説明

2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの加工方式

【課題】2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクについて、顧客の希望する形状で安全を確保できるものを生産する工程を示す。
【解決手段】2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの生産において、コンピュータ制御の下、顧客の求める形状の2次元図面より3次元CADデータに変換し、そのCADデータから機械的特性を把握し、これまでに作成した安全基準と比較し、安全基準を満たす場合には、これをCADデータとし、安全基準を満たさない場合には、安全基準を満たすような形状適正化を行い、これをCADデータとして、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの安全を確保する加工方式に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量性や美的外観のため、車両用ホイールとしてアルミホイールが用いられている。このアルミホイールは車両のハブに取り付けるディスクと、タイヤが取り付けられるリムが一体に成形された1ピース型と、ディスクとリムが別体となった2ピース型と、さらには、リムをアウタリムとインナリムに分割した3ピース型がある。
【0003】
この中で、3ピース型アルミホイールでは、様々にデザインされたディスクに市販のアウタリムやインナリムが取り付けられる。4輪車での3ピース型アルミホイールでは、ディスクと外部から見えるアウタリム及び車体内側のインナリムとにより構成されている。2輪車では、左右両面ともに外部から見えるため、ディスクの両面ともに装飾面あるいはA面と称され、どちらもアウタリムとなっている。
【0004】
3ピース型アルミホイールでは、アフター商品である、2輪車用のアウタリム、4輪車用のアウタリムとインナリムは、いずれも市販されており、使用者は、好みに応じて任意にリムを選択することができる。しかし、これを使用するには、3ピース型アルミホイールのディスクの形状がアウタリムやインナリムの接合面やボルト径・位置等に適合していることが必要である。また、使用者によっては、ホイール幅、換言すればタイヤ幅を増減したい場合がある。このようなときに、市販のリムに適合した形状の3ピース型アルミホイールのディスクを手軽に入手できることが望まれる。
【0005】
アルミホイールのディスクの製造方法には、大別すると、溶融したアルミ素材を金型で固める鋳造法と、素材を高圧でプレスする鍛造方法がある。前者には、低圧鋳造法やダイカスト法が含まれ、後者には、熱間鍛造法や溶融鍛造法が含まれる。上記いずれのアルミホイールのディスク製造方法では、多大なエネルギーを消費し、鋳型や金型を必要とし、製造コストも高くなり、当然ながら設計変更はかなり困難である。そのため、かかる方法では、目的にかなう3ピース型アルミホイールのディスクを安価に、自由に入手することが難しくなっている。
【0006】
そこで、既存のリムに適合させ、あるいはホイール幅を変えるなど、多品種・少量のディスクに対応できる製造方法が必要となってくる。アルミ部材等の研磨に従事してきた本発明者は、この多品種・少量のディスクの需要に対応できる製造方法として、アルミ合金板をリムの形状に適合させて切削加工することにより可能であると思いついた。特に、2輪車の3ピース型アルミホイールでは、エアーバルブの箇所を除き、左右のリムは、ディスクのボルトの挿通孔や形状は対称的であり、そのリムに適合したディスクを切削加工により製造することは、製造工程を低減でき、より安価にできるものと考えられた。こうして、本発明者は、市販のリムに適合する2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを切削加工により製造することを内容とする特許権(特許第4523068号)を得た。
【0007】
一方、軽合金等ホイールについては、その安全性確保のため、強度評価試験が国土交通省の技術基準で定められており、基本的な試験方法には、「回転曲げ疲労試験」、「半径方向負荷耐久試験」、「衝撃試験」(以下技術基準強度試験とする。)がある。そして、コンピュータの性能向上と低価格化やCAD/CAM/CAE等のアプリケーションソフトの性能向上により各製造会社では、デジタル化による効率化が進んでいる。アルミホイール製造各社は、こうしたCAD/CAM/CAE等の手法を用い、これらの技術基準強度試験結果より、アルミホイールデザインによる強度検討が実施されている(非特許文献1)。こうして、アルミホイール製造各社は、それぞれ自社内にて、国土交通省の技術基準を上回る安全基準(以下社内安全基準とする。)を作成し実施している。
【0008】
さて、上述のごとく、切削加工により、市販のリムに適合する2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを製造することはできる。しかし、アルミホイールは強度部品であって重要保安部品の位置づけとなっているため、顧客の求める形状等に従い、これを自由に製造することは、安全の確保上できない。
【0009】
そこで、顧客の求める2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの形状の安全性を確認し、もしその形状について不安があれば、その形状を修正し安全を確保する必要がある。CAD/CAM/CAE等の技術を利用し、顧客の求める2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの2次元図面から3次元CADデータに変換することは可能であり、この3次元CADデータから、一連のシステム内でその強度等の機械的特性を把握することもできる。この機械的特性と、これまでの技術基準強度試験より得られた社内安全基準と比較し、その社内安全基準を満たさない場合には、これを満たすように、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの形状を修正する必要がある。この修正をし、安全を確保した形状のCADデータを基に、NCマシンにて製造すれば、安全を確保し、顧客の希望に沿った2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを少量でも安価に製造することができる。なお、NC(Numerical Control)マシンとは、CADで制作した3次元データから、数値プログラムを制作し、そのプログラムを利用して、切削用の工作機械で座標位置を制御しながら3次元的に立体物を製造する機械である。
【0010】
本発明者は、こうした一連のCAD/CAM/CAE等の手法を用いることにより、アルミ合金板の切削加工により安全が確保される2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクが提供できることを思いついた。
【0011】
構造物の形状からその強度等を解析し、部品交換等のリプレースや最適形状とする形状設計システムに関する先行技術としては、構造物を3次元測定し、その3次元データを作成しこれを用いて形状による強度解析を行い、部品交換等のリプレースに活用する形状等に基づく形状解析システム方法(特許文献1)、適用される製造プロセスまたは設備に適応するように客先仕様に基づき基本設計を行い、3次元CADを用いて機械・構造用部品のモデリングを行い、当該モデリングの結果生成される形状モデルに対し、解析のために少なくとも、機械強度、剛性、重量計算を行い、計算結果が所定の値になるまで3次元CADによるモデリングを繰り返し、機械・構造物用部品を最適形状とする機械・構造物用部品の形状設計システム(特許文献2)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007-58508
【特許文献2】特開2003−228593
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】日立金属技報Vol.17(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかるCAD/CAM/CAE等の手法を活用し、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクについて、顧客の希望する形状にて製造し、かつ、安全を確保する加工方式を示すものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、第1発明は、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの生産において、コンピュータ制御の下、顧客の求める形状の2次元図面より、3次元CADデータに変換し、そのCADデータから機械的特性を把握し、これまでに作成した安全基準と比較し、安全基準を満たす場合には、これをCADデータとし、安全基準を満たさない場合には、安全基準を満たすような形状適正化を行い、これをCADデータとして、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式である。
【0016】
顧客の求める形状とは、顧客が選択した市販のリムの大きさ、リム用ボルト孔、ハブ孔用ボルト孔等に合わせ、さらにはホイール幅を増減する等、顧客が希望する2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの形状をいう。
顧客の求める形状は、2次元図面として表現できるものであり、2次元図面は、簡易CADにより、顧客が作成することも可能である。この2次元図面を3次元CADデータに変換する。この3次元CADデータより機械的特性を作成し、これまでに作成した社内安全基準と比較し、この安全基準を満たす場合には、この形状にて製造する。満たさない場合には、この安全基準を満たすように形状を変形させ、適正化された形状にて、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式である。なお、安全基準は、各アルミホイール製会社が作成したものであり、以下、社内安全基準とする場合もある。
【0017】
社内安全基準の記憶手段、2次元図面より3次元CADデータに変換する3次元CAD変換手段、CADデータから機械的特性を作成する構造解析手段、機械的特性とこれまでに作成した社内安全基準とを比較する合否判定手段、顧客の求める形状に沿って、安全基準を満たすように形状を最適化する形状最適化手段、及び最適化された3次元CADデータの記憶手段等がコンピュータにより制御されている。これをまとめて2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの形状設計システムとする。
【0018】
社内安全基準は、国土交通省の技術基準で定められた「回転曲げ疲労試験」、「半径方向負荷耐久試験」、「衝撃試験」等の結果と、その試験に供したアルミホイールの形状、機械的特性等から、アルミホイール製造各社が作成した基準であり、国土交通省の基準により試験したアルミホイールの過去の実験結果と、そのアルミホイールの形状を有限要素法等に基づく計算結果との相違を把握し、これを反映させて、アルミホイールを設計するときの社内安全基準が設けられ、国の基準を上回るように設定されている。
社内安全基準を満たすように形状を最適化する形状最適化手段は、過去に生産されたアルミホイールの形状と、この形状についての社内安全基準を満たした機械的特性等が記憶され、顧客の求める形状に近似するアルミホイールのデータを参照して最適形状にするものである。顧客の求める形状が安全基準を満たす場合には、その形状が最適形状となる。
【0019】
続いて、第2発明は、第1発明において、コンピュータ制御の下、顧客の求める形状の2次元図面より3次元CADデータに変換し、そのCADデータから機械的特性を把握し、これまでに作成した社内安全基準と比較し、その安全基準を満たした場合であっても、形状適正化を行い、これをCADデータとして2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式である。
【0020】
例え顧客の求める形状のままで、社内安全基準を満たしている場合であっても、重量が重くなったり、切削加工が困難になっている形状もある。そこで、顧客が求める形状が社内安全基準を満たしている場合であっても、形状最適化手段により最適形状のCADデータを作成し、これをCADデータとして2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式である。
【0021】
続いて、第3発明は、NCマシンを使用して、第1発明又は第2発明のいずれかの2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式である。
【0022】
NCマシンは、前述のようにCADで、すなわち、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスク形状設計システムで作成した3次元データを利用し切削用の工作機械で立体物を製造する機械であり、第1発明あるいは第2発明で作成された最適形状の3次元データを有効に利用できる。
【発明の効果】
【0023】
第1発明では、切削加工により生産する2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの安全を確保することができる。第2発明では、軽量化、切削加工の容易化が可能となる。第3発明では、CADデータが利用でき、迅速に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】3ピース型アルミホイール用ディスク
【図2】3ピース型アルミホイール用ディスクの試作品
【図3】3ピース型アルミホイールの既存のリムとディスク
【図4】第1及び第2発明の2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの生産方式
【図5】社内安全基準の作成例
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0026】
図1は、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの概略図である。ディスク1の中央部にハブ孔12があり、ディスク1はハブ用ボルト孔13でボルトにより図示しないがハブに接合される。ディスク1の周縁部18には、リム用ボルト孔14がつけられ、リム2とディスク1がボルトで接合される。ディスク1の両面は、装飾面11(A面)となる。
【0027】
図2に試作品ディスク1の平面図(A)と斜視図(B)を示す。リムは図3に示す既存の2輪車用3ピース型アルミホイールに付属していたものを使用し、ディスクの素材は、リムとの接合も考慮して、直径250mmの円柱状のアルミ合金地金を厚さ32mmに切断したものを使用した。ディスクの軽量化と美観のため、スポーク部16は8本とし、外周面の溝17を24mmの深さで形成し、ハブ孔12、ハブ孔用ボルト孔13、ディスク用ボルト孔14、装飾面開口部19を設けるものである。この形状の2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを2輪車用3ピース型アルミホイールのディスク形状設計システムによりCADデータを作成し、このCADデータよりNCマシンにて、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産した。
【0028】
図3に試作品のディスク1と既存のリム2を示す。(A)は両方の斜視図であり、(B)は平面図である。ディスクのボルトを通す挿通孔はリムの形状にあわせ作られている。
【実施例2】
【0029】
図4は、第1発明の生産方式を示したものである。2次元図面で作成された求める2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの形状を3次元CAD変換手段により、3次元CADデータに変換し、構造解析手段により、機械的特性の数値化を行う。この数値が既に記憶されている社内安全基準と合否判定手段により比較され、合否が決められる。不合格の場合には形状化適正手段により最適形状が作成され、3次元CAD変換手段に戻され、3次元データの作成、機械的特性の数値化、合否判定され、合格するまでこの作業が継続される。
【0030】
また、合格した場合でも、顧客の求める形状では、重量が重すぎたり、切削加工が難しい場合には、形状化適正手段により最適形状が作成され、同様の作業が行われる。第2発明の場合である。なお、形状化適正手段により最適形状の3次元データと機械的特性の数値化がされる場合があり、この場合を図4の破線で示した。
【0031】
図5は、社内安全基準の作成例である。アルミホイール製造各社は、国土交通省の技術基準である強度試験を行っている。さらには社内でも同様の試験を行い、アルミホイールの仕様とその試験の合否判定の結果を有している。また、各アルミホイールの仕様についての機械的特性の数値を把握しており、この試験結果と機械的特性を比較検討し、社内での安全基準を作成することができる。図5では、合格品の仕様から作成される機械的特性値に安全率を乗じて、この技術基準を上回る社内安全基準を作成している。なお、社内安全基準の作成は、この方法に限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
アフター商品である2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクは多品種少量生産であり、これに対応するため切削加工による製造方法を発明した。しかし、その安全性については、未解決であった。本発明により、安全を確保した2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産することができ、この発明の利用が期待される。
【符号の説明】
【0033】
1 (3ピース型アルミホイールの)ディスク 11 装飾面(A面)
12 ハブ孔 13 ハブ孔用ボルト孔 14 ディスク用ボルト孔 15 外周面
16 スポーク部 17 外周面の溝 18 周縁部 19 装飾面開口部
2 リム 21 リムのボルト挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクの生産において、コンピュータ制御の下、顧客の求める形状の2次元図面より3次元CADデータに変換し、そのCADデータから機械的特性を把握し、これまでに作成した安全基準と比較し、安全基準を満たす場合には、これをCADデータとし、安全基準を満たさない場合には、安全基準を満たすような形状適正化を行い、これをCADデータとして、2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式。
【請求項2】
請求項1において、コンピュータ制御の下、顧客の求める形状の2次元図面より3次元CADデータに変換し、そのCADデータから機械的特性を把握し、これまでに作成した安全基準と比較し、安全基準を満たした場合であっても、形状適正化を行い、これをCADデータとして2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式。
【請求項3】
NCマシンを使用して請求項1又は請求項2のいずれかの2輪車用3ピース型アルミホイールのディスクを生産する方式。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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