説明

2サイクルガソリンエンジン潤滑油の製造方法

JASO M345:2003の要件を満たす潤滑油の調製方法であって:原料を水素異性化脱ろうして基油を生成する工程、並びに当該基油を5重量%未満の溶媒及び清浄剤/分散剤添加剤パッケージとブレンドする工程を含む上記方法。潤滑油の製造方法であって、流動点が低下した基油ブレンドを清浄剤/分散剤添加剤パッケージ、煙抑制剤、場合により流動点降下剤、及び場合により約5重量%未満の炭化水素溶媒と一緒にブレンドする工程を含み、これにより2サイクルガソリンエンジン潤滑油を生成する方法。2サイクルガソリンエンジン潤滑油の製造方法であって、供給物の異性化によって流動点低下ブレンド成分を調製する工程、これを軽留出液基油とブレンドして流動点低下基油ブレンドを生成する工程、並びに流動点が低下した基油ブレンドを清浄剤/分散剤添加剤パッケージ及び5重量%未満の溶媒とブレンドする工程を含む方法。本明細書に記載の方法によって製造される潤滑油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必要とする炭化水素溶媒の量が少ない改良された2サイクルガソリンエンジン潤滑油組成物の製造方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
2サイクルエンジンは、4サイクルエンジンに対して3つの重要な利点を有する:
・2サイクルエンジンは、バルブを有さず、その構造を単純にし、その重量を低下させる。
・2サイクルエンジンは、循環のたびに一度燃焼するが、4サイクルエンジンは循環一回おきに一度燃焼する。これは2サイクルエンジンにかなりの高出力を付与する。
・2サイクルエンジンは任意の幾何学的配置において稼働することができ、このことは、チェーンソーのようなものにおいて重要であり得る。標準の4サイクルエンジンは、直立(upright)でない限り油の流れによる問題を有する場合があり、この問題を解決することによって、エンジンに複雑さを加える可能性がある。
【0003】
2サイクルエンジンには少なくとも3つの潜在的な不利点が存在する:
・2サイクルエンジンは、4サイクルエンジンほど長くは持続しない。専用の潤滑系の欠失は、2サイクルエンジンの部品がかなり早く摩耗することを意味する。
・2サイクルガソリンエンジン潤滑油は高価であり、ガソリン1ガロンあたり約4オンスを必要とする。自動車に2サイクルエンジンを使用するなら、1,000マイルごとに約1ガロンの潤滑油が消費される。
・2サイクルエンジンは、2サイクルガソリンエンジン潤滑油の消費による煙、及び排気ポートを介した2サイクルガソリンエンジン潤滑油の漏出を含めた多くの汚染をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大部分の2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、低沸点炭化水素溶媒及びSAE40鉱物基油を用いて配合される。他には低沸点溶媒を含まないエステル基油が使用されており、危険な可能性を低減し、煙の排出を最小にするが、これらの潤滑油はあまり良好な酸化安定性を有していない。他には改良された低温特性を有するポリアルファオレフィン基油が使用されている。ポリアルファオレフィン及びエステル基油は在庫が限定されており非常に高価である。あまり高価でない基油を含み且つ規格設定機関によって設定された要件を満たす改良された2サイクルガソリンエンジン潤滑油組成物が望ましい。また、これらの潤滑油組成物は、低減されたレベルの炭化水素溶媒、低減されたエンジン摩耗、及び低減された汚染を有することが望ましい。また、2サイクルガソリンエンジン潤滑油組成物は、良好な低温性能、良好なガソリン混和性、及び高い酸化安定性を有することが望ましい。また、2サイクルガソリンエンジン潤滑油組成物は、より高い引火点及び低減された可燃性を有することが望ましい。また、2サイクルガソリンエンジン潤滑油組成物は、ポリエチレンプラスチックを用いて製造され得、廃プラスチックによる環境汚染を低減することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、潤滑油の調製方法であって:
a.実質的にパラフィン系のワックス供給物を水素異性化脱ろうし、それによって、潤滑油基油を生成すること;及び
b.潤滑油基油の1つ又は複数の留分を:
i.全潤滑油組成物を基準にして約5重量%未満の、250℃未満の最高沸点(maximum boiling point)を有する炭化水素溶媒、及び
ii.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ
とブレンドすること
を含み、潤滑油がJASO M345:2003の要件を満たす方法を提供する。
【0006】
本発明はまた、潤滑油の製造方法であって:
a.一緒に:
i.100℃において約1.5〜約3.5mm/sの間の動粘度を有する基油の1つ又は複数の留分、及び
ii.流動点(pour point)低下ブレンド成分
をブレンドして、流動点が低下した基油ブレンドを生成すること;並びに
b.流動点が低下した基油ブレンドに:
i.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ;
ii.煙抑制剤;
iii.場合により流動点降下剤;及び
iv.場合により、約5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒
を添加すること
を含み、これにより2サイクルガソリンエンジン潤滑油を生成する上記方法も提供する。
【0007】
本発明はまた、JASO M345:2003の要件を満たす2サイクルガソリンエンジン潤滑油の製造方法であって:
a.供給物を異性化することによって流動点低下ブレンド成分を調製すること;
b.流動点低下ブレンド成分を、
i.100℃において約1.5〜約3.5mm/sの間の動粘度を有する留出液基油とブレンドして、流動点が低下した基油ブレンドを生成すること;
c.流動点が低下した基油ブレンドを:
i.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ;及び
ii.全2サイクルガソリンエンジン潤滑油を基準にして5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒
と適切な割合でブレンドして、2サイクルガソリンエンジン潤滑油を得ること
を含む上記方法も提供する。
【0008】
本発明はまた、
a.実質的にパラフィン系のワックス供給物を水素異性化脱ろうして基油を生成すること;及び
b.潤滑油基油の1つ又は複数の留分を:
i.全潤滑油組成物を基準にして約5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒;及び
ii.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ
とブレンドすること
を含み、潤滑油がJASO M345:2003の要件を満たす方法によって製造される潤滑油も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】100℃における動粘度対ノアック揮発度のプロットを重量パーセントで示し、重量%ノアック揮発度の上限の計算式を与える: ノアック揮発度因子(1)=160−40(100℃における動粘度)、及び ノアック揮発度因子(2)=900×(100℃における動粘度)−2.8−15、ここで、100℃における動粘度は、第2式において−2.8乗まで上昇する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
2サイクルガソリンエンジンを操作するために、クランクケースは、2サイクルガソリンエンジン潤滑油及び燃料の混合物を保持する。2サイクルエンジンでは、クランクケースが加圧室として機能して空気/燃料をシリンダー内に送り込むため、4サイクルエンジンで用いられ得るような高粘度油を保持することができない。代わりに、特殊な2サイクルガソリンエンジン潤滑油を燃料に混入させて、クランク軸、コネクティングロッド及びシリンダー壁に潤滑油を供給する。
【0011】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油及び燃料の推奨される混合比は、エンジン製造業者によって指定されている。2サイクルガソリンエンジンに有用な燃料は当業者によく知られており、主成分として、炭化水素系石油留出物燃料などの通常液体である燃料、例えば、ASTM D4814−07によって定義されている火花点火エンジン燃料、又はASTM D439−89によって定義されているモーターガソリンなどを大抵含む。そのような燃料はまた、例えば、アルコール、エーテル、有機窒素化合物などの非炭化水素系材料を含むことができる。例えば、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ニトロメタン及びそのような燃料は、液体燃料がトウモロコシ、スイッチグラス(switch grass)、アルファシェール及び石炭などの植物並びに鉱物源に由来する液体であるとき、本発明の範囲内にある。そのような燃料混合物の例は、ガソリン及びエタノール、ディーゼル燃料及びエーテル、ガソリン及びニトロメタンの組合せなどである。一実施形態において、燃料は無鉛ガソリンである。
【0012】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、潤滑油1重量部あたり燃料約20〜250重量部の量で、より典型的には、潤滑油1重量部あたり燃料約30〜100重量部の量で燃料と混合して使用される。
【0013】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、日本自動車規格JASO M345:2003及び国際規格ISO 13738:2000(E)を含めた規格設定機関によって設定された要件を満たさなければならない。これら2つの規格の要件を以下の表にまとめる。
表I
【表1】

【0014】
上記の要件の表における指数は、JATRE−1の油が100の値を有するとすることによって決定される。区分Cは、優れた排気煙性能及び排気系遮断傾向を有するいわゆる低煙型オイルに適用する。区分Dは、エンジンが熱いときに区分Cの油より良好な清浄性を有する油に適用される。ISO規格において区分B、C及びDの油は全て最大0.18重量%の硫酸灰分(sulfated ash)含量を有する。硫酸灰分は、ISO3987又はASTM D874−00に従って測定されてよい。
【0015】
更に、これらの潤滑油は、低温に遭遇する条件で使用されるとき良好な低温流動性を有することが望ましい。低温流動性は、−10℃、−25℃、及び−40℃の規定温度においてASTM D2983−04aによって測定されるブルックフィールド粘度を決定することによって測定される。測定される温度の1つにおける「良好な低温流動性」は、試験される油が約7500mPa.s以下のブルックフィールド粘度を有するときであると本開示において定義されている。例えば、−10℃における良好な低温流動性とは、油が−10℃において約7500mPa.s以下のブルックフィールド粘度を有することを意味し;−25℃における良好な低温流動性とは、油が−25℃において約7500mPa.s以下のブルックフィールド粘度を有することを意味し;また、−40℃における良好な低温流動性とは、油が−40℃において約7500mPa.s以下のブルックフィールド粘度を有することを意味する。
【0016】
更に、これらの潤滑油は、−10℃及び/又は−25℃の温度でASTM D4682−87(再承認2002年)による混和性試験において合格の結果を有することが望ましい。
【0017】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油組成物は、噴射装置の油として、すなわち、船外モーター、スノーモービル、オートバイ、モッペト、ATV、ゴルフカート、芝刈り機、チェーンソー、ストリングトリマーなどを含めた、気化による、電子燃料噴射及び直接燃料噴射2サイクルエンジンにおけるガソリンなどの適切な燃料による最大150:1の燃料対潤滑油混合比において特に好適である。
【0018】
基油
2サイクルガソリンエンジン潤滑油組成物に使用される潤滑油基油は、実質的にパラフィン系のワックス供給物から誘導される。用語「実質的にパラフィン系の」とは、一般に40重量%超の高レベルのn−パラフィンを含有することを意味する。いくつかの実質的にパラフィン系のワックス供給物は、例えば50重量%超、又は75重量%超のn−パラフィンを有し得る。実質的にパラフィン系のワックス供給物の一例は、フィッシャー−トロプシュプロセスにおいて生成されるワックスである。別の例は、高度に精製されたスラックワックスである。
【0019】
フィッシャー−トロプシュワックスは、周知のプロセス、例えば、工業用SASOL(登録商標)スラリー相フィッシャー−トロプシュ技術、工業用SHELL(登録商標)中間留分合成(SMDS)プロセス、又は非工業用EXXON(登録商標)改良型ガス転換(AGC−21)プロセスによって得ることができる。これらのプロセス及び他の詳細は、例えば、EP−A−776959、EP−A−668342;米国特許第4,943,672号、同5,059,299号、同第5,733,839号、及びRE39073;並びに米国特許公開第2005/0227866号、WO−A−9934917、WO−A−9920720及びWO−A−05107935に記載されている。フィッシャー−トロプシュ合成生成物は、1〜100、又は更に100を超える炭素原子を有する炭化水素を通常含み、典型的には、パラフィン、オレフィン及び酸化生成物が挙げられる。フィッシャー−トロプシュは、フィッシャー−トロプシュワックスを含めたクリーンな代替の炭化水素生成物を生成するのに実行可能なプロセスである。
【0020】
スラックワックスは、水素化分解又は潤滑油留分の溶媒精製のいずれかによって従来の石油由来原料から得ることができる。典型的には、スラックワックスは、これらのプロセスの1つによって調製される溶媒脱ろう原料から回収される。水素化分解は、窒素含量を低い値に低減することもできるため、通常好ましい。スラックワックスは溶媒精製油から誘導され、脱油によって窒素含量を低減し粘度指数を上昇させることができる。スラックワックスの水素処理を用いて窒素及び硫黄含量を低下させることができる。スラックワックスは、スラックワックスが調製された油分及び出発原料に応じて、普通は約140〜200の範囲内の非常に高い粘度指数を有する。したがって、スラックワックスは、2サイクルガソリンエンジン潤滑油において用いられる基油の調製に好適である。
【0021】
一実施形態において、ワックス供給物は、窒素及び硫黄を組み合わせて合計25ppm未満を有する。窒素は、ASTM D4629−02による酸化燃焼及び化学発光検出の前にワックス供給物を融解させることによって測定される。試験方法は、本明細書において組み入れられる米国特許第6,503,956に更に記載されている。硫黄は、ASTM D5453−00による紫外線蛍光の前にワックス供給物を融解させることによって測定される。試験方法は、本明細書において組み入れられる米国特許第6,503,956に更に記載されている。
【0022】
ワックス含有サンプル中のノルマルパラフィン(n−パラフィン)の決定には、0.1重量%の検出限界を有する個々のC7〜C110のn−パラフィンの含量を決定することができる方法を用いるべきである。使用される方法は、本開示において後述する。
【0023】
ワックス供給物は、大規模なフィッシャー−トロプシュ合成プロセスが生産に加わる近未来において豊富であり且つ比較的コスト競争力があることが期待される。これらのワックス供給物から製造されるフィッシャー−トロプシュ由来基油、及びしたがってこれらを含む2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、ポリアルファオレフィン又はエステルなどの他の合成油を用いて製造される潤滑油ほど高価でない。用語「フィッシャー−トロプシュ由来」すなわち「FT由来」とは、生成物、留分、又は供給物がフィッシャー−トロプシュプロセスによる任意の段階で生じ、又は生成されることを意味する。フィッシャー−トロプシュプロセスの原料は、バイオマス、天然ガス、石炭、シェール油、石油、一般廃棄物、これらの誘導物、及びこれらの組合せを含めた多種多様の炭化水素系供給源に由来していてよい。フィッシャー−トロプシュプロセスから調製される合成原料は、種々の固体、液体、及びガス状炭化水素の混合物を含む。潤滑油基油の範囲内で沸騰するこれらのフィッシャー−トロプシュ生成物は、これらを、基油に処理するための理想的な候補物質にする、高い割合のワックスを含有する。したがって、フィッシャー−トロプシュワックスは、高品質の基油を調製するための優れた供給物を提示する。フィッシャー−トロプシュワックスは、室温において通常固体であり、したがって、良好でない低温特性、例えば流動点及び曇り点を示す。しかし、ワックスの水素異性化に続いて、優れた低温特性を有するフィッシャー−トロプシュ由来基油を調製することができる。好適な水素異性化脱ろうプロセスの例の一般的な記載は、本明細書において組み入れられる米国特許第5,135,638号、及び同第5,282,958号;並びに米国特許出願第20050133409号に見出すことができる。
【0024】
水素異性化は、水素異性化条件下、異性化領域において、ワックス供給物を水素異性化触媒に接触させることにより達成される。水素異性化触媒は、形状選択性中間孔径分子篩、貴金属水素化成分、及び耐火性酸化物支持体を好ましくは含む。形状選択性中間孔径分子篩は、SAPO−11、SAPO−31、SAPO−41、SM−3、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、SSZ−32、オフレタイト、フェリエライト、及びこれらの組合せからなる群から好ましくは選択される。一実施形態において、SAPO−11、SM−3、SSZ−32、ZSM−23、ZSM−48、及びこれらの組合せが使用される。一実施形態において、貴金属水素化成分は、白金、パラジウム、又はこれらの組合せである。
【0025】
水素異性化条件は、使用されるワックス供給物、使用される水素異性化触媒、触媒が硫化されている(sulfided)か否か、基油の所望される収率及び所望される特性に依る。一実施形態の水素異性化条件の例として、260℃〜約413℃(500〜約775°F)の温度;15〜3000psig、又は50〜1000psigの全圧;及び約2〜30MSCF/bbl、約4〜20MSCF/bbl(約712.4〜約3562リットルH/リットル油)、約4.5若しくは5〜約10MSCF/bbl、又は約5〜約8MSCF/bblの水素対供給物比が挙げられる。一般に、水素は、生成物から分離されて異性化領域にリサイクルされてよい。10MSCF/bblの供給速度は1781リットルH/リットル供給物に等しいことに注意されたい。一般に、水素は、生成物から分離されて異性化領域にリサイクルされてよい。
【0026】
場合により、水素異性化脱ろうによって生成される基油は、水素化仕上げされてよい。水素化仕上げは、基油を1つ若しくは複数の留分に分別する前又は後のいずれかに、1つ又は複数の工程において起こり得る。水素化仕上げは、芳香族化合物、オレフィン、着色物体、及び溶媒を除去することにより、生成物の酸化安定性、UV安定性、及び外観を改良することを意図している。水素化仕上げの一般的な記載は、本明細書において組み入れられる米国特許第3,852,207号及び同第4,673,487号において見出すことができる。水素化仕上げ工程は、基油中のオレフィン重量パーセントを10未満、5又は2未満、1未満、0.5未満、及び0.05又は0.01未満に低減することが必要である場合がある。水素化仕上げ工程はまた、芳香族化合物の重量パーセントを0.3又は0.1未満、0.05未満、0.02未満、及びいくつかの実施形態においては更に0.01未満に低減することが必要である場合がある。
【0027】
場合により、水素異性化脱ろうによって生成される基油は、ボーキサイト又はクレイなどの吸着剤によって処理して、不純物を除去し且つ着色及び生分解性を改良することができる。
【0028】
基油は、ワックス供給物から製造されるため、連続する数(consecutive numbers)の炭素原子を有する。「連続する数の炭素原子」により、本発明者らは、ワックス供給物が連続する数の炭素原子も有するがゆえに、基油の炭化水素分子が連続する数の炭素原子によって互いに異なることを意味している。例えば、フィッシャー−トロプシュ炭化水素合成反応において、炭素原子の供給源はCOであり、炭化水素分子は1つの炭素原子で一度に構築される。石油由来ワックス供給物もまた連番(sequential)の炭素数を有する。PAOに基づく油とは対照的に、基油の分子は、より直鎖状の構造を有し、短い分枝鎖を有して比較的長い骨格を含む。PAOの古典的な教科書の記載では星形分子、特にトリデカンであり、中心点に付着した3つのデカン分子として図解されている。星形分子は理論上であるが、にもかかわらず、PAO分子は、本開示において用いられる基油を作り上げる炭化水素分子のように、より少なく、より長い分子鎖を有する。別の実施形態において、連続する数の炭素原子を有する基油はまた、n−d−Mにより10重量%未満のナフタレン炭素も有する。
【0029】
一実施形態において、潤滑油基油は、留分に分離され、これにより1つ又は複数の留分が0℃未満、−9℃未満、−15℃未満、−20℃未満、−30℃未満、又は−35℃未満の流動点を有し得る。流動点は、ASTM D5950−02によって測定される。基油は異なる粘度等級の基油に場合により分別される。本開示の文脈において、「異なる粘度等級の基油」は、100℃における動粘度が互いに少なくとも0.5mm/s異なる2種以上の基油として定義される。動粘度は、ASTM D445−06を用いて測定される。分別は真空蒸留ユニットを用いて行われ、予め選択された沸点範囲を有するカット留分を得る。留分の1つは蒸留ボトル生成物(bottoms product)であってよい。
【0030】
一実施形態において、基油留分は、0.01重量%未満の芳香族炭素及び約90重量%超のパラフィン炭素を有する。炭素重量%の残りはナフタレン炭素である。芳香族炭素重量%、パラフィン炭素重量%及びナフタレン炭素重量%は、ASTM D3238−95(2005)によるn−d−M分析によって決定される。一実施形態において、パラフィン炭素重量%は約90重量%〜約97重量%の間であり、ナフタレン炭素重量%は、約3重量%〜約10重量%の間である。
【0031】
一実施形態において、潤滑油基油留分の粘度指数は高くてよい。これらは、28×Ln(100℃における動粘度)+80を超える粘度指数をしばしば有し得る。一実施形態において、これらは、28×Ln(100℃における動粘度)+95を超える粘度指数を有し得る。例えば、2.5mm/sの油は、106を超える、場合により121を超える粘度指数を有し得;12mm/sの油は、150を超える、場合により165を超える粘度指数を有し得る。
【0032】
別の実施形態において、基油は、−8℃未満の流動点;100℃において少なくとも1.5mm/sの動粘度;及び、式:22×Ln(100℃における動粘度)+132によって計算される量を超える粘度指数を有する。この実施形態において、例えば、100℃において2.5mm/sの動粘度を有する油は、152を超える粘度指数を有し得る。これらの特性を有する基油は、米国特許公開第20050077208号に記載されている。本開示における式に関連して、用語「Ln」は、底「e」を有する自然対数をいう。粘度指数を測定するのに用いられる試験方法は、ASTM D2270−04である。
【0033】
基油留分は、100℃において約1.3〜25mm/sの間の動粘度を有する。一実施形態において、基油留分は、100℃において約1.5〜約3.5mm/sの間の動粘度を有する。別の実施形態において、基油留分は、約1.8〜約3.2mm/sの間の動粘度を有する。
【0034】
一実施形態において、基油留分は、優れた酸化安定性、低ノアック揮発度、並びに所望の添加剤溶解性及びエラストマー相溶性を与える。基油留分は、重量パーセントで10未満、5未満、1未満、0.5未満、又は0.05未満若しくは0.01未満のオレフィンを有する。基油留分は、重量パーセントで0.1未満、0.05未満、又は0.02未満の芳香族化合物を有する。
【0035】
「トラクション係数」(“traction coefficient”)は、摩擦力F及び法線力Nの無次元比として表される固有の潤滑油特性の指標であり、ここで摩擦とは、摺動若しくは転がり面間の移動に抵抗する又は移動を妨害する機械的な力である。トラクション係数は、直径46mmの平らな研磨ディスク(SAE AISI 52100鋼)に対して220度で傾斜した直径19mmの研磨ボール(SAE AISI 52100鋼)を含んで構成されているPCS Instruments社製MTMトラクション測定システムを用いて測定することができる。鋼製ボール及びディスクは、3m/sの平均転がり速度、40%の摺動対転がり比(slide to roll ratio)、及び20Nの負荷で独立して測定される。転がり比(roll ratio)は、ボール及びディスク間の摺動速度の差をボール及びディスクの平均速度で割ったもの、すなわち、転がり比=(速度1−速度2)/((速度1+速度2)/2)として定義される。いくつかの実施形態において、基油留分は、15mm/sの動粘度及び40%の摺動対転がり比で測定されるとき、0.023未満、0.021以下、又は0.019以下のトラクション係数を有する。一実施形態において、これらは、式:トラクション係数=0.009×Ln(動粘度)−0.001によって定義される量未満のトラクション係数であり、ここで、トラクション係数測定中の動粘度は2〜50mm/sの間であり;トラクション係数は、3m/sの平均転がり速度、40%の摺動対転がり比、及び20Nの負荷で測定される。
【0036】
一実施形態において、基油留分は、15mm/sの動粘度及び40%の摺動対転がり比で測定されるとき、0.015未満又は0.011未満のトラクション係数を有する。低トラクション係数を有するこれらの基油留分の例として、米国特許第7,045,055号並びに米国特許出願第11/400570号及び同第11/399773号(両方とも2006年4月7日に出願)に教示されている。一実施形態において、基油は、0.015未満のトラクション係数、及び565℃(1050°F)超の50重量%沸点を有する。別の実施形態において、基油は、0.011未満のトラクション係数、及び582℃(1080°F)超のASTM D6352−04による50重量%沸点を有する。
【0037】
いくつかの実施形態において、低トラクション係数を有する異性化基油はまた、23.4以下の分枝指数(branching index)、22.0以上の分枝近接度(branching proximity)、及び9〜30の間の遊離炭素指数(Free Carbon Index)を含めたNMRによる特有の分枝特性を示す。ASTM D3238−95(再承認2005年)によるn−d−M分析によって、一実施形態において、基油は、少なくとも4重量%のナフタレン炭素を有し、別の実施形態において、少なくとも5重量%のナフタレン炭素を有する。低トラクション係数を有する基油留分を含んでなる2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、低減されたエンジン摩耗を与える。
【0038】
いくつかの実施形態において、潤滑油の潤滑油基油留分中のオレフィン及び芳香族化合物含量はかなり低く、選択された基油留分のオキシデータBN(Oxidator BN)は、25時間超、例えば35時間超、又は更に40時間超であり得る。選択された基油留分のオキシデータBNは、典型的には70時間未満であり得る。オキシデータBNは、基油の酸化安定性を測定するための常套手段である。オキシデータBN試験は、Stangelandらによる米国特許第3,852,207号に記載されている。オキシデータBN試験は、Dornte型酸素吸収装置によって酸化抵抗性を測定する。R.W.Dornte「ホワイトオイルの酸化(Oxidation of White Oils)」Industrial and Engineering Chemistry、第28巻、26頁、1936年を参照のこと。通常、条件は340°Fで1気圧の純粋酸素である。結果は、100gの油が1000mlのOを吸収するのに要する時間で報告される。オキシデータBN試験において、油100グラムあたり0.8mlの触媒が使用され、添加剤パッケージは油中に含まれる。触媒は、ケロセン溶解性金属ナフテン酸塩の混合物である。溶解性金属ナフテン酸塩の混合物は、用いられるクランクケース油の平均金属分析をシミュレートする。触媒中の金属レベルは以下の通りである:銅=6,927ppm;鉄=4,083ppm;鉛=80,208ppm;マンガン=350ppm;スズ=3565ppm。添加剤パッケージは、油100グラムあたり80ミリモルのビスポリプロピレンフェニルジチオ−リン酸亜鉛、又は約1.1グラムのOLOA(商標)260である。オキシデータBN試験は、シミュレートされる用途における潤滑油基油の応答を測定する。1リットルの酸素を吸収するための高い値、即ち長い時間は良好な酸化安定性を示す。良好な酸化安定性を有する基油留分を含む2サイクルガソリンエンジン潤滑油はまた、改良された酸化安定性も有し得る。
【0039】
OLOA(商標)は、Chevron Oroniteの登録商標であるOronite潤滑油添加剤(Lubricating Oil Additive)の頭字語である。
【0040】
いくつかの実施形態において、1つ又は複数の潤滑油基油留分は優れた生分解性を有し得る。好適な水素化処理(hydro−processing)及び/又は吸着剤処理について、これらは、OECD301B振とうフラスコ試験(Modified Sturm Test)により易生分解性である。易生分解性基油留分が、選択された低灰分又は無灰添加剤などの好適な生分解性添加剤とブレンドされるとき、潤滑油は、最小の非生分解性残渣を有する感受性領域において流出物の迅速な生分解性を与え、費用がかかる環境清浄を防止する。
【0041】
いくつかの実施形態において、1つ又は複数の潤滑油基油留分は低ノアック揮発度を有する。ノアック揮発度は、通常、ASTM D5800−05の手順Bにしたがって試験される。一実施形態において、1つ又は複数の潤滑油基油留分は、100重量%未満のノアック揮発度を有する。基油のノアック揮発度は、一般に、動粘度が減少するにしたがって増大する。ノアック揮発度が低下するにしたがって、使用時の基油及び製油の揮発傾向が低下する。
【0042】
基油の「ノアック揮発度因子」(“Noack Volatility Factor”)は、基油の動粘度から誘導される経験的な数である。高パラフィン系ワックスから誘導される基油のノアック揮発度は非常に低く、一実施形態において、式:ノアック揮発度因子(1)=160−40(100℃における動粘度)によって計算される量未満である。米国特許出願公開第2006/0201852A1号において与えられる式(1)は、1.5〜4.0mm/sの間の動粘度について0〜100の間のノアック揮発度因子を与える。図1は、式(1)によるノアック揮発度因子のグラフである。第2の実施形態において、1つ又は複数の潤滑油基油留分のノアック揮発度は、式:ノアック揮発度因子(2)=(900×(100℃における動粘度)−2.8)−15によって計算される量未満である。米国特許出願第11/613,936号において与えられる式(2)は、2.09〜4.3mm/sの間の動粘度について0〜100の間のノアック揮発度因子を与える。図1はまた、式(2)によるノアック揮発度因子も含む。2.4〜3.8mm/sの範囲内の動粘度について、式(2)は、式(1)が与えるよりも低いノアック揮発度因子を与える。2.4〜3.8mm/sの動粘度を有する基油の範囲内でのより低いノアック揮発度因子は、特に基油がより高いノアック揮発度を有し得る他の油とブレンドされるときに望ましい。
【0043】
付加的な基油が約1.0重量%〜約20重量%の量で潤滑油組成物に包含されてよい。これらの付加的な基油の例として、エステル、エステルの混合物、及び米国特許第6,197,731号に記載されている複合エステル;ポリアルファオレフィン、ポリ内部オレフィン、ポリイソブテン、アルキル化ナフタレンなどのアルキル化芳香族化合物、並びに従来の石油由来APIグループII及びグループIII鉱油が挙げられる。
【0044】
流動点低下ブレンド成分
2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、流動点低下ブレンド成分を含んでよい。本明細書において使用されるとき、「流動点低下ブレンド成分」は、比較的高い分子量及び分子中に特定のアルキル分枝度を有する異性化ワックス生成物をいい、当該成分を含む潤滑油基油ブレンドの流動点を低下させる。流動点低下ブレンド成分の例は、米国特許第6,150,577号及び同第7,053,254号、並びに米国特許公開第20050247600A1号に開示されている。流動点低下ブレンド成分は、1)異性化フィッシャー−トロプシュ由来ボトム生成物;2)異性化高ろう状鉱油から調製されるボトム生成物、又は3)100℃において少なくとも約8mm/sの動粘度を有する、ポリエチレンプラスチックから製造される異性化油であり得る。
【0045】
一実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、600〜1100の間の平均分子量及び分子内に炭素原子100あたり6.5〜10アルキル分枝の平均分枝度(degree of branching)を有する異性化フィッシャー−トロプシュ由来真空蒸留ボトム生成物である。一般に、より高い分子量の炭化水素は、より低い分子量の炭化水素よりも流動点低下ブレンド成分としてより有効である。一実施形態において、結果としてより高い沸点の塔底物質をもたらす真空蒸留ユニット中のより高いカットポイント(cut point)を用いて、流動点低下ブレンド成分を調製する。より高いカットポイントはまた、留出物である基油留分のより高い収率をもたらすという利点も有する。一実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、ブレンドされる留出物基油の流動点よりも少なくとも3℃高い流動点を有する異性化フィッシャー−トロプシュ由来真空蒸留ボトム生成物である。
【0046】
一実施形態において、真空蒸留ボトム生成物である流動点低下ブレンド成分の沸点範囲の10パーセント点は、約850°F〜1050°F(454〜565℃)の間である。別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、950°F(510℃)を超える沸騰範囲を有するフィッシャー−トロプシュ生成物又は石油生成物のいずれかから誘導され、少なくとも50重量パーセントのパラフィンを含有する。なお別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、1050°F(565℃)を超える沸騰範囲を有する。
【0047】
別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、約1050°Fを超える沸騰範囲を有する物質を含有する異性化石油由来基油である。一実施形態において、異性化塔底物質は、流動点低下ブレンド成分として用いられる前に溶媒脱ろうされる。溶媒脱ろうの間に流動点低下ブレンド成分から更に分離されるワックス生成物は、溶媒脱ろう後に回収される油生成物と比較して優れた改良された流動点降下特性を示すことがわかった。
【0048】
別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、100℃において少なくとも約8mm/sの動粘度を有する、ポリエチレンプラスチックから製造される異性化油である。一実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、廃プラスチックから製造される。別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、ポリエチレンプラスチックの熱分解、重質分の分離、重質分の水素処理、水素処理された重質分の触媒異性化、及び100℃において少なくとも約8mm/sの動粘度を有する流動点低下ブレンド成分の収集を含む工程から製造される。第3実施形態において、それは、ポリエチレンプラスチックから誘導され、1050°F(565℃)を超える沸騰範囲、又は更には1200°F(649℃)を超える沸騰範囲を有する。
【0049】
一実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、炭素原子100あたり6.5〜10アルキル分枝の範囲内の分子内平均分枝度を有する。別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、600〜1100の間の平均分子量を有する。第3実施形態において、それは、700〜1100の間の平均分子量を有する。一実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、100℃において8〜30mm/sの動粘度を有し、沸騰範囲の10%点が約850〜1050°Fの間で下がる。なお別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、100℃において15〜20mm/sの動粘度及び−8〜−12℃の流動点を有する。
【0050】
一実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、100℃において少なくとも約8mm/sの動粘度を有し、ポリエチレンプラスチックから製造される異性化油である。一実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、廃プラスチックから製造される。別の実施形態において、流動点低下ブレンド成分は、ポリエチレンプラスチックの熱分解、重質分の分離、重質分の水素処理、水素処理された重質分の触媒異性化、及び100℃において少なくとも約8mm/sの動粘度を有する流動点低下ブレンド成分の収集を含む工程から製造される。第3実施形態において、ポリエチレンプラスチックから誘導される流動点低下ブレンド成分は、1050°F(565℃)超の沸騰範囲、又は更には1200°F(649℃)超の沸騰範囲を有する。
【0051】
添加剤及び添加剤パッケージ
種々の清浄剤/分散剤添加剤パッケージは、2サイクル油ガソリンエンジン潤滑油の配合において基油と組み合わされてよい。無灰、低灰分、又は灰分含有添加剤はこの目的で用いられてよい。
【0052】
好適な無灰添加剤として、ポリアミド、アルケニルスクシンイミド、ホウ酸変性アルケニルスクシンイミド、フェノールアミン及びコハク酸エステル誘導体又は任意の2以上のこのような添加剤の組合せが挙げられる。
【0053】
低灰分添加剤パッケージの例は、(i)潤滑油中、0.2〜5重量%の量で存在するポリブテニル(Mn400〜2500)コハク酸イミド、又は別の油溶性の、アシル化された窒素含有潤滑油分散剤、及び(ii)金属フェノラート、硫酸塩、又はサリチル酸エステル油溶性清浄添加剤を含む。一実施形態において、油溶性清浄添加剤は、潤滑油中に0.1〜2重量%の量で存在する全塩基価(Total Base Number)200以下の中性金属清浄剤又は過塩基性金属清浄剤である。この実施形態において、金属は、カルシウム、バリウム又はマグネシウムである。中性サリチル酸カルシウムは一例であり、潤滑油中に約0.5〜1.5重量%の量で存在してよい。
【0054】
一般に用いられるイソステアリン酸テトラエチレンペンタミンなどのポリアミド清浄剤/分散剤添加剤は、その全体が、完全に本明細書に記載されているかのように、本明細書において参照により組み入れられる米国特許第3,169,980号に記載されているように、脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの反応によって調製されてよい。これらのポリアミドは、高温での連続加熱の際に直鎖ポリアミドの内部縮合によって形成される、測定可能な量の環状イミダゾリンを含んでよい。別の有用なクラスのポリアミド添加剤は、ポリアルキレンポリアミン及びC19〜C25のコッホ酸から、R.Hartleら、JAOCS、57(5):156〜59頁(1980年)の手順によって調製される。
【0055】
アルケニルスクシンイミドは、ポリブテン(MV1200)などのオレフィンが無水マレイン酸と反応してポリブテニル無水コハク酸付加物が得られ、次いでアミン、例えば、アルキルアミン又はポリアミンと反応して、所望の生成物が形成される段階的な手順によって形成される。
【0056】
フェノールアミンは、ポリアルキレン置換フェノール、ホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンが関与する周知のマンニッヒ反応(C.Mannich及びW.Krosche、Arch.Pharm.、250:674頁(1912年))によって調製される。
【0057】
コハク酸エステル誘導体は、オレフィン(例えば、ポリブテン)と無水マレイン酸との反応によりポリブテニル無水コハク酸付加物が得られ、ポリオール、例えばペンタエリスリトールとの反応を更に経て所望の生成物が与えられることによって調製される。
【0058】
好適な灰分含有清浄剤/分散剤添加剤として、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム)、硫酸塩、リン酸塩若しくはフェノラート、又は任意の2以上のこのような添加剤の組合せが挙げられる。
【0059】
上記の清浄剤/分散剤添加剤は、本明細書に記載の潤滑油組成物に、組成物の全重量を基準にして約1〜約25重量%、及びより好ましくは約3〜約20重量%の量で包含されてよい。
【0060】
市販の2サイクル潤滑油清浄剤/分散剤添加剤パッケージを基油と併用して、2サイクルガソリンエンジン潤滑油、例えば、LUBRIZOL400、LUBRIZOL6827、LUBRIZOL6830、LUBRIZOL600、LUBRIZOL606、ORONITE OLOA(登録商標)9333、ORONITE OLOA(登録商標)340A、ORONITE OLOA(登録商標)6721及びORONITE OLOA(登録商標)9357を生成することができる。
【0061】
種々の他の添加剤は、所望により、2サイクルガソリンエンジン潤滑油に包含されてよい。これらの例として、煙抑制剤、例えばポリブテン又はポリイソブテン(PIB)、極圧添加剤、例えばジアルキルジチオリン酸塩又はエステル、消泡剤、例えばシリコーン油、流動点降下剤、防錆又は腐食防止剤、例えばトリアゾール誘導体、没食子酸プロピル又はアルカリ金属フェノラート若しくは硫酸塩、酸化抑制剤、例えば置換ジアリールアミン、フェノチアジン、ヒンダードフェノールなどが挙げられる。これらの添加剤のいくらかは、消泡剤並びに流動点降下剤として機能し得るポリメタクリレートなど多官能性であってよい。流動点降下剤は、用いられるとき、全潤滑油を基準にして0.005〜0.1重量%の間の量で用いられる。流動点降下剤の例は、ポリメタクリレート(PMA);ポリアクリレート;ポリアクリルアミド;ハロパラフィンワックス及び芳香族化合物の縮合生成物;ビニルカルボキシレートポリマー;ジアルキルフマル酸エステル、脂肪酸のビニルエステル、及びアルキルビニルエーテルのターポリマー;並びにこれらの混合物である。
【0062】
一実施形態において、煙抑制剤は、ポリブテン、ポリイソブテン、並びにポリブテン及びポリイソブテンの混合物からなる群から選択されるオレフィン性不飽和ポリマーであり、400〜2200の数平均分子量及びポリマー中の二重結合の総数を基準にして少なくとも60mol%の末端ビニリデン含量を有する。これらのタイプの煙抑制剤は、EP1743932A2に教示されている。これらの煙抑制剤の市販例は、BASF Corporation製のGLISSOPAL(登録商標)1000である。
【0063】
揮発性、可燃性の高フラッシュ炭化水素溶媒、例えばケロセン、Exxsol D80、又はStoddard溶媒を添加剤として用いることもできる。Exxsol D80は、少なくとも200℃の初期沸点、約28(20〜40の間)のカウリ−ブタノール値(Kauri−Butanol Value)、及び73.9〜79.4℃のアニリン点を有する脱芳香族化脂肪族高フラッシュ溶媒である。揮発性、可燃性の高フラッシュ炭化水素溶媒を2サイクルエンジン潤滑油に全潤滑油の5重量%未満の量で添加して、JASO M342〜92試験において煙指数を少なくとも75の値にし、並びに/又は他の添加剤の相溶性及び/若しくは溶解性を改良し且つ粘度及びガソリン混和性などの低温特性を改良してよい。一実施形態において、2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、低レベル、例えば全潤滑油の約5重量%未満、約2重量%未満の溶媒を含み、又は更には本質的に含まず、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒である。2サイクルガソリンエンジン潤滑油中の低レベルの溶媒は、揮発性有機分の蒸発による汚染の低減、パッケージング及び輸送に用いられるエラストマーとの改良された相溶性、並びに輸送及び貯蔵安全性の向上のための可燃性危険物の低減を提供する。
【0064】
ほとんどの上記添加剤は、潤滑油組成物の全重量を基準にして約0.005%〜約15%、又は約0.005%〜約6%の量で潤滑油組成物に包含されてよい。ポリブテン又はポリイソブテンの場合には、当該量は1%〜50%で変動してよい。特定の範囲内で選択される各添加剤又は添加剤パッケージの量は、潤滑油の所望の性能特性に悪影響を及ぼさないようにするべきである。このような添加剤によってもたらされる効果は、日常的な試験によって容易に決定され得る。
【0065】
或いは、潤滑油は:
a.以下を有する、全潤滑油を基準にして20〜70重量%の間の1つ又は複数の基油留分:
i.連続する数の炭素原子;
ii.100℃において約1.5〜約3.5mm/sの間の動粘度;
iii.約90重量%〜約97重量%の間のパラフィン炭素;
iv.約3重量%〜約10重量%のナフタレン炭素;及び
v.0.01重量%未満の芳香族炭素;
b.全潤滑油を基準にして0.5〜25重量%の流動点低下ブレンド成分;
c.全潤滑油を基準にして約5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒;
d.全潤滑油を基準にして約1重量%〜約25重量%の清浄剤/分散剤添加剤パッケージ;
e.全潤滑油を基準にして約1重量%〜約50重量%の煙抑制剤;並びに
f.全潤滑油を基準にして0.1重量%未満の流動点降下剤;
からなり、又は本質的にそれらからなり、100℃において6.5mm/s以上のブレンド動粘度、−25℃において良好な低温流動性、及び65を超える排気煙指数(exhaust smoke index)を有する。
【0066】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油は、これらが含む低レベルの溶媒に起因した高引火点を有する。これらの引火点は、いくつかの実施形態において、120℃超、又は150℃超である。
【0067】
具体的な分析試験方法
ワックス含有サンプル中のノルマルパラフィン重量%:
ワックス含有サンプル中のノルマルパラフィンの定量分析は、ガスクロマトグラフィ(GC)によって決定される。GC(キャピラリースプリット/スプリットレス注入口及び水素炎イオン化検出器を有するAgilent6890又は5890)は、水素炎イオン化検出器を備え、炭化水素に対して高感度である。この方法は、メチルシリコーンキャピラリーカラムを利用し、沸点によって炭化水素混合物を分離するのに日常的に使用される。カラムは、溶融シリカ、100%メチルシリコーン、長さ30メートル、内径0.25mm、膜厚0.1ミクロンであり、Agilentによって供給される。ヘリウムはキャリアガス(2ml/min)であり、水素及び空気は炎に対する燃料として使用される。
【0068】
ワックス供給物を融解させて0.1gの均質なサンプルを得る。サンプルは、二硫化炭素に直ちに溶解されて2重量%の溶液を与える。必要に応じて、視覚的に透明且つ固体を有していないようになるまで溶液を加熱し、次いでGCに注入する。メチルシリコーンカラムを、以下の温度プログラムを用いて加熱する:
初期温度:150℃(C7〜C15の炭化水素が存在するとき、初期温度は50℃である。)
ランプ:6℃/分
最終温度:400℃
最終保持:5分又はピークが溶出されなくなるまで
【0069】
カラムは、次いでノルマルパラフィンを非−ノルマルパラフィンから炭素数増加順に効果的に分離する。公知の参照標準を同様に分析して特定のノルマル−パラフィンのピークの溶出時間を確立する。当該標準はASTM D2887 n−パラフィン標準であり、ベンダー(Agilent又はSupelco)から購入され、5重量%のポリワックス500ポリエチレン(Oklahoma州Petrolite社から購入)と混ぜられる。当該標準は、注入前に融解される。参照標準の分析から収集した履歴データは、キャピラリーカラムの分離効率も保証する。
【0070】
サンプル中に存在するとき、ノルマルパラフィンのピークは、よく分離され、サンプル中に存在する他の炭化水素ピークから容易に同定可能である。ノルマルパラフィンの保持時間外で溶出するこれらのピークは、非−ノルマルパラフィンと呼ばれる。全サンプルは、ランの開始から終了までベースラインホールド(baseline hold)を用いて積分される。n−パラフィンは全エリアからスキムされ、谷間から谷間まで積分される。検出された全てのピークは100%に正規化される。EZChromはピークの同定及び結果の計算に使用される。
【0071】
オレフィン重量%:
基油中のオレフィン重量%は、以下の工程A〜DによりプロトンNMRによって決定される:
A.5〜10%の試験炭化水素の重クロロホルム(deuterochloroform)溶液を調製する。
B.少なくとも12ppmのスペクトル幅の正常プロトンスペクトルを取得し、化学シフト(ppm)軸を正確に参照する。装置は、レシーバ/ADCを過負荷にせずに信号を取得するために十分なゲイン幅を有さなければならない。30度パルスが適用される場合、装置は65,000の最小の信号デジタル化動的範囲を有さなければならない。好ましくは、動的範囲は260,000以上である。
C.以下の間の積分強度を測定する:
6.0〜4.5ppm(オレフィン)
2.2〜1.9ppm(アリル)
1.9〜0.5ppm(飽和)
D.ASTM D 2503で決定される試験物質の分子量を使用して:
1.飽和炭化水素の平均分子式
2.オレフィンの平均分子式
3.合計積分強度(=全積分強度の合計)
4.サンプル水素あたりの積分強度(=合計積分/式中の水素の数)
5.オレフィン水素の数(=オレフィン積分/水素あたりの積分)
6.二重結合の数(=オレフィン水素×オレフィン式中の水素/2)
7.プロトンNMRによるオレフィン重量%=100×二重結合の数×典型的なオレフィン分子中の水素の数/典型的な試験物質分子中の水素の数
を計算する。
【0072】
プロトンNMR計算手順Dによるオレフィン重量%は、オレフィン%の結果が低く、約15重量%未満である場合に最も役に立つ。オレフィンは、「従来の」オレフィン、即ち、二重結合炭素へ結合した水素を有するオレフィンタイプ、例えば、アルファ、ビニリデン、シス、トランス、及び3置換されたオレフィンタイプの分散した混合物でなければならない。これらのオレフィンタイプは、検出可能な、1〜約2.5のアリル対オレフィン積分比を有する。この比が3を超える場合、より高い割合のトリ又はテトラ置換オレフィンが存在すること、及び、サンプル中の二重結合の数を計算するために別の仮定がなされなければならないことを示す。
【0073】
HPLC−UVによる芳香族測定:
潤滑油基油中に少なくとも1つの芳香族官能基を有する低レベルの分子を測定するために使用される方法は、HP Chem−stationに接続されたHP 1050 Diode−Array UV−Vis検出器に連結されたHewlett Packard 1050シリーズの4勾配高速液体クロマトグラフィ(HPLC)システムを使用する。高飽和基油中の個々の芳香族類の同定は、これらのUVスペクトルパターン及びこれらの溶出時間に基づいて行った。この分析に使用されるアミノカラムは、主にこれらの環数(又は、更に正確には、二重結合の数)に基づいて芳香族分子を識別する。したがって、単環式芳香族含有分子が最初に溶出し、続いて多環式芳香族が分子あたりの二重結合数の増加順序で溶出する。類似の二重結合性を有する芳香族では、環上にアルキル置換のみを有する芳香族が、ナフテン系置換を有する芳香族よりも早く溶出する。
【0074】
これらのUV吸収スペクトルからの種々の基油芳香族炭化水素の明確な同定は、これらのピーク電子遷移が、環系のアルキル及びナフテン系置換の量に応じた程度まで、純粋なモデル化合物類似体に対してすべて赤色シフトしたことを認識して行った。これらの深色シフトが、芳香族環のπ−電子のアルキル基非局在化によって引き起されることはよく知られている。わずかの非置換芳香族化合物は潤滑油範囲で沸騰するので、ある程度の赤色シフトが期待され、同定された主たる芳香族基のすべてについて観察された。
【0075】
溶出する芳香族化合物の定量化は、その芳香族についての適切な保持時間枠にわたって化合物のそれぞれの一般分類に対して最適化された波長から作製されたクロマトグラムを積分することにより行われた。各芳香族類に対する保持時間枠限界は、溶出化合物の個々の吸収スペクトルを異なる時間において手動で評価し、これらを適切な芳香族類へモデル化合物吸収スペクトルに対するこれらの質的類似性を基準にして割り当てることにより決定された。わずかな例外を除いて、5つの類の芳香族化合物のみが、高度に飽和したAPIグループII及びIII潤滑油基油において観察された。
【0076】
HPLC−UV較正:
HPLC−UVは、これらの類の芳香族化合物を非常に低いレベルにおいても同定するために使用される。多環芳香族は、一般に、単環芳香族よりも10〜200倍強く吸収する。アルキル置換もまた、約20%分、吸収に影響を及ぼした。したがって、HPLCを使用して、種々の類の芳香族を分離及び同定すること、並びにこれらがどのぐらい効果的に吸収するかを知ることが重要である。
【0077】
5つの類の芳香族化合物が同定された。最も多く保持されたアルキル−1−環芳香族ナフテンと最も少なく保持されたアルキルナフタレンとの間の少しの重複の例外を除いて、すべての芳香族化合物類はベースライン分離された。272nmにおける同時溶出1−環及び2−環芳香族に対する積分限界は垂直落下法で設けられた。それぞれの一般的な芳香族類に対する波長依存性応答因子は、初めに、置換芳香族類似体に最も近いスペクトルピーク吸収を基準として純粋なモデル化合物混合物からベールの法則(Beer’s Law)プロットを作図することにより決定された。
【0078】
例えば、基油中のアルキル−シクロヘキシルベンゼン分子は、非置換テトラリンモデル化合物が268nmにおいて吸収する同じ(禁制)遷移に相当する272nmにおける明確なピーク吸収を示す。基油サンプル中のアルキル−1−環芳香族ナフテンの濃度は、272nmにおけるそのモル吸収率応答因子が、ベールの法則プロットから計算された、268nmにおけるテトラリンのモル吸収率にほぼ等しいものと仮定して計算された。芳香族の重量パーセント濃度は、各芳香族類の平均分子量が、全体の基油サンプルの平均分子量にほぼ等しいものと仮定して計算された。
【0079】
この較正方法は、精緻なHPLCクロマトグラフィにより潤滑油基油から直接1−環芳香族を単離することにより更に改良された。これらの芳香族による直接の較正は、モデル化合物に関連する仮定及び不確実性を排除した。予測通り、単離された芳香族サンプルは、更に高度に置換されていたので、モデル化合物よりも低い応答因子を有した。
【0080】
より具体的には、HPLC−UV法を正確に較正するために、置換ベンゼン芳香族を、Waters半分取(semi−preparative)HPLC装置を使用して大量の潤滑油基油から分離した。10gのサンプルをn−ヘキサン中で1:1に希釈し、Rainin Instruments(California州Emeryville)製のアミノ結合シリカカラム、5cm×22.4mm ID guardへ、次いで、8〜12ミクロンのアミノ−結合シリカ粒子の2つの25cm×22.4mm IDカラムへ、18ml/分の流量で移動相のn−ヘキサンと一緒に注入した。カラム溶出液は、265nm及び295nmに設定した二波長UV検出器からの検出器応答に基づいて分別した。単環芳香族の溶出の始まりの合図である、265nm吸収が0.01吸収単位の変化を示すまで飽和画分を集めた。2環芳香族溶出の始まりを示す265nm及び295nm間の吸収比が2.0に減少するまで単環芳香族画分を集めた。単環芳香族画分の精製及び分離は、HPLCカラムの過負荷から得られた「後部」(“tailing”)飽和画分から離れたモノ芳香族画分を再度クロマトグラフにかけることで行った。
【0081】
この精製された芳香族「標準」は、アルキル置換が非置換テトラリンに関して約20%分モル吸収率応答因子を減少させたことを示した。
【0082】
NMRによる芳香族の確認:
精製されたモノ芳香族標準中の少なくとも1つの芳香族官能基を有するすべての分子の重量パーセントは、長期炭素13NMR分析により確認された。NMRは、単純に芳香族炭素を測定し、応答が、分析される芳香族の類に依存しないため、HPLC−UVよりも較正が容易であった。NMR結果は、高飽和潤滑油基油中の芳香族の95〜99%が単環芳香族であるということを知ることにより、%芳香族炭素から%芳香族分子(HPLC−UV及びD2007と一致)へ変換された。
【0083】
高出力、長期、及び良好なベースライン分析は、0.2%の芳香族分子に至るまで芳香族を正確に測定するのに必要とされた。
【0084】
より具体的には、少なくとも1つの芳香族官能基を有する低レベルのすべての分子をNMRによって正確に測定するために、標準D5292−99方法は、500:1の最小炭素感度を与えるために改変された(ASTM標準手順E386による)。10〜12mmのNaloracプローブによって400〜500MHz NMRにおける15時間持続ランが使用された。Acorn PC集積ソフトウェアは、ベースラインの形状を定義し、一貫して集積するために使用された。搬送周波数は、アーチファクト(artifacts)が脂肪族ピークを芳香族領域内に画像化させるのを回避するために、当該ラン中に一度変更された。搬送スペクトルのいずれかの側でスペクトルを取ることにより、解像度が著しく改良された。
【実施例】
【0085】
(例1)
全てCo系フィッシャー−トロプシュ触媒を用いて作製された、水素処理されたフィッシャー−トロプシュワックスの数種類のバッチから構成されるワックスサンプルを調製した。当該ワックスサンプルを構成する種々のバッチのワックスを分析し、全てが表IIに示す特性を有することが分かった。
表II:フィッシャー−トロプシュワックス
【表2】

【0086】
Co系フィッシャー−トロプシュワックスを、アルミナ結合剤を含むPt/SAPO−11触媒によって水素異性化した。操作条件は、635°F〜675°F(335℃〜358℃)の間の温度、1.0/時間のLHSV、約500psigの反応器圧力、及び5〜6MSCF/bblの間の貫流水素量を含んだ。シリカ−アルミナ担持Pd水素化仕上げ触媒を含む第2反応器に直接通される反応器流出物もまた、500psigで操作した。第2反応器での条件は、約350°F(177℃)の温度及び2.0/時間のLHSVを含んだ。
【0087】
650°Fより上で沸騰する生成物を真空蒸留によって分別して、異なる粘度等級の留出物留分を生成した。3つのフィッシャー−トロプシュ由来潤滑油基油を得た。2つは留出物側−カット留分(XLFTBO及びXXLFTBO)であり、1つは、留出物である塔底留分(HFTBO)であった。3つのフィッシャー−トロプシュ由来潤滑油基油についての試験データを以下の表IIIで示す。
表III
【表3】

【0088】
HFTBOは、低トラクション係数を有する流動点低下ブレンド成分の例である。XLFTBOは、式(1)によるノアック揮発度因子未満のノアック揮発度を有する潤滑油基油の留分の例である。XXLFTBOは、式(1)によるノアック揮発度因子及び式(2)によるノアック揮発度因子の両方のノアック揮発度因子未満のノアック揮発度を有する潤滑油基油の留分の例である。
【0089】
(例2)
Chevron MOTEX 2T−Xは、高品質鉱物基油、ポリイソブテン、高性能低灰分清浄剤/分散剤添加剤パッケージ、及び高フラッシュ溶媒を用いて配合された2サイクルアウトボード(outboard)エンジン油である。Chevron Motex 2T−Xに用いられる同様の高性能低灰分清浄剤/分散剤添加剤パッケージ及びポリイソブテン合成基油を用いた2サイクルガソリンエンジン潤滑油の3つの異なるブレンドを、先に記載のフィッシャー−トロプシュ由来基油を用いて調製した(ブレンドB、ブレンドC、及びブレンドF)。従来の鉱物基油及び高フラッシュ溶媒を用いた比較ブレンド(COMPブレンドA)も調製した。3つのブレンドの配合を表IVにまとめる。
表IV
【表4】

【0090】
これら3つの2サイクルガソリンエンジン潤滑油ブレンドの性能特性を表Vに示す。
表V
【表5】

【0091】
引火点をCleveland Open Cup TesterによってASTM D92−05aを用いて測定した。アニリン点をASTM D611−04によって測定した。ブレンドB、ブレンドC、及びブレンドFは、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒を本質的に有さず、更にこれらは全て、従来の鉱油基油及び高フラッシュ溶媒によって製造されるCOMP ブレンドAと比較して低い排気煙指数値、より低い流動点、及び改良された混和性を有した。最高レベルのHFTBOを含むブレンドFは、特に高い潤滑性指数を与え、更に依然として優れた混和性及び良好な排気煙指数を有した。
【0092】
(例3)
Thailand Domestic(TIS 1040〜2541[1998])についての仕様書を満たすように設計された清浄剤/分散剤添加剤パッケージを用いた2サイクルガソリンエンジン潤滑油のブレンドを、先に記載したフィッシャー−トロプシュ由来基油を用いて調製した。従来の石油由来基油及び高フラッシュ溶媒を用いた比較ブレンドも調製した。3つのブレンドの配合を以下のVIにまとめる。
表VI
【表6】

【0093】
これらの2サイクルガソリンエンジン潤滑油ブレンドの性能特性を表VIIに示す。
表VII
【表7】

【0094】
ブレンドEはまた、低トラクション係数を有する流動点低下ブレンド成分、HFTBOも含んだ。このブレンドは、−25℃において特に低い流動点及び良好な低温流動性を有したことに注意されたい。ブレンドEは、従来の鉱油基油及び250℃未満の最高沸点を有する5重量%超の炭化水素溶媒を用いて製造されたCOMPブレンドDと比べてより良好な低温流動性、より低い流動点、より良好なガソリン混和性、より良好な清浄性、及びより良好なピストンスカート堆積指数を有した。250℃未満の最高沸点を有する5重量%未満の炭化水素溶媒の添加によるブレンドEは、JASO M345:2003及びISO13738:2000(E)、区分C及びDの両方の要件に容易に合格した。
【0095】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のために、本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられる量、百分率又は割合を表す全ての数及び他の数値は、別途示さない限り、全ての場合において用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。また、本明細書に開示される全ての範囲は、終点を含み、独立して組み合わせることができる。
【0096】
本願において引用された公報、特許及び特許出願は、各々個々の公報、特許及び特許出願がその全体において参照により組み入れられると具体的且つ個別に示されるのと同程度に、本明細書においてその全体が参照によって組み入れられる。
【0097】
本明細書に書かれた説明は、最良の形態を含めた本発明を開示するための例、並びに、当業者による本発明の実施及び使用を可能にするための例も用いている。先に開示された本発明の例示的な実施形態の多くの変更は、当業者であれば容易に思い付くであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲内にある全ての構造及び方法を含むものとして解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油の調製方法であって:
a.実質的にパラフィン系のワックス供給物を水素異性化脱ろうし、それによって、潤滑油基油を生成すること;及び、
b.潤滑油基油の1つ又は複数の留分を:
i.全潤滑油組成物を基準にして約5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒、及び
ii.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ
とブレンドすること
を含み、潤滑油がJASO M345:2003の要件を満たす上記方法。
【請求項2】
実質的にパラフィン系のワックス供給物が、フィッシャー−トロプシュ由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
実質的にパラフィン系のワックス供給物を生成するのに用いられるフィッシャー−トロプシュプロセスのための原料が、バイオマス、天然ガス、石炭、シェール油、石油、一般廃棄物、これらの誘導物、及びこれらの組合せからなる群から選択される炭化水素系供給源である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水素異性化脱ろうが、形状選択性中間孔径分子篩、貴金属水素化成分、及び耐火性酸化物支持体を含む触媒を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
形状選択性中間孔径分子篩が、SAPO−11、SAPO−31、SAPO−41、SM−3、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、SSZ−32、オフレタイト、フェリエライト、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
貴金属水素化成分が、白金、パラジウム、又はこれらの組合せである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を、全潤滑油組成物を基準にして約2重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒とブレンドすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を、炭化水素を本質的に有していない溶媒とブレンドすることを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を、ポリブテン、ポリイソブチレン及びこれらの混合物から選択される煙抑制剤とブレンドすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を流動点降下剤とブレンドすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を流動点低下ブレンド成分とブレンドすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分が、100℃において約1.5〜約3.5mm/sの間の動粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分が、90重量%未満のノアック揮発度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分が、1.5〜4.0mm/sの間の動粘度、及びノアック揮発度因子(1)=160−(40×100℃における動粘度)未満のノアック揮発度を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分が、2.09〜4.0mm/sの間の動粘度、及びノアック揮発度因子(2)=(900×(100℃における動粘度)−2.8)−15未満のノアック揮発度を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分が、ASTM D3238−95(2005)による約90重量%超のパラフィン炭素及び0.01重量%未満の芳香族炭素を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分が、35時間を超えるオキシデータBNを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
潤滑油が、ASTM D92−05aによる120℃を超える引火点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
潤滑油基油が、28×Ln(100℃における動粘度)+95を超える粘度指数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
潤滑油を製造する方法であって:
a.一緒に:
i.100℃において約1.5〜約3.5mm/sの間の動粘度を有する基油の1つ又は複数の留分、及び
ii.流動点低下ブレンド成分
をブレンドして、流動点が低下した基油ブレンド成分を生成すること;並びに
b.流動点が低下した基油ブレンドに:
i.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ;
ii.煙抑制剤;
iii.場合により流動点降下剤;及び
iv.場合により、約5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒
を添加すること
を含み、これにより2サイクルガソリンエンジン潤滑油を生成する上記方法。
【請求項21】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油が:
(a)−25℃における良好な低温流動性;
(b)−25℃におけるASTM D4682−87(再承認2002年)による混和性試験における合格の結果;
(c)65を超える排気煙指数;及び
(d)約−35℃以下の流動点
を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
基油の1つ又は複数の留分が、ワックス供給物から製造されている、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
排気煙指数が85以上である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
流動点が約−40℃以下である、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
煙抑制剤がポリイソブチレンである、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
炭化水素溶媒が、脱芳香族化脂肪族溶媒である、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
炭化水素を本質的に有していない溶媒が添加されている、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
流動点低下ブレンド成分が、15mm/sの動粘度及び40%の摺動対転がり比において測定されるとき、0.015未満のトラクション係数を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
JASO M345:2003の要件を満たす2サイクルガソリンエンジン潤滑油を製造する方法であって:
a.供給物を異性化することによって流動点低下ブレンド成分を調製すること;
b.流動点低下ブレンド成分を、
i.100℃において約1.5〜約3.5mm/sの間の動粘度を有する留出液基油とブレンドして、流動点が低下した基油ブレンドを生成すること;
c.流動点が低下した基油ブレンドを:
i.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ;及び
ii.全2サイクルガソリンエンジン潤滑油を基準にして5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒
と適切な割合でブレンドして、2サイクルガソリンエンジン潤滑油を得ること
を含む上記方法。
【請求項30】
供給物が、フィッシャー−トロプシュ由来ワックス、石油由来ワックス、プラスチック、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
流動点低下ブレンド成分が:
a.異性化フィッシャー−トロプシュ由来ボトム生成物;
b.異性化高ろう状鉱油から調製されるボトム生成物;
c.100℃において少なくとも約8mm/sの動粘度を有する、ポリエチレンプラスチックから製造される異性化油;及び
d.これらの混合物
からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
流動点低下ブレンド成分を:
i.ポリエチレンプラスチックの熱分解;
ii.熱分解工程から重質分を分離すること;
iii.重質分を水素処理すること;
iv.水素処理された重質分を触媒異性化すること;及び
v.100℃において少なくとも約8mm/sの動粘度を有する異性化生成物の留分を選択すること
によって調製する、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
流動点低下ブレンド成分が、15mm/sの動粘度において及び40%の摺動対転がり比で測定されるとき、0.015未満のトラクション係数を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油が、−25℃において良好な低温流動性を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油が、65を超える排気煙指数を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
2サイクルガソリンエンジン潤滑油が、0.18以下の重量%硫酸灰分を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
流動点低下ブレンド成分を煙抑制剤とブレンドすることを更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
留出液基油が、フィッシャー−トロプシュ由来である、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
a.実質的にパラフィン系のワックス供給物を水素異性化脱ろうすることにより、潤滑油基油を生成すること:並びに
b.潤滑油基油の1つ又は複数の留分を:
i.全潤滑油組成物を基準にして約5重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒、及び
ii.清浄剤/分散剤添加剤パッケージ
とブレンドすること
を含み、潤滑油がJASO M345:2003の要件を満たす方法によって製造される潤滑油。
【請求項40】
実質的にパラフィン系のワックス供給物が、フィッシャー−トロプシュ由来である、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項41】
水素異性化脱ろうにおいて、形状選択性中間孔径分子篩、貴金属水素化成分、及び耐火性酸化物支持体を含む触媒を用いる、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項42】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を、全潤滑油を基準にして約2重量%未満の、250℃未満の最高沸点を有する炭化水素溶媒とブレンドすることを含む、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項43】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を、炭化水素を本質的に有していない溶媒とブレンドすることを含む、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項44】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を、ポリブテン、ポリイソブチレン及びこれらの混合物からなる群から選択される煙抑制剤とブレンドすることを更に含む、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項45】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分を流動点降下剤とブレンドすることを更に含む、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項46】
潤滑油基油の1つ又は複数の留分が、ASTM D3238−95(2005)による約90重量%超のパラフィン炭素及び0.01重量%未満の芳香族炭素を有する、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項47】
JASO M345:2003、区分C又は区分Dの要求を満たす、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項48】
ISO13738:2000(E)の要求を満たす、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項49】
−25℃において良好な低温流動性を有する、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。
【請求項50】
−10℃又は−25℃におけるASTM D4682−87(再承認2002年)による混和性試験において合格の結果を有する、請求項39に記載の方法によって製造される潤滑油。

【図1】
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【公表番号】特表2010−538116(P2010−538116A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523029(P2010−523029)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/073224
【国際公開番号】WO2009/029427
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】