説明

2線4線変換回路

【課題】40dB程度のエコー減衰量を実現することが可能な2線4線交換回路を提供する。
【解決手段】ハイブリッド回路の4線側にエコー消去回路を配置した2線4線変換回路において、該2線4線変換回路の2線側に、該2線側と前記ハイブリッド回路との分離のために2巻線トランスが配置され、該2巻線トランスは、伝送インピーダンスが600オームで信号出力レベルが周波数(300〜3400)Hzで0dBm程度のときの片側のオープンインダクタンスが9.6H程度以上で所望の伝送ロスと該トランスの形状寸法により制限される値以下であるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電話システムに用いられている2線4線変換回路に関するものであり、特に4線側にエコー消去回路を配置した2線4線変換回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
VoIP電話機において、2線4線変換回路で発生するエコーの消去でエコーキャンセラを用いる場合に、リニアPCMのコーデックを採用しているため、エコー消去を十分に行うためには、送話信号に対してエコー信号がリニア(線形)特性を有していなければならない。
【0003】
この場合に、通常のエコーキャンセラでは、4線回路の送話側から受話側に漏洩するエコーを抑圧するために、その送話側にレベル制御手段を挿入して、そのレベル制御手段を4線回路の送話側信号及び受話側信号から作成された擬似エコー信号により制御する形式を採用している。
このようなエコーキャンセラにおいて、受話信号レベルの増大を検知して送話信号のレベルを抑圧する提案もある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−198433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のエコーキャンセラにおいては、前述の原因もあり、エコー(側音も含む)減衰量は、実用上(20〜30)dB程度であって、十分なエコー消去が行われているとは言えない。
【0005】
本発明の目的は、従来技術のこのような欠点を除去し、40dB程度のエコー減衰量を実現することが可能な2線4線交換回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明による2線4線変換回路は、ハイブリッド回路と、該ハイブリッド回路の4線側にエコー消去回路を配置した2線4線変換回路において、該2線4線変換回路の2線側に、該2線側と前記ハイブリッド回路との分離のために2巻線トランスが配置され、
該2巻線トランスは、
伝送インピーダンスが600オームで信号出力レベルが周波数(300〜3400)Hzで0dBm程度のときの片側のオープンインダクタンスが9.6H程度以上で所望の伝送ロスと該トランスの形状寸法により制限される値以下であるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、2線4線変換回路の2線側に、特有の構成の2巻線トランスを用いることにより、従来技術では実用上は通例の値であるとみなされていたエコー減衰量(20〜30)dBを容易に40dB程度まで上昇させることが可能であるから、VoIP電話機も広く利用される傾向にある現状において、通信の品質向上と安定性維持にもたらされる特殊効果は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ブリッジ構成のエコー消去用ハイブリッドトランスでは、2線回路と4線回路とを分離するために、2巻線トランスが用いられている。このトランスのコア(芯)は磁性材料であり、この磁性材料は磁界Hと磁束Bの関係を表わす比(透磁率)が図6に示すように非線形であり、磁界が小さいと比が小さくなり、大きいと大きくなる。このため、トランスに流す信号が小さいとトランスのインダクタンスが小さく、大きいと大きくなる。
トランスの1次側からみたインピーダンスは2次側に接続された負荷インピーダンスに、トランスの直列抵抗が直列に、このインダクタンスが並列に合成されて見える。この結果、トランスに流す信号が小さいとこのインダクタンスが小さいので、トランスインピーダンスの位相ずれが大きく、信号が大きいとインダクタンスが大きくなるので位相ずれが小さくなる。
送話信号に対するエコー信号はトランスのインピーダンスと比例し、信号が小さいと位相ずれが大きく、大きいと小さくなり、リニア(線形)特性ではなくなる。
エコーキャンセラは、送話信号が中程度のレベルにおいて消去フィルタの定数を適用してエコーを消去する。ところが送話信号が大きいレベルの場合には、エコー信号の位相が小さくなって消去フィルタの位相とずれることとなり、エコーの消去が出来なくなる。
【0009】
このため、トランスのインダクタンスを大きくして、トランスに流す信号が小さくてもトランスのインダクタンスが大きく、大きいとさらに大きくなるようにする。この結果、トランスに流す信号が小さいとこのインダクタンスが大きいのでトランスインピーダンスの位相ずれが小さく、信号が大きいとインダクタンスがさらに大きくなるので位相ずれはさらに小さくなる。
エコーキャンセラは、送話信号が中程度のレベルにおいて、消去フィルタの定数を適用してエコーを消去する。このとき、送話信号のレベルが大きくなるとエコー信号の位相がさらに小さくなるが、消去フィルタの位相とのずれは小さいのでエコーの消去はできる。
【0010】
トランスのインピーダンスの位相ずれについて検討する。
トランスの等価回路は図1のように表わされる。1次側と2次側の巻き数が同じ場合を示す。1次側のインダクタンスと2次側のインダクタンスをL、相互インダクタンスをLとする。2次側終端抵抗をRとする。
【0011】
1次側から見たインピーダンスの等価回路は図2のようになる。
すなわち、インダクタンスLが2次側負荷抵抗に並列に配置されたように見える。
ここで、インピーダンスZは次式(1)のように表わされる。
Z=jωL//R ωは角周波数 (1)
また、インピーダンスの位相θは次式(2)のように表わされる。
tanθ=R/ωL (2) インダクタンスLは次式のように表わされる。
L=kμn2
kは定数
μはトランスコア(芯)の磁性体の透磁率
nはトランスコイルの巻き数
【0012】
μ(トランスコア磁性体の透磁率)は信号レベルの大きさによって図3のように変化する。信号レベルが大きくなるほど透磁率は大きくなる。信号レベルが小のときの透磁率をμ1、信号レベルが通常のときの透磁率をμ2、信号レベルが大のときの透磁率をμ3とする。
インダクタンスLは、
信号レベル小のときは L1=kμ1n2 (3)
信号レベル通常のときは L2=kμ2n2 (4)
信号レベル大のときは L3=kμ3n2 (5)
となる。
【0013】
インピーダンス位相 tanθは
信号レベルが小のときは、
【数1】

信号レベルが通常のときは、
【数2】

信号レベルが大のときは、
【数3】

となる。
【0014】
信号レベルが通常のときと、信号レベルが大のときで、インダクタンスLはL2からL3へ変化し、インピーダンス位相θはθ2からθ3へ変化する(ずれる)。
このインピーダンス位相のずれを小さくするためには、これまでの式よりθ2,θ3自体を小さくすればよいことがわかる。
θ2,θ3を小さくするには、μ(透磁率)の大きいコアを用いるか、n(巻き数)を大きくする。すなわち、インダクタンスLを大きくすれば良いことになる。
次にインダクタンスLをどこまで大きくすればよいかについて述べる。
【0015】
4線2線変換回路の側音の位相ずれについて検討する。
4線2線変換回路に使用しているトランスのインピーダンスの位相ずれにより、4線2線変換回路の側音の位相ずれを起こす。
4線2線変換回路は図4のように表わされ、側音の位相は次式で表わされる。
【数4】

r:分割抵抗を600オーム、R:トランス負荷抵抗を600オーム
Z:平衡インピーダンスを600オームとすると
【数5】

受話信号(側音)の位相θ(側音)は:次のように表わされる。
【数6】

ここで信号レベルが通常のときの位相θ2(側音)は
【数7】

L2:信号レベルが通常のときのL
次に信号レベルが大のときの位相θ3(側音)は
【数8】

L3:信号レベルが大のときのL
で表わされる。
【0016】
エコーキャンセラで側音を消去する場合に、送話信号を適応フィルタに通して受話(側音)信号に足し合わせて打ち消すテクニックを使用する。
信号レベルが通常のときに適応フィルタを適応した場合、信号レベルが通常のときの受話(側音)信号の位相θ2(側音)に対して信号レベルが大のときの位相θ3(側音)がずれると、エコーキャンセラは打ち消せなくなって、打ち消し残りが生ずる。
打ち消し残りは−40dB以下程度にする必要があり、そのためには位相θ2(側音)と位相θ(側音)のずれは0.57度以下程度にする必要がある。
【数9】

以上の式を解くと、x=約0.57度となる。
【0017】
ここで、ωL2およびωL3が600オームに対して十分大きい場合、位相θ2(側音)のずれは次のようになる。
【数10】

位相のずれの目標0.57度をラジアンになおすと、
【数11】

となり、
【数12】

式(17)を
ω=2π×300として
L2とL3の関係は、トランスコアがPCパーマロイの場合、L3=1.3×L2程度になるので、これを代入すると、
【数13】

となり、これを解くと
L2=7.38H(ヘンリー)となる。また、L3=9.6Hとなる。
【0018】
従来はL2=1H,L3=1.3H程度であったため、入力信号が大きくなったときに、エコーキャンセラの打ち消し残りが−20dB程度発生していた。
本発明では、トランスのコアの材質をμの大きいPCパーマロイなどを使用してまた巻き線の巻き数を多くすることにより、インダクタンスをL2=7.38H以上、L3=9.6H以上にすることで、図7に示すように、エコーキャンセラの打ち消し残りを−40dB以下にすることができる。
【実施例】
【0019】
インダクタンスを10H以上(実用的な目標値として)得るための実際のトランスを小形に実現して、小形ゆえにインダクタンス以外の性能を犠牲にしなければならない場合の、犠牲とした性能をどのようにカバーすることができるかを述べる。
(1)トランスのインダクタンスを上げる対策
イ)巻線のターン数を多くする。
ロ)コアの材質を交流透磁率の大きい物にする。
ハ)コア形状を磁気抵抗の小さい物にする。
しかし、トランスのインダクタンスを上げると、次の欠点がある。
A)抵抗が大きくなる(抵抗を大きくしないと大型になる)。
B)高価になる。
C)高価,大型になる。
(2)小型にして、高価にならないようにして、インダクタンスを上げると、抵抗が大きくなる。
抵抗が大きくなると、次の結果となる。
1)伝送損失が大きくなる。
解決1)トランスの前後の増幅器の増幅量を大きくして、カバーする。
2)インピーダンスが大きくなる。
解決2)2次側終端抵抗Rxを小さくして、1次側のインピーダンスを下げ、所要の値に維持する。
解決3)2次側巻数比を大きくして、1次側のインピーダンスを下げ所要の値に維持する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、一般の有線電話回線のみならず、VoIP電話回線における2線4線変換回路として広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に用いる2巻線トランスの構成を説明するための回路図である。
【図2】本発明に用いる2巻線トランスの構成を説明するための等価回路図である。
【図3】本発明に用いるトランスコア磁性体の透磁率の信号レベルに対する変化例を示す特性図である。
【図4】本発明による2巻線トランスを用いるブリッジ構成の2線4線変換回路例を示す回路図である。
【図5】本発明に用いる2巻線トランスの変形例を説明するための等価回路図である。
【図6】本発明に用いる2巻線トランスのコア磁性体のB−H特性例図である。
【図7】本発明に用いる2巻線トランスのインダクタンス(H)対2線4線変換回路のエコー消し残り(dB)の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0022】
L インダクタンス
L1 信号レベル小のときのインダクタンス
L2 信号レベル通常のときのインダクタンス
L3 信号レベル大のときのインダクタンス
μ1 信号レベル小のときの透磁率
μ2 信号レベル通常のときの透磁率
μ3 信号レベル大のときの透磁率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド回路と、該ハイブリッド回路の4線側にエコー消去回路を配置した2線4線変換回路において、
該2線4線変換回路の2線側に、該2線側と前記ハイブリッド回路との分離のために2巻線トランスが配置され、
該2巻腺トランスは、
伝送インピーダンスが600オームで信号出力レベルが周波数(300〜3400)Hzで0dBm程度のときの片側のオープンインダクタンスが9.6H程度以上で所望の伝送ロスと該トランスの形状寸法により制限される値以下である
ように構成されていることを特徴とする2線4線変換回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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