説明

3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法および5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法

【課題】工業的に有利な3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法の提供。
【解決手段】 L−アスコルビン酸とアセトンとを酸触媒下で反応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第1工程と、該第1工程で生成された5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸とアルキル化剤とを塩基の存在下で反応させて3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第2工程とを含む3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法において、前記第1工程が2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行われることを特徴とする3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法および5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法に関し、さらに詳しくは、酸性化合物を触媒としてL−アスコルビン酸とアセトンとを反
応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第1工程
と、該第1工程で生成された5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸と
アルキル化剤とを塩基の存在下で反応させて3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第2工程とを含む3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法において、前記第1工程が2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行われることを特徴とする3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法、および酸性化合物を
触媒としてL−アスコルビン酸とアセトンとを2,2−ジメトキシプロパンの存在下で反応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を製造することを特徴とする5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)で示される3−O−アルキル−L−アスコルビン酸は、優れた抗酸化作用
、ラジカル捕捉作用を有し、L−アスコルビン酸に比べ脂溶性および安定性の大きいアス
コルビン酸誘導体である。3−O−アルキル−L−アスコルビン酸は、制ガン作用、抗炎
症作用、冠動脈保護作用などの多くの生物活性作用を示すことが知られている。その他3−O−アルキル−L−アスコルビン酸は、紫外線保護作用、育毛作用なども示し、3−O
−エチル−L−アスコルビン酸は、これらの作用を目的にして化粧品に配合されて、実用
に供されている。
【0003】
【化1】

【0004】
この3−O−アルキル−L−アスコルビン酸の製造原料として、下記式(2)で示され
る3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸は極めて有用である。このため3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法については、これまで数多くの研究結果が報告されている。
【0005】
【化2】

【0006】
従来の3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の主な製造方法は、L−アスコルビン酸(下記式(3))とアセトンとを酸触媒の存在下で
反応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸(下記式(4))を合成する第1工程と、この5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を分離精製した後、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはジメチルホルムアミド(DMF)中で
炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムの存在の下、5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を臭化アルキルなどのアルキル化剤と反応させて3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を得る第2工程とからなる方法であった(特許文献1、2、3、非特許文献1、2、3)。すなわちこの方法は、反応中間生成物である5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を一旦反応系から分離し、新たな溶媒に溶解し直してから、後段の反応を行うという、2つの反応系を必要とする方法であった。
【0007】
【化3】

【0008】
【化4】

【0009】
この従来の方法には次のような問題点があった。
第1の問題点は、第1工程において、L−アスコルビン酸とアセトンとを反応させると
きに使用する酸触媒の量が、通常の反応で使用される触媒量に比較してけた違いに多いことである。ここで使用される酸触媒としては、塩化亜鉛(特許文献4)、五塩化アンチモ
ン(特許文献5)、発煙硫酸(特許文献6)、濃硫酸(特許文献7)、三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体(特許文献8)、硫酸銅(非特許文献4)、塩化アセチル(非特許文献5,6)、p−トルエンスルホン酸(非特許文献7)などの多種類の酸性化合物が報告さ
れている。しかし上記方法で使用される酸触媒の使用量は、L−アスコルビン酸1モルに
対して0.3モル以上、場合によっては2〜6モル以上というように例外なく極めて多い。
【0010】
このため第1工程の反応液は強い酸性状態にあるので、塩基存在下で行う必要のある第2工程をこの反応液中で行うことは困難であり、前述のように5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を一旦反応液から分離して、第1工程とは異なる反応系で第2工程を行うことが余儀なくされた。また第1工程の反応液から析出する5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の結晶中には多量の酸性化合物が混在することになるので、この結晶を濾取し、冷アセトンで十分に洗浄して酸性化合物を除去するという操作をする必要があった。しかもこの洗浄のみでは酸性化合物を完全に除去することはできないので、この5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の結晶の保存中に残存する酸性化合物により5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸が分解を起こすという不都合が生じていた。
【0011】
第2の問題点は、第2工程において溶媒として高沸点で高価格のジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミドを使用するので、工業的な製造方法としては、経済上も操作上も不利であるという点である。第2工程でこれらの溶媒を使用するのは、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムの存在の下で生成する5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸のナトリウム塩またはカリウム塩の溶解度を高めるために必要だからである。
【特許文献1】米国特許第5061812号
【特許文献2】特開昭58−57373g号公報
【特許文献3】特開平1−2,28977号公報
【特許文献4】特開昭58−131978号公報
【特許文献5】特開昭60−69079号公報
【特許文献6】特開平2,286693号公報
【特許文献7】特開平4−29989号公報
【特許文献8】特開平7−17989号公報
【非特許文献1】Y.Nihro et al.,J.Med.Chem.1991,34,2152
【非特許文献2】Y.Nihro et al.,J.Med.Chem.1992,35,1618
【非特許文献3】K.Morisaki et al.,Chem.Pharm.Bull.1996,69,725
【非特許文献4】J.S.Brimacombe et al.,Carbohydr.Res.1975,45,45
【非特許文献5】K.G.A.Jackson et al.,Can.J.chem.1969,47,2498
【非特許文献6】M.E.Jung et al.,J.Am.chem.Soc.1980,102,6304
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は従来の3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法および5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法が有する上記問題点を解決することを目的とする。
【0013】
すなわち本発明の課題は、L−アスコルビン酸とアセトンとを酸触媒下で反応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第1工程と、該第1工
程で生成された5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸とアルキル化剤とを塩基の存在下で反応させて3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)
−L−アスコルビン酸を生成させる第2工程とを含む3−O−アルキル−5,6−O−(1−
メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法において、反応中間体の分離精製を不要にするなど簡便で、収率が良く、経済的で、操作性の優れた3−O−アルキル−5,6
−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法を提供することである。
【0014】
また本発明の課題は、高純度の5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を高収率で製造することのできる5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、酸性化合物を触媒としてL−アスコルビン酸とア
セトンとを反応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第1工程と、該第1工程で生成された5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸とアルキル化剤とを塩基の存在下で反応させて3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第2工程とを含む3−O−アル
キル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法において、前記第1工程が2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行われることを特徴とする3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法である。
【0016】
この発明の好適な態様として、第2工程が、第1工程で得られた反応液に塩基およびアルキル化剤を添加して行われる。
また上記課題を解決するための本発明は、酸性化合物を触媒としてL−アスコルビン酸
とアセトンとを2,2−ジメトキシプロパンの存在下で反応させて5,6−O−(1−メチ
ルエチリデン)−L−アスコルビン酸を製造することを特徴とする5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記第1工程が2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行われることにより酸触媒の使用量を大幅に減少させることができる。このため第1工程の反応液から、酸性化合物等の不純物の含有量が少なく、純度の高い5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の結晶が得られる。したがってこの結晶を、精製することなく、第2工程に用いることができるので、反応工程が簡便になる。また第1工程の反応液は強い酸性状態にはないので、この反応液を少量のアルカリで中和することができる。このため中和した反応液に塩基を添加して第2工程を行うことができる。このため本発明によれば、反応中間体である5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を分離精製する必要がなくなり、第1工程と第2工程とを同一の反応液系で行うことができるので、反応工程が極めて簡便になる。
【0018】
本発明によれば、第1工程と第2工程とを同一の反応液系で行うことにより、第2工程で
高沸点であり高価格であるDMSOまたはDMFなどの溶媒を使用する必要がなくなり、工業的
な製造方法として、経済上も操作上も有利となる。
【0019】
本発明によれば、前記第1工程が2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行われることで、第1工程の反応が定量的に進行するようになるので、反応中間体である5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の収率が高くなる。この結果、工業的に満足することのできる3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の収率を得ることができる。
【0020】
また本発明によれば、高純度の5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、L−アスコルビン酸とアセトンとを酸触媒下で反応させて5,6−O−(1−
メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第1工程と、該第1工程で生成された5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸とアルキル化剤とを塩基の存在下で反応させて3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第2工程とを含む3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデ
ン)−L−アスコルビン酸の製造方法において、前記第1工程が2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行われる3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法である。
−(1)第1工程
本発明は、第1工程における酸触媒下でのL−アスコルビン酸とアセトンとの反応を、2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行うことに特徴を有する。2,2−ジメトキシプロパンは、下記式(5)で示される構造を有する化合物である。
【0022】
【化5】

【0023】
この第1工程は、たとえば次のように行われる。L−アスコルビン酸のアセトン懸濁液を調整し、これに2,2−ジメトキシプロパンを加えた後、この懸濁液を攪拌しながら酸触
媒である酸性化合物をこの懸濁液に滴下し、一定時間攪拌を続行する。そうすると反応中間体である5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸が白色結晶として析出する。
【0024】
このように第1工程を2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行うと、酸触媒の使用量を大幅に減少させることができる。このため析出する5,6−O−(1−メチルエチリデン)
−L−アスコルビン酸の結晶中に混入する酸触媒の量が低減し、高純度の5,6−O−(1
−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の結晶が得られる。またL−アスコルビン酸と
アセトンとの反応が定量的に進行し、5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の収率が高くなる。
【0025】
2,2−ジメトキシプロパンの添加量としては、L−アスコルビン酸1モルに対して0.1モル以上であると上記の2,2−ジメトキシプロパンの添加効果が好適に発現され、好
ましくは0.3〜2モルであり、さらに好ましくは0.5〜1.0モルである。
【0026】
第1工程で使用する酸触媒である酸性化合物としては、前記背景技術で示した化合物、
並びにメタンスルホン酸および塩化チオニル等を挙げることができる。酸触媒の添加量としては、L−アスコルビン酸1モルに対して0.005〜0.05モルであり、より好ま
しくは0.01〜0.03モルである。2,2−ジメトキシプロパンを使用しない従来の
方法においては、前述の通り酸触媒の使用量は、L−アスコルビン酸1モルに対して0.
3モル以上、場合によっては2〜6モル以上であるから、本発明の方法では、酸触媒の使用量を従来法に比較し1/6から1/100以下に減少させることができる。
【0027】
第1工程における反応温度としては、室温からアセトンの還流温度までが好適である。
反応時間としては、還流温度では1時間程度で十分であり、室温では2〜3時間が好適で
ある。
(2)第2工程
本発明の第2工程は、従来の方法と同様に、第1工程で得られた5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の結晶を分離精製して、これを溶媒に溶解させ、塩基の存在下で、5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸をアルキル化剤と反応させることによっても行うことができる。
【0028】
この場合の第2工程の条件は、従来法と同様であり,たとえば溶媒としては、DMSOまたはDMF等を挙げることができ、塩基としては炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム
、トリエチルアミンおよびエチルジイソプロピルアミン等の3級アミン並びにナトリウム
メトキシド等を挙げることができ、アルキル化剤としては臭化アルキルおよびヨウ化アルキル等のハロゲン化アルキル、メタンスルホン酸アルキル、p−トルエンスルホン酸アルキル並びに硫酸ジアルキル等を挙げることができる。
【0029】
従来の方法がこのように第1工程で得られた5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−
アスコルビン酸の結晶を分離精製した上で、第1工程とは異なる反応系で第2工程を行うのは、第1工程の反応液が極めて高濃度の酸性化合物を含んでいるので、これを中和するの
に要するアルカリ量も極めて多量となって、中和した後の反応液中には極めて多量の夾雑物が存在することになり、この反応液中で第2工程の反応を行うことが事実上困難である
こと、および第1工程で得られた5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン
酸の結晶中には未反応のアスコルビン酸が含有されており、この結晶をそのまま第2工程
の反応に用いることが困難であることを理由とする。
【0030】
しかし本発明の第1工程の反応液に含有される酸性化合物は、上記の通り低濃度である
ので、この反応液は少量のアルカリで中和することができる。このため本発明においては、中和した後の反応液中に存在する夾雑物は少量であり、この反応液中で第2工程の反応
を行うことが可能である。また第1工程の反応液中の酸性化合物が低濃度であることから
、第1工程で得られた5,6−O−(1−メチルエチリデン)− L−アスコルビン酸の結晶中に含有されている酸性化合物はわずかであり、この結晶は高純度であるので、この結晶を精製せずにそのまま第2工程の反応に用いることが可能である。
【0031】
このため本発明の第2工程は、第1工程で得られた5,6−O−(1−メチルエチリデン)
−L−アスコルビン酸の結晶を分離精製することなく、5,6−O−(1−メチルエチリデ
ン)−L−アスコルビン酸の結晶を含む第1工程で得られた反応液をそのまま第2工程に用いることができる。したがって本発明では、第2工程でDMSO等の新たな溶媒を使用する必要がなく、第1工程で得られたアセトン溶媒中で引き続き第2工程を行うことができる。つまり本発明では第2工程を、第1工程で得られた反応液に塩基およびアルキル化剤を添加して行うことができる。
【0032】
このような第2工程は、たとえば次のように行うことができる。
第1工程で生成した5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の結晶を
含む反応液に塩基を加え、5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸のトリアルキルアンモニウム塩またはナトリウム塩等を生成させる。この反応液にアルキル化剤を添加することにより、3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる。
【0033】
この第2工程で使用される塩基としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、トリエチルアミンおよびエチルジイソプロピルアミン等の3級アミン並びにナトリウムメト
キシド等を挙げることができる。塩基の添加量としては、L−アスコルビン酸1モルに対
して1〜1.5モルが好ましい。
【0034】
第2工程で使用されるアルキル化剤としては、臭化アルキルおよびヨウ化アルキル等のハロゲン化アルキル、メタンスルホン酸アルキル、p−トルエンスルホン酸アルキ並びに硫酸ジアルキル等を挙げることができる。アルキル化剤の添加量としては、、L−アスコ
ルビン酸1モルに対して1〜1.5モルが好ましい。
【0035】
第2工程における反応温度としては、室温からアセトンの還流温度までが好適である。反応時間としては、還流温度では1〜2時間、室温では3〜5時間が好適である。
本発明の第1工程では、前述のようにL−アスコルビン酸とアセトンとの反応が定量的に進行し、5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の収率が高くなることから、第2工程においても3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−
アスコルビン酸が高収率で得られる。さらに上記のように第1工程で得られた5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を分離精製することなく第2工程を行うことにより、分離精製によるロスがなくなり、第1工程で得られた5,6−O−(1−メチルエ
チリデン)−L−アスコルビン酸を100%第2工程に利用することができるので、さらに
3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸が高収率で得られる。
【0036】
このようにして得られた3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸は、第2工程の反応液からアセトンを留去した後、得られた固形物を酢酸
エチルに溶解し、水洗後、酢酸エチルを留去することにより粗結晶として得られる。この粗結晶は、少量の2,3−O−ジアルキル−5,6−(1−メチルエチリデン)−L−アスコ
ルビン酸を含有するが、3−O−アルキル−L−アスコルビン酸の製造にはそのまま使用
することができる。また必要に応じて酢酸エチル−へキサンなどから再結晶により精製することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例1および比較例1,2により、本発明である5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法(すなわち上記第1工程)を具体的に説明する。これらの試験は、Jungら(非特許文献6)の方法に若干の変更を加えて行ったものである。また実施例2により、本発明である5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法の詳細な実施方法および結果を、実施例3および4により、本発明である3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法の詳細な実施方法および結果を説明する。融点は、第15改正日本薬局方、一般試験法融点測定法(2006年)に基づき測定した。
(比較例1)
L−アスコルビン酸10g(5,68×10-2モル)とアセトン40mlとの混合液に、攪拌しながら室温で塩化アセチル1ml(1.41×10-2モル)を加え、このまま17時間攪拌した。生成した結晶を少量採り、少量のアセトンで洗い、融点を測定したところ、201〜203℃で分解した。この反応液にトリエチルアミン2.85g(2.82×10-2モル)を加えて中和し、アセトン150mlを加えてやや加温し、結晶を溶解させた。この溶液を濾過したところ、0.62gの不溶物が得られた。TLCにより、この不溶物はL−アスコルビン酸であることが確認された。
(比較例2)
使用する塩化アセチルを0.1ml(1.41×10-3モル)、トリエチルアミンを0.29g(2.82×10-3モル)にしたこと以外は、比較例1と同様に処理した。生成した結晶の融点は190〜192℃(分解)であり、不溶物であるL−アスコルビン酸は
6.0g得られた。
(実施例1)
L−アスコルビン酸とアセトンとの混合液に2,2−ジメトキシプロパンを7.0ml
(5,68×10-2モル)添加したこと以外は、比較例2と同様に処理した。生成した結
晶の融点は209〜210℃(分解)であった。生成した結晶を溶解させてTLC(SiO2:メタノール/クロロホルム=1/1)を行ったところ、単一スポットが得られた。ま
た不溶物は得られなかった。
【0038】
以上のように、2,2−ジメトキシプロパンを添加せず、酸触媒である塩化アセチルを
モル比でL−アスコルビン酸の約1/40しか使用しなかった比較例2では、未反応のL−
アスコルビン酸が6.0gも得られ、反応率が極めて低いことがわかった。また5,6−
O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の精製物の融点は213〜213.5
℃(分解)であり、比較例2で生成した結晶の融点はこれと比較して約20℃も低いことから、この結晶は純度がかなり低く、相当量の不純物を含んでいることがわかった。
【0039】
2,2−ジメトキシプロパンを添加せず、酸触媒である塩化アセチルをモル比でL−アスコルビン酸の約1/4も使用した比較例1では、未反応のL−アスコルビン酸の量が比較例2の場合の約1/10であり、反応率は比較例2よりはかなり高かったが、定量的な反応
には至っていないことがわかった。比較例1で生成した結晶の融点は、精製物の融点と比較して約10℃低いことから、この結晶は、比較例2の結晶よりは純度が高いが、なお相当量の不純物を含んでいることがわかった。
【0040】
これに対し、2,2−ジメトキシプロパンを添加した実施例1では、塩化アセチルをモ
ル比でL−アスコルビン酸の約1/40しか使用しなかったのもかかわらず、未反応のL−
アスコルビン酸は確認されず、反応がほぼ定量的に行われていることがわかった。実施例1で生成した結晶の融点は、精製物の融点と大きな差はなく、この結晶は5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の純度がかなり高いことがわかった。
【0041】
このように酸性化合物を触媒としてL−アスコルビン酸とアセトンとを反応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を製造するときに2,2−ジメトキシプロパンを添加すると、酸触媒量を大幅に減少させても反応がほぼ定量的に進行し、しかも純度の高い5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の結晶が高収率で得られることがわかった。
(実施例2)5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の合成
L−アスコルビン酸176.1g(1モル)とアセトン900ml(10.5モル)と
の混合液に、2,2−ジメトキシプロパン123ml(1モル)を加え、攪拌しながらメ
タンスルホン酸2.4g(2.5×10-2モル)を滴下した。40℃で2時間反応後、トリエチルアミン2.5g(2.5×10-2モル)でこの反応液を中和した。反応液を氷水で冷却し、析出した白色結晶を濾取して、冷アセトンで洗浄した。このようにして融点208.5〜209.5℃(分解)の5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の第1結晶を185.5g(収率85.8%)得た。濾液を約150mlに濃縮した後、氷冷し、析出した結晶を濾取して、冷アセトンで洗浄した。このようにして融点209〜210℃(分解)の5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の第2結晶を22.25g(収率10.3%)得た。第1結晶と第2結晶との合計で207.75g(収率96.1%)を得た。これらの結晶をアセトン−へキサンより再結晶し、融点213〜213.5℃(分解)の白色針状晶を得た。
【0042】
以下、この結晶の元素分析結果および1H-NMR分析結果を示す。
元素分析:C9H12O6 .理論値:C,50.00;H,5.60、実測値:C,50.11;H,5.59
1H-NMR(300MHz、CD3OD)δ:1.35(3H,s, アセトナイド)、1.37(3H,s,アセトナイド)、4.06(1H,dd,J=6.4,8.5Hz、6−CH)、4.20(1H,dd,J=6.8,8.5Hz、6−CH)、4.36(1H,dt,J=3.1,6.6
Hz、5−CH)、4.70(1H,d,J=3.1Hz、4−CH)、4.89(2H,bs,O
H)
(実施例3)3−O−エチル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の合成
L−アスコルビン酸44.03g(2.5×10-1モル)、アセトン215ml(2.
5モル)および2,2−ジメトキシプロパン31ml(2.5×10-1モル)の混合物に
室温で攪拌しながら塩化チオニル0.74g(6.25×10-3モル)を加え、2時間反応させた。次に反応温度を50℃に高め、4N−CH3ONaのメタノール溶液65,6ml(2.625×10-1モル)およびメタノール50mlを攪拌しながら滴下し、続いてメタンスルホン酸エチル31g(2.5×10-1モル)を加え、2時間反応させた。減圧下で反応液を濃縮し、残留物を酢酸エチル350mlに溶解させた。この溶液を100mlずつの水で2回洗浄した後、この溶液に無水硫酸ナトリウムおよびシリカゲル5gを加え、この溶液を乾燥させた。この溶液から溶媒を留去させ、黄白色の固体50.92g(収率83.4%)を得た。この固体の融点は、93〜104℃であった。
【0043】
この固体は、3−O−エチル−L−アスコルビン酸の製造に十分使用できるが、副生成
物として2,3−O−ジエチル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン
酸を若干量含むので、再結晶により精製した。この固体をヘキサン−酢酸エチルから再結晶し、3−O−エチル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を、融点108〜109℃の白色針状晶として41.03g(収率67.2%)得た。
以下、この結晶の元素分析結果および1H-NMR分析結果を示す。
元素分析:C11H16O6 .理論値:C,54.09;H,6.60、実測値:C,54.00;H,
6.62
1H-NMR(300MHz、CD3OD)δ:1.35(3H,s, アセトナイド)、1.36(3H,s,アセトナイド)、1.39(3H,t, J=7.0Hz、OCH2CH3)、4.03(1H,dd,J=6.4,8.4Hz、6−CH)、4.19(1H,dd,J=7.0,8.5Hz、6−
CH)、4.33(1H,dt,J=2.9,6.8Hz、5−CH)、4.56(2H,q,J=7.0Hz、OCH2CH3)、4.67(1H,d,J=2.8Hz、4−CH)、4.88(1H,
s,OH)
(実施例4)3−O−メチル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の合成
L−アスコルビン酸5.28g(3×10-2モル)、アセトン26ml(3×10-1
ル)および2,2−ジメトキシプロパン3.7ml(3×10-2モル)の混合物に40℃
で攪拌しながら濃硫酸0.1g(1×10-3モル)を加え、2時間反応させた。次にトリエチルアミン3.24g(3.2×10-2モル)を加え、続いて硫酸ジメチル3.78g(3×10-2モル)を加えて、2時間反応させた。減圧下で反応液を濃縮し、残留物を酢酸エチル50mlに溶解させた。この溶液を20mlずつの水で2回洗浄し、この溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。得られた白色固体をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、融点117〜118℃の3−O−メチル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の白色固体を4.77g(収率68.8%)得た。
【0044】
以下、この白色固体の元素分析結果および1H-NMR分析結果を示す。
元素分析:C10H14O6 .理論値:C,52.17;H,6.13、実測値:C,52,24;H,6.00
1H-NMR(300MHz、CDCl3)δ:1.37(3H,s, アセトナイド)、1.40(3H,s,アセトナイド)、4.03(1H,dd,J=6.8,8.6Hz、6−CH)、4.15
(1H,dd,J=6.7,8.6Hz、6−CH)、4.19(3H,s, OCH3)、4.28(1H,dt,J=3.6,6.6Hz、5−CH)、4.56(1H,d,J=3.6Hz)、5.78(1H,bs,OH)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性化合物を触媒としてL−アスコルビン酸とアセトンとを反応させて5,6−O−(1
−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第1工程と、該第1工程で生成された5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸とアルキル化剤とを塩基の存在下で反応させて3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を生成させる第2工程とを含む3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリ
デン)−L−アスコルビン酸の製造方法において、前記第1工程が2,2−ジメトキシプロパンの存在下で行われることを特徴とする3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法。
【請求項2】
第2工程が、第1工程で得られた反応液に塩基およびアルキル化剤を添加して行われる請求項1に記載の3−O−アルキル−5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法。
【請求項3】
酸性化合物を触媒としてL−アスコルビン酸とアセトンとを2,2−ジメトキシプロパンの存在下で反応させて5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸を製造することを特徴とする5,6−O−(1−メチルエチリデン)−L−アスコルビン酸の製造方法。

【公開番号】特開2008−266172(P2008−266172A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109387(P2007−109387)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000152952)株式会社日本ハイポックス (3)
【Fターム(参考)】