説明

5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類とその製造方法

【課題】医薬、農薬及び含フッ素重合体等の機能性材料の合成中間体として有用な5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類の工業的な製造方法を提供する。また新規化合物である数種の5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を提供する。
【解決手段】1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類を、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下、種々の末端アセチレン類を反応させる。用いる塩基としては、ピペリジン、ジエチルアミンなどの有機アミン類が特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬、農薬及び含フッ素重合体等の機能性材料の製造原料または合成中間体として有用な、置換または末端アセチレン類である5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、種々の生理活性が期待できることから、医薬品や農薬としての研究開発がなされている(非特許文献1)。また、合成化学的な観点から、オレフィン部位とアセチレン部位を併せ持つエンイン骨格は、高度に官能基化されており、様々な変換が可能である。したがって、含フッ素エンイン化合物は医薬、農薬及び含フッ素重合体等の機能性材料の製造原料または合成中間体として、含フッ素ファインケミカル誘導体の重要な中間体である。
【0003】
エンイン化合物には、Siccayne等の抗生物質や抗腫瘍性を示す物質が多く、抗生剤等の医薬、殺菌剤や植物の生育制御剤等の農薬として有用である(非特許文献2)。
【0004】
特に、含フッ素エンイン類は、絶縁材料、静電現像トナー、撥水撥油性重合体をはじめとする含フッ素機能性ポリマーの単量体として広く利用されており、極めて有用な化合物群として一般に知られている(非特許文献3)。
【0005】
従来、フッ素を含む置換アセチレン類である5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を製造する方法として、1,1−ジフルオロエチレン及びブチルリチウムから発生する1,1−ジフルオロビニルリチウムに対して、ケトン類を作用させ1,1−ジフルオロアリルアルコール化合物へと変換し、その後DAST(ジエチルアミノ硫黄トリフルオリド)を用いて脱水条件下、フッ素化することにより、2段階で1−置換−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン化合物を得る方法(非特許文献4)が知られている。また、ヨウ化トリフルオロメチルに、パラジウム触媒及び塩基性物質の存在下、末端アセチレンと反応させることにより、1−置換−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン化合物を得る方法(特許文献1)が知られている。さらに、1,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−ヨウ化−プロペンにパラジウム触媒及び塩基性物質の存在下、末端アセチレンと反応させることにより、1位が置換された5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン化合物を得る方法(非特許文献5)が知られている。
【0006】
一方、フッ素を含まないアルキル置換−3−ペンテン−1−イン類を合成する手法として、アルキル置換ビニルクロリド類と末端アセチレン類を、パラジウム触媒及び塩基性物質の存在下で、反応させる方法(非特許文献6)が知られている。
【特許文献1】特公平7−20893号公報
【非特許文献1】フッ素化学入門 三共出版(2004年)
【非特許文献2】有機合成化学協会誌1992年、第50巻、第11号、P.940〜952
【非特許文献3】有機フッ素化学(II)技報堂(1973)
【非特許文献4】Journal of Fluorine Chemistry、第62巻、183頁〜189頁 1993年(英国)
【非特許文献5】Journal of Fluorine Chemistry、第53巻、307頁〜326頁 1991年(英国)
【非特許文献6】Journal of Organometallic Chemistry、第624巻、114頁〜123頁 2001年(オランダ国)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を製造するための上記方法は、小規模での実施には好適であるが、工業的には採用し難いものであった。
【0008】
非特許文献4において開示された方法では、1,1−ジフルオロビニルリチウム試薬は、−100℃程度の低温で取り扱う必要があり、また、得られた1,1−ジフルオロアリルアルコール化合物は非常に不安定で容易に分解するため、素早く処理しなければならず、反応操作が煩雑である。さらに、DAST(ジエチルアミノ硫黄トリフルオリド)を試薬として用いる必要があるが、この試薬は非常に高価である。
【0009】
特許文献1に示された方法は、原料に高価なヨウ化トリフルオロメチルを用いており、また反応後に副生するヨウ化物塩の廃棄が困難である。さらに、得られる生成物はシス−トランス異性体の混合物となるため、一方の異性体を選択的に得るには生産効率が悪く、工業的には採用し難い。
【0010】
非特許文献5に示された方法は、原料である1−ヨウ化−3,3,3−トリフルオロプロペンが高価であり、さらに、反応後に副生するヨウ化物塩の廃棄が困難であるため、この方法を工業的に実施するのは困難であった。
【0011】
上述のように、5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類の製造はかなり困難であり、将来にわたって効率的かつ実施できる工業的な製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類
【0013】
【化12】

を、式[2]で表される末端アセチレン類
【0014】
【化13】

と、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させることによって、式[3]で表わされる、5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類
【0015】
【化14】

を高収率で得られることを見出し、上記課題が解決することを見出した。(式[1]〜[3]中、R1は水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、R2は水素原子、フッ素原子、または塩素原子を表す。R3は、水素原子、フェニル基(ここでフェニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基(ここでアルキル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくはアリール基(ここでアリール基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキルカルボニル基(ここでアルキルカルボニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、同一かもしくは異なる3つのアルキル基からなるトリアルキルシリル基を表す。)
本発明の反応では、必要な原料はいずれも安価であり、極低温で保存、使用する必要もないため、操作は簡便であり、なおかつ廃棄物も抑制される。
【0016】
フッ素置換基を含まないアルキル置換−3−ペンテン−1−イン類を合成する手法として、アルキル置換ビニルクロリド類と末端アセチレン類を、パラジウム触媒及び塩基性物質の存在下で反応させる方法(非特許文献6)が知られている。しかし、トリフルオロメチル基のような強電子求引性の官能基がオレフィン炭素に直接結合したビニルクロリド類が、末端アセチレン類と効率よくカップリングを起こす例はこれまで知られていなかった。
【0017】
本発明者はさらに、上述のカップリング反応が、特定条件下、特に有利に進行することを見出した。本発明の対象とする式[1]で表される原料化合物には、オレフィン炭素に結合するCF3基が存在する。このCF3基の強い電子求引性のために、CF3基に対してオレフィン結合の反対側の炭素はエネルギー的に不安定となり、この部位の反応性は従来、非特許文献6で知られていた基質とは大きく異なる。この結果として、本発明の対象とする式[1]で表される化合物には副反応を誘発する傾向も大きい。しかし、発明者らは、このような反応基質を用いた反応についても、特定の塩基性物質を用いると、目的とする5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を特に高い収率で製造できるという知見を得た。
【0018】
なお、該反応によって、式[3]で表される広範な5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を製造することができるが、このうちR3がHである下記、式[4]で表される化合物
【0019】
【化15】

を該反応によって直接製造するためには、式[2]で表される末端アセチレンとして、無置換のアセチレンを用いる必要がある。無置換のアセチレンは反応性が高いために、煩雑な取扱いが要求される。この場合、次のように反応を2工程に分けることもできる。すなわち、末端アセチレンとして、「無置換のアセチレン」を除く、次の式[2a]で表される化合物
【0020】
【化16】

を用い、一旦、式[3a]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類
【0021】
【化17】

を合成する(第1工程)(式[2a]、式[3a]中の基R3aは、前記の基R3から水素原子を除いた何れかの基を意味する。)。次いで、該、置換アセチレン体を、さらに塩基性物質と反応させると、基R3aが脱離し、効率よく式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(末端アセチレン体)に誘導できる(第2工程)。これによって、取扱いの煩雑なアセチレンガスを用いることなく、式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(末端アセチレン体)を合成できる。
【0022】
さらに本発明者らは、本研究を通じて、これまでに合成された報告のない(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オール、トリメチル−((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)シラン、(E)−6,6,6−トリフルオロ−4−ヘキセン−2−イン−1−オール、((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼン、(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−インの各化合物を見出した。
【0023】
このように、本発明者らは、安価な原料を出発物質とし、穏和な条件において高収率で式[3]もしくは式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を製造する新規方法を見出し、さらに、これら5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類に属する新規化合物を見出し、本発明を完成した。
【0024】
すなわち、本発明は、式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類と、式[2]で表される末端アセチレン類をパラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させて、式[3]で表わされる5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を製造する方法を提供する。本発明はさらに、該方法で、得られた式[3a]で表される、置換基R3が水素以外の5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(置換アセチレン体)を合成し、続いて塩基性物質と反応させ、式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(末端アセチレン体)を製造する方法を提供する。
【0025】
さらに本発明は、5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類に属する、数種の新規化合物を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、医薬、農薬及び含フッ素重合体等の機能性材料の製造原料、または合成中間体として有用な5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を、安価な1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類を原料として、穏和な条件および簡便な操作で、収率良く、しかも反応後に副生するヨウ化物塩等の廃棄物も少なく提供できるという効果を奏する。例えば、0℃〜70℃の温度範囲で収率70%以上で得ることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明は式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類を、式[2]で表される末端アセチレン類と反応させ、式[3]で表わされる、5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を得る反応を骨子とする(この反応工程を「第1工程」と呼ぶ)。この「第1工程」によって、式[3]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を幅広く製造することができる。一方、目的化合物が式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(末端アセチレン体)である場合には、末端アセチレン類として式[2a]で表される化合物を用いて「第1工程」を実施し、次いで得られた式[3a]で表される置換アセチレン体を、塩基性物質と反応させ、式[4]で表される末端アセチレン体を得る(この反応工程を「第2工程」と呼ぶ)こともできる。このように本発明は、「第1工程」を必須の要素とし、これに目的物の種類に応じて「第2工程」を任意で加えることによってなる(スキーム1)。
【0028】
【化18】

まず、本発明の第1工程について説明する。第1工程は、式[1]の化合物と式[2]の化合物を、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させて、式[3]の化合物を得る工程である。
【0029】
本発明の出発原料である、式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類としては、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−2−フルオロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−1−フルオロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−1,2−ジフルオロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−1−フルオロ−2−トリフルオロメチル)−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1−ジクロロ−2−フルオロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1−ジクロロ−2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロペンなどが好ましい。これら1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類は置換基の種類により、立体異性体としてシス体(Z体)及びトランス体(E体)が存在するが、これらは特に制限はなく、第1工程の反応によって、二重結合部位のシス、トランスの構造を保持したまま、5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類が得られる。なお、単一の異性体でも、両異性体の混合物でも使用できる。
【0030】
これらの中でも、入手の容易さや、得られる化合物の有用性などから、HCFC−1233zdとして工業的に生産されている(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが特に好ましい。(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを原料とした場合、第1工程の反応の結果得られるのは、式[5]で表わされる(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類
【0031】
【化19】

である。該化合物のうち、R3基が水素を除く基(R3a)である場合には、これをさらに第2工程の反応に付すと、R3a基が脱離し、(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−インが得られる(下記スキーム2を参照)。
【0032】
【化20】

式[2]で表される末端アセチレン類のR3基としては、水素原子、フェニル基(ここでフェニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基(ここでアルキル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくはアリール基(ここでアリール基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキルカルボニル基(ここでアルキルカルボニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、同一かもしくは異なる3つのアルキル基からなるトリアルキルシリル基から選ぶことができる。
【0033】
式[2]で表される末端アセチレン類の中でも、フェニルアセチレン、2−メチル−3−ブチン−2−オール、トリメチルシリルアセチレン、プロパルギルアルコール等は、工業的な入手が容易であり、反応性も優れていることから、特に好ましく使用される。
【0034】
式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類と、式[2]で表される末端アセチレンの量比に特別な制限はないが、通常、式[1]の化合物1モル当たり、式[2]の化合物の使用量は0.8〜50モルの範囲であり、好ましくは0.8〜10モル、更に好ましくは1〜3モルである。
【0035】
第1工程の反応には用いるパラジウム触媒としては、具体的には、パラジウム担持活性炭、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトナト)パラジウム、PdCl2[P(o−Me−Ph)32、PdCl2[P(m−Me−Ph)32、PdCl2[P(p−Me−Ph)32、PdCl2(PMe32、PdBr2(PPh32、PdCl2〔P(Ph)2CH2CH2P(Ph)2〕、PdCl2〔P(Ph)2CH2CH2CH2CH2P(Ph)2〕、PdCl2(PhCN)2、Pd(CO)(PPh33、PhPdI(PPh32、PhPdBr(PPh32、PhPdBr(PMePh22、PdCl2(PMePh22、PdCl2(PEt2Ph)2、PdCl2(PMe2Ph)2、Pd2Br4(PPh32、PdCl2[P(Ph)32等が好ましい。ここでPhはフェニル基、Meはメチル基、Etはエチル基、o−はオルト置換、m−はメタ置換、p−はパラ置換を表す。
【0036】
これらは何れも満足すべき触媒活性を示すが、安価で取り扱いやすい塩化パラジウム、酢酸パラジウム、PdCl2[P(Ph)32など、2価のPd錯体が経済的に特に好ましい。本発明の反応については、一般のカップリング反応にしばしば要求される、高価なゼロ価Pd錯体は必ずしも求められず、本発明の有利な点といえる。
【0037】
第1工程で用いられるパラジウム触媒の添加量は、式[1]で表される化合物1モル当たり、通常、0.0001〜0.2モルの範囲を適宜選択することができるが、好ましくは0.001〜0.1モルであり、更に好ましくは0.001〜0.05モルである。
【0038】
第1工程はパラジウム触媒のみでも進行するが、助触媒として3価のリン化合物を用いるとパラジウム錯体の活性が維持されやすいため、特に好ましい。ここで助触媒とは、触媒の活性または選択性を増大させるために少量添加される物質をいう。それらとしては、式[6]
4 −(R5 −)P−R6 [6]
(式[6]中、R4 、R5 およびR6 は、同一または相異なるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物が好ましく、具体的にはトリ−n−ブチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリ−o−トリルホスファイト、三塩化リンなどが例示される。またこの他に、式[7]
(R42P−Q−P(R52 [7]
(式[7]中、R4およびR5は前記と同じ、Qは−(CH2m−(mは1〜8の整数。より好ましくは1〜4の整数。)で表されるアルキレン基を表す)
で表されるホスフィンも好ましい。具体的には1,1'−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどが例示できる。これらのリン化合物使用量は、通常上記の金属触媒1モル当たり、0.5〜50モルの範囲を適宜選択することができる。
【0039】
ここで言う3価のリン化合物は、それ自身の遊離の化合物でも良く、PdCl2[P(Ph)32などのように、パラジウム触媒にあらかじめ配位子として取り込まれたものでも良く、両者を併用してもよい。
【0040】
第1工程の実施に際しては、1価の銅化合物の添加により収率が向上する場合があり、このような場合には銅触媒として銅化合物を添加することもできる。使用される1価の銅化合物としては、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅、酸化銅、シアン化銅などが挙げられるが、ヨウ化銅が特に好ましく、これらの使用量は、式[1]の化合物1モル当たり、通常0.0001〜0.5モルの範囲を適宜選択することができるが、好ましくは0.001〜0.1モルであり、更に好ましくは0.001〜0.05モルである。勿論これ以上使用することも可能であるが、特に大量使用するメリットもない。
【0041】
第1工程に用いられる塩基性物質に特別な制限はないが、中程度の強度を有する塩基である、有機アミン類が好ましい。有機アミン類としては特別な制限はないが、炭素数が1〜10の鎖状モノアルキルアミン、炭素数が1〜10の鎖状ジアルキルアミン、炭素数が5〜12の環状モノアルキルアミン、炭素数が5〜12環状ジアルキルアミン、炭素数が5〜12の芳香族アミンを用いると、目的とする反応の速度、選択性ともに良好となり、特に好ましい。具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジ−イソプロピルエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、ルチジン、2−メチルピリジン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン等が挙げられるが、ジエチルアミンが特に好ましい。
【0042】
これに対して、無機塩基類{例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムなど)、カルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなど)、金属アルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)、水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなど}や、塩基性の高い有機塩基{例えば、グアニジンや1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンなど}を用いると、R3基の脱離が競合しやすく、目的とするカップリング生成物の収率が低下することがある。
【0043】
塩基の使用量は、式[1]の化合物1モル当たり、通常1〜50モルの範囲を適宜選択することができるが、好ましくは1〜20モルであり、更に好ましくは1〜10モルである。
【0044】
上記反応は通常窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行われる。通常、反応温度は‐50℃〜160℃、好ましくは-10℃〜100℃で、さらに好ましくは-5℃〜50℃の範囲である。また、圧力については特に制限はないが、不活性ガスを導入して大気圧下で反応を行うか、あるいは密閉して加圧条件で反応を行うことができる。原料である1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類は一般に低沸点である事から、本工程を実施する際の重要な点は、これらを液化させておくか、あるいは溶媒中に溶存させておくことである。これを達成するために適当な温度と圧力が選ばれる。
【0045】
室温ないしそれ以下の温度で反応を行う場合、不活性ガス雰囲気下、大気圧で反応を行うことができ、それが簡便であるから特に好ましい。これに対し、加熱する場合、1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類が気化することがある。1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類が気化すると、反応はほとんど進行せず、目的とする生成物が得られない。この場合、原料である1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類を液化させておくか、あるいは溶媒中に溶存させておくため、オートクレーブを反応容器として用い、容器内を不活性ガス雰囲気にした後、密閉して加圧条件で反応を行うのが好ましい。
【0046】
なお、第1工程の反応には、目的とするカップリング反応の他に、下記のエナミン化合物
【0047】
【化21】

の生成が競合する。このエナミン化合物は、式[1]の化合物と、式[2]の化合物から、Pd触媒の有無に関わらず生成する化合物である。このエナミン化合物の副生は、ジエチルアミン等の鎖状アミンを使用すると特に抑制しやすい。ジエチルアミン等の鎖状アミンを使用すると、後述の実施例に示すように、室温もしくはそれ以下の温度でも、目的とする反応が十分な速度で進行するため、大気圧でも反応を実施できる。一方、ピペリジン等の環状アミンを使用する場合は、エナミン化合物が有意に副生することがある(実施例1参照)が、この場合に限り、温度を高め(例えば40℃以上)に設定すると、目的とする触媒反応が優先し、目的物を高い選択率で得られるようになる(実施例2参照)。このように、第1工程の反応温度、圧力は、当業者により適宜最適化することが望ましい。
【0048】
第1工程では、適当な溶媒、例えばアセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリルアミド、N−メチルピロリドン、メタノール、トルエン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどを反応溶媒として使用することもできる。上記の塩基性物質が液体である場合には、これら塩基(例えばジエチルアミン、ピペリジンなど)が溶媒としての役割も兼ねるため、別途溶媒を加えなくても良い。
【0049】
溶媒の量は、試薬が十分量、溶解し、反応が円滑に進行するように、当業者によって最適化できる。
【0050】
反応時間については、特に制限はなく、温度や触媒の量に依存するため、ガスクロマトグラフィー等の手段で反応の進行状況を追跡し、反応終点に近づいたことを確認後、反応を終了することが望ましい。
【0051】
反応終了後、抽出、蒸留、再結晶等の通常の操作により、置換アセチレン類である5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の第2工程について詳細に説明する。第2工程は、式[3a]で表される置換アセチレン体を塩基性物質と反応させ、式[4]で表される末端アセチレン体を得る工程である。第2工程の反応は、第1工程の反応の終了後、精製操作により式[3a]で表される置換アセチレン体を単離精製した後、行うこともできるが、精製を行わず第1工程の反応混合物に、塩基を直接加えることもできる。
【0053】
第2工程の反応は、R3a基の脱離反応である。したがって、R3aとして複雑で高価なものを用いることには実益が少ない。第2工程に用いる式[2a]の化合物としては2−メチル−3−ブチン−2−オール、トリメチルシリルアセチレンなど、脱離を起こしやすく、かつ安価なものが望ましい。
【0054】
第2工程に用いる塩基性物質としては、無機塩基ならびに、有機強塩基が好ましい。無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、テトラブチルアンモニウムフルオリドなどが好ましく、有機強塩基としては、グアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンなどが好ましい。経済的な観点から、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基が特に好ましい。
【0055】
なお、この第2工程においても、第1工程で好ましく用いられた有機アミン類(トリエチルアミン、ジエチルアミン、ピペリジン、ピロリジン等)を用いても、目的とする反応は進行するが、これらの塩基は、第1工程での使用に適していることから判るように、R3a基を脱離させる能力が弱いことから、これらを第2工程に使用すると反応に長時間を要する場合が多く、好ましくない。
【0056】
第2工程において、上記塩基性物質は、式[3a]の化合物1モルに対して通常1〜10モル、好ましくは1〜5モル用いられる。
【0057】
第2工程は溶媒の存在下で実施することが好ましい。溶媒としては反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えばヘキサン、ベンゼン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトン等のアルキルケトン類、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒等、あるいは水が例示できるが、これらのうち、アルコール類であるメタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等が特に好ましく使用される。
【0058】
第2工程の反応温度は特に限定されないが、通常、-50℃〜100℃、好ましくは-10℃〜100℃で、さらに好ましくは-5℃〜30℃の範囲である。
【0059】
第2工程の反応後の処理は特に限定されないが、反応溶液を直接蒸留する方法や、水または氷水を加えた後、有機溶媒による抽出操作及び蒸留等の通常の操作により、目的とする式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン(末端アセチレン体)を得ることができる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。
【実施例1】
【0060】
((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンの製造
【0061】
【化22】

窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をテトラヒドロフラン20mlに溶かし、ピペリジン3mL(30.7mmol)、フェニルアセチレン(3.4mL、30.7mmol)、ビス(ジベンジリデンアセトナト)パラジウム265mg(0.61mmol)、トリフェニルホスフィン483mg(1.84mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、24時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)で分析したところ、目的化合物である((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンが38%、ピペリジンと(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとが反応することにより生じたエナミンが37%生成しており、未反応分のフェニルアセチレンは14%であった。(なお、目的化合物の単離精製は本実施例では行っていない)。
【実施例2】
【0062】
((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンの製造
攪拌機、温度計保護管を備えた100mLステンレス製耐圧容器に(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をテトラヒドロフラン15mlに溶かし、ピペリジン3mL(30.7mmol)、フェニルアセチレン(3.4mL、30.7mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム177mg(0.15mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、耐圧容器内を窒素ガスで、圧力1MPaに加圧し、70℃で72時間撹拌した。72時間後、氷冷した後に常圧に戻した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)で分析したところ、目的化合物である((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンが79%生成しており、ピペリジンと(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとが反応したエナミンは生成していなかった。未反応分のフェニルアセチレンは14%であった。(なお、目的化合物の単離精製は本実施例では行っていない)。
【実施例3】
【0063】
((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンの製造
窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をテトラヒドロフラン15mlに溶かし、ジエチルアミン3.2mL(30.7mmol)、フェニルアセチレン(3.4mL、30.7mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム177mg(0.15mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、24時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)で分析したところ、目的化合物である((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンが86%生成しており、ジエチルアミンと(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとが反応したエナミンは生成していなかった。未反応分のフェニルアセチレンは12%であった。(なお、目的化合物の単離精製は本実施例では行っていない)。
【実施例4】
【0064】
(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オールの製造
【0065】
【化23】

窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をテトラヒドロフラン15mlに溶かし、ジエチルアミン3.2mL(30.7mmol)、2−メチル−3−ブチン−2−オール2.8ml(30.7mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム177mg(0.15mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、40時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)で分析したところ、目的化合物である(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オールが89%生成していた。ジエチルアミンと(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとが反応したエナミンは生成していなかった。2−メチル−3−ブチン−2−オールは完全に消費された。(なお、この目的化合物の単離精製は本実施例では行っていない)。
【実施例5】
【0066】
(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オールの製造
窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をテトラヒドロフラン15mlに溶かし、ジエチルアミン3.2mL(30.7mmol)、2−メチル−3−ブチン−2−オール2.8ml(30.7mmol)、酢酸パラジウム(II)103mg(0.15mmol)、トリフェニルホスフィン161mg(0.6mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、40時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)で分析したところ、目的化合物である(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オールが76%生成していた。ジエチルアミンと(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとが反応したエナミンは生成していなかった。2−メチル−3−ブチン−2−オールは完全に消費された。(なお、この目的化合物の単離精製は本実施例では行っていない)。
【実施例6】
【0067】
(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オールの製造
窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をジエチルアミン10mL(98.2mmol)に溶かし、2−メチル−3−ブチン−2−オール(3.0mL、30.7mmol)、酢酸パラジウム(II)34mg(0.154mmol)、トリフェニルホスフィン161mg(0.61mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、15時間撹拌した。反応液を濾過した。濾液を減圧蒸留(96℃/10.4kPa)し、目的化合物である、(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オール 4.0g(収率73%・純度91%)を淡黄色液体として得た。
[(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オールの物性]
1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):1.48(3H,s), 1.48(3H,s), 3.35(1H,br.s) 5.98(1H,dqd, J=15.8, 6.9, 1.8Hz), 6.21(1H,dq, J=16.1, 2.2Hz).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):−65.5 ppm(3F, br.s) (CFCl3=0 ppm).
【実施例7】
【0068】
(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オールの製造
窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をジエチルアミン10mL(98.2mmol)に溶かし、2−メチル−3−ブチン−2−オール(3.0mL、30.7mmol)、塩化パラジウム(II)27mg(0.154mmol)、トリフェニルホスフィン80mg(0.31mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、15時間撹拌した。反応液を濾過した。濾液を減圧蒸留(93℃/7.3kPa)し、目的化合物である、(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オール 3.9g(収率72%・純度97.5%)を淡黄色液体として得た。
【実施例8】
【0069】
トリメチル−((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)シランの製造
【0070】
【化24】

窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン20.0g(154mmol)をジエチルアミン64mL(613mmol)に溶かし、トリメチルシリルアセチレン15.1g(153.5mmol)、酢酸パラジウム(II)170mg(0.77mmol)、トリフェニルホスフィン805mg(3.05mmol)、ヨウ化銅(I)585mg(3.05mmol)を氷冷下加えた後、15時間撹拌した。反応液にペンタンを加え濾過した後、濾液を1NのHCl水溶液で洗浄した。溶媒留去した後、減圧蒸留(76℃/24.5kPa)し、目的化合物である、トリメチル−((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)シラン 26.0g(収率83%・純度95%)を淡黄色液体として得た。
[トリメチル−((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)シランの物性]
1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):0.19 (9H, s), 6.07 (1H, dq, J=15.9, 6.6 Hz), 6.24 (1H, dq, J=15.9, 2.0 Hz).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):−65.5 ppm(3F, d, J=6.0 Hz) (CFCl3=0 ppm).
【実施例9】
【0071】
((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンの製造
窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.0g(30.7mmol)をジエチルアミン10mL(98.2mmol)に溶かし、フェニルアセチレン(3.3mL、30.7mmol)、酢酸パラジウム(II)34mg(0.154mmol)、トリフェニルホスフィン161mg(0.61mmol)、ヨウ化銅(I)117mg(0.61mmol)を氷冷下加えた後、15時間撹拌した。反応液を濾過した。濾液を減圧蒸留(70℃/0.67kPa)し、目的化合物である、((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼン 4.6g(収率76%・純度99%)を無色透明液体として得た。
[((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼンの物性]
1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):6.06 (1H, dq, J=15.8, 6.8 Hz), 6.40 (1H, dq, J=15.8, 2.2 Hz), 7.31-7.15 (3H, m), 7.37-7.40 (2H, m).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):−65.2 ppm(3F, d, J=6.0 Hz) (CFCl3=0 ppm).
【実施例10】
【0072】
(E)−6,6,6−トリフルオロ−4−ヘキセン−2−イン−1−オールの製造
【0073】
【化25】

窒素雰囲気下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン10.0g(77mmol)をジエチルアミン32mL(307mmol)に溶かし、プロパルギルアルコール4.4mL(77mmol)、酢酸パラジウム(II)85mg(0.38mmol)、トリフェニルホスフィン403mg(1.53mmol)、ヨウ化銅(I)292mg(1.53mmol)を氷冷下加えた後、15時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え濾過した後、濾液を1NのHCl水溶液で洗浄した。溶媒留去した後、減圧蒸留(96℃/6.0kPa)し、目的化合物である、(E)−6,6,6−トリフルオロ−4−ヘキセン−2−イン−1−オール 9.5g(収率82%・純度95%)を淡黄色液体として得た。
[(E)−6,6,6−トリフルオロ−4−ヘキセン−2−イン−1−オールの物性]
1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):2.00 (1H, br.s), 4.36 (2H, s), 6.01 (1H, dq, J=16.1, 6.6 Hz), 6.23 (1H, dq, J=15.8, 2.2 Hz).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):−65.5 ppm(3F, d, J=6.0 Hz) (CFCl3=0 ppm).
【実施例11】
【0074】
(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−インの製造
【0075】
【化26】

氷冷下、トリメチル−((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)シラン5g(26mmol)にエチレングリコール5g、炭酸カリウム3.6g(26mmol)を加え、12時間攪拌した。反応液を減圧蒸留(36℃/101.1kPa)し、目的化合物である、(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン 2.7g(収率86%・純度91%)を無色液体として得た。
[(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−インの物性]
1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):3.22 (1H, br s), 6.17 (1H, dq, J=16.1, 7.3 Hz), 6.26 (1H, dq, J=17.8, 2.2 Hz).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):−65.8 ppm(3F, br d, J=6.0 Hz) (CFCl3=0 ppm).
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類
【化1】

と、式[2]で表される末端アセチレン類
【化2】

をパラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させて、式[3]で表わされる5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類
【化3】

を製造する方法。
(式中、R1は水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、R2は水素原子、フッ素原子、または塩素原子を表す。R3は、水素原子、フェニル基(ここでフェニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基(ここでアルキル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくはアリール基(ここでアリール基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキルカルボニル基(ここでアルキルカルボニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、同一かもしくは異なる3つのアルキル基からなるトリアルキルシリル基を表す。)
【請求項2】
次の2工程よりなる、式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(末端アセチレン体)
【化4】

の製造方法。
第1工程:式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類
【化5】

と、式[2a]で表される末端アセチレン類
【化6】

をパラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させて、式[3a]で表わされる5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(置換アセチレン体)
【化7】

を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた式[3a]で表わされる5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(置換アセチレン体)を塩基性物質と反応させ、式[4]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(末端アセチレン体)を製造する工程。
(式中、R1は水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、R2は水素原子、フッ素原子、または塩素原子を表す。R3aは、フェニル基(ここでフェニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基(ここでアルキル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくはアリール基(ここでアリール基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキルカルボニル基(ここでアルキルカルボニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、同一かもしくは異なる3つのアルキル基からなるトリアルキルシリル基を表す。)
【請求項3】
(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、式[2]で表される末端アセチレン類
【化8】

を、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させて、式[5]で表わされる(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類
【化9】

を製造する方法。
(式中、R3は、水素原子、フェニル基(ここでフェニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基(ここでアルキル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくはアリール基(ここでアリール基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキルカルボニル基(ここでアルキルカルボニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、同一かもしくは異なる3つのアルキル基からなるトリアルキルシリル基を表す。)
【請求項4】
次の2工程によりなる、(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−インの製造方法。
第1工程:(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、式[2a]で表される末端アセチレン類
【化10】

を、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させて、式[5a]で表わされる(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(置換アセチレン体)
【化11】

を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた式[5a]で表わされる、(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類(置換アセチレン体)を塩基性物質と反応させ、(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−インを製造する工程。
(式中、R3aは、フェニル基(ここでフェニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基(ここでアルキル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくはアリール基(ここでアリール基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキルカルボニル基(ここでアルキルカルボニル基の水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アミノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、同一かもしくは異なる3つのアルキル基からなるトリアルキルシリル基を表す。)
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかにおいて、式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類と、式[2]もしくは式[2a]で表される末端アセチレン類を反応させ、式[3]もしくは式[3a]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を得る際、または、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、式[2]もしくは式[2a]で表される末端アセチレン類を反応させて、式[5]もしくは式[5a]で表わされる(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を得る際に、用いられる塩基性物質が有機アミン類であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかにおいて、式[1]で表される1−クロロ−2−トリフルオロメチル−エチレン類と、式[2]もしくは式[2a]で表される末端アセチレン類を反応させ、式[3]もしくは式[3a]で表される5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を得る際、または、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと、式[2]または式[2a]で表される末端アセチレン類を反応させて、式[5]または式[5a]で表わされる(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン類を得る際に、さらに3価のリン化合物を共存させることを特徴とする、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
(E)−7,7,7−トリフルオロ−2−メチル−5−ヘプテン−3−イン−2−オール。
【請求項8】
トリメチル−((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)シラン。
【請求項9】
(E)−6,6,6−トリフルオロ−4−ヘキセン−2−イン−1−オール。
【請求項10】
((E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イニル)ベンゼン。
【請求項11】
(E)−5,5,5−トリフルオロ−3−ペンテン−1−イン。


【公開番号】特開2006−83066(P2006−83066A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266220(P2004−266220)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】