説明

2サイクルエンジン油用の希釈油の製造方法

【課題】2サイクルエンジン油用の希釈油として、灯軽油留分を使用しても低臭気かつ高引火点であり、排気煙性能等を向上させ、また、潤滑性に優れる高粘度の潤滑成分の配合を可能としガソリンとの混和性をも向上させることを満足させる希釈油の製造方法に関する。
【解決手段】飽和分90容量%以上、硫黄分0〜30ppm、芳香族分が0容量%、アニリン点65℃以上、エングラー蒸留による終点270〜400℃、セタン指数が60以上、引火点70℃以上、40℃の動粘度が2.0〜9.0の灯軽油留分を、フィッシャートロプシュ合成工程、ワックス含有成分の水素化分解工程及びこれらの工程から得られる成分の水素化精製工程から選ばれる少なくとも1つの工程を有する製造工程による2サイクルエンジン油に用いる希釈油の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルエンジン油用希釈油の製造方法に関し、詳しくは灯軽油留分を使用しても低臭気かつ排気煙性能等のJASO FC級規格に合格しうる2サイクルエンジン油用希釈油の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スポーツバイクの人気が急速に高まってきており、2サイクルエンジンの一層の高性能化、高出力化が要求されている。2サイクルエンジン油としては、従来から、環境対策上の観点から、基油にポリ(イソ)ブテンを配合した低排気煙タイプの2サイクルエンジン油が市場の主流となっており、最近では、2サイクルエンジンの高性能化、高出力化に伴い2サイクルエンジン油に対して、低排気煙性に加えて、良好な清浄性(リング溝、ピストン周囲への堆積物防止)や排気系閉塞防止性(排気ポート、排気マフラー等への堆積物防止性)等のJASO2サイクルエンジン油規格のFC級又はISO 2サイクルエンジン油規格のEGC級又はEGD級に分類される性能を有することが求められている。
【0003】
排気煙が少なく、排気マフラー中のタール生成が少ない2サイクルエンジン油としては、例えば、特許文献1に開示されている。
ところで、2サイクルエンジン油は、ガソリンと共に2サイクルエンジン内に供給され、燃焼室内で燃焼する。このため、2サイクルエンジン油には、エンジンオイルとガソリンが混合しやすいように、灯油、軽油などの希釈油が加えられている。上記の特許文献1においても、溶剤(希釈油)としては沸点範囲150〜300℃の石油系及び合成系炭化水素溶剤、とりわけ沸点範囲200〜250℃の灯油が最も好ましいと記載されている。
また、特許文献2には、沸点範囲200〜330℃、引火点80〜140℃、硫黄分0〜30ppmである希釈油を含有する低臭気かつJASO 2サイクルエンジン油規格のFC級に該当する2サイクルエンジン油が開示されている。また、清浄性、排気系閉塞防止性および潤滑性に優れた2サイクルエンジン用潤滑油組成物として、特定のポリアルキレングリコール系基油と、初留点が170℃以上、T10(10%流出温度)が185℃以上、かつ終点が260℃以下の蒸留性状を有する炭化水素溶剤を含有する2サイクルエンジン油が開示されている(特許文献3参照)。なお、特許文献2に記載のように、灯経油留分中の軽質留分や硫黄分に由来する匂いや刺激臭については、従来から改善が求められており、硫黄を含みかつ初留点の高い希釈油を使用しているが、そのような希釈油は沸点200℃未満の留分を使用しないことから収率が悪く経済性の点で好ましくない。
【0004】
一方で、特許文献1のような灯油留分の引火点は通常35〜45℃程度と低いため、2サイクルエンジン油の引火点を第3石油類の70℃以上とするには、その配合量が制限され、潤滑性に優れる高粘度の潤滑成分を配合できないことや、排気煙性能、あるいはガソリンとの混和性を十分向上することができなかった。また、特許文献2又は3においても、排気煙性能をさらに向上させるためには、希釈油についてさらなる検討の余地がある。
【特許文献1】特開昭54−160401号公報
【特許文献2】特開平10−183148号公報
【特許文献3】特開2001−329283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、2サイクルエンジン油用の希釈油として、灯油留分であっても高引火点であり、軽油留分においては特定の性状を有する新規な希釈油を適用することで、低臭気であり、かつ排気煙性能等をさらに向上させ、JASO FC規格に合格しうる2サイクルエンジン油用の希釈油の製造方法を提供することである。また、本発明は、上記製造方法によって製造される希釈油を用いて、引火点の制約による灯軽油留分の配合量が緩和され、より高粘度の潤滑成分を配合可能とできる他、ガソリンとの混和性にも優れる2サイクルエンジン油燃料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、2サイクルエンジン油用の希釈油の製造方法により得られた希釈油を含有させることで上記課題を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一は、(A)飽和分90容量%以上、硫黄分0〜30ppm、芳香族分が0容量%、アニリン点65℃以上、エングラー蒸留による終点270〜400℃、セタン指数が60以上、引火点70℃以上、40℃の動粘度 が2.0〜9.0の灯軽油留分を、フィッシャートロプシュ合成工程、ワックス含有成分の水素化分解工程及びこれらの工程から得られる成分の水素化精製工程から選ばれる少なくとも1つの工程を有する製造工程による希釈油を用いる2サイクルエンジン油組成物の製造方法である。
本発明の第二は、さらに、初留点が200℃以下である請求項1に記載の希釈油の製造方法に関する。
また、本発明の第三は、硫黄分が10質量ppm以下のガソリンと、本発明第一または第二の製造方法により製造された希釈油とを含むことを特徴とする2サイクルエンジン用燃料に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の2サイクルエンジン油用希釈油の製造方法に係る2サイクルエンジン油組成物は、新規な希釈油を使用することで、灯軽油留分を含んでいても高引火点かつ低臭気であり、排気煙性能等をさらに向上でき、JASO FC級規格に合格しうる性能を有しており、従来第3石油類の引火点の制約から多量に配合できなかった灯軽油留分を多量配合することができる。その結果、高粘度の潤滑性分を配合可能とできる他、ガソリンとの混和性にも優れ、分離潤滑機構を有する2サイクルエンジンにおける潤滑性をも向上させることも可能となる。
また、本発明の2サイクルエンジン油用希釈油の製造方法に係る2サイクルエンジン用燃料は、排気煙性能を向上できるとともに、ガソリンと2サイクルエンジン油の混和性を高めることができ、予備混合燃料の場合には製造時間の短縮による作業環境及び安全性の改善が可能であり、分離潤滑機構を有する2サイクルエンジンにおいては、迅速かつ均一に混合されやすく、2サイクルエンジン各部の潤滑性を向上できる他、不均一の2サイクルエンジン油がそのまま排気系に導入されることを抑制でき、排気系閉塞性も向上することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。
(希釈油)
本発明の製造工程により製造される(A)飽和分90容量%以上、硫黄分0〜30ppm、アニリン点65℃以上、初留点140〜280℃、終点200〜350℃、セタン指数が55以上の希釈油の性状は以下のとおりである。
密度(15℃、g/cm、JISK2249)は、特に限定はないが、好ましくは0.70〜0.80、より好ましくは0.72〜0.79、さらに好ましくは0.73〜0.785である。より低い密度は引火点が低くなり、またより高い密度は排気煙性が悪化するので、いずれも好ましくない。
40℃動粘度(mm/s、JISK2283)は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜9.0、より好ましくは1.0〜5.5、さらに好ましくは1.2〜4.0である。より低い動粘度では引火点が低くなり、またより高い動粘度では希釈油としての粘度低減効果を奏することが難しく、いずれも好ましくない。
引火点(℃)は、JISK2265の規定に従いタグ密閉式又はペンスキーマルテンス密閉式引火点試験法により測定されるもので、特に制限はないが、好ましくは50〜200、より好ましくは55〜150、さらに好ましくは58〜140である。より低い引火点は安全性が阻害されるので好ましくない。
【0009】
蒸留性状(℃)はエングラー蒸留(JISK2254)によるもので、以下のとおりである。
初留点(IBP)(℃)は、140〜280であり、好ましくは150以上、275以下、より好ましくは160〜270、さらに好ましくは165〜265である。
10%留出点(T10)(℃)は、特に限定されないが、好ましくは150以上、290以下、より好ましくは160〜285、さらに好ましくは170〜280、特に好ましくは180〜275である。
50%留出点(T50)(℃)は、特に限定されないが、好ましくは170以上、320以下であり、より好ましくは180〜310、さらに好ましくは190〜300、特に好ましくは195〜290である。
90%留出点(T90)(℃)は、特に限定されないが、好ましくは、180以上、390以下、より好ましくは190〜370、さらに好ましくは200〜340、特に好ましくは210〜330である。
終点(EP)(℃)は190〜400であり、好ましくは200以上、380以下、より好ましくは210〜350、さらに好ましくは220〜340である。
90―T10(℃)は特に限定されないが、好ましくは15以上、160以下、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜140、特に好ましくは35〜135である。
EP−IBP(℃)は特に限定されないが、好ましくは35以上、200以下、より好ましくは40〜190、さらに好ましくは50〜180、特に好ましくは60〜170である。
【0010】
煙点(mm、JISK2537)は、特に限定されないが、好ましくは30以上、より好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上、60以下、特に好ましくは50以下である。これより低い煙点では排気煙が悪化するので好ましくない。
アニリン点(℃、JISK2256)は、特に限定されないが、好ましくは65以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは75以上、特に好ましくは80以上、110
以下である。これより低いアニリン点では排気煙が悪化するので好ましくない。
硫黄分(質量ppm、JIS K 2541)は0〜30である。好ましくは10以下、より好ましくは5以下、より好ましくは1以下である。これより大となると臭気や排気ガスへの影響があり好ましくない。
セタン指数(JISK2280)は55以上であるが、好ましくは60以上、より好ましくは65以上、さらに好ましくは70以上、特に好ましくは75以上、100以下である。これより低いと排気煙が悪化するので好ましくない。なお、ここでいうセタン指数は15℃における密度及び蒸留性状から算出される値であり、本発明の新規な希釈油の性状を特定するために有用な指数である。
【0011】
組成については以下のとおりである。
飽和分(容量%)は90以上である。好ましくは97以上、より好ましくは98以上、さらに好ましくは99以上、特に好ましくは100である。これより少ないと、排気煙が悪化するので好ましくない。
不飽和分(容量%)は特に限定されないが、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下である。
芳香族分(容量%)は10以下である。好ましくは3以下、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下であり、特に好ましくは実質的に芳香族分を含まないものである。
芳香族分は排気煙を悪化させるので好ましくない。
なお、ここでいう飽和分、不飽和分及び芳香族分は、石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠して測定されるもので、(社団法人石油学会発行)に準拠して測定される芳香族分含有量の容量百分率(容量%)(希釈油全量基準)を意味する。
パラフィン分(容量%)は、特に制限されないが、好ましくは80〜100、より好ましくは90〜100、さらに好ましくは95〜100、特に好ましくは99〜100である。
ナフテン分(容量%)は、特に限定されないが、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜10、さらに好ましくは0〜5、特に好ましくは0〜1である。
ここで、パラフィン分及びナフテン分は、ASTM D2786“Standard Test Method for Hydrocarbon Types Analysis of Gas-Oil Saturates Fractions by High Ionizing Voltage Mass Spectrometry”に準拠して測定される、パラフィン(アルカン)分及びナフテン分の容量百分率(容量%)(前記飽和分全量基準)を意味する。
n−パラフィン分(質量%)は、特に限定されないが、好ましくは10〜90、より好ましくは20〜80、さらに好ましくは30〜70である。
なお、ここでいうn−パラフィン分は、GC−FIDを用いて測定される値(希釈油全量基準)を意味する。ここで、本発明においては、カラムにはメチルシリコンのキャピラリーカラム(ULTRAALLOY−1)、キャリアガスにはヘリウムを、検出器には水
素イオン検出器(FID)を用い、カラム長30m、キャリアガス流量1.0mL/min、分割比1:79、試料注入温度360℃、カラム昇温条件140℃→(8℃/min)→355℃、検出器温度360℃の条件で、n−パラフィン含有標準試料を用いて同定、定量されたn−パラフィン分(希釈油全量基準)を示すが、同等の結果が得られるのであれば、この測定条件に限定されない。
分枝パラフィン分(質量%)は、特に限定されないが、好ましくは10〜90、より好ましくは20〜80、さらに好ましくは30〜70である。なお、分枝パラフィン分は、前記各組成の測定結果、前記GC−FIDによるオレフィン、アルコール等の分析結果を総合的に勘案し、算出された値(希釈油全量基準)である。
【0012】
本発明の上記(A)の希釈油の第1の様態として、(A2)初留点200℃以上、引火点70℃以上、セタン指数60以上の希釈油が挙げられる。この(A2)の希釈油の性状は以下のとおりである。
【0013】
蒸留性状(℃)はエングラー蒸留(JISK2254)によるもので、高収率、ガソリンと2サイクルエンジン油との親和性向上のために以下の蒸留性状とする。
初留点(IBP)(℃)は、200℃以上であるが、好ましくは210〜270、より好ましくは220〜260である。
10%留出点(T10)(℃)は、特に限定されないが、好ましくは210以上、290以下、より好ましくは220〜285、さらに好ましくは230〜280、特に好ましくは240〜275である。
50%留出点(T50)(℃)は、特に限定されないが、好ましくは230以上、320以下であり、より好ましくは240〜310、さらに好ましくは250〜300、特に好ましくは260〜290である。
90%留出点(T90)(℃)は、特に限定されないが、好ましくは250以上、390以下、より好ましくは260〜370、さらに好ましくは270〜340、特に好ましくは280〜330である。
終点(EP)(℃)は270〜400、好ましくは280〜380、より好ましくは290〜350である。
90−T10(℃)は特に限定されないが、好ましくは15以上、70以下、より好ましくは20〜60、さらに好ましくは30〜50である。
EP−IBP(℃)は特に限定されないが、好ましくは35以上、110以下、より好ましくは40〜100、さらに好ましくは50〜90である。
【0014】
引火点(℃)は、70以上であり、好ましくは70〜200、より好ましくは80〜150、さらに好ましくは100〜140、特に好ましくは120〜140である。この範囲内とすることで、安全性を向上することができる。
セタン指数(JISK2280)は60以上であるが、好ましくは60〜110、より好ましくは65〜100、さらに好ましくは70〜95である。この範囲内とすること排気煙が向上する。
また、(A2)のその他の性状の好ましい範囲は以下の通りである。
密度(15℃、g/cm)は、特に限定はないが、好ましくは0.70〜0.80、より好ましくは0.72〜0.79、さらに好ましくは0.74〜0.785、特に好ましくは0.76〜0.785である。この範囲内とすることで、高引火点とすることができる。
40℃動粘度(mm/s)は、2.0〜9.0、好ましくは2.5〜5.5、より好ましくは3.0〜4.0である。この範囲内とすることで、高引火点とすることができる。
アニリン点(℃)は、特に限定されないが、好ましくは65以上、より好ましくは75〜110、さらに好ましくは85〜105である。この範囲内により、排気煙が向上する。
【0015】
なお、煙点、硫黄分、組成(飽和分、不飽和分、芳香族分、パラフィン分、ナフテン分、n−パラフィン分、分枝パラフィン分)については、上記(A)成分の項で述べた範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明の希釈油は、フィッシャートロプシュ(FT)合成工程、ワックス含有成分の水素化分解工程及びこれらの工程から得られる成分の水素化精製処理工程から選ばれる少なくとも1つの工程を有する製造工程により製造される灯軽油留分である。
FT合成工程とは、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガス(合成ガスと称する場合もある)に対してフィッシャートロプシュ(FT)反応を適用させる工程であり、ガス、ナフサ、灯油、軽油の沸点範囲に相当の液体留分、パラフィンワックス(FTワックス)等が得られる。
ワックス含有成分の水素化分解工程とは、前記FTワックスや潤滑油脱ろう工程において副生されるスラックワックス等のワックス含有成分を水素化分解(異性化反応が含まれていても良い)工程であり、ガス、ナフサ、灯油、軽油の沸点範囲に相当の液体留分、潤滑油留分等が得られる。
また、水素化精製工程とは、上記の2つの工程のいずれか又は両方から得られる成分を水素化精製(水素化分解/異性化反応が含まれていても良い)する工程である。
本発明においては、上記各工程から得られる灯軽油留分を単独又は2種以上混合したものであってもよく、また異なる上記工程から得られる灯軽留分を2種以上混合したものであっても良い。
なお、ここでいう灯軽油留分とは、常圧において140〜400℃、好ましくは150〜360℃の範囲に沸点範囲を有する留分を意味し、例えば、一般に、灯油留分は沸点が140〜300℃、好ましくは150〜260℃の範囲内にあり、軽油留分は、沸点が150〜400℃、好ましくは180〜360℃の範囲内にある。本発明においては、この沸点範囲内において、必要に応じ、前記した(A2)成分等のように、蒸留等により所望の沸点範囲に調整することができる。
【0017】
以下では、本発明の製造法に係るFT合成、水素化精製、水素化分解の各工程を説明する。
(FT合成工程)
<原料ガス>
原料となる混合ガスは、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガスであり、炭素を含有する物質を酸素および/または水および/または二酸化炭素を酸化剤に用いて酸化し、更に必要に応じて水を用いたシフト反応により所定の水素および一酸化炭素濃度に調整して得られる。炭素を含有する物質としては、天然ガス、石油液化ガス、メタンガス等の常で気体となっている炭化水素からなるガス成分や、石油アスファルト、バイオマス、石炭、建材やゴミ等の廃棄物、汚泥、及び通常の方法では処理しがたい重質な原油、非在来型石油資源等を高温に晒すことで得られる混合ガスが一般的であるが、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガスが得られる限りにおいては、本発明はその原料を限定するものではない。
【0018】
<触媒種>
フィッシャートロプシュ反応には金属触媒が必要である。該金属触媒としては、好ましくは8族の金属、例えば、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ニッケル、鉄等、更に好ましくは8族第4周期の金属を活性触媒成分として利用する。また、これらの金属を適量混合した金属群を用いることもできる。これらの活性金属はシリカやアルミナ、チタニア、シリカアルミナなどの担体上に担持して得られる触媒の形態で使用することが一般的である。また、これら触媒に上記活性金属に加えて第2金属を組合せて使用することにより、触媒性能を向上させることもできる。第2金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、具体的にはナトリウム、リチウム、マグネシウムなどの他に、ジルコニウム、ハフニウム、チタニウムなどが挙げられ、一酸化炭素の転化率向上やワックス生成量の指標となる連鎖成長確率(α)の増加など、目的に応じて適宜使用される。
【0019】
<原料混合ガス組成>
フィッシャートロプシュ反応は、混合ガスを原料として液体留分及びパラフィンワックスを生成する合成法である。この合成法を効率的に行うために、一般には混合ガス中の水素と一酸化炭素の比を制御することが好ましい。水素と一酸化炭素のモル混合比は1.2:1以上であることが好ましく、1.5:1であることがより好ましく、1.8:1以上であることが更により好ましい。また、この比率は3:1以下であることが好ましく、2.6:1以下であることがより好ましく、2.2:1以下であることが更により好ましい。
【0020】
<反応温度>
上記触媒を用いてフィッシャートロプシュ反応を行う場合の反応温度は、180℃以上320℃以下であることが好ましく、200℃以上300℃以下であることがより好ましい。反応温度が180℃未満では一酸化炭素がほとんど反応せず、炭化水素収率が低い傾向にある。また、反応温度が320℃を超えると、メタンなどのガス生成量が増加し、液体留分及びパラフィンワックスの生成効率が低下してしまう。
【0021】
<液空間速度>
触媒に対するガス空間速度に特に制限は無いが、500h−1以上4000h−1以下が好ましく、1000h−1以上3000h−1以下がより好ましい。ガス空間速度が500未満では液体燃料の生産性が低下する傾向にあり、また4000h−1を超えると反応温度を高くせざるを得なくなると共にガス生成が大きくなり、目的物の収率が低下してしまう。
【0022】
<反応圧力>
反応圧力(一酸化炭素と水素からなる合成ガスの分圧)は特に制限が無いが、0.5MPa以上7MPa以下が好ましく、2MPa以上4MPa以下がより好ましい。反応圧力が0.5MPa未満では液体留分の収率が低下する傾向にあり、また7MPaを超えると設備投資額が大きくなる傾向にあり、非経済的になる。
【0023】
(水素化精製工程、水素化分解工程)
上記FT合成工程により得られた成分及び/又はワックス含有成分を任意の方法で水素化精製または水素化分解する。水素化精製及び水素化分解は目的に即して選択すればよく、どちらか一方のみまたは両方法の組み合わせ等の選択も本発明の製造工程により製造される希釈油を製造しうる範囲において何ら限定されるものではない。
【0024】
(水素化精製工程)
本工程は、主に上記FT合成工程により得られた成分及び/又は後述するワックス含有成分の水素化分解工程により得られた成分を水素化精製する工程である。この工程における反応には、水素化分解/異性化反応が含まれていてもよい。
<触媒種>
水素化精製に用いる触媒は水素化活性金属を多孔質担体に担持したもので一般的あるが、同様の効果が得られる触媒であれば本発明はその形態を何ら限定するものではない。
多孔質担体としてはアルミナなどの無機酸化物が挙げられる。具体的な無機酸化物としてはアルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、あるいはゼオライトがある。
ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイトなどが挙げられ、好ましくはフォージャサイト、ベータ、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。Y型は超安定化したものが好ましい。
【0025】
活性金属としては以下に示す2つの種類(活性金属Aタイプおよび活性金属Bタイプ)が好ましく用いられる。
活性金属Aタイプは周期律表第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。
好ましくはRu,Rd,Ir,Pd,Ptから選ばれる少なくとも1種類であり、さらに好ましくはPdまたは/およびPtである。活性金属としてはこれらの金属を組み合わせたものでよく、例えばPt−Pd,Pt−Rh,Pt−Ru,Ir−Pd,Ir−Rh,Ir−Ru,Pt−Pd−Rh,Pt−Rh−Ru,Ir−Pd−Rh,Ir−Rh−Ruなどがある。これらの金属からなる貴金属系触媒を使う際には、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いることができる。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
また活性金属Bタイプとして、周期律表第6A族および第8族金属から選ばれる少なくとも一種類の金属を含有し、望ましくは第6A族および第8族から選択される二種類以上の金属を含有しているものも使用することができる。例えばCo−Mo,Ni−Mo,Ni−Co−Mo,Ni−Wが挙げられ、これらの金属からなる金属硫化物触媒を使う際には予備硫化工程を含む必要がある。
【0026】
金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を担持する場合には混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。金属溶液は水溶液でもよく有機溶剤を用いてもよい。
【0027】
<反応温度>
上記活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の反応温度は、180℃以上400℃以下であることが好ましく、200℃以上370℃以下であることがより好ましく、250℃以上350℃以下であることが更に好ましく、280℃以上350℃以下が更により好ましい。水素化精製における反応温度が370℃を超えると、ナフサ留分へ分解する副反応が増えて中間留分の収率が極度に減少するため好ましくない。また、反応温度が170℃を下回ると、アルコール分が除去しきれずに残存するため好ましくない。
上記活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の反応温度は、170℃以上320℃以下であることが好ましく、175℃以上300℃以下であることがより好ましく、180℃以上280℃以下であることが更により好ましい。水素化精製における反応温度が320℃を超えると、ナフサ留分へ分解する副反応が増えて中間留分の収率が極度に減少するため好ましくない。また、反応温度が170℃を下回ると、アルコール分が除去しきれずに残存するため好ましくない。
【0028】
<水素圧力>
上記活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素圧力は、0.5MPa以上12MPa以下であることが好ましく、1.0MPa以上5.0MPa以下であることがより好ましい。水素圧力は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
上記活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素圧力は、2MPa以上10MPa以下であることが好ましく、2.5MPa以上8MPa以下であることがより好ましく、3MPa以上7MPa以下であることが更により好ましい。水素圧力は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
【0029】
<LHSV>
活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上10.0h−1以下であることが好ましく、0.3h−1以上3.5h−1以下であることがより好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
上記活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上2h−1以下であることが好ましく、0.2h−1以上1.5h−1以下であることがより好ましく、0.3h−1以上1.2h−1以下であることが更により好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
【0030】
<水素/油比>
上記活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素/油比は、50NL/L以上1000NL/L以下であることが好ましく、70NL/L以上800NL/L以下であることがより好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
上記活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素/油比は、100NL/L以上800NL/L以下であることが好ましく、120NL/L以上600NL/L以下であることがより好ましく、150NL/L以上500NL/L以下であることが更により好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
【0031】
(水素化分解工程)
本工程は、ワックス含有成分、好ましくは上記FTワックスを水素化分解する工程である。この工程における反応には、異性化反応が含まれていても良い。
<触媒種>
水素化分解に用いる触媒は水素化活性金属を固体酸性質を有する担体に担持したものが一般的であるが、同様の効果が得られる触媒であれば本発明はその形態を何ら限定するものではない。
固体酸性質を有する担体にはアモルファス系と結晶系のゼオライトがある。具体的にはアモルファス系のシリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニアとゼオライトのフォージャサイト型、ベータ型、MFI型、モルデナイト型などがある。好ましくはフォージャサイト型、ベータ型、MFI型、モルデナイト型のゼオライト、より好ましくはY型、ベータ型である。Y型は超安定化したものが好ましい。
【0032】
活性金属としては以下に示す2つの種類(活性金属Cタイプおよび活性金属Dタイプ)が好ましく用いられる。
活性金属Cタイプとしては主に周期律表第6A属および8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはNi、Co、Mo、Pt、Pd、Wから選ばれる少なくとも1種類の金属である。これらの金属からなる貴金属系触媒を使う際には、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いることができる。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
また活性金属Dタイプとしてはこれらの金属を組み合わせたものでよく、例えばPt−Pd、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−W、Ni−Co−Moなどがある。
また、これらの金属からなる触媒を使う際には予備硫化した後に使用するのが好ましい。
【0033】
金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を担持する場合には混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。金属溶液は水溶液でもよく有機溶剤を用いてもよい。
【0034】
<反応温度>
上記活性金属Cタイプおよび活性金属Dタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の反応温度は、200℃以上450℃以下であることが好ましく、250℃以上430℃以下であることがより好ましく、300℃以上400℃以下であることが更により好ましい。水素化分解における反応温度が370℃を超えると、ナフサ留分へ分解する副反応が増えて中間留分の収率が極度に減少するため好ましくない。一方、200℃未満の場合は触媒の活性が著しく低下するので好ましくない。
【0035】
<水素圧力>
上記活性金属Cタイプおよび活性金属Dタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の水素圧力は、1MPa以上20MPa以下であることが好ましく、4MPa以上16MPa以下であることがより好ましく、6MPa以上13MPa以下であることが更により好ましい。水素圧力は高いほど水素化反応が促進されるが、分解反応はむしろ進行が鈍化し反応温度の上昇で進行を調整する必要が生じるため、転じて触媒寿命の低下に繋がってしまう。そのため、一般に反応温度には経済的な最適点が存在する。
【0036】
<LHSV>
上記活性金属Cタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上10h−1以下であることが好ましく、0.3h−1以上3.5h―1以下であることがより好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
上記活性金属Dタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上2h−1以下であることが好ましく、0.2h−1以上1.7h―1以下であることがより好ましく、0.3h−1以上1.5hh−1以下であるこが更により好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
【0037】
<水素/油比>
上記活性金属Cタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の水素/油比は、50NL/L以上1000NL/L以下であることが好ましく、70NL/L以上800NL/L以下であることがより好ましく、400NL/L以上1500NL/L以下であることが更に好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
上記活性金属Dタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の水素/油比は、150NL/L以上2000NL/L以下であることが好ましく、300NL/L以上1700NL/L以下であることがより好ましく、400NL/L以上1500NL/L以下であることが更により好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
【0038】
<装置>
水素化処理する装置はいかなる構成でもよく、反応塔は単独または複数を組み合わせてもよく、複数の反応塔の間に水素を追加注入してもよく、気液分離操作や硫化水素除去設備、水素化生成物を分留し、所望の留分を得るための蒸留塔を有していてもよい。
本発明の水素化処理装置の反応形式は、固定床方式をとりうる。水素は原料油に対して、向流または並流のいずれの形式をとることもでき、また、複数の反応塔を有し向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式がある。反応塔の中段には反応熱の除去、あるいは水素分圧を上げる目的で水素ガスをクエンチとして注入してもよい。
【0039】
以上のようにして本発明の製造方法に係るフィッシャートロプシュ合成工程、ワックス含有成分の水素化分解工程及びこれらの工程から得られる成分の水素化精製工程から選ばれる少なくとも1つの工程を有する製造工程により製造される灯軽油留分を、本願発明の希釈油として使用するこの物と燃料との混合性が悪化する恐れがあり、一方、希釈油の配合割合が40質量%を超える場合、組成物の引火点が低下しすぎる恐れがあるため、それぞれ好ましくない。なお、本願(A1)成分は灯油留分でありながら、30質量%程度あるいはそれ以上配合しても組成物の引火点を第3石油類とすることができるとともに、排気煙性能に優れるという格別な優位性がある。
なお、ここでいう「基油」とは、(A)成分と後述する潤滑油基油(ポリ(イソ)ブテンを含む)とからなり、必要に応じて(A)成分以外の希釈油を含んでなる基油を意味する。
【0040】
ここで、2サイクルエンジン油としては、潤滑油基油、(A)成分以外の希釈油、金属系清浄分散剤、無灰系分散剤、無灰系酸化防止剤、流動点降下剤、防錆剤、消泡剤、無灰系摩擦調整剤、界面活性剤などが使用できる。
潤滑油基油としては、鉱油系基油及び合成系基油を用いることができる。
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
【0041】
合成油系基油としては、例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン及びその水素化物;イソブテンオリゴマー及びその水素化物;イソパラフィン;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド付加物の末端エステル化物、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;ポリオキシアルキレングリコール;ジアルキルジフェニルエーテル;ポリフェニルエーテル;ポリ(イソ)ブテン又はこれらの混合物等が使用できる。
【0042】
前記合成系基油としてのポリ(イソ)ブテンは、ブタン−ブテン混合物又はイソブテンを、例えば、塩化アルミニウム系触媒やフッ化ホウ素系触媒等により重合させることにより得られるもの、あるいはさらに二重結合を水素化して飽和させたものをいう。ここで、ブタン−ブテン混合物とは、イソブタン、n−ブタン、イソブテン、1−ブテン、trans−2−ブテン、cis−2ブテン等を含む。
なお、これらのポリ(イソ)ブテンは、上記触媒に起因する塩素やフッ素等のハロゲン化合物が微量に混在することがあるが、これらは吸着法や水洗等により十分除去されることが好ましく、ポリ(イソ)ブテン中に含まれるハロゲン元素量としては50質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下が望ましい。
ポリ(イソ)ブテンの数平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは300〜1000、より好ましくは300〜850であり、排気煙性能や排気系閉塞性能の向上のために、必要に応じて、例えば、数平均分子量300〜500、500〜700、700〜1000から選ばれる1種又は2種以上のものを混合することが好ましい。なお、数平均分子量が900を超えるポリ(イソ)ブテンを混合する場合でも、その混合物の数平均分子量が300〜900となっていることが特に好ましい。ポリ(イソ)ブテンの数平均分子量が300未満の場合、潤滑性に劣る傾向にあり、一方、数平均分子量が900を超えるとエンジン内部に徐々に蓄積し、低温起動性の悪化やベアリングの潤滑不足を起こす傾向にある。
【0043】
本発明において、ポリ(イソ)ブテンの配合量は、特に制限はないが、排気煙性能及び排気系閉塞性能の向上と潤滑性を両立させるためには、基油全量基準で、通常10〜95質量%、好ましくは20〜70質量%、さらに好ましくは35〜60質量%である。
また、本発明において、潤滑油基油(上記ポリ(イソ)ブテンを除く)の配合量は、特に制限はないが、排気煙性能及び排気系閉塞性能を向上させるには配合しないことが最も好ましいが、潤滑性を両立させるためには、基油全量基準で、通常5〜50質量%、好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは10〜20質量%である。
潤滑油基油(上記ポリ(イソ)ブテンを除く)としては、100℃における動粘度が1〜50mm2/s、好ましくは8〜40mm2/s、さらに好ましくは15〜35mm2/sの潤滑油基油を配合することで、潤滑性や低排気煙性能に優れた2サイクルエンジン油を得やすくなるため特に好ましい。
本発明において基油の動粘度は、特に限定されず任意であるが、通常、100℃における動粘度は、好ましくは1〜50mm2/s、より好ましくは2〜40mm2/sであり、特に好ましくは4〜35mm2/sである。
【0044】
本発明において、(A)成分以外の第1態様の(A2)成分の希釈油は、例えば、初留点が通常100〜250℃、好ましくは150〜190℃、90%留出温度が通常150〜300℃、好ましくは190〜250℃の石油系及び/又は合成系炭化水素溶剤等が挙げられ、具体的には、ストッダードソルベント、ミネラルスピリット、灯油留分、軽油留分、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、プロピレンオリゴマー、低分子量のポリブテン等が用いられ、本願発明の効果を著しく阻害しない限り使用することができる。
本発明において(A)成分以外の希釈油を用いる場合の配合割合は、基油全量基準で通常1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%である。
【0045】
金属系清浄分散剤としては、中性、塩基性、過塩基性のカルシウムスルフォネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレートが最適であり、中でも中性のものが最も好ましい。金属系清浄分散剤の添加量は、組成物全量に対して0.01〜5質量%が好ましく、カルシウム量として0.01〜0.05質量%とすることが最も好ましい。
【0046】
無灰系分散剤としては、平均分子量が約700〜7,000のアルキル基又はアルケニル基が付加したアルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル、ベンジルアミン、及びこれらがホウ素化されたものが最適である。無灰系分散剤の添加量は、組成物全量に対して0.5〜15質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましい。
【0047】
無灰系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、アルキル芳香族アミン、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが使用できる。
【0048】
流動点降下剤としては、ポリメタクリレート、酢酸ビニル−フマル酸アルキル共重合体などが使用できる。
【0049】
防錆剤としては、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸イミド、カルシウム及びバリウムスルフォネートなどが使用可能である。
【0050】
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサンに代表されるポリシロキサン系消泡剤が適用可能である。
【0051】
無灰系摩擦調整剤としては、カルボン酸、エステル、アミン、アルコール、ジアルコールその他多くの化合物が使用できる。
【0052】
界面活性剤は、2サイクルエンジンのマフラー詰まり防止対策として有用であり、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルその他多くの種類が適用可能である。
【0053】
本発明の製造方法に係る希釈油を用いる2サイクルエンジン油は、適宜に2サイクルエンジンのエンジン油として使用することができる。好適な2サイクルエンジンとしては、モーターサイクル、小型発電機、チェーンソー、芝刈り機、ポンプ、工事用機器、除雪機、送風機、雪上バイク、水上バイク、船外機等の2サイクルエンジン等が挙げられる。
【0054】
そのほか、本発明の製造方法に係る希釈油を用いる2サイクルエンジン油は、あらかじめガソリンと混合して使用されることができる。ガソリンは、いずれのガソリンも使用でき、その混合割合は、ガソリン:2サイクルエンジン油の比(質量比)で、通常、70:1〜5:1、好ましくは60:1〜10:1であり、排気煙を低減し、かつ必要な潤滑性を保持するには通常、55:1〜、20:1好ましくは50:1〜30:1である。
上記した本発明の製造方法に係る希釈油(A)は、2サイクルエンジン油の基油として有用であるが、その他の用途にも使用することができる。その他の用途としては具体的には、さび止め油、洗浄剤、各種インクや塗料の溶剤、クリーニング用溶剤、エアゾール用溶剤、防腐剤・殺虫剤・農薬用溶剤、感圧紙用溶剤、界面活性剤用希釈剤、ワックス・クリーナ・ポリッシュ用希釈剤、自動車アンダーコート剤、なっ染用溶剤、オルガノゾル、顔料分散剤、ブランケット洗浄剤、半導体洗浄剤、めっき用前処理剤、各種潤滑油、タイヤ製造、接着剤、離型剤、ポリオレフィン反応溶剤、家庭用クリーナ、NAD塗料、鉱石浮遊選鉱、印刷インキ洗浄液、車の一時保護塗料(ワックスを主成分とする)の除去剤、木材防腐剤、除草剤、ノンカーボン紙、水処理剤、金属抽出用希釈剤、温室用CO2製造、金属深傷剤などが挙げられる。本発明の製造方法に係る希釈油は、臭気が少なく作業環境を改善でき、またこれを使用する箇所の周辺にあるゴムやプラスチック製の部品などに対する悪影響が少ないなどの特徴を有する。
【実施例】
【0055】
以下実施例、比較例により本発明の希釈油の製造方法をさらに説明する。
(FT合成油の水素化精製油、ワックス水素化分解油、及び希釈油1〜3の製造)
1) 天然ガスを原料とするFT合成炭化水素油(沸点150℃以上の炭化水素の含有量:82質量%、沸点360℃以上の炭化水素の含有量:41質量%)を蒸留塔で、沸点150℃以下の軽質留分と、沸点150〜360℃の中間留分と、塔底残渣重質ワックス分(FTワックス:沸点360℃以上の留分に相当)とに分離した。
2) 上の1)で分離された中間留分を、水素化精製触媒(Pt:担体に対し0.8質量%、USYゼオライト/シリカアルミナ/アルミナバインダー:重量比3/57/40)、水素気流下、反応温度:311℃、水素圧力:3.0MPa、LHSV:2.0h−1、水素/油比:340NL/Lで水素化精製処理を行った。
3) 上の2)で得られた水素化精製油を蒸留により150〜250℃留分(灯油留分1)及び250〜360℃留分(軽油留分1)に分留した。
4) 上の1)で得られたFTワックスを、水素化分解触媒(Pt:担体に対し0.8質量%、USYゼオライト/シリカアルミナ/アルミナバインダー:重量比3/57/40)を用い、水素気流下、反応温度:326℃、水素圧力:4.0MPa、LHSV:2.0h−1、水素/油比:680NL/Lで水素化分解を行った。
5) 上の4)で得られた水素化分解油を蒸留により150〜250℃留分(灯油留分2)及び250〜360℃留分(軽油留分2)に分留した。
6) 上の3)及び5)で得られた灯油留分1及び2を63:37(質量比)で混合し、希釈油1を得た。希釈油1の性状を表1に示す。
7) 上の3)及び5)で得られた軽油留分1及び2を56:44(質量比)で混合し、希釈油2を得た。希釈油2の性状を表1に示す。
8) 上の2)で得られた水素化精製油及び4)で得られた水素化分解油を混合し、常圧蒸留により200〜260℃の留分(希釈油3)を得た。希釈油3の性状を表1に示す。
(希釈油4、5)
1) 希釈油4は一般的な灯油を用いた。希釈油4の性状を表1に示す。
2) 希釈油5は一般的な軽油を用いた。希釈油5の性状を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例1〜5、比較例1、2)
表1に示す希釈油1、3を用い、表2に示す2サイクルエンジン油を調製し、JASOM345に規定されている2サイクルエンジン油規格の2サイクルエンジン試験方法に従い、排気煙試験及び排気系閉塞性試験を行なった。なお、試験燃料としては、硫黄分10質量ppm未満の無鉛レギュラーガソリンを用い、排気煙試験は、予め該ガソリンと2サイクルエンジン油とを10:1(容量比)、排気系閉塞性試験は5:1(容量比)でそれぞれ混合した混合燃料を試験に供した。
また臭気の確認試験は表2、3に示す2サイクルエンジン油について、官能試験により10人のパネラーで臭気の有無を判定し、結果は平均値で示した。
【0058】
【表2】

【0059】
鉱油1:溶剤精製パラフィン系鉱油、100℃動粘度:10mm2/s、粘度指数:95 鉱油2:溶剤精製パラフィン系鉱油、100℃動粘度:32mm2/s、粘度指数:95 PIB−A:ポリ(イソ)ブテン、平均分子量750 PIB−B:ポリ(イソ)ブテン、平均分子量630 添加剤:中性Caスルホネート、中性Caフェネート及びコハク酸イミド系無灰分散剤(ビスタイプ、ホウ素含有)を含むパッケージ添加剤(Ca量:組成物中0.04質量%一定)
【0060】
表2の結果からわかるように、希釈油4(一般灯油)を使用した場合、20質量%の配合でも引火点は第2石油類に該当する70℃未満の60℃であり、危険物貯蔵における指定数量の制限や安全上好ましくない。これに対し、本発明にかかる希釈油1は灯油留分でありながら、30質量%程度まで配合しても引火点は第3石油類に該当する70℃以上(実施例1、2)であり、これを使用した組成物(実施例1)は、匂いがほとんど無く、排気煙指数ともに希釈油4を使用した場合(比較例1)よりも改善されていることがわかる。さらに、本願発明にかかる希釈油を25質量%以上使用した場合(実施例2、3)には、希釈油4又は5を使用した場合(比較例1、2)に対し格段の排気煙指数及び排気系閉塞性指数が向上していることが認められる。
【0061】
(実施例4〜7)
【表3】

【0062】
鉱油1:溶剤精製パラフィン系鉱油、100℃動粘度:10mm2/s、粘度指数:100 鉱油2:溶剤精製パラフィン系鉱油、100℃動粘度:32mm2/s、粘度指数:95
PIB−A:ポリ(イソ)ブテン、平均分子量750
PIB−B:ポリ(イソ)ブテン、平均分子量630
PIB−C:ポリ(イソ)ブテン、平均分子量300
添加剤:中性Caスルホネート、中性Caフェネート及びコハク酸イミド系無灰分散剤(ビスタイプ)を含むパッケージ添加剤(Ca量:組成物中0.04質量%)
さらに、表3から明らかな通り、希釈油3を使用し、鉱油配合量を25質量%以下とした場合、特に排気煙指数の向上が顕著であることがわかる。なお、鉱油系基油として重質鉱油を使用することで潤滑性が向上するとともに、数種のPIBを選択使用することで、
排気煙性能のより一層の向上が図られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)飽和分90容量%以上、硫黄分0〜30ppm、芳香族分が実質的に0容量%、アニリン点65℃以上、エングラー蒸留による終点270〜400℃、セタン指数が60以上、引火点70℃以上、40℃の動粘度が2.0〜9.0の灯軽油留分を、フィッシャートロプシュ合成工程、ワックス含有成分の水素化分解工程及びこれらの工程から得られる成分の水素化精製工程から選ばれる少なくとも1つの工程を有する製造工程により製造する、2サイクルエンジン油に用いる希釈油の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記灯軽油留分の初留点が200℃以下である請求項1に記載の希釈油の製造方法。
【請求項3】
硫黄分が10質量ppm以下のガソリンと、請求項1または2の製造方法により製造された希釈油を含むことを特徴とする2サイクルエンジン用燃料。

【公開番号】特開2013−53320(P2013−53320A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−278356(P2012−278356)
【出願日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【分割の表示】特願2006−100761(P2006−100761)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】