説明

3線式抵抗測定装置

【課題】2個の電流源の相対誤差に起因する測定誤差を打ち消すことを可能とする3線式抵抗測定装置を実現する。
【解決手段】被測定抵抗10の一端に第1配線を介して第1電流源41が接続され、被測定抵抗の他端に第2配線を介して第2電流源42が接続され、被測定抵抗10の他端が第3配線を介して基準電位に接続され、第2電流源42の電流回路に基準抵抗50が挿入され、第1電流源41、第2電流源42の出力電位差を示す第1電圧信号と、基準抵抗の端子間の電圧降下を示す第2電圧信号に基づいて被測定抵抗10の値を演算する信号処理部200を備える抵抗測定装置において、第1電流源41、第2電流源42の第1配線および第2配線への接続を切り替える電流切り替え手段100を備え、信号処理部200は、切り替え前の第1電圧信号および第2電圧信号と、切り替え後の第1電圧信号および第2電圧信号に基づいて被測定抵抗の値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定抵抗の一端に第1配線を介して第1電流源が接続され、前記被測定抵抗の他端に第2配線を介して第2電流源が接続され、前記被測定抵抗の他端が第3配線を介して基準電位に接続され、前記第2電流源の電流回路に基準抵抗が挿入接続されると共に、前記第1電流源および前記第2電流源の出力電位差を示す第1電圧信号と、前記基準抵抗の端子間の電圧降下を示す第2電圧信号に基づいて前記被測定抵抗の値を演算する信号処理部を具備する3線式抵抗測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1個の電流源を用いる3線式抵抗測定装置は、特許文献1に開示されている。被測定抵抗やフィールド配線の断線を警報するバーンアウト回路を容易に組み込むことができる2個の電流源を用いる方式も提案されており(TI社のADS1248など)、何れも周知である。
【0003】
図5は、2個の電流源を用いる従来の3線式抵抗測定装置の構成例を示す機能ブロック図である。フィールド側(A)と測定器側(B)とのインタフェースFに、3個の端子P1、P2、P3が設けられている。
【0004】
被測定抵抗である測温抵抗体(抵抗値Rrtd)10の一端は、配線抵抗21(抵抗値Ra)を持つ第1配線31を経由し、端子P1を介して第1電流源41に接続され、電流Iaが流れる。
【0005】
測温抵抗体10の他端は、配線抵抗22(抵抗値Rb)を持つ第2配線32を経由し、端子P2および基準抵抗(抵抗値Rref)50を介して第2電流源42に接続され、電流Ibが流れる。
【0006】
測温抵抗体10の他端は、配線抵抗23(抵抗値Rc)を持つ第3配線33を経由し、端子P3およびバイアス抵抗(抵抗値Rbias)60を介して基準電位に接続され、合流した電流Ia+Ibが流れる。
【0007】
第1電流源41の出力電位Vaと第2電流源42の出力電位Vbの電位差を示す第1電圧信号Vab(=Va−Vb)がAD変換器70でデジタル値に変換され信号処理部90に入力される。第2電流源42の出力電位Vbと、基準抵抗50を経由した端子P2間の電位差(基準抵抗50による電圧降下)を示す第2電圧信号Vbc(=Vb−Vc)がAD変換器80でデジタル値に変換され信号処理部90に入力される。
【0008】
信号処理部90は、入力する第1電圧信号Vab(=Va−Vb)と第2電圧信号Vbc(=Vb−Vc)および基準抵抗50の抵抗値Rrefに基づいて、測温抵抗体10の抵抗値Rrtdを下式により演算する。
【0009】
Rrtd=Rref(Vab/Vbc+1) (1)
【0010】
ここで(1)式は、下式をにRrtdついて解くことで求まる。
Va=(Ra+Rrtd)Ia+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Vb=(Rb+Rref)Ib+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Vc=RbIb+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Ra=Rb=Rc
Ia=Ib
【0011】
ここでは、3本の配線31、32、33の配線抵抗21、22、23は等しく、また2個の電流源41、42の出力電流値Ia、Ibも等しいとしているため、配線抵抗値による電圧降下分が全て打ち消され、差動電圧値と基準抵抗値から誤差なく測温抵抗体の抵抗値が求まる。なお、この抵抗値はJIS C 1604に規定の変換表に基づいて温度測定値へと変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−48733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
2個の電流源41、42の出力電流Ia、Ib間に相対誤差がある場合、下式より測温抵抗体の抵抗値Rrtdが求まるが、2個の電流源の相対誤差に起因する測定誤差εが含まれることになる。
【0014】
Rrtd=Rref(1+ε)(Vab/Vbc+1)−{Ra−Rb(1+ε)} (2)
【0015】
ここで(2)式は、下式をRrtdについて解くことで求まり、εは2個の電流源41、42の出力電流間の相対誤差である。
Va=(Ra+Rrtd)Ia+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Vb=(Rb+Rref)Ib+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Vc=RbIb+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Ra=Rb=Rc
Ia=I0、Ib=I0(1+ε)
【0016】
上記(2)式の右辺第1項の誤差は製造時調整等で補正可能であるが、右辺第2項の誤差は配線抵抗値に比例する量であるため、設置環境(配線の長さや抵抗率)に依存してしまうので、補正が容易ではない。
【0017】
本発明の目的は、2個の電流源の相対誤差に起因する測定誤差を打ち消すことを可能とする3線式抵抗測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)被測定抵抗の一端に第1配線を介して第1電流源が接続され、前記被測定抵抗の他端に第2配線を介して第2電流源が接続され、前記被測定抵抗の他端が第3配線を介して基準電位に接続され、前記第2電流源の電流回路に基準抵抗が挿入接続されると共に、前記第1電流源および前記第2電流源の出力電位差を示す第1電圧信号と、前記基準抵抗の端子間の電圧降下を示す第2電圧信号に基づいて前記被測定抵抗の値を演算する信号処理部を具備する3線式抵抗測定装置において、
前記第1電流源および前記第2電流源の、前記第1配線および前記第2配線への接続を切り替える電流切り替え手段を備え、
前記信号処理部は、切り替え前の前記第1電圧信号および前記第2電圧信号と、切り替え後の前記第1電圧信号および前記第2電圧信号に基づいて前記被測定抵抗の値を演算することを特徴とする3線式抵抗測定装置。
【0019】
(2)前記基準抵抗は、前記第2電流源の出力と前記第2配線間に接続されていることを特徴とする(1)に記載の3線式抵抗測定装置。
【0020】
(3)前記基準抵抗は、前記基準電位と前記第3配線間に接続されていることを特徴とする(1)に記載の3線式抵抗測定装置。
【0021】
(4)前記電流切り替え手段は、前記第1電流源の出力を前記第2電流源の出力に接続させることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の3線式抵抗測定装置。
【0022】
(5)前記信号処理部は、前記第1電圧信号と前記第2電圧信号を時系列的に入力することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の3線式抵抗測定装置。
【0023】
(6)前記被測定抵抗は、測温抵抗体であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の3線式抵抗測定装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、2個の電流源を用いる3線式抵抗測定装置において、2個の電流源の相対誤差に起因する誤差が、被測温抵抗の抵抗値測定結果に影響を及ぼすことを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用した3線式抵抗測定装置の一実施例を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明を適用した3線式抵抗測定装置の他の実施例を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明を適用した3線式抵抗測定装置の更に他の実施例を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明を適用した3線式抵抗測定装置の更に他の実施例を示す機能ブロック図である。
【図5】従来の3線式抵抗測定装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明を適用した3線式抵抗測定装置の一実施例を示す機能ブロック図である。図5で説明した従来構成と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0027】
図5に示した従来構成に追加される本発明の特徴部は、第1電流源41および第2電流源42の出力先を交換(スワップ)する電流切り替え手段100と、この電流切り替え手段100の切り替え前の差動電圧と切り替え後の差動電圧を入力して演算する信号処理部200を設けた構成にある。
【0028】
電流切り替え手段100が切り替え前の状態(実線矢印:パターン1)では、図5の従来構成と同一構成となり、第1配線31には第1電流源41からの電流Iaが流れ、第2配線32および基準抵抗50には第2電流源42からの電流Ibが流れ、第3配線33には合流した電流Ia+Ibが流れる。
【0029】
電流切り替え手段100が切り替え後の状態(点線矢印:パターン2)では、第1配線31には電流Ibが流れ、第2配線32および基準抵抗50には電流Iaが流れ、第3配線33には合流した電流Ia+Ibが流れる。
【0030】
電流切り替え手段100の状態が実線(パターン1)の場合のAD変換器70および80から得られる2つの差動電圧をVab1(=Va1−Vb1)及びVbc1(=Vb1−Vc1)とし、点線(パターン2)の場合の2つの差動電圧をVab2(=Va2−Vb2)及びVbc2(=Vb2−Vc2)とすると、測温抵抗体Rrtdの抵抗値はこれら4つの差動電圧値と基準抵抗値Rrefを用いて下式から求まる。
【0031】
Rrtd=Rref((Vab1+Vab2)/(Vbc1+Vbc2)+1) (3)
【0032】
上式(3)は、下式をRrtdについて解くことで求まり、2個の電流源の相対誤差εを含む項が右辺にはないことがわかる。
Va1=(Ra+Rrtd)Ia+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Vb1=(Rb+Rref)Ib+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Vc1=RbIb+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Va2=(Ra+Rrtd)Ib+(Rc+Rbias))(Ia+Ib)
Vb2=(Rb+Rref)Ia+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Vc2=RbIa+(Rc+Rbias)(Ia+Ib)
Ra=Rb=Rc
Ia=I0、Ib=I0(1+ε)
【0033】
ここで、添字が“1”の電位は、電流切り替え手段100の状態が実線(パターン1)の場合の電位、添字が“2”の電位は、電流切り替え手段100の状態が点線(パターン2)の場合の電位を表す。
【0034】
図2は、本発明を適用した3線式抵抗測定装置の他の実施例を示す機能ブロック図である。図1に示した実施例との差は、差動電圧Vabに基準抵抗50の端子間電圧を含ませないことである。図の差動電圧Vabは基準抵抗50と測温抵抗体10の抵抗値の大小関係で両極値にも単極値にもなるが、図2の差動電圧Vabは正の単極値にしかならない。
【0035】
図3は、本発明を適用した3線式抵抗測定装置の更に他の実施例を示す機能ブロック図である。図1、図2に示した実施例との差は、バイアス抵抗60を省き、端子P3と基準電位間に基準抵抗50が接続された構成である。
【0036】
この構成では、電流切り替え手段100の切り替えパターンに関係なく、基準抵抗50の端子間電圧Vcは、Vref(Ia+Ib)となり、この端子間電圧VcがAD変換器80に入力される。
【0037】
この構成により、基準抵抗50の両端間の差動電圧和(Vbc1+Vbc2)を1回のAD変換で取得可能となる。この構成を取る場合には、AD変換器80の入力がゼロ電位を許容している必要がある。
【0038】
図4は、本発明を適用した3線式抵抗測定装置の更に他の実施例を示す機能ブロック図である。この実施例の特徴は、電流切り替え手段100が、図1乃至図2で示したパターン1、パターン2に加えて、2個の定電流源出力を加算して基準抵抗50に出力する鎖線で示すパターン3を備えている構成にある。
【0039】
パターン3では、基準抵抗50に流れる電流はIa+Ibとなる。従って、AD変換器80の入力電圧は、Vref(Ia+Ib)となり、図3の場合と同一になり、基準抵抗50の両端間の差動電圧和(Vbc1+Vbc2)を1回のAD変換で取得可能となる。AD変換器80の入力電圧がゼロ電位を許容せずバイアス抵抗60を必要とする構成に適用可能である。
【0040】
図1乃至図4に示した実施例では、AD変換器70およびAD変換器80の2個の構成を例示したが、1個のAD変換器の前段に入力電圧切り替え手段を設け、差動電圧入力を時系列的に信号処理部に取り込んで処理する構成をとることができる。
【0041】
図1乃至図4に示した実施例では、被測定対象として測温抵抗体10を例示したが、これに限定されるものではなく、2個の電流源を用いた3線式抵抗体測定装置一般に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 測温抵抗体
21、22、23 配線抵抗
31、32、33 第1、第2、第3配線
41 第1電流源
42 第2電流源
50 基準抵抗
60 バイアス抵抗
70、80 AD変換器
100 電流切り替え手段
200 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定抵抗の一端に第1配線を介して第1電流源が接続され、前記被測定抵抗の他端に第2配線を介して第2電流源が接続され、前記被測定抵抗の他端が第3配線を介して基準電位に接続され、前記第2電流源の電流回路に基準抵抗が挿入接続されると共に、前記第1電流源および前記第2電流源の出力電位差を示す第1電圧信号と、前記基準抵抗の端子間の電圧降下を示す第2電圧信号に基づいて前記被測定抵抗の値を演算する信号処理部を具備する3線式抵抗測定装置において、
前記第1電流源および前記第2電流源の、前記第1配線および前記第2配線への接続を切り替える電流切り替え手段を備え、
前記信号処理部は、切り替え前の前記第1電圧信号および前記第2電圧信号と、切り替え後の前記第1電圧信号および前記第2電圧信号に基づいて前記被測定抵抗の値を演算することを特徴とする3線式抵抗測定装置。
【請求項2】
前記基準抵抗は、前記第2電流源の出力と前記第2配線間に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の3線式抵抗測定装置。
【請求項3】
前記基準抵抗は、前記基準電位と前記第3配線間に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の3線式抵抗測定装置。
【請求項4】
前記電流切り替え手段は、前記第1電流源の出力を前記第2電流源の出力に接続させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の3線式抵抗測定装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記第1電圧信号と前記第2電圧信号を時系列的に入力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の3線式抵抗測定装置。
【請求項6】
前記被測定抵抗は、測温抵抗体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の3線式抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−242294(P2012−242294A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113876(P2011−113876)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】