説明

3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサノンを調製する方法

3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを調製する方法であって、下記ステップ(i)からなる方法。ステップ(i):塩化メチルマグネシウム存在下でイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。この様に調製した3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンは、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)またはその薬剤学的に許容可能な塩の調製法に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを調製する方法に関する。この生成物は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)、またはその薬剤学的に許容可能な塩を製造するにあたっての反応中間体として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)、及びその薬剤学的に許容可能な塩は、耳鳴症や眼震症といった疾患および症状を患う患者の持続的な治療のための有用な薬剤である。
【0003】
これらの薬剤を調製する複数の方法が既に知られている。
【0004】
一の方法においては、市販のイソホロンを、次の反応スキームによる5つのステップからなる一連の反応(反応シーケンス)により、ネラメキサンに変換する(W.Danyszら; Current Pharmaceutical Design, 2002, 8, 835-843)。
【化1】

【0005】
上記反応シーケンスの第一ステップ(ステップ(i))においては、塩化銅触媒を用いたヨウ化メチルマグネシウムの共役付加によって、イソホロン(1)を3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン(2)に変換する。目標化合物の収率は78重量%である。
【0006】
また、塩化第一銅存在下でイソホロンに臭化メチルマグネシウムを添加することができ、これにより、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンが収率82.5重量%で生成することが知られている。副生成物として、1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサジエンが収率6.9重量%で生ずる(M.S. Kharashら; J. of American Chemical Society, 93, 2308)。
【0007】
この刊行物は、実験の部(2313ページ)にて、塩化第二鉄存在下でイソホロンに塩化メチルマグネシウムを添加することを開示する。しかしながら3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンは形成されず、それとは全く異なる生成物が単離されている。
【0008】
第二ステップにおいては、ヨウ化メチルマグネシウムを用いて3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン(2)を1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサノール(3)に変換する。
【0009】
前記反応シーケンスの第三ステップにおいては、クロロアセトニトリルによりリッター反応にて、前記シクロヘキサノール(3)を1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(6)に変換する。
【0010】
続く第四ステップにおいては、酢酸中にてチオ尿素でもってアミド(6)中のクロロアセトアミド基を開裂させる。反応シーケンスの最後である第五ステップにおいては、得られたアミンを塩酸でもって酸性化することで、塩酸塩型のネラメキサン(1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン)(7)を生成させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M.S. Kharashら; J. of American Chemical Society, 93, 2308-2316.
【非特許文献2】W. Danyszら; Current Pharmaceutical Design, 8, 835-843 (2002).
【非特許文献3】T.W. Bell; J. of American Chemical Society, 103, 1163-1171
【非特許文献4】C. Deanら; J. of Chemical Society Perkin Trans. 2, 10, 1541-1543.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一の目的は、経済的な工業規模での有利な実施を可能とする、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩の調製方法を提供すべく、上述の反応シーケンスにおける一つ一つの反応ステップのうちの一つまたは複数について、改良を加えることにある。他の目的は、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を製造する過程で生成する、廃棄物および/または未反応物質(すなわち、これらの少なくとも一方)の量を最小化することである。さらなる目的は、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩についての、収率および/または選択性および/または生成物の品質(すなわち、これらのうちのいずれか、または任意の組み合わせ)につき、最適化または改善することである。特には、本願は、上記のステップ(i)について、すなわちイソホロンとハロゲン化メチルマグネシウムとの反応について、改良を加えようとするものである。このような改良された方法は、経済的な工業規模でネラメキサン、またはその薬剤学的に許容可能な塩を有利に製造する上での必要条件であると考えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、改良された3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン合成法に関する。この化合物は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)、またはその薬剤学的に許容可能な塩を製造する際の反応中間体である。
【0014】
具体的には、本発明は、ステップ(i)からなる3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンの調製法に関する。:
ステップ(i):塩化メチルマグネシウム存在下でイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【0015】
一実施形態において、銅化合物存在下でステップ(i)を実施する。
【0016】
一実施形態において、前記銅化合物はハロゲン化銅(I)である。
【0017】
一実施形態において、前記ハロゲン化銅(I)はヨウ化銅(I)である。
【0018】
一実施形態において、リチウム化合物存在下でステップ(i)を実施する。
【0019】
一実施形態において、前記リチウム化合物はハロゲン化リチウムである。
【0020】
一実施形態において、前記ハロゲン化リチウムは塩化リチウムである。
【0021】
一実施形態において、ハロゲン化銅(I)とハロゲン化リチウムとのモル比は1:1.5〜1:2.5の範囲内である。
【0022】
一実施形態において、エーテルを含有する溶媒中にてステップ(i)を実施する。
【0023】
一実施形態において、前記エーテルはテトラヒドロフランである。
【0024】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中にて、塩化メチルマグネシウムとヨウ化銅(I)と塩化リチウムとを使用して、イソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【0025】
一実施形態において、イソホロンとヨウ化銅(I)と塩化リチウムとを含有する溶液に、塩化メチルマグネシウムを含有するテトラヒドロフラン溶液を添加する。
【0026】
本発明は、また、イソホロンから3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンへの変換のために塩化メチルマグネシウムを使用することに関する。
【0027】
前記使用についての一実施形態において、塩化メチルマグネシウムをテトラヒドロフランに溶解する。
【0028】
他の態様において、本発明は、下記のステップ(i)からなる1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩(例えば塩酸塩またはメシラート)の調製法に関する。:
ステップ(i):塩化メチルマグネシウムを用いてイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【0029】
一実施形態において、前記塩化メチルマグネシウムは塩化エチルマグネシウムを含有しない。
【0030】
一の態様において、本発明は、1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を実質的に含まない、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩に関する。また、場合によっては、1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩をも実質的に含まないものに関する。
【0031】
従来技術の方法によって開示された反応時間と比較して、本発明の方法によれば反応時間が短縮され、かつ目標化合物が高収率で得られるということが期せずして明らかとなった。また、ステップ(i)において1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサジエンのような副生成物の形成が可能な限り抑制されるため、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを精製するための複雑な蒸留工程も不要となる。
【発明の効果】
【0032】
イソホロンから3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを調製する、本件の新規な方法によれば、本願の背景技術のセクションで述べたネラメキサンの公知の生産方法が改良される。この新規な方法は、経済的な工業規模で有利に実施し得る。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、イソホロンを出発物質として3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを調製する方法に関する。
【0034】
具体的には、本発明は、ステップ(i)からなる3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンの調製法に関する。:
ステップ(i):塩化メチルマグネシウム存在下でイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【0035】
塩化メチルマグネシウムはグリニャール試薬である。前記塩化メチルマグネシウムは、マグネシウムと塩化メチルとを反応させることにより製造することができる。
【0036】
前記ステップ(i)の変換においては、1,4-共役付加によって前記塩化メチルマグネシウムをイソホロンに付加する。イソホロンと塩化メチルマグネシウムとを含有していた反応混合物について、抽出・分離の一連の操作を行った後に、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンが得られる。
【0037】
一実施形態において、グリニャール試薬の1,4-付加を1,2-付加よりも優先的に進めるために触媒を添加する。
【0038】
一実施形態において、銅化合物存在下でステップ(i)を実施する。
【0039】
一実施形態において、前記銅化合物は第一銅化合物(1価の銅化合物)である。
【0040】
一実施形態において、前記第一銅化合物はハロゲン化銅(I)である。
【0041】
したがって、前記ハロゲン化銅(I)は、フッ化物、塩化物、臭化物、またはヨウ化物から選択される。
【0042】
一実施形態において、前記ハロゲン化銅(I)は、塩化銅(I)またはヨウ化銅(I)である。
【0043】
一実施形態において、前記ハロゲン化銅(I)はヨウ化銅(I)である。
【0044】
ステップ(i)を、ハロゲン化銅(I)(例えば塩化銅(I)またはヨウ化銅(I))といった銅化合物存在下で行う場合のみならず、リチウム化合物存在下で行う場合にも、上記反応の選択性が向上することが見出された。
【0045】
一実施形態において、前記リチウム化合物はハロゲン化リチウムである。
【0046】
従って前記ハロゲン化リチウムはフッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、またはヨウ化リチウムから選択する。
【0047】
一実施形態において、前記ハロゲン化リチウムは塩化リチウムである。
【0048】
一実施形態において、ハロゲン化銅(I)とハロゲン化リチウムとのモル比は1:1.5〜1:2.5の範囲である。
【0049】
一実施形態において、塩化銅(I)またはヨウ化銅(I)と塩化リチウムとのモル比は1:1.5〜1:2.5の範囲である。
【0050】
一実施形態において、ヨウ化銅(I)と塩化リチウムとのモル比は1:1.5〜1:2.5の範囲である。
【0051】
一実施形態において、前記モル比は約1:2であるかまたは1:2である。
【0052】
通常、ステップ(i)の反応は溶媒中で実施する。
【0053】
一実施形態において、前記溶媒はエーテルを含有するかまたはエーテルである。
【0054】
エーテルは、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、またはテトラヒドロフランから選択しうる。
【0055】
一実施形態において、前記エーテルはテトラヒドロフランである。
【0056】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中にて、塩化メチルマグネシウムと、塩化銅(I)またはヨウ化銅(I)と、塩化リチウムとを使用して、イソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【0057】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中で塩化メチルマグネシウムとヨウ化銅(I)と塩化リチウムとを使用して、イソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【0058】
一実施形態において、イソホロンと、ハロゲン化銅(I)(例えばヨウ化銅(I)または塩化銅(I))といった銅化合物とを溶媒中に加えておく。場合によっては、ハロゲン化リチウム(例えば塩化リチウム)といったリチウム化合物をも加えておく。このような混合物にグリニャール試薬(場合によっては、溶媒に溶解したもの)を添加する。
【0059】
一実施形態において、塩化メチルマグネシウムをテトラヒドロフランに溶解する。
【0060】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中の塩化メチルマグネシウム濃度は、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとの総量を基準として15〜30重量%または20〜25重量%である。
【0061】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中の塩化メチルマグネシウム濃度は、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとの総量を基準として23重量%である。
【0062】
一実施形態において、1モル当量のイソホロン当たり、1モル当量よりも多い塩化メチルマグネシウムを使用する。
【0063】
一実施形態において、1モル当量のイソホロン当たり、1.0〜1.75モル当量の塩化メチルマグネシウムまたは1.2〜1.5モル当量の塩化メチルマグネシウムを使用する。
【0064】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中の塩化メチルマグネシウム濃度は、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとの総量を基準として23重量%であり、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとの総量を基準として10重量%の触媒(1モル当量のヨウ化銅(I)および2モル当量の塩化リチウム)を使用する。
【0065】
一実施形態において、1モル当量のイソホロン当たり、0.1〜0.25モル当量の塩化リチウムと、0.05〜0.125モル当量のヨウ化銅(I)とを使用する。
【0066】
また別の実施形態においては、ハロゲン化銅(I)といった銅化合物(例えばヨウ化銅(I)または塩化銅(I))と塩化メチルマグネシウムとを、任意選択でハロゲン化リチウムのようなリチウム化合物(例えば塩化リチウム)存在下で反応させる。一実施形態において、前記混合物をイソホロンに添加する。また別の実施形態においては、イソホロンを前記混合物に添加する。
【0067】
他の一実施形態において、イソホロンとヨウ化銅(I)と塩化リチウムとの混合物を、テトラヒドロフラン中に加えて用意しておく。塩化メチルマグネシウムを、予めテトラヒドロフランに溶解して、別箇にテトラヒドロフラン中に用意しておき、前記混合物に添加する。
【0068】
一実施形態において、上記の各実施形態は、温度の管理・調整が可能であるようにして実施する。
【0069】
一実施形態において、前記添加は、温度が比較的狭い温度範囲に維持され得るようにして実施する。
【0070】
一実施形態において、ステップ(i)の変換は、−5℃から20℃、0℃から20℃、−5℃から15℃、または−1℃から10℃の温度にて実施する。
【0071】
グリニャール試薬のイソホロンへの添加は通常比較的速く進行する。この反応は、通常、使用する反応温度に依存して3時間または2時間で、または1時間だけでも終了し得る。
【0072】
グリニャール試薬とイソホロンとの反応後、過剰量のグリニャール試薬が用いられた場合の過剰分を分解すべく、また、塩基性マグネシウム化合物を分解すべく、反応後の反応混合物を水で処理するのであっても良い。
【0073】
一実施形態において、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンの形成を助けるべく、塩酸といった酸、またはアンモニウム塩を添加する。
【0074】
一実施形態において、ステップ(i)で形成された3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンは、塩化メチレン、トルエンまたは石油エーテルといった、適当な有機溶媒でもって、前記水性混合物について、抽出を行うことによって分離される。抽出後、用いた有機溶媒を蒸留により除去する。
【0075】
一実施形態において、得られ分離された、粗製3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを含有する残留物を、精製することなしに反応シーケンスのステップ(ii)にて用いることができる。
【0076】
他の一実施形態において、抽出後に前記抽出物を公知の方法によって乾燥(脱水)することができる。例えば硫酸ナトリウムによって抽出物を乾燥することができる。この硫酸塩をろ過により分離した後、前記溶媒を蒸留により除去することもできる。得られて単離された、粗製3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを含有する残留物を、精製することなしに反応シーケンスのステップ(ii)に用いることができる。
【0077】
一実施形態において、ステップ(i)で生成し単離された粗製3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンの収率は88重量%から96重量%の範囲内である。
【0078】
一実施形態において、前記粗製3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン中の目標化合物の含量は93重量%以上である(ガス液体クロマトグラフィーを用いた測定による)。通常、上記副生成物の量は1重量%未満である。
【0079】
一実施形態において、前記粗製3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンについて、さらに精製すべく、蒸留する。
【0080】
他の一実施形態において、前記粗製3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを上記反応シーケンスのステップ(ii)にて用いる。すなわち、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンは精製ステップに供されない。
【0081】
一実施形態において、前記粗製3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンは、周囲温度(25℃)で液体であり、精製ステップとしての蒸留またはクロマトグラフィーに供されない。
【0082】
次のステップ(ii)にて前記粗生成物をそのまま使用することが可能である。というのは、イソホロンと塩化メチルマグネシウムとの反応は、ヨウ化メチルマグネシウムまたは臭化メチルマグネシウムとの反応とは異なり、上記副生成物の形成をできる限り抑制するためである。
【0083】
すなわち、イソホロンから3,3,5,5-テトラチルシクロヘキサノンへの変換に、塩化メチルマグネシウムを使用することは、臭化メチルマグネシウムまたはヨウ化メチルマグネシウムを使用することよりも有利である。これは具体的には、(1) 副生成物が抑制されること、及び/または、(2)高収率が達成可能であること、及び/または、(3) 得られた化合物を背景技術のセクションに記載の反応シーケンスのステップ(ii)に粗生成物のままで使用できること(すなわち、これら(1)〜(3)のいずれか、または任意の組み合わせ)に関係する。これは特に工業的な実施の観点から有利である。
【0084】
したがって、本発明は、また、イソホロンから3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンへの変換のために塩化メチルマグネシウムを使用することに関する。
【0085】
前記使用の一実施形態において、塩化メチルマグネシウムをテトラヒドロフランに溶解する。
【0086】
一実施形態において、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンの調製法は、背景技術のセクションに記載の1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩の調製法のために実施することができる。
【0087】
したがって、一態様において、本発明は、また、ステップ(i)からなる1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩の調製法に関する。:
ステップ(i):塩化メチルマグネシウム存在下でイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【0088】
本願開示の目的において、用語「薬剤学的に許容可能な塩」とは、ネラメキサン塩であてって、哺乳類生物(例えばヒト)へ投与された際に、生理学的に許容できるものであって、有害な反応を通常はもたらさないものをいう。用語「薬剤学的に許容可能な塩」は、通常、哺乳類生物、特にヒトに対する使用について、連邦政府または州政府の規制当局により承認されたもの、または、米国薬局方もしくは他の一般に承認された薬局方のリストに掲載されたものを意味する。
【0089】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンからその薬剤学的に許容可能な塩への変換は、従来の方式により、該塩基と、1モル当量以上の選択された酸とを不活性な有機溶媒中にて混合することにより実現される。前記塩の単離は、塩の溶解度が低い非極性溶媒(例えばエーテル)によって沈殿を誘導するといった、当分野の公知技術により行われる。非毒性であって所望の薬理活性と実質的に干渉しない限り、前記塩の特質は、決定的に重要なものではない。
【0090】
薬剤学的に許容可能な塩の例は、塩酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、及び、これらと同様の酸でもって形成される塩である。
【0091】
さらなる薬剤学的に許容可能な塩には次のような酸の付加塩が含まれるが、これらに限定されない。すなわち、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、フマル酸、酒石酸、安息香酸、炭酸、桂皮酸、マンデル酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、p-アミノサリチル酸、2-フェノキシ安息香酸、及び2-アセトキシ安息香酸といった酸でもって形成される酸付加塩が含まれる。
【0092】
上記開示の実施形態のいずれか一つに従って、ステップ(i)の変換を実施することができる。
【0093】
一実施形態において、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに加えて、またはその塩に加えて、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその塩とは異なる他のアミノ化合物が形成されて検出されることがあり得る。
【0094】
一実施形態において、副生成物として1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンが形成され得る。前記副生成物は例えばガスクロマトグラフィー分析法によって検出することができる。この化合物は二つのキラル中心を持つため、二つのジアステレオマーが検出され得る。
【0095】
一実施形態において、1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンの生成は、ステップ(i)においてメチル基ではなくエチル基がイソホロンに付加されて別個の3-エチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサノンが生ずることに起因するものでありうる。背景技術のセクションに記載の反応シーケンスを実施するならば、すなわち、ヒドロキシル化合物への変換、リッター反応生成物への変換、および例えばチオ尿素を用いた反応によるネラメキサンへの変換を実施するならば、上記のアミンまたはその塩が形成される。
【0096】
一実施形態において、前記副生成物の生成は、用いた塩化メチルマグネシウムに塩化エチルマグネシウムがコンタミネーションとして含まれることに起因するものでありうる。
【0097】
一実施形態において、塩化エチルマグネシウムを含まない精製した塩化メチルマグネシウムをステップ(i)にて使用することによって、不所望の前記副生成物の生成を抑制または低減させ得る。
【0098】
一実施形態において、塩化メチルマグネシウム中の塩化エチルマグネシウム含量は、塩化メチルマグネシウムと塩化エチルマグネシウムとの総量を基準として1.0重量%未満、0.5重量%未満、または0.1重量%未満である。
【0099】
他の一実施形態において、ステップ(i)で形成された3-エチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサノンを、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンから蒸留除去してもよい。
【0100】
他の一実施形態において、ステップ(i)で形成された3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンは精製しなくてもよい。一実施形態において、以降の段階(例えばネラメキサン形成の段階またはネラメキサン塩形成の段階)で精製ステップを実施する。
【0101】
一実施形態において、前記アミンを精製することによって、ネラメキサンから前記副生成物を除去することができる。一実施形態において、前記アミンを蒸留により精製して前記副生成物を除去することができる。
【0102】
他の一実施形態において、ネラメキサンから得られた塩を精製する。一実施形態において、再結晶化のステップによって前記塩を精製することができる。適当な溶媒は、例えば塩形成に用いられる溶媒から選択する溶媒である。一実施形態において、前記溶媒はアニソールである。一実施形態において、前記塩はメシラートである。
【0103】
他の一実施形態において、背景技術のセクションで述べたグリニャール試薬を使用して3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを、対応するヒドロキシル化合物に変換するならば、1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩がさらに検出され得る。一実施形態において、塩化メチルマグネシウムが用いられる。
【0104】
一実施形態において、1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンの生成は、メチル基ではなくエチル基が3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンのカルボニル基に付加されることに起因するものでありうる。背景技術のセクションに記載の反応シーケンスを実施するならば、すなわちリッター反応生成物への変換およびネラメキサンへの変換を実施するならば、前記アミンまたはその塩が形成される。
【0105】
前記アミンの形成抑制もしくは防止または前記化合物の除去は、1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンに関連した上記の方法によって実施してもよい。
【0106】
したがって、一態様において、本発明は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩であって、1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を実質的に含まないものに関する。また、場合によっては、この副生成物以外の副生成物として、1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩をも実質的に含まないものに関する。
【0107】
用語「実質的に含まない」は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩と前記副生成物とのトータルの量を基準として、前記副生成物の量が0.5重量%未満であることを示す。
【実施例】
【0108】
139gのイソホロンと、19gのヨウ化銅(I)と、8.4gの塩化リチウムと、1,550gのテトラヒドロフランとの撹拌混合物に、93gの塩化メチルマグネシウムと、372gのテトラヒドロフランとの混合物を、滴下により添加する。これらの無機化合物は滴下前に撹拌して溶解しておく。滴下の速度は、混合物の温度が5℃と15℃との間に維持されるように選択する。滴下による添加が終了した後、混合物をさらに60分間撹拌する。次に、希釈した塩酸が、過剰の塩化メチルマグネシウムを分解するべく、また、塩基性マグネシウム化合物を分解するべく、添加される。この混合物について、石油エーテルで二回抽出を行う。これら二回の抽出物を合わせ、アンモニアで洗浄する。次に溶媒を蒸留して除去する。目標化合物の粗収率は、定量的な値である(153g)。この粗生成物中の3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンの含量は、約91重量%である(ガス液体クロマトグラフィーを用いた測定による)。この粗生成物中には、未反応イソホロン約2重量%、前記化合物から生成するオレフィンまたは1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノール1重量%未満、及び、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン1重量%が含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ステップ(i)からなる、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを調製する方法。:
ステップ(i):塩化メチルマグネシウム存在下でイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【請求項2】
銅化合物存在下でステップ(i)を実施する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記銅化合物がハロゲン化銅(I)である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化銅(I)がヨウ化銅(I)である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
リチウム化合物存在下でステップ(i)を実施することを請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記リチウム化合物がハロゲン化リチウムである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化リチウムが塩化リチウムである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ハロゲン化銅(I)とハロゲン化リチウムとのモル比が1:1.5〜1:2.5の範囲内である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
エーテルを含有する溶媒中でステップ(i)を実施する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記エーテルがテトラヒドロフランである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(i)においてはテトラヒドロフラン中で塩化メチルマグネシウムとヨウ化銅(I)と塩化リチウムとの存在下でイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
イソホロンとヨウ化銅(I)と塩化リチウムとを含有する溶液に、塩化メチルマグネシウムを含有するテトラヒドロフラン溶液を添加する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
下記ステップ(i)からなる1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を調製する方法。:
ステップ(i):塩化メチルマグネシウム存在下でイソホロンを3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに変換する。
【請求項14】
請求項2〜12のいずれかに記載の方法にしたがってステップ(i)を実施する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記塩化メチルマグネシウムが塩化エチルマグネシウムを含有しない請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
1-アミノ-1-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を実質的に含まず、また、場合によっては1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩をも実質的に含まない、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩。

【公表番号】特表2012−531389(P2012−531389A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516587(P2012−516587)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003923
【国際公開番号】WO2011/000540
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(509295413)メルツ・ファルマ・ゲーエムベーハー・ウント・コ・カーゲーアーアー (14)
【Fターム(参考)】