説明

2型糖尿病の予防、治療及び診断に用いる物質およびそのスクリーニング方法

【課題】 本発明は、2型糖尿病の予防、治療及び診断する物質を提供することを目的とする。
【解決手段】 2型糖尿病に関する遺伝子の発現量を調節する物質及びその調節を阻害する物質並びにその遺伝子の多型配列を同定する検定方法。
ならびに、下記スクリーニング方法。
a.ヒトのレジスチン遺伝子の発現を測定する系に試験物質を添加する工程。
b.レジスチン発現を測定する工程。
c.試験物質を添加していない場合と比較して、レジスチン遺伝子の発現が抑制又は阻止されているかを比較判定する工程。
を有することを特徴とする、2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病の予防、治療及び検出に有用な物質に関する。本発明は、さらに、2型糖尿病に関連する遺伝子の発現量を調節する物質に関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病 は世界で1億人以上の人が罹患している病気である。2型糖尿病は、末梢組織におけるインスリン抵抗性と膵臓ランゲルハンス島のb細胞の機能障害が原因と考えられているが、正確な原因と機序はいまだ不明である。
糖尿病 の発病と進行には、遺伝的要因が深く関わっていることが知られていて、これまで、若年発症家族性糖尿病(MODY;maturity−onset diabetes of the young)やミトコンドリア糖尿病のような特異的な病態を示す糖尿病の原因遺伝子がいくつか同定されている。しかし、これらの遺伝子変異により説明される特異的病態を示す糖尿病は、全体のごくわずかの症例でしかない。すなわち、糖尿病に罹りやすい体質であるかどうかに影響を与える遺伝子は、そのほとんどが同定されていないものと考えられている。特に日本人の糖尿病患者における既知の糖尿病関連遺伝子の関与は低いため、他に未知の関連遺伝子が存在すると考えられる。
【0003】
2型糖尿病には複数の遺伝子が関与しており、個々の遺伝子の効果が、複雑な遺伝的及 び環境的因子により影響を受けるため、古典的なアプローチでは原因遺伝子を同定することは、非常に困難であると考えられている。
一塩基多型(SNP)と呼ばれる、配列決定されたゲノムにおいて高頻度に検出される遺伝的変異が、糖尿病を含む種々の病気の有用なマーカーとなりつつある。
【0004】
2型糖尿病患者の多くは、遺伝的な要因に、環境因子(肥満、運動不足、脂肪の多い食生活など)が加わって発症すると考えられている。したがって、糖尿病に関与する遺伝因子を事前に診断し、発症前に糖尿病に罹患する可能性が高いとわかった人に対しては食事や運動を注意させることによって、糖尿病の発症を未然に防ぐことが可能となる。そのため、遺伝的に糖尿病に罹患する可能性が高い人を発症前に検出するため、また、糖尿病発症についてのメカニズムを遺伝学的に解明するために、2型糖尿病に関連する多型を検出することが求められている。
【0005】
レジスチン遺伝子を多量に発現させたマウスにおけるインスリン抵抗性の獲得(非特許文献1)、レジスチン遺伝子を欠失したマウスでの血中グルコースの早期減少(非特許文献2)などの研究により、レジスチン遺伝子発現の変化がマウスにおいて糖尿病を引き起こす可能性が考えられていた。しかし、人においてレジスチン遺伝子と2型糖尿病との関連は明らかにされていなかった。
【0006】
【非特許文献1】Pravenecら、J.Biol.Chem、第278巻、第45209−45215頁、2003年
【非特許文献2】Banerjeeら、Science、第303巻、第1195−1198頁、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて達成されたものであり、人におけるレジスチン遺伝子と2型糖尿病との関連を明らかにすると共に、遺伝子の変異に関する情報を提供することを目的とする。さらに、レジスチン遺伝子の発現量の調節を解析することで、2型糖尿病の発症の予防又は治療に有効な物質とそのスクリーニング方法を提供し、発現量の調節に関連する多型を同定することで、2型糖尿病を発症する可能性の高い人を発症前に判定するための方法及びキットを提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、2型糖尿病 に関連するレジスチン遺伝子の多型を同定するために、2型糖尿病患者と、健常者のレジスチン遺伝子のプロモーターを含む領域、すなわちレジスチン遺伝子をコードする領域から1kbp上流域の配列を決定した。その結果、-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aの多型を同定し、2型糖尿病との関連について鋭意検討を行った結果、-420C>GのG/G遺伝子型に極めて高い関連を有することを見出した。遺伝学的にも-420G/G型が2型糖尿病感受性を決定する一義的な遺伝子型であることを証明した。更にはこのG/G型を有する患者での血中レジスチン濃度の上昇、および-420Gを含むDNA配列への転写調節因子Sp1及びSp3の特異的結合とそれによるプロモーター活性の上昇を見いだした。
本発明者らは、上記の知見及び考察を基に、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至ったものである。即ち、本発明者らは以下の発明を提供するものである。
【0009】
(1) 2型糖尿病に関する遺伝子の発現量を調節することを特徴とする物質。
【0010】
(2) 該遺伝子の発現量を増加させることを特徴とする(1)に記載の物質。
【0011】
(3) 発現量を増加させる遺伝子が、ヒトのレジスチン遺伝子であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の物質。
【0012】
(4) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域のDNA配列に結合する物質であることを特徴とする(1)〜(3)いすれかに記載の物質。
【0013】
(5) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含む配列に結合する物質であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の物質。
【0014】
(6) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載の物質。
【0015】
(7) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる転写調節因子が結合するレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aの内少なくとも一つであることを特徴とする(1)〜(6)いずれかに記載の物質。
【0016】
(8) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる転写調節因子が結合するレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が-420C>Gであることを特徴とする(1)〜(7)いずれかに記載の物質。
【0017】
(9) 転写調節因子が、Sp1及び又はSp3であることを特徴とする(1)〜(8)いずれかに記載の物質。
【0018】
(10) ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を同定することで、2型糖尿病の予防又は治療の必要性を判定する方法。
【0019】
(11) ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が、-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aのうちの少なくとも一つであることを特徴とする(10)載の方法。
【0020】
(11)記載の転写調節領域の多型の少なくとも一つを同定することを特徴とする(10)たは(11)に記載の方法。
【0021】
(13) ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の、-420C>G多型を同定することを特徴とする(10)〜(12)のいずれかに記載の方法。
【0022】
(14) ヒトの血清レジスチン濃度を測定することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療の必要性を判定する方法。
【0023】
(15) さらに、ヒトの血清レジスチン濃度を測定することを特徴とする(10)〜(13)のいずれかに記載の方法。
【0024】
(16) ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を同定するキット。
【0025】
(17) ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を同定する試薬を含む2型糖尿病に罹患する危険度を判定するキット。
【0026】
(18) ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の、-420C>G多型を同定する試薬を含む2型糖尿病に罹患する危険度を判定する(17)に記載のキット。
【0027】
(19) ヒトの血清レジスチン濃度を測定する試薬を含む2型糖尿病に罹患する危険度を判定するキット。
【0028】
(20)2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の調節を阻害する成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0029】
(21)2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含むことを特徴とする(20)に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0030】
(22)2型糖尿病に関する遺伝子が、ヒトのレジスチン遺伝子であることを特徴とする(20)又は(21)に記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0031】
(23) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域のDNA配列に結合する物質であり、該物質がそのDNA配列に結合することを阻害することを特徴とする(20)〜(22)いずれかに記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0032】
(24) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含む配列に結合する物質であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該物質が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害するものであることを特徴とする(23)記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0033】
(25) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であることを特徴とする(24)記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0034】
(26) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該転写調節因子に結合することによって該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする(25)記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0035】
(27) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分はヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含む配列に特異的に結合することによって該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする(25)記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0036】
(28) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該転写調節因子の活性を変化させて、該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする(25)記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0037】
(29) ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該転写調節因子が相互作用する物質に作用することによって該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする(25)記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0038】
(30) 転写調節因子が、Sp1及び又はSp3であることを特徴とする(26)〜(29)に記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0039】
(31) ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が、-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする(24)、(26)、(27)、(28)、(29)のいずれかに記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0040】
(32) レジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が-420C>Gであることを特徴とする(24)、(26)、(27)、(28)、(29)のいずれかに記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【0041】
(33)
a.ヒトのレジスチン遺伝子の発現を測定する系に試験物質を添加する工程。
b.レジスチン発現を測定する工程。
c.試験物質を添加していない場合と比較して、レジスチン遺伝子の発現が抑制又は阻止されているかを比較判定する工程。
を有することを特徴とする、2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0042】
(34) レジスチン遺伝子がその転写調整領域に-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aから選ばれる少なくとも一つの多型を持つことを特徴とする(33)記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0043】
(35) レジスチン遺伝子がその転写調整領域に-420C>Gの多型を持つことを特徴とする(33)記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0044】
(36) ヒトのレジスチン遺伝子の発現を測定する系が、転写調節因子の作用により発現する系であることを特徴とする(33)〜(35)のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0045】
(37) 転写調節因子がSp1および/またはSp3であることを特徴とする(36)に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0046】
(38) レジスチン遺伝子の発現の測定が、転写活性を測定するものであることを特徴とする(33)〜(37)のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0047】
(39) レジスチン遺伝子の発現の測定が、発現されたレジスチン発現量もしくはmRNA量を測定するものであることを特徴とする(33)〜(37)に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0048】
(40) 試験物質を、レジスチン遺伝子の転写調整領域のDNA配列と該転写調整領域のDNA配列に結合してレジスチン遺伝子の発現を調整する転写調整因子との結合を測定する系に含有させ、転写調整領域のDNA配列と転写調整因子との結合の変化を測定することを特徴とする、2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0049】
(41) 試験物質がレジスチン遺伝子の転写調整領域のDNA配列と結合するか否かを測定することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0050】
(42) 試験物質が、転写調整領域のDNA配列に結合してレジスチン遺伝子の発現を調整する転写調整因子と結合するか否かを測定することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0051】
(43) レジスチン遺伝子が転写調整領域に-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aから選ばれる少なくとも一つの多型を持ち、転写因子と結合する部位もしくは試験物質が結合する部位が、該塩基多型部位であることを特徴とする(40)〜(42)のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【0052】
(44) 転写調整領域の塩基多型が-420C>Gであることを特徴とする(44)に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
(45)
転写調節因子がSp1および/またはSp3であることを特徴とする、(40)〜(44)のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
(46)
(33)〜(45)のいずれかの方法により得られた成分を含有することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療剤。
【発明の効果】
【0053】
本発明は2型糖尿病に関する遺伝子の発現量を調節する物質およびその物質の作用を阻害する物質である。例えば2型糖尿病に関与するとされている、レジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含むDNA配列に結合して、レジスチン遺伝子の発現量を上昇させる物質である。またその上昇を抑制または阻止する物質であり、この物質を用いることで、2型 糖尿病の発症の予防もしくは治療に有用な物質である。またこのような機能を有する多型を同定することは、2型糖尿病の予防もしくは治療の必要性の判定に有用である。また、本発明のスクリーニング法により、2型糖尿病の発症の予防もしくは治療に有用な物質を効率よくスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明は、2型糖尿病の関連する遺伝子の発現量の調節する物質に関する。2型糖尿病に関連する遺伝子として、カルパイン10(Calpain-10)、PPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor-γ)、ATP-sensitive K+ channel Kir6.2、insulin receptor substrate-1、IPF-1、adiponectin PGC-1、SUR1、UCP1、UCP2、PCK1 (phosphoenolpyruvate carboxykinase gene、glutamine:fructose-6-phosphate amidotransferase 2 (GFPT2)、proximal promoter region of the adiponectin (APM1)、Alpha-endosulfine、Protein kinase C/zeta (PRKCZ)、cyclooxygenase-2 gene (PTGS2)、
resistin、fatty acid-binding protein-3 (FABP3)、retinoid-related orphan receptor gamma (RORC)、platelet- surface integrin GPIIb-IIIa、insulin-degrading enzyme、C-reactive protein (CRP)、Lim domain homeobox gene (Isl-1)、Adenylate cyclase activating polypeptide 1 (ADCYAP1)、insulin receptor gene、Vitamin D receptor、KCNJ9、dopamine D2 receptor、FOXC2などが知られているがこれに限定されるものではない。2型糖尿病 患者の多くは、遺伝的な要因に、環境因子(肥満、運動不足、脂肪の多い食生活など)が加わって発症すると考えられている。すなわち、これら遺伝子産物の量の違いや多型による変化した性質およびその量の違いと、環境因子が2型糖尿病の発症に関わっていると考えられる。このような遺伝子産物の違いをその遺伝子の発現量として調節する事で、2型糖尿病をあらかじめ予防または治療することが可能である。
【0055】
発現量の調節とは、遺伝子から作られる遺伝子産物の作成量の調節を意味し、遺伝子産物であるタンパク質および、タンパク質を作成するmRNAの作成量の調節を含む。具体的には、DNAから転写されるmRNAの転写量の調節を指す。
また、発現量の調節とは、通常発現されている量を増加もしくは減少させることを指す。
【0056】
発現量を調節する遺伝子としては、2型糖尿病に関する遺伝子であれば特に限定されないが、好ましくはレジスチン遺伝子である。レジスチン遺伝子は、その遺伝子産物であるレジスチンが、脂肪細胞から分泌されるホルモンの1種であり、マウスにおいて、高脂肪食誘導性や遺伝性の肥満によって増加する事が知られている物質をコードする遺伝子である。また、高脂肪食誘導性の肥満マウスに抗レジスチン抗体を投与すると、血糖値およびインスリンの効果が改善される。さらに、組換え型レジスチンを正常マウスに投与すると、グルコース耐性およびインスリンの効果が損なわれる。インスリンに促進される脂肪細胞のグルコース取込みは、レジスチンの中和によって増進し、レジスチンの投与によって減退する。したがって、レジスチンは肥満を糖尿病に結びつける可能性のあるホルモンである。
【0057】
転写調節領域とは、遺伝子シグナル配列の5'上流領域に多く存在する(第一イントロンに存在するものもある)配列であり、RNAポリメラーゼが遺伝子からRNAを転写する時に、その転写を制御する配列であり、転写効率等を左右しているものである。
【0058】
転写調節因子とは、転写調節領域もしくは転写制御部位のDNAに結合し、遺伝子の転写を制御する因子であり、Sp1、SP2、Sp3、C/EBP、CTCF、NF-κB、USF、Ets、Stat3、NF-1、AP1、AP2、GATA、YY1、Oct-1、E2F1、NF-E2、NF-Y、ZHXなどが知られているがこれに限定されるものではない。
【0059】
本発明におけるレジスチン遺伝子の発現量の増加とは、増加を示せるものであれば特に限定はされないが、好ましくは遺伝子産物であるタンパク質および、タンパク質を作成するmRNA増加量を指し、通常発現している量が増加することを指し、その増加量は限定されないが、mRNAの増加量としては、1.1倍〜1000倍、好ましくは1.1倍〜100倍、より好ましくは1.1倍〜10倍が望ましい。また遺伝子産物の増加量としては、1.1倍〜50倍、好ましくは1.1倍〜10倍、より好ましくは1.1倍〜5倍が望ましい。
【0060】
また、増加を抑制または阻止とは、上記における増加を抑制、阻止することであり、増加量を70%以下、さらには50%以下、特には30%以下にできることが好ましく、最も好ましくは増加量が0%(通常発現している量と同じ)か通常発現している量を下回るものである。
【0061】
本明細書でいう多型とは、同一集団上において、ある遺伝子座にある対立遺伝子が二種類以上存在し、その頻度が1%以上ある状態をいい、一塩基多型(SNP)、制限酵素切断断片長多型 (RFLP)、タンデムリピート多型 、マイクロサテライト多型 、挿入/欠失型多型 などを含む。
【0062】
本発明における多型は、2型糖尿病 に罹りやすい体質を付与する原因遺伝子の一つである。したがって、このような多型を有するか否かを調べるためのプローブ、プライマー及びキットは、2型糖尿病に罹る可能性の高いグループ及び2型糖尿病 の近縁者への遺伝を調べる遺伝子診断に用いることが可能である。
【0063】
さらにレジスチン遺伝子の発現量すなわち血清レジスチン濃度を測定することで、2型糖尿病の予防又は治療の必要性を判断することができる。
【0064】
本発明においては、ヒトレジスチン遺伝子に存在する多型を指し、好ましくは転写調節領域における多型を指す。具体的には、-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aを指す。
【0065】
本発明におけるレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含むDNA配列に結合し発現量を増加させる物質としては、転写因子があげられ、前に示す転写調節因子を指す。好ましくはSp1およびまたはSp3である。
【0066】
2型糖尿病 に関連する多型を同定する方法としては、特に限定されない。多型配列の検出方法としては、たとえばサンガー法、パイロシーケンシングなどにより塩基配列を直接決定してもよいが、サザンブロッティング、PCR、アレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、インベーダーアッセイ、TaqManPCR、SinPer法、MALDI−TOF法、質量分析、RCA法、DNAチップ、ARMS、BAMPER、RFLP、PCR−RFLP、PCR−SSO、PCR−SSCP、アレル特異的PCRのように配列を決定することなく間接的に検出してもよい。
また、本発明で言う「同定」とは、目的とする配列を直接的に同定する場合のみならず、目的とする配列と相補的な配列を検出することによる間接的な同定をも含む広い意味で、「同定」という用語を用いることとする。
【0067】
本発明のキットは、ヒトレジスチン遺伝子の転写調節領域に存在する2型糖尿病に関連する多型を含むDNA配列を特異的にハイブリダイゼーションできるプローブ、またはそのような多型を含むDNA配列を増幅できるプライマーを含む。キットに含まれる試薬としては、塩基の置換を検出できる方法により適宜変更可能である。たとえば、相補鎖を合成するタイプの多型配列の検出方法であれば、ddNTP、dNTP、DNA合成酵素、緩衝液などを含み、RFLPのように制限酵素の切断に基づき検出する場合には適当な制限酵素を含む。
【0068】
なお、本発明の2型糖尿病の多型同定キットにより、早期に2型糖尿病の予防または治療を必要とするか否かを判定するのに有効である。
【0069】
本発明により多型配列の有無を同定されるDNAは、ヒトの毛髪、血液、体液、唾液、培養細胞、切除された組織などから得ることができ、特に限定されない。
【0070】
本発明における2型糖尿病に関する、遺伝子発現量の調節を阻害する物質とは、遺伝子の発現量を増加もしくは減少の調節を阻害すれば何でもよく、タンパク質、抗体、遺伝子、DNA、RNAもしくはこれらの修飾体、低分子化合物、有機化合物などが考えられるが、それに限定されない。
【0071】
レジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含むDNA配列に結合して発現量を増加させる物質による発現量の増加を抑制または阻止する物質とは、発現量の増加を抑制または阻止すれば何でもよく、タンパク質、抗体、遺伝子、DNA、RNAもしくはこれらの修飾体、低分子化合物、有機化合物などが考えられるが、それに限定されない。好ましくは、Sp1およびまたはSp3の結合を阻害する物質で、Sp1およびまたはSp3に結合することで、多型を含むDNA配列への結合を阻害する物質、多型を含む配列DNA配列に特異的に結合し、Sp1およびまたはSp3の同配列への結合を阻害する物質、転写調節活性を変化させる物質またはSp1およびまたはSp3と相互作用する蛋白に影響する物質を指す。
具体的な例としては、文献(Diabetes 53: 1222-1229, 2004)に記載されているPPARg ligand等が挙げられる。
【0072】
遺伝子発現量の測定は、当業者に公知の方法により行なうことができる(例えば「新遺伝子工学ハンドブック」改定第3版、松村正實、山本雅編集、1999年9月10日、羊土社を参照)。例えば、ノザンブロット法、RNaseプロテクションアッセイ、定量的RT−PCR、ルシフェラーゼアッセイ等を用いることができるがこれらに限定されない。
【0073】
また、本発明のスクリーニング方法は、2型糖尿病が、レジスチン遺伝子の転写領域のDNA(多型部)に転写調節印紙(Sp1,Sp3等)が結合し、その結果としてレジスチンの発現流尾が増えて引き起こされるという知見から、これら一連の関係を分断する物質であれば2型糖尿病の予防または治療剤となることを利用している。
【0074】
スクリーニングを行う際に試験物質を添加する系は、レジスチン遺伝子の発現を測定する系、レジスチン遺伝子の転写調整領域と該転写調整領域に結合してレジスチン遺伝子の発現を調整する転写調整因子との結合を測定する系、試験物質がレジスチン遺伝子の転写調整領域と結合するか否かを測定できる系、試験物質が、転写調整領域に結合してレジスチン遺伝子の発現を調整する転写調整因子と結合するか否かを測定できる系に試験物質を含有させて行う。
【0075】
これらの系は、SL2等の細胞組織、大腸菌、酵母菌などの微生物内、無細胞でのインビトロ系、ヒトなどの生体内でのインビボ系でも良く、特に限定されない。レジスチン遺伝子はヒトの遺伝子であることが最も好ましいが、マウス、ラット、ブタ、イヌなどヒトに近く、発現系がヒトとほぼ同じと考えられるものであれば限定されるものではなく、これら動物でのインビボ系であっても良い。
言うまでもないが、インビトロ系は初期の一時スクリーニングを行うのに適している。
また、これらの系での発現、結合などの有無の測定は系にあった測定法を採用すれば良い。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例により特に限定されるものではない。
【0077】
参考例1
本発明を完成するにあたり、本発明者等は、愛媛大学医学部付属病院および愛媛県立病院の日本人糖尿病患者200名(パネル1)、197名(パネル2)およびコントロールとして、75g糖負荷試験正常もしくはHbA1cが5.6以下かつ空腹時血漿グルコースレベルが110mg/dl以下で糖尿病罹患歴及び家族歴のない人、200名(パネル1)、206名(パネル2)と、千葉県の糖尿病患者149名(パネル3)およびコントロール158名(パネル3)から得られたサンプルを用いた。表1に臨床所見を示す。
なお、糖尿病の診断は、American Diabetes Association criteria(The expert committee on diagnosis and classification of diabetes mellitus 2003)を用いた。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例1:レジスチン遺伝子の転写調節領域に含まれるSNPの検出
レジスチン遺伝子 を含むゲノム領域のDNA配列については、Diabetes,52:562−567(2003)に記載されている方法に従って配列を決定した。以下に簡単に説明する。
GenBankの情報に基づき(アクセッション番号NT_077812)、PCRプライマーをデザインし、ゲノムDNAの断片を増幅した後、ダイレクトシークエンス法によりレジスチン遺伝子の5‘上流域のSNPの同定を行った。用いたプライマーは、配列番号1〜5に示されるとおりである。
【0080】
(1)遺伝子断片増幅用プライマーの合成
配列番号1〜5に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1〜6)をDNA合成受託会社((株)Invitrogen等)に依頼した。
【0081】
(2)PCR法によるヒトレジスチン遺伝子断片の増幅
表1のDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりヒトレジスチン遺伝子断片を増幅した。
試薬:以下の試薬を含む25μl溶液を調製した。
プライマー1 5pmol
プライマー2 5pmol
×10緩衝液(宝酒造社製) 2.5μl
dNTP 5nmol
Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造社製) 0.625U
抽出DNA溶液 50ng
増幅条件
94℃・3分
94℃・30秒、55℃・30秒、72℃・60秒(35サイクル)
72℃・3分
【0082】
(3)レジスチン遺伝子のシークエンシング
PCR増幅産物をミリポア社製のマルチスクリーンPCRフィルターを用いて精製した後、ABI社製のジデオキシターミネーターサイクルシークエンシングキットを用いてシークエンス反応を行った。反応条件はキット添付の取扱説明書の方法に従った。以下に簡単に説明する。
【0083】
試薬:以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。
プライマー1,3,4または5 1.6pmol
Terminator Ready reagent mix(ABI社製) 2μl
【0084】
反応条件
96℃・1分
96℃・10秒、50℃・5秒、60℃・4分(25サイクル)
【0085】
反応液を、アマシャム社製のG−50ゲル濾過カラムにて精製した後、ABI社製Gene Analyzer 3100 sysytemを用いて配列を決定した。
【0086】
(4)レジスチン遺伝子の転写調節領域の多型と2型糖尿病との関連解析
関連性、頻度及びハーディ・ワインバーグ平衡を決定するための統計的手法より行った。
【0087】
表1のパネル1のサンプルを用いた結果、-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、-638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aの7カ所に多型を検出した。各多型の糖尿病群と対照群においての出現頻度をχ2検定で検討した結果、-420C>Gが2型糖尿病と密接に関連していることが分かった(表2)。更に表1のパネル2及び3のサンプルにおいて、-420C>Gの多型頻度を解析した結果、-420位の遺伝子型がGGの群とCG+CCの群を比較して、GGの群で優位に2型糖尿病との関連が認められた(表3)。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
実施例2:レジスチンの血清濃度測定
血清レジスチン濃度は、ヒトレジスチンELISAキット(LINCO Reserch Inc.)を用いて行った。測定はキットに添付されている取扱説明書に従って行った。以下に簡単に説明する。
(1)サンプル血清の希釈
表1、パネル1または2の93人の糖尿病患者から得られた血清を測定bufferで10倍に希釈した。
(2)マイクロプレートの洗浄
キットに付属しているマイクロプレートに、300μlの洗浄液を入れ、室温に5分放置後、洗浄液を捨てた。
(3)サンプルの添加
(2)で洗浄したマイクロプレートに、測定bufferを60μl入れた後、標準血清1及び2、検量線用スタンダード及び(1)で希釈したサンプル20μlをn=2で各ウエルに入れ、
マイクロプレートシェーカーで400-500rpmで混合しながら、室温で1.5時間放置。
(4)洗浄
(3)で添加したサンプルを捨て、300μlの洗浄液で3回洗浄。
(5)検出抗体
80μlの検出抗体溶液を各ウエルに入れ、マイクロプレートシェーカーで400-500rpmで混合しながら、室温で1時間放置。
(6)洗浄
(5)で添加した標識液を捨て、300μlの洗浄液で3回洗浄。
(7)酵素標識
80μlの酵素標識溶液を各ウエルに入れ、マイクロプレートシェーカーで400-500rpmで混合しながら、室温で0.5時間放置。
(8)洗浄
(7)で添加した酵素標識溶液を捨て、300μlの洗浄液で3回洗浄。
(9)発色
80μlの発色を各ウエルに入れ、マイクロプレートシェーカーで400-500rpmで混合しながら、室温で8-10分放置。
(8)停止
80μlの停止液を入れ、軽く混合した後、450nmと590nmの吸光度を測定し、検量線をを求め、サンプルのレジスチン濃度を算出した。
【0091】
その結果、-420C位の遺伝子型がCCの群、CGの群、GGの群の順に増加し、その量はCCの群と比較して優位に多かった(図1)。特に、GG群では20ng/を越え、CG群でも18ng/mlを越えており、この濃度が2型糖尿病の罹患の尺度となると考えることができる。
【0092】
実施例3:-420多型部位への転写調節因子の結合
-420多型部位への転写因子の結合性は、Biochem.J.,324:917−925(1997)に記載されている方法に従って、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)により検証した。以下に簡単に説明する。
(1)核抽出液の調整
分化した3T3-L1 adipocyteをbuffer A(5 mM Hepes/KOH, pH 7.8、 60 mM KCl、 15 mM NaCl、14 mM 2-メルカプトエタノール、 0.15 mM スペルミン、0.5 mM スペルミジン、1 mM PMSF 、0.2% ノニデット P40、0.3 M シュークロース)中でガラスホモジナイザーによりホモジナイズし、0.9Mシュークロース入りのbuffer Aの上に重層し、2500gで10分間、4℃で遠心分離した。核の沈殿を0.3Mシュークロース入りbuffer Aに懸濁し、0.9Mシュークロース入りのbuffer Aの上に重層し、同様に遠心分離した。沈殿をbuffer Aに懸濁し、2500gで10分間、4℃で遠心分離した。得られた沈殿を5倍量のbuffer B(20 mM Hepes/NaOH, pH 7.9, 420 mM NaCl, 1.5 mM MgCl2, 0.1 mM EDTA, 1 mM ジチオスレイトール, 1 mM PMSF and 10% グリセロール)に懸濁し、氷上スターラーでゆっくり回しながら45分懸濁し、2700gで15分間、4℃で遠心分離した。上澄みに1/100量の10%ノニデットP40溶液を添加し、氷上スターラーでゆっくり回しながら10分懸濁し、2700gで5分間、4℃で遠心分離した。上澄みを、50倍量の0.1MKClを含むbuffer C(25 mM Tris/HCl, pH 8.0, 1 mM EDTA, 5 mM MgCl2, 0.1% ノニデット P40, 1 mM ジチオスレイトール、 10% グリセロール)で2時間透析を2回繰り返した。透析した液を2700gで1分間、4℃で遠心分離した。上澄みを核抽出液とした。
【0093】
(2)EMSA
レジスチン遺伝子の-434/-406の領域を制限酵素KpnIとBgl IIで切り出し、放射性同位元素32Pで標識した。(1)で得られた核抽出液と標識核酸を30分間、1μgのポリ(dA-dT)入りのbufferCで反応させたのち、PAGE (6% gel)で 45 mM Tris/45 mM ホウ酸/1 mM EDTA 中で200 V、60分電気泳動した後、乾燥して、Kodak XAR フィルムに感光した。
【0094】
図2
CCタイプサンプルから調整した-420Cを含むDNA配列のプローブとGGサンプルから調整した-420Gを含むDNA配列のプローブを32Pで標識し、核抽出液と反応させた。このとき競合物として、-420Cプローブの方には非標識の-420Cプローブを200倍量、-420Gプローブの方には非標識の-420Gプローブを200倍量添加して行った。その結果、標識した-420Gプローブに競合プローブを入れない時にのみDNAと核内物質の複合体を認めた。これにより、-420Gに特異的に結合する物質が、核抽出液中に存在することが示唆された。
【0095】
図3.
32P標識した-420Gプローブと核抽出液との反応系に、非標識の各種転写因子の結合するDNA配列を200倍量加え、競合を検討した。この結果、SP転写調節因子のみが-420G配列と反応した。すなわち、-420Gプローブに結合する蛋白はSP転写因子結合配列にも結合することが確認された。
【0096】
図4
32P標識した-420Gプローブと核抽出液との反応系に、抗GST抗体、抗Sp1抗体あるいは抗Sp3抗体を作用させた。この結果-420Gプローブに核内物質が結合しゲルシフトを起こし(矢印A)、更にその複合体にSp1あるいはSp3の抗体が結合した場合、更にゲルシフト(矢印S)が起こっているのが認められた。これにより、-420Gに結合している核内物質がSp1及びまたはSp3であることが確認された。
【0097】
実施例4:-420多型部位へのSp1またはSp3の結合による転写活性の上昇
-420多型部位へのSp1またはSp3結合による転写活性の上昇は、J.Biochem.(Tokyo),130(6):885−891(2001)に記載されている方法に従って、ルシフェラーゼリポーターアッセイにより検証した。以下に簡単に説明する。
レジスチン遺伝子の-450/-206の領域を-420部位がCCのサンプルとGGのサンプルから別々にPCRで増幅し、pGL3-Basicベクター(Promega)のKpnI/Bgl IIサイトに結合させたリポータープラスミドを調整した。
1×106個のシュナイダー ライン2(SL2)細胞を、60mmの培養皿に培養し、24時間後に、2μgの-420部位を挿入したルシフェラーゼリポータープラスミドと、100ngのbeta-galactosidase 発現ベクターならびにSp1またはSp3発現プラスミドを燐酸カルシウム法により導入した。更に48時間培養の後、細胞を集めて、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0098】
その結果、-420部位がCのプラスミドを導入した群より、Gのプラスミドを導入した群の方が有意(p<0.05)にSp1 および Sp3 によりルシフェラーゼ活性が上昇していた(図5)
この結果より、-420部位がGである場合に特異的に転写調節因子(Sp1またはSp3)が結合して転写活性が上昇することが認められた。特にルシフェラーゼが2倍以上、特には3倍以上認められ、Sp3では5倍以上の活性上昇であった。これらの倍率は転写活性が向上した指標として採用することができる。
【0099】
上述したように、本発明は2型糖尿病に関する遺伝子の発現量を調節する物質およびその物質の作用を阻害する物質である。例えば2型糖尿病に関与するとされている、レジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含むDNA配列に結合して、レジスチン遺伝子の発現量を上昇させる物質である。またその上昇を抑制または阻止する物質であり、この物質を用いることで、2型糖尿病の発症の予防もしくは治療に有用な物質である。またこのような機能を有する多型を同定することは、2型糖尿病の予防もしくは治療の必要性の判定に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上の本発明者の実験により、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量を調節する物質およびその物質の作用を阻害する物質、例えば2型糖尿病に関与するとされている、レジスチン遺伝子のプロモ−ターの多型配列に結合して、レジスチン遺伝子の発現量を上昇させる物質でありその上昇を抑制または阻止する物質であり、この物質を用いることで、2型糖尿病の発症の予防もしくは治療を行うことができる。
【0101】
またこの多型を調べることが2型糖尿病の予防もしくは治療の必要性の判定に有用であることが示された。したがって、本発明によれば、2型糖尿病患者の早期発見と、2型糖尿病に罹患する可能性の高い人を従来の報告にない高い頻度で検出することができる。本発明の多型配列を同定することによって、糖尿病発症前に2型糖尿病に罹患する可能性の高いグループを検出することができ、糖尿病発症前に予防または早期の治療を行うことができる。さらに、他の糖尿病との関連が示唆されている遺伝子の多型の検出と組み合わせることにより、2型糖尿病に罹る可能性がより高い人をより高い精度で検出することができる。本発明のキットまたは方法を用いて、たとえ糖尿病の発症が確認される前であっても、希望により本発明の多型を有しているかどうかを調べ、2型糖尿病に罹患しやすい形質が遺伝しているかどうかを推定できる点で有益である。
【0102】
本発明により、レジスチン遺伝子の転写調節領域の-420C>GのG/G遺伝子型が、2型糖尿病に関連していることが初めて示された。さらに、この転写調節領域の-420Gを含む配列に特異的に転写因子が結合してレジスチン遺伝子の発現量が上昇していることが示された。このことは、本多型が疾患発症に深く関わっていること表している。
この結果によれば、レジスチン遺伝子自体、またはその上流又は下流で機能する遺伝子 、あるいはレジスチン遺伝子の転写調節に関わる因子が2型糖尿病の病因に関与するものと考えられる。さらには、レジスチン遺伝子の発現量を測定することにより2型糖尿病の予備的な診断が行なえることが示唆された。また、レジスチン遺伝子の発現を抑制することにより2型糖尿病の改善が図れることが予測される。
このように、レジスチン遺伝子は、2型糖尿病の治療または予防のための有望なターゲットとなりうるものである。したがって既に2型糖尿病と診断されている患者においても本発明の治療剤を用いることで、その治療に役立てることが可能である。
また、本発明のスクリーニング方法を採用することにより、効率よく2型糖尿病の予防薬または治療薬の有効成分をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例2で測定した血中レジスチン濃度の結果を示す。
【図2】実施例3で測定した多型配列と転写調節因子との結合性の結果を示す。
【図3】実施例3で測定した多型配列と転写調節因子との結合性の結果を示す。
【図4】実施例3で測定した多型配列と転写調節因子との結合性の結果を示す。
【図5】実施例4で測定した多型配列の転写活性測定の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2型糖尿病に関する遺伝子の発現量を調節することを特徴とする物質。
【請求項2】
該遺伝子の発現量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の物質。
【請求項3】
発現量を増加させる遺伝子が、ヒトのレジスチン遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の物質。
【請求項4】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域のDNA配列に結合する物質であることを特徴とする請求項1〜3いすれかに記載の物質。
【請求項5】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含む配列に結合する物質であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の物質。
【請求項6】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の物質。
【請求項7】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる転写調節因子が結合するレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aの内少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の物質。
【請求項8】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる転写調節因子が結合するレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が-420C>Gであることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の物質。
【請求項9】
請求項6記載の転写調節因子が、Sp1及び又はSp3であることを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の物質。
【請求項10】
ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を同定することで、2型糖尿病の予防又は治療の必要性を判定する方法。
【請求項11】
ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が、-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aの少なくとも一つであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項11記載の転写調節領域の多型の少なくとも一つを同定することを特徴とする請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の、-420C>G多型を同定することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
ヒトの血清レジスチン濃度を測定することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療の必要性を判定する方法。
【請求項15】
さらに、ヒトの血清レジスチン濃度を測定することを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を同定するキット。
【請求項17】
ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を同定する試薬を含む2型糖尿病に罹患する危険度を判定するキット。
【請求項18】
ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の、-420C>G多型を同定する試薬を含む2型糖尿病に罹患する危険度を判定する請求項17に記載のキット。
【請求項19】
ヒトの血清レジスチン濃度を測定する試薬を含む2型糖尿病に罹患する危険度を判定するキット。
【請求項20】
2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の調節を阻害する成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項21】
2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含むことを特徴とする請求項20に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項22】
2型糖尿病に関する遺伝子が、ヒトのレジスチン遺伝子であることを特徴とする請求項20又は21に記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項23】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域のDNA配列に結合する物質であり、該物質がそのDNA配列に結合することを阻害することを特徴とする請求項20〜22いずれかに記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項24】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質がレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含む配列に結合する物質であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該物質が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害するものであることを特徴とする請求項23記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項25】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であることを特徴とする請求項24記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項26】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該転写調節因子に結合することによって該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする請求項25記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項27】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分はヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型を含む配列に特異的に結合することによって該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする請求項25記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項28】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該転写調節因子の活性を変化させて、該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする請求項25記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項29】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現量を増加させる物質が転写調節因子であり、2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分は該転写調節因子が相互作用する物質に作用することによって該転写調節因子が転写調節領域の多型を含む配列に結合することを阻害することを特徴とする請求項25記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項30】
転写調節因子が、Sp1及び又はSp3であることを特徴とする請求項26〜29に記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項31】
ヒトのレジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が、-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項24、26、27,28、29のいずれかに記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項32】
レジスチン遺伝子の転写調節領域の多型が-420C>Gであることを特徴とする請求項24、26、27,28、29のいずれかに記載の2型糖尿病に関する遺伝子の発現量の増加を抑制又は阻止させる成分を含む2型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項33】
a.ヒトのレジスチン遺伝子の発現を測定する系に試験物質を添加する工程。
b.レジスチン発現を測定する工程。
c.試験物質を添加していない場合と比較して、レジスチン遺伝子の発現が抑制又は阻止されているかを比較判定する工程。
を有することを特徴とする、2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項34】
レジスチン遺伝子がその転写調整領域に-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aから選ばれる少なくとも一つの多型を持つことを特徴とする請求項33記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項35】
レジスチン遺伝子がその転写調整領域に-420C>Gの多型を持つことを特徴とする請求項33記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項36】
ヒトのレジスチン遺伝子の発現を測定する系が、転写調節因子の作用により発現する系であることを特徴とする請求項33〜35のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項37】
転写調節因子がSp1および/またはSp3であることを特徴とする請求項36に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項38】
レジスチン遺伝子の発現の測定が、転写活性を測定するものであることを特徴とする請求項33〜37のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項39】
レジスチン遺伝子の発現の測定が、発現されたレジスチン発現量もしくはmRNA量を測定するものであることを特徴とする請求項33〜37に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項40】
試験物質を、レジスチン遺伝子の転写調整領域のDNA配列と該転写調整領域のDNA配列に結合してレジスチン遺伝子の発現を調整する転写調整因子との結合を測定する系に含有させ、転写調整領域のDNA配列と転写調整因子との結合の変化を測定することを特徴とする、2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項41】
試験物質がレジスチン遺伝子の転写調整領域のDNA配列と結合するか否かを測定することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項42】
試験物質が、転写調整領域のDNA配列に結合してレジスチン遺伝子の発現を調整する転写調整因子と結合するか否かを測定することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項43】
レジスチン遺伝子が転写調整領域に-1093A>G、-1082C>T、-821G>A、 -638G>A、-537A>C、-420C>G、-358G>Aから選ばれる少なくとも一つの多型を持ち、転写因子と結合する部位もしくは試験物質が結合する部位が、該塩基多型部位であることを特徴とする請求項40〜42のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項44】
転写調整領域の塩基多型が-420C>Gであることを特徴とする請求項41に記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項45】
転写調節因子がSp1および/またはSp3であることを特徴とする、請求項40〜44のいずれかに記載の2型糖尿病の予防又は治療剤成分のスクリーニング方法。
【請求項46】
請求項33〜45のいずれかの方法により得られた成分を含有することを特徴とする2型糖尿病の予防又は治療剤。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−62974(P2006−62974A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244082(P2004−244082)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】