説明

3置換ベンゼン誘導体、液晶性組成物、光学異方性膜、位相差板、偏光板、及び画像表示装置

【課題】位相差板などに有用な3置換ベンゼン誘導体の提供。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物。式(I)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に、下記式(II)で表される基を表し、式(II)中、XはO又はSを、Arは置換基を有していてもよいアリーレン基を、L1はO、O−CO、CO−O、又はO−CO−Oを、L2はアルキレン基を、Qは重合性基又は水素原子を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差板などの作製に有用な液晶性化合物及び液晶性組成物、並びにそれを用いて作製した位相差板、光学異方性膜、偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスコティック液晶性化合物は、光学補償シートの用の素材として有用であることが知られている(例えば、特許文献1)。ディスコティック液晶としては、トリフェニレン誘導体の他、3置換ベンゼン誘導体が知られている(例えば、特許文献2及び3)。
ところで、ディスコティック液晶性化合物を利用して光学補償シートを作製する際は、ディスコティック液晶性化合物を所定の溶媒に溶解した塗布液を調製し、当該塗布液を支持体の表面や、支持体上に形成された配向膜の表面に塗布して、光学異方性層を形成することが多い。従って、ディスコティック液晶性化合物等の素材に対しては、塗布溶剤に易溶であることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−50206号公報
【特許文献2】特開2006−76992号公報
【特許文献3】特開2007−2220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、良好な溶解性を示し、位相差板等の種々の光学材料の製造に有用な、3置換ベンゼン誘導体を提供することを課題とする。また、本発明は、本発明の3置換ベンゼン誘導体を利用した、液晶性組成物、光学異方性膜、位相差板、偏光板、及び画像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 下記式(I)で表される化合物:
【化1】

式(I)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に、下記式(II)で表される基を表し;
【化2】

式(II)中、Xは−O−又は−S−を表し;
Arは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し;
1は−O−、−O−CO−、−CO−O−、又は−O−CO−O−を表し;
2は、置換基を有していてもよいアルキレン基を表し;
Qは、重合性基又は水素原子を表す。
【0006】
[2] 式(II)中、L2が−(CH2n−(nは2〜5の整数を示す。)である[1]の化合物。
[3] 一般式(II)中、L1が*−CO−O−(ここで、*は式(II)中のArに結合する位置を表す)である[1]又は[2]の化合物。
[4] 一般式(II)中、Arが置換基を有していてもよいフェニレン基である[1]〜[3]のいずれかの化合物。
[5] 一般式(II)中、Qが重合性エチレン性不飽和基である[1]〜[4]のいずれかの化合物。
[6] [1]〜[5]のいずれかの化合物を含有する液晶性組成物。
[7] [6]の液晶性組成物からなる光学異方性膜。
[8] 支持体と、その上に、少なくとも一層の光学異方性層とを有する位相差板であって、前記少なくとも一層の光学異方性層が、[6]の液晶性組成物から形成される光学異方性層である位相差板。
[9] 少なくとも、偏光膜と、[8]の位相差板とを有する偏光板。
[10] [8]の位相差板及び/又は[9]の偏光板を有する画像表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な溶解性を示し、位相差板等の種々の光学材料の製造に有用な、3置換ベンゼン誘導体を提供することができる。また、本発明によれば、本発明の3置換ベンゼン誘導体を利用した、液晶性組成物、光学異方性膜、位相差板、偏光板、及び画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
1. 3置換ベンゼン誘導体
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物に関する。
【0009】
【化3】

【0010】
式(I)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に、下記式(II)で表される基を表す。
【化4】

【0011】
式(II)中、Xは酸素原子(O)、又は硫黄原子(S)を表す。Xとしては、酸素原子(O)が、好ましい。
【0012】
式(II)中のArは、置換されていてもよいアリーレン基を表す。当該アリーレン基の例には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフェナントレン環の基が含まれる。
ベンゼン環の基としては、1,4−フェニレン、及び1,3−フェニレンが好ましい。
ナフタレン環の基としては、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−1,6−ジイル、ナフタレン−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、及びナフタレン−2,7−ジイルが好ましい。
【0013】
Arが表すアリーレン基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数が1〜5のアルキル基、炭素原子数が1〜5のアルケニル基、炭素原子数が1〜5のアルキニル基、炭素原子数が1〜5のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数が1〜5のアルコキシ基、炭素原子数が2〜5のアシル基、炭素原子数が1〜5のアルキルチオ基、炭素原子数が2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数が2〜5のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数が2〜5のアルキル置換カルバモイル基及び炭素原子数が2〜5のアシルアミノ基が含まれる。特に、前記置換基としては、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0014】
式(II)中、L1は、*−O−、*−O−CO−、*−CO−O−、又は*−O−CO−O−を表す。好ましくは、*−O−、*−CO−O−、又は*−O−CO−O−であり、*−O−、又は*−CO−O−がより好ましく、*−CO−O−が特に好ましい。ここで、*は一般式(II)中のArと結合する位置を表す。
【0015】
式(II)中、L2は置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。好ましくは炭素原子数が1〜10のアルキレン基であり、特に、−(CH2n−(nは2〜5の整数)が好ましい。置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、メチル基、又はトリフルオロメチル基が好ましい。
【0016】
式(II)中、Qは重合性基又は水素原子を表す。本発明の化合物を、光学異方性膜等の光学特性のある部材の作製に利用する場合は、光学特性(例えば、位相差)の大きさが熱により変化しないのが好ましく、即ち、分子配向が、熱などによって乱れないのが好ましい。そのためには、例えば、本発明の化合物は、重合反応によって固定可能であるのが好ましく、即ち、Qが重合性基であることが好ましい。当該重合性基は、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な官能基であることが好ましい。以下に重合性基の例を示す。
【0017】
【化5】

【0018】
さらに、重合性基は付加重合反応が可能な官能基であることが特に好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基又は開環重合性基が好ましい。
【0019】
重合性エチレン性不飽和基の例としては、下記の式(M−1)〜(M−6)が挙げられ、Qは、下記式(M−1)〜(M−6)のいずれかであるのが好ましい。
【0020】
【化6】

【0021】
式(M−3)及び(M−4)中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Rとしては、水素原子又はメチル基が好ましい。
上記(M−1)〜(M−6)の中でも、(M−1)又は(M−2)が好ましく、(M−1)が最も好ましい。
【0022】
Qは開環重合性基であるのも好ましく、その例には、環状エーテル基が含まれ、中でもエポキシ基又はオキセタニル基がより好ましく、エポキシ基が最も好ましい。
【0023】
以下に、一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
【化11】

【0029】
本発明の化合物は、メチルエチルケトン等の塗布溶剤として汎用されている有機溶媒に対する溶解性が高いという特徴がある。この特徴は、下記式に示す、本発明の化合物が有する共通の側鎖部の構造にあると考えられる。即ち、本発明の化合物は、コア部が共通であるが、側鎖部が本発明の化合物とは異なる従来の3置換ベンゼン誘導体と比較して、メチルエチルケトン等の塗布溶剤として汎用されている有機溶媒への溶解性が高いという特徴がある。
【0030】
【化12】

【0031】
本発明の化合物の例には、液晶性化合物が含まれる。位相差板等の光学材料の作製には、液晶性化合物を用いるのが好ましい。液晶性化合物は、均一に配向した状態を達成可能であるのが好ましい。ここで、本明細書では、「均一に配向した状態」とは、均一で欠陥のないモノドメインな配向状態を意味する。このような配向状態を実現するためには、良好なモノドメイン性を示す液晶相が望ましい。モノドメイン性が悪い場合には、得られる構造がポリドメインとなり、ドメイン同士の境界に配向欠陥が生じ、光を散乱するようになる。良好なモノドメイン性を示すと、例えば位相差板に用いた場合に該位相差板が高い光透過率を有しやすくなる。
【0032】
本発明の化合物が液晶性を示す液晶性化合物である場合に、当該化合物が発現する液晶相については特に制限はない。例えば、カラムナー相、及びディスコティックネマチック相(ND相)を挙げることができる。これらの液晶相の中では、良好なモノドメイン性を示すディスコティックネマチック相(ND相)が好ましい。
【0033】
本発明の化合物は、液晶相を20℃〜300℃程度の範囲で発現することが好ましい。より好ましくは40℃〜280℃程度であり、さらに好ましくは60℃〜250℃程度である。ここで20℃〜300℃程度で液晶相を発現するとは、液晶温度範囲が20℃をまたぐ場合(具体的に例えば、10℃〜22℃)や、300℃をまたぐ場合(具体的に例えば、298℃〜310℃)も含む。40℃〜280℃程度、及び60℃〜250℃程度に関しても同様である。
【0034】
2.光学異方性膜
本発明は、本発明の化合物を利用して作製される光学異方性膜にも関する。本発明の光学異方性膜は、前記一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含有する液晶性組成物から形成される光学異方性膜である。当該化合物の分子が、均一に配向した光学異方性膜を得るためには、前記液晶性組成物中に、必要に応じて、1種以上の添加剤を添加してもよい。前記添加剤の例には、空気界面配向制御剤、ハジキ防止剤、重合開始剤、及び重合性モノマー等が含まれる。
【0035】
空気界面配向制御剤:
液晶は、空気界面においては空気界面のチルト角で配向する。このチルト角は、液晶の種類や添加剤の種類等で、その程度が異なるため、目的に応じて空気界面のチルト角を任意に制御する必要がある。チルト角の制御には、添加剤を用いることができる。このような添加剤としては、炭素原子数が6〜40の置換もしくは無置換脂肪族基、又は炭素原子数が6〜40の置換もしくは無置換脂肪族置換オリゴシロキサノキシ基を、分子内に1本以上有する化合物が好ましく、分子内に2本以上有する化合物が更に好ましい。例えば、空気界面配向制御剤としては、特開2002−20363号公報に記載の疎水性排除体積効果化合物を用いることができる。
なお、添加剤によらず、例えば、電場や磁場のような外場を用いることによっても、チルト角を制御することができる。
【0036】
空気界面側の配向制御用添加剤の添加量としては、前記液晶性組成物の総質量(固形分)に対して、0.001質量%〜20質量%程度が好ましく、0.01質量%〜10質量%程度が更に好ましく、0.1質量%〜5質量%程度がよりさらに好ましい。
【0037】
ハジキ防止剤:
前記液晶性組成物には、ハジキ防止剤を添加してもよい。ハジキ防止剤は、組成物の塗布時のハジキを防止する作用を示す剤であり、一般に高分子化合物が用いられる。ハジキ防止剤として使用可能なポリマーの例には、特開平8−95030号公報に記載のポリマーが含まれ、特に好ましい具体例としては、セルロースエステル類を挙げることができる。セルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース及びセルロースアセテートブチレートを挙げることができる。
ハジキ防止剤の添加量は、前記液晶性組成物の総質量(固形分)に対して、一般に0.1〜10質量%程度であるのが好ましく、0.1〜8質量%程度であるのがより好ましく、0.1〜5質量%程度であるのがさらに好ましい。
【0038】
重合開始剤:
前記液晶組成物には、重合開始剤を添加してもよい。特に、前記式(I)で表される化合物が、重合性化合物である態様では、液晶組成物を重合反応により硬化させて、光学異方性膜を形成することができ、重合開始剤を添加することで、重合反応を促進等することができる。光重合開始剤及び熱重合開始剤のいずれを使用してもよい。光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)等が挙げられる。
光重合開始剤の使用量は、前記液晶組成物の総質量(固形分)に対して、0.01〜20質量%程度であることが好ましく、0.5〜5質量%程度であることがさらに好ましい。
【0039】
重合性モノマー:
前記液晶性組成物には、重合性モノマーを添加してもよい。本発明で使用できる重合性モノマーとしては、本発明の化合物と相溶性を有し、液晶性組成物の配向阻害を著しく引き起こさない限り、特に限定はない。これらの中では重合活性なエチレン性不飽和基、例えばビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基などを有する化合物が好ましく用いられる。
上記重合性モノマーの添加量は、液晶性化合物に対して一般に0.5〜50質量%程度であるのが好ましく、1〜30質量%程度であるのがより好ましい。また、反応性官能基数が2以上のモノマーを用いると、光学異方性膜とその下層(例えば配向膜)との密着性を高める効果が期待できる。
【0040】
光学異方性膜の形成方法:
本発明の光学異方性膜の形成方法の一例は、以下の通りである。
まず、本発明の化合物の少なくとも一種と、所望により1種以上の添加剤とを、溶剤に溶解して、塗布液を調製する。溶剤は、有機溶媒が好ましく、当該有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、トルエン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライド、エステル及びケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。本発明の化合物は、これらの溶剤に対して高い溶解性を示し、具体的には、メチルエチルケトンに対する溶解度(室温)が45質量%程度以上を達成可能である。よって、塗布液の調製が容易であり、また、高濃度の塗布液を利用することができる。
【0041】
次に、前記塗布液を、表面に塗布して、塗布層を形成する。塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
【0042】
均一に配向した状態を実現するためには、配向膜を利用するのが好ましく、即ち、上記塗布液を、配向膜の表面に塗布することが好ましい。但し、ディスコティック液晶の光軸方向が層面の法線方向と一致する配向(ホメオトロピック配向)状態等、配向の態様によっては、配向膜がなくても、均一な配向が達成できる。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)からなる膜の表面をラビング処理したもの;無機化合物を斜方蒸着して形成された層;マイクログルーブを有する層;及びラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けられた層;光照射により形成される配向膜(光配向膜);等、種々のものを利用できる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0043】
本発明では、ラビング処理面を有する配向膜、又は光配向膜が好ましい。特に、ラビング処理面を有する配向膜が特に好ましい。ラビング処理は、一般にはポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に数回擦ることにより実施することができ、例えば、液晶便覧(丸善(株))に記載されている方法により行うことができる。
配向膜の厚さについては特に制限はないが、0.01〜10μm程度であることが好ましく、0.05〜3μm程度であることがさらに好ましい。
【0044】
次に、塗布層を乾燥して、溶剤を除去するとともに、液晶性化合物の分子を所望の配向状態にする。乾燥時には、液晶相形成温度以上に加熱するのが好ましい。
次に、その配向状態を固定して、光学異方性膜とする。配向状態は、例えば、重合反応を利用して固定化することができる。より具体的には、重合性成分(例えば、前記式(I)の化合物又は別途添加される重合性モノマー)及び重合開始剤を含有する液晶組成物を用い、当該組成物を所望の配向状態とした後に、該組成物の重合反応を進行させて硬化させ、配向状態を固定化することができる。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応と電子線照射による重合反応が含まれるが、熱により支持体等が変形、変質するのを防ぐためにも、光重合反応又は電子線照射による重合反応が好ましい。なお、重合を利用せず、単に冷却することによっても、配向状態を固定化することができる。
【0045】
光重合反応を進行させる態様では、重合を開始させるために光照射が実施されるが、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、10mJ〜50J/cm2程度であることが好ましく、50mJ〜800mJ/cm2程度であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達しない場合には、窒素置換等の方法により酸素濃度を低下させることが好ましい。酸素濃度は10%以下程度が好ましく、7%以下程度がさらに好ましく、3%以下程度がよりさらに好ましい。
【0046】
3. 位相差板
本発明は、支持体と、その上に、本発明の化合物の少なくとも一種を含有する組成物からなる光学異方性層とを有する位相差板にも関する。該光学異方性層の形成方法及び形成に利用する材料の例については、上記光学異方性膜の形成方法及び形成に利用する材料の例と同様である。また、本発明の位相差板は、支持体と光学異方性層との間に配向膜を有していてもよく、当該配向膜の例についても、前記光学異方性膜の形成に利用可能な配向膜の例と同様である。
【0047】
支持体:
本発明の位相差板が有する支持体については特に制限はない。用途に応じて種々の材料から選択することができる。支持体は、一般的には、透明であるのが好ましく、その点では、ポリマーフィルム及びガラス板が好ましい。ポリマーフィルムとしては、セルロースアシレートフィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム、及び環状ポリオレフィンフィルム等、種々のポリマーフィルムを利用することができる。
【0048】
4. 偏光板
本発明は、偏光膜と、本発明の位相差板とを有する偏光板にも関する。本発明の偏光板の一態様は、偏光膜と、該偏光膜の表面にそれぞれ配置される二枚の保護膜とを有する偏光板であって、一方の保護膜が、本発明の位相差板である偏光板である。本態様では、本発明の位相差板として、支持体がポリマーフィルムである位相差板を用いるのが好ましく、当該位相差板の支持体、即ちポリマーフィルムの表面を、偏光膜の表面に貼り合せるのが好ましい。また、本態様の偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、本発明の位相差板を、液晶セル側にして配置するのが好ましい。
【0049】
偏光膜:
本発明の位相差板に利用する偏光膜については、特に制限はなく、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜等、種々のものを用途に応じて使用することができる。
保護膜
偏光膜の他方の表面に配置される保護膜についても、特に制限はない。種々のポリマーフィルムから選択することができ、その例としては、本発明の位相差板の支持体として利用可能なポリマーフィルムの例と同様である。
【0050】
5. 画像表示装置
本発明は、本発明の位相差板及び/又は本発明の偏光板を有する画像表示装置にも関する。本発明の画像表示装置の一態様は、液晶表示装置である。本発明の位相差板及び/又は本発明の偏光板は、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferro Electric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)等の様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
1. 例示化合物D−29の合成例
下記スキームに従って、例示化合物D−29を合成した。
【0052】
【化13】

【0053】
(D−29Aの合成)
クロロエチルビニルエーテル63.9gを50%水酸化ナトリウム水溶液400mLに溶解させ、硫酸水素テトラ-n-ブチルアンモニウム6.1g、2−メチルプロパンジオール108.1gを添加後、65℃で10時間撹拌した。反応液に水を加え、トルエンで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、D−29Aを40.5g得た。
【0054】
(D−29Bの合成)
ジイソプロピルエチルアミン 40.5g、Nメチルイミダゾール 44.6g、及びm−ホルミル安息香酸 36.1gを、酢酸エチル40mLに溶解させ、0℃に冷却した。45mLの酢酸エチルに溶解したD−29Aの36.1gを添加した後、ベンゼンスルホニルクロライド 44.6gを滴下し、室温で3時間攪拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、D−29Bを63.8g得た。
【0055】
(D−29Cの合成)
D−29Bの20gをメタノール200mLに溶解させ、硫酸を触媒量加え、室温で2時間攪拌した。50%ヒドロキシルアミン溶液26.0mLを添加後、90℃で3時間撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、D−29Cを18.0g得た。
【0056】
(D−29Dの合成)
D−29Cの58gをN−メチルピロリドンの200mLに溶解させ、0℃に冷却した。その後、クロロプロピオン酸クロライドの67.5gを滴下し、室温で3時間攪拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、D−29Dを74.0g得た。
【0057】
(D−29Eの合成)
D−29Dの15.0g、6mLの水に溶解したリン酸二水素ナトリウム1g、及び過酸化水素水6.5mLを、アセトニトリル60mLに溶解させ、30mLの水に溶解した亜塩素酸ナトリウムの4.9gを滴下した。室温で2時間攪拌した後、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、D−29Eを15.5g得た。
【0058】
(D−29Gの合成)
D−29Eの15.6g、及び触媒量のジメチルホルムアミドを、トルエン100mLに溶解させ、塩化チオニルを4.6mL加え、65℃で3時間攪拌した。反応後、トルエンを留去し、D−29Eを得た。D−29Fの3.2g、及びジメチルアニリン1.6mLをN−メチルピロリドン50mLに溶解させ、0℃に冷却した。その後、D−29Eを滴下し、室温にて5時間攪拌した。反応液に1N塩酸水を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄し、N−メチルピロリドン 20mLを加え酢酸エチルを留去した。得られた溶液に、さらにN−メチルピロリドン 20mL及びヘプタン 40mLを加え、140℃で20時間加熱した。反応液に1N塩酸水を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、D−29Gを2.0g得た。なお、D−29Fはトリメシン酸を原料にして1,3,5−トリシアノベンゼンを合成し、ヒドロキシアミンと反応させることで得ることができる。
【0059】
(D−29の合成)
D−29Gの1.8gをN−メチルピロリドン30mLに溶解させ、トリエチルアミンの2mLを加え、60℃で3時間反応した。反応液に1N塩酸水を加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製を行い、D−29を1.4g得た。得られたD−29のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
1.10(9H、d)
2.30−2.40(3H、m)
3.50−3.60(6H、m)
3.70−3.80(6H、m)
4.30−4.50(12H、m)
5.80(3H、dd)
6.15(3H、dd)
6.40(3H、dd)
7.70(3H、dd)
8.30(3H、dd)
8.50(3H、dd)
8.90(3H、s)
9.20(3H、s)
【0060】
得られた化合物D−29の相転移温度を、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって行ったところ、温度を上昇させていく過程において106℃付近で、結晶相からディスコティックネマチック液晶相に転移し、124℃を超えると等方性液体相に転移した。即ち、化合物D−29は、106℃〜124℃の間で、ディスコティックネマチック液晶相を呈することが分かった。
また、塗布溶剤として汎用されているメチルエチルケトンへの溶解性を確認したところ、その溶解度は室温において45質量%と極めて高く、良好な溶解性を示すことが分かった。
【0061】
なお、上記合成例において、化合物D−29Aの合成に用いた試薬、クロロエチルビニルエーテルに代えて、クロロプロピルビニルエーテル、クロロブチルビニルエーテル、及びクロロペンチルビニルエーテルをそれぞれ用いることにより、例示化合物D−29のL2(−(CH22−)が、−(CH23−、−(CH2)4−、及び−(CH2)5−等である化合物(例えば、例示化合物D−30〜D−32)を合成することができる。
【0062】
2. 比較例
2.−1 比較例1
比較例1として、下記の化合物JD−1を用いた。
【0063】
【化14】

【0064】
化合物JD−1についても同様に相転移温度を、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって調べたところ、温度を上昇させる過程において112℃付近で結晶相からディスコティックネマチック液晶相に転移し、142℃を超えると等方性液体相に転移した。即ち、化合物JD−1は、112℃〜142℃の間でディスコティックネマチック液晶相を呈することが分かった。
また、塗布溶剤として汎用されているメチルエチルケトンへの溶解性を確認したところ、室温において10質量%であった。
【0065】
2.−2 比較例2
比較例2として、下記の化合物JD−2を用いた。
【0066】
【化15】

【0067】
化合物JD−2についても同様に相転移温度を、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって調べたところ、温度を上昇させる過程において、97℃付近で結晶相からディスコティックネマチック液晶相に転移し、132℃を超えると等方性液体相に転移した。即ち、化合物JD−2は、97℃〜132℃の間でディスコティックネマチック液晶相を呈することが分かった。
また、塗布溶剤として汎用されているメチルエチルケトンへの溶解性を確認したところ、室温において10質量%であった。
【0068】
2.−3 比較例3
比較例3として、下記の化合物JD−3を用いた。
【0069】
【化16】

【0070】
化合物JD−3についても同様に相転移温度を偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって調べたところ、温度を上昇させる過程において、95℃付近で結晶相からディスコティックネマチック液晶相に転移し、113℃を超えると等方性液体相に転移した。即ち、化合物JD−3は、95℃〜113℃の間でディスコティックネマチック液晶相を呈することが分かった。
また、塗布溶剤として汎用されているメチルエチルケトンへの溶解性を確認したところ、室温において10質量%であった。
【0071】
2.−4 比較例4
比較例4として、下記の化合物JD−4を用いた。
【0072】
【化17】

【0073】
化合物JD−4についても同様に合成を行い、相転移温度を偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって調べたところ、温度を上昇させる過程において120℃付近で結晶相からディスコティックネマチック液晶相に転移し、129℃を超えると等方性液体相に転移した。即ち、化合物JD−4は、120℃〜129℃の間でディスコティックネマチック液晶相を呈することが分かった。
また、塗布溶剤として汎用されているメチルエチルケトンへの溶解性を確認したところ、室温において10質量%であった。
【0074】
結果を下記表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
上記表に示した結果から、本発明の化合物である、化合物D−29は、塗布溶剤として汎用されているメチルエチルケトンに対して高い溶解性を示す化合物であり、等しいコア部を有する従来の液晶性化合物と比較して、溶解度が格段に高いことが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物:
【化1】

式(I)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に、下記式(II)で表される基を表し;
【化2】

式(II)中、Xは−O−又は−S−を表し;
Arは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し;
1は−O−、−O−CO−、−CO−O−、又は−O−CO−O−を表し;
2は、置換基を有していてもよいアルキレン基を表し;
Qは、重合性基又は水素原子を表す。
【請求項2】
式(II)中、L2が−(CH2n−(nは2〜5の整数を示す。)である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
一般式(II)中、L1が*−CO−O−(ここで、*は式(II)中のArに結合する位置を表す)である請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(II)中、Arが置換基を有していてもよいフェニレン基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
一般式(II)中、Qが重合性エチレン性不飽和基である請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を含有する液晶性組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶性組成物からなる光学異方性膜。
【請求項8】
支持体と、その上に、少なくとも一層の光学異方性層とを有する位相差板であって、前記少なくとも一層の光学異方性層が、請求項6に記載の液晶性組成物から形成される光学異方性層である位相差板。
【請求項9】
少なくとも、偏光膜と、請求項8に記載の位相差板とを有する偏光板。
【請求項10】
請求項8に記載の位相差板及び/又は請求項9に記載の偏光板を有する画像表示装置。

【公開番号】特開2010−159231(P2010−159231A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3122(P2009−3122)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】