説明

4ストロークエンジンの潤滑装置

【課題】潤滑オイルの温度上昇を防止するとともに、潤滑通路の位置自由度を高め、生産性の良好な4ストロークエンジンの潤滑装置を提供することである。
【解決手段】少なくとも、ピストン6と、シリンダ3bと、クランク室5aと動弁室4を有し、ピストン6の往復運動によって生じるクランク室5aの圧力変動を利用してオイルミストをオイル循環経路で循環させて、駆動部品を潤滑する携帯型エンジンの循環装置であって、クランク室5a内の負圧時に動弁室4とクランク室5aとを連通する直通通路46が設けられ、直通通路46は可撓性のチューブ146部分を有し、チューブ146部分がシリンダ3bの外部に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈払機やヘッジトリマー等の携帯型作業機に搭載する4ストロークエンジンの潤滑装置に関する。広義では、背負式作業機用の携帯型のエンジンも4ストロークエンジンに含まれる。
【背景技術】
【0002】
4ストロークエンジンの潤滑装置に関して、例えば特許文献1が知られている。
従来の4ストロークエンジンの潤滑装置は、小型・軽量化を図る目的で主としてシリンダブロックの内部に潤滑通路が形成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−224824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃焼室近傍のシリンダに潤滑通路を形成した場合、この通路を通過することでオイルは必要以上に加熱されることがある。必要以上に加熱されたオイルをクランク室に供給すると、潤滑不良を起こすことに繋がる。
また、潤滑通路をシリンダブロックに形成することで、シリンダブロックの肉厚がかえって厚くなり、軽量化が損なわれていた。そして、シリンダブロックの肉厚部分を、ドリル等を用いて精度良く穴を長く加工することは困難なことであり、製造歩留りを悪化させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、潤滑オイルの温度上昇を防止するとともに、潤滑通路の位置自由度を高め、生産性の良好な4ストロークエンジンの潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するため、本発明の4ストロークエンジンの潤滑装置は、少なくとも、ピストンと、シリンダと、クランク室と動弁室を有し、前記ピストンの往復運動によって生じる前記クランク室の圧力変動を利用してオイルミストをオイル循環経路で循環させて、駆動部品を潤滑する携帯型エンジンの循環装置であって、前記クランク室内の負圧時に前記動弁室と前記クランク室とを連通する直通通路が設けられ、前記直通通路は可撓性のチューブ部分を有し、前記チューブ部分が前記シリンダの外部に形成されている。
【0007】
好適には、前記チューブ部分の両端部には、L字型管路が配置されている。
【0008】
好適には、前記直通通路の前記クランク室側の開口部は、前記ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かう移動時に開口し、前記ピストンが前記上死点近傍位置から下死点に向かって移動する間は閉じるように、設けられている。
【0009】
好適には、前記直通通路の前記チューブ部分は、前記シリンダを冷却する冷却風を誘導する導風カバーと前記シリンダとの間に形成される。
【0010】
好適には、オイルミストとブローバイガスとを分離する気液分離装置と、前記気液分離装置において分離されたオイルを前記クランク室に還流する還流通路と、をさらに備え、前記還流通路の前記クランク室側の開口部は、前記ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かう移動時に開口し、前記ピストンが前記上死点近傍位置から下死点に向かって移動する間は閉じるように、設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、潤滑オイルの温度上昇を防止するとともに、潤滑通路の位置自由度を高め、生産性の良好な4ストロークエンジンの潤滑装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の潤滑装置を備えた4ストロークエンジンの概略説明図である。
【図2】(a)は、本発明の潤滑装置を備えた4ストロークエンジンを後方向の位置から観察した説明図であり、(b)は、本発明の潤滑装置を備えた4ストロークエンジンを左方向の位置から観察した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の4ストロークエンジンの潤滑装置の好ましい実施の形態を図1、図2(a)及び図2(b)に基づいて説明する。潤滑装置は4ストロークエンジンに搭載されるものであるので、この潤滑装置を搭載した4ストロークエンジンについて図1(概略説明図)を用いて説明する。
【0014】
なお、図1は、ピストンが上死点に位置した状態にあるときの4ストロークエンジンを示している。
【0015】
4ストロークエンジン1は、図1に示すように、シリンダヘッド3aが一体化されているシリンダブロック3と、シリンダブロック3の下部に取り付けられてクランク室5aを形成するクランクケース5と、クランクケース5の下側方向位置に配設された油溜室7とを備える。
【0016】
油溜室7は、クランクケース5と別個に設けられ、オイルA(以下、単に「オイルA」と記す。)を貯留する。
【0017】
シリンダブロック3とクランクケース5との接続部分には、クランク軸(図示せず)が回転自在に支持され、このクランク軸にはカウンタウェイトやこれに連結されたコンロッド等を介してピストン6が連接されている。ピストン6はシリンダブロック3内に設けられたシリンダ3b内に摺動自在に挿入されている。
【0018】
シリンダブロック3内に設けられたシリンダ3bの上壁には、気化器(図示せず)及び排気マフラ(図示せず)にそれぞれ連通する吸気ポート及び排気ポートが設けられ、これらの各ポートには、ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブが配設されている。
【0019】
ここで、本実施形態の4ストロークエンジン1は、携帯して用いられる場合もあり、その際には4ストロークエンジン1は一時的に回転して天地が逆転した状態等で使用されうる。
【0020】
これらのバルブを駆動する動弁機構10は、クランク軸に固着されたバルブ駆動ギヤ10a、バルブ駆動ギヤ10aによって駆動されカムが連接されたカムギヤ10b、ロッカーアーム(図示せず)等の部品により構成される。
【0021】
この動弁機構10のうちバルブ駆動ギヤ10a及びカムギヤ10bは、シリンダブロック3の頭部に形成された動弁室4と油溜室7とを連通する供給通路30の途中に設けられたバルブ駆動室32内に収容され、ロッカーアーム等の部品は、動弁室4内に設けられている。
ここで、供給通路30は、動弁機構供給通路31とプッシュロッド通路33によって構成されている
【0022】
油溜室7とシリンダブロック3との間には、送油通路34が設けられている。送油通路34の油溜室7側の端部には、吸入部35が取り付けられている。
吸入部35は、ゴム等の弾性材料により形成されて容易に撓むことができる管体35aと、管体35aの先端部に取り付けられた吸入口付きの錘35bとを有してなる。
吸入部35の錘35bは、重力により鉛直下側方向位置に移動可能に取り付けられており、これにより油溜室7が傾いても、規定量の範囲で貯留されるオイルAの油面下に吸入部35の吸入口を没入させることができる。
【0023】
送油通路34は、ピストン6の上昇によりクランク室5a内が負圧化傾向となったときに、クランク室5a内と油溜室7とを連通させて油溜室7からオイルAを吸い上げてクランク室5a内に供給する部分である。
【0024】
送油通路34のクランク室5a側に開口する開口部34aの位置は、ピストン6が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン6の移動に伴って開口する位置に設けられ、上死点近傍位置に移動したピストン下部のスカート部6aの下死点方向側に位置している。
従って、送油通路34の開口部34aは、ピストン6が上死点に達した時点では既に全開している。
なお、送油通路34は、開口部34aにリード弁を設け、又は、クランク軸に通路を設けてロータリバルブとして機能させる等、クランク室5a内の負圧時に送油通路34とクランク室5aを連通させるようにしてもよい。
【0025】
送油通路34の途中には、逆止弁37が設けられている。この逆止弁37は、クランク室5aの圧力変化に応じて開閉し、油溜室7内に対しクランク室5a内の圧力が低い状態で開いて送油通路34を連通状態にし、クランク室5a内の圧力の方が高い状態で閉じるように構成されている。
【0026】
供給通路30の動弁機構供給通路31と送油通路34は、連通路56によって連通しており、クランク室5aの負圧時に供給通路30の動弁機構供給通路31を通過するオイルの一部を送油通路34に送ることにより、供給通路30に送られるオイルの量が過多にならないように構成されている。
【0027】
クランク室5aの底部と油溜室7との間には、クランク室5aと油溜室7を連通する連通路39が設けられている。この連通路39は、クランク室5a内で生成されたオイルミスト及び、このオイルミストが液化したオイルを油溜室7に送るためのものである。
【0028】
連通路39のクランク室側に開口する開口部39aにはリード弁40が設けられている。このリード弁40は、クランク室5aの圧力変化に応じて開閉可能に構成され、ピストン6が下死点側に移動するときのクランク室内の正圧によって開いて連通路39を連通状態にするように構成されている。
【0029】
このためリード弁40が開いて連通路39が連通状態になると、クランク室5a内のオイルミスト及びオイルが連通路39を通って油溜室7内に送られる。
【0030】
油溜室7の空間部7bは、ガスケットとしての機能をも有するバッフルプレート7cによって区分けされている。
バッフルプレート7cの上側方向位置に、供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31aが形成されている。なお、バッフルプレート7cは必須ではない。
【0031】
連通路39の油溜室側の開口部39bは、油溜室7内の略中央で開口し、油溜室7の傾斜状態に拘わらず、規定量以下で貯留されたオイルAの油面上となる位置に配置されている。
【0032】
このため、連通路39の開口部39bから吐出するオイルミストは、オイルの油面下に吹きつけられることでオイル内部を泡立てることはなく、穏やかに油溜室7に戻され、オイルミストの多くが液化される。
但し、開口部39bから吐出するオイルミストの一部は油面上や壁面上で跳ね返って、油溜室7内の油面上側方向位置の空間部7a内に滞留する。このようにオイルAの油面上の位置に配置された連通路39の開口部39bは、オイルミストを液化させる液化手段の一部として機能する。
従って、連通路39から吐出するオイルミストはその大部分が液化され、油溜室7内に貯留するオイルミストの濃度を低くすることができる。
【0033】
供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31aは、油溜室7内の内部空間の略中央部で開口し、油溜室7の傾斜状態に拘わらず、規定量以下で貯留されたオイルAの油面の位置が変化しても油面下に没することがないように配置されている。さらに、図1に示すように、供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31aに対して連通路39の開口部39bが突出するように配置している。
【0034】
このように、供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31aに対し連通路39の開口部39bが油溜室7内に突出するように配置されているので、連通路39の開口部39bから吐出するオイルミストが供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31aに直接に入ることはない。さらに好ましくは連通路39と供給通路30の動弁機構供給通路31は、各開口部側に進むに従って隣接する開口部と離れる方向に配置されてもよい。
【0035】
即ち、開口部39bにおける連通路39の延伸方向(一点鎖線で示した方向)に直交する平面に対し、供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31a及びその近傍が連通路39の基部側に配置されていれば、連通路39から吐出するオイルミストが直接に供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31aに入ることはない。
【0036】
つまり油溜室7における供給通路30の動弁機構供給通路31と連通路39の配置は、連通路39から吐出するオイルミストが直接に供給通路30の動弁機構供給通路31の開口部31aに流入するのを阻止する流入阻止部として機能している。
【0037】
このため、供給通路30の動弁機構供給通路31を流れるオイルミストの濃度は、送油通路34からクランク室5a内に供給されるオイルの濃度と比較して低くなる。
【0038】
供給通路30の動弁機構供給通路31の動弁室4側の開口部31aは、動弁室4のシリンダブロック3側に開口している。このため、供給通路30の動弁機構供給通路31を流れるオイルミストはバルブ駆動室32内の動弁機構10を潤滑し、開口部31bから吐出して動弁室4内に供給されて動弁室4内のロッカーアーム等を潤滑する。
【0039】
動弁室4とバルブ駆動室32とがプッシュロッド通路33によって連通されている。
このプッシュロッド通路33は動弁室4に開口部33aによって連通している。
このプッシュロッド通路33をプッシュロッドが貫通して、プッシュロッドが動弁室4内のロッカーアームを駆動している。
【0040】
また、動弁室4内には、プッシュロッド通路33から動弁室4内に流入した流体(オイルミスト、液化しているオイル、ブローバイガス)からオイルミスト及び液化したオイル等を分離するための突起状の壁部材45が形成されている。
【0041】
動弁室4内には、動弁室4内に溜まったオイルを吸引するために吸引管43が複数設けられている。
【0042】
吸引管43の開口先端部43aは、動弁室4内のクランク室側底面からオイルを吸い上げるために、動弁室4のクランク室側底面の近傍位置に配置されている。
そして、吸引管43は動弁室4の隅部に配置されて、動弁室4が上側方向位置に位置する状態で4ストロークエンジン1が傾いても、いずれかの吸引管43を介して動弁室4内に溜まるオイルが吸引されるようになっている。
【0043】
吸引管43の開口部43aは、動弁室4のシリンダブロック3側に開口している。
そして、吸引管43と吸引通路42が接続されている。吸引通路42は動弁室4のクランク室5aとは反対側に設けられ、吸引管43はこれに連通して動弁室4内のクランク室側へ延びるように設けられ、吸引管43の両端は開口している。
【0044】
また吸引通路42には小穴44が複数設けられている。動弁室4が下側方向位置に位置する反転状態で4ストロークエンジン1が傾いても、いずれかの小穴44を介して動弁室4内に溜まるオイルを吸引できる。
【0045】
吸引通路42には直通通路46が設けられ、クランク室5a内の負圧時に、動弁室4とクランク室5aとが直通通路46を介して連通する。
【0046】
直通通路46のクランク室側の開口部46aの位置は、送油通路34の開口部34aと同様に、ピストン6が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン6の移動に伴って開口する位置に設けられ、上死点近傍位置に移動したピストン下部のスカート部6aの下死点方向側に位置している。
【0047】
従って、直通通路46の開口部46aは、ピストン6が上死点に達した時点では既に全開している。
【0048】
また直通通路46に、動弁室4からクランク室5a側への流れを許容し、クランク室5aから動弁室4側への流れを規制する逆止弁を設けてもよい。
【0049】
このようにすることで、クランク室5aから動弁室4へオイルやオイルミストが逆流することを確実に防止することができる。
【0050】
動弁室4の略中央部にはブリーザ通路48の一端部48aが開口し、ブリーザ通路48の他端部がエアクリーナ50に接続されている。
【0051】
ブリーザ通路48は、ブローバイガスを燃焼室へ排出することを目的として設けられている。動弁室4内のオイルミストやブローバイガスは、ブリーザ通路48を介してエアクリーナ50に送られ、エアクリーナ50に設けられた気液分離装置51に設けられたメッシュ機構51aにより液化されたオイルとブローバイガスに気液分離される。
【0052】
ブリーザ通路48の一端部48aは、動弁室4の略中央部に開口するので、動弁室4にオイルが多く滞留しても、容易にそのオイルを吸い込むことはない。このブリーザ通路48には逆止弁41が設けられ、この逆止弁41によりエアクリーナ50から動弁室4側へのブローバイガスやオイルミストの逆流を防止している。
【0053】
気液分離されたオイルは、エアクリーナ50とクランク室5aを連通する還流通路52を通ってクランク室5aに送られる。還流通路52にはクランク室側への流れのみを許容する逆止弁51bが設けられている。一方、気液分離されたブローバイガスは燃焼室に送られる。
【0054】
つまり、潤滑装置のオイル循環経路は、連通路39、供給通路30(動弁機構供給通路31、プッシュロッド通路33)、吸引管43、小穴44、吸引通路42、直通通路46、ブリーザ通路48、還流通路52を有して構成されている。
【0055】
4ストロークエンジン1が始動されると、ピストン6の昇降運動によりクランク室5aに圧力変化が生じ、ピストン6の上昇時にはクランク室5aが減圧されて負圧化傾向となり、ピストン6の下降時にはクランク室5aが昇圧されて正圧化傾向となる。
【0056】
クランク室5aが負圧化傾向となり、ピストン6の上死点近傍への移動に伴い送油通路34の開口部34aが開き始め、クランク室5aと油溜室7が連通すると、送油通路34にクランク室5a内の負圧が作用する。
【0057】
4ストロークエンジン1が傾いても送油通路34の吸入部35は、油溜室7のオイルAの油面下に没した状態にあり、油溜室7からオイルAが吸い込まれてクランク室5a内に送られる。開口部34aは、ピストン6が上死点位置に達した時点では既に全開となっているので、クランク室5a内の負圧を充分に送油通路34に作用させることができる。
【0058】
そのため、油面下より汲み上げられるオイルAをクランク室5a内に充分に供給することができる。
【0059】
クランク室5a内に送られたオイルは、ピストン6,クランクシャフトなどの駆動部品を潤滑し、同時にそれらの駆動部品により飛散されてオイルミストになる。オイルミストの一部はクランク室5aの壁面に付着して再度液化される。
【0060】
ピストン6が上死点から下降するときには、クランク室5aが正圧に変わり、リード弁40は開放されて、クランク室5aと油溜室7は連通する。そして、クランク室5a内で昇圧されたオイルミスト及びオイルが連通路39を通って油溜室7に送られ、油溜室7内の圧力が高まる。連通路39から吐出するオイルミストは油溜室7内に溜まるオイルAの油面や油溜室7の壁面に衝突することで液化し、油溜室7に貯留される。
【0061】
油溜室7内で衝突して跳ね返ることで残ったオイルミストの濃度は、クランク室5a内での濃度よりも低くなる。
【0062】
なお、クランク室5aが正圧になると、逆止弁37の作用によりクランク室5aから油溜室7へのオイルが逆流しないよう送油通路34が遮断され、次いで開口部34aがピストン6により閉じられる。
【0063】
油溜室7内の圧力が高まることで、油溜室7内と動弁室4の間に圧力勾配ができ、油溜室7内に溜まるオイルミストは、供給通路30の動弁機構供給通路31を介して動弁室4に送られる。
【0064】
油溜室7から動弁室4にオイルミストを送る過程で、供給通路30に設けられたバルブ駆動室32内の動弁機構10の各部品は潤滑される。この際オイルミストの一部は液化する。
【0065】
動弁室4に供給されたオイルミストは、動弁室4内に設けられた動弁機構を潤滑し、直通通路46を介してクランク室5aに送られる。
【0066】
また動弁室4内に供給されたオイルミストが液化して滞留してもクランク室5a内の強い負圧が作用して、クランク室5a内にオイルを送ることができ、動弁室4でオイルが滞留することを抑止できる。
【0067】
従って、動弁室4からブリーザ通路48を介してブローバイガスを排出する際のオイルの放出を抑えることができる。
【0068】
図2は、第1の実施形態の直通通路46の配置状況の説明図である。図2(a)は4ストロークエンジン1を後方向の位置から観察した説明図であり、図2(b)は4ストロークエンジンを左方向の位置から観察した説明図である。
【0069】
図2(b)のように、動弁室4には、開口部246aが形成されている。この開口部246aは、動弁室4のオイルを排出するためのものである。
【0070】
また、クランク室5aの内部にオイルを回収するために、開口部246bが形成されている。
【0071】
チューブ146は、ホース形状を有している。このチューブ146は可撓性(柔軟性)を有しており、折り曲げ可能である。また、このチューブ146は、耐熱性を有しており、4ストロークエンジン1が発生する熱によって劣化等が生じない材料によって形成されている。
【0072】
チューブ146の流入側端部にはL字型の管路を有するL字管路146aが連接されている。
【0073】
チューブ146の流出側端部にはL字型の管路を有するL字管路146bが連接されている。
【0074】
L字管路146aは、開口部246aに螺着等されている。
【0075】
L字管路146bは、開口部246bに螺着等されている。
【0076】
直通通路46は、(動弁室4を吸引通路42に連通する通路部分(図1参照のこと))、L字管路146a、チューブ146、L字管路146b(シリンダブロック3のシリンダ3bに対応する位置を貫通してクランク室5aに連通する通路部分)から形成される。
そして、直通通路46の一部をシリンダヘッド3a及びシリンダブロック3のシリンダ3bに対応する位置から、取り出して、シリンダブロック3の外部を通過させている(チューブ146を用いる)。
【0077】
チューブ146によって、直通通路46の大部分がシリンダブロック3内部を通過しないことから、シリンダブロック3に直通通路46を形成する必要が無くなり、シリンダブロック3を肉厚にする必要がなくなる。
また、直通通路46を形成するためにドリル等で長い穴加工を必要としなくなるため、短期間でシリンダブロック3を製造でき、生産性が向上する。
さらに、チューブ146を用いることによって、設計者が任意の位置に直通通路46のクランク室5a側の開口部46aを形成することが可能となる。このことは、設計の柔軟性が向上したことを意味する。
より具体的には、油溜室7から直接オイルを循環させる送油通路34のシリンダ3bに開口する開口部34aだけでは、クランク室5a内で潤滑が十分ではない場合に、直通通路46の開口部46aの位置を任意に設けることが可能となる。
また、直通通路46がシリンダブロック3外に形成されるため、シリンダ3内での燃焼した熱によってオイルが加熱されることがなくなる。さらに、シリンダブロック3の外部に直通通路46が形成されることから、逆に、オイルが冷却されることになり、相乗的な効果を有する。
【0078】
加えて、柔軟性を有するチューブ146によって形成したことから、直通通路46に関して設計変更する際も、容易に設計変更が可能となる。
また、チューブ146に何らかの問題があっても、容易に交換可能となる。
【0079】
チューブ146に、L字管路146a及びL字管路146bが両サイドに設けられていることから、チューブ146がシリンダヘッド3aから大きく突出することを防ぐことが可能となる。
【0080】
また、チューブ146は、図2(b)のように、シリンダブロック3と導風カバー101との間に配置される。
このように、直通通路46の一部であるチューブ146がシリンダブロック3と導風カバー101との間に配置されることから、より、チューブ146の冷却性能を向上させることが可能となる。
また、シリンダブロック3と導風カバー101との間に配置されることによって、シリンダブロック3と導風カバー101との間の空間をより有効活用することが可能となる。
【0081】
このシリンダヘッド3aと導風カバー101の間は、シリンダヘッド3aを冷却するために冷却風が通過する空間である。
【0082】
そのため、この位置にチューブ146が形成されると、チューブ146が効率よく冷却され、チューブ146が熱によって損傷することを防止することが可能となる。
さらに、直通通路46が別に設けられるので、オイルの4サイクルエンジンによる過熱を防止することが可能となる。
そして、チューブ146が冷却されるということは、チューブ146内を通過するオイルも冷却されることになる。
【0083】
以上より、第1の実施形態のような構成を有することから、直通通路46を通過するオイルをより効率的に冷却することが可能となる。
【0084】
直通通路46のシリンダ3b側の開口部46aは、ピストン6が上死点近傍位置から上死点に向かう移動時に開口し、ピストン6が上死点近傍位置から下死点に向かって移動する間は閉じるように、設けられている(図1も参照のこと)。
これによって、適切なタイミングで、直通通路46からオイルをシリンダ3b部に循環させることが可能となる。さらに、直通通路46にオイルが逆流することを防ぐことが可能となる。
【0085】
また、直通通路46のクランク室5a側の開口部46a、及び、エアクリーナ50部分において分離されたオイルをクランク室5aに還流する還流通路52のクランク室5a側の開口部52aは、ピストン6の摺動方向に対して垂直な面上に形成されている。
このように形成したことによって、エアクリーナ50からのオイルに加えて、直通通路46を通じて回収される動弁室4からのオイルを、ピストン6の潤滑に利用することが可能となる。
また、エアクリーナ50からのオイル、及び、直通通路46を通じて回収される動弁室4からのオイルを同一のタイミングでクランク室5aに回収することができ、オイルの回収が効率的に可能となる。
【0086】
<実施形態の構成及び効果>
本実施形態の4ストロークエンジンの循環装置は、少なくとも、ピストン6と、シリンダ3bと、クランク室5aと動弁室4を有し、ピストン6の往復運動によって生じるクランク室5aの圧力変動を利用してオイルミストをオイル循環経路で循環させて、駆動部品を潤滑する携帯型エンジンの循環装置であって、クランク室5a内の負圧時に動弁室4とクランク室5aとを連通する直通通路46が設けられ、直通通路46は可撓性のチューブ146部分を有し、チューブ146部分がシリンダ3bの外部に形成されている。
以上のような構成を有することから、直通通路46を形成するために長い穴を形成する必要が無くなり、生産性が向上する。
また、設計者が任意の位置に直通通路46のクランク室5a側の開口部46aを形成することが可能となる。
さらに、直通通路46を通過するオイルの温度上昇を防止できる。
加えて、この構成を有することから、より容易に、直通通路46を形成し、取り回し、設計し、製造することが可能となる。
【0087】
チューブ146部分の両端部には、L字管路146a及びL字管路146bが配置されている。
この構成を有することから、チューブ146がシリンダヘッド3aから大きく突出することを防ぐことが可能となる。
【0088】
直通通路46のクランク室5a側の開口部46aは、ピストン6が上死点近傍位置から上死点に向かう移動時に開口し、ピストン6が上死点近傍位置から下死点に向かって移動する間は閉じるように、設けられている。
このような構成を有することから、適切なタイミングで、直通通路46からオイルをシリンダ3b内部に循環させることが可能となる。
【0089】
直通通路46のチューブ146部分は、シリンダ3bを冷却する冷却風を誘導する導風カバー101とシリンダ3bとの間に形成される。
このような構成を有することから、よりチューブ146の冷却性能を向上させることが可能となる。また、チューブ146をゴム等で形成して焼き付きを防止することができる。
さらにまた、シリンダブロック3と導風カバー101との間に配置されることによって、シリンダブロック3と導風カバー101との間の空間をより有効活用することが可能となる。
【0090】
オイルミストとブローバイガスとを分離する気液分離装置51と、気液分離装置51において分離されたオイルをクランク室5aに還流する還流通路52と、をさらに備え、
還流通路52のクランク室5a側の開口部52aは、ピストン6が上死点近傍位置から上死点に向かう移動時に開口し、ピストン6が上死点近傍位置から下死点に向かって移動する間は閉じるように、設けられている。
このような構成を有することから、エアクリーナ50からのオイルに加えて、直通通路46を通じて回収される動弁室4からのオイルを、ピストン6の潤滑に利用することが可能となる。
また、エアクリーナ50からのオイル、及び、直通通路46を通じて回収される動弁室4からのオイルを同一(ほぼ同一)のタイミングでクランク室5aに回収することができ、オイルの回収が効率的に可能となる。
【符号の説明】
【0091】
1 携帯型4ストロークエンジン
3 シリンダブロック
3a シリンダヘッド
3b シリンダ
4 動弁室
5 クランクケース
5a クランク室
6 ピストン
10 動弁機構
30 供給通路
31 動弁機構供給通路
31a,33a,39b,43a,46a,48a,52a,246a,246b 開口部
51 気液分離装置
46 直通通路
146 チューブ
146a,146b L字管路
A オイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ピストンと、シリンダと、クランク室と動弁室を有し、前記ピストンの往復運動によって生じる前記クランク室の圧力変動を利用してオイルミストをオイル循環経路で循環させて、駆動部品を潤滑する携帯型エンジンの循環装置であって、
前記クランク室内の負圧時に前記動弁室と前記クランク室とを連通する直通通路が設けられ、
前記直通通路は可撓性のチューブ部分を有し、
前記チューブ部分が前記シリンダの外部に形成されている
ことを特徴とする4ストロークエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
前記チューブ部分の両端部には、L字型管路が配置されている
請求項1に記載の4ストロークエンジンの潤滑装置。
【請求項3】
前記直通通路の前記クランク室側の開口部は、
前記ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かう移動時に開口し、
前記ピストンが前記上死点近傍位置から下死点に向かって移動する間は閉じるように、
設けられている
請求項1に記載の4ストロークエンジンの潤滑装置。
【請求項4】
前記直通通路の前記チューブ部分は、前記シリンダを冷却する冷却風を誘導する導風カバーと前記シリンダとの間に形成される
請求項1に記載の4ストロークエンジンの潤滑装置。
【請求項5】
オイルミストとブローバイガスとを分離する気液分離装置と、
前記気液分離装置において分離されたオイルを前記クランク室に還流する還流通路と、をさらに備え、
前記還流通路の前記クランク室側の開口部は、
前記ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かう移動時に開口し、
前記ピストンが前記上死点近傍位置から下死点に向かって移動する間は閉じるように、
設けられている
請求項3に記載の4ストロークエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−104357(P2013−104357A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248768(P2011−248768)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】