説明

Bacilluscoagulansに属する菌株を用いたメリビオースの製造方法

【課題】安価な原料であるグルコースとガラクトースからメリビオースを選択的に製造することが可能となるメリビオースの製造方法を提供すること。
【解決手段】グルコースとガラクトースを原料とするメリビオースの製造方法において、メリビオースを選択的に合成可能なBacillus coagulansに属する菌株由来のα−ガラクトシダーゼを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bacillus coagulansに属する菌株由来のα-ガラクトシダーゼを利用することを特徴とするメリビオースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活・社会生活が多様化する中で、健康に対する意識向上から消費者の食品や食品素材等への関心が高まっている。その中で、ラフィノースのフラクトース部分が除去された構造を持つメリビオースは、腸内細菌叢を改善する等の機能を有することが認められ、飲食品や医薬品、香粧品等あるいは、その原料として注目を浴びている。さらにメリビオースは、制癌効果やナチュラルキラー細胞活性化作用が報告されており非常に有用なオリゴ糖であると考えられている。
【0003】
しかしながら、メリビオースは大豆オリゴ糖中に少量存在するものの工業的に供給することは困難であった。人為的には、メリビオースはラフィノースの分解によって合成されている(例えば、非特許文献1)が、原料ラフィノースが高価なため、本手法を用いた場合メリビオースを安価に供給することは不可能であった。
【0004】
一方、α−ガラクトシダーゼを利用して、ガラクトースとグルコースからα−ガラクトオリゴ糖を製造する方法についての報告もされている(特許文献1)が、メリビオースを選択的に製造する技術は世の中にはまったく知られていなかった。
【0005】
【非特許文献1】精糖技術研究会誌第33号、33、64−71、1984
【特許文献1】特許第3028258号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、こうした状況のもとに、安価な原料であるガラクトースとグルコースを用いて、選択的にメリビオースを合成することを可能とするメリビオースの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこれらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、メリビオースを選択的に合成可能なα−ガラクトシダーゼを発見し、目的メリビオース以外の夾雑オリゴ糖の生成を抑制したメリビオースの製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[5]に示すメリビオースの製造方法である。
[1] Bacillus coagulansに属する菌株由来のα-ガラクトシダーゼを利用して、ガラクトース及びグルコースを含む原料からメリビオースを製造するメリビオースの製造方法。
[2] α−ガラクトシダーゼが下記の特性を有する[1]に記載のメリビオースの製造方法。
(1)作用:本酵素は、正反応としてα−ガラクトシダーゼの反応を行い、逆反応としてグルコース及びガラクト−スを基質としてメリビオース合成反応を行う。
(2)至適pH範囲:3.5〜5.0
(3)安定pH範囲:3.5〜10.0
(4)分子量:約80,000
【0009】
[3] 下記(a)、(b)又は(c)の何れかのアミノ酸配列からなるα−ガラクトシダーゼを利用して、ガラクトース及びグルコースを含む原料からメリビオースを製造するメリビオースの製造方法。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
(c)配列番号2に表されるアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配列:
[4] 下記(a)、(b)又は(c)の何れかのアミノ酸配列からなるα−ガラクトシダーゼをコードするα−ガラクトシダーゼ遺伝子を導入した形質転換体を培養して得られるα−ガラクトシダーゼを利用して、ガラクトース及びグルコースを含む原料からメリビオースを製造するメリビオースの製造方法。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
(c)配列番号2に表されるアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配列:
【0010】
[5] α−ガラクトシダーゼが、Bacillus coagulans AKC−003株(受託番号FERM P−21091)、AKC−004株(受託番号FERM P−21092、FERM BP−10948)、AKC−005株(受託番号FERM P−21093)、又はAKC−006株(受託番号FERM P−21094)、あるいはAKC−003株(受託番号FERM P−21091)、AKC−004株(受託番号FERM P−21092、FERM BP−10948)、AKC−005株(受託番号FERM P−21093)、又はAKC−006株(受託番号FERM P−21094)を親株として得られる変異株由来のものである、[1]から[4]の何れかに記載のメリビオースの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いることにより、安価な原料であるグルコースとガラクトースからメリビオースを選択的に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のα−ガラクトシダーゼは、Bacillus coagulansに属する微生物に由来するものであり、当該微生物としては、Bacillus coagulansに属する微生物であればどのようなものを用いてもよく、メリビオースを選択的に合成可能なα−ガラクトシダーゼを発現する任意の微生物を用いることができる。好ましくは、Bacillus coagulans AKC-003株, AKC-004株, AKC-005株, AKC-006株が挙げられる。また、本発明における微生物は、Bacillus coagulansに属する微生物を親株として得られる変異株であってもかまわない。
【0013】
Bacillus coagulansに属する微生物を親株として得られる変異株としては、公知の変異処理を施された変異株を用いることができる。ここでいう公知の変異処理とは、Bacillus coagulansに属する微生物を、必要であれば紫外線照射やニトロソグアニジンのような変異誘発剤を使用し、変異誘導処理し、それらの菌株からα-ガラクトシダーゼ活性が高い菌株を選ぶ処理のことである。変異誘導処理に用いる微生物としては、親株としてBacillus coagulans AKC-003株, AKC-004株, AKC-005株, AKC-006株を用いることが好ましい。
【0014】
Bacillus coagulans AKC-003株, AKC-004株, AKC-005株, AKC-006株はそれぞれ、平成18年11月14日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)に寄託されている。受託番号は以下の通りである。なお、AKC-004株は、2008年(平成20年)1月30日に、受領番号FERM−ABP10948、及び受託番号FERM−BP10948として国際寄託に移管されている。
AKC-003株(FERM P−21091)
AKC-004株(FERM P−21092;FERM−ABP10948;FERM−BP10948)
AKC-005株(FERM P−21093)
AKC-006株(FERM P−21094)
【0015】
本発明のα−ガラクトシダーゼは、下記の特性を有する。
(1)作用:作用:本酵素は、正反応としてα−ガラクトシダーゼの反応を行い、逆反応としてグルコース及びガラクト−スを基質としてメリビオース合成反応を行う。
(2)至適pH範囲:3.5〜5.0
(3)安定pH範囲:3.5〜10.0
(4)分子量:約80,000
【0016】
本発明の酵素の具体例としては、基質特異性及び金属イオンの影響として、以下の性質を有するものが挙げられる。
基質特異性:p-ニトロフェニル-α-D-ガラクトピラノシドを基質とした場合、分解活性は最も高く、次いでメリビオース、次いでラフィノースの順である。一方、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド、ラクトース、スクロースは分解しない。
金属イオンの影響:カリウム、カルシウム、マグネシウム、クロム、マンガン、コバルト、鉄(II)、鉄(III)イオンをそれぞれ添加した場合、活性の低下は見られない。一方、ニッケル、亜鉛イオンをそれぞれ添加した場合、活性の低下が見られ、銅イオンを添加した場合に最も活性が低下する。
【0017】
さらに本発明の酵素の具体例としては、下記の特性を有するものでもよい。
(5)(正反応の)至適温度範囲:35〜50℃
(6)安定温度範囲:45℃まで安定である。
【0018】
本発明に用いる微生物の培養方法としては、通常の通気攪拌培養あるいは固体培養が用いられ、一般的に行われている微生物の培養方法が適応できる。培地としては、当該微生物が良好に生育し且つ、微生物中のα−ガラクトシダーゼを順調に生産するために必要な炭素源、窒素源、無機塩、必要な栄養源等を含有する合成培地または天然培地が挙げられる。例えば、炭素源としては、グルコース、グリセロール、スクロース、ガラクトース、ラクトース、メリビオース、ラフィノース、スタキオース、セロビオース、エルロース、有機酸、澱粉、オリーブ油、大豆油等を用いることができる。窒素源としては、例えば、硫安、硝安、尿素、アミノ酸、アミン類、アンモニア、各種無機酸や有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素化合物、ペプトン、トリプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、綿実粕、コーンスティープリカー、および大豆粕等があげられる。また、無機塩類としては、第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸銅、硫酸鉄、炭酸カルシウム等が用いられる。微生物の生育性の点から、培養温度は25〜80℃が好ましく、より好ましくは40〜65℃、さらに好ましくは40〜55℃である。また、培地のpHは広範囲で選択可能であり、微生物の生育性の点からpH3.0〜9.0が好ましく、より好ましくはpH3.5〜8.5、さらに好ましくはpH4.0〜8.0である。
【0019】
本発明のα−ガラクトシダーゼの分離・精製は、例えば以下のようにして実施することができる。
【0020】
Bacillus coagulans AKC−004株を上記の培地で培養し、得られた培養液を、遠心分離、濾過等の公知の手段により菌体と濾液とに分離する。こうして得られた菌体にはα−ガラクトシダーゼが含まれており、リゾチームや超音波破砕機、フレンチプレス等を用いて菌体の破砕を行うことでα−ガラクトシダーゼの粗抽出液を得る。培養条件等により、α−ガラクトシダーゼの活性が培養上清に含まれる場合、培養上清をそのまま、または濃縮等の操作を加え、α−ガラクトシダーゼの粗抽出液として次の精製に用いることもできる。
【0021】
上記のようにして得られる粗抽出液を、通常のタンパクの精製法、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、塩析等を組み合わせて分画することによって、α−ガラクトシダーゼを精製することができる。
【0022】
上記の操作の順は特に問わず、各操作は1回、または2回以上行ってもよい。また、それぞれのカラムに試料を通液する前に、透析等によって試料液を適当な緩衝液に交換しておくことが望ましい。さらにそれぞれの段階で試料液を濃縮しても良い。
【0023】
精製の各段階においては、分画された各フラクション中に含まれるα−ガラクトシダーゼ活性を測定し、活性の高いフラクションを集めて次の段階に供試することが望ましい。
【0024】
α−ガラクトシダーゼ活性を測定する方法としては、例えば、6mMのp−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシドを含むpH5.0の100mM酢酸ナトリウム緩衝液450μLに酵素液150μLを混合し、40℃で5〜30分間程度反応させた後、1Mの炭酸ナトリウム水溶液1mLに添加して酵素を失活させ、反応を停止する。得られた溶液の着色度を波長420nmの吸収を測定し、各濃度のp−ニトロフェノールで作製した検量線を用いて濃度を算出する。また、酵素活性の単位は上記条件下で1分間に1μmolのp−ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1Uとして表示する。
【0025】
精製されたα−ガラクトシダーゼの精製度の確認や分子量の測定は、電気泳動やゲル濾過クロマトグラフィー等によって行うことができる。また、酵素学的性質は、反応温度あるいは反応pHを変化させて酵素活性を測定し、あるいは種々の酵素阻害剤や金属イオン等を反応液に添加し、残存活性を測定することによって検討すればよい。さらにα−ガラクトシダーゼを種々のpH条件下又は温度条件下に一定時間さらした後に酵素活性を測定することにより、安定pH範囲及び安定温度範囲を調べることができる。また、基質濃度を変化させて反応を行うことで、各基質に対するα−ガラクトシダーゼのミカエリス定数 (Km)、最大速度(Vmax)を求めることもできる。
【0026】
本発明のα−ガラクトシダーゼ遺伝子の取得は、例えば以下のように行うことができる。Bacillus coagulans AKC−004株を上記の培地で培養し、得られた培養液を、遠心分離、濾過等の公知の手段により菌体と濾液とに分離する。
上記のようにして得られた菌体についてリゾチームや超音波破砕機、フレンチプレス等を用いた菌体の破砕を行い、染色体DNAを単離する。
上記のようにして得られた染色体DNAを種々の制限酵素で消化し、DNA断片を得る。
【0027】
上記のようにして得られた染色体DNA断片を用いて、ショットガンクローニングやインバースPCR法等を利用した公知の手段によりα−ガラクトシダーゼ遺伝子の全長、またはその一部を含むDNA断片を取得する。ここで得られたα−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサー等を利用した公知の方法で解析し、その塩基配列を明らかにする。また、α−ガラクトシダーゼ遺伝子の部分的な塩基配列のみが明らかになった場合、その塩基配列を基に再度α−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片を取得することもできる。また、この操作を繰り返すことで、α−ガラクトシダーゼ遺伝子全長の塩基配列を明らかにすることも可能である。上記のようにして解読したα−ガラクトシダーゼ遺伝子の塩基配列を基に、PCR法や制限酵素を用いた公知の方法によって、α−ガラクトシダーゼ遺伝子の全長を含むDNA断片を得ることができる。上記のようにして解読したα−ガラクトシダーゼ遺伝子の塩基配列から、α−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を決定することができる。
【0028】
配列番号2に本発明で用いることができるα−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を例示するが、このアミノ酸配列からなるタンパク質がα-ガラクトシダーゼ活性を有する限り、当該アミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよく、あるいは当該アミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であってもよい。即ち、本発明で用いることができるα−ガラクトシダーゼの具体例としては、下記(a)、(b)又は(c)の何れかのアミノ酸配列からなるα−ガラクトシダーゼを挙げることができる。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
(c)配列番号2に表されるアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配列:
【0029】
上記のα−ガラクトシダーゼは、下記(a)、(b)又は(c)の何れかのアミノ酸配列からなるα−ガラクトシダーゼをコードするα−ガラクトシダーゼ遺伝子を用いて遺伝子組み換えの手法により製造してもよい。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
(c)配列番号2に表されるアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配列:
【0030】
上記(b)における「1又は数個のアミノ酸」とは、一般的には1〜50個のアミノ酸、好ましくは1〜30個のアミノ酸、より好ましくは1〜20個のアミノ酸、さらに好ましくは1〜10個のアミノ酸、特に好ましくは1〜5個のアミノ酸を意味する。
【0031】
上記(c)における「60%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、一般的には、60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を意味する。
【0032】
α−ガラクトシダーゼ遺伝子の具体例としては、以下の(a)または(b)の塩基配列からなるα−ガラクトシダーゼ遺伝子を挙げることができる。
(a)配列番号1で表される塩基配列;
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、及び/又は付加された塩基配列であって、かつ、α−ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列:
【0033】
上記(b)における「1又は数個の塩基」とは、一般的には1〜150個の塩基、好ましくは1〜90個の塩基、より好ましくは1〜60個の塩基、さらに好ましくは1〜30個の塩基、さらに好ましくは1〜20個の塩基、さらに好ましくは1〜15個の塩基、さらに好ましくは1〜10個の塩基、特に好ましくは1〜5個の塩基を意味する。
【0034】
α−ガラクトシダーゼ遺伝子は公知の遺伝子操作手段により、本来の反応を触媒する性質を損なわないペプチドの変異をなしてもよく、このような変異体遺伝子は、本発明のα−ガラクトシダーゼ遺伝子から遺伝子工学的手法により作製される人工変異遺伝子を意味し、この人工変異遺伝子は部位特異的変異法や、目的遺伝子の特定DNA断片を人工変異DNAで置換するなどの種々なる遺伝子工学的方法を使用して得られる。即ち、α−ガラクトシダーゼ中のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異を生じさせる方法としては、PCR法、エラープローンPCR法、DNAシャッフリング法やキメラ酵素を作製する手法等の公知の方法が利用できる。
【0035】
上記のようにして得られたα−ガラクトシダーゼの構造遺伝子を完全に含むDNA断片を大腸菌用発現ベクター、例えばpBluescriptII KS(+)のマルチクローニングサイトに挿入、連結して、新たな組換えプラスミドを構築することができる。このプラスミドベクターは大腸菌内で外来遺伝子として連結された遺伝子を効率的に発現できるlacプロモーターが導入されており、組換えプラスミドを大腸菌に導入して得られる形質転換体を培養することでα−ガラクトシダーゼの大量発現が可能になる。
【0036】
また、上記以外にも種々の宿主微生物、ベクターを利用したα−ガラクトシダーゼの大量発現は可能であり、例えばBrevibacillus choshinensisの形質転換体を培養することで、α−ガラクトシダーゼの大量発現が可能である。より詳細には、本発明のα−ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込むベクターとしては、宿主微生物体内で自律的に増殖しうるファージまたはプラスミドから遺伝子組み換え用として構築されたものが適しており、ファージベクターとしては、例えば、エシェリヒア・コリに属する微生物を宿主微生物とする場合にはλgt・λC、λgt・λBなどが使用できる。また、プラスミドベクターとしては、例えば、エシェリヒア・コリを宿主微生物とする場合には、プラスミドpET-3a、pET-11a、pET-32aなどのpETベクター(Novagen)またはpBR322、pBR325、pACYC184、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pIN I、BluescriptKS+、枯草菌を宿主とする場合にはpWH1520、pUB110、pKH300PLK、放線菌を宿主とする場合にはpIJ680、pIJ702、酵母特にサッカロマイセス・セルビシエを宿主とする場合にはYRp7、pYC1、YEp13などが使用できる。このようなベクターを、本発明のα−ガラクトシダーゼ遺伝子の切断に使用した制限酵素で生成するDNA末端と、同じ末端を生成する制限酵素で切断してベクター断片を作成し、本発明のα−ガラクトシダーゼ遺伝子断片とベクター断片とを、DNAリガーゼ酵素により常法に従って結合させて本発明のα−ガラクトシダーゼ遺伝子をコードするDNAを目的のベクターに組み込むことができる。
【0037】
プラスミドを移入する宿主微生物としては、組み換えDNAが安定かつ自律的に増殖可能であればよく、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリに属する微生物の場合、エシェリヒア・コリ BL21、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)、エシェリヒア・コリ BL21trxB、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)、エシェリヒア・コリ Rosetta、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)pLysS、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)pLacl、エシェリヒア・コリ RosettaBlue、エシェリヒア・コリ Rosetta-gami、エシェリヒア・コリ Origami、エシェリヒア・コリ Origami、エシェリヒア・コリ Tuner、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ W3110、エシェリヒア・コリC600などが利用できる。また、微生物宿主がバチラス属に属する微生物の場合、バチラス・サチリス、バチラス・メガテリウムなど、放線菌に属する微生物の場合、ストレプトマイセス・リビダンス TK24など、サッカロマイセス・セルビシエに属する微生物の場合、サッカロマイセス・セルビシエ INVSC1などが使用できる。
【0038】
また、形質転換微生物により本発明のα−ガラクトシダーゼを製造するに当たっては、該形質転換微生物を栄養培地で培養して菌体内または培養液中に本発明のα−ガラクトシダーゼを産生せしめ、培養終了後、得られた培養物を濾過または遠心分離などの手段により菌体を採集し、次いでこの菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、又、必要に応じてEDTA及び/または適当な界面活性剤などを添加して本発明のα−ガラクトシダーゼの水溶液を濃縮するか、または濃縮することなく硫安分画、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーにより処理して、純度の良い本発明のα−ガラクトシダーゼを得ることができる。
【0039】
形質転換微生物の培養条件はその栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は、液体培養で行うが、工業的には深部通気撹拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが広く使用されうる。培養温度は微生物が発育し、本発明のα−ガラクトシダーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリの場合、好ましくは、10から45℃程度、さらに好ましくは20から30℃程度である。培養条件は、条件によって多少異なるが、本発明のα−ガラクトシダーゼが最高収量に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すればよく、エシェリヒア・コリの場合、通常は12から48時間程度である。培地pHは菌が発育し、本発明のα−ガラクトシダーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリの場合、好ましくはpH6から8程度である。
【0040】
本発明によれば、前述の酵素を用いるに際しては、本発明の酵素の作用を阻害しないかぎり、特別に精製程度等は限定されず、精製された本発明の酵素の他、その酵素含有物を用いてもよい。
【0041】
本発明においては、上記したα−ガラクトシダーゼを含む酵素組成物を用いてもよい。上記酵素組成物には、例えば、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、及びポリガラクツロン酸リアーゼから選択される少なくとも1種以上の成分をさらに含有せしめることができる。
【0042】
本発明において微生物触媒としては、Bacillus coagulans AKC−004株のほかに、上記形質転換体を用いることができる。本発明においてメリビオース製造に利用する微生物触媒としては通常行われる培養方法によって得られる微生物そのものを利用することができ、α−ガラクトシダーゼを微生物から精製する必要はない。また、場合によっては、微生物培養液、微生物培養上清を利用することもできる。一方、培養法により得られた微生物は必要に応じて、水や緩衝液等で洗浄した後、利用することもできる。例えば、培養した微生物の培養液、または遠心分離、バッファーによる洗浄等により得た微生物懸濁液、微生物または微生物の処理物(例えば微生物の破砕物等)を懸濁または溶解させた水溶液、あるいは微生物または微生物処理物を包括法、架橋法、又は担体結合法によって固定化したものを用いることができる。固定化する際の固定化担体の例としては、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
本発明によれば、上記した本発明のα−ガラクトシダーゼを用いたメリビオースの製造方法が提供される。原料としては、例えばグルコース及びガラクト−スを用いることができる。原料としてグルコースとガラクト−スを利用する際には例えば、α−ガラクトシダーゼによる脱水縮合反応を利用する性質上、原料濃度は高い方が好ましいが、ガラクトース濃度が高くなりすぎるとガラクトース分子間の縮合によりグルコースとガラクトース間の脱水縮合反応が抑制されるため好ましくない。グルコース濃度は30%(w/v)〜90%(w/v)にするのが好ましい。ガラクトース濃度は2%(w/v)〜45%(w/v)にするのが好ましく、より好ましくは、5%(w/v)〜35%(w/v)にするのが好ましい。
【0044】
本発明のα−ガラクトシダーゼを用いてメリビオースを製造する際の反応温度は、10〜90℃、より好ましくは20〜70℃であり、さらに好ましくは30〜60℃である。反応温度が10℃未満である場合、反応速度が極めて小さく、90℃を超える温度領域では酵素活性の失活が早く大量の酵素を要するため好ましくない。反応pHは広範囲で調整可能であり、好ましくはpH2.0〜10.0、より好ましくはpH3.0〜7.5、さらに好ましくは3.5〜6.0である。反応pHが2.0未満、あるいは10.0より大きい場合、酵素の失活が著しく早くなるため好ましくない。反応時間は酵素の使用量によっても異なるが、工業的利用を考慮した際、好ましくは通常20分〜200時間、より好ましくは、6〜80時間である。しかしながら、本発明は以上の反応条件や反応形態に限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0045】
本発明においては、生成オリゴ糖中のメリビオース含有率を50%以上に向上することができ、より好ましい条件では70%以上に向上することができる。メリビオース含有率が低い場合、生成物からのメリビオースの精製が著しく困難となるだけでなく、基質であるグルコースあるいはガラクトースの無駄な消費も重大な問題となる。
【0046】
本発明において得られる生成オリゴ糖中のメリビオース含有率は以下の方法により測定される。
[生成物オリゴ糖中のメリビオース含有率の測定方法]
グルコースとガラクトースを原料としたα−ガラクトオリゴ糖合成反応終了後、反応液を25倍希釈して、99℃で10分間保持することで反応を停止した。反応停止後、さらに糖合成液を20倍希釈し、イオンクロマト分析により、メリビオース蓄積濃度%(w/v)を算出した。また、反応停止後の糖合成液を2倍希釈して、HPLC分析を行い、全二糖蓄積濃度を算出した。イオンクロマト分析には、Carbpac PA1カラム(ダイオネクス社製)を用い、カラム温度35℃、流量1mL/min.で行った。検出器には、パルスドアンペロメトリ検出器を用いた。溶離液としては、水、100mM水酸化ナトリウム水溶液、500mM酢酸ナトリウム水溶液を利用し、0−20分、20−40分、40−45分の各々の段階で水、100mM水酸化ナトリウム水溶液、500mM酢酸ナトリウム水溶液の比率が49/50/1、30/50/20、0/100/0となるようなグラジエント条件で行った。HPLC分析には、Shodex Sugar SCLGガードカラム(昭和電工社製)、Shodex Sugar SC1011カラム(昭和電工社製)、Shodex Sugar SP0810カラム(昭和電工社製)を連結して使用し、カラム温度80℃、流量0.6mL/min.、RI検出器で行った。溶離液には蒸留水を使用した。生成物オリゴ糖中のメリビオース含有率(%)はメリビオース蓄積濃度/全二糖蓄積濃度×100により算出した。
【0047】
本発明の方法により製造されるメリビオースを精製、分離する方法としては、一般的に用いられている精製処理方法を利用することができる。すなわち、例えば、遠心分離、MF膜やUF膜等による膜処理、フィルタープレス等により微生物触媒を除き、陽イオン交換クロマトグラフィーや陰イオン交換クロマトグラフィー等のクロマト処理や透析等の脱塩処理により緩衝液や培地等から持ち込まれる塩類等を除去し、さらに、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、活性炭クロマトグラフィー等のクロマト処理や溶解度の差等を利用した結晶化処理、その他の常法に従ってラフィノースを分離、精製することができる。クロマト処理はこれらの方法を単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良く、移動層方式や擬似移動層方式、多成分分離擬似移動層方式、多成分分離循環方式等を適宜利用することができる。これらのメリビオースの精製、分離処理方法は、バッチ式で行っても良いしカラムを利用するなどして連続的に行っても良い。
【0048】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
実施例1
Bacillus coagulans AKC−004株(受託番号FERM P−21092(FERM BP−10948に移管):寄託機関; 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター)をTBAB(Tryptose Blood Agar Base)プレート (Difco)で、55℃、1日間培養してコロニーを形成させた。
【0050】
pH7.2に調整した表1に示す培地30mLを150mL容の三角フラスコに入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、50℃で、25時間、180rpmで回転振盪培養を行い、これをジャー培養のシードとした。
【0051】
【表1】

【0052】
次に、pH7.2に調整した表1に示す培地6Lを10L容のジャーファーメンターに入れ、上記のジャー培養のシード15mLを移植し、50℃で、48時間、200rpm、0.2vvmで通気攪拌培養を行った。
【0053】
次いでこの培養液を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を除去し、菌体を回収した。得られた菌体のα−ガラクトシダーゼの活性を測定した結果、261Uであった。
【0054】
この菌体を、50mM Tris−HCl、20mM EDTA、50mM グルコースを含むLysis緩衝液(pH8.0)で懸濁し150mLにした。この懸濁液を4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を除去し、菌体を回収した。
【0055】
Lysis緩衝液で洗浄後の菌体を上記Lysis緩衝液に再度懸濁し、150mLとした。これに0.02%のリゾチーム(Sigma社製 卵白由来)を添加して、37℃で、13時間、120rpmで振盪し、菌体破砕を行った。
【0056】
菌体破砕後の溶液を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して菌体残渣を除去し、上清を回収した。
【0057】
この上清に硫酸アンモニウムを加えて37.5%飽和とし、4℃で一夜放置して沈殿を生じさせた。この沈殿を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して除去し、上清を回収した。
【0058】
この上清に硫酸アンモニウムを加えて54.5%飽和とし、4℃で一夜放置して沈殿を生じさせた。この沈殿を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して回収し、pH7.0の20mMリン酸緩衝液に溶解させ、4℃で、一夜、上記と同じリン酸緩衝液に対して透析した。
【0059】
透析により得られた上清を、前記と同じリン酸バッファーで平衡化した「DEAE Sepharose FF」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、0〜0.4Mの塩化ナトリウムを含有するpH7.0の20mMリン酸緩衝液の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
【0060】
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、2Mの塩化ナトリウムを含有するpH7.0の20mMリン酸緩衝液で平衡化した「HiTrap Phenyl FF (high sub)」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、2.0〜0Mの塩化ナトリウムを含有するpH7.0の20mMリン酸緩衝液の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
【0061】
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、pH7.0の20mMリン酸緩衝液で平衡化した「MonoQ 5/50 GL」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、0〜0.4Mの塩化ナトリウムを含有するpH7.0の20mMリン酸緩衝液の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
【0062】
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、pH7.0の20mMリン酸バッファーで平衡化した「HiLoad 16/60 Superdex 200」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に充填した後、同様の緩衝液で溶出を行った。
【0063】
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、精製α−ガラクトシダーゼとした。活性収率は15%で、活性は270U/mLであった。
【0064】
実施例2
実施例1で得られた精製α−ガラクトシダーゼを用いて、その作用に関する実験を行った。
【0065】
(1)至適pH範囲
各pHの100mM緩衝液に溶解させた6mMのp−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシド150μLに、100倍希釈した本発明の精製酵素液50μLを混合し、40℃で5分間反応させた。反応後、遊離されたp−ニトロフェノールを定量することで活性を測定し、最大活性を100とする相対活性を求めた。この結果を図1に示す。なお、使用した緩衝液は、グリシン−HCl緩衝液(pH2.5〜3.5)、酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5〜6.0)、リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0〜8.5)、グリシン−NaOH緩衝液(pH8.5〜10.0)である。
【0066】
(2)安定pH範囲
pH4.0〜10.0の範囲で10mMの緩衝液を用いて、各pHで45℃、140分間の加熱処理を行い、その残存活性を測定し、前記と同様に最大活性を100とする相対活性を求めた。この結果を図2に示す。なお、使用した各pHの緩衝液の種類は前記のものと同様である。
【0067】
(3)至適温度範囲
pH4.5の酢酸ナトリウム緩衝液に溶解させた4.7mMのp−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシド190μLに、20倍希釈した本発明の精製酵素液10μLを混合し、20〜60℃の範囲で5分間反応させた。反応後、遊離されたp−ニトロフェノールを定量することで活性を測定し、最大活性を100とする相対活性を求めた。この結果を図3に示す。
【0068】
(4)安定温度範囲
pH4.5の100mM酢酸ナトリウム緩衝液を用いて、30〜55℃の各温度で20分間加熱処理を行い、その残存活性を測定し、前記と同様に最大活性を100とする相対活性を求めた。この結果を図4に示す。
【0069】
(5)分子量
分離ゲル濃度が10%の「レディーゲルJ」(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量を求めた。この結果を図5に示す。分子量は約80,000であり、アミノ酸配列から推定される分子量83,122とほぼ一致した。
【0070】
(7)基質特異性
10mMの各種基質を含むpH4.5の100mM酢酸ナトリウム緩衝液150μLに100倍希釈した本発明の精製酵素液50μLを混合し、40℃で20分間反応させた。ただし、p−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシドを基質に用いた反応では、反応時間を5分間とした。反応後、遊離されたp−ニトロフェノールの定量、あるいは「Shodex SUGAR」(昭和電工株式会社)カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによる分析から分解された基質の定量を行い、最大活性を100とした各基質に対する相対活性を求めた。この結果を表2に示す。また、そのなかで基質となり得たものについて、反応速度を測定した結果を表3に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
(8)阻害因子
pH4.5の酢酸ナトリウム緩衝液に溶解させた6mMのp−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシドに各種金属イオンを終濃度1mMとなるように添加して150μLとし、100倍希釈した本発明の精製酵素液50μLを混合し、40℃で20分間反応させた。反応後、遊離されたp−ニトロフェノールを定量することで活性を測定し、最大活性を100とする相対活性を求めた。この結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
実施例3
(1)染色体DNAの調製
常法に従ってBacillus coagulans AKC−004株の染色体DNAを調製した。実施例1記載の方法で取得したBacillus coagulans AKC−004株の培養液60mLを、遠心分離して菌体を回収した。得られた菌体をLysisバッファー(50mM Tris−HCl(pH 8.0)、20mM EDTA、50mM グルコース)に懸濁し、よく洗浄した。遠心分離して菌体を回収した後、Lysisバッファーに再懸濁し、これにリゾチームを加え37℃で45分間インキュベートした。次いでSDSとRNaseを添加し、37℃で45分間インキュベートした。その後Proteinase Kを添加し、50℃で60分間穏やかに振盪した。ここで得られた溶液をフェノール−クロロホルム、クロロホルムで処理後、エタノール沈殿し、析出した核酸をガラスピペットに巻きつけて回収した。この核酸を70%エタノールで洗浄後、乾燥し、TEに再溶解した。この操作により、約1mgの染色体DNAを調製した。
【0076】
(2)α−ガラクトシダーゼ遺伝子の単離
上記(1)において調製した染色体DNAから、α−ガラクトシダーゼ遺伝子断片を増幅するためのPCRプライマーを設計、合成した。プライマーの設計は公知の数種の微生物由来α−ガラクトシダーゼ遺伝子のアライメント結果を基に行い、センスプライマーは5'-GAAGTITACGGITTYAGYYTTGTITACAGYGG-3'(配列番号3)の配列を有するオリゴDNAを、アンチセンスプライマーは5'-CCAAACCAICCRTCRTCIARIACRAA-3' (配列番号4)の配列を有するオリゴDNAをそれぞれ合成した。なお、配列中、Iはイノシン、YはC又はT、RはA又はGを示す。ここで得られたPCRプライマーを用い、上記(1)において調製した染色体DNAを鋳型としてPCR法によるα−ガラクトシダーゼ遺伝子断片の増幅を行い、380塩基対からなるα−ガラクトシダーゼ遺伝子断片を取得した。ここで得られた遺伝子断片の塩基配列を、DNAシークエンサーを用いて解析した。
【0077】
解析の結果得られたα−ガラクトシダーゼ遺伝子断片の塩基配列をもとに、α−ガラクトシダーゼ遺伝子全長を含むDNA断片を取得するために、インバースPCR用PCRプライマーを設計、合成した。センスプライマーは5'-TGATCAACAACTGGGAAAGCGACCT-3' (配列番号5)の配列を有するオリゴDNAを、アンチセンスプライマーは5'-GAACTGGTCCTGCTGCACAATTCC-3' (配列番号6)の配列を有するオリゴDNAをそれぞれ合成した。次に、インバースPCRに用いる鋳型を調製した。上記(1)において調製した染色体DNAを制限酵素HindIIIで消化した後、得られたDNA断片をT4 DNA Ligaseを用いて自己環化し、インバースPCRの鋳型とした。この鋳型に対し、上記のように合成したインバースPCR用プライマーを用いて、PCR法によるα−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片の増幅を行い、α−ガラクトシダーゼ遺伝子の全配列を含む4500塩基対からなるPCR産物を取得した。
【0078】
(3)塩基配列の解析
DNAシークエンサーを用いて、(2)で得られたPCR産物からα−ガラクトシダーゼ遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、配列番号2に示す5’末端からのDNA塩基配列を有する2190塩基対のα−ガラクトシダーゼの構造遺伝子を解読した。この配列はこれまで見出されていない新規な遺伝子であった。また、このDNA塩基配列より類推されるBacillus coagulans AKC−004株が生産するα−ガラクトシダーゼは730個のアミノ酸からなり、配列番号2に示すようなN末端からのアミノ酸配列を有していた。データベース検索の結果、このアミノ酸配列はGeobacillus stearothermophilus由来α−ガラクトシダーゼ(AgaN)と57%、Geobacillus stearothermophilus由来α−ガラクトシダーゼ(AgaA)と56%、Geobacillus stearothermophilus由来α−ガラクトシダーゼ(AgaB)と56%、Lactococcus raffinolactis由来α−ガラクトシダーゼと56%の相同性を有し、新規なα−ガラクトシダーゼをコードしていることが明らかになった。
【0079】
(4)α−ガラクトシダーゼ遺伝子の発現プラスミドベクターの構築及び形質転換
(3)で得られたα−ガラクトシダーゼ遺伝子の配列を基に、α−ガラクトシダーゼ遺伝子のSD配列、構造遺伝子、終始コドンを含む領域を増幅するためのPCRプライマーを設計・合成した。PCRプライマーの設計は(2)で得られた4500塩基対からなるPCR産物の塩基配列を基に行い、センスプライマーは5'-TAAGGTAAAGCAGATGTGCCATT-3' (配列番号7)の配列を有するオリゴDNAを、アンチセンスプライマーは5'-TTACTCGTACACCGCCTC-3' (配列番号8)の配列を有するオリゴDNAをそれぞれ合成した。(2)で得られた4500塩基対からなるPCR産物を鋳型として、合成したPCRプライマーを用いてPCR法による増幅を行い、2325塩基対からなるPCR産物を取得した。ここで得られたPCR産物を平滑末端化、リン酸化した。
【0080】
制限酵素EcoRVで消化後に脱リン酸化したpBluescriptII KS(+)ベクターに、上記で得られた平滑末端化、リン酸化したPCR産物を連結し、新たなプラスミドベクターpBlue/agaAを構築した。このプラスミドベクターには大腸菌中で外来遺伝子として連結された遺伝子を効率的に転写できるlacプロモーターが導入されており、α−ガラクトシダーゼを効率的に発現・製造させることができる。得られたプラスミドベクターを、塩化カルシウム法で調製した大腸菌JM109株のコンピテントセルにヒートショック法で形質転換し、組換え微生物を作製した。
【0081】
(5)形質転換体の培養及びα−ガラクトシダーゼの発現
(4)で作製した組換え大腸菌JM109−pBlue/agaAを100mg/Lのアンピシリンを含む30mLのLB培地で37℃で24時間、振盪培養した。培養後、組換え大腸菌を遠心分離して回収した。菌体は100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で洗浄後、同緩衝液に再懸濁し、超音波破砕機で破砕した。この破砕液のα−ガラクトシダーゼ活性を、前記の方法で測定したところ、19.9U/培養液(mL)であった。
【0082】
実施例4
Bacillus coagulans AKC−004株(受託番号FERM P−21253:寄託機関;独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター)をTBAB(Tryptose Blood Agar Base)プレート (DIFCO)で、55℃、24時間培養してコロニーを形成させる。その1白金耳を表1に示した培地 100mLを500mL容三角フラスコに分注したものに接種して、50℃、150rpmで28時間培養した。
【0083】
本培養28時間後、培養菌体10mL分を15mL容チューブに回収した。培養液を回収した15mL容チューブを10,000rpmで遠心後、上清を除去した。次に、100mM酢酸Na buffer(pH5)を1mL添加し、再懸濁した後、懸濁液を2mL容ポリプロピレン製チューブに移した。再度、チューブを遠心し、上清を除去した後、糖液(pH5.0の100mM酢酸ナトリウム緩衝液にグルコース80.0%、ガラクトース10%を含む)を300μL添加し、菌体をボルテックスミキサーでよく懸濁させ、糖合成反応をスタートした。本糖合成反応は反応温度60℃、回転数1200rpmで行った。糖合成反応開始283時間後に、反応液40μLを回収し、蒸留水960μLとよく混合し、99℃で10分間酵素の熱失活を行った。本希釈糖液を常温に戻した後、イオンクロマト分析した結果を図6に、HPLC分析した結果を図7に示した。メリビオース糖蓄積濃度は1.79%(w/v)であり、生成物オリゴ糖中のメリビオース含有率は72.8%であった。
【0084】
実施例5
実施例3記載の組換え体培養液10mL分を15mL容チューブに回収した。培養液を回収した15mL容チューブを10,000rpmで遠心後、上清を除去した。次に、100mM酢酸Na buffer(pH5)を1mL添加し、再懸濁した後、懸濁液を2mL容ポリプロピレン製チューブに移した。再度、チューブを遠心し、上清を除去した後、糖液(pH5.0の100mM酢酸ナトリウム緩衝液にグルコース80.0%、ガラクトース10%を含む)を300μL添加し、菌体をボルテックスミキサーでよく懸濁させ、糖合成反応をスタートした。本糖合成反応は反応温度60℃、回転数1200rpmで行った。糖合成反応開始4時間後に、反応液40μLを回収し、蒸留水960μLとよく混合し、99℃で10分間酵素の熱失活を行った。本希釈糖液を常温に戻した後、イオンクロマト分析およびHPLC分析した結果、メリビオース糖蓄積濃度は3.24%(w/v)であり、生成物オリゴ糖中のメリビオース含有率は76.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明を用いることにより、安価な基質を原料として用いて、煩雑な酵素精製工程を行わずに、選択的にメリビオースを製造できるメリビオースの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、Bacillus coagulans AKC−004菌体から精製したα−ガラクトシダーゼの至適pH範囲(実施例2)を示す。
【図2】図2は、Bacillus coagulans AKC−004菌体から精製したα−ガラクトシダーゼの安定pH範囲(実施例2)を示す。
【図3】図3は、Bacillus coagulans AKC−004菌体から精製したα−ガラクトシダーゼの至適温度範囲(実施例2)を示す。
【図4】図4は、Bacillus coagulans AKC−004菌体から精製したα−ガラクトシダーゼの安定温度範囲(実施例2)を示す。
【図5】図5は、Bacillus coagulans AKC−004菌体から精製したα−ガラクトシダーゼのSDS−PAGE(実施例2)の結果を示す。
【図6】図6は、Bacillus coagulans AKC−004を用いた糖合成反応(実施例4)の反応液をイオンクロマト分析したリテンションタイム0〜20分の結果を示す。
【図7】図7は、Bacillus coagulans AKC−004を用いた糖合成反応(実施例4)の反応液をHPLC分析したリテンションタイム0〜45分の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bacillus coagulansに属する菌株由来のα-ガラクトシダーゼを利用して、ガラクトース及びグルコースを含む原料からメリビオースを製造するメリビオースの製造方法。
【請求項2】
α−ガラクトシダーゼが下記の特性を有する請求項1に記載のメリビオースの製造方法。
(1)作用:本酵素は、正反応としてα−ガラクトシダーゼの反応を行い、逆反応としてグルコース及びガラクト−スを基質としてメリビオース合成反応を行う。
(2)至適pH範囲:3.5〜5.0
(3)安定pH範囲:3.5〜10.0
(4)分子量:約80,000
【請求項3】
下記(a)、(b)又は(c)の何れかのアミノ酸配列からなるα−ガラクトシダーゼを利用して、ガラクトース及びグルコースを含む原料からメリビオースを製造するメリビオースの製造方法。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
(c)配列番号2に表されるアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配列:
【請求項4】
下記(a)、(b)又は(c)の何れかのアミノ酸配列からなるα−ガラクトシダーゼをコードするα−ガラクトシダーゼ遺伝子を導入した形質転換体を培養して得られるα−ガラクトシダーゼを利用して、ガラクトース及びグルコースを含む原料からメリビオースを製造するメリビオースの製造方法。
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配:
(c)配列番号2に表されるアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、α−ガラクトシダーゼ活性を有するアミノ酸配列:
【請求項5】
α−ガラクトシダーゼが、Bacillus coagulans AKC−003株(受託番号FERM P−21091)、AKC−004株(受託番号FERM P−21092、FERM BP−10948)、AKC−005株(受託番号FERM P−21093)、又はAKC−006株(受託番号FERM P−21094)、あるいはAKC−003株(受託番号FERM P−21091)、AKC−004株(受託番号FERM P−21092、FERM BP−10948)、AKC−005株(受託番号FERM P−21093)、又はAKC−006株(受託番号FERM P−21094)を親株として得られる変異株由来のものである、請求項1から4の何れかに記載のメリビオースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−207452(P2009−207452A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55762(P2008−55762)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】