CIS系太陽電池及びその製造方法
【課題】光吸収層の裏面側に位置する下部電極の表面に光散乱効果の高い凹凸形状を形成することのできるCIS太陽電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電鋳法によってNiとMoの合金からなる合金基板32を形成する。合金基板32は厚み方向において合金組成が変化しており、下面側はNiが主な組成となり、上面側はMoが主な組成となっている。また、合金基板32の上面には、ピラミッド状をした多数の微細な凹凸形状37が形成されている。合金基板32の上面にはCIS系の光吸収層33が形成され、その上方には上部電極35が設けられる。
【解決手段】電鋳法によってNiとMoの合金からなる合金基板32を形成する。合金基板32は厚み方向において合金組成が変化しており、下面側はNiが主な組成となり、上面側はMoが主な組成となっている。また、合金基板32の上面には、ピラミッド状をした多数の微細な凹凸形状37が形成されている。合金基板32の上面にはCIS系の光吸収層33が形成され、その上方には上部電極35が設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCIS系太陽電池及びその製造方法に関し、具体的には、光吸収層としてCIGS、CIGSS、CISなどを用いたCIS系太陽電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池、アモルファスシリコン型太陽電池(以上、シリコン系太陽電池)、GaAs系太陽電池、CdS/CdTe系太陽電池、CIS系太陽電池(以上、化合物系太陽電池)、色素増感太陽電池(有機物系)などがある。
【0003】
このうち、CIS系太陽電池は、多結晶であるため大面積化や量産化に向き、禁制帯幅が材料次第で自由に変えられ、さらに、シリコン系太陽電池の理論変換効率と同等の理論変換効率(31%)及びシリコン系太陽電池と同等の寿命(約20年)を有するという特徴がある。従って、将来性のある太陽電池として注目されており、日本においてもCIS系太陽電池の量産化が始まっている。
【0004】
CIS系太陽電池は、光吸収層の材料としてCu、In、Ga、Ag、Se、Sなどからなるカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI族化合物を用いた薄膜多結晶太陽電池であって、代表的なものは、Cu(In,Ga)Se2[CIGS]、Cu(In,Ga)(Se,S)2[CIGSS]、CuInS2[CIS]などを用いたものである。
【0005】
図1はCIS系太陽電池11の一般的な構造を示す斜視図である。CIS系太陽電池11は、ガラス(ソーダライムガラス)からなる基板12の上にMoからなる下部電極13を設け、下部電極13の上にCIGS等からなる光吸収層14を形成し、その上にCdS等からなるバッファ層15を介してZnO等からなる透明な上部電極16を設けたものである。具体的には、基板12を洗浄した後、この基板12の上面にMo等をスパッタすることによって下部電極13を形成し、さらに下部電極13の上にCIGS等のカルコパイライト系材料を同時蒸着させて光吸収層14を形成する。ついで、当該基板12をCdS溶液に浸漬して光吸収層14の上面にバッファ層15を成長させ、バッファ層15の上にZnO等をスパッタすることによって上部電極16を形成する。
【0006】
一方、シリコン系太陽電池21では、図2に示すように、上面に平均粗さが0.1〜10μmの凹凸形状27を形成したNi電鋳基板22の上にZnOからなる下部電極23を形成し、下部電極23の上にアモルファスシリコンからなる光吸収層24を形成し、その上にZnOからなる透明な上部電極26を設けたものが知られている。このような先行技術例としては、特開2001−345460号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0007】
このようなシリコン系太陽電池21によれば、電鋳基板22の表面に形成されている凹凸形状27のために下部電極23の表面にも凹凸形状28が生じている。そのため、上部電極26を通って光吸収層24に入射した光29は凹凸形状28で散乱されて光吸収層24内に閉じ込めて吸収され、シリコン系太陽電池21の変換効率が向上する。また、基板として電鋳基板22を用いることにより、基板表面に安価に凹凸形状を作製することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2001−345460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図2に示した構造のシリコン系太陽電池21を考慮すれば、図1に示したようなCIS系太陽電池11においても、下部電極13に凹凸形状を設けることで変換効率を向上させることが考えられる。
【0010】
しかし、実際には、CIS系太陽電池11では、下部電極13の表面に微細な凹凸形状を形成することはできなかった。シリコン系太陽電池の場合には、下部電極23の膜厚が0.05μm(50nm)程度と薄いので、電鋳基板22の表面に形成されていた凹凸形状27がそのまま下部電極23の表面に凹凸形状28となって表れる。これに対し、CIS系太陽電池11の場合には、光吸収層14とオーミック接合させると共に格子定数を整合させるため下部電極13にMoを用いており、下部電極13の膜厚が1μm程度必要になる。そのため、図3に示すように、微細な凹凸形状17を有する基板12の上にMoからなる下部電極13を形成しても、基板12の凹凸形状17が下部電極13の上面では平坦化されてしまう。あるいは、下部電極13の上面に凹凸形状が生じたとしても、それは凹凸形状17に比べるとかなり鈍った凹凸形状にしかならない。そのため、下部電極13によって十分に光を散乱させることができず、下部電極13で散乱する光の利用効果が悪くなる問題があった。
【0011】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、光吸収層の裏面側に位置する下部電極の表面に光散乱効果の高い凹凸形状を形成することのできるCIS太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるCIS系太陽電池は、上面に凹凸形状を有する基板と、光を吸収するための光吸収層と、前記光吸収層の上方に配置された上部電極とを有するCIS系太陽電池において、前記光吸収層が前記凹凸形状に接して前記基板上に形成されており、前記基板が下部電極として機能することを特徴としている。
【0013】
本発明にかかるCIS系太陽電池は、基板の上面に凹凸形状を有し、基板上面に接して光吸収層を設けているので、光吸収層に入射した光のうち、基板上面にまで達した光は凹凸形状で散乱されて光吸収層に吸収され、それによって太陽電池の変換効率が向上する。また、凹凸形状は基板に直接形成されているので、精度よくくっきりとした形状に形成することが可能である。しかも、基板が下部電極(オーミック電極)の機能を有しているので、凹凸形状の上に別途下部電極を形成して凹凸形状が鈍ったり、平坦化されたりする恐れもない。
【0014】
本発明にかかるCIS系太陽電池のある実施態様は、前記基板が、前記光吸収層と接する上面付近にMoを含むことを特徴としている。かかる実施態様によれば、Moを含む基板表面を光吸収層にオーミック接合させることができ、基板を下部電極(オーミック電極)として機能させることができる。また、基板表面にMoを含んでいるので、基板表面に光吸収層を成長する際に格子定数を整合させることができて良質な光吸収層を形成することができる。
【0015】
本発明にかかるCIS系太陽電池の別な実施態様は、前記基板が合金によって形成されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、合金組成を調整することによって基板の線膨張係数を制御することができる。また、金属板を貼り合わせた場合にはバイメタル効果によって温度変化に伴う反りが発生するが、基板を合金化することで温度変化に伴う基板の反りを小さくできる。よって、基板の線膨張係数を光吸収層の線膨張係数にほぼ等しくすることで光吸収層のクラックや剥離を防ぐことができる。
【0016】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施形態は、前記合金によって形成された基板が、下面側と上面側とで合金組成が異なっていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、基板全体としての特性と、下部電極としての特性をそれぞれ制御することができる。例えば、表面では下部電極(オーミック電極)に適した金属材料の濃度が大きくなるようにし、全体としては光吸収層の線膨張係数と等しくなるようにすることができる。
【0017】
また、本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施形態は、前記基板がMoを含む合金であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、基板がMoを含んでいるので、基板を光吸収層にオーミック接合させることが可能になる。
【0018】
特に、基板をNiとMoの合金で作製すれば、Niは光吸収層よりも線膨張係数が大きく、Moは光吸収層よりも線膨張係数が小さいので、全体としての合金比を調整することによって基板の線膨張係数を光吸収層の線膨張係数にほぼ等しくすることができる。同様に、基板をCoとMoの合金で作製すれば、Coは光吸収層よりも線膨張係数が大きく、Moは光吸収層よりも線膨張係数が小さいので、全体としての合金比を調整することによって基板の線膨張係数を光吸収層の線膨張係数にほぼ等しくすることができる。
【0019】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記基板が、下面側から前記光吸収層と接する上面へ向かうにつれてMoの濃度が大きくなるように形成されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、Moの濃度が基板表面で最も大きくなっているので、基板の表面を光吸収層にオーミック接合させることができ、基板を下部電極(オーミック電極)として使用することができる。
【0020】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記凹凸形状が、ピラミッド形状をした凹部または凸部によって構成されていることを特徴としている。ピラミッド形状をした凹凸形状によれば、その高さや幅あるいは頂角を調整することによって入射光の散乱具合を容易に制御することができる。
【0021】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記ピラミッド形状の頂角が110°であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、光吸収層内における光の滞在距離を最も長くでき、光吸収層で光をもっともよく吸収させて変換効率を良好にすることができる。
【0022】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記凹凸形状の高さが、前記光吸収層の厚さの半分以下であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、凹凸形状が光吸収層の上に飛び出ることがなく、光吸収層のもっとも薄い部分の厚さが薄くなりすぎるのを防ぐことができて光吸収層で効率よく光を吸収することができる。
【0023】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記基板が電鋳法により作製されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、電鋳法によって基板を作製することで凹凸形状作製時のスループットを向上させることができ、基板に安価に凹凸形状を作製することができる。また、下部電極の機能を有する基板を電鋳法によって作製することにより下部電極(基板表面)にくっきりとした凹凸形状を形成することができる。
【0024】
本発明にかかるCIS系太陽電池の製造方法は、本発明にかかるCIS系太陽電池の製造方法であって、前記凹凸形状の反転形状が形成された母型に電鋳を行って前記母型の上面に基板材料を堆積させる工程と、前記母型の上面に形成された基板から前記母型を取り除くことにより、前記凹凸形状を有する前記基板を作製する工程と、前記基板の上面に前記光吸収層を形成する工程と、前記光吸収層の上方に上部電極を形成する工程とを備えたことを特徴としている。
【0025】
本発明にかかるCIS系太陽電池の製造方法によれば、電鋳法により凹凸形状の反転形状が形成された母型の上面に基板材料を堆積させて凹凸形状を有する基板を作製することができるので、高いスループットでもって、かつ安価に基板を作製することができる。また、電鋳法によって基板を作製しているので、電鋳の特徴であるパターン制御性の高さを活かすことができ、くっきりとした形状の凹凸形状を形成することができる。
【0026】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。なお、図面はいずれも模式的な図であって、実際の寸法とは異なっている。また、寸法比率も実際の比率とは異なっており、例えば合金基板の凹凸形状は誇張して大きく描いている。
【0028】
(第1の実施形態)
以下、図4を参照して本発明の第1の実施形態によるCIS系太陽電池31の構造を説明する。このCIS系太陽電池31は、電鋳法によって作製された合金基板32の上にCIGS、CIGSS、CIS等のCIS系(カルコパイライト化合物系)の光吸収層33を形成し、さらにその上にバッファ層34を介して透明な上部電極35を設けたものである。また、上部電極35の上面には一対の取出し電極36を有している。典型的な一例を挙げると、合金基板32はNiとMoの合金であって、50μm程度の厚みを有している。光吸収層33は、CIGSによって2μm〜3μmの厚みに形成されている。バッファ層34は、CdS等によって厚みが0.05μm(50nm)〜0.1μm(100nm)に形成されている。上部電極35は、ZnO等によって厚みが0.6μm(600nm)に形成されている。
【0029】
合金基板32はNiとMoの合金であって、その厚みは10μm〜500μmの範囲であることが望ましい。さらに、合金基板32の厚みは、強度や重量を考慮すれば、20μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、特に、構造上および取り扱いにおける機械的強度などの点からは50μm程度が好ましい。合金基板32は厚み方向において合金組成が変化していて、濃度勾配を有している。すなわち、合金基板32の下部はNiによって形成され、上面側へいくほど次第にMoの濃度が高くなっていて合金基板32の上面近傍はMo層またはMoリッチ合金層によって構成されている。例えば、上記のように合金基板32の厚みが50μm程度である場合では、表面の厚み1μm程度の領域がMo層またはMoリッチ合金層となっており、その下の49μm程度の層がNi層またはNiリッチ合金層となっており、両者の間ではMoとNiとが互いに拡散している。
【0030】
このように合金基板32はNiとMoとの合金であるが、合金基板32の表面は光吸収層33とオーミック接合することのできるMoによって形成されているので、合金基板32またはその表面は下部電極の機能を有する。逆にいえば、合金基板32の表面は光吸収層33とオーミック接合できるだけのMo濃度となっている必要がある。また、合金基板32の表面がMoまたはMoリッチとなっているので、CIS系の光吸収層33を成長させるとき、合金基板32の表面と光吸収層33との間で格子定数を整合させることができ、良質な光吸収層33(多結晶薄膜)を成長させることができる。
【0031】
また、合金基板32の上面のほぼ全面には多数の微細な凹凸形状37(つまり、凹形状または凸形状)が密に形成されている。1個の凹凸形状37は、例えば図5に示すようなピラミッド形の凸形状となっている。この凹凸形状37は、ピラミッド形状の対向する2斜面に垂直で、かつ頂点を通過する平面内における頂角αが、約110°となっている。さらに、凹凸形状37の高さHは、光吸収層33の厚みの半分以下となっている。例えば、凹凸形状37は、高さHが0.01μm(10nm)〜1.5μm、底面の一辺の長さLが0.6μm〜3μmとなるように形成されていることが望ましい。凹凸形状37の表面は鏡面となっている。なお、凹凸形状37の寸法や配置はランダムであっても差し支えない。
【0032】
図6は、ピラミッド形状をした凹凸形状37の対向する2斜面に垂直で、かつ頂点を通過する平面内における凹凸形状37の頂角α(図5参照)と、光吸収層33に上面から入射した光38が凹凸形状37で反射して光吸収層33の上面から出るまでの光路長(図4参照)との関係をシミュレーションした結果を表した図である。この図によれば、頂角αが約110°のときに光吸収層33における光路長がもっとも長くなることが分かる。よって、凹凸形状37の頂角αを約110°とすることにより、光吸収層33内における光の滞在距離が最も長くなり、光吸収層33で光をもっともよく吸収させて変換効率を良好にすることができる。
【0033】
合金基板32は、NiとMoが合金化されていて徐々に組成が変化しているので、Ni層の上に単にMo層を積層した場合(貼り合わせ構造)に比べて、熱膨張係数の違いによって温度変化に伴う反りが発生しにくい。そのため、合金基板32の上に光吸収層33を成膜するときの成膜温度(400℃〜550℃)によっても、光吸収層33と合金基板32の間に剥離が発生しにくい。
【0034】
また、合金基板32と光吸収層33との熱膨張係数の違いに基因して、温度変化により光吸収層33にクラックが生じたり、光吸収層33が剥離したりすることのないように、合金基板32の全体としての線膨張係数は光吸収層33の線膨張係数に等しくしている。例えば、光吸収層33がCIGSの場合には、その線膨張係数は9×10−6/℃〜10×10−6/℃である。Niの線膨張係数は13×10−6/℃、Moの線膨張係数は5.2×10−6/℃であるから、NiとMoの基板全体としての合金比(質量比)をNi:Mo=1:1.08とすれば、合金基板32の線膨張係数は約9×10−6/℃となる。また、NiとMoの基板全体としての合金比をNi:Mo=1:0.64とすれば、合金基板32の線膨張係数は約10×10−6/℃となる。従って、合金基板32の線膨張係数をCIGSの光吸収層33と等しくするためには、合金基板32全体としてのNiとMoの合金比Mo/Ni=0.64〜1.08とすればよい。特に、光吸収層33の線膨張係数のばらつきなどを考慮すれば、Ni:Mo=1:1とするのが好ましい。
【0035】
上記のように濃度勾配のついた合金基板32は、電鋳法により作製することができる。電鋳法とは、一般に電解浴にドラムを浸漬し、ドラム上に厚く金属を電析させ、その電析物をドラムより剥離させて、それを製品、または複製物とする方法である。例えば、電鋳法でNi箔を作製する場合には、スルファミン酸ニッケルを用いた電解浴のなかに、チタン、ステンレス鋼などで作られたドラムを一部浸し、そのドラム表面上にNiを電析させ、それを連続的に剥離して帯状の銅箔を製造する。陽極には不溶性陽極(鉛、アンチモン)を用い、電解浴中の銅イオンの減少は銅を化学的に溶解させて補給することによって行われる。
【0036】
図7(a)〜図7(d)は電鋳法により合金基板32を作製する工程を表している。まず、フォトリソグラフィやEB、レーザー加工などの技術を用いて、図7(a)に示すように、凹凸形状37と嵌り合う微細な反転形状40を有する母型39を作製する。ついで、この母型39をNiイオンとMoイオンを含む電解浴中に浸漬し、陽極と陰極の間に電流を流すことにより反転形状40の表面にNiやMoを電析させ、図7(b)のように電鋳法により合金基板32を作製する。このとき、当初すなわち反転形状40に近い層では、Mo層又はMoリッチ合金層が堆積するようにし、母型39の上に堆積する合金基板32の厚みが厚くなるに従ってMoの濃度が少なくなり、最終的にはNiが堆積するようにする。したがって、図7(c)及び図7(d)に示すように、母型39を剥離して得られた合金基板32は、凹凸形状37側の表面層ではMoまたはMoリッチの層となり、下面側ではNi層となる。
【0037】
上記のようにNiとMoとの組成比を変化させながら母型39に合金基板32を堆積させるには、電鋳時に陽極と陰極との間に流す電流密度を制御すればよい。図8(a)はpH3のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜中のMo濃度(at%)を表している。また、図8(b)はpH5のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜中のMo濃度(at%)を表している。図8(a)、図8(b)の横軸は電解液の浴中Mo濃度(mol/リットル)を表し、縦軸が膜中Mo濃度(at%)を表している。また、白丸、三角印及び黒丸は、それぞれ陽極と陰極の間の電流密度が400A/m2、600A/m2、800A/m2のときの膜中Mo濃度を示す。図8(a)、図8(b)から分かるように、浴中Mo濃度が高くなると膜中Mo濃度が大きくなり、また電流密度によっても膜中Mo濃度が変化する。よって、傾斜組成を有する合金基板32を作製するには、合金基板32を電鋳法により作製しつつ電流密度を変化させることでMoとNiの濃度(組成比)を次第に変化させればよい。また、電流だけでは所望の組成を得ることのできない領域(Moの組成比が非常に大きな部分やNiの組成比が非常に大きな部分)では、電流密度を時間的に変化させると共に、電解液のMoイオン濃度を制御すればよい。電解液のMo濃度を制御する方法には、例えば、電解液のMoイオン濃度を時間とともに次第に変化させる方法と、Moイオン濃度の異なる複数の電解液に母型39を順番に入れていく方法とがある。
【0038】
このように電鋳法により合金基板32を作製すれば、真空工程(真空チャンバ内での工程)が不要であるのでスループットが良好となり、合金基板32の作製コストを安価にすることができる。また、この合金基板32の凹凸形状37側は光吸収層33と接する面、すなわち下部電極としての機能を有するが、その凹凸形状37を母型39からの転写によってくっきりとした形状に形成することができる。よって、光吸収層33に入射した光を凹凸形状37で効果的に散乱させることができ、CIS系太陽電池31の変換効率を良好にすることができる。
【0039】
光吸収層33は、CIGS、CIGSS、CIS等のCIS系カルコパイライト化合物からなる多結晶薄膜であって、凹凸形状37の底面または最下点から測った厚みが2μm〜3μmとなっている。光吸収層33は、図7(e)に示すように、3段階法やセレン化法、多元蒸着法、MBE法などの常法によって合金基板32の上面に成膜される。例えば、3段階法では、1層目に(In,Ga)2Se3膜を形成し、ついでCuとSeのみを供給して膜全体の組成がCu過剰組成になるまで膜形成を行う。さらに、この膜に再びIn,Ga,Seの各フラックスを照射し、最終的な組成が(In,Ga)過剰組成となるようにする。また、セレン化法の場合には、In/Cu(Ga)/Mo金属積層膜をスパッタによって合金基板32の上面に形成し、その積層膜を400℃以上の温度でH2Seガスと反応させてCu(In,Ga)Se2[CIGS]膜を得る。
【0040】
光吸収層を形成する際には、ソーダライムガラスからなる基板を用いて、基板から光吸収層にNaを供給するのが一般的であるが、この実施形態では基板に合金基板32を用いているので、光吸収層33の成膜中に光吸収層33にNaを直接入れるようにしている。
【0041】
バッファ層34はCdSによって厚みが2μmとなるように形成される。しかし、地球環境を考えればCdフリーの材料を用いることが望ましいので、バッファ層34としてはZn(O,S,OH)xを用いるのが好ましい。バッファ層34は、図7(f)に示すように、例えばCBD(Chemical Bath Deposition)法によって0.05μm(50nm)〜0.1μm(100nm)の厚みとなるように光吸収層33の上面に溶液成長させられる。
【0042】
上部電極35は、図7(g)に示すように、スパッタ法により厚みが600μmとなるように成膜される。上部電極35の材料は、コストの点からはZnOが望ましいが、In2O3、SnO2、CdO、Cd2SO4、TiO2、Ta2O5、Bi2O3、MoO3、NaxWO3などの導電性酸化物を用いることもできる。また、これらの化合物を混合したもの、これらの化合物に導電率を変化させる元素(ドーパント)を添加したもの(例えば、ITO、IZO、FTO、AZO、BZO、ZnOにAlを微量添加したものなど)でもよい。また、上記のような化合物の膜を高抵抗層と低抵抗層の2層構造とすれば、上部電極35におけるシャントパスを低減する効果がある。
【0043】
取出し電極36は、アルミ材料によって1μm〜3μmの厚みに形成される。例えば、取出し電極36を形成するための開口をマスクにあけておき、このマスクを位置合わせして上面電極35の上に重ね、蒸着やスクリーン印刷によって電極材料をマスクの開口から上面電極35に供給して取出し電極36を形成する。
【0044】
本発明の第1の実施形態によるCIS系太陽電池にあっては、合金基板32が電鋳法により作製されているので、凹凸形状37を有する合金基板32を容易かつ安価に作製することができる。しかも、凹凸形状は精度よくくっきりとした形状に形成される。合金基板32の上面はMoで構成されていて下部電極の機能を有しているので、この合金基板32の上面にさらに下部電極を設ける必要がなく、光吸収層33を合金基板32の凹凸形状37の上に直接に形成することができる。よって、光吸収層33に入射した光は、凹凸形状37で散乱されて光吸収層33内に広がって吸収され、その結果CIS系太陽電池31の変換効率が向上する。
【0045】
また、第1の実施形態によるCIS系太陽電池にあっては、合金基板32がNiとMoの合金であって、厚み方向において組成が変化し、合金基板32の表面でMoの濃度が大きくなっているので、合金基板32の表面に下部電極(オーミック電極)を形成することができる。また、合金基板32の表面でMoの濃度が大きくなっているので、光吸収層33の成膜時に合金基板32の表面と光吸収層33とで格子定数が整合し易くなる。また、合金基板32が合金であるので、合金基板32の熱膨張係数が光吸収層33の熱膨張係数にほぼ等しくなるように合金比を調整することができ、光吸収層33のクラックや剥離を防ぐことができる。
【0046】
(第2の実施形態)
つぎに、本発明にかかる第2の実施形態を説明する。CIS系太陽電池の構造については第1の実施形態と同じであるので、図示及び説明を省略する。
【0047】
第1の実施形態では、合金基板32はMoとNiの合金であったが、第2の実施形態では、MoとCoとの合金を用いて合金基板32を作製している。この場合には、下面側がCoによって構成され、凹凸形状37の形成されている上面側がMo層またはMoリッチ合金層となっている。このようなMo−Co合金の場合にも、図9(a)及び図9(b)に示すように、膜中Mo濃度は浴中Mo濃度及び電流密度によって変化するので、電鋳の工程において電流密度や浴中Mo濃度を変化させることにより、合金基板32におけるMo濃度を変化させることができる。
【0048】
Mo−Co合金の合金基板32の線膨張係数を光吸収層33の線膨張係数に等しくして、温度変化による光吸収層33のクラックや光吸収層33の剥離を防止するためには、CoとMoの合金比を以下のようにすればよい。例えば、光吸収層33がCIGSの場合には、その線膨張係数は9×10−6/℃〜10×10−6/℃である。Coの線膨張係数は12.4×10−6/℃、Moの線膨張係数は5.2×10−6/℃であるから、CoとMoの基板全体としての合金比(質量比)をCo:Mo=1:0.92とすれば、合金基板32の線膨張係数は約9×10−6/℃となる。また、CoとMoの基板全体としての合金比をCo:Mo=1:0.52とすれば、合金基板32の線膨張係数は約10×10−6/℃となる。従って、合金基板32の線膨張係数をCIGSの光吸収層33と等しくするためには、合金基板32全体としてのCoとMoの合金比Mo/Co=0.52〜0.92とすればよい。
【0049】
なお、合金基板32は、Ni−MoやCo−Moの合金組成以外にも、Ni、Cu、Ti、Fe、W、Cr、Al、Au、Nb、Ta、V、Pt、Pbなどのうちの1種または2種以上の材料を下面側の組成とし、Moを上面側の組成として、線膨張係数が光吸収層33とほぼ等しくなるように全体の組成比を調整したものであってもよい。
【0050】
(第3の実施形態)
図10は本発明の第3の実施形態によるCIS系太陽電池で用いられる合金基板32を示す斜視図である。この合金基板32では、図10に示すように、合金基板32の上面に微細な三角形溝状の凹凸形状37を設けている。このような三角形溝状の凹凸形状37でも、光を散乱させてCIS系太陽電池の変換効率を向上させることができる。
【0051】
(第4の実施形態)
図11は本発明の第4の実施形態によるCIS系太陽電池の構造を示す断面図である。この実施形態では、凹凸形状37が、矩形状の凸部または凹部によって構成されている。あるいは、矩形溝状の凹凸形状37であってもよい。この場合も、凹凸形状37は同じ形状のものを一定ピッチで配列していてもよく、同じ形状のものをランダムに配置していてもよく、異なる形状のものをランダムに形成していてもよい。このような凹凸形状37では、光を散乱させる効果は低いが、光吸収層33と合金基板32の剥離を防止する効果がある。
【0052】
なお、凹凸形状37としては、その上に形成される光吸収層33の結晶成長を制御するための形状をしたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、CIS系太陽電池の一般的な構造を示す斜視図である。
【図2】図2は、シリコン系太陽電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、基板に凹凸形状を設けたCIS系太陽電池を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施形態によるCIS系太陽電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、図4の太陽電池の合金基板の表面に形成された凹凸形状の一つを示す斜視図である。
【図6】図6は、ピラミッド形状をした凹凸形状の対向する2斜面に垂直で、かつ頂点を通過する平面内における凹凸形状の頂角αと、光吸収層に上面から入射した光が凹凸形状で反射して光吸収層の上面から出るまでの光路長との関係をシミュレーションした結果を表した図である。
【図7】図7(a)〜図7(d)は、電鋳法により合金基板を作製する工程を表した図である。
【図8】図8(a)はpH3のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図、図8(b)はpH5のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図である。
【図9】図9(a)は、本発明の第2の実施形態において、pH3のCo−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図、図8(b)はpH5のCo−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図である。
【図10】図10は、本発明の第3の実施形態によるCIS系太陽電池で用いられる合金基板を示す斜視図である。
【図11】図11は、本発明の第4の実施形態によるCIS系太陽電池の構造を模式的に表した断面図である。
【符号の説明】
【0054】
31 CIS系太陽電池
32 合金基板
33 光吸収層
34 バッファ層
35 上部電極
36 取出し電極
37 凹凸形状
39 母型
40 反転形状
【技術分野】
【0001】
本発明はCIS系太陽電池及びその製造方法に関し、具体的には、光吸収層としてCIGS、CIGSS、CISなどを用いたCIS系太陽電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池、アモルファスシリコン型太陽電池(以上、シリコン系太陽電池)、GaAs系太陽電池、CdS/CdTe系太陽電池、CIS系太陽電池(以上、化合物系太陽電池)、色素増感太陽電池(有機物系)などがある。
【0003】
このうち、CIS系太陽電池は、多結晶であるため大面積化や量産化に向き、禁制帯幅が材料次第で自由に変えられ、さらに、シリコン系太陽電池の理論変換効率と同等の理論変換効率(31%)及びシリコン系太陽電池と同等の寿命(約20年)を有するという特徴がある。従って、将来性のある太陽電池として注目されており、日本においてもCIS系太陽電池の量産化が始まっている。
【0004】
CIS系太陽電池は、光吸収層の材料としてCu、In、Ga、Ag、Se、Sなどからなるカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI族化合物を用いた薄膜多結晶太陽電池であって、代表的なものは、Cu(In,Ga)Se2[CIGS]、Cu(In,Ga)(Se,S)2[CIGSS]、CuInS2[CIS]などを用いたものである。
【0005】
図1はCIS系太陽電池11の一般的な構造を示す斜視図である。CIS系太陽電池11は、ガラス(ソーダライムガラス)からなる基板12の上にMoからなる下部電極13を設け、下部電極13の上にCIGS等からなる光吸収層14を形成し、その上にCdS等からなるバッファ層15を介してZnO等からなる透明な上部電極16を設けたものである。具体的には、基板12を洗浄した後、この基板12の上面にMo等をスパッタすることによって下部電極13を形成し、さらに下部電極13の上にCIGS等のカルコパイライト系材料を同時蒸着させて光吸収層14を形成する。ついで、当該基板12をCdS溶液に浸漬して光吸収層14の上面にバッファ層15を成長させ、バッファ層15の上にZnO等をスパッタすることによって上部電極16を形成する。
【0006】
一方、シリコン系太陽電池21では、図2に示すように、上面に平均粗さが0.1〜10μmの凹凸形状27を形成したNi電鋳基板22の上にZnOからなる下部電極23を形成し、下部電極23の上にアモルファスシリコンからなる光吸収層24を形成し、その上にZnOからなる透明な上部電極26を設けたものが知られている。このような先行技術例としては、特開2001−345460号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0007】
このようなシリコン系太陽電池21によれば、電鋳基板22の表面に形成されている凹凸形状27のために下部電極23の表面にも凹凸形状28が生じている。そのため、上部電極26を通って光吸収層24に入射した光29は凹凸形状28で散乱されて光吸収層24内に閉じ込めて吸収され、シリコン系太陽電池21の変換効率が向上する。また、基板として電鋳基板22を用いることにより、基板表面に安価に凹凸形状を作製することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2001−345460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図2に示した構造のシリコン系太陽電池21を考慮すれば、図1に示したようなCIS系太陽電池11においても、下部電極13に凹凸形状を設けることで変換効率を向上させることが考えられる。
【0010】
しかし、実際には、CIS系太陽電池11では、下部電極13の表面に微細な凹凸形状を形成することはできなかった。シリコン系太陽電池の場合には、下部電極23の膜厚が0.05μm(50nm)程度と薄いので、電鋳基板22の表面に形成されていた凹凸形状27がそのまま下部電極23の表面に凹凸形状28となって表れる。これに対し、CIS系太陽電池11の場合には、光吸収層14とオーミック接合させると共に格子定数を整合させるため下部電極13にMoを用いており、下部電極13の膜厚が1μm程度必要になる。そのため、図3に示すように、微細な凹凸形状17を有する基板12の上にMoからなる下部電極13を形成しても、基板12の凹凸形状17が下部電極13の上面では平坦化されてしまう。あるいは、下部電極13の上面に凹凸形状が生じたとしても、それは凹凸形状17に比べるとかなり鈍った凹凸形状にしかならない。そのため、下部電極13によって十分に光を散乱させることができず、下部電極13で散乱する光の利用効果が悪くなる問題があった。
【0011】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、光吸収層の裏面側に位置する下部電極の表面に光散乱効果の高い凹凸形状を形成することのできるCIS太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるCIS系太陽電池は、上面に凹凸形状を有する基板と、光を吸収するための光吸収層と、前記光吸収層の上方に配置された上部電極とを有するCIS系太陽電池において、前記光吸収層が前記凹凸形状に接して前記基板上に形成されており、前記基板が下部電極として機能することを特徴としている。
【0013】
本発明にかかるCIS系太陽電池は、基板の上面に凹凸形状を有し、基板上面に接して光吸収層を設けているので、光吸収層に入射した光のうち、基板上面にまで達した光は凹凸形状で散乱されて光吸収層に吸収され、それによって太陽電池の変換効率が向上する。また、凹凸形状は基板に直接形成されているので、精度よくくっきりとした形状に形成することが可能である。しかも、基板が下部電極(オーミック電極)の機能を有しているので、凹凸形状の上に別途下部電極を形成して凹凸形状が鈍ったり、平坦化されたりする恐れもない。
【0014】
本発明にかかるCIS系太陽電池のある実施態様は、前記基板が、前記光吸収層と接する上面付近にMoを含むことを特徴としている。かかる実施態様によれば、Moを含む基板表面を光吸収層にオーミック接合させることができ、基板を下部電極(オーミック電極)として機能させることができる。また、基板表面にMoを含んでいるので、基板表面に光吸収層を成長する際に格子定数を整合させることができて良質な光吸収層を形成することができる。
【0015】
本発明にかかるCIS系太陽電池の別な実施態様は、前記基板が合金によって形成されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、合金組成を調整することによって基板の線膨張係数を制御することができる。また、金属板を貼り合わせた場合にはバイメタル効果によって温度変化に伴う反りが発生するが、基板を合金化することで温度変化に伴う基板の反りを小さくできる。よって、基板の線膨張係数を光吸収層の線膨張係数にほぼ等しくすることで光吸収層のクラックや剥離を防ぐことができる。
【0016】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施形態は、前記合金によって形成された基板が、下面側と上面側とで合金組成が異なっていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、基板全体としての特性と、下部電極としての特性をそれぞれ制御することができる。例えば、表面では下部電極(オーミック電極)に適した金属材料の濃度が大きくなるようにし、全体としては光吸収層の線膨張係数と等しくなるようにすることができる。
【0017】
また、本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施形態は、前記基板がMoを含む合金であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、基板がMoを含んでいるので、基板を光吸収層にオーミック接合させることが可能になる。
【0018】
特に、基板をNiとMoの合金で作製すれば、Niは光吸収層よりも線膨張係数が大きく、Moは光吸収層よりも線膨張係数が小さいので、全体としての合金比を調整することによって基板の線膨張係数を光吸収層の線膨張係数にほぼ等しくすることができる。同様に、基板をCoとMoの合金で作製すれば、Coは光吸収層よりも線膨張係数が大きく、Moは光吸収層よりも線膨張係数が小さいので、全体としての合金比を調整することによって基板の線膨張係数を光吸収層の線膨張係数にほぼ等しくすることができる。
【0019】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記基板が、下面側から前記光吸収層と接する上面へ向かうにつれてMoの濃度が大きくなるように形成されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、Moの濃度が基板表面で最も大きくなっているので、基板の表面を光吸収層にオーミック接合させることができ、基板を下部電極(オーミック電極)として使用することができる。
【0020】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記凹凸形状が、ピラミッド形状をした凹部または凸部によって構成されていることを特徴としている。ピラミッド形状をした凹凸形状によれば、その高さや幅あるいは頂角を調整することによって入射光の散乱具合を容易に制御することができる。
【0021】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記ピラミッド形状の頂角が110°であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、光吸収層内における光の滞在距離を最も長くでき、光吸収層で光をもっともよく吸収させて変換効率を良好にすることができる。
【0022】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記凹凸形状の高さが、前記光吸収層の厚さの半分以下であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、凹凸形状が光吸収層の上に飛び出ることがなく、光吸収層のもっとも薄い部分の厚さが薄くなりすぎるのを防ぐことができて光吸収層で効率よく光を吸収することができる。
【0023】
本発明にかかるCIS系太陽電池のさらに別な実施態様は、前記基板が電鋳法により作製されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、電鋳法によって基板を作製することで凹凸形状作製時のスループットを向上させることができ、基板に安価に凹凸形状を作製することができる。また、下部電極の機能を有する基板を電鋳法によって作製することにより下部電極(基板表面)にくっきりとした凹凸形状を形成することができる。
【0024】
本発明にかかるCIS系太陽電池の製造方法は、本発明にかかるCIS系太陽電池の製造方法であって、前記凹凸形状の反転形状が形成された母型に電鋳を行って前記母型の上面に基板材料を堆積させる工程と、前記母型の上面に形成された基板から前記母型を取り除くことにより、前記凹凸形状を有する前記基板を作製する工程と、前記基板の上面に前記光吸収層を形成する工程と、前記光吸収層の上方に上部電極を形成する工程とを備えたことを特徴としている。
【0025】
本発明にかかるCIS系太陽電池の製造方法によれば、電鋳法により凹凸形状の反転形状が形成された母型の上面に基板材料を堆積させて凹凸形状を有する基板を作製することができるので、高いスループットでもって、かつ安価に基板を作製することができる。また、電鋳法によって基板を作製しているので、電鋳の特徴であるパターン制御性の高さを活かすことができ、くっきりとした形状の凹凸形状を形成することができる。
【0026】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。なお、図面はいずれも模式的な図であって、実際の寸法とは異なっている。また、寸法比率も実際の比率とは異なっており、例えば合金基板の凹凸形状は誇張して大きく描いている。
【0028】
(第1の実施形態)
以下、図4を参照して本発明の第1の実施形態によるCIS系太陽電池31の構造を説明する。このCIS系太陽電池31は、電鋳法によって作製された合金基板32の上にCIGS、CIGSS、CIS等のCIS系(カルコパイライト化合物系)の光吸収層33を形成し、さらにその上にバッファ層34を介して透明な上部電極35を設けたものである。また、上部電極35の上面には一対の取出し電極36を有している。典型的な一例を挙げると、合金基板32はNiとMoの合金であって、50μm程度の厚みを有している。光吸収層33は、CIGSによって2μm〜3μmの厚みに形成されている。バッファ層34は、CdS等によって厚みが0.05μm(50nm)〜0.1μm(100nm)に形成されている。上部電極35は、ZnO等によって厚みが0.6μm(600nm)に形成されている。
【0029】
合金基板32はNiとMoの合金であって、その厚みは10μm〜500μmの範囲であることが望ましい。さらに、合金基板32の厚みは、強度や重量を考慮すれば、20μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、特に、構造上および取り扱いにおける機械的強度などの点からは50μm程度が好ましい。合金基板32は厚み方向において合金組成が変化していて、濃度勾配を有している。すなわち、合金基板32の下部はNiによって形成され、上面側へいくほど次第にMoの濃度が高くなっていて合金基板32の上面近傍はMo層またはMoリッチ合金層によって構成されている。例えば、上記のように合金基板32の厚みが50μm程度である場合では、表面の厚み1μm程度の領域がMo層またはMoリッチ合金層となっており、その下の49μm程度の層がNi層またはNiリッチ合金層となっており、両者の間ではMoとNiとが互いに拡散している。
【0030】
このように合金基板32はNiとMoとの合金であるが、合金基板32の表面は光吸収層33とオーミック接合することのできるMoによって形成されているので、合金基板32またはその表面は下部電極の機能を有する。逆にいえば、合金基板32の表面は光吸収層33とオーミック接合できるだけのMo濃度となっている必要がある。また、合金基板32の表面がMoまたはMoリッチとなっているので、CIS系の光吸収層33を成長させるとき、合金基板32の表面と光吸収層33との間で格子定数を整合させることができ、良質な光吸収層33(多結晶薄膜)を成長させることができる。
【0031】
また、合金基板32の上面のほぼ全面には多数の微細な凹凸形状37(つまり、凹形状または凸形状)が密に形成されている。1個の凹凸形状37は、例えば図5に示すようなピラミッド形の凸形状となっている。この凹凸形状37は、ピラミッド形状の対向する2斜面に垂直で、かつ頂点を通過する平面内における頂角αが、約110°となっている。さらに、凹凸形状37の高さHは、光吸収層33の厚みの半分以下となっている。例えば、凹凸形状37は、高さHが0.01μm(10nm)〜1.5μm、底面の一辺の長さLが0.6μm〜3μmとなるように形成されていることが望ましい。凹凸形状37の表面は鏡面となっている。なお、凹凸形状37の寸法や配置はランダムであっても差し支えない。
【0032】
図6は、ピラミッド形状をした凹凸形状37の対向する2斜面に垂直で、かつ頂点を通過する平面内における凹凸形状37の頂角α(図5参照)と、光吸収層33に上面から入射した光38が凹凸形状37で反射して光吸収層33の上面から出るまでの光路長(図4参照)との関係をシミュレーションした結果を表した図である。この図によれば、頂角αが約110°のときに光吸収層33における光路長がもっとも長くなることが分かる。よって、凹凸形状37の頂角αを約110°とすることにより、光吸収層33内における光の滞在距離が最も長くなり、光吸収層33で光をもっともよく吸収させて変換効率を良好にすることができる。
【0033】
合金基板32は、NiとMoが合金化されていて徐々に組成が変化しているので、Ni層の上に単にMo層を積層した場合(貼り合わせ構造)に比べて、熱膨張係数の違いによって温度変化に伴う反りが発生しにくい。そのため、合金基板32の上に光吸収層33を成膜するときの成膜温度(400℃〜550℃)によっても、光吸収層33と合金基板32の間に剥離が発生しにくい。
【0034】
また、合金基板32と光吸収層33との熱膨張係数の違いに基因して、温度変化により光吸収層33にクラックが生じたり、光吸収層33が剥離したりすることのないように、合金基板32の全体としての線膨張係数は光吸収層33の線膨張係数に等しくしている。例えば、光吸収層33がCIGSの場合には、その線膨張係数は9×10−6/℃〜10×10−6/℃である。Niの線膨張係数は13×10−6/℃、Moの線膨張係数は5.2×10−6/℃であるから、NiとMoの基板全体としての合金比(質量比)をNi:Mo=1:1.08とすれば、合金基板32の線膨張係数は約9×10−6/℃となる。また、NiとMoの基板全体としての合金比をNi:Mo=1:0.64とすれば、合金基板32の線膨張係数は約10×10−6/℃となる。従って、合金基板32の線膨張係数をCIGSの光吸収層33と等しくするためには、合金基板32全体としてのNiとMoの合金比Mo/Ni=0.64〜1.08とすればよい。特に、光吸収層33の線膨張係数のばらつきなどを考慮すれば、Ni:Mo=1:1とするのが好ましい。
【0035】
上記のように濃度勾配のついた合金基板32は、電鋳法により作製することができる。電鋳法とは、一般に電解浴にドラムを浸漬し、ドラム上に厚く金属を電析させ、その電析物をドラムより剥離させて、それを製品、または複製物とする方法である。例えば、電鋳法でNi箔を作製する場合には、スルファミン酸ニッケルを用いた電解浴のなかに、チタン、ステンレス鋼などで作られたドラムを一部浸し、そのドラム表面上にNiを電析させ、それを連続的に剥離して帯状の銅箔を製造する。陽極には不溶性陽極(鉛、アンチモン)を用い、電解浴中の銅イオンの減少は銅を化学的に溶解させて補給することによって行われる。
【0036】
図7(a)〜図7(d)は電鋳法により合金基板32を作製する工程を表している。まず、フォトリソグラフィやEB、レーザー加工などの技術を用いて、図7(a)に示すように、凹凸形状37と嵌り合う微細な反転形状40を有する母型39を作製する。ついで、この母型39をNiイオンとMoイオンを含む電解浴中に浸漬し、陽極と陰極の間に電流を流すことにより反転形状40の表面にNiやMoを電析させ、図7(b)のように電鋳法により合金基板32を作製する。このとき、当初すなわち反転形状40に近い層では、Mo層又はMoリッチ合金層が堆積するようにし、母型39の上に堆積する合金基板32の厚みが厚くなるに従ってMoの濃度が少なくなり、最終的にはNiが堆積するようにする。したがって、図7(c)及び図7(d)に示すように、母型39を剥離して得られた合金基板32は、凹凸形状37側の表面層ではMoまたはMoリッチの層となり、下面側ではNi層となる。
【0037】
上記のようにNiとMoとの組成比を変化させながら母型39に合金基板32を堆積させるには、電鋳時に陽極と陰極との間に流す電流密度を制御すればよい。図8(a)はpH3のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜中のMo濃度(at%)を表している。また、図8(b)はpH5のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜中のMo濃度(at%)を表している。図8(a)、図8(b)の横軸は電解液の浴中Mo濃度(mol/リットル)を表し、縦軸が膜中Mo濃度(at%)を表している。また、白丸、三角印及び黒丸は、それぞれ陽極と陰極の間の電流密度が400A/m2、600A/m2、800A/m2のときの膜中Mo濃度を示す。図8(a)、図8(b)から分かるように、浴中Mo濃度が高くなると膜中Mo濃度が大きくなり、また電流密度によっても膜中Mo濃度が変化する。よって、傾斜組成を有する合金基板32を作製するには、合金基板32を電鋳法により作製しつつ電流密度を変化させることでMoとNiの濃度(組成比)を次第に変化させればよい。また、電流だけでは所望の組成を得ることのできない領域(Moの組成比が非常に大きな部分やNiの組成比が非常に大きな部分)では、電流密度を時間的に変化させると共に、電解液のMoイオン濃度を制御すればよい。電解液のMo濃度を制御する方法には、例えば、電解液のMoイオン濃度を時間とともに次第に変化させる方法と、Moイオン濃度の異なる複数の電解液に母型39を順番に入れていく方法とがある。
【0038】
このように電鋳法により合金基板32を作製すれば、真空工程(真空チャンバ内での工程)が不要であるのでスループットが良好となり、合金基板32の作製コストを安価にすることができる。また、この合金基板32の凹凸形状37側は光吸収層33と接する面、すなわち下部電極としての機能を有するが、その凹凸形状37を母型39からの転写によってくっきりとした形状に形成することができる。よって、光吸収層33に入射した光を凹凸形状37で効果的に散乱させることができ、CIS系太陽電池31の変換効率を良好にすることができる。
【0039】
光吸収層33は、CIGS、CIGSS、CIS等のCIS系カルコパイライト化合物からなる多結晶薄膜であって、凹凸形状37の底面または最下点から測った厚みが2μm〜3μmとなっている。光吸収層33は、図7(e)に示すように、3段階法やセレン化法、多元蒸着法、MBE法などの常法によって合金基板32の上面に成膜される。例えば、3段階法では、1層目に(In,Ga)2Se3膜を形成し、ついでCuとSeのみを供給して膜全体の組成がCu過剰組成になるまで膜形成を行う。さらに、この膜に再びIn,Ga,Seの各フラックスを照射し、最終的な組成が(In,Ga)過剰組成となるようにする。また、セレン化法の場合には、In/Cu(Ga)/Mo金属積層膜をスパッタによって合金基板32の上面に形成し、その積層膜を400℃以上の温度でH2Seガスと反応させてCu(In,Ga)Se2[CIGS]膜を得る。
【0040】
光吸収層を形成する際には、ソーダライムガラスからなる基板を用いて、基板から光吸収層にNaを供給するのが一般的であるが、この実施形態では基板に合金基板32を用いているので、光吸収層33の成膜中に光吸収層33にNaを直接入れるようにしている。
【0041】
バッファ層34はCdSによって厚みが2μmとなるように形成される。しかし、地球環境を考えればCdフリーの材料を用いることが望ましいので、バッファ層34としてはZn(O,S,OH)xを用いるのが好ましい。バッファ層34は、図7(f)に示すように、例えばCBD(Chemical Bath Deposition)法によって0.05μm(50nm)〜0.1μm(100nm)の厚みとなるように光吸収層33の上面に溶液成長させられる。
【0042】
上部電極35は、図7(g)に示すように、スパッタ法により厚みが600μmとなるように成膜される。上部電極35の材料は、コストの点からはZnOが望ましいが、In2O3、SnO2、CdO、Cd2SO4、TiO2、Ta2O5、Bi2O3、MoO3、NaxWO3などの導電性酸化物を用いることもできる。また、これらの化合物を混合したもの、これらの化合物に導電率を変化させる元素(ドーパント)を添加したもの(例えば、ITO、IZO、FTO、AZO、BZO、ZnOにAlを微量添加したものなど)でもよい。また、上記のような化合物の膜を高抵抗層と低抵抗層の2層構造とすれば、上部電極35におけるシャントパスを低減する効果がある。
【0043】
取出し電極36は、アルミ材料によって1μm〜3μmの厚みに形成される。例えば、取出し電極36を形成するための開口をマスクにあけておき、このマスクを位置合わせして上面電極35の上に重ね、蒸着やスクリーン印刷によって電極材料をマスクの開口から上面電極35に供給して取出し電極36を形成する。
【0044】
本発明の第1の実施形態によるCIS系太陽電池にあっては、合金基板32が電鋳法により作製されているので、凹凸形状37を有する合金基板32を容易かつ安価に作製することができる。しかも、凹凸形状は精度よくくっきりとした形状に形成される。合金基板32の上面はMoで構成されていて下部電極の機能を有しているので、この合金基板32の上面にさらに下部電極を設ける必要がなく、光吸収層33を合金基板32の凹凸形状37の上に直接に形成することができる。よって、光吸収層33に入射した光は、凹凸形状37で散乱されて光吸収層33内に広がって吸収され、その結果CIS系太陽電池31の変換効率が向上する。
【0045】
また、第1の実施形態によるCIS系太陽電池にあっては、合金基板32がNiとMoの合金であって、厚み方向において組成が変化し、合金基板32の表面でMoの濃度が大きくなっているので、合金基板32の表面に下部電極(オーミック電極)を形成することができる。また、合金基板32の表面でMoの濃度が大きくなっているので、光吸収層33の成膜時に合金基板32の表面と光吸収層33とで格子定数が整合し易くなる。また、合金基板32が合金であるので、合金基板32の熱膨張係数が光吸収層33の熱膨張係数にほぼ等しくなるように合金比を調整することができ、光吸収層33のクラックや剥離を防ぐことができる。
【0046】
(第2の実施形態)
つぎに、本発明にかかる第2の実施形態を説明する。CIS系太陽電池の構造については第1の実施形態と同じであるので、図示及び説明を省略する。
【0047】
第1の実施形態では、合金基板32はMoとNiの合金であったが、第2の実施形態では、MoとCoとの合金を用いて合金基板32を作製している。この場合には、下面側がCoによって構成され、凹凸形状37の形成されている上面側がMo層またはMoリッチ合金層となっている。このようなMo−Co合金の場合にも、図9(a)及び図9(b)に示すように、膜中Mo濃度は浴中Mo濃度及び電流密度によって変化するので、電鋳の工程において電流密度や浴中Mo濃度を変化させることにより、合金基板32におけるMo濃度を変化させることができる。
【0048】
Mo−Co合金の合金基板32の線膨張係数を光吸収層33の線膨張係数に等しくして、温度変化による光吸収層33のクラックや光吸収層33の剥離を防止するためには、CoとMoの合金比を以下のようにすればよい。例えば、光吸収層33がCIGSの場合には、その線膨張係数は9×10−6/℃〜10×10−6/℃である。Coの線膨張係数は12.4×10−6/℃、Moの線膨張係数は5.2×10−6/℃であるから、CoとMoの基板全体としての合金比(質量比)をCo:Mo=1:0.92とすれば、合金基板32の線膨張係数は約9×10−6/℃となる。また、CoとMoの基板全体としての合金比をCo:Mo=1:0.52とすれば、合金基板32の線膨張係数は約10×10−6/℃となる。従って、合金基板32の線膨張係数をCIGSの光吸収層33と等しくするためには、合金基板32全体としてのCoとMoの合金比Mo/Co=0.52〜0.92とすればよい。
【0049】
なお、合金基板32は、Ni−MoやCo−Moの合金組成以外にも、Ni、Cu、Ti、Fe、W、Cr、Al、Au、Nb、Ta、V、Pt、Pbなどのうちの1種または2種以上の材料を下面側の組成とし、Moを上面側の組成として、線膨張係数が光吸収層33とほぼ等しくなるように全体の組成比を調整したものであってもよい。
【0050】
(第3の実施形態)
図10は本発明の第3の実施形態によるCIS系太陽電池で用いられる合金基板32を示す斜視図である。この合金基板32では、図10に示すように、合金基板32の上面に微細な三角形溝状の凹凸形状37を設けている。このような三角形溝状の凹凸形状37でも、光を散乱させてCIS系太陽電池の変換効率を向上させることができる。
【0051】
(第4の実施形態)
図11は本発明の第4の実施形態によるCIS系太陽電池の構造を示す断面図である。この実施形態では、凹凸形状37が、矩形状の凸部または凹部によって構成されている。あるいは、矩形溝状の凹凸形状37であってもよい。この場合も、凹凸形状37は同じ形状のものを一定ピッチで配列していてもよく、同じ形状のものをランダムに配置していてもよく、異なる形状のものをランダムに形成していてもよい。このような凹凸形状37では、光を散乱させる効果は低いが、光吸収層33と合金基板32の剥離を防止する効果がある。
【0052】
なお、凹凸形状37としては、その上に形成される光吸収層33の結晶成長を制御するための形状をしたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、CIS系太陽電池の一般的な構造を示す斜視図である。
【図2】図2は、シリコン系太陽電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、基板に凹凸形状を設けたCIS系太陽電池を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施形態によるCIS系太陽電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、図4の太陽電池の合金基板の表面に形成された凹凸形状の一つを示す斜視図である。
【図6】図6は、ピラミッド形状をした凹凸形状の対向する2斜面に垂直で、かつ頂点を通過する平面内における凹凸形状の頂角αと、光吸収層に上面から入射した光が凹凸形状で反射して光吸収層の上面から出るまでの光路長との関係をシミュレーションした結果を表した図である。
【図7】図7(a)〜図7(d)は、電鋳法により合金基板を作製する工程を表した図である。
【図8】図8(a)はpH3のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図、図8(b)はpH5のNi−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図である。
【図9】図9(a)は、本発明の第2の実施形態において、pH3のCo−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図、図8(b)はpH5のCo−Mo電解液を用いた場合に電鋳によって形成される膜の膜中Mo濃度を表す図である。
【図10】図10は、本発明の第3の実施形態によるCIS系太陽電池で用いられる合金基板を示す斜視図である。
【図11】図11は、本発明の第4の実施形態によるCIS系太陽電池の構造を模式的に表した断面図である。
【符号の説明】
【0054】
31 CIS系太陽電池
32 合金基板
33 光吸収層
34 バッファ層
35 上部電極
36 取出し電極
37 凹凸形状
39 母型
40 反転形状
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に凹凸形状を有する基板と、光を吸収するための光吸収層と、前記光吸収層の上方に配置された上部電極とを有するCIS系太陽電池において、
前記光吸収層は、前記凹凸形状に接して前記基板上に形成されており、前記基板は下部電極として機能することを特徴とするCIS系太陽電池。
【請求項2】
前記基板は、前記光吸収層と接する上面付近にMoを含むことを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項3】
前記基板は、合金によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項4】
前記基板は、下面側と上面側とで合金組成が異なっていることを特徴とする、請求項3に記載のCIS系太陽電池。
【請求項5】
前記基板は、Moを含む合金により形成されていることを特徴とする、請求項3に記載のCIS系太陽電池。
【請求項6】
前記基板は、NiとMoの合金により構成されていることを特徴とする、請求項5に記載のCIS系太陽電池。
【請求項7】
前記基板は、CoとMoの合金により構成されていることを特徴とする、請求項5に記載のCIS系太陽電池。
【請求項8】
前記基板は、下面側から前記光吸収層と接する上面へ向かうにつれてMoの濃度が大きくなるように形成されていることを特徴とする、請求項6または7のいずれか1項に記載のCIS系太陽電池。
【請求項9】
前記凹凸形状は、ピラミッド形状をした凹部または凸部によって構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項10】
前記ピラミッド形状の頂角が110°であることを特徴とする、請求項9に記載のCIS系太陽電池。
【請求項11】
前記凹凸形状の高さが、前記光吸収層の厚さの半分以下であることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項12】
前記基板が電鋳法により作製されていることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項13】
請求項1に記載したCIS系太陽電池の製造方法であって、
前記凹凸形状の反転形状が形成された母型に電鋳を行って前記母型の上面に基板材料を堆積させる工程と、
前記母型の上面に形成された基板から前記母型を取り除くことにより、前記凹凸形状を有する前記基板を作製する工程と、
前記基板の上面に前記光吸収層を形成する工程と、
前記光吸収層の上方に上部電極を形成する工程と、
を備えたCIS系太陽電池の製造方法。
【請求項1】
上面に凹凸形状を有する基板と、光を吸収するための光吸収層と、前記光吸収層の上方に配置された上部電極とを有するCIS系太陽電池において、
前記光吸収層は、前記凹凸形状に接して前記基板上に形成されており、前記基板は下部電極として機能することを特徴とするCIS系太陽電池。
【請求項2】
前記基板は、前記光吸収層と接する上面付近にMoを含むことを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項3】
前記基板は、合金によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項4】
前記基板は、下面側と上面側とで合金組成が異なっていることを特徴とする、請求項3に記載のCIS系太陽電池。
【請求項5】
前記基板は、Moを含む合金により形成されていることを特徴とする、請求項3に記載のCIS系太陽電池。
【請求項6】
前記基板は、NiとMoの合金により構成されていることを特徴とする、請求項5に記載のCIS系太陽電池。
【請求項7】
前記基板は、CoとMoの合金により構成されていることを特徴とする、請求項5に記載のCIS系太陽電池。
【請求項8】
前記基板は、下面側から前記光吸収層と接する上面へ向かうにつれてMoの濃度が大きくなるように形成されていることを特徴とする、請求項6または7のいずれか1項に記載のCIS系太陽電池。
【請求項9】
前記凹凸形状は、ピラミッド形状をした凹部または凸部によって構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項10】
前記ピラミッド形状の頂角が110°であることを特徴とする、請求項9に記載のCIS系太陽電池。
【請求項11】
前記凹凸形状の高さが、前記光吸収層の厚さの半分以下であることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項12】
前記基板が電鋳法により作製されていることを特徴とする、請求項1に記載のCIS系太陽電池。
【請求項13】
請求項1に記載したCIS系太陽電池の製造方法であって、
前記凹凸形状の反転形状が形成された母型に電鋳を行って前記母型の上面に基板材料を堆積させる工程と、
前記母型の上面に形成された基板から前記母型を取り除くことにより、前記凹凸形状を有する前記基板を作製する工程と、
前記基板の上面に前記光吸収層を形成する工程と、
前記光吸収層の上方に上部電極を形成する工程と、
を備えたCIS系太陽電池の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−21479(P2009−21479A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184196(P2007−184196)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]