説明

2次電池の評価装置及び評価方法

【課題】 簡単かつ短時間で2次電池の性能を精度よく検査する。
【解決手段】 2次電池BAの電極間に電圧を印加して電流を流し、2次電池BAの複数の部分に対向させて磁気センサ10を位置させ、前記複数の対向位置の磁界を検出する。コントローラ70は、この検出磁界から、2次電池BAの複数の部分に流れる複数の電流の大きさをそれぞれ計算し、前記計算した複数の電流の大きさのうちで、2次電池BAの電極間に位置する電解質領域内の複数の電流の大きさを抽出する。そして、コントローラ70は、抽出された複数の電流の大きさの分布状態を表すグラフを作成して、表示装置72に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電可能な電池(以下、2次電池という)の性能を評価する2次電池の評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、2次電池の性能を評価する方法としていくつかの方法が提案されている。例えば、下記特許文献1に示されているように、2次電池を充電して充電電流を測定し、測定した充電電流を積分することによって2次電池の充電容量を算出して、算出した充電容量を用いて2次電池の性能を評価する方法がある。また、下記特許文献2に示されているように、2次電池に交流電圧を印加して2次電池に流れる電流を測定し、その測定結果から2次電池の内部インピーダンスを算出して、算出した内部インピーダンスを用いて2次電池の性能を評価する方法もある。また、下記特許文献3に示されているように、2次電池から所定の電流を流して所定時間後に電圧降下を測定し、電圧降下の測定結果から、2次電池の性能の一つである大電流特性(瞬間的に要求される大電流の放電特性)を評価する方法もある。これらの方法により、2次電池を評価すれば、2次電池の性能を判定することができ、また初期の評価結果を得ておけば、2次電池の劣化の度合いを判定することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−306612号公報
【特許文献2】特開2004−163344号公報
【特許文献3】特開2003−197271号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、本発明者は研究を重ねることにより、2次電池内部の電極間の電流の流れ方が2次電池の種類により、また2次電池の劣化の度合いにより大きく異なることを発見した。具体的に述べると、2次電池内部の電極間の電流の流れ方は電極間の一部のルートに最も大きな電流が流れ、そのルートから離れるルートほど流れる電流が小さくなり、この小さくなる度合いは2次電池の種類により、また2次電池の劣化の度合いにより大きく異なることを発見した。すなわち、前記電流が小さくなる度合いが大きい2次電池ほど、2次電池内部では、大きな電流が流れる部分がある領域に限定され、その箇所での発熱が大きく、そのような2次電池は性能がよくないと言えるが、そのような観点での評価はこれまでされていなかった。また、本発明者は、前述した従来技術で評価された項目で大きな差がなくても、2次電池が劣化すると、2次電池内部での前記電流の流れ方に大きな差が出ることも発見した。これは、従来技術に示された評価項目のみでは、2次電池の性能を正確に評価できないという問題があることを意味する。
【0005】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、その目的は、2次電池内部の電流の流れ方を検出し、その検出結果から簡単に2次電池の性能を評価することができる2次電池の評価装置を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、2次電池(BA)の電極(EP1,EP2)間に電圧を印加して電流を流す通電手段(65,66)と、2次電池の複数の部分に対向して位置し、前記複数の部分に流れる電流によって発生する磁界を検出して、検出磁界を表す信号を出力する磁界検出手段(10)と、磁界検出手段から出力される検出磁界を表す信号から、2次電池の複数の部分に流れる複数の電流の大きさ又は前記複数の部分に対向した位置における複数の磁界の強さを複数の評価対象物理量としてそれぞれ計算する評価対象物理量計算手段(70,S10〜S80,S102〜S124)と、評価対象物理量計算手段によって計算された複数の評価対象物理量のうちで、2次電池の電極間に位置する電解質領域内の複数の部分に対応した複数の評価対象物理量を抽出する評価対象物理量抽出手段(70,S190〜S204,S212)と、評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフを作成して表示するグラフ表示手段(70,S210〜S220,S224)とを備えたことにある。
【0007】
この場合、複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフは、例えば、評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量のうちで、評価対象物理量の大きさと、前記評価対象物理量の大きさ以上又は以下の評価対象物理量の大きさの占める割合との関係を示す関係曲線である。また、複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフは、評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量のうちで、評価対象物理量の大きさと、前記評価対象物理量の大きさの占める割合との関係を示す関係曲線であってもよい。
【0008】
上記のように構成した本発明においては、評価対象物理量抽出手段が2次電池の電極間に位置する電解質領域内の複数の部分に対応した複数の評価対象物理量(すなわち、2次電池の複数の部分に流れる複数の電流の大きさ又は前記複数の部分に対向した位置における複数の磁界の強さ)を抽出し、グラフ表示手段が前記抽出された複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフを作成して表示する。この場合、磁界の強さは電流の大きさに比例するので、作業者は、グラフ表示手段に表示されるグラフから電解質領域の各部に流れる電流の分布状態を把握できる。すなわち、作業者は、前述したように、電極間の一部のルートに流れる大きな電流に対して電流が小さくなる度合いを把握でき、劣化の度合いを含む2次電池の性能を簡単に評価できるようになる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、関係曲線は、例えば、評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量の大きさの最大値で除算した評価対象物理量の大きさを用いて作成したものであることにある。これによれば、関係曲線における評価対象物理量(電流の大きさ又は磁界の強さ)の軸は、どのような場合でも最大で「1」になる。また、もう一つの軸である評価対象物量の大きさの占める割合の軸も最大で「1」であるので、どのような場合でも関係曲線の軸の目盛りは一定になる。よって、2次電池の種類及び印加電圧によらず、関係曲線による2次電池の評価が簡単に行える。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、さらに、関係曲線を規定する関数の積分値を計算して表示する積分値表示手段(70,S222,S224)を設けたことにある。この場合、関係曲線を規定する関数の積分値は、大きな評価対象物理量(電流の大きさ又は磁界の強さ)の割合が、小さな評価対象物理量の割合よりも大きくなる場合と、小さな評価対象物理量の割合よりも小さくなる場合とで異なる値を取る。したがって、この積分値の大小によっても、劣化の度合いを含む2次電池の評価を行えるようになる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、評価対象物理量抽出手段が、評価対象物理量計算手段によって計算された複数の評価対象物理量を用いて電解質領域を決定する電解質領域決定手段(70,S192〜S204)を有することにある。これによれば、評価対象物理量すなわち電流分布又は磁界分布から2次電池の電解質部分の領域が自動的に検出されるので、作業者は2次電池の電解質領域を指定する必要がなくなる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、通電手段が、直流電圧に所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧を2次電池の電極間に印加し、磁界検出手段が、前記所定周波数に等しい周波数で変化する磁界を検出して検出磁界を表す信号を出力することにある。これによれば、地磁気及び外部磁界の影響を除くことができ、電池に流れる電流により発生する磁界のみを検出することができ、2次電池の評価の精度が向上する。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、交流成分を重畳させる前の直流電圧が、2次電池の動作電圧範囲内にあるようにしたことにある。これによれば、2次電池の評価中には2次電池は充放電を繰返し、評価後の2次電池の出力電圧は必ず2次電池の動作電圧範囲内になり、2次電池が過充電又は過放電されることがなくなる。
【0014】
さらに、本発明の実施にあたっては、本発明は、2次電池の評価装置の発明に限定されることなく、2次電池の評価方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る2次電池の評価装置の全体構成図である。
【図2】図1のステージ及び磁気センサの移動機構の具体例を示す概略斜視図である。
【図3】前記ステージにセットする電池セット用テーブルの概略斜視図である。
【図4】図1の磁気センサ及びセンサ信号取出回路の詳細回路ブロック図である。
【図5】図1のロックインアンプの詳細回路ブロック図である。
【図6A】図1のコントローラによって実行されるデータ取得プログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図6B】前記データ取得プログラムの後半部分を示すフローチャートである。
【図7A】図1のコントローラによって実行される評価プログラムの先頭部分を示すフローチャートである。
【図7B】前記評価プログラムの図7Aに続く部分を示すフローチャートである。
【図7C】前記評価プログラムの図7Bに続く部分を示すフローチャートである。
【図7D】前記評価プログラムの図7Cに続く部分を示すフローチャートである。
【図7E】前記評価プログラムの図7Dに続く部分を示すフローチャートである。
【図8】2次電池の電極に印加される通電電圧の波形図である。
【図9】検出される2次電池に流れる電流の波形図である。
【図10】磁気センサによる2次電池に対する走査態様の説明図である。
【図11】Y方向の電流大きさデータIyの度数分布を表す図である。
【図12】リチウムイオン2次電池の電極領域及び電流の流れる電解質領域を説明するための図である。
【図13】リチウムイオン2次電池の電解質領域内を流れる電流を示す図である。
【図14】電解質領域内の各部に流れる電流の最大値に対する電流の大きさの比を表す電流大きさ比と、電解質領域内の各部を流れている電流であって前記電流大きさ比以上の電流の大きさが占める割合との関係を示す関係曲線の図である。
【図15】図14の関係曲線で表された関数の積分値すなわち前記関係曲線とX,Y軸で囲まれる部分の面積を計算するための演算式を説明するための図である。
【図16】電解質領域内の各部に流れる電流の最大値に対する電流の大きさの比を表す電流大きさ比と、電解質領域内の各部を流れている電流であって前記電流大きさ比以下の電流の大きさが占める割合との関係を示す関係曲線の図である。
【図17】電解質領域内の各部に流れる電流の最大値に対する電流の大きさの比を表す電流大きさ比と、電解質領域内の各部を流れている電流であって前記電流大きさ比の電流の大きさが占める割合との関係を示す関係曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る2次電池の評価装置について図面を用いて説明する。図1は、この2次電池の評価装置の全体概略図である。この2次電池の評価装置は、本実施形態に係る複数の2次電池(リチウムイオン2次電池BA)を一度に評価できるようにする構造を有しているが、電池の形状、種類などに応じて種々の構造が採用され得る。
【0017】
この2次電池の評価装置は、磁気センサ10を支持固定するセンサ支持台11を有し、センサ支持台11は、X方向スライド機構20によってX方向(紙面左右方向)に移動するとともに、Y方向スライド機構30によってY方向(紙面垂直方向)に移動する。センサ支持台11は、図2に詳細に示すように、方形状の平板で構成されて、上面にて磁気センサ10を支持固定する。このセンサ支持台11は、X方向スライド機構20の一部を構成する方形状の移動部材21により支持されている。この移動部材21には、センサ支持台11を上下に変位させて磁気センサ10の上下方向位置を調整する調整機構(図示しない)が設けられており、調整つまみ22の操作によりセンサ支持台11が上下方向に位置調整されるようになっている。
【0018】
移動部材21の下面には、Y方向に所定の幅を有する凸部21aが設けられている。この凸部21aは、X方向に延設された支持部材23の上面に設けた溝23aに侵入して、溝23a内をX方向にスライドするようになっている。支持部材23の溝23a内には、X方向に延設されて移動部材21の凸部を貫通する雄ねじ24が収容されている。移動部材21の凸部21a内には、雄ねじ24に螺合した図示しないナットが組み込まれており、雄ねじ24の回転により、移動部材21がX方向に移動するようになっている。すなわち、雄ねじ24と移動部材21に組み込まれたナットにより、ボールねじ機構が構成されている。雄ねじ24の一端は、支持部材23の一端に組み付けたX方向モータ25の回転軸に連結され、雄ねじ24の他端は支持部材23の他端に回転可能に支持されている。これにより、X方向モータ25の回転により雄ねじ24が軸線周りに回転して、移動部材21、センサ支持台11及び磁気センサ10がX方向に移動する。
【0019】
支持部材23のX方向の両端近傍部の下面には、X方向に所定の幅を有する凸部23b,23cがそれぞれ設けられている。これらの凸部23b、23cは、Y方向にそれぞれ延設された支持部材31,32の上面に設けた溝31a,32aに侵入して、溝31a,32a内をY方向にスライドするようになっている。支持部材31の溝31a内には、Y方向に延設されて支持部材23の凸部23bを貫通する雄ねじ33が収容されている。支持部材23の凸部23b内には、雄ねじ33に螺合した図示しないナットが組み込まれており、雄ねじ33の回転により、支持部材23がY方向に移動するようになっている。すなわち、雄ねじ33と支持部材23に組み込まれたナットにより、ボールねじ機構が構成されている。雄ねじ33の一端は、支持部材31の一端に組み付けたY方向モータ34の回転軸に連結され、雄ねじ33の他端は支持部材31の他端に回転可能に支持されている。これにより、Y方向モータ34の回転により雄ねじ33が軸線周りに回転して、支持部材23が移動部材21、センサ支持台11及び磁気センサ10と共にY方向に移動する。
【0020】
また、この2次電池の評価装置は、リチウムイオン2次電池BAを載置するための、ステージ40を備えている。ステージ40は、支持部材31,32の各端部から上方に延設された連結部41a,41b,41c,41dを介して、支持部材31,32の上方に配置された枠42を有している。枠42は、支持部材31,32の上方にそれぞれ位置する外枠42a,42bと、両外枠42a,42bの両端部をそれぞれ連結する外枠42c,42dとを備えている。これらの外枠42a,42b,42c,42dには、外枠42a,42b,42c,42dをそれぞれ連結して方形状の窓を形成する内枠42eが一体的に設けられている。これらの外枠42a,42b,42c,42d及び内枠42eによって形成される窓には段差が設けられており、これらの窓には電池セット用テーブル50がそれぞれ組み付けられるようになっている。
【0021】
電池セット用テーブル50は、図3に示すように、ステージ40の方形状の窓に載置されて組み付けられる寸法の支持板51を有する。この支持板51には、リチウムイオン2次電池BAがセットされる方形状の凹部51aが設けられている。リチウムイオン2次電池BAは、電極52a,52bが対向する側面にそれぞれ配置されていなければ、リチウムイオン2次電池BAの電極52a,52bを有しない隣合った2側面が交差する角部がX−Y座標の原点位置に対して最も近くに位置するように、前記2側面が凹部51aの端面に当接するように配置される。一方、リチウムイオン2次電池BAの電極52a,52bが対向する側面にそれぞれ配置されている場合には、電極52a,52bが配置されていない一側面を凹部51aのX方向又はY方向に延びた一方の端面に当接させ、かつ電極52a,52bの一方を有する側面をX方向又はY方向に延びた他方の端面になるべく近づけるようにして、リチウムイオン2次電池BAをX−Y座標の原点位置に対して最も近くに位置させる。なお、電極52aは正電極であり、電極52bは負電極である。電池セット用テーブル50をステージ40の窓に組み付け、かつリチウムイオン2次電池BAを電池セット用テーブル50にセットした状態では、磁気センサ10がリチウムイオン2次電池BAの下方に位置するようになっている。また、支持板51の上面には、電池セット用テーブル50を持ち運ぶための取手53,53も設けられている。
【0022】
図1の説明に戻ると、X方向モータ25内には、X方向モータ25の回転を検出して、その回転を表す回転信号を出力するエンコーダ25aが組み込まれている。この回転信号は、X方向モータ25が所定の微少角度だけ回転するたびにハイレベルとローレベルとを交互に切替えるパルス列信号であって、回転方向を識別するために互いにπ/2だけ位相のずれたA相信号とB相信号とで構成される。回転信号は、X方向位置検出回路61及びX方向フィードモータ制御回路62に出力される。X方向位置検出回路61は、前記回転信号のパルス数をX方向モータ25の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値からX方向モータ25によるステージ40に対するセンサ支持台11のX方向位置(すなわち磁気センサ10のX方向位置)を検出し、検出したX方向位置をX方向フィードモータ制御回路62及び後述するコントローラ70に出力する。X方向フィードモータ制御回路62は、コントローラ70の指示により、X方向モータ25の駆動及び停止を制御する。このX方向モータ25の駆動時においては、X方向フィードモータ制御回路62は、エンコーダ25aからの回転信号を用いてX方向モータ25を所定の回転速度で回転させる。
【0023】
X方向位置検出回路61におけるカウント値の初期設定は、電源投入時にコントローラ70の指示によって行われる。すなわち、コントローラ70は、電源投入時に、X方向フィードモータ制御回路62にセンサ支持台11の初期位置に対応したX方向限界位置への移動、及びX方向位置検出回路61に初期設定を指示する。この指示により、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25を駆動してセンサ支持台11を初期位置に対応したX方向限界位置まで移動させる。X方向位置検出回路61は、センサ支持台11のX方向への移動中、X方向モータ25内のエンコーダ25aからの回転信号を入力し続けている。そして、センサ支持台11が初期位置に対応したX方向限界位置まで達してX方向モータ25の回転が停止すると、X方向位置検出回路61はエンコーダ25aからの回転信号の入力停止を検出して、カウント値を「0」にリセットする。このとき、X方向位置検出回路61は、X方向フィードモータ制御回路62に出力停止のための信号を出力し、これにより、X方向フィードモータ制御回路62はX方向モータ25への駆動信号の出力を停止する。その後に、X方向モータ25が駆動された際には、X方向位置検出回路61は、回転信号のパルス数をX方向モータ25の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値に基づいてセンサ支持台11のX方向位置を計算し、計算したX方向位置をX方向フィードモータ制御回路62及びコントローラ70に出力し続ける。
【0024】
Y方向モータ34内には、Y方向モータ34の回転を検出して、前記X方向モータ25と同様に、その回転を表す回転信号を出力するエンコーダ34aが組み込まれている。この回転信号は、Y方向位置検出回路63及びY方向フィードモータ制御回路64に出力される。Y方向位置検出回路63は、前記回転信号のパルス数をY方向モータ34の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値からY方向モータ34によるセンサ支持台11のY方向位置(すなわち磁気センサ10のY方向位置)を検出し、検出したY方向位置をY方向フィードモータ制御回路64及びコントローラ70に出力する。Y方向フィードモータ制御回路64は、コントローラ70の指示により、前記X方向フィードモータ制御回路62の場合と同様に、Y方向モータ34の駆動及び停止を制御する。このY方向モータ34の駆動時においては、Y方向フィードモータ制御回路64は、エンコーダ34aからの回転信号を用いてY方向モータ34を所定の速度で回転させる。
【0025】
Y方向位置検出回路63におけるカウント値の初期設定も、電源投入時にコントローラ70の指示によって行われる。すなわち、コントローラ70は、電源投入時に、Y方向フィードモータ制御回路64にセンサ支持台11の初期位置に対応したY方向限界位置への移動、及びY方向位置検出回路63に初期設定を指示する。この指示により、Y方向フィードモータ制御回路64は、Y方向モータ34を駆動してセンサ支持台11を初期位置に対応したY方向限界位置まで移動させる。Y方向位置検出回路63は、センサ支持台11のY方向への移動中、Y方向モータ34内のエンコーダ34aからの回転信号を入力し続けている。そして、センサ支持台11が初期位置に対応したY方向限界位置まで達してY方向モータ34の回転が停止すると、Y方向位置検出回路63はエンコーダ34aからの回転信号の入力停止を検出して、カウント値を「0」にリセットする。このとき、Y方向位置検出回路63は、Y方向フィードモータ制御回路64に出力停止のための信号を出力し、これにより、Y方向フィードモータ制御回路64はY方向モータ34への駆動信号の出力を停止する。その後に、Y方向モータ34が駆動された際には、Y方向位置検出回路63は、回転信号のパルス数をY方向モータ34の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値に基づいてセンサ支持台11のY方向位置を計算し、計算したY方向位置をY方向フィードモータ制御回路64及びコントローラ70に出力し続ける。
【0026】
この2次電池の評価装置は、さらに、通電信号供給回路65、通電回路66、通電選択回路67、センサ信号取出回路68、ロックインアンプ69及びコントローラ70を備えている。通電信号供給回路65は、正弦波発振器及び矩形波変換回路を含み、コントローラ70によって作動制御されて、正弦波発振器によって発振される正弦波信号を通電信号として通電回路66に供給する。なお、通電信号は、「0」を基準に正負に変化する信号であり、その周波数は、例えば数10ヘルツから数100ヘルツ程度である。また、通電信号供給回路65は、前記正弦波信号からなる通電信号を矩形波変換回路による変換により、前記通電信号と同期して「0」を中心として正負に変化する矩形波信号を生成して、参照信号としてロックインアンプ69に出力する。
【0027】
通電回路66も、コントローラ70によって作動制御されて、通電選択回路67を介してリチウムイオン2次電池BAに通電する。この場合、通電回路66は、通電信号供給回路65から供給される「0」を基準に正負に変化する正弦波信号に正のオフセット電圧を加算して、前記オフセット電圧を中心に正弦波状に変化して常に正の範囲内で変化する通電信号に変換して、接続線L1を介してリチウムイオン2次電池BAの陽極52aに供給する。一方、通電回路66の接地側端子は、リチウムイオン2次電池BAの陰極52bに接続される。すなわち、所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧が、リチウムイオン2次電池BAの陽極52a及び陰極52b間に印加される。なお、この交流成分の重畳された直流電圧(通電電圧)は、リチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内で変動するものである。すなわち、通電電圧の最高電圧がリチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限値以下であり、かつ最低電圧がリチウムイオン2次電池BAの放電電圧の下限値以上である電圧である。
【0028】
具体的には、例えば、リチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限が4.1vであり、放電電圧の下限が2.9vであれば、これらの中間付近の電圧(例えば、3.5v)に交流信号が重畳される(図8参照)。なお、特に、前記中間付近の電圧に交流信号を重畳しなくても、交流信号の重畳された通電電圧が常にリチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限と放電電圧の下限との間にあれば、適当な電圧を利用できる。また、重畳される交流信号の振幅に関しても、前記重畳の結果としての通電電圧が常にリチウムイオン2次電池BAの充電電圧の上限と放電電圧の下限との間になるように設定される。
【0029】
この場合、リチウムイオン2次電池BAに現在の出力電圧より高い電圧が印加されると、通電電圧による電流の方向に電流を流す、すなわちリチウムイオン2次電池BAは充電される。また、リチウムイオン2次電池BAに現在の出力電圧より低い電圧が印加されると、通電電圧による電流の方向と反対方向に電流を流す、すなわちリチウムイオン2次電池BAは放電される。このため、前記通電電圧の印加により、リチウムイオン2次電池BAは充電と放電を繰り返す。このときの電流の強度変化を充電時の電流の方向で見ると、図9のようになる。そして、ロックインアンプ69により通電電圧と同じ周波数の磁界成分を検出し、それを電流成分に換算すると、矢印で示した箇所の値が正の値として検出される。これは、あたかも通電電圧により充電方向に流れる電流を検出したようになる。その結果、詳しくは後述するように、この検出した値を複数の位置で求めて得られる電流の大きさの分布状態を把握することで、リチウムイオン2次電池BAの評価を行うことができる。
【0030】
通電選択回路67は、通電回路66から供給された通電電圧を接続線L1を介して、リチウムイオン2次電池BAに供給する。すなわち、複数の接続線L1は、リチウムイオン2次電池BAに設けた正電極52a及び負電極52bにそれぞれ接続される。この場合、通電選択回路67は、コントローラ70によって制御され、セットされた複数のリチウムイオン2次電池BAのうちでコントローラ70によって指定された一つのリチウムイオン2次電池BAに通電する。
【0031】
次に、磁気センサ10について説明しておく。磁気センサ10は、図4に示すように、X方向の磁界を検出するX方向磁気センサ10Aと、Y方向の磁界の変化を検出するY方向磁気センサ10Bとを備えている。X方向磁気センサ10Aは、抵抗r11,r12,r13及び磁気抵抗素子MR1からなるブリッジ回路で構成されており、抵抗r11,r13の接続点と、抵抗r12及び磁気抵抗素子MR1の接続点との間に、センサ信号取出回路68の後述する定電圧供給回路68aから電圧+V,−Vが印加されるようになっている。また、X方向磁気センサ10Aにおいては、抵抗r13及び磁気抵抗素子MR1の接続点と、抵抗r11,r12間の接続点との間の電圧をX方向磁気検出信号として出力する。抵抗r11,r12,r13の値は同じであり、磁界の強さが「0」であるときの磁気抵抗素子MR1の抵抗値に等しい。これにより、ほぼ「0」を基準としたX方向の磁界の正負の変化により、X方向磁気検出信号はほぼ「0」を基準にX方向の磁界の大きさに比例して正負に変化する電圧信号となる。
【0032】
Y方向磁気センサ10Bは、抵抗r21,r22,r23及び磁気抵抗素子MR2からなるブリッジ回路で構成されており、抵抗r21,r22の接続点と、抵抗r23及び磁気抵抗素子MR2の接続点との間に、センサ信号取出回路68の後述する定電圧供給回路68bから電圧+V,−Vが印加されるようになっている。また、Y方向磁気センサ10Bにおいては、抵抗r22及び磁気抵抗素子MR2の接続点と、抵抗r21,r23間の接続点との間の電圧をY方向磁気検出信号として出力する。抵抗r21,r22,r23の値は同じであり、磁界の強さが「0」であるときの磁気抵抗素子MR2の抵抗値に等しい。これにより、ほぼ「0」を基準としたY方向の磁界の正負の変化により、Y方向磁気検出信号はほぼ「0」を基準にY方向の磁界の大きさに比例して正負に変化する電圧信号となる。
【0033】
センサ信号取出回路68は、定電圧供給回路68a,68b及び増幅器68c,68dを備えている。定電圧供給回路68a,68bは、コントローラ70からの指示により、X方向磁気センサ10A及びY方向磁気センサ10Bに対して、定電圧+V,−Vを供給する。増幅器68c、68dは、X方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号をそれぞれ増幅してロックインアンプ69に出力する。
【0034】
ロックインアンプ69は、図5に詳細に示すように、X方向磁気センサ10Aから増幅器68cを介して供給されるX方向磁気検出信号を入力するハイパスフィルタ69aと、Y方向磁気センサ10Bから増幅器68dを介して供給されるY方向磁気検出信号を入力するハイパスフィルタ69bとを備えている。ハイパスフィルタ69a,69bは、X方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号に含まれる、磁界の強さに比例した信号成分以外の不要な成分を取り除くとともに、信号をグランドレベルを中心に変化するようにする。
【0035】
ハイパスフィルタ69aの出力は、増幅器69cを介して位相検波回路69d,69eに供給される。位相検波回路69d,69eは、それぞれ乗算器によって構成されている。位相検波回路69dは、ハイパスフィルタ69a及び増幅器69cを介して供給されるX方向磁気検出信号に、通電信号供給回路65からの参照信号を乗算してローパスフィルタ69fに出力する。位相検波回路69eは、ハイパスフィルタ69a及び増幅器69cを介して供給されるX方向磁気検出信号に、通電信号供給回路65からの参照信号を位相シフト回路69gで90度位相を遅らせた遅延参照信号を乗算してローパスフィルタ69hに出力する。これにより、ローパスフィルタ69fにはX方向磁気検出信号の通電信号(参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69fは供給された成分信号をローパスフィルタ処理してX方向磁気検出信号の通電信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。ローパスフィルタ69hにはX方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号(遅延参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69hは供給された成分信号をローパスフィルタ処理してX方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。
【0036】
ハイパスフィルタ69bの出力は、増幅器69iを介して位相検波回路69j,69kに供給される。位相検波回路69j,69kには、ローパスフィルタ69m,69nが接続されている。位相検波回路69j,69k及びローパスフィルタ69m,69nは、前述した位相検波回路69d,69e及びローパスフィルタ69f,69hと同様に構成されている。これにより、ローパスフィルタ69mにはY方向磁気検出信号の通電信号(参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69mは供給された成分信号をローパスフィルタ処理してY方向磁気検出信号の通電信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。ローパスフィルタ69nにはY方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号(遅延参照信号)と同期した成分が供給され、ローパスフィルタ69nは供給された成分信号をローパス処理してY方向磁気検出信号の通電信号よりも90度位相を遅らせた信号と同期した成分の大きさを表す信号を出力する。ローパスフィルタ69f,69h,69m,69nは、A/D変換器69o,69p,69q,69rにそれぞれ接続されている。A/D変換器69o,69p,69q,69rは、所定の時間間隔ごとに、ローパスフィルタ69f,69h,69m,69nからの信号をそれぞれA/D変換してコントローラ70に供給する。
【0037】
ふたたび図1の説明に戻り、コントローラ70は、CPU、ROM、RAMを備えたマイクロコンピュータと、ハードディスクや不揮発性メモリなどの記憶装置と、入出力インタフェース等から構成される電子制御装置である。コントローラ70は、記憶装置に記憶された図6A及び図6Bのデータ取得プログラム及び図7A及び図7Eの評価プログラムを実行してこの2次電池の評価装置の動作を制御する。コントローラ70には、作業者が各種パラメータや処理等を指示するための入力装置71と、作業者に対して作動状況等を視覚的に知らせるための表示装置72とが接続されている。
【0038】
次に、上記のように構成した2次電池の評価装置の動作について説明する。作業者は、図1に示すように、複数の電池セット用テーブル50をステージ40の枠42に組み付けるとともに、検査対象であるリチウムイオン2次電池BAを電池セット用テーブル50にセットする。そして、作業者は、リチウムイオン2次電池BAの正電極52a及び負電極52bを接続線L1を介して通電選択回路67に接続する。この状態で、2次電池の評価装置の電源が投入されると、上述したように、コントローラ70の指示により、X方向フィードモータ制御回路62及びY方向フィードモータ制御回路64はセンサ支持台11(すなわち磁気センサ10)をX方向及びY方向の限界位置に移動させるとともに、X方向位置検出回路61及びY方向位置検出回路63は検出されるX方向位置及びY方向位置を初期値に設定する。
【0039】
その後、作業者は、入力装置71を操作することにより、電池セット用テーブル50にセットされたリチウムイオン2次電池BAであって、リチウムイオン2次電池BAのX方向長さ、Y方向長さ及び電極数を評価される順にそれぞれ入力する。このとき、X方向長さ及びY方向長さは、リチウムイオン2次電池BAを電池セット用テーブル50の凹部51aのコーナーに角部を当接させてセットできていれば、リチウムイオン2次電池BA自体のX方向長さ及びY方向長さを入力すればよいが、そうでない場合には、凹部51aのコーナーからリチウムイオン2次電池BAの各端部までの長さをX方向長さ及びY方向長さとして入力する。また、この評価される順は、例えば、X,Y軸方向の原点位置からX軸方向正側及び負側に往復するとともに、Y軸方向正側に向かうように設定されている。その後、作業者は、入力装置71を操作してリチウムイオン2次電池BAの評価開始をコントローラ70に指示する。この指示に応答して、コントローラ70は、図6AのステップS10にてデータ取得プログラムの実行を開始し、ステップS12にて変数sを「1」に設定する。この変数sは、電池セット用テーブル50を介してステージ40上にセットされたリチウムイオン2次電池BAのそれぞれを指定するものであり、全てのリチウムイオン2次電池BAに対して1,2,3・・smaxの評価順に変化する変数sが割り当てられている。
【0040】
前記ステップS12の処理後、コントローラ70は、ステップS14にて、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAを選定し、選定したリチウムイオン2次電池BAに通電するように通電選択回路67に指示信号を出力する。通電選択回路67は、接続L1を介して通電されるリチウムイオン2次電池BAを選択する。次に、コントローラ70は、ステップS16にて変数nを「0」に初期設定するとともに、変数m,aをそれぞれ「1」に初期設定する。変数n,mは、前記選定されたリチウムイオン2次電池BAに対する磁気センサ10のX方向及びY方向の走査位置を示す変数である。変数aは、「1」により磁気センサ10の中心位置がX軸方向正側に移動している状態を表し、「−1」により磁気センサ10の中心位置がX軸方向負側に移動している状態を表している。以降、この磁気センサ10の中心位置を検査位置という。
【0041】
この場合、磁気センサ10は、図10に示すように、リチウムイオン2次電池BAごとに、初期値Xs,Ysによって指定される初期位置から、X方向に終了値Xmaxによって表される終了位置を越えるまで所定の微小値ΔXずつ移動制御される。そして、X方向の終了位置に達すると、磁気センサ10はY方向に所定の微小値ΔYだけ移動制御され、その後に、X方向の終了位置からX方向の開始位置まで微小値ΔXずつ移動制御される。そして、ふたたび、磁気センサ10はY方向に微小値ΔYだけ移動制御されて、X方向の開始位置から終了位置まで微小値ΔXずつ移動制御される。このように、磁気センサ10は、X方向に往復運動しながらY方向に移動して、リチウムイオン2次電池BAを走査する。なお、これらの初期値Xs,Ysは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAごとに予め決められて記憶されている。また、終了値Xmax,Ymaxは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAごとに、前記入力したX方向長さ及びY方向長さを用いて予め計算されて記憶されている。また、微小値ΔX,ΔYは、リチウムイオン2次電池BAの縦横の長さ(Xmax−Xs,Ymax−Ysより若干小さな値)に比べて極めて小さく、予め決められて記憶されている値である。
【0042】
前記ステップS16の処理後、コントローラ70は、ステップS18にて、X方向フィードモータ制御回路62に対し、磁気センサ10をX軸方向に移動して検査位置が変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのX軸方向の初期値Xsによって表される初期位置になるように指示するとともに、Y方向フィードモータ制御回路64に対し、磁気センサ10をY軸方向に移動して検査位置が変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのY軸方向の初期値Ysによって表される初期位置になるように指示する。この指示に応答して、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向位置検出回路61からX方向検出位置(X軸方向の検査位置)を入力しながら、X方向検出位置が初期値Xsに一致するまでX方向モータ25を駆動制御する。Y方向フィードモータ制御回路64は、Y方向位置検出回路63からY方向検出位置(Y軸方向の検査位置)を入力しながら、Y方向検出位置が初期値Ysに一致するまでY方向モータ34を駆動制御する。
【0043】
ステップS18の処理後、コントローラ70は、ステップS20にて通電信号供給回路65の作動開始を指示する。この指示に応答して、通電信号供給回路65は、正弦波状の通電信号を通電回路66に供給するとともに、前記通電信号と同期した矩形波状の参照信号をロックインアンプ69に供給し始める。次に、コントローラ70は、ステップS22にて通電回路66の作動開始を指示する。この指示に応答して、通電回路66は、前記供給された通電信号をリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内で変化する通電信号(図8参照)に変換して通電選択回路67に出力する。通電選択回路67は、前記ステップS14の処理によって指定されたリチウムイオン2次電池BAに対して、前記通電回路66から供給された通電信号を供給する。これにより、前記指定されたリチウムイオン2次電池BAは、充放電を繰り返しながら、正極、負極及び電解質領域に通電信号を流し始める。次に、コントローラ70は、ステップS24にてセンサ信号取出回路68の作動開始を指示する。この指示に応答して、センサ信号取出回路68内の定電圧供給回路68a,68bは、X方向磁気センサ10A及びY方向磁気センサ10Bに定電圧信号+V,−Vを供給し始める。これにより、X方向磁気センサ10A及びY方向磁気センサ10BによるX方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号が、増幅器68c,68dを介してロックインアンプ69にそれぞれ供給され始める。
【0044】
このX方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号について説明する。前述した変数sによって指定されたリチウムイオン2次電池BAへの通電信号の供給によるリチウムイオン2次電池BAの充放電により、リチウムイオン2次電池BA内の陽極、陰極及び電解質には前記充放電に対応した電流が流れる(図9参照)。この電流により、リチウムイオン2次電池BAの表裏面近傍には前記電流に応じた磁界が発生する。そして、X方向磁気センサ10Aは、X方向の磁界Hxの大きさに比例した電圧をX方向磁気検出信号として出力し始める。また、Y方向磁気センサ10Bは、Y方向の磁界Hyの大きさに比例した電圧をY方向磁気検出信号として出力し始める。これらのX方向磁気検出信号及びY方向磁気検出信号は、前記電流が正弦波状に変化するので、正弦波状に変化する信号である。
【0045】
ロックインアンプ69においては、入力されたX方向磁気検出信号がハイパスフィルタ69a及び増幅器69cを介して位相検波回路(乗算器)69d,69eにそれぞれ供給されるとともに、入力されたY方向磁気検出信号がハイパスフィルタ69b及び増幅器69iを介して位相検波回路(乗算器)69j,69kにそれぞれ供給される。位相検波回路69d,69jには、通電信号供給回路65からの矩形波状の参照信号が供給されている。また、位相検波回路69e,69kには、前記参照信号の位相を位相シフト回路69gで90度遅らせた遅延参照信号が供給されている。そして、位相検波回路69d,69eは、増幅器69cを介して供給されたX方向磁気検出信号に参照信号及び遅延参照信号をそれぞれ乗算して、乗算した信号をローパスフィルタ69f,69hを介してA/D変換器69o,69pにそれぞれ供給する。位相検波回路69j,69kは、増幅器69iを介して供給されたY方向磁気検出信号に参照信号及び遅延参照信号をそれぞれ乗算して、乗算した信号をローパスフィルタ69m,69nを介してA/D変換器69q,69rにそれぞれ供給する。
【0046】
ここで、ローパスフィルタ69f,69h,69j,69kは供給された信号の成分の大きさを表す信号すなわち正弦波状の信号の振幅に比例した大きさを表す信号を出力するように機能する。したがって、A/D変換器69oには、X方向磁気検出信号の参照信号に同期した信号成分の大きさを表す信号が供給される。A/D変換器69pには、X方向磁気検出信号の参照信号から90度だけ位相の遅れた信号成分の大きさを表す信号が供給される。A/D変換器69qには、Y方向磁気検出信号の参照信号に同期した信号成分の大きさを表す信号が供給される。A/D変換器69rには、Y方向磁気検出信号の参照信号から90度だけ位相の遅れた信号成分の大きさを表す信号が供給される。そして、A/D変換器69o,69p,69q,69rは、それぞれ供給された信号を所定時間ごとにサンプリングしてA/D変換し、A/D変換したサンプリングデータをコントローラ70に供給する。したがって、コントローラ70には前記各信号成分の所定時間ごとの大きさを表すサンプリングデータが所定時間ごとに供給されるようになる。
【0047】
前記ステップS24の処理後、コントローラ70は、ステップS26にて変数nに変数aを加算する。この場合、ステップS26の処理前の変数nは「0」であり、変数aは「1」であるので、変数nは「1」に変更される。前記ステップS26の処理後、コントローラ70は、ステップS28にて、ロックインアンプ69のA/D変換器69o,69p,69q,69rから供給されるサンプリングデータを取込み、ステップS30にて取込んだ各サンプリングデータの数が所定数Kに達したか否かを判定する。この所定数Kは、例えば数個から数十個の各サンプリングデータの数を表す値に設定されている。各サンプリングデータの数が所定数Kに達していなければ、コントローラ70は、ステップS30にて「No」と判定して、ステップS28にてA/D変換器69o,69p,69q,69rから次に出力されるサンプリングデータを取込む。そして、A/D変換器69o,69p,69q,69rから取込んだ各サンプリングデータの数が所定数Kに達すると、コントローラ70は、ステップS30にて「Yes」と判定して、ステップS32以降の処理を実行する。ステップS28にて取込まれたサンプリングデータは、変数s及び変数n,mによって指定されるサンプリングデータ群として、RAMに記憶される。
【0048】
具体的には、A/D変換器69oから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちX方向磁気検出信号の参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m)としてRAMに記憶される。A/D変換器69pから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちX方向磁気検出信号の遅延参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、前記と同じリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx2(n,m)としてRAMに記憶される。A/D変換器69pから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちY方向磁気検出信号の参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、前記と同じリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sy1(n,m)としてRAMに記憶される。A/D変換器69rから取込んだ所定数Kのサンプリングデータ、すなわちY方向磁気検出信号の遅延参照信号と同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのデータは、前記と同じリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sy2(n,m)としてRAMに記憶される。なお、この場合の変数n,mは、共に「1」である。
【0049】
前記ステップS28,S30の処理後、コントローラ70は、ステップS32にて変数aが「1」であるか否かを判定する。変数aは「1」に初期設定されているので、この場合、コントローラ70は、ステップS32にて「Yes」と判定して、ステップS34にて、値Xs+n・ΔXがX軸方向の終了値Xmaxよりも大ききか否かを判定する。なお、終了値Xmaxは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するX軸方向の予め記憶されている終了値である。値Xs+n・ΔXは、X軸方向の走査間隔を表す所定値ΔXに変数nを乗算して初期値Xsを加算した値であり、次のX軸方向の測定位置(X軸方向の走査位置)を表す値である(図10参照)。値Xs+n・ΔXが終了値Xmax以下であれば、コントローラ70は、ステップS34にて「No」と判定して、ステップS36にて、X方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10による測定位置をX軸方向正側に移動させるように指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25を作動させて磁気センサ10による測定位置をX軸方向正側に移動させ始める。
【0050】
次に、コントローラ70は、ステップS38にてX方向位置検出回路61からX方向位置を入力し、ステップS40にて入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達したか否か、すなわちX方向位置を示す値が値Xs+n・ΔX以上になったか否かを判定する。そして、X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達するまで、コントローラ70は、ステップS40にて「No」と判定し続けて、ステップS38,S40の処理を繰り返し実行する。X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達すると、コントローラ70は、ステップS40にて「Yes」と判定し、ステップS42にてX方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10の測定位置のX軸方向正側への移動を停止させることを指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25の作動を停止させて、磁気センサ10による測定位置のX軸方向正側への移動を停止させる。その結果、磁気センサ10は、値Xs+n・ΔXで表されたX軸方向位置、かつY軸方向初期値Ysにおける磁界を検出し始める。
【0051】
前記ステップS42の処理後、コントローラ70は、ステップS26に戻って、ステップS26の処理によって変数nに変数a(この場合、a=1)を加算して、前述のステップS28,S30のサンプリングデータの取込み処理を実行する。これらのステップS28,S30の処理により、値Xs+(n−1)・ΔXで表されたX軸方向位置(前記次の照射位置)、かつY軸方向初期値Ysの磁気センサ10による測定結果のサンプリングデータがRAMに新たに記憶される。具体的には、X方向磁気検出信号の参照信号及び遅延参照とそれぞれ同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのサンプリングデータが、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m)としてRAMに記憶される。また、Y方向磁気検出信号の参照信号及び遅延参照信号とそれぞれ同期した信号成分の大きさを表す所定数Kのサンプリングデータが、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sy1(n,m),Sy2(n,m)としてRAMに記憶される。なお、この場合の変数nは「2」であり、変数mは「1」である。
【0052】
そして、コントローラ70は、次のX軸方向の測定位置(X軸方向の走査位置)を表す値Xs+n・ΔXが終了値Xmaxよりも大きくなるまで、ステップS26〜S42の処理により、測定位置をX軸方向正側に所定値ΔXずつ移動させるとともに、変数nを「1」ずつ増加させながら、サンプリングデータを取込む。そして、次のX軸方向の測定位置を表す値Xs+n・ΔXが終了値Xmaxよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS34にて「Yes」と判定して、プログラムを図6BのステップS54に進める。この状態では、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=1)がRAMに記憶される。なお、値Nは、終了値Xmax直前の測定位置によるサンプリングデータ群に関する変数nの値であって、X軸方向における測定位置の数を表している。
【0053】
コントローラ70は、ステップS54において、Y方向フィードモータ制御回路64に、磁気センサ10による測定位置をY軸方向正側に移動させるように指示する。これにより、Y方向フィードモータ制御回路64は、Y方向モータ34を作動させて磁気センサ10による測定位置をY軸方向正側に移動させ始める。次に、コントローラ70は、ステップS56にてY方向位置検出回路63からY方向位置を入力し、ステップS58にて入力したY方向位置が次のY軸方向の測定位置Ys+m・ΔYに達したか否かを判定する。この次のY軸方向の測定位置Ys+m・ΔYは、X軸方向の次の測定位置Xs+n・ΔXと同様に、Y軸方向の走査間隔を表す所定値ΔYに変数mを乗算して初期値Ysを加算した値である(図10参照)。そして、Y方向位置検出回路63から入力したY方向位置が次のY軸方向の測定位置に達するまで、コントローラ70は、ステップS58にて「No」と判定し続けて、ステップS56,S58の処理を繰り返し実行する。Y方向位置検出回路63から入力したY方向位置が次のY軸方向の測定位置に達すると、コントローラ70は、ステップS58にて「Yes」と判定し、ステップS60にてY方向フィードモータ制御回路64に、磁気センサ10による測定位置のY軸方向正側への移動を停止させることを指示する。これにより、Y方向フィードモータ制御回路62は、Y方向モータ34の作動を停止させて、磁気センサ10による測定射位置のY軸方向正側への移動を停止させる。その結果、磁気センサ10は、値Xs+(n-1)・ΔX(=Xs+(N-1)・ΔX)で表されたX軸方向位置、かつ値Ys+m・ΔY(=Ys+ΔY)で表されたY軸方向位置の磁界を測定し始める。
【0054】
前記ステップS60の処理後、コントローラ70は、ステップS62にて、Y方向位置検出回路63からY方向位置を入力して、入力したY方向位置が終了値Ymaxによって表されたY軸方向の走査終了位置を越えたか否かを判定する。なお、終了値Ymaxは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するY軸方向の予め記憶されている終了値である。Y方向位置が走査終了位置を越えていなければ、コントローラ70は、ステップS62にて「No」と判定して、ステップS64にて変数mに「1」を加算し、ステップS66にて変数aに「−1」を乗算する。この場合、ステップS64の処理によって変数mは「2」になり、ステップS66の処理によって変数aは「−1」になる。また、変数nは値Nに保たれている。前記ステップS66の処理後、コントローラ70は、図5AのステップS28に戻って、ステップS28,S30の処理より、K個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(N,2),Sx2(N,2),Sy1(N,2),Sy2(N,2)をロックインアンプ69からそれぞれ取込み記憶する。
【0055】
前記ステップS28,S30の処理後、コントローラ70は、ステップS32にて変数aは「1」であるか否かを判定する。この場合、前記ステップS66の処理によって変数aは「−1」に設定されているので、コントローラ70は、ステップS32にて「No」と判定して、ステップS44にて、値Xs+(n−2)・ΔXがX軸方向の初期値Xsよりも小さいか否かを判定する。この場合、変数nはNであり、値Xs+(n−2)・ΔXは、図10において右端から2番目の検出位置を表す値である。値Xs+(n−2)・ΔXが初期値Xsよりも小さくなければ、コントローラ70は、ステップS44にて「No」と判定して、ステップS46にて、X方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10による測定位置をX軸方向負側に移動させるように指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25を作動させて磁気センサ10による測定位置をX軸方向負側に移動させ始める。
【0056】
次に、コントローラ70は、ステップS48にてX方向位置検出回路61からX方向位置を入力し、ステップS50にて入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達したか否か、すなわちX方向位置を示す値が値Xs+(n−2)・ΔX以下になったか否かを判定する。そして、X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達するまで、コントローラ70は、ステップS50にて「No」と判定し続けて、ステップS48,S50の処理を繰り返し実行する。X方向位置検出回路61から入力したX方向位置が次のX軸方向の測定位置に達すると、コントローラ70は、ステップS50にて「Yes」と判定し、ステップS52にてX方向フィードモータ制御回路62に、磁気センサ10による測定位置のX軸方向負側への移動を停止させることを指示する。これにより、X方向フィードモータ制御回路62は、X方向モータ25の作動を停止させて、磁気センサ10による測定射位置のX軸方向負側への移動を停止させる。その結果、磁気センサ10は、値Xs+(n−2)・ΔX(=Xs+(N−2)・ΔX)で表されたX軸方向位置、かつ値Ys+(m−1)・ΔYs(=Ys+ΔYs)で表されたY軸方向位置の磁界を検出し始める。
【0057】
前記ステップS52の処理後、コントローラ70は、ステップS26に戻って、ステップS26の処理によって変数nに変数a(この場合、a=−1)を加算して、前述のステップS28,S30のサンプリングデータの取込み処理を実行する。これらのステップS28,S30の処理により、前記ステップS26の処理前の値Xs+(n−2)・ΔX(=Xs+(N−2)・ΔX)で表されたX軸方向位置、かつ値Ys+(m−1)・ΔYs(=Ys+ΔYs)で表されたY軸方向位置の磁界に関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)が取込み記憶される。なお、この取込み記憶されるサンプリングデータ群に関する変数nは値N−1であり、変数mは「2」である。
【0058】
そして、コントローラ70は、次のX軸方向の測定位置(X軸方向の走査位置)を表す値Xs+(n−2)・ΔXが初期値Xsよりも小さくなるまで、ステップS26〜S32,S44〜S52の処理により、測定位置をX軸方向負側に所定値ΔXずつ移動させるとともに、変数nを「1」ずつ減少させながら、サンプリングデータを取込む。そして、次のX軸方向の測定を表す値Xs+(n−2)・ΔXが初期値Xsよりも小さくなると、コントローラ70は、ステップS44にて「Yes」と判定して、図6BのステップS54に進む。なお、このときの変数nは「1」である。この状態では、前述したサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=1)に加えて、サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=2)がRAMに記憶される。
【0059】
コントローラ70は、前述したステップS54〜S60の処理により、Y方向モータ34を作動させて磁気センサ10による測定位置を次のY軸方向照射位置Ys+m・ΔYに移動させる。その結果、磁気センサ10は、初期値Xsで表されたX軸方向の初期位置、かつ値Ys+m・ΔY(=Ys+2・ΔY)で表されたY軸方向位置の磁界を検出し始める。次に、コントローラ70は、Y方向位置検出回路63によって検出されたY方向位置が終了位置を越えていないことを条件に、コントローラ70は、ステップS62にて「No」と判定して、ステップS64にて変数mに「1」を加算し、ステップS66にて変数aに「−1」を乗算する。この場合、ステップS64の処理によって変数mは「3」になり、ステップS66の処理によって変数aは「1」になる。また、変数nは「1」に保たれている。前記ステップS66の処理後、コントローラ70は、ステップS28に戻って、ステップS28,S30の処理より、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(1,3),Sx2(1,3),Sy1(1,3),Sy2(1,3)をロックインアンプ69からそれぞれ取込み記憶する。
【0060】
前記ステップS28,S30の処理後、コントローラ70は、ステップS32にて変数aは「1」であるか否かを判定する。この場合、前記ステップS66の処理によって変数aは「1」に設定されているので、コントローラ70は、ステップS32にて「Yes」と判定して、前述したステップS34〜S42,S26〜S32の処理を、値Xs+n・ΔXが終了値Xmaxよりも大きくなるまで繰り返し実行する。これにより、磁気センサ10の測定位置がX軸方向正側に走査されて、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=3)がRAMに新たに記憶される。
【0061】
そして、変数mを「3」に設定した状態で、磁気センサ10の測定位置のX軸方向正側への走査が終了すると、ステップS34の判定処理により、ステップS54〜S66の処理が実行されて、磁気センサ10の測定位置が次のY軸方向位置に変更されるとともに、変数m,aが変更される。そして、前述したステップS26〜S32,S44〜S52の処理により、磁気センサ10の測定位置がX軸方向負側へ走査され、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1,2,3・・・N,m=4)がRAMに新たに記憶される。
【0062】
このようなステップS26〜S66の処理により、磁気センサ10の測定位置がX軸方向を往復するように走査されるとともにY軸方向正側に走査されて、Y方向位置検出回路63によって検出されるY方向位置が終了値Ymaxよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS62にて「Yes」と判定して、ステップS68に進む。ステップS68においては、コントローラ70は、次の検査対象であるリチウムイオン2次電池BAが存在するか否か、すなわち変数sがリチウムイオン2次電池BAの数Smaxに達していないかを判定する。この場合、変数sは「1」であって、リチウムイオン2次電池BAの数に達していなければ、コントローラ70は、ステップS68にて「Yes」と判定して、ステップS70にて変数sに「1」を加算して、図6AのステップS14に戻る。この状態では、RAM内に、変数s(=1)によって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が記憶されている。なお、値Mは、終了値Ymax直前の測定位置によるサンプリングデータ群に関する変数mの値であって、Y軸方向における測定位置の数を表している。
【0063】
ステップS14においては、コントローラ70は、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAを選定し、選定したリチウムイオン2次電池BAに通電するように通電選択回路67に指示信号を出力する。通電選択回路67は、接続L1を介して通電されるリチウムイオン2次電池BAを選択する。次に、コントローラ70は、前述したステップS16の処理によって変数nを「0」に初期設定するとともに、変数m,aをそれぞれ「1」に初期設定し、前述したステップS18の処理により、磁気センサ10の測定位置を、変数s(=2)によって指定されるリチウムイオン2次電池BAの初期値Xs,Ysによって表されるX及びY軸方向の初期位置に位置させる。そして、前述したステップS20〜S24の処理により、通電信号供給回路65、通電回路66及びセンサ信号取出回路68の作動開始を指示する。しかし、この場合、通電信号供給回路65、通電回路66及びセンサ信号取出回路68は作動しているので、実際には、通電信号供給回路65、通電回路66及びセンサ信号取出回路68は作動し続けるだけである。
【0064】
前記ステップS24の処理後、コントローラ70は、前述した図6AのステップS26〜図6BのステップS66の処理を実行する。これにより、RAM内に、変数s(=2)によって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するK個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が記憶される。その後、次の検査対象であるリチウムイオン2次電池BAが存在しなくなるまで、すなわち変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達するまで、コントローラ70は、ステップS68にて「Yes」と判定して、ステップS70にて変数sを「1」ずつ増加させながら、図6AのステップS14〜図6BのステップS70の処理を繰返し実行する。そして、変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達すると、コントローラ70は、ステップS68にて「No」と判定して。ステップS72以降に進む。この状態では、RAM内に、変数s(1〜smax)によって指定される全てのリチウムイオン2次電池BAに対して、K個ずつの各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が記憶されている。
【0065】
コントローラ70は、ステップS72にてセンサ信号取出回路68の作動停止を指示し、ステップS74にて通電回路66の作動停止を指示し、ステップS76にて通電信号供給回路65の作動停止を指示する。これらの作動停止の指示により、磁気センサ10、通電信号供給回路65、通電回路66、通電選択回路67、センサ信号取出回路68及びロックインアンプ69の作動が停止する。前記ステップS76の処理後、コントローラ70は、ステップS78にて、センサ支持台11(すなわち磁気センサ10)をX方向駆動限界位置まで移動させることをX方向位置検出回路61及びX方向フィードモータ制御回路62に指示するとともに、センサ支持台11をY方向駆動限界位置まで移動させることをY方向位置検出回路63及びY方向フィードモータ制御回路64に指示して、ステップS80にてデータ取得プログラムの実行を終了する。X方向フィードモータ制御回路62は、前述の初期設定のように、X方向位置検出回路61と協働して、センサ支持台11をX方向駆動限界位置まで移動させる。Y方向フィードモータ制御回路64は、前述のように、Y方向位置検出回路63と協働して、センサ支持台11をY方向駆動限界位置まで移動させる。
【0066】
次に、前記データ取得プログラムで取得した変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAごとの所定数Kずつのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)を用いて、リチウムイオン2次電池を評価する方法について説明する。この場合、作業者は、入力装置71を操作して、コントローラ70に図7A及び図7Bの評価プログラムを実行させる。この評価プログラムの実行はステップS100にて開始され、コントローラ70は、ステップS102にて変数sを「1」に設定する。この変数s(=1〜smax)は、上述したデータ取得プログラムの場合と同じであり、smax個のリチウムイオン2次電池BAのそれぞれを指定する。次に、コントローラ70は、ステップS104にて変数n,mをそれぞれ「1」に初期設定した後、ステップS106にて、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関し、変数n,mによって指定される所定数Kずつのサンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)の磁界の大きさの各平均値Sx1,Sx2,Sy1,Sy2を計算する。具体的には、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関する各サンプリングデータ群Sx1(n,m),Sx2(n,m),Sy1(n,m),Sy2(n,m)ごとに、K個のサンプリングデータを加算して値Kで除算する。
【0067】
次に、コントローラ70は、ステップS108にて、前記計算した平均値Sx1,Sx2を用いた下記数1,2の演算の実行により、X方向磁気検出信号の極大値Hxと、X方向磁気検出信号の参照信号に対する位相シフト量θxとを計算する。
Hx=(Sx12+Sx22)1/2 …式1
θx=tan-1(Sx2/Sx1) …式2
これにより、X方向磁気検出信号としてHx・sin(2πft+θx)が検出されたことになる。なお、fは、通電信号供給回路65から出力される通電信号及び参照信号の周波数に等しい。
【0068】
次に、コントローラ70は、ステップS110にて、前記計算した平均値Sy1,Sy2を用いた下記数3,4の演算の実行により、Y方向磁気検出信号の極大値Hyと、Y方向磁気検出信号の参照信号に対する位相シフト量θyとを計算する。
Hy=(Sy12+Sy22)1/2 …式3
θy=tan-1(Sy2/Sy1) …式4
これにより、Y方向磁気検出信号としてHy・sin(2πft+θy)が検出されたことになる。
【0069】
次に、コントローラ70は、ステップS112にて、前記計算したHx,θx,Hy,θyを用いた下記数5,6の演算の実行により、通電電流量が最大となるタイミング(前記X方向磁気検出信号Hx・sin(2πft+θx)及び前記Y方向磁気検出信号Hy・sin(2πft+θy)における2πftがπ/2のタイミング)における、検査位置の磁界の強さHxy及び磁界の向きθxyを計算する。この場合、通電電流量が最大となるタイミングを採用した理由は、位相シフト量θx,θyは小さく、通電電流量が最大となるタイミング近傍で検査位置の磁界の強さHxyが最大値近傍の値になるためである。なお、位相シフト量θx,θyが小さくなく、通電電流量が最大となるタイミング近傍で検査位置の磁界の強さHxyが最大値近傍にならない場合には、磁界の強さHxyが最大値近傍になるようなタイミングの角度をπ/2に代えて用いればよい。
Hxy=[{Hx・sin(π/2+θx)}2+{Hy・sin(π/2+θy)}2]1/2 …式5
θxy=tan-1{Hy・sin(π/2+θy)}/{Hx・sin(π/2+θx)} …式6
【0070】
次に、コントローラ70は、ステップS114にて、リチウムイオン2次電池BA内の各部に流れる電流は前記磁界の強さHxyに比例し、かつ方向が磁界の方向θxyと−π/2異なることから、前記計算したHxy,θxyを用いた下記数7,8の演算の実行により、通電電流量が最大となるタイミングにおける、リチウムイオン2次電池BAの検査位置に流れる電流の大きさIxy及び方向θixyを計算する。ただし、値Kは、比例定数である。
Ixy=K・Hxy …式7
θixy=θixy−π/2 …式8
【0071】
そして、このステップS114にて、前記計算された電流の大きさIxy及び方向θixyは、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するデータであって、リチウムイオン2次電池BAの検査位置を表す変数n,mを用いて、電流大きさデータIxy(n,m)及び電流方向データθixy(n,m)としてRAM又は記憶装置に記憶される。
【0072】
次に、コントローラ70は、ステップS116にて、前記計算したIxy,θixyを用いた下記式9,10の演算の実行により、リチウムイオン2次電池BAの検査位置においてX方向及びY方向に流れる電流の大きさIx,Iyを計算する。
Ix=Ixy・cosθixy …式9
Iy=Ixy・sinθixy …式10
そして、このステップS116にて、前記計算された電流の大きさIx,Iyも、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関するデータであって、リチウムイオン2次電池BAの検査位置を表す変数n,mを用いて、X方向及びY方向の電流大きさデータIx(n,m),Iy(n,m)としてRAM又は記憶装置に記憶される。
【0073】
前記ステップS116の処理後、コントローラ70は、ステップS118にて変数nに「1」を加算し、ステップS120にて変数nがX軸方向の検出位置数を表す値Nよりも大きい否かを判定する。変数nが値N以下であれば、コントローラ70は、ステップS120にて「No」と判定して、ステップS106に戻って前述したステップS106〜S120の処理を繰り返し実行する。このようなステップS106〜S120の繰り返し処理中、変数nが値Nよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS120にて「Yes」と判定して、ステップS122にてY軸方向の検査位置を規定する変数mに「1」を加算して、ステップS124にて変数mがY軸方向の検出位置数を表す値Mよりも大きい否かを判定する。変数mが値M以下であれば、コントローラ70は、ステップS124にて「No」と判定して、ステップS126にて変数nを初期値「1」に戻した後、前述したステップS106〜S126の処理を繰り返し実行する。このようなステップS106〜S126の繰り返し処理中、変数mが値Mよりも大きくなると、コントローラ70は、ステップS124にて「Yes」と判定して、図7BのステップS130に進む。
【0074】
この時点では、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAの検査位置ごとに、電流大きさデータIxy(n,m)、電流方向データθixy(n,m)、X方向の電流大きさデータIx(n,m)及びY方向の電流大きさデータIy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)が、RAM又は記憶装置に記憶されている。
【0075】
図7BのステップS130〜S156の処理は、Y方向の電流大きさデータIy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)を用いて、各リチウムイオン2次電池BAの電極位置を検出する処理である。ステップS130においは、コントローラ70は、電極を特定するための変数epを「1」に初期設定する。次に、コントローラ70は、ステップS132にて、まず、全てのY方向の電流大きさデータIy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)を用いてY方向の電流の大きさに対する度数分布を求める。この度数分布は、例えば図11に示すように、電流の大きさが小さい部分と大きい部分が明確に区別されるような分布となる。これは、電極位置(電極領域)においては電極の延設方向に大きな電流が流れ、電解質領域においては電極の延設方向には大きな電流が流れないことに基づく。そして、コントローラ70は、同ステップS132にて、前記度数分布に基づいて電流の大きさの最大値を導出するとともに、度数が最大である電流の大きさ(以降、極大値という)を導出し、全てのY方向の電流大きさデータIy(n,m)の中から、最大値−2×(最大値−極大値)(図11参照)以上の電流大きさデータを抽出して電極位置候補の電流大きさデータIy(n,m)としてRAM又は記憶装置に記憶する。
【0076】
次に、コントローラ70は、ステップS134にて、前記抽出した電極位置候補の電流大きさデータIy(n,m)を変数nごとに分類し、変数nが同一であってその数が最大の電流大きさデータIy(n,m)を抽出して分離し、その分離抽出した数を抽出数Ny(ep)としてRAM又は記憶装置に記憶するとともに、分離抽出した電流大きさデータ群を新たに電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)としてRAM又は記憶装置に記憶する。なお、前記抽出分離処理により、前記ステップS132の処理によってRAM又は記憶装置された電極位置候補の電流大きさデータIy(n,m)から、前記新たに記憶された電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)に対応した電流大きさデータIy(n,m)は除去(消去)される。
【0077】
次に、コントローラ70は、ステップS136にて、抽出数Ny(ep)が所定数Ny0以上であるかを判定する。この所定数Ny0は、Y方向の電極長さの判定値であり、例えば、前記入力したリチウムイオン2次電池のY方向長さと、予め決められたY方向の検出間隔を示す微小値ΔYとを用いて計算された値(Y方向長さ/ΔY)/3である。まず、電極がY方向に延設されていて、抽出数Ny(ep)が所定数Ny0以上である場合について説明する。この場合、コントローラ70は、ステップS136にて「Yes」と判定し、ステップS150以降の処理を実行する。なお、この状態では、指定されているリチウムイオン2次電池のY方向の延設された一つの電極が検出されて、電流大きさデータIy(n,m,ep)(ep=1)が検出された電極位置を表すデータとしてRAM又は記憶装置に記憶されている。
【0078】
ステップS150においては、コントローラ70は、変数epに「1」を加算する。そして、コントローラ70は、ステップS152にて、前記加算した変数epが指定されているリチウムイオン2次電池の前記入力された電極数よりも大きいか否かを判定する。変数epが未だ前記電極数以下であれば、コントローラ70は、ステップS152にて「No」と判定して、ステップS154に進む。
【0079】
ステップS154においては、コントローラ70は、前記ステップS132の処理によって抽出された電極位置候補の電流大きさデータIy(n,m)であって、前記ステップS134の処理によって電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)が抽出分離されてRAM又は記憶装置に記憶されている残りの電流大きさデータIy(n,m)の中から、さらに、前記電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)によって規定される位置のX方向両側であって変数nによって指定されるX方向位置が所定数K未満である位置の電流大きさデータIy(n,m)を除外(すなわち消去)して、新たな電極位置候補の電流大きさデータIy(n,m)を抽出する。この所定数Kは、X方向の電極間の長さの判定値であり、例えば、前記入力したリチウムイオン2次電池のX方向長さと、予め決められたX方向の検出間隔を示す微小値ΔXとを用いて計算された値(X方向長さ/ΔX)/5である。このステップS154の処理により、前記ステップS134の処理によって決められた電極位置の側方近傍に、次の検出処理によって誤って他の電極が検出されることがなくなる。
【0080】
次に、コントローラ70は、ステップS156にて、前記ステップS154の処理により新たに抽出された電極位置候補の電流大きさデータIy(n,m)を変数nごとに分類し、変数nが同一であってその数が最大の電流大きさデータIy(n,m)を抽出して分離し、その分離抽出した数を抽出数Ny(ep)としてRAM又は記憶装置に記憶するとともに、分離抽出した電流大きさデータ群を新たな電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)としてRAM又は記憶装置に記憶する。なお、この抽出分離処理によっても、前記ステップS154の処理によって抽出されてRAM又は記憶装置されていた電極位置候補の電流大きさデータIy(n,m)から、前記抽出された電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)に対応した電流大きさデータIy(n,m)は除去(消去)される。
【0081】
前記ステップS156の処理後、コントローラ70は、ステップS136にて、ふたたび抽出数Ny(ep)が所定数Ny0以上であるかを判定する。この場合も、抽出数Ny(ep)が所定数Ny0以上であれば、コントローラ70は、ステップS136にて「Yes」と判定し、ステップS150以降の処理を実行する。なお、この状態では、指定されているリチウムイオン2次電池のY方向に延設された2つ目の電極が検出されて、電流大きさデータIy(n,m,ep)(ep=2)が、前記2つ目の電極位置を表すデータとしてRAM又は記憶装置に記憶されている。そして、前記ステップS150の処理によって増加される電極数を示す変数epが前記入力した電極数よりも大きくなるまで、ステップS152において「No」と判定され、コントローラ70は、前記ステップS150〜S156,S136の処理の実行により、Y方向に延設された電極位置を検出して、検出した電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)をRAM又は記憶装置に記憶していく。一方、前記ステップS150の処理によって増加される電極数を示す変数epが前記入力した電極数よりも大きくなれば、コントローラ70は、ステップS152にて「Yes」と判定して、図7CのステップS160に進む。
【0082】
次に、電極がX方向に延設されている場合について説明する。この場合、前記ステップS134の処理によって設定された抽出数Ny(ep)は、電極がX方向に延設されているので、所定数Ny0よりも小さく、コントローラ70は、前記ステップS134の処理後のステップS136にて「No」と判定してステップS138に進む。ステップS138においては、コントローラ70は、電極数を示す変数epが「1」であるかを判定する。この場合、電極はX方向に延設されていて、Y方向に延設された電極位置は検出されていないので、変数epは未だ「1」であり、コントローラ70は、ステップS138にて「Yes」と判定して、ステップS140に進む。
【0083】
ステップS140においては、コントローラ70は、全てのX方向の電流大きさデータIx(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)の電流大きさに対する度数分布を求める。この場合も、度数分布は、例えば図11に示すようになる。そして、コントローラ70は、同ステップS140にて、前記ステップS132の処理と同様に、前記度数分布に基づいて電流大きさの最大値を導出するとともに、度数が最大である電流大きさ(以降、極大値という)を導出し、全てのX方向の電流大きさデータIy(n,m)の中から、最大値−2×(最大値−極大値)以上の電流大きさデータを抽出して電極位置候補の電流大きさデータIx(n,m)としてRAM又は記憶装置に記憶する。
【0084】
次に、コントローラ70は、ステップS142にて、前記ステップS134の処理によってRAM又は記憶装置に記憶した電極位置データIy(n,m,ep)を消去し、前記ステップS140の処理によって抽出した電極位置候補の電流大きさデータIx(n,m)を変数mごとに分類し、変数mが同一であってその数が最大の電流大きさデータIx(n,m)を抽出して分離し、その分離抽出した数を抽出数Nx(ep)としてRAM又は記憶装置に記憶するとともに、分離抽出した電流大きさデータ群を電極位置の電流大きさデータIx(n,m,ep)としてRAM又は記憶装置に記憶する。なお、この場合も、前記抽出分離処理により、前記ステップS140の処理によってRAM又は記憶装置された電極位置候補の電流の大きさデータIx(n,m)から、前記新たに記憶された電極位置の電流大きさデータIx(n,m,ep)に対応した電流の大きさデータIx(n,m)は除去(消去)される。
【0085】
次に、コントローラ70は、ステップS144にて、抽出数Nx(ep)が所定数Nx0以上であるかを判定する。この所定数Nx0は、X方向の電極長さの判定値であり、例えば、前記入力したリチウムイオン2次電池のX方向長さと、予め決められたX方向の検出間隔を示す微小値ΔXを用いて計算された値(X方向長さ/ΔX)/3である。この場合、電極はX方向に延設されていて、抽出数Nx(ep)は所定数Nx0以上であるので、コントローラ70は、ステップS144にて「Yes」と判定し、ステップS146,S148の処理を実行する。なお、この状態では、指定されているリチウムイオン2次電池のX方向に延設された一つの電極が検出されて、電流大きさデータIx(n,m,ep)(ep=1)が検出された電極位置を表すデータとしてRAM又は記憶装置に記憶されている。
【0086】
ステップS146においては、全ての電流大きさデータIxy(n,m)、電流方向データθixy(n,m)、X方向の電流大きさデータIx(n,m)、Y方向の電流大きさデータIy(n,m)、抽出数Nx(ep)及び電極位置の電流大きさデータIx(n,m,ep)を、それらのX座標値とY座標値を置き換えることにより、電流大きさデータIxy(m,n)、電流方向データθixy(m,n)、X方向の電流大きさデータIx(m,n)、Y方向の電流大きさデータIy(m,n)、抽出数Nx(ep)及び電極位置の電流大きさデータIx(m,n,ep)に変換する。すなわち、この変換は、全ての電流大きさデータIxy(n,m)、電流方向データθixy(n,m)、X方向の電流大きさデータIx(n,m)、Y方向の電流大きさデータIy(n,m)、抽出数Nx(ep)及び電極位置の電流大きさデータIx(n,m,ep)のX−Y座標における分布を、X軸線とY軸線の原点を通る2等分線を中心にして対称にそれぞれ移動することを意味する。なお、この変換を行う理由は、前述したステップS154,S156,S136の処理(Y方向に延設した電極の検出処理)により、X方向に延設された電極を検出するためである。ステップS148においては、前記ステップS146の変換を表す変数CHを「1」に設定する。なお、この変数CHは、初期には「0」に設定されている。
【0087】
前記ステップS148の処理後、コントローラ70は、前述したステップS150〜S156,S136の処理により、電極数を表す変数epを「1」ずつ増加させながら、X方向に延設された電極を検出して、検出した電極位置のY方向電流大きさデータIy(n,m)を電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)としてRAM又は記憶装置に記憶する。そして、前記ステップS150の処理によって増加される電極数を示す変数epが前記入力した電極数よりも大きくなるまで、ステップS152において「No」と判定され、コントローラ70は、前記ステップS150〜S156,S136の処理の実行により、X方向に延設された電極位置を検出して、検出した電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)をRAM又は記憶装置に順次記憶していく。一方、前記ステップS150の処理によって増加される電極数を示す変数epが前記入力した電極数よりも大きくなれば、コントローラ70は、ステップS152にて「Yes」と判定して、図7CのステップS160に進む。
【0088】
次に、リチウムイオン2次電池BAの電極が検出されない場合について説明する。この電極が検出されない場合の例としては、所定の長さの電極がX方向及びY方向のいずれの方向においても1つも検出されない場合と、最初に検出された方向と同一方向に延設された電極が入力された電極数分検出されない場合とがある。前者の場合には、電極数を表す変数epはステップS130の処理により「1」に設定されているので、コントローラ70は、ステップS136にて「No」すなわちステップS134による抽出数Ny(ep)が所定数Ny0未満であると判定し、かつステップS138における「Yes」(ep=1)との判定後におけるステップS144にて「No」すなわちステップS142による抽出数Nx(ep)が所定数Nx0未満であると判定して、図7EのステップS226に進む。後者の場合には、ステップS132〜S136の処理によるY方向に延設された電極の検出又はステップS140〜S144の処理によるX方向に延設された電極の検出により、変数epはステップS150の処理によって「1」よりも大きな値に設定されるので、コントローラ70は、ステップS136にて「No」すなわちステップS134による抽出数Ny(ep)が所定数Ny0未満であると判定し、かつステップS138にて「No」すなわち変数epは「1」でないと判定して、図7EのステップS226に進む。
【0089】
次に、図7CのステップS160〜S186の処理について説明する。このステップS160〜S186の処理は、前記図7BのステップS130〜S156の処理によって電極(ep=1,2・・)ごとに抽出された電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)を用いて、電極領域の電流大きさデータIy(n,m,ep)を新たに設定し、新たに設定した電極領域の電流大きさデータIy(n,m,ep)を用いて電極領域EP1,EP2・・を検出する処理である。すなわち、前記電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)に、電極の幅(X及びY方向の幅)分だけの電流大きさデータIy(n,m,ep)を加えて電極領域の電流大きさデータIy(n,m,ep)を設定し、図12に示すように、前記電極領域の電流大きさデータIy(n,m,ep)により規定される2つのX、Y座標値(Nmi(ep),Mmi(ep)),(Nma(ep),Mma(ep))によって囲まれる電極領域EP1,EP2・・を検出する。なお、図12において、最も外側の実線による四角は磁界の検出領域を示し、内側の破線による四角はリチウムイオン2次電池BAの外枠を示している。
【0090】
この電極領域の検出処理においては、コントローラ70は、まず、ステップS160にて電極を表す変数epを「1」に初期設定する。次に、コントローラ70は、ステップS162にて、検出された全てのY方向の電流大きさデータIy(n,m) (n=1〜N,m=1〜M)の中から、電極(変数ep)ごとに、前記ステップS130〜S156の処理によって決定された電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)により規定される電極位置のX,Y座標値周辺、すなわち前記電極位置を含む電極位置周辺の電流大きさデータIy(n−a,m−b,ep)〜Iy(n+a,m+b,ep)を抽出して、抽出した電流大きさデータIy(n−a,m−b,ep)〜Iy(n+a,m+b,ep)を電極領域候補の電流大きさデータIy(n,m,ep)としてRAM又は記憶装置に記憶する。この場合、値a,bは、予め決められて電極領域を囲む充分に大きな値である。例えば、値aは、前記入力したリチウムイオン2次電池のX方向長さと、予め決められたX方向の検出間隔を示す微小値ΔXとを用いて計算された値(X方向長さ×0.2) /ΔXである。また、値bは、前記入力したリチウムイオン2次電池のY方向長さと、予め決められたY方向の検出間隔を示す微小値ΔYとを用いて計算された値(Y方向長さ×0.2) /ΔY)である。なお、前述した電極位置の電流大きさデータIy(n,m,ep)は、この電極領域候補の電流大きさデータIy(n,m,ep)に含まれて、実質的に消去される。
【0091】
前記ステップS162の処理後、コントローラ70は、ステップS164にて、Y方向(電極延設方向)位置を規定する変数mが同一である前記抽出した電極領域候補の電流大きさデータIy(n,m,ep)の平均値AveIy(m,ep)を変数mごとに計算する。言い換えれば、Y方向に沿って電極領域候補の電流大きさデータIy(n,m,ep)の平均値AveIy(m,ep)をそれぞれ計算する。そして、ステップS166にて、前記計算した全ての平均値AveIy(m,ep)の中から最大値を抽出して最大値MaxIym(ep)として設定する。次に、コントローラ70は、ステップS168にて、前記計算した全ての平均値AveIy(m,ep)の中から、前記抽出した最大値MaxIym(ep)に所定の設定割合を乗算した値(MaxIym(ep)×設定割合)以上の平均値AveIy(m,ep)を抽出する。この場合、設定割合は、電極のY方向においてY方向に流れる電流の大きさの最小値を計算するための所定値であり、例えば0.05である。
【0092】
前記ステップS168の処理後、コントローラ70は、ステップS170にて、前記ステップS168の処理によって抽出した平均値AveIy(m,ep)における変数mの最大値をY方向最大値Mma(ep)とする。ステップS172においては、前記ステップS168の処理によって抽出した平均値AveIy(m,ep)における変数mの最小値をY方向最小値Mmi(ep)とする。これにより、図12に示すように、変数epによって指定される電極のY方向の両端が、Y方向最大値Mma(ep)及びY方向最小値Mmi(ep)として特定される。
【0093】
前記ステップS172の処理後、コントローラ70は、ステップS174にて、X方向位置を規定する変数nが同一である前記抽出した電極領域候補の電流大きさデータIy(n,m,ep)の平均値AveIy(n,ep)を変数nごとに計算する。言い換えれば、X方向に沿って電極領域候補の電流大きさデータIy(n,m,ep)の平均値AveIy(n,ep)をそれぞれ計算する。そして、ステップS176にて、前記計算した全ての平均値AveIy(n,ep)の中から最大値を抽出して最大値MaxIyn(ep)として設定する。次に、コントローラ70は、ステップS178にて、前記計算した全ての平均値AveIx(n,ep)の中から、前記抽出した最大値MaxIyn(ep)に所定の設定割合を乗算した値(MaxIyn(ep)×設定割合)以上の平均値AveIy(n,ep)を抽出する。この場合、設定割合は、電極のX方向においてY方向に流れる電流の大きさの最小値を計算するための所定値であり、例えば0.05である。
【0094】
前記ステップS178の処理後、コントローラ70は、ステップS180にて、前記ステップS178の処理によって抽出した平均値AveIy(n,ep)における変数nの最大値をX方向最大値Nma(ep)とする。ステップS182においては、前記ステップS178の処理によって抽出した平均値AveIy(m,ep)における変数nの最小値をX方向最小値Mmi(ep)とする。これにより、図12に示すように、変数epによって指定される電極のX方向の両端が、X方向最大値Nma(ep)及びX方向最小値Nmi(ep)として特定される。その結果、変数ep(=1)によって指定される電極の領域は、図12に示すように、4つのX,Y座標値(Nmi(1),Mmi(1)), (Nmi(1),Mma(1)),(Nma(1),Mmi(1)), (Nma(1),Mma(1))で囲まれた領域EP1として決定される。
【0095】
前記ステップS182の処理後、コントローラ70は、ステップS184にて電極を表す変数epに「1」を加算し、ステップS186にて変数epが前記入力したリチウムイオン2次電池BAの電極数を超えた否かを判定する。変数epが前記入力した電極数を超えなければ、コントローラ70は、ステップS186にて「No」と判定して、ステップS162に戻る。そして、前述したステップS162〜S182からなる処理により、変数ep(=2)によって指定される電極の領域EP2、すなわち領域EP2を規定する4つのX,Y座標値(Nmi(2),Mmi(2)), (Nmi(2),Mma(2)),(Nma(2),Mmi(2)), (Nma(2),Mma(2))が検出される。
【0096】
このようにして、リチウムイオン2次電池BAの電極領域EP1,EP2が順次検出される。そして、さらに、電極が存在するならば、すなわち変数epが前記入力した電極数を越えなければ、コントローラ70は、ステップS186にてふたたび「No」と判定して、次の電極の領域を検出するためのステップS162〜S182の処理を実行する。一方、すなわち変数epが前記入力した電極数を越えると、コントローラ70は、ステップS186にて「Yes」と判定して、図7DのステップS190に進む。
【0097】
次に、図7DのステップS190〜S204の処理について説明する。このステップS190〜S204の処理は、図12に示すように、リチウムイオン2次電池BAにおいて電流の流れる電解質領域ERを検出する処理である。この電解質領域の検出処理においては、コントローラ70は、まず、ステップS190にて、前記ステップS116の処理によって検出された全てのX方向の電流大きさデータIx(n,m) (n=1〜N,m=1〜M)の中から、電極領域のX方向の電流大きさデータIx(n,m)群を除外したX方向の電流大きさデータIx(n,m)群を抽出して、抽出したX方向の電流大きさデータIx(n,m)群を電解質領域候補の電流大きさデータデータIx1(n,m)群としてRAM又は記憶装置に記憶する。この場合、電解質領域を流れる電流の主な向きは、前記図7BのステップS146の処理によってX座標とY座標とを変換したものも含めてX方向であるので、X方向の電流大さデータIx(n,m)を採用している。また、除外される電極領域のX方向の電流大きさデータIx(n,m)群は、前記図7CのステップS160〜S186の処理によって検出された全ての電極の領域を表す4つのX,Y座標値(Nmi(ep),Mmi(ep)), (Nmi(ep),Mma(ep)),(Nma(ep),Mmi(ep)), (Nma(ep),Mma(ep))(ip=1,2・・)によって囲まれる領域である。
【0098】
前記ステップS190の処理後、コントローラ70は、ステップS192にて、Y方向(電極延設方向)位置を規定する変数mが同一である前記抽出した電解質領域候補の電流大きさデータIx1(n,m)の平均値AveIx(m)を変数mごとに計算する。言い換えれば、Y方向に沿って電解質領域候補の電流大きさデータIx1(n,m)の平均値AveIy(m)をそれぞれ計算する。そして、ステップS194にて、変数mを「1」から「M−1」まで変化させながら、下記式11の演算の実行により、前記平均値AveIy(m)の変化率SL(m)を計算する。
SL(m)=|AveIx(m)−AveIx(m+1)|/{ AveIx(m)+AveIx(m+1)}
(m=1〜M−1) …式11
なお、この変化率SL(m)はY方向(電極延設方向)において隣合う電流の大きさデータIx1(n,m)の変化率を表すものである。
【0099】
次に、コントローラ70は、ステップS196にて、変数mが「1」から「M/4」の間のY方向領域で、変化率SL(m)が最大の変数mを検出して、検出した変数mの値をY方向最小値Mminとする。また、ステップS198にて、変数mが「3・M/4」から「M−1」の間のY方向領域で、変化率SL(m)が最大の変数mを検出して、検出した変数mの値をY方向最大値Mmaxとする。これらのY方向最小値Mmin及びY方向最大値Mmaxは、電流の流れる電解質領域のY方向における下限及び上限を規定する値である。そして、これらのステップS196,198の処理による電流の流れる電解質領域の境界(下限及び上限)の検出は、前記電解質領域の境界においては、電流大きさデータIx1(n,m)が極端に変化することに基づく。また、ステップS196の処理において、変数mが「1」から「M/4」の間のY方向領域に限定した理由は、電流の流れる電解質領域の下限は少なくとも変数mが「1」から「M/4」の間であるY方向位置に存在するからである。また、ステップS198の処理において、変数mが「3・M/4」から「M−1」の間のY方向領域に限定した理由は、電流の流れる電解質領域の上限は少なくとも変数mが「3・M/4」から「M−1」の間であるY方向位置に存在するからである。
【0100】
前記ステップS198の処理後、コントローラ70は、ステップS200にて、前記図7CのステップS182の処理による全ての電極に関するX方向最小値Nmi(ep)(ep=1〜電極数)の中で、最小のX方向最小値Nmi(ep) を検出して、検出したX方向最小値Nmi(ep)をX方向最小値Nminとする。次に、コントローラ70は、ステップS202にて、前記図7CのステップS180の処理による全ての電極に関するX方向最大値Nma(ep)(ep=1〜電極数)の中で、最大のX方向最大値Nma(ep) を検出して、検出したX方向最大値Nma(ep)をX方向最大値Nmaxとする。これらのX方向最小値Nmin及びX方向最大値Nmaxは、リチウムイオン2次電池BAのX方向において最も外側に位置する一対の電極の両外側端を表している。
【0101】
ステップS202の処理後、コントローラ70は、ステップS204にて、X方向最小値Nmin、X方向最大値Nmax、Y方向最小値Mmin及びY方向最大値Mmaxで囲まれた領域、すなわちX方向においてX方向最小値NminとX方向最大値Nmaxで挟まれた領域であり、かつY方向においてY方向最小値MminとY方向最大値Mmaxで挟まれた領域から、電極領域EP1,EP2・・を除外した領域ERすなわち電解質領域を表すX−Y座標群を電解質座標群B(n,m)とする(図12参照)。電極領域EP1,EP2・・は、前記図7CのステップS170,S172,S180,S182の処理によって求めた電極(ep=1〜電極数)に関するX方向最小値Mmi(ep)、X方向最大値Nma(ep)、Y方向最小値Mmi(ep)及びY方向最大値Mma(ep)で囲まれた領域、すなわちX方向においてX方向最小値Mmi(ep)とX方向最大値Nma(ep)で挟まれた領域であり、かつY方向においてY方向最小値Mmi(ep)とY方向最大値Mma(ep)で挟まれた領域である。この場合、変数nは前述した磁界の各検出位置のX方向の座標位置を表し、変数mは前記各検出位置のY方向の座標位置を表す。
【0102】
前記ステップS204の処理後、コントローラ70は、図7EのステップS210〜S222の処理を実行する。これらのステップS210〜S222の処理は、電解質領域ERに流れる電流の大きさの分布によりリチウムイオン2次電池BAの性能を評価する処理である。図13は、この電解質領域ERを流れる電流大きさデータIxy(n,m)の分布状態を示している。まず、コントローラ70は、ステップS210にて、前記図7AのステップS114の処理により検出記憶した電流大きさデータIxy(n,m)を用いて、前記決定した電解質領域内の電流大きさデータIxy(n,m)すなわち電解質座標群B(n,m)により規定されるX−Y座標位置の電流大きさデータIxy(n,m)のうちの最大値を検出して、検出した最大値を電流最大値MaxIxyとして設定する。次に、コントローラ70は、ステップS212にて、電解質座標群B(n,m)により規定されるX−Y座標位置の全ての電流大きさデータIxy(n,m)に対して、下記式12の演算の実行により電流大きさ比Irxy(n,m)をそれぞれ計算する。
Irxy(n,m)=Ixy(n,m)/MaxIxy …式12
【0103】
次に、コントローラ70は、ステップS214にて、電流大きさ比pを予め決めた微小値Δraに初期設定する。そして、ステップS216にて、前記計算した電流大きさ比Irxy(n,m)のうちで、電流大きさ比p以上の電流大きさ比Irxy(n,m)の数を検出し、検出した数を電解質座標群B(n,m)の数(すなわち、全ての電流大きさ比Irxy(n,m)の数)で除算する下記式13の演算の実行により、電流大きさ比p以上の電流大きさ比Irxy(n,m)が占める割合を計算して電流大きさ比割合Rate(p)としてRAM又は記憶装置に記憶する。
Rate(p)=p以上のIrxy(n,m)の数/B(n,m)の数 …式13
次に、コントローラ70は、ステップS218にて電流大きさ比pが「1」以上であるか否かを判定する。この場合、電流大きさ比pは微小値Δraに等しいので、コントローラ70は、ステップS218にて「No」と判定し、ステップS220にて電流大きさ比pに微小値Δraを加算して、ステップS216,S218の処理を再び実行する。
【0104】
これらのステップS216〜S220の処理により、電流大きさ比pを微小値Δraずつ上昇させながら、電流大きさ比割合Rate(p)が順次計算される。そして、電流大きさ比pが「1」以上になると、コントローラ70は、ステップS218にて「Yes」と判定して、ステップS222にて、各電流大きさ比Irxy(n,m)に、各電流大きさ比Irxy(n,m)が全ての電流大きさ比Irxy(n,m)に対して占める割合(1/B(n,m)の数)を乗算して加算する下記式14の演算の実行により、面積値Areaを計算する。
Area=ΣIrxy(n,m) /B(n,m)の数 …式14
次に、コントローラ70は、ステップS224にて、強度比0〜1に対する電流大きさ比割合Rate(p)の変化を表すグラフを作成するとともに、作成したグラフを表示装置72に表示する。また、コントローラ70は、前記ステップS224にて、前記計算した面積値Areaも表示する。
【0105】
ここで、電流大きさ比p(=0〜1)に対する電流大きさ比割合Rate(p)の変化を表すグラフと、前記面積値Areaとについて説明しておく。電流大きさ比p(=0〜1)に対する電流大きさ比割合Rate(p)の変化、すなわち電流大きさ比p(=0〜1)とその電流大きさ比p以上の電流大きさ比割合Rate(p)との関係曲線は、図14のようになる。電流大きさ比Irxy(n,m)が「1」を超えるものの割合は「0」であり、電流大きさ比Irxy(n,m)が「0」以上であるものの割合は「1」であるので、あらゆる関係曲線は、X,Y座標が(0,1)と(1,0)を結ぶ曲線になる。そして、大きな電流の割合が小さな電流の割合よりも大きい場合には、関係曲線はAで示す実線のようになる。一方、小さな電流の割合が大きな電流の割合よりも大きいと、関係曲線はBに示す破線のようになる。仮に、全ての電流が均一であるならば、関係曲線は2点鎖線で示す長方形のようになる。そして、この2点鎖線で示す長方形から離れるに従って、すなわち実線Aを経て破線Bによる関係曲線になるほど、劣化の度合いを含むリチウムイオン2次電池BAの性能が良好でなくなる傾向であることを示す。
【0106】
次に、面積値Areaについて説明する。前記図14の関係曲線とX,Y軸で囲まれた面積は、小さな電流の割合が大きな電流の割合よりも大きくなるほど、すなわち劣化の度合いを含むリチウムイオン2次電池BAの性能が悪化するほど、小さくなる。なお、この面積の計算が、本発明における関係曲線を規定する関数の積分値を計算することを意味する。すなわち、仮に全ての電流が均一であるならば、前記面積は「1」となる。そして、劣化の度合いを含むリチウムイオン2次電池BAの性能が良好でなくなり、すなわち大きな電流の割合に対する小さな電流の割合が大きくなり、関係曲線が実線Aを経て破線Bによる関係曲線になるほど、前記面積は小さくなる。すなわち、前記面積が小さい程リチウムイオン2次電池BAの性能が良好でないことを意味する。
【0107】
一方、この面積は、前記式13で計算される面積値Areaに等しい。図15は、図14の実線Aで示す関係曲線を示しており、電流大きさ比pに対応したY軸方向の微小幅はそれぞれ電流大きさ比Irxy(n,m)が占める割合に等しいものである。そして、前記式13の演算は電流大きさ比Irxy(n,m)とその割合との乗算結果を足し合わせる演算であり、言い換えれば前記式13の面積値Areaの演算は図14及び図15において関係曲線をY軸方向に積分した演算結果に等しい。したがって、式13の演算結果による面積値Areaは図14の関係曲線とX,Y軸で囲まれた面積に等しく、ステップS224の処理によって表示装置72に表示される面積値Areaを見れば、「1」からどの程度離れているかによりリチウムイオン2次電池BAの性能を評価することができる。
【0108】
前記ステップS224の処理後、コントローラ70は、ステップS228に進む。一方、前述したように、リチウムイオン2次電池BAの電極が検出されずに、図7BのステップS138,S144にて「No」と判定された場合には、図7EのステップS226に進む。ステップS226においては、コントローラ70は、表示装置72に評価不能すなわち電解質領域の各箇所の電流の大きさがどの程度均一であるかの評価が不能である旨の表示をして、ステップS228に進む。この場合、作業者は、後述する電流分布画像を見て評価できない理由を判断し、画面を見ながら電解質領域を設定してプログラムでの処理と同様な処理を行わせるとよい。それ以外に、例えば、リチウムイオン2次電池BAの置き方を換えて再測定する、電解質領域を抽出する際の設定を換えて再測定する等の処理を行ってもよい。
【0109】
ステップS228においては、変数CHが「1」であるか否か、すなわち前述した図7BのステップS146のX,Y座標値の変換処理がなされたか否かを判定する。変数CHが「0」であって前記X,Y座標値の変換処理がなされていなければ、コントローラ70は、ステップS228にて「No」と判定してステップS232に進む。一方、変数CHが「1」であって前記X,Y座標値の変換処理がなされていれば、コントローラ70は、ステップS228にて「Yes」と判定して、ステップS230に進む。ステップS230においては、全ての電流大きさデータIxy(n,m)、電流方向データθixy(n,m)、X方向の電流大きさデータIx(n,m)及びY方向の電流大きさデータIy(n,m)を、それらのX座標値とY座標値を置き換えることにより、電流大きさデータIxy(m,n)、電流方向データθixy(m,n)、X方向の電流大きさデータIx(m,n)及びY方向の電流大きさデータIy(m,n)に変換する。そして、ステップS232に進む。すなわち、前述した図7BのステップS146のX,Y座標値の変換処理を元に戻す。
【0110】
ステップS232においては、コントローラ70は、前記電流の大きさデータIxy(n,m)及び方向データθixy(n,m)(n=1〜N,m=1〜M)、並びにX方向及びY方向に流れる電流の大きさデータIx(n,m),Iy(n,m) (n=1〜N,m=1〜M)から表示用画像データを生成して、画像データによって表された画像を、変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAを特定するための表示と共に表示装置72に表示する。この画像は、例えば、リチウムイオン2次電池BAの検査位置ごとに、電流の大きさデータIxy(n,m)に応じて矢印の長さを異ならせ、電流の方向データθixy(n,m)によって矢印の向きを異ならせて表示するとよい。また、電流の大きさデータIxy(n,m)に応じて、検査位置の明度、色彩などを異ならせる表示を含めてもよい。また、X方向及びY方向に流れる電流の大きさデータIx(n,m),Iy(n,m)に関しても、前記電流の大きさデータIxy(n,m)及び方向データθixy(n,m)と同様な矢印による表示を用いてもよいが、この場合、電流の向きが一定であるので、検査位置の明度、色彩などを電流の大きさデータIx(n,m),Iy(n,m)に応じて異ならせるだけでもよい。
【0111】
次に、コントローラ70は、ステップS234にて次のリチウムイオン2次電池BAの評価の指示があったか否かを判定する。この場合、作業者が次のリチウムイオン2次電池BAへの切換えを指示しなければ、コントローラ70は、ステップS234にて「No」と判定し続けて、ステップS234の判定処理を繰り返し実行する。一方、作業者が入力装置71を用いて次のリチウムイオン2次電池BAへの切換えを指示すると、コントローラ70は、ステップS234にて「Yes」と判定して、ステップS236に進む。ステップS236においては、コントローラ70は、変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達したか否かを判定する。変数sが前記数smaxに未だ達していなければ、コントローラ70は、ステップS236にて「No」と判定して、ステップS238にて変数sに「1」を加算して、図7AのステップS104に戻る。
【0112】
そして、前述したステップS104〜S232の処理が実行されて、変数sによって指定される次のリチウムイオン2次電池BAに関する上述した評価がなされる。そして、変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達するまで、作業者による次のリチウムイオン2次電池BAの指定に応答して、ステップS234の「Yes」及びステップS236の「No」との判定のもとに、ステップS238にて変数sが順次繰り上げられ、繰り上げられた変数sによって指定されるリチウムイオン2次電池BAに関してステップS104〜S232からなる処理が順次なされて、複数のリチウムイオン2次電池BAが次々に評価される。そして、変数sがリチウムイオン2次電池BAの数smaxに達すると、コントローラ70は、ステップS236にて「Yes」と判定して、ステップS240にてこの評価プログラムの実行を終了する。
【0113】
上記のように動作する実施形態においては、通電信号供給回路65及び通電回路66が、所定周波数の交流成分を重畳した直流電圧をリチウムイオン2次電池BAの正極及び負極間に印加する。これにより、リチウムイオン2次電池BA内の陽極、陰極及び電解質中には前記交流成分に応じた電流が流れ、リチウムイオン2次電池BAに対向する部分には磁界が発生する。そして、この磁界が磁気センサ10によって検出され、検出された磁界に基づいて計算されたリチウムイオン2次電池BA内の各部に流れる電流によって、リチウムイオン2次電池BAが評価される。
【0114】
この場合、交流成分を重畳させた直流電圧はリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内で変化する直流電圧であり、リチウムイオン2次電池BAは充放電を繰り返し、リチウムイオン2次電池BAに電流が流される。その結果、検査後において過充電状態及び過放電状態になることもなく、また検査中においても、2次電池の電極間に印加される電圧の最大値及び最小値は、必ず2次電池の動作電圧範囲内に維持されるので、充電及び放電による2次電池への悪影響が全くなく、2次電池の検査が良好に行われる。また、ロックインアンプ69により、前記所定周波数の交流成分に関係して発生される磁界を表す信号のみが取出されるので、比較的簡単な構成で、外部磁界の影響を受けない磁界を検出できる。その結果、2次電池の評価装置のコストを抑えたうえで、外部磁界が一様になるようにする必要もなく、リチウムイオン2次電池BAの複数の部分を流れる電流によって発生される磁界を精度よく検出できるので、ひいてはリチウムイオン2次電池BAの性能を精度よく評価できるようになる。
【0115】
また、上記実施形態においては、ステップS26〜S66の処理によりリチウムイオン2次電池BAの各部に対向する位置の磁界が検出され、ステップS102〜S126の処理により電流大きさデータIxy(n,m)、電流方向データθixy(n,m)、X方向の電流大きさデータIx(n,m)及びY方向の電流大きさデータIy(n,m)が計算される。ステップS130〜S156の処理によりリチウムイオン2次電池BAの電極位置が検出され、ステップS160〜S186の処理により電極領域EP1,EP2・・が検出される。そして、ステップS190〜S204の処理によりリチウムイオン2次電池BAにおいて電流の流れる電解質領域ERが検出され、ステップS210〜S220、S224の処理により、電解質領域ER内の複数の部分に対応した電流大きさデータIxy(n,m)が抽出されるとともに、抽出された複数の電流大きさデータIxy(n,m)の大きさに関する分布状態を表すグラフが作成されて表示装置72に表示される。この場合のグラフは、電流の大きさと、前記電流の大きさ以上の電流の大きさデータIxy(n,m)の占める割合との関係を示す関係曲線である。その結果、作業者は、表示装置72に表示されるグラフにより電解質領域ERの各部に流れる電流の分布状態を把握できる。すなわち、作業者は、前述したように、電極間の一部のルートに流れる大きな電流に対して電流が小さくなる度合いを把握でき、劣化の度合いを含むリチウムイオン2次電池BAの性能を簡単に評価できるようになる。しかも、電解質領域ERは自動的に検出され、電解質領域ER内の複数の部分に対応した電流大きさデータIxy(n,m)も自動的に抽出されるので、リチウムイオン2次電池BAの性能の評価が簡単に行われる。
【0116】
また、前記関係曲線は、ステップS210,S212の処理により、電解質領域の電流の大きさIxy(n,m)を、同電流の大きさIxy(n,m)の最大値MaxIxyで除算した電流大きさ比Irxy(n,m)を用いて作成したものである。これによれば、関係曲線における電流の大きさIxy(n,m)の軸であるX軸の値は、どのような場合でも最大で「1」になる。また、もう一つの軸である電流大きさ比Irxy(n,m)の割合のY軸も最大で「1」であるので、どのような場合でも関係曲線のX,Y軸の目盛りは一定になる。よって、リチウムイオン2次電池BAの種類及び印加電圧によらず、関係曲線による2次電池の評価が簡単に行える。
【0117】
また、上記実施形態においては、ステップS222,S224の処理により、関係曲線を規定する関数の積分値、すなわち前記関係曲線とX,Y軸で囲まれた領域の面積値Areaが計算されて表示装置72に表示される。この場合、前記積分値すなわち前記面積値Areaは、小さな電流の大きさIxy(n,m)の割合が大きな電流の大きさIxy(n,m)の割合よりも大きくなる場合には、大きな電流の大きさIxy(n,m)の割合が小さな電流の大きさIxy(n,m)の割合よりも大きくなる場合に比べて小さな値となるので、前記積分値すなわち前記面積値Areaの大小によっても、劣化の度合いを含む2次電池の評価を行えるようになる。
【0118】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0119】
上記実施形態においては、各検出位置のY方向の電流大きさデータIy(n,m)を用いて図7BのステップS130〜図7Cの186の処理により電極領域EP1,EP2・・を検出し、この電極領域EP1,EP2・・を用いて図7DのステップS190〜S204の処理により電流の流れる電解質領域ERを検出するようにした。しかし、これに代えて、リチウムイオン2次電池BAの評価時間が長くなってもよければ、作業者がリチウムイオン2次電池の電流分布の画像を見て電流の流れる電解質領域を決定し、この決定した電解質領域内の各部に流れる電流大きさデータIxy(n,m)を用いて図14に示す関係曲線を求めたり、この関係曲線とX−Y座標軸で囲まれた領域の面積値Areaを計算したりするようにしてもよい。
【0120】
また、上記実施形態では、各リチウムイオン2次電池BAごとに電解質領域ERを決定するようにした。しかし、同じ種類の複数のリチウムイオン2次電池BAを評価する場合であれば、予め電流の流れる電解質領域ERを決定しておき、この予め決めた電解質領域ER内の各部に流れる電流大きさデータIxy(n,m)を用いて図14に示す関係曲線を求めたり、この関係曲線とX−Y座標軸で囲まれた領域の面積値Areaを計算したりするようにしてもよい。
【0121】
また、上記実施形態では、図7EのステップS216の処理によって電流大きさ比p以上の電流大きさ比Irxy(n,m)が占める電流大きさ比割合Rate(p)を計算して、ステップS224の処理によって電流大きさ比割合Rate(p)の変化を表すグラフを作成するとともに作成したグラフを表示装置72に表示するようにした。しかし、これに代えて、ステップS216にて電流大きさ比p以下の電流大きさ比Irxy(n,m)が占める電流大きさ比割合Rate(p)を計算して、ステップS224にてこの計算した電流大きさ比割合Rate(p)の変化を表すグラフを作成するとともに作成したグラフを表示装置72に表示するようにしてもよい。この場合、電流大きさ比割合Rate(p)は、上記実施形態の「1」から減算した値に等しい。
【0122】
したがって、図14の実線Aで示した特性のリチウムイオン2次電池BAであれば、図16に示すように、Y軸値が0.5であるX軸に平行な直線に対し、図14の実線Aで示した関係曲線と対称となる関係曲線となる。また、図14の破線Bで示した特性のリチウムイオン2次電池BAであれば、図16に示すように、Y軸値が0.5であるX軸に平行な直線に対し、図14の破線Bで示した関係曲線と対称となる関係曲線となる。そして、この場合も、リチウムイオン2次電池BAの性能が良好で、大きな電流の大きさIxy(n,m)の割合が小さな電流の大きさIxy(n,m)に比べて大きければ、関係曲線は破線Bで示されたものではなく、実線Aで示されたものとなる。逆に、リチウムイオン2次電池BAの劣化が進むことなどで性能が良好でなく、小さな電流の大きさIxy(n,m)の割合が大きな電流の大きさIxy(n,m)に比べて大きければ、関係曲線は破線Bで示されたものとなる。これによっても、グラフ表示によりリチウムイオン2次電池BAの性能を評価できる。
【0123】
また、この変形例においては、上記ステップS222で計算される関係曲線とX,Y軸線とで囲まれる領域の面積値Areaは、電流大きさ比割合Rate(p)が上記実施形態の「1」から減算した値に等しいので、下記式15によって計算される。
Area=1−ΣIrxy(n,m) /B(n,m)の数 …式15
そして、この変形例においては、上記実施形態とは逆に、リチウムイオン2次電池BAの性能が良好で、大きな電流の大きさIxy(n,m)の割合が小さな電流の大きさIxy(n,m)に比べて大きければ、関係曲線とX,Y軸で囲まれた面積値Area(本発明の積分値)は小さくなる。逆に、リチウムイオン2次電池BAの劣化が進むことなどで性能が良好でなく、小さな電流の大きさIxy(n,m)の割合が大きな電流の大きさIxy(n,m)に比べて大きければ、前記面積値Areaは大きくなる。したがって、この面積値Areaの表示によっても、リチウムイオン2次電池BAの性能を評価できる。
【0124】
また、上記実施形態又は変形例では、電流大きさ比p以上又は以下の電流大きさ比Irxy(n,m)が占める電流大きさ比割合Rate(p)を計算して、電流大きさ比割合Rate(p)の変化を表すグラフを作成するとともに作成したグラフを表示装置72に表示するようにした。しかし、これに代えて、ステップS216にて電流大きさ比pに等しい電流大きさ比Irxy(n,m)が占める電流大きさ比割合Rate(p)を計算して、ステップS224にてこの計算した電流大きさ比割合Rate(p)の変化を表すグラフを作成するとともに作成したグラフを表示装置72に表示するようにしてもよい。この場合、リチウムイオン2次電池BAの性能が良好で、大きな電流の大きさIxy(n,m)の割合が小さな電流の大きさIxy(n,m)に比べて大きければ、図17の実線Aで示されたものとなる。逆に、リチウムイオン2次電池BAの劣化が進むことなどで性能が良好でなく、小さな電流の大きさIxy(n,m)の割合が大きな電流の大きさIxy(n,m)に比べて大きければ、関係曲線は図17の破線Bで示されたものとなる。これによっても、関係曲線のグラフ表示によりリチウムイオン2次電池BAの性能を評価できるようになる。
【0125】
また、上記実施形態及び変形例では、電流大きさ比pを用いて関係曲線を作成した。しかし、同じ種類のリチウムイオン2次電池BAに同じ条件で電圧を印加して評価する場合には、電流大きさ比pに代えて電流大きさデータIxy(n,m)をそのまま用いて関係曲線を作成してもよい。この場合、電流大きさデータIxy(n,m)の最大値は種々に変化するので、Y座標値が「0」である関係曲線のX座標値は上記実施形態のように「1」ではなく、種々に変化する。しかし、リチウムイオン2次電池BAの種類と電圧印加条件が固定されていれば、異なるリチウムイオン2次電池BA間における関係曲線の比較によって各リチウムイオン2次電池BAの評価はできる。また、この関係曲線とX,Y座標軸とで囲まれた面積の面積値Areaの比較によっても各リチウムイオン2次電池BAの評価はできる。
【0126】
また、上記実施形態においては、磁気センサ10で検出した磁界から求めた電流の大きさIxyを用いてリチウムイオン2次電池BAの性能を評価するようにした。しかし、磁界の強さHxyと電流の大きさIxyは比例関係にあり、磁界の方向θxyと電流の方向Ixyは90度異なっているだけであるので、電流の大きさIxyに代えて、磁界の強さHxyを用いてリチウムイオン2次電池BAを評価するようにしてもよい。この場合、ステップS10〜S80,S102〜S124の処理により、リチウムイオン2次電池BAの複数の部分に流れる複数の電流の大きさIxy(n,m)に代えて、前記複数の部分に対向した位置における複数の磁界の強さHxy(n,m)を複数の評価対象物理量としてそれぞれ計算し、ステップS190〜204,S212の処理により、前記計算された複数の磁界の強さHxy(n,m)のうちで、電解質領域ER内の複数の部分に対応した複数の磁界の強さHxy(n,m)を抽出し、S210〜S220,S224の処理により抽出した複数の磁界の強さHxy(n,m)の分布状態を表すグラフを作成して表示するとよい。
【0127】
また、この場合も、複数の磁界の強さHxy(n,m)の分布状態を表す関係曲線は、ステップS210,S212の処理により、電解質領域の磁界の強さHxy(n,m)を、同磁界の強さHxy(n,m)の最大値MaxHxyで除算した磁界強さ比Hrxy(n,m)を用いて作成するとよい。そして、ステップS222,S224の処理により、関係曲線を規定する関数の積分値、すなわち前記関係曲線とX,Y軸で囲まれた領域の面積値Areaを計算して表示装置72に表示するとよい。
【0128】
さらに、複数の磁界の強さHxy(n,m)の分布状態を表すグラフを利用する場合も、上記実施形態の変形例と同様に、ステップS216にて磁界強さ比p以下の磁界強さ比Hrxy(n,m)が占める磁界強さ比割合Rate(p)を計算して、ステップS224にてこの計算した磁界強さ比割合Rate(p)の変化を表すグラフを作成するとともに作成したグラフを表示装置72に表示するようにしてもよい。また、ステップS216にて磁界強さ比pに等しい磁界強さ比Hrxy(n,m)が占める磁界強さ比割合Rate(p)を計算して、ステップS224にてこの計算した磁界強さ比割合Rate(p)の変化を表すグラフを作成するとともに作成したグラフを表示装置72に表示するようにしてもよい。このように磁界の強さHxy(n,m)を用いる場合も、前記電流の大きさIxy(n,m)を用いる場合と同様に、リチウムイオン2次電池BAの性能を評価できる。
【0129】
また、磁界の強さHxy(n,m)を用いる場合も、前記変形例の場合と同様に、同じ種類のリチウムイオン2次電池BAに同じ条件で電圧を印加して評価する場合には、磁界強さ比pに代えて磁界強さデータHxy(n,m)を用いて関係曲線を作成してもよい。これによっても、リチウムイオン2次電池BAの性能は評価される。
【0130】
また、上記実施形態においては、通電回路66によってリチウムイオン2次電池BAに印加される通電電圧は、常に、リチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲を超えることがないようにした。しかし、通電電圧の変動の中心電圧、すなわち交流信号が重畳される直流電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲内、すなわちリチウムイオン2次電池BAの放電電圧の下限値以上かつ充電電圧の上限以下であれば大きな問題はない。この場合、交流信号が重畳される直流電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲(すなわち充電電圧)の上限に近ければ、検査中には、通電電圧(充電時の電圧)がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲の上限を上回る場合がある。また、交流信号が重畳される直流電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲(すなわち放電電圧)の下限に近ければ、検査中には、通電電圧(放電時の電圧)がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲の下限を下回る場合がある。しかしながら、検査後のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧は動作電圧範囲内にあり、検査後のリチウムイオン2次電池BAが過充電状態又は過放電状態になることはないので、リチウムイオン2次電池BAに与える影響はそれほど大きくない。
【0131】
また、上記実施形態では、通電信号供給回路65から供給される「0」を中心に変化する交流信号が通電回路66にて重畳される直流電圧は常に一定であるとした。しかし、これに代えて、前記交流信号が重畳される直流電圧を、検査前のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧と同じにするようにしてもよい。この場合、検査前にリチウムイオン2次電池BAの出力電圧を自動的に測定して、通電回路66が前記測定した出力電圧に前記交流信号を自動的に重畳させるようにしてもよい。また、作業者が検査前にリチウムイオン2次電池BAの出力電圧を測定し、測定した電圧を入力装置71を用いてコントローラ70に入力し、コントローラ70が通電回路66を制御して前記測定した電圧に前記交流信号を重畳するようにしてもよい。なお、この場合も、検査前のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲の上限又は下限に近ければ、前述のように、検査中には、通電電圧がリチウムイオン2次電池BAの動作電圧範囲を超えることもある。しかしながら、この場合も、前述のように、リチウムイオン2次電池BAに与える問題はそれほど大きくない。
【0132】
一方、この変形例によれば、通電回路66によってリチウムイオン2次電池BAの陽極及び陰極間に印加される電圧は、検査前のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧を中心に上下に変化して充放電が繰り返されるので、検査後のリチウムイオン2次電池BAの出力電圧は検査前の出力電圧と同じになる。その結果、リチウムイオン2次電池BAの状態を、検査前と検査中とでほとんど同じ状態に保つことができるとともに、検査後においても検査前と同じ状態に保つことができ、検査前の状態におけるリチウムイオン2次電池BAの性能を評価できるとともに、同状態を保ったまま他の検査及び作動を実現できる。
【0133】
また、上記実施形態では複数のリチウムイオン2次電池BAをセットできるステージ40を使用して、複数のリチウムイオン2次電池を一度に評価するようにした。しかし、リチウムイオン2次電池BAを一つずつ評価する場合には、1つのリチウムイオン2次電池BAのみをセットできるステージ40を用意し、前記1つのリチウムイオン2次電池BAの対向位置及びその周囲を磁気センサ10で走査するようにすればよい。これによれば、複数のリチウムイオン2次電池を評価する場合には、評価時間は上記実施形態に比べて長くなるが、評価装置をコンパクトに構成できる。
【0134】
また、上記実施形態においては、1つの磁気センサ10をX方向及びY方向に移動させて、複数のリチウムイオン2次電池BAを評価するようにした。しかし、ステージ40の下方に多数の磁気センサをマトリクス状に配置して、多数の磁気センサを移動させることなく、複数のリチウムイオン2次電池BAを評価するようにしてもよい。また、X方向に沿って1列に複数の磁気センサを設けたり、Y方向に沿って1列に複数の磁気センサを設けたり、X方向及びY方向にマトリクス状に少数の磁気センサを設けたりして、これらの磁気センサ群を適宜移動させて、複数のリチウムイオン2次電池を走査することにより、複数のリチウムイオン2次電池を評価するようにしてもよい。
【0135】
また、上記実施形態では、磁気センサとして磁気抵抗素子(MR素子)を利用したが、これに代えて、ホール素子、磁気インピーダンス素子効果センサ、フラックスゲート、超伝導量子干渉素子などを利用するようにしてもよい。
【0136】
また、上記実施形態においては、本発明に係る評価装置をリチウムイオン2次電池BAの検査に利用したが、本発明に係る評価装置は、ニッケルカドミウム2次電池、ニッケル水素2次電池などのリチウムイオン2次電池BA以外の充電可能な2次電池にも適用できる。この場合、2次電池を上記実施形態の電池セット用テーブル50にセットできないときには、2次電池の形状、大きさなどに応じて、上記実施形態とは異なるステージ40と電池セット用テーブル50を用意するようにすればよい。また、リチウムイオン2次電池であっても、2次電池を上記実施形態の電池セット用テーブル50にセットできないときには、そのリチウムイオン2次電池に合ったステージ40と電池セット用テーブル50を用意するようにすればよい。
【符号の説明】
【0137】
10…磁気センサ、20 …X方向スライド機構、25…X方向モータ、30…Y方向スライド機構、34…Y方向モータ、40…ステージ、50…電池セット用テーブル、61…X方向位置検出回路、62…X方向フィードモータ制御回路、63…Y方向位置検出回路、64…Y方向フィードモータ制御回路、65…通電信号供給回路、66…通電回路、67…通電選択回路、68…センサ信号取出回路、69…ロックインアンプ、70…コントローラ、72…表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次電池の電極間に電圧を印加して電流を流す通電手段と、
2次電池の複数の部分に対向して位置し、前記複数の部分に流れる電流によって発生する磁界を検出して、検出磁界を表す信号を出力する磁界検出手段と、
前記磁界検出手段から出力される検出磁界を表す信号から、前記2次電池の複数の部分に流れる複数の電流の大きさ又は前記複数の部分に対向した位置における複数の磁界の強さを複数の評価対象物理量としてそれぞれ計算する評価対象物理量計算手段と、
前記評価対象物理量計算手段によって計算された複数の評価対象物理量のうちで、2次電池の電極間に位置する電解質領域内の複数の部分に対応した複数の評価対象物理量を抽出する評価対象物理量抽出手段と、
前記評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフを作成して表示するグラフ表示手段と
を備えたことを特徴とする2次電池の評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載した2次電池の評価装置において、
前記複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフは、前記評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量のうちで、評価対象物理量の大きさと、前記評価対象物理量の大きさ以上又は以下の評価対象物理量の大きさの占める割合との関係を示す関係曲線であることを
特徴とする2次電池の評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載した2次電池の評価装置において、さらに、
前記関係曲線を規定する関数の積分値を計算して表示する積分値表示手段を備えたこと
を特徴とする2次電池の評価装置。
【請求項4】
請求項1に記載した2次電池の評価装置において、
前記複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフは、前記評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量のうちで、評価対象物理量の大きさと、前記評価対象物理量の大きさの占める割合との関係を示す関係曲線であること
を特徴とする2次電池の評価装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一つに記載した2次電池の評価装置において、
前記関係曲線は、前記評価対象物理量抽出手段によって抽出された複数の評価対象物理量の大きさの最大値で除算した評価対象物理量の大きさを用いて作成したものであること
を特徴とする2次電池の評価装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか1つに記載した2次電池の評価装置において、
前記評価対象物理量抽出手段は、前記評価対象物理量計算手段によって計算された複数の評価対象物理量を用いて前記電解質領域を決定する電解質領域決定手段を有すること
を特徴とする2次電池の評価装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれか1つに記載した2次電池の評価装置において、
前記通電手段は、直流電圧に所定周波数の交流成分を重畳させた直流電圧を2次電池の電極間に印加し、
前記磁界検出手段は、前記所定周波数に等しい周波数で変化する磁界を検出して検出磁界を表す信号を出力すること
を特徴とする2次電池の評価装置。
【請求項8】
請求項7に記載の2次電池の評価装置において、
前記交流成分を重畳させる前の直流電圧は、2次電池の動作電圧範囲内であること
を特徴する2次電池の評価装置。
【請求項9】
2次電池の電極間に電圧を印加して電流を流す通電手段と、
2次電池の複数の部分に対向して位置し、前記複数の部分に流れる電流によって発生する磁界を検出して、検出磁界を表す信号を出力する磁界検出手段とを備えた2次電池の評価装置に適用され、
前記磁界検出手段から出力される検出磁界を表す信号から、前記2次電池の複数の部分に流れる複数の電流の大きさ又は前記複数の部分に対向した位置における複数の磁界の強さを複数の評価対象物理量としてそれぞれ計算する評価対象物理量計算ステップと、
前記評価対象物理量計算ステップによって計算された複数の評価対象物理量のうちで、2次電池の電極間に位置する電解質領域内の複数の部分に対応した複数の評価対象物理量を抽出する評価対象物理量抽出ステップと、
前記評価対象物理量抽出ステップによって抽出された複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフを作成して表示するグラフ表示ステップと
を含むことを特徴とする2次電池の評価方法。
【請求項10】
請求項9に記載した2次電池の評価方法において、
前記複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフは、前記評価対象物理量抽出ステップによって抽出された複数の評価対象物理量のうちで、評価対象物理量の大きさと、前記評価対象物理量の大きさ以上又は以下の評価対象物理量の大きさの占める割合との関係を示す関係曲線であることを
特徴とする2次電池の評価方法。
【請求項11】
請求項9に記載した2次電池の評価方法において、さらに、
前記関係曲線を規定する関数の積分値を計算して表示する積分値表示ステップを備えたこと
を特徴とする2次電池の評価方法。
【請求項12】
請求項9に記載した2次電池の評価方法において、
前記複数の評価対象物理量の大きさの分布状態を表すグラフは、前記評価対象物理量抽出ステップによって抽出された複数の評価対象物理量のうちで、評価対象物理量の大きさと、前記評価対象物理量の大きさの占める割合との関係を示す関係曲線であること
を特徴とする2次電池の評価方法。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれか一つに記載した2次電池の評価方法において、
前記関係曲線は、前記評価対象物理量抽出ステップによって抽出された複数の評価対象物理量の大きさの最大値で除算した評価対象物理量の大きさを用いて作成したものであること
を特徴とする2次電池の評価方法。
【請求項14】
請求項9乃至13のうちのいずれか1つに記載した2次電池の評価方法において、
前記評価対象物理量抽出ステップは、前記評価対象物理量計算ステップによって計算された複数の評価対象物理量を用いて前記電解質領域を決定する電解質領域決定ステップを含むこと
を特徴とする2次電池の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−32985(P2013−32985A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169492(P2011−169492)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000112004)パルステック工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】