説明

3次元形状導出装置および3次元形状導出方法

【課題】センサネットワークを用い、カメラやレーザでは測定困難な部位の形状までも導出する。
【解決手段】3次元形状導出装置100は、自体の3次元位置またはそれに相当する物理量を示す位置情報を発信する流動自在な複数の位置センサ112と、複数の位置センサが発信した位置情報を受信するセンサ情報集約部114と、測定対象物102における複数の位置センサが存在する部分の3次元形状を、複数の位置センサの位置情報に基づいて導出する3次元形状導出部130とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサネットワークを通じて3次元形状を導出する3次元形状導出装置および3次元形状導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、軽量小型で無線通信可能なセンサを用いて、任意の対象物の位置を特定する技術が普及している。例えば、電波強度や電磁誘導態様等が異なる通信手段を用い、特定の範囲でのみセンサとの通信が成立するように制限することで、センサの通信が成立しているか否かによってセンサが付された装置の大凡の位置を検出する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、監視対象に、識別信号を発信可能なセンサを付け、アドホック等のセンサネットワークを通じてセンサの位置を特定することで、監視対象の位置を特定する技術が公開されている(例えば、特許文献2)。さらに、センサネットワークにおいて、位置が既知な2つのセンサを利用し、任意のセンサとその位置が既知な2つのセンサとの距離に基づいて任意のセンサの位置を順次導出する技術も開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008− 59087号公報
【特許文献2】特開2007−279895号公報
【特許文献3】特開2009−250627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、様々な対象物の3次元空間での位置や形状を測定する技術が求められている。このような測定によって得られる3次元空間での位置や形状は、例えばロボットによるピッキング処理や製品内部形状のリバースエンジニアリング等、様々な用途に用いることができる。しかし、上述した特許文献1〜3に記載された技術では、対象物の位置を特定することはできても、センサが対象物に固定されているので対象物の形状を特定することはできない。
【0006】
上述した3次元空間での位置や形状を測定するためには、複数台のカメラやレーザセンサ等の大掛かりな装置が必要であった。しかし、このような大掛かりな装置をもってしても、曲がった管の内部形状や閉じた狭い空間の内部形状を測定することはできなかった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、センサネットワークを用い、カメラやレーザでは測定困難な部位の形状までも導出可能な3次元形状導出装置および3次元形状導出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の3次元形状導出装置は、自体の3次元位置またはそれに相当する物理量を示す位置情報を発信する流動自在な複数の位置センサと、複数の位置センサが発信した位置情報を受信するセンサ情報集約部と、測定対象物における複数の位置センサが存在する部分の3次元形状を、複数の位置センサの位置情報に基づいて導出する3次元形状導出部とを備えることを特徴とする。
【0009】
3次元位置を異にして複数配置された信号供給源をさらに備え、複数の位置センサは、信号供給源から供給された信号に基づき信号供給源との距離または信号供給源の方向を算出することで自体の3次元位置を導出してもよい。
【0010】
複数の位置センサは、所定の条件を満たした場合にのみ位置情報を発信してもよい。
【0011】
所定の条件は所定空間範囲内で唯一の代表位置センサとなることであり、位置センサは、自体が代表位置センサとなった場合にのみ位置情報を発信してもよい。
【0012】
所定の条件は測定対象物の境界に位置することであり、位置センサは、近傍に存在する他の複数の位置センサの3次元位置に基づいて、自体が測定対象物の境界に位置するか否かを判定し、測定対象物の境界に位置する場合にのみ位置情報を発信してもよい。
【0013】
位置センサは、所定範囲内に存在する他の位置センサの個数が、位置センサの密度に基づく所定閾値以下であれば、自体が測定対象物の境界に位置すると判定してもよい。
【0014】
位置センサは、位置センサを対称点とした他の複数の位置センサの重心位置の点対称と位置センサとを結ぶ結線を中心軸とした所定ステラジアン内かつ所定範囲内に他の位置センサがないとき、自体が測定対象物の境界に位置すると判定してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、測定対象物に流動可能に配された複数の位置センサと、複数の位置センサと通信可能なセンサ情報集約部とを備える3次元形状導出装置を用いて測定対象物の3次元形状を導出する、本発明の3次元形状導出方法は、複数の位置センサが、自体の3次元位置またはそれに相当する物理量を示す位置情報を発信し、センサ情報集約部が、複数の位置センサが発信した位置情報を受信し、測定対象物における複数の位置センサが存在する部分の3次元形状を、複数の位置センサの位置情報に基づいて導出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、センサネットワークを用いることで、カメラやレーザでは測定困難な部位の形状までも導出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】3次元形状導出装置の概略的な構成を示した機能ブロック図である。
【図2】位置センサの概略的な構成を示した機能ブロック図である。
【図3】複数の位置センサによって構築されるセンサネットワークを説明するための説明図である。
【図4】位置センサによる境界判定を説明するための説明図である。
【図5】位置情報を発信する所定の条件を説明するための説明図である。
【図6】位置センサによる境界判定を説明するための説明図である。
【図7】位置センサによる境界判定を説明するための説明図である。
【図8】3次元形状導出方法の処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(3次元形状導出装置100)
図1は、3次元形状導出装置100の概略的な構成を示した機能ブロック図であり、図2は、位置センサ112の概略的な構成を示した機能ブロック図である。3次元形状導出装置100は、複数の信号供給源110と、複数の位置センサ112と、センサ情報集約部114と、保持部116と、中央制御部118とを含んで構成され、測定対象物102の3次元形状を導出する。
【0020】
信号供給源110は、3次元位置を異にして配置され、複数の位置センサ112に電場や磁場、あるいは電磁波に基づく信号を供給する。信号供給源110は、位置センサ112への位置計算用信号の送信源と電力供給源との2つの役割を担うが、この機能を分離して、それぞれを別固体として配置してもよい。
【0021】
位置センサ(マイクロセンサ)112は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の微細加工技術や半導体プロセスの微細化により、粒子状(軽量、小型)かつ流動自在に形成され、信号供給源110から供給された信号に基づいて信号供給源110との距離または信号供給源110の方向を算出することで自体の3次元位置を自己完結的に導出し、3次元位置を示す位置情報を発信する。ここでいう位置情報とは、3次元位置座標(x,y,z座標)のみに限定されず、信号の強度や位相等、3次元位置に相当する、測定された物理量から最終的に位置情報に変換することができる情報であってもよい。また、ここでは、位置センサ112が流動自在に形成される例を挙げているが、かかる場合に限られず、例えば、位置センサ112がプラスチック等の樹脂に練り込まれて流動性が低下または失われている場合も本実施形態の技術的範囲に含まれる。ここで、位置センサ112は、他の位置センサ112との摩擦を考慮して球状かつコーティングが施されたものを用いるとするが、かかる形状に限らず、扱いやすい任意の形状とすることができる。また、図2に示すように、位置センサ112は、アンテナ112aと、電源部112bと、通信部112cと、マイクロコンピュータ112dとを含んで成る。
【0022】
アンテナ112aは、あらゆる方向の電磁波を受信し、また、位置センサ112内で生成された信号を電磁波として発信する。位置センサ112における通信方式として、例えば消費電力の少ない近距離通信(NFC)が採用されている。電源部112bは、受信した電磁波から誘導起電力を得て、その電力により位置センサ112を動作させる(電力レスセンサ)。電源部112bは、ほとんど電力を消費しないため、自体に小型の電池を有すこともできる。通信部112cは、アンテナ112aを通じて近傍の他の位置センサ112やセンサ情報集約部114とデータ通信を行う。マイクロコンピュータ112dは、信号供給源110の信号に基づいて自己の3次元位置を導出する3次元位置導出部112eと、自己が測定対象物の境界に位置していることを判定する境界判定部112fとして機能する。また、位置センサ112は、位置センサ112近傍の温度、位置センサ112に加わる圧力、アンテナ112aで受信する電磁波の電波強度や位相等、他の環境パラメータを測定することもできる。
【0023】
センサ情報集約部114は、位置センサ112が発信した位置情報を受信する。また、センサ情報集約部114から電場や電磁波を位置センサ112に供給して、信号供給源110の機能を担うとしてもよい。保持部116は、ROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成され、センサ情報集約部114で受信された位置情報等を一時的に保持する。中央制御部118は、中央処理装置(CPU)や信号処理装置(DSP:Digital Signal Processor)、プログラム等が格納されたROMやメモリ、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、3次元形状導出装置100全体を管理および制御する。また、本実施形態において、中央制御部118は、測定対象物102において複数の位置センサ112が存在する部分の3次元形状を、複数の位置センサ112の位置情報に基づいて導出する3次元形状導出部130としても機能する。以下、このような3次元形状導出装置100の具体的な処理を説明する。
【0024】
(位置センサ112における3次元位置の導出処理)
例えば、信号供給源110が電磁波に基づく信号を位置センサ112に供給している場合、位置センサ112の3次元位置導出部112eは、その電磁波の電波強度を通じて信号供給源110との距離を把握することができる。また、他の信号供給源110との位相差を用いることで、相対的な距離差を計算することもできる。さらに、位置センサ112のアンテナ112aが指向性のマイクロアレイアンテナ等であれば、信号供給源110の方向を把握することも可能である。
【0025】
したがって、位置センサ112の3次元位置導出部112eが自己の3次元位置を導出するためには、位置センサ112が信号供給源110の距離と方向を把握できる場合、信号供給源110は1つあれば足り、位置センサ112が信号供給源110の方向のみ把握できる場合、信号供給源110が2つあれば足り、位置センサ112が信号供給源110との距離のみを把握できる場合、信号供給源110が3つあれば足りる。
【0026】
また、測定対象物102における位置センサ112の空間自由度が限定的な場合、位置センサ112は、さらに少ない信号供給源110で自己の3次元位置を導出できる。また、位置センサ112がGPS(Global Positioning System)等、既存のシステムを利用可能な場合、3次元位置導出部112eは、そのGPSによって3次元位置を導出することも可能である。
【0027】
また、信号供給源110が磁場に基づく信号を位置センサ112に供給している場合、複数の信号供給源110は、それぞれ排他的に磁場をオン/オフし、その際にいずれの信号供給源110をオンしたかを位置センサ112に知らせるべく、信号供給源110を特定する識別子を送信する。位置センサ112の3次元位置導出部112eは、その識別子と磁場の磁界強度を通じて個々の信号供給源110との距離を把握することができる。こうして、位置センサ112の3次元位置導出部112eは、複数の信号供給源110との距離に基づく3点測位法により、自己の3次元位置を導出することが可能となる。
【0028】
(センサネットワーク)
図3は、複数の位置センサ112によって構築されるセンサネットワークを説明するための説明図である。上述したように信号供給源110の信号を受けて自己の3次元位置を導出した位置センサ112は、その3次元位置を示す位置情報をセンサ情報集約部114に伝達する。この際、近傍にある(隣り合う)複数の位置センサ112同士は、互いに無線通信し合うことで情報交換を行う、自律分散型のセンサネットワークを形成し、図3に示すように、各位置センサ112は、他の位置センサ112を複数経由する(ホップする)ことで最終的にセンサ情報集約部114に位置情報を伝達することができる。したがって、センサ情報集約部114は、複数の位置センサ112全てから個々に位置情報を受信しなくとも、センサ情報集約部114に近い位置センサ112群138に局所的に集められた位置情報を受信することで複数の位置センサ112全ての位置情報を取得することが可能となる。
【0029】
本実施形態では、IEEE802.15.4として規格化されたZigbee(登録商標)等にも代表されるセンサネットワークを採用し、既存のアドホック機能やルーティン機能を用いて各位置センサ112の位置情報の取得経路を構築する。かかるアドホック機能やルーティン機能は、既存の様々な技術を適用できるので、ここではその詳細な説明を省略する。ただし、本実施形態においては、各位置センサ112が信号供給源110からの距離や自体の3次元位置を把握できるため、その3次元位置情報やスパニングツリープロトコルを用いて、センサ情報集約部114により遠い位置センサ112から、より近い位置センサ112に情報を経由する経路を構築できる(図3参照)。また、本実施形態では、位置センサ112が測定対象物102内で流動しているため、情報伝達経路をリアルタイムに再構築するのが望ましい。
【0030】
(位置情報を発信する所定の条件について)
上記の複数の位置センサ112は、それぞれが位置情報を発信する能力を有しているが、本実施形態では、全ての位置センサ112に位置情報を発信させず、所定の条件を満たした場合にのみ位置情報を発信することとする。
【0031】
位置センサ112は、測定対象物102の大きさや形状に応じて、数百、数千、またはそれ以上になる場合がある。しかし、その数百、数千の位置センサ112の3次元位置を全て厳密に取得するとした場合、センサネットワーク内の情報伝達負荷や中央制御部118における計算負荷が膨大になってしまい、所望する結果を得られないこともある。ここでは、所定の条件を満たした位置センサ112のみが位置情報を発信することで、位置情報元となる位置センサ112数を間引き、センサネットワーク内の情報伝達負荷や中央制御部118における計算負荷の軽減を図っている。ただし、位置センサ112に所定の条件を課すことでセンサ情報集約部114への情報伝達負荷は軽減されるが、近傍の他の位置センサ112との通信は継続的に実行される。したがって、近傍の他の位置センサ112との通信とセンサ情報集約部114に位置情報を伝達する通信とで、例えば、識別子の異なるヘッダやホップ数を示すヘッダを用いる等、別々のプロトコルを用いている。
【0032】
以下、図4を用い、上述した所定の条件として、(1)適当に代表位置センサを導出する処理、(2)所定空間範囲内で代表位置センサを導出する処理、(3)境界に位置する位置センサを導出する処理、を例示する。ただし、所定の条件は、かかる場合に限られず、温度や圧力といった他のパラメータが所定閾値以上または所定閾値以下となった場合等、様々な条件を設定することができる。
【0033】
((1)適当に代表位置センサを導出する処理)
図4(a)に示すように、測定対象物102内の任意の位置センサ112gは、その近傍(例えば2ホップ内や所定遅延量内)にある複数の(例えば、数十、数百の)他のセンサ112を1つのグループ140とみなし(クラスタ化)、自体の位置情報をそのグループ140の代表値としてセンサ情報集約部114に送信する。このとき、3次元位置を収集した任意の位置センサ112がそのグループ140内に位置する他の位置センサ112の代表位置センサとなるので、3次元位置が参照されたグループ140内の他の位置センサ112は、3次元位置をセンサ情報集約部114に伝達しなくてよいとすることができる。ここで、近傍の範囲の基準となるホップ数や所定遅延量、3次元位置の平均化対象となるセンサ数は、3次元形状導出装置100に要求される精度や分解能に応じて適宜決定される。
【0034】
((2)所定空間範囲内で代表位置センサを導出する処理)
他の例として、所定空間範囲内で代表位置センサ112を導出することが考えられる。これは代表位置センサ112を導出する点で上述した(1)適当に代表位置センサを導出する処理と似ているが、予め定められた範囲内に唯一の代表位置センサを導出する点で異なる。
【0035】
ここでは、図4(b)に示すように、3次元空間がマトリクス状に複数の所定空間範囲142に分割されている(所定空間範囲142は、x、y、z座標それぞれの長さで表すことができる。)。そして、測定対象物102内の任意の位置センサ112gは、所定空間範囲142にある複数の(例えば、数十、数百の)他のセンサ112を1つのグループとみなし、自体の位置情報をその所定空間範囲142の代表値としてセンサ情報集約部114に送信する。このとき、3次元位置を収集した任意の位置センサ112がその所定空間範囲142内に位置する他の位置センサ112の代表位置センサとなるので、3次元位置が参照された所定空間範囲142内の他の位置センサ112は、3次元位置をセンサ情報集約部114に伝達しなくてよいとすることができる。
【0036】
また、3次元形状導出装置100では、かかる所定空間範囲142を特定する手段として、例えば、ブロードキャストによる手段やMAPによる手段を用いている。ブロードキャストによる手段では、センサ情報集約部114が、各所定空間範囲142に対し、所定空間範囲142内に位置センサ112が存在するか否かを問う情報を発信し、位置センサ112は、指定された所定空間範囲142内に自体が存在していれば、その旨、センサ情報集約部114に伝達する。3次元形状導出部130は、1の所定空間範囲142内に、所定の数以上の位置センサ112が存在していれば、その所定空間範囲142を位置センサ112が占有していると判定する。各位置センサ112の位置測定精度が高い場合には、所定の数として1を含めることができる。3次元形状導出部130は、位置センサ112が所定の数以上存在する所定空間範囲142の外周部(輪郭部分)を測定対象物102の内部形状であると判断する。
【0037】
また、MAPによる手段では、各位置センサ112が複数の所定空間範囲142を特定可能なMAPを有しており、自体が位置する所定空間範囲142にフラグが設定されているか否か判定し、フラグが設定されていなかったらフラグを設定して、その所定空間範囲142に自体が存在することを示す。そして、位置センサ112は、フラグの判定処理を終えたMAPを近傍の位置センサ112に伝達する。伝達された位置センサ112は、そのMAPを更新する。こうして、複数の位置センサ112を経由したMAPの各所定空間範囲142には、フラグが設定されているところと、フラグが設定されていないところが生じる。3次元形状導出部130は、かかるMAPを参照し、フラグが設定されていれば、その所定空間範囲142を位置センサ112が占有していると判定し、フラグが設定されていなければ、その所定空間範囲142は、測定対象物102そのものか測定対象物102外の空間であると判定する。3次元形状導出部130は、フラグが設定されている所定空間範囲142の外周部(輪郭部分)を測定対象物102の内部形状であると判断する。
【0038】
((3)境界に位置する位置センサを導出する処理)
また、図4(c)に示すように、複数の位置センサ112gは、近傍に存在する他の複数の位置センサ112の3次元位置に基づいて、自体が測定対象物102の境界に位置するか否かを判定し、測定対象物102の境界に位置する場合にのみ位置情報を発信することもできる。以下、位置センサ112の境界判定について詳述する。
【0039】
(境界であることの判定処理)
図5、図6、図7は、位置センサ112による境界判定を説明するための説明図である。上述したように、位置センサ112は、粒子状に形成され、測定対象物102の測定面近傍、例えば、曲がった管の内部や閉じた狭い空間の内部に詰め込まれた状態で流動自在に移動する。位置センサ112の大きさは任意であるが、小さければ小さいほど測定精度を高めることができる。ここでは大きさが数ミリ程度の位置センサ112を想定している。また、このとき、測定対象物102内に位置センサ112のみを詰め込まず、砂等の流動体を並設(混合)してもよい。位置センサ112は、図5(a)に示す測定対象物102の障害物150や障害壁152内に入り込むことはないが、その他の空隙154には均等に充填されることとなる。
【0040】
測定対象物102内の位置センサ112のみに着目すると、図5(b)に示すように、障害物150や障害壁152に相当する部分だけ位置センサ112が存在しないことになるので、測定対象物102内の障害物150や障害壁152に当接している位置センサ112は、障害物150や障害壁152の方向に他の位置センサ112の存在を検知できないこととなる。本実施形態では、この事象を利用して、位置センサ112が境界に位置するか否か判定する。
【0041】
境界の判定処理として、計算負荷の小さいものでは、所定範囲近傍(例えば2ホップ内)の位置センサ112の個数を計算する方法がある。例えば、図6(a)のように、位置センサ112が測定対象物102内で均等に配されている場合、空隙154に位置する位置センサ112hは近傍範囲160内に、例えば20個の他の位置センサ112を検知することができる。しかし、図6(b)のように、障害物150の境界に位置した位置センサ112iは検知できる位置センサ112が半減し、近傍範囲160内に、例えば12個の他の位置センサ112しか検知できないこととなる。このように、検知可能な他の位置センサ112の個数によって、位置センサ112の個数が、位置センサ112の密度に基づく所定閾値以下であれば、位置センサ112自体が測定対象物102の境界に位置していることを簡易的に把握することが可能となる。
【0042】
境界の他の判定処理として、図7に示すように、位置センサ112iは、位置センサ112iを対称点170とした所定範囲160内の他の複数の位置センサ112の重心位置172の点対称174と、位置センサ112とを結ぶ結線176を中心軸とした所定ステラジアン、例えば、(2−√2)πステラジアン内かつ所定範囲160内に他の位置センサ112がないとき、自体が測定対象物102の境界に位置すると判定する。
【0043】
これは、位置センサ112が測定対象物102の境界に位置している場合、位置センサ112が集中しているところと位置センサ112が無いところとが正対していることを利用したもので、位置センサ112が集中しているところの重心位置172の点対称174に位置センサ112が無いことをもって、その位置センサ112が境界に位置していると判定するものである。ここで、(2−√2)πステラジアンは、頂角90度の円錐の立体角を示す。また、頂角90度に限らず、測定対象物102内の障害物150の形状に応じて適宜角度を変更することができる。
【0044】
また、上述したように、所定の条件を満たした位置センサ112のみが位置情報を発信する場合において、ここでは、所定の条件を測定対象物102の境界に位置することとすることができ、位置センサ112は、近傍に存在する他の複数の位置センサ112の3次元位置に基づいて、自体が測定対象物102の境界に位置するか否かを判定し、測定対象物102の境界に位置する場合にのみ位置情報を発信することとする。
【0045】
かかる構成により、図5(c)の如く、測定対象物102の障害物150や障害壁152の境界に位置する、図5(c)中黒の塗り潰しで表した位置センサ112のみが位置情報をセンサ情報集約部114に伝達することとなるので、3次元形状導出装置100は、全ての位置センサ112の位置情報を抽出しないことで計算負荷の軽減を図ることができ、境界に位置する位置センサ112の位置情報のみによって、測定対象物102の障害物150や障害壁152の形状を正確に導出することが可能となる。
【0046】
(位置情報の平均化処理)
ところで、電場や電磁波に基づくとしても、磁場に基づくとしても、各センサ112で導出された3次元位置が十分な精度を有さない場合がある。そこで、本実施形態におけるセンサ112は、センサネットワーク中の他のセンサ112の3次元位置も利用して3次元位置の高精度化を図ることができる。例えば、図4(a)を用いて説明した(1)適当に代表位置センサを導出する場合において、任意のセンサ112が、グループ140とみなした近傍にある複数の他のセンサ112から3次元位置を取得し、取得した全てのセンサ112の3次元位置と自己が導出した3次元位置の平均値を求めて自己の3次元位置とする。このような平均化処理は、(2)所定空間範囲内で代表位置センサを導出する場合や、(3)境界に位置する位置センサを導出する場合にも適用できるのは言うまでもない。
【0047】
例えば、位置センサ112の直径が0.1mmであり、各位置センサ112の位置測定精度が1cmであったとする。すると、測定対象物102内における1mm×1mm×1mmの立方空間の中には1000個の位置センサ112が入っていることとなり、位置センサ112の位置測定値の平均値をとると、測定精度が1mm近く(2mm以下)まで高まる。
【0048】
また、3次元位置の高精度化手法は、かかる場合に限られず、例えば、位置センサ112毎に3次元位置の導出を繰り返し実行させ、複数回分の導出結果を平均化させてそれを位置センサ112の3次元位置とさせることでも3次元位置の高精度化を図ることができる。
【0049】
(3次元形状導出方法)
次に、図8のフローチャートに基づいて、3次元形状の導出方法を述べる。ここでは、測定対象物102に複数の位置センサ112が流動可能に詰め込まれている。まず、測定対象物102に詰め込まれた全ての位置センサ112は、信号供給源110から供給された信号に基づいて自体の3次元位置を導出する(S200)。そして、各位置センサ112の3次元位置導出部112eは、近傍の他の位置センサ112の3次元位置を取得し、その3次元位置を平均化し、他の位置センサ112の重心位置172を求める(S202)。
【0050】
そして、3次元位置導出部112eは、かかる重心位置172の、位置センサ112を対称点170とした点対称174と位置センサ112とを結ぶ結線176を求め、その結線176を中心軸とした(2−√2)πステラジアン内に他の位置センサ112が含まれるか否か判定する(S204)。他の位置センサ112が含まれている場合(S204におけるYES)、3次元位置導出部112eは、自体(位置センサ112)が測定対象物102の空隙154に位置すると判定し、位置センサ112における処理を終了する。また、他の位置センサ112が含まれていない場合(S204におけるNO)、自体が測定対象物102の境界に位置すると判定する。
【0051】
さらに、自体が測定対象物102の境界に位置すると判定した3次元位置導出部112eは、その近傍(例えば2ホップ内)にある、測定対象物102の境界に位置すると判定した位置センサ112から3次元位置を取得し(S206)、近傍にある全ての位置センサ112の3次元位置の平均値を求めて自己の3次元位置とする(S208)。このとき、位置センサ112は、その近傍の測定対象物102の境界に位置する位置センサ112群の代表位置センサとなり、3次元位置が参照された2ホップ内の位置センサ112は、3次元位置をセンサ情報集約部114に伝達しなくてよい。こうすることで、センサネットワーク内の情報伝達負荷や中央制御部118における計算負荷を軽減することが可能となる。
【0052】
このようにして代表位置センサとなった測定対象物102の境界に位置する位置センサ112の通信部112cは、自体の3次元位置を示す位置情報を発信し(S210)、センサ情報集約部114は、位置センサ112が発信した位置情報を受信し(S212)、3次元形状導出部130は、測定対象物102における複数の位置センサ112が存在する部分の3次元形状を、複数の位置センサ112の位置情報に基づいて導出する(S214)。複数の位置センサ112の3次元位置から3次元形状を導出するアルゴリズムは既存の様々な技術を利用することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0053】
以上、説明した3次元形状導出装置100によって、曲がった管の内部形状や閉じた狭い空間の内部形状等、複数台のカメラやレーザセンサ等の大掛かりな装置をもってしても測定困難であった外部から確認できない複雑な形状も、センサネットワークを用いて導出することが可能となる。また、3次元形状導出装置100では視覚センサを用いる必要がないので、測定対象物102が投光されていなくても、また、他の光源により、レーザ計測が機能しないような状況下においても、確実に3次元形状を導出することができる。したがって、ロボットによるピッキング処理や製品内部形状のリバースエンジニアリング等、様々な用途において、正確に3次元形状を把握することが可能となる。
【0054】
また、位置センサ112が、所定の条件を満たした場合にのみ、例えば、近傍に存在する他の複数の位置センサ112の3次元位置に基づいて、自体が測定対象物102の境界に位置するか否かを判定し、測定対象物102の境界に位置する場合にのみ位置情報を発信することで、センサネットワーク内の情報伝達負荷や中央制御部118における計算負荷を軽減することが可能となる。
【0055】
さらに、3次元形状導出装置100では、多数の位置センサ112を用いているので測定点数が多く、位置センサ112の幾つかが機能しなくなったとしても測定結果に支障を来すことがなく、ロバスト性を担保することができる。また、多数の位置センサ112を平均化することで高精度化を図ることが可能となる。
【0056】
また、コンピュータによって3次元形状導出装置100として機能するプログラムや、当該プログラムを記憶した記憶媒体も提供される。さらに、当該プログラムは、記憶媒体から読み取られてコンピュータに取り込まれてもよいし、通信ネットワークを介して伝送されてコンピュータに取り込まれてもよい。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、位置センサ112をそのままの状態で測定対象物102に詰め込む例を挙げているが、位置センサ112は空気中にある必要はなく、液体中や固体中でも動作可能である。したがって、測定対象物102の中に、位置センサ112を混ぜた液体を流し込んで測定する方法もありうる。また、プラスチックなどの形成時に位置センサ112を混ぜ込んでおくことで、自体の形状を測定できる材料を作ることもできる。
【0059】
また、上述した実施形態では、3次元位置を位置センサ112内で導出する構成を説明したが、位置センサ112が取得した信号供給源110から供給された信号をそのままセンサ情報集約部114に送信して、中央制御部118等、他の計算機で3次元位置を導出することもできる。
【0060】
また、高い測定精度を要さない場合、信号供給源110を省略して、位置センサ112同士の相対関係から3次元位置を導出することも可能である。
【0061】
なお、本明細書の3次元形状導出方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、センサネットワークを通じて3次元形状を導出する3次元形状導出装置および3次元形状導出方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
100 …3次元形状導出装置
102 …測定対象物
110 …信号供給源
112 …位置センサ
114 …センサ情報集約部
130 …3次元形状導出部
142 …所定空間範囲
170 …対称点
172 …重心位置
174 …点対称
176 …結線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自体の3次元位置またはそれに相当する物理量を示す位置情報を発信する流動自在な複数の位置センサと、
前記複数の位置センサが発信した位置情報を受信するセンサ情報集約部と、
測定対象物における前記複数の位置センサが存在する部分の3次元形状を、該複数の位置センサの位置情報に基づいて導出する3次元形状導出部と、
を備えることを特徴とする3次元形状導出装置。
【請求項2】
3次元位置を異にして複数配置された信号供給源をさらに備え、
前記複数の位置センサは、前記信号供給源から供給された信号に基づき該信号供給源との距離または該信号供給源の方向を算出することで自体の3次元位置を導出することを特徴とする請求項1に記載の3次元形状導出装置。
【請求項3】
前記複数の位置センサは、所定の条件を満たした場合にのみ位置情報を発信することを特徴とする請求項1または2に記載の3次元形状導出装置。
【請求項4】
前記所定の条件は所定空間範囲内で唯一の代表位置センサとなることであり、
前記位置センサは、自体が前記代表位置センサとなった場合にのみ位置情報を発信することを特徴とする請求項3に記載の3次元形状導出装置。
【請求項5】
前記所定の条件は前記測定対象物の境界に位置することであり、
前記位置センサは、近傍に存在する他の複数の位置センサの3次元位置に基づいて、自体が前記測定対象物の境界に位置するか否かを判定し、該測定対象物の境界に位置する場合にのみ位置情報を発信することを特徴とする請求項3に記載の3次元形状導出装置。
【請求項6】
前記位置センサは、所定範囲内に存在する他の位置センサの個数が、該位置センサの密度に基づく所定閾値以下であれば、自体が前記測定対象物の境界に位置すると判定することを特徴とする請求項5に記載の3次元形状導出装置。
【請求項7】
前記位置センサは、前記位置センサを対称点とした他の複数の位置センサの重心位置の点対称と前記位置センサとを結ぶ結線を中心軸とした所定ステラジアン内かつ所定範囲内に他の位置センサがないとき、自体が前記測定対象物の境界に位置すると判定することを特徴とする請求項5に記載の3次元形状導出装置。
【請求項8】
測定対象物に流動可能に配された複数の位置センサと、該複数の位置センサと通信可能なセンサ情報集約部とを備える3次元形状導出装置を用いて該測定対象物の3次元形状を導出する3次元形状導出方法であって、
前記複数の位置センサは、自体の3次元位置またはそれに相当する物理量を示す位置情報を発信し、
前記センサ情報集約部は、前記複数の位置センサが発信した位置情報を受信し、
前記測定対象物における前記複数の位置センサが存在する部分の3次元形状を、該複数の位置センサの位置情報に基づいて導出することを特徴とする3次元形状導出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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