説明

Alスクラップの精製方法

【課題】本発明は、Alスクラップから所定の高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度となるAl精製体を高効率で生産できるAlスクラップの精製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】押し固め板4により初晶3aの集積体に所定圧力を所定時間付与することで、回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるような厚さLの圧搾された初晶3aの集積体(hの回収固相5a)を得た後、再び押し固め板4により初晶3bの集積体に所定圧力を所定時間付与することで、回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるような厚さLの圧搾された初晶3bの集積体(hの回収固相5b)を得る構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルミニウム(以下、「Al」と称す)スクラップから不純物元素としてのシリコン(以下、「Si」と称す)を高い割合で除去し、かつ、Al晶出物(以下、「初晶」とも称す)の回収率が高いAlスクラップの精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クラッド材などの生産量が増加し、それに伴う屑の量が増加している。しかし、クラッド材は、組成の異なる数種類のAl合金を重ねて作成するため、上記屑から製品への単純なリサイクルは困難である。そこで、上記屑(Alスクラップ)を精製し、不純物元素が取り除かれた再利用可能なAl材を作成する技術が望まれている。
【0003】
上記要望に応える技術として、いくつかの方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、容器にSiを0.5〜10質量%含むAl合金スクラップ溶湯を収容し、溶湯の液相線以下でかつ固相線以上の温度まで溶湯のほぼ全域を20℃/min以下の速度で冷却させて初晶を発生させ、次いで容器の上部から押し固め板を下降させて、Al晶出物(初晶)の集積体と濃化液相とを形成し、次いで押し固め板の下部面に対し2〜15MPaの圧力に相当する荷重を押し固め板に付与することで押し固めた初晶を濃化液相から分離して回収するAlスクラップの精製方法が開示されている。また、回収された初晶および/または濃化液相を、他の原料Al溶湯と混合することを特徴とするAlスクラップの再利用方法も開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、精製しようとする金属溶湯を冷却して初晶粒子を発生させ、初晶粒子を含む固相率0.3未満の金属溶湯を得る工程と、この初晶粒子を含む固相率0.3未満の金属溶湯を成形型に供給し、成形型内で冷却しながら、初晶粒子と濃化溶湯が混在する所定の断面形状の固相率0.3〜0.7の成形体を連続的に製造する工程と、得られた成形体に圧力を加えて初晶粒子塊と濃化溶湯とに分離して回収する工程、を含む金属の精製方法とこの方法を実現するユニットを備えた金属の精製装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、容器内にAlスクラップ溶湯を収容し、このAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させ、次に容器の上部から押し固め板を下降させて、Al晶出物(初晶)の集積体と濃化液相とを形成し、次に押し固め板により初晶の集積体に所定圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相とに分離し、押し固め板を濃化液相より上方に上昇させ、次に濃化液相に対して上記冷却・圧力付与・分離工程を繰り返すことにより、連続圧搾された初晶の集積体が積層したAl精製体を回収するAlスクラップの精製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−54061号公報
【特許文献2】特許第3490808号公報
【特許文献3】特開2010−132984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜3に開示された技術には、以下のような問題点が存在する。
【0009】
すなわち、特許文献1に記載のAlスクラップの精製方法に関する技術は、Siの除去率(以下、「Si除去率」とも称す)と初晶の回収率(以下、「Al回収率」とも称す)とが相反する関係にあり、高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足させることができない。したがって、例えば高いSi除去率となる条件でAlスクラップの精製を行った場合には、Al合金スクラップ溶湯から高いAl回収率となるAl精製体を得るまでに極めて時間がかかり、生産性が悪い。
【0010】
また、特許文献2に記載の金属の精製方法は、連続的に精製する方法ではあるが、流動性のない半固化成形体に圧力を加えて固液分離するため、分離効率が低い。すなわち、Si除去率が低くなる。また、この方法では、精製物の重量が精製しようとする金属溶湯(原料)のほぼ50%までしか得られない。
【0011】
また、特許文献3に記載のAlスクラップの精製方法に関する技術は、上記特許文献1、2に開示された技術の問題点を解消し、Alスクラップから高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足するAl精製体を得ることができる点では優れている。しかし、高いAl回収率(例えば、約70%)を有するAl精製体を得るためには、圧搾回数が3回必要であり、生産効率の点でまだ難がある。また、本技術では、積層した状態で得られるAl精製体の各層の所定のSi濃度を予め決定(設計)し、Alスクラップの精製を行なうことなど望むべくもない。
【0012】
本発明の目的は、Alスクラップから所定の高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度となるAl精製体を高効率で生産できるAlスクラップの精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
(1)容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる工程、
(2)前記(1)工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(3)当該押し固め板を前記濃化液相より上方に上昇させる工程、
を行った後、下記(4)〜(6)の工程を少なくとも1回以上行うものであって、
(4)前記濃化液相を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記濃化液相内に改めて初晶を発生させる工程、
(5)前記(4)工程で発生した初晶を含む濃化液相が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、この初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(6)当該押し固め板を前記(5)工程で得られた濃化液相より上方に上昇させる工程、
前記(2)または(5)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に発生し圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)が下記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるように、初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与し圧搾することを特徴とするAlスクラップの精製方法である。
【数1】

【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記所定圧力は、6MPa以上7MPa以下であり、かつ、前記所定時間は、10分以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記(4)〜(6)の工程は、圧搾された初晶の集積体を積層して得られるAl精製体の初晶の回収率が70〜80%に達するまで行われることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記(1)または(4)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に初晶を発生させる際に、攪拌冷却が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係るAlスクラップの精製方法は、
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
(1)容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる工程、
(2)前記(1)工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(3)当該押し固め板を前記濃化液相より上方に上昇させる工程、
を行った後、下記(4)〜(6)の工程を少なくとも1回以上行うものであって、
(4)前記濃化液相を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記濃化液相内に改めて初晶を発生させる工程、
(5)前記(4)工程で発生した初晶を含む濃化液相が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、この初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(6)当該押し固め板を前記(5)工程で得られた濃化液相より上方に上昇させる工程、
前記(2)または(5)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に発生し圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)が下記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるように、初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与し圧搾することを特徴とする。
【数1】

【0018】
以上のように、本発明では、前記(2)または(5)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に発生し圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)が上記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるように、初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与し圧搾するため、Alスクラップから所定の高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度となるAl精製体を高効率で生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例のAlスクラップの精製方法のプロセスを時系列的に説明するための模式図である。
【図2】図1に示すプロセスを用いた時のAl−Siの模式平衡状態図である。
【図3】本発明に係る第1、2段階の精製工程における圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)、(L)を回帰式(1)および(2)を用いてそれぞれ(C1、Si)と(C1、0)並びに(C2、Si)と(C2、0)に基づき予め算出する手法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、実施形態を例示しつつ、詳細に説明する。
【0021】
(本発明に係るAlスクラップの精製方法の構成)
本発明に係るAlスクラップの精製方法は、
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
(1)容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる工程、
(2)前記(1)工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(3)当該押し固め板を前記濃化液相より上方に上昇させる工程、
を行った後、下記(4)〜(6)の工程を少なくとも1回以上行うものであって、
(4)前記濃化液相を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記濃化液相内に改めて初晶を発生させる工程、
(5)前記(4)工程で発生した初晶を含む濃化液相が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、この初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(6)当該押し固め板を前記(5)工程で得られた濃化液相より上方に上昇させる工程、
前記(2)または(5)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に発生し圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)が下記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるように、初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与し圧搾することを特徴とする。
【数1】


また、
【数2】

【数3】

【0022】
以上のような構成であるため、本発明は、Alスクラップから所定の高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度となるAl精製体を高効率で生産できる。
【0023】
以下に、上記構成に至った理由について述べる。
【0024】
本発明者達は、如何にしたらAlスクラップから所定の高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度となるAl精製体を高効率で生産できるのか鋭意研究を行った。
【0025】
その結果、容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
(1)容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる工程、
(2)前記(1)工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(3)当該押し固め板を前記濃化液相より上方に上昇させる工程、
を行った後、下記(4)〜(6)の工程を少なくとも1回以上行うものであって、
(4)前記濃化液相を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記濃化液相内に改めて初晶を発生させる工程、
(5)前記(4)工程で発生した初晶を含む濃化液相が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、この初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(6)当該押し固め板を前記(5)工程で得られた濃化液相より上方に上昇させる工程、
前記(2)または(5)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に発生し圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)が下記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるように、初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与し圧搾する構成であれば、目的を達成できることを見出した。すなわち、目標とする所定のSi除去率とAl回収率を同時に満足するAl精製体を最も効率良く得るために、当業者においても想到し得ない、下記回帰式(1)を試行錯誤の上、見出したことに中核をなすポイントがある。なお、下記回帰式(1)は実験結果から得られたものであり、実験上のばらつきなども考慮すると、前記(2)または(5)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に発生し圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)を下記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるように制御すればよい。

【数1】

【0026】
また、前記(2)または(5)の工程において、例えば前記所定圧力は、6MPa以上7MPa以下であり、かつ、前記所定時間は、10分以上であるのが好ましい。何故ならば、前記所定圧力が6MPa未満では十分なSi除去率が得られず、また7MPaを超えてもSi除去率に大きな変化がないためである。また、前記所定圧力を付与する前記所定時間に関しても、5分では圧搾される初晶の集積体から十分に液相は排出しきれず、8分でほぼ液相排出の効果は一定となるが、安全率を考慮すると10分以上が適当である。また、押し固め板には通液孔が明けられているのが好ましい。これにより、圧搾時の液相排出が速やかに進行する。
【0027】
また、前記(4)〜(6)の工程は、圧搾された初晶の集積体を積層して得られるAl精製体の初晶の回収率が70〜80%に達するまで行われれば、十分な精製が実現できたことになる。何故ならば、Al精製体のAl回収率が70〜80%に達した場合の残りの濃化液相は、不純物元素が極めて濃化しており、切り捨てる部分であるためである。また、この残りの20〜30%の部分は、鋳物原料として再利用される。
【0028】
また、前記(1)または(4)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に初晶を発生させる際に、液が静止した状態で冷却させるよりも攪拌冷却させる方が、初晶の集積体に所定圧力を付与し、圧搾された初晶の集積体と濃化液相に分離する場合に、圧搾される初晶の集積体から液相部分を排出させる経路が複雑にならないため、より好ましい。何故ならば、液が静止した状態で冷却させた場合は、発生する初晶の形状がデンドライトになるが、攪拌冷却させた場合は、発生する初晶の形状が丸くなるからである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明のAlスクラップの精製方法の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は本発明の一実施例のAlスクラップの精製方法のプロセスを時系列的に説明するための模式図であって、(a)は容器1内にAlスクラップ溶湯2を収容した状態を示す図、(b)はAlスクラップ溶湯2を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、Alスクラップ溶湯2内に初晶3aを発生させる工程図、(c)は初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2が収容された容器1の上部から押し固め板4を下降させて、初晶3aの集積体と濃化液相とに分離するとともに、押し固め板4により初晶3aの集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体(以下、「回収固相5a」と称す)と濃化液相6aを得る圧搾工程図、(d)は容器1内に収容された(c)に示された濃化液相6aを液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、濃化液相6a内に改めて初晶3bを発生させる工程図、(e)は初晶3bを含む濃化液相6aが収容された容器1の上部から押し固め板4を下降させて、初晶3bの集積体と濃化液相とに分離するとともに、押し固め板4により初晶3bの集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体(以下、「回収固相5b」と称す)と濃化液相6bを得る圧搾工程図である。なお、図1(c)と図1(d)の間には、押し固め板4を上昇させて、押し固め板4を容器1外へ取り出す工程があるが、ここでは図示を省略する。
【0031】
図2は図1に示すプロセスを用いた時のAl−Siの模式平衡状態図である。
【0032】
以下に、本実施例のAlスクラップの精製方法のプロセスを図1〜図3を用いて、時系列的に詳細に説明する。なお、本実施例においては、下記表1に示すように、所定の高いSi除去率(例えば、50%)と高いAl回収率(例えば、69.8%)を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度(例えば、0.75質量%)となる積層した状態で得られるAl精製体(すなわち、回収全固相)の厚さが195.3mmを目標とした。
【0033】

【表1】

【0034】
図1(a)において、容器1は内径100mm、高さ300mmの円筒型の黒鉛製であり、この容器1の周囲にはヒータ(図示せず)と冷却装置(図示せず)が配設されている。また、この容器1の中にはAl−1.5質量%Si−0.1質量%Feの成分(この組成を初期組成Cで示す)からなる6kgの合金(Alスクラップ)が溶解され収容されている(Alスクラップ溶湯2の高さをhで示す)。また、このAlスクラップ溶湯2の高さhは、280mmである。
【0035】
図1(b)において、Alスクラップ溶湯2を攪拌しながら、図2に示す液相線以下でかつ固相線以上の温度T(640℃(上記表1参照))まで上記ヒータと冷却装置を調節しながら冷却させて、Alスクラップ溶湯2内に初晶3a(初晶濃度:Cs1(図2参照))を発生させる。
【0036】
図1(c)において、上記温度T(ここでは、この温度を圧搾温度と称す。上記表1参照)で初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2が収容された容器1の上部から外径90mmの鉄製の押し固め板4をゆっくり下降させて、初晶3aの集積体と濃化液相6aとに分離するとともに、押し固め板4により初晶3aの集積体に所定圧力(6.5MPa)を所定時間(10分間)付与すること(圧搾回数:1回目、上記表1参照)で、上記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるような厚さLの圧搾された初晶3aの集積体(図1に示す高さhの回収固相5aに同じ)と濃化液相6a{液相濃度:CL1(図2参照)}を得る。なお、圧搾された初晶の集積体(図1に示す高さhの回収固相5a)の厚さLは、上述したAlスクラップ溶湯2内に発生させ、圧搾されることにより形成される初晶3aの集積体の事前に設計した所定のSi濃度C1、Si=0.75質量%と上述したAlスクラップ溶湯2内のSi濃度C1、0=1.5質量%を用いて、上記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるような厚さLは125mmである(上記表1と図3参照)。また、上記圧搾温度Tは、1回目の固相率f1、S=(上記圧搾された初晶3aの集積体の厚さL=125mm=h)/(Alスクラップ溶湯2の高さh=280mm)から図2に示す平衡状態図を用いて事前に決定できる。この後、押し固め板4を上昇させて、押し固め板4を容器1外へ取り出す。
【0037】
図1(d)において、容器1の下層に回収固相5aが収容され、さらに回収固相5aの上部にある濃化液相6aを攪拌しながら、図2に示す液相線以下でかつ固相線以上の温度T2(630℃(上記表1参照))まで上記ヒータと冷却装置を調節しながら冷却させて、濃化液相6a内に初晶3b(初晶濃度:Cs2(図2参照))を発生させる。
【0038】
図1(e)において、回収固相5aの上部にある初晶3bを含む濃化液相6aが収容された容器1の上部から押し固め板4を下降させて、初晶3bの集積体と濃化液相6bとに分離するとともに、押し固め板4により初晶3bの集積体に所定圧力(6.5MPa)を所定時間(10分間)付与すること(圧搾回数:2回目、上記表1参照)で、上記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるような厚さL(図1に示す高さhの回収固相5bに同じ)の圧搾された初晶3bの集積体と濃化液相6b{液相濃度:CL2(図2参照)}を得る。なお、圧搾された初晶の集積体(図1に示す高さhの回収固相5b)の厚さLは、上述した濃化液相6a内に発生させ、圧搾されることにより形成される初晶3bの集積体の事前に設計した所定のSi濃度C2、Si=0.75質量%と上述した濃化液相6a内のSi濃度C2、0=2.0質量%を用いて、上記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるような厚さLは70.3mmである(上記表1と図3参照)。また、上記圧搾温度Tは、2回目の固相率f2、S=(上記圧搾された初晶3bの集積体の厚さL=70.3mm=h)/{濃化液相6aの高さ(h−h)=155mm)から図2に示す平衡状態図を用いて事前に決定できる。この後、押し固め板4を上昇させて、押し固め板4を容器1外へ取り出す。上記本発明例の目標(=予測;上記表1参照)を目指して、試験し、その後実側したものが試験No.1{本発明例の実測(上記表1参照)}である。
【0039】
また、比較例として、本発明例と略同一の初期組成C(=1.53質量%、上記表1参照)を有するAlスクラップ溶湯2を用いて、上記表1に示すように1回の圧搾回数(すなわち、上記本発明例における工程中の図3(a)〜図3(c)に対応する工程)のみで、本発明例の目標(予測)値と同じ積層した状態で得られるAl精製体(回収全固相)の厚さが195.3mmになるように実施したものを試験No.2とした。
【0040】
上記試験No.1、2に関して、それぞれ上述した定義式(3)に従うSi除去率と上述した定義式(2)に従うAl回収率を求めた。ただし、試験No.1、2のSi除去率に関しては、定義式(3)中のCi、Siにおいて「設計し」を「実測し」と読み替える。
【0041】
その結果、試験No.2(比較例)に関しては、1回の圧搾回数で得られたAl精製体(回収全固相)の厚さが210mmで、Al回収率が74.2%と目標とする所定の高いAl回収率69.8%以上が得られたが、Si除去率が39.2%と目標とする所定の高いSi除去率50%を達成することができなかった(上記表1参照)。また、Al精製体(回収全固相)のSi濃度は、0.93質量%であった(上記表1参照)。
【0042】
しかし、試験No.1に関しては、積層した状態で得られるAl精製体(回収全固相)の厚さが205mmと目標とするAl精製体(回収全固相)の厚さ195.3mmと略同等で、Al回収率が73.2%と目標とする所定の高いAl回収率69.8%以上が得られるばかりか、Si除去率も50.3%と目標とする所定の高いSi除去率50%を達成することができた(上記表1参照)。
【0043】
このように本願発明のAlスクラップの精製方法を用いることで、1回の圧搾回数(上述した比較例)では決して得られることのない目標とした所定の高いSi除去率(例えば、50%)と高いAl回収率(例えば、69.8%)を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度(例えば、0.75質量%)となる積層した状態で得られるAl精製体(すなわち、回収全固相)の厚さが195.3mm相当のものを、合計2回の圧搾回数という少ない圧搾回数で得られた{従来技術(上記特許文献3に記載の技術)ならば、合計3回の圧搾回数を要した}。すなわち、Alスクラップから所定の高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足し、かつ各層のSi濃度が設計した所定のSi濃度となるAl精製体を高効率で生産できる。
【0044】
なお、本実施例では、上述した(4)〜(6)の工程を1回行なう例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、目標とする所定のAl回収率(合計)に応じて、上述した(4)〜(6)の工程を少なくとも1回以上行えばよい。
【0045】
また、本実施例においては、Alスクラップ溶湯2の成分がAl−1.5質量%Si−0.1質量%Feである例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有したものに対して、本願発明の技術思想を適応可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 容器
2 Alスクラップ溶湯
3a、3b 初晶
4 押し固め板
5a、5b 回収固相
6a、6b 濃化液相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
(1)容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる工程、
(2)前記(1)工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(3)当該押し固め板を前記濃化液相より上方に上昇させる工程、
を行った後、下記(4)〜(6)の工程を少なくとも1回以上行うものであって、
(4)前記濃化液相を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記濃化液相内に改めて初晶を発生させる工程、
(5)前記(4)工程で発生した初晶を含む濃化液相が収容された容器の上部から押し固め板を下降させて、この初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程、
(6)当該押し固め板を前記(5)工程で得られた濃化液相より上方に上昇させる工程、
前記(2)または(5)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に発生し圧搾された初晶の集積体の厚さ(L)が下記回帰式(1)によって得られる値の±10%の範囲内となるように、初晶の集積体に所定圧力を所定時間付与し圧搾することを特徴とするAlスクラップの精製方法。
【数1】

【請求項2】
前記所定圧力は、6MPa以上7MPa以下であり、かつ、前記所定時間は、10分以上であることを特徴とする請求項1に記載のAlスクラップの精製方法。
【請求項3】
前記(4)〜(6)の工程は、圧搾された初晶の集積体を積層して得られるAl精製体の初晶の回収率が70〜80%に達するまで行われることを特徴とする請求項1に記載のAlスクラップの精製方法。
【請求項4】
前記(1)または(4)の工程において、Alスクラップ溶湯内或いは濃化液相内に初晶を発生させる際に、攪拌冷却が用いられることを特徴とする請求項1に記載のAlスクラップの精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−201931(P2012−201931A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68081(P2011−68081)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】