8側に向かって、開口している。このため、第1掃気開口10と第2掃気開口12からシリンダボア2内に流入する混合気はシリンダボア2内に留まって効率的にシリンダボア2内の既燃ガスを排気開口6に押し出すことが可能となり、混合気の吹き抜けを抑制して燃費を向上させ、排出ガス特性の悪化を抑制することが可能となる。特に、第1水平方向掃気路16および第1掃気開口10を上死点に向かうように傾けることで、掃気の流れを掃気の流れを排気開口6から遠ざけて、吹き抜けを低減することができ、掃気の特性を向上させることができる。さらに、第2水平方向掃気路21を第1水平方向掃気路16より中心線14に沿って形成し、第2掃気開口12から流入する混合気をより反排気口側に向かって流入させることによりさらに掃気の特性を向上させることが可能となる。さらに、第1水平方向掃気路16と第2水平方向掃気路21とがシリンダボア2から離れる方向に向かうに従って遠ざかるよう構成されるため、シリンダブロック3の加工時に干渉することなくそれぞれの通路を独立に加工することが可能となり、加工が容易となる。特に、第1雌ねじ部18および第2雌ねじ部23の形成が容易となり、加工精度を向上させることができる。また、第1ねじ部材19および第2ねじ部材24のシリンダボア2側に位置するそれぞれの端部は、第1垂直方向掃気路17の外側壁の延長線27および第2垂直方向掃気路22の外側壁よりシリンダボア2側に入り込むこと無いので、第1ねじ部材19および第2ねじ部材24が掃気の流れの抵抗となることが無く、効率よく掃気を行うことができ、掃気の特性を向上させることができる。
【0031】
なお、第1掃気通路9、第2掃気通路11は上述の構成に限られるものでは無く、例えば図5に示すような構成としてもよい。この場合、第1掃気通路9の第1水平方向掃気路16の第1の段差部26の位置が、図3の場合に比べて第1外部開口15側に移動している。このため、第1ねじ部材19のシリンダボア2側の端部は、第1垂直方向掃気路17の外側壁の延長線27よりも第1外部開口15側に位置する。したがって、第1水平方向掃気路16の第1垂直方向掃気路17との接続部より第1外部開口15側に空間が形成される。これにより、図5に矢印で示すように、ピストン32が下死点に向かって下降して排気開口が開くとともに第1掃気開口10が開いた際に、第1掃気開口10から第1水平方向掃気路16内に流入する燃焼ガスをこの空間に留めることが可能となる。このため、その後の掃気行程時にはこの空間に留められた燃焼ガスを速やかに排出できるようになり、燃焼ガスが混合気に混じることを抑制することができ、出力の低下を抑えることができる。なお、第2掃気通路11の第2水平方向掃気路21の第2の段差部29の位置を、上述のように、図3の場合に比べて第2外部開口20側に移動するようにしてもよい。
【0032】
また、シリンダブロック3の第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21はダイカスト成形後に機械加工により形成される構成に限られるものでは無く、例えば、シリンダボア2と、吸気開口および吸気ポートと、排気開口6および排気ポートと第1垂直方向掃気路17および第2垂直方向掃気路22と、第1雌ねじ部18および第2雌ねじ部23を形成前の第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21とを備えた粗シリンダブロックを、ダイカスト型(図示せず)を用いてダイカスト成形(金型鋳造)するようにしてもよい。この場合には、ダイカスト成形後に、第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21に第1雌ねじ部18および第2雌ねじ部23を形成する。このような構成によれば、加工工程の数が減少し、組立て工数が減少して製造コストを大幅に低減することが可能になるうえ、第1水平方向掃気路16および第2水平方向掃気路21の形状を円筒以外の形状にすることも可能となり通路設計上の自由度を向上させることが可能となる。このため、掃気の流れを整流しやすくすることができるので、掃気の特性が向上し、出力の向上および排ガスの低減を図ることができる。
【0033】
なお、シリンダブロック3の製造は、ダイカスト成形に限られるものでは無く、その他の鋳造方法を用いるものでもよい。また、エンジン1は刈払機1001への適用に刈がれるものではなく、チャンソー、ヘッジトリマー、耕耘機、発電機等のエンジン作業機に用いられてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 エンジン
2 シリンダボア
3 シリンダブロック
5 排気ポート
6 排気開口
9 第1掃気通路
10 第1掃気開口
11 第2掃気通路
12 第2掃気開口
15 第1外部開口
16 第1水平方向掃気路
17 第1垂直方向掃気路
18 第1雌ねじ部
19 第1ねじ部材
20 第2外部開口
21 第2水平方向掃気路
22 第2垂直方向掃気路
23 第2雌ねじ部
24 第2ねじ部材
26 第1の段差部
29 第2の段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを摺動可能に収容するシリンダボアの側壁に開口する掃気開口と外側の壁面に開口する外部開口とを接続し前記シリンダボアの軸線方向視において略直線の長手方向の軸線を有する第1掃気路と、該第1掃気路から前記シリンダボアの軸線方向において下死点の方向に延びてクランクケース内に形成されるクランク室に接続する第2掃気路と、が形成されるシリンダブロックと、
前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置より前記外部開口側に設けられ、前記第1掃気路を閉鎖する閉鎖部材と、を備え、
前記第1掃気路は、前記第2掃気路が接続される位置と前記外部開口との間に、ねじ山が形成された雌ねじ部を有し、
前記閉鎖部材は外側面にねじ山が形成され、
前記雌ねじ部に前記閉鎖部材が螺合する、
ことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記第1掃気路の前記雌ねじ部の断面積が、前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置より前記掃気開口側の断面積より大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記第1掃気路と前記雌ねじ部は略同軸上に形成される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の2サイクルエンジン。
【請求項4】
前記第1掃気路は、前記シリンダボアの軸線方向において、前記長手方向の軸線の前記シリンダボア内に延びる延長線が上死点に近づくように形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項5】
前記第1掃気路は、前記第2掃気路が接続される位置と前記雌ねじ部との間に、前記閉鎖部材のねじ山が形成された前記外側面の外径より小さい内径を有する縮径部を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項6】
前記縮径部の前記雌ねじ部側の端部は、前記第1掃気路と前記第2掃気路とが接続する前記雌ねじ部側の位置より前記雌ねじ部側に位置する、
ことを特徴とする請求項5に記載の2サイクルエンジン。
【請求項7】
前記シリンダブロックは、前記第2掃気路と前記シリンダボアとの間に、
上死点側の肉厚が下死点側の肉厚より厚い隔壁を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項8】
前記掃気開口は、前記シリンダボアの軸線方向視において前記シリンダボアの軸線と前記シリンダボアの側壁に開口する排気開口とを通る中心線に対して少なくとも一対が略対称に設けられ、前記掃気開口は前記排気開口と反対側に向けて開口している、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項9】
前記掃気開口は、前記シリンダボアの軸線方向視において前記シリンダボアの軸線と前記シリンダボアの側壁に開口する排気開口とを通る中心線に対して片側に少なくとも二つ以上設けられ、それぞれの掃気開口に接続される第1掃気路は、前記シリンダボアから離れる方向に向かうに従って遠ざかるよう構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の2サイクルエンジンを備えた、
ことを特徴とするエンジン作業機。
【請求項11】
シリンダボアの側壁に開口する掃気開口と外側の壁面に開口する外部開口とを接続し前記シリンダボアの軸線方向視において略直線の長手方向の軸線を有する第1掃気路と、該第1掃気路から前記シリンダボアの軸線方向において下死点の方向に延びる第2掃気路とを有する2サイクルエンジンのシリンダブロックを製造する方法であって、
前記シリンダボアと、前記第2掃気路と、第1掃気路と、を備えた粗シリンダブロックを金型鋳造により成形する工程と、
前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置と前記外部開口との間にねじ山を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とする2サイクルエンジンのシリンダブロックの製造方法。
【請求項12】
シリンダボアの側壁に開口する掃気開口と外側の壁面に開口する外部開口とを接続し前記シリンダボアの軸線方向視において略直線の長手方向の軸線を有する第1掃気路と、該第1掃気路から前記シリンダボアの軸線方向において下死点の方向に延びる第2掃気路とを有する2サイクルエンジンのシリンダブロックを製造する方法であって、
前記シリンダボアおよび前記第2掃気路を備えた粗シリンダブロックを鋳造成形する工程と、
前記粗シリンダブロックの外側から前記第1掃気路を切削加工する工程と、
前記第1掃気路の前記第2掃気路が接続される位置と前記外部開口との間にねじ山を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とする2サイクルエンジンのシリンダブロックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−179347(P2011−179347A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42276(P2010−42276)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】