説明

2光子吸収発光材料および2光子吸収発光方法

【課題】非共鳴2光子吸収により発色する2光子吸収発色材料または非共鳴2光子吸収により発光する2光子吸収発光材料、及びそれらを用いた3次元ディスプレイまたは3次元光記録媒体を提供する。
【解決手段】(1)少なくとも2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物とは別の色素前駆体を有し、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、色素前駆体とエネルギー移動または電子移動することにより色素前駆体が発色体に構造変化する2光子吸収発色材料。
(2)少なくとも2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物とは別の発光体を有し、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、発光体へエネルギー移動することにより発光体が発光することを特徴とする2光子吸収発光材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形光学効果を発現する材料に関し、特に非共鳴2光子吸収断面積が大きい2光子吸収化合物と、その励起エネルギーを用いて発色することができる2光子吸収発色材料、または発光することができる2光子吸収発光材料およびその発色・発光方法に関するものである。
また、それらの材料を用いた3次元ディスプレイ及び3次元光記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、非線形光学効果とは、印加する光電場の2乗、3乗あるいはそれ以上に比例する非線型な光学応答のことであり、印加する光電場の2乗に比例する2次の非線形光学効果としては、第二高調波発生(SHG)、光整流、フォトリフラクティブ効果、ポッケルス効果、パラメトリック増幅、パラメトリック発振、光和周波混合、光差周波混合などが知られている。また印加する光電場の3乗に比例する3次の非線形光学効果としては第三高調波発生(THG)、光カー効果、自己誘起屈折率変化、2光子吸収などが挙げられる。
【0003】
これらの非線形光学効果を示す非線形光学材料としてはこれまでに多数の無機材料が見い出されてきた。ところが無機物においては、所望の非線形光学特性や、素子製造のために必要な諸物性を最適化するためのいわゆる分子設計が困難であることから実用するのは非常に困難であった。一方、有機化合物は分子設計により所望の非線形光学特性の最適化が可能であるのみならず、その他の諸物性のコントロールも可能であるため、実用の可能性が高く、有望な非線形光学材料として注目を集めている。
【0004】
近年、有機化合物の非線形光学特性の中でも3次の非線形光学効果が注目されており、その中でも特に、非共鳴2光子吸収が注目を集めている。2光子吸収とは、化合物が2つの光子を同時に吸収して励起される現象であり、化合物の(線形)吸収帯が存在しないエネルギー領域で2光子の吸収が起こる場合を非共鳴2光子吸収という。なお、以下の記述において特に明記しなくても2光子吸収とは非共鳴2光子吸収を指す。
【0005】
ところで、非共鳴2光子吸収の効率は印加する光電場の2乗に比例する(2光子吸収の2乗特性)。このため、2次元平面にレーザーを照射した場合においては、レーザースポットの中心部の電界強度の高い位置のみで2光子の吸収が起こり、周辺部の電界強度の弱い部分では2光子の吸収は全く起こらない。一方、3次元空間においては、レーザー光をレンズで集光した焦点の電界強度の大きな領域でのみ2光子吸収が起こり、焦点から外れた領域では電界強度が弱いために2光子吸収が全く起こらない。印加された光電場の強度に比例してすべての位置で励起が起こる線形吸収に比べて、非共鳴2光子吸収では、この2乗特性に由来して空間内部の1点のみで励起が起こるため、空間分解能が著しく向上する。
通常、非共鳴2光子吸収を誘起する場合には、化合物の(線形)吸収帯が存在する波長領域よりも長波でかつ吸収の存在しない、近赤外領域の短パルスレーザーを用いることが多い。いわゆる透明領域の近赤外光を用いるため、励起光が吸収や散乱を受けずに試料内部まで到達でき、非共鳴2光子吸収の2乗特性のために試料内部の1点を極めて高い空間分解能で励起できる。
したがって、非共鳴2光子吸収により得た励起エネルギーを用いて発色や発光を起こすことができれば、3次元空間の任意の場所に発色または発光を起こすことができることに
なり、いわゆるボリューム型の3次元ディスプレイを提供することができる。
【0006】
2光子吸収を用いた3次元ディスプレイに関しては、特開平5−224608号[特許文献1]に開示されているが、具体的な2光子吸収化合物は例示されていない。
同様に、Science 1996年、175号、1185頁[非特許文献1]では、希土類イオンをドープした重金属フッ化物に波長の異なる2種の赤外線レーザーを照射しその交点で発光させることを行っているが、これは本発明外である希土類イオンの共鳴(線形)2光子吸収を用いたものである。
また、特開2001−174726号[特許文献2]では、光の交点で光学応答できるディスプレイが開示されているが、これも本発明外の無機半導体微粒子の共鳴(線形)2光子吸収を用いたものである。
【0007】
一方で、フォトクロミック材料を2光子吸収材料として、2光子吸収により発色反応または蛍光発光性付与を行う方法が開示されている(コロティーフ、ニコライ・アイ他、特表2001−522119号[特許文献3]、アルセノフ、ウ"ラディミール他、特表2001−508221号[特許文献4])が、いずれも具体的な2光子吸収材料の提示はなく、また抽象的に提示されている2光子吸収フォトクロミック化合物の例も我々が調べた限りでは2光子吸収効率の極めて小さい2光子吸収化合物であり、2光子吸収により効率良く発色または発光することができる材料とは程遠い状況である。したがって、比較的小型で弱いレーザーを用いて、実用的な書き込みまたは書き換え速度による3次元ディスプレイまたは3次元光記録媒体への用途を考えた場合、2光子吸収化合物の2光子吸収効率及び2光子吸収を用いた高効率発色及び発光方法について抜本的な改良が望まれている状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−224608号公報
【特許文献2】特開2001−174726号公報
【特許文献3】特表2001−522119号公報
【特許文献4】特表2001−508221号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Science 1996年、175号、1185頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上に述べたように、非共鳴2光子吸収により得た励起エネルギーを用いて発色または発光させることができる材料が提供できれば、3次元空間の任意の場所に極めて高い空間分解能で発色または発光させることが可能となり、いわゆるボリューム型の3次元ディスプレイを提供することができる。または吸収または発光で読み出し可能な3次元光記録媒体へ応用することもできる。
しかし、現時点で利用可能な2光子吸収化合物では、2光子吸収能が低く問題である。特にいわゆるフォトクロミック化合物のように光励起により発色するような色素を直接2光子励起しようとしても2光子吸収断面積が極めて低く、光源としては非常に高出力のレーザーが必要で、かつ書き込み時間も長くかかるため、実用的な3次元ディスプレイや3次元光記録媒体への応用は困難である。
したがって、3次元ディスプレイや3次元光記録媒体に使用するためには、早い書き込み速度及びS/N比の高い表示または再生のために、高感度にて2光子吸収を行い、その励起エネルギーを用いて高効率に発色または発光することができる2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料の構築が必須である。
【0011】
本発明の目的は、2光子吸収化合物の高効率非共鳴2光子吸収により生じた励起エネルギーを用いて高効率に発色または発光する2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料を提供することである。また、それらの材料を効率よく発色または発光させる方法を提供することである。さらにはその2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料を用いて3次元ディスプレイまたは3次元光記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らの鋭意検討の結果、高効率に2光子を吸収する材料、すなわち2光子吸収断面積の大きな材料と、その励起エネルギーから効率よく発色または発光を引き起こすことができる2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料を見出すことに至った。
よって、本発明の上記目的は、下記の手段により達成された。
【0013】
(1)少なくとも2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物とは別の色素前駆体を有し、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、色素前駆体とエネルギー移動または電子移動することにより色素前駆体が発色体に構造変化することを特徴とする2光子吸収発色材料。
(2)(1)にて、2光子吸収化合物と色素前駆体が共有結合または配位結合で連結されていることを特徴とする(1)記載の2光子吸収発色材料。
(3)(1)にて、2光子吸収化合物と色素前駆体がそれぞれ異なる電荷を有しかつイオン対を形成していることを特徴とする(1)記載の2光子吸収発色材料。
(4)(1)にて、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、色素前駆体と電子移動する場合において、色素前駆体がエレクトロクロミック化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
(5)(1)にて、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、色素前駆体と電子移動する場合において、色素前駆体が下記一般式(11)で表されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
【0014】
【化1】

【0015】
一般式(11)中、A1とPDは共有結合しており、A1は2光子吸収化合物励起状態との電子移動によりPDとの共有結合を切断する機能を有する有機化合物部位であり、PDはA1と共有結合している際とA1との共有結合が切断されて放出された際の可視光吸収形が異なる特徴を有する有機化合物部位を表す。
(6)(1)にて、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成し、2光子吸収化合物から色素前駆体に電子移動することにより色素前駆体が発色体に構造変化することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
(7)色素前駆体が下記一般式(12)で表され、2光子吸収化合物励起状態から電子移動することにより、PDを放出することを特徴とする(5)または(6)記載の2光子吸収発色材料。
【0016】
【化2】

【0017】
一般式(12)中、PDは一般式(11)と同義であり、R21は水素原子または置換基を、R22は置換基を表し、a11は0〜5の整数を表す。a11が2以上の時、複数のR22は同じでも異なっても良く、互いに連結して環を形成しても良い。
(8)(5)または(7)にて、PDが解離型アゾ色素、解離型アゾメチン色素、オキソノール色素、トリフェニルメタン色素、またはキサンテン色素であることを特徴とする(5)または(7)記載の2光子吸収発色材料。
(9)2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体に電子移動する場合において、2光子吸収化合物の励起状態における励起電子の存在する軌道エネルギーが、色素前駆体のLUMO軌道のエネルギーよりも高いことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
(10)2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体にエネルギー移動する場合において、色素前駆体がフォトクロミック化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
(11)(10)にて、色素前駆体のフォトクロミック化合物がスピロピラン類、スピロオキサジン類、フルギド類、フルギミド類、ジアリールエテン類、チオインジゴ類、ヒドロキシエチル基置換シアニン類であることを特徴とする(10)記載の2光子吸収発色材料。
(12)(1)にて、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体にエネルギー移動する場合において、色素前駆体が下記一般式(13)で表されることを特徴とする(1)〜(3)、(10)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
【0018】
【化3】

【0019】
一般式(13)中、A2とPDは共有結合しており、A2は2光子吸収化合物励起状態からのエネルギー移動によりPDとの共有結合を切断する機能を有する有機化合物部位であり、PDは一般式(11)と同義である。
(13)(12)にて、色素前駆体が下記一般式(14−1)〜(14−5)で表されることを特徴とする(12)記載の2光子吸収発色材料。
【0020】
【化4】

【0021】
一般式(14−1)〜(14−5)中、PDは一般式(11)と同義であり、R23、R28、R29、R32、R33はそれぞれ独立に置換基を、R24〜R27はそれぞれ独立にアルキル基を、R30、R31はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、a12は0〜4の整数を、a13、a16はそれぞれ独立に0または1を、a14、a15はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。R30とR31、R32とR33は互いに連結して環を形成しても良く、a12、a14、a15が2以上の時、複数のR23、R28、R29は同じでも異なっても良く、互いに連結して環を形成しても良い。
(14)(12)または(13)にて、PDは解離型アゾ色素、解離型アゾメチン色素またはオキソノール色素であることを特徴とする(12)または(13)記載の2光子吸収発色材料。
(15)2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体にエネルギー移動する場合において、2光子吸収化合物の励起エネルギーが、色素前駆体の励起エネルギーよりも大きいことを特徴とする(1)〜(3)(10)〜(14)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
(16)少なくとも2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物とは別の発光体を有し、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、励起状態の2光子吸収化合物から発光体へエネルギー移動することにより発光体が発光することを特徴とする2光子吸収発光材料。
(17)(16)にて、発光体が有機化合物(有機発光体)であることを特徴とする(16)記載の2光子吸収発光材料。
(18)(17)にて、2光子吸収化合物と有機発光体が共有結合または配位結合で連結されていることを特徴とする請求項(17)記載の2光子吸収発光材料。
(19)(17)にて、2光子吸収化合物と有機発光体がそれぞれ異なる電荷を有しかつイオン対を形成していることを特徴とする(17)記載の2光子吸収発光材料。
(20)(16)にて、発光体が半導体微粒子または金属微粒子であることを特徴とする(16)記載の2光子吸収発光材料。
(21)(20)にて、発光体が半導体微粒子であることを特徴とする(20)記載の2光子吸収発光材料。
(22)2光子吸収化合物が半導体微粒子発光体または金属微粒子発光体上に物理吸着または化学吸着していることを特徴とする(20)または(21)記載の2光子吸収発光材料。
(23)2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態の励起エネルギーが、発光体の励起エネルギーよりも大きいことを特徴とする(16)〜(22)のいずれかに記載の2光子吸収発光材料。
(24)2光子吸収化合物が有機色素で表されることを特徴とする(1)〜(15)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または(16)〜(23)のいずれかに記載の2光子吸収発光材料。
(25)2光子吸収化合物がメチン色素またはフタロシアニン色素で表されることを特徴とする(1)〜(15)、(24)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または(16)〜(24)のいずれかに記載の2光子吸収発光材料。
(26)2光子吸収化合物が、シアニン色素、メロシアニン色素、オキソノール色素、または下記一般式(1)にて表されることを特徴とする、(1)〜(15)、(24)、(25)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または(16)〜(25)のいずれかに記載の2光子吸収発光材料。
【0022】
【化5】

【0023】
式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、水素原子、または置換基を表し、R1、R2、R3、R4のうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよい。nおよびmはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、nおよびmが2以上の場合、複数個のR1、R2、R3およびR4は同一でもそれぞれ異なってもよい。ただし、n、m同時に0となることはない。X1およびX2は独立に、アリール基、ヘテロ環基、または一般式(2)で表される基を表す。
一般式(2)
【0024】
【化6】

【0025】
式中、R5は水素原子または置換基を表し、R6は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基を表し、Z1は5または6員環を形成する原子群を表す。
(27)一般式(1)で表される化合物において、R1とR3が連結して環を形成すること
を特徴とする(26)記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
(28)一般式(1)で表される化合物において、R1とR3が連結して、カルボニル基と共にシクロペンタノン環を形成することを特徴とする(27)記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
(29)一般式(1)にて表される2光子吸収化合物のX1、X2が一般式(2)にて表されることを特徴とする、(26)〜(28)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
(30)一般式(1)で表される化合物において、X1、X2が一般式(2)で表され、R6はアルキル基であり、Z1で形成される環が、インドレニン環、アザインドレニン環、ピラゾリン環、ベンゾチアゾール環、チアゾール環、チアゾリン環、ベンゾオキサゾール環、オキサゾール環、オキサゾリン環、ベンゾイミダゾール環、チアジアゾール環、キノリン環のいずれかで表されることを特徴とする(29)記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
(31)一般式(1)で表される化合物において、X1、X2が一般式(2)で表され、R6はアルキル基であり、Z1で形成される環が、インドレニン環、アザインドレニン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環のいずれかで表されることを特徴とする(30)記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
(32)(26)にて、シアニン色素が下記一般式(3)にて、メロシアニン色素が下記一般式(4)にて、オキソノール色素が一般式(5)にて表されることを特徴とする、(26)記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
【0026】
【化7】

【0027】
一般式(3)〜(5)中、Za1、Za2及びZa3はそれぞれ5員または6員の含窒素複素環を形成する原子群を表わし、Za4、Za5及びZa6はそれぞれ5員または6員環を形成する原子群を表わす。Ra1、Ra2及びRa3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基を表す。
Ma1〜Ma14はそれぞれ独立にメチン基を表わし、置換基を有していても良く、他のメチン基と環を形成しても良い。na1、na2及びna3はそれぞれ0または1であり、ka1、及びka3はそれぞれ0〜3の整数を表わす。ka1が2以上の時、複数のMa3、Ma4は同じでも異なってもよく、ka3が2以上の時、複数のMa12、Ma13は同じでも異なってもよい。ka2は0〜8の整数を表わし、ka2が2以上の時、複数のMa10、Ma11は同じでも異なってもよい。
CIは電荷を中和するイオンを表わし、yは電荷の中和に必要な数を表わす。
(33)(24)〜(32)にて、2光子吸収化合物が少なくとも1個の水素結合性基を有することを特徴とする(24)〜(32)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
(34)(33)にて、水素結合性基が−COOH基または−CONH2基であることを特徴とする(33)記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料。
(35)(1)〜(34)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料に、2光子吸収化合物の有する線形吸収帯よりも長波長でかつ線形吸収の存在しない波長のレーザー光を照射して誘起された2光子吸収を利用して発色または発光させることを特徴とする2光子吸収発色方法(材料)または2光子吸収発光方法(材料)。
(36)(35)にて、発色体のλmaxが照射するレーザー光波長よりも短い波長であることを特徴とする(35)記載の2光子吸収発色方法及び2光子吸収発色材料。
(37)(35)にて、発光体の発光波長が照射するレーザー光波長よりも短い波長であることを特徴とする(35)記載の2光子吸収発光方法及び2光子吸収発光材料。
(38)(1)〜(37)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料を用いた3次元ディスプレイ。
(39)(1)〜(37)のいずれかに記載の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料を用いた3次元光記録媒体。
【発明の効果】
【0028】
本発明の2光子吸収化合物及び色素前駆体または発光体を用いることで、非共鳴2光子吸収により効率良く発色する2光子吸収発色材料または効率良く発光する2光子吸収発光材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の非共鳴2光子吸収により発色する2光子吸収発色材料または非共鳴2光子吸収により発光する2光子吸収発光材料について説明する。
【0030】
本発明の2光子発色材料は、少なくとも2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物とは別の色素前駆体を有し、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、色素前駆体とエネルギー移動または電子移動することにより色素前駆体が発色体に構造変化することを特徴とする2光子吸収発色材料である。
2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体に電子移動する場合においては、電子移動が効率良く起こるためには、2光子吸収化合物の励起状態における励起電子の存在する軌道エネルギーが、色素前駆体のLUMO軌道のエネルギーよりも高いことが好ましい。
また、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体にエネルギー移動する場合においては、エネルギー移動が効率良く起こるためには、2光子吸収化合物の励起エネルギーが、色素前駆体の励起エネルギーよりも大きいことが好ましい。
【0031】
また、本発明の2光子発光材料は、少なくとも2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物とは別の発光体を有し、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、発光体へエネルギー移動することにより発光体が発光することを特徴とする2光子吸
収発光材料である。
この場合も、エネルギー移動が効率的に起こるためには、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態の励起エネルギーが、発光体の励起エネルギーよりも大きいことが好ましい。
なお、本発明における「発色」とは、200nmの紫外光から可視光を経て2000nmの赤外光までの領域の間で、2光子吸収前後にて何らかの吸収スペクトル変化が起こることを示し、さらには、400nm〜700nmの可視光領域にて何らかの吸収スペクトル変化が生じ、目視にてその変化が識別できることが好ましい。
また、本発明における「発光」とは、200nmの紫外光から可視光を経て2000nmの赤外光までの領域の間で、2光子吸収前後にて何らかの発光スペクトル変化が起こることを示し、さらには、400nm〜700nmの可視光領域にて何らかの発光スペクトル変化が生じ、目視にてその変化が識別できることが好ましい。
【0032】
まず本発明の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料における2光子吸収化合物について説明する。
本発明の2光子吸収化合物は、非共鳴2光子吸収(化合物の(線形)吸収帯が存在しないエネルギー領域で2つの光子を同時に吸収して励起される現象)を行う化合物である。
【0033】
本発明の2光子吸収化合物は好ましくは有機化合物である。
なお、本発明において、特定の部分を「基」と称した場合には、特に断りの無い限りは、一種以上の(可能な最多数までの)置換基で置換されていても、置換されていなくても良いことを意味する。例えば、「アルキル基」とは置換または無置換のアルキル基を意味する。また、本発明における化合物に使用できる置換基は、置換の有無にかかわらず、どのような置換基でも良い。
また、本発明において、特定の部分を「環」と称した場合、あるいは「基」に「環」が含まれる場合は、特に断りの無い限りは単環でも縮環でも良く、置換されていても置換されていなくても良い。
例えば、「アリール基」は、フェニル基でもナフチル基でも良く、置換フェニル基でも良い。
【0034】
本発明の2光子吸収化合物はより好ましくは色素である。なおここで色素とは可視光領域(400〜700nm)または近赤外領域(700〜2000nm)に吸収の一部を有する化合物に対する総称である。
本発明における色素としてはいかなるものでも良いが、例えば、シアニン色素、ヘミシアニン色素、ストレプトシアニン色素、スチリル色素、メロシアニン色素、3核メロシアニン色素、4核メロシアニン色素、ロダシアニン色素、コンプレックスシアニン色素、コンプレックスメロシアニン色素、アロポーラー色素、オキソノール色素、ヘミオキソノール色素、スクアリウム色素、クロコニウム色素、アザメチン色素、クマリン色素、アリーリデン色素、アントラキノン色素、トリフェニルメタン色素、キサンテン色素、アゾ色素、アゾメチン色素、スピロ化合物、メタロセン色素、フルオレノン色素、フルギド色素、ペリレン色素、フェナジン色素、フェノチアジン色素、キノン色素、インジゴ色素、ジフェニルメタン色素、ポリエン色素、アクリジン色素、アクリジノン色素、ジフェニルアミン色素、キナクリドン色素、キノフタロン色素、フェノキサジン色素、フタロペリレン色素、ポルフィリン色素、クロロフィル色素、フタロシアニン色素、または金属錯体色素が挙げられる。
【0035】
好ましくは、シアニン色素、ヘミシアニン色素、ストレプトシアニン色素、スチリル色素、メロシアニン色素、3核メロシアニン色素、4核メロシアニン色素、ロダシアニン色素、オキソノール色素、スクアリウム色素、アリーリデン色素、トリフェニルメタン色素、キサンテン色素、アゾ色素、ポルフィリン色素、フタロシアニン色素、または金属錯体色素が挙げられ、より好ましくはシアニン色素、ヘミシアニン色素、ストレプトシアニン色素、スチリル色素、メロシアニン色素、3核メロシアニン色素、4核メロシアニン色素、ロダシアニン色素、オキソノール色素、スクアリウム色素、アリーリデン色素等、メチン色素、及びフタロシアニン色素、アゾ色素が挙げられ、さらに好ましくはシアニン色素、メロシアニン色素、またはオキソノール色素である。
【0036】
これらの色素の詳細については、エフ・エム・ハーマー(F.M.Harmer)著「ヘテロサイクリック・コンパウンズ−シアニンダイズ・アンド・リレィティド・コンパウンズ(Heterocyclic Compounds−Cyanine Dyes and Related Compounds)」、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)社ーニューヨーク、ロンドン、1964年刊、デー・エム・スターマー(D.M.Sturmer)著「ヘテロサイクリック・コンパウンズ−スペシャル・トピックス・イン・ヘテロサイクリック・ケミストリー(Heterocyclic Compounds−Special topics in heterocyclic chemistry)」、第18章、第14節、第482から515頁、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)社−ニューヨーク、ロンドン、1977年刊、「ロッズ・ケミストリー・オブ・カーボン・コンパウンズ(Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds)」2nd.Ed.vol.IV,partB,1977刊、第15章、第369から422頁、エルセビア・サイエンス・パブリック・カンパニー・インク(Elsevier Science Publishing Company Inc.)社刊、ニューヨーク、などに記載されている。
【0037】
シアニン色素、メロシアニン色素またはオキソノール色素の具体例としては、F.M.Harmer著、Heterocyclic Compounds−Cyanine Dyes and Related Compounds、John&Wiley&Sons、New York、London、1964年刊に記載のものが挙げられる。
【0038】
シアニン色素、メロシアニン色素の一般式は、米国特許第5,340,694号第21及び22頁の(XI)、(XII)に示されているもの(ただしn12、n15の数は限定せず、0以上の整数(好ましくは0〜4の整数)とする)が好ましい。
【0039】
本発明の2光子吸収化合物がシアニン色素の時、好ましくは一般式(3)にて表わされる。
【0040】
一般式(3)中、Za1及びZa2はそれぞれ5員または6員の含窒素複素環を形成する原子群を表わす。形成される5員または6員の含窒素複素環として好ましくは、炭素原子数(以下C数という)3〜25のオキサゾール核(例えば、2−3−メチルオキサゾリル、2−3−エチルオキサゾリル、2−3,4−ジエチルオキサゾリル、2−3−メチルベンゾオキサゾリル、2−3−エチルベンゾオキサゾリル、2−3−スルホエチルベンゾオキサゾリル、2−3−スルホプロピルベンゾオキサゾリル、2−3−メチルチオエチルベンゾオキサゾリル、2−3−メトキシエチルベンゾオキサゾリル、2−3−スルホブチルベンゾオキサゾリル、2−3−メチル−β−ナフトオキサゾリル、2−3−メチル−α−ナフトオキサゾリル、2−3−スルホプロピル−β−ナフトオキサゾリル、2−3−スルホプロピル−β−ナフトオキサゾリル、2−3−(3−ナフトキシエチル)ベンゾオキサゾリル、2−3,5−ジメチルベンゾオキサゾリル、2−6−クロロ−3−メチルベンゾオキサゾリル、2−5−ブロモ−3−メチルベンゾオキサゾリル、2−3−エチル−5−メトキシベンゾオキサゾリル、2−5−フェニル−3−スルホプロピルベンゾオキサゾリル、2−5−(4−ブロモフェニル)−3−スルホブチルベンゾオキサゾリル、2−3−ジメチル−5,6−ジメチルチオベンゾオキサゾリル)、C数3〜25のチアゾール核(例えば、2−3−メチルチアゾリル、2−3−エチルチアゾリル、2−3−スルホプロピルチアゾリル、2−3−スルホブチルチアゾリル、2−3,4−ジメチルチアゾリル、2−3,4,4−トリメチルチアゾリル、2−3−カルボキシエチルチアゾリル、2−3−メチルベンゾチアゾリル、2−3−エチルベンゾチアゾリル、2−3−ブチルベンゾチアゾリル、2−3−スルホプロピルベンゾチアゾリル、2−3−スルホブチルベンゾチアゾリル、2−3−メチル−β−ナフトチアゾリル、2−3−スルホプロピル−γ−ナフトチアゾリル、2−3−(1−ナフトキシエチル)ベンゾチアゾリル、2−3,5−ジメチルベンゾチアゾリル、2−6−クロロ−3−メチルベンゾチアゾリル、2−6−ヨード−3−エチルベンゾチアゾリル、2−5−ブロモ−3−メチルベンゾチアゾリル、2−3−エチル−5−メトキシベンゾチアゾリル、2−5−フェニル−3−スルホプロピルベンゾチアゾリル、2−5−(4−ブロモフェニル)−3−スルホブチルベンゾチアゾリル、2−3−ジメチル−5,6−ジメチルチオベンゾチアゾリルなどが挙げられる)、C数3〜25のイミダゾール核(例えば、2−1,3−ジエチルイミダゾリル、2−1,3−ジメチルイミダゾリル、2−1−メチルベンゾイミダゾリル、2−1,3,4−トリエチルイミダゾリル、2−1,3−ジエチルベンゾイミダゾリル、2−1,3,5−トリメチルベンゾイミダゾリル、2−6−クロロ−1,3−ジメチルベンゾイミダゾリル、2−5,6−ジクロロ−1,3−ジエチルベンゾイミダゾリル、2−1,3−ジスルホプロピル−5−シアノ−6−クロロベンゾイミダゾリルなどが挙げられる)、C数10〜30のインドレニン核(例えば、3,3−ジメチルインドレニン)、C数9〜25のキノリン核(例えば、2−1−メチルキノリル、2−1−エチルキノリル、2−1−メチル6−クロロキノリル、2−1,3−ジエチルキノリル、2−1−メチル−6−メチルチオキノリル、2−1−スルホプロピルキノリル、4−1−メチルキノリル、4−1−スルホエチルキノリル、4−1−メチル−7−クロロキノリル、4−1,8−ジエチルキノリル、4−1−メチル−6−メチルチオキノリル、4−1−スルホプロピルキノリルなどが挙げられる)、C数3〜25のセレナゾール核(例えば、2−3−メチルベンゾセレナゾリルなどが挙げられる)、C数5〜25のピリジン核(例えば、2−ピリジルなどが挙げられる)などが挙げられ、さらに他にチアゾリン核、オキサゾリン核、セレナゾリン核、テルラゾリン核、テルラゾール核、ベンゾテルラゾール核、イミダゾリン核、イミダゾ[4,5−キノキザリン]核、オキサジアゾール核、チアジアゾール核、テトラゾール核、ピリミジン核を挙げることができる。
【0041】
これらは置換されても良く、置換基として好ましくは例えば、アルキル基(好ましくはC数1〜20、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、ベンジル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、カルボキシメチル、5−カルボキシペンチル)、アルケニル基(好ましくはC数2〜20、例えば、ビニル、アリル、2−ブテニル、1,3−ブタジエニル)、シクロアルキル基(好ましくはC数3〜20、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル)、アリール基(好ましくはC数6〜20、例えば、フェニル、2−クロロフェニル、4−メトキシフェニル、3−メチルフェニル、1−ナフチル)、ヘテロ環基(好ましくはC数1〜20、例えば、ピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ)、アルキニル基(好ましくはC数2〜20、例えば、エチニル、2−プロピニル、1,3−ブタジイニル、2−フェニルエチニル)、ハロゲン原子(例えば、F、Cl、Br、I)、アミノ基(好ましくはC数0〜20、例えば、アミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジブチルアミノ、アニリノ)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、ホスホン酸基、アシル基(好ましくはC数1〜20、例えば、アセチル、ベンゾイル、サリチロイル、ピバロイル)、アルコキシ基(好ましくはC数1〜20、例えば、メトキシ、ブトキシ、シクロヘキシルオキシ)、アリールオキシ基(好ましくはC数6〜26、例えば、フェノキシ、1−ナフトキシ)、アルキルチオ基(好ましくはC数1〜20、例えば、メチルチオ、エチルチオ)、アリールチオ基(好ましくはC数6〜20、例えば、フェニルチオ、4−クロロフェニルチオ)、アルキルスルホニル基(好ましくはC数1〜20、例えば、メタンスルホニル、ブタンスルホニル)、アリールスルホニル基(好ましくはC数6〜20、例えば、ベンゼンスルホニル、パラトルエンンスルホニル)、スルファモイル基(好ましくはC数0〜20、例えばスルファモイル、N−メチルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、カルバモイル基(好ましくはC数1〜20、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N、N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル)、アシルアミノ基(好ましくはC数1〜20、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ)、イミノ基(好ましくはC数2〜20、例えばフタルイミノ)、アシルオキシ基(好ましくはC数1〜20、例えばアセチルオキシ、ベンゾイルオキシ)、アルコキシカルボニル基(好ましくはC数2〜20、例えば、メトキシカルボニル、フェノキシカルボニル)、カルバモイルアミノ基(好ましくはC数1〜20、例えばカルバモイルアミノ、N−メチルカルバモイルアミノ、N−フェニルカルバモイルアミノ)、であり、より好ましくは、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基である。
【0042】
これらの複素環はさらに縮環されていてもよい。縮環する環として好ましくはベンゼン環、ベンゾフラン環、ピリジン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環等が挙げられる。
【0043】
Za1及びZa2により形成される5員または6員の含窒素複素環としてより好ましくは、オキサゾール核、イミダゾール核、チアゾール核、インドレニン環であり、さらに好ましくはオキサゾール核、イミダゾール核、インドレニン環であり、最も好ましくはオキサゾール核である。
【0044】
Ra1及びRa2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基(好ましくはC数1〜20、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、ベンジル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、3−メチル−3−スルホプロピル、2’−スルホベンジル、カルボキシメチル、5−カルボキシペンチル)、アルケニル基(好ましくはC数2〜20、例えば、ビニル、アリル)、アリール基(好ましくはC数6〜20、例えば、フェニル、2−クロロフェニル、4−メトキシフェニル、3−メチルフェニル、1−ナフチル)、ヘテロ環基(好ましくはC数1〜20、例えば、ピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ)であり、より好ましくはアルキル基(好ましくはC数1〜6のアルキル基)またはスルホアルキル基(好ましくは3−スルホプロピル、4−スルホブチル、3−メチル−3−スルホプロピル、2’−スルホベンジル)である。
【0045】
Ma1〜Ma7はそれぞれメチン基を表わし、置換基を有していても良く(好ましい置換基の例はZa1及びZa2上の置換基の例と同じ)、置換基として好ましくはアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、ニトロ基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、スルホ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルチオ基、シアノ基などが挙げられ、置換基としてより好ましくはアルキル基である。
Ma1〜Ma7は無置換メチン基またはアルキル基(好ましくはC数1〜6)置換メチン基であることが好ましく、より好ましくは無置換、エチル基置換、メチル基置換のメチン基である。
Ma1〜Ma7は互いに連結して環を形成しても良く、形成する環として好ましくはシクロヘキセン環、シクロペンテン環、ベンゼン環、チオフェン環等が挙げられる。
【0046】
na1及びna2は0または1であり、好ましくは共に0である。
【0047】
ka1は0〜3の整数を表わし、より好ましくはka1は1〜3を表し、さらに好ましくは
ka1は1または2を表す。
ka1が2以上の時、複数のMa3、Ma4は同じでも異なってもよい。
【0048】
CIは電荷を中和するイオンを表わし、yは電荷の中和に必要な数を表わす。
【0049】
本発明の2光子吸収化合物がメロシアニン色素の時、好ましくは一般式(4)で表わされる。
【0050】
一般式(1)中、Za3は5員または6員の含窒素複素環を形成する原子群を表わし(好ましい例はZa1、Za2と同じ)、これらは置換されても良く(好ましい置換基の例はZa1、Za2上の置換基の例と同じ))、これらの複素環はさらに縮環されていてもよい。
【0051】
Za3により形成される5員または6員の含窒素複素環としてより好ましくは、オキサゾール核、イミダゾール核、チアゾール核、インドレニン環であり、さらに好ましくはオキサゾール核、インドレニン環である。
【0052】
Za4は5員または6員環を形成する原子群を表わす。Za4から形成される環は一般に酸性核と呼ばれる部分であり、James 編、The Theory of the Photographic Process、第4版、マクミラン社、1977年、第198頁により定義される。Za4として好ましくは、2−ピラゾロン−5−オン、ピラゾリジン−3,5−ジオン、イミダゾリン−5−オン、ヒダントイン、2または4−チオヒダントイン、2−イミノオキサゾリジン−4−オン、2−オキサゾリン−5−オン、2−チオオキサゾリン−2,4−ジオン、イソローダニン、ローダニン、インダン−1,3−ジオン、チオフェン−3−オン、チオフェン−3−オン−1,1−ジオキシド、インドリン−2−オン、インドリン−3−オン、2−オキソインダゾリウム、5,7−ジオキソ−6,7−ジヒドロチアゾロ〔3,2-a 〕ピリミジン、3,4−ジヒドロイソキノリン−4−オン、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸、クマリン−2,4−ジオン、インダゾリン−2−オン、ピリド[1,2-a]ピリミジン−1,3−ジオン、ピラゾロ〔1,5-b〕キナゾロン、ピラゾロピリドンなどの核が挙げられる。
Za4から形成される環としてより好ましくは、2−ピラゾロン−5−オン、ピラゾリジン−3,5−ジオン、ローダニン、インダン−1,3−ジオン、チオフェン−3−オン、チオフェン−3−オン−1,1−ジオキシド、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸、クマリン−2,4−ジオンであり、さらに好ましくは、ピラゾリジン−3,5−ジオン、インダン−1,3−ジオン、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸であり、最も好ましくはピラゾリジン−3,5−ジオン、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸である。
【0053】
Za4から形成される環は置換されても良く、(好ましい置換基の例はZa3上の置換基の例と同じ)置換基としてより好ましくは、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基である。
【0054】
これらの複素環はさらに縮環されていてもよい。縮環する環として好ましくはベンゼン環、ベンゾフラン環、ピリジン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環等が挙げられる。
【0055】
Ra3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基であり(以上好ましい例はRa1、Ra2と同じ)、より好ましくはアルキル基(好ましくはC数1〜6のアルキル基)またはスルホアルキル基(好ましくは3−スルホプロピル、4−スルホブチル、3−メチル−3−スルホプロピル、2’−スルホベンジル)である。
【0056】
Ma8〜Ma11はそれぞれメチン基を表わし、置換基を有していても良く(好ましい置換基の例はZa1及びZa2上の置換基の例と同じ)、置換基として好ましくはアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、ニトロ基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、スルホ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルチオ基、シアノ基などが挙げられ、置換基としてより好ましくはアルキル基である。
Ma8〜Ma11は無置換メチン基またはアルキル基(好ましくはC数1〜6)置換メチン基であることが好ましく、より好ましくは無置換、エチル基置換、メチル基置換のメチン基である。
Ma8〜Ma11は互いに連結して環を形成しても良く、形成する環として好ましくはシクロヘキセン環、シクロペンテン環、ベンゼン環、チオフェン環等が挙げられる。
【0057】
na3は0または1であり、好ましくは0である。
【0058】
ka2は0〜8の整数を表わし、好ましくは0〜4の整数を表し、より好ましくは2〜4の整数を表す。
ka2が2以上の時、複数のMa10、Ma11は同じでも異なってもよい。
【0059】
CIは電荷を中和するイオンを表わし、yは電荷の中和に必要な数を表わす。
【0060】
本発明の2光子吸収化合物がオキソノール色素の時、好ましくは一般式(5)で表わされる。
【0061】
一般式(5)中、Za5及びZa6は各々5員または6員環を形成する原子群を表わし(好ましい例はZa4と同じ)、これらは置換されても良く(好ましい置換基の例はZa4上の置換基の例と同じ)、これらの複素環はさらに縮環されていてもよい。
Za5及びZa6から形成される環としてより好ましくは、2−ピラゾロン−5−オン、ピラゾリジン−3,5−ジオン、ローダニン、インダン−1,3−ジオン、チオフェン−3−オン、チオフェン−3−オン−1,1−ジオキシド、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸、クマリン−2,4−ジオンであり、さらに好ましくはバルビツール酸、2−チオバルビツール酸であり、最も好ましくはバルビツール酸である。
【0062】
Ma12〜Ma14は各々メチン基を表わし、置換基を有していても良く、(好ましい置換基の例はZa5及びZa6上の置換基の例と同じ)、置換基として好ましくはアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、ニトロ基、ヘテロ環基、アリールオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、スルホ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルチオ基、シアノ基などが挙げられ、より好ましくはアルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリール基、ヘテロ環基、カルバモイル基、カルボキシ基であり、さらに好ましくはアルキル基、アリール基、ヘテロ環基である。
Ma12〜Ma14は無置換メチン基であることが好ましい。
Ma12〜Ma14は互いに連結して環を形成しても良く、形成する環として好ましくはシクロヘキセン環、シクロペンテン環、ベンゼン環、チオフェン環等が挙げられる。
【0063】
ka3は0から3までの整数を表わし、好ましくは0から2までの整数を表し、より好ましくは1または2を表し、最も好ましくは2を表す。
ka3が2以上の時、Ma12、Ma13は同じでも異なってもよい。
【0064】
CIは電荷を中和するイオンを表わし、yは電荷の中和に必要な数を表わす。
【0065】
また、本発明の化合物は一般式(1)にて表されることも好ましい。
【0066】
一般式(1)において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、置換基として好ましくは、アルキル基(好ましくはC数1〜20、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、ベンジル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、3−メチル−3−スルホプロピル、2’−スルホベンジル、カルボキシメチル、5−カルボキシペンチル)、アルケニル基(好ましくはC数2〜20、例えば、ビニル、アリル)、シクロアルキル基(好ましくはC数3〜20、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル)、アリール基(好ましくはC数6〜20、例えば、フェニル、2−クロロフェニル、4−メトキシフェニル、3−メチルフェニル、1−ナフチル)、ヘテロ環基(好ましくはC数1〜20、例えば、ピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ)である。
1、R2、R3、R4として好ましくは水素原子またはアルキル基である。R1、R2、R3、R4のうちのいくつか(好ましくは2つ)が互いに結合して環を形成してもよい。特に、R1とR3が結合して環を形成することが好ましく、その際カルボニル炭素原子と共に形成する環が6員環または5員環または4員環であることが好ましく、5員環または4員環であることがより好ましく、5員環であることが最も好ましい。
【0067】
一般式(1)において、nおよびmはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、好ましくは1〜4の整数を表す。ただし、n、mは同時に0となることはない。
nおよびmが2以上の場合、複数個のR1、R2、R3およびR4は同一でもそれぞれ異なってもよい。
【0068】
1およびX2は独立に、アリール基[好ましくはC数6〜20、好ましくは置換アリール基(例えば置換フェニル基、置換ナフチル基、置換基の例として好ましくはMa1〜Ma7の置換基と同じ)であり、より好ましくはアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルアミノ基が置換したアリール基を表し、さらに好ましくはアルキル基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アシルアミノ基が置換したアリール基を表し、最も好ましくは4位にジアルキルアミノ基またはジアリールアミノ基が置換したフェニル基を表す。その際複数の置換基が連結して環を形成しても良く、形成する好ましい環としてジュロリジン環が挙げられる。]、ヘテロ環基(好ましくはC数1〜20、好ましくは3〜8員環、より好ましくは5または6員環、例えばピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピロリル、インドリル、カルバゾリル、フェノチアジノ、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ、より好ましくはインドリル、カルバゾリル、ピロリル、フェノチアジノ。ヘテロ環は置換していても良く、好ましい置換基は前記アリール基の際の例と同じ)、または一般式(2)で表される基を表す。
【0069】
一般式(2)中、R5 は水素原子または置換基(好ましい例はR1 〜R4 と同じ)を表し、好ましくは水素原子またはアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
6 は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはヘテロ環基(これらの置換基の好ましい例はR1 〜R4 と同じ)を表し、好ましくはアルキル基(好ましくはC数1〜6のアルキル基)である。
【0070】
1は5または6員環を形成する原子群を表す。
形成されるヘテロ環として好ましくは、インドレニン環、アザインドレニン環、ピラゾリン環、ベンゾチアゾール環、チアゾール環、チアゾリン環、ベンゾオキサゾール環、オキサゾール環、オキサゾリン環、ベンゾイミダゾール環、イミダゾール環、チアジアゾール環、キノリン環、ピリジン環であり、より好ましくはインドレニン環、アザインドレニ
ン環、ピラゾリン環、ベンゾチアゾール環、チアゾール環、チアゾリン環、ベンゾオキサゾール環、オキサゾール環、オキサゾリン環、ベンゾイミダゾール環、チアジアゾール環、キノリン環であり、最も好ましくは、インドレニン環、アザインドレニン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環である。
1により形成されるヘテロ環は置換基を有しても良く(好ましい置換基の例はZa1、Za2上の置換基の例と同じ)、置換基としてより好ましくは、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基である。
【0071】
1およびX2として好ましくはアリール基または一般式(2)で表される基で表され、より好ましくは4位にジアルキルアミノ基またはジアリールアミノ基が置換したアリール基または一般式(2)で表される基で表される。
【0072】
本発明の2光子吸収化合物は水素結合性基を分子内に有することも好ましい。ここで水素結合性基とは、水素結合における水素を供与する基または水素を受容する基を表し、そのどちらの性質も有している基がより好ましい。
また本発明の水素結合性基を有する化合物は溶液または固体状態にて水素結合性基同士の相互作用により会合的相互作用することが好ましく、分子内相互作用でも分子間相互作用でも良いが、分子間相互作用である方がより好ましい。
【0073】
本発明の水素結合性基としては、好ましくは、−COOH、−CONHR11、−SO3H、−SO2NHR12、−P(O)(OH)OR13、−OH、−SH、−NHR14、−NHCOR15、−NR16C(O)NHR17のいずれかで表される。ここで、R11、R12はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基(好ましくは炭素原子数(以下C数という)1〜20、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、ベンジル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、カルボキシメチル、5−カルボキシペンチル)、アルケニル基(好ましくはC数2〜20、例えば、ビニル、アリル)、アリール基(好ましくはC数6〜20、例えば、フェニル、2−クロロフェニル、4−メトキシフェニル、3−メチルフェニル、1−ナフチル)、ヘテロ環基(好ましくはC数1〜20、例えば、ピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ)、−COR18または−SO219を表し、R13〜R19はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはヘテロ環基を表す(以上好ましい例はR11、R12と同じ)。
【0074】
11として好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、−COR18基、−SO219基を表し。その際R18、R19としてはアルキル基またはアリール基が好ましい。
11としてより好ましくは、水素原子、アルキル基、−SO219基を表し、最も好ましくは水素原子を表す。
12として好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、−COR18基−SO219基を表し、その際R18、R19としてはアルキル基またはアリール基が好ましい。
12としてより好ましくは水素原子、アルキル基、−COR18基を表し、最も好ましくは水素原子を表す。
13として好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基を表し、より好ましくは水素原子を表す。
14として好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基を表す。
15として好ましくはアルキル基、アリール基を表す。
16として好ましくは水素原子を表し、R17として好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基を表す。
【0075】
水素結合性基としてより好ましくは、−COOH、−CONHR11、−SO2NHR12
、−NHCOR15、−NR16C(O)NHR17のいずれかであり、さらに好ましくは−COOH、−CONHR11、−SO2NHR12のいずれかであり、最も好ましく−COOH、−CONH2のいずれかである。
【0076】
本発明の2光子吸収化合物はモノマー状態で用いても良いが、会合状態で用いても良い。
ここで、色素発色団同士が特定の空間配置に、共有結合又は配位結合、あるいは種々の分子間力(水素結合、ファン・デル・ワールス力、クーロン力等)などの結合力によって固定されている状態を、一般的に会合(又は凝集)状態と称している。
本発明の2光子吸収化合物は、分子間会合状態で用いても、2光子吸収を行うクロモフォアを分子内に2個以上有し、それらが分子内会合状態にて2光子吸収を行う状態で用いても良い。
【0077】
参考のため、以下に会合体の説明を行う。会合体については、例えばジェイムス(James)編「ザ・セオリー・オブ・ザ・フォトグラフィック・プロセス」(The Theory of the Photographic Process)第4版、マクミラン出版社、1977年、第8章、第218〜222頁、及び小林孝嘉著「J会合体(J-Aggregates)」ワールド・サイエンティフィック・パブリッシング社(World Scientific
Publishing Co. Pte. Ltd.)、1996年刊)などに詳細な説明がなされている。
モノマーとは単量体を意味する。会合体の吸収波長の観点では、モノマー吸収に対して、吸収が短波長にシフトする会合体をH会合体(2量体は特別にダイマーと呼ぶ)、長波長にシフトする会合体をJ会合体と呼ぶ。
【0078】
会合体の構造の観点では、レンガ積み会合体において、会合体のずれ角が小さい場合はJ会合体と呼ばれるが、ずれ角が大きい場合はH会合体と呼ばれる。レンガ積み会合体については、ケミカル・フィジックス・レター(Chemical Physics Letters),第6巻、第183頁(1970年)に詳細な説明がある。また、レンガ積み会合体と同様な構造を持つ会合体として梯子または階段構造の会合体がある。梯子または階段構造の会合体については、Zeitschrift fur Physikalische Chemie,第49巻、第324頁、(1941年)に詳細な説明がある。
【0079】
また、レンガ積み会合体以外を形成するものとして、矢はず(Herringbone)構造をとる会合体(矢はず会合体と呼ぶことができる)などが知られている。
矢はず(Herringbone)会合体については、チャールズ・ライヒ(Charles Reich)著、フォトグラフィック・サイエンス・アンド・エンジニアリング(Photographic Science and Engineering)第18巻、第3号、第335頁(1974年)に記載されている。矢はず会合体は、会合体に由来する2つの吸収極大を持つ。
【0080】
会合状態を取っているかどうかは、前記の通りモノマー状態からの吸収(吸収λmax、ε、吸収形)の変化により確認することができる。
本発明の化合物は会合により短波長化(H会合)しても長波長化(J会合)してもその両方でもいずれでも良いが、J会合体を形成することがより好ましい。
【0081】
化合物の分子間会合状態は様々な方法に形成することができる。
例えば溶液系では、ゼラチンのようなマトリックスを添加した水溶液(例えばゼラチン0.5wt%・化合物10-4M水溶液)、KClのような塩を添加した水溶液(例えばKCl5%・化合物2×10-3M水溶液)に化合物を溶かす方法、良溶媒に化合物を溶かしておいて後から貧溶媒を加える方法(例えばDMF−水系、クロロホルム−トルエン系等)等が挙げられる。
また膜系では、ポリマー分散系、アモルファス系、結晶系、LB膜系等の方法が挙げられる。
さらに、バルクまたは微粒子(μm〜nmサイズ)半導体(例えばハロゲン化銀、酸化チタン等)、バルクまたは微粒子金属(例えば金、銀、白金等)に吸着、化学結合、または自己組織化させることにより分子間会合状態を形成させることもできる。カラー銀塩写真における、ハロゲン化銀結晶上のシアニン色素J会合吸着による分光増感はこの技術を利用したものである。
分子間会合に関与する化合物数は2個であっても、非常に多くの化合物数であっても良い。
【0082】
以下に、本発明で用いられる2光子吸収化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
【化8】

【0084】
【化9】

【0085】
【化10】

【0086】
【化11】

【0087】
【化12】

【0088】
【化13】

【0089】
【化14】

【0090】
【化15】

【0091】
【化16】

【0092】
【化17】

【0093】
【化18】

【0094】
【化19】

【0095】
【化20】

【0096】
次に、本発明の2光子吸収発色材料において、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、色素前駆体とエネルギー移動または電子移動することにより発色体に構造変化することができる本発明の色素前駆体について説明する。
なお、本発明において色素前駆体自身は2光子吸収断面積が大きい必要は全くない。
色素前駆体は好ましくは有機化合物である。
【0097】
本発明の色素前駆体が、2光子吸収化合物の励起状態と電子移動することにより発色体に構造変化する際は、その電子移動は2光子吸収化合物の励起状態から色素前駆体に電子移動しても、色素前駆体から2光子吸収化合物に電子移動してもどちらでも構わないが、2光子吸収化合物の励起状態から色素前駆体に電子移動する方がより好ましい。
【0098】
色素前駆体は酸化または還元により、
1)反応または異性化することにより分子構造が変化。
2)結合が切断されることにより吸収スペクトルが変化する部位を含む。
のいずれかにより吸収スペクトルが変化することが好ましい。
【0099】
前記1)を起こすことができる化合物は、いわゆる「エレクトロクロミック化合物」として総称されている。
本発明で色素前駆体として用いるエレクトロクロミック化合物として好ましくは、ポリピロール類(好ましくは例えばポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(N−メチルインドール)、ポリピロロピロール)、ポリチオフェン類(好ましくは例えばポリチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリイソチアナフテン、ポリジチエノチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン)、ポリアニリン類(好ましくは例えばポリアニリン、ポリ(N−ナフチルアニリン)、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(アニリン−m−スルホン酸)、ポリ(2−メトキシアニリン)、ポリ(o−アミノフェノール)、ポリ(ジアリルアミン))、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、Coピリジノポルフィラジン錯体、Niフェナントロリン錯体、またはFeバソフェナントロリン錯体である。
【0100】
またさらに、下記ビオローゲン類、ポリビオローゲン類、ランタノイドジフタロシアニン類、スチリル色素類、TNF類、TCNQ/TTF錯体類、Ruトリスビピリジル錯体類等のエレクトロクロミック材料も好ましい。
【0101】
【化21】

【0102】
また、無機エレクトロクロミック材料も本発明の色素前駆体として使用することができる。無機エレクトロクロミック材料として好ましくはWO3、MoO3、V25、Ir23、MnO2、NiO2、InN、SnNx、ZrNCl、プルシアンブルーが挙げられ、これらは結晶でも微粒子でも薄膜でもいずれでも良い。
【0103】
本発明の2光子吸収化合物はこれらの無機エレクトロクロミック化合物に物理吸着また
は化学吸着することも好ましい。
物理吸着としては例えば、2光子吸収化合物中の芳香族環、ヘテロ環、酸素、窒素、硫黄原子などヘテロ原子と無機エレクトロクロミック材料とのファンデルワールス的相互作用により吸着していることが好ましい。
化学吸着としては例えば、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸またはその塩等酸性基を有する2光子吸収化合物が無機エレクトロクロミック材料に化学吸着したり、メルカプト基を有する2光子吸収化合物が自己組織化により無機エレクトロクロミック材料上に吸着していることが好ましい。
それらの際、酸性基及びその塩やメルカプト基は前述の好ましい例の2光子吸収化合物のどの位置に置換していても構わない。
【0104】
色素前駆体が、前記2)「酸化または還元により結合が切断されることにより吸収スペクトルが変化する部位を含む」化合物であるときは、色素前駆体は例えば一般式(11)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(11)中、A1とPDは共有結合しており、A1は2光子吸収化合物励起状態との電子移動によりPDとの共有結合を切断する機能を有する有機化合物部位であり、PDはA1と共有結合している際とA1との共有結合が切断されて放出された際の可視光吸収形が異なる特徴を有する有機化合物部位を表す。
PDとしては、A1と共有結合している際は無色または淡色で、A1との共有結合が切断されて放出された際は強く着色することが好ましい。
【0105】
PDとしては好ましくは例えば、いわゆる「解離型色素」であり、より好ましくは解離型アゾ色素、解離型アゾメチン色素またはオキソノール色素である。
オキソノール色素として好ましい例は、本発明の2光子吸収化合物における一般式(5)に含まれるものとして前に例示した色素も含まれる。
また、PDとして好ましくは例えば、いわゆる「ロイコ色素」であり、より好ましくはトリフェニルメタン色素、キサンテン色素である。
以下にPDの好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0106】
【化22】

【0107】
【化23】

【0108】
PDはA1と共有結合を作る際、色素クロモフォア上であればA1上のどの部分で共有結合しても良いが、上図で矢印で示した原子でA1と共有結合することが好ましい。
【0109】
さらに、色素前駆体は一般式(12)で表されること好ましい。一般式(12)で表される化合物は1電子還元、つまり2光子吸収化合物励起状態からの電子移動によりPDを放出する化合物である。
一般式(12)中、PDは一般式(11)と同義であり、R21は水素原子または置換基(好ましい例はZa1上の置換基と同じ)を表し、より好ましくはアルキル基またはアリール基であり、さらに好ましくはt−ブチル基である。
22は置換基を表し(好ましい例はZa1上の置換基と同じ)、好ましくは電子求引性基
であり、より好ましくは、ニトロ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子である。
a11は0〜5の整数を表し、a11が2以上の時、複数のR22は同じでも異なっても良く、互いに連結して環を形成しても良い。
a11は2であることが好ましく、その際、R22は2位及び4位に置換していることが好ましい。
【0110】
以下に、一般式(12)で表される本発明の色素前駆体の好ましい例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0111】
【化24】

【0112】
次に、本発明の2光子吸収発色材料において、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により生成した励起状態からエネルギー移動を受けることにより発色体に構造変化する色素前駆体について説明する。
一般に、エネルギー移動には励起1重項状態から起こる「フェルスター機構」と、励起3重項状態から起こる「デクスター機構」があるが、本発明においては、励起1重項状態から起こる「フェルスター機構」の方がより好ましい。
【0113】
2光子吸収化合物の励起状態からエネルギー移動を受けることにより発色体に構造変化する色素前駆体としては、
1)反応または異性化することにより分子構造が変化。
2)結合が切断されることにより吸収スペクトルが変化する部位を含む。
のいずれかにより吸収スペクトルが変化することが好ましい。
【0114】
前記1)を起こすことができる化合物は、いわゆる「フォトクロミック化合物」として総称されている。
本発明に用いるフォトクロミック化合物は、本発明の2光子吸収発色材料が2光子吸収を行う前、すなわちエネルギー移動が起こる前は無色または淡色で、エネルギー移動後は
強く着色することが好ましい。
ただし、本発明においては、フォトクロミック化合物が直接2光子吸収を行う必要は全くないので、本発明においてはフォトクロミック化合物が大きな2光子吸収断面積を有する必要は全くない。
本発明で色素前駆体として用いるフォトクロミック化合物として好ましくは、スピロピラン類、スピロオキサジン類、フルギド類、フルギミド類、ジアリールエテン類、チオインジゴ類、ヒドロキシエチル基置換シアニン類である。
【0115】
本発明の色素前駆体として好ましくは、具体的には以下のフォトクロミック化合物が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0116】
【化25】

【0117】
色素前駆体が、前記2)「エネルギー移動により結合が切断されることにより吸収スペクトルが変化する部位を含む」化合物であるときは、色素前駆体は、例えば一般式(13)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(13)中、A2とPDは共有結合しており、A2は2光子吸収化合物励起状態からのエネルギー移動によりPDとの共有結合を切断する機能を有する有機化合物部位であり、PDは一般式(11)と同義であり、好ましい例も一般式(11)の際と同じである

PDとしては、A2と共有結合している際は無色または淡色で、A2との共有結合が切断されて放出された際は強く着色することが好ましい。
PDはA2と共有結合を作る際、色素クロモフォア上であればA2上のどの部分で共有結合しても良いが、前図で矢印で示した原子でA2と共有結合することが好ましい。
【0118】
さらに、一般式(13)にて表される色素前駆体は一般式(14−1)〜(14−5)で表されること好ましい。一般式(14−1)〜(14−5)中、PDは一般式(11)と同義である。
【0119】
一般式(14−1)にて、R23は置換基(以上好ましい例はZa1上の置換基と同じ)を表し、好ましくは電子吸引性基を表し、より好ましくはニトロ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、またはハロゲン原子を表し、さらに好ましくはニトロ基を表す。
a12は0〜4の整数を表し、a12が2以上の時、複数のR23は同じでも異なっても良く、互いに連結して環を形成しても良い。a12は好ましくは0または1であり、a12が1の際、4位か6位にR23が置換することが好ましく、6位に置換することがより好ましい。
a13は0または1を表す。
【0120】
一般式(14−2)にて、R24〜R27はそれぞれ独立にアルキル基を表し、好ましくはいずれもメチル基を表す。
【0121】
一般式(14−3)にて、R28、R29はそれぞれ独立に置換基(以上好ましい例はZa1上の置換基と同じ)を表し、R29は好ましくはアルコキシ基を表し、より好ましくはメトキシ基を表す。a14、a15はそれぞれ独立に0〜5の整数を表し、a14、a15が2以上の時、複数のR28、R29は同じでも異なっても良く、互いに連結して環を形成しても良い。a14、a15は好ましくは0〜2であり、a14はより好ましくは0または1であり、a15はより好ましくは2である。a15が2の際、3位及び5位にR29が置換することが好ましい。
a16は0または1を表す。
【0122】
一般式(14−4)にて、R30、R31はそれぞれ独立に水素原子または置換基(好ましい例はZa1上の置換基と同じ)を表し、R30とR31は互いに連結して環を形成しても良く、形成する環としてはベンゼン環、ノルボルネン環が好ましい。環を形成しない際はR30、R31共水素原子であることが好ましい。
【0123】
一般式(14−5)にて、R32、R33はそれぞれ独立に置換基(以上好ましい例はZa1上の置換基と同じ)を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表す。R32とR33は互いに連結して環を形成することが好ましく、形成する環としては、フルオレン環、ジベンゾピラン環、テトラヒドロナフタレン環が好ましい。
以下に、一般式(13)で表される本発明の色素前駆体の好ましい例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0124】
【化26】

【0125】
次に、本発明の2光子発光材料において、2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により生成した励起状態からエネルギー移動を受けることにより発光することができる本発明の発光体について説明する。
なお、本発明において発光体自身は2光子吸収断面積が大きい必要は全くない。
【0126】
本発明の発光体は、好ましくは共役系を有する有機化合物、半導体微粒子、金属微粒子であり、より好ましくは共役系を有する有機化合物または半導体微粒子であり、さらに好
ましくは共役系を有する有機化合物である。
【0127】
本発明の発光体が共役系を有する有機化合物の際は、いわゆる「蛍光性化合物(色素)」、「化学発光性化合物(色素)」、「有機EL用発光性化合物(色素)」、「標識化合物(色素)」等として知られた化合物を好ましく使用することができる。
以下に、本発明に用いる共役系を有する有機発光体の好ましい例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0128】
【化27】

【0129】
【化28】

【0130】
本発明の発光体が半導体微粒子であるとき、好ましくは直径0.5nm以上1μm以下であることが好ましく、より好ましくは直径1nm以上100nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは直径1nm以上50nm以下である。
半導体としてはシリコン、ゲルマニウムのような単体半導体の他に、金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)に代表されるいわゆる化合物半導体またはペロブスカイト構造を有する化合物等を使用することができる。
金属のカルコゲニドとして好ましくはチタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、もしくはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物、カドミウム、鉛、亜鉛のセレン化物、カドミウム、亜鉛のテルル化物等が挙げられる。他の化合物半導体としては、ガリウムの窒化物、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウムヒ素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀等が挙げられる。
他の化合物半導体としては、ガリウムの窒化物、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウムヒ素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀等が挙げられる。
また、ペロブスカイト構造を有する化合物として好ましくはチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムが挙げられる。
本発明に用いられる半導体としてより好ましくは、具体的にはSi、TiO、SnO、Fe、WO、ZnO、Nb、CdS、ZnS、ZnSe、ZnTe、PbS、Bi、CdSe、CdTe、GaN、GaP、InP、GaAs、CuInS、CuInSeが挙げられる。
さらに好ましくは、TiO、WO、ZnO、CdS、ZnS、ZnSe、PbS、CdSe、CdTe、GaN、GaAsであり、最も好ましくはTiO、CdS、ZnS、ZnSe、CdSe、CdTe、GaNである。
【0131】
本発明の半導体微粒子発光体としては、いわゆる「量子ドット」と呼ばれている発光性のものが好ましい。「量子ドット」に関しては、C.B.Murray、J.Am.Ch
em.Soc.、115号、8706頁、(1993年)、M.Bruchez 、Nature、281号、2013頁、(1988年)、J.Lee.V.C.Sundar、Adv.Mater.、12号、1102頁、(2000年)、K.I.Klimov、Science、290号、314頁、(2000年)等の文献に記載されている。
【0132】
本発明の発光体が金属微粒子であるとき、好ましくは直径0.5nm以上1μm以下であることが好ましく、より好ましくは直径1nm以上100nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは直径1nm以上50nm以下である。
金属としては、Au、Ag、Ptが好ましく、AuまたはAgが好ましい。
【0133】
2光子吸収化合物は半導体微粒子上または金属微粒子上に物理吸着または化学吸着していることが好ましい。物理吸着としては例えば、2光子吸収化合物中の芳香族環、ヘテロ環、酸素、窒素、硫黄原子などヘテロ原子と半導体微粒子または金属微粒子とのファンデルワールス的相互作用により吸着していることが好ましい。
化学吸着としては例えば、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸またはその塩等酸性基を有する2光子吸収化合物が半導体微粒子上に化学吸着したり、メルカプト基を有する2光子吸収化合物が自己組織化により金属微粒子上に吸着していることが好ましい。
それらの際、酸性基及びその塩やメルカプト基は前述の好ましい例の2光子吸収化合物のどの位置に置換していても構わない。
化学吸着用に酸性基及びその塩やメルカプト基を有する2光子吸収化合物の好ましい例を以下に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0134】
【化29】

【0135】
本発明の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料は、溶液状態であっても、固体状態であっても、膜状態であっても良い。
【0136】
その際、本発明の2光子吸収化合物と色素前駆体または発光体は別々の分子であっても、共有結合で連結されていても、金属原子を介して配位結合で連結されていても、異なる電荷を有してイオン対を形成していても良い。
共有結合または配位結合で連結の場合は、前記した好ましい例の2光子吸収化合物、色素前駆体または発光体の任意の部位に、任意の共有結合連結部位、任意の配位結合連結部
位を導入して連結することができる。
イオン対を形成する際は、カチオン部位を有する2光子吸収化合物とアニオン部位を有する色素前駆体または発光体、アニオン部位を有する2光子吸収化合物とカチオン部位を有する色素前駆体または発光体とを、あらかじめイオン対合成、または溶液、固体、膜中混合することによりイオン対を生成させることができる。その際、前記した好ましい例の2光子吸収化合物、色素前駆体または発光体の任意の場所にカチオンまたはアニオン部位を導入することができる。
なお、2光子吸収化合物では、クロモフォアの性質上もともと有している電荷(例えばシアニン色素はカチオン性、オキソノール色素はアニオン性)を利用することも好ましい。
【0137】
本発明の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料が固体または膜状態である時、組成物の成膜性、膜厚の均一性、保存時安定性を向上させる等の目的でバインダーを使用することが好ましい。バインダーとしては、本発明の化合物と相溶性の良いものが好ましい。
バインダーとしては、溶媒可溶性の熱可塑性重合体が好ましく、単独又は互いに組合せて使用することができる。
【0138】
以下に本発明に用いるバインダーとして好ましい例を挙げる。
アクリレート及びアルファ−アルキルアクリレートエステル及び酸性重合体及びインターポリマー(例えばポリメタクリル酸メチル及びポリメタクリル酸エチル、メチルメタクリレートと他の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体)、ポリビニルエステル(例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸/アクリル酸ビニル、ポリ酢酸/メタクリル酸ビニル及び加水分解型ポリ酢酸ビニル)、エチレン/酢酸ビニル共重合体、飽和及び不飽和ポリウレタン、ブタジエン及びイソプレン重合体及び共重合体及びほぼ4,000〜1,000,000の平均分子量を有するポリグリコールの高分子量ポリ酸化エチレン、エポキシ化物(例えば、アクリレート又はメタクリレート基を有するエポキシ化物)、ポリアミド(例えば、N−メトキシメチルポリヘキサメチレンアジパミド)、セルロースエステル(例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートサクシネート及びセルロースアセテートブチレート)、セルロースエーテル(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルベンジルセルロース)、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール及びポリビニルホルマール)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、米国特許3,458,311中及び米国特許4,273,857中に開示されている酸含有重合体及び共重合体、並びに米国特許4,293,635中開示されている両性重合体バインダー、ポリスチレン重合体、並びに例えばアクリロニトリル、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸及びそのエステルとの共重合体、塩化ビニリデン共重合体(例えば、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体、ビニリデンクロリド/メタクリレート共重合体、塩化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体)、ポリ塩化ビニル及び共重合体(例えば、ポリビニルクロリド/アセテート、塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体)、ポリビニルベンザル合成ゴム(例えば、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、メタクリレート/アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、2−クロロブタジエン−1,3重合体、塩素化ゴム、スチレン/ブタジエン/スチレン、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体)、コポリエステル(例えば、式HO(CH2)nOH(式中nは、2〜10の整数である)のポリメチレングリコール、並びに(1)ヘキサヒドロテレフタル酸、セバシン酸及びテレフタル酸、(2)テレフタル酸、イソフタル酸及びセバシン酸、(3)テレフタル酸及びセバシン酸、(4)テレフタル酸及びイソフタル酸の反応生成物から製造されたもの、並びに(5)該グリコール及び(i)テレフタル酸、イソフタル酸及びセバシン酸及び(ii)テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸及びアジピン酸から製造されたコポリエステルの混合物)、ポリN−ビニルカルバゾール及びその共重合体、並びにH.カモガワらによりJournal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition,18巻、9〜18頁(1979)中開示されているようなカルバゾール含有重合体。
【0139】
本発明の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料には、必要により可塑剤、溶媒等の添加物を適宜用いることができる。
【0140】
可塑剤は組成物の接着性、柔軟性、硬さ、およびその他の機械的諸特性を変えるために用いられる。可塑剤としては、例えば、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ジエチルセバケート、ジブチルスベレート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルフタレート等が挙げられる。
【0141】
本発明の組成物は通常の方法で調製されてよい。例えば上述の必須成分および任意成分をそのままもしくは必要に応じて溶媒を加えて調製することができる。溶媒としては例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテート、乳酸エチル、セロソルブアセテートなどのエステル系溶媒、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶媒、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールなどのフッ素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、N、N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒などが好ましい。
本発明の組成物は基体上に直接塗布することも、スピンコートすることもできるし、あるいはフィルムとしてキャストしついで通常の方法により基体にラミネートすることもできる。使用した溶媒は乾燥時に蒸発除去することができる。
【0142】
本発明の2光子吸収発色材料または2光子吸収発光材料においては、2光子吸収化合物の有する線形吸収帯よりも長波長でかつ線形吸収の存在しない波長のレーザー光を照射して誘起された2光子吸収を利用して発色または発光させることが好ましい。
また、本発明の2光子吸収発色材料においては、2光子発色体のλmaxが照射するレーザー光波長よりも短い波長であることが好ましく、本発明の2光子吸収発光材料においては、発光体の発光波長が照射するレーザー光波長よりも短い波長であることが好ましい。
【0143】
本発明の2光子吸収発色材料はボリューム型3次元ディスプレイまたは3次元光記録媒体に使用することが好ましく、ライトワンス方ボリューム型3次元ディスプレイ(イメージング)に使用することがより好ましい。
本発明の2光子吸収発光材料はボリューム型3次元ディスプレイまたは3次元光記録媒体に使用することが好ましく、書き換え型もしくは実時間型ボリューム型3次元ディスプレイまたは蛍光読み出し型3次元光記録媒体に使用することがより好ましい。
これらの3次元ディスプレイまたは3次元光記録媒体およびこれらへの本発明の材料の適用については公知の文献を参考にして容易に行うことができる。
【0144】
本発明の2光子吸収発色または発光材料を3次元ディスプレイ用途に使用する際は特に、2光子吸収化合物に照射するレーザーは700nmより長波長の赤外光であることが好ましい。
【実施例】
【0145】
以下に、本発明の具体的な実施例について実験結果を基に説明する。勿論、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0146】
[実施例1]
本発明の2光子吸収化合物の合成
【0147】
(1)D−73の合成
【0148】
本発明の2光子吸収化合物D−73は、以下の方法により合成することができる。
【0149】
【化30】

【0150】
4級塩[1]14.3g(40mmol)を水50mlに溶解し、水酸化ナトリウム1.6g(40mmol)を加えて室温にて30分攪拌した。酢酸エチルで3回抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮し、メチレンベース[2]のオイル9.2g(収率100%)を得た。
【0151】
ジメチルアミノアクロレイン[3]3.97g(40mmol)をアセトニトリル50mlに溶解し、0℃に冷却しながらオキシ塩化リン6.75g(44mmol)を滴下し、0℃にて10分間攪拌した。続いてメチレンベース[2]9.2gのアセトニトリル溶液を滴下し、35℃にて4時間攪拌した。氷水100mlに注いだ後、16gの水酸化ナトリウムを加え、10分間還流した。冷却後、酢酸エチルで3回抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル:ヘキサン=1:10→1:3)で精製し、アルデヒド[4]のオイル4.4g(収率39%)を得た。
【0152】
シクロペンタノン0.126g(1.5mmol)、アルデヒド[4]0.85g(3mmol)を脱水メタノール30mlに溶解し、暗所にて窒素雰囲気下還流した。均一になった後、ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液0.69g(3.6mmol)を加え、さらに6時間還流した。冷却後析出した結晶をろ別しメタノールにて洗浄し、D−73の深緑色結晶0.50g(収率54%)を得た。なお構造はNMRスペクトル、MSスペクトル、元素分析にて確認した。
【0153】
(2)D−84の合成
【0154】
本発明の2光子吸収化合物D−84は、以下の方法により合成することができる。
【0155】
【化31】

【0156】
シクロペンタノン33.6g(0.4mol)、DBN2ml、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール400gを5日間還流した。濃縮後アセトンを加えて冷却して結晶をロ別し、冷アセトンで洗浄し、[5]の結晶32.4g(収率42%)を得た。
【0157】
[5]0.78g(4mmol)、4級塩[6]2.78g(8mmol)、ピリジン20mlを窒素雰囲気下暗所にて4時間還流した。冷却後、酢酸エチルを加えて結晶をロ別し、酢酸エチルで洗浄した。結晶をメタノールに分散してロ別し、目的のD−84の深青色結晶2.14g(収率56%)を得た。
なお構造はNMRスペクトル、MSスペクトル、元素分析にて確認した。
【0158】
また、他の本発明の一般式(1)で表される2光子吸収化合物についてもD−73、D−84の合成法や、Tetrahedron.Lett.,42巻,6129 頁,(2001年)等に記載の方法等に準じて合成することができる。
【0159】
(3)D−1の合成
【0160】
本発明の2光子吸収化合物D−1は以下の方法により合成することができる。
【0161】
【化32】

【0162】
ベンゾオキサゾール[7]52.25g(0.2mol)、プロパンサルトン[8]45.75g(0.375 mol)を140℃にて4時間加熱攪拌した。冷却後アセトンを加えて結晶をロ別し、アセトンで洗浄して4級塩[9]70.42g(収率85%)を得た。
【0163】
4級塩[9]66.2g(0.2mol)、オルソプロピオン酸トリエチル[10]200ml、ピリジン200ml、酢酸80mlを120℃にて1時間加熱攪拌した。冷却後、酢酸エチルで3回デカンテション洗浄した。メタノール100mlに溶解して攪拌したところに、酢酸ナトリウム4.0g(50mmol)/メタノール20ml溶液を添加し、生じた結晶をロ別した。さらにメタノールに分散してロ別し、目的のD−1の朱色結晶31.36g(収率43.4%)を得た。
なお構造はNMRスペクトル、MSスペクトル、元素分析にて確認した。
【0164】
(4)D−42の合成
【0165】
本発明の2光子吸収化合物D−42は以下の方法により合成することができる。
【0166】
【化33】

【0167】
4級塩[11]2.81g(10mmol)、[12]6.67g(30mmol)、無水酢酸10g、アセトニトリル50mlを30分間還流した。濃縮後、酢酸エチルでデカンテーションし、アニル体[13]の粗製品を得た。
アニル体[13]の粗製品にチオバルビツール酸[14]2.00g(10mmol)、トリエチルアミン3.0g(30mmol)、エタノール100mlを加えて1時間還流した。濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム:メタノール=20:1→10:1)にて精製し、さらにメタノール−イソプロピルアルコールにて再結晶することにより、目的のD−42の結晶2.55g(トータル収率41.3%)を得た。
なお構造はNMRスペクトル、MSスペクトル、元素分析にて確認した。
【0168】
(5)D−56の合成
【0169】
本発明の2光子吸収化合物D−56は以下の方法により合成することができる。
【0170】
【化34】

【0171】
バルビツール酸[15]3.12g(20mmol)、[16]2.85g(10mmol)、トリエチルアミン4.1g(40mmol)をDMF30mlに溶解し、室温にて2時間攪拌した。希塩酸を加えて生じた結晶をロ別し、水で洗浄、乾燥し、目的のD−56の結晶2.99g(収率80.0%)を得た。
なお構造はNMRスペクトル、MSスペクトル、元素分析にて確認した。
【0172】
また、他のシアニン色素、メロシアニン色素、オキソノール色素等についても、F.M.Harmer著、Heterocyclic Compounds−Cyanine Dyes and Related Compounds、John&Wiley&Sons、New York、London、1964年刊、D.M.Sturmer著、Heterocyclic Compounds− Special Topics in
Heterocyclic Chemistry、第18章、第14節、第482から515頁、John&Wiley&Sons、New York、London等に記載の方法等に準じて合成することができる。
【0173】
ただし、本発明の2光子吸収化合物の合成法はこれに限定されるわけではない。
【0174】
なお、本発明の色素前駆体または発光体は公知の方法にて合成することができる。
【0175】
[実施例2]
[2光子吸収断面積の評価]
【0176】
次に本発明の2光子吸収色素の2光子吸収断面積を評価した。
2光子吸収断面積の評価は、M.A.Albota et al.,Appl.Opt.1998年,37巻,7352頁.記載の方法を参考に行った。2光子吸収断面積測定用の光源には、Ti:sapphireパルスレーザー(パルス幅:100fs、繰り返し:80MHz、平均出力:1W、ピークパワー:100kW)を用い、700nmから1000nmの波長範囲で2光子吸収断面積を測定した。また、基準物質としてローダミンBおよびフルオレセインを測定し、得られた測定値をC.Xu et al.,J.Opt.Soc.Am.B1996年,13巻,481頁.に記載のローダミンBおよびフルオレセインの2光子吸収断面積の値を用いて補正することで、各化合物の2光子吸収断面積を得た。2光子吸収測定用の試料には、1×10-4の濃度で化合物を溶かした溶液を用いた。
【0177】
本発明の2光子吸収化合物、及びローダミンB(L−12)、フォトクロミック化合物P−7の2光子吸収断面積を上記方法にて測定し、得られた結果をGM単位で表1に示した(1GM = 1×10-50 cm4 s/photon)。なお、表中に示した値は測定波長範囲内での2光子吸収断面積の最大値である。
【0178】
【表1】

【0179】
表1から明らかなように、本発明にて好ましいとする2光子吸収化合物は、ローダミンB(L−12)、フォトクロミック化合物P−7に比較すると200〜3000倍高い、極めて高い2光子吸収効率を示すことが明らかになった。
【0180】
[実施例3]
[2光子吸収による発色評価]
【0181】
次に、本発明の2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、色素前駆体へエネルギー移動することにより色素前駆体を発色体に変化させる方法について述べる。
用いるレーザー光源としては、本発明の2光子吸収化合物が有する線形吸収帯より長波長で、かつ、線形吸収の存在しない波長のレーザー光を用いる。具体的には、中心波長1000nm付近に発振波長を有する固体レーザーやファイバーレーザー、780nm付近の発振波長を有する半導体レーザー、固体レーザー、ファイバーレーザー、620〜680nmの範囲の発振波長を有する半導体レーザーや固体レーザーなどを用いることができる。
【0182】
クロロホルム中に、2光子吸収化合物D−77を10-3Mの濃度で、色素前駆体としてフォトクロミック化合物P−7を10-3Mの濃度で溶解した溶液を暗所にて作成した後スピンコートして試料101とした。
さらに、フォトクロミック化合物P−7のみをクロロホルムに10-3Mの濃度で溶解した溶液を暗所にて作成しスピンコートして比較試料1とした。
【0183】
本発明の2光子吸収発色材料の性能評価には、700nmから1000nmの波長範囲
で測定可能なTi:sapphireパルスレーザー(パルス幅:100fs、繰り返し:80MHz、平均出力:1W、ピークパワー:100kW)を用い、本発明の2光子吸収発色材料に該レーザー光をNA0.6のレンズで集光して照射した。
照射波長は2光子吸収化合物の10-4M溶液において、2光子吸収断面積δが最大となる波長を用いた。なお照射波長では、2光子吸収化合物及び色素前駆体のいずれも線形吸収は存在しない。
本発明の試料101及び比較試料1について、パルスレーザー照射中、2光子吸収化合物励起状態からのエネルギー移動による色素前駆体の発色濃度がある一定量となるレーザー照射光量を見積もった所、試料101は比較試料1の1/98の照射光量で済むことがわかった。つまり、98倍の感度があることがわかった。
【0184】
同様な実験を、2光子吸収化合物をD−4、D−41、D−56、D−73、D−86、D−93に、フォトクロミック化合物をP-1、P-9に変更して行っても同様に比較試料1に対し非常に高感度であることがわかった。
このように、本発明の2光子吸収発色材料は公知の発色材料に対し非常に高効率に発色させることができることがわかる。
【0185】
[実施例4]
[2光子吸収による発光評価]
【0186】
次に、本発明の2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、発光体へエネルギー移動することにより、発光体を発光させる方法について述べる。
用いるレーザー光源としては、本発明の2光子吸収化合物が有する線形吸収帯より長波長で、かつ、線形吸収の存在しない波長のレーザー光を用いる。具体的には、中心波長1000nm付近に発振波長を有する固体レーザーやファイバーレーザー、780nm付近の発振波長を有する半導体レーザー、固体レーザー、ファイバーレーザー、620〜680nmの範囲の発振波長を有する半導体レーザーや固体レーザーなどを用いることができる。
【0187】
メタノール中に、2光子吸収化合物D−4を10-3Mの濃度で、発光体としてローダミンB(L−12)を10-3Mの濃度で溶解した溶液を暗所にて作成した後スピンコートして試料201とした。
さらに、ローダミンB(L−12)のみをメタノールに10-3Mの濃度で溶解した溶液を暗所にて作成しスピンコートして比較試料2とした。
【0188】
本発明の2光子吸収発光材料の性能評価には、700nmから1000nmの波長範囲で測定可能なTi:sapphireパルスレーザー(パルス幅:100fs、繰り返し:80MHz、平均出力:1W、ピークパワー:100kW)を用い、本発明の2光子吸収発光材料に該レーザー光をNA0.6のレンズで集光して照射した。
照射波長は2光子吸収化合物の10-4M溶液において、2光子吸収断面積δが最大となる波長を用いた。なお照射波長では、2光子吸収化合物及び発光体いずれも線形吸収は存在しない。
本発明の試料201及び比較試料2について、パルスレーザー照射による発光のうちの、2光子吸収化合物励起状態からのエネルギー移動による発光体の発光分の強度がある一定量となるレーザー照射光量を見積もった所、試料201は比較試料2の1/88の照射光量で済むことがわかった。つまり、88倍の感度があることがわかった。
【0189】
同様な実験を、2光子吸収化合物をD−4、D−41、D−56、D−73、D−86、D−93に、発光体をL−5、L−6、L−7、L−11、L−16に変更して行っても同様に、比較試料2に対し非常に高感度であることがわかった。
このように、本発明の2光子吸収発光材料は公知の発光材料に対し非常に高効率に発光させることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2光子吸収化合物と、色素前駆体とを有する2光子吸収発色材料であって、該2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、励起状態の2光子吸収化合物と該色素前駆体との間でエネルギー移動または電子移動することにより色素前駆体が発色体に構造変化することを特徴とする2光子吸収発色材料。
【請求項2】
請求項1にて、2光子吸収化合物と色素前駆体が共有結合または配位結合で連結されていることを特徴とする請求項1記載の2光子吸収発色材料。
【請求項3】
請求項1にて、2光子吸収化合物と色素前駆体がそれぞれ異なる電荷を有し、かつ、イオン対を形成していることを特徴とする請求項1記載の2光子吸収発色材料。
【請求項4】
前記2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体に電子移動する場合において、2光子吸収化合物の励起状態における励起電子の存在する軌道エネルギーが、色素前駆体のLUMO軌道のエネルギーよりも高いことを特徴とする請求項1〜3記載の2光子吸収発色材料。
【請求項5】
前記2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態から色素前駆体にエネルギー移動する場合において、2光子吸収化合物の励起エネルギーが、色素前駆体の励起エネルギーよりも大きいことを特徴とする請求項1〜3記載の2光子吸収発色材料。
【請求項6】
少なくとも、2光子吸収化合物と、発光体とを有する2光子吸収発光材料であって、該2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収により励起状態を生成した後、励起状態の2光子吸収化合物から発光体へエネルギー移動することにより発光体が発光することを特徴とする2光子吸収発光材料。
【請求項7】
前記発光体が有機化合物であることを特徴とする請求項6記載の2光子吸収発光材料。
【請求項8】
前記2光子吸収化合物と発光体が共有結合または配位結合で連結されていることを特徴とする請求項6または7記載の2光子吸収発光材料。
【請求項9】
前記2光子吸収化合物と発光体がそれぞれ異なる電荷を有し、かつ、イオン対を形成していることを特徴とする請求項6または7記載の2光子吸収発光材料。
【請求項10】
前記発光体が微粒子半導体または微粒子金属であることを特徴とする請求項6記載の2光子吸収発光材料。
【請求項11】
請求項10にて、2光子吸収化合物が半導体微粒子発光体または金属微粒子発光体上に物理吸着または化学吸着していることを特徴とする請求項10記載の2光子吸収発光材料。
【請求項12】
前記2光子吸収化合物が非共鳴2光子吸収することにより生じた励起状態の励起エネルギーが、発光体の励起エネルギーよりも大きいことを特徴とする請求項6〜11記載のいずれかに2光子吸収発光材料。
【請求項13】
前記2光子吸収化合物がメチン色素またはフタロシアニン色素で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の2光子吸収発色材料。
【請求項14】
前記2光子吸収化合物がシアニン色素、メロシアニン色素、オキソノール色素、または下記一般式(1)にて表されることを特徴とする、請求項13記載の2光子吸収発色材料。
【化1】

式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、水素原子、または置換基を表し、R1、R2、R3、R4のうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよい。nおよびmはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、nおよびmが2以上の場合、複数個のR1、R2、R3およびR4は同一でもそれぞれ異なってもよい。ただし、n、m同時に0となることはない。X1およびX2は独立に、アリール基、ヘテロ環基、または一般式(2)で表される基を表す。
【化2】

式中、R5は水素原子または置換基を表し、R6は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基を表し、Z1は5または6員環を形成する原子群を表す。
【請求項15】
前記2光子吸収化合物がメチン色素またはフタロシアニン色素で表されることを特徴とする請求項6〜12のいずれかに記載の2光子吸収発光材料。
【請求項16】
前記2光子吸収化合物がシアニン色素、メロシアニン色素、オキソノール色素、または上記一般式(1)にて表されることを特徴とする、請求項15記載の2光子吸収発光材料。
【請求項17】
請求項1〜5、13または14のいずれかに記載の2光子吸収発色材料に、2光子吸収化合物の有する線形吸収帯よりも長波長でかつ線形吸収の存在しない波長のレーザー光を照射して誘起された2光子吸収を利用して発色させることを特徴とする2光子吸収発色方法。
【請求項18】
請求項17にて、発色体のλmaxが照射するレーザー光波長よりも短い波長であることを特徴とする請求項17記載の2光子吸収発色方法。
【請求項19】
請求項6〜12、15または16のいずれかに記載の2光子吸収発光材料に、2光子吸収化合物の有する線形吸収帯よりも長波長でかつ線形吸収の存在しない波長のレーザー光を照射して誘起された2光子吸収を利用して発光させることを特徴とする2光子吸収発光方法。
【請求項20】
請求項19にて、発光体の最大発光波長が照射するレーザー光波長よりも短い波長であることを特徴とする請求項19記載の2光子吸収発光方法。

【公開番号】特開2010−185076(P2010−185076A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58394(P2010−58394)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【分割の表示】特願2003−149285(P2003−149285)の分割
【原出願日】平成15年5月27日(2003.5.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】