説明

CBH1相同体及び変異体CBH1セルラーゼ

【課題】セロビオヒドロラーゼI相同体及び変異体の提供。
【解決手段】ヒポクレアjecorina Cel7A(元はトリコデルマ・リーゼイ・セロビオヒドロラーゼIまたはCBH1)の多数の相同体及び変異体、これらをエンコードする単離核酸、及びこれらを生成する方法。当該相同体及び変異体セルラーゼはファミリー7Aのグリコシル加水分解酵素のアミノ酸配列を有し、1以上のアミノ酸残基が置換及び/または欠失されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2003年3月21日に出願された米国仮出願番号60/456,368号(代理人整理番号、GC793P)及び2003年3月27日に出願された米国仮出願番号60/458,696号(代理人整理番号、GC793−2P)に基づく優先権を主張するものであり、これらすべてをここに引用する。
【0002】
連邦政府後援による研究開発のもと行われた発明に対する権利に関する陳述
この研究の一部は、米国エネルギー省の元契約番号DE−AC36−99GO10337の下、再生可能エネルギー研究所の下請け番号ZCO−0−30017−01により資金援助されたものである。従って、米国政府は本発明における特定の権利を有し得る。
【0003】
発明の分野
本発明はヒポクレア(Hypocrea)jecorina(トリコデルマ・リーゼイ)CBH1の相同体及び変異体に関する。本発明はセロビオヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをエンコードする単離核酸配列に関する。また、本発明は当該核酸配列を含む核酸構築体、ベクター、及び宿主細胞、並びに組換え変異体CBHポリペプチド及び新規なH.jecorina CBH1の相同体を生成する方法に関する。
【表1】







【0004】
発明の背景
セルロース及びヘミセルロースは光合成により生成される最も豊富な植物材料である。これらは、細菌、酵母及び真菌などの多数の微生物により分解及びエネルギー源として使用でき、これらの微生物はポリマー基質を単糖類に加水分解できる細胞外酵素を生成する(Aro et al.、2001)。非再生材料源の限界が近づいているため、セルロースが主な再生可能エネルギー源となる可能性は非常に大きい(Krishna et al.、2001)。生物プロセスを通じたセルロースの効果的な活用は食料、飼料及び燃料不足の克服手段のひとつである(Ohmiya et al.、1997)。
【0005】
セルラーゼはセルロース(β−1,4−グルカンまたはβ−D−グルコシド結合)を加水分解してグルコース、セロビオース、セロオリゴ糖等の形成を生じる酵素である。セルラーゼは従来から3つの主な分類に分けられる:エンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)(“EG”)、エキソグルカナーゼまたはセロビオヒドロラーゼ(EC 3.2.1.91)(“CBH”)、及びβ−グルコシダーゼ([β]−D−グルコシドグルコヒドロラーゼ;EC 3.2.1.21)(“BG”)(Knowles et al.、1987;Shulein、1988)。エンドグルカナーゼは主にセルロース繊維のアモルファス部分で作用するのに対し、セロビオヒドロラーゼは結晶セルロースを分解することもできる(Nevalainen and Penttila、1995)。従って、結晶セルロースを効果的に可溶化するために、セルラーゼ系中にセロビオヒドロラーゼの存在が必要である(Suurnakki、et al.2000)。β−グルコシダーゼはセロビース、セロ−オリゴ糖、及びその他のグルコシド由来D−グルコース単位の遊離に作用する(Freer、1993)。
【0006】
セルラーゼは大量の細菌、酵母及び真菌により生成されることが知られる。特定の真菌はセルロース結晶を分解できる完全なセルラーゼ系を生成し、発酵により大量のセルラーゼが容易に生成される。サッカロミセス・セレビシェなど多くの酵母がセルロースの加水分解能を有さないので、糸状菌は特別な役割を担う。例えば、Aro et al.、2001;Aubert et al.、1988;Wood et al.、1988及びCoughlan et al.を参照されたい。
【0007】
CBH、EG及びBGの真菌セルラーゼ分類はさらに、各分類内で複数の構成に拡大できる。例えば、複数のCBH、EG及びBGは、2つのCBH(すなわち、CBHI及びCBHII)、少なくとも8つのEG(すなわち、EGI、EGII、EGIII、EGIV、EGV、EGVI、EGVII、及びEGVIII)及び少なくとも5つのBG(すなわち、BG1、BG2、BG3、BG4、及びBG5)に関する公知遺伝子を含むトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)などの多数の真菌源から単離される。
【0008】
結晶セルロースをグルコースに効果的に変換するためには、結晶セルロースの加水分解にほとんど効果がない単離成分とともに、CBH、EG及びBGの各分類由来の成分を含む完全なセルラーゼ系が必要である(Filho et al.、1996)。それぞれの分類由来のセルラーゼ成分間で相乗関係が観測されている。特に、EG型セルラーゼ及びCBH型セルラーゼは相乗的に相互作用してより効果的にセルロースを分解する。例えば、Wood、1985を参照されたい。
【0009】
セルラーゼは洗剤組成物の洗浄能力を高めるため、柔軟剤としての使用のため、綿織物の手触り及び外観を向上させるため等の使用で、織物処理に有用であることが当業界で公知である(Kumar et al.、1997)。
【0010】
改善された洗浄性能を有するセルラーゼ含有洗剤組成物(米国特許第4,435,307号;GB出願番号第2,095,275号及び第2,094,826号)及び織物の手触り及び外観を改善させるための織物処理での使用(米国特許第5,648,263号、第5,691,178号及び第5,776,757号;GB出願番号第1,358,599号;The Shizuoka Prefectural Hammamatsu Textile Industrial Research Institute Report、第24巻、第54〜61頁、1986)が開示されている。
【0011】
従って、真菌及び細菌内で生成されるセルラーゼは著しい注目を集めている。特に、トリコデルマ種の発酵(例えば、トリコデルマ・ロンギブラチアタム(longibrachiatum)またはトリコデルマ・リーゼイ)は結晶形態のセルロースを分解できる完全なセルラーゼ系を生成することが示されている。
【0012】
セルラーゼ組成物については従来から開示されているが、家庭用洗剤、ストーンウォッシュ組成物または洗濯用洗剤等に使用するための新規で改善されたセルラーゼ組成物の必要性が依然としてある。改善された性能を示すセルラーゼは特に関心が高い。
【0013】
発明の概要
本発明は、ここで所望のセルラーゼとして同定される、単離セルラーゼタンパク質、及び当該所望のセルラーゼをエンコードする核酸を提供する。当該所望のセルラーゼは、ヒポクレアjecorina由来の変異体CBH1、及びヒポクレア・シュワイニッチィ(schweinitzii)、ヒポクレア・オリエンタリス(orientalis)、トリコデルマ・プソイドコニンギー(pseudokoningii)またはトリコデルマkonilangbra由来の新規なCBH1からなる群より選択できる。
【0014】
変異体CBH1セルラーゼを提供し、ここで当該変異体は、ヒポクレアjecorina由来のCBH1における1以上の残基L6、S8、P13、Q17、G22、T24、Q27、T41、S47、N49、T59、T66、A68、C71、A77、G88、N89、A100、N103、A112、S113、L125、T160、Y171、Q186、E193、S195、C210、M213、L225、T226、P227、T232、E236、E239、G242、T246、D249、N250、R251、Y252、D257、D259、S278、T281、L288、E295、T296、S297、A299、N301、F311、L318、E325、N327、D329、T332、A336、S341、S342、F352、K354、T356、G359、D368、Y371、N373、T380、Y381、N384、V393、R394、V407、P412、T417、F418、G430、N436、G440、P443、T445、Y466、T478、A481及び/またはN490に対応する位置に置換または欠失を含む。
【0015】
第2の側面において、変異体CBH1は1以上の残基Q186(E)、S195(A/E)、E239S、G242(H/Y/N/S/T/D/A)、D249(K/L/Y/C/I/V/W/T/N/M)、E325(S/T)、T332(A/H/Y/L/K)及びP412(T/S/A)に対応する位置に置換を有する。
【0016】
第2の実施態様において、本発明はヒポクレア・オリエンタリスCBH1を提供する。
【0017】
第3の実施態様において、本発明はヒポクレア・シュワイニッチィCBH1を提供する。
【0018】
第4の実施態様において、本発明はトリコデルマkonilangbraCBH1を提供する。
【0019】
第5の実施態様において、本発明はトリコデルマ・プソイドコニンギーCBH1を提供する。
【0020】
本発明の他の実施態様において、本発明の所望のセルラーゼをエンコードする核酸を提供する。他の実施態様において、DNAはベクター内に含まれる。さらに他の実施態様において、ベクターは宿主細胞を形質転換するために用いる。
【0021】
本発明の他の実施態様において、本発明の所望のセルラーゼを生成する方法を提供する。該方法は所望のセルラーゼをエンコードする核酸で形質転換した宿主細胞を適当な培養基中、適当な条件下で培養して、所望のセルラーゼを生成する工程、及び生成された所望のセルラーゼを回収する工程を含む。
【0022】
本発明のさらに他の実施態様において、界面活性剤及び所望のセルラーゼを含む洗剤を提供する。本発明の1の側面において、該洗剤は洗濯または食器用洗剤である。本発明の第2の側面において、所望のCBH1セルラーゼをセルロース含有織物、特にストーンウォッシュまたはインディゴ染色デニムの処理に用いる。もしくは本発明のセルラーゼは飼料添加剤として、木材パルプ処理、及びバイオマスからグルコースへの還元に用いることができる。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、参照目的のみにより以下の定義及び実施例を用いて詳細を説明する。ここに引用する全ての特許及び文献は、当該特許及び文献内に開示される全ての配列も含めて、明示的にここに引用するものとする。
【0024】
特段に示す場合を除いて、ここで用いる全ての技術及び科学用語は、本発明の属する当業者にとって理解される意味と同じ意味を有する。Singleton、他、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(微生物学及び分子生物学の辞典)、第2版、John Wiley and Sons、New York(1994)、及びHale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology,Harper Perennial,NY(1991)は当業者に本発明で用いる多くの用語の一般的な辞書を提供するものである。ここに記載の方法及び物質に類似または同等のいかなる方法及び物質も本発明を実施及び試験する際に用いることができるが、好ましい方法及び物質を記載する。数値範囲は範囲を定める数字を含める。別に示す場合を除いて、それぞれ核酸は左から右に5’〜3’方向;アミノ酸配列は左から右にアミノからカルボキシ方向に記載する。実務者は特にSambrook et al.、1989、及びAusubel FM et al.、1993を当業界の定義及び用語のために参照できる。本発明は記載された特定の方法、手順及び試薬に限定されないことは、これらが種々多様であることから当然に理解される。
【0025】
ここに提供する表題は、明細書全体を参照することにより得られる本発明の種々の側面または実施態様を限定するものではない。従って、下記に定義する用語は明細書全体を参照することによりさらに十分に定義される。
【0026】
ここに引用する全ての文献は、本発明に関連し得る組成物及び方法を記載及び開示する目的のため参照することによりここに明示的に引用する。
【0027】
I.定義
“セルラーゼ”、“セルロース分解酵素” “セルラーゼ酵素”は細菌性または真菌性エキソグルカナーゼまたはエキソセロビオヒドロラーゼ、及び/またはエンドグルカナーゼ、及び/またはβ−グルコシダーゼを意味する。これらの3つの異なる種類のセルラーゼ酵素はセルロース及びその誘導体をグルコースに変換するために相乗的に作用する。
【0028】
多くの微生物はセルロースを加水分解する酵素を生成し、例えば木材腐朽菌トリコデルマ、土壌細菌Thermomonospora、バチルス、及びセルロモナス;ストレプトマイセス;及び真菌フミコーラ、アルペルギルス及びフサリウムなどがある。これらの微生物から作られる酵素は、セルロースをグルコースに変換するのに有用な3種の作用を有するタンパク質の混合物:すなわち、エンドグルカナーゼ(EG)、セロビオヒドロラーゼ(CBH)、及びβ−グルコシダーゼである。
【0029】
ここで用いる“所望のセルラーゼ”とは以下のいずれか1つを意味する:
a)本発明に従うヒポクレアjecorina由来の変異体CBH1;
b)H.オリエンタリス由来のCBH1相同体;
c)H.シュワイニッチィ由来のCBH1相同体;
d)T.konilangbra由来のCBH1相同体;
e)T.プソイドコニンギー由来のCBH1相同体、及び
f)ストリンジェントな条件下でa−eのいずれか1つをエンコードする核酸とハイブリダイズする核酸によりエンコードされるポリペプチド。
【0030】
ここで用いる“所望のセルラーゼ−エンコード核酸”は以下のいずれか1つを意味する:
a)本発明に従うヒポクレアjecorina由来の変異体CBH1をエンコードする核酸;
b)図3に示す配列を有するH.オリエンタリス由来のCBH1相同体をエンコードする核酸;
c)図5に示す配列を有するH.シュワイニッチィ由来のCBH1相同体をエンコードする核酸;
d)図7に示す配列を有するT.konilangbra由来のCBH1相同体をエンコードする核酸;
e)図9に示す配列を有するT.プソイドコニンギー由来のCBH1相同体をエンコードする核酸、及び
f)ストリンジェントな条件下で上述のa−eのいずれか1つにより提供される核酸のいずれか1つとハイブリダイズする核酸。
【0031】
“変異体”とは、アミノ酸配列において1以上の異なる部位で1以上のアミノ酸が置換した前駆体タンパク質(例えば、天然タンパク質)由来のタンパク質を意味する。酵素変異体の調製は、好ましくは天然タンパク質をエンコードするDNA配列を修飾し、該DNA配列を適当な宿主内に形質転換し、及び該修飾DNA配列を発現させて、誘導体酵素または酵素変異体を形成することにより達成する。本発明の変異体CBH1酵素は前駆体酵素アミノ酸配列と比較して変異したアミノ酸配列を含むペプチドを含み、変異体CBH1酵素は前駆体酵素の特徴的なセルロース分解性は保持するが、特定の側面において変異特性を有し得る。例えば、変異体CBH1酵素は増加したpH最適条件または増加した温度または酸化安定性を有し得るが、特徴的なセルロース分解活性は保持する。
【0032】
ここで用いる“遺伝子”の語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNA断片を意味し、コード領域の先行及び後の領域、例えば5’非翻訳(5’UTR)または“リーダー”配列及び3’UTRまたは“トレーラー”配列、及び個々のコード断片(エキソン)間の介在配列(イントロン)などを含んでも含まなくてもよい。
【0033】
本発明の“糸状菌”は真核微生物であり、Eumycotina細目の全ての糸状形態を含む(Alexopoulos,C.J.(1962)、Introductory Mycology(入門菌類学),New York:Wileyを参照)。これらの真菌はキチン、セルロース及びその他の複合多糖からなる細胞壁を有する栄養菌糸を特徴とする。本発明の糸状菌は形態学的、生理学的、及び遺伝学的に酵母とはっきりと区別される。糸状菌による栄養増殖は菌糸伸長によるものであり、炭素異化は偏性好気性である。対照的に、S.セレビシェなどの酵母による栄養増殖は単細胞性葉状体の発芽によるものであり、炭素異化は発酵性である。S.セレビシェは突出した、非常に安定な複相を有し、一方、複相は、例えばアスペルギルス及びニューロスポーラ(Neurospora)など糸状菌における減数分裂前のごく短期間だけに存在する。特定条件下で酵母は偽菌糸成長を示すが、このことにより酵母が糸状菌の定義内に入るということにはならないことが理解される。S.セレビシェは17の染色体を有し、一方、A.ニデュランス及びアカパンカビ(N.crassa)はそれぞれ8及び7の染色体を有する。S.セレビシェと糸状菌間のさらなる違いとして、S.セレビシェはアスペルギルス及びトリコデルマ・イントロンを処理できず、糸状菌の多くの転写制御因子を認識できない(Innis,M.A.他.(1985)Science,228,21−26)。
【0034】
核酸の一部に言及して用いる“異種”の語は、当該核酸が、通常は同じ関係において天然では見られない2以上のサブ配列を含むことを示す。例えば、当該核酸は通常、遺伝子組換えにより生成し、例えば新しい機能的核酸を作るために配置した関連性のない遺伝子から2以上の配列を有し、例えば、1の供給源からプロモーターを有し、他の供給源からコード領域を有する。同様に、異種タンパク質は同じ関係でお互いに天然では見られない2以上のサブ配列をいうことも多い(例えば、融合タンパク質)。
【0035】
“異種”核酸構築体または配列は、発現する細胞に天然ではない配列の一部を有する。制御配列に関して異種とは、発現が目下調節している同じ遺伝子を調節するために天然では機能しない制御配列(すなわち、プロモーターまたはエンハンサー)をいう。通常、異種核酸配列はそれが存在する細胞またはゲノムの一部に内生のものではなく、挿入、トランスフェクション、形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等により細胞に加えられたものである。“異種”核酸構築体は、天然細胞に見られる制御配列/DNAコード配列の組み合わせと同じまたは異なる制御配列/DNAコード配列の組み合わせを含む。
【0036】
ここで用いる“単離”または“精製”の語は、天然に結合する少なくとも1の成分から除去された核酸またはアミノ酸をいう。
【0037】
ここで用いる、“プロモーター”の語は下流遺伝子の転写に導くように作用する核酸配列をいう。プロモーターは通常、標的遺伝子が発現する宿主細胞に適したものである。プロモーターはその他の転写及び翻訳調節核酸配列(“制御配列”とも呼ぶ)と一緒に所定の遺伝子を発現するために必要である。通常、転写及び翻訳調節配列は、限定されないが、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列、翻訳開始及び停止配列及びエンハンサーまたは活性化配列を含む。
【0038】
通常、“プロモーター配列”は発現のために特定の糸状菌に認識されるDNA配列である。“構造”プロモーターはほとんどの環境及び発育条件下で活性なプロモーターである。“誘導性”プロモーターは環境または発育調整下で活性なプロモーターである。本発明で有用な誘導性プロモーターの例は、ジェンバンクにアクセッション番号D86235で寄託されているT.リーゼイ(H.jecorina)cbh1プロモーターである。他の側面において、プロモーターはH.jecorina由来のcbhIIまたはキシラナーゼプロモーターである。
【0039】
典型的なプロモーターは、A.アワモリまたはA.ニガーグルコアミラーゼ遺伝子(Nunberg,J.H.他(1984)Mol.Cell.Biol.4、2306−2315;Boel,E.他(1984)EMBO J.3,1581−1585)、Mucor miehei カルボキシル・プロテアーゼ遺伝子、ヒポクレアjecorina セロビオヒドロラーゼI遺伝子(Shoemaker,S.P.他(1984)欧州特許出願番号第EPO0137280A1)由来のプロモーター、A.ニデュランスtrpC遺伝子(Yelton,M.他(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81,1470−1474;Mullaney,E.J.他(1985)Mol.Gen.Genet.199,37−45)、A.ニデュランスalcA遺伝子(Lockington,R.A.他(1986)Gene33、137−149)、A.ニデュランスtpiA遺伝子(McKnight,G.L.他(1986)Cell46,143−147)、A.ニデュランスamdS遺伝子(Hynes,M.J.他(1983)Mol.Cell Biol.3,1430−1439)、H.jocorina xln1遺伝子、H.jocorina cbh2遺伝子、H.jocorina egl1遺伝子、H.jocorina egl2遺伝子、H.jocorina egl3遺伝子、及びSV40早期プロモーターなどの高等真核プロモーター(Barclay,S.L.とE.Meller(1983)Molecular and Cellular Biology 3,2117−2130)を含む。
【0040】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に位置する場合、“動作可能に連結”する。例えば、分泌リーダー(leader)をエンコードするDNA、すなわちシグナルペプチドは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドのDNAに動作可能に連結し;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響する場合、コード配列に動作可能に連結し;またはリボソーム結合部位は、翻訳を促進するために位置する場合、コード配列に動作可能に連結する。通常、“動作可能に連結する”とは、連結DNA配列が隣接しており、及び分泌リーダーの場合、隣接し、かつリーディングフレーム内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は都合のよい制限部位で連結反応により達成される。そのような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチド・アダプタまたはリンカーを従来実務に従って用いる。従って、“動作可能に連結”の語は、核酸発現制御配列(例えば、プロモーター、転写因子結合部位配列)と第2の核酸配列間の機能的結合をいい、発現制御配列は第2の配列に対応する核酸の転写を目的とする。
【0041】
ここで定義する“キメラ遺伝子”または“異種核酸構築体”は、調節因子などを含む種々の遺伝子部分からなる非天然遺伝子(すなわち、宿主内に導入された遺伝子)をいう。宿主細胞を形質転換するためのキメラ遺伝子構築体は一般的に、異種タンパク質コード配列に動作可能に連結した、または選択マーカーキメラ遺伝子内で、形質転換細胞に抗生物質耐性を与えるタンパク質をエンコードする選択マーカー遺伝子に動作可能に連結した転写調節領域(プロモーター)からなる。宿主細胞内への形質転換のため、本発明の一般的なキメラ遺伝子は、構造性または誘導性の転写調節領域、タンパク質コード配列、及びターミネーター配列を含む。キメラ遺伝子構築体は、標的タンパク質の分泌を望む場合、シグナルペプチドをエンコードする第2のDNA配列も含むことができる。
【0042】
細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターに関して用いる“組換え体”の語は、該細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸またはタンパク質の挿入により、または天然核酸またはタンパク質の変異により修飾されたこと、または該細胞がそのように修飾された細胞由来であることを示す。従って、例えば、組換え細胞は当該細胞の天然(非組換え)型内では見られない遺伝子を発現し、または発現、または全く発現しない条件下で、通常は異常発現される天然遺伝子を発現する。
【0043】
“分泌シグナル配列”の語は、大ポリペプチドの構成要素として、ポリペプチドが合成される細胞の分泌経路から当該大ポリペプチドに導かれるポリペプチド(“分泌ペプチド”)をエンコードするDNA配列を示す。当該大ペプチドは普通は分割されて、分泌経路を通過する際に分泌ペプチドが取り除かれる。
【0044】
ここで用いる、“セルラーゼ調製物全体”及び“セルラーゼ組成物全体”の語句は交換可能に用いられ、天然及び非天然組成物の両方をいう。“天然”組成物は天然源により生成した組成物であり、1以上のセロビオヒドロラーゼ型、1以上のエンドグルカナーゼ型、及び1以上のβ−グルコシダーゼ成分を含み、これらの各成分は供給源より生じた比率で見られる。天然組成物はセルロース分解酵素が非修飾の微生物から生成したものであり、従って当該成分酵素の比率は天然微生物により生成したものから変更されていない。
【0045】
“非天然”組成物は、(1)天然比率または非天然、すなわち変更された比率で成分をセルロース分解酵素と混合;または(2)1以上のセルロース分解酵素を過剰発現または過少発現するように微生物を修飾;または(3)少なくとも1のセルロース分解酵素が欠失するように微生物を修飾することにより生成したこれらの組成物を包含する。
【0046】
“同等残基”は前駆体セルラーゼの三次構造レベルで相同性を測定することにより定義することもでき、その三次構造はX線結晶法により測定される。同等残基は、セルラーゼ及びヒポクレアjecorina CBHの特定アミノ酸残基の2以上の主鎖原子の原子座標が配列後、0.13nm以内、及び好ましくは0.1nmである残基として定義される(N上のN、CA上のCA、C上のC及びO上のO)。配置は、最良モデルを配向及び位置して、H.jecorina CBH1に対する問題のセルラーゼの非水素タンパク質原子の原子座標の最大重複を得た後に達成される。最良モデルは利用可能な最も高い解像度において実験回折データの最も低いR因子を与える結晶学モデルである。
【式1】
【0047】

H.jecorina CBH1の特定残基に機能的に類似した同等残基は、H.jecorina CBH1の特定残基の特徴とする、それに起因したタンパク質構造、基質結合または触媒を変異、修飾または寄与するような立体構造を採用するセルラーゼアミノ酸として定義される。さらに、これらは、所定残基の主鎖原子は相同位置の占有に基づいて同等性基準を満たさないかもしれなが、当該残基の少なくとも2つの側鎖原子の原子座標がH.jecorina CBHの対応側鎖原子が0.13nmである範囲内において、類似位置を占有するセルラーゼの残基(三次構造はX線結晶法により得る)である。
【0048】
“核酸分子”の語はRNA、DNA及びcDNA分子を含む。当然のことながら、遺伝コードの縮退の結果、CBH1など所定タンパク質をエンコードする複数のヌクレオチド配列が生じ得る。本発明は、可能性のある全てのCBH1をエンコードする変異ヌクレオチド配列を意図するものであり、その全てが遺伝コードの縮退を生じ得る。
【0049】
ここで用いる“ベクター”の語は、異なる宿主細胞間の移動のために設計された核酸構築体をいう。“発現ベクター”とは、外来細胞中に異種DNA断片を組み込んで発現する能力を有するベクターをいう。多くの原核及び真核発現ベクターが市販されている。適切な発現ベクターの選択は当業者の知識の範囲内である。
【0050】
従って、“発現カセット”または“発現ベクター”は、標的細胞中で特定の核酸の転写を可能にする一連の特定核酸要素を用いて、組換え技術により、または合成的に生成した核酸構築体である。組換え発現カセットはプラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、色素体DNA、ウイルスまたは核酸断片内に組み込むことができる。一般的に、発現ベクターの組換え発現カセット部分は、配列の中でも、転写される核酸配列及びプロモーターを含む。
【0051】
ここで用いる“プラスミド”の語は、クローニングベクターとして用いる環状二本鎖(ds)DNA構築体をいい、多くの細菌及びいくつかの真核性物において染色体外の自己複製遺伝要素を形成する。
【0052】
ここで用いる“選択マーカーエンコードヌクレオチド配列”とは、細胞内で発現できるヌクレオチド配列をいい、ここで選択マーカーの発現により発現遺伝子を含む細胞は、対応する選択剤の存在下、または対応する選択成長条件下で成長できる能力が備わる。
【0053】
通常、変異体CBH1をエンコードする核酸分子は中から高ストリンジェンシー条件下でここに配列番号(天然H.hecorina CBH1)として提供する野生型配列にハイブリダイズする。しかしながら、場合によっては実質的に異なるコドン使用を有するCBH1エンコードヌクレオチド配列を用いこともあるが、CBH1エンコードヌクレオチド配列によりエンコードされるタンパク質は天然タンパク質と同じまたは実質的に同じアミノ酸配列を有する。例えば、コード配列は特定の原核または真核生物発現系内でのより速いCBH1発現を促進するために、宿主に利用される特定コドン頻度に従って修飾できる。Te’o、他(2000)、は例えば、糸状菌内での遺伝子発現の最適化について記載している。
【0054】
核酸配列は、2つの配列が特異的に中程度から高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション及び洗浄条件下でお互いにハイブリダイズする場合、対照核酸配列に“選択的にハイブリダイズ”すると考えられる。ハイブリダイゼーション条件は核酸結合複合体またはプローブの融点(Tm)に基づく。例えば、“最大ストリンジェンシー”は通常、約Tm−5℃で起こり(プローブのTmより5℃低い);“高ストリンジェンシー”はTmより約5−10℃低く;“中間”または“中ストリンジェンシー”はプローブのTmより約10−20℃低く;及び“低ストリンジェンシー”はTmより約20−25℃低い。機能的に、最大ストリンジェンシー条件はハイブリダイゼーションプローブと厳密に同一またはほぼ厳密に同一な配列を同定するために用いることができ、高ストリンジェンシー条件はプローブと約80%以上の配列同一性を有する配列を同定するために用いる。
【0055】
中程度から高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は当業界に公知である(例えば、明示的にここに引用するSambrook、他、1989、第9章及び11章、及びAusubel、他、1993を参照)。高ストリンジェンシー条件の例としては、50%ホルムアミド、5X SSC、5X Denhardt’s溶液、0.5% SDS及び100μg/ml変性キャリアDNA中、約42℃でのハイブリダイゼーション、及び続いて2X SSC及び0.5% SDS中、室温で2回洗浄及びさらに0.1X SSC及び0.5% SDS、42℃で2回洗浄を含む。
【0056】
ここで用いる細胞に関する“形質転換”、“安定に形質転換された”または“トランスジェニック”の語は、細胞が、ゲノム内に統合された、または複数の世代を通して維持されるエピソームプラスミドとして非天然(異種)核酸配列を有することを意味する。
【0057】
ここで用いる“発現”の語は、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生成されるプロセスをいう。当該プロセスは転写及び翻訳の両方を含む。
【0058】
細胞への核酸配列の挿入に関する“導入”の語は“トランスフェクション”または“形質転換”または“形質導入”を意味し、原核または真核細胞内への核酸配列の組込みに関する場合を含み、ここで核酸配列は細胞のゲノム内(例えば、染色体、プラスミド、色素体またはミトコンドリアDNA)に組み込まれることができ、自己レプリコンに変換され、または一時的に発現される(例えば、トランスフェクトされたmRNA)。
【0059】
“所望のセルラーゼ発現”の語は所望のセルラーゼ遺伝子の転写及び翻訳、前駆体RNA、mRNA、ポリペプチド、翻訳後プロセッシングポリペプチドの生成物ということになる。例として、CBH1発現の分析は、CBH1タンパク質のウエスタンブロット、CBH1 mRNAのノーザンブロット分析及び逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析、及びShoemaker S.P.及びBrown R.D.Jr.(Biochem.Biophys.Acta,1978,523:133−146)及びSchulein(1988)に記載のエンドグルカナーゼ活性分析を含む。
【0060】
“選択的スプライシング”の語は、複数のポリペプチドイソ型が1の遺伝子から生じるプロセスをいい、遺伝子の全部ではないがいくつかの転写処理中、非連続エキソンを一緒にスプライシングすることに関する。従って、特定のエキソンはメッセンジャーRNAを形成するためにいくつかの選択的エキソンのいずれかひとつに結合することができる。選択的スプライスmRNAはポリペプチド(“スプライス変異体”)を生成し、共通する部分もあれば異なる部分もある。
【0061】
“宿主細胞”の語はベクターを含み、複製及び/または転写または発現構築体の転写及び翻訳(発現)を助ける細胞を意味する。本発明で用いる宿主細胞は大腸菌などの原核細胞または酵母などの真核細胞、植物、昆虫、両生類または哺乳類細胞などの細胞である。通常、宿主細胞は糸状菌である。
【0062】
“セルラーゼ”の語はセルロースポリマーをより短いセロ−オリゴ糖オリゴマー、セロビオース及び/またはグルコースに加水分解できる酵素分類をいう。多数のセルラーゼの例として、例えば、エキソグルカナーゼ、エキソセロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ及びグルコシダーゼは、セルロース分解性生物、特に真菌、植物及び細菌から得られる。
【0063】
ヒポクレアjecorina由来CBH1はグリコシル加水分解酵素群7(従って、Cel7)の一種であり、具体的には、ヒポクレアjecorina中で最初に同定された当該群の種類である(従って、Cel7A)。グリコシル加水分解酵素群7はエンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼ/エキソグルカナーゼの両方を含み、CBH1は後者である。従って、CBH1、CBH−1型タンパク質及びCel7セロビオヒドロラーゼは交換可能に用いることができる。
【0064】
ここで用いる“セルロース結合ドメイン”の語は、セルラーゼのアミノ酸配列の一部をいい、またはセルラーゼまたはその誘導体のセルロース結合活性に関する酵素領域をいう。セルロース結合ドメインまたは各要素は通常、セルラーゼのセルロース、セルロース誘導体またはその他の多糖類同等物への非共有結合により作用する。セルロース結合ドメインは、触媒コア領域を構造的に区別することによりセルロース繊維の加水分解を促進または可能にし、通常、触媒コアの独立に作用する。従って、セルロース結合ドメインは触媒コアに起因する大きな加水分解活性は有さない。言いかえると、セルロース結合ドメインは、触媒活性を有する構造的因子から区別されるセルラーゼ酵素タンパク質三次構造の構造的因子である。
【0065】
ここで用いる“界面活性剤”の語は、表面活性特性を有するものとして当業界で通常認識されている任意の化合物をいう。従って、例えば、界面活性剤は陰イオン性、陽イオン性及び非イオン性界面活性剤を含み、例えば洗剤において通常見られるものである。陰イオン性界面活性剤は、直鎖または分岐鎖アルキルベンゼンスルフォネート;直鎖または分岐鎖アルキル基またはアルケニル基を有するアルキルまたはアルケニルエーテル硫酸塩;アルキルまたはアルケニル硫酸塩;オレフィンスルフォネート;及びアルカンスルフォネートが挙げられる。両性界面活性剤は第4級アンモニウム塩スルフォネート及びベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。当該両性界面活性剤は同じ分子内に正及び負電荷の両方の基を有する。非イオン性界面活性剤はポリオキシアルキレンエーテル及び高脂肪酸アルカノールアミドまたはその酸化アルキレン付加、脂肪酸グリセリンモノエステル等を含むことができる。
【0066】
ここで用いる“セルロース含有繊維”の語は、セルロースを含有する綿または非綿、またはセルロースブレンド、例えば天然セルロース誘導体及び人工セルロース誘導体(例えば、ジュート(黄麻)、亜麻布、ラミー、レーヨン及びリヨセル)を含有する綿または非綿から作られた任意の織布または不織布、糸または繊維をいう。
【0067】
ここで用いる、“綿含有繊維”の語は、純粋な綿または綿ブレンドから作られた織布または不織布、糸または繊維をいい、綿織物、綿ニット、綿デニム、綿糸、原綿等を含む。
【0068】
ここで用いる、“ストーンウォッシュ組成物”の語は、セルロース含有繊維をストーンウォッシュする際に用いる製剤をいう。ストーンウォッシュ組成物は販売前、すなわち製造プロセス時にセルロース含有繊維を修正するために用いる。これに対し、洗剤組成物は汚れた衣類の洗浄を目的とするものであり、製造プロセス時には用いられない。
【0069】
ここで用いる“洗剤組成物”の語は汚れたセルロース含有繊維を洗濯するための洗浄手段で用いることを意図した混合物をいう。本発明において、当該組成物はセルラーゼ及び界面活性剤に加えて、さらに加水分解酵素、ビルダー、漂白剤、漂白活性化剤、青味剤及び蛍光色素、ケーキング防止剤、マスキング剤、セルラーゼ活性化剤、酸化防止剤及び可溶化剤を含むことができる。
【0070】
ここで用いる“cbh1遺伝子発現の減少または除去”とは、cbh1遺伝子がゲノムから欠失され、従って組換え宿主微生物により発現できないこと;またはcbh1遺伝子が修飾され、機能的CBH1酵素が宿主微生物により生成されないことを意味する。
【0071】
“変異cbh1遺伝子”または“変異CBH1”の語はそれぞれ、H.jecorina由来cbh1遺伝子の核酸配列がコード配列を除去、付加及び/または操作することにより変異されたこと、または発現タンパク質のアミノ酸配列がここに記載の発明に一致するように修飾されたことを意味する。
【0072】
ここで用いる“活性”及び“生物活性”の語は、特定タンパク質に関する生物活性をいい、ここで交換可能に用いられる。例えばプロテアーゼに関する酵素活性はタンパク質分解性であり、従って、プロテアーゼはタンパク質分解活性を有する。従って、所定タンパク質の生物活性は通常、当業者とって当該タンパク質に起因する任意の生物活性をいうことになる。
【0073】
酵素溶液中で用いる場合、相同体または変異CBH1成分は通常、バイオマスからの可溶性糖の放出速度を最高にするために十分な量で加える。加える相同体または変異CBH1成分の量は、糖化されるバイオマスの種類に依存し、当業者により容易に測定できる。しかしながら、使用時の、セルラーゼ組成物中に存在するEG型成分と比較した、相同体または変異CBH1成分の重量%は、好ましくは約1、好ましくは約5、好ましくは約10、好ましくは約15、または好ましくは約20重量%〜好ましくは約25、好ましくは約30、好ましくは約35、好ましくは約40、好ましくは約45、または好ましくは約50重量%である。さらに、好ましい範囲は約0.5〜約15重量%、約0.5〜約20重量%、約1〜約10重量%、約1〜約15重量%、約1〜約20重量%、約1〜約25重量%、約5〜約20重量%、約5〜約25重量%、約5〜約30重量%、約5〜約35重量%、約5〜約40重量%、約5〜約45重量%、約5〜約50重量%、約10〜約20重量%、約10〜約25重量%、約10〜約30重量%、約10〜約35重量%、約10〜約40重量%、約10〜約45重量%、約10〜約50重量%、約15〜約20重量%、約15〜約25重量%、約15〜約30重量%、約15〜約35重量%、約15〜約40重量%、約15〜約45重量%、約15〜約50重量%である。
【0074】
II.宿主微生物
糸状菌は、細目の真菌門(Eumycota)及び卵菌(Oomycota)の全ての線状体を含む。糸状菌はキチン、グルカン、キトサン、マンナン及びその他の複合多糖類からなる細胞壁を有する栄養菌糸、及び菌糸伸長による栄養成長並びに偏性好気性の炭素異化を特徴とする。
【0075】
本発明において、糸状菌親細胞は限定されないが、トリコデルマ、例えばトリコデルマ・ロンギブラチアタム、トリコデルマ・ビリディ、トリコデルマ・コニンギ、トリコデルマ・ハルジアナム;ペニシリン種;フミコーラ・インソレンス及びフミコーラgriseaなどのフミコーラ種;C.lucknowenseなどのクリソスポリウム種;グリオクラディウム種;アスペルギルス種;フサリウム種、アカパンカビ(Neurospora)種、ヒポクレア種及びエメリセラ種の一連の細胞である。ここで用いる“トリコデルマ”または“トリコデルマ種”の語は、既にトリコデルマとして分類されている、または最近トリコデルマとして分類された任意の真菌株をいう。
【0076】
1の好ましい実施態様において、糸状菌親細胞はアスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・aculeatusまたはアスペルギルス・ニデュランス細胞である。
【0077】
他の好ましい実施態様において、糸状菌親細胞はトリコデルマ・リーゼイ細胞である。
【0078】
III.セルラーゼ
セルラーゼはセルロース(β−1,4−グルカンまたはβ−D−グルコシド結合)を加水分解してグルコース、セロビオース、セロオリゴ糖などを生じる酵素として当業界に公知である。上述の通り、セルラーゼは従来から3つの主な分類に分けられる:エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)(“EG”)、エキソグルカナーゼまたはセロビオヒドロラーゼ(EC3.2.1.91)(“CBH”)及びβ−グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)(“BG”)(Knowles、他、1987;Schulein、1988)。
【0079】
特定の真菌は、エキソセロビオヒドロラーゼまたはCBH型セルラーゼ、エンドグルカナーゼまたはEG型セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼまたはBG型セルラーゼを含む完全なセルラーゼ系を生じる(Schulein、1988)。しかしながら、これらの系はCBH型セルラーゼを欠く場合があり、また、細菌性セルラーゼは通常CBH型セルラーゼを含まないか、またはほとんど含まない。さらに、EG成分及びCBH成分は相乗的に相互作用してより効果的にセルロースを分解することが示されている。例えば、Wood、1985を参照されたい。異なる成分、すなわち、複数成分または完全なセルラーゼ系中の種々のエンドグルカナーゼ及びエキソセロビオヒドロラーゼは通常、等電点、分子量、糖化度、基質特異性及び酵素作用パターンなど異なる性質を有する。
【0080】
また、セルラーゼ組成物は綿含有織物を分解し、織物の強度を損なうことも示されており(米国特許第4,822,516号)、市販の洗剤用途にセルラーゼ組成物が用いにくい原因となっている。エンドグルカナーゼ成分を含むセルラーゼ組成物は完全なセルラーゼ系を含む組成物と比較して、綿含有織物の損失強度の減少を示すことが示唆されている。
【0081】
また、セルラーゼはセルロースバイオマスからエタノールへの分解(ここでセルラーゼはセルロースをグルコースに分解し、酵母またはその他の微生物がさらにグルコースを発酵してエタノールになる)、機械パルプの処理(Pere、他、1996)、飼料添加物としての使用(WO91/04673)及び穀物湿式粉砕に有用であることが示されている。
【0082】
ほとんどのCBH及びEGは、リンカーペプチドによりセルロース結合ドメイン(CBD)から分離したコアドメインからなるマルチドメイン構造を有する(Suurnakki、他、2000)。コアドメインは活性部位を含むのに対し、CBDは酵素をセルロースに結合させることによりセルロースと相互作用する(van Tilbeurgh、他、1986;Tomme、他、1988)。CBDは結晶セルロースの加水分解において特に重要である。結晶セルロースを分解するセロビオヒドロラーゼの能力はCBDが不存在の場合には明確に減少することが示されている(Linder and Teeri、1997)。しかしながら、CBDの正確な役割及び活性メカニズムは依然として推論のままである。CBDはセルロースの表面で効果的な酵素濃度を単に増加させることによって(Stahlberg、他、1991)、及び/またはセルロース表面からセルロース一本鎖を解くことにより(Tormo、他、1996)、酵素活性を高めることが示唆されている。異なる基質上のセルラーゼドメインの効果に関する研究の大部分はセロビオヒドロラーゼのコアタンパク質を用いて行われており、それらのコアタンパク質はパパインを用いた限定タンパク質分解により容易に生成できる(Tomme、他、1988)。多数のセルラーゼが科学文献に記載されており、例として:トリコデルマ・リーゼイ由来:Shoemaker,S、他、Bio/Technology,1:691−696、1983(CBHIについて記載);Teeri,T.他、Gene,51:43−52、1987(CBHIIについて記載)が挙げられる。トリコデルマ以外の種由来のセルラーゼも例えば以下の文献に記載されている:Ooi、他、1990(アスペルギルス・aculeatusにより生成されるエンドグルカナーゼF1−CMCをコードするcDNA配列を記載);Kawaguchi T,他、1996(アスペルギルス・aculeatus由来β−グルコシダーゼ1をエンコードするcDNAのクローニング及びシーケンシングを開示);Sakamoto、他、1995(アスペルギルス・カワチIFO4308由来エンドグルカナーゼCMCアーゼ1をエンコードするcDNA配列を開示);Saarilahti、他、1990(エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovara)由来エンドグルカナーゼを開示);Spilliaert R.et al.、1994(Rhodothermus marinus由来好熱性βグルカナーゼをコードする、bglAのクローニング及びシーケンシングを開示);及びHalldorsdottir S、他、1998(グリコシル加水分解酵素群12の熱安定性セルラーゼをエンコードするRhodothermus marinus遺伝子のクローニング、シーケンシング及び過剰発現を開示)。しかしながら、熱応力条件下、または界面活性剤の存在下での改善された特性、増加した特異活性、変異した基質開裂パターン、及び/またはin vitroでの高レベル発現など、改善された特性を有する新規なセルラーゼの同定及びキャラクタリゼーションの必要性が依然として存在する。
【0083】
様々な量のCBH型セルラーゼを含む新規で改善されたセルラーゼ組成物の開発は以下の用途に注目されている:(1)洗浄能力の向上、柔軟剤としての機能及び/または綿織物の手触りの改善を示す洗剤組成物(例えば、“ストーンウォッシング”または“バイオポリッシング”)での使用;(2)木材パルプまたはその他のバイオマスを糖に分解する組成物での使用(例えば、バイオ−エタノール生成);及び/または(3)飼料組成物での使用。
【0084】
IV.分子生物学
1の実施態様において、本発明は糸状菌において機能的なプロモーターの制御下、所望のセルラーゼ遺伝子の発現を提供する。従って、本発明は組換え遺伝学の分野における一般的な技術に依拠する。本発明で使用する一般的な方法を開示する基本テキストは、Sambrook、他、Molecular Cloning(分子クローニング)、A Laboratory Manual(第2版、1989);Kriegler、Gene Transfer and Expression(遺伝子導入及び発現):A Laboratory Manual(1990);及びAusubel、他、編集。Current Protocols in Molecular Biology(1994)が挙げられる。
【0085】
A.相同CBH1遺伝子の同定方法
野生型H.jecorina CBH1の核酸配列は図1に示す。1の側面において、本発明はここに記載のCBH1相同体をエンコードする核酸分子を包含する。核酸はDNA分子であってもよい。
【0086】
相同体CBH1−エンコードDNA配列を単離するために用いることができる技術は当業者に公知であり、限定されないが、相同DNAプローブを用いるcDNA及び/またはゲノムライブラリースクリーニング及び活性分析またはCBH1に対する抗体を用いる発現スクリーニングを含む。これらのいずれの方法もSambrook、他、またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.Ausubel、他、編集、Greene Publishing and Wiley−Interscience、New York(1987)(“Ausubel”)で見ることができる。
【0087】
B.CBH核酸配列の変異方法
変異を導入できる当業界で公知のいかなる方法も本発明で使用できる。
【0088】
本発明は変異CBH1の発現、精製及び/または単離、及び使用に関する。これらの酵素は、好ましくはH.jecorina由来cbh遺伝子を利用した組換え方法により調製する。
【0089】
H.jecorinaからcbh1遺伝子を単離及びクローニングした後、部位特異的突然変異誘発法などの当業者に公知のその他の方法を用いて、発現CBH1変異体中の置換アミノ酸に対応する置換、付加または欠失を作成する。繰返しになるが、部位特異的突然変異誘発及びDNAレベルで発現タンパク質中にアミノ酸変化を組込むその他の方法は、Sambrrok。他及びAusubel、他に見ることができる。
【0090】
H.jecorina CBH1のアミノ酸配列変異体をエンコードするDNAは当業界に公知の種々の方法により調製できる。これらの方法は、限定されないが、H.jecorina CBH1をエンコードする先に調製したDNAの、部位特異的(またはオリゴヌクレオチド媒介)突然変異誘発法、PCR突然変異法、カセット突然変異法が挙げられる。
【0091】
部位特異的突然変異誘発法は置換変異体の調製に好ましい方法である。当該技術は当業界に公知である(例えば、Carter、他、Nucleic Acids Res.13:4431−4443(1985)及びKunkel、他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488(1987)を参照)。つまり、DNAの部位特異的突然変異を行うことで、出発DNAはまず所望の変異をエンコードするオリゴヌクレオチドを当該出発DNAの一本鎖にハイブリダイジングすることにより変異される。ハイブリダイゼーション後、当該ハイブリダイズオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、出発DNAの一本鎖をテンプレートとして用いながらDNAポリメラーゼを用いて二本鎖全体を合成する。従って、所望の変異をエンコードするオリゴヌクレオチドは得られた二本鎖DNA内に組込まれる。
【0092】
また、PCR突然変異誘発も出発ポリペプチド(すなわち、H.jecorina CBH1)のアミノ酸配列変異体を作るのに適している。Higuchi、PCR Protocols,第177−183頁(Academic Press,1990);及びVallette,他、Nuc.Acid Res.17:723−733(1989)を参照されたい。つまり、少量のテンプレートDNAを出発物質としてPCRで用いる場合、テンプレートDNAの対応領域と配列がわずかに異なるプライマーは比較的大きな量の特定DNA断片を生じるために用いることができ、当該特定DNA断片は、プライマーがテンプレートと異なる位置においてのみテンプレート配列と異なる。
【0093】
変異体、カセット突然変異誘発を調製する他の方法は、Wells、他、Gene 34:315−323(1985)に記載の技術に基づく。出発物質は変異される出発ポリペプチドDNAを含むプラスミド(またはその他のベクター)である。変異する出発DNA中のコドンを同定する。同定された変異部位の各部位上に固有の制限エンドヌクレアーゼ部位がなければならない。このような制限部位が存在しない場合、上述のオリゴヌクレオチド−媒介突然変異誘発法を用いて制限部位を作ることができ、出発ポリペプチドDNA中の適当な位置に導入できる。プラスミドDNAをこれらの部位で切断し、線状にする。制限部位間のDNA配列をエンコードするが、所望の変異を含む二本鎖オリゴヌクレオチドは標準手順を用いて合成でき、オリゴヌクレオチドの2つのストランドは別々に合成し、それから標準技術を用いて一緒にハイブリダイズする。この二本鎖オリゴヌクレオチドをカセットという。このカセットは5’及び3’末端を有するように設計し、これらは線形化プラスミドの末端と適合し、従って、プラスミドに直接連結できる。このプラスミドは変異DNA配列を含む。
【0094】
もしくは、またはそれに加えて、所望のセルラーゼをエンコードする所望のアミノ酸配列を決定でき、そのようなアミノ酸配列変異体をエンコードする核酸配列を合成して生成できる。
【0095】
そのように調製した所望のセルラーゼはさらに修飾でき、セルラーゼの使用目的に依存することが多い。当該修飾はアミノ酸配列のさらなる変異、異種ポリペプチドへの融合及び/または共有結合修飾を含む。
【0096】
V.cbh1核酸及びCBH1ポリペプチド
A.変異体cbh−型核酸
CBH1変異体をエンコードするDNA配列をDNA構築体内にクローンした後、当該DNAを微生物の形質転換に用いる。本発明に従って変異体CBH1を発現するために形質転換される微生物はトリコデルマ種由来の株を有利に含むことができる。従って、本発明に従って変異体CBH1セルラーゼを調製するための好ましい方法は、変異体CBH1の一部または全部をエンコードするDNAの少なくとも断片を含むDNA構築体を用いてトリコデルマ種宿主細胞を形質転換することを含む。当該DNA構築体は通常、プロモーターを機能的に付随する。形質転換宿主細胞を続いて所望のタンパク質を発現する条件下で成長させる。その後、所望のタンパク質生成物を精製し、実質的に均一にする。
【0097】
しかしながら、実際に、変異CBH1をエンコードする所定DNAの最良の発現媒体がH.jecorinaではない場合も考えられる。従って、変異体CBH1の微生物源と系統発生類似性を有する形質転換宿主で当該タンパク質を発現することが最も有利かもしれない。他の実施態様において、アスペルギルス・ニガーを発現媒体として用いることができる。A.ニガーを用いる形質転換技術の記載に関しては、ここに開示の内容を引用するWO98/31821を参照されたい。
【0098】
従って、トリコデルマ種発現系の本発明の記載は説明目的のみのため提供するものであり、本発明の変異体CBH1を発現する1の選択肢として提供するものである。しかしながら、当業者は適切な場合に種々の宿主細胞中で変異体CBH1をエンコードするDNAを発現させるものであると考えられ、最適な発現宿主を決定する際に変異体CBH1の供給源を考慮すべきであることは当然である。さらに、本発明の分野の当業者は、当業界で利用可能な手段を利用して一般的な技術により特定遺伝子のために最良な発現系を選択することができる。
【0099】
B.変異体CBH1ポリペプチド
野生型H.jecorina CBH1のアミノ酸配列は図1に示す。変異体CBH1ポリペプチドはヒポクレアjecorina由来CBH1中の1以上の以下の残基に対応する位置で置換または欠失を含む:L6、S8、P13、Q17、G22、T24、Q27、T41、S47、N49、T59、T66、A68、C71、A77、G88、N89、A100、N103、A112、S113、L125、T160、Y171、Q186、E193、S195、C210、M213、L225、T226、P227、T232、E236、E239、G242、T246、D249、N250、R251、Y252、D257、D259、S278、T281、L288、E295、T296、S297、A299、N301、F311、L318、E325、N327、D329、T332、A336、S341、S342、F352、K354、T356、G359、D368、Y371、N373、T380、Y381、N384、V393、R394、V407、P412、T417、F418、G430、N436、G440、P443、T445、Y466、T478、A481及び/またはN490。
【0100】
本発明の変異体CBH1は前駆体H.jecorina CBH1のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有する。CBH1変異体のアミノ酸配列は前駆体アミノ酸配列の1以上のアミノ酸が置換、欠失または挿入されていることにより前駆体CBH1アミノ酸配列と異なる。H.jecorina CBH1の成熟アミノ酸配列は図1に示す。従って、本発明はH.jecorina CBH1中の特定の同定残基に等しい位置にアミノ酸残基を含むCBH1変異体を目的とする。CBH1変異体の残基(アミノ酸)はヒポクレアjecorina CBH1の残基と、相同体(すなわち、一次または三次構造で位置が対応する)またはヒポクレアjecorina CBH1中の残基の特定残基または一部に機能的に類似(すなわち、同じまたは類似の一体化、反応または化学的または構造的に相互作用する能力を有する)である場合、同等である。ここで用いる番号は図1に示すように、成熟CBH1アミノ酸配列の番号に対応するものとする。前駆体CBH1内の配置に加えて、前駆体CBH1が熱応力下にある場合、不安定性に関与するアミノ酸位置に対応する前駆体CBH1中の特定残基は、置換または欠失に関してここで同定される。アミノ酸位置番号(例えば、+51)は図1に表す成熟ヒポクレアjecorina CBH1配列に割当てられた番号をいう。
【0101】
相同性を測定するためのアミノ酸配列の配置は好ましくは“配列比較アルゴリズム”を用いて決定する。比較のために最適な配列配置を行うことができ、例えば、Smith&Waterman、Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman&Wunsch、J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性配列アルゴリズム、Peason&Lipman、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似法のサーチ、これらのアルゴリズムのコンピューター化の実現(GAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA、ウィスコンシン(Wisconsin)ジェネティックスソフトウェアパッケージ、Genetics Computer Group、575 Science Dr.,マディソン,ウィスコンシン州)、目視検査またはChemical Computing Group(モントリオール、カナダ)のMOEにより行う。
【0102】
配列類似性を測定するのに適したアルゴリズムの例としては、BLASTアルゴリズム(Altschul,他、J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載)がある。BLAST分析を行うソフトウェアは全米バイオテクノロジー情報センターにより一般に利用可能である(<www.ncbi.nlm.nih.gov>)。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さの語を並べた場合、いくつかの正の数の閾値スコアTとマッチまたは満足する問い合わせ配列中の長さWの短い語を同定することにより、最初に高スコア配列ペア(HSP)を同定することを含む。これらのヒットした最初の近傍の語はこれらを含むさらに長いHSPを見つけるために出発点として働く。ヒットした語は、増加できる累積配列スコアの範囲で比較される2つの配列それぞれに沿って両方向に広げられる。ヒットした語の伸長は以下の場合停止する:累積配列スコアが最大達成値からX量減少した場合;累積スコアがゼロ以下になった場合;またはいずかの配列の末端に達した場合。BLASTアルゴリズム・パラメーターW、T及びXは配列の感度及び速度を決定する。BLASTプログラムは初期設定として単語長(W)が11、BLOSUM62スコアマトリックス(Henikoff&Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915(1989)を参照)配列(B)が50、期待値(E)が10、M’5、N’−4及び両ストランドの比較を用いる。
【0103】
BLASTアルゴリズムは次に、2配列間の類似性の統計的分析を行う(例えば、Karlin&Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873−5787(1993)を参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1の基準は、最小合計確率(P(N))であり、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の適合が偶然起こる確率を示す。例えば、アミノ酸配列は、最小合計確率が試験アミノ酸配列とプロテアーゼアミノ酸配列の比較で約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、及び最も好ましくは約0.001未満の場合、プロテアーゼに類似すると考えられる。
【0104】
CBH1セルラーゼの安定性を修正するさらなる具体的な方法を以下に示す:
(1)主鎖展開(unfolding)のエントロピーの減少により酵素の安定性を導入できる。例えば、プロリン残基の導入は展開エントロピーを減少することにより著しくタンパク質を安定化する(例えば、Watanabe、他、Eur.J.Biochem.226:277−283(1994)を参照)。同様に、グリシン残基はβ−炭素を有さず、従って、他の多くの残基よりもかなり大きな骨格立体配座自由度を有する。グリシン、好ましくはアラニンの置換により、展開エントロピーを減少でき、安定性を改善できる(例えば、Matthews、他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84;6663−6667(1987)を参照)。さらに、外側ループを短くすることで安定性を改善することが可能である。超好熱菌は中温好性相同体よりも短い外側ループを有するタンパク質を生成することが観測されている(例えば、Russel、他、Current Opinions in Biotechnology 6:370−374(1995)を参照)。ジスルフィド結合の導入はお互いに明確に区別できる三次構造を安定化させるのにも効果的である。従って、現存するシステインに接近可能な残基にシステインの導入、またはジスルフィド結合を形成できるシステインペアの導入はCBH1変異体の安定性を変えることができる。
【0105】
(2)側鎖疎水性を増加することにより内部空洞を減少させて、酵素の安定性を変化させることができる。内部空洞の数及び体積を減少させることにより、疎水性相互作用を最大化し、パッキング不良が減少されて、酵素の安定性が増加する(例えば、Matthews,Ann.Rev.Biochem.62:139−160(1993);Burley,他、Science 229:23−29(1985);Zuber,Biophys.Chem.29:171−179(1988);Kellis、他、Nature 333:784−786(1988)を参照)。好熱菌由来の多量体タンパク質は、対応する中温好性菌のタンパク質よりも疎水性サブユニット接合部分を多く有することが多く、より表面補完性が大きい。この原則は単量体タンパク質のドメイン接合部分にも適用可能であると考えられる。疎水性を増加することにより安定性を改善できる特定の置換は、リジンからアルギニン、セリンからアラニン及びトレオニンからアラニンを含む(Russel,他、上記)。アラニンまたはプロリンへの置換による修飾により、側鎖サイズを増加でき、最終的に空洞の減少、より良いパッキング、及び増加した疎水性が得られる。空洞サイズを減少し、疎水性を増加し、CBH1のドメイン間の接合部分の補完性を改善するための置換は酵素の安定性を改善できる。具体的には、これらの位置の特定残基をフェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ロイシン及びイソロイシンから選択される異なる残基で修飾することにより特性を改善できる。
【0106】
(3)堅い二次構造中の平衡電荷、すなわち、α−ヘリックス及びβターンは安定性を改善できる。例えば、ヘリックスN末端上の部分正電荷をアスパラギン酸上の負電荷で中和することにより構造安定性を改善できる(例えば、Eriksson、他、Science 255:178−183(1992)を参照)。同様に、ヘリックスC末端上の部分負電荷を正電荷で中和することにより安定性を改善できる。正電荷をβターン中のペプチドN末端との相互作用から遠ざけることは三次構造安定性を得るのに効果的である。正に帯電していない残基で置換することで、望ましくない正電荷がターン中に存在するアミド窒素と相互作用しないようにすることができる。
【0107】
(4)三次構造を安定化するために塩橋及び水素結合を導入することは効果的である。例えば、例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸とリジン、アルギニンまたはヒスチジン間のイオン対相互作用は強い安定化効果を導入でき、及び異なる三次構造成分を付随させるために用いることができ、結果として熱安定性が改善される。さらに、帯電残基/非帯電残基水素結合の数の増加及び水素結合の数は通常、熱安定性を増加させることができる(例えば、Tanner、他、Biochemistry 35:2597−2609(1996)を参照)。アスパラギン酸、アルパラギン、グルタミン酸またはグルタミンとの置換は骨格アミドとの水素結合を導入できる。アルギニンとの置換は塩橋を改善でき、骨格カルボニル内にH−結合を銅導入できる。
【0108】
(5)熱不安定性残基を避けることにより通常、熱安定性を増加できる。例えば、アスパラギン及びグルタミンはアミド分解を受け易く、システインは高温で酸化されやすい。敏感な位置でのこれらの残基数を減らすことで、改善された熱安定性を得ることができる(Russel、他、上記)。グルタミンまたはシステイン以外の任意の残基により置換または欠失することで、熱不安定性残基を避けることにより、安定性が増加する。
【0109】
(6)CBH1変異体に修飾された安定性を与える配位子の結合の安定化または不安定化。例えば、本発明のCBH1変異体が用いられるマトリックスの成分はCBH1変異体の特定の界面活性剤/熱感受性部位に結合できる。当該部位を置換修飾することにより、当該成分の変異体への結合を強化または弱めることができる。例えば、CBH1の結合切断部(binding crevice)中の非芳香族残基はフェニルアラニンまたはチロシンと置換されて、芳香族側鎖安定性を導入でき、そこでセルロース基質の相互作用はベンジル環と有利に相互作用でき、CBH1の安定性が増加する。
【0110】
(7)界面活性剤/熱感受性配位子のいずれかの電気陰性度を増加させることにより、界面活性剤または熱応力下での安定性を改善できる。例えば、フェニルアラニンまたはチロシンとの置換は、溶媒からの保護を改善することによりD(アスパラギン酸塩)残基の電気陰性度を増加させることができ、従って安定性が改善する。
【0111】
C.相同体CBH1核酸及びポリペプチド
細菌微生物由来のゲノムDNAを膜に固定する。ゲノムDNAを遺伝子特異プローブとハイブリダイズし、PCRを用いてスクリーニングする。PCR生成物を当業者に公知の技術を用いて単離し、配列決定する。
【0112】
VI.組換えCBH1相同体及び変異体の発現
本発明の方法は所望のセルラーゼを発現するために使用する細胞に依存し、特定の発現方法は必要でない。
【0113】
本発明は、所望のセルラーゼをエンコードする核酸配列を含む発現ベクターを用いて変換、形質転換または核酸導入される宿主細胞を提供する。温度、pH等の培養条件は変換、形質転換または核酸導入前に親宿主細胞に既に用いた条件であり、当業者に明らかである。
【0114】
1の手段において、糸状菌細胞または酵母細胞に、宿主細胞株で機能し、所望のセルラーゼをエンコードするDNA断片に動作可能に連結する、プロモーターまたは生物学的に活性なプロモーター断片または1以上の(例えば、一連の)エンハンサーを有する発現ベクターを用いて核酸導入し、所望のセルラーゼが細胞株内で発現する。
【0115】
A.核酸構築体/発現ベクター
所望のセルラーゼをエンコードする天然または合成ポリヌクレオチド断片(“所望のセルラーゼ−エンコード核酸配列”)は異種核酸構築体またはベクター内に組込むことができ、糸状菌または酵母細菌内に導入でき、かつ複製できる。ここに開示するベクター及び方法は所望のセルラーゼを発現するための宿主細胞中で使用するのに適している。導入される細胞内で複製可能かつ生存可能である限り、任意のベクターが使用できる。多数の適当なベクター及びプロモーターが当業者に公知であり、市販されている。また、クローニング及び発現ベクターについてもここに明示的に引用するSambrook、他、1989、Ausubel FM、他、1989及びStrathern、他、1981に記載されている。真菌に適切な発現ベクターはvan den Hondel,C.A.M.J.J.et al.(1991):Bennett,J.W.及びLasure,L.L.(編集)More Gene Manipulations in Fungi.Academic Press,第396〜428頁に記載されている。適当なDNA配列が種々の手順によりプラスミドまたはベクター(集合的にここで“ベクター”という)内に挿入できる。通常、DNA配列は標準手順により、適当な制限エンドヌクレアーゼ部位内に挿入される。このような手順及び関連サブクローニング手順は当業者の知識の範囲内であると考えられる。
【0116】
所望のセルラーゼのコード配列を含む組換え糸状菌は、所望のセルラーゼ−コード配列を含む異種核酸構築体を糸状菌の選択株細胞内に導入することにより生成できる。
【0117】
所望の形態の所望のセルラーゼ核酸配列が得られると、それを種々の方法で修飾することができる。当該配列が非コードフランキング領域を含む場合、当該フランキング領域は切除、突然変異等に供することができる。従って、転移、塩基転換、欠失及び挿入を天然配列上で行うことができる。
【0118】
選択した所望のセルラーゼ−コード配列は公知の組換え技術に従って適切なベクター内に挿入でき、セルラーゼ発現が可能な糸状菌を形質転換するために用いることができる。遺伝コードの固有縮退のため、実質的に同じまたは機能的に同等なアミノ酸配列をエンコードするその他の核酸配列が所望のセルラーゼをクローン及び発現するために用いることができる。そのため、コード領域内の当該置換は、本発明によりカバーされる配列変異体の範囲内に当然含まれる。
【0119】
また、本発明は上述の1以上の所望のセルラーゼ−エンコード核酸配列を含む組換え核酸構築体を含むこともできる。当該構築体はプラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターを含み、そこに本発明の配列がフォワードまたはリバース方向に挿入される。
【0120】
異種核酸構築体は所望のセルラーゼのコード配列を含むことができ、それらは(i)単離して(ii)融合タンパク質またはシグナルペプチドコード配列などの他のコード配列と組み合わせて(ここで所望のセルラーゼ−コード配列は優性コード配列);(iii)イントロンなどの非コード配列、及び適当な宿主中でコード配列の発現に効果的な、プロモーター及びターミネーター因子または5’及び/または3’非翻訳領域など制御因子と組み合わせて;及び/または(iv)所望のセルラーゼ−コード配列が異種遺伝子となるベクターまたは宿主環境において、含むことができる。
【0121】
本発明の1の側面において、異種核酸構築体はin vitroで所望のセルラーゼ−エンコード核酸配列を細胞内に移動させるために用いられ、確立された糸状菌及び酵母株が好ましい。所望のセルラーゼの長期間生成のために、安定な発現が好ましい。従って、安定な形質転換を生じるために効果的な任意の方法が本発明の実施に用いることができる。
【0122】
適当なベクターは通常、選択マーカー−エンコード核酸配列、挿入部位及び適当な制御因子、例えばプロモーター及びターミネーター配列などを備える。当該ベクターは調節配列を含んでもよく、例えば、イントロンなどの非コード配列、及び制御因子、すなわち宿主細胞(及び/または修飾可溶性タンパク質抗原コード配列が通常は発現されないベクターまたは宿主細胞環境)内でコード配列の発現に効果的で、コード配列に動作可能に連結したプロモーター及びターミネーター因子または5’及び/または3’非翻訳領域を含むことができる。多数の適切なベクター及びプロモーターが当業者に公知であり、その多くが市販されており、及び/またはSambrook、他、(上記)に記載されている。
【0123】
典型的なプロモーターは保存プロモーター及び誘導性プロモーターの両方を含み、例としては、CMVプロモーター、SV40早期プロモーター、RSVプロモーター、EF−1αプロモーター、tet−onまたはtet−offシステムにおいてtet応答性因子(TRE)を含むプロモーター(ClonTech and BASF)、β−アクチンプロモーター及び特定の金属塩の添加により非調節にできるメタロチオニンプロモーターが挙げられる。プロモーター配列は発現のために特定の糸状菌により認識されるDNA配列である。これは変異体CBH1ポリペプチドをエンコードするDNA配列に動作可能に連結する。当該連結は開示した発現ベクター中において変異体CBH1ポリペプチドをエンコードするDNA配列の開始コドンに関するプロモーターの位置決定を含む。プロモーター配列は、変異体CBH1ポリペプチドの発現を媒介する転写及び翻訳制御配列を含む。例えば、アスペルギルス・ニガー、A.アワモリまたはA.オリゼー・グルコアミラーゼ、α−アミラーゼまたはα−グルコシダーゼエンコード遺伝子;A.ニデュランス(nidulans)gpdAまたはtrpC遺伝子;アカパンカビ(Neurospora crassa)cbh1またはtrp1遺伝子;A.ニガーまたはリゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)アスパラギン酸プロテイナーゼ−エンコード遺伝子;H.jecorina cbh1、cbh2、egl1、egl2またはその他のセルラーゼエンコード遺伝子由来のプロモーターが挙げられる。
【0124】
適当な選択マーカーの選択は宿主細胞に依存し、種々の宿主の適当なマーカーは当業界に公知である。一般的な選択マーカー遺伝子はA.ニデュランスまたはH.jecorina由来のargB、A.ニデュランス由来のamdS、アカパンカビ(Neurospora crassa)またはH.jocorina由来のpyr4、アスペルギルス・ニガーまたはA.ニデュランス由来のpyrGを含む。他の典型的な選択マーカーは、限定されないが、trpc、trp1、oliC31、niaDまたはleu2が挙げられ、これらはtrp−、pyr−、leu−等などの変異株を形質転換するために用いる異種核酸構築体に含まれる。
【0125】
当該選択マーカーは形質転換体に、通常は糸状菌により代謝されない代謝産物を利用できる能力を与える。例えば、アセトアミダーゼ酵素をエンコードするH.jecorina由来のamdS遺伝子は、形質転換細胞が窒素源としてアセトアミド上で成長できるようにする。選択マーカー(例えば、pyrG)は栄養要求性変異株が選択最小培地上で成長する能力を回復させることができ、または選択マーカー(例えば、olic31)は形質転換体に阻害薬または抗生物質の存在下で成長できる能力を与えることができる。
【0126】
選択マーカーコード配列は当業界で用いられる一般的な方法を用いて適切なプラスミド内にクローンされる。典型的なプラスミドはpUC18、pBR322、pRAX及びpUC100が挙げられる。pRAXプラスミドはA.ニデュランス由来のAMA1配列を含み、A.ニガー中での複製を可能にする。
【0127】
本発明の実施には他に指示がない限り、分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来技術を用い、当業者の技術の範囲内である。当該技術は文献中に十分に説明されている。例えば、Sambrook、他、1989;Freshney、1987;Ausubel、他、1993;及びColigan、他、1991を参照されたい。ここで言及する全ての特許、特許出願、雑誌及び文献はここに明示的に引用される。
【0128】
B.CBH1生成のための宿主細胞及び培養条件
(i)糸状菌
従って、本発明は、対応する非形質転換親真菌と比較して所望のセルラーゼ生成または発現を生じるために効果的な方法で修飾、選択及び培養された細胞を含む糸状菌を提供する。
【0129】
所望のセルラーゼ発現のために処理及び/または修飾できる親糸状菌の種の例としては、限定されないが、トリコデルマ、ペニシリン種、フミコーラ種、例えばフミコーラ・インソレンス;アスペルギルス種、例えばアスペルギルス・ニガー、クリソスポリウム種、フサリウム種、ヒポクレア種及びエメリセラ種が挙げられる。
【0130】
所望のセルラーゼを発現する細胞は通常、親真菌株を培養するために用いる条件下で培養する。一般的に、細胞はPourquie,J、他、Biochemistry and Genetics of Cellulose Degradation、編集、Aubert,J.P.他、Academic Press、第77〜86頁、1988及びIlmen,M.他、Appl.Environ.Microbiol.63:1298−1306、1997に記載されるような生理食塩及び栄養物を含む標準培地内で培養する。また、培養条件も標準であり、例えば培養物は28℃、振とう培養または発酵槽中で、所望レベルの所望のセルラーゼ発現が達成されるまで培養する。
【0131】
所定の糸状菌の好ましい培養条件は科学文献及び/またはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC;<www.atcc.org>)などの真菌源から見つけることができる。真菌成長の達成後、当該細胞は所望のセルラーゼの発現を生じるまたは可能にするために効果的な条件に曝す。
【0132】
所望のセルラーゼ−コード配列が誘導プロモーターの制御下にある場合、例えば糖、金属塩または抗生物質などの誘発剤を所望のセルラーゼ発現を誘導するために有効な濃度で培地に加える。
【0133】
1の実施態様において、株はアスペルギルス・ニガーを含み、当該株は過剰発現タンパク質を得るために有用な株である。例えば、A.ニガー var アワモリ dgr246は高められた量の分泌セルラーゼを分泌することが公知である(Goedegebuur、他、Curr.Genet(2002)41:89−98)。GCDAP3、GCDAP4及びGAP3−4などのアスペルギルス・ニガー var アワモリのその他の株は公知である(Ward,M,Wilson,L.J.及びKodama,K.H.,1993,Appl.Microbiol.Biotechnol.39:738−743)。
【0134】
他の実施態様において、株はトリコデルマ・リーゼイを含み、当該株は過剰発現タンパク質を得るために有用な株である。例えば、RL−P37はSheir−Neiss、他、Appl.Microbiol.Biotechnol.20:46−53(1984)に記載されており、高められた量のセルラーゼ酵素を分泌することが知られる。RL−P37の機能的同等物としては、トリコデルマ・リーゼイ株RUT−C30(ATCC番号56765)及び株QM9414(ATCC番号26921)を含む。これらの株は変異体CBH1を過剰発現するのにも有用である。
【0135】
潜在的に有害な天然セルロース分解活性がない所望のセルラーゼを得ることが望ましい場合、所望のセルラーゼをエンコードするDNA断片を含むDNA構築体またはプラスミドの導入前に、1以上の欠失したセルラーゼ遺伝子を持った宿主細胞株を得ることは有用である。このような株は、ここに開示の内容を引用する米国特許第5,246,853号及びWO92/06209に開示の方法により調製できる。1以上のセルラーゼ遺伝子が欠落した宿主微生物中で所望のセルラーゼを発現することにより、同定及び次の精製手順が簡略化される。
【0136】
遺伝子欠失は欠失または分離される所望の遺伝子形態を当業界に公知の方法によりプラスミド内に挿入することにより達成できる。次に、欠失プラスミドは所望の遺伝子コード領域及び遺伝子コード配列または選択マーカーで置換された当該配列の一部の内部にある適当な制限酵素部位で切断される。欠失または分離される遺伝子座由来のフランキングDNA配列は、好ましくは約0.5〜2.0kbであり、両側の選択マーカー遺伝子を保持する。適当な欠失プラスミドは一般に、固有の制限酵素部位を有し、当該断片が欠失遺伝子を含み、フランキングDNA配列を含むことを可能にし、選択マーカー遺伝子が一本の線状片として除去される。
【0137】
選択マーカーは形質転換微生物の検出が可能となるように選択しなければならない。選択した微生物中で発現する選択マーカー遺伝子は適している。例えば、アスペルギルス種を用いて選択マーカーを選択すると、形質転換体中の選択マーカーの存在はその特性に大きな影響を与えない。このような選択マーカーは分析可能な生成物をエンコードする遺伝子であると考えられる。例えば、アスペルギルス種遺伝子の機能的コピーは、宿主株中の欠失により栄養要求性表現型を示す宿主株を生じる場合、使用できる。
【0138】
好ましい実施態様において、アスペルギルス種のpyrG誘導体株は機能的pyrG遺伝子を用いて形質転換し、従って、形質転換のための選択マーカーを提供する。pyrG誘導体株はフルオロオロト酸(FOA)に耐性のアスペルギルス種株を選択することにより得ることができる。pyrG遺伝子は、ウリジンの生合成に必要な酵素である、オロチジン−5’−モノリン酸デカルボキシラーゼをエンコードする。原型のpyrG遺伝子を含む株はウリジン不足の培地中で成長するが、フルオロオロト酸に感受性である。機能的オロチジンモノリン酸デカルボキシラーゼ酵素を欠いており、FOR耐性選択により成長のためにウリジンを必要とするpyrG誘導体株の選択が可能である。FOA選択技術を用いて、機能的オロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼが不足したウリジン要求性株を得ることも可能である。これらの細胞をこの酵素をエンコードする遺伝子の機能的コピーを用いて形質転換することが可能である(Berges&Barreau,Curr.Genet.19:359−365(1991)、及びvan Hartingsveldte、他(1986)Development of homologous transformation system for Aspergillus niger based on the pyrG gene(pyrG遺伝子に基づくアスペルギルス・ニガーの相同形質転換系の進展).Mol.Gen.Genet.206:71−75)。誘導体株の選択は、上述のFOA耐性技術を用いて容易に行われ、従って、pyrG遺伝子は選択マーカーとして用いるのが好ましい。
【0139】
1以上のセルラーゼ遺伝子の発現能力が欠落するようにpyrGアルペルギルス種を形質転換するために、分離または欠失したセルラーゼ遺伝子を含む一本鎖DNA断片をそれから欠失プラスミドから単離し、適当なpyrアスペルギルス宿主を形質転換するために用いる。次に、形質転換体はpyrG遺伝子生成物を発現するそれらの能力に基づいて同定及び選択され、従って宿主株のウリジン栄養要求性を補う。サザンブロット分析を次に得られた形質転換体について行い、欠失する遺伝子のゲノムコピーのコード領域の一部または全部をpyr4選択マーカーで置換するダブルクロスオーバー融合イベントを同定及び確認する。
【0140】
上述の特定プラスミドベクターはpyr形質転換体の調製に関連するが、本発明はこれらのベクターに限定されない。種々の遺伝子がアスペルギルス種株内で上述の技術を用いて欠失及び置換できる。さらに、上述の通り、任意の入手可能な選択マーカーが使用できる。実際、クローンされ、そして同定された任意のアスペルギルス種遺伝子が上述の方法を用いてゲノムから欠失できる。
【0141】
上述の通り、使用する宿主株は、選んだ選択マーカーに対応する非機能的遺伝子を欠く、または有するアスペルギルス種の誘導体である。例えば、pyrGの選択マーカーを選択した場合、それから形質転換手順において特定のpyrG誘導体株を受容体として用いる。同様に、アスペルギルス・ニデュランス遺伝子amdD、argB、trpC、niaDに同等なアスペルギルス種遺伝子を含む選択マーカーが用いることができる。対応する受容体株は従って、それぞれargB、trpC、niaDなどの誘導体株でなければならない。
【0142】
所望のセルラーゼをエンコードするDNAは次に、適当な微生物内に挿入するために調製する。本発明に従うと、所望のセルラーゼをエンコードするDNAは機能的セルロース分解活性を有するタンパク質をエンコードするために必要なDNAを含む。所望のセルラーゼをエンコードするDNA断片は真菌プロモーター配列、例えばglaA遺伝子のプロモーターに機能的に接合できる。
【0143】
2以上の所望のセルラーゼをエンコードするDNAのコピーが過剰発現を促進するために株内に組換えできることも本発明の範囲内である。所望のセルラーゼをエンコードするDNAは当該セルラーゼをエンコードするDNAを運ぶ発現ベクターを構築することにより調製できる。所望のセルラーゼをエンコードする挿入DNA断片を運ぶ発現ベクターは所定の宿主微生物中で独立して複製できる、または宿主、一般的にはプラスミドのDNA内に統合できるベクターである。好ましい実施態様において、遺伝子発現が得られる2種の発現ベクターが考えられる。1つは、プロモーター、遺伝子コード領域、及びターミネーター配列の全てが発現する遺伝子由来であるDNA配列を含む。遺伝子切断は、自身の転写及び翻訳調節配列の制御下で発現されるドメインを残すために、望ましくないDNA配列(例えば、望ましくないドメインをコードする)を欠失することが望ましい場合に行うことができる。選択マーカーはベクター上に含むこともでき、宿主内に新規な遺伝子配列の複数コピーを統合するための選択が可能になる。
【0144】
2つ目の発現ベクターはあらかじめ組立てられ、高レベル転写に必要な配列及び選択マーカーを含む。遺伝子またはその一部のコード領域はこの汎用性発現ベクター内に挿入できると考えられ、従って、発現カセットプロモーター及びターミネーター配列の転写制御下にある。例えば、pRAXはそのような汎用性発現ベクターである。遺伝子またはその一部は強力なglaAプロモーターの下流に挿入できる。
【0145】
ベクター中、本発明の所望のセルラーゼをエンコードするDNA配列は転写及び翻訳配列、すなわち、リーディングフレームから構造遺伝子中の適当なプロモーター配列及びシグナル配列に動作可能に連結するべきである。プロモーターは宿主細胞中で転写活性を示す任意のDNA配列であり、宿主細胞と同種または異種のタンパク質をエンコードする遺伝子由来である。任意のシグナルペプチドは所望のセルラーゼの細胞外生成を提供する。シグナル配列をエンコードするDNAは発現する遺伝子に天然で関連していることが好ましいが、任意の適当な供給源由来のシグナル配列が本発明で使用できる。
【0146】
本発明の所望のセルラーゼをコードするDNA配列とプロモーターを適当なベクター内に融合するために用いる手順は当業界に公知である。
【0147】
上述のDNAベクターまたは構築体は、形質転換、トランスフェクション、マイクロインジェクション、マイクロポレーション、遺伝子銃等の公知の技術に従って宿主細胞中に導入できる。
【0148】
形質転換のためにアスペルギルス種を調製する本発明の好ましい方法は、真菌の菌糸体由来の原形質体の調製を含む。Campbell、他、Improved transformation efficiency of A.neger using homologous niaD gene for nitrate reductase(硝酸還元酵素の相同体niaD遺伝子を用いたA.ニガーの改善された形質転換効率).Curr.Genet.16:53−56;1989を参照されたい。菌糸体は発芽植物性胞子から得ることができる。菌糸体は細胞壁を消化して原形質体を生じる酵素で処理する。原形質体は次に懸濁培地中、浸透圧安定化剤の存在により保護される。これらの安定化剤はソルビトール、マンニトール、塩化カリウム、硫酸マグネシウム等を含む。通常、これら安定化剤の濃度は0.8M〜1.2M間で様々である。懸濁培地中、約1.2Mのソルビトール溶液を用いることが好ましい。
【0149】
DNAの宿主アスペルギルス種株内への摂取はカルシウムイオン濃度に依存する。通常、約10mMのCaCl及び50mMのCaClが摂取溶液内で用いられる。摂取溶液中でカルシウムイオンが必要であることに加え、通常含まれるその他の品目は緩衝系、例えばTEバッファ(10Mm Tris,pH7.4;1mM EDTA)または10mM MOPS、pH6.0バッファ(モルホリンプロパンスルホン酸)及びポリエチレングリコール(PEG)である。ポリエチレングリコールは細胞膜の融合に作用すると考えられており、従って培地の内容物がアスペルギルス種株の細胞質内に運ばれ、プラスミドDNAが核に移動する。この融合により、宿主染色体内に穏やかに統合されるプラスミドDNAの複数コピーが残ることが多い。
【0150】
通常、アスペルギルス種原形質体または細胞を含む、密度10〜10/mL、好ましくは2×10/mLで浸透圧処理に供した懸濁液を形質転換に使用する。適当な溶液中(例えば、1.2Mソルビトール;50mM CaCl)の100μLの量のこれら原形質体または細胞は所望のDNAと混合する。通常、高濃度のPEGを摂取溶液に加える。0.1〜1の量(volume)の25% PEG 4000は原形質体の懸濁液に加えることができる。しかしながら、約0.25の量(volume)を原形質体の懸濁液に加えることが好ましい。ジメチルスルホキシド、ヘパリン、スペルミジン、塩化カリウム等の添加剤も摂取溶液に加えてもよく、形質転換を助ける。
【0151】
通常、混合物はそれから約0℃で10〜30分間培養する。追加のPEGをそれから混合物に加え、所望の遺伝子またはDNA配列の摂取をさらに高める。25% PEG 4000は通常、形質転換混合物の体積の5〜15倍の体積で加えるが、それより大きい体積または小さい体積も適している。25% PEG 4000は好ましくは形質転換混合物の体積の約10倍である。PEGを加えた後、形質転換混合物をそれから室温または氷上で、ソルビトール及びCaCl溶液を添加する前に培養する。原形質体懸濁液をそれからさらに成長培地の融解アリコートに加える。この成長培地により形質転換だけの成長が可能になる。所望の形質転換の成長に適した任意の成長培地が本発明で使用できる。しかしながら、Pyr形質転換を選択した場合、ウリジンを含まない成長培地を使用することが好ましい。その結果生じたコロニーをウリジンを使い尽くした成長培地上で移動及び精製する。
【0152】
この段階で、速い成長速度及びウリジンが欠落した固体培養基上の不規則な外形よりもむしろ、順調な環状コロニーの形成により安定な形質転換が不安定な形質転換と区別できる。さらに、場合によっては安定性のさらなる試験を、固体非選択性培地(すなわち、ウリジンを含む)上の形質転換体を成長させる、この培養基から胞子を収集し、及び次にウリジンが欠落した選択培地上で発芽及び成長するこれらの胞子のパーセンテージを測定することにより、行うことができる。
【0153】
上記方法の特定の実施態様において、所望のセルラーゼは液体培地中で成長後、所望のセルラーゼの適当な翻訳後処理の結果として、宿主細胞から活性体で回収される。
【0154】
(ii)酵母
また、本発明は所望のセルラーゼ生成のための宿主細胞として酵母の使用も考えられる。加水分解酵素をエンコードするその他いくつかの遺伝子が種々の酵母S.セレヴィシエ株において発現する。これらは、2つのエンドグルカナーゼ(Penttila、他、1987)、2つのセロビオヒドロラーゼ(Penttila、他、1988)、及びトリコデルマ・リーゼイ由来の1のβ−グルコシダーゼ(Cummings and Fowler、1996)、Aureobasidlium pullulans由来キシラナーゼ(Li and Ljungdahl、1996)、小麦由来のα−アミラーゼ(Rothstein、他、1987)等をエンコードする配列を含む。さらに、ルーメン細菌(Butyrivibrio fibrisolvens)エンド−[ベータ]−1,4−グルカナーゼ(END1)、白色腐朽菌(Phanerochaete chrysosporium)セロビオヒドロラーゼ(CBH1)、ルミノコッカス(Ruminococcus)flavefaciensセロデキストリナーゼ(CEL1)及びエンドミセス(Endomyces)frbrilizerセロビアーゼ(Bgl1)をエンコードするセルラーゼ遺伝子カセットはS.セレヴィシエ(Van Rensburg、他、1998)の研究所株中でうまく発現された。
【0155】
C.所望のセルラーゼ−エンコード核酸配列の宿主細胞内への導入
本発明はさらに、外来の所望のセルラーゼ−エンコード核酸配列を含むように遺伝子組換えされた細胞及び細胞組成物を提供する。親細胞または細胞株はクローニングベクターまたは発現ベクターを用いて遺伝子組み換え(すなわち、変換、形質転換またはトランスフェクト)できる。ベクターは、上述したように例えば、プラスミド、ウイルス粒子、ファージ等の形態である。
【0156】
本発明の形質転換の方法は、形質転換ベクターの全部または一部を糸状菌のゲノム内に安定に統合できる。しかしながら、自己複製の余分な染色体形質転換ベクターを維持する形質転換も考えられる。
【0157】
大量の異種タンパク質を発現するトリコデルマ・リーゼイ細胞株を生成するために多くの標準トランスフェクション方法を用いることができる。DNA構築体をトリコデルマのセルラーゼ生成株内に導入するための公開されている方法のいくつかとしては、Lorito,Hayes,DiPietro及びHarman,1993、Curr.Genet.24:349−356;Goldman,VanMontagu及びHerrera−Estrella,1990,Curr.Genet.17:169−174;Penttila,Nevalainen,Ratto,Salminen及びKnowles,1987、Gene 6:155−164、アスペルギルスに関して、Yelton、Hamer及びTimberlake,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1470−1474、フサリウムに関して、Bajar、Podila及びKolattukudy,1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8202−8212、ストレプトマイセスに関して、Hopwood、他、1985、The John Innes Foundation,Norwich,UK及びバチルスに関して、Brigidi,DeRossi,Bertarini,Riccardi及びMatteuzzi,1990、FEMS Microbiol.Lett.55:135−138が挙げられる。
【0158】
外来ヌクレオチド配列を宿主細胞内に導入する公知の手順を用いることができる。これらは、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、原形質体融合、エレクトロポレーション、バイオリスティクス、リポソーム、マイクロインジェクション、プラズマベクター、ウイルスベクター及びクローンゲノムDNA、cDNA、合成DNAまたはその他の外来遺伝物質を宿主細胞内に導入するためのその他の公知の方法(例えば、Sambrook、他、上記を参照)の使用が挙げられる。米国特許第6,255,115号に記載のアグロバクテリウム媒介トランスフェクション法も使用できる。唯一必要なのは、使用する特定の遺伝子組換え手順により、少なくとも1の遺伝子が異種遺伝子を発現できる宿主細胞内にうまく導入されることができるということである。
【0159】
さらに、所望のセルラーゼ−エンコード核酸配列を含む異種核酸構築体はin vitroで転写でき、得られたRNAは公知の方法、例えばインジェクションにより宿主細胞内に導入される。
【0160】
本発明はさらに、真菌セルラーゼ組成物の生成に使用するためのH.jecorina及びA.ニガーなど糸状菌の新規で有用な形質転換体を含む。本発明は糸状菌、特に所望のセルラーゼコード配列または内生cbhコード配列の欠失を含む真菌の形質転換体を含む。
【0161】
VII.CBH1核酸コード配列及び/またはタンパク質発現の分析
所望のセルラーゼ−エンコード核酸構築体を用いて形質転換した細胞株により所望のセルラーゼ発現を評価するために、タンパク質レベル、RNAレベルで分析を行うことができ、または特にグルコシダーゼ活性及び/または生成に対する機能的バイオアッセイを使用することにより分析を行うことができる。
【0162】
ここに記載の所望のセルラーゼ核酸及びタンパク質配列の1の典型的な用途において、糸状菌、例えばトリコデルマ・リーゼイの遺伝子組換え株は増加した量の所望のセルラーゼを生成するように設計できる。このような遺伝子組換え糸状菌はセルロース分解能が大きく増加したセルラーゼ生成物を生成するのに有用である。1の手段においてこれは、適当な宿主、例えばアスペルギルス・ニガーなどの糸状菌内に所望のセルラーゼをコードする配列を導入することにより達成される。
【0163】
従って、本発明は糸状菌またはその他の適当な宿主の細胞内に所望のセルラーゼをエンコードするDNA配列を含む発現ベクターを導入することにより糸状菌またはその他の適当な宿主内で所望のセルラーゼを発現するための方法を含む。
【0164】
他の側面において、本発明は糸状菌またはその他の適当な宿主内での所望のセルラーゼ発現を修飾するための方法を含む。当該修飾は内生CBHの発現の減少または除去を含む。
【0165】
通常、所望のセルラーゼ発現を分析するために用いる分析は、ノーザンブロッティング、ドットブロッティング(DNAまたはRNA分析)、RT−PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)、または適当な標識プローブ(核酸コード配列に基づく)を用いるin situハイブリダイゼーション、及び従来のサザンブロッティング及びオートラジオグラフィーが挙げられる。
【0166】
さらに、所望のセルラーゼの生成及び/または発現はサンプル内で直接測定でき、例えばセロビオヒドロラーゼ活性、発現及び/または生成の分析により測定できる。当該分析は例えば、それぞれここに明示的に引用するBecker,他、Biochem J.(2001)356:19−30及びMitsuishi、他、FEBS(1990)275:135−138に記載されている。CBH1の単離可溶性及び不溶性基質を加水分解する能力はSrisodsuk、他、J.Biotech.(1997)57:49−57及びNidetzky及びClaeyssens Biotech.Bioeng.(1994)44:961−966に記載の分析を用いて測定できる。セロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼまたはβ−グルコシダーゼ活性を分析するために有用な基質は結晶性セルロース、ろ紙、リン酸膨潤セルロース、セロオリゴ糖、メチルウンベリフェリル・ラクトシド、メチルウンベリフェリル・セロビオシド、オルトニトロフェニル・ラクトシド、パラニトロフェニル・ラクトシド、オルトニトロフェニル・セロビオシド、パラニトロフェニル・セロビオシドが挙げられる。
【0167】
さらに、タンパク質発現は、細胞、組織切片の免疫組織化学的染色または組織培養基の免疫学的分析など免疫学的方法、例えばウエスタンブロットまたはELISAにより評価できる。当該免疫分析は所望のセルラーゼ発現を定性的及び定量的に評価するために用いることができる。当該方法の詳細は当業者に公知であり、当該方法を実施するための多くの試薬が市販されている。
【0168】
所望のセルラーゼの精製体は種々の免疫分析に用いるために発現タンパク質に特異なモノクローナルまたはポリクローナル抗体を生成するために用いることができる(例えば、Hu、他、1991を参照)。典型的な分析はELISA、競合イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロット、間接免疫蛍光試験などが挙げられる。通常、市販の抗体及び/またはキットはセロビオヒドロラーゼタンパク質発現レベルの定量免疫分析に用いることができる。
【0169】
VIII.組換えCBH1タンパク質の単離及び精製
通常、細胞培養基内で生成した所望のセルラーゼタンパク質は培養基内に分泌され、例えば細胞培養基から不要な成分を除去することにより精製または単離できる。しかしながら、場合によっては、所望のセルラーゼタンパク質は細胞溶解物から回収が必要な細胞型で生成できる。その場合、所望のセルラーゼタンパク質を細胞から精製し、当業者により通常用いられる技術を用いて生成した。例としては限定されないが、アフィニティクロマトグラフィー(Tilbeurgh、他、1984)、イオン交換クロマトグラフィー法(Goyal、他、1991;Fliess、他、1983;Bhikhabhai、他、1984;Ellouz、他、1987)、例えば高い分解力を有する物質を用いたイオン交換(Medve、他、1998)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(Tomaz and Queiroz、1999)及び2相分離(Brumbauer、他、1999)が挙げられる。
【0170】
通常、所望のセルラーゼタンパク質は、特定の結合剤(例えば抗体または受容体)への結合親和性、または選択分子量範囲または等電点範囲を有するなどの選択特性を有するタンパク質を分離するために分画する。
【0171】
所定の所望のセルラーゼタンパク質発現が達成されると、生成した所望のセルラーゼタンパク質を細胞または細胞培養基から精製する。このような精製に適した典型的な手順は以下を含む:抗体親和性カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカまたはDEAEなどカチオン交換樹脂によるクロマトグラフィー;クロマト分画;SDS−PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;及び例えばSephadex G−75を用いるゲルろ過。種々のタンパク質精製方法が用いることができ、当該方法は当業者に公知であり、例えばDeutscher,1990;Scopes,1982に記載されている。選択する精製工程は例えば、用いる生成工程の性質及び生成される特定タンパク質に依存する。
【0172】
IX.cbh1及びCBH1の活用
当然のことながら、所望のセルラーゼ核酸、所望のセルラーゼタンパク質及び所望のセルラーゼタンパク質活性を含む組成物は多種多様な用途で用いることができ、そのいくつかを下記に説明する。
【0173】
様々な量で所望のセルラーゼを含む新規で改善されたセルラーゼ組成物は高い洗浄能を示し、柔軟剤として作用し、及び/または綿織物の手触りを改善させる(例えば、“ストーンウォッシング”または“バイオポリッシング”)洗剤組成物、木材パルプを糖に分解する組成物(例えば、バイオ−エタノール生成)及び/または飼料組成物に用いることができる。各タイプのセルラーゼの単離及びキャラクタリゼーションにより当該組成物の特徴を制御する能力が提供される。
【0174】
減少した熱安定性を有する所望のセルラーゼは、例えば、存在すると考えられるその他の酵素に影響しないように酵素活性を低温で中和する必要がある場合に有用である。さらに、当該酵素はセルロース誘導体の限られた変換に有用であり、例えば結晶度またはセルロース誘導体の鎖長を制御するのに有用である。所望の変換範囲に達した後、糖化温度は不安定化されたCBH1の生存温度以上に挙げることができる。CBH1活性は結晶セルロースの加水分解に不可欠であるので、結晶セルロースの変換は高温で停止する。
【0175】
1の好ましい手段において、本発明のセルラーゼは洗剤組成物または手触り及び外観を改善するための織物処理に使用できる。
【0176】
セルロース誘導体生成物の加水分解速度は、複製可能プラスミドとして、またはゲノム内への挿入として少なくとも1の所望のセルラーゼ遺伝子のさらなるコピーを有する形質転換体を用いて増加させることができるので、セルロースまたはヘテログリカンを含む生成物がより速い速度でより大量に分解できる。紙、綿、セルロース系オムツ等のセルロースから作られる生成物は埋立て処理地においてより効果的に分解できる。従って、当該形質転換から得られる発酵生成物または形質転換自体は組成物中に使用でき、満杯の埋立て処理地にある多種多様のセルロース生成物を液化することにより分解を助けることができる。
【0177】
分離した糖化及び発酵は、バイオマス、例えば伐採残(コーンストーバー)中に存在するセルロースをグルコースに変換し、続いて酵母株がグルコースをエタノールに変換する方法である。同時糖化及び発酵は、バイオマス、例えば伐採残(コーンストーバー)中に存在するセルロースをグルコースに変換し、同時に同じ反応器内で酵母株がグルコースをエタノールに変換する方法である。従って、他の手段において、本発明の所望のセルラーゼはバイオマスからエタノールへの分解に利用できる。容易に入手可能なセルロース源からのエタノール生成は安定で再生可能な燃料源を提供する。
【0178】
セルロースベース供給原料は農業廃棄物、草及び木材及びその他の低価値バイオマス、例えば都市ゴミ(例えば、再生紙、庭伐採ゴミ(yard clippings)等)からなる。エタノールは任意のこれらセルロース系供給原料の発酵から生成できる。しかしながら、セルロースは、エタノール変換の前にまず糖に変換されなければならない。
【0179】
多種多様の供給原料が本発明の所望のセルラーゼと用いることができ、使用する種類の選択は変換が行われる地域に依存する。例えば、アメリカ中西部では麦かん、伐採残(コーンストーバー)及びバガスなどの農業廃棄物が主流であり、一方、カリフォルニアでは稲わらが主流である。しかしながら、当然のことながらいかなる入手可能なセルロース系バイオマスも任意の地域で使用できる。
【0180】
増加した量でセロビオヒドロラーゼを含むセルラーゼ組成物はエタノール生成に利用することができる。この方法から得たエタノールはさらにオクタンエンハンサーとして用いることができ、またはガソリンの代わりに直接燃料として用いることができ、燃料源としてのエタノールは石油由来生成物よりもより環境に優しいので有用である。エタノールの使用は大気環境を改善し、局所オゾンレベル及びスモッグを減少させる可能性があることが知られている。さらに、ガソリンの代わりにエタノールを利用することは非再生エネルギー及び石油化学供給の突然移行の影響を緩衝するために戦略的に重要である。
【0181】
エタノールは糖化及び発酵プロセスにより木、葉状植物、都市固体ゴミ及び農業及び林業残留物などのセルロース系バイオマスから生成できる。しかしながら、微生物により生成される天然セロビオヒドロラーゼ混合物内の個々のセルラーゼ酵素の比率は、バイオマスからグルコースへのセルロース変換を速く行うために最も効果的な比率ではない。エンドグルカナーゼは新しいセルロース鎖末端の生成に作用し、それ自身はセロビオヒドロラーゼ活性の基質であり、それによってセルラーゼ系全体の加水分解効率が改善することが知られている。従って、増加した、または最適化されたセロビオヒドロラーゼ活性を使用してエタノール生成を大きく高めることができる。
【0182】
従って、本発明のセロビオヒドロラーゼはセルロースをその糖成分に加水分解する際に使用できる。1の実施態様において、所望のセルラーゼは発酵生物添加前にバイオマスに添加する。第2の実施態様において、所望のセルラーゼは発酵生物と同時にバイオマスに添加する。任意で、いずれの実施態様もその他のセルラーゼ成分が存在できる。
【0183】
他の実施態様において、セルロース系供給原料を前処理することができる。前処理は高温及び希酸、濃酸または希アルカリ溶液を添加することによる。前処理溶液はヘミセルロース成分を少なくとも部分的に加水分解するのに十分な時間で加え、それから中和する。
【0184】
本発明の洗剤組成物はセルラーゼ組成物に加えて(セロビオヒドロラーゼ含量に関係なく、すなわち、セロビオヒドロラーゼを含まない、実質的に含まないまたは増加した量のセロビオヒドロラーゼ)、界面活性剤、例えば陰イオン性、非イオン性及び両性イオン性界面活性剤、ヒドロラーゼ、ビルディング剤、漂白剤、青味剤及び蛍光剤、ケーキング防止剤、可溶化剤、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これら全ての成分は洗剤業界に公知である。上述のセルラーゼ組成物は、希釈液、顆粒、エマルジョン、ゲル、ペースト等の洗剤組成物に加えることができる。当該形態は当業者に公知である。固形洗剤組成物を用いる場合、セルラーゼ組成物は顆粒として処方するのが好ましい。好ましくは、顆粒はセルラーゼ保護剤を含むように処方される。さらに詳細な議論については、ここに引用する米国特許第6,162,782号、表題“Detergent compositions containing cellulase compositions deficient in CBH I type components(CBH I型成分が欠損したセルラーゼ組成物を含有する洗浄剤組成物)”を参照されたい。
【0185】
好ましくは、セルラーゼ組成物は洗剤組成物全体に関して約0.00005重量%〜約5重量%で用いる。より好ましくは、セルラーゼ組成物は洗剤組成物全体に関して約0.0002重量%〜約2重量%を用いる。
【0186】
さらに、所望のセルラーゼ核酸配列は関連核酸配列の同定及びキャラクタリゼーションに使用できる。関連遺伝子または遺伝子産物の機能の測定(予測または確認)に有用な多数の技術は、限定されないが、以下を含む、(A)DNA/RNA分析、例えば(1)過剰発現、異所性発現及びその他の種における発現;(2)遺伝子ノックアウト(逆遺伝学、標的ノックアウト、ウイルスによる遺伝子抑制(VIGS、Baulcombe、1999を参照);(3)遺伝子、特にフランキング調節領域のメチル化状態の分析;及び(4)in situハイブリダイゼーション;(B)遺伝子産物分析、例えば(1)組換えタンパク質発現;(2)抗血清生成、(3)免疫学的局在決定;(4)触媒的またはその他の活性の生化学分析;(5)リン酸化反応状態;及び(6)酵母2ハイブリッド分析によるその他のタンパク質との相互作用;(C)経路分析、例えば、過剰発現表現型に基づいた、または関連遺伝子との配列相同性による、特定生化学またはシグナリング経路内の遺伝子または遺伝子産物のプレイシング;及び(D)特定代謝またはシグナリング経路において単離遺伝子及びその産物の関与を測定または確認するために実施でき、遺伝子機能の測定に役立つ、その他の分析。
【0187】
実施例
本発明を以下の実施例においてより詳細に説明し、これらは本発明の範囲をいかなる形においても制限するものではない。添付の図は本発明の明細書及び説明の不可欠な要素として考慮される。ここに引用する全ての文献はここに明示的に引用されるものとする。
【0188】
実施例1
CBH1相同体の同定
この実施例は、種々の真菌において見られる新規なCBH1相同体について説明する。ゲノムDNAをPCR反応を行うためにいくつかの異なる微生物に関して調製し、相同体CBH1セルラーゼが特定の微生物のDNAによりエンコードされるかどうかを測定した。
【0189】
ゲノムDNAの同定
ゲノムDNAは当業界に公知の任意の方法を用いて単離できる。この一連の実験において、Technical University of Vienna(TUV)との協力により、多様なヒポクレア及びトリコデルマ種、ヒポクレア・シュワイニッチィ(schweinitzii)(CBS 243.63)、ヒポクレア・オリエンタリス(orientalis)(PPRI 3894)、トリコデルマ・プソイドコニンギー(pseudokoningii)(CBS 408.91)及びトリコデルマkonilangbra(単離1)から48のゲノムDNA溶液を入手した。しかしながら、以下の手順を用いることもできる:
細胞を20mlポテトデキストロース培養液(PDB)中、30℃で24時間成長させる。当該細胞を新しいPDB培地中で1:20に希釈し、一晩中成長させる。2mLの細胞を遠心し、ペレットを1mL KC(60g、KCl、2gクエン酸/L、KOHを用いてpHを6.2に調節)中で洗浄する。細胞ペレットを900μL KC中で再懸濁させる。100μL(20mg/mL)ノボザイム(Novozyme:登録商標)を加え、ゆっくりと混合し、次に95%以上の原形質体が形成されるまで、微視的に37℃、最大2時間でプロトプラステーション(protoplastation)を行う。当該細胞を1500rpmで(460g)10分間遠心する。200μL TES/SDS(10mM Tris、50mM EDTA、150mM NaCl、1%SDS)を加え、混合し、室温で5分間培養する。DNAをキアゲンミニプレップ(mini−prep)単離キット(Qiagen)を用いて単離する。カラムを100μLのmilli−Q水を用いて溶出させ、DNAを収集する。
【0190】
もしくは、FastPrep(登録商標)法を用いる方法も好ましい。当該システムはFastPrep(登録商標)機器及び核酸単離のためのFastPrep(登録商標)キットからなる。FastPrep(登録商標)はQbiogeneから利用可能である。
【0191】
プライマーの構築
PCRはPCT−200 Peltier Thermal Cycler(MJ Research社)などの標準PCR機械上で、以下の条件下で行った:
1)1分、96℃で1サイクル
2)30秒、94℃
90秒、45℃(+1℃/サイクル)
2分、72℃
3)繰り返し工程2、10サイクル
4)30秒、94℃
90秒、55℃
2分、72℃
5)繰り返し工程4、20サイクル
6)7分、72℃、1サイクル、及び
7)保管及びさらなる分析のため、低温から15℃。
【0192】
以下のDNAプライマーを種々の微生物から単離したゲノムDNA由来の相同体CBH1遺伝子の増幅に使用するために構築した。タンパク質及びDNAに関してここで用いる全ての記号はIUPAC IUB生化学命名法割当てコードに対応する。
【0193】
相同体5’(FRG192)及び3’( FRG193)プライマーをトリコデルマ・リーゼイ由来CBH1配列に基づいて開発した。両プライマーはインビトロジェン(Invitrogen(登録商標))のGatewayクローニング配列をプライマーの5’に含む。プライマーFRG192はattB1配列を含み、プライマーFRG193はattB2配列を含む。
【式2】
【0194】

PCR条件は以下の通り:10μLの10X反応緩衝液(100mM Tris HCl、pH8−8.5;250mM KCl;50mM(NHSO;20mM MgSOを含む10X反応緩衝液);各0.2mMの、dATP,dTTP、dGTP、dCTP(最終濃度)、1μLの100ng/μLゲノムDNA、0.5μLのPWOポリメラーゼ(Boehringer Mannheim,Cat#1644−947)、μL当たり1ユニット、各0.2μMのプライマー、FRG192及びFRG193(最終濃度)、4μL DMSO及び水100μLまで。
【0195】
これらの条件により異なる種から4つの遺伝子を最終的に得た:
1.ヒポクレア・シュワイニッチィ(CBS 243.63)
2.ヒポクレア・オリエンタリス(PPRI 3894)
3.トリコデルマ・プソイドコニンギ(CBS 408.91)
4.トリコデルマ・konilangbra
Cel7A遺伝子配列の単離
完全長配列をN末端(FRG192)及びC末端(FRG193)プライマーを用いることにより直接得た。完全長DNA配列をベクターNTIソフトウェアを用いる3つのオープンリーディングフレーム内に翻訳した。DNA及びタンパク質とH.jecorina Cel7Aとの比較を行い、推定上のイントロン配列を同定した。イントロン配列を含まないゲノムDNA配列の翻訳により相同体CBH1のタンパク質配列を示した。得られた完全長遺伝子を図3、5、7及び9に示した。
【0196】
実施例2
CBH1相同体の発現及び熱安定性
実施例1の完全長遺伝子を目的地ベクターを適合性のあるA.ニガー Gateway(ジェネンコーが開発)に移した。このベクターを骨格としてpRAX1を用いることにより、Gateway(登録商標)クローニング・テクノロジー:バージョン1、第34−38頁の所定のマニュアルに従って構築した(図11に示す)。
【0197】
新しく開発した発現ベクターを図12に示す。これは新しい遺伝子を目的地ベクターpRAXdes2内に移すものである。これにより最終発現ベクターが得られ、pRAXdesCBH1を呼ぶ(種名で特定)。
【0198】
当該構築体をCao、他に記載の方法に従ってA.ニガー var.アワモリ内に形質転換した(Cao Q−N、Stubbs M、Ngo KQP,Ward M、Cunningham A,Pai EF,Tu G−C及びHofmann T(2000)Penicillopepsin−JT2 a recombinant enzyme from Penicillium Janthinellum and contribution of a hydrogen bond in subsite S3 to kcat Protein Science 9:991−1001)。
【0199】
形質転換を最小培地プレート(Ballance DJ,Buxton FP、及びTurner G(1983)Transformation of Aspergillus nidulans by the orotidine−5’−phosphate decarboxylase gene of Neurospora crassa Biochem Biophys Res Commun 112:284−289)上に筋上に加え、4日間、30℃で成長させた。胞子を当業界に公知の方法を用いて回収した(<http://www.fgsc.net/fgn48/Kaminskyj.htm>を参照)。A.ニデュランス分生子を水中で(胞子を取除くために殺菌湾曲ガラス棒を用いて分生子(conidiating)培養物の表面を擦ることにより)収集し、生存に深刻な損失を生じることなく4℃で数週間から数ヶ月保存できる。しかしながら、新しく収集した胞子はより繁殖して発芽した。長期保存に関して、胞子は50%グリセロール中、−20℃で、または15−20%グリセロール中、−80℃で保存できる。グリセロールは80%水溶液としてより簡単にピペットで取られる。800μLの分生子懸濁水溶液(4℃保存用として作成)を200μL 80%グリセロールに加えたものを−80℃保存用に用いる。400μL懸濁液を600μL 80%グリセロールに加えたものを−20℃保存用に用いる。凍結前に遠心(vortex)する。変異体を回収するため、少量の分生子培養物を摘出し、20% グリセロール内に加え、遠心し、及び−80℃保存として凍結させる。この場合、これらを50% グリセロール内、−80℃で保存する。
【0200】
A.ニガー var アワモリ形質転換体をウリジンが欠落した最小培地(Ballance、他、1983)上で成長させた。形質転換体を、Cao、他(2000)に記載の通り、胞子形成成長寒天プレートからの1cmの胞子懸濁液を100mLの振とうフラスコ中に3日間、37℃で植菌することによりセルラーゼ活性をスクリーニングした。
【0201】
CBH1活性分析は非蛍光4−メチルウンベリフェリル−β−ラクトシドから生成物ラクトース及び7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンへの加水分解に基づき、後者の生成物は蛍光シグナルに関与する。170μL 50mM NaAc緩衝液 pH4.5を96ウェル・マイクロタイタープレート(MTP)(Greiner,Fluotrac 200、art.nr.655076)中にピペットで取り、蛍光に適している。10μLの上澄みを加え、それから10μLのMUL(1mM 4−メチルウンベリフェリル−β−ラクトシド(MUL)のmilliQ水)を加え、MTPをFluostar Galaxy(BMG Labtechnologies;D−77656 Offenburg)中に置く。反応速度を16分間(それぞれ120秒、8サイクル)、λ320nm(励起)及びλ460nm(発光)を用いて50℃で測定する。CBH活性を有する上澄みをそれから下記の実施例5の説明の通り、疎水性相互作用クロマトグラフィーに供した。
【0202】
アミノ酸配列を上記実施例1の通り推定した。CBH1相同体のアミノ酸配列を図4(ヒポクレア・オリエンタリス)、6(ヒポクレア・シュワイニッチィ)、8(トリコデルマkonilangbra)、及び10(トリコデルマ・プソイドコニンギー)に示す。
【0203】
当該相同体の熱安定性は以下の実施例5に説明する通り測定した。
【表2】

【0204】
見ての通り、CBH1セルラーゼ相同体は野生型と比較して変異体CBH1セルラーゼの熱安定性にわずかな影響または悪影響を与えた。当該相同体はH.jecorina CBH1に緊密に関連しており、H.jecorinaと相同体間の熱安定性の違いはH.jecorina CBH1中見られるアミノ酸残基と異なるアミノ酸残基を含む部位が熱安定性に関連している可能性を示す。
【0205】
実施例3
安定性に重要な部位の同定
上述の実施例2で特徴付けられたCBH1相同体のアミノ酸配列を、VectorNTIとJ.jecorina配列を用いて、Clustal Wアルゴリズム(Nucleic Acid Reserch、22(22):4673−4680,1994)を用いて配列した。当該配列を図2に示す。
【0206】
CBH1酵素の安定性に関連する可能性のある部位をCBH1を含む相同体の配列配置に基づいて3つの異なる方法で測定した。第1の方法において、H.jecorina CBH1触媒ドメインと低安定性の少なくとも1の相同体の触媒ドメイン(すなわち、H.オリエンタリスのみ除く)間で異なる部位をCBH1の熱安定性に関係する可能性のある部位として同定した。同定された部位は、ヒポクレアjecorina由来のCBH1中のL6、P13、T24、Q27、S47、T59、T66、G88、N89、T160、Q186、S195、T232、E236、E239、G242、D249、N250、T281、E295、F311、E325、N327、D329、T332、A336、K354、V407、P412、T417、及び/またはF418である。
【0207】
第2の方法において、H.jecorinaまたはH.オリエンタリス中の残基が減少した安定性酵素相同体の全てにおいて見られる残基と同じ場合の部位はTmと相関性がない部位を同定した。安定性との関連性を保有するとして同定された部位は、ヒポクレアjecorina由来のCBH1中の、L6、T24、Q27、S47、T59、T66、T160、Q186、S195、T232、E236、G242、D249、T281、E295、E325、N327、D329、T332、K354、及び/またはP412である。
【0208】
最後の方法において、H.jecorina及びH.オリエンタリスが同じである部位において、H.シュワイニッチィ中の対応残基がこれらの2つのいずれとも同じまたは異なるが、T.konilangbraまたはT.プソイドコニンギーの対応部位中に異なるアミノ酸を有する場合の部位は酵素の熱安定性に関連する可能性がある部位として考慮した。これらの部位は、実験的にTm安定性との相関性を最もよく示し、Q186、S195、E325、T332、及びP412として同定した。
【0209】
H.jecorina CBH1中に見られるアミノ酸残基と異なるアミノ酸残基を含む部位の同定を従って、部位飽和突然変異(site saturated mutagenesis)に供した。
【0210】
実施例4
CBH1変異体の発現
PCR断片を実施例1に記載のプライマー及び手順を用いて得た。当該断片をキアゲン・ゲル抽出キットを用いてアガロースゲルから精製した。精製断片を、ここに引用するGateway(登録商標)テクノロジー指示マニュアル(バージョンC)(インビトロジェン(登録商標))を用いてpDONR(登録商標)201ベクター(インビトロジェン(登録商標))とクロナーゼ(clonase)反応を行うために用いた。それから遺伝子をこのエントリー(ENTRY)ベクターから目的地ベクター(pRAXdes2)に移動させ、発現ベクターpRAXCBH1を得た。
【0211】
細胞を所望のセルラーゼ−エンコード核酸を含む発現ベクターを用いて形質転換させた。宿主細胞、A.ニガーをそれから実施例2に説明するように、所望のセルラーゼの発現可能な条件下で成長させた。
【0212】
実施例3で同定された、H.jecorina CBH1と異なる部位は当該変異体の熱安定性に関連する可能性があるので、従って部位飽和突然変異に供した。
【0213】
実施例5
CBH1変異体の熱安定性
CBH1セルラーゼ変異体を上述の通りクローン及び発現させる(実施例4を参照)。Cel7A野生型及び変異体をそれからカラムクロマトグラフィーによりこれらの培養物の細胞を含まない(cell−free)上澄みから精製する。タンパク質を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて精製する。カラムをBioCAD(登録商標)Sprint Perfusionクロマトグラフィーシステム上でPoros(登録商標)20HP2樹脂を用いて操作し、これらは両方ともApplied Biosystems製である。
【0214】
HICカラムを5カラム体積の0.020M リン酸ナトリウム、0.5M 硫酸アンモニウムを用いてpH6.8で平衡にする。硫酸アンモニウムを上澄みに加え、最終濃度が約0.5Mになるようにし、及びpHを6.8に調節する。ろ過後、上澄みをカラム上に充填する。充填後、カラムを10カラム量(volume)の平衡緩衝液で洗浄し、それから10カラム量で0.5M硫酸アンモニウムからゼロ硫酸アンモニウム勾配で、pH6.8、0.02Mリン酸ナトリウム中で溶出させる。Cel7Aをおおよそ中間勾配で溶出させる。断片を収集し、還元、SDS−PAGEゲル分析に基づいてプールする。
【0215】
融点をLuo、他、Biochemistry 34:10669及びGloss、他、Biochemistry 36:5612の方法に従って測定する。
【0216】
データをAviv 215円偏光二色性分光計により集める。210〜260ナノメートルの変異体のスペクトルを25℃で取る。緩衝液条件は50mM ビス−トリス−プロパン/50mM 酢酸アンモニウム/氷酢酸、pH5.5である。タンパク質濃度は0.25〜0.5mgs/mLに維持する。非折り畳みを観測するための最適波長を測定した後、サンプルを同じ緩衝条件下、温度25℃〜75℃に傾斜させることにより熱変性させる。データを5秒間、2度毎に回収する。部分的に可逆的な非折り畳みを230ナノメートル、0.1cmパス・レングス細胞中で観測する。
【0217】
CBH1セルラーゼ変異体に導入された変異は、野生型と比較して変異体CBH1セルラーゼの熱安定性に好ましく影響する。
【0218】
ここに記載される実施例及び実施態様は説明目的のためのみであり、これに照らして種々の修正または変形が当業者に示唆され、本発明の概念及び精神及び請求の範囲の範囲内であることが理解される。ここに記載の全ての文献、特許及び特許出願はその全体を全ての目的においてここに引用するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】図1はH.jecorina由来の野生型Cel7A(CBH1)の核酸(下の行)(配列番号1)及びアミノ酸(上の行)(配列番号2)配列を示す。
【図2A】図2A及び2Bは、Cel7AファミリーメンバーのH.jecorina(T.リーゼイともいう)(配列番号2)、H.オリエンタリス(配列番号5)、H.シュワイニッチィ(配列番号8)、T.konilangbra(配列番号11)及びT.プソイドコニンギー(配列番号14)のアミノ酸配列を示す。また、コンセンサス配列も示す。
【図2B】図2A及び2Bは、Cel7AファミリーメンバーのH.jecorina(T.リーゼイともいう)(配列番号2)、H.オリエンタリス(配列番号5)、H.シュワイニッチィ(配列番号8)、T.konilangbra(配列番号11)及びT.プソイドコニンギー(配列番号14)のアミノ酸配列を示す。また、コンセンサス配列も示す。
【図3】図3はH.オリエンタリスCBH1(配列番号3)のゲノムDNA配列である。イントロンは太字、下線で示す。
【図4】図4はH.オリエンタリスCBH1のシグナル配列(A)(配列番号4)及び成熟アミノ酸配列(B)(配列番号5)である。
【図5】図5はH.シュワイニッチィCBH1のゲノムDNA配列(配列番号6)である。イントロンは太字、下線で示す。
【図6】図6はH.シュワイニッチィCBH1のシグナル配列(A)(配列番号7)及び成熟アミノ酸配列(B)(配列番号8)である。
【図7】図7はT.konilangbraCBH1のゲノムDNA配列(配列番号9)である。イントロンは太字、下線で示す。
【図8】図8はT.konilangbraCBH1のシグナル配列(A)(配列番号10)及び成熟アミノ酸配列(B)(配列番号11)である。
【図9】図9はT.プソイドコニンギーCBH1のゲノムDNA配列(配列番号12)である。イントロンは太字、下線で示す。
【図10】図10はT.プソイドコニンギーCBH1のシグナル配列(A)(配列番号13)及び成熟アミノ酸配列(B)(配列番号14)である。
【図11】図11はpRAX1ベクターである。このベクターは、アスペルギルス・ニドランス(nidulans)ゲノムDNA断片AMA1配列の5259bp HindIII断片(Molecular Microbiology 1996 19:565−574)を挿入したこと以外は、プラスミドpGAPT2に基づく。塩基1〜1134はアスペルギルスニガー・グルコアミラーゼ遺伝子プロモーターを含む。塩基3098〜3356及び4950〜4971はアスペルギルスニガー・グルコアミラーゼターミネーターを含む。アスペルギルス・ニドランスpyrG遺伝子は3357〜4949に真菌形質転換のためのマーカーとして挿入した。遺伝子が挿入できるマルチクローニング部位(MCS)も存在する。
【図12】図12はpRAXdes2ベクター骨格である。このベクターはプラスミドベクターpRAX1に基づく。ゲートウェイカセットをpRAX1ベクター内に挿入した(環状プラスミドの内部の矢印により示す)。このカセットは組換え配列attR1及びattR2及び選択マーカーcatH及びccdBを含む。当該ベクターはGateway(登録商標)クローニング・テクノロジーのマニュアル:バーション1第34−38頁に従って作成し、インビトロジェン(Invitrogen)からの大腸菌DB3.1中でのみ複製し、その他の大腸菌宿主におけるccdB遺伝子は死滅した。まず、PCR断片をattB1/2組換え配列を含むプライマーを用いて作る。この断片をpDONR201(インビトロジェンから市販)を用いて組換える。このベクターはcatH及びccdBを有するattP1/2組換え配列を組換え部位間に含む。インビトロジェンのBPクロナーゼ酵素をこのいわゆるエントリー(ENTRY)ベクター中に当該PCR断片を組み込むために用い、当該PCR断片が挿入されたクローンは、ccdBを発現するクローンは生存できないので50μg/mlカナマイシンで選択できる。そして、att配列を変異させ、attL1及びattL2と呼ぶ。2番目の工程はこのクローンをpRAXdes2ベクターと組合わせる(attR1及びattR2 catH及びcccBを組換え部位間に含む)。インビトロジェンのLRクロナーゼ酵素を目的ベクター中のエントリーベクターからの導入を組合わせるために用いる。100μg/mlアンピシリンを用いると、cccBは死滅し、エントリーベクターはアンピシリン感受性なので、pRAXCBH1ベクターのみ選択される。この方法により、発現ベクターを調製し、A.ニガーを形質転換するために用いることができる。
【図13】図13は、アスペルギルス中、CBH1相同体または変異体をエンコードする核酸の発現に用いる、pRAXdes2cbh1ベクターの説明である。CBH1酵素相同体または変異体をエンコードする核酸は、att配列の相同組換えによりベクター内にクローンした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1に表す成熟H.jecorina CBH1タンパク質の1以上の残基L6、P13、T24、Q27、S47、T59、T66、G88、Q186、S195、T232、E236、E239、G242、N250、T281、F311、N327、D329、A336、K354、V407、P412、T417、及び/またはF418に対応する位置で置換または欠失を含む、変異体CBH1セルラーゼ。
【請求項2】
前記変異体が、Q186(E)、S195(A/E)、E239S、G242(H/Y/N/S/T/D/A)、及びP412(T/S/A)からなる群より選択される残基に対応する位置に置換を有する、請求項1に記載の変異体CBH1セルラーゼ。
【請求項3】
請求項1又は2に従うCBH1変異体をエンコードする単離核酸配列。
【請求項4】
請求項3に従う核酸を含むベクター。
【請求項5】
請求項4のベクターを用いて形質転換した宿主細胞。
【請求項6】
以下の工程を含むCBH1変異体の生成方法:
(a)適当な条件下、適当な培養基中で、請求項5に従う宿主細胞を培養して、CBH1変異体を生成する工程;
(b)前記生成したCBH1変異体を得る工程。
【請求項7】
請求項1又は2のCBH1変異体を含む飼料添加物。
【請求項8】
木材パルプと請求項1又は2のCBH1変異体を接触させることを含む、木材パルプの処理方法。
【請求項9】
バイオマスと請求項1又は2のCBH1変異体を接触させることを含む、バイオマスから糖への変換方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−152136(P2011−152136A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45120(P2011−45120)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【分割の表示】特願2006−509249(P2006−509249)の分割
【原出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】