説明

B型肝炎ウイルスタンパク質中空ナノ粒子とリポソームを用いた物質運搬体、ならびに細胞への物質導入方法

【課題】標的細胞や標的組織へ、導入物質を特異的、効率的かつ安全に運搬、導入するための複合粒子、及びその製造法を提供する。
【解決手段】B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を含む中空ナノ粒子を、導入物質を封入したリポソームと融合させることを特徴とする、導入物質を内包するナノ粒子とリポソームの複合粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の細胞および組織に物質を導入することが可能な運搬体である中空ナノ粒子へ導入物質を内包させるための方法及び導入物質を内包した複合粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤の副作用を低減させるべく、ドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼ばれる方法が注目されている。DDSは、薬剤などの有効成分を運搬体にて、患部等の目的細胞、あるいは目的組織へ特異的に運搬し、目的箇所で有効成分を作用させることのできる方法である。
本発明者らは、これまでに、B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質から構成される粒子(HBsAg粒子)に生体認識分子が導入されたものが、目的箇所へ導入物質を特異的、かつ安全に運搬し、導入するためのDDS運搬体として有効であることを見出している(WO01/64930, WO03/082330, WO03/082344)。該粒子に薬剤や遺伝子、タンパク質などの導入物質を内包させるには、従来はエレクトロポレーション法を用いて行っていた。エレクトロポレーション法を実施するにあたっては、エレクトロポレーション専用装置と同装置の操作に関する専門的知識を要することから、同法により導入物質を中空ナノ粒子へ内包させる方法を実施するには一定の制約があった。
WO97/17844に示されるように、脂質含量が70%程度の脂質を主成分とするセンダイウイルス粒子は同じ脂質であるリポソームと容易に複合粒子を形成してウイルス粒子に導入物質を内包させることは知られているが、HBsAgタンパク質粒子とリポソームとの相互作用については、知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、標的細胞や標的組織へ導入物質を特異的、効率的かつ安全に運搬、導入するための複合粒子及びその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、HBsAg粒子のようにタンパク質が主成分である中空ナノ粒子であっても、リポソームと混合することで、両者が融合して複合粒子を形成し、該中空ナノ粒子に導入物質を内包させ得ることを見出した。
【0005】
本発明は、以下の複合粒子及びその製造方法に関する。
1. B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を含む中空ナノ粒子を、導入物質を封入したリポソームと融合させることを特徴とする、導入物質を内包するナノ粒子とリポソームの複合粒子の製造方法。
2. 前記中空ナノ粒子の粒径が、80〜130nmである、項1に記載の方法。
3. 前記複合粒子の粒径が130〜500nmである、項1に記載の方法。
4. 前記複合粒子の粒径が150〜400nmである、項1に記載の方法。
5. B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を含む中空ナノ粒子が、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、5〜15重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される、項1に記載の方法。
6. 前記中空ナノ粒子が予め凍結乾燥又は噴霧乾燥処理されている、項1〜5のいずれかに記載の方法
7. B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、リン脂質、脂質及び糖鎖から構成されるナノ粒子部と、該ナノ粒子部に内包された外因性の導入物質を含む複合粒子。
8. 前記複合粒子の粒径が150〜400nmである、項7に記載の複合粒子。
9. 前記ナノ粒子部が、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、6〜75重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される、項6又は7に記載の複合粒子。
10. 項1〜6のいずれかの方法により得ることができる、導入物質を内包したナノ粒子とリポソームの複合粒子。
11. 項7〜9のいずれかに記載の複合粒子又は項10に記載の複合粒子を標的細胞に作用させることを包含する導入物質を標的細胞に導入する方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、HBsAg粒子のようなタンパク質含量が高くて硬い(rigid)、中空ナノ粒子に容易に導入物質を内包させることができる。導入物質は、例えば100nm〜500nmのような導入物質の内包前の中空ナノ粒子に匹敵するあるいはそれよりはるかに大きい物質であってもよい。
【0007】
また、リポソームを用いて導入物質を内包させた本発明の複合粒子は、中空ナノ粒子に対してエレクトロポレーション法により導入物質を内包させた粒子よりも導入物質の導入効率が向上する。
【0008】
さらに、プラスミドなどのDNA、RNAは、リポソームに封入後に中空ナノ粒子と融合することで、DNA、RNAよりも小さいサイズの複合粒子とすることができる。
【0009】
本発明の複合粒子を用いることで、in vitroあるいはin vivoにおいて特定の細胞または組織に特異的に物質を導入することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、導入物質を内包する、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を含む中空ナノ粒子としては、HBsAgタンパク質粒子などが例示される。なお、HBsAgタンパク質は、B型肝炎ウィルス内部コア抗原タンパク質と組み合わせて粒子を形成してもよい。
【0011】
本明細書において、複合粒子、中空ナノ粒子、導入物質(核酸、タンパク質、薬物等)の大きさは、電子顕微鏡により測定してもよく、ゼーターサイザーナノ-ZS(Malvern Instruments)などにより光学的に測定してもよい。
【0012】
本発明で導入物質を内包するための中空ナノ粒子は、B型肝炎ウイルスタンパク質を主成分として包含し、該タンパク質は糖鎖を有していてもよい。また、該中空粒子には脂質成分が含まれていてもよい。
【0013】
1つの好ましい実施形態において、中空ナノ粒子は、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、5〜15重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される。本願の実施例で使用されている中空ナノ粒子は、B型肝炎ウイルスタンパク質80重量部、糖鎖10重量部、脂質10重量部からなる(J Biotechnol. 1992 Nov;26(2-3):155-62. Characterization of two differently glycosylated molecular species of yeast-derived hepatitis B vaccine carrying the pre-S2 region. Kobayashi M, Asano T, Ohfune K, Kato K.)。リポソームとの融合が公知のセンダイウイルスは、脂質が主成分であり、リポソームに少量のタンパク質が浮いている構造を有している(Methods Enzymol. 1993;221:18-41. Okada Y. Sendai virus-induced cell fusion.)。センダイウイルスは膜に刺さっているFタンパク質の膜融合作用により融合すると考えられている。本発明の中空ナノ粒子は、膜に刺さっているB型肝炎ウイルスタンパク質自身に膜融合活性があるとの報告は無く、本発明者が同活性を見出したことにより初めてリポソームとの融合が観察された。タンパク質含量の高いウイルス粒子に膜融合活性があることは本件出願前には誰も予測できなかった。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、リポソームと融合した後の、複合体を内包したナノ粒子部(複合体などの内包された物質以外の構造部分)は、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、6〜75重量部の脂質(5〜15重量部の真核生物の膜の構成成分の脂質と、1〜60重量部のリポソームの構成成分の脂質を含む)、5〜20重量部の糖鎖から構成され得る。
【0015】
本発明の複合粒子は、少なくとも1つのリポソームと少なくとも1つの中空ナノ粒子の脂質部分が部分的または完全に融合し、この脂質膜にB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が突き刺さった構造を有し得る(図1B)。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、リポソームと融合した後の複合粒子の導入物質を内包したナノ粒子部(導入物質などの内包された物質以外の構造部分)は、70〜85重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、5〜15重量部の脂質(真核生物の膜の構成成分)、2〜30重量部の脂質(リポソームの構成成分)、5〜15重量部の糖鎖から構成され得る。
【0017】
リポソームは100%リン脂質のリポソームも使用可能であるが、このリポソームは柔軟性が低下する傾向にある。本発明で使用するリポソームは、リン脂質を主成分とし、コレステロールなどの少量の他の脂質成分を含むものが膜の流動性をあげて、柔軟性をもたせるために好ましい。リポソーム中のリン脂質成分はリポソーム総重量に対し80%程度またはそれ以上が好ましく、コレステロールなどの他の脂質成分はリポソーム総重量に対し20%程度またはそれ以下であるのが好ましい。中空ナノ粒子と融合したリポソームの脂質は、複合粒子の脂質膜を構成する。中空ナノ粒子とリポソームは、1:1で融合してもよく、中空ナノ粒子1個に複数のリポソームが融合することも可能であり、さらに、1個のリポソームと複数の中空ナノ粒子が融合することも可能であり、複数の中空ナノ粒子と複数のリポソームが融合することも可能である。
【0018】
中空ナノ粒子に取り込まれる(したがって中空ナノ粒子の構成要素である)真核細胞の小胞体膜はリン脂質が主成分であり得る。リン脂質には、フォスファチヂルコリン(PC)、フォスファチジルセリン(PS)、フォスファチジルエタノールアミン(PE)などが含まれ、例えば酵母ではフォスファチジルコリン(PC)が主成分である。小胞体膜の組成は、真核細胞の種類によって変化する。中空ナノ粒子を製造するために用いられる真核細胞としては、哺乳類細胞(CHO細胞、HEK293細胞、COS細胞など)、昆虫細胞(Sf9、Sf21、HighFive株など)、酵母などが挙げられ、これらの真核細胞の小胞体膜が中空ナノ粒子の脂質の構成要素となる。
【0019】
図3に示されるように、本発明の複合粒子は、エレクトロポレーションと比較して物質の導入効率が格段に優れている。
【0020】
なお、本明細書において、「中空ナノ粒子」とは、導入物質を内包する前の粒子を意味し、「ナノ粒子」とは、導入物質を内包した後の粒子を意味する。「複合粒子」とは、中空ナノ粒子と、導入物質を内包したリポソームが融合し、ナノ粒子に導入物質が内包された粒子を指す。
【0021】
HBsAgに包含され、S粒子の構成要素であるSタンパク質(226アミノ酸)は、粒子形成能を有している。S粒子に55アミノ酸からなるPre-S2を付加したのがMタンパク質(M粒子の構成蛋白)であり、M蛋白に108アミノ酸(サブタイプy)または119アミノ酸(サブタイプd)からなるPre-S1を付加したものがLタンパク質(L粒子の構成蛋白)である。
【0022】
なお、本願明細書では特に断らない限り、Pre-S1領域のアミノ酸位置の番号付けは、108アミノ酸のサブタイプyに基づいて行う。
【0023】
Lタンパク質、Mタンパク質はSタンパク質と同様に粒子形成能を有している。従って、PreS1およびPreS2の2つの領域は任意に置換、付加、欠失、挿入を行ってもよい。例えばPre-S1領域の3-77位(サブタイプy)に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質を用いることで、肝細胞認識能を失った中空粒子を得ることができる。また、PreS2領域にはアルブミンを介して肝細胞を認識する部位が含まれているので、このアルブミン認識部位を欠失させることもできる。一方、S領域(226アミノ酸)は粒子形成能を担っているので、S領域の改変は、粒子形成能を損なわないように行う必要がある。例えば、S領域の107-148は削除しても粒子形成能を保持するので(J. Virol. 2002 76 (19), 10060-10063)、置換、付加、欠失、挿入等を行ってもよく、C末端部の疎水性の154-226残基も同様に置換、付加、欠失、挿入などを行っても粒子形成能を保持し得る。一方、S領域の8-26残基部(TM1)および80-98残基部(TM2)は膜貫通helix(transmembrane配列)であり、この領域は変異を行わないか、欠失、付加、置換等は、膜貫通特性を維持するように疎水性の残基を残して行うのが望ましい。
【0024】
1つの好ましい実施形態において、B型肝炎ウイルスタンパク質の改変体としては中空ナノ粒子を形成する能力を有する限り種々の改変体が広く包含され、HBsAgを例に取ると、PreS1とPreS2領域に関しては任意の数の置換、欠失、付加、挿入が挙げられ、S領域に関しては、1又は数個もしくは複数個、例えば1〜120個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に1〜5個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されていてもよい。置換、付加、欠失、挿入などの変異を導入する方法としては、該タンパク質をコードするDNAにおいて、例えばサイトスペシフィック・ミュータジェネシス(Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382 (1987);同 100, 468 (1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984))などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段(例えばDNA合成機を使用する)(J. Am. Chem. Soc., 89, 4801(1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett.,22, 1859 (1981))などが挙げられる。コドンの選択は、宿主のコドンユーセージを考慮して決定できる。
【0025】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体としてLタンパク質、Mタンパク質などの肝細胞を認識可能なタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合には、細胞認識部位を導入する必要はない。一方、Pre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質、或いはPreS1とPreS2の両方の領域を欠失させたタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合、そのままでは細胞認識ができないので、細胞認識部位を導入して、肝細胞以外の任意の細胞を認識させ、核酸を種々の標的細胞に導入することができる。このような特定の細胞を認識する細胞認識部位としては、例えば成長因子、サイトカイン等のポリペプチドからなる細胞機能調節分子、細胞表面抗原、組織特異的抗原、レセプターなどの細胞および組織を識別するためのポリペプチド分子、ウィルスおよび微生物に由来するポリペプチド分子、抗体、糖鎖などが好ましく用いられる。具体的には、癌細胞に特異的に現れるEGF受容体やIL−2受容体に対する抗体やEGF、またHBVの提示するレセプターも含まれる。或いは、抗体Fcドメインを結合可能なタンパク質(例えば、ZZタグ)、ストレプトアビジンを介してビオチン標識した生体認識分子を提示するためにビオチン様活性を示すストレプトタグなどを使用することもできる。
【0026】
上記ZZタグとは、イムノグロブリンGのFc領域と結合する能力を有するアミノ酸配列と規定され、次の2回繰り返し配列からなる(ZZ タグ の配列(配列番号1):
VDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPKVDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK)。
【0027】
細胞認識部位がポリペプチドである場合には、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAと細胞認識部位をコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させることにより、任意の標的細胞を認識する中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0028】
細胞認識部位が抗体である場合、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAとZZタグをコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させ、得られた中空バイオナノ粒子と標的細胞を認識し得る抗体を混合することにより、目的とする、中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0029】
細胞認識部位が糖鎖の場合、中空ナノ粒子に化学修飾によりビオチンを付加し、ストレプトアビジンなどを介してビオチン標識糖鎖などを提示する方法が挙げられる。
【0030】
HBsAgタンパク質の改変体としては、抗原性(エピトープなどの抗原性に関与する部位を欠失/置換した改変体)、粒子構造の安定性、細胞選択性等を改変した改変体であってもよい。
【0031】
中空ナノ粒子の大きさは、50〜500nm、好ましくは80〜130nm程度である。中空ナノ粒子は、特に封入される導入物質が大きい場合にはある程度以上の大きさであるのが望ましい。中空ナノ粒子を大きくするためには、例えばS領域のN末端に付加しているPre-S領域のサイズを大きくすると(Pre-S1+Pre-S2を足した163残基(サブタイプy)よりも大きくすると)粒子のサイズが大きくなることが本発明者により確認されている。
【0032】
該粒子を構成するB型肝炎ウイルスタンパク質又はその改変体としてより長いものを使用すればよい。例えば肝細胞を標的化する場合にはL粒子或いは同等程度の大きさの中空バイオナノ粒子が好ましく使用され、S蛋白/M蛋白、或いはPre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させたタンパク質に細胞認識部位を導入して、肝細胞以外の細胞を標的化する中空粒子を得ることができる。
【0033】
真核細胞でHBsAgタンパク質を発現させると、該タンパク質は、小胞体膜上に膜蛋白として発現、蓄積され、ナノ粒子として放出されるので好ましい。真核細胞としては、哺乳類等の動物細胞、酵母等が適用できる。このような粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、人体への安全性が極めて高い。また、必要に応じて細胞認識分子を粒子を構成するタンパク質の少なくとも一部に導入することにより、肝細胞或いは他の細胞に対する本発明のナノ粒子の細胞選択性を高めることができる。
【0034】
本発明の製造法では、HBsAgタンパク質を構成成分とする中空ナノ粒子を凍結乾燥し、その後、リポソームと融合、複合化するのが特に好ましい。凍結乾燥に代えて噴霧乾燥したものも使用できる。凍結乾燥もしくは噴霧乾燥した中空ナノ粒子を使用することで、融合効率が著しく向上する。
【0035】
本発明の1つの実施形態において、HBsAgタンパク質を構成成分とするナノ粒子は、いったん凍結乾燥もしくは噴霧乾燥した後にリポソームと混合することにより複合粒子となり、中空ナノ粒子の内部にリポソームに封入された導入物質を取り込むことができる。従来法ではエレクトロポレーション法により導入物質を中空ナノ粒子に取り込ませていたが、本発明の方法により、導入物質の中空ナノ粒子への取り込みをより簡便に行うことができ、しかも細胞への導入効率も向上させることができる。
【0036】
なお、凍結乾燥、噴霧乾燥に代えて凍結・急速融解、熱処理を行うことも可能である。
【0037】
必要に応じて凍結乾燥した中空ナノ粒子とリポソームの混合は、例えば中空ナノ粒子(凍結乾燥物)1mgあたり、リポソーム0.1〜10mg程度、好ましくは0.5〜2mg程度を使用し、37℃程度の温度下に10分程度混合することにより容易に行うことができる。中空ナノ粒子に対するリポソームの使用量が多すぎると、導入物質の細胞への導入効率が低下する。一方、リポソームの量が少なすぎると、中空ナノ粒子に導入物質を封入する効率が低下する。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、リポソームと複合化する前の中空ナノ粒子の粒径は、80〜130nm程度であり、リポソームと複合化してナノ粒子の内部に導入物質を取り込ませた後の複合化ナノ粒子(複合粒子)の粒径は、130〜500nm程度、例えば、150〜400nm、より好ましくは200〜400nm程度である。
【0039】
リポソームは、多重層リポソーム、一枚膜リポソームのいずれであってもよい。リポソームの大きさは50〜300nm程度(例えば100〜300nm)、好ましくは80〜250nm程度、より好ましくは100〜200nm程度、特に好ましくは100〜150nm程度である。リポソームの大きさは、中空ナノ粒子の0.5〜2倍程度の大きさであるのが好ましい。
【0040】
リポソームがナノ粒子に対して大きすぎても小さすぎても円滑な複合粒子の形成が妨げられる。
【0041】
リポソームは超音波処理法、逆相蒸発法、凍結融解法、脂質溶解法、噴霧乾燥法などにより製造することができる。
【0042】
リポソームの構成成分としては、リン脂質、コレステロール類、脂肪酸などが挙げられ、具体的にはホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを常法によって水素添加したものの他、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質が挙げられる。リン脂質は様々な飽和度を有する脂質を組み合わせて使用するのが望ましい。その他、コレステロール類としては、コレステロール、フィトステロールなどが挙げられ、脂肪酸としてはオレイン酸、パルミトオレイン酸、リノール酸、或いはこれら不飽和脂肪酸を含む脂肪酸混合物が挙げられる。側鎖の小さい不飽和脂肪酸を含むリポソームは曲率の関係から小さいリポソーム作製に有効である。
【0043】
リポソームの製造法の例を具体的に説明すると、例えば前記したリン脂質、コレステロール等を適当な有機溶媒に溶解し、これを適当な容器に入れて減圧下に溶媒を留去して容器内面にリン脂質膜を形成し、これに導入物質を含む水溶液、好ましくは緩衝液を加えて攪拌して、導入物質を内包したリポソームを得ることができる。該リポソームを直接、またはいったん凍結乾燥した後に、凍結乾燥処理された本発明のナノ粒子と混合することにより、リポソームとナノ粒子の複合粒子を得ることができる。
【0044】
本発明の複合粒子は、特定の細胞に対して特異的に導入物質を送り込むものとして有用である。例えば、該複合粒子を静脈注射などによって体内に投与すれば、当該粒子は体内を循環し、粒子表面に提示した肝細胞或いは他の細胞に選択的/特異的な物質により標的細胞に導かれ、導入物質が標的細胞に導入される。
【0045】
また、本発明の複合粒子は、標的細胞とin vitroで混合することにより細胞導入試薬としても好ましく使用できる。
【0046】
細胞に導入される物質としては、特に限定されず、例えば細胞内に導入されて生理作用を生じる各種薬物、例えばホルモン、リンホカイン、酵素などの生理活性蛋白質;ワクチンとして作用する抗原性蛋白質;細胞内で発現する遺伝子、プラスミド等のポリヌクレオチド、又は発現を誘発もしくは誘導する特定の遺伝子発現に関与するポリヌクレオチド;さらに遺伝子治療のために導入される各種遺伝子及びアンチセンスDNA/RNA等を挙げることができる。なお、導入される「遺伝子」には、DNAだけでなくRNAも含まれる。また、導入される物質は蛋白質、遺伝子などの高分子の生理活性物質が好ましく例示できるが、低分子量の各種薬物に適用しても好ましい結果を得ることができる。また、遺伝子、タンパク質などは天然のものでも合成されたものでもよく、改変された遺伝子、タンパク質であってもよい。
【実施例】
【0047】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものでなく、細部についてはさまざまな態様が可能であることは言うまでもない。
【0048】
以下の実施例において、HBsAgとは、B型肝炎ウイルス表面抗原(Hepatitis B virus surface antigen)を示す。HBsAgは真核細胞で発現させると、小胞体膜上に膜タンパク質として発現、蓄積される。その後、分子間で凝集を起こし、小胞体膜を取り込みながら出芽様式でルーメン側にHBsAg粒子として放出される。
【0049】
なお、HBsAg粒子は、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞などの真核細胞を利用して発現させ、これを精製した後に得たものである(特許文献1〜3)。
【0050】
また、以下において「BNC」はバイオナノカプセルの略であり、HBsAg粒子、HBsAg粒子とリポソームが融合した複合粒子(遺伝子などの導入物質をHBs粒子内に含む粒子)の両方の意味に使用される。
【0051】
実験方法
材料
BNCは既知の論文に記載の方法に従い酵母から調製し(Kuroda, S., Otaka, S., Miyazaki, T., Nkao, M. and Fujisawa, Y. (1992) J. Biol. Chem. 267(3), 1953-1961)、AKTA (Amershambiosciences co., Japan)を用いて精製した。リポソーム(Coatsome EL-01-A, Coatsome EL-01-D)は、NOF corporation (Tokyo, Japan)から購入した。フルオロフォアカルボキシレート−修飾マイクロスフェア(100-nm ポリスチレンビーズ)は、Molecular probes Inc. (Eugene, OR)から購入した。プラスミドpEGFP-C1は、Clonetech laboratories Inc. (Takara bio Inc., Japan) から購入し、 プラスミドpcDNA6.2/C-EmGFPとpAD/CMV-GFPはInvitrogen co. (Carlsbad, CA) から購入した。
【0052】
BNCとリポソームの融合
100-nm ポリスチレンビーズをリポソームに封入するために、凍結乾燥リポソーム(Coatsome-El-01-A)を100-nm ポリスチレンビーズの水溶液(0.2% w/v)に溶解し、次いで室温で穏やかに振盪した。DNAのリポソームへの封入のために、凍結乾燥リポソーム(Coatsome-EL-01-A)を 室温で15分間DNAの水溶液 (250μg/mL)に溶解した。導入物(100-nm ポリスチレンビーズまたは遺伝子)を含むリポソームを凍結乾燥BNCに加え、室温で15分間処理した。
【0053】
透過電子顕微鏡(TEM)
リポソーム融合BNCを視覚的に調べるために、文献(Kuroda, S., Otaka, S., Miyazaki, T., Nkao, M. and Fujisawa, Y. (1992) J. Biol. Chem. 267(3), 1953-1961)に記載の方法に従い、TEM (JEOL, Japan)により観察した。
【0054】
粒子サイズ
粒子サイズは、Zetasizer Nano-ZS (Malvern Instruments Ltd., U.K.)を用いて25℃で測定した。この測定は、動的光散乱法に基づき; Z-平均粒子サイズはEinstein-Stokes式に基づき評価された。
【0055】
細胞
HepG2 (human hepatocellular carcinoma) 細胞とA431 (human epidermoid carcinoma)細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS)を添加したダルベッコの改良MEM培地で維持した。WiDr (human colon adenocarcinoma) とNuE (human hepatocellular carcinoma, 防衛医科大学校のT. Tadakumaから得た)細胞は、10% FBSを添加したRPMI 1640培地で維持された。これらの細胞は、5% CO2中37℃でインキュベートされた。
【0056】
マウス異種移植モデル
5週齢の雄性BALB/c ヌード(nu/nu)マウスをCLEA Japan, Inc. (Osaka, Japan)から購入した。動物は、文部科学省のガイドラインに沿って処理した。約5x106のカルチノーマ細胞(NuEとA431)をマウスの背中に皮下注射した。2週間後、マウスに100-nmポリスチレンビーズ 含有BNCまたはGFPプラスミドを静脈内注射した。
【0057】
組織学的分析
マウスをペントバルビタール(Dainippon sumitomo pharma Co., Japan)で麻酔し、腫瘍、肝臓及び腎臓を摘出した。これらの組織を4% (wt/vol) パラホルムアルデヒドで固定し、Technovit 8100 (Kluzer, Germany)で合成樹脂に包埋した。ブロックを5μmの幅で切片とし、次いでLSM5 PASCALレーザースキャンニング共焦点顕微鏡(Carl ziess, Germany)で観察した。
【0058】
実施例1 リポソームを介したHBsAg粒子への物質の内包
FITC標識ポリスチレンビーズ(FluospheresR(直径100 nm)、Molecular Probe社製)を滅菌水にて10 mg/mlに調製したFITC標識ポリスチレンビーズ溶液1 mlを、8.5%ショ糖とともに凍結乾燥した空リポソーム(COATSOME EL-01-A、日本油脂社製)へ加えて均一になるよう混合し、FITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソーム溶液を調製した。調製したFITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソーム溶液を、ベックマン社超遠心スイングローターSW41相当品において、6%ショ糖溶液3.5 ml、10%ショ糖溶液3.5 ml、30%ショ糖溶液3.5 mlを用いて密度勾配を作成した分離溶液の上層に載せ、24,000 rpm、4℃の条件にて1時間、超遠心分離を行うことにより、リポソームに包含されなかったFITC標識ポリスチレンビーズを除去し、FITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームを回収した。PBS(リン酸バッファー生理食塩水)中にショ糖溶液を終濃度5%となるようにHBsAg粒子と混合した溶液を一晩凍結乾燥することで得た凍結乾燥HBsAg粒子(Vaccine. 2001 Apr 30;19(23-24):3154-63. Physicochemical and immunological characterization of hepatitis B virus envelope particles exclusively consisting of the entire L (pre-S1 + pre-S2 + S) protein. Yamada T, Iwabuki H, Kanno T, Tanaka H, Kawai T, Fukuda H, Kondo A, Seno M, Tanizawa K, Kuroda S.)とFITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームを均一になるように混合し、HBsAg粒子とFITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームの融合を行い、その結果、FITC標識ポリスチレンビーズ包含HBsAg融合粒子を得た。この融合反応は、混合後、37℃で1時間加温することでリポソームとHBsAg粒子の融合をより促進した。また、この試料を先ほどと同様に10%ショ糖溶液3.5 ml、30%ショ糖溶液3.5 ml、50%ショ糖溶液3.5 mlを用いて密度勾配を作成した分離溶液の上層に載せ、24,000 rpm、4℃の条件にて2時間、超遠心分離を行うことにより、HBsAg融合粒子のみを回収することができた。図1は超遠心分離した後、遠心管上部から回収した画分の分離状況を示したグラフであり、Fraction 8にあるピークがHBsAg融合粒子に相当し、当該ピーク分画を回収することによりHbsAg複合粒子(BNC)を得た。BNCの大部分はリポソームと融合し、遊離のBNCはほとんど存在しなかった。リポソーム融合BNCはTEMで観察された(Fig. 1B)。リポソーム融合BNCの電子顕微鏡写真は、BNCがFITC-ビーズを封入するリポソームに囲まれていることを示した。BNCの平均サイズは約200 nmであった(表1)。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示されるように、本発明の複合粒子は、GFPプラスミドのような核酸(DNA/RNA)をコンパクト化(サイズを縮小)することができ、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に適している。
【0061】
実施例2 リポソームを介して物質を内包させたHBsAg粒子によるヒト肝癌細胞HepG2への物質導入

指数増殖期にあるヒト肝癌細胞HepG2を1×104細胞/ウェルになるように96穴プラスティック底皿プレートに播種し、37℃、5%CO2存在下にて10%ウシ胎児血清を含むMEM(修飾Eagle培地)を用いて一晩培養した。翌日、実施例1の通り、FITC標識ポリスチレンビーズ(直径100nm)、凍結乾燥リポソーム、凍結乾燥HBsAg粒子を用いてFITC標識ポリスチレンビーズ包含HBsAg粒子を調製した後、これをHepG2培養液へ添加し、37℃、5%CO2存在下にて一晩培養した。
【0062】
HepG2内へ導入されたFITC標識ポリスチレンビーズ量を定量するためにプレートリーダーにて測定した。また、HepG2内へのFITC標識ポリスチレンビーズの導入の様子を共焦点レーザー蛍光顕微鏡にて観察した。
【0063】
FITC標識ポリスチレンビーズの定量結果を図2のグラフに示した。また、HepG2の蛍光写真を図3に示した。図2、図3には、HepG2の対照として用いたヒト大腸癌細胞WiDrにおける結果を併せて示した。図2のグラフから、HepG2、WiDrともにFITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソーム単独の場合に比べて、HBsAg粒子と融合した融合粒子を用いたHepG2への導入では約10倍の蛍光強度を示した。一方、融合粒子を用いた場合でもWiDrではほとんど差が見られなかったことから、リポソームと融合した後もHBsAg粒子の肝細胞への特異性は維持されたままであることが分かった。図3では、FITC標識ポリスチレンビーズに代わってRITC標識ポリスチレンビーズを用いた際の写真を示した。図3の結果より、リポソームと融合したHBsAg粒子による導入は、HepG2のみに観察された。
【0064】
以上より、この発明のリポソームによって物質を封入したHBsAg粒子を用いて、培養細胞レベルで、ヒト肝細胞に対して極めて高い特異性と効率で物質を導入することが可能であることが示された。
【0065】
実施例3 リポソームを介して物質を内包させたHBsAg粒子によるヒト肝癌を移植したヌードマウスに対する物質導入

担癌マウスは、ヌードマウス(系統:BALB/c, nu/nu, 微生物学的品質:SPF、性別:オス5週齢)の両側背部皮下に、ヒト肝癌由来細胞NuEをそれぞれ2×105個の細胞を注射し、移植腫瘍が直径2 cm程度の固形癌になるまで2〜3週間生育させて得た。
【0066】
実施例1で記載した方法により得たFITC標識ポリスチレンビーズ包含HBsAg融合粒子100μg(100μlのPBSに溶解)を、マウス尾静脈内へ26G注射針を使用して投与した。投与16時間後、麻酔下にて開腹し、常法に従って灌流固定を行った後、腫瘍部、肝臓、腎臓を摘出し、樹脂包埋キット(Technovit 8100)を用いて組織を固定・包埋した。
【0067】
具体的には、開腹後、21G翼付き注射針を左心室に刺し、右心耳を開切、PBSを流して脱血させた。その後、予め氷冷しておいた4%中和ホルムアルデヒドを流し、組織内をホルムアルデヒド溶液にて満たした。組織摘出後、さらに4%中和ホルムアルデヒドに4℃にて2時間浸漬して固定し、6.8%ショ糖-PBS液に4℃にて一晩浸漬した。翌日、100%アセトンにて脱水を行い、その後、Technovit 8100にて4℃24時間以内の浸漬を行い、取り出した後、4℃にて静置して重合反応を行った。
【0068】
常法に従って、切片を作製し、共焦点レーザー蛍光顕微鏡によりHBsAg粒子投与群と非投与群のFITC標識ポリスチレンビーズによる蛍光を比較した(図4)。
【0069】
図4より、ヒト肝癌由来NuE細胞による担癌マウスの腫瘍部にFITC標識ポリスチレンビーズに由来する蛍光が認められた。しかし、同マウスより同時に摘出した肝臓、腎臓には蛍光を認めなかった。また、FITC標識ポリスチレンビーズ単独、あるいはFITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソーム単独では、腫瘍部を含めた担癌マウスの組織には蛍光は認められなかった。
【0070】
以上より、リポソームにより物質を封入されたHBsAg粒子は、実験動物レベルでも、ヒト肝癌細胞に対して極めて高い特異性と効率で物質導入を可能にすることが判明した。
【0071】
実施例4 リポソームを介して物質を内包させたZZタグ表面提示HBsAg粒子(ZZ-HBsAg粒子)によるヒト扁平上皮癌細胞A431への物質導入

指数増殖期にあるヒト扁平上皮癌細胞A431を1×104細胞/ウェルになるように96穴プラスティック底皿プレートに播種し、37℃、5%CO2存在下にて10%ウシ胎児血清を含むMEMを用いて一晩培養した。翌日、実施例1の通り、FITC標識ポリスチレンビーズ、凍結乾燥リポソーム、凍結乾燥したZZ-HBsAg粒子(PCT/JP03/03694)を用いて、FITC標識ポリスチレンビーズ包含ZZ-HBsAg融合粒子を調製した。その後、ヒト上皮成長因子受容体(human Epidermal Growth Factor Receptor; hEGFR)に対するモノクローナル抗体(anti-hEGFR抗体)8μgと調製したZZ-HBsAg粒子100μgを均一になるように混合し、4℃下で1時間結合反応を行った。この結合反応により得られたanti-hEGFR抗体提示ZZ-HBsAg融合粒子をA431培養液へ添加し、37℃、5%CO2存在下にて一晩培養した。
【0072】
A431内へ導入されたFITC標識ポリスチレンビーズ量を定量するためにプレートリーダーにて測定した。また、A431内へのFITC標識ポリスチレンビーズの導入の様子を共焦点レーザー蛍光顕微鏡にて観察した。
【0073】
FITC標識ポリスチレンビーズの定量結果を図5のグラフに示した。また、A431の蛍光写真を図6に示した。図5、図6には、対照としてanti-hEGFR抗体との結合反応を行わなかったZZ-HBsAg融合粒子の結果を併せて示した。図5のグラフ、図6の写真から、ZZ-HBsAg融合粒子はanti-hEGFR抗体を介してA431内へ内包したFITC標識ポリスチレンビーズを導入できることが判明した。この結果から、ZZ-HBsAg粒子はリポソームと融合した後もZZタグの抗体結合能を維持し、かつ、ZZタグに結合させた抗体を介した物質導入を行うことが可能であることが示された。
【0074】
また、図7では、FITC標識ポリスチレンビーズに代わってRITC標識ポリスチレンビーズを用い、A431と同様にEGF受容体を細胞表面に発現している乳がん由来細胞MCF-7へも上述の方法の通り、物質導入を行った際の写真を示した。図7の結果より、表面に外来機能性タンパク質を提示したHBsAg粒子でも、実施例1の手法を用いることにより、その粒子の機能を維持させたまま、内部に物質を封入することが可能であることが示された。
【0075】
実施例5 リポソームを介して遺伝子を封入したHBsAg粒子によるヒト肝癌細胞HepG2への遺伝子導入

指数増殖期にあるヒト肝癌細胞HepG2を1×104細胞/ウェルになるように96穴プラスティック底皿プレートに播種し、37℃、5%CO2存在下にて10%ウシ胎児血清を含むMEMを用いて一晩培養した。翌日、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein; GFP)発現プラスミド(pEGFP-C1; Clontech社)を滅菌水にて50 μg/mlとした調製溶液1.5 mlを、8.5%ショ糖とともに凍結乾燥した空リポソーム(COATSOME EL-A-01、日本油脂社製)へ加えて均一になるよう混合し、室温にて5分間静置させることによりGFP発現プラスミド封入リポソーム溶液を調製した。調製したGFP発現プラスミド封入リポソーム溶液150μlを、ショ糖溶液を終濃度5%となるようにHBsAg粒子と混合した溶液を一晩凍結乾燥することで得た凍結乾燥HBsAg粒子200 μgと均一になるように混合し、室温にて5分間静置させることによりHBsAg粒子とGFP発現プラスミド封入リポソームの融合を行い、その結果、GFP発現プラスミド包含HBsAg融合粒子を得た。その後、これをHepG2培養液へ添加し、37℃、5%CO2存在下にて48時間培養した。48時間後、導入されたGFP発現プラスミドにより細胞内で発現したGFPの様子を共焦点レーザー蛍光顕微鏡にて観察した。
【0076】
HepG2の蛍光写真を図8に示した。図8には、HepG2の対照として用いたヒト大腸癌細胞WiDrにおける結果を併せて示した。図8の結果より、リポソームと融合したHBsAg粒子による導入は、HepG2のみに観察され、WiDrには蛍光は認められなかった。
【0077】
以上より、この発明により、リポソームによって遺伝子を封入したHBsAg粒子を用いて、培養細胞レベルで、ヒト肝細胞に対して極めて高い特異性と効率で遺伝子を導入することが可能であることが示された。
【0078】
実施例6
リポソーム融合BNCを用いた100-nm ポリスチレンビーズのEx vivo及びin vivo 送達
BNC はリポソームとほぼ完全に融合できるので、ローダミン標識された100-nm ポリスチレンビーズ (Rho-beads)を封入するリポソーム融合BNC を超遠心による分離することなく使用した。1μg の Rho-beadsを封入する 10 μgのリポソーム融合BNCを使用して約5×104細胞のHepG2 細胞, WiDr 細胞およびA431 細胞をトランスフェクトした。6時間後、蛍光がHepG2細胞特異的に観察されたが、WiDr細胞及びA431細胞では観察されなかった(Fig. 9)。さらに、これらのBNCは、肝NuE 細胞 及びA431 細胞を担持する異種移植モデルに注射された。マウスあたり25μgのRho-beadsを封入する100μgのリポソーム融合BNCを使用した。16時間後、NuE-由来腫瘍では蛍光が観察されたが、A431-由来腫瘍では蛍光は観察されなかった。Rho-beadsの存在部位を確認するために、FITC-標識トマトレクチンを犠牲にする前に注射した。血管周辺に存在するRho-beadsは緑色を示した(図10)。
【0079】
実施例7
リポソーム融合BNCを用いるEx vivo及びin vivo遺伝子送達
DNA をBNC内に導入するために、DNAを最初にカチオン性リポソームに封入し、次いでビーズの導入と同様にしてBNCと融合した。GFP プラスミド (pEGFP-C1)を封入するリポソーム融合BNC をHepG2細胞及びWiDr 細胞 (2x105細胞/ウェル)に添加した. 2μgのGFPプラスミドを10μgのBNCに封入した。トランスフェクション後の2日目に有意なGFP発現をBNC処理されたHepG2 細胞で観察した(図11)。異種移植モデルにおいて、50μgのBNCを注入した。5日後、マウス肝臓、マウス腎臓、NuE-由来腫瘍及びA431-由来腫瘍を集めた。マウスあたりのビーズ含有BNC量と比較するとこの量は減少していたが、GFP発現はNuE-由来腫瘍では観察されたが、A431-由来腫瘍では観察されなかった(図12)。GFP発現はマウスの肝臓と腎臓では全く観察されなかった(データは示さない)。
【0080】
実施例8
リポソーム融合BNCを用いた35-kbp GFP プラスミドの有効なex vivo送達
4.7-kbpのpEGFP-C1を効率よくBNCに導入し、ex vivoまたはin vivoでHepG2細胞またはNuE 細胞に送達した。さらに、6.4-kbpのpcDNA6.2/C-EmGFPを肝細胞に送達した(データは示さない)。DNAのサイズ限界を測定するために、本発明者はBNC内への封入のためにpAD/CMV-GFP (約35kbp)を使用した。HepG2細胞とA431細胞(5x104 細胞/ウェル)を播種し、2μgのDNAを含むリポソーム融合BNCを翌日HepG2細胞とA431 細胞に移した。48時間後、HepG2 細胞において予想通りGFP発現を観察したが、A431細胞では観察されなかった (図13)。リポソーム融合BNC(Fusion)による有効なトランスフェクションは約10% (n = 400)であったが、エレクトロポレーション(EP) では1%未満であった(図14)。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】A)この発明の実施例において、導入物質を包含したリポソームと中空ナノ粒子とを融合させた結果できるHBsAg融合粒子を超遠心分離した後の分離状況を示したグラフである。B)リポソーム(左), BNC (中央), and 100-nm ポリスチレンビーズ含有リポソームと融合したBNC (右)の電子顕微鏡写真がTEMとその後のネガティブ染色を用いて観察された。スケールバー, 100 nm。
【図2】この発明の実施例において、FITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームを介して中空ナノ粒子に内包させた結果できるHBsAg融合粒子をヒト肝癌由来細胞HepG2と対照細胞として用いたヒト大腸癌由来細胞WiDrへそれぞれ接触させた際に、それぞれの細胞内にあるFITC標識ポリスチレンビーズの量を定量した結果を示したものである。RFUは、relative fluorescent unitである。
【図3】RITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームを介して中空ナノ粒子に内包させた結果できるHBsAg融合粒子をHepG2とWiDrへそれぞれ接触させた際のHepG2、WiDrの共焦点レーザー蛍光顕微鏡写真を示したものである。
【図4】FITC標識ポリスチレンビーズ包含HBsAg融合粒子が、ヒト肝癌由来細胞NuEに極めて特異的にFITC標識ポリスチレンビーズを導入できることを表す共焦点レーザー蛍光顕微鏡写真を示した図である。NuEを移植された担癌マウスの腫瘍部(蛍光あり)、マウスの通常肝臓(蛍光なし)である。
【図5】この発明の実施例において、FITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームを介して、生体認識分子が抗体との結合能を有するZZタグである中空ナノ粒子に内包させた結果できるZZ-HBsAg融合粒子と、ヒト上皮成長因子受容体(hEGFR)に対するモノクローナル抗体(anti-hEGFR抗体)を結合させたanti-hEGFR抗体提示ZZ-HBsAg融合粒子とヒト扁平上皮癌由来細胞A431と接触させた際に、A431細胞内にあるFITC標識ポリスチレンビーズの量を定量した結果を示したものである。対照には抗体未提示のZZ-HBsAg融合粒子の結果を併せて示した。
【図6】FITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームを介してZZ-HBsAg粒子に内包させた結果できるZZ-HBsAg融合粒子とanti-hEGFR抗体を結合させたanti-hEGFR抗体提示ZZ-HBsAg融合粒子とA431細胞を接触させた際のA431細胞の共焦点レーザー蛍光顕微鏡写真を示したものである。対照には抗体未提示のZZ-HBsAg融合粒子の結果を併せて示した。
【図7】RITC標識ポリスチレンビーズ封入リポソームを介してZZ-HBsAg粒子に内包させた結果できるZZ-HBsAg融合粒子とanti-hEGFR抗体を結合させたanti-hEGFR抗体提示ZZ-HBsAg融合粒子とA431細胞ならびにヒト乳癌由来細胞MCF-7をそれぞれ接触させた際のA431細胞、MCF-7細胞の共焦点レーザー蛍光顕微鏡写真を示したものである。
【図8】この発明の実施例において、緑色蛍光タンパク質(GFP)発現遺伝子封入リポソームを介して中空ナノ粒子に内包させた結果できるHBsAg融合粒子をヒト肝癌由来細胞HepG2と対照細胞として用いたヒト大腸癌由来細胞WiDrへそれぞれ接触させた際のHepG2、WiDrの共焦点レーザー蛍光顕微鏡写真を示したものである。
【図9】ローダミン標識100-nmポリスチレンビーズ(Rho-beads)のリポソーム融合BNCによるEx vivo送達。Rho-beadsは、リポソーム融合BNCに封入された。これらのBNCsはHepG2細胞とWiDr細胞に適用され、6時間インキュベートされた。A) 細胞は共焦点顕微鏡下で観察された。スケールバー, 50μm。B) 細胞のRFUがマイクロプレートリーダーで測定された。
【図10】リポソーム融合BNCによるRho-beadsのIn vivo 送達。Rho-beadsは、リポソーム融合BNCに封入された。これらのBNCはマウス異種移植モデル(NuE細胞由来の腫瘍とA431細胞由来の腫瘍を担持したヌードマウス)に静脈内注射された。16時間後、FITC-標識トマトレクチンを静脈内注射し、その後犠牲にした。蛍光をNuE由来腫瘍の切片において観察した。スケールバー, 100μm。
【図11】リポソーム融合BNCによるEx vivo 遺伝子送達。GFPプラスミドはリポソーム融合BNCに封入された。これらのBNCはHepG2細胞とWiDr細胞に適用された。48時間後、GFPの発現を共焦点顕微鏡下で観察し(A)、RFUをイメージングJソフトウェアで算出した(B)。 スケールバー, 100μm。
【図12】リポソーム融合BNCによるIn vivo遺伝子送達。GFPプラスミドはリポソーム融合BNCに封入された。これらのBNC (50μg)は マウス異種移植モデル(NuE細胞由来の腫瘍とA431細胞由来の腫瘍を担持したヌードマウス)に静脈内注射された。7日後、腫瘍切片について蛍光を観察した。 スケールバー, 100μm。
【図13】リポソーム融合BNCによるEx vivo での大きいプラスミドの送達。35-kbp GFPプラスミドはリポソーム融合BNCに封入された。これらのBNCはHepG2細胞とA431細胞に適用された。48時間後、GFPの発現を共焦点顕微鏡下で観察した。スケールバー, 100μm。
【図14】取り込み法の効率。100-nm ポリスチレンビーズ(A)及びpcDNA/CMV-GFP (〜35kbp) (B)をエレクトロポレーション(EP, 白い棒)ならびにBNCとリポソームの融合物(Fusion、黒い棒)によりHepG2細胞にトランスフェクトした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を含む中空ナノ粒子を、導入物質を封入したリポソームと融合させることを特徴とする、導入物質を内包するナノ粒子とリポソームの複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記中空ナノ粒子の粒径が、80〜130nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合粒子の粒径が130〜500nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複合粒子の粒径が150〜400nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を含む中空ナノ粒子が、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、5〜15重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記中空ナノ粒子が予め凍結乾燥又は噴霧乾燥処理されている、請求項1〜5のいずれかに記載の方法
【請求項7】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、リン脂質、脂質及び糖鎖から構成されるナノ粒子部と、該ナノ粒子部に内包された外因性の導入物質を含む複合粒子。
【請求項8】
前記複合粒子の粒径が200〜400nmである、請求項7に記載の複合粒子。
【請求項9】
前記ナノ粒子部が、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、6〜75重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される、請求項6又は7に記載の複合粒子。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかの方法により得ることができる、導入物質を内包したナノ粒子とリポソームの複合粒子。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれかに記載の複合粒子又は請求項10に記載の複合粒子を標的細胞に作用させることを包含する導入物質を標的細胞に導入する方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−106752(P2007−106752A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240746(P2006−240746)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(503100821)株式会社ビークル (12)
【Fターム(参考)】