説明

4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体を用いた有機色素

【課題】青色レーザー用に対応する吸収帯を有し、セロソルブ系溶媒などの有機溶媒対する溶解度が高く、かつキャスティングなどによる薄膜形成過程における溶媒揮発時においても結晶化しにくい青色レーザー用光記録媒体に用いるのに適する有機色素を提供する。
【解決手段】有機色素の新規化合物として、下記一般式の4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体を用いる。


(R〜Rは、H、ハロゲン、シアノ基、C1〜20のアルキル基等、Rは、H、C1〜20のアルキル基等である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青〜紫色領域を吸収する4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体を用いた有機色素の化合物に関し、また新規な4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体化合物に関する。より詳しくは、いわゆる青色レーザーの波長領域に適した有機色素及び新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、CD−R/RW、DVD−R/RW、MOなどへの媒体の書き込み、読み取りには、いわゆる赤色レーザーが普及している。これに使用する媒体には、当該赤色レーザーの波長に対応した波長を吸収する色素が表面にコーティングされている。色素には無機色素と有機色素が存在するが、応答速度が速いなどの利点から有機色素が一般に用いられる。
【0003】
一方最近、更なる高密度の記録を可能にすべく、いわゆる青色レーザーを用いた機器の開発が進んでいる。青色レーザー用の媒体に用いる色素は、レーザーの波長に対応すべく、405nm付近の波長を効率的に吸収する色素でなければならない。かかる色素として、現在いくつかの無機色素が実用化に向けて開発されている。
【0004】
しかし、レーザーによる高速度の記録に対応できるものとするためには、媒体に用いる色素として、無機色素ではなく応答の速い有機色素が好ましい。このような波長領域に吸収を持つ化合物としては、例えば、特許文献1〜5に記載されているような有機色素の基本骨格としてピラン化合物の誘導体、ポリアセンジイミド系色素の誘導体、シアニン系有機色素の混合物、メチン基のパラ位に特定のアミノ基を導入したベンゼン誘導体を用いる方法などが提案されている。
【特許文献1】特開2004−322564号公報
【特許文献2】特開2004−090372号公報
【特許文献3】特開2003−266954号公報
【特許文献4】特開2003−246142号公報
【特許文献5】特開2003−103935号公報
【0005】
このような有機色素を光記録媒体などに用いる方法としては、有機色素を溶媒中に溶解し、キャスティング法などにより、有機色素を含有する薄膜を形成する方法が一般的である。溶媒としては、メチルセロソルブなどセロソルブ系溶媒が一般的に用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような有機色素では、キャスティング後、溶媒が揮発する際に結晶化しやすく、不良の原因となっていた。また上記有機色素は、セロソルブ系溶媒に対する溶解度が十分でなく、有機色素が不均一に分散しやすいものであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、下記(化1)に示した一般式(A)で示される4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体のうち、(A)式中のR〜Rがそれぞれ下記の官能基または原子のうちいずれかである4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体を含有する化合物を有機色素として用いることを上記課題の主要な解決手段とする。
【化1】

〜Rは、水素原子、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基(1〜3位のいずれかで枝分かれしているものを含む)、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル基のうち、いずれかの官能基または原子であり、
は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基(1〜3位のいずれかで枝分かれしているものを含む)、炭素数1〜3のカルボキシアルキル基のうち、いずれかの官能基または原子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機色素は、いわゆる青色レーザーに適した吸収体を持ちつつ、キャスティング法などで薄膜形成後、有機溶剤が揮発する際にも結晶化しにくく、かつセロソルブ系溶媒に対する溶解性に優れているものである。
【0009】
なかでも、下記構造式で表される4−フェニルアリリデンヒダントインについては、有機溶剤が揮発する際にも結晶化しにくく、かつセロソルブ系溶媒に対する溶解性に優れている有機色素化合物であることが実験的にも明確となった。
化合物(a)
【化2】

【0010】
さらに、本発明の有機色素は、上記キャスティング法のような湿式塗布以外にも蒸着法、スパッタリング法によっても基板上に成膜させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明につき詳細に説明する。本発明は、有機色素として、下記一般式(A)によって示される有機化合物を用いたものである。以下に前記一般式(A)において表される化合物について説明する。
【0012】
【化1】

【0013】
(A)式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または任意の置換基を表し、任意の置換基はさらに置換されていても良い。該任意の置換基の例としてR〜Rはフッ素、塩素、臭素等のハロゲン;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等の置換されても良い炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基;ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基などの置換されても良い炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキルオキシ基;アミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モノn-プロピルアミノ基、ジn-プロピルアミノ基、モノイソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の置換されても良い炭素数1〜4の直鎖または分岐のアミノ基;カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等の置換されても良い炭素数1〜20の直鎖または分岐のカルボン酸エステル基;シアノ基;ニトロ基等が挙げられる。
【0014】
該任意の置換基の例としてRはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などの置換されても良い炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基;下記(化3〜化5)の−RCOOHで表されるアルキルカルボキシル基;下記(化6〜化15)の−RCOORで表される下記のアルキルカルボン酸エステル基が挙げられる。
【0015】
アルキルカルボキシル基(−RCOOH)
【化3】

【化4】

【化5】

【0016】
アルキルカルボン酸エステル(−RCOOR
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【0017】
一般式(A)で示される本発明化合物は、たとえば下記(化16)に示した反応式を経て合成することができる。
【化16】

【0018】
等モルのヒダントインまたはそれから誘導される化合物とシンナムアルデヒドまたはシンナムアルデヒドより誘導される化合物と水を混ぜ合わせ、グリシンとカセイソーダの存在下で90〜100℃で5〜6時間反応させる。析出した結晶を濾過し取り、水で充分に洗浄し、アルコールで洗浄すると高純度の4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体である化合物が得られる。再結晶溶媒としてはメチルイソブチルケトン以外に例えばメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の低級エステル類等が挙げられる。
【0019】
本発明の有機色素を製膜して用いる方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法などが一般的であるが、コスト面ではスピンコート法が望ましい。
【0020】
ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等により塗布する場合の塗布溶媒としては、基板を侵さない溶媒であればよく、特に限定されない。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の鎖状炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環状炭化水素系溶媒;テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール等のフルオロアルキルアルコール系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシカルボン酸エステル系溶媒等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明で実施した本発明の有機色素に用いる化合物の合成法及び化合物の特性を示す。ただし合成方法はこれに限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
〔化合物の合成〕
化合物(a);4−フェニルアリリデンヒダントインの合成
【化2】

【0023】
1Lの4つ口フラスコに玉付きコンデンサー、温度計、撹拌機を取り付け、シンナムアルデヒド 13.2g(0.10mol)、ヒダントイン
10.0g(0.10mol)、32%NaOHaq 5.0g(0.04mol)、グリシン 5.7g(0.08mol)、水 40mLを混合して90〜100℃にて7〜8時間撹拌した。冷却後、固体を濾過し取り、よく水洗して60℃の乾燥機にて、淡褐色の固体を収率67.2%で14.4g得た。また、これを2‐プロパノールでリパルプして褐色の結晶を得た。融点221.1〜222.7℃、2‐プロパノール溶解度は0.1wt%未満、エチルセロソルブ溶解度は5wt%以上であった。
【0024】
また、化合物(a)の紫外〜可視吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長λmaxは、349nmであり、この時の吸光度εは、20200であった。スペクトルを図1に示す。スペクトルの測定条件は次のとおりである。
<測定条件>
装置:UV-2450((株)島津製作所製)
測定波長:250〜500nm
【0025】
また、この化合物を高感度C,H,Nにて定量した。
<測定装置>
酸素循環燃焼・TCD検出方式 NCH定量装置
スミグラフ NCH−21型(住化分析センター製)
<測定結果>
C12H10N2O2としての計算値
C(%)67.3;H(%)4.7;N(%)13.1
実測値 C(%) ;H(%) ;N(%)
【0026】
また、HPLC分析により、純度を測定した。
<測定条件>
装置:LC−6A((株)島津製作所製)
使用カラム:SUMIPAX ODS A−212 5μm 6mmφ×15cm
カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル:水:0.1Mリン酸水溶液=4:5:1
流速:1.0mL/min
<測定結果>
HPLC面百純度95.4%
【0027】
また化合物(a)の赤外線吸収スペクトルも測定した。測定条件は次のとおりである。
装置:FTIR−8400S((株)島津製作所製)
検体:1/200(KBr)
上記条件で測定した化合物(a)の赤外線吸収スペクトルを図3に示す。
【0028】
〔塗布膜としたときの評価〕
上記で得られた化合物(a)をエチルセロソルブに対して2.0wt%になるよう調整した。次にガラス板(7.5cmx2.5cm,厚さ約1mm)をポリカーボネート円盤(直径12cm,厚さ約1.2mm)に貼り付け、回転数500〜600rpmで回転させた。回転しているガラス板上にガラス板上に調製した上記化合物(a)のメチルセロソルブ溶液を滴下し、スピナー法により塗布した。塗布後、風乾させることで、化合物(a)が膜化して付着しているガラス板を得た。得られたガラス板上に膜化した化合物(a)の結晶性を目視で調べた。また膜化したときの紫外線〜可視光吸収スペクトルを測定した。塗布膜状態でのスペクトルは図2に示す。また最大吸収波長を求めたところ、λmaxは、357nmであった。
【0029】
(評価)
これらの評価の結果をまとめて表1に示す。なお表1中IPAは、2‐プロパノール(イソプロピルアルコール)、ECは、エチルセロソルブを意味する。
【0030】
【表1】


化合物(a)は、エチルメチルソルブに対する溶解度が大きく、また塗布膜の結晶性が良いことがわかる。また紫外〜可視光吸収スペクトルから、塗布膜の状態では、溶液に溶解させた場合よりも最大吸収波長が長波長側に移動し、またスペクトルもブロードになっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の有機色素は、一般の色材としても使用できるものであるが、いわゆる青色レーザーを用いる光記録媒体用の色素として好適に利用できる。また、これら本発明の有機色素に用いる化合物は、金属錯体の配位子とすることもでき、本発明の化合物を配位子とした有機金属錯体もまた有機色素として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】化合物(a)の紫外〜可視吸収スペクトルである。
【図2】化合物(a)の塗布膜の状態での紫外〜可視吸収スペクトルである。
【図3】化合物(a)の赤外吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(A)で示される4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体のうち、
(1)式中のR〜Rがそれぞれ下記の官能基または原子のうちいずれかである4−フェニルアリリデンヒダントイン誘導体を含有する有機色素。
【化1】

〜R=水素原子、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基(いずれかの位置で枝分かれしているものを含む)、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル基
=水素原子、炭素数1〜20のアルキル基(いずれかで枝分かれしているものを含む)、炭素数1〜3のカルボキシアルキル基
【請求項2】
前記一般式(A)におけるR〜Rが、下記(a)記載の組み合わせである4−フェニルアリリデンヒダントイン化合物。
(a) R,R,R,R=H

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−308599(P2007−308599A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139224(P2006−139224)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(301000675)シプロ化成株式会社 (33)
【Fターム(参考)】