説明

9−フルオレノン類の製造方法

【課題】本発明の目的は、分子状酸素含有ガスを用いたフルオレン類の酸化に代表される9−フルオレノン類の各種合成方法の欠点を克服し、9−フルオレノン類を経済的、かつ工業的に有利に製造する方法を提供することである。
【解決手段】 フルオレン類を有機溶媒に溶解させ、相間移動触媒、水およびアルカリの存在下、過酸化水素を使用し効率的に酸化をすることで高純度の9−フルオレノン類を従来の方法に比べて、工業的に有利に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料原料、医農薬中間体として有用な9−フルオレノン類の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的とする9−フルオレノン類の製造法としては、触媒としてジメチルスルホキシドを用いてフルオレンを液相空気酸化する方法(特許文献1)、また、触媒としてクロムイオン及び/又はコバルトイオン供与体を用い、溶媒としてN,N−ジアルキル低級飽和脂肪酸アミドを用いてフルオレンを酸化する方法(特許文献2)がある。しかし、これらの方法はフルオレノン類への転化率が低くフルオレノン類を高収率で得ることが困難である、また、廃水処理が困難であるといった問題点を抱えている為、経済的な工業的製造方法とは言えない。
【0003】
また、フルオレン類を有機溶媒に溶解させ相間移動触媒とアルカリ水溶液の存在下、分子状酸素含有ガスを用いて酸化することでフルオレノン類を得る方法(特許文献3及び特許文献4)も知られているが、この方法の場合、工業的規模で安全に反応を行う為には反応温度における蒸気圧が低く、反応中に気化する有機溶媒ガスが反応で使用する分子状酸素含有ガス中と混合した際に混合気の組成が爆発範囲に入らないような有機溶媒を選択しなければならず、このような有機溶媒は高価であったり、高沸点溶媒であることが多く、これらを使用後回収する際には非常にコストがかかる為に経済的に不利であり、なおかつこのような有機溶媒は、ハロゲン元素を含んでいることが多く、これらは環境汚染対策の面から扱いが困難なものが多い。また、これら分子状酸素含有ガスを用いて酸化することは液層、気層2層系での反応となり工業的に簡便な方法とは言い難い。
【特許文献1】米国特許3875237号公報
【特許文献2】特開昭56−32430号公報
【特許文献3】特開平6−211729号公報
【特許文献4】特開平9−124530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、これら従来技術の欠点を解決し、9−フルオレノン類を工業的な規模で、経済的、かつ工業的に有利に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべくフルオレン類の酸化において種々の酸化剤及び酸化方法について鋭意検討した。結果、フルオレン類を有機溶媒に溶解させ、相間移動触媒、水およびアルカリの存在下、通常、塩基性条件下では分解することが知られており、使用されない過酸化水素を、塩基性条件であっても、過酸化水素が分解を起すことなく効率的に酸化ができ、かつ高純度の9−フルオレノン類を従来の方法に比べて、工業的に有利に得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フルオレン類から高純度の9−フルオレノン類を従来の方法に比べて、工業的に有利に製造することができる。以下、本発明について更に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において原料として使用されるフルオレン類は、無置換のフルオレン、あるいは芳香環に炭化水素基やハロゲン原子などの置換基を1個以上有する置換フルオレンである。置換フルオレンの具体例としては、2−メチルフルオレン、2−エチルフルオレン、3−メチルフルオレン、3−エチルフルオレン、2,3−ジメチルフルオレン、2,7−ジメチルフルオレン、2,7−ジエチルフルオレン、2,7−ジビニルフルオレンなどの炭化水素基置換フルオレン、2−クロロフルオレン、2−ブロモフルオレン、3−クロロフルオレン、3−ブロモフルオレン、2,3−ジブロモフルオレン、2,7−ジクロロフルオレン、2,7−ジブロモフルオレンなどのハロゲン化フルオレンなどを例示することができる。これらの2種以上の混合物を原料とすることもできる。これらはいかなる製法で製造されたものであってもよい。
【0008】
本発明において使用される有機溶媒としては、アルカリ金属水溶液と反応性がないものであれば使用可能である。例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素等の水不溶性溶媒を例示することができるが、とくに芳香族、脂肪族又は脂環式の炭化水素やハロゲン化炭化水素を使用するのが好ましい。有機溶媒の使用量は、フルオレン類1重量部に対し、通常、0.2〜20重量部、好ましくは1〜5重量部である。
【0009】
本発明において使用される相間移動触媒として具体的には、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム、臭化トリメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルラウリルジメチルアンモニウム、硫酸水素化テトラ−n−ブチルアンモニウム、沃化テトラ−n−ブチルアンモニウムなどを例示することができる。これらは、通常フルオレン類1重量部に対し、0.001〜0.5重量部使用し、好ましくは0.01〜0.1重量部の割合で使用する。
【0010】
本発明において使用されるアルカリは通常、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物のうち一部または全部を水に溶解させたものであり、この中でもアルカリ金属水酸化物を水に溶解させたものが好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化ルビジウム、あるいはこれらの混合物を使用することができるが、工業的に入手が容易な水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いるのが好ましい。本発明で使用されるアルカリ類は、フルオレン類1モルに対し、通常1.0〜10モル、好ましくは1.0〜5モルの割合である。また、これらを溶解させる水は例えば水道水やイオン交換水等どのような水でも良く、その使用量は通常アルカリ金属1重量部に対し0.2〜9重量部であり、好ましくは0.5〜2重量部である。0.2重量部より少ないとアルカリ金属類が溶解せず攪拌困難となり、9重量部より多いと本発明を実施することには問題とならないが、容積効率が低下し生産性が悪化する。
【0011】
本発明において使用される過酸化水素は、通常過酸化水素を水で溶解させた過酸化水素水である。この過酸化水素水の濃度は限定されないが、通常10〜70重量%であり、好ましくは35〜60重量%である。60重量%を超えると防災上取り扱いが困難となり、35重量%より低いと反応を完結させるのが困難となることがある。
【0012】
本発明において使用される過酸化水素の量はフルオレン類1モルに対し、通常2.0〜5.0モル、好ましくは2.0〜3.0モルの割合である。2.0モルより少ないと反応を完結させることが出来ず、3.0モルより多いと過剰分の過酸化水素が分解することにより生成する酸素量が多くなり、これが防災面上の問題を引き起こす可能性がある。
【0013】
本発明において使用される過酸化水素は連続的あるいは間欠的添加により反応系へ供給することが好ましく、通常その時間は5分〜24時間、好ましくは30分〜8時間である。
【0014】
本発明の実施される反応温度は、通常0℃〜100℃、好ましくは30℃〜80℃、さらに好ましくは40℃〜70℃である。また本発明の酸化反応は、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法によっても行うことができる。
【0015】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中にある%及び重量比は特に断らない限りフルオレンを重量基準とする。例中の高速液体クロマトグラフィーを使用した分析は逆相カラム(5μm、4.6mmφ×150mm)を使用した液体クロマトグラフ(島津製作所(株)製LC−2010C)を用い、254nmの波長で測定した。また、9−フルオレノン類の純度については上述の条件で分析した高速液体クロマトグラフィーによる面積百分率値である。
【実施例1】
【0016】
温度計、リービッヒ冷却器及び攪拌棒を備えた4つ口フラスコにフルオレン10.0g(0.060モル)、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.50g(5重量%)、トルエン20.0g(2重量部)、50%水酸化カリウム水溶液10.1g(0.090モル)を仕込み、内温を50℃となるまで昇温を行った。昇温後、60%過酸化水素水7.0g(0.12モル)を内温50〜60℃、35分で滴下を行った。反応中、酸素の発生を監視していたが、酸素の発生は確認されなかった。滴下終了後高速液体クロマトグラフフィーにて反応液の分析を行い9−フルオレノンへの転化率を測定した所、転化率は99.5モル%であった。この反応液を定法により水洗、濃縮した所、10.8g(9−フルオレノン相当で0.060モル)の結晶が得られ、この結晶の純度は99.2%であった。
【実施例2】
【0017】
温度計、リービッヒ冷却器及び攪拌棒を備えた4つ口フラスコにフルオレン40.0g(0.24モル)、臭化トリメチルベンジルアンモニウム2.90g(9.5重量%)、トルエン80.0g(2重量部)、47.5%水酸化ナトリウム水溶液30.4g(0.36モル)を仕込み、内温を50℃となるまで昇温を行った。昇温後、60%過酸化水素水28.0g(0.49モル)を内温50〜60℃、5時間で滴下を行った。反応中、酸素の発生を監視していた所、60%過酸化水素水が残量約5%程度になった所で酸素の発生が認められ始め、反応が終了するまでに発生した酸素量は115mL(0.0051モル相当)であった。滴下後終了後高速液体クロマトグラフィーにて分析を行い9−フルオレノンへの転化率を測定した所、転化率は99.9モル%であった。この反応液を定法により水洗、濃縮した所、43.0g(9−フルオレノン相当で0.24モル)の結晶が得られ、この結晶の純度は98.7%であった。
【実施例3】
【0018】
温度計、リービッヒ冷却器及び攪拌棒を備えた4つ口フラスコに2,7−ジブロモフルオレン20.0g(0.062モル)、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.50g(2.5重量%)、o−ジクロロベンゼン80.0g(4重量部)、50%水酸化カリウム水溶液20.8g(0.19モル)を仕込み、内温を40℃となるまで昇温を行った。昇温後、35%過酸化水素水17.9g(0.18モル)を内温40〜50℃、7時間で滴下を行った。反応中、酸素の発生を監視していた所、60%過酸化水素水が残量約30%程度になった所で酸素の発生が認められ始め、反応が終了するまでに発生した酸素量は675mL(0.030モル相当)であった。滴下後終了後高速液体クロマトグラフィーにて反応液の分析を行い2,7−ジブロモー9−フルオレノンへの転化率を測定した所、転化率は99.1モル%であった。この反応液を定法により水洗、濃縮した所、20.9g(2,7−ジブロモ−9−フルオレノン相当で0.062モル)の結晶が得られ、この結晶の純度は98.5%であった。
【0019】
(比較例1)
攪拌機、焼結法で製造されたSUS316L製円筒状スパージャーを先端に取り付けたSUS316L製ガス吹込み管、還流冷却器付き排ガス抜き出し管及び温度計を取り付けた内容積500mLのフラスコに、o−ジクロロベンゼン311g(1.7重量部)、47%水酸化ナトリウム水溶液117.5g(1.4モル)、テトラブチルアンモニウムブロマイド4.86g(3重量%)及び9−フルオレン185.5g(1.1モル)を仕込み、攪拌下に30〜35℃に加熱した。空気吹き込み量0.2L/minとなるようにガス吹込み管を通じ内温40〜50℃で空気を導入し反応の進行を高速液体クロマトグラフィーにて追跡を行った。また、反応開始後、6時間目及び9時間目の気層部酸素濃度を測定した所、おおよそ8−9%の値を示した。反応マスの14時間導入時点で、フルオレンの含有率が0.1%より低くなったため、空気の導入を停止し黒褐色の反応液を得た。この反応液を高速液体クロマトグラフィーにて分析を行い、9−フルオレノンへの転化率を算出した所、転化率は99.8%であった。
【0020】
(比較例2)
実施例1において、50%水酸化カリウム水溶液を仕込まない点以外は実施例1の方法と同様に実験を行ったところ、60%過酸化水素水を滴下すると同時に酸素の発生が確認され、滴下終了後の段階で1300mL(0.058mol)の酸素が確認された。また、高速液体クロマトグラフィーにて反応液の分析を行なったが反応は全く進行していなかった。
【0021】
(比較例3)
実施例1においてテトラブチルアンモニウムブロマイドを仕込まない点以外は実施例1の方法と同様に実験を行ったところ、60%過酸化水素水を滴下すると同時に酸素の発生が確認され、滴下終了後の段階で1300mL(0.058mol)の酸素が確認された。また、高速液体クロマトグラフィーにて反応液の分析を行なった所、9−フルオレノンのピークは痕跡量程度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン類を有機溶媒、水、相間移動触媒及びアルカリの存在下、過酸化水素と反応させることを特徴とする9−フルオレノン類の製造方法。
【請求項2】
アルカリがアルカリ金属水酸化物やアルカリ土類水酸化物であり、これらの使用量がフルオレン類1モルに対し1〜10モルであることを特徴とする請求項1記載の9−フルオレノン類の製造方法。
【請求項3】
9−フルオレノン類が9−フルオレノンである請求項1または2記載の9−フルオレノン類の製造方法。

【公開番号】特開2011−251935(P2011−251935A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126397(P2010−126397)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】