説明

C型肝炎ウイルスの産生のための組織培養系

感染性C型肝炎ウイルスの産生のための組織培養系を記述する。特に、本発明は、野生型HCV2a型株JFH1の産生のためのコンストラクトと、株JFH1由来のHCVタンパク質および第2のHCV分離株(例えば、1a型H77、1b型Con1、または3a型NZ1もしくは452)を有するキメラウイルスの産生のためのコンストラクトとを含むウイルスの産生のための組換えモノシストロン性ゲノムコンストラクトおよびバイシストロン性ゲノムコンストラクトを提供する。本発明のコンストラクトは、また、培養物中のRNA複製およびウイルス感染力の測定を容易にするレポーター遺伝子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、米国特許法§119(e)の下、2006年8月22日に出願された、仮出願第60/839,608号の利益を主張する。この出願は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、感染性C型肝炎ウイルスの産生のための組織培養系に関する。
【背景技術】
【0003】
C型肝炎ウイルス(HCV)は、10年以上前に同定され、現在では非A型肝炎および非B型肝炎の主な原因であることが知られている(Chooら、Science (1989) 244:359−362;Armstrongら、Hepatology (2000) 31:777)。HCVは、世界人口のおよそ3%、すなわち推定2億の人々を感染させている(Cohen, J., Science (1999) 285:26)。米国では毎年、新たに約3万の後天性HCV感染症が発生している。さらに、発展途上国ではHCV感染症が高発生率で存在する。免疫応答がHCV感染を排除することが可能であるが、感染症の大多数は、慢性化する。急性感染症の大部分は無症候のまま経過し、肝疾患は、通常、数年の慢性感染症からのみ発症する。
【0004】
この配列を取得する方法が公知であるように、HCVのウイルスゲノム配列は公知である。例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3を参照。HCVは、9.5kbのプラスセンス、一本鎖RNAゲノムを有し、ウイルスのフラビウイルス科の一種である。系統発生解析に基づいて、少なくとも6種類の異なるが、関連するHCV遺伝子型が同定されている(Simmondsら、J.Gen.Virol.(1993) 74:2391−2399)。このウイルスは、約3000アミノ酸残基を有する単一のポリタンパク質をコードする(Chooら、Science (1989) 244:359−362; Chooら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1991) 88:2451−2455; Hanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1991) 88:1711−1715)。
【0005】
特に、いくつかのタンパク質は、HCVゲノムによってコードされる。HCVポリタンパク質の切断産物の順序および命名法は、以下の通りである。すなわち、NH−C−E1−E2−p7−NS2−NS3−NS4a−NS4b−NS5a−NS5b−COOH。別のタンパク質(F)も同定されており、C遺伝子内の翻訳フレームシフトの結果起こる。Branchら、Semin.Liver Dis.(2005) 25:105−117。ポリタンパク質の最初の切断は、3つの構造タンパク質、N末端ヌクレオカプシドタンパク質(コアと称される)、および2つのエンベロープ糖タンパク質(gpE1(Eとしても公知である)およびgpE2(E2/NS1としても公知である))、ならびにウイルス酵素および他の活性をコードする非構造(NS)タンパク質を遊離させる宿主プロテアーゼによって触媒される。NS領域は、NS2、NS3、NS4、およびNS5と称される。NS2は、タンパク質分解活性を有する膜内在性タンパク質であり、NS3と組み合わせてNS2−NS3接合部を切断する。そのNS4a補助因子とともにNS3プロテアーゼは、残存するポリタンパク質をプロセシングするのに役立つ。これらの反応において、NS3は、1つのNS3補助因子(NS4a)、2つのタンパク質(NS4bおよびNS5a)、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼ(NS5b)を遊離させる。ポリタンパク質成熟の完了は、NS3−NS4a接合部での自己触媒的切断によって開始され、NS3セリンプロテアーゼによって触媒される。
【0006】
HCV感染症に対する抗ウイルス剤およびワクチンの開発は、HCV複製のための適切な動物モデルまたは細胞培養系が欠けていることによって妨げられてきた。HCVは細胞培養では十分に増殖しないことが分っており、培養細胞でより効率的に増殖するサブゲノムレプリコンを使用することよっても感染性ウイルス粒子の生成に失敗している(Bartenschlagerら、(2000) J.Gen.Virol.81:1631−1648; Lohmannら、(1999) Science 285:110−113; Ikedaら、(2002) J.Virol.76:2997−3006; Pietschmannら、(2002) J.Virol.76:4008−4021)。さらに、既存する複製系は、一部の抗ウイルス戦略を試験するには不十分であることが分っている。非構造ウイルスタンパク質を発現させるだけである自己複製のサブゲノムレプリコンに基づく複製系は、抗ウイルス介入に向けられ得るHCVウイルスのライフサイクルのすべての手順を模倣しない。HCV前駆体を安定にトランスフェクトされるが、HCVのRNA複製が不可能である細胞系を用いて、ウイルスRNA複製を遮断する抗ウイルス剤をスクリーニングすることはできない。1つのシストロン上にHCV2a型株JFH1からの配列および第2のHCV株からの配列を含み、別のシストロン上に転写および感染をモニタリングするレポーター遺伝子を含むキメラコンストラクトを利用することによって、細胞培養中のバイシストロン性人工HCVゲノムコンストラクトから感染性ウイルスが産生され得ることを、最近、Pietschmannらは実証した(PNAS (2006) 103:7408−7413)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第89/04669号パンフレット
【特許文献2】国際公開第90/11089号パンフレット
【特許文献3】国際公開第90/14436号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、HCVの産生のための改善された組織培養系の必要性、および抗ウイルス治療法の試験において用いられることが可能な感染性HCV粒子を費用対効果が高くかつ効率的に産生することのできる組織培養系の開発の必要性が依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、感染性HCV粒子の産生のための確実な細胞培養系の開発に基づく。特に、本発明は、HCV(例えば、肝細胞または他の肝臓由来の一次細胞または腫瘍細胞系)に感染することが可能な細胞において野生型HCVウイルスおよびキメラHCVウイルスを増殖させる方法を提供する。本方法は、野生型HCV2a型株JFH1の産生のためのコンストラクトおよびキメラウイルス(株JFH1由来のNS3〜NS5bおよびNS2のC末端部分を含む)の産生のためのコンストラクトを含むウイルスの産生のための組換えモノシストロン性およびバイシストロン性のゲノムコンストラクトと、第2のHCV分離株(例えば、1a型H77C、1b型Con1、または3a型NZ1もしくは452)由来のNS2のコア〜p7およびN末端部分とを利用する。本発明のコンストラクトは、培養物中のRNA複製およびウイルス感染力の測定を容易にするレポーター遺伝子も含み得る。細胞培養系は、ウイルスの複製または感染力を向上させる種々の因子(例えば、宿主防御経路を抑制するRNAサイレンシング抑制因子(例えばインフルエンザウイルスのNS1ポリペプチド)または宿主細胞へのウイルス侵入を容易にするCD81)も含み得る。さらに、細胞培養で増殖させたHCVを用いる中和アッセイを記述する。このアッセイによって測定される中和力価は、ワクチン接種された動物においてHCV感染の予防効果と十分に関連することが判明している。
【0010】
従って、主題の発明は、以下の実施形態によって表されるが、これらに限定されない。
【0011】
一態様において、本発明は、JFH1コアタンパク質の任意の数の残基(例えば、JFH1コアタンパク質の1〜12、1〜13、1〜14、1〜15、1〜16、1〜17、1〜18残基)を含み、少なくとも最初の12残基から最大最初の18残基までを有するJFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列を有する第1のシストロンを有する組換えHCVバイシストロン性ゲノムコンストラクトを含む。ここで、JFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列は、レポーター遺伝子を有するフレームに結合してフレーム内で翻訳され、単一のポリペプチド融合産物を生成する。レポーター遺伝子の後には、第2のシストロンの翻訳のための内部リボソーム侵入部位(IRES)が続く。第2のシストロンは、コア、E1、E2、p7、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bの領域のための読み取り枠を有するHCVポリタンパク質のコード配列を含む。ここで、HCVポリタンパク質のNS2のC末端部分、ならびにNS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bの領域はJFH1に由来し、コア、E1、E2、およびp7の領域、ならびにNS2のN末端部分は第2のHCV分離株に由来する。第2の分離株は、JFH1と同一または異なるサブタイプであってもよい。好ましくは、第2の分離株は、JFH1と異なるサブタイプである。非JFH1株または分離株は、HCV1a型、1b型、2a型、2b型、3a型、3b型、4型、5型、または6型であり得る。ある実施形態において、非JFH1株または分離株は、H77C、Con1、NZ1、または452である。コンストラクトは、また、2つのシストロンに隣接して、5’HCV非翻訳領域、またはその機能的な部分、および3’HCV非翻訳領域、またはその機能的な部分を含む。典型的なHCVバイシストロン性ゲノムコンストラクトは、配列番号2〜5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0012】
ある実施形態において、HCVNS2遺伝子はキメラ遺伝子であり、JFH1由来のE1、E2、およびp7のタンパク質、ならびにNS2のカルボキシ部分をコードするように、同一のHCV株または分離株由来のNS2のアミノ部分をコードする。NS2遺伝子のアミノ部分とカルボキシ部分との間の適切な接合部は、Pietschmann et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(2006)103:7408−7413、これを参照することによって本明細書に援用する)に記述されている。ある実施形態において、NS2のアミノ部分とカルボキシ部分との間の接合部は、871〜877からなる群から選択される残基に生じる。
【0013】
ある実施形態において、組換えHCVバイシストロン性ゲノムコンストラクトは、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、または緑色蛍光タンパク質をコードするレポーター遺伝子を含む。
【0014】
一実施形態において、組換えHCVバイシストロン性ゲノムコンストラクトは、脳心筋炎ウイルス(EMCV)IRESを含む。
【0015】
別の態様において、本発明は、HCVポリタンパク質のコア、E1、E2、p7、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bの領域のコート配列を有する組換えHCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトを含む。ある実施形態において、HCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトは、キメラHCVポリタンパク質をコードし、ここで、HCVポリタンパク質のNS2C末端部分、ならびにNS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bの領域はJFH1に由来し、かつコア、E1、E2、およびp7の領域、ならびにNS2のN末端部分は第2のHCV分離株に由来する。第2の分離株は、JFH1と同一または異なるサブタイプであってもよい。好ましくは、第2の分離株はJFH1と異なるサブタイプである。非JFH1株または分離株は、HCVの1a型、1b型、2a型、2b型、3a型、4型、5型、または6型であり得る。ある実施形態において、非JFH1株または分離株は、H77C、Con1、NZ1、または452である。コンストラクトは、また、コンストラクトの両端に5’HCV非翻訳領域、またはその機能的な部分、および3’HCV非翻訳領域、またはその機能的な部分を含む。
【0016】
一部の実施形態において、HCV NS2遺伝子はキメラ遺伝子であり、JFH1型由来のE1、E2、およびP7のタンパク質ならびにNS2のカルボキシ部分をコードするように、同一のHCV株または型由来のNS2のアミノ部分をコードする。NS2遺伝子のアミノ部分とカルボキシ部分との間の適切な接合部位は、Pietschmann et al.(上掲)に記述されている。ある実施形態において、NS2のアミノ部分とカルボキシ部分との間の接合部は、871〜877からなる群から選択される残基に生じる。
【0017】
ある実施形態において、組換えHCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトは、レポーター遺伝子に結合したJFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列を含み、ここで、JFH1コアタンパク質のN末端フラグメントは、JFH1コアタンパク質の任意の数の残基(例えば、JFH1コアタンパク質の1〜12、1〜13、1〜14、1〜15、1〜16、1〜17、1〜18の残基)を含む少なくとも最初の12残基から最大最初の18残基までを含み、JFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列は、レポーター遺伝子を有するフレームに結合してフレーム内で翻訳される。ある実施形態において、レポーター遺伝子は、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、または緑色蛍光タンパク質をコードする。組換えHCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトは、発現したレポーター遺伝子産物をHCVポリタンパク質から分離させる切断部位のコード配列も含むことがある。一実施形態において、組換えHCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトは、レポーター遺伝子の後にFMDV 2Aプロテアーゼのコード配列を含む。さらに、組換えHCVモノシストロン性コンストラクトは、ユビキチンプロテアーゼ切断部位のコード配列をさらに含むことがある。
【0018】
ある実施形態において、本発明は、5’から3’の順に以下を有する組換えHCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトを含む。すなわち、
a)HCV 5’非翻訳領域、またはその機能的な部分、
b)JFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列を含むポリヌクレオチド、ここで、該フラグメントは、JFH1コアタンパク質の少なくとも最初の12残基から最大最初の18残基までを含み、JFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列は、レポーター遺伝子に結合される。
c)口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aプロテアーゼのコード配列、
d)ユビキチンプロテアーゼ切断部位のコード配列、
e)HCV株由来もしくはJFH1以外の分離株由来のコア、E1、E2、p7の領域と、HCV株由来もしくはJFH1以外の分離株由来のNS2のN末端部分およびJFH1由来のNS2のC末端領域を有するキメラNS2領域と、JFH1由来のNS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bの領域とを含むHCVポリタンパク質をコードするポリヌクレオチド、および
f)HCV 3’非翻訳領域、またはその機能的な部分。
【0019】
典型的な組換えHCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトは、以下からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含む。すなわち、
a)配列番号8のヌクレオチド7からヌクレオチド10953までの連続した配列を含むポリヌクレオチド、
b)配列番号9のヌクレオチド7からヌクレオチド10953までの連続した配列を含むポリヌクレオチド、
c)配列番号10のヌクレオチド7からヌクレオチド10971までの連続した配列を含むポリヌクレオチド、
d)配列番号16のヌクレオチド35からヌクレオチド9723までの連続した配列を含むポリヌクレオチド、
e)a)〜d)のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチド、および
f)a)〜e)のRNA相当物。
【0020】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の任意のバイシストロン性もしくはモノシストロン性の組換えHCVゲノムコンストラクトを有するベクターを含む。ある実施形態において、ベクターは、配列番号2〜5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するバイシストロン性コンストラクトを含む。他の実施形態において、ベクターは、配列番号6〜10および配列番号16からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するモノシストロン性コンストラクトを含む。ある実施形態において、ベクターは、DNA鋳型からRNA転写物を生成することが可能なゲノムコンストラクトに作動可能に結合されたプロモーターをさらに含む。一実施形態において、プロモーターはT7プロモーターである。
【0021】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の任意のバイシストロン性もしくはモノシストロン性の組換えHCVゲノムコンストラクトを有するHCVゲノムRNA転写物を含み、ここで、HCVゲノムRNA転写物を適切な宿主細胞にトランスフェクトすることで、感染性HCV粒子を産生することができる。
【0022】
別の態様において、本発明は、本発明の組換えHCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトしたHCV複製を支持することが可能な細胞を有する感染性HCV粒子の産生のための組織培養系を含む。
【0023】
ある実施形態において、組織培養系は、ヒト組織に由来するHCV複製を支持することが可能な細胞を含む。ある実施形態において、組織培養系は、肝細胞癌の細胞を含む。ある実施形態において、組織培養系は、Huh7、Huh7.5、Siena8、およびT7−11からなる群から選択される細胞系に由来するHCV複製を支持することが可能な細胞を含む。ある実施形態において、HCV複製を支持することが可能な細胞は、インターフェロンで治癒されている。1つの好ましい実施形態において、HCV複製を支持することが可能な細胞は、肝細胞または肝細胞由来の細胞である。
【0024】
ある実施形態において、組織培養系は、インターフェロンアンタゴニストまたはRNAサイレンシング抑制因子として作用する二本鎖RNA結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含む。二本鎖RNA結合タンパク質は、インフルエンザウイルスのNS1タンパク質であり得る。ある実施形態において、そのNS1ポリペプチドは、ウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含む。ある実施形態において、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドは、配列番号11〜14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0025】
ある実施形態において、組織培養系は、宿主細胞へのウイルス侵入を容易にするCD81ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。
【0026】
ある実施形態において、HCVゲノムRNA転写物の複製は、HCV複製を支持することの可能な細胞にHCVゲノムRNA転写物を導入してから少なくとも10日間、組織培養系で維持される。ある実施形態において、HCVゲノムRNA転写物の複製は、HCV複製を支持することの可能な細胞にHCVゲノムRNA転写物を導入してから少なくとも20日間、組織培養系で維持される。ある実施形態において、HCVゲノムRNA転写物の複製は、HCV複製を支持することの可能な細胞にHCVゲノムRNA転写物を導入してから少なくとも30日間、組織培養系で維持される。一部の好ましい実施形態において、HCV複製を支持することの可能な細胞は、肝細胞または肝細胞由来の細胞である。
【0027】
ある実施形態において、HCVゲノムコンストラクトから産生されるウイルスの感染力は、HCV感染を支持することの可能な細胞にHCVゲノムRNA転写物を導入してから少なくとも9日間、組織培養系で維持される。ある実施形態において、HCVゲノムRNA転写物から産生されるウイルスの感染力は、HCV感染を支持することの可能な細胞にHCVゲノムRNA転写物を導入してから少なくとも15日間、組織培養系で維持される。
【0028】
別の態様において、本発明は、HCV感染を支持することの可能な細胞に本発明の組換えHCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトすることと、HCVゲノムRNAの複製および感染性ウイルス粒子の培養培地への分泌に適した条件下で、培養培地で細胞を増殖させることとを含む、組織培養で感染性HCV粒子を生成する方法を含む。
【0029】
ある実施形態において、該方法は、HCVゲノム転写物をトランスフェクトする前に、HCV複製を支持することの可能な細胞に、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドをトランスフェクトする手順をさらに含む。RNAサイレンシング抑制因子は、インフルエンザウイルスのNS1タンパク質であり得る。ある実施形態において、細胞は、ウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを有するNS1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをトランスフェクトされる。ある実施形態において、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドは、配列番号11〜14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0030】
ある実施形態において、HCV複製を支持することの可能な細胞は、ヒト組織に由来する。ある実施形態において、HCV複製を支持することの可能な細胞は、肝細胞癌の細胞である。一部の実施形態において、細胞は肝細胞である。ある実施形態において、肝細胞は、Huh7、Huh7.5、Huh7C、Siena8、およびT7−11からなる群から選択される細胞系に由来する。ある実施形態において、肝細胞はインターフェロンで治癒されている。
【0031】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の任意の方法によって組織培養系で生成したキメラC型肝炎ウイルスを含む。組織培養系では、組換えHCVゲノムコンストラクトは、配列番号3〜5、8〜10、および16のゲノム配列からなる群から選択されるゲノム配列を含み、それらのゲノム配列はゲノムHCVコンストラクトおよびプラスミド配列を含む。
【0032】
別の態様において、本発明は、HCV複製を支持することが可能な細胞と、本明細書に記載の任意の組換えHCVゲノムコンストラクト(すなわち、感染させるためのRNA転写物および/またはin vitro転写によるウイルスRNAを生成するためのDNAベクター)とを含有するキットを含む。ある実施形態において、キットは、組換えHCVゲノムコンストラクトをトランスフェクトされる細胞を含む。キットは、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドをさらに含むこともある。ある実施形態において、キットは、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドをトランスフェクトされる細胞を含む。ある実施形態において、ポリヌクレオチドは、ウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含むNS1ポリペプチドをコードする。ある実施形態において、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドは、配列番号11〜14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0033】
ある実施形態において、HCV感染を支持することが可能な細胞は、肝細胞であり、さらに他の実施形態において、前記肝細胞は、ヒト組織に由来するである。ある実施形態において、肝細胞は肝細胞癌の細胞である。ある実施形態において、肝細胞は、Huh7、Huh7.5、Huh7C、Siena8、およびT7−11からなる群から選択される細胞系に由来する。ある実施形態において、肝細胞はインターフェロンで治癒されている。
【0034】
別の態様において、本発明は、抗HCV活性を有する化合物を同定する方法を含み、該方法は以下を含む。すなわち、
a)本明細書に記載のHCV組織培養系を化合物で処置すること、
b)前記化合物で処理した前記組織培養系におけるHCV複製、HCVタンパク質の発現、またはウイルス感染力から少なくとも1つを前記化合物で処理されていない前記組織培養系と比較することとを含む。この手順において、前記化合物で処理した組織培養系におけるHCV複製、HCVタンパク質の発現、またはウイルス感染力のレベルの減少は、抗HCV活性を有する化合物を示している。
【0035】
一実施形態において、抗HCV活性を有する化合物は、HCV感染力を抑制する化合物であり得る。一実施形態において、HCV感染力を抑制する化合物は抗体であり、抗体は、一部の実施形態において中和抗体であり得る。
【0036】
別の実施形態において、抗HCV活性を有する化合物は、HCV複製を抑制する化合物であり得る。
【0037】
本発明のこれらおよび他の実施形態は、本明細書の開示を考慮して、当業者にとって容易に達成される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】組換え野生型およびキメラJFH1ゲノムバイシストロン性コンストラクトの模式図を示す。バイシストロン性コンストラクトは、RNA複製、脳心筋炎ウイルス(EMCV)内部リボソーム侵入部位(IRES)をモニターするためのルシフェラーゼ(Luc)レポーター遺伝子に結合したJFH1コアタンパク質の最初の17のアミノ酸をコードする第1のシストロンと、野生型またはキメラJFH1ポリタンパク質をコードする第2のシストロンとを含んだ。キメラコンストラクトは、HCV2a型株JFH1由来のNS3〜NS5bコード領域と、異なるHCV分離株(コンストラクトLucHJ1:HCV1a型株H77C由来のコア〜p7領域、コンストラクトLucCJ1:HCV1b型株Con1由来のコア〜p7領域、およびコンストラクトLucNJ1:HCV3a型株NZ1由来のコア〜p7領域)由来のコア〜p7コード領域と、LucCJ1コンストラクトおよびLucHJ1コンストラクトの場合はNS2の残基871に、およびLucNJ1コンストラクトの場合はNS2の残基877に遺伝子間接合部を有するキメラNS2コード領域とを含有した。
【図2】組換え野生型およびキメラJFH1モノシストロン性コンストラクトの模式図を示す。モノシストロン性コンストラクトは、RNA複製をモニターするための緑色蛍光タンパク質(GFP)またはウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)レポーター遺伝子に結合したJFH1コアタンパク質の最初の12のアミノ酸をコードする領域と、口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aプロテアーゼのコード配列と、ユビキチンプロテアーゼ切断部位のコード配列と、野生型またはキメラJFH1ポリタンパク質のコード領域とを含んだ。キメラコンストラクトは、HCV2a型株JFH1由来のNS3〜NS5bコード領域と、異なるHCV分離株(RLF2AUbHJ1コンストラクト:HCV1a型株H77C由来のコア〜p7領域、RLF2AUbCJ1コンストラクト:HCV1b型株Con1由来のコア〜p7領域、およびRLF2AUbNJ1コンストラクト:HCV3a型株NZ1由来のコア〜p7領域)由来のコア〜p7コード領域と、RLF2AUbCJ1コンストラクトおよびRLF2AUbHJ1コンストラクトの場合はNS2の残基871に、RLF2AUbNJ1コンストラクトの場合はNS2の残基877に遺伝子間接合部を有するキメラNS2コード領域とを含有した。
【図3】Huh7細胞におけるモノシストロン性RLF2AUbJFH−1ゲノムコンストラクトと、バイシストロン性LucJFH1野生型JFHlゲノムコンストラクトとの複製効率を比較する。細胞内RNAレベルを、Huh7細胞の電気穿孔(eV)後の時間の関数としてルシフェラーゼ発光に基づいて測定した。
【図4】モノシストロン性RLF2AUbJFH−1コンストラクトをトランスフェクトしたHuh7細胞におけるJFH1感染価を、電気穿孔後の時間の関数として示す。
【図5】Huh7細胞におけるモノシストロン性RLF2AUbJFH−1コンストラクトのRNA複製のレベルを、組換えウイルスに感染後の時間の関数として示す。実施例6に記述するように、ナイーブHuh7細胞に、RLF2AUbJFH−1コンストラクトをトランスフェクトした細胞の培養上清由来のウイルスを接種した。細胞内JFH1RNAを、Huh7細胞の感染から24日間、RLucアッセイによって測定した。
【図6】モノシストロン性コンストラクトRLF2AUbJFH−1によって産生された野生型JFH1の感染力と、モノシストロン性コンストラクトRLF2AUbHJ1、RLF2AUbCJ1、およびRLF2AUbNJ1によって産生されたキメラウイルスの感染力とを比較する。
【図7】Huh7細胞におけるRLF2AUbJFH−1、RLF2AUbHJ1、RLF2AUbCJ1、およびRLF2AUbNJ1のモノシストロン性コンストラクトのRNA複製効率を比較する。
【図8】3種類の細胞系(Siena8、T7−11、およびHuh7)におけるJFH−1コンストラクトRLF2AUbJFH1のRNA複製効率を比較する。細胞を、1μgまたは4μgのコンストラクトのいずれかをトランスフェクトさせた。
【図9】インフルエンザのNS1の模式図を示す。完全長NS1タンパク質は、インターフェロン誘導性のdsRNA依存性タンパク質キナーゼ(PKR)およびRNA干渉(RNAi)を抑制する二本鎖RNA(dsRNA)結合ドメインと、mRNA前駆体スプライシングおよびmRNAの核外輸送を抑制する際に機能するエフェクタードメインとを含む。dsRNA結合ドメインおよびエフェクタードメインは、それぞれアミノ酸残基の1〜82および138〜147に存在する。さらに、NS1タンパク質は、2つの核移行シグナル(NLS1およびNLS2)と、切断・ポリアデニル化特異性因子(CPSF)結合部位と、ポリアデニル化結合タンパク質II(PABII)結合部位とを含む。完全長野生型(wt)NS1(残基1〜230);dsRNA結合ドメインを含む切断型NS1タンパク質であるNS82(残基1〜82);dsRNA結合ドメインおよびエフェクタードメインを含むより長い切断型NS1タンパク質であるNS180;および残基50〜84の欠失を含むdsRNA結合ドメイン内の不完全な変異NS1タンパク質を含む、4種類のRSSコンストラクトを示す。
【図10】Huh7細胞におけるモノシストロン性RLF2AUbJFH−1コンストラクトの複製への完全長野生型コンストラクトおよびNS82コンストラクトの影響を示す。
【図11】Huh7細胞におけるモノシストロン性RLF2AUbJFH−1コンストラクトから産生されたウイルスの感染力への完全長野生型コンストラクトおよびNS82コンストラクトの影響を示す。
【図12】本発明のゲノムコンストラクトを作製するために用いた制限酵素消化部位を含むJFH1ウイルスゲノムの遺伝子構成の模式図を示す。
【図13】JFH1ゲノムの部分を第2のHCV分離株のそれと置き換えるために用いた制限酵素部位を含むキメラHCVゲノムコンストラクトがどのように産生されるかを示す模式図である。
【図14】HCV組織培養系を用いて行ったウイルス中和アッセイの模式図を示す。
【図15】ウイルス感染の間に、細胞上にSRB1およびCD81を有するウイルスエンベロプ上のHCV E1/E2複合体の相互作用を示す、HCV細胞付着および侵入のモデルを表す。
【図16】間接蛍光抗体アッセイ法(IFA)によって測定したHuh7.5細胞中のJFH1感染力を示す。
【図17】RLF2AUbJFH1(RJ1):HCV2a型株JFH1由来のコア〜NS5b、RLF2AUbHJ1(RHJ1):HCV1a型株H77C由来のコア〜p7領域およびNS2のN末端部分、RLF2AUbCJ1(RCJ1)コンストラクト:HCV1b型株Con1由来のコア〜p7領域およびNS2のN末端部分、およびRLF2AUb452JFH1(R452J1)コンストラクト:HCV3a型株452由来のコア〜p7領域およびNS2のN末端部分、ならびにRHJ1、RCJ1、およびR452J1のコンストラクトの残基871に遺伝子間接合部を有するキメラNS2コード領域を含む組換え野生型モノシストロン性コンストラクトおよびキメラJFH1モノシストロン性コンストラクトの模式図を示す。
【図18】Huh7およびHuh7.5細胞中のJFH1の感染力へのCD81の影響を示す。
【図19】HCV組織培養系を用いて測定したように、HCV2a型、1b型、および1a型に対する中和抗体力価を示す。
【図20】E1E2をワクチン接種されたチンパンジーのHCV1a型に対する防御免疫を比較する。HCV1a型のパーセント抑制、中和抗体力価、CD81遮断抗体力価、および抗E1E2抗体力価を、細胞培養アッセイ法を用いて測定した。
【図21】細胞培養アッセイ法を用いて測定したように、チンパンジーのHCV1a型および2a型の交差中和を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
配列の簡単な説明
配列番号1は、JFH1ゲノムを含むプラスミド由来のpUC−18の配列である。
【0040】
配列番号2は、ルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1ゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。
【0041】
配列番号3は、バイシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1/H77Cキメラゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。
【0042】
配列番号4は、バイシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1/Con1キメラゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。
【0043】
配列番号5は、バイシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1/NZ1キメラゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。
【0044】
配列番号6は、モノシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1ゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。
【0045】
配列番号7は、モノシストロン性配置に緑色蛍光タンパク質遺伝子をさらに有するJFH1ゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。
【0046】
配列番号8は、モノシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1/H77Cキメラゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。キメラHCVゲノムコンストラクトは、配列番号8の約7ヌクレオチド〜約10953ヌクレオチドを含む。
【0047】
配列番号9は、モノシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1/Con1キメラゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。キメラHCVゲノムコンストラクトは、配列番号9の約7ヌクレオチド〜約10953ヌクレオチドを含む。
【0048】
配列番号10は、モノシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1/NZ1キメラゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。キメラHCVゲノムコンストラクトは、配列番号10の約7ヌクレオチド〜約10971ヌクレオチドを含む。
【0049】
配列番号11は、pCMVプラスミドに挿入されたインフルエンザNS1遺伝子の配列である。
【0050】
配列番号12は、pCMVプラスミドに挿入されたインフルエンザNS1遺伝子の一部分の配列である。
【0051】
配列番号13は、pCMVプラスミドに挿入されたインフルエンザNS1遺伝子の一部分の配列である。
【0052】
配列番号14は、NS1遺伝子の内部部分が除去されたpCMVプラスミドに挿入されたインフルエンザNS1遺伝子の配列である。
【0053】
配列番号15は、インフルエンザ由来のNS1のアミノ酸配列である。
【0054】
配列番号16は、モノシストロン性配置にルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するJFH1/452キメラゲノムを含むプラスミド由来のpUCの配列である。このキメラHCVゲノムコンストラクトは、配列番号16の約35ヌクレオチド〜約9723ヌクレオチドを含む。
【0055】
本発明の実施は、特に表示しない限り、当該技術分野内のウイルス学、化学、生化学、組換えDNAの技術、および免疫学の分野の従来からの方法を用いる。そのような技術は、文献で十分に説明されている。例えば、Fundamental Virology, 3rd Edition, vol.I&II(B.N.Fields and D.M.Knipe, eds.);Handbook of Experimental Immunology, Vols.I−IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell eds., Blackwell Scientific Publications);T.E.Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties (W.H.Freeman and Company, 1993);A.L.Lehninger, Biochemistry (Worth Publishers, Inc., current addition);Sambrook,ら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition, 1989);Methods In Enzymology (S.Colowick and N.Kaplan eds., Academic Press, Inc.)を参照。
【0056】
上掲または下掲に関わらず本明細書に引用する刊行物、特許、および特許出願のすべては、それら全体を参照することによって本明細書に援用する。
【0057】
以下のアミノ酸略語は、本文全体にわたって使用される。すなわち、
アラニン::Ala(A) アルギニン:Arg(R)
アスパラギン:Asn(N) アスパラギン酸:Asp(D)
システイン:Cys(C) グルタミン:Gln(Q)
グルタミン酸:Glu(E) グリシン:Gly(G)
ヒスチジン:His(H) イソロイシン:Ile(I)
ロイシン:Leu(L) リシン:Lys(K)
メチオニン:Met(M) フェニルアラニン:Phe(F)
プロリン:Pro(P) セリン:Ser(S)
スレオニン:Thr(T) トリプトファン:Trp(W)
チロシン:Tyr(Y) バリン:Val(V)
1.定義
本発明を説明する際に、以下の用語を使用し、かつ以下に示すように定義することを目的とする。
【0058】
本明細書および添付する特許請求の範囲で用いるように、内容が明らかに指示しない限り、単数形は複数の参照を含む。従って、例えば、「HCVゲノムRNA転写物(単数形)」への言及は、2つ以上のそのような転写物の混合物を含む。同様に、1つのHCVゲノムRNA転写物を1つの細胞にトランスフェクトすることは、複数の細胞が複数のゲノムRNA転写物をトランスフェクトされる状況を含むことを意味する。
【0059】
用語「C型肝炎ウイルス」(HCV)とは、非A型、非B型肝炎(NANBH)の原因病原体をいう。HCVの核酸配列および推定アミノ酸配列は、米国特許第5,856,437号および第5,350,671号に記述されている。HCVに起因する疾患は、C型肝炎と呼ばれ、正式にはNANBHと呼ばれる。本明細書で用いるように、用語HCVは、NANBHの原因になる病原性株、ならびに弱毒化株またはそれらに由来する欠陥干渉粒子のウイルス種を表す。
【0060】
HCVは、ウイルス系統群のフラビウイルス科のメンバーである。フラビウイルス粒子の形態および組成は公知であり、Reedら、Curr.Stud.Hematol.Blood Transfus.(1998), 62:1−37,HEPATITIS C VIRUSES IN FIELDS VIROLOGY (B.N.Fields, D.M.Knipe, P.M.Howley, eds.)(3d ed.1996)に考察されている。HCVゲノムの部分がペスチウイルスとも相同であることが最近見出されている。一般に、形態に関しては、フラビウイルスは脂質二重層によって囲まれた中心ヌクレオカプシドを含んでいる。ウイルス粒子は球状であり、かつ約40〜50nmの球径を有する。ウイルス粒子のコアは、直径約25〜30nmである。ウイルス粒子エンベロープの外面に沿って、直径約2nmの末端小頭部を有する約5〜10nm長の突起がある。
【0061】
HCVゲノムはRNAを含む。ウイルスを含むRNAは、自然突然変異の相対的に高い割合を有することが知られている。従って、HCVクラスまたは種内で病原性または非病原性であり得る複数の株が存在し得る。コア、非構造タンパク質、およびエンベロープタンパク質の翻訳完全長を含むHCVのORFは、米国特許第5,856,437号および第5,350,671号に示されている。
【0062】
用語「HCVゲノムコンストラクト」は、HCVの構造タンパク質および非構造タンパク質のすべてのコード配列を含む全HCVゲノムを有するRNAまたはDNAのいずれかの核酸をいう。HCVゲノムコンストラクトを含むDNAベクターを用いて、in vitro転写によるHCV RNAを生成することが可能である。HCVゲノムコンストラクトを含むRNA転写物を用いて、感染性HCVウイルス粒子を生成するために細胞をトランスフェクトすることが可能である。
【0063】
用語「HCVゲノムRNA転写物」は、細胞に存在する場合、感染性HCVウイルス粒子を複製し産生することができるHCVゲノムコンストラクトを含むRNA転写物をいう。本明細書に記載するようにHCVゲノムRNA転写物は、本発明に従って肝細胞に導入される。肝細胞は、さらに、付加的な核酸、遺伝子、もしくはタンパク質を有するまたは発現させる付加的なウイルスレプリコンおよび/またはプラスミドを含むことができる。1つ以上の他の付加遺伝子および/または調節領域は、HCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトした細胞内に随意的に存在して発現されることもできる。付加遺伝子またはタンパク質は、当該技術分野で周知の種々の手法を用いて、HCVゲノムRNA転写物上にもたらされることができ、または宿主細胞ゲノムに安定的もしくは一時的にトランスフェクトされることができる。付加遺伝子またはタンパク質は、例えば、細胞生存のマーカーとして用いられることも可能である。さらに、付加遺伝子またはタンパク質は、HCV複製、発現、および/またはウイルスもしくはウイルス様粒子の産生(例えばNS1、CD81)を向上させるまたは可能にする補助機能を備え得る。
【0064】
本明細書で用いるように、用語「付加遺伝子」とは、タンパク質を発現させまたは細胞内で調節機能をもたらす遺伝子または他の核酸を包含することを意味する。付加遺伝子はHCVおよび宿主細胞と非相同であり得、かつHCVまたは宿主細胞ゲノム由来であってもよい。従って、本明細書で用いるように、この用語は、宿主細胞ゲノムにすでに存在するが、エピソーム因子としてもたらされる、もしくはその通常の位置と異なる(あるいは通常の位置に加えて)宿主細胞ゲノム上の部位に組み込まれる付加遺伝子としてもたらされる宿主細胞遺伝子を意味する。
【0065】
当然のことながら、用語「ゲノムコンストラクト」、「HCVゲノムRNA転写物」、および「遺伝因子」は、ウイルスRNAのセンス鎖、またはセンス鎖(ウイルスゲノムRNA)に変えられることが可能でありかつ複製に必要なウイルスタンパク質に翻訳可能な任意の相補配列(例えば、cDNA逆転写物または相補的RNA)を包含する。cDNAゲノムコンストラクトは、当該技術分野で周知のように二本鎖DNAを含むことが可能である。代替コンストラクトが所望の目標(例えば、ウイルスゲノムの部分もしくは全体をクローン化すること、二本鎖cDNA鋳型からRNAウイルス転写物を発現させること、およびウイルス産物を生成すること)に依存して使用可能であることを、当業者は理解する。
【0066】
さらに当然のことながら、典型的なゲノムコンストラクトの記述は、本発明の趣旨から逸脱することなくゲノム配列または他の挿入断片の境界が容易に修飾または変化できるので、正確な境界に関して「約」を含む配列の点から言及される。従って、HCVゲノムコンストラクトは、選択された制限酵素部位を用いるクローニングの周知のアーチファクトに依存して、付加的なヌクレオチドの配列を含み得る。
【0067】
本明細書で用いるように「中和抗体」は、宿主細胞を感染させるHCVの能力を防御するまたは減少させる抗体をいうことを意味する。用語「抗体」は単数および複数を含むことを意味し、当該技術分野で公知のようにかつモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体の調製、一本鎖抗体、抗体FabおよびF(ab)のフラグメント、ならびにキメラ抗体およびヒト化抗体も言及する。
【0068】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーをいい、かつその産物の最小長を限定しない。従って、ペプチド、オリゴペプチド、二量体、多量体等は、この定義の範囲に含まれる。完全長タンパク質およびそのフラグメントの両方は、この定義によって包含される。これらの用語は、また、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化等を含む。さらに、本発明の目的で、「ポリペプチド」は、タンパク質が所望の活性を維持する限り、例えば、欠失、添加、および置換の未変性の配列への修飾(通常、本来保存的である)を含むタンパク質をいう。これらの修飾は、例えば部位特異的な変異原性を介して意図的であり得、または例えばタンパク質を生成する宿主の変異を介してもしくはPCR増幅によるエラー等偶発的であり得る。
【0069】
用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」は、任意の長さのヌクレオチドの重合体型(リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドのいずれか)を含むように本明細書では用いる。この用語は、分子の一次構造だけをいう。従って、この用語は、三本鎖、二本鎖、および一本鎖のDNA、ならびに三本鎖、二本鎖、および一本鎖のRNAを含む。この用語は、例えば、メチル化および/またはキャップ形成による修飾、およびポリヌクレオチドの非修飾形態も含む。さらに特定すれば、用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」は、ポリデオキシリボヌクレオチド(2−デオキシ−D−リボースを含有する);ポリリボヌクレオチド(D−リボースを含有する);プリン塩基もしくはピリミジン塩基のN−もしくはC−グリコシドであるポリヌクレオチドの任意の他の型;および非ヌクレオチド骨格(例えば、ポリアミド(例えばペプチド核酸(PNA)およびポリモルホリノ(Anti−Virals, Inc., Corvallis, OregonからNeugeneとして市販されている)ポリマー)を含有する他のポリマー;ならびに塩基対合および塩基スタッキング(例えば、DNAおよびRNAで見出される)を可能にする配置で核酸塩基を含有するポリマーをもたらす他の配列特異的合成核酸ポリマーを含む。用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」の間には長さにおいて意図された区別はなく、かつこれらの用語は互換的に用いられる。従って、これらの用語は、例えば、3’−デオキシ−2’,5’−DNA、オリゴデオキシリボヌクレオチドN3’P5’ホスホロアミド酸、2’−O−アルキル−置換RNA、二本鎖および一本鎖DNA、ならびに二本鎖および一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッド、ならびにPNAとDNAもしくはRNAとのハイブリッドを含む。また、公知の種類の修飾(例えば、当該技術分野で公知の標識;メチル化;「キャップ」;1つ以上の天然のヌクレオチドの類似体との置換;ヌクレオチド間の修飾(例えば、非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミダート、カルバメート)、負荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート)、正荷電結合(例えば、アミノアルキルホスホルアミダート、アミノアルキルホスホトリエステル)による修飾);懸垂部分(例えば、タンパク質(ヌクレアーゼ、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リシン))を含有する修飾;挿入剤(例えば、アクリジン、ソラレン)による修飾;キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属)を含有する修飾;アルキル化剤を含有する修飾、修飾結合(例えば、α−アノマー核酸)による修飾;ならびにポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの非修飾形態)を含む。特に、DNAはデオキシリボ核酸である。
【0070】
指定された配列に「由来する」ポリヌクレオチドは、指定されたヌクレオチド配列の領域に対応する(すなわち、同一または相補的な)おおよそ少なくとも約6のヌクレオチド、好ましくは少なくとも約8のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約10〜12のヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも約15〜20のヌクレオチドの連続した配列を含むポリヌクレオチド配列をいう。由来するポリヌクレオチドは、必ずしも目的のヌクレオチド配列に物理的に由来するわけではないが、ポリヌクレオチドが由来する領域の塩基配列によってもたらされる情報に基づいて化学合成、複製、逆転写、または転写を含むがこれらに限定されない任意の方法で生成され得る。そのようなものとして、それは、元のポリヌクレオチドのセンスまたはアンチセンス方向のいずれかを表すこともある。
【0071】
核酸分子を記述するために本明細書で用いるように、「組換え型」とは、その起源または操作によってそれが本来関連するポリヌクレオチドの全体または部分と関連しないゲノム起源、cDNA起源、ウイルス起源、半合成起源、または合成起源のポリヌクレオチドを意味する。タンパク質またはポリペプチドに関連して用いる用語「組換え型」とは、組み換えポリヌクレオチドの発現によって生成されるポリペプチドを意味する。通常、以下にさらに記述するように、目的の遺伝子はクローン化され、次いで形質転換された生物内で発現される。宿主生物は、発現条件下で外来遺伝子を発現させて、タンパク質を生成する。
【0072】
単細胞実体として培養された微生物または高等真核生物細胞系を示す「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞系」、「細胞培養物」、および他のそのような用語は、組換えベクターまたは移入DNAのレシピエントとして用いられることが可能な細胞、または用いられている細胞をいい、トランスフェクトされた起源細胞の最初の子孫を含む。
【0073】
選択されたポリペプチドを「コードする」「コード配列」または配列は、適切な調節配列の制御下(または「調節素子」)で配置される場合、in vivoでポリペプチドに転写される(DNAの場合)および翻訳される(mRNAの場合)核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端で開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端で翻訳終止コドンによって決定され得る。コード配列としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない。すなわち、ウイルス由来のcDNA、原核mRNAまたは真核mRNA、ウイルスDNAもしくは原核DNA由来のDNA配列、さらに合成DNA配列である。転写終結配列は、3’からコード配列に位置していることもある。
【0074】
典型的な「調節素子」としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない。すなわち、転写プロモーター、転写エンハンサー要素、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列(3’から翻訳終止コドンに位置する)、翻訳開始を最適化するための配列(5’からコード配列に位置する)、および翻訳終結配列である。
【0075】
「作動可能に結合された」とは、そのように記述される成分がそれらの通常の機能を実行するように形成される、要素の配置をいう。従って、コード配列に作動可能に結合された所定のプロモーターは、適切な酵素が存在すると、コード配列の発現をもたらすことが可能である。発現とは、DNA鋳型もしくはRNA鋳型からmRNAもしくはウイルスRNAのいずれか1つ以上の転写を含むことを意味し、かつmRNA鋳型からタンパク質の翻訳をさらに含む。プロモーターは、その発現を方向付けるよう機能する限り、コード配列と近接する必要はない。従って、例えば、翻訳されていないが転写された配列を介入することは、プロモーター配列とコード配列との間に存在することが可能であり、かつプロモーター配列は、依然としてコード配列に「作動可能に結合された」とみなされ得る。
【0076】
「によってコードされる」とは、核酸配列によってコードされるポリペプチド由来の少なくとも3〜5のアミノ酸、より好ましくは少なくとも8〜10のアミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも15〜20のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含有するポリペプチド配列またはその一部をコードする核酸配列をいう。
【0077】
用語「トランスフェクション」を用いて、細胞による外来DNAの取り込みをいう。細胞は、外来DNAがその細胞内に導入されたときに「トランスフェクトされる」。いくつかのトランスフェクション技術が一般的に当該技術分野で公知である。例えば、Grahamら、(1973) Virology, 52:456, Sambrookら、(1989) Molecular Cloning, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Davisら、(1986) Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier,およびChuら、(1981) Gene 13:197を参照。そのような技術を用いて、1つ以上の外来DNA部分を適切な宿主細胞に導入することができる。この用語は、遺伝子物質の安定な取り込みおよび一時的な取り込みの両方をいい、ペプチド結合DNAまたは抗体結合DNAの取り込みを含む。
【0078】
本明細書に示すように、組成物または薬剤についての用語「有効量」または「薬学的有効量」は、所望の応答(例えば、HCV RNA複製の抑制、発現、および/またはウイルス感染力)と、任意に対応する治療効果とをもたらすために組成物の無毒量だが十分な量をいう。個々の症例における適切な「有効」量は、日常の実験を用いて当業者によって決定可能である。
【0079】
本明細書で用いるように、「生物試料」は、被験者から単離される組織または体液の試料をいい、例えば以下が挙げられるがこれらに限定されない。すなわち、血液、血漿、血清、糞便、尿、骨髄、胆汁、脊髄液、リンパ体、皮膚の試料、外分泌物(皮膚、呼吸管、腸管、および尿生殖路からの)、涙、唾液、乳汁、血球細胞、器官、生検組織である。また、in vitro細胞培養成分の試料としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない。すなわち、培養培地での細胞および組織の増殖(例えば組換え細胞)に由来する条件培養培地、ならびに細胞成分である。
【0080】
2.本発明の実施様式
本発明を詳細に記述する前に、当然のことながら変化する可能性があるため、本発明は特定の製剤またはプロセスパラメータに限定されないことを理解すべきである。また、本明細書で用いる用語法は、本発明の特定の実施形態だけを記述する目的のためであり、限定することを意図しないことを理解すべきである。
【0081】
本明細書で記述されるものと類似するまたは相当するいくつかの方法および物質は、本発明の実施で用いられることが可能であるが、好ましい物質および方法は本明細書に記載される。
【0082】
A.HCV組織培養系
本発明は、感染性HCVウイルス粒子の産生のための組織培養系を提供する。組織培養系は、レポーター遺伝子を包含する組換えHCVゲノムRNA転写物を含有する肝細胞を含む。肝細胞は、HCVゲノムの複製および発現に関連したレポーター遺伝子(例えば、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子、または緑色蛍光タンパク質遺伝子)を含むウイルスタンパク質および非ウイルスタンパク質の発現を支持するHCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトされる。HCVゲノムRNA転写物を肝細胞に導入してから、レポーター遺伝子は、HCV RNAの複製、発現、またはウイルス粒子の産生が測定されるのを可能にする。種々の実施形態に従って、HCVゲノムRNA転写物の増殖および/または安定性に適応したヒト由来細胞を用いてもよい。HCV組織培養系を用いて、ウイルスを生成することも可能であり(例えば、ワクチン等の免疫原性組成物のために)、またはHCV抗ウイルス化合物の潜在活性(中和抗体の存在もしくは非存在の決定を含む)を評価することも可能である。
【0083】
レポーター遺伝子活性は、種々のウイルス活性をモニターするために、種々の手段で測定できる。例えば、細胞は、レポーター遺伝子を含むゲノムRNA転写物をトランスフェクトされ、次いで増殖されて、溶解される。細胞可溶化物中のレポーター遺伝子の活性量は、アッセイされて、トランスフェクトされた細胞集団の内部で生じるウイルス複製のレベルの尺度を提供する。
【0084】
あるいは、または上記のアッセイに加えて、HCVを支持することの可能なナイーブ細胞の第1の集団をトランスフェクトさせて、ある期間の間増殖させ、次いで分泌されるウイルス粒子を含有する上清を収集してもよい。次いで上清を用いて、HCV複製を支持するナイーブ細胞の第2の集団を感染させる。次いで、感染したナイーブ細胞を増殖させ、溶解させて、レポーター活性を測定する。この測定は、第1の細胞集団を感染させるために用いられるウイルスの感染力の表れである。
【0085】
組織培養系のいくつかの利点は、以下の通りである。すなわち、組織培養系は、動物モデルの使用を必要としない;組換えHCVゲノムRNA転写物は、培養細胞中で効率的に複製して、感染性ウイルス粒子を産生する;および抗ウイルス介入の標的となり得るHCVウイルスのライフサイクルのすべての手段が再生される。従って、組織培養系は、ウイルスの産生および有望な抗HCV治療薬のスクリーニングと検出のための簡便で対費用効果の高い手段を提供する。
【0086】
HCV組織培養系で用いる細胞は、HCVゲノムRNA転写物を複製すること、および感染性ウイルスを生産することが可能な任意の細胞でもよいが、好ましくは、不死化ヒト由来細胞であり、一実施形態において、ヒト肝細胞腫Huh7細胞またはHuh7由来細胞である。一部の実施形態において、由来細胞を、レプリコンの細胞を治癒させるインターフェロンαで処置したサブゲノムレプリコンを用いて増殖させ、次いでインターフェロンαに対する抵抗性が増大したものを選択する。
【0087】
本発明のHCVゲノムコンストラクトは、HCV構造タンパク質(コア、E1、およびE2)ならびにHCV非構造タンパク質(p7、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5b)を含むポリタンパク質としての全HCVゲノムを発現させる。ある実施形態において、レポーター遺伝子は、HCVゲノムコンストラクト内に含有され、かつHCVゲノムコンストラクトが複製されるときに複製される。レポーター遺伝子の存在によって、組織培養系でRNA複製およびウイルス感染力をモニターするためにレポーター活性を測定することが可能になる。ある実施形態において、レポーターは、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、または緑色蛍光タンパク質である。
【0088】
レポーター遺伝子は、モノシストロン性RNA、バイシストロン性RNA、またはトリシストロ性RNAのいずれかとして、HCVタンパク質をコードする遺伝子と同時発現され得る。バイシストロン性配置において、ゲノムコンストラクト内の1つ以上の遺伝子は、ゲノムコンストラクトにも存在する他の遺伝子の発現を調節しない別個の遺伝因子の翻訳調節下にある。1つの付加遺伝子または複数の付加遺伝子は、(1)HCVタンパク質と共に、(2)レポーター遺伝子と共に、または(3)ゲノムコンストラクトに含有されるさらに別の別個の翻訳調節因子(すなわち、「トリシストロン性」配置)の制御下で発現され得る。さらに、HCVタンパク質は、HCVポリタンパク質として共に発現可能であり、または上述のようにレポーター遺伝子および任意の付加遺伝子のための別個の遺伝因子の発現下にあり得る。あるいは、複製は、レポーター遺伝子のタンパク質発現なしで、例えばレポーター特異的核酸配列をコードする核酸の相対的な存在または非存在をアッセイすることによって検出可能である。
【0089】
1つの好ましい実施形態において、本発明は、HCVポリタンパク質の5’領域でコードされるルシフェラーゼ遺伝子を有するモノシストロン性ゲノムHCVレプリコンに、HCVポリタンパク質およびレポーター遺伝子の間に切断部位を与える。
【0090】
遺伝子の翻訳を調節する遺伝因子は、当業者にとって周知であり、例えば内部リボソーム侵入部位(IRES)が挙げられる。適切なIRES配列としては、ポリオウイルス、脳心筋炎ウイルス(EMCV)、およびHCVそれ自体に由来する配列が公知である。ある実施形態において、HCVゲノムコンストラクトは、内部リボソーム侵入部位(IRES)を含む。図1は、EMCV IRESを含む典型的なバイシストロン性ゲノムコンストラクト(配列番号1〜5にも記述される)を示す。これらのバイシストロン性ゲノムコンストラクトは、実施例2に記述するように、ルシフェラーゼレポーター遺伝子(Luc)および野生型JFH1またはキメラウイルスのゲノムを含む。EMCV配列は、HCVポリタンパク質の上流にあり、該ポリタンパク質の発現を促進する。EMCV IRESは、3’末端で3’非コード領域(NCR)によって隣接されるNS5b領域にコアの翻訳を指示する。
【0091】
HCVゲノムコンストラクトに含有されるレポーター遺伝子がモノシストロン性配置でもたらされるとき、レポーター遺伝子はHCVゲノムコンストラクトによって産生されるポリタンパク質の一部として発現される。レポーター遺伝子は、レポーター遺伝子産物の両境界(または、レポーター遺伝子産物がポリタンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端である場合、1つの境界で)で切断認識部位をもたらすことによってポリタンパク質から切断できる。切断部位は、その部位で特異的に切断するプロテアーゼ(例えばHCVプロテアーゼ)によって認識される。あるいは、CHYSEL配列(シス作用ヒドロラーゼエレメント)(例えば口蹄疫ウイルス(FMDV)2A配列)を用いて、HCVポリタンパク質からレポーター遺伝子産物を放出させることができる(Felipe (2004) Genetic Vaccines and Therapy 2:13)。別の代替物において、レポーター遺伝子は、切断部位なして構築可能であり、従ってHCVタンパク質の1つに融合した融合タンパク質として発現可能である。ゲノムコンストラクトでは、レポーター遺伝子が融合タンパク質の一部として発現されるとき、レポーター遺伝子は構造タンパク質のコード配列(すなわち、コアもしくはエンベロープ)またはそのフラグメントに結合できる。一実施形態において、JFH1コアタンパク質の少なくとも最初の12残基から最大最初の18残基まで(例えば、JFH1コアタンパク質の1〜12、1〜13、1〜14、1〜15、1〜16、1〜17、または1〜18の残基の間で任意の残基数)を含むJFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列は、レポーター遺伝子に結合される。レポーター遺伝子が常にタンパク質を発現しなければならないことは、不必要である。一部の実施形態において、レポーターは、そのレポーターに特異的な核酸配列の相対的な存在または非存在を検出することによって検出可能である。
【0092】
図2および17は、野生型JFH1もしくはキメラウイルスゲノムおよびウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)もしくは緑色蛍光タンパク質(GFP)のレポーター遺伝子を含む典型的なモノシストロン性ゲノムコンストラクトを示す(実施例3ならびに配列番号6〜10および16を参照)。さらに、これらのコンストラクトは、レポーター遺伝子の下流にユビキチン(Ub)プロテアーゼ切断部位をコードする配列を伴うFMDV2Aプロテアーゼをコードする配列を含む。これらのコンストラクトは、共に、外来性アミノ酸のない天然N末端を有するHCVポリタンパク質の産生を可能にする。発現したFMDV 2aプロテアーゼは、そのC末端で最後から2番目のアミノ酸で自己切断を起こし、それによって残存するポリタンパク質融合に結合したC末端FMDV 2aアミノ酸を残して、HCVポリタンパク質からレポーター遺伝子産物を分離させる。そのC末端で宿主内在性ユビキチンに特異的なプロテアーゼによるユビキチン切断の切断によって、その正確な未変性N末端を有するHCVポリタンパク質産物を放出する。
【0093】
一部の実施形態において、ゲノムコンストラクトは選択可能なマーカーを発現させる。選択可能なマーカーは、ゲノムコンストラクトを内部に持つ細胞の選択を可能にさせる。一部の実施形態において、G418による選択のためのネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(Neo)が用いられる。薬物耐性に基づく他のマーカーの例としては、aad、ble、dhfr、hpt、nptII、aphII、gat、およびpacが挙げられる。他のマーカーは、抗生物質(例えば、Puromycin、Zeocin、またはHygromycin)を用いる選択を可能にし得るが、当業者は、ゲノムコンストラクトを内部に持つ細胞の選択を可能にする当該技術分野で公知の任意のマーカー遺伝子を用いてもよいことを理解する。完全長ゲノムコンストラクトにおいて、ネオ遺伝子は、通常、存在しない。
【0094】
ある実施形態において、ゲノムコンストラクトは、1つ以上の細胞適応変異株を有することもある。これらの変異株は、HCV産生に対して非許容状態であるかさもなければ効率的でない細胞においてHCV複製を向上させるか可能にすることができる。Huh7細胞が用いられる一実施形態において、ゲノムコンストラクトは、以下の細胞適応変異株を有することが可能である。すなわち、NS3領域でE1202G、T1280I、およびNS4b領域でK1846T(Nicole Krieger, Volker Lohmann, and Ralf Bartenschlager, Enhancement of hepatitis C virus RNA replication by cell culture−adaptive mutations.2001, Journal of Virology, 75(10):4614−4624; Volker Lohmann, Sandra Hoffmann, Ulrike Herian, Francois Penin, and Ralf Bartenschlager, Viral and cellular determinants of hepatitis C virus RNA replication in cell culture.2003, Journal of Virology, 77(5):3007−3019)。しかし、一部の細胞は、細胞培養で適応することなくHCV複製を支持することできるので(例えば、HCV−NまたはJFH−1)、そのような細胞適応変異株は必ずしも必要ではない。本発明の組織培養系は、これらの変異株の有無にかかわらずHCVゲノムRNA転写物の複製を支持することができる。
【0095】
HCVゲノムコンストラクトは、種々のウイルス株および遺伝子型に由来することが可能である。HCVゲノムは、任意の型(例えば、1、2、3、4、5、6)のキメラまたはHCVのサブタイプ(例えば、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l、1m、2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、2i、2k、2l、2m、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3k、4a、4c、4d、4e、4f、4g、4h、4k、4l、4m、4n、4o、4p、4q、4r、4s、4t、5a、6a、6b、6d、6f、6g、6h、6i、6j、6k、6l、6m、6n)のキメラであり得る。NIAID C型肝炎(HCV)配列データーベース[hcv.lanl.gov/content/hcv−db/classification/genotable.html]によって設定されたように、この命名法は現在の標準である。この命名法では、以前の遺伝子型7〜9は、6型のサブタイプとして再分類されている(Simmondsら、(1996) J.Gen.Virol.77:3013−3024)。従って、新しい分類は、以前の分類I、II、III、IV、V、VI、4α、4β、7a、7b、7c/NGII/VII、7d、NGI、8a、8b、9a、9b、9c、10a/TD3、および11aを含む。
【0096】
例えば、いくつかのHCV−1分離株の完全な配列が報告されている。例えば、NCBI受入番号AB016785、AB049087、AB049088、AB049089、AB049090、AB049091、AB049092、AB049093、AB049094、AB049095、AB049096、AB049097、AB049098、AB049099、AB0490100、AB0490101、AB080299、AB119282、AB154177、AB154178、AB154179、AB154180、AB154181、AB154182、AB154183、AB154184、AB154185、AB154186、AB154187、AB154188、AB154189、AB154190、AB154191、AB154192、AB154193、AB154194、AB154195、AB154196、AB154197、AB154198、AB154199、AB154200、AB154201、AB154202、AB154203、AB154204、AB154205、AB154206、AB19133、AF009606、AF011751、AF011752、AF011753、AF054247、AF054248、AF054249、AF054250、AF139594、AF165045、AF165046、AF165047、AF165048、AF165049、AF165050、AF165051、AF165052、AF165053、AF165054、AF165055、AF165056、AF165057、AF165058、AF165059、AF165060、AF165061、AF165062、AF165063、AF165064、AF176573、AF207752、AF207753、AF207754、AF207755、AF207756、AF207757、AF207758、AF207759、AF207760、AF207761、AF207762、AF207763、AF207764、AF207765、AF207766、AF207767、AF207768、AF207769、F207770、AF207771、AF207772、AF207773、AF207774、AF208024、AF271632、AF290978、AF313916、AF333324、AF356827、AF483269、AF511948、AF511949、AF511950、AJ000009、AJ132996、AJ132997、AJ238799、AJ238800、AJ278830、AY045702、AY051292、AY460204、AY587016、D10934、D11168、D11355、D13558、D14484、D14853、D30613、D45172、D50480、D50481、D50482、D50483、D50484、D50485、D63857、D85516、D89815、D89872、D90208、L02836、M58335、M62321、M67463、M84754、M96362、NC_004102、S62220、U01214、U16362、U45476、U89019、X61596を参照。
【0097】
同様に、いくつかのHCV−2分離株の完全な配列が報告されている。例えば、NCBI受入番号AB030907、AB031663、AB047639、AB047640、AB047641、AB047642、AB047643、AB047644、AB047645、AF169002、AF169003、AF169004、AF169005、AF177036、AF238481、AF238482、AF238483、AF238484、AF238485、AF238486、AY232730、AY232731、AY232732、AY232733、AY232734、AY232735、AY232736、AY232737、AY232738、AY232739、AY232740、AY232741、AY232742、AY232743、AY232744、AY232745、AY232746、AY232747、AY232748、AY232749、AY587845、AY746460、D00944、D10988、D50409を参照。本発明で用いる1つの適切なHCV株は、遺伝子型2a株JFH1(Katoら、(2003) J.Med.Virol.64:334−339)である。
【0098】
いくつかのHCV−3分離株の完全な配列も報告されている。例えば、NCBI受入番号AF046866、D17763、D28917、D49374、D63821、X76918を参照。HCV−4分離株の完全な配列も公知である。例えば、NCBI受入番号YI1604を参照。HCV−5分離株の完全な配列は公知である。例えば、NCBI受入番号AF064490およびY13184を参照。HCV−6分離株の完全な配列も公知である。例えば、NCBI受入番号AY859526、AY878650、D63822、D84262、D84263、D84264、D84265、Y12083を参照。
【0099】
付加的な配列は以下の通りである。分離株HCVJ1.1は、以下に記述されている。すなわち、Kuboら、(1989) Japan.Nucl.Acids Res.17:10367−10372;Takeuchi et al.(1990) Gene 91:287−291; Takeuchiら、(1990) J.Gen.Virol.71:3027−3033;およびTakeuchiら、(1990) Nucl.Acids Res.18:4626。2つの非依存的分離株(HCV−JおよびBK)の完全なコード配列は、それぞれ、以下によって記述されている。すなわち、Katoら、(1990) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:9524−9528およびTakamizawaら、(1991) J.Virol.65:1105−1113。HCV-1分離株は、以下によって記述されている。すなわち、Chooら、(1990) Brit.Med.Bull.46:423−441;Chooら、(1991) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:2451−2455およびHanら、(1991) Proc.Natl Acad.Sci.USA 88:1711−1715。HCV分離株HC−J1およびHC−J4は、Okamotoら、(1991) Japan J.Exp.Med.60:167−177に記述されている。HCV分離株HCT18、HCT23、Th、HCT27、EC1、およびEC10は、Weinerら、(1991) Virol.180:842−848に記述されている。HCV分離株Pt−1、HCV−K1、およびHCV−K2は、Enomotoら、(1990) Biochem.Biophys.Res.Commun.170:1021-1025に記述されている。HCV分離株A、C、D、およびEは、Tsukiyama−Koharaら、(1991) Virus Genes 5:243−254に記述されている。
【0100】
ある実施形態において、HCVゲノムコンストラクトは、複数のウイルス株または遺伝子型に由来する配列を含むキメラである。そのようなキメラコンストラクトは、キメラHCVポリタンパク質をコードする。一実施形態において、キメラポリタンパク質は、NS2のC末端部分と、JFH1由来のNS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bの領域と、コア、E1、E2、およびp7領域と、第2のHCV分離株由来のNS2のN末端部分とを含む。第2の分離株は、JFH1と同じまたは異なるサブタイプであってもよい。好ましくは、第2の分離株は、JFH1と異なるサブタイプである。ある実施形態において、非JFH1株または分離株は、HCVの1a型、1b型、2a型、2b型、3a型、3b型、4型、5型、または6型である。ある実施形態において、非JFH1株または分離株は、H77C、Con1、NZ1、または452である。
【0101】
ある実施形態において、HCV NS2遺伝子は、JFH1由来のE1、E2、およびp7のタンパク質ならびにNS2のカルボキシ部分をコードするのと同じHCV株または分離株由来のNS2のアミノ部分をコードするキメラ遺伝子である。NS2遺伝子のアミノ部分およびカルボキシ部分の間の適切な接合部の部位は、Pietschmann t al (Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(2006) 103:7408−7413。これを参照することによって本明細書に援用する)に記述されている。ある実施形態において、NS2のアミノ部分およびカルボキシ部分の間の接合部は、871〜877からなる群から選択される残基で生じる。
【0102】
典型的なバイシストロン性キメラコンストラクトおよびモノシストロン性コンストラクトを図1、2、および17に示す。代表的な組換えHCVモノシストロン性ゲノムコンストラクトは、配列番号8のヌクレオチド7からヌクレオチド10953まで連続した配列を含むポリヌクレオチドと、配列番号9のヌクレオチド7からヌクレオチド10953まで連続した配列を含むポリヌクレオチドと、配列番号10のヌクレオチド7からヌクレオチド10971まで連続した配列を含むポリヌクレオチドと、配列番号16のヌクレオチド35からヌクレオチド9723まで連続した配列を含むポリヌクレオチドと、またはそれらのRNA相当物とからなる群から選択されるポリヌクレオチドを含む。これらのバイシストロン性またはモノシストロン性の組換えHCVゲノムコンストラクトのいずれかを含むHCVゲノムRNA転写物を用いて、適切な宿主細胞をトランスフェクトさせて、感染性HCV粒子を生成することが可能である。
【0103】
HCVゲノム由来のRNAを用いて、相補DNAのコピーを作製することができる。DNAコピーを、逆転写(RT)によって作製することができる。あるいは、DNAコピーまたはそのフラグメントを合成手段によって全体的に、または部分的に作製することができる。一旦RNAゲノムのDNAコピーが利用できるようになれば、それを二本鎖DNAに変えることができ、次いで、ベクター(例えばプラスミド)にクローン化できる。そのプラスミドを用いて、ウイルスRNAが転写可能なDNA鋳型を作製することができる。別の方法として、そのDNAを用いて、ベクターを使用せずにウイルスRNAを生成することが可能である。この場合、DNA依存性RNAポリメラーゼの適切なプロモーターを、ウイルスゲノムの開始点の上流に導入する。適切なプロモーターとしては、T7、T3、およびSP6のプロモーターが挙げられ、これらはin vitro転写(「IVT」)反応で使用される。ウイルスのDNAコピーは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて場合により増幅できる。
【0104】
別の方法として、ウイルス転写物は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(例えばQβレプリカーゼ)を用いて、RNA鋳型から作製可能である。転写媒介増幅(「TMA」)反応を用いて、RNAを増幅することも可能である。
【0105】
HCV配列を含有するプラスミドは、当該技術分野で周知の任意の方法によって構築可能である。例えば、Sambrook, Fritsch, and Maniatis, Molecular cloning a laboratory manual (2nd Edition) 1989 Cold Spring Harbor Laboratory Press;Joseph Sambrook, David W.Russell, Joe Sambrook, Molecular Cloning:a Laboratory Manual, ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2000、またはPCR Applications, 1999, ed.M.Innis, D.Gelfand and J.Sninsky, Academic Pressを参照。図12および13に示すレプリコンLucJFH1は、pJFH1由来のAge1−NotIフラグメントをLuc−JFH1由来のAge1−Not1フラグメントと置き換えることによって構築され得る。JFH1の一部および種々の他のHCV血清型の構造タンパク質遺伝子の一部を含有するキメラコンストラクトを除いて、本発明のゲノムコンストラクトを、図面および添付の本文に記述するように、ホスホジエステル合成を使用して人工的に合成し、pUCプラスミドにクローン化した。
【0106】
FMDV 2Aプロテアーゼのコード配列およびユビキチンプロテアーゼ切断部位を含有するDNAフラグメントを、pLucJFH1モノシストロン性プラスミドの部分として人工合成した。
【0107】
種々の代替のクローニング戦略を用いて、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明のゲノムウイルスコンストラクトを構築することが可能であることを当業者は、容易に認識する。
【0108】
制限酵素部位を利用して種々のキメラHCVゲノムをpUCプラスミドベクターにクローン化した。組換えウイルスゲノムコンストラクトの作製に成功した後、制限酵素部位を利用して、ゲノムコンストラクトを作製した。配列を、クローニングの後に標準配列決定法を用いて確認した。
【0109】
種々の方法を用いて、発現コンストラクトを細胞に送達することができる。そのような方法としては、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈降、ポリリジンもしくはポリオルニチン媒介トランスフェクション、または他の不溶性無機塩類(例えば、リン酸ストロンチウム、ケイ酸アルミニウム(ベントナイトとカオリン、酸化クロム、ケイ酸マグネシウム、滑石等を含む))が挙げられる。他の有用なトランスフェクション方法としては、電気穿孔、ソノポレーション、プロトプラスト融合、リポソーム、ペプトイド送達、またはマイクロインジェクションが挙げられる。例えば、目的の細胞を形質転換する技法についての考察については、Sambrookら、(上掲)を参照。遺伝子導入に有用な送達系の総説については、Felgner, P.L., Advanced Drug Delivery Reviews (1990) 5:163−187を参照。電気穿孔を用いるDNA送達方法は、例えば、米国特許第6,132,419号、第6,451,002号、第6,418,341号、第6233,483号、米国特許公開第.2002/0146831号、および国際公開第WO/0045823号に記述されており、それら全体を参照することによりすべてを本明細書に援用する。
【0110】
レポーター遺伝子
本発明の組換えゲノムコンストラクトにレポーター遺伝子を包含することで、組織培養系において化合物の抗HCV活性をリアルタイムでモニターすることを可能にする。さらに、抗HCV活性は単一の時点でよりもむしろ繰り返して定量化されることが望ましく、かつレポーター遺伝子の存在はそのような観察を容易にする。
【0111】
好ましくは、レポーター遺伝子は、容易にアッセイされる。例えば、レポーター遺伝子は検出可能なシグナル(例えば可視シグナル)を生じさせることが可能である。レポーター遺伝子は、可視シグナル自体を生じさせるタンパク質、または反応を触媒するタンパク質、可視変化(例えば、蛍光タンパク質または酵素)を生じさせるタンパク質をコードすることが可能である。レポーター遺伝子は、例えば、βガラクトシダーゼまたはペルオキシダーゼの酵素をコードすることも可能である。これら両酵素は、通常、着色した基質および/または産物とともに使用される。レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質(GFP))またはその蛍光誘導体(例えば、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、もしくはシアン蛍光タンパク質(CFP))をコードすることが可能である。レポーター遺伝子は、発光タンパク質(例えば、ホタルルシフェラーゼまたはウミシイタケルシフェラーゼ)をコードすることが可能である。レポーター遺伝子は、細胞においてDNA複製を促進することも可能であり、または薬剤抵抗性マーカーをコードすることも可能である。レポーター遺伝子は、抗原に特異的に結合する抗体を用いて検出できる抗原をコードすることも可能である。さらに、培養培地で測定可能である分泌タンパク質をコードするレポーター遺伝子が用いられることも可能である。そのようなレポーター遺伝子の例としては、分泌アルカリホスファターゼまたはヒト成長ホルモンをコードする遺伝子がある。レポーター遺伝子は、また、核酸ハイブリダイゼーション技術および/または増幅技術を利用して検出可能な独特の核酸配列であり得る。上記記載は、典型的なものであり、レポーター遺伝子のソースを限定するためではなく、さらに多くが当業者によって容易に想定できる。
【0112】
本発明で用途を見出され得るレポーター遺伝子としては、例えば、検出のため公知の抗体を有する抗原(例えば、ヒト成長ホルモンおよびヒト成長ホルモンに対する抗体)およびin vitroまたはin vivoで検出可能な活性を有する酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質等)が挙げられる。さらに、上述のように、レポーター遺伝子をコードする核酸の存在を検出することによってモニタリングを行い、複製、発現、または粒子産生を決定することも可能となる。
【0113】
従って、本明細書で明らかにするように、レポーター遺伝子「活性」の検出は、レポーター遺伝子の産物の物理的存在または化学的活性の検出を含み、かつレポーター遺伝子に対して特異的な核酸配列のすべてまたは部分の検出も含む。レポーターシグナルは、in vivoで細胞培養物中に検出可能であり、または細胞可溶化物からin vitroで定量化可能である。
【0114】
細胞系
HCVゲノムRNA転写物の複製を支持することが可能な任意の細胞系を用いてもよい。Huh7細胞系以外に、ヒト癌細胞系HeLa、ネズミ肝癌Hepa1−6、HEK293ヒト肝癌細胞系HepG2およびIMY−N9(ヒト肝細胞およびHepG2細胞の融合に由来する細胞系)もHCVレプリコン複製を支持することが知られている。従って、これらの腫瘍細胞系のいずれかまたはHCVゲノムRNA転写物の複製を支持する任意の他の細胞系は、組織培養系で用いてもよい。一部の実施形態において、細胞系はヒト細胞、好ましくはヒト肝癌細胞系Huh7に由来する。
【0115】
本発明で用いる1つの細胞系は、肝細胞癌、すなわち、「Huh7」(Nakabayashiら、(1982) Cancer Res 42:3858−63)として公知のヒト肝癌細胞系に由来する。有用なHuh7由来細胞系は、完全長HCVレプリコンを支持する「21−5」である(Pietschmannら、(2002) J Virol 76:4008−21)。他の適切な細胞系は、Huh−7の亜系統であるHuh−7.5およびHuh−7.8であり、これらは細胞培養で完全なHCV複製を支持し(Blightら、(2002) J.Virol.76:13001−14;国際公開第WO2004/044182号)、Huh−7.5が好ましい。Huh7細胞(およびそれらの誘導体)の継代によって得られる細胞、ならびにα−インターフェロンおよび/またはγ−インターフェロンでHuh7を処置することによって得られる細胞も用いることが可能である。国際公開第WO2004/044182号に記述されるように、HCVに許容状態の細胞系は、(a)HCVで感染させた細胞を培養することと、(b)HCVの細胞を治癒させることと、(c)HCV複製に許容状態である治癒した細胞の亜系統を同定することとを含むプロセスによって調製され得る。
【0116】
HCV複製のためにヒト由来細胞を使用することは、より正確なHCV複製のモデルおよびヒトにおける治療に対する反応を提供するために望ましい。一部の実施形態において、細胞が腫瘍細胞であることに注目すべきである。腫瘍細胞(例えば、Huh−7、HeLa等)は、培養でより容易に継代可能である。しかし、本発明は、腫瘍細胞に限定されることなく、HCVゲノムRNA転写物の複製を支持する任意の細胞または細胞系を用いて実施され得る。
【0117】
種々の実施形態に従って、細胞系は、培養で増殖速度の上昇またはHCV複製もしくは発現の増加に適応し得る(例えば、ルシフェラーゼレポーターを用いる場合、生物発光ルシフェラーゼシグナルによって測定される)。培養で増殖速度の上昇に適応しているおよび/またはHCVゲノムRNA転写物の安定性に適応している細胞系は、本明細書で適応細胞系と呼ぶこともある。
【0118】
一部の実施形態において、安定してHCVゲノムRNA転写物を内部に持つ細胞は、細胞上でルシフェラーゼ(または他のレポーター)アッセイを行うこと、次いで最も高いルシフェラーゼ(または他のレポーター)シグナルを発現する細胞を伸長させることによって単離可能である。
【0119】
増殖動態のための適応が最初に行われる実施形態において、増殖動態に適応した細胞は、HCVゲノムRNA転写物を含まないこともある(例えば、継代中にRNA転写物が「治癒」されることもあり、または適応細胞は内部にRNA転写物を持たない細胞に由来することもある)。これらの場合、ルシフェラーゼ(または他のレポーター)アッセイを行う前に、細胞に、HCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトしてもよい。
【0120】
増殖および/または安定性のための適応は、一部の研究および細胞系にとって望ましいこともあるが、本発明は、また直接由来する(非適応)細胞系(例えば、HCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトされたHuh7細胞)を用いて行われ得ることに注目すべきである。
【0121】
培養培地
HCVゲノムRNA転写物の細胞増殖および複製を支持することが可能な任意の培養培地を用いてもよい。一般に、Lidenbach et al.(Science (2005) 309:623−626;参照することによって本明細書に援用する)に記述されている方法を細胞培養で用いた。
【0122】
他の因子
さらに、組織培養系は、ウイルスの複製または感染力を向上させる種々の他の因子も含むことがある。例えば、組織培養系は、インターフェロンアンタゴニストまたはRNAサイレンシング抑制因子として作用する二本鎖RNA結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含むこともある。ウイルス価は、ウイルス複製を妨げる宿主抗ウイルスの防御機構を遮断することによって改善され得る。宿主防御機構の1つのトリガーは、ウイルス二本鎖RNAであり、これはウイルス複製の間に中間体として生成される。二本鎖RNAは、宿主インターフェロンおよびRNAサイレンシング抗ウイルス反応を誘導する。インターフェロンおよびRNAサイレンシング反応の抑制因子は、特定のウイルスによって生成される。例えば、インフルエンザウイルスのNS1タンパク質は、宿主インターフェロン誘導されるdsRNA依存性タンパク質キナーゼ(PKR)およびRNA干渉(RNAi)の活性化を遮断する二本鎖RNA結合タンパク質である。NS1は、効率的なインフルエンザウイルス複製に必要とされ、またHCV感染力を向上させる。
【0123】
従って、ある実施形態において、HCVゲノムRNAによるトランスフェクションの前に、細胞は、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドをトランスフェクトされる。任意のインフルエンザ株またはそのフラグメントに由来するNS1をコードするポリヌクレオチドは、RNAサイレンシングを抑制し、本発明の実施に際して用いられることが可能である。完全長NS1タンパク質は、PKRおよびRNAiを抑制するdsRNA結合ドメイン、mRNA前駆体スプライシングおよびmRNAの核外輸送を抑制する際に機能するエフェクタードメインを含有する。代表的なNS1遺伝子は、配列番号15の配列を含む。dsRNA結合ドメインおよびエフェクタードメインは、それぞれアミノ酸残基1〜82ならびに138〜147に存在する。さらに、NS1タンパク質は、2つの核移行シグナル(NLS1およびNLS2)、切断およびポリアデニル化特異的因子(CPSF)の結合部位、およびポリアデニル化結合タンパク質II(PABII)の結合部位を含む。
【0124】
ある実施形態において、ウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含むNS1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、本発明の実施に際して用いられる。ある実施形態において、NS1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号11〜14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0125】
さらに、組織培養系は、CD81ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み得る。細胞の表面上でCD81受容体の発現が増加すると、細胞へのウイルス侵入が促進される(Pileriら、(1998) Science 282:938−941、参考として本明細書に援用する)。感染力を向上させるために、細胞に、HCV RNAをトランスフェクトしてから、CD81発現プラスミドをトランスフェクトすることが可能である。
【0126】
B.応用
HCV組織培養系を用いて、HCVゲノムRNA転写からレポーター遺伝子活性を検出することによってHCVの複製、発現、または感染力をモニターすることができる。HCV組織培養系は、また、組換えHCVゲノムRNA転写物を含有する細胞から生成されたHCVウイルスに存在するレポーター遺伝子活性を検出またはモニタリングすることによって、HCVのライフサイクルにおける1つ以上の本質的な手順をモニタリングする手段を提供する。ウイルスライフサイクルは、ウイルスが細胞に侵入して、ウイルス粒子を産生し、他の細胞を感染させるためにその細胞から出るために必要な手順を含む。これらの手順は、細胞表面に結合する手順と、細胞表面上で受容体と相互作用して、細胞侵入を促進する手順と、ウイルス粒子を脱核してウイルスゲノムを放出し、次いでウイルスゲノムの複製および発現、ウイルスゲノムの粒子へのパッケージングを含む粒子成熟、細胞を介する放出の手順と、最終的に細胞およびウイルス前駆体の放出から出る手順とを含む(Fields Virology (1996) Chapter 10: Virus−Host Interactions D.Knipeを参照)。
【0127】
別の態様において、組織培養系は、HCV増殖側モデルを提供する。このモデルを用いて、薬物動態(PK)および薬力学(PD)の研究、毒性研究、ならびに抗ウイルスHCV候補化合物の迅速なスクリーニングのために、HCV複製および感染の抑制剤を評価し、同定することが可能である。
【0128】
別の態様において、本発明は、抗HCV活性を有する化合物(すなわち、HCV複製のレベル、HCVタンパク質の発現、および/またはウイルス感染力を減少させまたは抑制する化合物)を同定する方法を提供する。化合物は、宿主細胞でHCVゲノムRNA転写物の複製を妨げることによって複製を直接的に調節することができ、または宿主細胞でHCV複製にとって必要であるHCVタンパク質の発現を妨げることによって複製を間接的に調節することができる。あるいは、以下に考察するように、HCV組織培養系は、複製または発現それ自体に対する影響を持たないが、その代わりにウイルス粒子の形成を減少させるまたは抑制する化合物を同定する方法を提供する。
【0129】
HCVゲノムRNA転写物の複製および/またはウイルス感染価は、細胞培養物中のレポーター遺伝子活性を検出することによって測定され得る。一実施形態において、さらにレポーター遺伝子を含むHCVゲノムRNA転写物を含有する細胞を、1つ以上の試験化合物と接触させる。HCVゲノムRNA転写物が複製される場合、レポーター遺伝子は、複製されるだけである。本明細書で考察するように、実施形態によって、レポーター遺伝子タンパク質の発現は、HCVポリタンパク質の発現に関連付けられる必要はないが、場合により関連付けてもよい。1つ以上の試験化合物に曝される細胞におけるHCVゲノムRNA転写物内に含有されるレポーター遺伝子の活性は、試験化合物と接触されてない細胞におけるHCVゲノムRNA転写物内に含有されるレポーター遺伝子の活性と比較される。RNAの複製、発現、および/またはウイルス感染力を減少させる化合物は、ヒトにおいてHCVの複製、発現、および/または感染力を調節する薬物としての用途を有し得る化合物である。
【0130】
HCV組織培養系を用いて、可能性があるHCV抗ウイルス化合物を評価してもよい。一実施形態において、組換えHCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトした肝細胞は、HCVの複製および/もしくは粒子形成を減少させるまたは予防することが知られている化合物を用いて処置される。次いで該肝細胞は、第2の候補化合物を用いて処理され、該第2の候補化合物が、HCV感染を減少させるまたは予防することで知られている化合物との相加効果もしくは相乗効果を有するかどうかを決定される。組織培養系を用いて、本明細書に記載の培養下でHCVの複製、発現、および感染力を測定してもよい。
【0131】
抗ウイルス化合物のスクリーニング
本明細書に記載の組織培養系を用いて、抗ウイルス効果(例えば、培養下でHCVの複製、発現、または産生を減少させる)を有する化合物を同定することもできる。さらに、複数の化合物を組み合わせて、相乗効果または相加効果を試験することもできる。
【0132】
本明細書で用いる「抗ウイルス剤」または「抗ウイルス化合物」は、哺乳類においてウイルスの形成および/もしくは複製を減少させるまたは抑制するのに有効である薬剤をいう。本明細書で用いるように抗ウイルス剤は、ウイルス生物に特異的に作用してウイルスの複製を減少させるまたは抑制する薬剤を含むように意図されている。抗ウイルス剤は、1つ以上のウイルス機能を妨げることを標的にする薬剤を含むことが可能であり、酵素活性、ウイルス結合、ウイルス侵入、ウイルスパッケージング、およびウイルス感染力に必要なウイルスまたは宿主細胞が挙げられるがこれらに限定されない。化合物のこの群は、小分子および抗体ならびに他の生物製剤を含み得る。
【0133】
抗HCV剤の場合、HCV感染性ウイルスの複製または粒子形成を抑制するどのような抗ウイルス剤でも、抗ウイルス剤および抗HCV剤と見なされる。これは、哺乳類においてウイルスの形成および/または複製に必要な宿主機構またはウイルス機構のいずれかを妨げる薬剤を含む。抗HCVウイルス剤としては、例えば、リバビリン、アマンタジン、VX−497(メリメポジブ、Vertex Pharmaceuticals)、VX−498(Vertex Pharmaceuticals)、Levovirin、Viramidine、Ceplene(マキサミン)、XTL−001およびXTL−002(XTL Biopharmaceuticals)、MN283−Valopictitabine(Idenix)が挙げられる。抗ウイルス剤は、また、核酸(例えば、siRNAおよびアンチセンスRNA)または小分子を含み得る。該小分子は、ウイルス複製およびパッケージングのために必要な1つ以上の酵素活性(例えば、プロテアーゼ、ヘリカーゼ、およびポリメラーゼの機能)を妨げ得る。抗HCVウイルス剤は、また、核酸(例えば、siRNAおよびアンチセンスRNA)または小分子を含み得る。該小分子は、HCV複製およびパッケージングのために必要な1つ以上の酵素活性(例えば、プロテアーゼ、ヘリカーゼ、およびポリメラーゼの機能)を妨げ得る。そのような核酸は、アンチセンス分子、二本鎖(二重鎖)DNA、siRNA等の形で提供可能である。抗ウイルス剤は、免疫調節化合物(免疫系の非特異的修飾物質または特異的修飾物質としてのいずれか)を含み得る。抗HCV剤は、また、ワクチン(例えば、HCVに対する治療ワクチンおよび予防ワクチン)およびHCV受容体結合を妨げる抗体または小分子を含み得る。
【0134】
候補化合物
本発明のすべてのスクリーニング方法で用いる代表的な候補化合物としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない。すなわち、ププチド、ペプトイド、タンパク質、脂質、金属、有機小分子、RNAアプタマー、抗生物質医薬品および他の公知の医薬品、ポリアミン、抗体もしくは抗体誘導体(例えば、抗原結合フラグメント、scFvs等を含む一本鎖抗体)、ならびにそれらの組み合わせまたは誘導体である。有機小分子は、約50ダルトン以上、約2,500ダルトン未満、最も好ましくは約300〜約800ダルトンの重さの分子である。候補化合物は、合成または天然化合物の多数のライブラリーに由来し得る。例えば、合成化合物ライブラリーは、MayBridge Chemical Co.(Revillet, Cornwall, UK)またはAldrich (Milwaukee, WI)から市販されている。あるいは、細菌、菌類、植物、および動物からの抽出物の形での天然化合物のライブラリーを用いてもよい。さらに、候補化合物は、個別の化合物として、または混合物としてのコンビナトリアルケミストリーを用いて合成的に生成されることも可能である。化合物としては、抗体または抗体の抗原結合能を保持する抗体のフラグメントを含み得る。
【0135】
薬理学的研究
本発明の組織培養系は、潜在的抗ウイルス化合物の薬物動態研究、薬力学研究、および毒物学研究ならびにプロトコルで使用してもよい。組織培養系を用いて、HCV複製の過程をモニターすることも可能であり、および医薬品作用機序を決定することも可能である。
【0136】
組織培養系を用いて、HCV複製を抑制する化合物またはプロトコルを同定して、評価することも可能である。組織培養系を用いて、ウイルスのライフサイクルにおける他の手段を抑制し得る抗ウイルス化合物(例えば、ウイルスパッケージングまたは細胞からの放出を抑制する化合物)を同定することも可能である。
【0137】
組織培養系は、候補化合物によって、または候補プロトコルを用いて処置される。あるいは、組織培養系は、すでに公知の化合物またはHCVに対して有効な免疫調節剤であると決定された化合物(例えばインターフェロン−α)の組み合わせで処置される。抗ウイルス活性は、定量化されて、対照または非処置の組織培養系と比較されることもあり、あるいは定量化されて、複数の候補化合物の相対的順位を決定するために用いられることもある。投与スケジュールは、各候補化合物に対して個別に決定され得る。投与スケジュールを選択して、数日の間、試験化合物の有効量を維持してもよい。
【0138】
抗ウイルス活性はいくつかの方法で測定可能である。第1の方法は、上述の1つ以上のレポーター遺伝子を用いること(例えばルシフェラーゼアッセイ技法)である。レポーター遺伝子活性(すなわちレポータータンパク質の量)は、HCVレプリコン複製の量と相関する。レポータータンパク質のレベルを測定することに加えて、候補化合物またはプロトコルの有効性は、HCV RNAのレベルまたはウイルスタンパク質のレベルを測定することによって決定され得る。用量依存反応および/または時間依存反応の曲線(例えば、EC50、IC50)は、候補化合物およびプロトコルに対して決定され得る。
【0139】
一部の実施形態において、第2のレポーター遺伝子は、安定してまたは一時的に細胞にトランスフェクトされることもあり、細胞の生存能を評価することを可能にする。試験化合物が標的細胞を死滅させ、次いで第1のレポーター遺伝子の発現が現れない場合、これは、何らかの抗ウイルス活性のためよりもむしろ細胞死のためである。従って、第2のレポーター遺伝子は、HCVゲノムRNA転写物を含有する細胞の生存能のマーカーとして作用する。
【0140】
適切な第2のレポーター遺伝子の1つは、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子である。これを決定する別の方法は、HCVゲノムRNA転写物上のHCV遺伝子および肝細胞(例えばHuh7またはHuh7.5)に含有されるヒト遺伝子の遺伝子コピー数を定量化することである。このようにして、細胞におけるHCV遺伝子コピー数対ヒト遺伝子コピー数の比率を比較することによって、HCV抑制剤による処置がHCVゲノムRNA転写物の複製を抑制しているかどうか(HCV遺伝子対ヒト遺伝子のコピー数の比率の低下)、または化合物がヒト細胞の増殖を抑制しているか、もしくはHCVゲノムRNA転写物を内部に有する細胞において細胞死が誘発されているかどうか(HCV遺伝子対ヒト遺伝子のコピー数の比率が相対的に一定である)を決定することが可能である。細胞におけるHCV遺伝子およびヒト遺伝子のコピー数は、0日目にベースラインに対して、その後ある時点でもしくは複数の時点で定量化される。
【0141】
キット
上述のようにHCVウイルスを生成するために、組換えHCVゲノムコンストラクト、肝細胞、およびトランスフェクション試薬を含む上述の組織培養系は、適切な説明書および他の必要な試薬とともにキットで提供可能である。該キットには、通常、組換えHCVゲノムコンストラクトの組み合わせ(例えば、感染のためのRNA転写物および/またはin vitro転写によるウイルスRNAの産生のためのDNAベクター)および肝細胞(すでにトランスフェクトした肝細胞または分離肝細胞のいずれか)が別々の容器に入っている。組織培養でウイルスを増殖させるための説明書(例えば、文書、テープ、VCR、CD−ROM、DVD)は、通常、キットに含まれる。キットは、また、パックされた試薬および材料(すなわち、トランスフェクション試薬、RNAサイレンシング抑制因子および/またはCD81をコードするポリヌクレオチド、抗ウイルス化合物、緩衝剤、培養培地等)を含有する。例えば上述のような野生型JFH1ウイルスおよびキメラウイルスは、これらのキットを用いて培養で増殖可能である。
【0142】
実験
以下は、本発明を実施するための特定の実施形態の例である。これらの実施例は、例示を目的としてのみ提示され、かつ本発明の範囲を何ら限定することを意図しない。
【0143】
使用した数量(例えば、量、温度)に関しては正確を確保するよう努力したが、一部の実験誤差および偏差は、言うまでもなく認められるべきである。
【実施例】
【0144】
実施例1 一般的材料および方法
細胞
Huh−7
ヒト肝細胞腫細胞系Huh−7(Cancer Res42:3858−63)を、高グルコース、10%ウシ胎仔血清、L−グルタミン、および非必須アミノ酸を含むDulbecco変法イーグル培養培地(DMEM)(Invitrogen, Carlsbad, CA)で、37℃、5%COで維持した。特に示さない限り、HCV存在下のすべての細胞培養を、本明細書に記載し、ならびに参考として行った。
【0145】
Huh7C
Kanazawaら、(J.Virol.(2004) 78:9713−9720)によってすでに記述されているように、インターフェロン治癒したHuh7(Huh7C)細胞を、サブゲノムレプリコンを含有するHuh7細胞を100U/ml(培養培地)濃度のインターフェロン−αで14日間処理することによって調製した。手短に言えば、レプリコンを除去してある治癒したHuh7細胞を、Huh7/Rep−Neo細胞を100UのINF−α/mlで14日間処理することで確立した。レプリコンRNAの排除を、逆転写PCR(RT−PCR)およびG418に対する抵抗消失によって確認した。
【0146】
T7−11
0.2mlのHank平衡緩衝塩溶液(HBSS)中にサブゲノムレプリコンを含有するHuh7由来の500万の細胞を、細胞移植の前に照射(3Gy)された雌C.B17SCIDマウスの皮下に移植した。27日後、強い生物発光を放出する腫瘍を切除し、腫瘍の生物発光部分を0.5mg/mlのG418の存在下でin vitroで培養した。G418耐性コロニーのルシフェラーゼ発現を、XenogenIVIS(登録商標)イメージングシステム(Xenogen Corporation, Alameda, CA)を使用して評価した。高発現を有する1つのコロニーを伸長させ、サブゲノムレプリコンを治癒させて細胞系T7−11を作製した。
【0147】
Siena8
サブゲノムレプリコンを保有するHuh5.2細胞(Lohmannら、(1999) Science 285(5424):110−113)を、100IU/mlのインターフェロン−αで3週間処置して、HCV RNAを治癒させて、個別のコロニーを分離してSiena8細胞を作製した。細胞を、上述のHuh7と同じ条件下で維持した。
【0148】
RNA調製
RNA転写物を、MEGASCRIPTキット(Ambion, Austin, TX)を使用して調製した。RNAを抽出して、製造者(Invitrogen, Carlsbad, CA)の説明書に従ってTRIZOL試薬を用いて精製した。
【0149】
RNAトランスフェクション
サブコンフルエントな細胞をトリプシン処理し、完全DMEMで1回洗浄し、無血清DMEM−F12培養培地で1回洗浄した。細胞ペレットを、無血清DMEM−F12培養培地中で10細胞/mlの密度で再懸濁させた。電気穿孔キュベット(0.2cmのギャップ、BTX, San Diego, Calif.)中の200mlの細胞懸濁液に、1〜10mgのin vitro転写RNAを加えた。細胞を、200Vおよび1,000mFに設定したECM630装置(BTX)で直ちに電気穿孔した。電気穿孔の後、細胞懸濁液を室温で5分間保持し、次いで10%ウシ胎仔血清および非必須アミノ酸を補充したDMEMに希釈して、直径10cmのペトリ皿に播種した。
【0150】
実施例2 組換えJFH1ゲノムバイシストロン性コンストラクト
いくつかの野生型JFH1ゲノムコンストラクトおよびキメラJFH1ゲノムコンストラクトを調製した(図1参照)。配列番号1の配列に示すように、pUC18プラスミド内に含有される組換え野生型JFH1ゲノムコンストラクトを、すでに記述されているように(Wakitaら、(2005) Nature Medicine 11:791−796、全体として参照することによって本明細書に援用する)調製した。このコンストラクトは、5’および3’の非翻訳領域に隣接したHCVタンパク質コア、E1、E2、p7、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bのオープンリディングフレーム、およびT7プロモーターを含む。
【0151】
さらに、配列番号2の配列を含むバイシストロン性野生型JFH1ゲノムコンストラクト(LucJFH1)を、ウイルス感染およびRNA複製をモニターするためのルシフェラーゼレポーター遺伝子に結合したJFH1コアタンパク質の最初の17のアミノ酸をコードする第1のシストロンを含み、生成した。このバイシストロン性コンストラクトは、野生型JFH1ポリタンパク質をコードした第2のシストロンの発現のための脳心筋炎ウイルス(EMCV)の内部リボソーム侵入部位(IRES)も含んでいた。
【0152】
いくつかのバイシストロン性キメラコンストラクトを、また、JFH1および第2のHCV分離株に由来する配列を含むキメラHCVポリタンパク質をコードすることで調製した。すべてのバイシストロン性コンストラクトは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子に結合したJFH1コアタンパク質の最初の17のアミノ酸をコードする第1のシストロンと、EMCV IRESと、NS2の残基871(LucCJ1およびLucHJ1)または残基877(LucNJ1)に遺伝子間接合部を有するキメラNS2によって結合されたキメラポリタンパク質(株JFH1由来のNS3〜NS5bの領域および第2のHCV分離株由来のコア〜p7領域を含む)をコードする第2のシストロンとを含有した。キメラコンストラクトは、以下を含んでいた。すなわち、(a)配列番号3の配列に含有され、HCV2a型株JFH1および1a型株(H77分離株由来のHJ1フラグメント)由来の配列を含有するLucHJ1、(b)配列番号4の配列に含有され、HCV2a型株JFH1および1b型株(Con1分離株由来のCJ1フラグメント)由来の配列を含有するLucCJ1、および(c)配列番号5の配列に含有され、HCV2a型株JFH1および1b型株(HNZ1分離株由来のNJ1フラグメント)由来の配列を含有するLucNJ1。
【0153】
実施例3 組換えJFH1ゲノムモノシストロン性コンストラクト
いくつかのモノシストロン性野生型ゲノムコンストラクトおよびキメラJFH1ゲノムコンストラクトも調製した(図2参照)。モノシストロン性コンストラクトは、緑色蛍光タンパク質(GFP)またはウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)レポーター遺伝子に結合したJFH1コアタンパク質の最初の12のアミノ酸をコードする領域と、口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aプロテアーゼのコード配列と、ユビキチンプロテアーゼ切断部位のコード配列と、野生型JFH1またはキメラポリタンパク質のコード領域とを含んだ。これらのキメラコンストラクトの一部では、ポリタンパク質コード領域は、NS2の残基871(RLF2AUbCJ1およびRLF2AUbHJ1)または残基877(RLF2AUbNJ1)に遺伝子間接合部を有するキメラNS2コード領域によって結合された、株JFH1由来のNS3〜NS5b配列と、第2のHCV分離株由来のコア〜p7配列とを含んだ。モノシストロン性コンストラクトは、以下のように本発明のキメラDNAコンストラクトをコードするプラスミドを含んだ。すなわち、(a)配列番号6にあるように、野生型JFH1ゲノムおよびRLucレポーター遺伝子を含有するRLF2AubJFH−1、(b)野生型JFH1ゲノム配列および緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子配列およびpUCプラスミド配列を含有する配列番号7の配列を含むGFPF2AUbJFH−1、(c)HCV2a型株JFH1配列および1a型株HJ1配列およびRLucレポーター遺伝子配列およびpUCプラスミド配列に由来する配列を含有する配列番号8の配列を含み、該配列の約7ヌクレオチド〜約10953ヌクレオチドを有するRLF2AUbHJ1、(d)HCV2a型株JFH1配列および1b型株CJ1配列およびRLucレポーター遺伝子配列およびプラスミド配列に由来する配列を含有する配列番号9の配列を含み、該配列の約7ヌクレオチド〜約10953ヌクレオチドを有するRLF2AUbCJ1、および(e)HCV2a型株JFH1配列および1b型株NJ1配列およびRLucレポーター遺伝子配列およびプラスミド配列に由来する配列を含有する配列番号10の配列を含み、該配列の約7ヌクレオチド〜約10971ヌクレオチドを有するRLF2AUbNJ1。
【0154】
Pietschmann et al.は、NS2タンパク質の第1および第2の推定膜貫通ドメインの間に遺伝子間接合部を有するNS2融合タンパク質を含有するバイシストロン性キメラコンストラクトが増殖性ウイルス粒子を産生することを示した(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(2006)103:7408−7413)。
【0155】
図12および13は、記述した組換えHCVゲノムコンストラクトを作製するために使用された制限酵素部位を示す。特に、図12は、ホスホジエステル合成を用いて合成した2つの組換えHCVゲノム、JFH−1およびLuc JFH−1を示す。HCVゲノムコンストラクトを、プラスミドpUC18のEcoR1/Xba1制限酵素部位にクローン化した。クローニングを、これらの図および添付した本文に記述するように大腸菌(E.coli)で行った。
【0156】
ここで、図13を参照すると、JFH−1株ならびに各HCVゲノム由来の適合性制限酵素フラグメントが示されている。HCVゲノムはルシフェラーゼ遺伝子を含有する。適合性フラグメントをpUCベクターにクローン化して、大腸菌(E.coli)に転換した。上述のように、完全長JFH1、およびレポーター遺伝子ゲノムコンストラクトを有するJFH1をin vitroで合成して、pUC18のEcoR1/Xba1部位にクローン化した。キメラコンストラクトを、図1〜3、12、および13に示す制限部位を利用して、従来の制限酵素消化、連結、および大腸菌(E.coli)形質転換を用いてクローン化した。示したそれぞれのゲノムコンストラクトにおいて、ゲノムコンストラクトはEcoR1部位およびXba1部位によって隣接されている。他のいずれの内部EcoR1部位またはXba1部位は、いずれの対応する産物の発現を変えることなく除去可能である。
【0157】
実施例4 ウミシイタケルシフェラーゼアッセイ
組換えゲノムRNA転写物から生成されたウイルスRNAの複製を、ウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)アッセイ(例えば、Srikanthaら、(1996) J.Bacteriol.178:121−129;Liuら、(1999) Gene 237:153−159;Haanら、(2004) J.Virol.78:6048−6054;Kielら、(2003) J.Biol.Chem.278:5659−5668を参照。これらを参照することによって本明細書に援用する)を用いることによって測定することができる。発光を、ルミノメーターを用いて480nmで測定する。光の放出を10〜30秒間取り入れる。RLucアッセイを用いて、細胞可溶化物中の細胞内HCV RNAおよび培養培地の感染性ウイルス価を測定した。細胞中のHCV複製のレベルを測定するために、Rluc活性を、細胞可溶化物を用いて測定した。培養上清中に存在する感染性ウイルス価の力価を測定するために、トランスフェクトした細胞または感染させた細胞に由来する条件培養培地をナイーブHuh7細胞に接種して、感染させた細胞からのRluc活性を測定した。
【0158】
実施例5 モノシストロン性およびバイシストロン性の組換え野生型JFH1ゲノムRNA転写物のRNA複製効率の比較
モノシストロン性およびバイシストロン性の野生型JFH1ゲノムRNA転写物のRNA複製効率を比較した。RLF2AUbJFH−1ゲノムRNA転写物およびLucJFH1ゲノムRNA転写物を、電気穿孔によって別々のHuh7細胞培養物に導入した。電気穿孔から33日間、RNAレベルをルシフェラーゼレポーターからの発光を定量化することによって測定した。
【0159】
図3は、モノシストロン性RLF2AUbJFH−1RNA転写物の複製効率が、バイシストロン性LucJFH1RNA転写物よりも優れていたことを示す。バイシストロン性RNA転写物の複製は、初めはモノシストロン性RNA転写物と同程度であったが、9日後に複製は減退したが、一方モノシストロン性RNA転写物は33日間、高レベルで複製を維持した。
【0160】
実施例6 モノシストロン性組換えゲノムRNA転写物によって産生されたHCVウイルスの感染力およびRNA複製効率
モノシストロン性HCVゲノムコンストラクトを、感染性ウイルス粒子を産生し、Huh7細胞でウイルスRNAを複製するそれらの能力について評価した。トランスフェクトしたHuh7細胞において組換えゲノムRNA転写物によって産生されたウイルスの感染力をトランスフェクトした細胞培養物の上清に放出されたウイルスをナイーブHuh7細胞に接種することによって決定した。感染性ウイルス価およびRNA複製のレベルを、実施例4に記述するようにRLucアッセイによって決定した。
【0161】
A.組換え野生型JFH1ゲノムモノシストロン性コンストラクト
組換え野生型JFH1ゲノムモノシストロン性RLF2AUbJFH−1RNA転写物を、電気穿孔によってHuh7細胞に導入した。電気穿孔後、次いで、培養上清中に存在するウイルスを用いて、5×10ナイーブHuh7細胞に感染させ、次いで感染性ウイルス価を、電気穿孔から28日間、RLucアッセイによって測定した。図4に示すように、RLF2AUbJFH−1RNA転写物は、Huh7細胞から分泌され、ナイーブHuh7細胞に感染したウイルス粒子を産生した。
【0162】
RLF2AUbJFH−1のRNA複製のレベルも、組換えウイルスによる感染後の時間の関数として、Huh7細胞で測定した。ナイーブHuh7細胞(5×10)を、電気穿孔から10日後にトランスフェクトした細胞の培養上清由来のウイルスで接種した。細胞内JFH1RNAを、Huh7細胞の感染から24日間、RLucアッセイによって測定した。図5に示すように、RNAは、2日目までに検出可能となり、24日間持続した。
【0163】
B.組換えキメラゲノムモノシストロン性コンストラクト
野生型JFH1ウイルス(モノシストロン性コンストラクトRLF2AUbJFH−1によって産生された)ならびにキメラウイルス(モノシストロン性コンストラクトRLF2AUbHJ1、RLF2AUbCJ1、およびRLF2AUbNJ1によって産生された)を感染力について比較した。ナイーブHuh7細胞の培養物を、ゲノムRNA転写物による電気穿孔後にトランスフェクトした細胞の培養上清由来の各ウイルスで別々に接種した。ウイルス価をRLucアッセイによって測定した。図6は、モノシストロン性RLF2AUbJFH−1RNA転写物から産生された組換え野生型JFH1ウイルス、およびRLF2AUbCJ1RNA転写物から産生されたキメラウイルスがHuh7細胞において感染性ウイルスを産生したことを示す。
【0164】
野生型JFH1ゲノムモノシストロン性コンストラクトおよびキメラゲノムモノシストロン性コンストラクトのRNA複製効率も比較した。RLF2AUbJFH−1、RLF2AUbHJ1、RLF2AUbCJ1、およびRLF2AUbNJ1のRNA転写物を、電気穿孔によって別々のHuh7細胞培養物に導入した。Huh7細胞の培養物を、電気穿孔から3日目および12日目に分割し、RNAレベルを、電気穿孔から21日間RLcアッセイによって測定した。複製無能JFH1変異(Wakita et al.(上掲)にすでに記述されているJFH1/GND変異)を比較の陰性対照として使用した。
【0165】
図7に示すように、すべての組換えコンストラクトはHuh7細胞で複製し、かつ培養希釈後も複製し続けた。キメラRLF2AUbCJ1およびRLF2AUbNJ1のコンストラクトの複製効率は、野生型RLF2AUbJFH−1コンストラクトとほとんど同じように高かった。しかし、キメラRLF2AUbHJ1コンストラクトは、他の組換えコンストラクトよりも有意に低い複製レベルを示した。
【0166】
実施例7 異なる細胞系におけるHCVウイルスのRNA複製効率
3種類の細胞系(Siena8、Huh7C、およびHuh7)におけるJFH−1のRNA複製効率を比較した(図8)。5×10細胞に、1μgまたは4μgのいずれかのゲノムRNA転写物RLF2aUbJFH−1をトランスフェクトした。Rlucを、電気穿孔から3日後に細胞可溶化物中で測定した。
【0167】
実施例8 RNAサイレンシング抑制のためのインフルエンザウイルスのNS1コンストラクト
JFH1は、細胞培養で感染性ウイルスを効率的に複製して、産生する2a型ウイルスである。Huh7.5細胞におけるJFH1の感染価は、約10/mlに制限され、および2a型以外の遺伝子型を含むキメラウイルスの力価は、有意に低い(約10/ml)。ウイルス価を、ウイルス複製を妨げる宿主抗ウイルスの防御機構を遮断することによって向上させることができる。
【0168】
宿主防御機構の1つのトリガーは、ウイルス複製の間に中間体として生成されるウイルス二本鎖RNAである。二本鎖RNAは、宿主インターフェロンおよびRNAサイレンシング抗ウイルス反応を誘導する。インターフェロンおよびRNAサイレンシング反応の抑制因子は、特定のウイルスによって産生される。例えば、インフルエンザウイルスのNS1タンパク質は、インターフェロンによって誘導されるdsRNA依存性タンパク質キナーゼ(PKR)およびRNA干渉(RNAi)の活性を遮断する二本鎖RNA結合タンパク質である。NS1は、インフルエンザウイルスの効率的な複製に必要とされる。従って、HCV感染価も向上させるNS1の能力を検査した。
【0169】
完全長かつ切断型のNS1を含むいくつかのRNAサイレンシング抑制因子を構築した(図9)。代表的なNS1遺伝子は、GenBank受入番号AAA43536に見られる。他の入手可能なインフルエンザ株またはそのフラグメントを、本発明の実施に際して用いることも可能である。完全長NS1タンパク質は、PKRおよびRNAiを抑制するdsRNA結合ドメインと、mRNA先駆体のスプライシングおよびmRNAの核外輸送を抑制する際に機能するエフェクタードメインとを含む。dsRNA結合ドメインおよびエフェクタードメインは、それぞれアミノ酸残基の1〜82および138〜147に存在する。さらに、NS1タンパク質は、2つの核移行シグナル(NLS1およびNLS2)と、切断・ポリアデニル化特異性因子(CPSF)結合部位と、ポリアデニル化結合タンパク質II(PABII)結合部位とを含む。
【0170】
以下の4種類のコンストラクトを調製した。すなわち、(i)配列番号11の約2033ヌクレオチド〜約2723ヌクレオチドを含む完全長の野生型(wt)NS1(残基1〜230)、(ii)dsRNA結合ドメイン(配列番号15の残基1〜82)を有する切断型NS1タンパク質であるNS82、(iii)配列番号15の残基1〜180を含むdsRNA結合ドメインおよびエフェクタードメインを含むより長い切断型NS1タンパク質であるNS180、および(iv)配列番号15の残基50〜84の欠失を含むdsRNA結合ドメイン内の不完全な変異NS1タンパク質。コンストラクトを、発現のためにpCMVベクターにそれぞれクローン化した。これらのコンストラクトを配列番号11〜14に示す。
【0171】
実施例9 JFH1の複製へのインフルエンザウイルスのNS1およびNS82の影響
Huh7細胞においてJFH1複製へのNS1およびNS82の発現の影響を検査した。インターフェロン治癒したHuh7細胞を、pCMV−NS1またはpCMV−NS82をトランスフェクトし、続いてモノシストロン性JFH1RNAを用いて電気穿孔した。電気穿孔処理した細胞においてJFH1RNA複製のレベルを、細胞可溶化物上でRLucアッセイによって測定した。図10に示すように、JFH1複製のレベルは、電気穿孔から3日目に最大に達した。NS1をトランスフェクトした細胞において複製のレベルは、偽トランスフェクトした細胞のそれよりも約3倍高かった。高レベルのJFH1複製は、NS82をトランスフェクトした細胞において電気穿孔から5日目まで維持され、一方、野生型NS1をトランスフェクトした細胞において複製レベルは低下した。
【0172】
実施例10 JFH1の感染力へのインフルエンザウイルスのNS1およびNS82の影響
JFH1を、最初にpCMV−NS1(配列番号11)またはpCMV−NS82(配列番号12)で細胞をトランスフェクトし、次いでモノシストロン性RLF2AUbJFH−1RNAを用いて細胞を電気穿孔処理することによってインターフェロン治癒したHuh細胞から生成した。電気穿孔処理した細胞のウイルス複製を測定した。次いで、培養上清に存在するウイルスを用いて、ナイーブHuh7細胞を感染させ、感染性ウイルス価のレベルを、RLucアッセイによって測定した。図11に示すように、IFN治癒した細胞のJFH1電気穿孔の前に、NS82(18μgのpCMV−NS82をトランスフェクトした)の発現よって、感染性JFH1力価は約8倍増加した。NS1遺伝子を、Asc1−Not1フラグメントとして、pCMVプラスミドにクローン化した。
【0173】
実施例11 インターフェロン治癒したHuh7細胞およびナイーブHuh7細胞におけるJFH1の複製および感染力へのCD81の影響
JFH1複製および感染力へのNS1の影響を、インターフェロン治癒したHuh7細胞(Huh7C)と、ナイーブHuh7細胞とで比較した。ウイルスRNAトランスフェクションの前に、ナイーブHuh7細胞と比較してNS1のコード領域の部分発現によって、Huh7C細胞の感染性JFH1力価に有意な増加がもたらされた。Huh7C細胞は、ナイーブHuh7細胞と比較して、JFH1複製に対してより許容状態であったが、Huh7C細胞においてJFH1の感染力は大幅に損なわれた。
【0174】
Huh7C細胞表面のCD81レベルは、Huh7細胞のそれの約1/10であった。CD81の役割を検証して、JFH1感染力を向上させるために、Huh7に由来する種々の細胞系を、CD81発現プラスミド(Pileriら、(1998) Science 282:938−941、参照することにより本明細書に援用する)でトランスフェクトした。CD81は感染に必要であり、JFH1感染力を向上させた。しかし、閾値を超えたCD81の過剰発現は、JFH1複製を抑制した。Huh7Cは複製を支持するために最適であったが、感染力アッセイでは最適以下であった。Huh7は感染にとって最適であった。
【0175】
実施例12 細胞培養で産生されたHCVを用いるアッセイ
培養培地
Huh7.5細胞を、4.5g/lのピルビン酸ナトリウム不含グルコースおよびL−グルタミン(Cellgroカタログ番号10−017−CN)、10mlのペニシリン−ストレプトマイシン溶液(10,000I.U.ペニシリン/mlおよび10,000μgストレプトマイシン/ml、Cellgroカタログ番号30−002−CI)、10mlの非必須アミノ酸(Cellgroカタログ番号25−025−CI)、および100mlの非透析ウシ胎仔血清(FBS)を含んだ1リットルのDulbecco変法イーグル培養培地(DMEM)を含有する培養培地で、増殖させた。
【0176】
感染および中和
0日目:
8×10〜10×10のHuh7.5細胞(ルシフェラーゼアッセイ用)または5×10Huh7.5細胞(間接蛍光抗体アッセイ用)を24ウェルプレートのウェルごとに添加した。
【0177】
1日目:
Huh7.5細胞にHCVウイルスを感染させた。ウェルに添加する前に、ウイルス培養培地を37℃まで暖めた。ウェル内の培養培地を、ウェルあたり約200μlのウイルス培養培地と交換し、次いで24ウェルプレートをCOインキュベーター内に設置して一晩インキュベートした。
【0178】
抗体中和を調べるために、抗HCV抗体または抗HCV抗体含有血清を必要に応じて希釈して、ウイルス培養培地に添加した。混合物を37℃で1時間インキュベートし、次いでウェルあたり200μlを細胞に添加した。細胞をCOインキュベーター内で5時間(RJ1もしくはJFH1の場合)、あるいは一晩(RCJ1もしくはHJ1の場合)インキュベートした。場合によっては(例えばRJ1を使用した場合)、ウイルス培養培地を除去し、新鮮な培養培地を用いて2回洗浄し、次いでウェルあたり500μlの新鮮な培養培地と交換した。
【0179】
2日目:
ウイルス培養培地を除去し、2回洗浄して、500μlの新鮮な培養培地と交換した。
【0180】
3日目:
培養培地を新鮮な培養培地と交換した。
【0181】
4日目:
細胞培養で産生されたHCV(HCVcc)に対してルシフェラーゼアッセイおよびIFAアッセイを行った。細胞培養で増殖させたHCV感染肝細胞のウイルス中和のアッセイについての模式図は、図14を参照。
【0182】
ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼを、ウミシイタケルシフェラーゼアッセイ系(Promegaカタログ番号E2820)を用いて行った。24ウェルプレートを、ウェルあたり500μlのリン酸緩衝食塩水(PBS)を用いて2回洗浄し、次いでPBSを可能な限り除去した。ウェルあたり200μlの1×溶解緩衝液(Promega)を添加し、次いでウェルプレートを室温で1時間以上振盪させた。ウミシイタケルシフェラーゼアッセイ基質(Promega)と混合させたルシフェラーゼアッセイ緩衝液の100μlアリコートを、ルミノメーターキュベットに添加した。50μlの可溶化液を、各キュベット内の100μlのアッセイ緩衝液に添加して、混合させた。ルシフェラーゼ活性を、MOONLIGHT 3010ルミノメーターで測定した。
【0183】
間接蛍光抗体アッセイ
間接蛍光抗体(IFA)アッセイを、細胞の固定化および透過化のためのCYTOFIX/CYTOPERMキットならびに免疫蛍光染色(BD Biosciences、カタログ番号554714)を用いて行った。ウェルプレートを、各ウェルあたり500μlのPBSを用いて2回洗浄した。PBSを除去して、1×細胞固定化/透過化溶液(BD Biosciences)と交換し、一晩固定化させた。ウェルプレートを、PBSまたは1×細胞洗浄/透過化溶液(BD Biosciences)を用いて3回洗浄した。遮断試薬を含有する1×細胞洗浄/透過化溶液を添加して、室温で約30分〜1時間インキュベートした。遮断試薬を除去し、ウェルあたり150〜200μlの一次抗体(1×細胞洗浄/透過化溶液で1:1000に希釈したウサギ抗NS5A)を添加した。ウェルプレートを室温で1時間インキュベートし、次いで1×細胞洗浄/透過化溶液(BD Biosciences)を用いて3回洗浄してから、二次抗体(ALEXA FLUOR488、1×細胞洗浄/透過化溶液で1:1000に希釈したヤギ抗ウサギ結合型抗体)を添加した。ウェルプレートを室温で約1時間インキュベートし、次いでPBSを用いて2回洗浄した。PBSを除去し、次いでウェルを部分的に空気乾燥させて、密封した。ウェルプレートを、蛍光顕微鏡下での観察まで、−20℃で保存した。
【0184】
実施例13 Huh7.5細胞におけるHCV感染のIFAアッセイ
実施例12に記述するように、IFAアッセイを、JFH1を感染させたHuh7.5細胞で行った。Huh7.5細胞に、2μgまたは4μgのいずれかのRLF2AUbJFH−1RNAゲノム転写物を電気穿孔によってトランスフェクした。JFH1による感染から3日目または16日目に、細胞を固定して、抗NS5a抗体で免疫染色した。電気穿孔から25日間、ウイルス価を測定した。図16に示すように、合成JFH1ゲノムはHuh7.5細胞内で複製し、高ウイルス価で感染性ウイルス粒子を分泌した。電気穿孔から16日目までに、Huh7.5細胞の約90%がウイルスに感染した。
【0185】
実施例14 Huh7細胞およびHuh7.5細胞におけるJFH1の感染力へのCD81の影響
JFH1感染力へのCD81の影響を、Huh7細胞およびHuh7.5細胞で比較した。CD81は、細胞表面でCD81受容体の発現を増加させることで細胞へのウイルス侵入を容易にして、感染力を向上させると予想される。ウイルスRNAトランスフェクションに先立ち、Huh7細胞およびHuh7.5細胞にCD81発現プラスミド(Pileri et al.、上掲)をトランスフェクトした。図18に示すように、ナイーブ細胞と比較して、Huh7およびHuh7.5の両細胞は、CD81の存在下で感染性JFH1力価において有意な増加を示した。
【0186】
実施例15 細胞培養系を用いる抗HCV抗体の選択
HCV細胞培養系を用いて、HCVに対する中和抗体を選択した。HCVウイルスを、細胞培養において、RHJ1(1a型H77C:2a型JFH1キメラ)、RCJ1(1b型Con1:2a型JFH1キメラ)、およびRJ1(2a型JFH1)のRNAゲノム転写物から生成した(図17参照)。前述の実施例12に記述するように、抗HCVヒトモノクローナル抗体(HCE6もしくはS3.1)を中和アッセイで検査した。感染に先立ち、抗体をウイルス培養培地と混合させて、50μg、10μg、2μg、0.5μg、または0.1μg/mlの濃度で細胞に添加した。図19に示すように、HCE6モノクローナル抗体は、S3.1と比較して検査したすべてのHCVウイルスに対して優れたHCV中和を示した。高抗体濃度(すなわち、10μgおよび50μg/ml)で、JFH1および1a型H77C:2a型JFH1キメラに対してほぼ100%のHCV中和に達し、高抗体濃度(すなわち、50μl/ml)で、1b型Con1:2a型JFH1キメラに対して約90%のHCV中和に達した。
【0187】
実施例16 細胞培養アッセイにおける抗体中和と、動物モデルにおけるHCV感染からの防御との相互関係
すでに記述されているように(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1994) 91:1294−1298、参照することによって本明細書に援用する)、HCV−1 E1およびE2タンパク質をワクチン接種された4頭のチンパンジー(Pan troglodytes;L357、L534、L559、およびL470)から、血漿試料を採取した。ワクチン接種された3頭のチンパンジー(L357、L534、およびL559)は、それに続くHCV感染から完全に防御された。1頭のチンパンジー(L470)は、部分的な防御(すなわち、ワクチン接種は感染および疾患の発症を有意に遅延した)を示した。5頭目の非ワクチン接種されたチンパンジーから採取された血漿試料を、対照として使用した。
【0188】
血漿試料を、実施例12に記述する細胞培養アッセイを用いて、中和抗体の存在について検査した。図20において、細胞培養で増殖させた1a型H77C:2a型JFH1キメラウイルスの中和についての結果を示す。防御されたチンパンジー(L357、L534、およびL559)からの血漿は、ウイルスの80%〜88%が中和され、一方部分的に防御されたチンパンジー(L470)からの血漿は、ウイルスの46%が中和されたことを示した。対照に対して、中和は検出不能であった。これらの結果は、細胞培養アッセイにおいてウイルス中和がHCV感染の予防効果と十分に関連することを示す。比較のために、HCV1a型偽粒子(HCVpp)、CD81遮断抗体力価、および抗E1E2抗体力価に対して以前にアッセイした際の同じチンパンジーの血漿の中和力価についての研究結果も示す。
【0189】
図21において、細胞培養で増殖させた2a型JFH1ウイルスの中和についての結果を示す。防御されたチンパンジー(L357、L534、およびL559)からの血漿は、ウイルスの53%〜69%が中和され、一方、部分的に防御されたチンパンジー(L470)からの血漿は、ウイルスの28%が中和されたことを示した。このように、中和力価は1a型ウイルスよりも2a型ウイルスに対して低い。細胞培養アッセイの結果は、HCV1a型および2a型で観察された交差予防と関連する。
【0190】
このように、野生型JFH1およびキメラのそれぞれのモノシストロン性ゲノムコンストラクトおよびバイシストロン性ゲノムコンストラクト、ならびに組織培養でのHCV産生のためのこれらのコンストラクトを用いる方法を記述する。さらに、細胞培養で増殖させたHCVを用いる中和アッセイを記述する。このアッセイによって測定された中和力価は、ワクチン接種された動物においてHCV感染の予防効果と十分に関連があることが判明した。本発明の好ましい実施形態は、多少詳細に記述されているが、明白な変化が本明細書に定義するように本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくなされ得ると理解される。本明細書に引用するすべての参考文献は、それら全体を参照することによって本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えC型肝炎ウイルス(HCV)モノシストロン性ゲノムコンストラクトであって、5’から3’の順に
a)HCV5’非翻訳領域またはその機能的な部分と、
b)JFH1コアタンパク質のN末端フラグメントのコード配列を含むポリヌクレオチドであって、該N末端フラグメントが該JFH1コアタンパク質の少なくとも最初の12の残基から最大最初の18の残基までを含み、該JFH1コアタンパク質の該N末端フラグメントの該コード配列がレポーター遺伝子に結合される、ポリヌクレオチドと、
c)口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aプロテアーゼのコード配列と、
d)ユビキチンプロテアーゼ切断部位のコード配列と、
e)HCV株またはJFH1以外の分離株由来のコア、E1、E2、およびp7領域;HCV株またはJFH1以外の分離株由来のNS2のN末端部分およびJFH1由来のNS2のC末端部分を有するキメラNS2領域;ならびにJFH1由来のNS3、NS4a、NS4b、NS5a、およびNS5bの領域を含むHCVポリタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、
f)HCV3’非翻訳領域またはその機能的な部分と、
を含む組換えC型肝炎ウイルス(HCV)モノシストロン性ゲノムコンストラクト。
【請求項2】
請求項1に記載の組換えHCVゲノムコンストラクトであって、
a)配列番号8のヌクレオチド7からヌクレオチド10953までの連続した配列を含むポリヌクレオチドと、
b)配列番号9のヌクレオチド7からヌクレオチド10953までの連続した配列を含むポリヌクレオチドと、
c)配列番号10のヌクレオチド7からヌクレオチド10971までの連続した配列を含むポリヌクレオチドと、
d)配列番号16のヌクレオチド35からヌクレオチド9723までの連続した配列を含むポリヌクレオチドと、
e)a)乃至d)のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチドと、
f)a)乃至e)のRNA相当物と、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含む、組換えHCVゲノムコンストラクト。
【請求項3】
前記HCV株またはJFH1以外の分離株がHCV1a型、1b型、2a型、2b型、3a型、3b型、4型、5型、および6型からなる群から選択される、請求項1に記載の組換えHCVゲノムコンストラクト。
【請求項4】
前記HCV株または分離株がH77C、Con1、NZ1、もしくは452である、請求項3に記載の組換えHCVゲノムコンストラクト。
【請求項5】
前記レポーター遺伝子がホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、または緑色蛍光タンパク質をコードする、請求項1に記載の組換えHCVゲノムコンストラクト。
【請求項6】
請求項1に記載の組換えHCVゲノムコンストラクトを含む、ベクター。
【請求項7】
配列番号8乃至10および配列番号16からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
HCVポリタンパク質をコードするポリヌクレオチドに作動可能に結合されたT7プロモーターをさらに含む、請求項6に記載のベクター。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の組換えHCVゲノムコンストラクトを含む、HCVゲノムRNA転写物。
【請求項10】
感染性HCV粒子の産生のための組織培養系であって、請求項9に記載のHCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトした、HCV感染を支持することが可能な細胞を含む、組織培養系。
【請求項11】
前記細胞が肝細胞である、請求項10に記載の組織培養系。
【請求項12】
RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項10または11に記載の組織培養系。
【請求項13】
前記RNAサイレンシング抑制因子がウイルス粒子の収量を増加させるインフルエンザウイルスのNS1ポリペプチドまたはその機能的フラグメントである、請求項12に記載の組織培養系。
【請求項14】
前記NS1ポリペプチドがウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含む、請求項13に記載の組織培養系。
【請求項15】
前記RNAサイレンシング抑制因子をコードする前記ポリヌクレオチドが、配列番号11乃至14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項13に記載の組織培養系。
【請求項16】
CD81ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項10または11に記載の組織培養系。
【請求項17】
前記肝細胞がヒト組織に由来する、請求項11に記載の組織培養系。
【請求項18】
前記肝細胞が肝細胞癌の細胞である、請求項17に記載の組織培養系。
【請求項19】
前記肝細胞がHuh7、Huh7.5、Siena8、Huh7C、およびT7−11からなる群から選択される細胞系に由来する、請求項17に記載の組織培養系。
【請求項20】
前記肝細胞がインターフェロンで治癒されている、請求項11に記載の組織培養系。
【請求項21】
前記HCVゲノムRNA転写物の複製が、該HCVゲノムRNA転写物が前記細胞に導入されてから少なくとも10日間維持される、請求項11に記載の組織培養系。
【請求項22】
前記HCVゲノムRNA転写物の複製が、該HCVゲノムRNA転写物が前記細胞に導入されてから少なくとも20日間維持される、請求項21に記載の組織培養系。
【請求項23】
前記HCVゲノムRNA転写物の複製が、該HCVゲノムRNA転写物が前記細胞に導入されてから少なくとも30日間維持される、請求項22に記載の組織培養系。
【請求項24】
前記HCVゲノムRNA転写物から産生されるウイルスの感染力が、該HCVゲノムRNA転写物が前記細胞に導入されてから少なくとも9日間維持される、請求項11に記載の組織培養系。
【請求項25】
前記HCVゲノムRNA転写物から産生されるウイルスの感染力が、該HCVゲノムRNA転写物が前記細胞に導入されてから少なくとも15日間維持される、請求項24に記載の組織培養系。
【請求項26】
組織培養でHCVを生成するための方法であって、請求項9に記載のHCVゲノムRNA転写物を細胞にトランスフェクトすることと、該組換えHCVゲノムコンストラクトの複製およびに感染性ウイルス粒子の培養培地への分泌に適した条件下で、該培養培地で該細胞を増殖させることとを含む、方法。
【請求項27】
前記HCVゲノムRNA転写物を前記細胞にトランスフェクトする前に、RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドを該細胞にトランスフェクトすることをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記RNAサイレンシング抑制因子がウイルス粒子の収量を増加させるインフルエンザウイルスのNS1ポリペプチドまたはその機能的フラグメントである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記NS1ポリペプチドがウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記RNAサイレンシング抑制因子をコードする前記ポリヌクレオチドが配列番号11乃至14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
CD81ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞がヒト組織に由来する肝細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記肝細胞が肝細胞癌の細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記肝細胞がHuh7、Huh7.5、Siena8、Huh7C、およびT7−11からなる群から選択される細胞系に由来する、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記肝細胞がインターフェロンで治癒されている、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
請求項26乃至35に記載の方法のいずれかによって産生される、キメラC型肝炎ウイルス。
【請求項37】
請求項9に記載のHCVゲノムRNA転写物を含む、キメラC型肝炎ウイルス。
【請求項38】
HCV感染を支持することができる細胞および請求項7に記載のベクターを含む、キット。
【請求項39】
HCV感染を支持することができる細胞および請求項9に記載のHCVゲノムRNA転写物を含む、キット。
【請求項40】
前記細胞が前記HCVゲノムRNA転写物をトランスフェクトした肝細胞である、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
RNAサイレンシング抑制因子をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項38乃至40のいずれかに記載のキット。
【請求項42】
前記細胞が、RNAサイレンシング抑制因子をコードする前記ポリヌクレオチドをトランスフェクトされる、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
前記RNAサイレンシング抑制因子がウイルス粒子の収量を増加させるインフルエンザウイルスのNS1ポリペプチドまたはその機能的フラグメントである、請求項42に記載のキット。
【請求項44】
前記NS1ポリペプチドがウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含む、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
前記RNAサイレンシング抑制因子をコードする前記ポリヌクレオチドが配列番号11乃至14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項43に記載のキット。
【請求項46】
CD81ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項39に記載のキット。
【請求項47】
前記細胞が、CD81ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドをトランスフェクトされる、請求項39に記載のキット。
【請求項48】
前記肝細胞がヒト組織に由来する、請求項39に記載のキット。
【請求項49】
前記肝細胞が肝細胞癌の細胞である、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
前記肝細胞がHuh7、Huh7.5、Siena8、Huh7C、およびT7−11からなる群から選択される細胞系に由来する、請求項48に記載のキット。
【請求項51】
前記肝細胞がインターフェロンで治癒されている、請求項48に記載のキット。
【請求項52】
抗HCV活性を有する化合物を同定する方法であって、
a)化合物で請求項10に記載の組織培養系を処理することと、
b)該化合物で処理した該組織培養系におけるHCV複製、HCVタンパク質の発現、またはウイルス感染力を、該化合物で処理しない該組織培養系と比較することとを含み、該化合物で処理した該組織培養系におけるHCV複製、HCVタンパク質の発現、またはウイルス感染力のレベルの減少が抗HCV活性を有する化合物を示している、方法。
【請求項53】
抗HCV活性を有する抗体を同定する方法であって、
a)該抗体で請求項10に記載の組織培養系を処理することと、
b)該抗体で処理した該組織培養系におけるHCV複製、HCVタンパク質の発現、またはウイルス感染力を、該抗体で処理しない該組織培養系と比較することと、
を含み、該抗体で処理した該組織培養系におけるHCV複製、HCVタンパク質の発現、またはウイルス感染力のレベルの減少が抗HCV活性を有する抗体を示している、方法。
【請求項54】
組織培養でHCVを生成する方法であって、請求項9に記載のHCVゲノムRNA転写物を細胞にトランスフェクトすることと、該HCVゲノムRNA転写物の複製および感染性ウイルス粒子の培養培地への分泌に適した条件下で、該培養培地で該細胞を増殖させることとを含み、該トランスフェクトした細胞がCD81およびインフルエンザのNS1ポリペプチドを発現する、方法。
【請求項55】
前記NS1ポリペプチドがウイルス粒子の収量を増加させる配列番号15のアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記トランスフェクトした細胞が配列番号11乃至14からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記細胞が肝細胞であり、かつヒト組織に由来する、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
前記肝細胞が肝細胞癌の細胞である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記肝細胞がHuh7、Huh7.5、Siena8、Huh7C、およびT7−11からなる群から選択される細胞系に由来する、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記肝細胞がインターフェロンで治癒されている、請求項57に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−501183(P2010−501183A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525620(P2009−525620)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/018591
【国際公開番号】WO2008/024413
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】