説明

C/SiCハニカム複合体及びその製造方法

【課題】本発明は、十分に軽量で高精度なC/SiCハニカム複合体及びその製造方法を得ることを目的とするものである。
【解決手段】C/SiCハニカム複合体は、ハニカム構造部1と、ハニカム構造部1の一側に固定されたプレート部2とを有している。ハニカム構造部1は、炭素短繊維と黒鉛粉末と粉末樹脂とを含む混合原料を成形し炭素化してなるC/CハニカムコアをC/SiC化してなっている。プレート部2は、C/Cハニカムコアと同一の混合原料を成形し炭素化してなるC/CプレートをC/SiC化してなっている。ハニカム構造部1とプレート部2とは、C/CハニカムコアとC/Cプレートとにシリコンを含浸してC/SiC化することにより一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、熱的な環境変化が厳しい宇宙空間で使用される望遠鏡や光アンテナ等に用いられるC/SiCハニカム複合体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星に搭載される光学系システムは、光学性能を向上させるために大型化が必要とされている。しかし、その一方で、打上可能な重量の制約があるため、光学系システムを構成する部品(反射鏡等)は、十分な剛性を持ちながら軽量であることが望まれている。
【0003】
これに対して、従来のガラス材又はSiC材等のセラミックス系材料では、接着レスの超軽量一体化構造(例えば、ハニカムコアと表皮とを組み合わせた構造)の製造が、製造期間やコストの面から困難であった。
【0004】
一方、C/SiC(炭素繊維強化炭化珪素)の超軽量構造を構成するには、ハニカムコア状の構造体が不可欠である。そして、C/SiC化に適応可能な材料としては、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製のハニカムコアを熱処理して得られるC/C製のハニカムコアがある。
【0005】
従来のCFRPハニカムコアは、連続繊維の布織、又はマットに樹脂を含浸させたシートを、凹凸形状に仮成形して1層ずつ積み重ねて製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−229257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来のCFRPハニカムコアは、繊維強化のシートを接着して構成されているため、素材内部に繊維配向による物性の異方性がある。また、接着部と非接着部とでは、壁部の厚さに差があり(1層部と2層部)、構造としての不均一(異方性)がある。さらに、このようなハニカムコアを表皮と組み合わせ、シリコンとの反応焼結により一体化させた場合、反応による寸法変化が一様ではないため、歪みや割れが発生し、一体化焼結が困難であった。
【0008】
また、ハニカムコアの代わりにフォーム構造体を用いた場合、フォーム構造体の比重がハニカムコアに比べて高いため、十分に軽量な構造体が製造できない。さらに、機械加工によりフォーム材をハニカムコアのような軽量構造に加工する場合、コアの壁の厚さや高さに加工限界があり、十分な軽量化及び大型化が困難であり、また、加工コストが高くなるとともに、製造期間が長くかかる。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、十分に軽量で高精度なC/SiCハニカム複合体及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るは、ハニカム構造部と、ハニカム構造部の一側に固定されたプレート部とを有するC/SiCハニカム複合体であって、ハニカム構造部は、炭素繊維と黒鉛粉末と粉末樹脂とを含む混合原料を成形し炭素化してなるC/CハニカムコアをC/SiC化してなり、プレート部は、C/Cハニカムコアと同一の混合原料を成形し炭素化してなるC/CプレートをC/SiC化してなり、ハニカム構造部とプレート部とは、C/CハニカムコアとC/Cプレートとにシリコンを含浸してC/SiC化することにより一体化されている。
【発明の効果】
【0011】
この発明のC/SiCハニカム複合体は、ハニカム成形体を炭素化してなるC/Cハニカムコアを用いてハニカム構造部を構成したので、フォーム材を機械加工する場合に比べて、ハニカム構造部を高精度に構成することができる。また、プレート部は、C/Cハニカムコアと同一の混合原料を成形し炭素化してなるC/CプレートをC/SiC化してなり、ハニカム構造部とプレート部とは、C/CハニカムコアとC/Cプレートとにシリコンを含浸してC/SiC化することにより一体化されているので、金属等に比べて熱変形が小さく、SiCのように比強度及び比剛性が高いC/SiC材により、十分に軽量で大型のC/SiCハニカム複合体を、比較的短期間に低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1によるC/SiCハニカム複合体を示す斜視図である。
【図2】図1のハニカム構造部1を作製するための成形用治具の治具本体を示す斜視図である。
【図3】図2の治具本体に外枠を装着した状態を示す斜視図である。
【図4】図3の成形用治具上に押し板をセットする様子を示す斜視図である。
【図5】図1のハニカム構造部の作製途中の状態を示す斜視図である。
【図6】図1のプレート部の作製途中の状態を示す斜視図である。
【図7】図5のC/Cハニカムコアを図6のC/Cプレートの形状に合わせて加工した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるC/SiCハニカム複合体を示す斜視図であり、この例では、宇宙空間で使用される反射鏡を示している。図において、C/SiCハニカム複合体は、略円形のハニカム構造部1と、ハニカム構造部1の一側(厚さ方向の一端)に固定された円板状のプレート部2とを有している。また、C/SiCハニカム複合体の中央には、光路を確保するための光路孔3が設けられている。
【0014】
次に、C/SiCハニカム複合体の製造方法について説明する。図2は図1のハニカム構造部1を作製するための成形用治具の治具本体を示す斜視図である。治具本体は、長方形の平板状の底板(ボトムプレート)4と、底板4上に互いに間隔をおいて立設された複数のコア芯5とを有している。各コア芯5の断面形状は、ハニカム形状を構成する6角形となっている。即ち、各コア芯5の外形は、六角柱である。
【0015】
また、各コア芯5は、底板4の材料よりも線膨張係数が大きい材料により構成されている。具体的には、コア芯5は、例えばアルミニウム合金等の比較的熱膨張率の大きい材料により構成されており、底板4は、コア芯5の材料よりも熱膨張率の小さいステンレス鋼等により構成されている(熱膨張率の関係は、コア芯5>底板4)。
【0016】
ハニカム構造部1を作製する場合、図3に示すように、底板4と同様の材料からなる外枠6を治具本体の外周に装着する。そして、コア芯5間の隙間、及びコア芯5と外枠6との間の隙間に、ランダムに分散した炭素短繊維と黒鉛粉末と粉末樹脂とを含む混合原料を充填する。
【0017】
この後、図4に示すように、成形用治具内の隙間、即ち混合原料を充填した部分に対応した形状の押し板7により、混合原料を加圧する。そして、押し板7により加圧した状態で、混合原料を加熱し硬化させる。なお、押し板7は、底板4と同様の材料からなり、コア芯5が挿入される多数の孔を有している。
【0018】
この後、成形用治具を冷却すると、底板4は殆ど伸び縮みしないが、コア芯5が大きく収縮するため、成形体とコア芯5との境界に隙間ができ、成形体を成形用治具から容易に取り出すことができる。このようにして、CFRP製のハニカム成形体が作製される。
【0019】
次に、脱型したハニカム成形体を不活性雰囲気中で熱処理し、マトリックス樹脂を熱分解して炭素化する(炭素化焼成)。これにより、図5に示すようなC/Cハニカムコア8が得られる。
【0020】
一方、C/Cハニカムコア8を作製する際と同一の混合原料で成形したブロックを炭素化焼成し、C/Cブロックを作製する。そして、C/Cブロックをプレート部2の形状に加工して、図6に示すようなC/Cプレート9を作製する。また、図7に示すように、C/Cハニカムコア8の形状をC/Cプレート9に合わせて加工する。
【0021】
この後、C/Cハニカムコア8とC/Cプレート9とを仮接着して組み合わせ、これらに真空中でシリコンを溶融し含浸させる。これにより、シリコンを炭素と反応させてSiC化し、C/Cハニカムコア8及びC/Cプレート9をC/SiC化させる。このC/SiC化により、ハニカム構造部1とプレート部2とが一体化され、図1に示したC/SiCハニカム複合体が得られる。
【0022】
このようなC/SiCハニカム複合体のハニカム構造部1は、空隙の多い構造であり、嵩比重が0.8から1.0程度と軽量である。また、ハニカム構造部1の壁の厚さは、格子間隔に対して十分に薄く、ハニカム構造部1の空隙率は90〜98%である。さらに、ハニカム構造部1及びプレート部2には、炭素短繊維が均等に分散されているため、シリコン含浸によるSiC化反応において均一な寸法変化を示し、歪みを生じずに一体の超軽量構造を得ることができる。
【0023】
さらにまた、ハニカム構造部1とプレート部2とは同一の原料により成形された成形体を接着し、シリコン含浸により反応させて一体化されているため、接着部も反応しSiC化された接着部(異種材料)のない一体構造になっている。
【0024】
このように、実施の形態1のC/SiCハニカム複合体では、ハニカム成形体を炭素化してなるC/Cハニカムコア8を用いてハニカム構造部1を構成したので、フォーム材を機械加工する場合に比べて、ハニカム構造部1を高精度に構成することができる。
【0025】
また、プレート部2は、C/Cハニカムコア8と同一の混合原料を成形し炭素化してなるC/Cプレート9をC/SiC化してなり、ハニカム構造部1とプレート部2とは、C/Cハニカムコア8とC/Cプレート9とにシリコンを含浸してC/SiC化することにより一体化されているので、金属等に比べて熱変形が小さく、SiCのように比強度及び比剛性が高いC/SiC材により、十分に軽量で大型のC/SiCハニカム複合体を、比較的短期間に低コストで製造することができる。
【0026】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2では、成形用治具のコア芯5にアルミニウム合金を用い、底板4及び外枠6に熱膨張率の小さいインバー材を用いた。また、孔のない平板状の押し板を用いた。そして、実施の形態1と同様の混合原料を成形用治具の隙間に充填して押し板で加圧し、その状態で150℃まで加熱して原料を硬化させた。その後、室温まで冷却すると、成形体とコア芯5との境界には隙間が発生しており、成形体を成形用治具から容易に取り出すことができた。他の製造方法は、実施の形態1と同様である。
【0027】
このような製造方法によっても、クラックや歪みのない軽量なC/SiCハニカム複合体を得ることができた。
ここで、熱膨張率が大きく異なるコア芯5と底板4との組み合わせを用いつつ、孔のない押し板を用いる場合、コア芯5の熱膨張により、充填した原料を圧縮して成形することが可能であり、より薄いハニカム成形体を得ることができる。
【0028】
なお、上記の例では、正六角形を並べたハニカムコア構造を示したが、これに限定されるものではなく、例えば三角形、四角形、又は円形を並べた構造であってもよい。
また、成形用治具の材料は上記の例に限定されるものではなく、例えば、コア芯5の材料として鉄系材料やステンレス鋼等を用い、底板4の材料として、金属に比べて熱膨張率の小さいガラス系材料やセラミックス材料等を用いてもよい。
さらに、上記の例では、ハニカム構造部1の一側のみにプレート部2が固定されているが、同様の一体化方法でハニカム構造部1の他側にもプレート部2を固定してサンドイッチ構造体としてもよい。
さらにまた、上記の例では、反射鏡に用いられるC/SiCハニカム複合体を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、光学系システム内の他の装置に用いたり、宇宙空間以外の環境で使用される装置に用いたりしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 ハニカム構造部、2 プレート部、4 底板、5 コア芯、8 C/Cハニカムコア、9 C/Cプレート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の一側に固定されたプレート部とを有するC/SiCハニカム複合体であって、
前記ハニカム構造部は、炭素繊維と黒鉛粉末と粉末樹脂とを含む混合原料を成形し炭素化してなるC/CハニカムコアをC/SiC化してなり、
前記プレート部は、前記C/Cハニカムコアと同一の混合原料を成形し炭素化してなるC/CプレートをC/SiC化してなり、
前記ハニカム構造部と前記プレート部とは、前記C/Cハニカムコアと前記C/Cプレートとにシリコンを含浸してC/SiC化することにより一体化されていることを特徴とするC/SiCハニカム複合体。
【請求項2】
前記ハニカム構造部の嵩比重が0.8〜1.0の範囲内であることを特徴とする請求項1記載のC/SiCハニカム複合体。
【請求項3】
前記ハニカム構造部の空隙率が90〜98%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のC/SiCハニカム複合体。
【請求項4】
炭素繊維と黒鉛粉末と粉末樹脂とを含む混合原料を成形してなるハニカム成形体を炭素化してC/Cハニカムコアを作製する工程、
前記C/Cハニカムコアと同一の混合原料を成形し炭素化してC/Cプレートを作製する工程、及び
前記C/Cハニカムコアの一側に前記C/Cプレートを組み合わせ、前記C/Cハニカムコア及び前記C/Cプレートにシリコンを含浸し反応させてC/SiC化する工程
を含むことを特徴とするC/SiCハニカム複合体の製造方法。
【請求項5】
底板と、前記底板上に互いに間隔をおいて設けられ、線膨張係数が前記底板の線膨張係数よりも大きい複数のコア芯とを有する成形用治具を用いて、前記ハニカム成形体を成形することを特徴とする請求項4記載のC/SiCハニカム複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−254484(P2010−254484A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102827(P2009−102827)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】