説明

4−(2−フルオロフェニル)−6−メチル−2−(ピペラジン−1−イル)チエノ(2,3−D)ピリミジンの結晶形態

本発明は、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩結晶形態を含む、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の新規な結晶形態に関する。本発明はまた、そのような結晶形態を含む組成物ならびにそのような結晶形態を作成する方法および、例えば、胃腸障害および/または泌尿生殖器障害の治療にそのような結晶形態を使用する方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2006年3月31日出願の米国特許仮出願第60/788,338号、および2006年5月26日出願の米国特許仮出願第60/808,603号に関し、それらに対する優先権を主張する。これらの出願の内容は、その全文が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
チエノ[2,3-d]ピリミジン誘導体は、様々な鬱病性障害および脳の高次機能障害の治療のために初めて導入された。例えば、米国特許第4,695,568号(特許文献1)を参照のこと。例えば、例示的なチエノ[2,3-d]ピリミジン誘導体を投与されたラットは、受動的回避反応試験において最大約50%の記憶機能の改善を示す。その時以来、このような化合物が、例えば、下部尿路障害の治療のため(例えば、米国特許第6,846,823号(特許文献2)参照)、機能性腸障害の治療のため(例えば、米国特許出願公開第2005/0032780号(特許文献3)参照)、ならびに吐気、嘔吐、および/または悪心の治療のため(例えば、米国特許出願公開第2004/0254171号(特許文献4)参照)にも有用であり得ることが示されている。
【0003】
4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩を含む、これらの既に開示されたチエノ[2,3-d]ピリミジン誘導体は、保存に適した化学安定性を示すと思われる。しかしながら、製造技術はしばしば再現可能な製剤特性を備えるますます安定な組成物を要求する。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,695,568号
【特許文献2】米国特許第6,846,823号
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0032780号
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0254171号
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
新規な固体形態の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン、例えば、多形の塩酸塩形態が、本発明において同定された。それは、例えばこのような製造の懸念に対処し、既存の形態よりも改良された特性および明白な利点を有する。このような特性には安定性および取り扱い特性(濾過性、乾燥性、圧縮性など)が含まれる。例えば、本発明の化合物は、一般に、良好な吸湿安定性および光安定性を提示する。
【0006】
従って、一局面では、本発明は、形態IIの結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩に関する。一部の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインのうちの少なくとも2ラインにより特徴付けられる。その他の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインのうちの少なくとも5ラインにより特徴付けられる。さらにその他の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンの最初の5ラインにより特徴付けられる。なおその他の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインにより特徴付けられる。一部の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンにより特徴付けられる。その他の態様では、結晶形態は、図3に示される重量測定による蒸気収着アッセイ(gravimetric vapor sorption assay)により特徴付けられる。
【0007】
もう一つの局面では、本発明は、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の吸湿安定性のある結晶形態を提供する。一部の態様では、吸湿安定性のある結晶形態は重量測定による蒸気収着アッセイに基づいて約4重量%未満の水分を吸収する。
【0008】
一部の態様では、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩には、約3重量%未満の水分が含まれる。その他の態様では、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩には、約2重量%未満の水分が含まれる。
【0009】
さらにその他の局面では、本発明は、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の光安定性の結晶形態を提供する。一部の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、少なくとも約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後に実質的な色変化を提示しない。
【0010】
一部の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約2ヶ月間供された後に実質的な色変化を提示しない。その他の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後に実質的な色変化を提示しない。その他の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約6ヶ月間供された後に実質的な色変化を提示しない。さらにその他の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後に実質的な色変化を提示しない。一部の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後に実質的な色変化を提示しない。
【0011】
さらにその他の局面では、本発明は、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の熱安定性の結晶形態を提供する。一部の態様では、熱安定性の結晶形態は、約室温〜約50℃の間の温度にて、実質的に化学的に、かつ/または物理的に安定である。一部の態様では、熱安定性の結晶形態は、約室温〜約100℃の間の温度にて、実質的に化学的に、かつ/または物理的に安定である。一部の態様では、熱安定性の結晶形態は、約室温〜約250℃の間の温度にて、実質的に化学的に、かつ/または物理的に安定である。
【0012】
本発明の一部の局面では、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後に実質的なHPLC変化を提示しない。一部の態様では、結晶形態は、標準的な照明条件下、約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約2ヶ月間供された後に実質的なHPLC変化を提示しない。その他の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後に実質的なHPLC変化を提示しない。さらにその他の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後に実質的なHPLC変化を提示しない。一部の態様では、光安定性の結晶形態は、標準的な照明条件下、約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後に実質的なHPLC変化を提示しない。
【0013】
一部の局面では、本発明は、以下の特性を備える単結晶X線解析により特徴付けられる、結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩に関する:a=23.2322(15)Å;b=7.1771(5)Å;c=10.6589(7)Å;α=90°;β=102.292(2)°;およびγ=90°。一部の態様では、結晶形態は、以下の特性を備える単結晶X線解析によりさらに特徴付けられる:空間群=P21/c;z=4(分子/単位格子);および/または計算密度(Dc)=1.406 g/cm3
【0014】
一局面では、本発明は、図5に示されるORTEPモデルにより特徴付けられる、結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩に関する。もう一つの局面では、本発明は、形態IIIの結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩に関する。一部の態様では、本発明の形態IIIは、4.0 2θ、14.5 2θ、15.4 2θまたは16.7 2θでXRPDピークを提示する。
【0015】
一部の態様では、結晶形態は、実質的に化学的に、かつ/または物理的に純粋であってもよい。
【0016】
一部の局面では、本発明は、本明細書において記載される結晶形態のいずれかおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物に関する。
【0017】
一部の局面では、本発明はまた、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態を調製するためのプロセスに関する。該プロセスには、一般に、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態が形成されるような時間、適した溶媒中の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩を約室温〜約50℃の間の温度に加熱することが含まれ得る。該プロセスは、さらに、またはその代わりに、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態、例えば、形態IIの塩酸塩が形成されるように、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩を、約200℃を超える温度に加熱することが含まれ得る。
【0018】
一部の局面では、本発明は、被験体において胃腸管障害および/または泌尿生殖器障害を治療するための方法を提供する。該方法には、一般に、胃腸管障害および/または泌尿生殖器障害が治療されるように、被験体へ治療上有効量の本明細書において記載される結晶形態のいずれかを含む組成物を投与する段階が含まれる。胃腸管障害または泌尿生殖器障害は、本明細書において記載されるいずれかの胃腸障害または泌尿生殖器障害であってもよい。例えば、胃腸管障害または泌尿生殖器障害としては、非限定的に、機能性腸障害、過敏性腸症候群、下痢を伴う過敏性腸症候群、慢性機能性嘔吐、過活動膀胱またはそれらの組合せが含まれる。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも一部は、現在利用可能な4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩とは異なる、例えば、向上した安定性プロフィールを有する4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジンの新規な結晶形態の発見に基づく。
【0020】
本発明は、開示される具体的な態様に限定されることなく、変更およびその他の態様が添付の特許請求の範囲内に含められることは当然理解される。具体的な用語が本明細書において採用されているが、それらは一般的かつ説明的な意味でのみ用いられており、限定するために用いられているのではない。しかしながら、本発明がより容易に理解されるように、特定の用語を最初に定義する。
【0021】
注意されるべきは、本明細書において単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」には、別に指定されない限り「少なくとも1つ」および「一つまたは複数」が含まれる。従って、例えば、「薬理学的に許容される担体」への言及には、2つまたはそれ以上の担体の混合物ならびに単一の担体などが含まれる。
【0022】
また、本出願中の全ての数値は、別に指定されない限り、「約」という用語で修飾されると考えられると理解される。
【0023】
本明細書において、用語「光安定性の」とは、所与の時間周囲光に曝露された場合にそれを変色に対して抵抗性にする対象または材料の特性を指す。光安定性材料にはまた、その後の変化が最小限である望ましい色への制御された色変化を提示する材料も含まれ得る。また、光安定性材料には、所与の時間光に曝露された場合にそれらの含量の80%、85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上を維持するために十分なほど光に対して抵抗性である材料も含まれ得る。例えば、光安定性材料は、光に曝露された場合に約20%、15%、10%、5%、2%、1%またはそれ未満が減成され得る。用語「光」には、周囲光またはその他の標準的な照明条件、例えば、実験室の設定での蛍光灯、ならびにさらに強い光、例えば、ライトボックスまたはランプからの直接の光が含まれ得る。また、光安定性とは、その他の結晶形態、例えば、形態Iの光安定性に対する本発明の結晶形態の光安定性を指す。一部の態様では、本発明の結晶形態は、同一または比較できる光条件下でその他の形態よりも0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、75%、またはさらに90%多く光安定性である。例えば、形態Iが標準的な照明条件下で10重量%を減成する場合、本発明の光安定性結晶形態は、0.2%多く光安定性である、すなわち標準的な照明条件下で9.8%またはそれ未満を減成し得る。同様に、さらなる例において、形態Iが促進照明条件下で15重量%を減成する場合、本発明の光安定性結晶形態は、促進照明条件下で6.7%多く安定性である、すなわち8.3%またはそれ未満を減成し得る。列挙された値の間の全ての値は、本明細書において包含されることが意味される。
【0024】
本明細書において、用語「吸湿安定性のある」とは、それを相当量の水分の吸収に対して抵抗性にする対象または材料の特性を指す。本発明の目的において、吸湿安定性のある材料は、一般に、約4重量%より多くの水分を吸収しない。一部の態様では、吸湿安定性のある材料は、約4%、3%、2%、1%またはさらに0.5%より多くの水分を吸収しない。列挙された値の間の全ての値は、本明細書において包含されることが意味される。このような特性は、製剤化の間、例えば、カプセル剤または錠剤の製造の間の有効成分の重量変化に関連する潜在的な問題を軽減し得る。
【0025】
本明細書において、用語「熱安定性の」とは、高温に曝露された場合にそれを化学的もしくは物理的な減成に対して抵抗性にする対象または材料の特性を指す。熱安定性材料はまた、所与の時間熱に曝露された場合にそれらの含量の90%、95%、98%、99%またはそれ以上を維持するために十分なほど熱に対して抵抗性である材料も含まれ得る。例えば、熱安定性材料は、熱に曝露された場合に約10%、5%、2%、1%またはそれ未満が減成され得る。列挙された値の間の全ての値は、本明細書において包含されることが意味される。一部の態様では、本発明の熱安定性の結晶形態は、約室温〜約50℃の間の温度で安定性である(例えば、化学的に、かつ/または物理的に安定性である)。その他の態様では、本発明の熱安定性の結晶形態は、約室温〜約100℃の間の温度で安定性である。一部の態様では、本発明の熱安定性の結晶形態は、約室温〜約250℃の間の温度で安定性である。
【0026】
本発明の状況において、「実質的に純粋な」という言葉(結晶形態に言及する場合)は、任意のその他の検出可能な結晶形態および/または任意のその他の検出可能な不純物を含まない形態を含むことが意図される。この言葉には、微量のその他の結晶形態および/または不純物の混合した結晶形態がさらに含まれる。例えば、本発明の混合物には、(重量で)約6%未満、約5%、4%、3%、2%、または1%未満のその他の結晶形態が含まれ得る。加えて、一部の態様では、実質的に純粋な形態の結晶形態は、一般に、約3%未満の総不純物、約2%またはさらに1%未満の不純物、約4%、3%、2%、またはさらに1%未満の水、および約0.5%未満の残留有機溶媒を含有し得る。その他の態様では、本発明は、微量より多くの水分または残留有機溶媒、例えば、溶媒和物の場合、水和物もしくは半水和物またはその他の化学量論的なおよび非化学量論的な水和物を含有する。
【0027】
結晶形態
一局面では、本発明は、本明細書において式Iとして示される4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態に関する:

式中、矢印は塩の窒素および水素上の孤立電子対間の相互作用を表示し、Xは塩の対イオンである。対イオンは、塩形態の本発明の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジンまたはその任意の結晶形態、例えば、吸湿安定性の、熱安定性の、または光安定性の結晶形態を生じることのできる任意の対イオンであってもよい。一態様では、対イオンは塩素である。4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩はMCI-225としても公知である。
【0028】
本明細書において、用語「結晶形態」とは、一般に、固定されたかまたは識別可能な幾何学模様または格子に配置される、明確な形状および規則正しい配置の構造単位を通常有する固体状態の形態を指す。このような格子は、識別可能な単位格子を含み、かつ/またはX線照射に供された場合に回折ピークを生じ得る。結晶形態としては、非限定的に、水和物、半水和物、溶媒和物、半溶媒和物、多形および擬似多形が含まれ得る。「水和物」とは、一般に、結晶形態の各分子が、一個または複数個の水分子と会合している化合物を指す。「半水和物」とは、一般に、結晶形態の2個の分子が1個の水分子と会合している化合物を指す。「溶媒和物」とは、一般に、結晶形態の各分子が、一個または複数個の溶媒分子と会合している化合物を指す。さらに、半溶媒和物(例えば、ヘミエタノレート)とは、一般に、結晶形態の2個以上の分子が1個の溶媒分子と会合している化合物を指す。
【0029】
一部の態様では、用語「結晶形態」には、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩の形態I、IIおよびIIIの一つまたは複数が含まれる。その他の態様では、用語「結晶形態」には、さらなる形態の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩が含まれる。さらにその他の態様では、用語「結晶形態」には、その他の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の形態が含まれる。いかなる特定の理論に縛られるものではないが、例えば、規制の認可(regulatory approval)に必要な、かつ製剤の容易さおよび均一性のために必要な純度レベルおよび均一性への化合物の製造の際に本発明の化合物が結晶形態に単離される場合に、利点が生じ得ると考えられる。
【0030】
本明細書において、用語「多形」とは、固体状態の化合物の分子の少なくとも2種類の異なる配置の可能性の結果生じる、式(I)で表される化合物の固体の結晶相を指す。概して、多形にはそれらの結晶格子が異なる化合物が含まれる。所与の化合物の多形は、結晶構造は異なるが、液体または気相状態は同一である。さらに、溶解度、融点、密度、硬度、結晶の形状、光学的および電気的特性、蒸気圧、安定性などは全て、結晶形態と共に変化し得る。Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, Mack Publishing Co. (1990), Chapter 75, pages 1439-1443。本明細書において、用語「擬似多形」とは、固体状態の化合物の分子の少なくとも2種類の異なる溶媒和または水和形態の可能性の結果生じる、式(I)で表される化合物の固体の結晶相を指す。
【0031】
一部の態様では、本発明の結晶形態は、物理的に、かつ/または化学的に安定性である。本明細書において、用語「安定性である」とは、化合物、例えば、本発明の結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩への言及において用いられる場合、従来利用可能な化合物、例えば、「形態I」の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩よりも安定性である化合物を指す。「安定性」とは、一般に、その特性、例えば、化学的または物理的な特性、例えば、非限定的に、化学構造、色、結晶化度、水分含量などの一つまたは複数を、所与の時間維持する化合物の能力を指す。例えば、一部の態様では、安定性の向上した結晶形態は、少なくとも約1週、2週、3週、4週、3ヶ月、6ヶ月、1年、5年、10年以上の間安定性である。一部の態様では、安定性は標準的な保存条件、例えば、約室温および40%の相対湿度で測定される。その他の態様では、安定性は標準的な保存条件よりも極端な条件で、例えば、約40℃および75%の相対湿度または約60℃および75%の相対湿度で測定される。
【0032】
一部の態様では、本発明の結晶形態は吸湿安定性である。吸湿安定性は、当業者に公知の多数の方法で、例えば、重量測定による蒸気収着(GVS)分析を用いて、かつ/または、数種類の飽和塩溶液の保存後に重量の変化を測定することにより、測定することができる。一部の態様では、本発明の結晶形態は、例えば、重量測定による蒸気収着アッセイに基づいて重量で測定して約4%未満の水分を吸収する。一部の態様では、本発明の結晶形態は、約3重量%未満の水分、またはさらに約2重量%未満の水分を吸収する。これらの値間およびこれらの値よりも低い全ての値が本発明に包含されることは当然理解される。
【0033】
一部の態様では、本発明の結晶形態は光安定性である。光安定性も当業者に公知の多数の方法で、例えば、視覚によってまたは顕微鏡によって測定することができる。一部の態様では、本発明の結晶形態は、40℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも4週間供された後で実質的な色変化を提示しない。一部の態様では、本発明の結晶形態は、40℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも10週間供された後で実質的な色変化を提示しない。一部の態様では、本発明の結晶形態は、60℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも4週間供された後で実質的な色変化を提示しない。一部の態様では、本発明の結晶形態は、60℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも10週間供された後で実質的な色変化を提示しない。一部の態様では、そのような安定性は、標準的な光条件下で提示される。その他の態様では、そのような安定性は、促進光条件下で提示される。本明細書において、語句「実質的な色変化のない」とは、色、色相、色調、色の純度または色の暗さにほとんどまたは全く変化がないことを指す。語句「実質的な色変化のない」はまた、その他の結晶形態、例えば、形態Iと比較して色、色相、色調、色の純度または色の暗さの変化が少ないこともさし得る。例えば、一つまたは複数のその他の結晶形態に観察される色変化のほうが強い場合、中程度の色変化でさえも本発明では許容される。一部の態様では、本発明の結晶形態は、実質的な色変化を提示するものの、その他の結晶形態、例えば、形態Iよりも少ない色変化を提示する。
【0034】
一部の態様では、光安定性の結晶形態は、40℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも4週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない。一部の態様では、結晶形態は、40℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも2ヶ月間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない。一部の態様では、本発明の結晶形態は、40℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも10週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない。一部の態様では、本発明の結晶形態は、60℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも4週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない。一部の態様では、本発明の結晶形態は、60℃の温度および75%の相対湿度に少なくとも10週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない。一部の態様では、そのような安定性は、標準的な光条件下で提示される。その他の態様では、そのような安定性は、促進光条件下で提示される。一部の態様では、本発明の結晶形態は何らかのHPLC変化を提示するものの、その他の結晶形態、例えば、結晶性の形態Iよりも少ないHPLC変化を提示する。
【0035】
その他の態様では、本発明の結晶形態は、変動条件下、例えば、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃またはそれ以上の温度にて、50%、60%、70%、80%、90%、またはさらに100%の相対湿度(RH)で、1週、2週、3週、4週、3ヶ月、6ヶ月、1年、5年、10年以上の期間、その他の結晶形態と比較して、実質的な色変化、実質的なHPLC変化を提示せず、かつ/または優れた色/HPLC変化を提示する。列挙される値および範囲の間の全ての値および範囲、例えば、52℃の温度と57%の相対湿度で2ヶ月間は本発明に包含されることを意味することは当然理解される。このような条件は、所望の有効期間、湿度、光条件、および/または温度に応じて調整することができることを当業者であれば理解する。例えば、90℃および95%のRHで保存された試料は、40℃および50%のRHで保存された試料と同程度に長い間安定なままでいることはできない。そのような調整は過度の実験を行わずとも行うことができる。
【0036】
その他の態様では、本発明の結晶形態は実質的に純粋である。さらにその他の態様では、本発明の結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩は塩酸塩である。
【0037】
一部の態様では、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の様々な結晶形態は、それらの結晶解析により形態Iと区別される。本発明の結晶形態が、結晶解析における任意の単一の差異ならびに結晶解析における複数の差異によって特徴付けられ得ることは当然理解される。結晶解析における差異は、任意の測定可能な結晶特性により示すことができ、それには、非限定的に、異なる空間群、異なる密度、および異なる単位格子特性(例えば、辺寸法または角度)が含まれる。例えば、一態様では、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩の結晶形態は、以下の特性をもつ単結晶X線解析により特徴付けられる:a=23.2322(15)Å;b=7.1771(5)Å;c=10.6589(7)Å;α=90°;β=102.292(2)°;およびγ=90°。単結晶X線解析はまた、以下の特性を有し得る:空間群=P21/c;z=4(分子/単位格子);および/または計算密度(Dc)=1.406 g/cm3
【0038】
結晶解析における差異は、ORTEPモデルにおける差異でも示され得る。一態様では、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩の結晶形態は、図5に示されるORTEPモデルにより特徴付けられる。
【0039】
もう一つの局面では、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の異なる結晶形態は、XRPDにおける差異により特徴付けられ得る。一部の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインのうちの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10ラインにより特徴付けられる。さらにその他の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンの最初の4、5、6、7、8、9または10ラインにより特徴付けられる。なおその他の態様では、結晶形態は、図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインにより特徴付けられる。
【0040】
4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩の形態IおよびIIの例示的なXRPDピーク(図1および2に示されるとおり)を下の表1に列挙する。一局面では、本発明は、形態IIの結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩に関する。従って、一部の態様では、結晶形態は、「形態2」の下に表1に列挙される一つまたは複数のピークにより特徴付けられる。
【0041】
(表1)

【0042】
もう一つの局面では、本発明は、形態IIIの結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩に関する。一部の態様では、結晶性の形態IIIは、4.0 2θ、14.5 2θ、15.4 2θまたは16.7 2θでXRPDピークを提示する。
【0043】
一部の局面では、本発明は、本発明の結晶形態を作成するための方法に関する。一部の態様では、本発明の結晶形態は、適した溶媒中で4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の試料を約200〜220℃を超える温度まで短時間加熱することにより形成される。その他の態様では、本発明の結晶形態は、適した溶媒中で4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の試料を約室温〜約50℃の間の温度まで長時間、例えば、約1時間、約5時間、約10時間、約15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間以上、交互に加熱および冷却することにより形成される。従って、一部の局面では、本発明は、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態を調製するためのプロセスに関する。このプロセスは、一般に、適した溶媒中で4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩(例えば、形態I)を約室温〜約50℃の間の温度まで、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態が形成されるような時間、交互に加熱および冷却することを含む。このプロセスは、さらにまたはあるいは、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩(例えば、形態I)を約220℃を超える温度まで、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩(例えば、形態IIの塩酸塩)の結晶形態が形成されるように加熱することを含む。用語「適した溶媒」とは、本発明の結晶形態を形成するために適当な溶媒を指す。適した溶媒は、一般に、水分をほとんどまたは全く含まない有機溶媒を含む。つまり、いかなる特定の理論に縛られるものではないが、溶媒中の水分はより多くの形態Iを生じる傾向があり得るのに対して適した乾燥有機溶媒は形態IIを生じると考えられる。当業者であれば、過度の実験を行わずとも適した溶媒を決定することが可能である。その他の態様では、本発明の結晶形態は、結晶形態を形成することが公知の任意の方法、例えば、加熱および/または結晶化技法により形成され得る。さらにその他の態様では、本発明の結晶形態、例えば、形態IIは、その他の形態、例えば、形態Iを形成するために用いる方法とは異なる方法で形成される。つまり、一部の態様では、特定の結晶形態、例えば、形態Iは、一つまたは複数の特定の結晶化技法から生じる形態であるのに対して、本発明の結晶形態は同じ技法を用いて形成することができないか、または単離することができない。一部の態様では、形態IIは、形態Iの単離に用いた結晶化技法を用いて形成することができない。
【0044】
一態様では、本発明の化合物を用いてMCI-225応答状態を治療することができる。本明細書において、用語「MCI-225応答状態」には、MCI-225(4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩)で治療されているか、または治療可能である疾病、障害、状況および/または状態が含まれる。いかなる特定の理論に縛られるものではないが、本発明の結晶形態は、MCI-225応答状態の治療においてMCI-225と同じまたは同様の効力を有すると考えられる。一部の態様では、本発明の結晶形態はMCI-225応答状態の治療においてMCI-225よりも改良された効力を有する。例えば、いかなる特定の理論に縛られるものではないが、例えば、本発明の結晶形態の改良された安定性により、改良された薬物動態作用が観察され得ると考えられる。これらの治療方法および/または使用方法において、本発明の化合物はまた、本明細書において記載される利点の少なくとも1つ、例えば、光安定性、低い水分含量、熱安定性などを有し得る。一部の治療および/または使用のための方法は、本明細書において下文で詳細に説明される。
【0045】
モノアミン神経伝達物質:
一部の態様では、本発明の化合物は、モノアミン神経伝達物質の機能に影響を及ぼす。モノアミン神経伝達物質、例えば、ノルアドレナリン(ノルエピネフリンとも称される)、セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)およびドーパミンなどが公知であり、これらの神経伝達物質における障害は多くの種類の障害、例えば鬱病などに示されている。これらの神経伝達物質は、ニューロンの末端から、シナプス間隙と呼ばれる小さい隙間を横切って移動し、第二のニューロンの表面上の受容体分子と結合する。この結合は、シナプス後ニューロンにおける応答または変化を開始または活性化する細胞内変化を誘発する。不活性化は再取り込みと称される、シナプス前ニューロンへの神経伝達物質を戻す輸送によって主に起こる。これらのニューロンまたは神経内分泌細胞は、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)の両方で見出すことができる。先行技術では、これらのモノアミン神経伝達物質の機能に影響を及ぼす化合物が公知である。単一のモノアミン神経伝達物質の機能に影響を及ぼす化合物、ならびに複数のモノアミン神経伝達物質の機能に影響を及ぼす化合物が公知である。一部の化合物は受容体部位とより強く相互作用し、他の化合物はより弱く相互作用する。さらに、一部の化合物は選択的であるが、他の化合物は非選択的である。これらの要素の全てが標的化された疾病または状態を治療する化合物の能力に影響を及ぼし得る。複数のモノアミン神経伝達物質の機能に影響を及ぼす化合物に関して、2つの受容体部位での化合物の機能間の相互作用は、必ずしも完全に理解されているわけではない。
【0046】
任意の特定の理論に縛られることを意図するものではないが、一部の態様では、本発明の化合物は、複数のモノアミン神経伝達物質の機能に影響を及ぼすと考えられる。MCI-225は二重のNARI-5-HT3受容体アゴニストであることが示されている。本明細書において、用語「二重のNARI-5-HT3受容体アゴニスト」とは、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤ならびに5-HT3受容体アゴニストの双方のような何らかの活性を有する化合物を指す。また、MCI-225はノルアドレナリン受容体部位と5-HT3受容体部位の両方で弱く相互作用し、MCI-225は非選択的であるとも考えられる。
【0047】
従って、一部の態様では、本発明の結晶形態は二重のNARI-5-HT3受容体アゴニストである。その他の態様では、本発明の化合物は、純粋にNARI活性または純粋に5-HT3受容体アゴニスト活性を有する分子と比較すると、5-HT3受容体アゴニストであるだけでなく弱いノルアドレナリン再取り込み阻害剤である。例えば、本発明の化合物は、ノルアドレナリン受容体部位と5-HT3受容体部位の両方で、該受容体のうちの一方だけでのより強い活性よりも、弱い活性を提示し得る。さらにその他の態様では、本発明の二重のNARI-5-HT3受容体アゴニストは選択的でない。つまり、一部の態様では、本発明の化合物、5-HT3受容体よりもノルアドレナリン受容体で有意に大きい活性を有さず、逆もまた同様である。
【0048】
(I)ノルアドレナリンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害剤:
従って、一部の態様では、本発明の化合物は、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤である。本明細書において、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(NARI)という用語は、ノルアドレナリン輸送体機能を阻害することのできる作用物質(例えば、分子、化合物)を指す。例えば、NARIは、ノルアドレナリン輸送体のリガンドと前記輸送体の結合を阻害することができ、かつ/または輸送を阻害することができる(例えば、ノルアドレナリンの取り込みまたは再取り込み)。そのようなものとして、被験体でのノルアドレナリン輸送機能の阻害は、結果的に生理学的に活性のあるノルアドレナリンの濃度の上昇をもたらし得る。ノルアドレナリン作動性再取り込み阻害剤およびノルエピネフリン再取り込み阻害剤(NERI)はノルアドレナリン再取り込み阻害剤(NARI)と同義であることは当然理解される。
【0049】
本明細書において、「ノルアドレナリン輸送体」とは、天然に存在するノルアドレナリン輸送体(例えば、哺乳動物ノルアドレナリン輸送体(例えば、ヒト(ホモサピエンス)ノルアドレナリン輸送体、ネズミ(例えば、ラット、マウス)ノルアドレナリン輸送体))、および対応する天然に存在するノルアドレナリン輸送体のそれと同じアミノ酸配列を有するタンパク質(例えば、組換え型タンパク質)を指す。この用語には、天然に存在する変異体、例えば多形または対立遺伝子変異体およびスプライス変異体が含まれる。
【0050】
特定の態様では、NARIは、リガンド(例えば、ノルアドレナリンなどの天然リガンド、またはニソキセチンなどのその他のリガンド)とノルアドレナリン輸送体の結合を阻害し得る。その他の態様では、NARIはノルアドレナリン輸送体と結合し得る。例えば、一態様では、NARIはノルアドレナリン輸送体と結合することができ、それによりリガンドと前記輸送体の結合を阻害し、前記リガンドの輸送を阻害することができる。別の態様では、NARIはノルアドレナリン輸送体と結合し、それにより輸送を阻害することができる。
【0051】
セロトニンおよび5-HT3受容体アンタゴニスト
一部の態様では、本発明の化合物は5-HT3受容体アンタゴニストである。本明細書において、5-HT3受容体アンタゴニストという用語は、5-HT3受容体機能を阻害することのできる作用物質(例えば、分子、化合物)を指す。例えば、5-HT3受容体アンタゴニストは、5-HT3受容体のリガンドと前記受容体の結合を阻害することができ、かつ/または5-HT3受容体に媒介される応答を阻害することができる(例えば、5-HT3のvon Bezold-Jarisch反射を惹起する能力を低下させる)。
【0052】
本明細書において、用語「5-HT3受容体」とは、例えば、ヒト胃腸管の腸ニューロン上、ならびに他の末梢および中枢の位置に、広範に分布するリガンド依存性イオンチャネルを指す。これらのチャネルの活性化および得られるニューロンの脱分極は、内臓痛、結腸通過および消化管分泌の調節に影響を及ぼすことが見出されている。5-HT3受容体の拮抗作用は腸で感覚および運動機能に影響を及ぼす可能性を有する。5-HT3受容体は、天然に存在する受容体(例えば、哺乳動物5-HT3受容体(例えば、ヒト(ホモサピエンス)5-HT3受容体、ネズミ(例えば、ラット、マウス)5-HT3受容体))、または対応する天然に存在する5-HT3受容体のそれと同じアミノ酸配列を有するタンパク質(例えば、組換え型タンパク質)であってもよい。この用語には、天然に存在する変異体、例えば多形または対立遺伝子変異体およびスプライス変異体が含まれる。
【0053】
最近の動物研究では、5-HT3受容体を標的にすることにより、下部尿路機能障害に対するさらなる治療を提供することができたと示唆されている。例えば、5-HT3受容体は、交感神経系反射および体性反射への興奮効果を媒介して出口部抵抗を増大する。さらに、5-HT3受容体は排尿反射の阻害に関与していることも示されている(Downie, J. W. (1999) Pharmacological manipulation of central micturition circuitry. Curr. Opin. SPNS Inves. Drugs 1:23)。事実、5-HT3受容体の阻害が、ウサギ排尿筋において5-HTに媒介される収縮を減少させることが示されている(Khan, M. A. et al. (2000) Doxazosin modifies serotonin-mediated rabbit urinary bladder contraction. Potential clinical relevance. Urol. Res. 28: 116)。
【0054】
特定の態様では、5-HT3受容体アンタゴニストは、リガンド(例えば、セロトニン (5-HT3)などの天然リガンド、またはGR65630などの他のリガンド)と5-HT3受容体の結合を阻害し得る。特定の態様では、5-HT3受容体アンタゴニストは5-HT3受容体と結合することができる。例えば、一態様では、5-HT3受容体アンタゴニストは5-HT3受容体と結合することができ、それによりリガンドと前記受容体の結合および5-HT3受容体に媒介されるリガンド結合に対する応答を阻害することができる。別の態様では、5-HT3受容体アンタゴニストは5-HT3受容体と結合することができ、それにより5-HT3受容体に媒介される応答を阻害することができる。
【0055】
治療の方法
本発明の化合物および組成物は、被験体において多数の胃腸障害および/または泌尿生殖器障害を治療するために有用である。従って、一部の局面では、本発明は、胃腸障害および/または泌尿生殖器障害を治療するための方法を提供する。該方法には、胃腸障害および/または泌尿生殖器障害が治療されるように、少なくとも1種類の化合物(例えば、本明細書において記載される組成物中の一つまたは複数の塩および/または結晶形態)を投与する段階が含まれる。胃腸障害は、本明細書において記載されるいずれかの胃腸障害であってもよい。さらに、泌尿生殖器障害は、本明細書において記載されるいずれかの泌尿生殖器障害であってもよい。例えば、該障害は、非限定的に、機能性腸障害、過敏性腸症候群、下痢を伴う過敏性腸症候群、慢性機能性嘔吐、過活動膀胱または任意のそれらの組合せであってもよい。障害の治療が、前記障害の少なくとも1つの症状の治療が含まれることを意味することは当然理解される。例えば、過活動膀胱の治療には、非限定的に、尿意逼迫の緩和が含まれる。
【0056】
本明細書において「治療」または「治療すること」は、障害、例えば、本明細書において記載される胃腸障害および/または泌尿生殖器障害を有する被験体へ、該疾病または障害、あるいは該疾病または障害の症状を治癒する(cure)、治癒する(heal)、軽減する、遅延させる、軽快する、変化させる、治す、回復させる、改善するまたは影響を及ぼす目的で、治療薬(例えば、本発明の塩または結晶形態)を適用または投与することとして定義される。用語「治療」または「治療すること」は、本明細書において薬剤を予防的に投与するという状況でも用いられる。用語「有効用量」または「有効投薬量」は、所望の効果を達成するか、または少なくとも一部分達成するために十分な量として定義される。用語「治療上有効用量」は、既に疾病を患っている被験体において疾病およびその合併症を治癒する(cure)かまたは少なくとも部分的に抑止するために十分な量として定義される。
【0057】
本明細書において、用語「被験体」とは、哺乳動物などの動物を指し、それには、非限定的に、ヒト、霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウスあるいはその他のウシ科、ヒツジ科、ウマ科、イヌ科、ネコ科、げっ歯類またはネズミ種が含まれる。
【0058】
胃腸障害
一部の態様では、本発明の組成物は、一つまたは複数の胃腸(GI)管障害を治療するために用いられる。胃腸管障害には、胃腸平滑筋、上皮、求心性感覚ニューロン、または中枢神経系経路の乱れが含まれ得る。胃腸管障害に関与するのが中枢機構であるか末梢機構であるか、または両方であるかに関して不確実であるにもかかわらず、多くの提案される機構には内臓感覚を媒介するニューロンと経路が関係している。
【0059】
胃腸管障害は、構造的な(または粘膜の)胃腸管障害および非構造的な(または非粘膜の)胃腸管障害として特徴付けられてきた。構造的な障害には、炎症性腸障害および非炎症性の構造的胃腸管障害が含まれる。非構造的な障害には、機能性胃腸管障害として分類される多様な障害が含まれる。
【0060】
「炎症性腸障害」は、小腸および/または大腸の炎症に関連する任意の障害を主に意図し、それには、非限定的に、潰瘍性大腸炎、クローン病、回腸炎、直腸炎、セリアック病(または非熱帯性スプルー)、血清反応陰性関節症に関連する腸疾患、顕微鏡的またはコラーゲン蓄積大腸炎、好酸球性胃腸炎、または直腸結腸切除後および回腸肛門吻合後に生じる嚢炎が含まれる。炎症性腸障害には、胃腸管の炎症または潰瘍を引き起こし得る一群の障害が含まれる。潰瘍性大腸炎およびクローン病は最も一般的な種類の炎症性腸障害であるが、コラーゲン蓄積大腸炎、リンパ球性(顕微鏡的)大腸炎、およびその他の障害も記載されている。
【0061】
「クローン病」は、その従来の意味において、瘻孔または腸外症状出現を伴う障害を含む、小腸および大腸の胃腸炎を主にさすために用いられ、限局性腸炎、回腸炎、および肉芽腫性回結腸炎を含む同義語を全て包含する。
【0062】
「直腸炎」は、その従来の意味において、直腸粘膜の炎症を指すために用いられる。
【0063】
「セリアック病」は、その従来の意味において、小腸の形態の変化(一般に絨毛の平坦化)を伴うかまたは伴わない、グルテンまたはグルテン副生成物に対して変化した感受性に主に関連する任意の障害をさすために用いられ、セリアックスプルーおよび非熱帯性スプルーを含む同義語を全て包含する。セリアック病と診断された患者は、顕著な下痢および腹痛を伴うか、または腹部不快感などの最低限の症状を伴う症候性のグルテン不耐性、および関連する疱疹状皮膚炎を有し得る。
【0064】
「大腸炎」は、その従来の意味において、大腸の炎症を指すために用いられる。
【0065】
「潰瘍性大腸炎」は、その従来の意味において、大腸の粘膜の上層の炎症および潰瘍を指すために用いられ、直腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、または汎大腸炎を含む任意の範囲であってもよい。
【0066】
「コラーゲン蓄積大腸炎」または「顕微鏡的大腸炎」は、その従来の意味において、主要な症状として水様下痢を伴う未知の病因の炎症性疾患を指すために用いられる。腸の生検では、一般に結腸の内面(上皮)の直下の標準よりも厚いコラーゲンの層(結合組織)ならびに/または上皮および上皮の下にある結合組織の層の炎症が明示される。関節炎とこの障害には関連がある。
【0067】
「好酸球性胃腸炎」は、その従来の意味において、胃腸管の生検により好酸球と呼ばれる一種の白血球細胞での浸潤が明示される状態を指すために用いられる。好酸球性胃腸炎の単一の原因はなく、多くの場合は原因がわかっていない。症状としては、食事を終える前の満腹感、下痢、腹部疝痛または疼痛、吐気および嘔吐が含まれる。喘息およびアレルギーが前記障害に関連する場合がある。
【0068】
「回腸嚢炎」は、その従来の意味において、腸手術後の腸の遠位位置での炎症を指すために用いられる。
【0069】
「リンパ球性大腸炎」は、その従来の意味において、潰瘍を伴わない大腸の炎症を指すために用いられ、顕微鏡的大腸炎を含む全ての同義語を包含する。
【0070】
本発明の化合物は潰瘍性大腸炎の治療に有用である。潰瘍性大腸炎は、大腸を苦しめる未知の病因の慢性炎症性疾患であり、非常に重篤である場合を除いて、腸粘膜に限定される。この障害の経過は連続的または再発性であり、穏和または重篤であり得る。医学的治療には、サリチル酸塩誘導体、プレドニゾンまたはプレドニゾン酢酸塩などのグルココルチコステロイド、および患者の臨床状態に依存する抗代謝産物の使用が主に含まれる。そのような治療は多数の副作用があるだけでなく、より重篤な慢性の症例においては疾病を排除するための結腸の外科的切除が必要とされる可能性もある。
【0071】
本発明の化合物はクローン病の治療にも有用である。潰瘍性大腸炎のように、クローン病(限局性腸炎、回腸炎、または肉芽腫性回結腸炎としても公知)は未知の病因の慢性炎症性疾患である;しかしながら、該疾病の位置および病理は異なる。クローン病は、一般に、小腸、大腸または2つの位置の組合せのいずれかに現れ、筋肉のずっと奥および腸壁内に位置する漿膜に炎症を起こし得る。該障害の経過は連続的または再発性である可能性があり、軽度または重篤である可能性がある。医学的治療としては、サリチル酸塩誘導体、グルココルチコステロイド、抗代謝産物の連続的使用、および抗TNF抗体の投与が含まれる。多くのクローン病患者が、該疾病に関連する問題のために腸手術を必要とするが、潰瘍性大腸炎とは違ってその後の再発がよく起こる。
【0072】
本発明の化合物は、コラーゲン蓄積大腸炎およびリンパ球性大腸炎の治療にも有用である。コラーゲン蓄積大腸炎およびリンパ球性大腸炎は、結腸の特発性炎症性障害であり、一般に中年または高齢の個体において水様下痢を引き起こす。リンパ球性大腸炎は、肥厚した上皮下のコラーゲン性の層が存在しないことでコラーゲン蓄積大腸炎と区別される。Pepto-Bismolの形態のビスマスは一部の患者では効果的治療であり得るが、より重篤な症例にはサリチル酸塩誘導体、抗生物質、例えばメトロニダゾール、およびグルココルチコステロイドなどの使用が必要とされ得る。
【0073】
用語「非構造的な胃腸管障害」または「非粘膜の胃腸管障害」とは、胃腸管の構造的異常または粘膜異常に関連せず、関連する代謝の乱れの根拠もない、非限定的に機能的胃腸管障害を含む任意の胃腸管障害を指す。
【0074】
本発明の化合物は、機能性胃腸管障害の治療にも有用である。「機能性胃腸管障害」により、粘膜または構造的な損傷がない場合、あるいは代謝障害がない場合に、運動または感覚機能の乱れに関係する任意の胃腸管障害が意図される。機能性胃腸管障害としては、機能的嚥下障害、非潰瘍性消化不良、過敏性腸症候群(IBS)、輸送遅延型便秘および排出障害が含まれる。(Camilleri (2002) Gastrointestinal Motility Disorders, In WebMD Scientific American Medicine, edited by David C. Dale and Daniel D. Federman, New York, NY, WebMD)。機能性胃腸管障害は、代謝の変化または構造的異常の形跡のない腹部型症状の提示により特徴付けられる。
【0075】
一部の態様では、機能性胃腸管障害は機能性腸障害である。機能性腸障害(FBD)は、中間または下部の胃腸管に起因する症状を有する機能性の胃腸障害である。FBDとしては、非限定的に、過敏性腸症候群(IBS)、機能性腹部鼓脹、機能性便秘および機能性下痢を含むことができる(例えば、Thompson et al., Gut, 45 (Suppl. II): II43-II47(1999)参照)。これらの障害のうち、IBSだけで毎年最大約350万の通院を占め、胃腸科医の行う最も一般的な診断であり、全ての患者の約25%を占める(Camilleri and Choi, Aliment. Pharm. Ther., 11:3-15 (1997))。
【0076】
一部の態様では、本発明の化合物および組成物は、IBSの治療に有用である。現在、IBSのための治療には、ストレス管理、食事療法、および薬物が含まれる。しかしながら、このような治療は、望ましくない副作用または制限された有効性を有し得る。IBSに容易に特定可能な構造的または生化学的異常がないことに起因して、医学界は、IBSの診断を助けるために、Rome II判定基準として公知の、合意の定義づけおよび判定基準を開発した。従って、IBSの診断は排他の一つであり、任意の所与の症例において観察された症状に基づいている。診断基準、例えば、IBSに対するRome II判定基準には、連続している必要はないが、先行する12ヶ月で少なくとも12週の、以下の3つの特徴、(1)排便による軽快;および/または(2)便の頻度の変化に関連する発症;および/または(3)便の形態(外見)の変化に関連する発症のうち2つを有する腹痛または不快感が含まれる。
【0077】
その他の症状、例えば、異常な便の頻度(研究目的のためには「異常」は、1日3回より多い、および1週間に3回未満と定義され得る);異常な便の形態(ごつごつした/硬いまたはゆるい/水様の便);異常な便の通過(いきみ、切迫、または不完全な排便感);粘液の通過;鼓腸および/または腹部膨満感などが、累積的にIBSの診断を補助する。
【0078】
IBSは、IBS便秘型(IBS-c)、IBS下痢型(IBS-d)およびIBS交替型(IBS-a)を含む、多数の変種として現れ得る。例えば、IBS-cは、例えば、1週間に3回未満の便頻度およびいきみなどの症状に関連し得る、それに対してIBS-dは、例えば、1日3回より多い便頻度またはゆるい/水様の便などの症状に関連し得る。IBS交替型は、一般に、IBS-c症状とIBS-d症状の両方の徴候に関連する。本発明の化合物は全ての徴候に有用であるが、一部の態様では、本発明の化合物は、機能性腸を遅延緩徐化する際に有用である。そのような化合物はIBS-dに部分的に効果的である。
【0079】
さらに、IBSを有する被験体は内臓の過敏症を提示し、行動学的研究の示したその存在はIBSにおいて最も一貫した異常である。例えば、患者および対照をバルーンにより誘導されるS状結腸の進行性の膨張に応答する疼痛閾値について評価した。同じ容積の膨張で、患者には対照に比べて高い疼痛スコアが報告された。この知見は多くの研究において再現されており、コンピューター化された膨張装置である圧調節器の導入によって、膨張手順は標準化された。内臓の過敏症の2つの概念である、痛覚過敏および異痛が取り入れられている。より具体的には、痛覚過敏とは、少ない腔内容積で正常な内臓感覚が経験される状態を指す。一方、異痛の知見については、正常な内部感覚を通常生じる容積で疼痛または不快感が経験される(例えば、Mayer E. A. and Gebhart, G. F., Basic and Clinical Aspects of Chronic Abdominal Pain, Vol 9, 1.sup.st ed. Amsterdam: Elsevier, 1993:3-28参照)。
【0080】
そのようなものとして、IBSは、腹痛または不快感が排便または用便習慣の変化に関係する機能性腸障害である。従って、IBSは腸の運動障害、内臓感覚障害、および中枢神経障害の要素を有する。IBSの症状は生理学的基礎を有するが、IBSに特有の生理学的機構は同定されていない。一部の例では、健康な個体において時折腹部不快感をもたらすものと同じ機構が働いてIBSの症状を生じる。従って、IBSの症状は腸管の運動反応性における量的な違い、および刺激または自発的収縮に対する感受性の増大の産物である。
【0081】
本発明の化合物は、非潰瘍性消化不良の治療にも有用である。非潰瘍性消化不良(NUD)は、確立された病因をもたない機能性胃腸管障害のもう一つの顕著な例である。NUDに関連する症状としては、吐気、嘔吐、疼痛、早期満腹感、鼓腸および食欲の喪失が含まれる。胃内容排出の変化および胃感受性の増大および苦悩がNUDに寄与し得るが、その症状を完全に説明しない。治療には、行動療法、心理療法、または抗うつ薬、運動性調節薬、制酸薬、H2受容体アンタゴニスト、およびプロキネティックス(prokinetics)の投与が含まれる。しかしながら、これらの治療の多くは多くの患者において限定された有効性を示している。
【0082】
上記の構造的/非構造的分類に加えて、胃腸管障害は、Sleisenger and Fordtran's Gastrointestinal and Liver Disease, 6th Ed. (W.B. Saunders Co. 1998); K.M. Sanders (1996) Gastroenterology, 111: 492-515; P. Holzer (1998) Gastroenterology, 114: 823-839; および R.K. Montgomery et al. (1999) Gastroenterology, 116: 702-731に記載されるような、胃腸管の異なる部分の解剖学的、生理学的、および他の特性に基づいて下位分類され得る。例えば、酸消化性障害(acid peptic disorder)は、一般に、胃液分泌の酸および/または消化活動による損傷から生じると考えられ、食道、胃、および十二指腸に影響を及ぼし得る。酸消化性障害には、胃食道逆流症、(胃および十二指腸の両方の)消化性潰瘍、びらん性食道炎および食道狭窄が含まれる。ゾリンジャー・エリソン症候群は、それが一般に内分泌腫瘍によりもたらされる過剰な酸分泌による複数の潰瘍を示すので酸消化性障害と考えられ得る。治療には一般に胃酸抑制療法、抗生物質、および手術が含まれる。しかしながら、一部の患者においてこれらの治療法は効果がないことが証明されている。従って、本発明の化合物は、酸消化性障害の治療に対して存在する必要性に適う。
【0083】
胃腸管障害の別の下位分類は、Sleisenger and Fordtran's Gastrointestinal and Liver Disease, 6th Ed. (W.B. Saunders Co. 1998); K.M. Sanders (1996) Gastroenterology, 111: 492-515; P. Holzer (1998) Gastroenterology, 114: 823-839; および R.K. Montgomery et al. (1999) Gastroenterology, 116: 702-731に開示されるように、胃腸管の異なる部分間の特性に基づいて、胃食道障害と腸障害の間で線を引くことができる。構造的な胃食道障害には、幽門の遠位にある構造的な摂動(粘膜において観察されるものを含む)の形跡のない胃および/または食道の障害が含まれる。消化不良(上腹部に集中する慢性疼痛または不快感)は大部分の構造的な胃食道障害の顕著な特色であるが、非構造的な摂動においても観察することができ、全ての一般診療診察の2〜5パーセントを占めると推定されている。構造的な胃食道障害には胃炎および胃癌が含まれる。一方、構造的な腸管障害は小腸(十二指腸、空腸、および回腸)と大腸の両方で起こる。構造的な腸管障害は、腸の粘膜または筋肉層における構造的変化により特徴付けられ、それには小腸の非消化性潰瘍、悪性腫瘍、および憩室症が含まれる。小腸における非消化性潰瘍は一般に非ステロイド系抗炎症薬の投与に関係がある。憩室症は、小腸で稀に起こり最も一般的には結腸に見られる障害である。
【0084】
本発明の化合物は、胃食道障害と腸障害の両方の治療に有用である。
【0085】
「非潰瘍性消化不良」により、食道、胃または十二指腸に潰瘍が存在しない場合に、吐気、嘔吐、疼痛、早期満腹感、鼓腸および食欲の喪失を含む食後の任意の腹部症状に関係する任意の障害が意図される。胃内容排出の変化、胃感受性の増大および苦悩が非潰瘍性消化不良の発病における因子と考えられる。
【0086】
「過敏性腸症候群」または「IBS」により、腹痛および/または腹部不快感および用便習慣の変化に関係する任意の障害が意図され、機能性腸、幽門痙攣、神経性消化不良、痙性結腸、痙性大腸炎、痙性腸、腸神経症(intestinal neurosis)、機能性大腸炎、過敏結腸、粘液性大腸炎、緩下薬大腸炎(laxative colitis)、および機能性消化不良を含む全ての症状を包含する。
【0087】
本明細書において、用語「機能性腹部鼓腸」とは、一般に、腹部膨満または鼓腸の感覚が際だち、別の機能性胃腸障害の十分な判定基準をもたない一群の機能性腸障害を指す。機能性腹部鼓腸の診断基準は、連続している必要はないが、先行する12ヶ月において少なくとも12週間の、(1)腹部膨満感、鼓腸または眼に見える膨張;および(2)機能性消化不良、IBS、またはその他の機能性障害の診断のための判定基準を満たさないことである。
【0088】
本明細書において、用語「機能性便秘」とは、一般に、持続的に困難な、不定期な、または見たところ不完全な排便として示される一群の機能性障害を指す。機能性便秘の診断基準は、連続している必要はないが、先行する12ヶ月において少なくとも12週間の、(1)排便の1/4より多くでのいきみ;(2)排便の1/4より多くでのごつごつした便または硬い便;(3)排便の1/4より多くの不完全な排泄感;(4)排便の1/4より多くでの肛門直腸の閉塞/封鎖感;(5)排便の1/4より多くでの排便促進のための手による手技(例えば、用手排便、骨盤底の支持);および/または(6)週3回未満の排便のうち2つまたはそれ以上である。一部の態様では、ゆるい便は存在せず、IBSに対する判定基準を満たさない。
【0089】
本明細書において、用語「機能性下痢」とは、腹痛のない、ゆるい(粥のように柔らかな)または水様の便の連続的または再発性の通過を指す。機能性下痢の診断基準は、連続している必要はないが、先行する12ヶ月において少なくとも12週間の、(1)液状(粥状)または水様の便;(2)回数の3/4より多いこと;および(3)無腹痛である。
【0090】
「輸送遅延型便秘」により、大腸における運動性の遅延を備え、長い輸送時間で器官を通る障害が意図される。
【0091】
「排出障害」により、排便が不十分に起こり、患者が便を排出することのできない任意の障害が意図される。
【0092】
「酸消化性障害」により、食道、胃、および/または十二指腸に影響を及ぼす胃液分泌の酸および/または消化活性による損傷に関係する任意の障害が意図される。酸消化性障害には、胃食道逆流症、消化性潰瘍(胃および十二指腸の両方)、びらん性食道炎、食道狭窄、およびゾリンジャー・エリソン症候群が含まれる。
【0093】
胃腸管障害は、Sleisenger and Fordtran's Gastrointestinal and Liver Disease, 6th Ed. (W.B. Saunders Co. 1998); K.M. Sanders (1996) Gastroenterology, 111: 492-515; P. Holzer (1998) Gastroenterology, 114: 823-839; および R.K. Montgomery et al. (1999) Gastroenterology, 116: 702-731に開示されるように、胃腸管の異なる部分の解剖学的、生理学的、および他の特性に基づいて、胃食道障害と腸の障害の間で分けることができる。
【0094】
「胃食道の」により、食道および胃の全ての部分が意図される。「胃食道障害」により、食道および/または十二指腸に関与する任意の障害が意図される。「構造的な胃食道障害」により、幽門の遠位にある構造的な混乱(粘膜において観察されるものを含む)の形跡のない胃および/または食道の任意の障害が意図される。構造的な胃食道障害には、胃癌および胃炎が含まれる。
【0095】
「腸管」により、十二指腸、空腸、回腸および大腸(または結腸)の全ての部分が意図される。「腸管障害」により、十二指腸、空腸、回腸および大腸(または結腸)に関わる任意の障害が意図される。「構造的な腸管障害」により、重大な粘膜および構造異常が存在するか、または炎症性腸障害でも酸消化性障害でもない、関連する代謝の乱れの形跡のある、十二指腸、空腸、回腸および大腸(または結腸)に関わる任意の障害が意図される。構造的な腸障害には、一般に、薬物療法、例えば非ステロイド系抗炎症薬に関する潰瘍、悪性腫瘍、および憩室症が含まれる。
【0096】
「小腸」により、十二指腸、空腸、および回腸の全ての部分が意図される。
【0097】
用語「十二指腸」は、その従来の意味において、幽門に始まり、トライツ靭帯で終わる胃腸管の部分を指すために用いられる。十二指腸は4つの部分に分割される。(例えば、Yamada (1999) Textbook of Gastroenterology 3d Ed., Lippincott Williams & Wilkins参照)。十二指腸の最初の部分は、十二指腸の上部としても公知であり、幽門に始まり、長さ約5cmであり、肝臓の下から胆嚢の頸部へ後に向かい、上に向かって通過する(その最初の2〜3cmは十二指腸球である)。十二指腸の二番目の部分は、十二指腸の下行部としても公知であり、膵臓の頭部の右縁に沿って伸び、長さがおよそ7〜10cmである。十二指腸の三番目の部分は、十二指腸の水平部としても公知であり、十二指腸が脊椎を越えて右から左へ通過する場所であり、上方へ約5〜8cm傾斜している。十二指腸の四番目の部分は、十二指腸の上行部としても公知であり、脊柱の左側に始まり、大動脈の左側2〜3cmの長さを上行し、トライツ靭帯で終わる。
【0098】
一部の態様では、胃腸障害は、吐気、嘔吐および/または悪心に関係するかまたは吐気、嘔吐および/または悪心を提示する障害、例えば、機能性嘔吐、慢性機能性嘔吐および/または周期性嘔吐症候群である。嘔吐、または催吐の行為は、横隔膜下降および腹筋の強い収縮によりもたらされた口からの胃腸の内容物の強制的排出として説明され得る。催吐は、必ずしもそうではないが、吐気(吐きそうな不快感情)が通常先行する。悪心または空吐きは、嘔吐と同じ生理学的機構を伴うが、胃の内容物の排出を妨げる閉じられた声門に対して起こる。
【0099】
催吐の治療に臨床的に用いられている多数の薬剤群がある。これらの群には、抗コリン作用薬、抗ヒスタミン薬、フェノチアジン、ブチロフェノン、カンナビノイド、ベンズアミド、グルココルチコイド、ベンゾジアゼピンおよび5-HT3受容体アンタゴニストが含まれる。加えて、三環系抗うつ薬も限定的に用いられている。しかしながら、望ましくない副作用、例えば、失調症および静座不能、鎮静、抗コリン作用および起立性低血圧症、多幸感、めまい、妄想様観念、傾眠、錐体外路症状、下痢、知覚障害、尿失禁、低血圧症、健忘症、口渇、便秘、かすみ目、尿貯留、体重増加、高血圧症、ならびに心臓の副作用、例えば、動悸および不整脈などが、そのような治療法の使用に関連し続け、多くの場合この治療法の重大な欠点である。
【0100】
従って、本発明の別の態様は、被験体に治療上有効量の本明細書において記載される任意の化合物を投与することを含む、治療を必要とする被験体において、吐気、催吐/嘔吐、悪心またはそれらの任意の組合せを治療するための方法である。具体的な態様では、被験体はヒトである。
【0101】
嘔吐、吐気、悪心またはそれらの組合せは、非限定的に、麻酔薬、放射線、癌の化学療法薬、毒物、臭気、医薬、例えば、セロトニン再取り込み阻害剤(例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI))または二重のセロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)、鎮痛薬、例えば、モルヒネ、抗生物質および抗寄生虫薬、妊娠、および運動を含む、多数の因子によりもたらされ得る。本明細書において、「化学療法薬」という言葉には、非限定的に、例えば、アルキル化剤、例えばシクロホスファミド、カルムスチン、ロムスチン、およびクロラムブシル;細胞傷害性抗生物質、例えばダクチノマイシン、ドキソルビシン、マイトマイシン-C、およびブレオマイシン;代謝拮抗剤、例えばシタラビン、メトトレキサート、および5-フルオロウラシル;ビンカアルカロイド、例えばエトポシド、ビンブラスチン、およびビンクリスチン;ならびにその他の、例えば、シスプラチン、ダカルバジン、プロカルバジン、およびヒドロキシ尿素;ならびにそれらの組合せが含まれる。
【0102】
SSRI投与(例えば、SSRI毎日投与)により起こる嘔吐、吐気、悪心の場合には、有害作用を薬物の反復投与で低減させること、すなわち、患者がSSRIの吐気誘導作用に対して耐性となることが一般的である。従って、特定の態様では、本発明は、例えば、SSRI治療の経過の間の耐性の誘導よりも前に、末梢に限定される5-HT3受容体アンタゴニストを必要に応じて投与することを特色とする。
【0103】
眩暈(例えば、メニエール病および前庭神経炎)に関連する状態もまた、吐気、嘔吐、悪心またはそれらの任意の組合せを引き起こし得る。例えば、片頭痛、頭蓋内圧亢進または脳血管出血により起こる頭痛も、結果的に吐気、嘔吐、悪心またはそれらの任意の組合せをもたらし得る。加えて、胃腸管の特定の病気、例えば、胆嚢炎、総胆管結石症、腸閉塞、急性胃腸炎、内臓穿孔(perforated viscus)、例えば胃食道逆流症、消化性潰瘍、胃不全麻痺、胃または食道腫瘍の結果起こる消化不良、浸潤性の胃障害(例えば、メネトリエ症候群、クローン病、好酸球性胃腸炎、サルコイドーシスおよびアミロイドーシス)、胃感染症(例えば、CMV、真菌、TBおよび梅毒)、寄生虫(例えば、ランブル鞭毛虫および糞線虫)、慢性胃捻転、慢性腸虚血、変化した胃運動性障害および/または食物不耐性またはゾリンジャー・エリソン症候群は、結果的に嘔吐、吐気、悪心またはそれらの任意の組合せをもたらし得る。しかしながら、嘔吐、吐気、悪心またはそれらの任意の組合せの一部の例では、広範な診断試験にもかかわらず、病因を決定することができない(例えば、周期性嘔吐症候群)。
【0104】
特定の態様では、嘔吐は慢性機能性嘔吐(CFV)である。CFVは、機能性嘔吐と周期性嘔吐症候群からなる慢性状態であり、症状のない期間で区切られた嘔吐、吐気、および腹痛の再発エピソードにより特徴付けられる。従って、Rome II判断基準では、CFVの患者は、公知の医学的原因および精神医学的原因の非存在下で、数週〜数ヶ月持続する症状のない期間を間に入れて、3回以上の期間の激しい急性吐気および数時間〜数日持続する間断のない嘔吐という病歴と併せて、3ヶ月にわたり少なくとも週に3日の別々の日に起こる嘔吐の頻繁なエピソードを経験する。しかしながら、理論に縛られることを望むものではないが、CFVは、中間および上部胃腸(GI)管の器官を制御する筋肉または神経の異常機能(機能障害)に起因し得ると考えられる。
【0105】
重大な臨床的関連のあるものは、全身麻酔の投与(一般に、術後吐気および嘔吐、PONVと称される)、化学療法薬および放射線療法に起因する吐気および嘔吐である。実際に、化学療法薬に起因する症状は非常に重篤であるので患者がさらなる治療を拒絶する可能性がある。
【0106】
例えば、3種類の催吐が化学療法薬の使用に関係する。最初の種類は急性催吐であり、化学療法の最初の24時間以内に起こる。二番目の種類は遅延型催吐であり、化学療法投与後24時間またはそれ以上で起こる。三番目の種類は予期催吐であり、通常、以前の化学療法周期の間の催吐の制御が不十分であった患者において、化学療法の投与よりも前に始まる。
【0107】
PONVも重要な患者の問題であり、疼痛でさえも上回る、患者が最も苦しむ手術方法の局面と評価する問題である。従って、この分野での効果的な制吐薬に対する必要性は重大である。臨床問題としてPONVは厄介であり、嘔吐物が逆流しないことを確認するスタッフの存在を必要とし、非常に重大な臨床的続発症をもたらす。その上、患者が嘔吐しないことが臨床上重要である特定の手術方法がある。例えば、目の手術において、縫合が裂ける程度まで頭蓋内の眼圧が増大する可能性がある場合、顕著な程度の成功という点で該手術方法が遅らされる。
【0108】
吐気、嘔吐および悪心は、症状が1週間未満存在する場合には急性と定義される。短時間の吐気、嘔吐および悪心の原因は、より慢性的な症状をもたらす病因から分離可能な場合が多い。それに対して、吐気、嘔吐および悪心は、症状が1週間以上存在する場合に慢性と定義される。例えば、症状は連続的であっても間欠的であってもよく、数ヶ月または数年続いてもよい。一部の態様では、本発明の化合物および組成物を用いて慢性機能性嘔吐が治療される。
【0109】
特定の態様では、嘔吐反射は、腸の収縮と膨張の両方により、ならびに物理的な損傷により活性化される、上部胃腸管の化学受容器および胃腸管壁の機械受容器の刺激により引き起こされ得る。中枢神経系の協調中枢は、催吐反応を制御し、脳の外側延髄領域の小細胞の網様体に位置する。嘔吐中枢への求心性神経は、腹部内臓神経および迷走神経、前庭-迷路受容器、大脳皮質および化学受容器引金帯(CTZ)から生じる。CTZは最後野に隣接して位置し、有害物質または有毒物質について血液と脳脊髄液の両方をサンプリングする化学受容器を含有する。
【0110】
催吐中枢とCTZの間には直接連結が存在する。特に、CTZは、内因性起源(例えば、ホルモン)の催吐性刺激、ならびに外因性起源の刺激、例えば、薬物に曝露される。第V、VIIおよびIX脳神経の遠心枝、ならびに迷走神経および交感神経経路は、筋肉収縮、心血管応答および嘔吐を特徴付ける逆ぜん動の複合協調セットを生じる。
【0111】
泌尿生殖器障害
(a)下部尿路障害
下部尿路障害は、毎年、米国において何百万人もの男女の生活の質に影響を及ぼす。腎臓は血液を濾過して尿を生成するが、下部尿路はこの廃棄液体の貯蔵および排出に関係し、腎臓以外の尿路の他の全ての部分を含む。概して、下部尿路には、尿管、膀胱、および尿道が含まれる。下部尿路の障害には、有痛性および非有痛性の過活動膀胱、前立腺炎およびプロスタディニア(prostadynia)、間質性膀胱炎、良性前立腺肥大、ならびに、脊髄損傷患者において、痙性膀胱および弛緩型膀胱が含まれる。
【0112】
過活動膀胱は、米国で1700〜2000万人が罹患していると推定される治療可能な医学的状態である。過活動膀胱の症状には、頻尿、尿意切迫、夜間頻尿(排尿の必要による夜間睡眠妨害)および突然かつ止められない排尿の必要による切迫性尿失禁(不慮の尿漏れ)が含まれる。尿漏れが物理的な動作、例えば、咳、くしゃみ、運動などに関係する腹圧性尿失禁とは対照的に、切迫性尿失禁は通常、過活動性の排尿筋(収縮して中身を出させる膀胱の平滑筋)に関係する。
【0113】
過活動膀胱に単一の病因はない。神経性の過活動膀胱(または神経因性膀胱)は、障害、例えば、卒中、パーキンソン病、糖尿病、多発性硬化症、末梢神経障害、または脊髄病変などに起因する神経学的損傷の結果として起こる。これらの場合には、排尿筋の活動亢進は排尿筋反射亢進と名付けられる。一方、非神経性の過活動膀胱は、膀胱結石、筋疾患、尿路感染または薬物の副作用を含む、非神経学的異常の結果起こり得る。
【0114】
放尿(排尿行為)が非常に複雑であるために、過活動膀胱を引き起こす正確な機構は分かっていない。過活動膀胱は、炎症状態、ホルモンの不均衡、および前立腺肥大を含む様々な因子から生じる、膀胱の感覚神経の過敏症の結果起こり得る。脊髄の仙骨部の壊滅的な損傷、または後根線維が脊髄へ侵入する時に後根線維に損傷をもたらす疾病による、知覚神経線維の破壊も過活動膀胱を引き起こし得る。加えて、伝達されたシグナルの妨害をもたらす脊髄または脳幹の損傷が、放尿の異常を引き起こし得る。従って、末梢および中枢機構の両方が、過活動膀胱における変化した活動の媒介に関与し得る。
【0115】
中枢機構または末梢の機構、またはその両方の機構が過活動膀胱に関与しているかどうかに関して不確実であるにもかかわらず、多くの提案される機構には非有痛性の内臓感覚を媒介するニューロンおよび経路が関係している。疼痛は嫌悪または不快な感覚の認知であり、多様な提案される機構を経由して生じ得る。これらの機構には、組織損傷についての情報をもたらす特殊化された感覚受容器の活性化(侵害受容性疼痛)、あるいは、疾病、例えば、糖尿病、心的外傷または有毒用量の薬物などからの神経損傷によるもの(神経因性疼痛)が含まれる(例えば、A.I. Basbaum and T.M. Jessell (2000) The perception of pain. In Principles of Neural Science, 4th. ed.; Benevento et al. (2002) Physical Therapy Journal 82:601-12参照)。
【0116】
過活動膀胱のための現行の治療としては、薬物療法、食生活の変更、膀胱訓練のプログラム、電気的刺激、および手術が含まれる。現在、抗ムスカリン作用薬(抗コリン作用薬の一般的クラスの亜型である)が、過活動膀胱の治療に用いられる主な薬物療法である。この治療は限定的な有効性、ならびに一部の個体には許容が困難であると判明している、口渇、ドライアイ、乾燥膣、動悸、眠気、および便秘などの副作用の難点がある。
【0117】
前立腺炎およびプロスタディニアは、およそ2〜9%の成人男性集団が罹患することが示唆されているその他の下部尿路障害である(Collins M M, et al., (1998) 「How common is prostatitis? A national survey of physician visits,」 Journal of Urology, 159: 1224-1228)。前立腺炎は前立腺の炎症に関係し、慢性細菌性前立腺炎および慢性非細菌性前立腺炎に細分され得る。慢性細菌性前立腺炎は、細菌感染から生じると考えられ、一般に、前立腺の炎症、前立腺液中の白血球細胞の存在、および/または疼痛のような症状に関係する。慢性非細菌性前立腺炎は、確認された尿路感染、ならびに尿および前立腺分泌物の陰性細菌培養物の欠如にもかかわらず、前立腺分泌物中の過剰な炎症細胞により特徴付けられる未知の病因の炎症性有痛状態である。プロスタディニア(慢性骨盤痛症候群)は、前立腺の炎症のない慢性非細菌性前立腺炎有痛症状に関係する状態である。
【0118】
現在、前立腺炎およびプロスタディニアのための確立された治療はない。抗生物質が処方される場合が多いが、有効性を示す証拠はわずかである。COX-2選択的阻害剤およびα-アドレナリン遮断薬が治療として提案されているが、それらの有効性は確立されていない。温腰湯および抗コリン薬を用いても何らかの症状軽快がもたらされる。
【0119】
間質性膀胱炎は、主に若年および中年の女性が罹患するが、男性および小児も罹患し得る、未知の病因のもう一つの下部尿路障害である。間質性膀胱炎の症状には、刺激性排尿症状、頻尿、尿意切迫、夜間頻尿、および、排尿に関連し、排尿により軽減する恥骨上痛または骨盤痛が含まれ得る。多くの間質性膀胱炎患者はまた、頭痛ならびに胃腸および皮膚の問題も経験する。一部の極端な例では、間質性膀胱炎は、潰瘍または膀胱の瘢痕と関係し得る。
【0120】
過去の間質性膀胱炎の治療には、抗ヒスタミン薬、ペントサン多硫酸ナトリウム、ジメチルスルホキシド、ステロイド、三環系抗うつ薬および麻薬拮抗薬の投与が含まれたが、これらの方法は一般に不成功であった(Sant, G. R. (1989) Interstitial cystitis: pathophysiology, clinical evaluation and treatment. Urology Annal 3 : 171-196)。
【0121】
良性前立腺肥大(BPH)は、40歳を超える男性には極めて一般的な非悪性の前立腺の肥大である。BPHは、前立腺の腺成分および間質成分の両方の過剰な細胞増殖に起因すると考えられている。BPHの症状には、頻尿、切迫性尿失禁、夜間頻尿、ならびに尿の力および流速の低下が含まれる。
【0122】
BPHの侵襲的治療には、経尿道的前立腺切除術、経尿道的前立腺切開術、前立腺のバルーン拡張術、前立腺ステント、マイクロ波療法、レーザー前立腺摘除術、経直腸的高密度焦点式超音波療法および前立腺の経尿道的ニードルアブレーションが含まれる。しかしながら、これらの治療のいくつかを用いることにより合併症が生じる可能性があり、それには、逆行性射精、インポテンス、術後尿路感染および多少の尿失禁が含まれる。BPHの非侵襲的治療には、アンドロゲン枯渇療法、ならびに5αレダクターゼ阻害剤およびαアドレナリン遮断薬の使用が含まれる。しかしながら、これらの治療は、一部の患者に対して最小限度から中程度しか効果的でないことが判明している。
【0123】
下部尿路障害は、脊髄損傷を患う個体にとって特に問題がある。脊髄損傷の後、腎臓は尿を作り続け、尿は尿管および尿道を通じて流れ続けることができる。なぜなら、膀胱と平滑筋の協調不全が存在する状態を除いて、それらは不随意性の神経および筋肉の制御の対象であるためである。一方、膀胱および括約筋は、神経および筋肉の随意制御の対象でもある、このことは、脊髄を通る脳からの下行性のインプットが、膀胱および括約筋を駆動して膀胱を完全に空にさせるということを意味する。脊髄損傷に続いて、このような下行性のインプットが、個体がもはやその膀胱および括約筋を随意制御することができないほど中断され得る。脊髄損傷はまた、脳に上行する感覚シグナルを中断し、膀胱が満ちた場合にこのような固体が排尿の衝動を感じることができないようにし得る。
【0124】
脊髄損傷に続いて、膀胱は、通常2つの方法のうちの1つの方法で影響を受ける。1つ目は、膀胱が尿で満たされて、反射が自動的に膀胱を空にする誘引となる、「痙性」または「反射性」膀胱と呼ばれる状態である。これは通常損傷がT12レベルを上回る場合に起こる。痙性膀胱の個体は、膀胱が空になった時、または空になったかどうかを判定することができない。2つ目の方法は、膀胱筋肉の反射が消失されているか遅くなった、「弛緩性」または「非反射性」膀胱である。これは通常損傷がT12/L1レベルを下回る場合に起こる。弛緩性膀胱の個体は、過拡張または伸張膀胱および尿管を通って腎臓までの尿の「逆流」を経験し得る。これらの障害の治療選択肢としては、通常、間欠的カテーテル法、留置カテーテル法、またはコンドームカテーテル法が含まれるが、これらの方法は侵襲的であり、不都合である場合が多い。
【0125】
尿括約筋も脊髄損傷による影響を受け、「協調不全」として公知の状態となり得る。協調不全は、膀胱収縮に応答する能動的収縮を含む、膀胱が収縮した時に尿括約筋が弛緩することができないことを伴い、尿が尿道を流れることを妨げ、結果として膀胱が完全に空にならず、尿が腎臓へ「逆流」する。協調不全の伝統的な治療には、それらの有効性または手術において多少矛盾している薬物療法が含まれる。
【0126】
上に記載される下部尿路障害に加えて、関連する泌尿生殖器管障害である外陰部痛および外陰部前庭炎が、間質性膀胱炎などの下部尿路障害と病因学的かつ病理学的に関連している(Selo-Ojeme et al. (2002) Int. Urogynecol. J. Pelvic Floor Dysfunction 13: 261-2; Metts (2001) Am. Fam. Physician 64: 1199-206; Wesselmann (2001) World J. Urol. 19: 180- 5; Parsons et al. (2001) Obstet. Gynecol. 98: 127-32; Heim (2001) Am. Fam. Physician 63: 1535-44; Stewart et al. (1997) J. Reprod. Med. 42: 131-4; Fitzpatrick et. al. (1993) Obstet. Gynecol. 81 : 860-2参照)。外陰部前庭炎症候群(本明細書において「外陰部前庭炎」)は外陰部痛の亜型である。外陰部痛は、説明のつかない外陰部の疼痛、性機能障害、および心理的能力障害により特徴付けられる複合婦人科症候群である。外陰部痛の正確な罹患率は不明であるが、この状態は比較的よくある。150万人の米国女性がある程度の外陰部痛を患っている可能性があると推定されている。
【0127】
外陰部痛の最も一般的な亜型は外陰部前庭炎(「限局性の外陰部炎」および「前庭の腺炎」とも呼ばれる)である。外陰部前庭炎は、外陰部前庭を含み、それに限定される一群の症状を示す。外陰部前庭炎を認めるための判定基準には、1)前庭の触診または膣への侵入の試みでの疼痛;2)外陰部前庭内に限局されたQ-チップ圧力での圧痛;3)様々な程度の前庭の紅斑に限定される身体所見;および4)前庭の紅斑および圧痛に関してその他の原因、例えば、カンジダ症(酵母感染)またはヘルペス感染などの排除が含まれる。その他の症状としては、そう痒、腫脹および剥脱が含まれる。
【0128】
外陰部前庭炎の疼痛は、鋭く、焼けるような、またはヒリヒリした感覚と説明され得る。重篤な症例では、性交疼痛症(性交に関係する再発性または持続性の生殖器痛)は完全に性交を禁止する。疼痛はまた、タンポン挿入、自転車に乗ること、またはぴったりしたズボンをはくことによっても誘発され得る。紅斑は広範性であっても限局性であってもよく、前庭腺の開口部の周囲または陰唇小帯に局在し得る。加えて、患者の症状には、そう痒が含まれる場合が多い。多くの女性が性心理の自己像の大きな変化を経験し、罹患率は局所症状よりもはるかに延び、結婚およびその他の重要な関係への深刻な悪影響を含み得る。
【0129】
外陰部前庭炎は急性または慢性であり得る。一研究では、症状の3ヶ月の任意の中断を用いて急性型と慢性型が区別された(Marinoff and Turner, Am. J. Obstet. Gynecol. 165: 1228-33, 1991)。大部分の臨床医は6ヶ月の任意の中断を用いて急性型と慢性型を区別する。一部の研究者は外陰部前庭炎に共通する病理組織学的局面を見出そうと試みたが、それに失敗した(Pyka et al. (1988) Int. J. Gynecol. Pathol. 7: 249-57)。
【0130】
外陰部前庭炎の原因は多因子性である。急性型の既知および疑わしい原因としては、真菌または細菌感染(例えばカンジダ、トリコモナス)、化学刺激物質(例えば石鹸、洗浄器、スプレー)、治療薬(例えば防腐剤、坐剤、クリーム、5-フルオロウラシル法(例えば冷凍手術、レーザー治療)、およびアレルギー性薬物反応が含まれる。急性型では、推定される原因の治療が早急の軽快につながり得る。
【0131】
外陰部前庭炎は、原因が持続性または再発性となれば慢性となり、全ての疑わしい原因が治療された後も長く持続し得る。慢性外陰部前庭炎の多くの原因は未知の病因である。直接的な原因および影響関係は示されていないが、尿中のシュウ酸塩、変化した膣のpH、局在する末梢神経障害、および無症状のウイルス感染が全て該症候群に寄与し得ることが示唆されている。真菌感染の病歴が、外陰部前庭炎を有する大部分の患者にあり、再発性の酵母感染が該症候群の開始にある程度役割を果たし得ることが示唆される。再発性カンジダ症などの状態が、Th1およびTh2型応答の両方を含む、膣の免疫系において局所変化を引き起こし得ることが示唆されている(Fidel and Sobel, Clin. Microbiol. Reviews 9(3):335-48, 1996)。
【0132】
その複数の原因、およびその原因が高頻度で未知であるため、外陰部前庭炎は非常に治療が困難であり得る。外陰部前庭炎の一次治療はその疑わしい原因の治療である。これには、感染の薬理学的治療ならびに局所および全身への、この問題に寄与し得る刺激薬および治療薬の使用中止が含まれる。局所麻酔薬、コルチコステロイド、および性ホルモンは何らかの症候軽減をもたらし得る。さらなる治療としては、食習慣の改善、理学療法および生体フィードバック、局所、経口、または注入治療薬の使用、あるいは手術が含まれ得る。残念ながら、全ての患者に効く単一の治療はない。さらに、これらのアプローチの多くは、複雑な医療手順、相当な費用、および/または望ましくない副作用を伴う。
【0133】
「下部尿路」により、腎臓を除く泌尿器系の全ての部分が意図される。「下部尿路障害」により、非限定的に、過活動膀胱、前立腺炎、間質性膀胱炎、良性前立腺肥大、ならびに痙性および弛緩性膀胱を含む、下部尿路に関する任意の障害が意図される。「無痛性下部尿路障害」により、疼痛を生じないか、または疼痛がもたらされないと患者が主観的に説明する軽度または全体的な不快感を含む感覚または症状を伴う任意の下部尿路障害が意図される。「有痛性下部尿路障害」により、疼痛を生じるか、または疼痛がもたらされると患者が主観的に説明する感覚または症状を伴う任意の下部尿路障害が意図される。
【0134】
「膀胱障害」により、膀胱に関与する任意の状態が意図される。「無痛性膀胱障害」により、疼痛を生じないか、または疼痛がもたらされないと患者が主観的に説明する軽度または全体的な不快感を含む感覚または症状を伴う任意の膀胱障害が意図される。「有痛性膀胱障害」により、疼痛を生じるか、または疼痛がもたらされると患者が主観的に説明する感覚または症状を伴う任意の膀胱障害が意図される。
【0135】
「過活動膀胱(OAB)」という言葉は、排尿筋の活動亢進を示唆する下部尿路に影響を及ぼす症状を指し、その場合筋肉は収縮するが膀胱は充満している。OABの症状には、排尿衝動、排尿または失禁(不随意性の尿漏れ)の頻度の増加および、完全であろうと偶発的であろうと、尿漏れが部分的から全体的に及ぶ場合が含まれる。「有痛性過活動膀胱」により、上に定義されるように、疼痛を生じるか、または疼痛がもたらされると患者が主観的に説明する感覚または症状を伴う任意の形態の過活動膀胱が意図される。「無痛性過活動膀胱」により、上に定義されるように、疼痛を生じないか、または疼痛がもたらされないと患者が主観的に説明する軽度または全体的な不快感を含む感覚または症状を伴う任意の形態の過活動膀胱が意図される。無痛性症状としては、非限定的に、尿意逼迫、失禁、切迫性尿失禁、緊張性尿失禁、頻尿、および夜間頻尿を含むことができる。
【0136】
「尿意逼迫」により、排尿を延期する機会のほとんどまたは全くない、突然の強い排尿衝動が意図される。「失禁」により、排尿を含む排泄機能を制御できないこと(尿失禁)を意味する。「切迫性尿失禁(urge incontinence)」または「切迫性尿失禁(urinary urge incontinence)」により、突然の強い尿意に関係する不随意性の尿漏れが意図される。「緊張性尿失禁(stress incontinence)」または「緊張性尿失禁(urinary stress incontinence)」により、個人が咳をする、くしゃみをする、笑う、運動する、重い物体を持ち上げる、または膀胱に圧力をかけるどんなことでも行う場合に尿が漏れる医学的状態が意図される。「頻尿」により、患者が望むよりも頻繁に排尿することが意図される。個体が通常排尿を期待する1日の回数には個人間で相当な変動があるため、「患者が望むよりも頻繁に」はさらに患者の歴史に基づくベースラインよりも多い1日あたりの回数と定義される。「歴史に基づくベースライン」は、標準的または望ましい時間の間に1日に患者が排尿する回数の中央の数とさらに定義される。「夜間頻尿」により、患者が望むよりも頻繁に排尿のために睡眠から起こされることが意図される。本明細書において、「遺尿」とは、完全であっても不完全であってもよい、不随意性の排尿を指す。夜尿とは、睡眠中に起こる遺尿を指す。昼間性遺尿とは、目が覚めている間に起こる遺尿を指す。
【0137】
「神経因性膀胱」または「神経因性の過活動膀胱」により、本明細書においてさらに説明される、非限定的に、卒中、パーキンソン病、糖尿病、多発性硬化症、末梢神経障害、または脊髄病変を含む障害に起因する神経学的損傷の結果として起こる過活動膀胱が意図される。
【0138】
「排尿筋反射亢進」により、無抑制排尿筋により特徴付けられる状態が意図され、その際、患者はある種の神経学的障害を有する。「排尿筋不安定」または「不安定排尿筋」により、神経学的異常のない状態が意図される。
【0139】
「前立腺炎」により、慢性細菌性前立腺炎および慢性非細菌性前立腺炎を含む前立腺の炎症に関係のある任意の種類の障害が意図される。「無痛性前立腺炎」により、疼痛を生じないか、または疼痛がもたらされないと患者が主観的に説明する軽度または全体的な不快感を含む感覚または症状を伴う前立腺炎が意図される。「有痛性前立腺炎」により、疼痛を生じるか、または疼痛がもたらされると患者が主観的に説明する感覚または症状を伴う前立腺炎が意図される。
【0140】
「慢性細菌性前立腺炎」は、その従来の意味において、前立腺の炎症ならびに尿および前立腺分泌物の陽性細菌培養を含む症状に関係のある障害を指すために用いられる。「慢性非細菌性前立腺炎」は、その従来の意味において、前立腺の炎症ならびに尿および前立腺分泌物の陰性細菌培養を含む症状に関係のある障害を指すために用いられる。「プロスタディニア」は、その従来の意味において、前立腺の炎症のない、上に定義される慢性非細菌性前立腺炎の有痛症状に一般に関係のある障害を指すために用いられる。「間質性膀胱炎」は、その従来の意味において、刺激性排尿症状、頻尿、尿意切迫、夜間頻尿、および排尿に関連し、排尿により軽減する恥骨上痛または骨盤痛を含む症状に関係のある障害を指すために用いられる。
【0141】
「良性前立腺肥大」は、その従来の意味において、前立腺の良性肥大に関係のある障害を指すために用いられる。
【0142】
「痙性膀胱」または「反射性膀胱」は、その従来の意味において、膀胱からの排出が予測不可能となっている脊髄損傷後の状態を指すために用いられる。
【0143】
「弛緩性膀胱」または「非反射性膀胱」は、その従来の意味において、膀胱筋の反射が消失または鈍くなっている脊髄損傷後の状態を指すために用いられる。
【0144】
「協調不全」は、その従来の意味において、患者が、膀胱が収縮する時に尿括約筋が弛緩できないことにより特徴付けられる脊髄損傷後の状態を指すために用いられる。
【0145】
「外陰部痛」は、その従来の意味において、説明のつかない外陰部痛、性機能障害、および心理的能力障害により特徴付けられる婦人科症候群により特徴付けられる状態を指すために用いられる。
【0146】
「外陰部前庭炎」(「外陰部前庭炎症候群」、「限局性の外陰部炎」、および「前庭の腺炎」としても公知)は、その従来の意味において、1)前庭の触診または膣への侵入の試みでの疼痛;2)外陰部前庭内に限局されたQ-チップ圧力での圧痛;3)様々な程度の前庭の紅斑に限定される身体所見;および4)前庭の紅斑および圧痛に関してその他の原因、例えば、カンジダ症(酵母感染)またはヘルペス感染などの排除により特徴付けられる外陰部痛の亜型である状態を指すために用いられる。その他の症状としては、そう痒、腫脹および剥脱が含まれる。
【0147】
さらなる障害
さらに、本発明は、5-HT3受容体拮抗作用から利益を得る障害を治療する方法に関する。いくつかの障害は、5-HT3受容体拮抗作用から利益を得る一つまたは複数の重要な末梢成分を有する。いくつかの障害は、5-HT3受容体拮抗作用から利益を得る末梢成分およびCNS成分の両方を有し、化合物は主に末梢成分を治療する。いくつかの障害は末梢成分および/またはCNS成分を有し、CNSに媒介される有害作用または副作用を有する。本発明の方法に従う治療に特に適した障害としては、末梢(例えば、末梢神経系)および/または胃腸系において5-HT3受容体拮抗作用から利益を得る障害が含まれ、任意でCNSにおいて5-HT3受容体活性により媒介される有害作用または望ましくない効果を有する。
【0148】
従って、本発明はさらに、疼痛、例えば、侵害受容性または神経因性疼痛、線維筋痛症および抑うつ状態、肥満症および体重増加、月経前症候群、摂食障害、片頭痛、パーキンソン病、卒中、統合失調症、強迫性障害、強迫症、疲労、および任意のそれらの組合せを治療する方法に関する。該方法は、その治療を必要とする被験体へ、末梢に制限される5-HT3受容体アンタゴニスト活性を有する治療上有効量の化合物を投与することを含む。
【0149】
薬学的組成物および投与様式
本発明は、本明細書において記載される化合物のいずれか、例えば、結晶形態または塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物も包含する。
【0150】
薬学的に許容される担体には、意図される投与形態に関して適宜選択され、従来の薬務に合致する薬学的な希釈剤、賦形剤または担体が含まれる。例えば、固体担体/希釈剤としては、非限定的に、ゴム、デンプン(例えば、トウモロコシデンプン、アルファ化デンプン)、糖(例えば、ラクトース、マンニトール、スクロース、デキストロース)、セルロース系材料(例えば、微晶質セルロース)、アクリル酸塩(例えば、ポリメチルアクリル酸塩)、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タルク、またはそれらの混合物が含まれる。
【0151】
薬学的に許容される担体は水性または非水性溶媒であってもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体としては、水、アルコール/水溶液、生理食塩水および緩衝培地を含む乳濁液または懸濁液が含まれる。
【0152】
一態様では、薬学的組成物は、一つまたは複数の追加の治療薬をさらに含む。追加の治療薬は、本明細書において下文に記載される追加の治療薬のいずれかであってもよい。本明細書において記載される疾病または障害のいずれかを治療するために有用な任意のさらなる追加の治療薬も、本発明の組成物と組み合わせて用いてもよい。一態様では、追加の治療薬にはその他の結晶形態が含まれる。
【0153】
本発明の化合物は、任意の適した経路による投与のために、例えば、経口または非経口の、例えば、経皮、経粘膜(例えば、舌下、舌、(経)頬側、(経)尿道、膣(例えば、経膣および膣周囲に)、鼻(腔内)および(経)直腸)、膀胱内、十二指腸内、くも膜下腔内、皮下、筋肉内の、皮内、動脈内、静脈内、吸入、気管支内、肺内および局所投与のために製剤化されてもよい。一態様では、本発明の組成物は経口投与のために製剤化される。
【0154】
適した組成物および投薬形態としては、錠剤、カプセル剤、カプレット、丸剤、ジェルキャップ、トローチ、分散剤、懸濁液、溶液、シロップ剤、顆粒剤、ビーズ、経皮パッチ、ゲル、粉末、ペレット、マグマ剤、ロゼンジ、クリーム、ペースト剤、硬膏剤、ローション剤、ディスク、坐剤、鼻腔または経口投与用の液体スプレー、吸入用の乾燥粉末またはエアロゾル化製剤、膀胱内投与用の組成物および製剤などが含まれる。さらに、当業者は、本明細書において他で記載されている製剤を含むこれらの組成物および投薬形態に関する適した製剤を容易に推定することができる。
【0155】
例えば、経口投与のために、化合物は、薬学的に許容される賦形剤、例えば、結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピル-メチルセルロース);増量剤(例えば、トウモロコシデンプン、ラクトース、微結晶性セルロースまたはリン酸カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を用いて従来の手段により調製された錠剤またはカプセル剤の形態であってもよい。所望であれば、適した方法およびコーティング物質、例えば、Colorcon, West Point, Pa.より入手可能なOPADRYフィルムコーティングシステム(例えば、OPADRY OY Type、OY-C Type、Organic Enteric OY-P Type、Aqueous Enteric OY-A Type、OY-PM Type および OPADRY White、32K18400)を用いて錠剤をコーティングしてもよい。経口投与のための液体製剤は、溶液、シロップ剤または懸濁液の形態であってもよい。液体製剤は、薬学的に許容される添加剤、例えば、沈殿防止剤(例えば、ソルビトールシロップ剤、メチルセルロースまたは硬化食用油脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアガム);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油状エステルまたはエチルアルコール);および防腐剤(例えば、メチルまたはプロピルp-ヒドロキシ安息香酸塩またはソルビン酸)を用いて従来の手段により調製することができる。
【0156】
錠剤は、標準的な錠剤加工手順および装置を用いて製造され得る。錠剤を形成するための一方法は、活性薬剤を含有する粉末の、結晶または顆粒の組成物を、単独で、または一つまたは複数の担体、添加物などと組み合わせて直接圧縮することによる。直接の圧縮の代替法として、湿式造粒または乾式造粒工程を用いて錠剤を調製してもよい。錠剤はまた、湿潤またはそうでなければ加工しやすい物質で出発し、圧縮ではなく成型されてもよい;しかしながら、圧縮および造粒技法が好ましい。
【0157】
投薬形態はまた、カプセル剤であってもよく、活性薬剤を含有する組成物は、液体または固体の形態(微粒子、例えば顆粒、ビーズ、粉末またはペレットなどを含む)でカプセル化されてもよい。適切なカプセル剤は、硬質であっても軟質であってもよく、一般に、ゼラチン、デンプンまたはセルロース系材料で、好ましくはゼラチンカプセルで作製される。ツーピースの硬質ゼラチンカプセル剤は、好ましくは、ゼラチンバンドなどを用いて密閉される。(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(前記)を参照)、これはカプセル化された医薬を調製するための材料および方法を記載する。活性薬剤含有組成物がカプセル内に液体形態で存在する場合、液体担体を用いて活性薬剤を溶解することができる。該担体は、カプセル剤材料および医薬組成物の全ての成分と適合性であるべきであり、経口摂取に適しているべきである。
【0158】
また、本発明の組成物は、経粘膜投与されてもよい。経粘膜投与は、粘膜組織への適用に適した任意の種類の製剤または投薬単位を用いて行われる。例えば、選択された活性薬剤は、接着性の錠剤またはパッチとして口腔粘膜に投与されてもよく、舌の下に固体投薬形態を置くことによって舌下投与されてもよく、舌の上に固体投薬形態を置くことによって舌側に投与してもよく、液滴または鼻腔スプレーとして鼻腔に投与してもよく、エアゾール製剤の吸入により投与されるか、かつ/または直腸または膣の中または近傍に置かれた(「経直腸」「膣」および/または「膣周囲」製剤)、エアゾール製剤、非エアゾール液体製剤(例えば、坐剤、軟膏)、または乾燥粉末として投与されてもよく、あるいは、坐剤、軟膏などとして尿道(「経尿道」製剤)に投与してもよい。
【0159】
その他の投与様式、例えば、膀胱内、十二指腸内、くも膜下腔内、皮下、筋肉内、皮内、動脈内、静脈内、吸入、気管支内、肺内および局所投与に適した製剤は、当技術分野において周知であり、本発明の化合物および組成物と共に使用するために容易に適合させることができる。
【0160】
さらなる投薬用製剤および薬物送達系
さらに、本発明の方法で用いるための化合物は、持続またあるいは制御放出調製物に製剤化されてもよい。例えば、化合物は、活性薬剤化合物に持続および/または制御放出特性をもたらす適したポリマーまたは疎水性物質を用いて製剤化されてもよい。そのようなものとして、本発明の方法の使用のための化合物は、例えば注射による微粒子の形態で、あるいは、埋め込みによるウエハーまたはディスクの形態で投与することができる。
【0161】
本発明の製剤としては、非限定的に、短時間、急速消失(rapid-offset)、制御された、例えば、持続放出、遅延放出およびパルス放出製剤が含まれる。例えば、本発明の組成物は、ALZA Corporation, Depomed Inc., および/または XenoPort Incにより開発された制御放出系の中で用いてもよい。
【0162】
本明細書において、用語「持続放出」とは、長期間にわたる薬物の段階的放出をもたらし、かつ、好ましくは、必ずしもそうではないが、結果的に長期間にわたり実質的に一定の薬物の血中レベルをもたらす薬物製剤を指す。期間は1ヶ月程度またはそれ以上であってもよく、ボーラス形態で投与される同じ量の薬剤よりも長く放出されるべきである。
【0163】
持続放出のためには、化合物は、化合物に持続放出特性をもたらす適したポリマーまたは疎水性物質を用いて製剤化されてもよい。そのようなものとして、本発明の方法の使用のための化合物は、例えば注射による微粒子の形態で、あるいは、埋め込みによるウエハーまたはディスクの形態で投与することができる。
【0164】
本明細書において、用語「遅延放出」とは、薬物投与に続いていくらかの遅延時間の後で薬物の初期放出がもたらされ、かつ、好ましくは、必ずしもそうではないが、約10分〜最大約12時間の遅延を含む薬物製剤を指す。
【0165】
本明細書において、用語「パルス放出」とは、薬物投与後、薬物のパルス状の血漿プロフィールを生じるような方法で薬物の放出をもたらす薬物製剤を指す。
【0166】
本明細書において、用語「即時放出」とは、薬物投与後、直ちに薬物の放出をもたらす薬物製剤を指す。
【0167】
本明細書において、「短時間」とは、薬物投与後、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分を含むまでの任意の時間を指す。
【0168】
本明細書において、「急速消失」とは、薬物投与後、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分を含むまでの任意の時間を指す。
【0169】
投薬
一部の態様では、本発明の化合物は、治療上有効量で投与される。本発明の化合物の治療上有効な量または用量は、被験体の年齢、性別および体重、被験体の現在の医学的状態および治療されている障害の性質に依存する。当業者は、これらおよび他の要因によって適切な投薬量を決定することができる。
【0170】
本明細書において、連続投薬とは、選択された活性薬剤の慢性的投与を指す。
【0171】
本明細書において、「必要なときの(pro re nata)」「prn」投薬、および「オンデマンド」投薬または投与としても公知の、必要に応じた投薬は、活性の開始よりも前の障害の抑制が望ましい何らかの時点での治療上有効用量の化合物の投与を意味する。投与は、製剤に応じて、そのような活性より約0分、約10分、約20分、約30分、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、または約10時間前を含むそのような活性の直前であってもよい。
【0172】
特定の態様では、薬物投与または投薬は、必要性を基準とし、慢性薬物投与を含まない。即時放出投薬形態では、必要に応じた投与は、障害の症状の抑制が望ましい活性の開始の直前の薬物投与を含んでよいが、一般に、そのような活性の約0分〜約10時間前の範囲内、好ましくは、そのような活性の約0分〜約5時間前の範囲内、最も好ましくは、そのような活性の約0分〜約3時間前の範囲内である。
【0173】
例示的な本発明の化合物の適した用量は、約0.001mg〜約1000mg/日の範囲内、例えば、約0.05mg〜約500mg、例えば、約0.03mg〜約300mg、例えば、約0.02mg〜約200mg/日であり得る。特定の態様では、化合物の適した用量は、約0.1mg〜約50mg/日の範囲内、例えば、約0.5mg〜約10mg/日、例えば、約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10mg/日であってもよい。あるいは、本発明の結晶形態の用量は、約0.001mg、約0.005mg、約0.010mg、約0.020mg、約0.030mg、約0.040mg、約0.050mg、約0.100mg、約0.200mg、約0.300mg、約0.400mg、約0.500mg、約1mg、約1.5mg、約2.0mg、約2.5mg、約3.0mg、約3.5mg、約4.0mg、約4.5mg、約5mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mg、約225mg、約250mg、約275mg、約300mg、約325mg、約350mg、約375mg、約400mg、約425mg、約450mg、約475mg、約500mg、約525mg、約550mg、約575mg、約600mg、約625mg、約650mg、約675mg、約700mg、約725mg、約750mg、約775mg、約800mg、約825mg、約850mg、約875mg、約900mg、約925mg、約950mg、約975mg、または約1000mgに等しいかまたはそれ以上であってもよい。これらの値および範囲間の全ての値、例えば、967mg、548mg、326mg、58.3mg、0.775mg、0.061mgは、本明細書において包含されることが意味される。これらの値および範囲間の全ての値はまた、範囲の上限または下限であってもよい、例えば、特定の用量には、178mg〜847mgの範囲の本発明の結晶形態が含まれ得る。
【0174】
1日あたりの用量は、単回投薬量または複数の投薬量で、例えば1日に1〜4回以上の回数で投与することができる。複数投薬量を用いる場合、各投薬量の量は同じであっても異なっていてもよい。例えば、1mg/日の用量は、2回の0.5mg用量として、用量間に約12時間の間隔をおいて投与することができる。
【0175】
1日に投薬される化合物の量は、毎日、1日おき、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回などで投与できることが理解される。例えば、1日おきの投与では、5mg/日の用量を月曜日に開始し、その後1回目の5mg/日の用量を水曜日に投与し、その後2回目の5mg/日の用量を金曜日に投与するなどである。また、当然ながら、投薬量は何らかの規則的な間隔で投与する必要はない。つまり、1回目の用量は1日目、2回目の用量は2日目、3回目の用量は5日目、4回目は6日目、5回目は12日目などであってもよい。
【0176】
本発明の方法で用いるための化合物は、単位投与形に製剤化することができる。用語「単位投与形」とは、治療を受ける被験体に対する単位投薬量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、任意で適した薬学的な担体と共に、所望の治療効果を生じると計算された所定の量の活性物質を含有する。単位投与形は、単一回の日用量または複数回の日用量の1回(例えば、1日に約1〜4回またはそれ以上)のためのものであってもよい。複数回の日用量を用いる場合、単位投与形は各用量について同じであっても異なっていてもよい。投薬は被験体の要求に応じたものであってもよい。
【0177】
さらなる治療薬
一態様では、本発明の組成物は、一つまたは複数の追加の治療薬をさらに含む。
【0178】
本明細書において記載される方法および薬学的組成物における使用に適した追加の治療薬としては、非限定的に、抗ムスカリン作用薬(例えば、オキシブチニン、DITROPAN、トルテロジン、フラボキサート、プロピベリン、トロスピウム);粘膜表面保護剤(例えば、ELMIRON);抗ヒスタミン薬(例えば、塩酸ヒドロキシジンまたはパモエート);抗痙攣薬(例えば、NEURONTINおよびKLONOPIN);筋弛緩薬(例えば、VALIUM);膀胱鎮痙薬(例えば、URIMAX);三環系抗うつ薬(例えば、イミプラミン);酸化窒素供与体(例えば、ニトロプルシド)、β3アドレナリン受容体アゴニスト、ブラジキニン受容体アンタゴニスト、ニューロキニン受容体アンタゴニスト、ナトリウムチャネル修飾薬、例えば、TTX-Rナトリウムチャネル修飾薬および/または活性依存性ナトリウムチャネル修飾薬およびCav2.2サブユニットカルシウムチャネル修飾薬が含まれる。そのような薬剤は当技術分野において公知であり、一般に、米国特許第6,846,823号に列挙されている。一部の態様では、追加の治療薬は関心対象の障害を治療するために有用である。一部の態様では、追加の治療薬は、第一次の薬剤の効果を減弱させず、かつ/または第一次の薬剤の効果を増強する。
【0179】
本明細書において記載される方法および薬学的組成物における使用に適した追加の治療薬は、非限定的に、例として、鎮痙薬、例えば、抗コリン薬(例えば、ジサイクロミン、ヒヨスチアミン、スコポラミン、およびシメトロピウム);平滑筋弛緩薬(例えば、メベベリン);カルシウム遮断薬(例えば、ベラパミル、ニフェジピン、臭化オクチロニウム、ペパーミント油および臭化ピナベリウム);下痢止め薬(例えば、ロペラミドおよびジフェノキシレート);便膨張性薬剤(例えば、サイリウム、ポリカルボフィル);抗求心性薬(antiafferent agent)(例えば、オクトレオチドおよびフェドトジン);消化管運動改善薬、例えば、ドーパミンアンタゴニスト(例えば、ドンペリドンおよびメトクロプラミド)または5-HT4アンタゴニスト(例えば、シサプリド);向精神薬、抗ヒスタミン薬(例えば、ジメンヒドリナートおよびジフェンヒドラミン);フェノチアジン(例えば、プロクロルペラジンおよびクロルプロマジン);ブチロフェノン(ハロペリドールおよびドロペリドール);カンナビノイド(例えば、テトラヒドロカンナビノールおよびナビロン);ベンズアミド(例えば、メトクロプラミド、シサプリドおよびトリメトベンザミド);グルココルチコイド(例えば、デキサメタゾンおよびメチルプレドニゾロン);ベンゾジアゼピン(例えば、ロラゼパム);またはそれらの任意の組合せであってもよい。
【0180】
一部の態様では、追加の治療薬を本発明の化合物と組み合わせて使用することにより、治療効力を得るために必要とされるいずれかの薬剤がより少なくなり、かつ/または追加の薬剤がより少なくなり得る。一部の例では、より少ない薬剤を使用することは、望ましくない副作用の低下をもたらす点で有利であり得る。
【0181】
本発明の方法を実践する際、同時投与とは、本発明の化合物、例えば、本発明の結晶形態または塩を、障害を治療するための追加の化合物と共に投与することを指す。同時投与は、同時投与の第1および第2の量の化合物を本質的に同時に、例えば、単一の薬学的組成物で、例えば、固定された比率の第1および第2の量を有するカプセル剤または錠剤で、または複数個の、別々のそれぞれに対するカプセル剤または錠剤で投与することを包含する。加えて、このような同時投与はまた、それぞれの化合物の、いずれかの順序での連続的な使用を包含する。一部の態様では、化合物は所望の治療効果を得るために十分に近接する時間に投与される。
【0182】
キット
本発明は、本発明の疾病または障害を治療するためのキットをさらに含む。キットは、少なくとも1種類の本発明の化合物および本発明の方法に従う化合物を投与するための使用説明書挿入物を含む。キットのその他の態様では、使用説明書挿入物は、本明細書において記載される追加の治療薬と一緒に投与するための使用説明書をさらに含む。
【0183】
本発明の方法の実践またはキットの使用において、投与が、同じまたは異なる化合物を投与する異なる個体(例えば、被験体、医師またはその他の医療専門家)による投与を包含することは当然理解される。
【0184】
薬理学的方法
急性モデル:希酢酸モデルおよび硫酸プロタミン/生理学的尿中カリウムモデル
下に説明される急性モデルにより、過活動膀胱の治療において活性薬剤を評価するための方法が提供される。手短に言えば、該モデルは、硫酸プロタミンおよび塩化カリウム(Chuang, Y. C. et al., Urology 61(3): 664-670 (2003)参照)または希酢酸(Sasaki, K. et al., J. Urol. 168(3): 1259-1264 (2002)参照)のいずれかを膀胱に注入することにより、試験動物の膀胱容量を減少させるための方法を提供する。注入剤は、膀胱求心性線維、例えば、求心性C線維を選択的に活性化することにより膀胱の刺激および膀胱容量の減少をもたらす。膀胱の刺激の後、活性薬剤(薬物)を投与することができ、刺激作用の結果生じる膀胱容量の減少を(部分的にまたは全体的に)逆転させる活性薬剤の能力を測定することができる。膀胱容量の減少を逆転させる物質は、過活動膀胱の治療に用いることができる。
【0185】
(a)急性モデル用の動物の準備:
雌ラット(体重250〜275g)をウレタン(1.2g/kg)で麻酔し、生理食塩水充填頸静脈カテーテル(PE-50)を静脈内薬物投与のために挿入し、ヘパリン処置した(100単位/ml)生理食塩水充填頸動脈カテーテル(PE-50)を、血圧モニタリングのために挿入する。剣状突起から臍への腹部正中切開を介して、膀胱の充填および圧力の記録のためにPE-50カテーテルを膀胱の円蓋部の中に挿入する。腹腔を生理食塩水で湿らせ、薄いプラスチックシートで覆うことにより閉鎖して、充填膀胱内圧測定排出のために膀胱へのアクセスを保つ。銀またはステンレス鋼細線電極を筋電図検査(EMG)のために外尿道括約筋(EUS)に経皮的に挿入する。
【0186】
(b)希酢酸モデル:
下部尿路活性のベースラインを得るために、生理食塩水およびその後の全ての注入剤を、約0.055ml/分の速度で膀胱充填カテーテルを介して30〜60分間持続的に注入する(持続的膀胱内圧測定;CMG)。膀胱圧力追跡は、膀胱および尿道出口の活動の直接的な測定の役割を果たし、EUS-EMG位相発火および排尿は、持続的な経膀胱的膀胱内圧測定の間の下部尿路活性の間接的な測定の役割を果たす。対照期間に続いて、生理食塩水中0.25%酢酸溶液(AA)を膀胱に注入して膀胱刺激を誘導する。AA注入の30分後、3回のビヒクル注射を20分間隔で行ってビヒクルの効果があればそれを測定する。その後、漸増用量の選択された活性薬剤を30分間隔で静脈内に投与して、累積的用量反応関係を構築する。対照の生理食塩水の膀胱内圧測定期間の終わり、3回目のビヒクル注射、および、それぞれのその後の処置の20分後に、注入ポンプを停止し、注入カテーテルを介する流体排出により膀胱を空にし、単一の充填膀胱内圧測定を同じ流速で行って、刺激プロトコールおよびそれに続く薬物投与に起因する膀胱容量の変化を測定する。この急性モデルでは、膀胱内のC線維求心性経路が選択的に活性化される。
【0187】
(c)硫酸プロタミン/生理学的尿中カリウムモデル:
生理食塩水およびその後の全ての注入剤を、約0.055ml/分の速度で膀胱充填カテーテルを介して30〜60分間持続的に注入して下部尿路活性のベースライン(連続的膀胱内圧測定;CMG)を得る。膀胱圧力追跡は、膀胱および尿道出口の活動の直接的な測定の役割を果たし、EUS-EMG位相発火および排尿は、持続的な経膀胱的膀胱内圧測定の間の下部尿路活性の間接的な測定の役割を果たす。対照期間に続いて、生理食塩水溶液中の10mg/mL硫酸プロタミン(PS)を約30分間注入して尿路上皮の拡散障壁を透過化する。PS処理後、注入剤を生理食塩水中300mM KClに切り換えて膀胱刺激を誘導する。一度安定なレベルの下部尿路の活動亢進が確立されれば(20〜30分)、3回のビヒクル注射を約30分間隔で行ってビヒクルの効果を評価する。その後、漸増用量の選択された活性薬剤を約30分間隔で静脈内に投与して、累積的用量反応関係を構築する。対照の生理食塩水の膀胱内圧測定期間の終わり、3回目のビヒクル注射、および、それぞれのその後の処置の20分後に、注入ポンプを停止し、注入カテーテルを介する流体排出により膀胱を空にし、単一の充填膀胱内圧測定を同じ流速で行って、刺激プロトコールおよびそれに続く薬物投与に起因する膀胱容量の変化を測定する。このモデルは、求心性C線維を含む膀胱求心性線維を急性的に活性化させる。
【0188】
慢性モデル:慢性脊髄損傷モデル
以下は、求心性C線維が脊髄損傷の結果慢性的に活性化されている、神経因性膀胱のモデルである(Yoshiyama, M. et al., Urology 54(5): 929-933 (1999)参照)。脊髄損傷の後に、活性薬剤(薬物)を投与することができ、脊髄損傷の結果生じる膀胱容量の減少を(部分的にまたは全体的に)逆転させる活性薬剤の能力を測定することができる。膀胱容量の減少を逆転させる物質は、過活動膀胱、例えば、神経因性膀胱の治療に用いることができる。
【0189】
(a)慢性モデル用の動物の準備:
雌スプラーグドーリーラット(Charles River、250〜300g)をイソフルラン(4%)で麻酔し、T9-10脊髄レベルで椎弓切除術を行う。脊髄を横に切断し、介在する隙間をGelfoamで満たす。覆っている筋肉層および皮膚を順次縫合して閉じ、動物を抗生物質で処置する(100mg/kg アンピシリン皮下注射)。動物を飼育ケージに戻すより前に残尿を搾り出し、その後、4週間後の最終的な実験まで毎日3回搾り出す。実験の日に、動物をイソフルオラン(4%)で麻酔し、全身の循環に対するアクセスのために頸静脈カテーテル(PE10)を挿入し、皮下を通して肩甲骨中央領域を通って出す。腹部正中切開を介して、膀胱の充填および圧力の記録のために、先端がフレアー状に開いたPE50カテーテルを小さな膀胱切開を通じて膀胱の円蓋部の中に挿入し、結紮によって固定する。小さい直径(75.mu.m)のステンレス鋼ワイヤを筋電図検査(EMG)のために外尿道括約筋(EUS)に経皮的に挿入する。腹壁ならびに頸および腹部の覆っている皮膚を縫合して閉じ、動物をBallman型拘束ケージに入れる。水への自由なアクセスのため、水のボトルは動物の口が容易に届く範囲内に置く。膀胱カテーテルを灌流ポンプおよび圧力トランスデューサーに接続し、およびEUS-EMG電極をその増幅器に接続する。麻酔および順応からの回復の30分後、対照膀胱内圧測定記録のために生理食塩水を一定の速度(0.100〜0.150ml/分)で注入する。
【0190】
(b)慢性脊髄損傷モデル:
ベースライン連続オープン膀胱内圧測定データを回収するため、60〜90分の対照時間の標準的な生理食塩水の注入(0.100〜0.150ml/分)後、ポンプを停止し、膀胱を空にして、ポンプを再び作動させ、膀胱容量を充填膀胱内圧測定によって推定する。20〜30分の間隔で3回、ビヒクルを静脈内に投与して膀胱活動へのビヒクルの効果を確認する。第三のビヒクル対照の後、再度、上記のように膀胱容量を推定する。その後、累積的な用量応答を選択された薬剤を用いて行う。膀胱容量は各用量の20分後に測定する。これは、求心性C線維が慢性的に活性化される神経因性膀胱のモデルである。
【0191】
鎮吐作用
制吐薬としての化合物の活性は、任意の適したモデルにより実証することができる。例えば、例えば、イヌ(例えば、ビーグル)、子豚またはフェレットにおいて、催吐薬(emetogen)(例えば、一般に適した動物モデルにおいて催吐性の誘因として用いられるシスプラチン)により誘導されて悪心を催すおよび/または嘔吐する潜時または数を化合物が減らすことのできる程度を評価することができる。例えば、適した方法は、Tatersall et al. and Bountra et al., European Journal of Pharmacology, 250: (1993) R5 and 249: (1993) R3-R4 and Milano et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 274(2): 951-961 (1995)に記載されている。
【0192】
加えて、Florezyk et al., Cancer Treatment Report,66(1): 187-9, (1982))に記載され、下に要約されている一般法も、フェレットにおける試験化合物の催吐への効果を評価するためにも用いられ得る。
【0193】
手短に言えば、試験化合物とシスプラチンの両方が調製され、投与される。シプラチンは、代表的な嘔吐の誘因である。
【0194】
a)対照-試験薬剤なし
秤量約2kgの6匹の雄フェレットの群に、適した用量(例えば、10mg/kg)でのシスプラチンの静脈内投与により催吐を誘導する。嘔吐の開始を書き留める。2時間の期間にわたり、嘔吐/悪心を催す数(エピソード)を記録する。催吐の特徴を示す行動の変化も書き留める。
【0195】
b)試験化合物あり
上記のように、シスプラチンの投与の直前に、秤量約2kgの6匹の雄フェレットの群に、適した用量での静脈内投与により試験化合物を投与する。動物を3時間観察する。
【0196】
次に、試験薬物および対照動物に見られる催吐反応を比較して試験化合物の鎮吐特性を評価することができる。
【0197】
膨満モデル
多様なアッセイを用いて直腸の膨張に対する内臓運動および疼痛反応を評価することができる。例えば、その全内容が各々参照により本明細書に組み入れられるGunter et al., Physiol. Behav., 69(3): 379-82 (2000), Depoortere et al., J. Pharmacol, and Exp. Ther., 294(3): 983-990 (2000), Morteau et al., Fund. Clin. Pharmacol., 8(6): 553-62 (1994), Gibson et al., Gastroenterology (Suppl. 1), 120(5): A19-A20 (2001) and Gschossmann et al., Eur. J. Gastro. Hepat, 14(10): 1067-72 (2002)を参照。
【0198】
内臓痛
内臓痛は、例えば、腹筋の収縮として示され得る内臓の反応につながり得る。従って、大腸を膨張させることにより生じる機械的な疼痛刺激後に起こる腹筋の収縮の数は、内臓の疼痛に対する感受性を判定するための測定であり得る。
【0199】
膨張によって誘導される収縮への試験薬剤の阻害作用はラットで試験することができる。導入されたバルーンによる大腸の膨張を刺激として用いることができ;腹筋の収縮は応答として測定することができる。
【0200】
例えば、弱酢酸溶液の滴下注入による大腸の感作の1時間後、ラテックスバルーンを導入し、段階的な方法で、約5〜10分間で約50〜100mbarまで順次膨張させる。圧力値は、4℃でのcm H2Oとして表すこともできる(mbar×1.01973=4℃でのcm H2O)。この間に、腹筋の収縮を計数する。試験薬剤の皮下投与の約20分後、この測定を繰り返す。試験薬剤の作用を、対照(すなわち、非感作ラット)と比較した、計数した収縮の低下率として計算する。
【0201】
胃腸(GI)運動モデル
胃腸運動の調査は、動物全体における機械的または電気的事象に関連する腸の筋肉収縮のインビボ記録か、または、器官槽中でインビトロで記録された単離された胃腸の腸筋肉調製物の活性のいずれかに基づいてもよい(例えば、Yaun et al., Br. J. Pharmacol., 112(4): 1095-1100 (1994), Jin et al., J. Pharm. Exp. Ther., 288(1): 93-97 (1999) and Venkova et al., J. Pharm. Exp. Ther., 300(3): 1046-1052 (2002)参照)。該インビボ記録は、特に意識の束縛なく(conscious freely)動く動物において、胃腸管の運動機能に直接に関する運動パターンおよび推進活性を特徴付けるという利点を有する。相対的に、インビトロ研究は、収縮性活性に直接影響を及ぼす薬剤の機構および作用部位についてのデータをもたらし、環状の、および/または縦方向の腸の平滑筋層への影響を識別する古典的ツールである。
【0202】
(a)インビボ
(i)結腸収縮性
携帯型の遠隔測定運動性記録により、長期間の間ずっと、覚醒動物において腸運動を調べるために適した方法が提供される。結腸運動の遠隔測定記録は、意識下の自由に動く動物の未調製の結腸において伝播性の収縮活性の研究に導入されている。ユカタン・ミニブタは、ヒトとミニブタの胃腸間の解剖学的かつ機能性類似性に基づく運動性研究のための優れた動物モデルを提示する。結腸運動の研究のために調製するために、若齢のミニブタに永続的な慢性盲腸瘻を確立する外科手技を施す。
【0203】
実験の間、動物は管理された条件下の動物施設で飼育され、標準的な食事を自由に得ることのできる水と共に与えられる。ミニブタの近接結腸のセグメントにおける結腸運動の遠隔測定記録をおよそ1週間行う(McRorie et al., Dig. Dis. Sci. 43: 957-963 (1998); Kuge et al., Dig. Dis. Sci. 47: 2651-6 (2002))。各記録セッションで得られたデータを用いて、平均振幅および伝播収縮の総数、高低の速度を伝播する収縮の数、長短の持続時間を伝播する収縮の数を判定し、それぞれのタイプの収縮の相対占有率を総収縮活性の割合(%)として概算することができる。結腸収縮活性を特徴付ける、要約された運動指数(MI)は、以下の方程式を用いて算出することができる。2MI=収縮数/24 hr.×24hr.圧力ピーク下面積。
【0204】
(ii)結腸運動
雌ラットに、エタノールまたは生理食塩水(対照)中のTNBSを結腸内に投与する。カテーテルの先端を肛門縁から2〜6cmの間に置く(n=6匹/群)。TNBS投与の3日後、動物は、一晩食事制限され、翌朝、ウレタンで麻酔され、生理学的/薬理学的実験用の機器を装着される。
【0205】
腹側切開を頚部の腹側表面に作製し、頸静脈カテーテルを挿入し、結紮によって固定し、皮膚の創傷を縫合で閉じる。コンドームリザーバチップから形作られた、先端にバルーンの付いた結腸内カテーテルおよびチューブを肛門より挿入し、肛門縁からおよそ4cmにバルーンを置く。3方ストップコックを介するシリンジポンプおよび圧力トランスデューサーとの接続により、同時のバルーン容量調整および圧力記録が可能となる。細線電極を外肛門括約筋(EAS)および腹壁筋系に挿入して筋電図(EMG)記録を可能にする。この準備と共に、結腸内圧、結腸運動、腹部EMG発火を介する結腸の感覚閾値、ならびにEAS発火頻度および振幅を、対照および刺激動物の両方において定量する。
【0206】
約0.025mlのバルーン容量で約1時間の対照時間に続いて、ベースライン結腸運動および関連する非有害の内臓身体反射測定を確立するため、3つの継続的な増大する勾配の段階的または持続的バルーン膨張を行う。各容量勾配の完了の後、回復およびさらなる結腸運動測定値の収集のために、バルーンを30分間脱気した。EMGおよびバルーン膨張に対する結腸の圧力応答を、結腸直腸膨張(CRD)に対する感受性として測定し、分析する。薬理学的作用物質の投与は、増大する用量反応プロトコールで行い、最後の対照CRDバルーンの脱気後に開始する。
【0207】
(b)インビトロ
単離された平滑筋調製物の収縮活性の記録を用いて、「外的」要因(循環ホルモンなど)の影響が取り除かれているが、筋肉自体はそのインビボ能力を保持する条件下で選択された局面の筋肉機能を研究することができる。
【0208】
一方の端を固定し、他方の端を等尺性の力変換器に取り付けた器官槽中で垂直に取り付けられた平滑筋片(または腸セグメント全体)を用いて研究を行う。筋肉を、37℃に維持し、95% O2および5% CO2で通気した、改変Krebs重炭酸バッファー中に連続的に浸す。組織を初期長(Li-張力がゼロの際)でおよそ5分平衡化させ、次に、小さな力の増分で最適な長さまで徐々に伸張させる(L0-アゴニストに応答して最大の活性張力が生じる長さ)。実験は、標準化された自発的活性および薬理学的応答を得るためにL0で行われるべきである。最も一般的に使用される記録手順には、適切な記録装置へ装着された等尺性変換器が含まれる。腸神経終末の刺激に対する機械的応答は、生理学的電気刺激装置に接続された白金電極対を備えた器官槽で研究することができる。単離された平滑筋調製物を用いても長さ-張力の関係を研究することができ、それにより平滑筋の能動および受動特性の特徴がもたらされる。
【0209】
臨床評価-第II相のための試験デザイン
第II相は、無作為化された、成人(18歳以上)男女における二重盲検プラセボ対照平行群多施設試験である投与量決定試験である。一部の研究では、患者集団は女性に限定され得る。
【0210】
これは、2週間の研究であり、4または12週間の能動的治療相、それに続いて最低2週間の追跡相を行って、IBSの患者における薬物の治療を評価する。被験体は、IBSに関してRome II型の判定基準を満たし、少なくとも6ヶ月症状がある必要がある。被験体は通院する外来患者であり、最近大腸の試験をした形跡があり、炎症性腸疾患を含むその他の重篤な医学的状態の根拠はない。
【0211】
研究には3つの相がある。総体的症状を確認して用便習慣の変化を記録するための2週間のスクリーニング期間がある。適格であり続ける全ての被験体の無作為化をある群に対してその2週間の期間の後に行う。被験体を治療群(活性群の1つまたはプラセボ)に割り当て、4または12週間の期間、連続的に試験薬物を与える。被験体は、スクリーニング期間中にそうしたように、腹痛/不快感およびその他の下部消化管症状を4または12週の期間記録する。治療期間の完了後、被験体は2週間の最低追跡期間の間モニタリングを継続しながら症状の記録を継続する。
【0212】
エンドポイントには、腹痛/不快感の十分な緩和の測定、治療期間の間の疼痛/不快感のない日数の割合の比較、便の硬さの変化、便の頻度の変化、および胃腸通過の変化が含まれる。
【0213】
例証
本発明を、ここで、何ら限定することを意図されない以下の実施例により説明する。
【0214】
材料および方法
化合物
形態Iの4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩は、Mitsubishi Chemical Industries Limited (Japan)により提供された。本研究に用いたサンプルは約10年前のものであった。
【0215】
示差走査熱量測定(DSC)
50ポジションオートサンプラーを備えたTA instrument Q1000でDSCデータを収集した。エネルギーおよび温度の較正基準はインジウムであった。サンプルを10℃/分の速度で一般に25〜300℃で加熱した。30ml/分での窒素パージをサンプルの上で維持した。別に指定されない限り0.5〜3mgのサンプルを用いて、全てのサンプルを、別に指定されない限り針穴のある密封されたアルミニウム鍋にクリンプした。
【0216】
熱重量分析(TGA)
ニッケル/アルメルで較正し、10℃/分の走査速度で作動するTA Instrument Q500 TGAでTGAデータを収集した。60ml/分での窒素パージをサンプルの上で維持した。一般に5〜10mgのサンプルを予め風袋を差し引いた(pre-tared)白金の坩堝に装填した。
【0217】
偏光顕微鏡(PLM)
サンプルを、画像キャプチャ用のデジタルカメラの付いたLeica LM/DM偏光顕微鏡で調査した。少量のサンプルをスライドガラスに載せ、液浸油をマウントし、カバーガラスで覆い、それと同時に個々の粒子が可能な限り分離していることを確保した。次に、サンプルを、適切な倍率、例えば、およそ50〜500倍、およびλ着色フィルタと連結された交差偏光で見た。
【0218】
1HNMR
オートサンプラーを備えたBruker 400MHzで全てのスペクトルを収集した。別に指定されない限り、サンプルをd6-DMSO中に調製した。
【0219】
X線粉末回折(XRPD)
(a)Bruker AXS/Siemens D5000
サンプルについてのX線粉末回折パターンを、CuKα放射線(40kV、40mA)、θ-θゴニオメーター、自動発散スリットおよび受光スリット、グラファイト第2モノクロメータならびにシンチレーションカウンターを用いるSiemens D5000 回折計で獲得した。0.02° 2θのステップサイズおよび1秒のステップ時間を用いる連続走査モードで、1°〜40° 2θの角度範囲にわたってデータを収集した。
【0220】
周囲条件下で実行したサンプルを、粉砕せずに粉末を用いて平らな板状試験片として調製した。およそ25〜50mg(一般に、約35mg)の前記サンプルを、研磨されたゼロ・バックグラウンド(510)シリコンウエハー(The Gem Dugout, Pennsylvania)に切り込まれた直径12mm、深さ0.5mmの空洞の中に穏やかに詰め込んだ。試験片は、一般に、分析の間それら自身の面で静止ならびに回転の両方で実行された。さらなる試験片を、シリコン粉末を何らかのピーク変位を補正するための内部標準として用いて実行した。
【0221】
回折データは、機器評価ソフトウェア(EVA)を用いてKα2成分をストリッピングした後に、Cu Kα1(.=1.5406Å)を用いて報告される。全てのXRPD分析は、Diffrac Plus XRD Commander ソフトウェア v2.3.1.を用いて行った。
【0222】
(b)Bruker AXS C2 GADDS 回折計
サンプルについてのX線粉末回折パターンを、CuKα放射線(40kV、40mA)、自動XYZステージ、自動サンプル位置決め用のレーザービデオ顕微鏡およびHiStar 2次元領域検出器を用いるBruker AXS C2 GADDS 回折計で獲得した。X線光学は、0.3mmのピンホールコリメータと連結された単一のGobel多層膜鏡からなる。
【0223】
ビーム広がり、すなわちサンプル上の効果的な大きさのX線ビームは、およそ4mmであった。θ-θ連続走査モードをサンプルから検出器まで、3.2〜29.8°の効果的な2θ範囲をもたらす20cmの距離で用いた。サンプルの典型的な曝露時間は約120秒であった。
【0224】
周囲条件下で実行したサンプルを、別に指定されない限り粉砕せずに粉末を用いて平らな板状試験片として調製した。およそ1〜2mgのサンプルを軽くスライドガラス状に押し付けて表面を平らにした。非周囲条件下で実行したサンプル(VT-XRPD)を、熱伝導性化合物と共にシリコンウエハーにマウントした。次に、サンプルを約20℃/分で適切な温度まで加熱し、引き続いて約1分間等温的に維持した後、データ収集を開始した。
【0225】
単結晶構造解析
単結晶構造解析のためのデータを、Oxford Cryosystems Cryostream冷却器を備えたBruker AXS/Siemens SMART IK CCD 領域検出器回折計で回収した。用いたプログラムにはBruker AXS/Siemens SMART、SAINT、SADABSおよびSHELXTL制御、組込み、構造解および構造精密化ソフトウェアを含めた。
【0226】
純度分析(HPLC)
純度分析は、ダイオードアレイ検出器を備えたAgilent HP1100システムでChemstation V9 ソフトウェアを用いて行った。勾配、逆相法(持続時間およそ40分)をHPLC1システムで用いた。Thermo-Electron Corporation HyPurity C18 5um 150×4.6mmカラムを25℃で用いた。試験サンプルを、アセトニトリル:水(1:1 v/v)中0.2mg/mlの化合物に作成した。10μlのサンプルをカラムに注入した。カラムを通過する流速は1ml/分であり、検出波長、バンド幅は254,8nmであった。A相は水中0.1%リン酸であり、B相はアセトニトリル中0.1%リン酸であった。移動相のタイムテーブルを下の表2に示す。
【0227】
(表2)HPLC分析勾配のタイムテーブル

【0228】
重量測定による蒸気収着(GVS)
GVSを用いて、サンプルにより吸収された水の量を測定した。手短に言えば、CFRSorp ソフトウェアを実行しながらサンプルをHiden IGASorp水分収着分析器に通した。サンプルの大きさは一般に10mgであった。水分吸脱着等温線を下の表3に概説されるように実行した(2回の走査で1回の完全なサイクルとなる)。サンプルは、典型的な室湿度および室温(40% RH、25℃)で充填/取り出した。次に、GVS分析の後に、例えば、水分の吸着後に何か構造的変化が起こったかどうかを判定するために、サンプルをXRPDにより分析した。標準的な等温線を、0〜90%RHの範囲にわたり、10%RH間隔で25℃にて実行した。
【0229】
(表3)使用したGVS吸着/脱着プロフィール

【0230】
可溶性
それぞれのサンプルを最大終濃度が約10mg/ml以上の化合物の親の遊離形態を生じるために効果的な量で0.25mlの溶媒(水)に懸濁した(すなわち、塩の重量に相当する過剰なサンプルを添加する)。次に、懸濁液を25℃にて24時間平衡化し、それに続いてpHチェックし、ガラスファイバーC 96ウェルプレートで濾過した。次に、濾液を101倍に希釈した。一般的な5分法を用いるHPLCを用いて、DMSOに0.1mg/mlで溶かした標準品に関して溶液中のサンプルの量を定量した。様々な容量の標準品、希釈および不希釈試験液を注入した。次に、同じ保持時間で標準品注入でのピーク最大値として見出されたピーク面積を積分することにより、溶解度を算出した。十分な固体が濾板に残った場合、通常、相変化、水和物形成、アモルファス化、結晶化およびその他の変化についてXRPDをチェックした。
【0231】
pKa
pKaは、D-PASアタッチメントを備えたSirius GlpKa機器で測定した。サンプルが水溶液中にある時にUV測定を行い、サンプルがMeOH:H2O混合物中にある時に電位差測定を行った。測定は25℃で行った。滴定媒体は0.15M KClでイオン強度調節した。MeOH:H2O混合物での電位差測定から決定された値を、Yasuda-Shedlovsky外挿法によって0%共溶媒に補正した。Refinement Pro ソフトウェアバージョン1.0を用いてデータを改良した。pKa値の予想はACD pKa予想ソフトウェアVer 8を用いて行った。
【0232】
LogP
LogPは、オクタノール:ISA水の3つの比率を用いるSirius GlpKa機器での電位差測定滴定を用いて決定し、Log P、Log Pion、およびLog D値を生成した。Refinement Pro ソフトウェアバージョン1.0を用いてデータを改良した。LogPの予想は、ACD Ver 8およびSyracuse KOWWIN Ver 1.67ソフトウェアを用いて行った。
【0233】
含水量/カール・フィッシャー水分測定
様々なサンプルの含水量を、Hydranal Coulomat AG試薬およびアルゴンパージを用いてMettler Toledo DL39 Coulometerで測定した。サンプルを、水の移入を避けるためにスバシール(subaseal)に接続された白金TGA鍋に秤量した固体として容器に導入した。およそ10mgのサンプルを滴定ごとに使用し、それぞれの分析を2通り行った。
【0234】
光安定性
Atlas Suntest CPS+ライトボックスを用いて促進光安定性実験を行った。露光量を550W/M2に設定し、稼働時間を168時間(1週間)に設定した。チャンバー温度および黒色基準温度(試験サンプルがどのくらい熱くなるかを示す)を25℃に設定した。サンプルチャンバーの実際の温度は40℃であった。
【0235】
実施例1:塩酸塩の形態Iの特性決定
最初の光学検査は白色粉末を示し、その粉末は複屈折/結晶化度を示し、小型の不規則な凝集粒子からなるように見えた。
【0236】
形態Iは、pKa、LogP、LogPionおよびLogDの決定および予想、4週間40℃/75%RHでの保存前後のXRPD、PLM、DSCおよびTGA、1HNMR、pH測定する水中溶解度、4週間40℃/75%RHでの保存前後のHPLC純度、含水量、XRPDを備えるGVSおよび測定後の純度分析、ならびにVT-XRPDにより特徴付けられた。
【0237】
MeOH/水中のpKaの電位差定量のためのYasuda-Shedlovsky外挿法の傾斜は、8.64のpKaが塩基性であったことを示した。pKaが0.81の二番目の塩基性中心をUV分光分析法により測定した(D-PASアタッチメント)。予想値から予期したように、化合物はモノ塩スクリーンに適しており、強く安定な塩を形成するはずである。
【0238】
LogP、LogPionおよびLogD値を、データのマルチセットを改良して、異なる比率の0.15M KCl(Aq)対1-オクタノールを用いて測定した。測定されたLogP、3.96は、予測値によく一致する。LogPionは1.41であり、pH7.4でのLogDは2.72であった。
【0239】
C2およびD5000機の双方でのXRPD分析により、該物質が高度に結晶性であることが示された。該物質を受けた時、3.9 2θで非常に小さなピークが示された。これは少量の不純物、おそらく形態IIを示し得る。実質的に純粋な形態Iの調製物は、そのようなピークの非存在を示した。4週間40℃/75%RHで保存した後、XRPDパターンは変わらなかった。形態Iに関するXRPDパターンを図1に示す。PLM画像は、該物質が最大約20μmの大きさの小型の不規則な結晶状粒子からなることを示した。
【0240】
該物質の初期純度は100%であった。しかしながら、周囲光条件下で4週間40℃/75%RHでの後、該物質表面は黄色に変わり、HPLC純度は99.0%となった。
【0241】
形態IのDSCサーモグラムは、水分損失による20℃〜約80℃の間の初期吸熱、それに続いて269.1℃での融解吸熱(ΔH=113J/g)を示す。TGAサーモグラムは、20℃〜約70℃の間の4.8%の重量損失を示し、これは1.0モルの水に相当する。電量による水分測定により4.8%の値を得、DSCとTGAの解釈を確認した。
【0242】
VT-XRPD分析により、化合物が融解する前に昇華する可能性のあることが示された。ピンホールのある気密性の鍋でのDSCは、融解吸熱によるベースラインの移動を示し、減成または化合物の損失のいずれかを示す。ピンホールのない気密性の鍋での測定はベースラインの移動を示さない。TGAサーモグラムも、およそ230℃からの重量損失を示す。気密性の鍋の中で示される融点は273.6℃であった(ΔH=98J/g)。
【0243】
DMSOおよびCD3ODでの1HNMR分析は所与の構造に一致し、16個全てのプロトンが確認された。チオフェン環中のプロトンは、1HNMR組込みにおいて1つに設定され、その後組込み目的のための塩選択研究に用いられた。
【0244】
単一サイクルGVSは、0〜90%RHの間で5.0%の総重量増加、特に、20%〜30%RHの間で約4.8%の重量増加を示した、これは1.0モルの水に相当する。この重量増加は、吸着サイクルと脱着サイクルの間の任意の有意なヒステリシスとは関係がなかった。GVS後のXRPD再分析はいかなる変化も示さなかった。
【0245】
水溶解度測定により、2.1mg/mlの値(塩酸塩として、遊離塩基の1.7mg/mlに相当)および6.33のpHを得た。
【0246】
実施例2:塩酸塩の成熟研究
非晶質の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩を単離することは困難であったため、結晶性物質を成熟研究に用いた。
【0247】
溶媒および方法論
多様な一連の25溶媒を、それらの誘電率、双極子モーメント、および官能性に基づいて選択した。使用した溶媒には、ヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン、ジオキサン、トルエン、クメン、MTBE、テトラリン、DIPE、アニソール、酢酸ブチル、酢酸エチル、THF、DCM、IPA(イソ-プロパノール)、MEK、アセトン、エタノール、トリフルオロエタノール、NMP、メタノール、DMF、アセトニトリル、ニトロメタン、DMSOおよび水を含めた。
【0248】
およそ40mgの化合物を49のHPLCバイアルに秤量した。バイアルを2つの組に分けた。
1.)ニートな溶媒中で25実験。水を1:1 トルエン:MeOHに置き換え、ヘキサフルオロベンゼンもこの組での余分な実験に含めた。
2.)溶媒+5容量%の水中で24実験。この組にはニートな水を含めた。
【0249】
加えた溶媒の容量は、公知であるかまたは予測された溶解度に従って変動した。次に、懸濁液を実験室温度〜50℃の間で10日間にわたり成熟させ、4時間の間振盪加熱器のスイッチをオンとオフに交互に切り換えた。10日後、サンプルを5ミクロンのフィルタカートリッジで濾過し、XRPD分析のためにプレートアウトした。
【0250】
単離物質の特性決定
成熟研究の間、暫定チェックをPLMで行った。懸濁液の画像はインサイチューで撮られ、ほぼ全ての物質が出発物質と比べて変化しているように見え、広範囲の結晶形態が示された。
【0251】
XRPDパターンは好ましい配向結果を示し、それはいくつかの固体、特に、大きな結晶が形成されているために、アルコールについて観察された。公知の形態と比較するために代表的なXRPDパターンを確実に回収することができるように、これらの物質を穏やかに粉砕する試みがなされた。
【0252】
DCM、アセトン、DMF、MeOH、MeOH/5%水およびNMP/5%水のサンプルに関するXRPDパターンを測定するためのさらなる試みがなされた。これらのサンプルを濾過管の中で3日間、ドラフトの中に置いた後、より代表的なパターンが生成されるようにそれらを粉砕した。これらの実験から得たXRPDパターンにより形態の割り当てが可能となった。
【0253】
さらなる測定もDMF、DMF/5%水、NMP/5%水およびDMSO/5%水中のサンプルで行った。これらのサンプルは以前の測定において形態IIから形態Iへと変化した。いかなる特定の理論に縛られるものではないが、これは、これらの固体中に付随し、その後形態Iへの変換を触媒する残った溶媒による水分吸収に起因すると考えられる。これらの溶媒の沸点は高く、従って過剰な溶媒は蒸発できない可能性が高い。
【0254】
一般に、ニートな溶媒から形態IIが得られ、5%の水を加えた溶媒から形態Iが得られるが、1つまたは2つの例外があった。ニートなヘキサン、トルエン、クメンおよびテトラリンでは、測定値は形態I単独または形態IIとの混合物のいずれかを示した。いかなる特定の理論に縛られるものではないが、これは、これらの溶媒中の化合物の溶解度が低いかまたは極めて低いことに起因し得ると考えられる。5%の水を備えるIPA、NMP、MeOH、DMFおよびDMSOでは、測定値は形態IIのみを示した。これらの物質は一般に、高結晶質であり、大部分は単結晶研究に適した。再び、いかなる特定の理論に縛られるものではないが、形態Iは1:1水和物であるので、より高活性の水を備える溶液は形態Iを生じる傾向が大きいと考えられる。
【0255】
1:1トルエン:MeOHでの実験により、単結晶分析に適した形態IIの結晶が得られた、それは本明細書において下文で考察される。
【0256】
アセトンおよびアセトニトリル由来の形態IIの2種類のサンプルを40℃/75%RHで4日間保存した。XRPD測定は、これらの物質が40℃の温度および75%のRHに4日間曝された後で変化のないままであったことを示す。さらにPLM測定を、5%水を備えるNMP、DMFおよびDMSOサンプルに濾過管中で1週間置いた後に行った。この期間の前後の該物質の形態の比較により、それらが全て変化したことが示され、形態の変化のXRPD観察に一致している。
【0257】
SXD (Single Crystal X-Ray Diffraction)
上記研究に用いた溶媒の多くが比較的大きな結晶を備える高結晶質の物質をもたらした。従って、単結晶構造は1:1 MeOH/トルエンでの成熟実験から生成された。
【0258】
化合物を、この溶媒混合物中で80mg/mlにて約2日間完全に溶かした。この溶液をドラフトの後方に置き、針を蓋の中隔に通して緩徐な蒸発を可能にさせた。数日後、バイアルの底部の大きな結晶に気付いた。
形態IIの結晶データ:
分子式:C17H18.32N4O0.16F1S1Cl1、M=367.70、単斜晶系、空間群P21/c、a=23.2322(15)、b=7.1771(5)、c=10.6589(7)Å、α=90、β=102.292(2)、γ=90°、U=1736.5(2)Å3、Z=4、Dc=1.406gcm-1、μ=0.357mm-1(Mo-Kα、λ=0.71073Å)、F(000)=766、T=123(1)K。
結晶サイズ 0.35×0.30×0.30mm、θmax28.29°、データは0.80Åに切り捨て、θmax26.37°、測定された反射13944、独立な反射3525(Rint=0.0252)、99.7%完了。
直接法による構造解、w-1=σ2(Fo2)+(0.0515P)2+(0.8500P)、式中、P=(Fo2+2Fc2)/3で重みづけしたF2でのフルマトリックス最小二乗法による精密化、異方性変位パラメータ、ライディング(riding)水素原子、吸収補正なし。
全データに対する最終Rw={Σ[w(Fo2-Fc2)2]/Σ[w(Fo2)2]1/2}=0.0924、F値2971での従来のR=0.0342、反射I>2σ(I)、全データおよび242のパラメータについてS=1.002。
最終の差分布図+0.41〜-0.41 e Å-3の間。
【0259】
結晶格子中の水の占有率は17%であった。これは本明細書において上に考察される形態IIに関する特性決定データに一致する。形態IIの結晶構造のORTEPモデルは図5に示される。この構造について算出されたX線粉末回折パターンも形態IIについて既に測定されたXRPDデータとの良好な合致をもたらす。
【0260】
実施例3:塩酸塩、形態IおよびIIのスケールアップおよび特性決定
スケールアップ
アセトニトリルをスケールアッププロセスに使用した。なぜなら、アセトニトリルでの成熟研究中に形成された物質は好ましい配向結果が得られなかったため、かつ、該溶媒は容易に取り除くことができるためである。
【0261】
400mgの形態Iを、実験室温度〜50℃の間の4時間ごとの熱-冷サイクルで、10mlアセトニトリルに21時間懸濁した。21時間後、インサイチューでの顕微鏡検査により、該物質が変化したことが示された。該固体を濾去し、実験室温度にて3時間真空乾燥させた。サンプルの重量は乾燥後350mgであった。XRPD分析により、この物質が今や高結晶質の形態IIであることが示された。
【0262】
形態Iのより純粋なサンプルも、サンプルをTHF/5%水に懸濁したことを除いて上記と同じ様式で調製された。406mgを使用して、乾燥後276mgが得られた。
【0263】
PLM、XRPDおよびDSC/TGAによるこれらの2種類のサンプルについての最初の特性決定データは、形態IおよびIIのその他の分析と一致した。形態Iに関するTGAは、場合により該物質が乾燥後に十分に平衡化する機会がなかったことに起因する、わずかに少ない重量損失を示した。また、形態I物質に関するDSCで注目されるものは、溶融する前の約229℃での少しの発熱の形跡(ΔH1.3J/g)であった。形態Iの再分析もこの発熱を示し、以前のDSCサーモグラムに詳細な検査によっても可能性のある発熱の存在が示される。これが発熱挙動である理由を実施例4において以下で考察する。
【0264】
特性決定
最初の光学評価により、複屈折/結晶化度を示し、小型の不規則な粒子からなる白色粉末が示された。
【0265】
形態IIを、40℃/75%RHにて3週間の保存前後のXRPD、PLM、DSCおよびTGA、pH測定を備える水溶性、HPLC純度、含水量、測定後のXRPD分析を含むGVS、ならびにVT-XRPDを用いて特性決定した。
【0266】
C2およびD5000機の両方でのXRPD分析により、該物質が高結晶質であったことがそれぞれ示された。結晶格子を示す4 2θでのピークは、D5000機においてさらに一層顕著である。40℃/75%RHにて3週間の保存後のXRPDパターンは変わらなかった。保存後、該物質のHPLC純度はそれでも100%であった。周囲光条件下、40℃/75%RHにて3週間後、該物質表面に色の変化はなかった。従って、形態IIはより光安定性かつ/または化学安定性であり得る。形態IIについてのXRPDパターンを図2に示す。PLM画像は、該物質が多少の凝集を備える可変形態の小型の結晶状粒子からなることを示した。
【0267】
DSCサーモグラムは、水分損失による非常に広い20℃〜およそ140℃の間の吸熱、それに続いて269.4℃での融解吸熱ΔH99J/gを示す。TGAサーモグラムは、20℃〜約100℃の間に1.1%の重量損失を示し、これは0.23モルの水に相当する。電量による水分測定により1.8%の値を得、従ってDSCとTGAの解釈を確認した。
【0268】
単一サイクルGVS研究を行って、0〜90%RHの間で1.9%の総重量増加(0.39モルの水に相当)が、0〜40%RHの間の1.4%の増加(0.29モルの水に相当)と共に示された。この重量増加は、吸着サイクルと脱着サイクルの間のヒステリシスとはいかなる関係もなかった。GVS後のXRPD再分析はいかなる変化も示さなかった。形態IIに関するGVS研究のプロットを図3に示す。
【0269】
水溶解度測定により、1.6mg/mlの値(遊離塩基に相当)および6.39のpHを得た。
【0270】
2番目のバッチでは、1.0966gの形態Iを20mlバイアルに秤量した。15mlのアセトニトリルを添加し、容器を箔で包んで任意の光劣化を避けた。懸濁液を、RT〜50℃で4時間の熱サイクルで3日間成熟させた。次に、物質を高真空下で30℃にて4時間乾燥させた。乾燥した形態IIの収量は0.9809gであった(含水量に対して補正した場合93%)。
【0271】
物質は、複屈折/結晶化度を示す白色粉末からなった。最大20μmの粒子は小型で不規則であった。XRPDは高結晶質のパターンを示し、それは以前の研究の間に形態IIについて収集した参照パターンに一致した。HPLC純度は99.9%であり、含水量は1.2%であった(0.23モルの水に相当)。
【0272】
実施例4:形態IおよびIIの可変温度(VT)XRPD研究
可変温度XRPD(VT-XRPD)を用いて3サンプルを研究した。受け取ったままの形態I、実施例3で調製した実質的に純粋な形態I、そして実施例3で調製した実質的に純粋な形態IIであった。VT-XRPD研究を最初に実施例3で調製した実質的に純粋な形態Iで行い、25℃、50℃、80℃、150℃、220℃、225℃、250℃で測定し、29℃まで冷却した。最後のXRPDパターンの測定よりも前に、大きな結晶の成長のために物質を粉砕した。XRPDパターンのオーバーレイは図4Aに見出すことができる。実験の終わりの物質(29℃で得たパターン)と形態IIの参照パターンとの比較により、VT-XRPD実験中に形態Iが形態IIへ変換されたことが示された。
【0273】
この一連のパターンの詳細な検査により、形態Iが50℃で得たパターンの新規な形態に変換されたことが示される。4.0、14.5および15.4 16.7 2θで現れたものを含む多くのピーク変化が起こった。これらのピークを提示する新規な形態を形態IIIと表した。次に、150℃まで、結晶格子の特定の軸の膨張に起因する小さなピーク移動が生じる。この膨張は可逆性であり、サンプルを冷却するとピークはその元の位置に戻る。150℃〜220℃の間で、物質は、約14.7 2θでさらなるピークを備える形態IIへと二番目の変化を経験する。高角度ではその他の変化もいくつかある。物質はおよそ220℃まで視覚的に変化せず、そこで結晶成長が生じる。結晶は大きなプレートへと成長を続け、そのプレートは最終のXRPD測定の前に粉砕を必要とした。
【0274】
実験は、受け取ったままの形態Iでも行い、26℃、50℃、150℃、200℃、210℃、220℃、230℃で測定し、27℃まで冷却した。XRPDパターンのオーバーレイは図4Bに見出すことができる。上の実験の確認に加えて、これによっても、210℃〜220℃の間の形態IIIの形態IIへの不可逆変換が生じたことが示された(約14.7 2θのピーク参照)。実験の終わりに得たXRPDは、形態IIの参照パターンのXRPDに完全に一致した。
【0275】
次に、受け取ったままの形態Iの塩酸塩を用いて、形態Iが形態IIIへ変換される場合を確認する実験を行い、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃で測定した後、34℃まで冷却し、続いて26℃まで冷却した。14〜18 2θの間のXRPDピークは、形態IIIへの変換が40℃〜45℃の間で起こることを示す。しかしながら、該物質が十分に26℃まで冷却し戻されるとすぐに、元の形態Iパターンが認められた。
【0276】
上の実験から得たデータは、形態Iが可逆転移である形態IIIへ変換されるが、不可逆性転移である形態IIへの変換が開始しないように形態Iを200℃に加熱することが可能であることを示す。これは、受け取ったままの形態IのXRPDパターンを26℃、200℃、30℃、27℃で、および冷蔵庫の中で一晩5℃にて保存後に測定することにより試験された。物質は200℃で形態IIIとして存在するが、実験室温度まで冷却し、実験室湿度に曝すと、該物質は予測されるように形態Iに変換し戻される。
【0277】
形態IについてのVT-XRPD観測結果は、実施例3に考察される形態IのDSCにおいて約229℃で認められた小さい発熱は、形態IIIの形態IIへの変換に起因したものであることを示す。
【0278】
また、形態IIでVT-XRPDを行い、25℃、50℃、80℃、150℃、200℃、240℃、245℃で測定した後、30℃まで冷却した。格子の軸膨張に起因するピーク移動以外に変化は生じず、該物質は実験を通して形態IIのままであった。
【0279】
実施例5:遊離塩基からの塩酸塩の製造
実験的
4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2, 3-d]ピリミジン塩酸塩の遊離塩基を公知の方法を用いて調製した。例えば、該遊離塩基は該塩酸塩溶液にNaOHを加えることによって作製することができる。
【0280】
一連の12溶媒を、それらの誘電率、双極子モーメント、官能性および沸点(単離後の効率的な乾燥を可能にする)に基づいて選択した。使用した溶媒には、ヘキサン、トルエン、MTBE、酢酸エチル、THF、DCM、MEK、アセトン、エタノール、メタノール、アセトニトリルおよびニトロメタンを含めた。
【0281】
実施例3に記載のとおりに製造したおよそ50mgの遊離塩基形態Iを、12の容器それぞれに秤量し、それらの容器に逐次的段階で溶媒を加えた(合計4〜39容量間)。いくつかの実験では、急速な溶解が観察された後、白色沈殿物が形成した。メタノールでの実験でのみ溶液状態を維持した。ヘキサンを除き、他の全ての溶媒中に懸濁された固体は外観変化を示した。進める前に、XRPD分析のために各容器から少量の固体を抽出した(固体が存在しないメタノール実験を除く)。これらのXRPD実験は、11の懸濁液のうち9のものから新規な高結晶質の形態の遊離塩基が形成されたことを示した。
【0282】
次いで、さらなる溶媒と加熱によって前記懸濁液の可溶化を試みた。7(DCM, THF)〜97(アセトニトリル)容量間の溶媒を加えて完全溶解を達成したが、ヘキサン実験のみは懸濁液のままであった。ヘキサン懸濁液を除き、各溶液を2等分し(実験AおよびB)、それらに1当量の以下、A)1M HClジエチルエーテル溶液またはB)12M HCl水溶液を加えた。
【0283】
ヘキサン懸濁液は、1M HClジエチルエーテル溶液の容量の2倍容量で処理した。全ての場合において沈殿物が生成した。この沈殿物をRTで約2日間振盪した。それらの懸濁液を濾去し、XRPDにより分析した。
【0284】
エーテル性HClサンプルからは、ヘキサン懸濁液を含む全ての場合において、形態II塩酸塩が形成された。HCl水溶液からは、トルエン、THFおよびDCMを除く全ての場合において形態IIが形成された。従って、形態IまたはIIは溶媒を適切に選択することによって具体的にかつ個別に形成することができることが本明細書において示される。
【0285】
実施例6:形態Iおよび形態IIの安定性研究
促進光安定性研究
168時間(1週間)の期間にわたって形態IおよびIIの光照射の影響を判定するために、Atlas Suntest CPS+ライトボックスを使用してそれらを評価した。光照射は550W/M2に設定した。サンプルを、pyrexガラスビーカーで蓋をする開放計量ボート、開口型(蓋なし)ガラスバイアル、またはアルミニウム箔で覆うガラスバイアルのいずれかに秤量した。全ての場合において、材料を均一な薄い層に伸ばした。
【0286】
(表4)光安定性研究のためのサンプリング計画

【0287】
1週間後、サンプルに照射した全光量は332640KJ/M2であった。視覚的には、光照射を受けたサンプルは表面上黄色に変わり、その材料は下部では白色のままであった。HPLC分析のためのサンプリングの前にサンプルを均質化して、代表サンプルの分析を実現した。箔で覆ったサンプルは白色のままであった。
【0288】
高い光レベルで1週間後に得られたHPLCデータは、これらの条件下では両方の形態が不安定になりやすく、形態IIは形態Iの約半分の速度で減成したことを示した。表5はHPLCデータの要約を示す。1週間後にサンプルに照射した光量は332640KJ/M2であった。
【0289】
(表5)光安定性HPLCデータの要約

【0290】
このHPLCデータは、高い光強度に長期間曝すことによって形態IおよびIIに多少の不安定をもたらし得ることを示している。図6Aおよび図6Bでは1週間後の開放計量ボート中の形態IおよびIIのクロマトグラムを見ることができる。視覚的には、光照射を受けたサンプルは表面上黄色に変わり、その材料は下部では白色のままであった。HPLC分析を実施する際には、均一サンプルを秤量した。両方の形態の対照サンプル(アルミニウム箔で覆ったもの)も同様に試験した。外観上白色のままであったこれらのサンプルでは大きな減成は起こっていなかった。貯蔵後の形態IおよびIIから認められる不純物は同じであり、形態IIにおいて全体のレベルがより低いにもかかわらず、同様の相対的割合を有していた。これは、形態IおよびIIでは減成の機構が同じであることを示している。
【0291】
10週間の安定性研究
形態IおよびIIのサンプルを明および暗条件の両方において40℃/75%RHおよび60℃/75%RHで最大10週間にわたって試験した。サンプルを温度/湿度調整室内に置いたため、光照射は、人工光と窓から入る多少の冬の採光による通常の実験室明条件に限定された。
【0292】
各サンプルのおよそ100mgをプラスチック製計量ボートに秤量し、表6に示す温度/湿度/明条件のそれぞれに対して均一な薄い層を形成するように伸ばした。暗サンプルは、暗サンプルをアルミニウム箔で包むことによって光照射から保護した。湿度暴露を可能にするために、箔には穴を開けた。
【0293】
(表6)10週間の安定性研究のためのサンプルの設定

【0294】
安定性研究中のHPLC分析のために選択した時点は、T=0、1週間、2週間、5週間および10週間であった。10週間の時点において、サンプルをXRPD、DSCおよび偏光顕微鏡を用いて分析した。
【0295】
安定性サンプルの外観検査により、それらのサンプルは10週間後に表面上著しく黄変していることが分かった。しかしながら、黄色着色の濃さは両方の貯蔵条件下で形態Iの場合に最大であった。この観察結果にもかかわらず、これらの材料の純度は高いままであった。視覚的に示された影響は表面上であり、HPLC分析の前にそれらの材料を均質化したため、全体的な減成は少なかった。得られたHPLCデータは、形態IおよびIIが周囲光レベルだけでなく、高温および高湿に対しても安定していることを示している。表7ではHPLC安定性データを要約している。図7Aおよび図7Bでは明条件において60℃/75%RH(起こった最大限の減成を示している)で10週間後の形態IおよびIIのクロマトグラムを見ることができる。
【0296】
(表7)HPLC安定性データの要約

【0297】
認められた不純物は、促進ライトボックス中で貯蔵したサンプルのものと同じRRT(相対保持時間)を有した。XRPD分析は、安定性研究を通じて材料のいずれに対しても変化が起こらなかったことを示した。全てのサンプルは高結晶質のままであり、両方の形態の粉末パターンは、T=0において得られたデータと比較して変化していなかった。
【0298】
材料のDSCトレースにより、両方の形態において約268℃で単一溶解が観察され、続いて、その化合物の減成が起こったことが分かる。形態Iは、広範な吸熱を特徴とする、1.0モルの水の損失に起因した、周囲〜約75℃の間での溶媒損失を示す。過去の研究から、この溶媒損失の間に形態Iは約40℃〜45℃において形態IIIへと変化することが公知である。約200〜220℃では、形態IIIは単変的固体-固体転移によって形態IIへと変化する。暗状態で貯蔵した形態Iの2サンプルは、形態IIへのこのような単変的変換に関連していると思われる200℃〜250℃間で事象を示した。形態IIは、その後、およそ268℃において溶解を受ける。
【0299】
10週間の安定性研究中に光照射を受けた形態Iサンプルは約250℃での溶解の前に小さな吸熱を示している。この事象はアルミニウム箔で覆ったサンプルでは起こらなかった。この小さな吸熱の理由は、収集したデータからは公知ではない。
【0300】
形態IIは約268℃で溶解し、続いて、その材料の減成が起こる。形態IIサンプルでは重大な熱事象は他に認められなかった。DSCデータの要約は表8に見出され得る。
【0301】
(表8)DSC分析の要約

*溶解前のさらなる小さな吸熱、+溶解前に認められた発熱
【0302】
偏光顕微鏡により、交差偏光下で複屈折性が観察されたことから全てのサンプルが結晶質のままであることが分かった。形態Iの粒径は約10〜20μmであった。60〜160μmの範囲であるより大きな長方形の粒子が時折存在した。形態IIの粒径は約60μmであった。凝集の証拠があり、これらの外側のエッジは板状形態を示した。
【0303】
実施例7:4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2, 3-d]ピリミジン塩酸塩(MCI-225)を用いる過活動膀胱の治療
MCI-225の投与の効果を、希酢酸モデルを用いて評価した。具体的には、希酢酸の持続膀胱腔内注入が原因で起こる刺激誘発性の膀胱容量の減少を逆転させるMCI-225の能力を評価した。
【0304】
希酢酸モデル-ラット
雌ラット(250〜275g BW, n=8)をウレタン(1.2g/kg)で麻酔し、十二指腸内薬物投与のために生理食塩水充填カテーテル(PE-50)を近位十二指腸に挿入した。膀胱充填および圧力記録のために、先端がフレアー状に開いたPE-50カテーテルを下腹部正中切開によって膀胱円蓋に挿入し、結紮によって固定した。腹腔を生理食塩水で湿らせ、排出目的での膀胱へのアクセスを保持するために薄いプラスチックシートで覆うことによって閉鎖した。筋電図検査(EMG)のために、銀またはステンレス鋼細線電極を外尿道括約筋(EUS)に経皮的に挿入した。動物は、体温を37℃に維持した加温パッド上に置いた。
【0305】
下部尿路活性のベースラインを得るために、生理食塩水およびその後の全ての注入剤を膀胱充填カテーテルによって約0.055ml/分の速度で約60分間持続注入した(連続膀胱内圧測定;CMG)。対照生理食塩水膀胱内圧測定の期間終了時に、注入ポンプを止め、注入カテーテルによる流体排出によって膀胱を空にし、膀胱容量を測定するために、前記持続注入と同じ流速で生理食塩水を用いて1回充填膀胱内圧測定図を得た。膀胱容量(ml)は、膀胱充填溶液の流速(ml/分)に膀胱充填開始から膀胱収縮発生までの経過時間(分)を乗じたものとして算出した。
【0306】
対照期間の後に、生理食塩水中0.25%酢酸溶液(AA)を膀胱に注入して、膀胱刺激を誘発した。収縮間隔へのビヒクルの影響を判定するために、さらに希酢酸溶液による刺激の安定したレベルを実現するために、AA注入の30分後に、20分間隔で3回のビヒクル注射(生理食塩水中10%TWEEN 80、1ml/kg用量)を十二指腸内投与した。第3回目のビヒクル対照の注射後、膀胱への充填にAAを用いて上記のように再度膀胱容量を測定した。次いで、累積用量反応関係を構築するために、60分間隔で漸増用量のMCI-225(3mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kg、1ml/kg用量として)を十二指腸内投与した。それぞれの次の薬物処置の20分および50分後に、膀胱への充填にAAを用いて上記のように膀胱容量を測定した。
【0307】
データ解析
各処置計画のために、膀胱容量を上記のように(膀胱充填溶液の流速(ml/分)×膀胱充填開始から膀胱収縮発生までの経過時間(分))決定し、AA/Veh3処置群の最終ビヒクル測定に対して正規化した%膀胱容量に変換した。次いで、データをダンの多重比較検定による反復測定のためのノンパラメトリックANOVA(フリードマン検定)により解析した。全ての比較を最終ビヒクル測定(AA/Veh3)より行った。薬物後30分および60分の測定量はほぼ同じであったため、これらの2つの測定量の平均を各用量での効果として用いた。P<0.050を有意と見なした。
【0308】
結果
十二指腸内MCI-225は、ラット(n=8)において連続刺激中に充填膀胱内圧測定によって測定されたように、結果として、希酢酸モデルにおいて膀胱容量の用量依存的な増加をもたらした。この効果は、3〜30mg/kgの用量範囲において統計的に有意であり(フリードマン検定によりp=0.0005)、10mg/kgおよび30mg/kg反応がAA/Veh3よりも有意に高かった(ダンの多重比較検定によりそれぞれp<0.05およびp<0.001)。
【0309】
結論
刺激誘発性膀胱容量減少を逆転させるMCI-225の能力は、5HT3受容体拮抗による膀胱C繊維活性に対するこの化合物の直接効果と、ノルアドレナリン再取り込み阻害による膀胱活性の交感神経阻害の増強の両方を示唆している。このモデルにおけるMCI-225の有効性により、ヒトにおける下部尿路障害の治療での効力が予測される。
【0310】
希酢酸モデル-ネコ
過活動膀胱の一般的に使用されるモデルであるネコモデルにおいて希酢酸の持続注入後に見られる膀胱容量減少を逆転させるMCI-225の能力(Thor and Katofiasc, 1995, J. Pharmacol. Exptl. Ther. 274: 1014-24)。
【0311】
材料および方法
この研究ではα-クロラロースで麻酔した(50〜100mg/kg)正常雌ネコ(2.5〜3.5kg;Harlan)6匹を利用した。
【0312】
薬物および調製物
MCI-225を5%メチルセルロース水溶液に3.0mg/ml、10.0mg/mlまたは30mg/mlで溶解し、動物に注射量=体重(kg)で投薬した。
【0313】
急性麻酔インビボモデル
雌ネコ(2.5〜3.5kg;Harlan)には研究前夜から絶食させた。翌朝、ネコにイソフルランで麻酔し、無菌法を用いて手術の準備をした。膀胱圧、尿道内圧、動脈圧、呼吸数の測定が可能なように、また薬物の送達のために、ポリエチレンカテーテルを外科的に設置した。細線電極は外尿道肛門括約筋と平行に埋め込んだ。手術後、ネコでは、ガス麻酔薬イソフルラン(2〜3.5%)からα-クロラロース(50〜100mg/kg)へとゆっくりと切り換えた。対照膀胱内圧測定中は、膀胱(0.5〜1.0ml/分)に生理食塩水をゆっくりと1時間注入した。実験期間中、対照膀胱内圧測定の後に生理食塩水中0.5%酢酸を続けた。これらのベースライン条件下で膀胱内圧測定変数を評価した後、3点用量反応プロトコールによって膀胱容量に対するMCI-225の効果を判定した。
【0314】
データ解析
データを事後のダンの多重比較t検定によるノンパラメトリック一元ANOVA(フリードマン検定)を用いて解析した。P<0.05を有意と見なした。
【0315】
結果および結論
MCI-225は、酢酸刺激後に膀胱容量において有意な用量依存的増加(P<0.0103)をもたらし、個々の用量の有意性は30mg/kg用量で得られた(P<0.05)。これらのデータはラットにおける最初の陽性結果を裏付け、MCI-225が2種におけるOABの広く利用されるモデルにおける膀胱容量の増加に効果的であることを示している。これらの結果によってもBPH、例えば、BPHの刺激症状の治療でのMCI-225の効力が予測される。
【0316】
実施例8:結腸直腸拡張に対する内臓運動反応のモデルにおけるMCI-225の評価:MCI-225を用いたIBSの治療
過敏性腸症候群の齧歯類モデルにおいて酢酸誘発性結腸過敏症を逆転させるMCI-225の能力を評価した。具体的には、本明細書において記載の実験では、非ストレスラットの遠位結腸における酢酸誘発性結腸過敏症のラットモデルにおける内臓運動反応に対するMCI-225の効果を調査した。
【0317】
成体雄Fisherラットを動物施設において標準的な条件で飼育した(1ケージにつき2匹)。動物施設への順化の1週間後、それらのラットを実験室へ運び、環境および実験を行う研究員に慣らすためにもう1週間毎日それらに手を触れた。
【0318】
結腸直腸拡張(CRD)に対する内臓運動反応
結腸直腸拡張に対する内臓運動行動反応を、覚醒非拘束動物におけるGunter et al., Physiol. Behav., 69(3): 379-82 (2000)に記載のとおり、腹部の筋肉組織上に縫合したひずみゲージにより記録される腹部収縮数を計数することによって測定した。結腸直腸拡張には、肛門管を通って結腸に挿入される5cmのラテックス製バルーン付きカテーテルを使用した。定圧持続性拡張を段階的に行い(15mmHg、30mmHgまたは60mmHg)、10分間維持し、腹筋収縮数を記録して、結腸の感覚レベルを測定した。各拡張につき10分の回復を設けた。
【0319】
酢酸誘発性結腸過敏症
ラットにおける酢酸誘発性結腸過敏症については、Langlois et al., Eur. J. Pharmacol., 318: 141-144 (1996)およびPlourde et al., Am. J. Physiol. 273: G191-G196 (1997)によって記載されている。本研究では、過去の研究に記載のとおり(Gunter et al.、前記)、低濃度の酢酸(1.5ml, 0.6%)を結腸内に投与して、結腸粘膜に組織学的損傷を与えることなく結腸を感作した。
【0320】
試験
結腸直腸拡張のためのプロトコールの開始30分前に、MCI-225(30mg/kg;n=6)またはビヒクル単独(n=4)をラットに腹膜内(i.p.)投与した。注射量は、ビヒクルとして100%プロピレングリコールを用いて0.2mLであった。10分間隔で適用した15mmHg、30mmHgまたは60mmHgでの3つの連続した結腸直腸拡張を記録した。内臓運動反応を10分間の結腸直腸拡張中に記録される腹筋収縮数として評価した。非感作および感作非注射対照動物は、それぞれ、より低いレベルの反応およびより高いレベルの反応を示すために用いた(n=2/群)。
【0321】
結果
酢酸はCRDに対するラット内臓運動反応を確実に感作した。ビヒクル単独では、酢酸感作動物においてCRDに対する反応への効果はなかった。MCI-225は30mg/kgにて、動物の50%において、CRDに対する内臓運動反応を消失させた。
【0322】
結論
MCI-225は、ラットモデルにおいて効果的であることが分かっており、このラットモデルによってヒトにおけるIBSの治療での薬物有効性を予測することができる。具体的には、MCI-225は、試験した動物の50%において、結腸直腸拡張に対する内臓運動反応の結腸直腸感作誘発性増加を著しく抑制した。
【0323】
実施例9:結腸直腸拡張に対する内臓運動反応のモデルにおけるMCI-225、オンダンセトロンおよびニソキセチンの比較
実施例8に記載した結腸直腸拡張に対する内臓運動行動反応の動物モデルにおけるMCI-225、オンダンセトロンおよびニソキセチンの効果を比較するためのさらなる研究を行った。
【0324】
この研究では成体雄ラットを用いた。実施例8と同じように、急性結腸過敏症を酢酸の結腸内投与によって誘発し、結腸直腸拡張によって誘発される反射性腹筋収縮の増加数として評価した。具体的には、ラットにイソフルラン(2%)で麻酔し、腹筋収縮を記録するためのひずみゲージ力変換器を備えた。ラテックス製バルーンとカテーテルを結腸中に11cm挿入した。動物を、麻酔から完全に回復させるために30分間を設け、その後、酢酸の結腸内注入(1.5mL, 0.6%)に供した。結腸の感作にさらに30分間を設けた。この期間の終了時に、動物は、腹膜内注射によってMCI-225または参照薬物の1つまたはビヒクルのいずれかの単回投与を受けた。薬物投与の30分後に結腸直腸拡張のためのプロトコールを開始した。挿入したが膨張させていないバルーンで腹部収縮数の基礎値を読み取った後、15mmHg、30mmHg、および60mmHgでの3つの連続した10分にわたる結腸直腸拡張を10分間隔で適用した。結腸直腸感受性を、各拡張期間内に観察された反射性腹部収縮数(すなわち、内臓運動反応)を計数することによって評価した。
【0325】
動物を3つの試験群に無作為に割り当て、表9に示したように、用量依存的制御実験を行った。同じ手順を受ける動物の対照群はビヒクルだけで処置した。各用量についてデータを要約した。
【0326】
(表9)

【0327】
試験物および対照物
この研究のための対照薬物はオンダンセトロンおよびニソキセチンであった。オンダンセトロンはAPIN Chemicals LTDから供給された。ニソキセチンはTocrisにより供給された。MCI-225はMitsubishi Pharma Corpにより提供された。全ての薬物を100%プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)のビヒクルに、10分間超音波処理することによって溶かした。プロピレングリコールはSigma Chemical Coから入手した。
【0328】
この研究では成体雄Fisherラットを用いた。動物を、1ケージにつき2匹で標準的な条件(12時間の明/暗サイクル、食物および水は自由に入手可能)で飼育した。動物施設への順化の1週間後、それらの動物をもう1週間実験室へ運び、実験を行う研究員がそれらに手を触れた。これにより動物を実験環境と実験を行う研究員の両方に慣らすことができた。研究に用いた全ての試験手順は事前承認を得た。
【0329】
酢酸誘発性結腸過敏症
ラットにおける酢酸誘発性結腸過敏症については、Langlois et al.およびPlourde et al.、上記参照によって記載されている。この研究では、実施例8に記載のとおり、低濃度の酢酸(1.5mL, 0.6%)を結腸内に投与して、結腸粘膜に組織学的損傷を与えることなく結腸を感作した。
【0330】
結腸直腸拡張に対する内臓運動反応
結腸直腸拡張に対する内臓運動行動反応を、上記のGunter et al.、上記参照のとおり、腹部の筋肉組織上に縫合したひずみゲージにより記録される腹部収縮数を計数することによって測定した。結腸直腸拡張は、肛門管を通って結腸に挿入される5cmのラテックス製バルーン付きカテーテルを利用して実施した。定圧持続性拡張を段階的に行った、すなわち、圧力を15mmHg、30mmHg、または60mmHgの所望のレベルに高めた後、10分間維持し、その間に腹部収縮数を記録して、結腸の感覚レベルを測定した。各拡張後には10分の回復期間を設けた。
【0331】
結果および考察
ナーブラット(nave rats)では、各拡張につき10分の間隔を設定して10分間適用した段階的管腔内圧(0、15mmHg、30mmHgおよび60mmHg)での結腸直腸拡張によって圧力依存的内臓運動反応が起こった。酢酸誘発性結腸過敏症は、非感作対照と比較した腹部収縮数の圧力依存的線形増加を特徴とした。本研究では、ラットを結腸直腸感作後に試験化合物または参照化合物で処置したため、得られた薬物効果は、結腸直腸過敏症の発現に防止効果を与えずに、結腸刺激に対する過敏反応性を改変する機構との相互作用を反映している。
【0332】
参照化合物の効果
1mg/kg、5mg/kg、または10mg/kg用量で投与した選択的5-HT3受容体拮抗薬であるオンダンセトロンは、腹部収縮数の用量依存的な減少をもたらした。オンダンセトロンは、ビヒクルの効果と比較して全ての拡張圧において内臓運動反応の著しい用量依存的阻害を示す。しかしながら、最高用量の10mg/kgオンダンセトロンでも中(30mmHg)および高(60mmHg)管腔内圧に対する反応はなくならず、むしろこれらの反応を非感作ナーベラットに特徴的なレベルに抑制した。オンダンセトロン処置後にラットの行動活性において大きな変化は認められなかった。
【0333】
ノルアドレナリン再取り込みの阻害剤として働くニソキセチンは、3mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kg用量で投与した場合には、結腸直腸拡張に対する内臓運動反応に有意な作用を及ぼさなかった。しかしながら、高用量の30mg/kgニソキセチンは実験中のホームケージ内での探索行動の増加と関連していた。
【0334】
MCI-225の効果
ビヒクルと比較して、10mg/kg用量で投与したMCI-225は、15mmHg、30mmHgおよび60mmHgでの結腸直腸拡張に応じて記録される腹部収縮数を著しく減少させた。しかしながら、高用量の30mg/kg MCI-225は効果が弱いように思われるため、MCI-225の効果は正常な用量依存的関係を示さなかった。参照化合物との比較では、10mg/kg MCI-225によって誘発される内臓運動反応の最大阻害は5mg/kg オンダンセトロンによってもたらされる最大阻害と同様であった。
【0335】
統計解析
処置群の統計的有意性を、一元ANOVAを用いて評価し、続いてチューキー事後検定を行った。ビヒクル処置ラットおよび薬物処置ラットにおいて観察された反応間の差はp<0.05において有意と見なされた。(*)p<0.05、(**)p<0.01、(***)p<0.001
【0336】
結論
MCI-225は、ラットモデルにおいて効果的であることが分かっており、このラットモデルによってヒトにおけるIBSの治療での薬物有効性を予測することができる。具体的には、MCI-225は、様々な圧力での結腸直腸拡張に応じて記録される腹部収縮数を著しく低減した。従って、MCI-225はIBSに適した療法として用いることができる。
【0337】
実施例10:結腸通過増加のモデルにおけるMCI-225の効果
本実施例で用いたモデルは、水回避ストレス(WAS)によって誘発される結腸通過促進を正常化するMCI-225の能力を判定する方法を提供した。オンダンセトロン(5-HT3受容体拮抗薬)、ニソキセチン(NARI)ならびにオンダンセトロンおよびニソキセチンの組合せを比較化合物として用いた。このモデルは、ストレス誘発性結腸運動が重要な要因と考えられるIBS患者の特定患者群において化合物の有効性を評価する方法を提供する。
【0338】
水回避ストレスモデルにおける予備試験により、ストレスと結腸運動の変化とに関連性が存在することを確認した。1時間のWASの間に産出する糞塊の総数を計数することに従って、糞塊排泄量を測定した。WASモデルを用いて、糞塊排泄に作用するMCI-225の効果をオンダンセトロン(5-HT3拮抗薬)またはニソキセチン(ノルアドレナリン再取り込み阻害剤-NARI)の効果と比較した。これらの結果から、MCI-225はストレスによって誘発される結腸通過促進を阻害し、そのため、MCI-225は、IBS、特にストレス誘発性結腸運動が重要な要因と考えられるIBSの治療において効果的であり得るということが分かった。
【0339】
この研究を終了するために、Charles River Laboratoriesにより供給された体重270〜350gの成体雄F-344ラットを用いた。ラットを1ケージにつき2匹で標準的な条件下で飼育した。動物施設への順化の1〜2週間後、それらのラットを実験室へ運び、実験室条件および研究を行う研究員に慣らすためにもう1週間毎日それらに手を触れた。この研究で用いた全ての手順は、施設基準に従って承認を得た。
【0340】
実験前の順化
全てのラットはWASを受ける前に擬似ストレス(水のないストレスチャンバー内で1時間)を連続2〜4日間受けた(ラットが1時間当たり0〜1個の糞塊を連続2日間排出するまで擬似ストレスを行った)。1時間のストレス期間の終了時に、糞塊を計数し、記録した。
【0341】
手順
WASは結腸通過の促進をもたらし、この促進はストレス処置中に産出する糞塊数を計数することによって定量することができる。ラットをストレスチャンバー内、深さ8cmに室温の水を満たしたストレスチャンバーの中央の隆起プラットフォーム7.5cm×7.5cm×9cm(L×W×H)上に1時間置いた。このストレスチャンバーは矩形プラスチックタブ(40.2×60.2×31.2cm)から作った。表10では、処置群および対照群の要約を記載している。
【0342】
(表10)

【0343】
試験物および対照物
この研究のための対照薬物はオンダンセトロンおよびニソキセチンであった。オンダンセトロンはAPIN Chemicals LTDから供給された。ニソキセチンはTocrisにより供給された。MCI-225はMitsubishi Pharma Corpにより提供された。全ての薬物を100%プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)のビヒクルに、10分間超音波処理することによって溶かした。プロピレングリコールはSigma Chemical Coから入手した。MCI-225およびニソキセチンを3mg/kg、10mg/kgおよび30mg/kg用量で試験し、オンダンセトロンを1mg/kg、5mg/kgおよび10mg/kg用量で試験した。全ての薬物およびビヒクルを0.2mL量のi.p.注射として投与した。
【0344】
結果および考察
ホームケージ対照群または擬似ストレス対照群の動物間では1時間以内に産出した糞塊数に有意な差はなかった。予想通り、1時間WAS(基礎WAS)に曝すと、ホームケージ対照群または擬似ストレス対照群のラットからの糞塊排泄量と比較して、糞塊排泄量において極めて有意な(p<0.001)増加が起こった。ストレスチャンバーへ2〜4日間順化させた後、WASビヒクル処置群の糞塊排泄量は非処置WAS群の糞塊排泄量と統計学的に差異はなかった。
【0345】
処置群-MCI-225
MCI-225で事前に処置した(3mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kgでi.p.投薬した)後、WAS下に置いたラットでは、1時間の間に産出した糞塊数は、ビヒクル処置群がWASの間に産出した数よりも著しく少なかった。MCI-225は全ての用量においてWAS誘発性糞塊排泄の著しい用量依存的阻害をもたらした。
【0346】
ニソキセチン
全ての用量(3mg/kg、10mg/kgおよび30mg/kg i.p.)のニソキセチンによって1時間のWAS中に産出する糞塊数が低減した。しかしながら、ビヒクル処置群と比較すると、10mg/kgおよび30mg/kg用量のニソキセチンにおいてWAS中に産出した糞塊は著しく少なかった。
【0347】
オンダンセトロン
オンダンセトロンはストレス誘発性糞塊排泄の用量依存的阻害をもたらした。全てのオンダンセトロン処置群(1mg/kg、5mg/kgおよび10mg/kg i.p.)において1時間のWAS中に産出した糞塊数は、ビヒクル処置群がWAS中に産出した数よりも著しく少なかった。
【0348】
ニソキセチンおよびオンダンセトロンの組合せ
組合せ処置群では、単独で投薬した場合に最大の効力を示したニソキセチンおよびオンダンセトロンの用量を用いた。ニソキセチン(30mg/kg)をオンダンセトロン(10mg/kg)と組み合わせて投薬した場合、1時間のWAS中に産出した糞塊数はビヒクル対照群がWAS中に産出した数よりも有意に少なかった(p<0.01)。
【0349】
統計解析
統計的有意性を、一元ANOVAを用いて評価し、続いてチューキー事後検定を行った。WAS群と擬似ストレス群の間で統計的な差異を比較し、p<0.05の場合には有意と見なした。(*)p<0.05、(**)p<0.01、(***)p<0.001
【0350】
結論
これらの試験は、ストレス、この場合は水回避ストレッサーが、糞塊排泄量の増加によって示されるように、結腸通過の著しい増加をもたらすことを証明した。全体的な結論として、MCI-225は、糞塊産出のストレス誘発性増加を、ニソキセチンまたはオンダンセトロンのいずれかで観察されるのとよく似た程度まで著しく阻害した。従って、MCI-225は、非便秘IBSの治療に適した療法として用いることができる。
【0351】
実施例11:小腸通過に対するMCI-225の効果
小腸通過阻害に対するMCI-225の効果を評価し、以下に記載する小腸通過齧歯類モデルを用いてオンダンセトロン、ニソキセチンならびにオンダンセトロンおよびニソキセチンの組合せを用いて得られた結果と比較した。
【0352】
具体的には、小腸通過に対するMCI-225、参照化合物(オンダンセトロンおよびニソキセチン)およびそのビヒクルの効果をラットにおいて対照条件下で調査した。一晩絶食後、ラットをホームケージに入れて実験室へ運び、次の1つのi.p.注射を行った。MCI-225、100%プロピレングリコール(ビヒクル)、オンダンセトロン、ニソキセチンならびにオンダンセトロンおよびニソキセチンの組合せ。対照ラットには全く処置を行わなかった。処置したラットをホームケージに戻し、30分後、経口胃管栄養法によって2mLチャコールミールを与えた。15分の試験期間の後、小腸通過を測定した。麻酔のため各ラットを一時的にIsoFloと共にガラスチャンバーに入れ、犠牲にした。胃および小腸を摘出し、小腸の全長を測定した。次いで、通過をチャコールミールが小腸に沿って移動した距離として測定し、全長に対する割合(%)として表した。動物を実験群に無作為に割り当て、表11に示したように、実験を行った。
【0353】
(表11)

【0354】
試験物および対照物
オンダンセトロンはAPIN Chemicals LTDから供給された。ニソキセチンはTocrisにより供給された。MCI-225はMitsubishi Pharma Corpにより提供された。全ての薬物を100%プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)のビヒクルに、10分間超音波処理することによって溶かした。プロピレングリコールはSigma Chemical Coから入手した。5-HT3受容体拮抗薬であるオンダンセトロンを1mg/kg、5mg/kg、および10mg/kgでi.p.投薬した。ニソキセチンを3mg/kg、10mg/kg、および30mg/kgでi.p.投与した。全ての用量を最終量200μLで送達した。ビヒクル対照群の動物は200μLの100%プロピレングリコールを受け、正常対照群の動物は処置しなかった。
【0355】
この研究には成体雄F-344ラット(230〜330g)を用いた。ラットを1ケージにつき2匹で標準的な条件下で飼育した。動物には標準的な齧歯類の食餌を与え、食物および水は「自由に」提供された。通過実験の前に1週間ラットを動物施設に慣らした。この研究で用いた全ての手順は事前承認を得た。
【0356】
ラットにおける小腸通過を、定められた期間(15分)にチャコールミールを小腸に沿って通過させることにより調査した。動物には実験の前の12〜16時間食物を与えなかった。ラットにチャコールミール(炭、アラビアガム、および蒸留水の混合物)を2mLの経口胃管栄養として与え、15分の試験期間の後犠牲にした。チャコールミールが移動した距離は次の式を用いて小腸の長さに対する百分率として定量した。
通過(%)=ミールが移動した距離(cm)/小腸の全長(cm)×100
【0357】
データおよび統計解析
異なる薬物処置を受けた次の群において小腸通過を腸の全長に対する相対単位(%)で評価した。実験未使用(未処置)、ビヒクル(プロピレングリコール、200μL i.p.)、MCI-225(3mg/kg、10mg/kgおよび30mg/kg、i.p.)、ニソキセチン(3mg/kg、10mg/kgおよび30mg/kg、i.p.)、オンダンセトロン(1mg/kg、5mg/kgおよび10mg/kg、i.p.)ならびにニソキセチン(10mg/kg、i.p.)およびオンダンセトロン(5mg/kg、i.p.)の組合せ。合計61の実験を行った(1群当たりラット4〜6匹)。
【0358】
各群の平均、標準誤差および標準偏差を決定するために、統計解析を行った(表11参照)。処置内での個々の用量群間での差異ならびに薬物処置群とビヒクル処置群との比較を、%を相対単位として用いる場合には、t統計量が適切であることを考慮して、対応のないt検定を用いて判断した。全ての場合においてp<0.05を統計的に有意と見なした。
【0359】
結果および考察
実験未使用の未処置ラットでは、チャコールミールが15分の試験期間の間に全長の75±12%の距離に達した。比較では、ラットがチャコールミールを受ける30分前にビヒクルのi.p.注射を受けたときには、同じ条件下で測定した小腸通過が小腸の全長の56±8%まで低減した。しかしながら、ビヒクル処置動物は小腸輸送について一定の再現性のある値を示し、ビヒクル処置動物は薬物処置の効果を評価するための対照としての役割を果たした。
【0360】
MCI-225の効果
小腸輸送に対する漸増用量の3mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kg MCI-225の効果を立証するために、一連の試験を行った。ビヒクルと比較して、MCI-225は小腸通過の用量依存的阻害をもたらし、チャコールミールが移動した距離は10mg/kg用量において小腸の全長の4.2±2.6%まで最大に低減した。
【0361】
参照化合物の効果
別の研究では、動物を漸増用量の1mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kg ニソキセチンで処置し、このニソキセチンはノルアドレナリン再取り込みを遮断する。3mg/kgまたは10mg/kg ニソキセチンの用量で投与すると小腸通過が減少する傾向を示し、一方、30mg/kg用量ではその通過をほぼ完全に阻害した。また、1mg/kg、5mg/kgまたは10mg/kg用量で投与したオンダンセトロンの効果も調査した。オンダンセトロンは、正常な用量依存的関係を示さずに、小腸通過の著しい低減をもたらした。
【0362】
30mg/kg ニソキセチンの用量を受けて5動物のうち4動物においてチャコールミールが胃内に完全に残っていることから、ニソキセチンによってもたらされる阻害は、胃排出遅延の結果と考えられた。この効果は、チャコールミールの一部が胃から小腸へと進んでいることが常に認められたオンダンセトロンまたはMCI-225の場合に認められる効果とは異なっていた。5mg/kg オンダンセトロンおよび10mg/kg ニソキセチンを同時に注射すると、これらの薬物は小腸の全長の14%の、ミールが移動した距離の低減を示した(すなわち、組合せの最大効果は5mg/kgオンダンセトロンまたは10mg/kgニソキセチンの個々の用量の効果よりも大きかった(よりも低い%値であった))。これらの発見は、MCI-225によって誘発される小腸通過の減少が5-HT3受容体およびノルアドレナリン再取り込み機構への併用効果によるものであり得ることを立証する。
【0363】
実施例12:MCI-225を用いた嘔吐および悪心の治療
フェレットにおける細胞毒素誘発性催吐の一般に認められたモデルにおいて悪心および嘔吐を軽減するMCI-225の能力を評価した。具体的には、本明細書において記載の実験では、シスプラチンによって誘発される悪心および嘔吐に対するMCI-225の効果を調査した。オンダンセトロンをその公知の制吐作用を考慮してこのモデルでの陽性対照として用いた。
【0364】
体重1200〜1880gの成体雄フェレット(ムステラ・プタリオ・フロ(Mustela putario furo))をTriple F Farms(Sayre, Pa.)から購入し、個別ケージで標準条件(12:12時間明/暗サイクルおよび21〜23℃)で飼育した。実験の前に、フェレットには動物施設への7〜10日の順化期間を設けた。フェレットに肉食動物の食餌を与え、研究コースを通じて食物および水は自由に入手可能とした。催吐のフェレットモデルの使用および薬物処置は施設基準に従って事前承認を得た。
【0365】
シスプラチン誘発性催吐
シスプラチン溶液は、予熱した(70℃)生理食塩水をシスプラチン粉末(Sigma-Aldrich Co.)に加え、溶けるまで40℃で攪拌または超音波処理することによって調製した。
【0366】
シスプラチンと、MCI-225、オンダンセトロンまたはビヒクルのいずれか単独との投与後、悪心および嘔吐の発生を6時間モニタリングした。悪心は、特徴的な姿勢で動物で起こるが、結果として上部消化管内容物の排出をもたらさない腹部の強制的な律動収縮の数として定義されている(Watson et al., British Journal of Pharmacology, 115(1): 84-94 (1994))。嘔吐は、上部消化管内容物の口からの強制的な排出として定義されている。各動物について悪心または嘔吐反応の潜時および症状発現数が記録され、各実験群について要約されている(Wright et al., Infect. Immun., 68(4): 2386-9 (2000))。
【0367】
薬物処置
1時間の観察ケージへの順化後、フェレットにシスプラチン(5mL中5mg/kg)の腹膜内(i.p.)注射を行い、続いて、約2分以内に単回投与のMCI-225またはオンダンセトロンのi.p.注射を行った(Rudd and Naylor, Eur. J. Pharmacol., 322: 79-82 (1997))。0.5mL/kg溶液中1mg/kg、10mg/kgおよび30mg/kgでi.p.投薬したMCI-225または0.5mL/kg溶液中5mg/kgおよび10mg/kgでi.p.投薬したオンダンセトロンの用量反応効果を研究した。各動物に単回投与の薬物処置を行った。さらに、3動物には初回投与(30mg/kg i.p.)を行い、初回投与の180分後に2回目のMCI-225注射(30mg/kg i.p.)を行った。対照動物はシスプラチン、続いてビヒクル単独(0.5mL/kg溶液で投薬されるプロパンジオール)で処置した後、全ての群を無作為化した。
【0368】
結果-ビヒクル単独
シスプラチンは、ビヒクルを受けた100%の動物において催吐反応を誘発した。平均反応は、総数42.8+8.1の事象(悪心および嘔吐の両方)を特徴とし、これらの事象は観察期間中に発生した。最初の反応の平均潜時はシスプラチン投与後133±22分であった。
【0369】
結果-オンダンセトロン
5mg/kgおよび10mg/kgで適用したオンダンセトロンは、シスプラチンによって誘発される催吐事象の数を用量依存的に低減した。オンダンセトロンの効果は、シスプラチン処置を受けて最初の催吐反応の潜時の増加を伴った。これらの結果を表12に記載している(*p<0.05)。
【0370】
(表12)

【0371】
結果-MCI-225
表13に示されるように、1mg/kg、10mg/kgまたは30mg/kgの濃度でのMCI-225の投与は、シスプラチンによって誘発される悪心および嘔吐の用量依存的低減をもたらした(*p<0.05)。180分間隔で1日2回適用した2回用量の30mg/kgの投与によって催吐反応が消失した。MCI-225によって誘発される催吐事象の数の減少は、この反応の潜時の増加を伴った。
【0372】
(表13)

【0373】
結論
表5および表6に記載した結果より、MCI-225が催吐の一般に認められた動物モデルにおいて、陽性対照(オンダンセトロン)と同様の用量範囲を用いて、悪心および嘔吐の低減に効果的であることが分かる。従って、被験体における吐気、嘔吐、悪心またはそれらの任意の組合せの治療にMCI-225を用いることができる。
【0374】
実施例13:形態IおよびIIの比較-溶解度および純度
本明細書において示した研究のためにDDP225 形態IおよびIIを独立に即効型フィルムコート錠に製剤した。これらの錠剤を、まず目視検査し、白色〜灰白色、5.6mm、両凸であることを確認し、次いで、強度、不純物プロフィールおよび溶解プロフィールを含む一連の試験を用いて比較した。
【0375】
アッセイおよび不純物測定のために、各サンプルを、25℃で維持したC18カラム(5μm粒径;50×4.6mm、i.d.)での逆相HPLCを用いて分析した。溶出は、流速1ml/分で移動相アセトニトリル:脱イオン水:リン酸(35:65:0.1)を用いる定組成溶出であった。波長254nmでUV検出を用いた。アッセイおよび不純物測定の結果は、以下に表14において要約している。
【0376】
(表14)

【0377】
溶解プロフィールについては、本明細書において記載のとおり各サンプルをUSP装置II(回転パドル)に入れた。この組立て部品には、蓋付きガラス容器、モーター、金属ドライブシャフトおよび攪拌用シャフトに取り付けられているパドルが含まれた。
【0378】
脱気した溶解溶媒(500mLの0.01N塩酸)を容器に入れた。パドルを取り付けて、速度50RPMで攪拌し、温度を約37℃に平衡化した。DDP225 形態Iまたは形態II(6つの単一錠剤、または合計18mg DDP225)を装置に入れた。15分、30分および45分の時点において、溶媒表面と回転パドルとの中間点、容器の壁から少なくとも1cmからアリコートを取り出した。アッセイおよび不純物測定について上記に記載した手順を用いてアリコートを逆相HPLCにより分析した。溶解試験の結果を図8に示している。これらの結果は、DDP225 形態IおよびIIから作り出された製剤が互いに区別できない溶解プロフィールを示すことを示している。
【0379】
結果は、形態II製剤が、強度、不純物プロフィールおよび溶解プロフィールに関して、形態I製剤と本質的に同一であることを示している。これらの結果に基づいて、本発明の新規結晶形態、例えば、形態IIの生物学的暴露および臨床効力は、原型の形態Iのものと同一または本質的に同じであるはずである。
【0380】
等価物
当業者は、本明細書において記載の本発明の特定の実施形態の多くの等価物を、認識し、または単なるルーチン実験を用いて確認することができる。そのような等価物は次の特許請求の範囲に包含されるよう意図されている。
【0381】
参照による組込み
本出願を通じて引用した全ての参照文献、特許、および特許出願の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0382】
【図1】Bruker AXS/Siemens D5000を用いる、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩形態IのXRPDパターンを示すグラフである。
【図2】Bruker AXS/Siemens D5000を用いる、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩形態IIのXRPDパターンを示すグラフである。
【図3】4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩形態IIについての重量測定による蒸気収着アッセイ(相対湿度対組成物の重量パーセント変化)のプロットである。
【図4】可変温度で得た4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩のXRPDパターンを被せているグラフである。これらの進行は、結晶性の形態Iから結晶性の形態III、結晶性の形態IIへの変換を示す。
【図5】4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩の形態IIのORTEPモデルである。
【図6】促進光研究に1週間曝露した後の形態I(6A)および形態II(6B)のHPLCクロマトグラムである。形態Iは1週間後に79.4%の純度を提示し、形態IIは1週間後に88.3%の純度を提示した。
【図7】標準的な照明条件下、60℃/75% RHにて10週間後の形態I(7A)およびII(7B)のHPLCクロマトグラムである。形態Iは10週間後に99.4%の純度を提示し、形態IIは10週間後に99.7%の純度を提示した。
【図8】形態Iおよび形態IIの類似の溶解プロフィールを表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形態IIの結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩。
【請求項2】
図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインのうちの少なくとも2ラインにより特徴付けられる、請求項1記載の結晶形態。
【請求項3】
図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインのうちの少なくとも5ラインにより特徴付けられる、請求項1記載の結晶形態。
【請求項4】
図2に示されるXRPDパターンの最初の5ラインにより特徴付けられる、請求項1記載の結晶形態。
【請求項5】
図2に示されるXRPDパターンの最初の10ラインにより特徴付けられる、請求項1記載の結晶形態。
【請求項6】
図2に示されるXRPDパターンにより特徴付けられる、請求項1記載の結晶形態。
【請求項7】
図3に示される重量測定による蒸気収着アッセイ(gravimetric vapor sorption assay)により特徴付けられる、請求項1記載の結晶形態。
【請求項8】
重量測定による蒸気収着アッセイに基づいて約4重量%未満の水分を吸収する、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の吸湿安定性のある結晶形態。
【請求項9】
4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩が、約3重量%未満の水分を含む、請求項8記載の結晶形態。
【請求項10】
4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩が、約2重量%未満の水分を含む、請求項8記載の結晶形態。
【請求項11】
少なくとも約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後で実質的な色変化を提示しない、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の光安定性の結晶形態。
【請求項12】
約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約2ヶ月間供された後で実質的な色変化を提示しない、請求項11記載の結晶形態。
【請求項13】
約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後で実質的な色変化を提示しない、請求項11記載の結晶形態。
【請求項14】
約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約6ヶ月間供された後で実質的な色変化を提示しない、請求項11記載の結晶形態。
【請求項15】
約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後で実質的な色変化を提示しない、請求項11記載の結晶形態。
【請求項16】
約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後で実質的な色変化を提示しない、請求項11記載の結晶形態。
【請求項17】
少なくとも約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の光安定性の結晶形態。
【請求項18】
約40℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない、請求項17記載の結晶形態。
【請求項19】
約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約4週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない、請求項17記載の結晶形態。
【請求項20】
約60℃の温度および約75%の相対湿度に少なくとも約10週間供された後で実質的なHPLC変化を提示しない、請求項17記載の結晶形態。
【請求項21】
約室温〜約50℃の間の温度にて、実質的に化学的に安定であるか、または物理的に安定であるか、または両方である、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の熱安定性の結晶形態。
【請求項22】
約室温〜約100℃の間の温度にて、実質的に化学的に安定であるか、または物理的に安定であるか、または両方である、請求項21記載の熱安定性の結晶形態。
【請求項23】
約室温〜約250℃の間の温度にて、実質的に化学的に安定であるか、または物理的に安定であるか、または両方である、請求項21記載の熱安定性の結晶形態。
【請求項24】
図5に示されるORTEPモデルにより特徴付けられる、結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩。
【請求項25】
形態IIIの結晶性の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩。
【請求項26】
4.0 2θ、14.5 2θまたは16.7 2θでXRPDピークを提示する、請求項25記載の結晶形態。
【請求項27】
実質的に純粋である、前記請求項のいずれか一項記載の結晶形態。
【請求項28】
前記請求項のいずれか一項記載の結晶形態および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項29】
適した溶媒中の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩を、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態が形成されるような時間、約室温〜約50℃の間の温度に交互に加熱および冷却する段階
を含む、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態を調製するためのプロセス。
【請求項30】
適した溶媒中の4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩酸塩を、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態が形成されるように、約220℃の温度に加熱する段階
を含む、4-(2-フルオロフェニル)-6-メチル-2-(ピペラジン-1-イル)チエノ[2,3-d]ピリミジン塩の結晶形態を調製するためのプロセス。
【請求項31】
胃腸管障害または泌尿生殖器障害が治療されるように、被験体へ治療上有効量の請求項28記載の組成物を投与する段階を含む、被験体において胃腸管障害または泌尿生殖器障害を治療するための方法。
【請求項32】
障害が、機能性腸障害、過敏性腸症候群、下痢を伴う過敏性腸症候群、慢性機能性嘔吐、過活動膀胱またはそれらの組合せである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
MCI-225応答状態が治療されるように、被験体へ治療上有効量の請求項28記載の組成物を投与する段階を含む、MCI-225応答状態を治療するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−532357(P2009−532357A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503011(P2009−503011)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/007816
【国際公開番号】WO2008/051282
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(505352817)ダイノジェン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】