4−[2−[[5−メチル−1−(2−ナフタレニル)−1H−ピラゾール−3−イル]オキシ]エチル]モルホリン塩
本発明は、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩、特に塩酸塩、それらを含む医薬組成物、並びにシグマ受容体関連疾患の治療および/または予防におけるそれらの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いくつかの4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩、それらを含む医薬組成物、並びにシグマ受容体関連疾患の治療および/または予防におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
対象とする病気に関連するタンパク質および他の生体分子の構造がより良く理解されることによって、近年新しい治療薬の探索が大いに促進されている。これらのタンパク質の重要な種類の1つは、オピオイドの不快性、幻覚誘発性、および強心性の効果に関連すると思われる中枢神経系(CNS)の細胞表面受容体である、シグマ(σ)受容体である。シグマ受容体の生物学および機能の研究から、シグマ受容体リガンドが精神病、並びにジストニアおよび遅発性ジスキネジアなどの運動障害の治療、並びにハンチントン舞踏病またはトゥレット症候群と関連する運動障害、およびパーキンソン病における運動障害の治療に有用である場合があるという証拠が示されている(Walker, J.M.ら、Pharmacological Reviews、1990、42、355)。既知のシグマ受容体リガンドであるリムカゾールは、精神病の治療において臨床的効果を示すことが報告されている(Snyder, S.H.、Largent, B.L.、J. Neuropsychiatry 1989、1、7)。シグマ結合部位は、特定のオピエートベンゾモルファンの右旋性異性体、例えば(+)SKF 10047、(+)シクラゾシン、および(+)ペンタゾシンなどに対して、並びにまたハロペリドールなどのいくつかの催眠剤に対して優先的親和性を有する。
【0003】
シグマ受容体は、少なくとも2つの亜型を有し、これらの薬理活性(pharmacoactive)剤の立体選択的異性体によって区別することができる。SKF 10047はシグマ1(σ-1)部位に対してナノモル親和性を有し、シグマ2(σ-2)部位に対してマイクロモル親和性を有する。ハロペリドールは両方の亜型に対して同様の親和性を有する。内在性シグマリガンドは知られていないが、プロゲステロンがそれらの1つであることが示唆されている。考えられるシグマ部位媒介性薬剤の効果としては、グルタミン酸受容体機能、神経伝達物質応答、神経保護、行動、および認知の調節が挙げられる(Quirion, R.ら、Trends Pharmacol. Sci.、1992、13:85〜86)。大部分の研究はシグマ結合部位(受容体)がシグナル伝達カスケードの原形質膜要素(Plasmalemmal element)であることを暗示している。選択的シグマリガンドであると報告された薬剤は、抗精神病薬として評価されている(Hanner, M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci.、1996、93:8072〜8077)。CNS、免疫系、および内分泌系におけるシグマ受容体の存在は、それが3つの系の間を結び付けるものとして働く可能性を示唆している。
【0004】
シグマ受容体のアゴニストまたはアンタゴニストの潜在的な治療用途の観点から、選択的リガンドを見つけるのに多大な努力が向けられてきた。そのため、先行技術は様々なシグマ受容体リガンドを開示している。4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンはそのような有望なシグマ受容体リガンドの1つである。化合物およびその合成はWO 2006/021462において開示および特許請求されている。
【0005】
4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンは、高選択性のシグマ-1(σ-1)受容体拮抗薬である。これは慢性疼痛および急性疼痛、および特に神経因性疼痛の治療および予防において、強い鎮痛作用を示している。化合物の分子量は337.42umaである。化合物の構造式は以下である:
【0006】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2006/021462
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Walker, J.M.ら、Pharmacological Reviews、1990、42、355
【非特許文献2】Snyder, S.H.、Largent, B.L.、J. Neuropsychiatry 1989、1、7
【非特許文献3】Quirion, R.ら、Trends Pharmacol. Sci、1992、13:85〜86
【非特許文献4】Hanner, M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci.、1996、93:8072〜8077
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
その医薬開発を行いその潜在的可能性を実現するために、この医薬活性成分のより優れた処方物の調製を容易にすることになる、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンのさらなる形態が当技術分野において必要とされている。さらに、化合物の新しい形態は、その製造、取り扱い、および保存の特性、並びにその薬理学的特性などの治療効果も改善する可能性がある。
【0010】
この点で、化合物の別の形態は、例えば強化された熱力学的安定性、より高い純度、または向上したバイオアベイラビリティー(例えばより良好な吸収、溶解パターン)などの実に様々な特性を有する可能性がある。特定の化合物の形態はまた、化合物の処方物の製造を容易にし(例えば向上した流動性)、取り扱いおよび保存を容易にすることができる(例えば非吸湿性、長期の保存期間)、またはより低用量の治療薬の使用を可能にしてそれによりその潜在的な副作用を減少させることができるであろう。したがって、医薬に使用するための望ましい特性を有する、そのような形態を提供することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン(本明細書におい「化合物63」と呼ぶ)の様々な形態についての幅広い研究の後、驚くことにその塩のいくつか、特にその塩酸塩が、製造、取り扱い、保存、および/または治療上の有利な特性を実現することを見いだし、実証している。
【0012】
したがって、第1の態様において本発明は、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、およびメタンスルホン酸塩から成る群から選択される、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩に関する。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明は4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩(本明細書において「P027」または「実施例1」と呼ぶ)を対象としている。
【0014】
P027化合物の分子量は373.88uma、pKaは6.73、融点は194.2℃である。化合物は水に非常に溶けやすく、メタノール、1N塩酸、およびジメチルスルホキシドに溶けやすい。これはエタノールにやや溶けにくく、アセトンに溶けにくく、酢酸エチルおよび1N水酸化ナトリウムにほとんど溶けない。生成物はその関連する塩基よりも良好な溶解および吸収プロファイルをインビボで示す。
【0015】
別の態様において、本発明は4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩を調製する方法を対象としており、この方法は
a)4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンと塩酸を含有する溶液とを混合する工程と、
b)得られる塩酸塩を単離する工程と
を含む。
【0016】
本発明のさらなる態様は、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩、および薬学的に許容可能な担体、アジュバント、またはビヒクルを含む医薬組成物を含む。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、薬剤として、好ましくはシグマリガンドとして使用するため、すなわちシグマ受容体媒介性の疾患または状態の治療および/または予防において使用するための、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩を対象としている。
【0018】
本発明の別の態様は、シグマ受容体媒介性疾患を治療および/または予防する方法に関し、この方法はそのような治療を必要とする患者に治療有効量の上記で定義される化合物またはその医薬組成物を投与する工程を含む。
【0019】
これらの態様およびその好ましい実施形態は、さらに特許請求の範囲においても規定されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図2】実施例1の熱重量分析(TGA)の図である。
【図3】実施例1のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図4】化合物63のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図5】実施例2のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図6】実施例2の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図7】実施例2の熱重量分析(TGA)の図である。
【図8】実施例2のFTIR分析の図である。
【図9】実施例3のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図10】実施例3の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図11】実施例3の熱重量分析(TGA)の図である。
【図12】実施例3のFTIR分析の図である。
【図13】実施例4のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図14】実施例4の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図15】実施例4の熱重量分析(TGA)の図である。
【図16】実施例4のFTIR分析の図である。
【図17】実施例5のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図18】実施例5の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図19】実施例5の熱重量分析(TGA)の図である。
【図20】実施例5のFTIR分析の図である。
【図21】実施例6のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図22】実施例6の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図23】実施例6の熱重量分析(TGA)の図である。
【図24】実施例6のFTIR分析の図である。
【図25】実施例7のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図26】実施例7の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図27】実施例7の熱重量分析(TGA)の図である。
【図28】実施例7のFTIR分析の図である。
【図29】実施例1における熱力学的溶解度の検量線の図である。
【図30】ラットにおける実施例1の血漿中濃度の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明者らは、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンのHCl塩である化合物P027が、とりわけ結晶性固体であるという事実による利点を有し、そのことが単離、精製、および取り扱いを単純化することを見いだしている。
【0022】
実際に、塩の広範囲のスクリーニングの後、発明者らは、多数の酸(例えば硫酸またはL-酒石酸)が4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンと混合した場合に固体ではなく油状物を生じさせたのを認めた。さらに、固体状の塩を得るのに適した酸の中で、塩酸は調製の容易さ、物理的安定性、スケールアップ、溶解度などの点でより良好な結果をもたらした酸であった。
【0023】
したがって本発明は、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、およびメタンスルホン酸塩から成る群から選択される、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩に関する。これらの塩は結晶性固体を生じさせることができる。
【0024】
好ましくは、本発明は4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩(P027)を対象とする。
【0025】
4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩は、塩酸溶液を、適切な溶媒に溶解させたその対応する塩基に加えることによって調製できる。特定の実施形態において、P027化合物はHClで飽和させたエタノール中に遊離塩基化合物を溶解させることによって好都合に得ることができる。
【0026】
前述の通り、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンは高選択性のシグマ-1(σ-1)受容体拮抗薬であり、慢性疼痛および急性疼痛、および特に神経因性疼痛の治療および予防において強い鎮痛作用を示すことが報告されている(WO 2006/021462を参照のこと)。今では4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩が薬剤として使用するのに特に適していることが分かっている。したがって本発明は、薬学的に許容可能な担体、アジュバント、またはビヒクルと共に4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩を含む、患者に投与するための薬剤または医薬組成物をさらに提供する。
【0027】
より具体的には、P027化合物はシグマ受容体媒介性の疾患または状態の治療および/または予防に有用である。
【0028】
より好ましい実施形態において、P027化合物は、下痢;リポタンパク障害;偏頭痛;肥満;関節炎;高血圧;不整脈;潰瘍;学習欠損、記憶欠損、および注意欠陥;認知障害;神経変性疾患;脱髄疾患;コカイン、アンフェタミン、エタノール、およびニコチンを含めた薬物および化学物質への依存症;遅発性ジスキネジア;虚血性脳卒中;てんかん;脳卒中;ストレス;癌; 精神病性状態、特に鬱病、不安症、若しくは統合失調症;炎症;または自己免疫疾患から成る群から選択される疾患の治療および/または予防のための薬剤の製造において使用される。
【0029】
本発明による医薬組成物の補助材料または添加物は、担体、添加剤、支持材料、滑沢剤、充填剤、溶媒、賦形剤、着色剤、糖類などの香味調整剤(flavour conditioner)、抗酸化剤、結合剤、接着剤、崩壊剤、付着防止剤(anti-adherent)、流動促進剤、および/または接合剤の中から選択できる。坐剤の場合、これは非経口的施用のためのワックス、または脂肪酸エステル、または保存剤、乳化剤、および/または担体を含意することがある。これらの補助材料および/または添加物の選択並びに使用すべき量は、医薬組成物の施用形態によって決まることになる。
【0030】
本発明による薬剤または医薬組成物は、ヒトおよび/または動物、好ましくは幼児、子供、および成人を含めたヒトへの施用に適した任意の形態であってもよく、当業者に既知の標準的手順によって製造できる。したがって、本発明による処方物は、局所施用または全身施用、特に真皮、経皮(transdermal)、皮下、筋肉内、関節内、腹腔内、静脈内、動脈内、膀胱内、骨内、陰茎海綿体内、肺、頬側、舌下、眼内、硝子体内、鼻腔内、経皮(percutaneous)、直腸、膣内、経口、硬膜外、くも膜下腔内、脳室内、脳内、側脳室内、大槽内、脊髄内、脊髄近傍(perispinal)、頭蓋内への施用、ポンプ装置を使用するか若しくは使用しない、針若しくはカテーテルによる送達、または他の施用経路に適合させてもよい。
【0031】
記載の処方物は、スペインおよび米国の薬局方並びに同様の参照文書において記載または参照されるものなどの、標準的方法を用いて調製されることになる。
【0032】
本発明の一実施形態において、P027化合物は治療有効量で使用するのが好ましい。医師は、最も適切であり、投与の形態および特定の選択される化合物によって異なり、さらに治療を受ける患者、患者の年齢、治療される疾患または状態の種類によって異なることになる、本発明の治療薬の用量を決定することになる。組成物を経口投与する場合、より少量の非経口投与により得られるのと同じ効果をもたらすのに、より多量の活性薬剤が必要となる。この化合物は同等の治療薬と同じように有用であり、用量レベルは、これらの他の治療薬で一般に採用されるのと同じオーダーである。この活性化合物は典型的には1日に1回または複数回、例えば1日に1回、2回、3回、または4回投与されることになり、典型的な1日の総用量は0.1〜1000mg/kg/日の範囲である。
【0033】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を単に例示するものであり、決して本発明を制限するものとして考えることはできない。
【0034】
(実施例)
分析技術
得られた化合物63の様々な塩を同定するために、以下の技術を本発明において使用する。
【0035】
- 示差走査熱量測定分析(DSC)
DSC分析をMettler Toledo DSC822eにおいて記録した。1〜2mgの試料を、ピンホール蓋(pinhole lid)を備えた40μLのアルミニウムのるつぼへ量り入れ、窒素下(50mL/min)、30℃から300℃まで10℃/minの加熱速度で加熱した。データ収集および評価を、ソフトウェアSTAReを用いて行った。
【0036】
- 熱重量分析(TGA)
熱重量分析をMettler Toledo SDTA851eにおいて記録した。3〜4mgの試料を、(ミクロ天秤MX5, Mettlerを用いて)蓋のない40μLのアルミニウムのるつぼに量り入れ、10℃/min、30〜300℃にて窒素下(80mL/min)で加熱した。データ収集および評価を、ソフトウェアSTAReを用いて行った。
【0037】
- プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)
ATMおよび自動BACS-120オートサンプラーと共にz-グラジエント5mm BBO(Broadband Observe)プローブを備えたBruker Avance 400 Ultrashield NMR分光計において、重水素化クロロホルムまたはメタノール中で、プロトン核磁気共鳴分析を記録した。2〜10mgの試料を0.7mLの重水素化溶媒中に溶解させてスペクトルを得た。
【0038】
- フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
MKIIゴールデンゲート1回反射ATRシステム、励起源としての中赤外光源、およびDTGS検出器を備えたBruker Tensor 27を用いて、FTIRスペクトルを記録した。32回スキャン、4cm-1の分解能でスペクトルを得た。この分析を行うのに試料調製は必要としなかった。
【0039】
(実施例1)
4-{2-[5-メチル-1-(ナフタレン-2-イル)-1H-ピラゾール-3-イルオキシ]エチル}モルホリン(化合物63)およびその塩酸塩(実施例1)の合成
【0040】
【化2】
【0041】
化合物63は先願のWO2006/021462に開示される通りに調製できる。その塩酸塩は以下の手順に従って得ることができる:
【0042】
化合物63(6,39g)をHClで飽和させたエタノールに溶解させ、次いでこの混合物を何分か撹拌し、蒸発乾固させた。残渣をイソプロパノールから結晶化させた。1回目の結晶化から生じる母液は、濃縮により2回目の結晶化物を生じさせる。両方の結晶化物を合わせて5.24g(63%)の対応する塩酸塩(m.p.=197〜199℃)が得られた。
1H-NMR (DMSO-d6)δppm: 10.85 (bs, 1H)、7.95 (m, 4H)、7.7 (dd, J=2.2, 8.8Hz, 1H)、7.55 (m, 2H)、5.9 (s, 1H)、4.55 (m, 2H)、3.95 (m, 2H)、3.75 (m, 2H)、3.55〜3.4 (m, 4H)、3.2 (m, 2H)、2.35 (s, 3H)。
HPLC純度:99.8%。
【0043】
この方法により、塩酸塩は結晶性固体として非常に高収率で得られる。さらに、その高い融点は製剤上の観点から特に好都合であり、なぜならこれは製品が良好な物理的安定性を示すことを意味するからである。
【0044】
化合物63のその塩酸塩(実施例1)からの抽出
本発明で使用される試料は実施例1である。塩基(化合物63)をCH2Cl2を用いて実施例1の塩基性水溶液(pH>10、NaOHの0.5M水溶液を用いる)から抽出し、オレンジ色の油状物を得た。
【0045】
化合物63の他の塩を結晶化させる一般的方法
先に得られたオレンジ色の油状物のように(実施例1を参照のこと)、最初に1mLの化合物63の0.107M溶液を、対応する対イオンの0.107Mメタノール中溶液1mLを含むメタノール中に混合させて、塩を調製した。この混合物を1時間撹拌し、溶媒を真空蒸発させ(Genevac、8mmHg)、塩に応じて油状物または白色固体を得た。
【0046】
最初の調製で得られた生成物を、最少量の結晶化溶媒中にその沸点または最大で75℃にて溶解させた。4mLの溶媒を加えた後、塩が完全に溶解しなかった場合、懸濁液を高温で30分間撹拌し、残渣を熱時ろ過または遠心分離によって分離した。母液を室温まで冷却し、24時間静置した。
【0047】
固体が生成した場合、それを分離した(ろ過または遠心分離)。生成しなかった場合、溶液を冷蔵庫(4℃)に数日間置いた。固体が生成した場合、それを溶液から分離した。生成しなかった場合、溶液を冷凍庫(-21℃)に数日間置いた。固体が生成した場合、それを溶液から分離した。これらすべての操作後に固体が得られなかった場合、溶液を蒸発乾固させた。
【0048】
得られたすべての固体を真空乾燥炉で40℃(10mmHg)にて4時間乾燥させ、十分な量が得られたら分析を行った。1H-NMRによって最初の特性決定を行って塩の合成を確認した。本発明で使用した溶媒をTable 1(表1)に記載する。
【0049】
【表1】
【0050】
化合物63の結晶塩を調べるのに使用した酸は、以下の基準に従って選択した(Table 2(表2)):
- pKa化合物63(pKaが6.7)よりもpKaが少なくとも3単位低い酸
- 薬学的に許容可能な化合物である酸
【0051】
選択された酸のいくつかは2つまたはさらには3つ(クエン酸)の酸の形態(acidic position)を有するが、原則として硫酸のみが化合物63と二塩(disalt)を形成するのに十分に酸性の第2のプロトンを有する。したがって合計で11種類の異なる塩が生成し得る。
【0052】
【表2】
【0053】
化合物63の結晶塩を調べるために行われる一般的なストラテジーは、3つのステップに分けられる:
- ステップ1:塩の結晶化のスクリーニング
- ステップ2:塩の最適化および特性決定
- ステップ3:選択した塩の大スケール調製
【0054】
最初に、有望な結晶塩を探し出すために、Table 2(表2)に示す選択した対イオンを用いて結晶化のスクリーニングを行った。スクリーニングは、広範囲の結晶化溶媒(Table 1(表1))および様々な結晶化の手法を用いて、小スケール(40mgの化合物63)で行った。スクリーニングでは、結晶化条件は厳密にモニタリングせず、得られた固体を1H-NMRにより特性決定した。NMR分光法は塩の形成の優れた指標となるが、これは塩の1H-NMRスペクトルが酸および塩基の混合物のスペクトルとは実質的に異なるからである。プロトン化窒素に近い水素に関連づけられる明らかなシグナルのシフトが見られる。さらに、酸の対イオンが1H-NMRにおいて特徴的なシグナルを有する場合、これらを特定することができ、塩の化学量論を決定すること、および塩の純度について定性的な見当をつけることを可能にする。
【0055】
第2のステップでは、スクリーニング手順で最良の結果をもたらした溶媒において、すべての結晶塩を100〜500mgのスケールにスケールアップした。さらに、工業生産に適した結晶化の方法を使用した。得られた塩を1H-NMR、DSC、TGA、およびFTIRにより完全に特性決定した。このステップの目的は、第1に選択された塩を最適化された収率で調製するためのスケールアップ可能な手順を設計することであり、第2にそれらを完全に特性決定することであった。
【0056】
最後に、十分な固体状態の特性(結晶化度および熱安定性)を有する選択された結晶塩のグループを、2〜3gのスケールで化合物63から出発して調製した。
【0057】
塩の結晶化スクリーニングから大スケール調製まで(ステップ1〜3)
最初に、40mgのスケールで以下の10種の溶媒:アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2-ブタノール、アセトニトリル、およびテトラヒドロフランにおいて、Table 2(表2)に示す10種の対イオンを有する化合物63の結晶化スクリーニングを行った。この手順は、既知の濃度のメタノール溶液から化合物63および様々な酸の対イオンの等モルの混合物を調製することから始めた。得られる粗生成物を、メタノールを蒸発させた後に先に挙げた高温溶媒から結晶化させた。各酸および化合物63の混合物の溶解度に応じて異なる結晶化のストラテジーを使用し、したがって固体は異なる手順を用いて得られた。いくつかの酸では、混合物は高温の結晶化溶媒に可溶ではなく、スラリー固形物が得られた。他のケースでは、固体は室温での溶液の冷却中に、または4℃または-18℃にて数日後に結晶化した。最後に、いくつかの結晶化の試みにおいて、室温で溶媒をゆっくり蒸発させた後に固体を得た。いくつかのケースにおいて、1つの結晶化の試みにつき複数の固体が得られた。
【0058】
この第1の結晶化スクリーニング(Table 3(表3))から、以下の知見を引き出すことができた:
【0059】
- 化合物63とフマル酸およびマレイン酸との結晶塩は、評価した大部分の溶媒において得られた。両方の酸の対イオンについて、溶媒和物を含めたいくつかの結晶性固体を得た。すべての固体は等分子の塩に相当した。
【0060】
- 化合物63およびクエン酸の等モル混合物は、溶媒評価の大部分で非常に溶けやすかった。したがって、固体のほとんどは溶媒を完全に蒸発させた後に得られた。さらに、得られる固体は結晶化度が低いかまたは相当量の残留溶媒を含有していた。おそらく、結晶性の低い固体は脱溶媒和した溶媒和物に由来していた。
【0061】
- 化合物63およびグリコール酸の等モル混合物は、溶媒評価の大部分で非常に溶けやすかった。したがって、固体のほとんどは溶媒を完全に蒸発させた後に得られ、いくつかは固体の混合物であった。
【0062】
- 化合物63とエタンスルホン酸、L-リンゴ酸、およびマロン酸との結晶塩は、非常に高濃度の条件下で評価された1つまたは2つの溶媒においてのみ得られた。固体のほとんどは溶媒を完全に蒸発させた後に得られた。
【0063】
- 化合物63と硫酸、メタンスルホン酸、およびL-酒石酸との結晶性固体は得られなかった。塩基および酸の混合物は評価したすべての溶媒において非常に溶けやすく、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物または非結晶性固体のいずれかが得られた。
【0064】
【表3】
【0065】
これらの結果を考慮して、2回目の結晶化スクリーニングを9種のさらなる溶媒で行った。塩の溶解度を低下させるために、より低極性の溶媒(酢酸イソブチル、炭酸ジメチル、クロロベンゼン、シクロヘキサン、3-ペンタノン、トルエン、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル)および水を選択した(Table 4(表4))。
【0066】
【表4】
【0067】
この2回目の結晶化スクリーニングから、以下の知見を引き出すことができた:
【0068】
- 化合物63およびグリコール酸の等モル混合物は、この2回目の組の溶媒ではより溶けにくかったが、挙動は1回目の組の結晶化物と非常に類似していた。固体の混合物に相当するいくつかの固体が得られた。固体1は溶媒を完全に蒸発させた後にのみ生成し、完全には特性決定できなかった。
【0069】
- 化合物63とL-リンゴ酸、マロン酸、クエン酸との結晶塩は、1種の溶媒においてのみ得られ、既知の固体が得られた。
【0070】
- 化合物63とエタンスルホン酸との結晶塩は、数種の溶媒において得られ、すべてのケースで最初の結晶化スクリーニングとは異なる新しい固体が得られた。
【0071】
- 化合物63とメタンスルホン酸との結晶塩に相当する固体は、トルエンにおいて得ることができた。
【0072】
- 化合物63と硫酸およびL-酒石酸との結晶性固体は、この2回目の組の溶媒においては得られなかった。
【0073】
記載した2回の結晶化スクリーニングの結果を考慮して、発明者らは最も優れた特性を有するとみなされた、化合物63とフマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、L-リンゴ酸、およびマロン酸との非溶媒和塩の生成を最適化する。最適化スケールアップ実験は100mgの化合物63から出発して行った。スケールアップ手順もフマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、L-リンゴ酸、およびマロン酸との塩について最適化した。
【0074】
最後に、6種の選択された対イオンの塩の調製を2〜3gでスケールアップし、それらを完全に特性決定した。本発明における全体のプロセスを下記の表にまとめる。
【0075】
【表5】
【0076】
(実施例2)
化合物63のフマル酸塩の調製
最初のスクリーニングの間、フマル酸塩の結晶化を10種の異なる溶媒で試みた。様々な結晶化法を用いて、すなわちスラリーによって、飽和溶液の冷却によって、または溶媒の完全な蒸発後に、塩に相当する結晶性固体がDMFおよびクロロホルムを除くすべての溶媒で得られた。クロロホルムでは最初の酸が回収されたが、一方DMFではオレンジ色の油状物として塩が分離された。2つの非溶媒和固体が得られ、1つ目はメタノール、イソプロパノール、およびブタノールにおいて、2つ目はエタノールにおいてのみ得られた。最後に、溶媒和物はアセトン、酢酸エチル、およびTHFにおいて得られ、2つの固体の混合物がアセトニトリルにおいて生成した。
【0077】
非溶媒和結晶性固体、原則としてスクリーニングで得られた任意のものがスケールアップのために選択された。最初に、スケールアップをアセトニトリルにおいて試みたが、これはアセトニトリルが、塩の溶解性がより低い結晶性生成物をもたらす溶媒であったからである。塩は非常に良い収率で得られた(83%)が、酸がアセトニトリルに可溶ではなく、共に溶媒中に懸濁している油状物としての化合物63および固体としてのフマル酸の混合物から最終的な塩が析出したため、このプロセスはスケールアップに最適ではなかった。次いでエタノール中で結晶化を試みて、純粋な固体S5が生成した。非常に残念なことに、エタノールにおけるスケールアップでは、新しい結晶性の乏しい固体が低収率で生成した。最後に、アルコール(エタノールまたはイソプロパノール)中に溶解させた酸を加えて、アセトニトリル中で結晶化を行った。フマル酸をエタノール中に溶解させ室温(Table 6(表6))で添加した場合に、わずかにより良好な結果が得られる。一方で、懸濁液を4℃で2日間維持した場合は相の混合物が得られた(Table 6(表6)、エントリー4)。
【0078】
【表6】
【0079】
0.5gスケール(Table 6(表6)のエントリー2)でフマル酸塩を調製するのに用いた実験手順は次の通りであった:
【0080】
フマル酸(153mg、1.32mmol)の2mLエタノール中溶液を、化合物63(456mg、1.35mmol)の5mLアセトニトリル中溶液へ室温でゆっくりと加える。得られる黄色溶液に種晶を入れ、室温で15分撹拌する。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を室温で15時間撹拌する。得られる固体をろ過し、1mLのアセトニトリルで洗浄し、45℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させてフマル酸塩を白色固体として得た(350mg、59%)。
【0081】
塩の形成は遊離塩基と比較して実質的に変化する1H-NMRスペクトルによって容易に特徴づけることができる。フマル酸塩の場合、塩基性窒素に近接する水素原子(下記の式の水素1および2)に由来するシグナルが明らかに低磁場にシフトしている(Table 7(表7))。窒素からさらに離れた水素原子(下記の式の水素3および4)に由来するシグナルについても、より小さいシフトを観測できた。さらに、フマル酸由来のシグナルは予想される化学シフト(δ: 6.72ppm)で現れる。アニオンおよびカチオンに対応するシグナルの積分は、二塩ではなく等分子塩が形成されていることを明らかに裏付ける(図5)。
【0082】
【化3】
【0083】
塩の形成後に1H-NMRスペクトルがシフトする水素の表示を付した化合物63の分子式。
【0084】
10℃/minの加熱速度でのDSC分析は小さい吸熱ピークを示し、続いて小さい発熱ピークおよび強い吸熱シグナル(図6)を示す。142℃で始まる強いシグナルは固体S5の融点に対応する。131℃で始まる小さいピークは結晶性固体S3の溶融に対応する。このピークは非常に弱く、これはおそらく固体S3がDSC分析の加熱の過程で部分的に固体S5へ転移するためである。したがって、このピークは融点のところで残っているS3の溶融に相当し、これは容易にS5へと結晶化する(小さい発熱ピーク)。本質的に純粋な固体S3試料の溶融ピークは、特定の試料に応じて異なる強度を有する。おそらく、S3からS5への固体-固体転移が晶癖および結晶サイズに応じて異なる程度で起こる。したがって、純粋なS3結晶性固体の試料は図6に表される形状のDSCプロファイルを示すことになる。
【0085】
TG分析では、120〜150℃の温度における0.3%のわずかな重量減少、および分解に起因する190℃から始まる劇的な重量減少が見られる。
【0086】
フマル酸塩の特性決定は次の通りである(図5〜8):
1H-NMR (400MHz, d4-メタノール)δ: 2.35 (s, 3H)、2.92〜3.00 (m, 4H)、3.17 (t, J = 5Hz, 2H)、3.80 (t, J = 5Hz, 4H)、4.44 (t, J = 5Hz, 2H)、5.83 (s, 1H)、6.72 (s, 2H)、7.52〜7.62 (m, 3H)、7.89〜7.96 (m, 3H)、8.00 (d, J = 9Hz, 1H)。
【0087】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.2重量%のアセトニトリル。
FTIR (ATR) υ: 3435、3148、3037、2943、2855、1876、1731、1664、1650、1559、1509、1488、1446、1394、1372、1314、1236、1186、1166、1133、1098、1081、1047、1014、981、932、917、859、816、787、769および748cm-1。
【0088】
DSC(10℃/min): 131および142℃で始まる2つの吸熱の溶融ピーク。
【0089】
TGA(10℃/min): 120〜150℃で0.3%の重量減少。分解プロセスは190℃で始まる。
【0090】
(実施例3)
化合物63のマレイン酸塩の調製
最初のスクリーニングの間、フマル酸塩の結晶化を10種の異なる溶媒で試みた。塩は評価したすべての溶媒において非常に溶けやすかった。塩の溶解度が20mg/mLであった酢酸エチルを除いて、50〜200mg/mLの溶解度が認められた。溶液を室温まで冷却した後か、またはクロロホルム、メタノール、およびDMFについては溶媒を完全に蒸発させた後に、結晶性固体がすべての溶媒において得られた。4つの異なる固体を検出した。非溶媒和結晶相が大部分の結晶化物において得られた。さらに、溶媒和物がTHFにおいて生成し、実験のうちの3つにおいて他の2つの完全に特性決定された固体が生成した。
【0091】
沸点および結晶化(66mg/mL)に必要な溶媒の量を考慮して、イソプロパノールを結晶塩の合成のスケールアップのために選択した溶媒とした。最初にマレイン酸および化合物63のイソプロパノール中の混合物を60℃から室温まで冷却する試みによって、油状物としての塩が得られた(Table 7(表7))。この油状物は再び混合物を60℃で数時間撹拌した後に結晶化した。より希釈した条件での同様の手法によって、固体としての塩が直接得られた。最後に、このプロセスを最適化して、酸のイソプロパノール溶液を化合物63のイソプロパノール溶液に室温で加えた後に塩の沈殿が直接得られた。
【0092】
【表7】
【0093】
マレイン酸塩を2.5gスケールで調製するのに用いた実験手順は次の通りであった:
【0094】
マレイン酸(772mg、6.65mmol)の15mLイソプロパノール中溶液を、化合物63(2.26g、6.69mmol)の15mLイソプロパノール中溶液に室温でゆっくりと加える。十分な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を室温で2日間撹拌し、これをろ過する。得られる固体をイソプロパノールで洗浄し、45℃で10時間、55℃で6時間、および70℃で17時間真空乾燥(10mmHg)させて、マレイン酸塩を白色固体として得る(2.82g、96%; 1H-NMRより推測されるイソプロパノールの含有量は1.1%)。
【0095】
マレイン酸塩は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に変化する1H-NMRスペクトル(図9)によって容易に特性決定することができる。さらに、マレイン酸塩由来のシグナルは予想される化学シフトである6.30ppmで現れる。アニオンおよびカチオンに対応するシグナルの積分は、二塩ではなく等分子塩が形成されていることを明らかに裏付ける。
【0096】
DSC分析(図10)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する139℃(101J/g)で始まる強い吸熱ピークを示す。TGAにおいて(図11)融点付近で1%の重量減少が見られ、おそらくこれは残留イソプロパノールが失われることに起因する。塩の明らかな分解が150℃を超える温度で見られる。
【0097】
マレイン酸塩の特性決定は以下の通りである(図9〜12):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 2.35 (s, 3H)、3.02〜3.64 (m, 6H)、3.99 (t, J = 5Hz, 4H)、4.61〜4.66 (m, 2H)、5.70 (s, 1H)、6.30 (s, 2H)、7.50〜7.58 (m, 3H)、7.79〜7.82 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0098】
1H-NMRから得られる溶媒: 1.1重量%のイソプロパノール。
FTIR (ATR) υ: 3043、2853、1707、1619、1599、1557、1487、1445、1374、1357、1340、1302、1237、1163、1135、1096、1041、1022、930、919、861、817、762および750cm-1。
【0099】
DSC(10℃/min): 139℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0100】
TGA(10℃/min): 110〜150℃で1.0%の重量減少。分解プロセスは150℃で始まる。
【0101】
(実施例4)
化合物63のメタンスルホン酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、メタンスルホン酸塩は結晶化させることができなかった。この塩は評価したすべての溶媒に非常に溶けやすく(>200mg/mL)、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物が得られた。2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた場合、溶媒を蒸発させた後、または油状の塩が溶解しなかったために、実験の大部分でやはり油状物が回収された。しかし、油状物としての過剰の塩を分離した後に-18℃に冷却されたトルエン溶液から塩に相当する結晶性固体が得られた。したがって、トルエンを塩の合成の最適化およびスケールアップのために選択した。
【0102】
最初のスケールアップの試みにおいて、メタンスルホン酸を化合物63のトルエン溶液に直接加えたが、塩は急速に油状物として分離した。この油状物は溶媒と共に数時間室温で撹拌された後に結晶化した。固体塩の直接的な結晶化を引き起こすために、塩の種晶の存在下で同じプロセスを繰り返した。さらに、塩の色を改善するために、メタンスルホン酸を使用直前に蒸留した(180℃、1mBar)。
【0103】
メタンスルホン酸塩を2.5gスケールで調製するために用いた実験手順は次の通りであった:
【0104】
メタンスルホン酸(0.45mL、6.94mmol)を、化合物63(2.36g、6.98mmol)の25mLトルエン中溶液へ室温にて種晶の存在下でゆっくりと加える。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を0℃で8時間撹拌し、ろ過する。得られる固体をトルエンで洗浄し、45℃で2日間、および55℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させて白色固体としてメタンスルホン酸塩を得る(2.85g、98%; 1H-NMRより推測されるトルエンの含有量は0.6%)。
【0105】
メタンスルホン酸塩は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に変化する1H-NMRスペクトル(図13)によって容易に特性決定することができる。さらに、メタンスルホン酸塩由来のシグナルは2.84ppmの化学シフトで現れる。
【0106】
DSC分析(図14)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する145℃で始まる強い吸熱ピーク(84J/g)を示す。TGAにおいて(図15)融点付近で0.5%の重量減少が見られ、おそらくこれは残留トルエンが失われることに起因する。塩の明らかな分解が250℃を超える温度で見られる。
【0107】
メタンスルホン酸塩の特性決定は次の通りである(図13〜16):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 2.36 (s, 3H)、2.84 (s, 3H)、3.03〜3.15 (m, 2H)、3.54〜3.61 (m, 2H)、3.63〜3.71 (m, 2H)、3.97〜4.05 (m, 2H)、4.10〜4.20 (m, 2H)、4.71〜4.76 (m, 2H)、5.75 (s, 1H)、7.50〜7.59 (m, 3H)、7.79〜7.82 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0108】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.58重量%のトルエン。
FTIR (ATR) υ: 3018、2957、2920、2865、2693、2627、1634、1602、1562、1509、1485、1435、1392、1376、1265、1221、1164、1131、1098、1049、1033、1007、934、914、862、822、772および759cm-1。
【0109】
DSC(10℃/min): 145℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0110】
TGA(10℃/min): 120〜160℃で0.5%の重量減少。分解プロセスは260℃で始まる。
【0111】
(実施例5)
化合物63のエタンスルホン酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、エタンスルホン酸塩はアセトニトリルにおいてのみ結晶化させることができた。しかし、この塩は評価したすべての溶媒に非常に溶けやすい(>200mg/mL)ため、溶媒を完全に蒸発させた後にのみ固体が得られた。残りの実験では、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物が生成した。2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた場合、3つの固体がメチルtert-ブチルエーテル、酢酸イソブチル、およびトルエンにおいて、油状の塩と混ざって得られた。これらの実験において、油状の塩は完全には溶解しなかった。トルエンを塩の合成の最適化およびスケールアップのために選択した。
【0112】
エタンスルホン酸塩の最初のスケールアップにおいて、油状の塩を高温のトルエンに懸濁させ、冷却させた。塩は結晶化せず、油状物のままであった。エタンスルホン酸を化合物63のトルエン中溶液にゆっくりと加えた2回目の試みでは、冷却すると褐色固体が分離した。この同じ手順を室温で繰り返すと、油状物が容易に現れ、これは溶媒と共に数日間撹拌された後にゆっくりと結晶化した。塩の直接の結晶化を引き起こすために、同じプロセスを室温にて塩の種晶の存在下で繰り返した。さらに、塩の色を改善するために、エタンスルホン酸を使用の直前に蒸留した(200℃、1mBar)。
【0113】
エタンスルホン酸塩を2.5gスケールで調製するのに用いた実験手順は次の通りであった:
【0114】
エタンスルホン酸(0.58mL、6.79mmol)を、化合物63(2.29g、6.79mmol)の40mLトルエン中溶液へ、室温にて種晶の存在下でゆっくりと加えた。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を0℃で12時間撹拌し、ろ過する。得られる固体をトルエンで洗浄し、45℃で8時間、および55℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させて白色固体としてエタンスルホン酸塩を得る(2.90g、99%)。
【0115】
エタンスルホン酸塩の形成は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に出発物質である化合物63と比較して変化する1H-NMRスペクトル(図17)によって、容易に推測することができる。さらに、エタンスルホン酸塩由来のシグナルは1.37および2.84ppmの化学シフトで現れる。
【0116】
DSC分析(図18)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する133℃で始まる強い吸熱ピーク(85J/g)を示す。TGA(図19)において融点付近で0.3%の重量減少が見られ、これはおそらく残留トルエンが失われることに起因する。塩の明らかな分解が280℃を超える温度で見られる。
【0117】
エタンスルホン酸塩の特性決定は次の通りである(図17〜20):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 1 .37 (t, J = 7Hz, 3H)、2.36 (s, 3H)、2.93 (q, J = 7Hz, 2H)、3.03〜3.15 (m, 2H)、3.55〜3.62 (m, 2H)、3.64〜3.72 (m, 2H)、3.96〜4.04 (m, 2H)、4.11〜4.21 (m, 2H)、4.71〜4.77 (m, 2H)、5.75 (s, 1H)、7.50〜7.59 (m, 3H)、7.79〜7.83 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0118】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.35重量%のトルエン。
FTIR (ATR) υ: 3021、2958、2924、2863、2625、2488、1633、1603、1565、1508、1485、1470、1437、1391、1376、1353、1334、1265、1242、1210、1160、1149、1131、1098、1027、1008、978、934、916、856、819、776および739cm-1。
【0119】
DSC(10℃/min): 133℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0120】
TGA(10℃/min): 110〜160℃で0.3%の重量減少。分解プロセスは280℃で始まる。
【0121】
(実施例6)
化合物63のリンゴ酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、リンゴ酸塩はアセトニトリルおよびイソプロパノールにおいて結晶化させることができた。しかし、この塩は両方の溶媒に非常に溶けやすく(>200mg/mL)、完全に蒸発させた後にのみ2つの固体が得られた。残りの実験では、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物が生成した。2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた場合、塩はより溶けにくいが、3-ペンタノンにおいてのみ結晶性固体が得られた。他の実験では油状物が得られた。これらの結果を考慮して、3-ペンタノンを塩の合成の最適化およびスケールアップのために選択した。
【0122】
塩を調製するための最初のスケールアップの試みは、L-リンゴ酸の3-ペンタノン中溶液を、化合物63のやはり3-ペンタノン中の溶液へ50〜70℃の温度で加えて行った。この手順を用いた場合、塩は冷却させると場合によって油状物として分離した。この油状物は溶媒と共に50℃で数時間撹拌された後に容易に結晶化した。結晶塩の直接的な生成は、リンゴ酸塩を2.5gスケールで調製するのに用いた以下の手順において記載されるように、種晶を加えることによって引き起こすことができた:
【0123】
L-リンゴ酸(933mg、6.95mmol)の10mLの3-ペンタノン中溶液を、化合物63(2.35g、6.95mmol)の10mLの3-ペンタノン中溶液(50℃、種晶を含む)へゆっくりと加える。豊富な白色固体が容易に析出し、得られる懸濁液をさらに10mLの3-ペンタノンで希釈し、室温までゆっくりと冷却し、12時間撹拌し、ろ過する。得られる固体を3-ペンタノンで洗浄し、45℃で15時間、および55℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させて白色固体としてリンゴ酸塩を得る(3.03g、95%)。
【0124】
リンゴ酸塩の形成は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に出発化合物である化合物63と比較して有意に変化する1H-NMRスペクトル(図21)によって、容易に推測することができる。さらに、リンゴ酸塩由来のシグナルは化学シフト2.59、2.79、および4.31ppmの化学シフトで現れる。
【0125】
DSC分析(図22)において、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する125℃で始まる強い吸熱ピーク(119J/g)が見られた。さらに、TGA分析(図23)は融点を下回る温度で全く重量減少を示さず、このことは揮発性物質が存在しないことを示す。残留溶媒が存在しないことは1H-NMRスペクトルからも裏付けることができる。
【0126】
リンゴ酸塩の特性決定は次の通りである(図21〜24):
1H-NMR (400MHz, d4-メタノール)δ: 2.35 (s, 3H)、2.59 (dd, J1 = 16Hz, J2 = 7Hz, 1H)、2.79 (dd, J1 = 16Hz, J3 = 5Hz, 1H)、2.89〜2.97 (m, 4H)、3.13 (t, J = 5Hz, 2H)、3.80 (t, J = 5Hz, 4H)、4.39 (dd, J2 = 7Hz, J3 = 5Hz, 1H)、4.43 (t, J = 5Hz, 2H)、5.83 (s, 1H)、7.52〜7.61 (m, 3H)、7.89〜7.96 (m, 3H)、8.00 (d, J = 9Hz, 1H)。
【0127】
FTIR (ATR) υ: 3171、3003、2874、1718、1597、1556、1487、1468、1440、1360、1268、1142、1126、1097、1050、1022、1010、986、950、920、902、863、822、797、770、746および742cm-1。
【0128】
DSC(10℃/min): 125℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0129】
TGA(10℃/min): 分解に起因して150℃で始まる重量減少。
【0130】
(実施例7)
化合物63のマロン酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、マロン酸塩はイソプロパノールにおいて結晶化させることができた。しかし、この塩はこの溶媒に非常に溶けやすく(>200mg/mL)、これはスケールアップにおける問題を予期させた。このため、2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた。この2回目の組の実験において、高温で大部分の塩を油状物として分離した後に、飽和溶液を-18℃まで冷却させた場合に、メチルtert-ブチルエーテルからのみ結晶性固体が得られた。
【0131】
これらの結果を考慮して、マロン酸塩のスケールアップを最初にイソプロパノールにおいて試みた。非常に残念なことに、酸および化合物63を混合した直後に油状物が分離した。油状物は溶媒と共に数時間撹拌された後に低収率で結晶化した。油状物が分離した後にメチルtert-ブチルエーテルを結晶化プロセスの間に加えた場合、収率を改善することができた。最初に油状物として塩が生成するのを避け、収率を改善するために、結晶化プロセスを修正した。マロン酸のイソプロパノール中溶液を、化合物63のメチルtert-ブチルエーテル中溶液へ加えた。この手順を用いて、塩は固体として直接生成したが、やはりいくらかの油状物の分離を見ることができた。最後に、次の手順に記載されるように、種晶によって塩の直接的かつ完全な結晶化物を得ることができた:
【0132】
マロン酸(736mg、7.07mmol)の10mLイソプロパノール中溶液を、種晶を入れた化合物63(2.38g、7.06mmol)の15mLメチルtert-ブチルエーテル中溶液(0℃)へゆっくりと加える。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を最初に室温で12時間、次いで0℃で2時間撹拌し、これをろ過する。得られる固体をメチルtert-ブチルエーテルで洗浄し、45℃で7時間、および55℃で6時間真空乾燥させて(10mmHg)白色固体としてマロン酸塩を得る(2.42g,80%)。
【0133】
マロン酸塩の形成は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に出発物質である化合物63と比較して変化する1H-NMRスペクトル(図25)によって、容易に推測することができる。さらに、マロン酸塩由来のシグナルは3.23ppmの化学シフトで現れる。
【0134】
DSC分析(図26)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する90℃で始まる強い吸熱ピーク(85J/g)を示す。TGA(図27)において融点を下回る温度で重量減少は見られない。しかし、残留溶媒(0.2重量%のイソプロパノールおよび0.2%のメチルtert-ブチルエーテル)を1H-NMRスペクトルから検出することができた。
【0135】
マロン酸塩の特性決定は次の通りである(図25〜28):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 2.35 (s, 3H)、3.10〜3.40 (m, 4H)、3.23 (s, 2H)、3.40〜3.46 (m, 2H)、3.97 (t, J = 5Hz, 4H)、4.59〜4.64 (m, 2H)、5.70 (s, 1H)、7.49〜7.58 (m, 3H)、7.79〜7.82 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0136】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.2重量%のイソプロパノールおよび0.2%のメチルtert-ブチルエーテル。
FTIR (ATR) υ: 3148、3027、2942、2857、1718、1621、1599、1561、1488、1443、1374、1343、1308、1260、1165、1135、1097、1080、1046、1022、1011、932、918、863、819および752cm-1。
【0137】
DSC(10℃/min): 90℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0138】
TGA(10℃/min): 分解に起因して100℃で始まる重量減少。
【0139】
塩の結晶化スクリーニングの概要
化合物63と硫酸およびL-酒石酸との塩を形成する試みは不成功に終わり、油状物のみが得られた。
【0140】
他の塩は、固体状ではあるが、塩酸塩合成の実験部分と比較して複雑な合成プロセスによって、または独特の実験条件下においてのみ得られた。さらに、塩酸塩において得られた結晶形の代わりに多くの場合は非結晶性固体が得られた。これらの欠点はすべて、関連する合成プロセスのためのスケールアップが非常に複雑となることを暗示する。
【0141】
下記のTable 8(表8)に、大スケールで本発明において調製した各固体塩に関する重要なデータの概要: 結晶化度のグレード、結晶化溶媒、収率、および融点を示す。
【0142】
【表8】
【0143】
上記で見ることができるように、塩酸塩は常に結晶性固体として非常に高収率で(結晶化を含める)得られ、他の塩の中でも特に50℃を超える融点を有し、このことは明らかに物理的安定性に関する利点を暗示する。さらに、TGA分析を比較すると、塩酸塩はきれいなプロファイルを有し、溶媒の減少は検出されていない。
【0144】
さらに、医薬目的におけるこの化合物の適合性を確認するために、いくつかの追加的実験(熱力学的溶解度、薬物動態学的)を実施例1(P027)について行った。
【0145】
(実施例8)
熱力学的溶解度
pH7.4およびpH2での熱力学的溶解度の一般的プロトコルを以下に記載する。
【0146】
○ A) pH7.4での熱力学的溶解度
緩衝液 pH7.4(50mM)
リン酸塩緩衝液pH7.4を次の通りに調製した:
- 25mMのNa2HPO4.12H2O溶液(1lの水に対して8.96gの重量)を調製した
- 25mMのKH2PO4溶液(1lの水に対して3.4gの重量)を調製した。
- 812mlの第2リン酸ナトリウム溶液および182mlのリン酸カリウム溶液を混合し、チェックしたpHは7.4であった。
【0147】
試料の平衡
- Eppendorf社のStirrer Thermomixer Control(25℃、1250rpm)
- セミマイクロpH複合電極を有するpHメーター
を用いて試料を平衡化した。
【0148】
手順
対象の化合物
2mgをHPLCバイアルに秤量し(繰り返しにより)、1mlの緩衝液を加えた。バイアルをThermomixer Comfort撹拌機中で24時間25℃に維持した。続いて4000rpmで15分間遠心分離した。
【0149】
得られる上層をガラスピペットで収集し、HPLCバイアルへ移した。再び遠心分離し、インジェクターを2.7mmの高さでプログラムした。
【0150】
標準液(繰り返しによる)
溶液A: 5mlメタノール中2mg(400μg/ml)
溶液B: 1mlの溶液Aをメタノールで10mlにする(40μg/ml)
溶液C: 5mlの溶液Bをメタノールで50mlにする(4μg/ml)
溶液D: 4mlの溶液Cをメタノールで10mlにする(1.6μg/ml)
溶液E: 5mlの溶液Dをメタノールで25mlにする(0.32μg/ml)
【0151】
より希釈度の高い標準液から始めて、すべての調製済み溶液を10μl注入した。汚染物質がないことをチェックするために、ブランクも注入した。
【0152】
標準液の検量線を作成した(図29を参照のこと)。Yは面積、Xは注入した標準液のμgと考える。
【0153】
10μlの対象化合物の溶液を繰り返し注入し、平均のピーク面積(定量可能な場合)を検量線に内挿した(Table 9(表9)、Table 10(表10)、およびTable 11(表11)、並びに以下の例を参照のこと)。
【0154】
クロマトグラフ条件
- カラム: XBridge C18(または同様のもの)2.5μm 4.6x50mm
- 温度: 35℃
- 移動相: ACN/重炭酸アンモニウム10mM。
- グラジエント: 0〜3.5分: 15% ACNから95% ACNまで
3.5〜5分: 95% ACN
5〜6分: 95から15% ACN
6〜8分: 15% ACN
- 流量: 1.5ml/min
- 検出:紫外線吸収極大付近。
【0155】
○ B) pH2での熱力学的溶解度
先の手順を、HCl 0.01Nを用いて行った。
【0156】
実施例1の熱力学的溶解度
記載したプロトコルに従い、227μg/ml(pH=7.4)と得られた。図29の関連のグラフを参照のこと。
【0157】
【表9】
【0158】
【表10】
【0159】
【表11】
【0160】
(実施例9)
薬物動態パラメーターCmaxおよびAUC
1回の25mg/kg(化合物63として表す)の経口投与に続いてWistar Hannoverラットにおける実施例1の薬物動態学を試験した。この目的のために、血漿試料を異なる時点で採取し、蛍光検出によるHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法を用いて分析した。
【0161】
試料摂取
2つのグループをこの試験で用いた。グループ1はビヒクルを摂取し、グループ2は実施例1を25mg/kgにて10mL/kgの投与体積で摂取した。
【0162】
血液試料を後眼窩領域から以下の時点: 投与前、15分、30分、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、および24時間で抽出した。次いで血液を、ヘパリンを入れたプラスチック試験管へ移した。4℃にておよそ3000rpmで10分遠心分離することによって血漿を得た。これらの血漿試料にラベルを付け、およそ-65℃の温度で分析まで冷凍した。
【0163】
試料の分析
先に検証した分析法によって試料を分析した。つまり、ラット血漿試料を室温で解凍し、およそ4℃にて3000rpmで10分遠心分離した。300μlの血漿試料をバイアルに入れ、30μlの内部標準の希釈標準溶液を加えた。バイアルにキャップをして完全に混合した。
【0164】
以下の固相抽出法を実施例1の抽出に使用した。
1.カートリッジをメタノールで1分間、1.5ml/minにて活性化させる。
2.カートリッジを水で2分間、1.5ml/minにて活性化させる。
3.水で1.5分、1.0ml/minにて、試料をカートリッジに装入(80μl)する。
4.水/ACN(90/10、v/v)で30秒間、1.5ml/minにてすすぐ。
5.移動相を用いて1分間、0.5ml/minにて試料を溶出させる。
6.水およびメタノールでカートリッジおよびキャピラリーを洗浄する。
【0165】
次いで、pH3に調整した20mMのリン酸二水素カリウム、およびアセトニトリル(70〜73%)Aおよび(30〜27%)B(v/v)の混合物を移動相として使用して、室温で試料のクロマトグラフィー分析を行った。使用した流量は0.5ml/min、分析時間はおよそ17分であった。
【0166】
実施例1およびその内部標準に相当するピークを蛍光検出により260nmの励起波長および360nmの発光波長で定量した。残りのパラメーターは、応答時間: >0.2分(4秒標準)、PMTゲインが8であった。
【0167】
薬物動態パラメーター
非コンパートメント動態(non-compartmental kinetics)によってソフトウェアプログラムWinNonlin Professionalバージョン5.0.1.を用いて、平均血漿中濃度曲線から薬物動態パラメーターを得た。
【0168】
ピーク血漿中濃度値(Cmax)およびそのような濃度に達する時間(tmax)を、実験データから直接得た。消失速度定数(kel)を、曲線(log濃度対時間)の終末相の直線回帰によって計算した。消失半減期(t1/2)を、式t1/2=0.693/kelを用いて決定した。ゼロから所定の時間までの、血漿濃度対時間曲線の下の面積(AUC0-t)を、台形法によって計算した。ゼロから無限までの、血漿濃度対時間曲線の下の面積(AUC0-∞)を、式: AUC0-∞= AUC0-t +Clast/kel(式中、Clastは測定した最終時間における血漿中濃度)を用いて計算した。
【0169】
実施例1の薬物動態パラメーターCmaxおよびAUC
記載のプロトコルに従って、Cmax: 1152.8ng/ml、AUC0-t: 1218.4ng.h/ml、およびAUC0-∞: 1249.6ng.h/mlが得られた。図30の関連のグラフを参照のこと。
【0170】
最後の2つの試験(溶解度および薬物動態)で得られた結果は、塩酸塩が関連する処方物および臨床研究のための化合物63のより優れた塩であることを強く主張する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、いくつかの4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩、それらを含む医薬組成物、並びにシグマ受容体関連疾患の治療および/または予防におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
対象とする病気に関連するタンパク質および他の生体分子の構造がより良く理解されることによって、近年新しい治療薬の探索が大いに促進されている。これらのタンパク質の重要な種類の1つは、オピオイドの不快性、幻覚誘発性、および強心性の効果に関連すると思われる中枢神経系(CNS)の細胞表面受容体である、シグマ(σ)受容体である。シグマ受容体の生物学および機能の研究から、シグマ受容体リガンドが精神病、並びにジストニアおよび遅発性ジスキネジアなどの運動障害の治療、並びにハンチントン舞踏病またはトゥレット症候群と関連する運動障害、およびパーキンソン病における運動障害の治療に有用である場合があるという証拠が示されている(Walker, J.M.ら、Pharmacological Reviews、1990、42、355)。既知のシグマ受容体リガンドであるリムカゾールは、精神病の治療において臨床的効果を示すことが報告されている(Snyder, S.H.、Largent, B.L.、J. Neuropsychiatry 1989、1、7)。シグマ結合部位は、特定のオピエートベンゾモルファンの右旋性異性体、例えば(+)SKF 10047、(+)シクラゾシン、および(+)ペンタゾシンなどに対して、並びにまたハロペリドールなどのいくつかの催眠剤に対して優先的親和性を有する。
【0003】
シグマ受容体は、少なくとも2つの亜型を有し、これらの薬理活性(pharmacoactive)剤の立体選択的異性体によって区別することができる。SKF 10047はシグマ1(σ-1)部位に対してナノモル親和性を有し、シグマ2(σ-2)部位に対してマイクロモル親和性を有する。ハロペリドールは両方の亜型に対して同様の親和性を有する。内在性シグマリガンドは知られていないが、プロゲステロンがそれらの1つであることが示唆されている。考えられるシグマ部位媒介性薬剤の効果としては、グルタミン酸受容体機能、神経伝達物質応答、神経保護、行動、および認知の調節が挙げられる(Quirion, R.ら、Trends Pharmacol. Sci.、1992、13:85〜86)。大部分の研究はシグマ結合部位(受容体)がシグナル伝達カスケードの原形質膜要素(Plasmalemmal element)であることを暗示している。選択的シグマリガンドであると報告された薬剤は、抗精神病薬として評価されている(Hanner, M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci.、1996、93:8072〜8077)。CNS、免疫系、および内分泌系におけるシグマ受容体の存在は、それが3つの系の間を結び付けるものとして働く可能性を示唆している。
【0004】
シグマ受容体のアゴニストまたはアンタゴニストの潜在的な治療用途の観点から、選択的リガンドを見つけるのに多大な努力が向けられてきた。そのため、先行技術は様々なシグマ受容体リガンドを開示している。4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンはそのような有望なシグマ受容体リガンドの1つである。化合物およびその合成はWO 2006/021462において開示および特許請求されている。
【0005】
4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンは、高選択性のシグマ-1(σ-1)受容体拮抗薬である。これは慢性疼痛および急性疼痛、および特に神経因性疼痛の治療および予防において、強い鎮痛作用を示している。化合物の分子量は337.42umaである。化合物の構造式は以下である:
【0006】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2006/021462
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Walker, J.M.ら、Pharmacological Reviews、1990、42、355
【非特許文献2】Snyder, S.H.、Largent, B.L.、J. Neuropsychiatry 1989、1、7
【非特許文献3】Quirion, R.ら、Trends Pharmacol. Sci、1992、13:85〜86
【非特許文献4】Hanner, M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci.、1996、93:8072〜8077
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
その医薬開発を行いその潜在的可能性を実現するために、この医薬活性成分のより優れた処方物の調製を容易にすることになる、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンのさらなる形態が当技術分野において必要とされている。さらに、化合物の新しい形態は、その製造、取り扱い、および保存の特性、並びにその薬理学的特性などの治療効果も改善する可能性がある。
【0010】
この点で、化合物の別の形態は、例えば強化された熱力学的安定性、より高い純度、または向上したバイオアベイラビリティー(例えばより良好な吸収、溶解パターン)などの実に様々な特性を有する可能性がある。特定の化合物の形態はまた、化合物の処方物の製造を容易にし(例えば向上した流動性)、取り扱いおよび保存を容易にすることができる(例えば非吸湿性、長期の保存期間)、またはより低用量の治療薬の使用を可能にしてそれによりその潜在的な副作用を減少させることができるであろう。したがって、医薬に使用するための望ましい特性を有する、そのような形態を提供することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン(本明細書におい「化合物63」と呼ぶ)の様々な形態についての幅広い研究の後、驚くことにその塩のいくつか、特にその塩酸塩が、製造、取り扱い、保存、および/または治療上の有利な特性を実現することを見いだし、実証している。
【0012】
したがって、第1の態様において本発明は、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、およびメタンスルホン酸塩から成る群から選択される、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩に関する。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明は4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩(本明細書において「P027」または「実施例1」と呼ぶ)を対象としている。
【0014】
P027化合物の分子量は373.88uma、pKaは6.73、融点は194.2℃である。化合物は水に非常に溶けやすく、メタノール、1N塩酸、およびジメチルスルホキシドに溶けやすい。これはエタノールにやや溶けにくく、アセトンに溶けにくく、酢酸エチルおよび1N水酸化ナトリウムにほとんど溶けない。生成物はその関連する塩基よりも良好な溶解および吸収プロファイルをインビボで示す。
【0015】
別の態様において、本発明は4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩を調製する方法を対象としており、この方法は
a)4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンと塩酸を含有する溶液とを混合する工程と、
b)得られる塩酸塩を単離する工程と
を含む。
【0016】
本発明のさらなる態様は、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩、および薬学的に許容可能な担体、アジュバント、またはビヒクルを含む医薬組成物を含む。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、薬剤として、好ましくはシグマリガンドとして使用するため、すなわちシグマ受容体媒介性の疾患または状態の治療および/または予防において使用するための、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩を対象としている。
【0018】
本発明の別の態様は、シグマ受容体媒介性疾患を治療および/または予防する方法に関し、この方法はそのような治療を必要とする患者に治療有効量の上記で定義される化合物またはその医薬組成物を投与する工程を含む。
【0019】
これらの態様およびその好ましい実施形態は、さらに特許請求の範囲においても規定されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図2】実施例1の熱重量分析(TGA)の図である。
【図3】実施例1のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図4】化合物63のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図5】実施例2のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図6】実施例2の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図7】実施例2の熱重量分析(TGA)の図である。
【図8】実施例2のFTIR分析の図である。
【図9】実施例3のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図10】実施例3の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図11】実施例3の熱重量分析(TGA)の図である。
【図12】実施例3のFTIR分析の図である。
【図13】実施例4のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図14】実施例4の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図15】実施例4の熱重量分析(TGA)の図である。
【図16】実施例4のFTIR分析の図である。
【図17】実施例5のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図18】実施例5の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図19】実施例5の熱重量分析(TGA)の図である。
【図20】実施例5のFTIR分析の図である。
【図21】実施例6のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図22】実施例6の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図23】実施例6の熱重量分析(TGA)の図である。
【図24】実施例6のFTIR分析の図である。
【図25】実施例7のプロトン核磁気共鳴(1HNMR)の図である。
【図26】実施例7の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図27】実施例7の熱重量分析(TGA)の図である。
【図28】実施例7のFTIR分析の図である。
【図29】実施例1における熱力学的溶解度の検量線の図である。
【図30】ラットにおける実施例1の血漿中濃度の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明者らは、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンのHCl塩である化合物P027が、とりわけ結晶性固体であるという事実による利点を有し、そのことが単離、精製、および取り扱いを単純化することを見いだしている。
【0022】
実際に、塩の広範囲のスクリーニングの後、発明者らは、多数の酸(例えば硫酸またはL-酒石酸)が4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンと混合した場合に固体ではなく油状物を生じさせたのを認めた。さらに、固体状の塩を得るのに適した酸の中で、塩酸は調製の容易さ、物理的安定性、スケールアップ、溶解度などの点でより良好な結果をもたらした酸であった。
【0023】
したがって本発明は、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、およびメタンスルホン酸塩から成る群から選択される、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩に関する。これらの塩は結晶性固体を生じさせることができる。
【0024】
好ましくは、本発明は4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩(P027)を対象とする。
【0025】
4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩は、塩酸溶液を、適切な溶媒に溶解させたその対応する塩基に加えることによって調製できる。特定の実施形態において、P027化合物はHClで飽和させたエタノール中に遊離塩基化合物を溶解させることによって好都合に得ることができる。
【0026】
前述の通り、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンは高選択性のシグマ-1(σ-1)受容体拮抗薬であり、慢性疼痛および急性疼痛、および特に神経因性疼痛の治療および予防において強い鎮痛作用を示すことが報告されている(WO 2006/021462を参照のこと)。今では4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩が薬剤として使用するのに特に適していることが分かっている。したがって本発明は、薬学的に許容可能な担体、アジュバント、またはビヒクルと共に4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩酸塩を含む、患者に投与するための薬剤または医薬組成物をさらに提供する。
【0027】
より具体的には、P027化合物はシグマ受容体媒介性の疾患または状態の治療および/または予防に有用である。
【0028】
より好ましい実施形態において、P027化合物は、下痢;リポタンパク障害;偏頭痛;肥満;関節炎;高血圧;不整脈;潰瘍;学習欠損、記憶欠損、および注意欠陥;認知障害;神経変性疾患;脱髄疾患;コカイン、アンフェタミン、エタノール、およびニコチンを含めた薬物および化学物質への依存症;遅発性ジスキネジア;虚血性脳卒中;てんかん;脳卒中;ストレス;癌; 精神病性状態、特に鬱病、不安症、若しくは統合失調症;炎症;または自己免疫疾患から成る群から選択される疾患の治療および/または予防のための薬剤の製造において使用される。
【0029】
本発明による医薬組成物の補助材料または添加物は、担体、添加剤、支持材料、滑沢剤、充填剤、溶媒、賦形剤、着色剤、糖類などの香味調整剤(flavour conditioner)、抗酸化剤、結合剤、接着剤、崩壊剤、付着防止剤(anti-adherent)、流動促進剤、および/または接合剤の中から選択できる。坐剤の場合、これは非経口的施用のためのワックス、または脂肪酸エステル、または保存剤、乳化剤、および/または担体を含意することがある。これらの補助材料および/または添加物の選択並びに使用すべき量は、医薬組成物の施用形態によって決まることになる。
【0030】
本発明による薬剤または医薬組成物は、ヒトおよび/または動物、好ましくは幼児、子供、および成人を含めたヒトへの施用に適した任意の形態であってもよく、当業者に既知の標準的手順によって製造できる。したがって、本発明による処方物は、局所施用または全身施用、特に真皮、経皮(transdermal)、皮下、筋肉内、関節内、腹腔内、静脈内、動脈内、膀胱内、骨内、陰茎海綿体内、肺、頬側、舌下、眼内、硝子体内、鼻腔内、経皮(percutaneous)、直腸、膣内、経口、硬膜外、くも膜下腔内、脳室内、脳内、側脳室内、大槽内、脊髄内、脊髄近傍(perispinal)、頭蓋内への施用、ポンプ装置を使用するか若しくは使用しない、針若しくはカテーテルによる送達、または他の施用経路に適合させてもよい。
【0031】
記載の処方物は、スペインおよび米国の薬局方並びに同様の参照文書において記載または参照されるものなどの、標準的方法を用いて調製されることになる。
【0032】
本発明の一実施形態において、P027化合物は治療有効量で使用するのが好ましい。医師は、最も適切であり、投与の形態および特定の選択される化合物によって異なり、さらに治療を受ける患者、患者の年齢、治療される疾患または状態の種類によって異なることになる、本発明の治療薬の用量を決定することになる。組成物を経口投与する場合、より少量の非経口投与により得られるのと同じ効果をもたらすのに、より多量の活性薬剤が必要となる。この化合物は同等の治療薬と同じように有用であり、用量レベルは、これらの他の治療薬で一般に採用されるのと同じオーダーである。この活性化合物は典型的には1日に1回または複数回、例えば1日に1回、2回、3回、または4回投与されることになり、典型的な1日の総用量は0.1〜1000mg/kg/日の範囲である。
【0033】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を単に例示するものであり、決して本発明を制限するものとして考えることはできない。
【0034】
(実施例)
分析技術
得られた化合物63の様々な塩を同定するために、以下の技術を本発明において使用する。
【0035】
- 示差走査熱量測定分析(DSC)
DSC分析をMettler Toledo DSC822eにおいて記録した。1〜2mgの試料を、ピンホール蓋(pinhole lid)を備えた40μLのアルミニウムのるつぼへ量り入れ、窒素下(50mL/min)、30℃から300℃まで10℃/minの加熱速度で加熱した。データ収集および評価を、ソフトウェアSTAReを用いて行った。
【0036】
- 熱重量分析(TGA)
熱重量分析をMettler Toledo SDTA851eにおいて記録した。3〜4mgの試料を、(ミクロ天秤MX5, Mettlerを用いて)蓋のない40μLのアルミニウムのるつぼに量り入れ、10℃/min、30〜300℃にて窒素下(80mL/min)で加熱した。データ収集および評価を、ソフトウェアSTAReを用いて行った。
【0037】
- プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)
ATMおよび自動BACS-120オートサンプラーと共にz-グラジエント5mm BBO(Broadband Observe)プローブを備えたBruker Avance 400 Ultrashield NMR分光計において、重水素化クロロホルムまたはメタノール中で、プロトン核磁気共鳴分析を記録した。2〜10mgの試料を0.7mLの重水素化溶媒中に溶解させてスペクトルを得た。
【0038】
- フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
MKIIゴールデンゲート1回反射ATRシステム、励起源としての中赤外光源、およびDTGS検出器を備えたBruker Tensor 27を用いて、FTIRスペクトルを記録した。32回スキャン、4cm-1の分解能でスペクトルを得た。この分析を行うのに試料調製は必要としなかった。
【0039】
(実施例1)
4-{2-[5-メチル-1-(ナフタレン-2-イル)-1H-ピラゾール-3-イルオキシ]エチル}モルホリン(化合物63)およびその塩酸塩(実施例1)の合成
【0040】
【化2】
【0041】
化合物63は先願のWO2006/021462に開示される通りに調製できる。その塩酸塩は以下の手順に従って得ることができる:
【0042】
化合物63(6,39g)をHClで飽和させたエタノールに溶解させ、次いでこの混合物を何分か撹拌し、蒸発乾固させた。残渣をイソプロパノールから結晶化させた。1回目の結晶化から生じる母液は、濃縮により2回目の結晶化物を生じさせる。両方の結晶化物を合わせて5.24g(63%)の対応する塩酸塩(m.p.=197〜199℃)が得られた。
1H-NMR (DMSO-d6)δppm: 10.85 (bs, 1H)、7.95 (m, 4H)、7.7 (dd, J=2.2, 8.8Hz, 1H)、7.55 (m, 2H)、5.9 (s, 1H)、4.55 (m, 2H)、3.95 (m, 2H)、3.75 (m, 2H)、3.55〜3.4 (m, 4H)、3.2 (m, 2H)、2.35 (s, 3H)。
HPLC純度:99.8%。
【0043】
この方法により、塩酸塩は結晶性固体として非常に高収率で得られる。さらに、その高い融点は製剤上の観点から特に好都合であり、なぜならこれは製品が良好な物理的安定性を示すことを意味するからである。
【0044】
化合物63のその塩酸塩(実施例1)からの抽出
本発明で使用される試料は実施例1である。塩基(化合物63)をCH2Cl2を用いて実施例1の塩基性水溶液(pH>10、NaOHの0.5M水溶液を用いる)から抽出し、オレンジ色の油状物を得た。
【0045】
化合物63の他の塩を結晶化させる一般的方法
先に得られたオレンジ色の油状物のように(実施例1を参照のこと)、最初に1mLの化合物63の0.107M溶液を、対応する対イオンの0.107Mメタノール中溶液1mLを含むメタノール中に混合させて、塩を調製した。この混合物を1時間撹拌し、溶媒を真空蒸発させ(Genevac、8mmHg)、塩に応じて油状物または白色固体を得た。
【0046】
最初の調製で得られた生成物を、最少量の結晶化溶媒中にその沸点または最大で75℃にて溶解させた。4mLの溶媒を加えた後、塩が完全に溶解しなかった場合、懸濁液を高温で30分間撹拌し、残渣を熱時ろ過または遠心分離によって分離した。母液を室温まで冷却し、24時間静置した。
【0047】
固体が生成した場合、それを分離した(ろ過または遠心分離)。生成しなかった場合、溶液を冷蔵庫(4℃)に数日間置いた。固体が生成した場合、それを溶液から分離した。生成しなかった場合、溶液を冷凍庫(-21℃)に数日間置いた。固体が生成した場合、それを溶液から分離した。これらすべての操作後に固体が得られなかった場合、溶液を蒸発乾固させた。
【0048】
得られたすべての固体を真空乾燥炉で40℃(10mmHg)にて4時間乾燥させ、十分な量が得られたら分析を行った。1H-NMRによって最初の特性決定を行って塩の合成を確認した。本発明で使用した溶媒をTable 1(表1)に記載する。
【0049】
【表1】
【0050】
化合物63の結晶塩を調べるのに使用した酸は、以下の基準に従って選択した(Table 2(表2)):
- pKa化合物63(pKaが6.7)よりもpKaが少なくとも3単位低い酸
- 薬学的に許容可能な化合物である酸
【0051】
選択された酸のいくつかは2つまたはさらには3つ(クエン酸)の酸の形態(acidic position)を有するが、原則として硫酸のみが化合物63と二塩(disalt)を形成するのに十分に酸性の第2のプロトンを有する。したがって合計で11種類の異なる塩が生成し得る。
【0052】
【表2】
【0053】
化合物63の結晶塩を調べるために行われる一般的なストラテジーは、3つのステップに分けられる:
- ステップ1:塩の結晶化のスクリーニング
- ステップ2:塩の最適化および特性決定
- ステップ3:選択した塩の大スケール調製
【0054】
最初に、有望な結晶塩を探し出すために、Table 2(表2)に示す選択した対イオンを用いて結晶化のスクリーニングを行った。スクリーニングは、広範囲の結晶化溶媒(Table 1(表1))および様々な結晶化の手法を用いて、小スケール(40mgの化合物63)で行った。スクリーニングでは、結晶化条件は厳密にモニタリングせず、得られた固体を1H-NMRにより特性決定した。NMR分光法は塩の形成の優れた指標となるが、これは塩の1H-NMRスペクトルが酸および塩基の混合物のスペクトルとは実質的に異なるからである。プロトン化窒素に近い水素に関連づけられる明らかなシグナルのシフトが見られる。さらに、酸の対イオンが1H-NMRにおいて特徴的なシグナルを有する場合、これらを特定することができ、塩の化学量論を決定すること、および塩の純度について定性的な見当をつけることを可能にする。
【0055】
第2のステップでは、スクリーニング手順で最良の結果をもたらした溶媒において、すべての結晶塩を100〜500mgのスケールにスケールアップした。さらに、工業生産に適した結晶化の方法を使用した。得られた塩を1H-NMR、DSC、TGA、およびFTIRにより完全に特性決定した。このステップの目的は、第1に選択された塩を最適化された収率で調製するためのスケールアップ可能な手順を設計することであり、第2にそれらを完全に特性決定することであった。
【0056】
最後に、十分な固体状態の特性(結晶化度および熱安定性)を有する選択された結晶塩のグループを、2〜3gのスケールで化合物63から出発して調製した。
【0057】
塩の結晶化スクリーニングから大スケール調製まで(ステップ1〜3)
最初に、40mgのスケールで以下の10種の溶媒:アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2-ブタノール、アセトニトリル、およびテトラヒドロフランにおいて、Table 2(表2)に示す10種の対イオンを有する化合物63の結晶化スクリーニングを行った。この手順は、既知の濃度のメタノール溶液から化合物63および様々な酸の対イオンの等モルの混合物を調製することから始めた。得られる粗生成物を、メタノールを蒸発させた後に先に挙げた高温溶媒から結晶化させた。各酸および化合物63の混合物の溶解度に応じて異なる結晶化のストラテジーを使用し、したがって固体は異なる手順を用いて得られた。いくつかの酸では、混合物は高温の結晶化溶媒に可溶ではなく、スラリー固形物が得られた。他のケースでは、固体は室温での溶液の冷却中に、または4℃または-18℃にて数日後に結晶化した。最後に、いくつかの結晶化の試みにおいて、室温で溶媒をゆっくり蒸発させた後に固体を得た。いくつかのケースにおいて、1つの結晶化の試みにつき複数の固体が得られた。
【0058】
この第1の結晶化スクリーニング(Table 3(表3))から、以下の知見を引き出すことができた:
【0059】
- 化合物63とフマル酸およびマレイン酸との結晶塩は、評価した大部分の溶媒において得られた。両方の酸の対イオンについて、溶媒和物を含めたいくつかの結晶性固体を得た。すべての固体は等分子の塩に相当した。
【0060】
- 化合物63およびクエン酸の等モル混合物は、溶媒評価の大部分で非常に溶けやすかった。したがって、固体のほとんどは溶媒を完全に蒸発させた後に得られた。さらに、得られる固体は結晶化度が低いかまたは相当量の残留溶媒を含有していた。おそらく、結晶性の低い固体は脱溶媒和した溶媒和物に由来していた。
【0061】
- 化合物63およびグリコール酸の等モル混合物は、溶媒評価の大部分で非常に溶けやすかった。したがって、固体のほとんどは溶媒を完全に蒸発させた後に得られ、いくつかは固体の混合物であった。
【0062】
- 化合物63とエタンスルホン酸、L-リンゴ酸、およびマロン酸との結晶塩は、非常に高濃度の条件下で評価された1つまたは2つの溶媒においてのみ得られた。固体のほとんどは溶媒を完全に蒸発させた後に得られた。
【0063】
- 化合物63と硫酸、メタンスルホン酸、およびL-酒石酸との結晶性固体は得られなかった。塩基および酸の混合物は評価したすべての溶媒において非常に溶けやすく、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物または非結晶性固体のいずれかが得られた。
【0064】
【表3】
【0065】
これらの結果を考慮して、2回目の結晶化スクリーニングを9種のさらなる溶媒で行った。塩の溶解度を低下させるために、より低極性の溶媒(酢酸イソブチル、炭酸ジメチル、クロロベンゼン、シクロヘキサン、3-ペンタノン、トルエン、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル)および水を選択した(Table 4(表4))。
【0066】
【表4】
【0067】
この2回目の結晶化スクリーニングから、以下の知見を引き出すことができた:
【0068】
- 化合物63およびグリコール酸の等モル混合物は、この2回目の組の溶媒ではより溶けにくかったが、挙動は1回目の組の結晶化物と非常に類似していた。固体の混合物に相当するいくつかの固体が得られた。固体1は溶媒を完全に蒸発させた後にのみ生成し、完全には特性決定できなかった。
【0069】
- 化合物63とL-リンゴ酸、マロン酸、クエン酸との結晶塩は、1種の溶媒においてのみ得られ、既知の固体が得られた。
【0070】
- 化合物63とエタンスルホン酸との結晶塩は、数種の溶媒において得られ、すべてのケースで最初の結晶化スクリーニングとは異なる新しい固体が得られた。
【0071】
- 化合物63とメタンスルホン酸との結晶塩に相当する固体は、トルエンにおいて得ることができた。
【0072】
- 化合物63と硫酸およびL-酒石酸との結晶性固体は、この2回目の組の溶媒においては得られなかった。
【0073】
記載した2回の結晶化スクリーニングの結果を考慮して、発明者らは最も優れた特性を有するとみなされた、化合物63とフマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、L-リンゴ酸、およびマロン酸との非溶媒和塩の生成を最適化する。最適化スケールアップ実験は100mgの化合物63から出発して行った。スケールアップ手順もフマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、L-リンゴ酸、およびマロン酸との塩について最適化した。
【0074】
最後に、6種の選択された対イオンの塩の調製を2〜3gでスケールアップし、それらを完全に特性決定した。本発明における全体のプロセスを下記の表にまとめる。
【0075】
【表5】
【0076】
(実施例2)
化合物63のフマル酸塩の調製
最初のスクリーニングの間、フマル酸塩の結晶化を10種の異なる溶媒で試みた。様々な結晶化法を用いて、すなわちスラリーによって、飽和溶液の冷却によって、または溶媒の完全な蒸発後に、塩に相当する結晶性固体がDMFおよびクロロホルムを除くすべての溶媒で得られた。クロロホルムでは最初の酸が回収されたが、一方DMFではオレンジ色の油状物として塩が分離された。2つの非溶媒和固体が得られ、1つ目はメタノール、イソプロパノール、およびブタノールにおいて、2つ目はエタノールにおいてのみ得られた。最後に、溶媒和物はアセトン、酢酸エチル、およびTHFにおいて得られ、2つの固体の混合物がアセトニトリルにおいて生成した。
【0077】
非溶媒和結晶性固体、原則としてスクリーニングで得られた任意のものがスケールアップのために選択された。最初に、スケールアップをアセトニトリルにおいて試みたが、これはアセトニトリルが、塩の溶解性がより低い結晶性生成物をもたらす溶媒であったからである。塩は非常に良い収率で得られた(83%)が、酸がアセトニトリルに可溶ではなく、共に溶媒中に懸濁している油状物としての化合物63および固体としてのフマル酸の混合物から最終的な塩が析出したため、このプロセスはスケールアップに最適ではなかった。次いでエタノール中で結晶化を試みて、純粋な固体S5が生成した。非常に残念なことに、エタノールにおけるスケールアップでは、新しい結晶性の乏しい固体が低収率で生成した。最後に、アルコール(エタノールまたはイソプロパノール)中に溶解させた酸を加えて、アセトニトリル中で結晶化を行った。フマル酸をエタノール中に溶解させ室温(Table 6(表6))で添加した場合に、わずかにより良好な結果が得られる。一方で、懸濁液を4℃で2日間維持した場合は相の混合物が得られた(Table 6(表6)、エントリー4)。
【0078】
【表6】
【0079】
0.5gスケール(Table 6(表6)のエントリー2)でフマル酸塩を調製するのに用いた実験手順は次の通りであった:
【0080】
フマル酸(153mg、1.32mmol)の2mLエタノール中溶液を、化合物63(456mg、1.35mmol)の5mLアセトニトリル中溶液へ室温でゆっくりと加える。得られる黄色溶液に種晶を入れ、室温で15分撹拌する。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を室温で15時間撹拌する。得られる固体をろ過し、1mLのアセトニトリルで洗浄し、45℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させてフマル酸塩を白色固体として得た(350mg、59%)。
【0081】
塩の形成は遊離塩基と比較して実質的に変化する1H-NMRスペクトルによって容易に特徴づけることができる。フマル酸塩の場合、塩基性窒素に近接する水素原子(下記の式の水素1および2)に由来するシグナルが明らかに低磁場にシフトしている(Table 7(表7))。窒素からさらに離れた水素原子(下記の式の水素3および4)に由来するシグナルについても、より小さいシフトを観測できた。さらに、フマル酸由来のシグナルは予想される化学シフト(δ: 6.72ppm)で現れる。アニオンおよびカチオンに対応するシグナルの積分は、二塩ではなく等分子塩が形成されていることを明らかに裏付ける(図5)。
【0082】
【化3】
【0083】
塩の形成後に1H-NMRスペクトルがシフトする水素の表示を付した化合物63の分子式。
【0084】
10℃/minの加熱速度でのDSC分析は小さい吸熱ピークを示し、続いて小さい発熱ピークおよび強い吸熱シグナル(図6)を示す。142℃で始まる強いシグナルは固体S5の融点に対応する。131℃で始まる小さいピークは結晶性固体S3の溶融に対応する。このピークは非常に弱く、これはおそらく固体S3がDSC分析の加熱の過程で部分的に固体S5へ転移するためである。したがって、このピークは融点のところで残っているS3の溶融に相当し、これは容易にS5へと結晶化する(小さい発熱ピーク)。本質的に純粋な固体S3試料の溶融ピークは、特定の試料に応じて異なる強度を有する。おそらく、S3からS5への固体-固体転移が晶癖および結晶サイズに応じて異なる程度で起こる。したがって、純粋なS3結晶性固体の試料は図6に表される形状のDSCプロファイルを示すことになる。
【0085】
TG分析では、120〜150℃の温度における0.3%のわずかな重量減少、および分解に起因する190℃から始まる劇的な重量減少が見られる。
【0086】
フマル酸塩の特性決定は次の通りである(図5〜8):
1H-NMR (400MHz, d4-メタノール)δ: 2.35 (s, 3H)、2.92〜3.00 (m, 4H)、3.17 (t, J = 5Hz, 2H)、3.80 (t, J = 5Hz, 4H)、4.44 (t, J = 5Hz, 2H)、5.83 (s, 1H)、6.72 (s, 2H)、7.52〜7.62 (m, 3H)、7.89〜7.96 (m, 3H)、8.00 (d, J = 9Hz, 1H)。
【0087】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.2重量%のアセトニトリル。
FTIR (ATR) υ: 3435、3148、3037、2943、2855、1876、1731、1664、1650、1559、1509、1488、1446、1394、1372、1314、1236、1186、1166、1133、1098、1081、1047、1014、981、932、917、859、816、787、769および748cm-1。
【0088】
DSC(10℃/min): 131および142℃で始まる2つの吸熱の溶融ピーク。
【0089】
TGA(10℃/min): 120〜150℃で0.3%の重量減少。分解プロセスは190℃で始まる。
【0090】
(実施例3)
化合物63のマレイン酸塩の調製
最初のスクリーニングの間、フマル酸塩の結晶化を10種の異なる溶媒で試みた。塩は評価したすべての溶媒において非常に溶けやすかった。塩の溶解度が20mg/mLであった酢酸エチルを除いて、50〜200mg/mLの溶解度が認められた。溶液を室温まで冷却した後か、またはクロロホルム、メタノール、およびDMFについては溶媒を完全に蒸発させた後に、結晶性固体がすべての溶媒において得られた。4つの異なる固体を検出した。非溶媒和結晶相が大部分の結晶化物において得られた。さらに、溶媒和物がTHFにおいて生成し、実験のうちの3つにおいて他の2つの完全に特性決定された固体が生成した。
【0091】
沸点および結晶化(66mg/mL)に必要な溶媒の量を考慮して、イソプロパノールを結晶塩の合成のスケールアップのために選択した溶媒とした。最初にマレイン酸および化合物63のイソプロパノール中の混合物を60℃から室温まで冷却する試みによって、油状物としての塩が得られた(Table 7(表7))。この油状物は再び混合物を60℃で数時間撹拌した後に結晶化した。より希釈した条件での同様の手法によって、固体としての塩が直接得られた。最後に、このプロセスを最適化して、酸のイソプロパノール溶液を化合物63のイソプロパノール溶液に室温で加えた後に塩の沈殿が直接得られた。
【0092】
【表7】
【0093】
マレイン酸塩を2.5gスケールで調製するのに用いた実験手順は次の通りであった:
【0094】
マレイン酸(772mg、6.65mmol)の15mLイソプロパノール中溶液を、化合物63(2.26g、6.69mmol)の15mLイソプロパノール中溶液に室温でゆっくりと加える。十分な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を室温で2日間撹拌し、これをろ過する。得られる固体をイソプロパノールで洗浄し、45℃で10時間、55℃で6時間、および70℃で17時間真空乾燥(10mmHg)させて、マレイン酸塩を白色固体として得る(2.82g、96%; 1H-NMRより推測されるイソプロパノールの含有量は1.1%)。
【0095】
マレイン酸塩は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に変化する1H-NMRスペクトル(図9)によって容易に特性決定することができる。さらに、マレイン酸塩由来のシグナルは予想される化学シフトである6.30ppmで現れる。アニオンおよびカチオンに対応するシグナルの積分は、二塩ではなく等分子塩が形成されていることを明らかに裏付ける。
【0096】
DSC分析(図10)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する139℃(101J/g)で始まる強い吸熱ピークを示す。TGAにおいて(図11)融点付近で1%の重量減少が見られ、おそらくこれは残留イソプロパノールが失われることに起因する。塩の明らかな分解が150℃を超える温度で見られる。
【0097】
マレイン酸塩の特性決定は以下の通りである(図9〜12):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 2.35 (s, 3H)、3.02〜3.64 (m, 6H)、3.99 (t, J = 5Hz, 4H)、4.61〜4.66 (m, 2H)、5.70 (s, 1H)、6.30 (s, 2H)、7.50〜7.58 (m, 3H)、7.79〜7.82 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0098】
1H-NMRから得られる溶媒: 1.1重量%のイソプロパノール。
FTIR (ATR) υ: 3043、2853、1707、1619、1599、1557、1487、1445、1374、1357、1340、1302、1237、1163、1135、1096、1041、1022、930、919、861、817、762および750cm-1。
【0099】
DSC(10℃/min): 139℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0100】
TGA(10℃/min): 110〜150℃で1.0%の重量減少。分解プロセスは150℃で始まる。
【0101】
(実施例4)
化合物63のメタンスルホン酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、メタンスルホン酸塩は結晶化させることができなかった。この塩は評価したすべての溶媒に非常に溶けやすく(>200mg/mL)、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物が得られた。2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた場合、溶媒を蒸発させた後、または油状の塩が溶解しなかったために、実験の大部分でやはり油状物が回収された。しかし、油状物としての過剰の塩を分離した後に-18℃に冷却されたトルエン溶液から塩に相当する結晶性固体が得られた。したがって、トルエンを塩の合成の最適化およびスケールアップのために選択した。
【0102】
最初のスケールアップの試みにおいて、メタンスルホン酸を化合物63のトルエン溶液に直接加えたが、塩は急速に油状物として分離した。この油状物は溶媒と共に数時間室温で撹拌された後に結晶化した。固体塩の直接的な結晶化を引き起こすために、塩の種晶の存在下で同じプロセスを繰り返した。さらに、塩の色を改善するために、メタンスルホン酸を使用直前に蒸留した(180℃、1mBar)。
【0103】
メタンスルホン酸塩を2.5gスケールで調製するために用いた実験手順は次の通りであった:
【0104】
メタンスルホン酸(0.45mL、6.94mmol)を、化合物63(2.36g、6.98mmol)の25mLトルエン中溶液へ室温にて種晶の存在下でゆっくりと加える。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を0℃で8時間撹拌し、ろ過する。得られる固体をトルエンで洗浄し、45℃で2日間、および55℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させて白色固体としてメタンスルホン酸塩を得る(2.85g、98%; 1H-NMRより推測されるトルエンの含有量は0.6%)。
【0105】
メタンスルホン酸塩は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に変化する1H-NMRスペクトル(図13)によって容易に特性決定することができる。さらに、メタンスルホン酸塩由来のシグナルは2.84ppmの化学シフトで現れる。
【0106】
DSC分析(図14)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する145℃で始まる強い吸熱ピーク(84J/g)を示す。TGAにおいて(図15)融点付近で0.5%の重量減少が見られ、おそらくこれは残留トルエンが失われることに起因する。塩の明らかな分解が250℃を超える温度で見られる。
【0107】
メタンスルホン酸塩の特性決定は次の通りである(図13〜16):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 2.36 (s, 3H)、2.84 (s, 3H)、3.03〜3.15 (m, 2H)、3.54〜3.61 (m, 2H)、3.63〜3.71 (m, 2H)、3.97〜4.05 (m, 2H)、4.10〜4.20 (m, 2H)、4.71〜4.76 (m, 2H)、5.75 (s, 1H)、7.50〜7.59 (m, 3H)、7.79〜7.82 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0108】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.58重量%のトルエン。
FTIR (ATR) υ: 3018、2957、2920、2865、2693、2627、1634、1602、1562、1509、1485、1435、1392、1376、1265、1221、1164、1131、1098、1049、1033、1007、934、914、862、822、772および759cm-1。
【0109】
DSC(10℃/min): 145℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0110】
TGA(10℃/min): 120〜160℃で0.5%の重量減少。分解プロセスは260℃で始まる。
【0111】
(実施例5)
化合物63のエタンスルホン酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、エタンスルホン酸塩はアセトニトリルにおいてのみ結晶化させることができた。しかし、この塩は評価したすべての溶媒に非常に溶けやすい(>200mg/mL)ため、溶媒を完全に蒸発させた後にのみ固体が得られた。残りの実験では、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物が生成した。2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた場合、3つの固体がメチルtert-ブチルエーテル、酢酸イソブチル、およびトルエンにおいて、油状の塩と混ざって得られた。これらの実験において、油状の塩は完全には溶解しなかった。トルエンを塩の合成の最適化およびスケールアップのために選択した。
【0112】
エタンスルホン酸塩の最初のスケールアップにおいて、油状の塩を高温のトルエンに懸濁させ、冷却させた。塩は結晶化せず、油状物のままであった。エタンスルホン酸を化合物63のトルエン中溶液にゆっくりと加えた2回目の試みでは、冷却すると褐色固体が分離した。この同じ手順を室温で繰り返すと、油状物が容易に現れ、これは溶媒と共に数日間撹拌された後にゆっくりと結晶化した。塩の直接の結晶化を引き起こすために、同じプロセスを室温にて塩の種晶の存在下で繰り返した。さらに、塩の色を改善するために、エタンスルホン酸を使用の直前に蒸留した(200℃、1mBar)。
【0113】
エタンスルホン酸塩を2.5gスケールで調製するのに用いた実験手順は次の通りであった:
【0114】
エタンスルホン酸(0.58mL、6.79mmol)を、化合物63(2.29g、6.79mmol)の40mLトルエン中溶液へ、室温にて種晶の存在下でゆっくりと加えた。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を0℃で12時間撹拌し、ろ過する。得られる固体をトルエンで洗浄し、45℃で8時間、および55℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させて白色固体としてエタンスルホン酸塩を得る(2.90g、99%)。
【0115】
エタンスルホン酸塩の形成は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に出発物質である化合物63と比較して変化する1H-NMRスペクトル(図17)によって、容易に推測することができる。さらに、エタンスルホン酸塩由来のシグナルは1.37および2.84ppmの化学シフトで現れる。
【0116】
DSC分析(図18)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する133℃で始まる強い吸熱ピーク(85J/g)を示す。TGA(図19)において融点付近で0.3%の重量減少が見られ、これはおそらく残留トルエンが失われることに起因する。塩の明らかな分解が280℃を超える温度で見られる。
【0117】
エタンスルホン酸塩の特性決定は次の通りである(図17〜20):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 1 .37 (t, J = 7Hz, 3H)、2.36 (s, 3H)、2.93 (q, J = 7Hz, 2H)、3.03〜3.15 (m, 2H)、3.55〜3.62 (m, 2H)、3.64〜3.72 (m, 2H)、3.96〜4.04 (m, 2H)、4.11〜4.21 (m, 2H)、4.71〜4.77 (m, 2H)、5.75 (s, 1H)、7.50〜7.59 (m, 3H)、7.79〜7.83 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0118】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.35重量%のトルエン。
FTIR (ATR) υ: 3021、2958、2924、2863、2625、2488、1633、1603、1565、1508、1485、1470、1437、1391、1376、1353、1334、1265、1242、1210、1160、1149、1131、1098、1027、1008、978、934、916、856、819、776および739cm-1。
【0119】
DSC(10℃/min): 133℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0120】
TGA(10℃/min): 110〜160℃で0.3%の重量減少。分解プロセスは280℃で始まる。
【0121】
(実施例6)
化合物63のリンゴ酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、リンゴ酸塩はアセトニトリルおよびイソプロパノールにおいて結晶化させることができた。しかし、この塩は両方の溶媒に非常に溶けやすく(>200mg/mL)、完全に蒸発させた後にのみ2つの固体が得られた。残りの実験では、溶媒を完全に蒸発させた後に油状物が生成した。2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた場合、塩はより溶けにくいが、3-ペンタノンにおいてのみ結晶性固体が得られた。他の実験では油状物が得られた。これらの結果を考慮して、3-ペンタノンを塩の合成の最適化およびスケールアップのために選択した。
【0122】
塩を調製するための最初のスケールアップの試みは、L-リンゴ酸の3-ペンタノン中溶液を、化合物63のやはり3-ペンタノン中の溶液へ50〜70℃の温度で加えて行った。この手順を用いた場合、塩は冷却させると場合によって油状物として分離した。この油状物は溶媒と共に50℃で数時間撹拌された後に容易に結晶化した。結晶塩の直接的な生成は、リンゴ酸塩を2.5gスケールで調製するのに用いた以下の手順において記載されるように、種晶を加えることによって引き起こすことができた:
【0123】
L-リンゴ酸(933mg、6.95mmol)の10mLの3-ペンタノン中溶液を、化合物63(2.35g、6.95mmol)の10mLの3-ペンタノン中溶液(50℃、種晶を含む)へゆっくりと加える。豊富な白色固体が容易に析出し、得られる懸濁液をさらに10mLの3-ペンタノンで希釈し、室温までゆっくりと冷却し、12時間撹拌し、ろ過する。得られる固体を3-ペンタノンで洗浄し、45℃で15時間、および55℃で6時間真空乾燥(10mmHg)させて白色固体としてリンゴ酸塩を得る(3.03g、95%)。
【0124】
リンゴ酸塩の形成は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に出発化合物である化合物63と比較して有意に変化する1H-NMRスペクトル(図21)によって、容易に推測することができる。さらに、リンゴ酸塩由来のシグナルは化学シフト2.59、2.79、および4.31ppmの化学シフトで現れる。
【0125】
DSC分析(図22)において、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する125℃で始まる強い吸熱ピーク(119J/g)が見られた。さらに、TGA分析(図23)は融点を下回る温度で全く重量減少を示さず、このことは揮発性物質が存在しないことを示す。残留溶媒が存在しないことは1H-NMRスペクトルからも裏付けることができる。
【0126】
リンゴ酸塩の特性決定は次の通りである(図21〜24):
1H-NMR (400MHz, d4-メタノール)δ: 2.35 (s, 3H)、2.59 (dd, J1 = 16Hz, J2 = 7Hz, 1H)、2.79 (dd, J1 = 16Hz, J3 = 5Hz, 1H)、2.89〜2.97 (m, 4H)、3.13 (t, J = 5Hz, 2H)、3.80 (t, J = 5Hz, 4H)、4.39 (dd, J2 = 7Hz, J3 = 5Hz, 1H)、4.43 (t, J = 5Hz, 2H)、5.83 (s, 1H)、7.52〜7.61 (m, 3H)、7.89〜7.96 (m, 3H)、8.00 (d, J = 9Hz, 1H)。
【0127】
FTIR (ATR) υ: 3171、3003、2874、1718、1597、1556、1487、1468、1440、1360、1268、1142、1126、1097、1050、1022、1010、986、950、920、902、863、822、797、770、746および742cm-1。
【0128】
DSC(10℃/min): 125℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0129】
TGA(10℃/min): 分解に起因して150℃で始まる重量減少。
【0130】
(実施例7)
化合物63のマロン酸塩の調製
1回目の組の10種の溶媒を用いた最初のスクリーニングの間、マロン酸塩はイソプロパノールにおいて結晶化させることができた。しかし、この塩はこの溶媒に非常に溶けやすく(>200mg/mL)、これはスケールアップにおける問題を予期させた。このため、2回目の組のより非極性の9種の溶媒において結晶化を試みた。この2回目の組の実験において、高温で大部分の塩を油状物として分離した後に、飽和溶液を-18℃まで冷却させた場合に、メチルtert-ブチルエーテルからのみ結晶性固体が得られた。
【0131】
これらの結果を考慮して、マロン酸塩のスケールアップを最初にイソプロパノールにおいて試みた。非常に残念なことに、酸および化合物63を混合した直後に油状物が分離した。油状物は溶媒と共に数時間撹拌された後に低収率で結晶化した。油状物が分離した後にメチルtert-ブチルエーテルを結晶化プロセスの間に加えた場合、収率を改善することができた。最初に油状物として塩が生成するのを避け、収率を改善するために、結晶化プロセスを修正した。マロン酸のイソプロパノール中溶液を、化合物63のメチルtert-ブチルエーテル中溶液へ加えた。この手順を用いて、塩は固体として直接生成したが、やはりいくらかの油状物の分離を見ることができた。最後に、次の手順に記載されるように、種晶によって塩の直接的かつ完全な結晶化物を得ることができた:
【0132】
マロン酸(736mg、7.07mmol)の10mLイソプロパノール中溶液を、種晶を入れた化合物63(2.38g、7.06mmol)の15mLメチルtert-ブチルエーテル中溶液(0℃)へゆっくりと加える。豊富な白色固体が容易に析出する。得られる懸濁液を最初に室温で12時間、次いで0℃で2時間撹拌し、これをろ過する。得られる固体をメチルtert-ブチルエーテルで洗浄し、45℃で7時間、および55℃で6時間真空乾燥させて(10mmHg)白色固体としてマロン酸塩を得る(2.42g,80%)。
【0133】
マロン酸塩の形成は、フマル酸塩について詳細に記載したのと同様に出発物質である化合物63と比較して変化する1H-NMRスペクトル(図25)によって、容易に推測することができる。さらに、マロン酸塩由来のシグナルは3.23ppmの化学シフトで現れる。
【0134】
DSC分析(図26)は、10℃/minの加熱速度で、融点に相当する90℃で始まる強い吸熱ピーク(85J/g)を示す。TGA(図27)において融点を下回る温度で重量減少は見られない。しかし、残留溶媒(0.2重量%のイソプロパノールおよび0.2%のメチルtert-ブチルエーテル)を1H-NMRスペクトルから検出することができた。
【0135】
マロン酸塩の特性決定は次の通りである(図25〜28):
1H-NMR (400MHz, d-クロロホルム)δ: 2.35 (s, 3H)、3.10〜3.40 (m, 4H)、3.23 (s, 2H)、3.40〜3.46 (m, 2H)、3.97 (t, J = 5Hz, 4H)、4.59〜4.64 (m, 2H)、5.70 (s, 1H)、7.49〜7.58 (m, 3H)、7.79〜7.82 (m, 1H)、7.84〜7.95 (m, 3H)。
【0136】
1H-NMRから得られる残留溶媒: 0.2重量%のイソプロパノールおよび0.2%のメチルtert-ブチルエーテル。
FTIR (ATR) υ: 3148、3027、2942、2857、1718、1621、1599、1561、1488、1443、1374、1343、1308、1260、1165、1135、1097、1080、1046、1022、1011、932、918、863、819および752cm-1。
【0137】
DSC(10℃/min): 90℃で始まる吸熱の溶融ピーク。
【0138】
TGA(10℃/min): 分解に起因して100℃で始まる重量減少。
【0139】
塩の結晶化スクリーニングの概要
化合物63と硫酸およびL-酒石酸との塩を形成する試みは不成功に終わり、油状物のみが得られた。
【0140】
他の塩は、固体状ではあるが、塩酸塩合成の実験部分と比較して複雑な合成プロセスによって、または独特の実験条件下においてのみ得られた。さらに、塩酸塩において得られた結晶形の代わりに多くの場合は非結晶性固体が得られた。これらの欠点はすべて、関連する合成プロセスのためのスケールアップが非常に複雑となることを暗示する。
【0141】
下記のTable 8(表8)に、大スケールで本発明において調製した各固体塩に関する重要なデータの概要: 結晶化度のグレード、結晶化溶媒、収率、および融点を示す。
【0142】
【表8】
【0143】
上記で見ることができるように、塩酸塩は常に結晶性固体として非常に高収率で(結晶化を含める)得られ、他の塩の中でも特に50℃を超える融点を有し、このことは明らかに物理的安定性に関する利点を暗示する。さらに、TGA分析を比較すると、塩酸塩はきれいなプロファイルを有し、溶媒の減少は検出されていない。
【0144】
さらに、医薬目的におけるこの化合物の適合性を確認するために、いくつかの追加的実験(熱力学的溶解度、薬物動態学的)を実施例1(P027)について行った。
【0145】
(実施例8)
熱力学的溶解度
pH7.4およびpH2での熱力学的溶解度の一般的プロトコルを以下に記載する。
【0146】
○ A) pH7.4での熱力学的溶解度
緩衝液 pH7.4(50mM)
リン酸塩緩衝液pH7.4を次の通りに調製した:
- 25mMのNa2HPO4.12H2O溶液(1lの水に対して8.96gの重量)を調製した
- 25mMのKH2PO4溶液(1lの水に対して3.4gの重量)を調製した。
- 812mlの第2リン酸ナトリウム溶液および182mlのリン酸カリウム溶液を混合し、チェックしたpHは7.4であった。
【0147】
試料の平衡
- Eppendorf社のStirrer Thermomixer Control(25℃、1250rpm)
- セミマイクロpH複合電極を有するpHメーター
を用いて試料を平衡化した。
【0148】
手順
対象の化合物
2mgをHPLCバイアルに秤量し(繰り返しにより)、1mlの緩衝液を加えた。バイアルをThermomixer Comfort撹拌機中で24時間25℃に維持した。続いて4000rpmで15分間遠心分離した。
【0149】
得られる上層をガラスピペットで収集し、HPLCバイアルへ移した。再び遠心分離し、インジェクターを2.7mmの高さでプログラムした。
【0150】
標準液(繰り返しによる)
溶液A: 5mlメタノール中2mg(400μg/ml)
溶液B: 1mlの溶液Aをメタノールで10mlにする(40μg/ml)
溶液C: 5mlの溶液Bをメタノールで50mlにする(4μg/ml)
溶液D: 4mlの溶液Cをメタノールで10mlにする(1.6μg/ml)
溶液E: 5mlの溶液Dをメタノールで25mlにする(0.32μg/ml)
【0151】
より希釈度の高い標準液から始めて、すべての調製済み溶液を10μl注入した。汚染物質がないことをチェックするために、ブランクも注入した。
【0152】
標準液の検量線を作成した(図29を参照のこと)。Yは面積、Xは注入した標準液のμgと考える。
【0153】
10μlの対象化合物の溶液を繰り返し注入し、平均のピーク面積(定量可能な場合)を検量線に内挿した(Table 9(表9)、Table 10(表10)、およびTable 11(表11)、並びに以下の例を参照のこと)。
【0154】
クロマトグラフ条件
- カラム: XBridge C18(または同様のもの)2.5μm 4.6x50mm
- 温度: 35℃
- 移動相: ACN/重炭酸アンモニウム10mM。
- グラジエント: 0〜3.5分: 15% ACNから95% ACNまで
3.5〜5分: 95% ACN
5〜6分: 95から15% ACN
6〜8分: 15% ACN
- 流量: 1.5ml/min
- 検出:紫外線吸収極大付近。
【0155】
○ B) pH2での熱力学的溶解度
先の手順を、HCl 0.01Nを用いて行った。
【0156】
実施例1の熱力学的溶解度
記載したプロトコルに従い、227μg/ml(pH=7.4)と得られた。図29の関連のグラフを参照のこと。
【0157】
【表9】
【0158】
【表10】
【0159】
【表11】
【0160】
(実施例9)
薬物動態パラメーターCmaxおよびAUC
1回の25mg/kg(化合物63として表す)の経口投与に続いてWistar Hannoverラットにおける実施例1の薬物動態学を試験した。この目的のために、血漿試料を異なる時点で採取し、蛍光検出によるHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法を用いて分析した。
【0161】
試料摂取
2つのグループをこの試験で用いた。グループ1はビヒクルを摂取し、グループ2は実施例1を25mg/kgにて10mL/kgの投与体積で摂取した。
【0162】
血液試料を後眼窩領域から以下の時点: 投与前、15分、30分、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、および24時間で抽出した。次いで血液を、ヘパリンを入れたプラスチック試験管へ移した。4℃にておよそ3000rpmで10分遠心分離することによって血漿を得た。これらの血漿試料にラベルを付け、およそ-65℃の温度で分析まで冷凍した。
【0163】
試料の分析
先に検証した分析法によって試料を分析した。つまり、ラット血漿試料を室温で解凍し、およそ4℃にて3000rpmで10分遠心分離した。300μlの血漿試料をバイアルに入れ、30μlの内部標準の希釈標準溶液を加えた。バイアルにキャップをして完全に混合した。
【0164】
以下の固相抽出法を実施例1の抽出に使用した。
1.カートリッジをメタノールで1分間、1.5ml/minにて活性化させる。
2.カートリッジを水で2分間、1.5ml/minにて活性化させる。
3.水で1.5分、1.0ml/minにて、試料をカートリッジに装入(80μl)する。
4.水/ACN(90/10、v/v)で30秒間、1.5ml/minにてすすぐ。
5.移動相を用いて1分間、0.5ml/minにて試料を溶出させる。
6.水およびメタノールでカートリッジおよびキャピラリーを洗浄する。
【0165】
次いで、pH3に調整した20mMのリン酸二水素カリウム、およびアセトニトリル(70〜73%)Aおよび(30〜27%)B(v/v)の混合物を移動相として使用して、室温で試料のクロマトグラフィー分析を行った。使用した流量は0.5ml/min、分析時間はおよそ17分であった。
【0166】
実施例1およびその内部標準に相当するピークを蛍光検出により260nmの励起波長および360nmの発光波長で定量した。残りのパラメーターは、応答時間: >0.2分(4秒標準)、PMTゲインが8であった。
【0167】
薬物動態パラメーター
非コンパートメント動態(non-compartmental kinetics)によってソフトウェアプログラムWinNonlin Professionalバージョン5.0.1.を用いて、平均血漿中濃度曲線から薬物動態パラメーターを得た。
【0168】
ピーク血漿中濃度値(Cmax)およびそのような濃度に達する時間(tmax)を、実験データから直接得た。消失速度定数(kel)を、曲線(log濃度対時間)の終末相の直線回帰によって計算した。消失半減期(t1/2)を、式t1/2=0.693/kelを用いて決定した。ゼロから所定の時間までの、血漿濃度対時間曲線の下の面積(AUC0-t)を、台形法によって計算した。ゼロから無限までの、血漿濃度対時間曲線の下の面積(AUC0-∞)を、式: AUC0-∞= AUC0-t +Clast/kel(式中、Clastは測定した最終時間における血漿中濃度)を用いて計算した。
【0169】
実施例1の薬物動態パラメーターCmaxおよびAUC
記載のプロトコルに従って、Cmax: 1152.8ng/ml、AUC0-t: 1218.4ng.h/ml、およびAUC0-∞: 1249.6ng.h/mlが得られた。図30の関連のグラフを参照のこと。
【0170】
最後の2つの試験(溶解度および薬物動態)で得られた結果は、塩酸塩が関連する処方物および臨床研究のための化合物63のより優れた塩であることを強く主張する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、およびメタンスルホン酸塩から選択される、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩。
【請求項2】
塩が4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩である、請求項1に記載の4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩。
【請求項3】
a) 4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンと塩酸を含有する溶液とを混合する工程と、
b)得られる塩酸塩を単離する工程と
を含む、請求項2に記載の塩酸塩の調製方法。
【請求項4】
請求項2に記載の塩酸塩を含む医薬組成物。
【請求項5】
薬剤として使用するための、請求項2に記載の塩酸塩。
【請求項6】
シグマ受容体媒介性疾患または状態の治療および/または予防において使用するための、請求項2に記載の塩酸塩。
【請求項7】
下痢;リポタンパク障害;偏頭痛;肥満;関節炎;高血圧;不整脈;潰瘍;学習欠損、記憶欠損、および注意欠陥;認知障害;神経変性疾患;脱髄疾患;コカイン、アンフェタミン、エタノール、およびニコチンを含めた薬物および化学物質への依存症;遅発性ジスキネジア;虚血性脳卒中;てんかん;脳卒中;ストレス;癌; 精神病性状態、特に鬱病、不安症、若しくは統合失調症;炎症;または自己免疫疾患から成る群から選択される疾患の治療および/または予防において使用するための、請求項2に記載の塩酸塩。
【請求項1】
エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、およびメタンスルホン酸塩から選択される、4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩。
【請求項2】
塩が4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンの塩酸塩である、請求項1に記載の4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリン塩。
【請求項3】
a) 4-[2-[[5-メチル-1-(2-ナフタレニル)-1H-ピラゾール-3-イル]オキシ]エチル]モルホリンと塩酸を含有する溶液とを混合する工程と、
b)得られる塩酸塩を単離する工程と
を含む、請求項2に記載の塩酸塩の調製方法。
【請求項4】
請求項2に記載の塩酸塩を含む医薬組成物。
【請求項5】
薬剤として使用するための、請求項2に記載の塩酸塩。
【請求項6】
シグマ受容体媒介性疾患または状態の治療および/または予防において使用するための、請求項2に記載の塩酸塩。
【請求項7】
下痢;リポタンパク障害;偏頭痛;肥満;関節炎;高血圧;不整脈;潰瘍;学習欠損、記憶欠損、および注意欠陥;認知障害;神経変性疾患;脱髄疾患;コカイン、アンフェタミン、エタノール、およびニコチンを含めた薬物および化学物質への依存症;遅発性ジスキネジア;虚血性脳卒中;てんかん;脳卒中;ストレス;癌; 精神病性状態、特に鬱病、不安症、若しくは統合失調症;炎症;または自己免疫疾患から成る群から選択される疾患の治療および/または予防において使用するための、請求項2に記載の塩酸塩。
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図13】
【図17】
【図21】
【図25】
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図4】
【図5】
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【図13】
【図17】
【図21】
【図25】
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【図8】
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【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
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【図23】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公表番号】特表2013−512225(P2013−512225A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540438(P2012−540438)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068256
【国際公開番号】WO2011/064315
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512036166)ラボラトリオス・デル・ドクター・エステベ・ソシエテ・アノニム (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068256
【国際公開番号】WO2011/064315
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512036166)ラボラトリオス・デル・ドクター・エステベ・ソシエテ・アノニム (6)
【Fターム(参考)】
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