説明

C1対称ビスホスフィンリガンド及びプレガバリンの不斉合成におけるそれらの使用

【課題】プレガバリン及び構造的に関連した化合物を製造するための材料及び方法を提供する。
【解決手段】遷移金属に結合されたC対称ビスホスフィンリガンドを含む新規キラル触媒を用いて、プロキラルオレフィンのエナンチオ選択性水素化を経た(S)−(+)−3−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸及び構造的に相関した化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C対称ビスホスフィンリガンド及び対応する触媒、及び、プレガバリンとして一般に知られている(S)−(+)−3−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸
【0002】
【化1】

【0003】
を含む薬学的に有用な化合物を製造するためのプロキラルオレフィンのエナンチオ選択性水素化を含む不斉合成におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
キラルホスフィンリガンドは、所望の活性を有する化合物の鏡像体過剰率(enantiomeric excess)を生み出すという、新規遷移金属触媒不斉反応の進展に著しい役割を果たしてきた。エンアミド基質の不斉水素化における成功した最初の試みは、1970年代後期に遷移金属リガンドとしてキラルビスホスフィンを使用してなし遂げられた。例えば、B. D. Vineyard et al., J. Am. Chem. Soc. 99(18):5946-52 (1977); W. S. Knowles et al., J. Am. Chem. Soc. 97(9):2567-68 (1975) を参照されたい。これらの最初に公表された報告以来、不斉水素化のための新規キラルビスホスフィンリガンドの合成、及び他のキラル触媒変換に関する研究が急増した。I. Ojima, ed., Catalytic Asymmetric Synthesis (1993); D. J. Ager, ed., Handbook of Chiral Chemicals (1999) を参照されたい。
【0005】
不斉水素化用に開発された最も効率がよく広範囲に有用なリガンドのいくつかには、BPEリガンド(例えば、(R,R)−Et−BPE又は(+)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジエチルホスホラノ)エタン);DuPhosリガンド(例えば、(R,R)−Me−DUPHOS又は(−)−1,2−ビス((2R,5R)−2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン);及びBisPリガンド((S,S)−1,2−ビス(t−ブチルメチルホスフィノ)エタン)が含まれる。例えば、M. J. Burk, Chemtracts 11(11):787-802 (1998); M. J. Burk et al., Angew Chem., Int. Ed. 37(13/14):1931-33 (1998); M. J. Burk, et al., J. Org. Chem. 63(18):6084-85 (1998); M. J. Burket al., J. Am. Chem. Soc. 120(18):4345-53 (1998); M. J. Burk et al., J. Am. Chem. Soc. 117(15):4423-24 (1995); M. J. Burk et al., J. Am. Chem. Soc. 115(22):10125-38 (1993); W. A. Nugent et al., Science 259(5094):479-83 (1993); M. J. Burk et al., Tetrahedron: Asymmetry 2(7):569-92 (1991); M. J. Burk, J. Am. Chem. Soc. 113(22):8518-19 (1991); T. Imamoto et al., J. Am. Chem. Soc. 120(7):1635-36 (1998); G. Zhu et al., J. Am. Chem. Soc. 119(7):1799-800 (1997) を参照されたい。
【0006】
不斉水素化反応におけるBPE、DUPHOS、BisP及び関連するリガンドの成功は、他の要因のなかでも、それらのC対称構造の剛性にあるとされた。図1に示したように、BisPのようなホスフィンリガンド構造の空間領域を四象限に分割すると、遷移金属(例えば、Rh)に結合した場合、交互にヒンダード(hindered)及び非ヒンダード四象限を生じる。この構造モチーフが、エンアミド、エノールエステル及びスクシネートを含む、特定の基質の不斉水素化のための、ビスホスフィンリガンド及び対応する触媒の設計を駆り立て、そして非C対称(即ち、C対称)ビスホスフィンリガンドの開発を遅らせた。
【0007】
研究者たちは、最近、エナンチオ選択性水素化反応を含む、不斉変換に有用である、C対称ビスホスフィンリガンド及び対応する触媒を記述している。例えば、全ての目的について、その全開示が本明細書において援用される、2002年10月3日に公開され、共通して譲渡された米国特許出願第2002/0143214A1号、および2003年4月17日に公開され、共通して譲渡された米国特許出願第2003/0073868号、を参照されたい。図2に示したように、(t−ブチル−メチル−ホスファニル)−(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−エタンに代表されるこれらのリガンドは、Rhのような遷移金属に結合した場合、三つのヒンダード四象限立体化学環境を示す。しかしながら、水素化の間のエナンチオ選択性へそれらの立体化学環境を関連付ける、C対称ビスホスフィンリガンド及び対応する触媒のまとまりのあるモデルは、まだ見つかっていない。例えば、H. Blaser et al., Topics in Catalysis 19:3 (2002); A. Ohashi et al., European Journal of Organic Chemistry 15:2535 (2002); K. Matsumura et al., Advanced Synthesis & Catalysis 345:180 (2003) を参照されたい。
【0008】
プレガバリン、(S)−(+)−3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸、は、カルシウムチャネルのアルファ−2−デルタ(α2δ)サブユニットへ結合し、脳神経細胞の活性の調節に関与する、内在性、抑制性神経伝達物質γ−アミノ酪酸(GABA)と関係がある。プレガバリンは、R. B. Silverman et al. による米国特許第5,563,175号に記載されているように、抗てんかん活性を示し、状態の中でも、疼痛、精神運動興奮に付随する生理学的状態、炎症、消化管損傷、アルコール中毒、不眠症及び多様な精神障害を治療するために有用であると考えられている。各々、そして全ての目的について、その全体が本明細書において援用される、L. Bueno et al. による米国特許第6,242,488号、L. Magnus & C. A. Segalによる米国特許第6,326,374号及びL. Singh による米国特許第6,001,876号;H. C. Akunne et al. による米国特許第6,194,459号;D. Schrier et al. による米国特許第6,329,429号;L. Bueno et al. による米国特許第6,127,418号;L. Bueno et al. による米国特許第6,426,368号;L. Magnus & C. A. Segal による米国特許第6,306,910号;及びA. C. Pande による米国特許第6,359,005号を参照されたい。
【0009】
プレガバリンは、種々の方法で製造されてきた。典型的には、3−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸のラセミ混合物を合成し、引き続いて、そのR−及びS−鏡像異性体へ分割する。こうした方法は、アジド中間体(例えば、R. B. Silverman et al. による米国特許第5,563,175号)、マロネート中間体(例えば、T. M. Grote et al. による米国特許第6,046,353号、T. M. Grote et al. による米国特許第5,840,956号及びT. M. Grote et al. による米国特許第5,637,767号)、又はホフマン合成(B. K. Huckabee & D. M. Sobieray による米国特許第5,629,447号及びB. K. Huckabee & D. M. Sobieray による米国特許第5,616,793号)を用いることができる。これらの方法の各々においては、ラセミ化合物をキラル酸(分割剤)と反応させてジアステレオ異性体塩の対を形成させ、それを分別結晶及びクロマトグラフィーのような既知の技術により分離する。それ故、これらの方法は、ラセミ化合物の製造を超えた重要な処理を含み、それは分割剤とともに、生産コストを高くする。さらに、望まれないR−鏡像異性体は、効率よくリサイクルできないのでしばしば廃棄され、それによりプロセスの有効なスループットを50%減少させる。
【0010】
加えて、プレガバリンは、キラル助剤である(4R,5S)−4−メチル−5−フェニル−2−オキサゾリジノンを使用して直接合成されている。例えば、すべてSilverman et al. による米国特許第6,359,169、6,028,214、5,847,151、5,710,304、5,684,189、5,608,090及び5,599,973号を参照されたい。これらの方法は、高いエナンチオ純度でプレガバリンを提供するが、取り扱うのが困難である高価な試薬(例えば、キラル助剤)を用い、−78℃もの低さである必要な作動温度に到達するための特別な極低温の装置を用いるので、大規模合成にはあまり望ましくない。
【0011】
米国特許第2003/0212290A1号は、シアノ置換オレフィンの不斉水素化を経るプレガバリンの作製法を記載しており、(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸のキラルシアノ前駆体を生成させている。シアノ前駆体は引き続いて還元されてプレガバリンを得る。この出願は、(R,R)−Me−DUPHOSを含む、多様なC対称ビスホスフィンリガンドの使用を開示し、それは(R)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸に対して、かなりのプレガバリンの富化を生じた。
【0012】
米国特許第2003/0212290A1号に開示されている方法は、プレガバリンを製造するための商業的に実行可能な方法を代表しているが、さらなる改良が多くの理由で望まれるであろう。商標つきのリガンド(R,R)−Me−DUPHOSを含む、C対称ビスホスフィンリガンドは、二つのキラル中心を所有するので製造するのがしばしば困難であり、それらのコストを高くする。さらに、米国特許第2003/0212290A1号に開示されているキラル触媒は、良好な鏡像体過剰率(ある場合には、約95%eeに等しいか又はそれ以上)でプレガバリンの前駆体を発生するけれども、より高いエナンチオ選択性(約98%eeに等しいか又はそれ以上)が有利であろう。加えて、より高い基質対触媒比(s/c)で使用することが可能なキラル触媒は、規定の触媒充填又は基質濃度について、より高い基質濃度又はより低い触媒充填を許容するので、それらは有利であろう。より高い基質濃度は、増加したプロセススループット、そしてそれ故、より低い単位生産コストを生じるであろう。同様に、より低い触媒充填は、実質的により低い単位生産コストを生じるであろう。
【発明の開示】
【0013】
【発明の要旨】
【0014】
本発明は、プレガバリン(式1)及び構造的に関連した化合物を製造するための材料及び方法を提供する。特許請求された方法は、その各々がリン原子を介して遷移金属(例えば、ロジウム)に結合した、C対称ビスホスフィンリガンドを含んでなる、新規キラル触媒を用いる。特許請求された発明は、プレガバリン及び類似の化合物を製造するための存在する方法よりも、多くの利点を提供する。例えば、C対称ビスホスフィンリガンドは単一の立体中心(stereogenic center)を有しており、それは、リガンド及びそれらの対応するキラル触媒の製造を相対的に安価にするであろう。さらに、そして以下の実施例に示されているように、特許請求された発明は、既知の方法よりも高いエナンチオ選択性(約98%ee又はそれ以上)でプレガバリンのキラルシアノ前駆体を発生することが可能である。また以下の実施例に示したように、新規キラル触媒は、既知の触媒よりも高い基質対触媒比(s/c)で使用することができ、それは実質的により低い単位生産コストを導くべきである。
【0015】
本発明の一つの側面は、式2
【0016】
【化2】

【0017】
の化合物の所望の鏡像異性体、又はそれらの薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物を製造する方法を提供する。式2において、
は、C1〜6アルキル、C1〜7アルカノイルアミノ、C1〜6アルコキシカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニルアミノ、アミノ、アミノ−C1〜6アルキル、C1〜6アルキルアミノ、シアノ、シアノ−C1〜6アルキル、カルボキシ、又は−CO−Yであり;
は、C1〜7アルカノイル、C1〜6アルコキシカルボニル、カルボキシ、又は−CO−Yであり;
及びRは、独立して、水素原子、C1〜6アルキル、C3〜7シクロアルキル、アリール又はアリール−C1〜6アルキルであるか、又は、R及びRが一緒になってC2〜6アルカンジイルであり;
Xは、−NH−、−O−、−CH−、又は結合であり;
Yは、カチオンであり、そして、アステリスクは立体(キラル)中心を示している。
【0018】
本方法は、(a)式3
【0019】
【化3】

【0020】
のプロキラル基質(オレフィン)をキラル触媒存在下で水素と反応させて、式2の化合物を得;そして(b)場合により、式2の化合物を薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物へ変換する工程を含む。式3中の置換基R、R、R、R及びXは式2で定義した通りである。キラル触媒は、リン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンドを含んでなり、式4
【0021】
【化4】

【0022】
により表される構造を有する。
【0023】
一般に、本方法は、約95%又はそれ以上のee、そしていくつかの場合には約99%又はそれ以上のeeで、式2の化合物の所望の鏡像異性体を生成するために使用することができる。有用なプロキラル基質には、3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エン酸又は3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エノアート・t−ブチル−アンモニウム塩のようなそれらの塩基付加塩が含まれる。他の有用なプロキラル基質には、Yが1族(アルカリ)金属イオン、2族(アルカリ土類)金属イオン、第一アンモニウムイオン又は第二アンモニウムイオンであるものが含まれる。
【0024】
特に有用なキラル触媒には、リン原子を介してロジウムに結合している、式4のキラルリガンドが含まれる。別の特に有用なキラル触媒には、式5
【0025】
【化5】

【0026】
により表される構造、及び約95%又はそれ以上のeeを有する式4のビスホスフィンリガンドの鏡像異性体が含まれる。特別に有用なキラル触媒には、式5により表される構造、及び約99%又はそれ以上のeeを有する式4のビスホスフィンリガンドの鏡像異性体が含まれる。
【0027】
本発明の別の側面は、プレガバリン又は(S)−(+)−3−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸(式1)、又はそれらの薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物を製造する方法を提供する。この方法は、(a)式6
【0028】
【化6】

【0029】
の化合物、その対応するZ−異性体、又はそれらの混合物をキラル触媒存在下でH(水素)と反応させて、式7
【0030】
【化7】

【0031】
(式中、Rはカルボキシ基又は−CO−Yであり、Yはカチオンである)の化合物を得、そして、キラル触媒はリン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンド(式4)を含んでなり;(b)式7の化合物のシアノ部分を還元して、式8
【0032】
【化8】

【0033】
の化合物を得;(c)場合により、式8の化合物を酸で処理してプレガバリンを得;そして場合により、式8又は式1の化合物を薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物に変換する工程を含む。
【0034】
本方法は、約95%又はそれ以上のeeを有する、又は約99%又はそれ以上のeeを有する、そしていくつかの場合には、約99.9%又はそれ以上のeeを有するプレガバリンを生成するために使用することができる。有用なプロキラル基質(式6)には、3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エノアート・t−ブチル−アンモニウム塩のような、3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エン酸の塩基付加塩が含まれる。他の有用なプロキラル基質には、式6中のYが1族金属イオン、2族金属イオン、第一アンモニウムイオン又は第二アンモニウムイオンであるものが含まれる。特に有用なキラル触媒には、リン原子を介してロジウムに結合している式4のキラルリガンドが含まれる。別の特に有用なキラル触媒には、式5(上記)により表される構造及び約95%又はそれ以上のeeを有する、式4のビスホスフィンリガンドの鏡像異性体が含まれる。特別に有用なキラル触媒には、式5により表される構造及び約99%又はそれ以上のeeを有する、式4のビスホスフィンリガンドの鏡像異性体が含まれる。
【0035】
本発明のさらに別の側面は、式4の所望の鏡像異性体を製造する方法を提供する。本方法は、(a)式9
【0036】
【化9】

【0037】
の化合物と、式10
【0038】
【化10】

【0039】
の化合物を反応させて、式11
【0040】
【化11】

【0041】
(式中、Xは脱離基であり、そして、RはBH、硫黄又は酸素である)
の化合物を得、ここにおいて、式9の化合物は式10の化合物との反応に先だって塩基で処理され;(b)式11の化合物とボラン、硫黄又は酸素と反応させて、式12
【0042】
【化12】

【0043】
(Rは、Rと同じであるか又は異なっており、そしてBH、硫黄又は酸素である)の化合物を得;そして(c)式12の化合物からR及びRを除去して、式4の化合物を得る工程を含む。
【0044】
特許請求された方法は、約80%、約90%、約95%又は約99%又はそれ以上のeeを有する、式5の化合物のR−鏡像異性体を製造するために特に有用である。典型的には、式12の化合物はR及びRの除去の前に、別々の鏡像異性体に分割する。置換基R及びRは、特定の置換基の性質に依存して、多くの異なった方法で除去することができる。例えば、R及びRが、各々BHである場合、それらは、式13
【0045】
【化13】

【0046】
の化合物とアミン又は酸を反応させることにより除去できて、式4の化合物を得る。それ故、例えば、式13の化合物をHBF・MeOと反応させることができ、続いて塩基加水分解により、式4の化合物を得る。同様に、R及びRを除去するため、式13の化合物をDABCO、TMEDA、DBU又はEtNH又はそれらの組み合わせで処理することができる。
【0047】
両方の置換基が硫黄原子である場合、R及びRは、多様な技術を使用して除去することができる。一つの方法は、(a)式14
【0048】
【化14】

【0049】
の化合物とROtfを反応させて、式15
【0050】
【化15】

【0051】
(式中、RはC1〜4アルキルである)の化合物を得、(b)式15の化合物と水素化ホウ素と反応させて、式13の化合物を得;そして(c)式13の化合物とアミン又は酸を反応させて、式4の化合物を得る工程を含む。特に有用なR置換基はメチルであり、そして特に有用な水素化ホウ素はLiBHである。
【0052】
別の方法は上記工程(a)及び(b)、さらに(c)式13の化合物とHClを反応させて式16
【0053】
【化16】

【0054】
の化合物を得;そして(d)式16の化合物とアミン又は酸を反応させて、式4の化合物を得る、工程を含む。両方の置換基が硫黄又は酸素である場合、R及びRはまた、式12の化合物を、ヘキサクロロジシランのような過クロロポリシランを含む、還元剤で処理することにより除去することもできる。
【0055】
本発明のさらに別の側面は、リン原子を介して遷移金属に結合されたキラルリガンド、キラルリガンドは式4により表される構造を有している、を含んでなる触媒又はプレ触媒を製造する方法を提供する。本方法は、(a)式17
【0056】
【化17】

【0057】
(式中、RはBH、硫黄又は酸素である)の化合物から両方のR置換基を除去して、式4の化合物を得;そして(b)式4の化合物を遷移金属(例えば、ロジウム)へ結合する、工程を含む。工程(b)は、式4の化合物を式18
[Rh(L(L]A 18
[式中、
は、COD、ノルボルナジエン、又は2,5−ジメチル−ヘキサ−1,5−ジエンから選択されるジエンであり;
は、Cl、Br、ICN、OR10、又は10から選択されるアニオン性リガンド、又はNR101112、R10OR11、R10SR11、CO、又はNCR10から選択される中性σ−ドナーリガンドであり(R10、R11及びR12は、独立してH又はC1〜6アルキルである);
Aは、OTf、PF、BF、SbF又はClOから選択されるアニオンであり;
mは0から2までの整数であり;
nは0から4までの整数であり;そして
pは、4×m+2×n+p=9となる正の奇整数である]
の錯体と反応させることを含むことができる。
【0058】
本発明のさらなる側面は、式19
【0059】
【化18】

【0060】
(式中、R10及びR11は独立して、BH、BHCl、硫黄、酸素、C1〜4アルキルチオであるか、又は存在しない、ただしR10とR11の両方ともがBHであることはない)の化合物を提供する。
【0061】
有用な式19の化合物には、R10及びR11が存在しないもの、及び約95%又はそれ以上のee、又は約99%又はそれ以上のeeで、R−絶対立体化学配置を有するものが含まれる。他の有用な式19の化合物には、R10及びR11が同一であり、そして各々酸素、硫黄又はC1〜4アルキルチオであるもの、及び約95%又はそれ以上のee、又は約99%又はそれ以上のeeで、R−絶対立体化学配置を有するものが含まれる。式19により表される、特に有用な化合物には、それ故、以下の化合物が含まれる:
2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン;
(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン;
(S)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン;
2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン;
(R)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン;
(S)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン;
2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノイルメチル)−メチル−ホスフィノイル]−2−メチル−プロパン;
(R)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノイルメチル)−メチル−ホスフィノイル]−2−メチル−プロパン;
(S)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノイルメチル)−メチル−ホスフィノイル]−2−メチル−プロパン;
(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム;
(R)−(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム;又は
(S)−(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム。
【0062】
本発明の追加の側面は、リン原子を介して遷移金属に結合されたキラルリガンドを含んでなる、触媒又はプレ触媒を提供する。キラルリガンドは、式4により表される構造を有する。
【0063】
特に有用なキラル触媒又はプレ触媒には、式5により表される構造を有するビスホスフィンリガンドに結合したロジウムが含まれる。他の有用なキラル触媒又はプレ触媒には、式5により表される構造及び約95%又はそれ以上のeeを有するビスホスフィンリガンドが含まれる。特別に有用なキラル触媒には、式5により表される構造及び約99%又はそれ以上のeeを有するビスホスフィンリガンドが含まれる。触媒又はプレ触媒はさらに、遷移金属に結合された一つまたはそれより多くのジエン(例えば、COD)又はハロゲンアニオン(例えば、Cl)を含むことができ、及びOTf、PF、BF、SbF又はClO又はそれらの混合物のようなカウンターイオンを含むことができる。
【0064】
本発明のさらなる側面は、式32
【0065】
【化19】

【0066】
の化合物の所望の鏡像異性体、又はそれらの薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物を製造する方法を提供する。本方法は、(a)式33
【0067】
【化20】

【0068】
の化合物をキラル触媒存在下で水素と反応させて、式32の化合物を得;そして(b)場合により、式32の化合物を、薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物へ変換する、工程を含んでなる。式32及び式33中の置換基R、R、R、R及びXは式2で定義した通りであり;キラル触媒はリン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンドを含んでなり、キラルリガンドは、上記式4により表される構造を有している。有用な式32の化合物には、プレガバリンのように、カルシウムチャネルのα2δサブユニットへ結合する、光学的に活性なβ−アミノ酸が含まれる。薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物を含むこれらの化合物は、疼痛、線維筋痛症、及び精神医学及び睡眠障害を治療するために有用である。例えば、その全開示が本明細書において援用される、Barta et al. による米国特許第2003/0195251A1号を参照されたい。
【0069】
本発明の範囲は、式1、2、8及び32の化合物を含む、特許請求された及び開示された化合物の、全ての薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物、水和物、多形、エステル、アミド及びプロドラッグを含む。
【発明の詳細な説明】
【0070】
定義及び略語
特に示さない限り、本開示は以下に提供される定義を使用する。いくつかの定義及び式は、原子間の結合、及び名称を付けた又は付けていない原子又は原子群への連結点を示すための「−」(ダッシュ)を含むことができる。他の定義及び式は、二重結合又は三重結合を示すために、各々、「=」(等号)又は「≡」(同一性符号)を含むことができる。特定の式はまた、立体(キラル)中心を示すための、一つまたはそれより多くの「*」(アステリスク)も含むことができるが、アステリスクが存在しないことは、化合物が一つまたはそれより多くの立体中心を欠くことを示しているわけではない。こうした式は、ラセミ化合物又は個々の鏡像異性体又はジアステレオマーを指すことができ、それらは実質的に純粋であっても、又は純粋でなくてもよい。いくつかの式は、Z−異性体、E−異性体、又はZ及びE異性体の混合物を示すため、交叉二重結合又は二重任意(either)結合
【0071】
【化21】

【0072】
も含むことができる。
【0073】
「置換された」基とは、原子価必要性を満たし、そして置換により化学的に安定な化合物を生じるならば、一つまたはそれより多くの水素原子が、一つまたはそれより多くの非水素原子又は基により置き換えられたものである。
【0074】
「アルキル」とは、直鎖及び分枝鎖飽和炭化水素基を指し、一般に、特定された数の炭素原子を有している(即ち、C1〜6アルキルとは、1、2、3、4、5又は6炭素原子を有しているアルキル基を指す)。アルキル基の例には、限定ではなく、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンタ−1−イル、ペンタ−2−イル、ペンタ−3−イル、3−メチルブタ−1−イル、3−メチルブタ−2−イル、2−メチルブタ−2−イル、2,2,2−トリメチルエタ−1−イル、n−ヘキシルなどが含まれる。
【0075】
「アルケニル」とは、一つまたはそれより多くの不飽和炭素−炭素結合を有する、直鎖及び分枝鎖炭化水素基を指し、一般に、特定された数の炭素原子を有している。アルケニル基の例には、限定ではなく、エテニル、1−プロペン−1−イル、1−プロペン−2−イル、2−プロペン−1−イル、1−ブテン−1−イル、1−ブテン−2−イル、3−ブテン−1−イル、3−ブテン−2−イル、2−ブテン−1−イル、2−ブテン−2−イル、2−メチル−1−プロペン−1−イル、2−メチル−2−プロペン−1−イル、1,3−ブタジエン−1−イル、1,3−ブタジエン−2−イルなどが含まれる。
【0076】
「アルキニル」とは、一つまたはそれより多くの三重炭素−炭素結合を有する、直鎖及び分枝鎖炭化水素基を指し、一般に、特定された数の炭素原子を有している。アルキニル基の例には、限定ではなく、エチニル、1−プロピン−1−イル、2−プロピン−1−イル、1−ブチン−1−イル、3−ブチン−1−イル、3−ブチン−2−イル、2−ブチン−1−イルなどが含まれる。
【0077】
「アルカンジイル」とは、二価の直鎖及び分枝鎖飽和炭化水素基を指し、一般に、特定された数の炭素原子を有している。例には、限定ではなく、メチレン、1,2−エタンジイル、1,3−プロパンジイル、1,4−ブタンジイル、1,5−ペンタンジイル、1,6−ヘキサンジイルなどが含まれる。
【0078】
「アルカノイル」及び「アルカノイルアミノ」とは、各々、アルキル−C(O)−及びアルキル−C(O)−NH−(式中、アルキルは上で定義した通りである)を指し、一般に、カルボニル炭素を含んで、特定された数の炭素原子を含む。アルカノイル基の例には、限定ではなく、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、ペンタノイル、ヘキサノイルなどが含まれる。
【0079】
「シクロアルキル」とは、飽和単環式及び二環式炭化水素環を指し、環を含んでなる、特定された数の炭素原子を有している(即ち、C3〜7シクロアルキルとは、環メンバーとして3、4、5、6又は7炭素原子を有しているシクロアルキル基を指す)。シクロアルキルは、その結合が原子価要求性を犯さないであろう限り、いずれの環原子でも、親基又は基質へ結合することができる。同様に、シクロアルキル基は、その置換が原子価要求性を犯さないであろう限り、一つまたはそれより多くの非水素置換基を含むことができる。有用な置換基には、限定ではなく、上で定義したアルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル及びアルカノイル、及びヒドロキシ、メルカプト、ニトロ、ハロゲン及びアミノが含まれる。
【0080】
単環式シクロアルキル基の例には、限定ではなく、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが含まれる。二環式シクロアルキル基の例には、限定ではなく、ビシクロ[1.1.0]ブチル、ビシクロ[1.1.1]ペンチル、ビシクロ[2.1.0]ペンチル、ビシクロ[2.1.1]ヘキシル、ビシクロ[3.1.0]ヘキシル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[3.2.0]ヘプチル、ビシクロ[3.1.1]ヘプチル、ビシクロ[4.1.0]ヘプチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、ビシクロ[4.1.1]オクチル、ビシクロ[3.3.0]オクチル、ビシクロ[4.2.0]オクチル、ビシクロ[3.3.1]ノニル、ビシクロ[4.2.1]ノニル、ビシクロ[4.3.0]ノニル、ビシクロ[3.3.2]デシル、ビシクロ[4.2.2]デシル、ビシクロ[4.3.1]デシル、ビシクロ[4.4.0]デシル、ビシクロ[3.3.3]ウンデシル、ビシクロ[4.3.2]ウンデシル、ビシクロ[4.3.3]ドデシルなどが含まれる。
【0081】
「シクロアルカノイル」とは、シクロアルキル−C(O)−(式中、シクロアルキルは上に定義した通りである)を指し、一般に、カルボニル炭素を除いて、特定された数の炭素原子を含む。シクロアルカノイルの例には、限定ではなく、シクロプロパノイル、シクロブタノイル、シクロペンタノイル、シクロヘキサノイル、シクロヘプタノイルなどが含まれる。
【0082】
「アルコキシ」、「アルコキシカルボニル」及び「アルコキシカルボニルアミノ」とは、各々、アルキル−O−、アルキル−O−C(O)−及びアルキル−O−C(O)−NH−(式中、アルキルは上に定義した通りである)を指す。アルコキシ基の例には、限定ではなく、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、s−ペントキシなどが含まれる。
【0083】
「アルキルアミノ」、「アルキルアミノカルボニル」、「ジアルキルアミノカルボニル」、「アルキルスルホニル」、「スルホニルアミノアルキル」及び「アルキルスルホニルアミノカルボニル」とは、各々、アルキル−NH−、アルキル−NH−C(O)−、アルキル−N−C(O)−、アルキル−S(O)−、HS(O)−NH−アルキル−及びアルキル−S(O)−NH−C(O)−(式中、アルキルは上に定義した通りである)を指す。
【0084】
「アミノアルキル」及び「シアノアルキル」とは、各々、NH−アルキル及びN≡C−アルキル(式中、アルキルは上に定義した通りである)を指す。
【0085】
「ハロ」、「ハロゲン」及び「ハロゲノ」は相互交換的に使用してもよく、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを指す。
【0086】
「ハロアルキル」及び「ハロアルカノイル」とは、各々、一つまたはそれより多くのハロゲン原子で置換されたアルキル又はアルカノイル基を指し、ここでアルキル及びアルカノイルは上に定義した通りである。ハロアルキル及びハロアルカノイル基の例には、限定ではなく、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ペンタフルオロエチル、ペンタクロロエチル、トリフルオロアセチル、トリクロロアセチル、ペンタフルオロプロピオニル、ペンタクロロプロピオニルなどが含まれる。
【0087】
「ヒドロキシアルキル」及び「オキソアルキル」とは、各々、HO−アルキル及びO=アルキル(式中、アルキルは上に定義した通りである)を指す。ヒドロキシアルキル及びオキソアルキル基の例には、限定ではなく、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、オキソメチル、オキソエチル、3−オキソプロピルなどが含まれる。
【0088】
「アリール」及び「アリーレン」とは、各々、一価及び二価の芳香族基を指す。アリール基の例には、限定ではなく、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ピレニル、アントラセニル、フルオレニルなどが含まれ、それらは未置換又は1〜4の置換基で置換されていてもよい。こうした置換基には、限定ではなく、上で定義したアルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル及びアルカノイル、及びヒドロキシ、メルカプト、ニトロ、ハロゲン及びアミノが含まれる。
【0089】
「アリールアルキル」とは、アリール−アルキルを指し、ここでアリール及びアルキルは上で定義した通りである。例には、限定ではなく、ベンジル、フルオレニルメチルなどが含まれる。
【0090】
「アリールアルカノイル」とは、アリール−アルカノイルを指し、ここでアリール及びアルカノイルルは上で定義した通りである。例には、限定ではなく、ベンゾイル、フェニルエタノイル、フェニルプロピオノイルなどが含まれる。
【0091】
「アリールアルコキシカルボニル」とは、アリール−アルコキシカルボニルを指し、ここでアリール及びアルコキシカルボニルは上で定義した通りである。例には、限定ではなく、フェノキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル(CBz)などが含まれる。
【0092】
「ヘテロ環」及び「ヘテロシクリル」とは、各々、5〜7又は7〜11の環メンバーを有する、飽和、部分的不飽和又は不飽和、単環式又は二環式環を指す。これらの基は、炭素原子及び、独立して窒素、酸素又は硫黄である、1〜4のヘテロ原子から作り上げられた環メンバーを有し、そして上記の単環式ヘテロ環がベンゼン環に縮合た、いずれかの二環式基を含むことができる。窒素及び硫黄ヘテロ原子は、場合により、酸化されていてもよい。ヘテロ環式環は、結合が原子価要求性を犯さないであろう限り、いずれのヘテロ原子又は炭素原子でも、親基又は基質に結合することができる。同様に、いずれの炭素又は窒素環メンバーも、その置換が原子価要求性を犯さないであろう限り、非水素置換基を含むことができる。有用な置換基には、限定ではなく、上で定義したアルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルカノイル及びシクロアルカノイル、及びヒドロキシ、メルカプト、ニトロ、ハロゲン及びアミノが含まれる。
【0093】
ヘテロ環の例には、限定ではなく、アクリジニル、アゾシニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾテトラゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾイミダゾリニル、カルバゾリル、4aH−カルバゾリル、カルボリニル、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、デカヒドロキノリニル,2H,6H−1,5,2−ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3−b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、1H−インダゾリル、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル、3H−インドリル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、モルホリニル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フタラジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピロドオキサゾール、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、2H−ピロリル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H−キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、6H−1,2,5−チアジアジニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,2,5−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、チアアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニル、トリアジニル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、1,2,5−トリアゾリル、1,3,4−トリアゾリル及びキサンテニルが含まれる。
【0094】
「ヘテロアリール」及び「ヘテロアリーレン」とは、各々、芳香族である、上で定義した一価及び二価ヘテロ環又はヘテロシクリル基を指す。ヘテロアリール及びヘテロアリーレン基は、各々、アリール及びアリーレン基の部分集合を意味する。
【0095】
「脱離基」とは、置換反応、脱離反応及び付加−脱離反応を含む、フラグメンテーションプロセス間に、分子を離れるいずれかの基を指す。脱離基が、脱離基と分子間の結合として以前は働いていた電子対とともに基が離れる、離核性であってもよく、又は電子対なしで基が離れる、離電子性であってもよい。離れるための離核性脱離基の能力は、その塩基強度に依存し、最も強い塩基が最も不十分な脱離基である。通常の離核性脱離基には、窒素(例えば、ジアゾニウム塩からの)、スルホネート(トシレート、ブロシレート、ノシレート及びメシレートを含む)、トリフレート、ノナフレート、トレシレート、ハライドイオン、カルボキシレートアニオン、フェノレートイオン及びアルコキシドが含まれる。NH及びOHのような、いくつかのより強い塩基は、酸による処理により、より良好な脱離基とすることが可能である。通常の離電子性脱離基には、プロトン、CO及び金属が含まれる。
【0096】
「鏡像体過剰率」又は「ee」とは、規定の試料について、キラル化合物のラセミ試料に対して、一つの鏡像異性体の過剰率の指標であり、パーセンテージとして表現される。鏡像体過剰率は、100x(er−1)/(er+1)(式中、「er」はより少ない鏡像異性体に対するより豊富な鏡像異性体の比である)として定義される。
【0097】
「エナンチオ選択性」とは、一つの鏡像異性体を別の鏡像異性体よりもより多く得る、規定の反応(例えば、水素化)を指す。
【0098】
「高レベルのエナンチオ選択性」とは、少なくとも約80%のeeで生成物を得る、規定の反応を指す。
【0099】
「鏡像異性的に富化された」とは、一つの鏡像異性体を別の鏡像異性体よりもより多く含む、キラル化合物の試料を指す。富化の程度は、er又はeeにより測定する。
【0100】
「実質的に純粋な鏡像異性体」又は「実質的にエナンチオ純粋」とは、約90%又はそれ以上のeeを有する、鏡像異性体の試料を指す。
【0101】
「鏡像異性的に純粋」又は「エナンチオ純粋」とは、約99.9%又はそれ以上のeeを有する、鏡像異性体の試料を指す。
【0102】
「反対の鏡像異性体」とは、重ね合わすことが出来ない、参照分子の鏡像である分子を指し、それは、参照分子の立体中心の全てを反転することにより得ることが出来る。例えば、もし参照分子がS絶対立体化学配置を有していたら、反対の鏡像異性体はR絶対立体化学配置を有する。同様に、もし参照分子がS,S絶対立体化学配置を有していたら、反対の鏡像異性体はR,R絶対立体化学配置を有するなどである。
【0103】
「プレ触媒」又は「触媒前駆体」とは、使用に先だって、触媒へ変換される化合物又は化合物の組を指す。
【0104】
「薬学的に許容できる」とは、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激作用、アレルギー応答などがなく、患者の組織との接触における使用に適し、合理的利益対危険比が釣り合っており、及びそれらの意図される使用に有益である物質を指す。
【0105】
「治療する」とは、こうした用語が適用される障害又は状態を、逆行させる、緩和する、進行を抑制する、又は予防すること、又はこうした障害又は状態の一つまたはそれより多くの症状を予防することを指す。
【0106】
「治療」とは、直前に定義した「治療する」ことの行為を指す。
【0107】
「約」とは、測定可能な数変数に関連して使用される場合、変数の示された値及び示された値の実験誤差範囲にある全ての値(例えば、平均についての95%信頼区間内の)、又は大きいにしても示された値の10パーセント以内を指す。
【0108】
「溶媒和物」とは、プレガバリン及び化学量論又は非化学量論量の一つまたはそれより多くの薬学的に許容できる溶媒分子(例えば、エタノール)を含んでなる、分子複合体を記述する。
【0109】
「水和物」とは、薬学的に活性な成分(例えば、プレガバリン)及び化学量論又は非化学量論量の水を含んでなる、溶媒和物を記述する。
【0110】
「薬学的に許容できるエステル、アミド及びプロドラッグ」とは、特許請求され及び開示されている化合物の、酸又は塩基付加塩、エステル、アミド、双性イオン形(可能な場合)、及びプロドラッグを指す。薬学的に許容できる、無毒性エステルには、限定ではなく、特許請求され及び開示されている化合物の、C1〜6アルキルエステル、C5〜7シクロアルキルエステル及びアリールアルキルエステルが含まれ、ここでアルキル、シクロアルキル及びアリールは上で定義した通りである。こうしたエステルは、例えば、M.B. Smith and J. March, March's Advanced Organic Chemistry (5thEd. 2001) に記載されているような、慣用法により製造することが出来る。
【0111】
薬学的に許容できる無毒性アミドには、限定ではなく、特許請求され及び開示されている化合物の、アンモニア、第一C1〜6アルキルアミン、及び第二C1〜6ジアルキル又はヘテロシクリルアミンから誘導されるものが含まれ、ここでアルキル及びヘテロシクリルは上で定義した通りである。こうしたアミドは、例えば、March's Advanced Organic Chemistry に記載されているような、慣用法により製造することが出来る。
【0112】
「プロドラッグ」とは、ほとんど又は全く活性を有していないが、生体内で代謝された場合、所望の活性を有する、特許請求され及び開示されている化合物へ変換されることが可能である化合物を指す。プロドラッグの議論については、T. Higuchi and V. Stella, "Pro-drugs as Novel Delivery Systems," ACS Symposium Series 14 (1975), E.B. Roche (ed.), Bioreversible Carriers in Drug Design (1987), and H. Bundgaar, Design of Prodrugs (1985) を参照されたい。
【0113】
表1は本明細書を通して使用される略語を列挙している。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
以下のいくつかの反応スキーム及び実施例において、特定の化合物を、反応部位以外での望まれない化学反応を防止する、保護基を使用して製造することが可能である。保護基はまた、溶解度を増強するため、さもなければ化合物の物理的性質を修飾するためにも使用することが出来る。保護基戦略、保護基を取り付けるまたは除去するための材料及び方法の記述、及びアミン、カルボン酸、アルコール、ケトン、アルデヒドなどを含む通常の官能基に有用な保護基の編集、についての議論については、全ての目的についてその全体が本明細書において援用される、T. W. Greene and P.G. Wuts, Protecting Groups in Organic Chemistry (1999) and P. Kocienski, Protective Groups (2000) を参照されたい。
【0118】
加えて、以下のいくつかのスキーム及び実施例では、有機化学の当業者には周知である、酸化、還元などを含む、ありふれた反応の詳細は省略されている。こうした反応の詳細は、Richard Larock, Comprehensive Organic Transformations (1999) 及びMichael B. Smith 他により監修された、複数巻より成るCompendium of Organic Synthetic Methods (1974-2003) を含む、多数の学術論文に見ることが可能である。一般に、出発材料及び試薬は、商業的供給元から得ることが出来る。
【0119】
本発明は、薬学的に許容できる塩、エステル、アミドまたはプロドラッグを含む、上記式2により表されるキラル化合物を製造するための材料及び方法を提供する。式2において、「*」により示されている、少なくとも一つの立体中心を有し、そして上に定義された置換基R、R、R、R及びXを含む。式2により表される有用な化合物には、Rがアミノ、アミノ−C1〜6アルキル、シアノまたはシアノ−C1〜6アルキルであり;RがC1〜6アルコキシカルボニルまたはカルボキシであり;Xが−CH−または結合であり;そしてR及びRが、独立して水素原子又はC1〜6アルキルである化合物が含まれる。特に有用な化合物には、Rがアミノ又はアミノメチルであり;Rがカルボキシであり;Xが結合又は−CH−であり;そしてR及びRが、独立して水素原子又はC1〜6アルキルである、α−、β−及びγ−アミノ酸が含まれる。特別に有用な化合物には、それ故、(S)−3−シアノ−5−メチル−ヘキサン酸、及びプレガバリンとして知られている(S)−(+)−3−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸が含まれる。
【0120】
スキームIは、式2の化合物の所望の鏡像異性体を製造する方法を例示している。エナンチオ選択性合成は、(a)キラル触媒及び有機溶媒存在下、式3のプロキラル基質(オレフィン)と水素を反応させて、式2の化合物を得;そして(b)場合により、式2の化合物を、薬学的に許容できる塩、エステル、アミドまたはプロドラッグへ変換する、工程を含む。式3中の置換基R、R、R、R及びXは、式2で定義した通りである。より一般的には、特に明記しない限り、特定の置換基識別子(R、R、Rその他)が式に関連して最初に定義された場合、同一の置換基識別子が続いての式に使用された場合も、より早い式と同一の定義を有するであろう。それ故、例えば、もし最初の式においてR20が水素、ハロゲノ又はC1〜6アルキルであれば、異なって述べられていない限り、又は本文の文脈からは明白でないにせよ、第二の式中のR20もまた、水素、ハロゲノ又はC1〜6アルキルである。
【0121】
【化22】

【0122】
式3の有用なプロキラル基質には、個々のZ−又はE−異性体又はZ−及びE−異性体の混合物が含まれる。有用なプロキラル基質にはさらに、Rがアミノ、アミノ−C1〜6アルキル、シアノまたはシアノ−C1〜6アルキルであり;RがC1〜6アルコキシカルボニル、カルボキシ、又は−CO−Yであり;Xが−CH−または結合であり;R及びRが、独立して水素原子又はC1〜6アルキルであり;そしてYがカチオンである、式3の化合物が含まれる。他の有用な化合物には、Rがシアノまたはシアノメチルであり;Rがカルボキシ、又は−CO−Yであり;Xが結合または−CH−であり;R及びRが、独立して水素原子又はC1〜6アルキルであり;そしてYが1族(アルカリ)金属イオン、2族(アルカリ土類)金属イオン、第一アンモニウムイオン又は第二アンモニウムイオンである、α−、β−及びγ−シアノ酸が含まれる。特に有用な式3の化合物には、3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エン酸、又は3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エノエーート・t−ブチル−アンモニウム塩のような、それらの塩基付加塩が含まれる。プロキラル基質は、商業的供給元から得ることができるか、又は既知の方法で誘導することができる。
【0123】
キラル触媒は、リン原子を介して遷移金属(即ち、3族〜12族金属)に結合したキラルリガンドを含んでなり、そして上で指摘したように、式4又は式5により表される構造を有する。特別に有用なキラル触媒には、約95%又はそれ以上のeeを有する、又は好ましくは約99%又はそれ以上のeeを有する、式5のビスホスフィンリガンドが含まれる。有用な遷移金属には、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムが含まれる。これらの中で、ロジウムが特に有用である。
【0124】
スキームIに示した反応は、キラル触媒前駆体又はプレ触媒を用いることができる。触媒前駆体又はプレ触媒は、使用に先だって、触媒へ変換される化合物又は化合物の組である。触媒前駆体は典型的には、OTf、PF、BF、SbF、ClOその他のようなカウンターイオン、A、存在下、ビスホスフィンリガンド(例えば、式4)、及びジエン(例えば、ノルボルナジエン、COD、(2−メチルアリル)その他)、ハライド(Cl又はBr)又はジエン及びハライドと、錯体形成した遷移金属(例えば、ロジウム)を含んでなる。それ故、例えば、錯体、[(ビスホスフィンリガンド)Rh(COD)]を含んでなる触媒前駆体を、MeOH中でジエン(COD)を水素化することにより、キラル触媒へ変換することができ、[(ビスホスフィンリガンド)Rh(MeOH)を得る。MeOHは次ぎに、所望のキラル化合物(式2)へのエナンチオ選択性水素化をうける、プロキラルオレフィン(式3)により置き換える。それ故、例えば、有用なキラル触媒前駆体には、(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラヒドロボレートが含まれる。
【0125】
キラル触媒のどちらの鏡像異性体が使用されるかに依存して、不斉水素化は、式2の(R)−鏡像異性体又は(S)−鏡像異性体の鏡像体過剰(ee)を発生する。生成される所望の鏡像異性体の量は、反応条件(温度、H圧、触媒充填、溶媒)に依存するであろうが、約80%又はそれ以上の所望の鏡像異性体のeeが望ましく;約90%又はそれ以上のeeがより望ましく;そして約95%又はそれ以上のeeがさらにより望ましい。特別に有用な不斉水素化は、所望の鏡像異性体のeeが約99%又はそれ以上であるものである。本開示の目的には、式2の所望の鏡像異性体は、もしそれが約90%又はそれ以上のeeを有していれば、実質的に純粋と考えられる。
【0126】
規定のキラル触媒及びプロキラル基質について、基質及び触媒のモル比(s/c)は、中でも、H圧、反応温度及び溶媒に依存することができる。通常、基質対触媒比は約10:1又は20:1を上回り、そして約100:1又は200:1の基質対触媒比が普通である。キラル触媒はリサイクルすることができるが、より高い基質対触媒比が有用である。例えば、約1000:1、10,000:1及び20,000:1又はそれ以上の基質対触媒比が有用であろう。不斉水素化は、典型的には、RT近辺又はそれ以上、そして約0.1MPa(1atm)又はそれ以上のH下で実施する。反応混合物の温度は、約20℃〜約80℃の範囲であることができ、H圧は約0.1Mpa〜約5Mpaの範囲であることができるが、より典型的には、約0.3Mpa〜約3Mpaの範囲である。温度、H圧及び基質対触媒比の組み合わせは、一般に、約24時間以内にプロキラルオレフィンの、実質的に完全な変換(即ち、約95wt%又はより高い)を提供するように選択する。一般に、H圧を増加させると、エナンチオ選択性が増加する。
【0127】
MeOH、EtOH及びi−PrOHのようなプロトン性溶媒を含む種々の有機溶媒を、不斉水素化に使用することができる。他の有用な溶媒には、THF、MeCl及びアセトンのような非プロトン性極性溶媒、又はトルエン、トリフルオロトルエン及びクロロベンゼンのような芳香族溶媒が含まれる。エナンチオ選択性水素化は、単一溶媒を用いてもよいし、又はMeOH及びTHFのような溶媒の混合物を用いてもよい。
【0128】
スキームIIに示したように、開示された不斉水素化は、プレガバリン又は(S)−(+)−3−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸(式1)を製造するために有用である。本方法は、約95%又はそれ以上のeeを有する、又は約99%又はそれ以上のeeを有する、そしていくつかの場合には約99.9%又はそれ以上のeeを有する、プレガバリンを生成するために使用することができる。本方法は、プレガバリンのキラルシアノ前駆体(式7)を得るためにキラル触媒を使用する、式6の化合物のエナンチオ選択性水素化を含む。キラルシアノ前駆体を続いて還元し、場合により、酸で処理してプレガバリンを得る。式6〜8において、置換基Rはカルボキシ基又は−CO−Y(式中、Yはカチオンである)であり得る。
【0129】
有用なプロキラル基質(式6)には、3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エノエーート・t−ブチル−アンモニウム塩のような、3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エン酸の塩基付加塩が含まれる。他の有用なプロキラル基質には、式6中のYが、1族金属イオン、2族金属イオン、第一アンモニウムイオン又は第二アンモニウムイオンであるものが含まれる。プロキラル基質は、商業的供給元から得ることができるか、又は既知の方法で誘導することができる。有用なプロキラル基質の製造、及びキラルシアノプレガバリン前駆体の還元の議論については、例えば、全ての目的について、その全開示が本明細書において援用される、2003年11月13日に公開され、共通して譲渡された米国特許出願第2003/0212290A1号を参照されたい。
【0130】
【化23】

【0131】
スキームIIIは、式4のキラルリガンドを製造するための方法を示している。本方法は、各々が約80%、90%、95%又は99%又はそれ以上のeeを有する、R−鏡像異性体(式5)か又はS−鏡像異性体を製造するために使用することができる。スキームIIIに示したように、本方法は、第一のモノホスフィン(式9)と第二のモノホスフィン(式10)を反応させて、第一のビスホスフィン中間体(式11)を得ることを含んでおり、ここにおいて、反応に先だって、第一のモノホスフィンは塩基で処理され、Xは脱離基(例えば、クロロのようなハロゲノ)であり、Rは典型的にはBHであるが、硫黄又は酸素でもあり得る。本方法はさらに、第二のビスホスフィン中間体(式12)を得るため、第一のビスホスフィン中間体(式11)とボラン、又は硫黄又は酸素と反応させることを含んでおり、ここにおいて、RはRと同じでも又は異なっていてもよく、そしてBH、硫黄又は酸素である。置換基R及びRを続いて除去し、式4のキラルビスホスフィンリガンドを得る。スキームIIIには示されていないけれども、第二のビスホスフィン中間体(式12)は、R及びRの除去前に又は後で、別々の鏡像異性体に分割する。
【0132】
【化24】

【0133】
置換基R及びRは、特定の置換基の性質に依存して、多くの異なった方法で除去することができる。例えば、R及びRが各々BHである場合(式13)、それらは、第二のビスホスフィン中間体とアミン又は酸と反応させることにより除去することができ、式4の化合物を得る。それ故、例えば、式13の化合物を、HBF・MeOと反応させることができ、続いての塩基加水分解により、式4の化合物を得る。同様に、R及びRを除去するため、式13の化合物を、DABCO、TMEDA、DBU又はEtNH又はそれらの組み合わせで処理することができる。例えば、H. Bisset et al., Tetrahedon Letters 34(28):4523-26 (1993) を参照されたい;全ての目的について、その全開示が本明細書において援用される、2002年10月3日に公開され、共通して譲渡された米国特許出願第2002/0143214A1号、及び2003年4月17日に公開され、共通して譲渡された米国特許出願第2003/0073868号、も参照されたい。
【0134】
両方の置換基が硫黄原子である場合(式14)、R及びRは、スキームIVに示した技術を使用して除去することができる。本方法の一つは、(a)式14の化合物とROTfを反応させて、式15の化合物を得、ここにおいてRはC1〜4アルキル(例えば、メチル)であり;(b)式15の化合物と水素化ホウ素(例えば、LiBH)を反応させて、式13の化合物を得;そして(c)式13の化合物とアミン又は酸と反応させて式4の化合物を得る、工程を含む。別の方法は、上記工程(a)及び(b)を含み、さらに、(c)式13の化合物と、極性非プロトン性溶媒に分散されたHClを反応させて、式15の化合物を得、そして(d)式16の化合物とアミン又は酸と反応させて式4の化合物を得る、工程を含む。
【0135】
両方の置換基が硫黄又は酸素である場合、R及びRはまた、ヘキサクロロジシランのような過クロロポリシランを含む還元剤で式12の化合物を処理することによっても除去することができる。非環式ホスフィンオキシドの立体特異的脱酸素化のための過クロロポリシランの使用についての議論は、その全体及び全ての目的について本明細書において援用される、K. Naumann et al., J. Amer. Chem. Soc. 91(25):7012-23 (1969) を参照されたい。
【0136】
スキームIに関連して上で指摘したように、式3又は式6のプロキラル基質を、式1又は式7の所望の鏡像異性体へ変換するために使用した方法は、キラル触媒又は使用に先だってキラル触媒へ変換される触媒前駆体を用いる。触媒又はプレ触媒は、リン原子を介して遷移金属(例えば、Rh)に結合した、式4又は式5のキラルリガンド(又はその鏡像体)を含んでなる。
【0137】
触媒又はプレ触媒は、スキームVに示した方法を使用して製造することができる。本方法は、(a)置換基Rを除去して式4の化合物を得、ここにおいてRはBH、硫黄又は酸素であり;そして(b)式4の化合物を遷移金属(例えば、ロジウム)へ結合する、工程を含む。工程(b)は、一般に、式4の化合物を式18の錯体と反応させることを含んでおり、式中、リガンドL及びLは、各々、上に定義したジエン又はアニオン性リガンドであり、Aは、上に定義した陰性に荷電したカウンターイオンであり、m、n及びpは、各々、0から2までの整数、0から4までの整数、及び4xm+2xn=9となるような正の奇整数である。プレ触媒は、保存の間の改良された安定性、取り扱い易さ(例えば、液体よりもむしろ固体)などのような、遊離リガンド(式4)又はキラル触媒に対する特定の優位性を提供することができる。
【0138】
【化25】

【0139】
一般に、本明細書を通して記載された化学変換は、実質的に化学量論量の反応体を使用して実施することができるが、特定の反応は、過剰の一つまたはそれより多くの反応体を使用することで利益をうける。更に、式2及び式6の化合物の不斉水素化を含む、本明細書を通して開示された反応の多くは、RT近辺で実施することができるが、特定の反応は、反応速度論、収率などに依存して、より高い又はより低い温度の使用を必要としてもよい。加えて、化学量論範囲、温度範囲、pH範囲その他に対する開示におけるいずれの参照文献も、示された終了点を含んでいる。
【0140】
【化26】

【0141】
本明細書に開示されたいずれの化合物の、望まれた(S)−又は(R)−鏡像異性体も、古典的分割、キラルクロマトグラフィー又は再結晶を通してさらに富化することができる。例えば、式1又は式2の化合物は、鏡像異性的に純粋な化合物(例えば、酸又は塩基)と反応させることができ、各々が単一の鏡像異性体から構成された、ジアステレオ異性体の対が生成され、それらは、例えば、分別再結晶又はクロマトグラフィーを経て分離される。所望の鏡像異性体を、引き続いて、適切なジアステレオマーから再生する。更に、所望の鏡像異性体はしばしば、それが十分な量で入手可能である場合、適した溶媒での再結晶によりさらに富化することができる(例えば、典型的には、約85%eeより以上、そしていくつかの場合においては、約90%eeより以上)。
【0142】
式1、2、6及び32により表された化合物を含む、本開示で記載された多くの化合物は、薬学的に許容できる塩を形成できる。これらの塩には、限定ではなく、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、亜リン酸などのような無機酸から誘導された無毒性塩、ならびに、脂肪族モノ−及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸その他のような有機酸から誘導された無毒性塩が含まれる。それ故、こうした塩には、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタ燐酸塩、ピロ燐酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソ酪酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩などが含まれる。
【0143】
薬学的に許容できる塩基塩には、アルカリ又はアルカリ土類金属カチオンのような金属カチオン、ならびにアミンを含む塩基から誘導された無毒性塩が含まれる。適した金属カチオンの例には、限定ではなく、ナトリウムカチオン(Na)、カリウムカチオン(K)、マグネシウムカチオン(Mg2+)、カルシウムカチオン(Ca2+)などが含まれる。適したアミンの例には、限定ではなく、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン及びプロカインが含まれる。有用な酸付加及び塩基塩の議論については、S. M. Berge et al., "Pharmaceutical Salts," 66 J. of Pharm. Sci., 1-19 (1977); see also Stahl and Wermuth, Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use (2002) を参照されたい。
【0144】
化合物の遊離塩基(又は遊離酸)と十分な量の所望の酸(又は塩基)を接触させて、無毒性塩を生成させることにより、薬学的に許容できる酸付加塩(又は塩基塩)を製造することができる。次ぎに、もしそれが溶液から沈殿するならば濾過により、又は塩を回収するための蒸発により、塩を単離することができる。また、酸付加塩と塩基(又は塩基塩と酸)を接触させることにより、遊離塩基(又は遊離酸)を再生することもできる。生じた塩のイオン化の程度は、完全にイオン化からほとんどイオン化しないまで、変動することができる。
【0145】
特許請求され及び開示された化合物は、未溶媒和及び溶媒和形の両方、そして塩以外の他の型の複合体として、存在することができる。有用な複合体には、クラスレート、又は薬剤及びホストが化学量論的又は非化学量論的量で存在する場合の薬剤−ホスト複合体が含まれる。有用な複合体はまた、化学量論的又は非化学量論的量で、二つ又はそれより多くの有機、無機又は有機及び無機構成要素を含むことができる。生じた複合体は、イオン化、部分イオン化、又は非イオン化されることができる。こうした複合体の総説については、J. K. Haleblian, J. Pharm. Sci. 64(8):1269-88 (1975) を参照されたい。
【0146】
式1、2、8及び32により表された化合物を含む、特許請求され及び開示された化合物の有用な形には、すべての多形及び晶癖、ならびに立体異性体(幾何異性体、鏡像異性体及びジアステレオマー)を含み、それらは、純粋、実質的に純粋、富化された又はラセミ体であってもよい。特許請求され及び開示された化合物の有用な形にはまた、可能な場合、互変異性形も含む。
【0147】
更に、式1、2、8及び32により表された化合物を含む、本開示の特定の化合物は、未溶媒和形として、又は水和形を含む溶媒和形として存在することができる。薬学的に許容できる溶媒和物には、水和物、及び結晶化溶媒を同位元素で置換することができる(例えば、DO、d−アセトン、d−DMSOその他)溶媒和物が含まれる。明白に指摘しない限り、化合物の遊離塩基、遊離酸、双性イオン又は未溶媒和形に関する言及はまた、化合物の対応する酸付加塩、塩基塩又は溶媒和形も含む。
【0148】
開示された化合物はまた、少なくとも一つの原子が、同一の原子番号を有しているが、原子質量が天然に通常観察される原子質量とは異なっている、全ての薬学的に許容できる同位元素変異体も含む。開示された化合物での包含に適した同位元素の例には、限定ではなく、H及びHのような水素の同位元素;13C及び14Cのような炭素の同位元素;15Nのような窒素の同位元素;17O及び18Oのような酸素の同位元素;31P及び32Pのようなリンの同位元素;35Sのような硫黄の同位元素;18Fのようなフッ素の同位元素;36Clのような塩素の同位元素が含まれる。同位元素変異体(例えば、重水素、H)の使用は、より大きな代謝的安定性から生じる特定の療法的利点、例えば、増加したインビボ半減期又は減少した用量要求性、を与えることができる。更に、開示された化合物の特定の同位元素変異体は放射性同位元素(例えば、トリチウム、H)を取り込むことができ、それは薬剤及び/又は基質分布研究で有用であることができる。
【実施例】
【0149】
以下の実施例は、例示及び非制限的であることが意図されており、本発明の具体的態様を表している。
【0150】
一般的な方法及び材料
全ての反応及び操作は、窒素下で、標準実験室ガラス器具で実施した。不斉水素化は、窒素を満たしたグローブボックス中で実施した。THF(無水、99.9%)、ACN(無水、99.8%)、ジエチルエーテル(無水、99.8%)、MeOH(無水、99.8%)及びMeCl(無水、99.8%)はALDRICHから購入した。ビス(1,5−シクロオクタンジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレートは、T. G. Schenk et al., Inorg. Chem. 24:2334 (1985) の手順に従って合成した。水素ガスは、SPECIALTY GAS により供給されたレクチャーボトルから使用した。水素化は、KIMBLE/KONTES により供給されたGriffin-Worden 圧力容器中で実施した。
【0151】
核磁気共鳴
400MHzHNMR、100MHz13CNMR及び162MHz31PNMRスペクトルは、Auto Switchable 4-Nuclei PFG プローブ、二つのRFチャネル、及びZYMARK によるSMS-100 試料交換器を備えた、VARIAN INOVA400 分光計で得た。スペクトルは一般に、RT付近で収集し、そして標準オートロック、オートシム及びオートゲインの日常の操作手順を用いた。HNMRスペクトルは、45度励起アングルパルス、1.0秒リサイクル遅延、及び0.25Hz/ポイントの分解能で16スキャン、を使用して収集した。収集幅は+18〜−2ppm(基準TMSを0ppm)の8000Hzであり、プロセシングは0.2Hzラインブロードニングであった。典型的な収集時間は80秒であった。通常の13CNMRスペクトルは、45度励起アングルパルス、2.0秒リサイクル遅延、及び1Hz/ポイントの分解能で2048スキャン、を使用して収集した。収集幅は、典型的には、+235〜−15ppm(基準TMSを0ppm)の25kHzであった。プロトンデカップリングを連続的に適用し、プロセシングの間、2Hzラインブロードニングを適用した。典型的な収集時間は102分であった。31PNMRスペクトルは、45度励起アングルパルス、1.0秒リサイクル遅延、及び2Hz/ポイントの分解能で64スキャン、を使用して収集した。収集幅は、典型的には、+200〜−100ppm(基準85%リン酸を0ppm)の48kHzであった。プロトンデカップリングを連続的に適用し、プロセシングの間、2Hzラインブロードニングを適用した。典型的な収集時間は1.5分であった。
【0152】
質量分析法
質量分析は、MassLynx及びOpenLynxオープンアクセスソフトウェアーで作動している、MICROMASS Platform LCシステムで実施した。LCは、HP1100 クォータナリーLCシステム及びオートサンプラーとしてGILSON 215 リキッドハンドラーを備えていた。データは、溶媒として80:20 ACN/水を用いる、大気圧化学イオン化で収集した。温度:プローブは450℃であり、イオン源は150℃であった。コロナ放電は陽イオンについて3500Vそして陰イオンについて3200Vであった。
【0153】
高速液体クロマトグラフィー
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、マニュアルインジェクター、クォータナリーポンプ及びUV検出器を備えた、シリーズ1100 AGILENT TECHNOLOGIES 装置で実施した。LCは、HP Chemstation Plus Software を使用してPC制御されていた。順相キラルHPLC分離は、CHIRAL TECHNOLOGIES により供給されたChiracel OJ カラムを使用して実施した。
【0154】
ガスクロマトグラフィー
ガスクロマトグラフィー(GC)は、電位計を有するFID検出器、モデル1061 パック/530μm IDフラッシュインジェクター、モデル1077 スプリット/スプリットレスキャピラリーインジェクター、4外部事象をモニターするリレーボード、及びインボードプリンター/プロッターを備えた、110ボルトVARIAN STAR 3400 で実施した。ガスクロマトグラフィーは、ADVANCED SEPARATION TECHNOLOGIES, INC. により供給された40mx0.25mm CHIRALDEX G-TA 又はB-TA カラム、又はCHROMPACK により供給された25mx0.25mmコーティングCHIRASIL-L-VAL カラムを使用して実施した。
【0155】
実施例1.(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジボラン(式13)の製造
【0156】
【化27】

【0157】
t−ブチル−ジメチル−ホスフィンボラン(式20)(20.1g、152mmole)のTHF(50mL)溶液を0℃で攪拌した。この溶液に、反応温度を20℃より低く維持しながら、s−BuLi(104mL、145mmole)を20分以上かけて加えた。添加後、溶液は、わずかに濁りそしてオレンジ色に変わった。反応液を、0℃で1時間攪拌した。溶液は引き続いて、0℃に前もって冷却したジ−t−ブチルクロロホスフィン(25g、138mmole)のTHF(50mL)溶液へ、カニューレ経由で、20分以上かけて移すと、添加して直ぐに赤色に変わった。移送の間、温度を20℃より低く維持した。添加に続いて、反応物を0℃で2時間攪拌した。この溶液に、反応温度を20℃より低く維持しながら、BH・MeS(14.4mL、152mmole)を10分以上かけて加えた。反応物を1時間攪拌し、その後、100gの氷を含む1N HCl(100mL)に注ぎ、30分攪拌した。水性溶液をEtOAc(2x100mL)で抽出し、合わせた有機層をMgSOで乾燥し、濾過した。ロータリーエバポレーターで揮発分を除去した。残渣を熱ヘプタンから再結晶すると、表題化合物(ラセミ化合物)を白色結晶性固形物として得た。固形物は25g(63%)の重さであった;mp = 150-152 ℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.88 (t, J = 12 Hz, 2H), 1.56 (d, J = 10 Hz, 3H), 1.33 (d, J = 13 Hz, 9H), 1.27 (d, J = 13 Hz, 9H), 1.19 (d, J = 13 Hz, 9H), 0.61 (br q, 6H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 34.29 (d, J = 25 Hz), 33.41 (d, J = 25 Hz), 30.00 (d, 25 Hz), 28.30 (s), 27.89 (s), 25.21 (s), 9.12 (dd, J = 21 及び 15 Hz), 6.52 (d, J = 32 Hz); 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 49.70 - 48.15 (m), 33.03 - 31.56 (m). 元素分析:C14H38B2P2として計算値: C, 57.98; H, 13.21. 実測値: C, 57.64; H, 13.01 。
【0158】
実施例2.(R)−(−)−及び(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジボラン(式21及び22)の製造
【0159】
【化28】

【0160】
(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジボラン(式13)の(R)−(−)−及び(S)−(+)−鏡像異性体(各々、式21及び22)は、下記表2に記したキラル分取カラム及び条件を使用し、HPLC分離により分離した。分取規模のRI検出器が入手できなかったので、RI検出を、鏡像異性体の保持時間をモニターするために使用できなかった。その代わりとして、フラクションコレクターを使用して溶媒を分画し、個々の分画を、表2に提供したキラル分析カラム及び条件を使用し、HPLCによりアッセイした。R−及びS−鏡像異性体の保持時間は、各々、6.8分、[α]24=−5.5°(c0.5、MeOH)、及び8.2分であった。
【0161】
【表4】

【0162】
実施例3.(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン(式5)の製造
【0163】
【化29】

【0164】
(R)−(−)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジボラン(式21、290mg、1.0mmol)及びDABCO(135mg、1.2mmol)を脱気したトルエン(10mL)に、20℃で溶解した。溶液を80℃で4時間攪拌した。真空下で溶媒を除去し、生じた残渣をヘキサン(3x20mL)で抽出した。合わせた有機抽出物を濃縮し、乾燥すると、(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン(式5、228mg、87%)を無色油状物として得た。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.47-1.41 (m, 2H), 1.09 (d, J = 11 Hz, 9H), 1.03 (d, J = 11 Hz, 9H), 0.94 (d, J = 11 Hz, 9H), 0.93 (d, J = 3 Hz, 3H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 7.44 (dd, J = 19 及び 6 Hz), 16.09 (dd, J = 32 及び 25 Hz), 26.63 (d, J = 14 Hz), 27.95 (dd, J = 23 及び 3 Hz), 29.73 (d, J = 14 Hz), 30.16 (dd, J = 13 及び 4 Hz), 31.70 (dd, J = 23 及び 9 Hz), 32.16 (dd, J = 23 及び 3 Hz); 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ -13.66 (br m), 18.35 (br m) 。
【0165】
実施例4.(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)の製造
【0166】
【化30】

【0167】
(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン(式5、66mg、0.25mmol)のTHF(5mL)溶液を、[Rh(COD)]BF(102mg、0.25mmol)のMeOH(10mL)溶液へ、攪拌しながら20℃で加えた。添加後、反応混合物を1時間攪拌し、溶媒を真空下で除去すると、赤色固形物を得た。生成物の温THFからの再結晶により、(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23、89mg、64%)を赤色結晶性生成物として得た。[α]24=+52.4°(c0.9、MeOH);1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 5.63 - 5.51 (m, 2H), 5.11 (br s, 2H), 3.48 - 3.328 (m, 1H), 3.14 (dt, J = 17 及び 10 Hz, 1H), 2.49 - 2.25 (m, 4H), 2.21 - 2.09 (m, 4H), 1.69 (d, J = 9 Hz, 3H), 1.39 (d, J = 14 Hz, 9H), 1.33 (d, J = 14 Hz, 9H), 1.13 (d, J = 16 Hz, 9H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 100.20 (dd, J = 9 及び 6 Hz), 97.70 (dd, J = 9 及び 6 Hz), 92.95 (t, J = 8 Hz), 92.27 (d, J = 8 Hz), 37.68 (m), 36.04 (d, J = 9 Hz), 32.54 (m), 31.48 (s), 30.94 (s), 30.09 (d, J = 5 Hz), 29.81 (d, J = 5 Hz), 29.32 (s), 29.16 (s), 26.57 (d, J = 5 Hz), 9.58 (d, J = 21 Hz); 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ -3.97 (dd, J = 126 及び 56 Hz), -29.36 (dd, J = 126 及び 56 Hz). 元素分析:C21H42B1F4P2Rh1として計算値: C, 46.18; H, 7.75. 実測値: C, 45.66; H, 7.19 。
【0168】
実施例5〜9.(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)を使用する、プロキラル基質(式3)の不斉水素化を経たキラル化合物の製造
【0169】
【化31】

【0170】
表3は、キラル触媒前駆体、(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)を使用した不斉水素化を経て製造されたキラル生成物(式2)の基質(式3)、ee及び絶対立体化学配置を列挙している。表3の各エントリーについて、触媒前駆体(0.01mmole)を、レクチャーボトルへの連結に必要な付属品を備えたGriffin−worden圧力容器中の、脱気したMeOH(1mL)に溶解した。基質(1mmole)を最初にMeOH(4mL)に溶解し、次ぎにシリンジを経て、触媒−MeOH溶液へ搬送した。容器を封じ、50psiHに加圧した。反応完了までの時間は、Hガス取り込みの停止により決定した。
【0171】
【表5】

【0172】
表3に示した反応の各々について、鏡像体過剰率は、キラルGC又はキラルHPLCで決定した。N−アセチルアラニン(実施例5)及びN−アセチルフェニルアラニン(実施例6)のeeを決定するため、各化合物をトリメチルシリルジアゾメタンで処理して、その対応するメチルエステルに変換し、それを各々、実施例7又は実施例8に提供したように分析した。絶対立体化学配置は、旋光度を文献値と比較することにより決定した:(S)−N−アセチルアラニンメチルエステル[α]20=−91.7(c2、HO)、J. P. Wolf III & C. Neimann, Biochemistry 2:493 (1963) ;(S)−N−アセチルフェニルアラニンメチルエステル[α]20=+16.4°(c2、MeOH)、B. D. Vineyard et al., J. Am. Chem. Soc. 99:5946 (1997) ;(S)−N−アセチルシクロヘキシルグリシンメチルエステル[α]20=−4.6°(c0.13、EtOH)、M. J. Burk et al., J. Am. Chem. Soc. 117:9375 (1995) 。
【0173】
【表6】

【0174】
実施例10〜13.(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)を使用する、プロキラル基質(式24)の不斉水素化を経たキラルプレガバリン前駆体(式25)の製造
【0175】
【化32】

【0176】
表5は、3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エン酸t−ブチルアンモニウム塩(式24)の不斉水素化を経た、(S)−3−シアノ−5−メチル−ヘキサン酸t−ブチルアンモニウム塩(式25)の製造についての、触媒(又は触媒前駆体)、基質濃度(MeOH中、w/w%)、s/c、反応温度、H圧、完了時間、及びeeを列挙している。表5の各エントリーについて、基質(式24、100g、442mmole)を、空気中で秤量して水素化ボトル内へ加えた。水素化ボトルは次ぎにグローブボックス([O]<5ppm)へ移した。基質を溶解するため、脱気したMeOH(500mL)を基質に加えた。必要とされる量の触媒前駆体−−(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)又は(R,R)−Rh−Me−DuPhos−−を基質溶液に加えた。水素化容器を封じ、50psiHに加圧し、TEFLON(登録商標)被覆磁石で激しく攪拌した。反応の圧力は50psiHに維持した。反応完了までの時間は、Hガス取り込みの停止により測定した。
【0177】
鏡像体過剰率を決定するため、プレガバリン前駆体(式25及びその鏡像体)をその場で、1N HClで酸性化した。有機構成要素をMeCl内に抽出した。MgSOで乾燥後、揮発物を真空下で除去した。カルボン酸をトリメチルシリルジアゾメタンで処理して、その対応するメチルエステルに変換し、引き続いてそれを、キャピラリーGC(Astec GTA(30m)、140℃等温、Rt=8.8分、St=9.5分)を使用して分析した。キラルプレガバリン前駆体の絶対配置は、S−配置を有する標準試料と溶離の順序を比較することにより決定した。
【0178】
実施例14.2−(ジメチル−ホスフィノチオイル)−2−メチル−プロパン(式27)の製造
【0179】
【化33】

【0180】
ブランケット下、ジクロロ−t−ブチル−ホスフィン(式26、10.0g、62.9mmol)をTHF(100mL)に溶解し、生じた溶液を0℃に冷却した。MeMgBr(16.5g、138mmol)を、シリンジを通して10分以上かけて加えた。添加は発熱性であった。反応物をRTまで温め、次ぎに硫黄(2.22g、69.2mmol)を、一度に加えると、熱の発生を伴った。1時間撹拌後、反応物を標準水性後処理にかけた。ヘプタンからの生成物の再結晶で、2−(ジメチル−ホスフィノチオイル)−2−メチル−プロパン(式27、8.0g、収率85%)を得た。
【0181】
実施例15.2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン(式14)の製造
【0182】
【化34】

【0183】
フラスコにジイソプロピルアミン(74.2g、102.8mL、mmol)及びTHF(100mL)を加え、アルゴン下、−10℃に冷却した。この溶液に、0℃より低い温度を維持しながら、滴下ロートを通して、n−BuLi(44.8g、280mL、700mmol)を加えた。生じたLDA溶液に、アルゴン下及び滴下ロートを通して、THF(300mL)に溶解した2−(ジメチル−ホスフィノチオイル)−2−メチル−プロパン(式27、50.07g、333.3mmol)を加えた。添加の間、温度を−5℃より低く維持した。この溶液に、アルゴン下及び滴下ロートを通して、THF(80mL)に溶解したクロロ−ジ−t−ブチルホスフィン(60.2g、333mmol)を加え、その間、温度を−3℃より低く維持した。反応混合物を−10℃で1時間攪拌し、アルゴン下、温度を−5℃より低く維持しながら、6N HCl(290mL)で反応を停止させた。添加後、pHは約2であった。硫黄 (11.8g、367mmol)を一度に加え、反応混合物を冷却することなく、一夜攪拌した。有機層を分離し、6N HCl、次ぎに蒸留したHOで洗浄した。水層をEtOAcで抽出した。有機層を合わせ、食塩水で洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、そして真空下で揮発分を除去した。残渣を40℃で、IPA(60mL)中のスラリーとし、5℃に冷却した。固形物を集め、IPAで3回洗浄し、次ぎにRTで真空下、一夜乾燥させた。この手順により、2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン(式14)を、白色固形物として得た(64.6g、収率59%)。
【0184】
実施例16.(R)−及び(S)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン(式28及び29)の製造
【0185】
【化35】

【0186】
2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン(式14)のR−及びS−鏡像異性体(各々、式28及び29)は、下記表5に示した、キラル分取カラム及び条件を使用して、HPLCにより分離した。表5に示したように、HPLCはまた、キラル純度及び化学純度を調べるためにも使用した。
【0187】
【表7】

【0188】
実施例17.(S)−(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム ジ−トリフレート(式30)の製造
【0189】
【化36】

【0190】
(S)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン(式29、5.10g、15.6mmol)を1,2−ジクロロエタン(50mL)に溶解した。メチル トリフレート(7.69g、46.9mmol)を溶液に加えた。反応混合物をアルゴンでガスシールし、RTで攪拌した。10分後、MSは、モノメチル化生成物のみを示した。反応物を一夜攪拌すると、沈殿(ジメチル化生成物)が形成された。固形物を集め、1,2−ジクロロエタンで3回洗浄し、RTにて、真空オーブン中で乾燥させると、乾燥後、(S)−(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム ジ−トリフレート(式30)を白色固形物として得た(6.90g、収率67%)。
【0191】
実施例18.(R)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジボラン(式21)の製造
【0192】
【化37】

【0193】
(S)−(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム ジ−トリフレート(2.005g、3.063mmol)をTHF(25mL)中でスラリーとした。氷浴を使用し、アルゴン下、反応混合物を0℃に冷却した。LiBH(0.400g、18.4mmol)を、温度を5℃より低く維持しながら、滴下ロートを通して加えた。添加の間、ガス発生が観察された。添加後、氷浴を除去し、反応物をRTで一夜攪拌した。HNMRは、いくらかの出発材料が残っていることを示した。追加のLiBH(3ml)を加えた。ガス発生又は発熱は、観察されなかった。反応混合物を一夜攪拌した後は、HNMRにより反応が完了したと見なされた。反応溶液を氷浴中で冷却し、1N HCl(15mL)で反応を停止させた。激しいガスの発生が観察された。EtOAcを攪拌しながら加えた。有機層を分離し、1N HCl及びHOで洗浄した。水層をEtOAcで抽出した。合わせた有機層を、食塩水で洗浄し、MgSOで乾燥し、濾過し、そして真空下で除去すると、(R)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジボラン(式21、0.492g、収率55%)を得た。鏡像体過剰率は、上記表2に記載した分析法を使用して決定した:ee>98.7%;mp=150−152℃;元素分析:C14H38B2P2 として計算値 : C, 57.98; H, 13.21. 実測値: C, 57.64; H, 13.01 。
【0194】
実施例19.(R)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジ−(クロロボラン)(式31)の製造
【0195】
【化38】

【0196】
(R)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジボラン(式21、200g、0.690mmol)を、#15ACEねじ山を備えた厚壁チューブに入れた。チューブに、エチルエーテル(6mL)に分散した2M HCl(0.438g、12mmol)を加えた。アルゴンをヘッドスペースに吹き付け、TEFLON(登録商標)ガスケットを備えた#15AC栓でチューブを封じた。チューブの内容物を85℃に12時間加熱し、次ぎにRTまで冷却すると、(R)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジ−(クロロボラン)(式31)を白色固形物として得た。反応はHガスを発生するので、反応の間及び後、チューブの過度の加圧を防止するように注意した。ピペットで溶媒を除去し、固形物をエチルエーテルで3回摩砕した。固形物を真空下で乾燥すると、白色生成物(0.222g、収率90%)を得た。表題化合物は吸湿性であるので、空気との接触を避け、生成物は、使用するまで、真空下又はグローブボックスで保存した。
【0197】
実施例20.(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)の製造
【0198】
【化39】

【0199】
(R)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−ジ−(クロロボラン)(式31、179mg、0.5mmol)をMeOH(5mL)に溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、EtN(505mg、5.0mmol)を滴加した。添加後、混合物を20℃まで温め、そして30分攪拌した。真空下でMeOHを除去し、残渣をヘキサン(3x20mL)で抽出した。有機層を合わせ、濾過し、濃縮すると、(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン(式5、66mg)を得た。31P&HNMRは小さな不純物ピークを示した。キラルリガンド(式5)をTHF(5mL)に溶解し、[Rh(COD)]BF(102mg、0.25mmol)のMeOH(10mL)溶液を、RTで攪拌しながら滴加した。添加後、反応混合物を1時間攪拌した。真空下で溶媒を除去すると、赤色固形物を得た。温THFからの固形物の再結晶は、結晶性生成物を与えた。結晶を5:1ヘキサン/ジエチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させると、(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23、89mg、31からの収率48%)。[α]24=+52.4°(c0.9、MeOH);元素分析:C21H42B1F4P2Rh1としての計算値:C, 46.18; H, 7.75. 実測値:C, 45.66; H, 7.19 。
【0200】
実施例21.(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン(式5)の製造
【0201】
【化40】

【0202】
ヘキサクロロジシラン(2.0g、7.5mmol)を、(S)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン(式29、0.5g、1.5mmol)の脱気トルエン(5mL)溶液に、シリンジを通して加えた。攪拌しながら、溶液を80℃で3時間加熱すると、黄色沈殿が形成した。次ぎに混合物を0℃に冷却し、攪拌しながら6.5N NaOH水溶液(8mL)を徐々に加えることにより反応を停止させ、その間、反応物の温度は70℃より低く維持する。NaOH添加後、反応混合物が透明に変わるまで、混合物を50℃で1時間攪拌した。分液ロート中で有機層を分離し、水相をジエチルエーテル(2x15mL)で洗浄した。有機層を合わせ、MgSOで乾燥させ、濾過し、そして真空下で濃縮すると、(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン(式5)を無色油状物として得た(0.25g、収率64%)。遊離ホスフィンは、さらに精製することなく、ロジウム触媒形成工程(実施例22)で直接使用した。遊離ホスフィン(式5)の製造を、2.2gの出発材料(式29)、5.0gの出発材料、及び10.0gの出発材料へスケールアップし、各々、82%、80%及び98%の収率を生じた。
【0203】
実施例22.(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)の製造
(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン(式5、0.32g、1.2mmol)の脱気THF(5mL)溶液を、[Rh(COD)]BF(0.49g、1.2mmol)の脱気MeOH(10mL)溶液に、攪拌しながら、1mL/分の速度及びRTで滴加した。褐色から赤色へ色が変化した。添加後、混合物を1時間攪拌し、真空下で濃縮した。残渣を脱気THF(5mL)とともに攪拌し、次ぎに濾過した。濾液を1:1ジエチルエーテル/THF(2x5mL)で洗浄し、次ぎに真空下で乾燥させると、オレンジ色の粉末状の固形物、(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23、0.5g、収率75%)を得た。ロジウム錯体(式23)の製造を、1.51gの出発材料(式5)、3.27gの出発材料、及び8.15gの出発材料へスケールアップし、各々、87%、92%及び91%の収率を生じた。
【0204】
実施例23〜46.(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)を使用した、プロキラルオレフィン(式33)の不斉水素化を経たキラル化合物(式32)の製造
【0205】
【化41】

【0206】
表6は、キラル触媒前駆体、(S)−(+)−(2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン)−(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート(式23)を使用した、不斉水素化を経て製造されたキラル生成物(式32)の基質(式33)及びそれらの二重結合立体化学配置、水素圧、溶媒、ee及び絶対立体化学配置を列挙している。表6の各々のエントリーについて、触媒前駆体(実施例23〜45、0.005mmol;実施例46、0.025mmol)及び基質(0.50mmol、0.2M)を、Griffin−Worden圧力容器中の溶媒(2.5mL)に溶解し、それを封じ、所望のHの圧力に加圧した。H取り込みが停止するまで(キャピラリーGCで示されるように、実施例23〜45については15分未満;実施例46については6時間)、混合物は、PTFE被覆磁石を用い、25℃で激しく攪拌した。ボトル中のH圧を続いて放出し、反応混合物を、キラルGCで分析し、生成物のパーセント変換率及び鏡像体過剰率を提供した。
【0207】
【表8】

【0208】
【表9】

【0209】
各Z−及びE−β−アセトアミド−β−置換アクリレート(式33)は、適切なβ−ケトエステルから得た。必要なβ−ケトエステル(24mmol)及びNHOAc(9.2g、120mmol)のMeOH(30mL)溶液を、20℃で3日間攪拌した。溶媒を蒸発させた後、クロロホルム(50mL)を残渣に加えると、白色固形物を得、それを濾過してクロロホルム(2x50mL)で洗浄した。合わせた濾液を、水及び食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を蒸発させると、β−アミノ−β−置換アクリレートを得た。β−アミノ−β−置換アクリレートのTHF(24mL)溶液に、ピリジン(12mL)及び無水の無水酢酸(36mL)を加えた。混合物を18時間還流した。混合物を次ぎにRTまで冷却し、揮発分を蒸発させた。生じた残渣をEtOAc(40mL)に溶解すると溶液を与え、それを水(20mL)、1N HCl(20mL)、1M KHPO(20mL)、飽和NaHCO(20mL)及び食塩水(30mL)で洗浄した。溶液を硫酸ナトリウムで乾燥させ、残った溶媒を減圧下で蒸発させた。5:1及び3:1ヘキサン/酢酸エチル移動相によるシリカゲルでのファーストクロマトグラフィーにより、各々、β−アセトアミド−β−置換アクリレートのZ−及びE−異性体を得、それはHNMRデータの比較により確認した。
【0210】
表7は、表6に示した反応からの生成物の、立体化学配位を決定するために使用した方法論の詳細を提供する。鏡像体過剰率(ee)は、20psiのヘリウムキャリーガスを使用する、キラルGCにより決定した。表7において、「カラムA」はCP Chirasil-Dex CB (30mx0.25mm)を指し、そして「カラムB」はChiralDex-gamma-TA (25mx0.25mm)を指す。ラセミ生成物は、50psiのH下、RTで2時間、MeOH中の10%PD/Cにより触媒された、対応するエナミンの水素化により製造した。
【0211】
絶対立体化学配置は、G. Zhu et al., J. Org. Chem. 64:6907-10 (1999) に与えられている文献値と、旋光度の符号を比較することにより決定した;メチル 3−アセトアミドブタノエート[α]20=+8.09(c1.24、MeOH)、文献 +21.4(c1.4、CHCl);エチル 3−アセトアミドヘキサノエート[α]20=+18.26(c1.02、MeOH)、文献、エチルエステル +42.8(c1.86、CHCl);エチル 3−アセトアミド−4−メチルペンタノエート[α]20=+9.05(c1.15、MeOH)、文献 エチルエステル +52.8(c1.2、CHCl);エチル 3−アセトアミド−5−メチルヘキサノエート[α]20=+24.44(c0.95、MeOH)、文献 +44.6(c1.56、CHCl);メチル 3−アセトアミド−4,4−ジメチルペンタノエート[α]20=+4.86(c0.93、MeOH)、文献、報告なし;エチル 3−アセトアミド−3−フェニルプロパノエート[α]20=−47.66(c0.91、MeOH)、文献 −40.5(c2.15,MeOH)。
【0212】
【表10】

【0213】
本明細書及び付随する特許請求の範囲で使用される、「a」、「an」及び「the」のような単数形の冠詞は、文脈が明瞭に示さなければ、一つの目的語又は複数の目的語を指すことに注意すべきである。それ故、例えば、「a compound」を含んでいる文章の指示は、単一の化合物、又は二つ又はそれより多くの化合物を含むことができる。
【0214】
上記の記述は、例示でありそして限定するものではないことが意図されていることを理解すべきである。上記の記述を読むと、多くの態様が当業者には明らかになるであろう。それ故、本発明の範囲は、上記の記述に関して決定されているのではなく、代わりとして、付随する特許請求の範囲、ならびにこうした特許請求の範囲が資格を与えた均等物の最大限の範囲に関して決定されるべきである。特許、特許出願及び出版物を含む、全ての論文及び参照文献の開示は、その全体及び全ての目的について、本明細書において援用される。
【図面の簡単な説明】
【0215】
【図1】図1は、Rhのような遷移金属に結合された場合の、C対称ビスホスフィンリガンド(例えば、BisP)の空間的配置を描いている。
【図2】図2は、Rhのような遷移金属に結合された場合の、C対称ビスホスフィンリガンド(例えば、(t−ブチル−メチル−ホスファニル)−(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−エタン)の空間的配置を描いている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式2
【化1】

(式中、
は、C1〜6アルキル、C1〜7アルカノイルアミノ、C1〜6アルコキシカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニルアミノ、アミノ、アミノ−C1〜6アルキル、C1〜6アルキルアミノ、シアノ、シアノ−C1〜6アルキル、カルボキシ、又は−CO−Yであり;
は、C1〜7アルカノイル、C1〜6アルコキシカルボニル、カルボキシ、又は−CO−Yであり;
及びRは、独立して、水素原子、C1〜6アルキル、C3〜7シクロアルキル、アリール、アリール−C1〜6アルキルであるか、又は、R及びRが一緒になってC2〜6アルカンジイルであり;
Xは、−NH−、−O−、−CH−、又は結合であり;そして
Yは、カチオンである)
の化合物の所望の鏡像異性体、又はそれらの薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物を製造する方法であって;
式3
【化2】

の化合物を水素とキラル触媒存在下で反応させて、式2の化合物を得ること;及び
場合により、式2の化合物を、薬学的に許容できる塩、複合体、溶媒和物又は水和物へ変換すること;
を含んでなり、該キラル触媒がリン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンドを含んでなり、該キラルリガンドが式4
【化3】

により表される構造を有しており、式3中のR、R、R、R及びXが式2で定義した通りである方法。
【請求項2】
式1
【化4】

の化合物、又はそれらの薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物を製造する方法であって;
式6
【化5】

の化合物、式6の化合物の対応するZ−異性体、又はそれらの混合物を、キラル触媒存在下、水素と反応させて、式7
【化6】

(式中、Rはカルボキシ基又は−CO−Yであり、Yはカチオンである)
の化合物を得ること、ここにおいて、該キラル触媒は、リン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンドを含んでなり、該キラルリガンドは、式4
【化7】

により表される構造を有している;
式7の化合物のシアノ部分を還元して、式8
【化8】

の化合物を得ること;
場合により、式8の化合物を酸で処理して式1の化合物を得ること;及び
場合により、式8又は式1の化合物を、薬学的に許容できる塩、複合体、溶媒和物又は水和物へ変換すること;
を含んでなる方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、式6の化合物が3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エン酸の塩基付加塩である方法。
【請求項4】
請求項3の方法であって、式6の化合物が3−シアノ−5−メチル−ヘキサ−3−エノエート・t−ブチル−アンモニウム塩である方法。
【請求項5】
リン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンドを含んでなる触媒又はプレ触媒を製造する方法であって、該キラルリガンドが式4
【化9】

により表される構造を有しており:
式17
【化10】

(式中、RはBH、硫黄又は酸素である)
の化合物から置換基Rを除去して、式4の化合物を得ること;及び
式4の化合物を遷移金属に結合させること;
を含んでなる方法。
【請求項6】
リン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンドを含んでなる触媒又はプレ触媒であって、該キラルリガンドが式4
【化11】

により表される構造を有している触媒又はプレ触媒。
【請求項7】
式32
【化12】

(式中、
は、C1〜6アルキル、C1〜7アルカノイルアミノ、C1〜6アルコキシカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニルアミノ、アミノ、アミノ−C1〜6アルキル、C1〜6アルキルアミノ、シアノ、シアノ−C1〜6アルキル、カルボキシ、又は−CO−Yであり;
は、C1〜7アルカノイル、C1〜6アルコキシカルボニル、カルボキシ、又は−CO−Yであり;
及びRは、独立して、水素原子、C1〜6アルキル、C3〜7シクロアルキル、アリール、アリール−C1〜6アルキルであるか、又は、R及びRが一緒になってC2〜6アルカンジイルであり;
Xは、−NH−、−O−、−CH−、又は結合であり;そして
Yは、カチオンである)
の化合物の所望の鏡像異性体、又はそれらの薬学的に許容できる複合体、塩、溶媒和物又は水和物を製造する方法であって;
式33
【化13】

の化合物を水素とキラル触媒存在下で反応させて、式32の化合物を得ること;及び
場合により、式32の化合物を、薬学的に許容できる塩、複合体、溶媒和物又は水和物へ変換することを含んでなり;
該キラル触媒がリン原子を介して遷移金属に結合したキラルリガンドを含んでなり、該キラルリガンドが式4
【化14】

により表される構造を有しており、式3中のR、R、R、R及びXが式2で定義した通りである方法。
【請求項8】
請求項1〜3、および7のいずれか一項の方法であって、Yが、1族金属イオン、2族金属イオン、第一アンモニウムイオン又は第二アンモニウムイオンである方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項の方法であって、遷移金属がロジウムである方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項の方法であって、キラルリガンドが式5
【化15】

により表される構造及び約95%又はそれ以上のeeを有している鏡像異性体を含んでなる方法。
【請求項11】
式4
【化16】

の化合物の所望の鏡像異性体を製造する方法であって:
式9
【化17】

の化合物を式10
【化18】

の化合物と反応させて、式11
【化19】

(式中、Xは脱離基であり、そしてRはBH、硫黄又は酸素である)
の化合物を得ること、ここにおいて、式9の化合物は、式10の化合物との反応に先だって、塩基で処理され;
式11の化合物を、ボラン、硫黄又は酸素と反応させて、式12
【化20】

(式中、Rは、Rと同じであるか又は異なっており、BH、硫黄又は酸素である)
の化合物を得ること;及び
式12の化合物からR及びRを除去して、式4の化合物を得ること、ここにおいて、R及びRの除去前又は後に、式12の化合物を別々の鏡像異性体に分割すること;
含んでなる方法。
【請求項12】
請求項11の方法であって、所望の鏡像異性体がR−絶対立体化学配置を有する方法。
【請求項13】
請求項11の方法であって、R及びRを除去することが、式13
【化21】

の化合物をアミン又は酸と反応させて、式4の化合物を得るか;又は
及びRが各々硫黄又は酸素であるときに式12の化合物を還元剤で処理するか;又は
式14
【化22】

の化合物をROTfと反応させて、式15
【化23】

(式中、RはC1〜4アルキルである)の化合物を得;
式15の化合物と水素化ホウ素を反応させて、式13
【化24】

の化合物を得;そして
式13の化合物をアミン又は酸と反応させて、式4の化合物を得るか;又は
式13の化合物をHClと反応させて、式15
【化25】

の化合物を得;そして
式16の化合物をアミン又は酸と反応させて、式4の化合物を得ること;
を含んでなる方法。
【請求項14】
式19
【化26】

(式中、R10及びR11は、独立して、BH、BHCl、硫黄、酸素、C1〜4アルキルチオであるか、又は存在しない、ただしR10とR11とが両方ともがBHであることはない)
の化合物。
【請求項15】
請求項14の化合物であって:
2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン;
(R)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン;
(S)−2−{[(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−メチル]−メチル−ホスファニル}−2−メチル−プロパン;
2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン;
(R)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン;
(S)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノチオイルメチル)−メチル−ホスフィノチオイル]−2−メチル−プロパン;
2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノイルメチル)−メチル−ホスフィノイル]−2−メチル−プロパン;
(R)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノイルメチル)−メチル−ホスフィノイル]−2−メチル−プロパン;
(S)−2−[(ジ−t−ブチル−ホスフィノイルメチル)−メチル−ホスフィノイル]−2−メチル−プロパン;
(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム;
(R)−(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム;又は
(S)−(ジ−t−ブチル−メチルチオ−ホスホニウミル−メチル)−t−ブチル−メチル−メチルチオ−ホスホニウム:
から選択される化合物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−528893(P2007−528893A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502434(P2007−502434)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【国際出願番号】PCT/IB2005/000642
【国際公開番号】WO2005/087370
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(503181266)ワーナー−ランバート カンパニー リミテッド ライアビリティー カンパニー (167)
【Fターム(参考)】