3次元投影法および3次元図形表示装置
【課題】3次元的表示画像上において物標の方位と距離の把握を容易にし、自船近傍を含めた視認性の高い表示を可能とし、投影のための計算量を削減する。
【解決手段】原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCに仮想の投影用領域PAを設定し、扇型の表示対象領域OAを投影用領域PAに投影する。視点Vには、鉛直線上の基準位置QCからオフセットをもたせ、視点Vから投影用領域PAを通して表示対象領域OAを見たときの視線が前記鉛直線を通るように視点Vを円弧状に移動させる。
【解決手段】原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCに仮想の投影用領域PAを設定し、扇型の表示対象領域OAを投影用領域PAに投影する。視点Vには、鉛直線上の基準位置QCからオフセットをもたせ、視点Vから投影用領域PAを通して表示対象領域OAを見たときの視線が前記鉛直線を通るように視点Vを円弧状に移動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地図を斜め方向から見下ろしたような視覚効果を与える表示を行うための3次元投影法およびそれを適用した3次元図形表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばナビゲーションシステムのような地図を表示するシステムにおいて、近年のコンピュータの処理能力の向上にともない、地図や風景を鳥瞰図的に表示するようにしたものが多くみられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
それらは、基本的にカメラで写したような画像を表示することを前提にしていて、仮想的な現実感を確保する意味で利便性をもっている。このカメラで写したような画像を得る操作を以下「カメラ的投影法」という。このカメラ的投影法は、視点を定め、一定の開口角を有する矩形平面の投影用領域(開口:アパーチャ)を中心視線に対して垂直に配置し、表示対象領域の各点を前記投影用領域に投影(その矩形領域に対応する表示用メモリにプロット)し、これを表示装置で表示するという方法である。
【0004】
図1・図2は特許文献1に示されている鳥瞰図表示のための座標変換の例を示している。図1は、台形状の表示対象領域と画像表示装置画面(投影用領域)との関係を示す斜視図である。また図2は、図1におけるz軸とy軸を含む平面での断面図である。画像表示装置画面(投影用領域)は、高さhの視点から表示対象領域を見た俯角の中央である中心視線に対して垂直な矩形平面である。
【特許文献1】特開平7−220055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ナビゲーション機器などにおいて地図を表示する場合には、前記カメラ的投影法を用いることは以下に述べる点で不都合であった。
【0006】
第1に、方位や距離が明確でないことが挙げられる。
特定の方位に存在する障害物や方位線は3次元的表示画像上においても視覚的に瞭然と把握できることが重要である。しかし従来のカメラ的投影法では画面の中央(正面)方向と画面の左右端方向とでは距離感が異なる。このことに関連して、特定方位についてのターゲットは一直線に並んで表示(投影)されはするが、等方位線などの補助線無しではどのような方位角に位置するのか判然としない。また、複数の物標がほぼ同じ方位で別の距離に位置するような場合に、それらの相対的な方位関係が直感的には把握しにくい。このことは距離についても同様である。例えば2つの物標がほぼ同じ距離で別方位に表示されるような場合に、等距離線などの補助線無しでは、どちらの物標が遠いのか近いのかが判然としない。
【0007】
第2に、視点近傍(足下[あしもと])を含めた表示に不便さがあることである。
3次元的表示においては、視点が一定の高さにあることが前提である。その視点から俯瞰する形で、近傍と遠方の両方をカメラ撮影のように矩形領域(2次元画面)に投影することで3次元的表現を得るわけであるが、限られた矩形領域へ投影するので、表示画面の表示範囲に足下を含めると一般的に中距離域から遠距離域にかけての画像が、表示画面上の上部に「圧縮」されて表現されてしまう。すなわち、表示画面の大半が足下の画像で占められることになる。あるいは、投影用領域の採り方によっては近傍のみの表示になってしまう。人間やTVカメラの場合には、足下を見るときは遠方を見るのをあきらめ、俯角を変える(パンする)ことで遠方をみる習性があるので不都合は感じないが、固定的な投影条件が多い3次元的表示の場合には、足下を表現することを事実上捨てなければ良好な画像が得られないことになる。しかし、例えば航海機器の表示装置においては、足下すなわち自船近傍をオミットして中距離域以遠だけを表示するという固定的な投影は安全の観点から採ることのできない選択である。
【0008】
第3に、画像を作成するための計算量の問題である。
従来のカメラ的投影法で3次元的表示を行う方法は、表示対象領域の3次元位置情報と色などの表示属性とともに静的に内蔵している地理的情報データベースを逐一スキャンし、それらが投影用領域のどこに投影されるかを計算し、その投影用領域と等価な描画用メモリへ計算結果をプロットしていくというものであった。そして、この表示対象領域と投影用領域との関係は、座標的にも図形的にも「平行」ではなく、一次変換の投影計算を行うものであった。
【0009】
つまり、オブジェクトの位置が決まって、表示属性を得て、投影用領域にヒットすることがわかったとき、その投影用領域のx方向、y方向それぞれについて、元のオブジェクトの位置情報(少なくとも2つの変数)による1次変換とスケーリング計算(通常割り算)が必要である。
【0010】
すなわち、表示対象領域の各点毎に実数マトリクス演算が必要であるので、全体としては大きな計算負荷となる。
【0011】
そこで、本発明は前記各課題を解消して、3次元的表示画像上において物標の方位と距離の把握を容易にし、視点近傍を含めた視認性の高い表示を可能とし、投影のための計算量を削減した3次元投影法および3次元図形表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、この発明の3次元投影法および3次元図形表示装置は、次のように構成する。
【0013】
(1)3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とする回転面上に、表示対象領域の3次元情報を投影するデータプロットステップと、
前記投影データを、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、を含んで3次元投影を行う。
【0014】
(2)前記データプロットステップは、例えば、前記鉛直線上の所定高さにある視点から、前記回転面上に前記3次元情報を投影するものとする。
【0015】
(3)前記データプロットステップは、例えば、前記鉛直線に対して垂直且つ所定高さで交わる平面上で、該平面と前記鉛直線との交点を中心とした円弧上に視点を設け、前記回転面へ投影する表示対象領域の方位に応じて、前記視点を前記円弧に沿って移動させるものとする。
【0016】
(4)3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線上の所定高さにある視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系の画像として表示するデータ表示ステップと、によって3次元投影を行う。
【0017】
(5)3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線を通り且つ該鉛直線に対して垂直に交差する平面上で、当該平面と前記鉛直線との交点を中心とする円弧上に位置する視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系の画像として表示するデータ表示ステップと、によって3次元投影を行う。
【0018】
(6)前記回転面は、前記3次元上の所定位置にある鉛直線を中心とする例えば逆円錐面とする。
【0019】
(7)前記データプロットステップは、例えば前記表示対象領域の距離方向を向く直線上の各点と前記投影用領域の距離方向(表示画面上での縦方向)を向く直線上の各点との対応関係を表すパラメータによって、前記投影用領域上の点のデータを求めるものとする。
【0020】
(8)地理的情報のデータベースから前記表示対象領域の距離方向と方位方向を座標とするオブジェクトを抽出するオブジェクト抽出ステップを備え、前記データプロットステップは、前記オブジェクトを距離方向と方位方向に走査するものとする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、表示対象領域のデータを投影する投影用領域が、3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線上の所定高さにある視点から見た方位方向および距離方向(この「方向」を、視点から見下ろす角度変化の方向と捕らえると、「俯角方向」と言うこともできる。)にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域であり、投影用領域上の各点のデータである描画用メモリのデータを、方位方向を一方の軸、距離方向を他方の軸とする直交座標系の画像として表示することができる。そのため、表示画面に等方位線を描くとすれば、その等方位線は表示画面の縦方向を向いて等間隔に平行に並ぶことになる。また、表示画面に等距離線を描くとすれば、その等距離線は表示画面の横方向を向いて平行に並ぶことになる。したがって、物標の方位と距離の把握が容易となる。
【0022】
また、従来のカメラ的投影法では、画面の各ピクセル(画面幅wドット、画面高さhドットの場合w×h)について三角関数の演算による座標変換(回転操作)を行う必要があるが、この発明では、投影用領域の方位方向への投影位置を求める計算自体が簡易であり、投影用領域の距離方向のどの位置でも表示対象領域の方位が一定であるので、演算回数も従来のカメラ的投影法に比べて1/hで済む。全体で見た場合には、距離方向の計算量は従来どおり同じで、方位方向の計算量は1/hに減少する。そのため、全体の計算量は、従来が「縦方向の計算」+「横方向の計算」に対して、本発明は「縦(距離)方向の計算」+「横(方位)方向の計算/h」になり、約半分になる。
【0023】
また、この発明によれば、表示対象領域の距離方向を向く直線上の各点と投影用領域の距離方向を向く直線上の各点との対応関係を表すパラメータ(距離方向のマッピングパラメータ)によって、前記投影用領域上の点のデータを求め、このパラメータの設定によって近距離域から遠距離域にかけて視認性の高い表示が可能となる。
【0024】
また、この発明によれば、地理的情報のデータベースから表示対象領域の距離方向と方位方向を座標とするオブジェクトを予め抽出し、そのオブジェクトを距離方向と方位方向に走査することによって、表示対象領域の各点を投影用領域の各点へ投影すれば、表示対象領域の距離方向に並ぶ各点を投影用領域の距離方向に並ぶ各点へ容易に投影できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
《第1の実施形態》
この発明の第1の実施形態に係る3次元投影法について図3を参照して説明する。
図3は、表示対象領域、投影用領域、視点、視線等の関係を示す図である。図3(A)において、3次元上の原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCを考え、前記鉛直線上の所定高さにある視点Vから表示対象領域OAを見たとき、その視線が逆円錐面RCと交わる点が存在する領域が投影用領域PAである。
【0026】
ここで、表示対象領域OAは原点Oを通る一定角度開いた2つの直線上の線分L1−L2,R1−R2と、この2つの線分を円弧でつないだ扇状台形を成している。これに対応して投影用領域PAは、原点Oを通る所定角度開いた2つの直線上の線分PL1−PL2,PR1−PR2、およびこの2つの線分を略楕円弧でつないだ略扇状台形を成している。なお直線V−Cは、視点Vから表示対象領域OAの中央地点Cを見たときの視線である。この中央地点Cは、方位方向については2つの線分L1−L2,R1−Rが成す角度の中央であり、距離方向については所定の条件で定めたものである。
【0027】
図3(A)において投影用領域PAの縦方向(原点Oを通る直線方向)は本来「俯角方向」と言うことができるが、この方向は表示対象領域OAの距離方向に対応するので、前記投影用領域PAの縦方向(原点Oを通る直線方向)を「距離方向」と言う。また投影用領域PAの略楕円弧方向は方位方向であり、表示対象領域OAの方位方向に対応している。
【0028】
図3(A)に示した投影用領域PAおよび視点Vの決定は、例えば次のようにして行う。
まず原点O(自船の位置)の座標(0,0,0)、視点V(0,0,Z)を決定する。
【0029】
次に、表示対象領域OAの基準位置である中央地点C(X,Y,0)を決定する。この基準位置Cは表示対象領域OAの中心、重心、線分R1−R2の中心、L1−L2の中心等任意に設定できる。
【0030】
次に、原点OからV−Cを結ぶ直線に対して垂直に交わる直線O−Pを引く。この直線O−Pを、原点Oを通る鉛直線を中心として回転させることにより、図3(A)に示した逆円錐面RCが形成される。
【0031】
図3(B)は、(A)に示した投影用領域PAを平面に展開した平面図である。このように展開した状態の投影用領域PA′では、距離方向の直線は放射状に配置されることになる。
【0032】
図3(C)は、(B)に示した投影用領域に仮想的に投影した画像を表示する表示画面の平面図である。表示画面PA″の各画素が描画用メモリの各画素に相当する。その四隅の点は、図3(A)に示した投影用領域PAの四隅PL1,PL2,PR1,PR2にそれぞれ対応している。線分PL1−PL2と線分PR1−PR2は平行であり、線分PL1−PR1、PL2−PR2も平行である。図における縦軸が距離方向、横軸が方位方向であり、両者は直交している。そのため、表示画面に等方位線を描くとすれば、図3(C)の実線ALのように等方位線は表示画面の縦方向を向いて平行に並ぶことになる。また、表示画面に等距離線を描くとすれば、図3(C)の破線DLのように等距離線は表示画面の横方向を向いて平行に並ぶことになる。
【0033】
また、図3(A)に示したように、視点Vは原点Oを通る鉛直線上にあり、投影用領域PAは原点Oを頂点とする逆円錐面上にある。このような投影用領域PAで、視点Vから投影用領域PAの方位方向に視線を移動させると、方位方向の角度変化と投影用領域PAの横方向の移動距離とは比例関係になる。そのため、等方位線を一定方位角で描くとすれば、図3(C)の実線ALのように等間隔に並ぶことになる。
図4〜図6はこの発明の3次元投影法による表示例について示している。図4(A)は図3(C)に示したものと同様の、投影用領域に仮想的に投影した画像の表示画面上への表示例であり、表示画面の下辺が視点となる。これに対して図4(B)は従来のカメラ的投影法による表示画面の例である。カメラ的投影法では、視点が表示画面の下辺中央の1点となり、等方位線を表示すれば、図中実線で示すように、視点から放射状に延びる直線として表示される。また、等方位線を表示すれば、前記視点を中心とする同心楕円状の曲線として表示される。
【0034】
図5は、物標が存在する表示対象領域を含む平面図であり、図5(A)では原点O(自船位置)を中心とする極座標グリッド状の補助線を表している。また図5(B)では船首方向に平行な直線と、それに直交する右舷−左舷方向に平行な直線とによる方眼グリッド状の補助線を表している。ここで、自船から物標S22までの距離は500m、例としてピラミッド状に表した各物標の高さは100mである。
【0035】
図6は、図5に示した物標を、原点Oを通る鉛直線上の視点から見た3次元投影による表示画像の例を示している。図6(A)はこの発明の3次元投影法による表示例、図6(B)は従来のカメラ的投影法による表示例である。いずれも白線は図5(A)に示した極座標グリッド状の補助線である。ここで、視点の高度は500mであり、表示画面の下辺が自船位置(真下)である。
【0036】
この発明の3次元投影法によれば、図6(A)に示すように、前記極座標グリッド状補助線の放射方向に延びる直線が表示画面の縦方向に並ぶ等方位線として表示される。(この図では、前記補助線を敢えて太く描いているので、等方位線は近距離ほど太く表示している。)また、前記極座標グリッド状補助線の円周方向に延びる円弧線が表示画面の水平方向に平行に並ぶ等距離線として表示される。
【0037】
これに対し、従来のカメラ的投影法では、図6(B)のように、視点が表示画面の下辺中央の1点となり、前記極座標グリッド状補助線の放射方向に延びる直線が、視点から放射状に延びる等方位線として表示される。また、前記極座標グリッド状補助線の円周方向に延びる円弧線が、前記視点を中心とする同心楕円弧状の曲線として表示される。
【0038】
物標S11、S12、S13は、図5(B)に示したように原点Oから見て同一方位にある。同様に物標S21、S22、S23も原点Oから見て同一方位にあり、物標S31、S32、S33も原点Oから見て同一方位にある。したがって従来のカメラ的投影法では、図6(B)に示したように、これらの物標は視点から放射状に並ぶため、補助線無しではこれらの物標の方位関係を把握することは困難であった。これに対してこの発明の3次元投影法によれば、図6(A)に示したように、これらの物標が表示画面の縦方向に並んで表示されるので、複数の物標の方位関係が容易に把握できる。
【0039】
このようにして表示対象領域の画像が直交座標系の画像として表示される際、立体的な画像の構成を保ちつつ、方位と距離が瞭然とし、物標の方位と距離の把握が容易となる。また、この3次元投影法では、逆円錐表面の曲率が十分小さければカメラ的投影法と同等の3次元的画像表現の感覚を失うことなく、それでいて方位線は表示画面の縦方向を向く。方位を把握し易いということは、航行する上で航路上の障害物がどの方角にあるか、複数の物標が相対的にどういう方位にあるかいった情報を読み取り易いという点で重要な意味を持つ。同様に、距離についても表示画面の縦方向に同じ高さにある物標は、等距離にあることが約束されるので距離比較が簡単に行える。
【0040】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態に係る3次元投影法について図7〜図9を参照して説明する。
図7は、表示対象領域、投影用領域、視点、視線等の関係を示す図である。
【0041】
第1の実施形態では、原点Oを通る鉛直線上に視点Vを配置したが、この第2の実施形態では、原点Oを通る鉛直線上の所定位置から表示対象領域を見る視線を考えたとき、その視線から所定オフセット分だけ後方に視点Vを配置するものである。但し、視点Vは1点ではなく、視点Vから表示対象領域OAを見る視線が、前記鉛直線上を必ず通るように、前記視点Vを移動させる。したがって、視点Vは前記鉛直線に対して垂直且つ所定高さで交わる平面上で、該平面と前記鉛直線との交点を中心とした円弧に沿って移動することになる。
【0042】
例えば、視点Vから見て表示対象領域OAの左後方(左遠方)の点L2への視線はV−Q2−L2の直線である。また、右後方の点R2を見る視線はV−Q2−R2の直線である。同様に、視点Vから見て表示対象領域OAの左手前の点L1を見る視線はV−Q1−L1の直線であり、視点Vから見て表示対象領域OAの右手前の点R1を見る視線はV−Q1−R1の直線である。また、表示対象領域OAの中央地点Cを見る視線はV−QC−Cの直線である。
【0043】
次に、図7に示した投影用領域PAおよび視点Vの決定方法について図8を基に説明する。
まず図8(A)に示すように、原点O(自船の位置)の座標(0,0,0)、基準視点QC(0,0,Z)を決定する。
【0044】
次に図8(B)に示すように表示対象領域OAの基準位置である中央地点C(X,Y,0)を決定する。この基準位置Cは表示対象領域OAの中心、重心、線分R1−R2の中心、L1−L2の中心等任意に設定できる。
【0045】
次に図8(C)に示すように、原点OからQC−Cを結ぶ直線に対して垂直に交わる直線O−Pを引く。この直線O−Pを、原点Oを通る鉛直線を中心として回転させることにより、図7に示した逆円錐面RCが形成される。
【0046】
次に図8(D)に示すように、視点Vを基準視点QCからオフセットをもたせた位置とする。すなわちC−QCを結ぶ直線の延長線上にある点を視点Vとする。このオフセット量(QC−Vの距離)を調整することにより、表示対象領域OAの遠近感(パースペクティブ)が変化する。基準視点QCから見た場合、前記逆円錐面上の投影領域は、逆円錐の母線の図中太線で示す部分O−Tとなり、表示対象領域の近距離域O−Cの投影領域に比べて表示対象領域の遠距離域C−Sの投影領域が小さくなる。これは、遠距離域の画像が画面上部に圧縮されて表示されることを意味する。
【0047】
一方、前記オフセットをもたせた視点Vから見ると、逆円錐面上の投影用領域は、逆円錐の母線O−Uとなり、表示対象領域の近距離域O−Cの投影領域に対する遠距離域C−Sの投影領域が広がる。そのため、前記オフセットをもたせ、そのオフセット量を適当に定めことにより、遠距離域が圧縮されて表示されるという問題が解消できる。
【0048】
図9は、図5に示した表示対象領域を3次元図形表示する際に、視点の位置にオフセットをもたせた例である。ここで、視点Vの高度は500m、オフセット量は1000m、表示画面の下辺が自船位置である。図6に示した例では、自船近傍が距離方向に拡大され、遠方が距離方向に圧縮されて表示される傾向があるが、このようにオフセットをもたせることによって、表示画面の下方(近距離域)から表示画面の上方(遠距離域)にかけて、距離方向の圧縮・拡大の差が顕著に表れず、近距離域も遠距離域も把握しやすくなる。
【0049】
すなわち、オフセットがない図3のような視点では、遠方と自船近傍の両方を見るために投影用領域を広げ、且つ俯角を下げる必要があるが、それによる表示画面の表示内容には自船近傍の情報が多く占めることになる。これに対してオフセットを設けて視点を後方にずらせることによって、遠方の情報をより精細に大きく表現し、自船近傍は比較的圧縮して表示される。
【0050】
前方を含めた一定の視野角を表示する際に、自船近傍を表示範囲に含めない方式は航行上安全な情報表示方式とはいえない。したがって、どうしても近傍は表示範囲に含めたいという事情はあるけれども、遠方を含む広範囲に亘って表示したいという要求がある。このような事情を勘案すれば、この視点位置にオフセットをもたせる方式の優位性は明らかである。
【0051】
《第3の実施形態》
次に、第3の実施形態に係る3次元投影法について図10・図11を参照して説明する。
第1・第2の実施形態では投影用領域PAが逆円錐面をなすように設定したが、投影用領域は、原点Oを通る鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面であればよく、必ずしも逆円錐面でなくてもよい。図10は原点Oを通る鉛直線を含む断面図である。図10においてRC1は第1・第2の実施形態で示した逆円錐面であり、図10では直線の母線として現れている。RC2,RC3は、いずれも原点Oを通る鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面であるが、非逆円錐面である。これらも図10では曲線の母線として現れている。
【0052】
この例では、原点Oを通る直線上の視点Vから表示対象領域OAを見るとき、仰角範囲はDa1〜Da2、表示対象領域OAの距離範囲はL1〜L2である。したがって、PA1は逆円錐面RC1の一部である投影用領域、PA2,PA3は回転面RC2,RC3の一部である投影用領域である。
【0053】
図11は前記投影用領域PA1、PA2、PA3の形状に応じて表示画面の縦軸方向の距離変化がどのように変化するかを示す図である。図11(A)は横軸に前記俯角をとり、縦軸に表示画面の縦軸をとったものである。曲線DY1は投影用領域PA1による特性、曲線DY2は投影用領域PA2による特性、曲線DY3は投影用領域PA3による特性をそれぞれ表している。また図11(B)は横軸に表示対象領域OAの原点Oからの距離、縦軸に表示画面の縦軸をとったものである。ここで曲線LY1は投影用領域PA1による特性、LY2は投影用領域PA2による特性、LY3は投影用領域PA3による特性をそれぞれ表している。
【0054】
このように投影用領域の曲面形状によって表示画面の縦軸のスケールが変化する。この例では逆円錐面の投影用領域PA1を用いた場合に表示画面の上方に遠距離域の画像が圧縮されて表示されるが、投影用領域PA3を用いれば近距離域から遠距離域にかけて比較的リニアに表示されることになる。
【0055】
図10に示した投影用領域PA1、PA2、PA3等はいずれも仮想的な曲面である。この投影用領域の形状を変えることによって表示画面の縦軸のスケールが変化する、という考えを更に進めると、前記投影領域をどのような形状にするかという問題は、表示対象領域OAの距離方向の各点を投影用領域の距離方向の直線上(母線上)へどのようにマッピングするかという問題と等価であることが分かる。すなわち、表示画面の縦軸のスケーリングは、一般化すれば、所定の単調増加関数を用いて前記マッピングを非線形に行うことに相当する。このマッピングに用いる単調増加関数の設定によって、視点Vにオフセットをもたせるとともに、そのオフセット量を調節することと同等の操作も行える。したがって、視点Vの位置にオフセットをもたせるか、オフセット量は0にしたまま表示対象領域の距離方向から投影用領域の距離方向へのマッピングに非線形の関数を利用するかは計算量の少ない方を採ればよい。
【0056】
《第4の実施形態》
次に、第4の実施形態に係る3次元投影法について図12・図13を参照して説明する。
図12は投影用領域と表示画面との関係を示す図である。図12(A)において、3次元上の原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCの所定領域が投影用領域PAである。この投影用領域PAをどのように定めるかについては第1〜第3の実施形態の場合と同様である。図12(B)は表示画面の形状を示している。表示画面PA″は円筒面内部から見える面の一部を成している。
【0057】
図12(A)に示した仮想的な投影用領域PAにプロットすることによって得られる描画用メモリの内容を表示する際、投影用領域PAの距離方向を表示画面PA″の縦方向(母線方向)に対応させ、且つ投影用領域PAの方位方向を表示画面PA″の円筒面の中心から見た方位に対応させて、表示画面PA″の表示を行う。
【0058】
図13は投影用領域と表示画面との関係を示す図である。図13(A)において、3次元上の原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCの所定領域が投影用領域PAである。図12に示した例では、この投影用領域PAの方位方向の幅が360度未満であったが、この図13に示す例は、投影用領域PAの方位方向の幅を360度全周にしたものである。図13(B)は表示画面の形状を示している。表示画面PA″は円筒面を成し、その内面の全周に表示する。したがって、この表示画面PA″には、自船の全周囲の3次元図形を表示することができる。なお、円筒面の外周面を表示画面PA″としてもよい。
【0059】
《第5の実施形態》
次に、この発明の実施形態に係る3次元図形表示装置について図14・図15を参照して説明する。
図14は、表示対象領域のデータを基に表示画面に3次元図形を表示するための処理について示すフローチャートである。まず表示対象領域が決定されると、その表示対象領域に対応する地理的データベースを選択し、その地理的データベースから、原点Oを中心とする極座標形式の各点のデータ(オブジェクト)を方位毎に生成する。この処理が本発明に係る「オブジェクト抽出ステップ」に相当する。
【0060】
次に、前記方位毎の地理的データのそれぞれにつき、各点が投影用領域のどの点に写像されるかを、視点の位置および投影用領域のパラメータに基づいて計算し、投影用領域に相当する描画用メモリへプロットする。
【0061】
この描画用メモリへのプロットを距離毎および方位毎に繰り返す。この処理が本発明に係る「データプロットステップ」に相当する。
【0062】
その後、前記描画用メモリの内容を、方位方向を一方の軸、距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示することによって3次元図形表示を行う。この表示の処理が本発明に係る「データ表示ステップ」に相当する。
【0063】
ここで、従来のカメラ的投影法による計算量と、この発明の3次元投影法による計算量との比較を行う。
図15は視点および表示対象領域を含む範囲の平面図である。ここで視線方位をθ、物標方位をφ、水平視野角をα、表示画面幅wの中心位置からの横方向ドット位置をgxとする。
【0064】
従来のカメラ的投影法では次の[数1]の演算によって座標の回転を行った後に、[数2]の演算によってgxを求めることになる。
【0065】
【数1】
【0066】
【数2】
【0067】
これに対してこの発明の3次元投影法によれば、次の[数3]の演算によってgxを求めることができるので、従来のカメラ的投影法に必要な座標回転のための演算が不要である。
【0068】
【数3】
【0069】
すなわち角度の比をとるだけで画面幅wの中心位置からの横方向ドット位置の割合gx/(w/2)を求めることができる。
【0070】
すなわち、従来のカメラ的投影法では、画面の各ピクセル(画面幅wドット、画面高さhドットの場合w×h)について三角関数の演算による座標変換を行う必要があるが、この発明では、投影用領域の方位方向への投影位置を求める計算自体が簡易であり、投影用領域の距離方向のどの位置でも表示対象領域の方位が一定であるので、演算回数も従来のカメラ的投影法に比べて1/hで済む。全体で見た場合には、距離方向の計算量は従来と同じで、方位方向の計算量は1/hに減少する。そのため、全体の計算量は、従来が「縦方向の計算」+「横方向の計算」に対して、本発明は「縦(距離)方向の計算」+「横(方位)方向の計算/h」になり、約半分になる。
【0071】
なお、以上の説明では表示対象領域が2次元平面であるように説明したが、表示対象領域の図形が3次元の情報である場合でも同様である。
【0072】
図16は3次元図形表示装置の構成を示すブロック図である。ここで外部航法センサ1は自船の位置や速度、船首方位等をリアルタイムで検出する装置である。入力装置2はキーボードやポインティングデバイスであり、視点位置、中心視線、表示対象領域の広さを変更する操作等を行うために用いる。データ処理装置8は、CPU、そのCPUが実行するプログラムをストアするメモリ、前記外部航法センサ1および入力装置2とのインタフェースを備えている。
【0073】
航法データ3は航法データ(自船の動的な情報と静的な情報)を記録(記憶)する部分である。投影パラメータ4は視点の位置や俯角、視線方向等のパラメータを記憶しているデータ群である。地理的情報5は地図のデータベースであり、典型的には3次元または2次元の地図情報である。この地理的情報はデータ処理装置8の外部に独立した記憶媒体に記録しておいてもよい。
【0074】
演算処理部6は、前記航法データ3、投影パラメータ4、地理的情報5を利用して前述の3次元投影および描画データの生成を行う。その描画データは表示装置7の2次元表示装置に出力し、リアルタイムにまたは静的にそれを表示する。
【0075】
なお、以上の各実施形態では、船舶に搭載する航海機器に適用した例を示したが、この発明は表示対象領域の3次元情報を、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示する機器に適用するものである。したがって、この発明は船舶に搭載する航海機器に限られるものではなく、例えばカーナビゲーション機器にも同様に適用できる。また、例えば地理的情報データベースの内容を、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示する装置に同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】従来のカメラ的投影法による鳥瞰図表示のための座標変換の例を示す図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、視点、表示対象領域、および投影用領域の関係等を示す斜視図および平面図である。
【図4】表示画面の例を示す図であり、(A)はこの発明による例、(B)は従来の方法による例である。
【図5】表示対象領域の平面図である。
【図6】表示画面の例を示す図であり、(A)はこの発明による例、(B)は従来の方法による例である。
【図7】第2の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、視点、表示対象領域、および投影用領域の関係等を示す斜視図である。
【図8】表示対象領域、視点、および投影用領域の決定方法について示す図である。
【図9】オフセットをもたせた場合の表示画面の例を示す図であり、(A)はこの発明による例、(B)は従来の方法による例である。
【図10】第3の実施形態に係る3次元投影法における投影用領域の形状を示す図である。
【図11】図10に示した各投影用領域での俯角対表示画面の縦軸との関係および距離対表示画面の縦軸との関係を示す図である。
【図12】第4の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、投影用領域と表示画面との関係を示す図である。
【図13】第4の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、別の投影用領域と表示画面との関係を示す図である。
【図14】第5の実施形態に係る3次元図形表示装置の描画変換処理の手順を示すフローチャートである。
【図15】3次元投影に必要な計算量を説明するための図である。
【図16】3次元図形表示装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0077】
OA−表示対象領域
PA−投影用領域
RC−逆円錐面
V−視点
O−原点
【技術分野】
【0001】
この発明は地図を斜め方向から見下ろしたような視覚効果を与える表示を行うための3次元投影法およびそれを適用した3次元図形表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばナビゲーションシステムのような地図を表示するシステムにおいて、近年のコンピュータの処理能力の向上にともない、地図や風景を鳥瞰図的に表示するようにしたものが多くみられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
それらは、基本的にカメラで写したような画像を表示することを前提にしていて、仮想的な現実感を確保する意味で利便性をもっている。このカメラで写したような画像を得る操作を以下「カメラ的投影法」という。このカメラ的投影法は、視点を定め、一定の開口角を有する矩形平面の投影用領域(開口:アパーチャ)を中心視線に対して垂直に配置し、表示対象領域の各点を前記投影用領域に投影(その矩形領域に対応する表示用メモリにプロット)し、これを表示装置で表示するという方法である。
【0004】
図1・図2は特許文献1に示されている鳥瞰図表示のための座標変換の例を示している。図1は、台形状の表示対象領域と画像表示装置画面(投影用領域)との関係を示す斜視図である。また図2は、図1におけるz軸とy軸を含む平面での断面図である。画像表示装置画面(投影用領域)は、高さhの視点から表示対象領域を見た俯角の中央である中心視線に対して垂直な矩形平面である。
【特許文献1】特開平7−220055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ナビゲーション機器などにおいて地図を表示する場合には、前記カメラ的投影法を用いることは以下に述べる点で不都合であった。
【0006】
第1に、方位や距離が明確でないことが挙げられる。
特定の方位に存在する障害物や方位線は3次元的表示画像上においても視覚的に瞭然と把握できることが重要である。しかし従来のカメラ的投影法では画面の中央(正面)方向と画面の左右端方向とでは距離感が異なる。このことに関連して、特定方位についてのターゲットは一直線に並んで表示(投影)されはするが、等方位線などの補助線無しではどのような方位角に位置するのか判然としない。また、複数の物標がほぼ同じ方位で別の距離に位置するような場合に、それらの相対的な方位関係が直感的には把握しにくい。このことは距離についても同様である。例えば2つの物標がほぼ同じ距離で別方位に表示されるような場合に、等距離線などの補助線無しでは、どちらの物標が遠いのか近いのかが判然としない。
【0007】
第2に、視点近傍(足下[あしもと])を含めた表示に不便さがあることである。
3次元的表示においては、視点が一定の高さにあることが前提である。その視点から俯瞰する形で、近傍と遠方の両方をカメラ撮影のように矩形領域(2次元画面)に投影することで3次元的表現を得るわけであるが、限られた矩形領域へ投影するので、表示画面の表示範囲に足下を含めると一般的に中距離域から遠距離域にかけての画像が、表示画面上の上部に「圧縮」されて表現されてしまう。すなわち、表示画面の大半が足下の画像で占められることになる。あるいは、投影用領域の採り方によっては近傍のみの表示になってしまう。人間やTVカメラの場合には、足下を見るときは遠方を見るのをあきらめ、俯角を変える(パンする)ことで遠方をみる習性があるので不都合は感じないが、固定的な投影条件が多い3次元的表示の場合には、足下を表現することを事実上捨てなければ良好な画像が得られないことになる。しかし、例えば航海機器の表示装置においては、足下すなわち自船近傍をオミットして中距離域以遠だけを表示するという固定的な投影は安全の観点から採ることのできない選択である。
【0008】
第3に、画像を作成するための計算量の問題である。
従来のカメラ的投影法で3次元的表示を行う方法は、表示対象領域の3次元位置情報と色などの表示属性とともに静的に内蔵している地理的情報データベースを逐一スキャンし、それらが投影用領域のどこに投影されるかを計算し、その投影用領域と等価な描画用メモリへ計算結果をプロットしていくというものであった。そして、この表示対象領域と投影用領域との関係は、座標的にも図形的にも「平行」ではなく、一次変換の投影計算を行うものであった。
【0009】
つまり、オブジェクトの位置が決まって、表示属性を得て、投影用領域にヒットすることがわかったとき、その投影用領域のx方向、y方向それぞれについて、元のオブジェクトの位置情報(少なくとも2つの変数)による1次変換とスケーリング計算(通常割り算)が必要である。
【0010】
すなわち、表示対象領域の各点毎に実数マトリクス演算が必要であるので、全体としては大きな計算負荷となる。
【0011】
そこで、本発明は前記各課題を解消して、3次元的表示画像上において物標の方位と距離の把握を容易にし、視点近傍を含めた視認性の高い表示を可能とし、投影のための計算量を削減した3次元投影法および3次元図形表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、この発明の3次元投影法および3次元図形表示装置は、次のように構成する。
【0013】
(1)3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とする回転面上に、表示対象領域の3次元情報を投影するデータプロットステップと、
前記投影データを、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、を含んで3次元投影を行う。
【0014】
(2)前記データプロットステップは、例えば、前記鉛直線上の所定高さにある視点から、前記回転面上に前記3次元情報を投影するものとする。
【0015】
(3)前記データプロットステップは、例えば、前記鉛直線に対して垂直且つ所定高さで交わる平面上で、該平面と前記鉛直線との交点を中心とした円弧上に視点を設け、前記回転面へ投影する表示対象領域の方位に応じて、前記視点を前記円弧に沿って移動させるものとする。
【0016】
(4)3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線上の所定高さにある視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系の画像として表示するデータ表示ステップと、によって3次元投影を行う。
【0017】
(5)3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線を通り且つ該鉛直線に対して垂直に交差する平面上で、当該平面と前記鉛直線との交点を中心とする円弧上に位置する視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系の画像として表示するデータ表示ステップと、によって3次元投影を行う。
【0018】
(6)前記回転面は、前記3次元上の所定位置にある鉛直線を中心とする例えば逆円錐面とする。
【0019】
(7)前記データプロットステップは、例えば前記表示対象領域の距離方向を向く直線上の各点と前記投影用領域の距離方向(表示画面上での縦方向)を向く直線上の各点との対応関係を表すパラメータによって、前記投影用領域上の点のデータを求めるものとする。
【0020】
(8)地理的情報のデータベースから前記表示対象領域の距離方向と方位方向を座標とするオブジェクトを抽出するオブジェクト抽出ステップを備え、前記データプロットステップは、前記オブジェクトを距離方向と方位方向に走査するものとする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、表示対象領域のデータを投影する投影用領域が、3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線上の所定高さにある視点から見た方位方向および距離方向(この「方向」を、視点から見下ろす角度変化の方向と捕らえると、「俯角方向」と言うこともできる。)にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域であり、投影用領域上の各点のデータである描画用メモリのデータを、方位方向を一方の軸、距離方向を他方の軸とする直交座標系の画像として表示することができる。そのため、表示画面に等方位線を描くとすれば、その等方位線は表示画面の縦方向を向いて等間隔に平行に並ぶことになる。また、表示画面に等距離線を描くとすれば、その等距離線は表示画面の横方向を向いて平行に並ぶことになる。したがって、物標の方位と距離の把握が容易となる。
【0022】
また、従来のカメラ的投影法では、画面の各ピクセル(画面幅wドット、画面高さhドットの場合w×h)について三角関数の演算による座標変換(回転操作)を行う必要があるが、この発明では、投影用領域の方位方向への投影位置を求める計算自体が簡易であり、投影用領域の距離方向のどの位置でも表示対象領域の方位が一定であるので、演算回数も従来のカメラ的投影法に比べて1/hで済む。全体で見た場合には、距離方向の計算量は従来どおり同じで、方位方向の計算量は1/hに減少する。そのため、全体の計算量は、従来が「縦方向の計算」+「横方向の計算」に対して、本発明は「縦(距離)方向の計算」+「横(方位)方向の計算/h」になり、約半分になる。
【0023】
また、この発明によれば、表示対象領域の距離方向を向く直線上の各点と投影用領域の距離方向を向く直線上の各点との対応関係を表すパラメータ(距離方向のマッピングパラメータ)によって、前記投影用領域上の点のデータを求め、このパラメータの設定によって近距離域から遠距離域にかけて視認性の高い表示が可能となる。
【0024】
また、この発明によれば、地理的情報のデータベースから表示対象領域の距離方向と方位方向を座標とするオブジェクトを予め抽出し、そのオブジェクトを距離方向と方位方向に走査することによって、表示対象領域の各点を投影用領域の各点へ投影すれば、表示対象領域の距離方向に並ぶ各点を投影用領域の距離方向に並ぶ各点へ容易に投影できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
《第1の実施形態》
この発明の第1の実施形態に係る3次元投影法について図3を参照して説明する。
図3は、表示対象領域、投影用領域、視点、視線等の関係を示す図である。図3(A)において、3次元上の原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCを考え、前記鉛直線上の所定高さにある視点Vから表示対象領域OAを見たとき、その視線が逆円錐面RCと交わる点が存在する領域が投影用領域PAである。
【0026】
ここで、表示対象領域OAは原点Oを通る一定角度開いた2つの直線上の線分L1−L2,R1−R2と、この2つの線分を円弧でつないだ扇状台形を成している。これに対応して投影用領域PAは、原点Oを通る所定角度開いた2つの直線上の線分PL1−PL2,PR1−PR2、およびこの2つの線分を略楕円弧でつないだ略扇状台形を成している。なお直線V−Cは、視点Vから表示対象領域OAの中央地点Cを見たときの視線である。この中央地点Cは、方位方向については2つの線分L1−L2,R1−Rが成す角度の中央であり、距離方向については所定の条件で定めたものである。
【0027】
図3(A)において投影用領域PAの縦方向(原点Oを通る直線方向)は本来「俯角方向」と言うことができるが、この方向は表示対象領域OAの距離方向に対応するので、前記投影用領域PAの縦方向(原点Oを通る直線方向)を「距離方向」と言う。また投影用領域PAの略楕円弧方向は方位方向であり、表示対象領域OAの方位方向に対応している。
【0028】
図3(A)に示した投影用領域PAおよび視点Vの決定は、例えば次のようにして行う。
まず原点O(自船の位置)の座標(0,0,0)、視点V(0,0,Z)を決定する。
【0029】
次に、表示対象領域OAの基準位置である中央地点C(X,Y,0)を決定する。この基準位置Cは表示対象領域OAの中心、重心、線分R1−R2の中心、L1−L2の中心等任意に設定できる。
【0030】
次に、原点OからV−Cを結ぶ直線に対して垂直に交わる直線O−Pを引く。この直線O−Pを、原点Oを通る鉛直線を中心として回転させることにより、図3(A)に示した逆円錐面RCが形成される。
【0031】
図3(B)は、(A)に示した投影用領域PAを平面に展開した平面図である。このように展開した状態の投影用領域PA′では、距離方向の直線は放射状に配置されることになる。
【0032】
図3(C)は、(B)に示した投影用領域に仮想的に投影した画像を表示する表示画面の平面図である。表示画面PA″の各画素が描画用メモリの各画素に相当する。その四隅の点は、図3(A)に示した投影用領域PAの四隅PL1,PL2,PR1,PR2にそれぞれ対応している。線分PL1−PL2と線分PR1−PR2は平行であり、線分PL1−PR1、PL2−PR2も平行である。図における縦軸が距離方向、横軸が方位方向であり、両者は直交している。そのため、表示画面に等方位線を描くとすれば、図3(C)の実線ALのように等方位線は表示画面の縦方向を向いて平行に並ぶことになる。また、表示画面に等距離線を描くとすれば、図3(C)の破線DLのように等距離線は表示画面の横方向を向いて平行に並ぶことになる。
【0033】
また、図3(A)に示したように、視点Vは原点Oを通る鉛直線上にあり、投影用領域PAは原点Oを頂点とする逆円錐面上にある。このような投影用領域PAで、視点Vから投影用領域PAの方位方向に視線を移動させると、方位方向の角度変化と投影用領域PAの横方向の移動距離とは比例関係になる。そのため、等方位線を一定方位角で描くとすれば、図3(C)の実線ALのように等間隔に並ぶことになる。
図4〜図6はこの発明の3次元投影法による表示例について示している。図4(A)は図3(C)に示したものと同様の、投影用領域に仮想的に投影した画像の表示画面上への表示例であり、表示画面の下辺が視点となる。これに対して図4(B)は従来のカメラ的投影法による表示画面の例である。カメラ的投影法では、視点が表示画面の下辺中央の1点となり、等方位線を表示すれば、図中実線で示すように、視点から放射状に延びる直線として表示される。また、等方位線を表示すれば、前記視点を中心とする同心楕円状の曲線として表示される。
【0034】
図5は、物標が存在する表示対象領域を含む平面図であり、図5(A)では原点O(自船位置)を中心とする極座標グリッド状の補助線を表している。また図5(B)では船首方向に平行な直線と、それに直交する右舷−左舷方向に平行な直線とによる方眼グリッド状の補助線を表している。ここで、自船から物標S22までの距離は500m、例としてピラミッド状に表した各物標の高さは100mである。
【0035】
図6は、図5に示した物標を、原点Oを通る鉛直線上の視点から見た3次元投影による表示画像の例を示している。図6(A)はこの発明の3次元投影法による表示例、図6(B)は従来のカメラ的投影法による表示例である。いずれも白線は図5(A)に示した極座標グリッド状の補助線である。ここで、視点の高度は500mであり、表示画面の下辺が自船位置(真下)である。
【0036】
この発明の3次元投影法によれば、図6(A)に示すように、前記極座標グリッド状補助線の放射方向に延びる直線が表示画面の縦方向に並ぶ等方位線として表示される。(この図では、前記補助線を敢えて太く描いているので、等方位線は近距離ほど太く表示している。)また、前記極座標グリッド状補助線の円周方向に延びる円弧線が表示画面の水平方向に平行に並ぶ等距離線として表示される。
【0037】
これに対し、従来のカメラ的投影法では、図6(B)のように、視点が表示画面の下辺中央の1点となり、前記極座標グリッド状補助線の放射方向に延びる直線が、視点から放射状に延びる等方位線として表示される。また、前記極座標グリッド状補助線の円周方向に延びる円弧線が、前記視点を中心とする同心楕円弧状の曲線として表示される。
【0038】
物標S11、S12、S13は、図5(B)に示したように原点Oから見て同一方位にある。同様に物標S21、S22、S23も原点Oから見て同一方位にあり、物標S31、S32、S33も原点Oから見て同一方位にある。したがって従来のカメラ的投影法では、図6(B)に示したように、これらの物標は視点から放射状に並ぶため、補助線無しではこれらの物標の方位関係を把握することは困難であった。これに対してこの発明の3次元投影法によれば、図6(A)に示したように、これらの物標が表示画面の縦方向に並んで表示されるので、複数の物標の方位関係が容易に把握できる。
【0039】
このようにして表示対象領域の画像が直交座標系の画像として表示される際、立体的な画像の構成を保ちつつ、方位と距離が瞭然とし、物標の方位と距離の把握が容易となる。また、この3次元投影法では、逆円錐表面の曲率が十分小さければカメラ的投影法と同等の3次元的画像表現の感覚を失うことなく、それでいて方位線は表示画面の縦方向を向く。方位を把握し易いということは、航行する上で航路上の障害物がどの方角にあるか、複数の物標が相対的にどういう方位にあるかいった情報を読み取り易いという点で重要な意味を持つ。同様に、距離についても表示画面の縦方向に同じ高さにある物標は、等距離にあることが約束されるので距離比較が簡単に行える。
【0040】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態に係る3次元投影法について図7〜図9を参照して説明する。
図7は、表示対象領域、投影用領域、視点、視線等の関係を示す図である。
【0041】
第1の実施形態では、原点Oを通る鉛直線上に視点Vを配置したが、この第2の実施形態では、原点Oを通る鉛直線上の所定位置から表示対象領域を見る視線を考えたとき、その視線から所定オフセット分だけ後方に視点Vを配置するものである。但し、視点Vは1点ではなく、視点Vから表示対象領域OAを見る視線が、前記鉛直線上を必ず通るように、前記視点Vを移動させる。したがって、視点Vは前記鉛直線に対して垂直且つ所定高さで交わる平面上で、該平面と前記鉛直線との交点を中心とした円弧に沿って移動することになる。
【0042】
例えば、視点Vから見て表示対象領域OAの左後方(左遠方)の点L2への視線はV−Q2−L2の直線である。また、右後方の点R2を見る視線はV−Q2−R2の直線である。同様に、視点Vから見て表示対象領域OAの左手前の点L1を見る視線はV−Q1−L1の直線であり、視点Vから見て表示対象領域OAの右手前の点R1を見る視線はV−Q1−R1の直線である。また、表示対象領域OAの中央地点Cを見る視線はV−QC−Cの直線である。
【0043】
次に、図7に示した投影用領域PAおよび視点Vの決定方法について図8を基に説明する。
まず図8(A)に示すように、原点O(自船の位置)の座標(0,0,0)、基準視点QC(0,0,Z)を決定する。
【0044】
次に図8(B)に示すように表示対象領域OAの基準位置である中央地点C(X,Y,0)を決定する。この基準位置Cは表示対象領域OAの中心、重心、線分R1−R2の中心、L1−L2の中心等任意に設定できる。
【0045】
次に図8(C)に示すように、原点OからQC−Cを結ぶ直線に対して垂直に交わる直線O−Pを引く。この直線O−Pを、原点Oを通る鉛直線を中心として回転させることにより、図7に示した逆円錐面RCが形成される。
【0046】
次に図8(D)に示すように、視点Vを基準視点QCからオフセットをもたせた位置とする。すなわちC−QCを結ぶ直線の延長線上にある点を視点Vとする。このオフセット量(QC−Vの距離)を調整することにより、表示対象領域OAの遠近感(パースペクティブ)が変化する。基準視点QCから見た場合、前記逆円錐面上の投影領域は、逆円錐の母線の図中太線で示す部分O−Tとなり、表示対象領域の近距離域O−Cの投影領域に比べて表示対象領域の遠距離域C−Sの投影領域が小さくなる。これは、遠距離域の画像が画面上部に圧縮されて表示されることを意味する。
【0047】
一方、前記オフセットをもたせた視点Vから見ると、逆円錐面上の投影用領域は、逆円錐の母線O−Uとなり、表示対象領域の近距離域O−Cの投影領域に対する遠距離域C−Sの投影領域が広がる。そのため、前記オフセットをもたせ、そのオフセット量を適当に定めことにより、遠距離域が圧縮されて表示されるという問題が解消できる。
【0048】
図9は、図5に示した表示対象領域を3次元図形表示する際に、視点の位置にオフセットをもたせた例である。ここで、視点Vの高度は500m、オフセット量は1000m、表示画面の下辺が自船位置である。図6に示した例では、自船近傍が距離方向に拡大され、遠方が距離方向に圧縮されて表示される傾向があるが、このようにオフセットをもたせることによって、表示画面の下方(近距離域)から表示画面の上方(遠距離域)にかけて、距離方向の圧縮・拡大の差が顕著に表れず、近距離域も遠距離域も把握しやすくなる。
【0049】
すなわち、オフセットがない図3のような視点では、遠方と自船近傍の両方を見るために投影用領域を広げ、且つ俯角を下げる必要があるが、それによる表示画面の表示内容には自船近傍の情報が多く占めることになる。これに対してオフセットを設けて視点を後方にずらせることによって、遠方の情報をより精細に大きく表現し、自船近傍は比較的圧縮して表示される。
【0050】
前方を含めた一定の視野角を表示する際に、自船近傍を表示範囲に含めない方式は航行上安全な情報表示方式とはいえない。したがって、どうしても近傍は表示範囲に含めたいという事情はあるけれども、遠方を含む広範囲に亘って表示したいという要求がある。このような事情を勘案すれば、この視点位置にオフセットをもたせる方式の優位性は明らかである。
【0051】
《第3の実施形態》
次に、第3の実施形態に係る3次元投影法について図10・図11を参照して説明する。
第1・第2の実施形態では投影用領域PAが逆円錐面をなすように設定したが、投影用領域は、原点Oを通る鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面であればよく、必ずしも逆円錐面でなくてもよい。図10は原点Oを通る鉛直線を含む断面図である。図10においてRC1は第1・第2の実施形態で示した逆円錐面であり、図10では直線の母線として現れている。RC2,RC3は、いずれも原点Oを通る鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面であるが、非逆円錐面である。これらも図10では曲線の母線として現れている。
【0052】
この例では、原点Oを通る直線上の視点Vから表示対象領域OAを見るとき、仰角範囲はDa1〜Da2、表示対象領域OAの距離範囲はL1〜L2である。したがって、PA1は逆円錐面RC1の一部である投影用領域、PA2,PA3は回転面RC2,RC3の一部である投影用領域である。
【0053】
図11は前記投影用領域PA1、PA2、PA3の形状に応じて表示画面の縦軸方向の距離変化がどのように変化するかを示す図である。図11(A)は横軸に前記俯角をとり、縦軸に表示画面の縦軸をとったものである。曲線DY1は投影用領域PA1による特性、曲線DY2は投影用領域PA2による特性、曲線DY3は投影用領域PA3による特性をそれぞれ表している。また図11(B)は横軸に表示対象領域OAの原点Oからの距離、縦軸に表示画面の縦軸をとったものである。ここで曲線LY1は投影用領域PA1による特性、LY2は投影用領域PA2による特性、LY3は投影用領域PA3による特性をそれぞれ表している。
【0054】
このように投影用領域の曲面形状によって表示画面の縦軸のスケールが変化する。この例では逆円錐面の投影用領域PA1を用いた場合に表示画面の上方に遠距離域の画像が圧縮されて表示されるが、投影用領域PA3を用いれば近距離域から遠距離域にかけて比較的リニアに表示されることになる。
【0055】
図10に示した投影用領域PA1、PA2、PA3等はいずれも仮想的な曲面である。この投影用領域の形状を変えることによって表示画面の縦軸のスケールが変化する、という考えを更に進めると、前記投影領域をどのような形状にするかという問題は、表示対象領域OAの距離方向の各点を投影用領域の距離方向の直線上(母線上)へどのようにマッピングするかという問題と等価であることが分かる。すなわち、表示画面の縦軸のスケーリングは、一般化すれば、所定の単調増加関数を用いて前記マッピングを非線形に行うことに相当する。このマッピングに用いる単調増加関数の設定によって、視点Vにオフセットをもたせるとともに、そのオフセット量を調節することと同等の操作も行える。したがって、視点Vの位置にオフセットをもたせるか、オフセット量は0にしたまま表示対象領域の距離方向から投影用領域の距離方向へのマッピングに非線形の関数を利用するかは計算量の少ない方を採ればよい。
【0056】
《第4の実施形態》
次に、第4の実施形態に係る3次元投影法について図12・図13を参照して説明する。
図12は投影用領域と表示画面との関係を示す図である。図12(A)において、3次元上の原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCの所定領域が投影用領域PAである。この投影用領域PAをどのように定めるかについては第1〜第3の実施形態の場合と同様である。図12(B)は表示画面の形状を示している。表示画面PA″は円筒面内部から見える面の一部を成している。
【0057】
図12(A)に示した仮想的な投影用領域PAにプロットすることによって得られる描画用メモリの内容を表示する際、投影用領域PAの距離方向を表示画面PA″の縦方向(母線方向)に対応させ、且つ投影用領域PAの方位方向を表示画面PA″の円筒面の中心から見た方位に対応させて、表示画面PA″の表示を行う。
【0058】
図13は投影用領域と表示画面との関係を示す図である。図13(A)において、3次元上の原点Oを通る鉛直線を回転中心線とする逆円錐面RCの所定領域が投影用領域PAである。図12に示した例では、この投影用領域PAの方位方向の幅が360度未満であったが、この図13に示す例は、投影用領域PAの方位方向の幅を360度全周にしたものである。図13(B)は表示画面の形状を示している。表示画面PA″は円筒面を成し、その内面の全周に表示する。したがって、この表示画面PA″には、自船の全周囲の3次元図形を表示することができる。なお、円筒面の外周面を表示画面PA″としてもよい。
【0059】
《第5の実施形態》
次に、この発明の実施形態に係る3次元図形表示装置について図14・図15を参照して説明する。
図14は、表示対象領域のデータを基に表示画面に3次元図形を表示するための処理について示すフローチャートである。まず表示対象領域が決定されると、その表示対象領域に対応する地理的データベースを選択し、その地理的データベースから、原点Oを中心とする極座標形式の各点のデータ(オブジェクト)を方位毎に生成する。この処理が本発明に係る「オブジェクト抽出ステップ」に相当する。
【0060】
次に、前記方位毎の地理的データのそれぞれにつき、各点が投影用領域のどの点に写像されるかを、視点の位置および投影用領域のパラメータに基づいて計算し、投影用領域に相当する描画用メモリへプロットする。
【0061】
この描画用メモリへのプロットを距離毎および方位毎に繰り返す。この処理が本発明に係る「データプロットステップ」に相当する。
【0062】
その後、前記描画用メモリの内容を、方位方向を一方の軸、距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示することによって3次元図形表示を行う。この表示の処理が本発明に係る「データ表示ステップ」に相当する。
【0063】
ここで、従来のカメラ的投影法による計算量と、この発明の3次元投影法による計算量との比較を行う。
図15は視点および表示対象領域を含む範囲の平面図である。ここで視線方位をθ、物標方位をφ、水平視野角をα、表示画面幅wの中心位置からの横方向ドット位置をgxとする。
【0064】
従来のカメラ的投影法では次の[数1]の演算によって座標の回転を行った後に、[数2]の演算によってgxを求めることになる。
【0065】
【数1】
【0066】
【数2】
【0067】
これに対してこの発明の3次元投影法によれば、次の[数3]の演算によってgxを求めることができるので、従来のカメラ的投影法に必要な座標回転のための演算が不要である。
【0068】
【数3】
【0069】
すなわち角度の比をとるだけで画面幅wの中心位置からの横方向ドット位置の割合gx/(w/2)を求めることができる。
【0070】
すなわち、従来のカメラ的投影法では、画面の各ピクセル(画面幅wドット、画面高さhドットの場合w×h)について三角関数の演算による座標変換を行う必要があるが、この発明では、投影用領域の方位方向への投影位置を求める計算自体が簡易であり、投影用領域の距離方向のどの位置でも表示対象領域の方位が一定であるので、演算回数も従来のカメラ的投影法に比べて1/hで済む。全体で見た場合には、距離方向の計算量は従来と同じで、方位方向の計算量は1/hに減少する。そのため、全体の計算量は、従来が「縦方向の計算」+「横方向の計算」に対して、本発明は「縦(距離)方向の計算」+「横(方位)方向の計算/h」になり、約半分になる。
【0071】
なお、以上の説明では表示対象領域が2次元平面であるように説明したが、表示対象領域の図形が3次元の情報である場合でも同様である。
【0072】
図16は3次元図形表示装置の構成を示すブロック図である。ここで外部航法センサ1は自船の位置や速度、船首方位等をリアルタイムで検出する装置である。入力装置2はキーボードやポインティングデバイスであり、視点位置、中心視線、表示対象領域の広さを変更する操作等を行うために用いる。データ処理装置8は、CPU、そのCPUが実行するプログラムをストアするメモリ、前記外部航法センサ1および入力装置2とのインタフェースを備えている。
【0073】
航法データ3は航法データ(自船の動的な情報と静的な情報)を記録(記憶)する部分である。投影パラメータ4は視点の位置や俯角、視線方向等のパラメータを記憶しているデータ群である。地理的情報5は地図のデータベースであり、典型的には3次元または2次元の地図情報である。この地理的情報はデータ処理装置8の外部に独立した記憶媒体に記録しておいてもよい。
【0074】
演算処理部6は、前記航法データ3、投影パラメータ4、地理的情報5を利用して前述の3次元投影および描画データの生成を行う。その描画データは表示装置7の2次元表示装置に出力し、リアルタイムにまたは静的にそれを表示する。
【0075】
なお、以上の各実施形態では、船舶に搭載する航海機器に適用した例を示したが、この発明は表示対象領域の3次元情報を、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示する機器に適用するものである。したがって、この発明は船舶に搭載する航海機器に限られるものではなく、例えばカーナビゲーション機器にも同様に適用できる。また、例えば地理的情報データベースの内容を、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示する装置に同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】従来のカメラ的投影法による鳥瞰図表示のための座標変換の例を示す図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、視点、表示対象領域、および投影用領域の関係等を示す斜視図および平面図である。
【図4】表示画面の例を示す図であり、(A)はこの発明による例、(B)は従来の方法による例である。
【図5】表示対象領域の平面図である。
【図6】表示画面の例を示す図であり、(A)はこの発明による例、(B)は従来の方法による例である。
【図7】第2の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、視点、表示対象領域、および投影用領域の関係等を示す斜視図である。
【図8】表示対象領域、視点、および投影用領域の決定方法について示す図である。
【図9】オフセットをもたせた場合の表示画面の例を示す図であり、(A)はこの発明による例、(B)は従来の方法による例である。
【図10】第3の実施形態に係る3次元投影法における投影用領域の形状を示す図である。
【図11】図10に示した各投影用領域での俯角対表示画面の縦軸との関係および距離対表示画面の縦軸との関係を示す図である。
【図12】第4の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、投影用領域と表示画面との関係を示す図である。
【図13】第4の実施形態に係る3次元投影法を説明するための図であり、別の投影用領域と表示画面との関係を示す図である。
【図14】第5の実施形態に係る3次元図形表示装置の描画変換処理の手順を示すフローチャートである。
【図15】3次元投影に必要な計算量を説明するための図である。
【図16】3次元図形表示装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0077】
OA−表示対象領域
PA−投影用領域
RC−逆円錐面
V−視点
O−原点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とする回転面上に、表示対象領域の3次元情報を投影するデータプロットステップと、
前記投影データを、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、
を含むことを特徴とする3次元投影法。
【請求項2】
前記データプロットステップは、前記鉛直線上の所定高さにある視点から、前記回転面上に前記3次元情報を投影することを特徴とする請求項1に記載の3次元投影法。
【請求項3】
前記データプロットステップは、前記鉛直線に対して垂直且つ所定高さで交わる平面上で、該平面と前記鉛直線との交点を中心とした円弧上に視点を設け、前記回転面へ投影する表示対象領域の方位に応じて、前記視点を前記円弧に沿って移動させることを特徴とする請求項1に記載の3次元投影法。
【請求項4】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線上の所定高さにある視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、
からなる3次元投影法。
【請求項5】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線に対して垂直に交差する平面上で、当該平面と前記鉛直線との交点を中心とする円弧上に位置する視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、
からなる3次元投影法。
【請求項6】
前記回転面は、前記3次元上の所定位置にある鉛直線を中心とする逆円錐面である請求項4または5に記載の3次元投影法。
【請求項7】
前記データプロットステップは、前記表示対象領域の距離方向を向く直線上の各点と前記投影用領域の距離方向を向く直線上の各点との対応関係を表すパラメータによって、前記投影用領域上の点のデータを求めるものである請求項4、5または6に記載の3次元投影法。
【請求項8】
地理的情報のデータベースから前記表示対象領域の距離方向と方位方向を座標とするオブジェクトを抽出するオブジェクト抽出ステップを備え、
前記データプロットステップは、前記オブジェクトを距離方向と方位方向に走査するものである請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の3次元投影法。
【請求項9】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線に対して垂直に交差する平面上で、当該平面と前記鉛直線との交点を中心とする円弧上に位置する視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロット手段と、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示するデータ表示手段と、
からなる3次元図形表示装置。
【請求項1】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とする回転面上に、表示対象領域の3次元情報を投影するデータプロットステップと、
前記投影データを、一方の軸を方位方向、他方の軸を距離方向とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、
を含むことを特徴とする3次元投影法。
【請求項2】
前記データプロットステップは、前記鉛直線上の所定高さにある視点から、前記回転面上に前記3次元情報を投影することを特徴とする請求項1に記載の3次元投影法。
【請求項3】
前記データプロットステップは、前記鉛直線に対して垂直且つ所定高さで交わる平面上で、該平面と前記鉛直線との交点を中心とした円弧上に視点を設け、前記回転面へ投影する表示対象領域の方位に応じて、前記視点を前記円弧に沿って移動させることを特徴とする請求項1に記載の3次元投影法。
【請求項4】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線上の所定高さにある視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、
からなる3次元投影法。
【請求項5】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線に対して垂直に交差する平面上で、当該平面と前記鉛直線との交点を中心とする円弧上に位置する視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロットステップと、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示するデータ表示ステップと、
からなる3次元投影法。
【請求項6】
前記回転面は、前記3次元上の所定位置にある鉛直線を中心とする逆円錐面である請求項4または5に記載の3次元投影法。
【請求項7】
前記データプロットステップは、前記表示対象領域の距離方向を向く直線上の各点と前記投影用領域の距離方向を向く直線上の各点との対応関係を表すパラメータによって、前記投影用領域上の点のデータを求めるものである請求項4、5または6に記載の3次元投影法。
【請求項8】
地理的情報のデータベースから前記表示対象領域の距離方向と方位方向を座標とするオブジェクトを抽出するオブジェクト抽出ステップを備え、
前記データプロットステップは、前記オブジェクトを距離方向と方位方向に走査するものである請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の3次元投影法。
【請求項9】
3次元上の所定位置にある鉛直線を回転中心線とし、頂点が下方を向く回転面の、前記鉛直線に対して垂直に交差する平面上で、当該平面と前記鉛直線との交点を中心とする円弧上に位置する視点から見た方位方向および距離方向にそれぞれ所定範囲だけ広がる領域を仮想の投影用領域とし、前記視点から前記投影用領域を通して表示対象領域を見たとき、視線の先端にある前記表示対象領域のデータを前記視線が交わる前記投影用領域上の点のデータとして求めるとともに、前記投影用領域に対応する描画用メモリへ前記データを書き込むデータプロット手段と、
前記描画用メモリのデータを、前記方位方向を一方の軸、前記距離方向を他方の軸とする直交座標系に表示するデータ表示手段と、
からなる3次元図形表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−316439(P2007−316439A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147226(P2006−147226)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】
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