説明

2ストロークエンジンおよび4ストロークエンジン

【課題】2ストロークエンジンにおいて圧縮仕事量を低減する。
【解決手段】2ストロークエンジン1は、掃気ポート23および排気ポート24が形成されたシリンダ2、シリンダ2内に設けられるピストン3、燃焼室20内に液状アンモニアを噴出する第1噴出部61、および、吸気を加圧して掃気を生成する過給機5を備える。2ストロークエンジン1では、掃気ポート23から燃焼室20内への掃気の供給が開始されてから、ピストン3が次に上死点に到達するまでの間に、第1噴出部61から燃焼室20内に液状アンモニアが噴出される。これにより、液状アンモニアの気化熱により燃焼室20内のガスの温度を低下させ、圧縮時における燃焼室20内の圧力を低くし、圧縮仕事量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を有するエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アンモニアガスを燃焼させるエンジンが提案されており、例えば、特許文献1では、燃焼室からの排気の熱によりアンモニアガスを水素と窒素とに分解するとともに、燃焼室内に別途供給されたアンモニアガスを、上記水素ガスにより効果的に燃焼させる手法が開示されている。なお、特許文献2では、アンモニア燃焼内燃機関において、液状アンモニアを気筒の吸気ポート内に噴射することにより、液状アンモニアの気化潜熱を利用して、燃焼室内に供給される吸入空気の温度を低下させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−332152号公報
【特許文献2】特開平2010−159705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各種エンジンにおいてエネルギー効率を向上することが常に要求されており、シリンダおよびピストンを有するエンジンでは、圧縮行程における仕事量の低減が、エネルギー効率の向上に大きく寄与する。しかしながら、過給機が設けられるエンジンでは、過給機にて圧縮される高圧の空気がシリンダ内に供給されるため、圧縮仕事量が増大してしまう。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、エンジンにおいて圧縮仕事量を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、2ストロークエンジンであって、シリンダと、前記シリンダ内に設けられるピストンと、吸気を加圧して掃気を生成する過給機と、前記シリンダに形成され、前記シリンダおよび前記ピストンの上面にて囲まれる空間である燃焼室内に前記過給機からの前記掃気を供給する掃気ポートと、前記シリンダに形成され、前記燃焼室内のガスを前記燃焼室外に排出する排気ポートと、前記掃気ポートから前記燃焼室内への前記掃気の供給が開始されてから前記ピストンが次に上死点に到達するまでの間に、前記燃焼室内に液状アンモニアを噴出する噴出部とを備える。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の2ストロークエンジンであって、前記掃気ポートおよび前記噴出部が前記シリンダの下部に設けられる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の2ストロークエンジンであって、アンモニアガスと共に窒素酸化物を還元する還元触媒をさらに備え、前記還元触媒が前記燃焼室から排出される排気の通路に設けられ、前記排気ポートから前記燃焼室内のガスを排出している間に、前記噴出部により前記液状アンモニアが前記燃焼室内に噴出される。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の2ストロークエンジンであって、前記排気ポートを閉じた後のみに、前記噴出部により前記液状アンモニアが前記燃焼室内に噴出される。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の2ストロークエンジンであって、前記排気ポートを閉じる時に、燃焼済みガスの一部が残留ガスとして前記燃焼室内に残留し、前記排気ポートを閉じた後に、前記噴出部により前記液状アンモニアが前記燃焼室内に噴出される。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の2ストロークエンジンであって、前記ピストンが前記上死点近傍に位置する際に、前記燃焼室内にアンモニアを含む流体を噴出して前記燃焼室内のガスの燃焼を行うもう1つの噴出部をさらに備える。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の2ストロークエンジンであって、前記噴出部が前記もう1つの噴出部を兼ねる。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の2ストロークエンジンであって、前記掃気が冷媒による冷却なしで前記過給機から前記掃気ポートに供給される。
【0014】
請求項9に記載の発明は、4ストロークエンジンであって、シリンダと、前記シリンダ内に設けられるピストンと、吸気を加圧して給気を生成する過給機と、前記シリンダに形成され、吸入行程において、前記シリンダおよび前記ピストンの上面にて囲まれる空間である燃焼室内に前記過給機からの前記給気を供給する給気ポートと、前記給気ポートから前記燃焼室内への前記給気の供給開始時から、圧縮行程において前記ピストンが上死点に到達するまでの間に、前記燃焼室内に液状アンモニアを噴出する噴出部と、前記シリンダに形成され、前記燃焼室内のガスが燃焼する爆発行程後の排気行程において、前記燃焼室内のガスを前記燃焼室外に排出する排気ポートとを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液状アンモニアの気化熱により燃焼室内のガスの温度を低下させ、圧縮時における燃焼室内の圧力を低くし、圧縮仕事量を低減することができる。
【0016】
また、請求項2の発明では、掃気の流入時に直接掃気を冷却することにより、圧縮仕事量をより低減することができる。請求項5の発明では、排気中の窒素酸化物を低減しつつ圧縮仕事量を低減することができ、請求項7および8の発明では、2ストロークエンジンの構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施の形態に係る2ストロークエンジンの構成を示す図である。
【図2】掃気ポート、排気ポートおよび第1噴出部の開閉動作のタイミングチャートである。
【図3】2ストロークエンジンの他の例の構成を示す図である。
【図4】掃気ポート、排気ポートおよび第1噴出部の開閉動作のタイミングチャートである。
【図5】掃気ポート、排気ポートおよび第1噴出部の開閉動作のタイミングチャートである。
【図6】2ストロークエンジンのさらに他の例の構成を示す図である。
【図7】2ストロークエンジンのさらに他の例の構成を示す図である。
【図8】第2の実施の形態に係る4ストロークエンジンの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る2ストロークエンジン1の構成を示す図である。図1の2ストロークエンジン1は、船舶用の内燃機関であり、アンモニアガスを主燃料とする。2ストロークエンジン1は、シリンダ2、および、シリンダ2内に設けられるピストン3を備え、ピストン3は、図1中の上下方向に移動可能である。なお、図1の上下方向は重力方向であるとは限らない。
【0019】
シリンダ2は、円筒状のシリンダライナ21、および、シリンダライナ21の上部に取り付けられるシリンダカバー22を有する。シリンダライナ21の下端部近傍には、多数の貫通孔が周状に配列して形成され、これらの貫通孔の集合が、シリンダ2内に後述の掃気を供給する掃気ポート23である。掃気ポート23の周囲には、掃気室231が設けられており、掃気ポート23は掃気室231を介して掃気管41に連通する。
【0020】
シリンダカバー22には、シリンダ2内のガスをシリンダ2外に排出する排気ポート24が形成され、排気ポート24には、排気ポート24を開閉する排気弁25が設けられる。排気ポート24からシリンダ2の外部に排出されるガス(以下、「排気」という。)は、排気路241を介して排気管42へと導かれる。実際の2ストロークエンジン1では、複数のシリンダ2が併設されており、複数のシリンダ2が1つの掃気管41および1つの排気管42に接続される。
【0021】
2ストロークエンジン1は、ターボチャージャである過給機5、および、海水等の冷媒により過給機5からの空気の冷却を行う空気冷却器43をさらに備え、排気管42内の排気は、過給機5のタービン51に送り込まれる。タービン51の回転に利用された排気は、窒素酸化物(NO)を還元するための還元触媒7を介して2ストロークエンジン1の外部に排出される。過給機5のコンプレッサ52では、タービン51にて発生する回転力を利用して、2ストロークエンジン1の外部から取り込んだ吸気(空気)が加圧される。加圧された空気(以下、「掃気」という。)は、空気冷却器43にて冷却された後、掃気管41内に供給される。このように、過給機5では、排気を利用して吸気を加圧し、掃気が生成される。
【0022】
ピストン3は、シリンダライナ21に挿入された厚い円板状のピストンクラウン31、および、一端がピストンクラウン31の下面に接続されるピストンロッド32を有する。ピストンロッド32の他端は、図示省略のクランク機構に接続される。図1の2ストロークエンジン1では、シリンダライナ21、シリンダカバー22、排気弁25、および、ピストンクラウン31の上面にて囲まれる空間が、アンモニアガスおよび空気を燃焼するための燃焼室20である。
【0023】
2ストロークエンジン1は、燃焼室20内に液状アンモニアを噴出する第1噴出部61および第2噴出部62をさらに備える。第1噴出部61は、シリンダライナ21の下部(すなわち、ピストン3が上死点から下死点に至る1ストロークにおいて、ピストンクラウン31の上面が通過する範囲のうちの下半分)、より詳細には、掃気ポート23の近傍に設けられ、第2噴出部62はシリンダカバー22に設けられる。第1噴出部61および第2噴出部62は液状アンモニアタンク63に接続される。なお、第1噴出部61は、シリンダライナ21の内側面に形成された凹部内に収容されており、ピストンクラウン31の移動を妨げることはない。
【0024】
次に、2ストロークエンジン1の動作について説明する。図2は、掃気ポート23、排気ポート24および第1噴出部61の開閉動作のタイミングチャートである。2ストロークエンジン1では、図1中にて二点鎖線にて示すピストン3の位置が上死点であり、実線にて示すピストン3の位置が下死点であり、図2では、ピストン3が上死点に位置する際の時刻を「TDC」と記し、下死点に位置する際の時刻を「BDC」と記している(後述の図4および図5において同様)。なお、図2の横軸は、既述のクランク機構におけるクランク角と捉えることもできる。
【0025】
2ストロークエンジン1において、ピストン3が上死点近傍に位置する際には、図1中にて二点鎖線にて示すように排気弁25が上昇して排気ポート24が閉じられており、燃焼室20内のガス(後述するように、掃気およびアンモニアガス)が圧縮される。第2噴出部62では、燃焼室20内に液状アンモニアが噴出され、気化したアンモニアが自着火して、燃焼室20内のガスの燃焼(爆発)が生じる。これにより、ピストン3が押し下げられ、下死点に向かって移動する。なお、燃焼室20内のガスは、必ずしも自着火する必要はなく、点火プラグ等を用いて燃焼室20内のガスの着火が行われてもよい。
【0026】
燃焼室20内のガスの燃焼後、ピストン3が下死点に到達する前に、排気弁25が下降して排気ポート24が開かれる(図2の中段参照)。これにより、燃焼室20内の燃焼済みガスの排出が開始される。燃焼室20から排出されたガス(すなわち、排気)は、既述のように、排気路241および排気管42を介して過給機5のタービン51に送り込まれ、還元触媒7を通過して2ストロークエンジン1の外部に排出される。なお、2ストロークエンジン1では、クランク機構のクランクシャフトに接続されたカム機構により、排気弁25の上昇および下降(排気ポート24の開閉)が行われる。
【0027】
ピストン3が下死点近傍まで移動し、ピストンクラウン31の上面が掃気ポート23の下方に位置すると、燃焼室20と掃気室231とが連通する。すなわち、図2の上段に示すように、掃気ポート23が開かれ、掃気室231内の掃気の燃焼室20内への供給が開始される。続いて、図2の下段に示すように、第1噴出部61からの液状アンモニアの噴出が開始される(すなわち、第1噴出部61が開かれる。)。燃焼室20内に噴出された液状アンモニアは直ぐに気化し、掃気中にガス状のアンモニア(アンモニアガス)が混入する。
【0028】
このとき、液状アンモニアの気化熱(蒸発潜熱)により燃焼室20内の掃気が冷却される。また、燃焼室20内の掃気の一部、および、液状アンモニアが気化したアンモニアガスの一部は排気ポート24へと直ぐに到達し、燃焼室20から排出される。換言すると、掃気の一部およびアンモニアガスの一部が燃焼室20を吹き抜ける。したがって、アンモニアガスを含む排気が、排気管42およびタービン51を経由して還元触媒7へと到達し、排気中の窒素酸化物がアンモニアガスおよび還元触媒7により還元される。
【0029】
ピストン3は下死点を通過した後、上昇に転じ、その直後まで、第1噴出部61からの液状アンモニアの噴出が継続される。第1噴出部61における噴出の停止後(すなわち、第1噴出部61が閉じられた後)、ピストンクラウン31の上面が掃気ポート23の上方に到達することにより、掃気ポート23が閉じられ、燃焼室20内への掃気の供給が停止される。続いて、排気ポート24が排気弁25により閉じられ、燃焼室20が密閉される。ピストン3はさらに上昇して、燃焼室20内の掃気およびアンモニアガスが圧縮され、ピストン3が上死点近傍に到達すると、第2噴出部62から燃焼室20内に液状アンモニアが噴出され、燃焼室20内にて燃焼が生じる。2ストロークエンジン1では、上記動作が繰り返される。
【0030】
以上に説明したように、図1の2ストロークエンジン1では、掃気ポート23から燃焼室20内への掃気の供給が開始されてから、ピストン3が次に上死点に到達するまで(すなわち、圧縮行程の完了時までであり、圧縮行程の完了時は含まない。)の間に、第1噴出部61から燃焼室20内に液状アンモニアが噴出される。これにより、2ストロークエンジン1では、液状アンモニアの気化熱により燃焼室20内のガス(主に掃気)の温度を低下させ、圧縮時における燃焼室20内の圧力を低くし、圧縮仕事量を低減することができる。その結果、2ストロークエンジン1においてエネルギー効率を向上することが実現される。
【0031】
また、2ストロークエンジン1では、掃気ポート23および第1噴出部61がシリンダ2の下部に設けられ、掃気の燃焼室20内への供給が開始された直後に、燃焼室20内への液状アンモニアの噴出が開始される。これにより、掃気の流入時に直接掃気を冷却することができ、圧縮行程の初期より燃焼室20内の圧力を低下させて、圧縮仕事量をより低減することができる。
【0032】
さらに、2ストロークエンジン1では、アンモニアガスと共に窒素酸化物を還元する還元触媒7が燃焼室20から排出される排気の通路に設けられ、排気ポート24から燃焼室20内のガスを排出している間に、第1噴出部61により液状アンモニアが燃焼室20内に噴出される。これにより、掃気の冷却に用いられたアンモニアガスを未燃焼の状態で還元触媒7へと導くことができ、還元触媒7および当該アンモニアガスにより排気中の窒素酸化物を適切に還元することができる。なお、2ストロークエンジン1における排気の通路は、排気路241から、排気が大気中に放出される部位までであり、還元触媒7は、排気の通路のいずれの部位に設けられてもよい。
【0033】
図3は、2ストロークエンジンの他の例の構成を示す図である。図3の2ストロークエンジン1aは、還元触媒7が省略される点を除き、図1の2ストロークエンジン1と同様であり、同様の構成に同符号を付している。図4は、2ストロークエンジン1aにおける掃気ポート23、排気ポート24および第1噴出部61の開閉動作のタイミングチャートである。
【0034】
本動作例では、掃気ポート23および排気ポート24の開閉動作のタイミングは、図2の動作例と同様であるが、第1噴出部61の開閉動作のタイミングが相違する。具体的には、ピストン3が下死点から上昇して、掃気ポート23および排気ポート24が順に閉じられた後(図4の上段および中段参照)、図4の下段に示すように第1噴出部61が開かれて、液状アンモニアが燃焼室20内に一定時間噴出される。これにより、燃焼室20が密閉された状態にて燃焼室20内の掃気が冷却される。そして、ピストン3が上死点近傍に到達すると、第2噴出部62から燃焼室20内に液状アンモニアが噴出され、燃焼室20内にて燃焼が生じる。このとき、2ストロークエンジン1aでは、燃焼室20内のアンモニアガスのほぼ全量が燃焼する。
【0035】
以上のように、2ストロークエンジン1aでは、排気ポート24を閉じた後、ピストン3が次に上死点に到達するまでの間のみにおいて、第1噴出部61により液状アンモニアが燃焼室20内に噴出され、燃焼室20内の掃気が冷却される。これにより、還元触媒7を省略した2ストロークエンジン1aにおいて、第1噴出部61から噴出された液状アンモニアが気化したガスが、燃焼室20内における燃焼前に、燃焼室20から排出される(すなわち、アンモニアガスが燃焼室20を吹き抜ける)ことが防止される。その結果、燃焼室20内の掃気の冷却により2ストロークエンジン1aにおける圧縮仕事量を低減しつつ、アンモニアガスが2ストロークエンジン1aの外部に排出されることを防止することができる。
【0036】
なお、還元触媒を有する2ストロークエンジンにおいて、排気ポート24を閉じた後のみに第1噴出部61から液状アンモニアを噴出することにより、アンモニアガスが燃焼室20を吹き抜けることが防止されてもよい。この場合、アンモニアや、その他の還元剤を還元触媒に供給する供給部が別途設けられる。
【0037】
次に、図3の2ストロークエンジン1aにおける他の動作例について説明する。図5は、他の動作例に係る掃気ポート23、排気ポート24および第1噴出部61の開閉動作のタイミングチャートである。
【0038】
本動作例では、掃気ポート23および第1噴出部61の開閉動作のタイミングは、図4の動作例と同様であるが、排気ポート24の開閉動作のタイミングが相違する。具体的には、ピストン3が下死点を通過した後、図5の上段および中段に示すように、排気ポート24が掃気ポート23よりも先に閉じられる。このとき、2ストロークエンジン1aでは、高温の燃焼済みガスの一部が残留ガスとして燃焼室20内に残留する。掃気ポート23が閉じられた後、図5の下段に示すように、第1噴出部61から燃焼室20内に液状アンモニアが一定時間噴出され、掃気および残留ガスを含む燃焼室20内のガスが液状アンモニアの気化熱により冷却される。そして、ピストン3が上死点近傍に到達すると、第2噴出部62から燃焼室20内に液状アンモニアが噴出され、燃焼室20内にて燃焼が生じる。
【0039】
以上のように、2ストロークエンジン1aでは、排気ポート24を閉じる時に、燃焼済みガスの一部が残留ガスとして燃焼室20内に残留し、排気ポート24を閉じた後に、掃気および残留ガスを含む燃焼室20内に第1噴出部61により液状アンモニアが噴出される。これにより、燃焼室20内のガスの温度を低下させ、シリンダ2の熱負荷を低減しつつ圧縮時における燃焼室20内の圧力を低くすることができる。また、燃焼時における燃焼室20内のガスの酸素量を低下させることができる。その結果、圧縮仕事量を低減しつつ、排気中の窒素酸化物を低減することができる。
【0040】
本動作例における2ストロークエンジン1aでは、排気ポート24を閉じた後のみに第1噴出部61から液状アンモニアを噴出するため、アンモニアガスの吹き抜けが防止されるが、図1の2ストロークエンジン1のように還元触媒7を設ける場合には、排気ポート24を閉じる前にも、第1噴出部61から液状アンモニアが噴出されてよい。
【0041】
図6は、2ストロークエンジンのさらに他の例の構成を示す図であり、図6では、2ストロークエンジン1bの一部の構成のみを示している。図6の2ストロークエンジン1bは、第1噴出部61が省略される点を除き、図1の2ストロークエンジン1と同様であり、同様の構成に同符号を付している。
【0042】
図6の2ストロークエンジン1bでは、図1の第1噴出部61による燃焼室20内への液状アンモニアの噴出が、第2噴出部62により実現される。すなわち、掃気ポート23から燃焼室20内への掃気の供給が開始された後、ピストン3が次に上死点に到達する前に、シリンダカバー22に設けられる第2噴出部62から燃焼室20内に液状アンモニアが噴出される。
【0043】
ここで、掃気冷却用の液状アンモニアを噴出する噴出部がシリンダライナ21(すなわち、シリンダ2の側部)に設けられる場合には、ピストンクラウン31の上面が当該噴出部よりも上方に位置する際に、当該噴出部から燃焼室20内に液状アンモニアを噴出することができず、掃気冷却用の液状アンモニアの噴出可能な期間が大幅に制限される。
【0044】
これに対し、図6の2ストロークエンジン1bでは、掃気冷却用の液状アンモニアを噴出する噴出部(すなわち、第2噴出部62)がシリンダカバー22に設けられ、当該噴出部が常に燃焼室20に面するため、掃気冷却用の液状アンモニアの噴出タイミングの自由度が高くなる。また、図6の2ストロークエンジン1bでは、燃焼室20内に液状アンモニアを噴出して燃焼室20内のガスの燃焼を行う噴出部と、掃気冷却用の液状アンモニアを噴出する噴出部とが同一の噴出部である、換言すると、掃気冷却用の噴出部が他方の噴出部を兼ねることにより、2ストロークエンジンの構造を簡素化することができる。
【0045】
図1、図3および図6の2ストロークエンジン1,1a,1bでは、掃気冷却用の液状アンモニアの噴出により、燃焼室20内にて掃気を冷却することが可能であるため、空気冷却器43をコンパクト化することが可能であるが、2ストロークエンジンの設計によっては、図7に示す2ストロークエンジン1cのように、過給機5と掃気管41との間において空気冷却器を省略することも可能である。図7の2ストロークエンジン1cでは、掃気が冷媒(すなわち、掃気の温度を下げるための熱媒体)による冷却なしで過給機5から、掃気管41および掃気室231を介して掃気ポート23に供給される。このように、空気冷却器を省略した2ストロークエンジン1cでは、エンジンの構造を簡素化することができる(後述の図8の4ストロークエンジン1dにおいて同様)。
【0046】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る4ストロークエンジン1dの構成を示す図である。図8の4ストロークエンジン1dは、シリンダ2d、シリンダ2d内に設けられるピストン3d、シリンダ2dに形成される給気ポート23dおよび排気ポート24d、液状アンモニアタンク63dに接続された噴出部61d、並びに、吸気を加圧して給気を生成する過給機5dを備える。
【0047】
4ストロークエンジン1dでは、ピストン3dが上死点から下死点へと移動する吸入行程において、給気ポート23dに設けられる弁を開くことにより、シリンダ2dおよびピストン3dの上面にて囲まれる空間である燃焼室20d内に過給機5dからの給気が供給される。続いて、給気ポート23dを閉じた状態にて、ピストン3dが下死点から上死点へと移動することにより、燃焼室20d内の給気を圧縮する圧縮行程が行われる。実際には、直前の吸入行程における給気ポート23dから燃焼室20d内への給気の供給開始時から、圧縮行程においてピストン3dが上死点に到達するまでの間に、噴出部61dから燃焼室20d内に液状アンモニアが噴出される。これにより、液状アンモニアの気化熱により燃焼室20d内の給気が冷却される。
【0048】
噴出部61dでは、ピストン3dが上死点近傍に位置する際に、燃焼室20d内に液状アンモニアが再度噴出され、燃焼室20d内のアンモニアおよび給気を含むガスの燃焼が行われる。燃焼室20d内のガスの燃焼によりピストン3dが上死点から下死点へと移動する爆発行程の後、ピストン3dが下死点から上死点へと移動する排気行程が行われる。排気行程では、排気ポート24dに設けられる弁を開くことにより、燃焼室20d内のガスが燃焼室20d外に排出される。シリンダ2dの外部に排出される排気は、過給機5dを経由して還元触媒7dに導かれ、還元触媒7dに別途供給されるアンモニアガスおよび還元触媒7dにより、排気中の窒素酸化物が還元される。
【0049】
以上に説明したように、図8の4ストロークエンジン1dでは、給気ポート23dから燃焼室20d内への給気の供給開始時から、圧縮行程においてピストン3dが上死点に到達するまで(すなわち、圧縮行程の完了時まで)の間に、噴出部61dから燃焼室20d内に液状アンモニアが噴出される。これにより、4ストロークエンジン1dでは、液状アンモニアの気化熱により燃焼室20d内のガス(主に給気)の温度を低下させ、圧縮行程時における燃焼室20d内の圧力を低くし、圧縮仕事量を低減することができる。その結果、4ストロークエンジン1dにおいてエネルギー効率を向上することが実現される。
【0050】
図8の4ストロークエンジン1dにおいて、給気冷却用の液状アンモニアを噴出する噴出部を噴出部61dとは個別に設けることも可能である。この場合に、図1、図3および図7の2ストロークエンジン1,1a,1cと同様に、当該噴出部がシリンダ2dの側部に設けられてもよい。
【0051】
また、4ストロークエンジン1dにおいて、排気ポート24dが開いている期間と、給気ポート23dが開いている期間とが部分的に重なっていてもよい。この場合に、排気ポート24dおよび給気ポート23dの双方が開いている間に、噴出部61dにより液状アンモニアが燃焼室20d内に噴出されてもよく、これにより、給気冷却に用いられたアンモニアガスを未燃焼の状態にて還元触媒7dに導いて、当該アンモニアガスおよび還元触媒7dにより排気中の窒素酸化物を還元することができる。
【0052】
一方、4ストロークエンジン1dにおいて、排気ポート24dを閉じた後のみに、噴出部61dが燃焼室20d内に液状アンモニアを噴出する場合には、アンモニアガスが燃焼室20dを吹き抜けることが防止される。この場合に、排気ポート24dを閉じる時に、燃焼済みガスの一部が残留ガスとして燃焼室20d内に残留していてもよく、これにより、排気中の窒素酸化物が低減される。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0054】
2ストロークエンジンにおいて、例えば、第2噴出部62から噴出される液状アンモニアに石油燃料等が混合されていてもよい。また、アンモニアガスや、気液混合状態のアンモニア、あるいは、これらのアンモニアと石油燃料等とを混合したものが第2噴出部62から噴出されてもよい(4ストロークエンジンにおいて同様)。すなわち、上記2ストロークエンジンでは、ピストンが上死点近傍に位置する際に、第2噴出部62からアンモニアを含む流体(アンモニアのみの流体であってもよい。)が噴出されることにより、燃焼室20内のガスの燃焼が行われる。
【0055】
また、容易に燃焼する燃料(例えば、水素ガスや軽油)を第2噴出部62から噴出することにより燃焼室20内にて燃焼を行わせ、これにより、第1噴出部61からの液状アンモニアの噴出により燃焼室20内に充填されたアンモニアガスの燃焼が確実に行われてもよい。さらに、上記燃料の噴出は、第2噴出部62とは異なる他の噴出部により行われてもよく、この場合、ピストンが上死点近傍に位置する際に、第2噴出部62から液状アンモニアが噴出されるとともに、当該他の噴出部から上記燃料が噴出される。既述のように、燃焼室20内のガスの燃焼は、点火プラグ等を用いて行われてもよい。
【0056】
上記実施の形態では、掃気(または、給気)冷却用の液状アンモニアが、噴出部から一定期間連続して噴出されるが、当該噴出部において当該期間内にて複数回の噴出動作が行われることにより、掃気を冷却しつつ燃焼室内にアンモニアガスが充填されてもよい。また、冷却用の液状アンモニアは、空気等と気液混合状態にて噴出されてもよい。
【0057】
2ストロークエンジンにおいて、図1の掃気ポート23と同様に、排気ポートをシリンダライナ21(シリンダ2の側部)に設け、ピストン3の移動により、排気ポートの開閉が行われてもよい。また、図1の排気ポート24と同様に、掃気ポートの開閉が弁により行われてもよい。
【0058】
過給機5,5dは、燃焼室からの排気を利用して吸気を加圧するもの以外に、クランクシャフトから得られる動力により、吸気を加圧するもの等であってもよい。
【0059】
上記実施の形態における2ストロークエンジンおよび4ストロークエンジンは、船舶以外に、自動車や発電用の原動機等、様々な用途に用いられてよい。
【0060】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせられてよい。
【符号の説明】
【0061】
1,1a〜1c 2ストロークエンジン
1d 4ストロークエンジン
2,2d シリンダ
3,3d ピストン
5,5d 過給機
7,7d 還元触媒
20,20d 燃焼室
23 掃気ポート
23d 給気ポート
24、24d 排気ポート
61 第1噴出部
61d 噴出部
62 第2噴出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2ストロークエンジンであって、
シリンダと、
前記シリンダ内に設けられるピストンと、
吸気を加圧して掃気を生成する過給機と、
前記シリンダに形成され、前記シリンダおよび前記ピストンの上面にて囲まれる空間である燃焼室内に前記過給機からの前記掃気を供給する掃気ポートと、
前記シリンダに形成され、前記燃焼室内のガスを前記燃焼室外に排出する排気ポートと、
前記掃気ポートから前記燃焼室内への前記掃気の供給が開始されてから前記ピストンが次に上死点に到達するまでの間に、前記燃焼室内に液状アンモニアを噴出する噴出部と、
を備えることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載の2ストロークエンジンであって、
前記掃気ポートおよび前記噴出部が前記シリンダの下部に設けられることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項3】
請求項1または2に記載の2ストロークエンジンであって、
アンモニアガスと共に窒素酸化物を還元する還元触媒をさらに備え、
前記還元触媒が前記燃焼室から排出される排気の通路に設けられ、
前記排気ポートから前記燃焼室内のガスを排出している間に、前記噴出部により前記液状アンモニアが前記燃焼室内に噴出されることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項4】
請求項1または2に記載の2ストロークエンジンであって、
前記排気ポートを閉じた後のみに、前記噴出部により前記液状アンモニアが前記燃焼室内に噴出されることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の2ストロークエンジンであって、
前記排気ポートを閉じる時に、燃焼済みガスの一部が残留ガスとして前記燃焼室内に残留し、前記排気ポートを閉じた後に、前記噴出部により前記液状アンモニアが前記燃焼室内に噴出されることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の2ストロークエンジンであって、
前記ピストンが前記上死点近傍に位置する際に、前記燃焼室内にアンモニアを含む流体を噴出して前記燃焼室内のガスの燃焼を行うもう1つの噴出部をさらに備えることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項7】
請求項6に記載の2ストロークエンジンであって、
前記噴出部が前記もう1つの噴出部を兼ねることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の2ストロークエンジンであって、
前記掃気が冷媒による冷却なしで前記過給機から前記掃気ポートに供給されることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項9】
4ストロークエンジンであって、
シリンダと、
前記シリンダ内に設けられるピストンと、
吸気を加圧して給気を生成する過給機と、
前記シリンダに形成され、吸入行程において、前記シリンダおよび前記ピストンの上面にて囲まれる空間である燃焼室内に前記過給機からの前記給気を供給する給気ポートと、
前記給気ポートから前記燃焼室内への前記給気の供給開始時から、圧縮行程において前記ピストンが上死点に到達するまでの間に、前記燃焼室内に液状アンモニアを噴出する噴出部と、
前記シリンダに形成され、前記燃焼室内のガスが燃焼する爆発行程後の排気行程において、前記燃焼室内のガスを前記燃焼室外に排出する排気ポートと、
を備えることを特徴とする4ストロークエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−122423(P2012−122423A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274547(P2010−274547)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】