説明

2,5−フランジカルボン酸と異性体デカノールとのエステルおよびその使用

本発明の対象は、式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物である。更に、本発明の対象は、式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法である。更に、本発明の対象は、式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物を含有する組成物である。また、本発明の対象は、可塑剤としての式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の使用である。更に、本発明の対象は、式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルを含有する、前記組成物の使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5−フランジカルボン酸(FDCA)とC10アルコール、殊に分枝鎖状デカノールからなる混合物とのエステルからなる混合物に関する。同様に、本発明は、このようなエステルまたは混合物の製造法およびポリマー、例えばポリ塩化ビニルのための可塑剤としての前記エステルまたは混合物の使用に関する。
【0002】
ポリ塩化ビニル(PVC)は、経済的に最も重要なポリマーの一つである。硬質PVCとして、ならびに軟質PVCとして多種多様に使用されている。
【0003】
軟質PVCの製造のために、PVCには可塑剤が添加され、その際、大多数の場合において、フタル酸エステル、殊にジ−2−エチルヘキシルフタレート(DEHP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジプロピルヘプチルフタレート(DPHP)およびジイソデシルフタレート(DIDP)が使用されるが、しかし、テレフタル酸誘導体ジ−2−エチルヘキシルテレフタレート(DEHTまたはDOTP)も使用される。
同時にここ数年来、C10オキソアルコール、殊に2−プロピルヘプタノールの生産高がとりわけ有利な原料ベースのために著しく上昇し、さらになお生産能力の向上を追求することに期待できる。可塑剤のための出発物質としての前記アルコールの使用は、実際に殆ど専ら相応するDIDPまたはDPHPに制限されている。前記使用は、実際にいわゆる標準可塑剤に含まれるが、その使用技術的性質のために、DEHP、DINPおよびDOTPに比べて比較的重要なプラスチゾルマーケットにおいて、僅かなゲル化および劣悪な可塑的性質のために著しく制限されてのみ使用されることができる。従って、このような性質を有する、イソデカノールのエステル、有利に高い2−プロピルヘプタノール含量を有するイソデカノールの前記エスエルは、古典的な熱可塑的使用、例えばシート、ケーブル外被および部分的に屋根材用メンブレンと共にますますプラスチゾルの用途に使用されてもよいことが望まれている。
【0004】
化石原料の制限された使用可能性、それに関連した将来的に見通しの付く著しい価格上昇および政治的に常に強く要求される、更新原料の使用のために、殊に、少なくとも酸成分が天然に由来するリソース、例えば糖、脂肪または油を基礎とするようなエステルは、将来的に良好な市場チャンスをもっているはずである。
【0005】
T.WerpyおよびG.Petersenの刊行物"Top Value Added Chemicals from Biomass"中では、2,5−フランジカルボン酸(FDCA)は、糖を基礎とする最も有望な小板状化学薬品の1つと見なされている。テレフタル酸との構造上の類似性のために、近年では、2,5−フランジカルボン酸または種々の誘導体を主にポリマー中で使用することに関する数多くの書物が刊行された。主な用途は、テレフタル酸またはその誘導体をポリマー中で部分的または完全に代替する場合が多数である。
【0006】
FDCA、その用途および可能性に関する極めて広範囲に亘る概要は、インターネットで公開された、Jaroslaw Lewkowski,ARKIVOC 2001(i),第17〜54頁,ISSN1414−6376,表題"Synthesis,Chemistry and Applications of 5−hydroxymethylfurfural and its derivatives"の刊行物中に見出せる。前記合成のたいていのものは、共通して炭水化物、特にグルコースまたはフラクトース、有利にフラクトースを酸触媒反応により5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−HMF)に変えることであり、この5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−HMF)は、処理技術的操作、例えば二相運転形式によって反応媒体から分離されうる。相応する結果は、例えばRoman−Leshkov他によってScience 2006,312,第1933〜1937頁中に記載され、およびZhangによってAngewandte Chemie 2008,120,第9485〜0488頁中に記載された。
【0007】
次に、1つのさらなる工程において、例えばChristensenによってChemSusChem 2007,1,第75〜78頁中に引用されたように、5−HMFは、FDCAに酸化されることができる。
【0008】
更に、また粘液酸(Tagouchi,Chemistry Letter Vol.37,No.1(2008)中)から出発する合成による一定のFDCAエステルの製造および相応するアルコールは、記載されている。
【0009】
従来、プラスチック、殊にPVC、PVB、PLA、PHBまたはPAMAのための可塑剤としての2,5−フランジカルボン酸のエステルの使用は、まれにしか記載されなかった。これに関連して最も広範囲に亘る概要は、R.D.Sanderson他,Journal of Appl.Pol.Sei.1994,Vol.53,第1785〜1793頁中に見出せる。そこには、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−オクタノールおよび2−エチルヘキサノールを基礎とする相応するエステルが明示的に記載されている。エステルとPVCとの相互作用に関する試験は、このエステルが十分にPVCのための可塑剤として使用されうることを示した。しかし、この結論は、単にDMTA測定から導き出された。加工業者にとって重要で証言力を有する使用技術的試験は、実施されなかった。
【0010】
従って、公知技術水準から出発して、イソデカノール、殊に高い2−プロピルヘプタノール含量を有するイソデカノールと更新原料を基礎とする酸成分とを基礎とするエステルであって、プラスチック、例えばPVC、PVB、PLA、PHBまたはPAMAのための可塑剤として使用されることができ、およびDPHPと比較して明らかに改善された、プラスチゾルのゲル化および可塑化作用を示すエステルを提供することであった。したがってそれにより基礎となるアルコールの使用スペクトルが明らかに拡大されることであろう。
【0011】
2,5−フランジカルボン酸(式I)の異性体デシルエステルの混合物は、プラスチック、殊にPVC、PVBおよびPAMAのための可塑剤として使用されることができ、および既に刊行物に公知のFDCAエステルと比較して好ましい性質を示すことが見い出された。更に、このエステルは、相応するフタル酸エステル、例えばDIDPまたはDPHPと比較して同様に使用技術的利点を示す。
【0012】
【化1】

【0013】
それによって、本発明の対象は、式Iの2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物である。更に、本発明の対象は、式Iの2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物を含有する組成物である。
【0014】
また、さらに本発明の対象は、染料、インキまたは塗料中への、プラスチゾル、接着剤または接着剤成分中への、封止用コンパウンド中への、プラスチックまたはプラスチック成分における可塑剤としての、溶剤としての、潤滑油成分としての、および金属加工の際の助剤としての前記混合物の使用、ならびにPVCおよびPVC100質量部当たり本発明による混合物5〜250質量部を含有するPVC組成物またはプラスチゾルである。
【0015】
更に、本発明の対象は、2,5−フランジカルボン酸を異性体デカノール、以下イソデカノールと呼称する、の混合物で場合により触媒の存在下でエステル化するか、または2,5−フランジカルボン酸ジメチルエステルをイソデカノールでメタノールの遊離下に、場合により触媒を使用して、2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物にエステル交換することを特徴とする、2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法である。更に、本発明によるエステル混合物は、最初に2,5−フランジカルボン酸を塩素化剤を用いてジクロリドに変換し、次にこのジクロリドをイソデカノールと塩化水素の遊離下に反応させ、目的生成物に変えることにより得られてもよい。
【0016】
更に、異性体デシルエステルの混合物の製造のために、粘液酸から出発してもよく、この粘液酸は、イソデカノールの存在下で有利に酸触媒反応の下で一槽反応の範囲内で同時に環化され、相応するフランジカルボン酸ジエステルに変換される。
【0017】
FDCAの異性体デシルエステルの本発明による混合物は、公知技術水準のフランジカルボン酸エステルと比較してプラスチック、殊にPVC中の可塑剤としての使用の際に明らかに改善された性質を有する。
【0018】
本発明によるエステルは、公知技術水準から公知のDPHPと比較して改善された可塑化作用(効率)、少なくとも比較可能な揮発性の際に明らかに改善されたゲル化を有する。プラスチゾル用途のための従来の標準製品、DINP、と比較して、比較可能な可塑化作用、僅かにのみ遅延されるゲル化および改善された揮発性が観察される。フタレートの議論に基づいて数時間前から増強されて使用されるDOTPと比較して、本発明によるエステルは、ゲル化および可塑化作用の際の改善を示す。
【0019】
特に、式Iに記載の2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの本発明による混合物は、エステルの混合物が高い割合の2−プロピルヘプチルエステルを有するように構成されている。エステルの混合物がC10側鎖中の2−プロピルヘプチルエステルの割合を50モル%から最大99モル%までの範囲内で有することは、好ましい。 更に、エステルの本発明による混合物が第四級C原子を有するC10側鎖を20モル%未満有することは、好ましい。
【0020】
本発明による混合物は、専ら式Iのジエステルからなることができるか、またはこのジエステルと共に式Iのジエステルでない少なくとも1つのポリマーおよび/または少なくとも1つの可塑剤を有することができる。この可塑剤は、例えばクエン酸トリアルキルエステル、アシル化されたクエン酸トリアルキルエステル、グリセリンエステル、グリコールジベンゾエート、アルキルベンゾエート、ジアルキルアジペート、トリアルキルトリメリテート、ジアルキルテレフタレート、ジアルキルフタレート、または1,2−、1,3−または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のジアルキルエステルから選択されていてよく、この場合このアルキル基は、4〜13個、特に5、6、7、8、9、10、11または13個の炭素原子を有する。可塑剤は、ジアンヒドロヘキシトールエステル、有利にカルボン酸のイソソルビッドジエステル、例えばn−酪酸またはイソ酪酸、吉草酸または2−エチルヘキサン酸またはイソノナン酸であってもよい。
【0021】
本発明による混合物中に含有されていてよいポリマーは、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチラール(PHB)およびポリアルキルメタクリレート(PAMA)である。ポリマーのポリ塩化ビニル(PVC)は、特に好ましい。
【0022】
式Iのジエステルおよびポリマーを有する好ましい混合物において、単数のポリマー/複数のポリマーと式Iの単数のジエステル/複数のジエステルとの質量比は、30:1〜1:2.5、有利に20:1〜1:2である。
【0023】
式Iのジエステルでない、式Iのジエステルおよび可塑剤を有する好ましい混合物において、可塑剤、殊にアルキルベンゾエート、ジアルキルアジペート、グリセリンエステル、クエン酸トリアルキルエステル、アシル化クエン酸トリアルキルエステル、トリアルキルトリメリッテート、グリコールジベンゾエート、ジアルキルテレフタレート、ジアルキルフタレート、イソソルビドのジアルカノイルエステルおよび/または1,2−、1,3−または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のジアルキルエステルと式Iの単数のジエステル/複数のジエステルとのモル比は、1:15〜15:1、有利に1:6〜6:1である。
【0024】
式Iのジエステルの本発明による混合物または式Iのジエステルそれ自体は、種々の方法で製造されてよい。
【0025】
特に、式Iのジエステルの混合物または式Iのジエステルは、次に記載された方法で製造される。
【0026】
2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルを製造するための本発明による方法は、2,5−フランジカルボン酸またはこの化合物の短鎖状ジアルキルエステル、特にジメチルエステルが異性体のデカノールの混合物と、場合により触媒を使用して反応されることによって特徴付けられる。更に、FDCAと塩素化剤、例えば塩化チオニルとの反応によって得ることができる2,5−フランジカルボン酸ジクロリドは、ジイソデシルエステルを製造するための出発物質として使用されてもよい。FDCAを中間段階を経てジイソデシルエステルへ変換するのに適した条件は、実施例中に見出せる。
【0027】
特に、2−プロピルヘプタノール50〜99モル%、殊に70〜99モル%、特に有利に85〜99モル%、殊に95〜99モル%を有する異性体デカノールの混合物が使用される。
【0028】
異性体デシルアルコールの製造
原理的に、デカノールの全ての工業用混合物、特に一般的な総和式C1021OHを有する第1アルコールまたはアルコール混合物が使用されてよい。特に、2−プロピルヘプタノールまたはn−デカノールの割合、ならびに第四級C原子を有する、ポリ置換されたC10アルコールの含量に関連して上記の範囲内にあるような式C919CH2OHを有する異性体デカノールの混合物が使用される。2−プロピルヘプタノールの高い割合を有するデカノールは、特に好ましい。
【0029】
本発明によるエステル混合物の製造に使用可能なC10アルコールは、工業的に簡単にC5アルデヒドn−バレルアルデヒド(=n−ペンタナール)、イソバレルアルデヒド(2−メチルブタナール)および3−メチルブタナールをアルドール縮合させ、引続き脱水素かつ水素化することによって得ることができる。
【0030】
また、n−バレルアルデヒドまたはイソバレルアルデヒドは、例えば1−ブテンまたは2−ブテンをヒドロホルミル化することによって製造されてよい。この反応の場合、n−バレルアルデヒドおよびイソバレルアルデヒドは、使用されるヒドロホルミル化触媒および反応条件に依存して変化する割合で生じる。このような混合物をアルドール縮合に掛ける場合には、種々の置換生成物が得られ、イソブテンのヒドロホルミル化により、3−メチルブタナールが得られる。
【0031】
イソデカノールは、次の工程によって合成することができる:
a)C4オレフィンまたはC4オレフィン混合物は、相応するC5アルデヒドにヒドロホルミル化される。
b)a)で生じたアルデヒドは、デセナールにアルドール縮合される。
c)工程b)で生じたデセナールは、デカノールに水素化される。
【0032】
デカノール混合物の製造には、1−ブテン、2−ブテン、イソブテンまたはこれらのオレフィンの混合物が出発物質として使用される。前記混合物のヒドロホルミル化は、種々の方法により実施されてよい。
【0033】
一般的にヒドロホルミル化のためには、コバルト触媒またはロジウム触媒が未変性のままかまたは変性されて使用される。
【0034】
イソブテンから3−メチルブタナールへのヒドロホルミル化は、例えば次の刊行物の箇所に記載されている(V.Y.Gankin,L.S.Genender,D.M.Rudkovskii,ESSR Zh.Prikl.Khim.(Leningrad)(1968),41(10),第2275〜2281頁)。
【0035】
直鎖状ブテンまたはその混合物のヒドロホルミル化は、例えば欧州特許第0094456号明細書、ドイツ連邦共和国特許第19617178号明細書、欧州特許第0562451号明細書または欧州特許第0646563号明細書中に開示されている。
【0036】
n−バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、3−メチルブタナールまたはC5アルデヒドの混合物は、通常、塩基性触媒の作用下でアルドール縮合される触媒として、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属水酸化物、殊にナトリウムまたはカリウムの化合物、またはアミン、特に第三アミン、例えばトリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミンが使用される。60〜160℃、殊に80〜130℃の温度および常圧または約1MPaまで高められた圧力で作業される。反応時間は、数分ないし数時間までであり、殊に触媒タイプおよび反応温度に依存する。
【0037】
攪拌型反応器中でのC5アルデヒドのアルドール縮合は、例えばWO 93/20034中に記載されている。管状反応器中でのアルデヒドのアルドール縮合の実施は、例えばドイツ連邦共和国特許第19957522号明細書中に開示されている。
【0038】
5アルデヒドのアルドール縮合によって取得されるデセナールは、純粋な形で、または混合物として水素化される。水素化は、有利に液相中で実施される。
【0039】
水素化のために、オレフィン系二重結合ならびにカルボニル基を水素化する、触媒または触媒系が使用されてよい。α,β−不飽和アルデヒドの水素化のためには、殊に2−エチルヘキセ−2−エナールを2−エチルヘキサノールにする水素化のための技術において使用される触媒が適している。
【0040】
水素化のために、例えば銅/ニッケル触媒、銅/クロム触媒、銅/クロム/ニッケル触媒、亜鉛/クロム触媒、ニッケル/モリブデン触媒が使用されてよい。2つ以上の触媒の組合せが使用されてもよい。前記触媒は、担体不含であってよいか、または水素化に活性な物質またはこれらの前駆体は、担体、例えば二酸化ケイ素または二酸化アルミニウム上に施与されていてよい。
【0041】
α,β−不飽和アルデヒドを水素化する好ましい触媒は、担体材料、特に酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素上に、それぞれ、銅およびニッケルを0.3〜15質量%含有し、かつ賦活剤としてクロム0.05〜3.5質量%、および有利にアルカリ成分0.01〜1.6質量%、特に0.02〜1.2質量%含有する。量の記載は、まだ還元されていない触媒に対するものである。アルカリ成分は随意である。
【0042】
触媒は、有利には、低い流動抵抗をもたらす形状、例えば細粒、ペレットまたは成形体、例えばタブレット、円筒体、棒状押出物または環状体の形状で使用される。前記触媒は、その使用前に、例えば水素流中での加熱によって活性化させることが有利である。
【0043】
水素化、有利に液相水素化は、一般的に0.5〜20MPa、殊に0.5〜3.0MPa、特に有利に1.5〜2.5MPaの全圧力下で実施される。気相中での水素化は、より低い圧力でも実施されてもよいが、相応して大きな気体容量を伴う。複数の水素化反応器を使用するのであれば、個々の反応器におけるそれらの全圧は前記の圧力範囲内で同一または異なっていてよい。
【0044】
反応温度は、水素化の際に液相またはガス状相中で一般的に120〜220℃、殊に140〜180℃である。
【0045】
このような水素化のための例は、欧州特許第0470344号明細書および欧州特許第0326674号明細書中に記載されている。
【0046】
場合によっては、デセナールをデカノールにする水素化は、二段階で実施されてよい。この場合には、第1の段階で例えばパラジウム触媒でオレフィン系二重結合が水素化され、第2の段階で上記の触媒の1つでカルボニル基が水素化される。
【0047】
4オレフィンから出発して、本質的に次の物質の1つ以上を含有するデカノール混合物が生じる:
2−プロピルヘプタノール、4−メチル−2−プロピル−ヘキサノール、5−メチル−2−プロピル−ヘキサノール、2−イソプロピル−4−メチル−ヘキサノール、2−イソプロピル−5−メチル−ヘキサノール。挙げられたデカノールは、それぞれ少なくとも2つの立体異性体からなる。
【0048】
前記のデカノール混合物の組成は、既述したように、原料およびヒドロホルミル化法に依存する。記載された方法でC4オレフィンから取得される全てのデカノール混合物は、本発明によるエステルの製造に使用されてよい。特に好ましいデカノール混合物は、2−プロピルヘプタノール50〜99モル%、殊に70〜99モル%、特に有利に85〜99モル%、殊に95〜99モル%からなるものである。
【0049】
4オレフィンまたはC4オレフィン混合物からのイソデシルアルコールの合成は、一般的に、プロピレンを三量体化し、引続きヒドロホルミル化し、および水素化し、この場合に主にメチル分枝鎖状イソデカノール混合物が生じることによる常法よりも経済的である。他の選択可能な方法によれば、C10含量と共になおヒドロホルミル化のための出発生成物としての本質的に8〜10個のC原子を有するオレフィン混合物を使用することによって誘発されたC9アルコールおよびC11アルコールを含有するポリガスプロセスによるC10アルコール混合物の使用も挙げられる。それにも拘わらず、このイソデカノール混合物は、本発明によるエステルの製造にも適している。
【0050】
この場合には、例示的に市販名Exxal 10をもつExxonMobil社のイソデカノール混合物が挙げられる。更に、本発明によるエステルを製造するための上記変法の混合物が使用されてもよい。
【0051】
好ましくは、本発明による方法で使用される、異性体デシルアルコールの混合物、特に式C919CH2OHを有するものは、第四級C原子を有するデシルアルコールを20モル%未満、特に10モル%未満、有利に5モル%未満含有する。このアルコールの存在は、数多くの使用技術的性質を劣化し、分子の生物学的分解の速度も低下させる。
【0052】
更に、本発明による混合物中に含有された、式Iのジエステルの製造に使用されるイソデカノールが有利に式C919CH2OHでn−デカノールを1〜60%、殊に1〜50%、有利に2〜30%有することは、好ましい。それによって、数多くの使用技術的性質、例えばゲル化、可塑化作用等を改善することができるしかし、このアルコールは、C5アルデヒドのアルドール縮合および次の水素化によって形成されるわけでもないし、ヒドロホルミル化および引続くポリガスプロセスからの三量体プロピレンまたはノネン混合物の水素化によって有効な含量で形成されるわけでもないので、必要な場合には、n−デカノールが混入されなければならなかった。N−デカノールは、再び例えば大工業的にエチレンオリゴマー化により得ることができるかまたは脂肪アルコールの分別により得ることができる。
【0053】
前記混合物中の異性体アルコールの異性体分布は、当業者に常用の測定方法、例えばNMR分光分析法、GC−またはGC/MS分光分析法で、有利にシリルエスエルまたはメチルエステルへの移行後に算出されてよい。
【0054】
フランジカルボン酸
フラン−2,5−ジカルボン酸(FDCA、CAS−No.3238−40−2)は、これまで大工業的には使用不可能であったが、しかし、刊行物の記載により製造されることができるか、または商業的に入手することができる。場合によっては望ましいかまたは好ましい、ジクロリドへの移行は、実施例中に詳細に記載されている。
【0055】
エステル化
本発明によるエステルを製造するために、2,5−フランジカルボン酸かまたは反応性誘導体、例えば相応するジクロリド(実施例参照)は、異性体デカノールの混合物と反応される。好ましくは、エステル化は、フランジカルボン酸およびイソデカノールから出発して触媒を用いて行なわれる。
【0056】
フランジカルボン酸をイソデカノール混合物を用いて相応するエステルにエステル化することは、自動触媒的または触媒的に、例えばブレンステッド酸またはルイス酸を用いて実施されてよい。触媒反応の種類をどのように選択するかにより、全く同様に、常に原料(酸およびアルコール)と生成物(エステルおよび水)との間で温度に依存した平衡が生じる。平衡をエステルへの移行が有利であるようにするために、連行剤を使用することができ、この連行剤により反応水は、バッチ量から除去される。エステル化に使用されるアルコール混合物は、反応性誘導体およびそのエステルを沸騰させかつ水との混合間隙を有するフランジカルボン酸よりも低級であるので、このアルコール混合物は、しばしば連行剤として使用され、この連行剤は、脱水後に再びプロセス中に返送されることができる。
【0057】
エステルの形成に使用されるアルコールまたは同時に連行剤として使用される異性体デカノール混合物は、エステルの形成に必要とされる量に対して過剰量で、有利に5〜50質量%、殊に10〜30質量%で使用される。
【0058】
エステル化触媒としては、酸、例えば硫酸、メタンスルホン酸又はp−トルエンスルホン酸又は金属又はその化合物を使用することができる。例えば錫、チタン、ジルコニウムが適しており、これらは微粒状金属として、または有利にその塩、酸化物の形で、または可溶性有機化合物の形で使用される。金属触媒は、プロトン酸とは異なり、その完全な活性が180℃を上廻る温度で初めて達成される高温触媒である。しかし、この場合には、フランジカルボン酸が190℃を上廻る温度でCO2を分解する傾向を有し、このことからさらにモノカルボン酸が形成され、このモノカルボン酸は、当然のことながらもはや目的生成物に変換され得ないことに注目すべきである。
【0059】
しかし、金属触媒は、有利に使用される。それというのも、この金属触媒は、プロトンと比較して触媒反応により使用されたアルコールから僅かな副生成物、例えばオレフィンを形成するからである。金属触媒のための例示的な代表例は、錫粉末、酸化錫(II)、蓚酸錫(II)、チタン酸エステル、例えばテトライソプロピルオルトチタネートまたはテトラブチルオルトチタネートならびにジルコニウムエステル、例えばテトラブチルジルコネートである。
【0060】
触媒の濃度は、触媒の種類に依存する。有利に使用されるチタン化合物の場合、このチタン化合物は、反応混合物に対して0.005〜2.0質量%、殊に0.01〜0.5質量%、特に有利には0.01〜0.1質量%である。
【0061】
反応温度は、チタン触媒の使用の際に160℃〜270℃、特に160〜200℃である。最適な温度は、原料、反応経過および触媒濃度に依存する。この温度は、それぞれの個々の場合のために試験によって簡単に算出されうる。よりいっそう高い温度は、反応速度を高め、および副反応、例えばアルコールからの脱水または着色された副生成物の形成を促進する。反応水の除去のために、アルコールを反応混合物から留去することができることは有利である。望ましい温度または望ましい温度範囲は、反応容器中での圧力によって調整することができる。従って、低沸点アルコールの場合、反応は、過圧で実施され、そして高沸点アルコールの場合には、減圧下に実施される。例えば、FDCAを異性体デカノールの混合物と反応させる場合には、160℃〜190℃の温度範囲内で0.1MPa〜0.001MPaの圧力範囲内で作業される。
【0062】
反応中に返送すべき液体量は、部分的に、または完全に、共沸留出物の後処理によって取得されたアルコールからなっていてよい。また、後処理は、より後の時点で実施してもよく、そして除去された液体量を、完全に、または部分的に、新たなアルコール、すなわち貯蔵容器中に準備しているアルコールからの新たなアルコールによって置き換えてもよい。
【0063】
単数または複数のエステルと共にアルコール、触媒またはその二次生成物および場合により副生成物を含有する粗製エステル混合物は、自体公知の方法により後処理される。この場合、後処理は、以下の工程を含む:過剰のアルコールおよび場合により低沸点物の分離、存在する酸の中和、場合によっては水蒸気蒸留、触媒を容易に濾過可能な残留物に変換すること、固体の分離、および場合により乾燥。この場合に、使用される後処理法に応じて、これらの工程の順序は異なっていてよい。
【0064】
場合によっては、反応混合物からなるジイソデシルエステルの混合物は、場合によりバッチ量の中和後に蒸留により分離されてよい。
【0065】
エステル交換
他の選択可能な方法によれば、本発明によるジイソデシルエステルは、フラン−2,5−ジカルボン酸ジエステルをイソデカノール混合物とエステル交換することによって取得されることができる。反応体として、エステル基のO原子上に結合したアルキル基が1〜9個のC原子を有するフラン−2,5−ジカルボン酸ジエステルが使用される。前記基は、脂肪族、直鎖状または分枝鎖状、脂環式または芳香族であってよい。前記のアルキル基の1個または複数のメチレン基は、酸素によって置換されていてよい。反応体エステルに基づくアルコールが使用されたイソデカノール混合物よりも低温で沸騰することは、好ましい。好ましい原料は、フラン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステルである。
【0066】
エステル交換は、触媒的に、例えばブレンステッド酸またはルイス酸または塩基を用いて実施される。触媒をどのように使用するかにより、全く同様に、常に原料(ジアルキルエステルおよびイソノナノール混合物)と生成物(ジイソデシルエステル混合物および遊離アルコール)との間で温度に依存した平衡が生じる。平衡をジイソデシルエステル混合物への移行が有利であるようにするために、反応体エステルから生じるアルコールは、反応混合物から留去される。
【0067】
この場合も、イソデカノール混合物を過剰量で使用することは、有利である。エステル交換触媒としては、酸、例えば硫酸、メタンスルホン酸またはp−トルエンスルホン酸または金属またはその化合物を使用することができる。例えば錫、チタン、ジルコニウムが適しており、これらは微粒状金属として、または有利にその塩、酸化物の形で、または可溶性有機化合物の形で使用される。金属触媒は、プロトン酸とは異なり、その完全な活性が180℃を上廻る温度で初めて達成される高温触媒である。しかし、金属触媒は、有利に使用される。それというのも、この金属触媒は、プロトンと比較して触媒反応により使用されたアルコールから僅かな副生成物、例えばオレフィンを形成するからである。金属触媒のための例示的な代表例は、錫粉末、酸化錫(II)、蓚酸錫(II)、チタン酸エステル、例えばテトライソプロピルオルトチタネートまたはテトラブチルオルトチタネートならびにジルコニウムエステル、例えばテトラブチルジルコネートである。
【0068】
更に、塩基性触媒、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩またはアルコラートが使用されてよい。この群から、有利にはアルコラート、例えばナトリウムメチラートが使用される。アルコラートは、アルカリ金属とデカノールまたはイソデカノール混合物からインサイチュー(in−situ)で製造されてもよい。
【0069】
触媒の濃度は、触媒の種類に依存する。この触媒の濃度は、通常、反応混合物に対して0.005〜2.0質量%である。
【0070】
エステル交換のための反応温度は、通常、100〜220℃である。この反応温度は、少なくとも、反応体エステルから生じるアルコールを規定の圧力、多くの場合に常圧で反応混合物から留去することができるような高さでなければならない。
【0071】
エステル交換混合物は、エステル化混合物のための記載と同様に正確に後処理されうる。
【0072】
使用
2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの本発明による混合物は、可塑剤として、殊にプラスチック組成物、接着剤、封止用コンパウンド、塗料、染料、プラスチゾル、人工皮革、繊維床仕上げ材、アンダーシーラント、被覆された織物、壁紙またはインキ中に使用されてよい。特に、本発明による可塑剤は、異形成形材、シール材、食品包装材、シート、玩具、医薬用製品、屋根材用メンブレン、人工皮革、繊維床仕上げ材、アンダーシーラント、被覆された織物、壁紙、ケーブルおよび線材外被中、特に有利に食品包装材、玩具、医薬用製品中、例えば注入、透析およびドレナージのための袋およびチューブ、壁紙、繊維床仕上げ材および被覆された織物中に使用されてよい。
【0073】
2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの本発明による混合物を使用して、殊に2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物を含有する本発明による組成物が得られる。
【0074】
このような組成物は、2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの本発明による混合物を単独で有することができるか、または別の可塑剤との混合物で有することができる。本発明による組成物が2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの本発明による混合物を別の可塑剤との混合物で有する場合には、別の可塑剤は、特にフタル酸ジアルキルエステル、有利にアルキル鎖中に4〜13個のC原子を有するフタル酸ジアルキルエステル、トリメリット酸トリアルキルエステル、有利に側鎖中に4〜10個のC原子を有するトリメリット酸トリアルキルエステル、それぞれ有利に側鎖中に4〜13個のC原子を有するアジピン酸ジアルキルエステルおよび有利にテレフタル酸ジアルキルエステル;それぞれ側鎖中に4〜13個の炭素原子を有する、アルキル=アルキル基を有する1,2−シクロヘキサン二酸アルキルエステル、1,3−シクロヘキサン二酸アルキルエステルおよび1,4−シクロヘキサン二酸アルキルエステル、有利に1,2−シクロヘキサン二酸アルキルエステル;グリコールの二安息香酸エステル;8〜22個のC原子を有する、特にアルキル基を有するフェノールのアルキルスルホン酸エステル;特にアルキル基中に7〜13個のC原子を有する、ポリマー可塑剤、グリセリンエステル、イソソルビドエステルおよび安息香酸アルキルエステルの群から選択することができる。全ての場合において、アルキル基は、直鎖状または分枝鎖状で、ならびに同一でも異なっていてもよい。特に有利には、前記組成物は、2,5−フランジカルボン酸の異性体ノニルエステルの混合物と共に、殊に7〜13個の炭素原子を有する、アルキル=アルキル基を有する安息香酸アルキルエステル、特に安息香酸イソノニルエステル、安息香酸ノニルエステル、安息香酸イソデシルエステル、安息香酸プロピルヘプチルエステルまたは安息香酸デシルエステルを有する。別の可塑剤との混合物中の2,5−フランジカルボン酸の異性体ノニルエステルの本発明による混合物の含量は、特に15〜90質量%、特に有利に20〜80質量%、殊に有利に30〜70質量%であり、この場合存在する全ての可塑剤の質量分は、総和で100%である。
【0075】
2,5−フランジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物と別の可塑剤とからなる記載された組成物は、可塑剤組成物としてプラスチック組成物、接着剤、封止用コンパウンド、塗料、染料、プラスチゾルまたはインキ中に使用されてよい。
【0076】
本発明による可塑剤組成物から製造されたプラスチック製品は、例えば次のものであることができる:異形成形材、シール材、食品包装材、シート、玩具、医薬用製品、例えばこれは注入、透析およびドレナージのために使用されるものとし、屋根材用メンブレン、人工皮革、繊維床仕上げ材、アンダーシーラント、被覆された織物、壁紙、ケーブルおよび線材外被。好ましくは、食品包装材、玩具、医薬用製品、壁紙、被覆された織物および繊維床仕上げ材を挙げることができる。
【0077】
2,5−フランジカルボン酸の異性体の混合物を含有する、本発明による組成物は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリレート、殊にポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアルキルメタクリレート(PAMA)、フルオロポリマー、殊にポリ弗化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、殊にポリビニルブチラール(PVB)、ポリスチレンポリマー、殊にポリスチレン(PS)、発泡性ポリスチレン(EPS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート(ASA)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、スチレン−無水マレイン酸コポリマー(SMA)、スチレン−メタクリル酸コポリマー、ポリオレフィン、殊にポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン−ビニルアセテート(EVA)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリスルフィド(PSu)、バイオポリマー、殊にポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチラール(PHB)、ポリヒドロキシ吉草酸(PHV)、ポリエステル、澱粉、セルロースおよびセルロース誘導体、殊にニトロセルロース(NC)、エチルセルロース(EC)、セルロースアセテート(CA)、セルロース−アセテート/ブチレート(CAB)、ゴムまたはシリコーンならびに記載されたポリマーの混合物またはコポリマーまたはこれらのモノマー単位から選択されたポリマーを有することができる。特に、本発明による組成物は、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ビニルアセテート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メタクリレート、アクリレート、エステル基の酸素原子に結合した、1〜10個の炭素原子を有する分枝鎖状または非分枝鎖状アルコールのアルキルエステルを有するアクリレートまたはメタクリレート、スチレン、アクリルニトリルまたは環式オレフィンを有する。
【0078】
有利には、本発明による組成物は、PVC型として、懸濁型PVC、塊状型PVC、微細懸濁型PVCまたはエマルジョン型PVCを含有する。本発明による組成物は、ポリマー100質量部に対して可塑剤特に5〜200質量部、有利に10〜150質量部を含有する。
【0079】
本発明による組成物は、記載された成分と共に、更なる成分、特に例えば他の可塑剤、充填剤、顔料、安定剤、共安定剤、例えばエポキシ化大豆油ならびに潤滑剤、発泡剤、分解促進剤、酸化防止剤または殺生剤を含有していてよい。
【0080】
記載されたポリマーを有する組成物は、接着剤、シールコンパウンド、塗料、染料、プラスチゾル、人工皮革、繊維床仕上げ材、アンダーシーラント、被覆された織物、壁紙またはインキとして使用されてよいか、またはこれらの製造のために使用されてよい。記載された組成物がプラスチックである限り、このプラスチックは、殊に異形成形材、シール材、ワンピースまたはマルチピース固定装置(ein− oder mehrteilge Verschlussvorrichtungen)、食品包装材、シート、玩具、医薬用製品、屋根材用メンブレン、人工皮革、繊維床仕上げ材、アンダーシーラント、被覆された織物、壁紙、ケーブルおよび線材外被に加工されてよい。
【0081】
次の実施例は本発明を詳説するが、明細書および特許請求の範囲の記載から生じる本発明の適用領域を制限するものではない。
【実施例】
【0082】

本発明によるエステルは、最初に2段階の合成においてフラン−2,5−ジカルボン酸から出発してジクロリドを経て製造された。
【0083】
実施例1:フラン−2,5−ジカルボン酸ジクロリド(II)のための合成規定
還流冷却器および滴下漏斗を装備した、250mlの三口フラスコ中にアルゴン雰囲気下にフラン−2,5−ジカルボン酸72.1g(462mmol)を予め装入した。10分間に亘って、N,N−ジメチルホルムアミド2,3滴を添加した塩化チオニル165g(1.39mol)を添加した。この懸濁液を還流温度に加熱し、生じるガスをKOH水溶液を有する洗浄瓶に通して導出した。更に、4時間、ガス発生が終結しかつ固体が完全に溶解するまで還流下に加熱した。
【0084】
生成物を、過剰の塩化チオニルの排出後に蒸留により精製することによって単離した(T=110℃、p=0.0012MPa)。
【0085】
この場合、ジクロリド79.4gを、融点79.5〜80.0℃を有する無色の結晶性固体(収率89%)として生じた。
【0086】
フラン−2,5−ジカルボン酸ジクロリドを、後使用するまで保護ガス(アルゴン)の下で暗所中で室温で貯蔵する。
【0087】
実施例2:フラン−2,5−ジカルボン酸エステルの合成
還流冷却器および滴下漏斗を装備した三口フラスコ中でアルゴン雰囲気下でジクロリドを予め装入し、および加熱することによって溶融した。液体に2,4当量のアルコールを徐々に滴加し、その際にガスの発生を伴って発熱反応が生じた。生じるガスを、KOH水溶液を有する洗浄瓶に導通した。転化が完了した後に、80〜100℃の温度で16時間攪拌した。
【0088】
過剰のアルコールをゼオライトの存在下に減圧下で除去し、粗製生成物を2回蒸留により精製した。
【0089】
比較例の合成のために、商業的に入手可能な2−エチルヘキサノールを使用した。本発明によるエステル混合物を製造するために、CAS登録No.10042−59−8の商業的に入手可能なC10アルコールを使用し、例えばこのC10アルコールは、プロピルヘプタノールとして提供される。
【0090】
この最後のプロピルヘプタノールは、ガスクロマトグラフィー分析による次の組成を有していた:
2−プロピルヘプタノール85.3質量%;2−プロピル−4−メチルヘキサノール13.4質量%;残分0.3質量%。
【0091】
次の第1表中には、2つの合成の結果が記録されている。
【0092】
【表1】

【0093】
従って、フラン−2,5−ジカルボン酸ジクロリド(2)を相応するエステルに変換することは、殆ど定量的に行なわれる。
【0094】
実施例3:プラスチゾルの製造
本発明によるエステルで達成可能な好ましい性質は、以下、プラスチゾルおよびこれから得られた半製品につき示される。
種々のプラスチゾルについての成分の使用した秤量した量は、以下の第2表から確認することができる。
【0095】
【表2】

【0096】
液状成分を固体成分の前方で適当なPEカップ中で秤量した。手作業で、該混合物をペーストへらを用いて湿潤していない粉末がもはや存在しなくなるまで撹拌混入した。次に、混合ビーカをディスソルバー撹拌機の締付装置中に固定した。試料を適した混合円板を用いて均質化した。この場合、回転数を330rpm〜2000rpmに高め、サーモセンサーのデジタル表示装置で温度が30.0℃に到達するまで攪拌した。それにより、プラスチゾルの均質化が、規定のエネルギー供給に際して達成されることが保証された。次いで、プラスチゾルを直ちに25.0℃の温度に調節した。
【0097】
実施例4:ゲル化速度の測定
プラスチゾルのゲル化挙動の試験をPhysica MCR 101中で振動モードで、剪断応力を制御して運転される、プレート−プレート測定システム(Platte−Platte Messsystem)(PP25)を用いて行なった。付加的な温調ボンネット(Temperrierhaube)を、最適な熱分布を達成させるために、機器に接続した。
【0098】
以下のパラメータを設定した:
モード:温度勾配
開始温度:25℃
最終温度:180℃
加熱/冷却速度:5℃/分
測定後の温度:25℃
振動周波数:4〜0.1Hz 勾配、対数列
角振動数Ω:10 1/s
測定点の数:63
測定点の時間:0.5分
自動ギャップ補償F:0 N
一定の測定点時間
ギャップ幅:0.5mm。
【0099】
測定の実施:
測定システムの下方のプレート上に、へらを用いて、測定すべきプラスチゾル処方の液滴を気泡不含であるように施与した。その際、測定システムを閉じた後に、幾らかのプラスチゾルが一様に測定システムから滲出しうることに注目した(周囲約6mm以下)。引続き、温調ボンネットを試料上に位置決めし、測定を開始した。
【0100】
いわゆるプラスチゾルの複素粘性率を、温度に依存して測定した。ゲル化過程の開始は、複素粘性率の急激な増大において確認すべきであった。この粘度上昇が早期に開始すればするほど、前記系のゲル化能力はますます良好であった。比較のために、それぞれのプラスチゾルに関する補間法による曲線から、1000Pa・sの複素粘性率が達成される温度を測定した。
【0101】
この場合、第3表中に記載された値が判明した:
【表3】

【0102】
ここでは、本発明によるフランジエステル(プラスチゾル1)は、相応するフタレートDPHP(プラスチゾル4)およびテレフタレートDOTP(プラスチゾル5)と比較して改善されたゲル化を有することを明らかに確認することができる。双方のフタレートDINPとDPHPとの間を開ける、ゲル化速度における大きな間隙は、本発明によるエステルによって閉鎖される。
【0103】
実施例5:注型品のショアー硬度の測定
ショアー硬度Aは、試験体の軟度についての1つの基準である。一定の測定時間において、規定のニードルが試験体中に進入することができればできるほど、測定値はますます低下する。最も高い効率を有する可塑剤は、同じ可塑剤量で、ショアー硬度について最も低い値をもたらす。反対に、極めて効率の高い可塑剤の場合、処方中で或る程度の割合を節約することができ、このことは、多くの場合、加工業者にとってコストの低下を意味する。
【0104】
ショアー硬度を測定するために、実施例4の記載により製造したプラスチゾルを、直径42mmを有する円形の注型用金型に注入した。次に、金型中のプラスチゾルを空気循環乾燥キャビネット中で、200℃で30分間ゲル化させ、冷却後に取り出し、測定前に少なくとも24時間、前記乾燥キャビネット(25℃)中で貯蔵した。円板の厚さは、約12mであった。
【0105】
測定自体を、DIN53505に準じて、Zwick−Roell社のショアーA測定装置を用いて実施し、測定値をそのつど、3秒後に読み取った。それぞれの試験体につき、異なった箇所(周辺領域以外)で3回、異なった測定を実施し、そのつど、測定値を記録した。
【0106】
第5表には、得られた測定値が記載されている。
【0107】
【表4】

【0108】
記載された実施例は、フランジカルボン酸の本発明によるイソデシルエステルがDINPと実際に同じ価値を有し、および相応するフタレートDPHPおよびテレフタレートDOTPと比較して可塑化作用の際に明らかな改善を有することを証明する。
【0109】
実施例6:プラスチゾルからのシートの製造
試験体を製造するために、最初に第3表からのそれぞれの処方について厚さ1mmのシートを製造した。このために、最初に、高光沢剥離紙(Sappi社、イタリア国)を30×44cmの寸法に切断し、Mathis炉用の塗布装置LTSVの張り枠に設置した。その後、張り枠をガイド枠上に載置し、Mathis炉(LTF型)を200℃に調節し、この温度に達した後に枠を15秒間予熱した。その後、コーターを張設装置に設置し、ゲル化終了後のシートの厚さが、1mm(±0.05mm)となるように、前試験によりコーターのギャップを調節した。紙の前側の縁部に接着ストリップを施与して過剰のペーストを捕集した。その後、該ペーストをコーターの前方に施与し、コーターと共にガイド枠を引っ張ることによって張設された剥離紙上にペーストを塗り広げた(速度約6m/分)。その後、コーターを取り出し、過剰のペーストと共に接着ストリップを除去した。引続き、溶融ロールを降下させ、張り枠を炉中へ移動させた。ゲル化(200℃で2分間)後に、枠を再び炉から取り出し、冷却後にシートを紙から剥離した。
【0110】
実施例7:シートからの揮発性の測定
例6において製造した、厚さ約1mmを有するシートから、それぞれ50cm2の面積を有する2枚の円板を打ち抜いた。この試験体を少なくとも24時間、一定の空気湿度で乾燥ゲルを有するデシケーター中に貯蔵した。
【0111】
一連の測定の開始前に、ゼロ試験体を測定した。ゼロ試験体の結果を廃棄した。それというのも、この測定は、機器の熱時運転段階のためだけに使用されたからである。次に、状態調節された試験体をMettlerハロゲンドライヤーHB43S中でEinwegAluschale上の中央部に位置付けし、および計量した。標準加熱プログラムを前記ハロゲンドライヤー中で測定のために使用した。このために、次のパラメーターに調節した:加熱速度を直線勾配で最大200℃に調節した。試験時間のために、10分間の時間を確定した。測定値(時間、温度および質量損失)を全部で0.5分間、自動的にデーターケーブルを用いて評価ソフトウェア(Microsoft Excel)に伝達した。それぞれの試験体のために、少なくとも1回の二重測定を実施した。測定結果が10%を上廻るほど散り散りである場合には、もう1つの測定を実施した。質量損失の平均値を図表で示した。次に、それぞれの測定後に、機器が再び50℃未満に冷却されるまで待機した。その後、直ぐ次の測定を開始した。
【0112】
第5表中には、200℃で10分間の時間後の質量損失が記載されている。
【0113】
【表5】

【0114】
本発明によるエステルから製造されたシートは、最も少ない揮発性を示す。
【0115】
それによって、本発明によるエステルは、DOTPを凌駕しかつDINPに比較的類似した挙動を有することを示すことができた。従って、プラスチゾル中でもDINPおよびDOTPと比較して競争能を有する可塑剤を開発することによって、2−プロピルヘプタノールに富んだイソデカノールのために付加的な使用潜在性を発生させるという前記課題を解決することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

で示されるフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物。
【請求項2】
エステルの混合物がC10側鎖中の2−プロピルヘプチルエステルの割合を50モル%から最大99モル%までの範囲内で有する、請求項1記載のフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物。
【請求項3】
エステルの混合物が第四級C原子を有するC10側鎖を20モル%未満有する、請求項1または2記載のフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物。
【請求項4】
式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法において、
a)フラン−2,5−ジカルボン酸を水の遊離下に異性体C10アルコールの混合物と接触させ;
b)その際、異性体C10アルコールの50%までモル過剰量の混合物が使用され;
c)ブレンステッド酸および/またはルイス酸の群から選択された、触媒を使用してa)に記載の反応を行なうことを特徴とする、式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法。
【請求項5】
式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法において、
a)フラン−2,5−ジカルボン酸を相応するフラン−2,5−ジカルボン酸クロリドに変換し、このフラン−2,5−ジカルボン酸クロリドを、
b)引続き分離および精製の後に塩化水素の遊離下に異性体C10アルコールの混合物と接触させることを特徴とする、式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法。
【請求項6】
式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法において、
a)フラン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステルをメタノールの遊離下に異性体C10アルコールの混合物と接触させ;
b)その際、ブレンステッド酸および/またはルイス酸の群から選択された、触媒を使用してa)に記載の反応を行なうことを特徴とする、式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物の製造法。
【請求項7】
式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物ならびにアルキルベンゾエート、ジアルキルアジピエート、グリセリンエステル、クエン酸トリアルキルエステル、アシル化されたクエン酸トリアルキルエステル、トリアルキルトリメリテート、グリコールジベンゾエート、ジアルキルテレフタレート、ジアルキルフタレート、イソソルビドのジアルカノイルエステルおよび/または1,2−、1,3−または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のジアルキルエステルから選択された可塑剤を含有する組成物。
【請求項8】
式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルと可塑剤との比が1:15〜15:1の範囲内にある、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物がポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチラールおよびポリアルキルメタクリレートから選択されたポリマーを有する、請求項7または8記載の組成物。
【請求項10】
式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの混合物、ならびにポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチラールおよび/またはポリアルキルメタクリレートから選択されたポリマーを含有する組成物。
【請求項11】
ポリマーと式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルとの比が30:1〜1:2.5の範囲内にある、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
可塑剤としての請求項1から3までのいずれか1項に記載の式Iのフラン−2,5−ジカルボン酸の異性体デシルエステルの使用。
【請求項13】
染料、インキ、接着剤または接着剤成分、塗料、プラスチゾル、封止用コンパウンドの際の、殊にプラスチックまたはプラスチック成分における可塑剤としての、請求項7から10までのいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項14】
染料、インキ、接着剤または接着剤成分、塗料、プラスチゾル、封止用コンパウンドの際の溶剤としての、請求項7から10までのいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
潤滑油成分としての請求項7から10までのいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
金属加工の際の助剤としての請求項7から10までのいずれか1項に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2013−503120(P2013−503120A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525962(P2012−525962)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061123
【国際公開番号】WO2011/023491
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(398054432)エボニック オクセノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (63)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Oxeno GmbH
【住所又は居所原語表記】Paul−Baumann−Strasse 1, D−45764 Marl, Germany
【Fターム(参考)】