説明

CO除去触媒とその製造方法

【課題】 CO除去活性が高いCO除去触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 下記式で定義されるフリー硝酸濃度Aが50〜200である硝酸を溶媒とする硝酸ルテニウム溶液を担体に含浸させて得られることを特徴とするCO除去触媒。
A=B−C×1.87
(ここで、Bは硝酸ルテニウム溶液のアルカリ消費量硝酸換算値[グラム/リットル]、Cは硝酸ルテニウム溶液のルテニウム濃度[グラム/リットル]である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造システムや燃料電池システム等に使用されるCO除去触媒及びその製造方法、特に硝酸ルテニウム化合物を用いて調製した、COを選択的に除去するCO除去触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用あるいは自動車用等として、実用化研究が積極的になされている。
【0003】
水素源として石油系炭化水素を用いて水素を製造する場合、一般に、炭化水素を、改質触媒の存在下に水蒸気改質又は部分酸化改質処理する方法が用いられる。そして、これらの反応において得られる水素含有ガスには、通常、目的とする水素ガスとともにCOが含まれる。燃料電池中にCOがあるレベル以上含まれていると燃料電池の発電性能が低下したり、濃度によっては全く発電ができなくなってしまうという重大な問題が発生する。従って、このCOを無害なCO2等に転化し、燃料電池の燃料中のCO濃度を減少させる技術の開発が強く望まれている。
【0004】
改質ガス中のCOの濃度を低減させる手段の一つとして、燃料ガス中に酸素又は酸素含有ガス(空気等)を導入し、COをCO2 に変換する方法が提案されている。この際、できる限り水素は酸化しないでCOだけを選択的に酸化する触媒を使用することが望ましい。COの選択的酸化触媒として、特許文献1〜3には、硝酸ルテニウム化合物を用いて調製した、COを選択的に除去するCO除去触媒が開示されている。
【特許文献1】特開2001−239169号公報
【特許文献2】特開2001−239170号公報
【特許文献3】特開2001−327868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、CO除去活性が高いCO除去触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、フリー硝酸の量が特定の値以下の硝酸ルテニウム溶液を含浸担持して調製したCO除去触媒は、活性が高いことを見出し本発明を完成させた。本発明によれば、以下のCO除去触媒及びその製造方法等が提供される。
1.下記式で定義されるフリー硝酸濃度Aが50〜200である硝酸を溶媒とする硝酸ルテニウム溶液を担体に含浸させて得られることを特徴とするCO除去触媒。
A=B−C×1.87
(ここで、Bは硝酸ルテニウム溶液のアルカリ消費量硝酸換算値[グラム/リットル]、Cは硝酸ルテニウム溶液のルテニウム濃度[グラム/リットル]である。)
2.フリー硝酸濃度Aが50〜150であることを特徴とする1記載のCO除去触媒。
3.前記担体が、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア及びセリアから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1又は2記載のCO除去触媒。
4.下記式で定義されるフリー硝酸濃度Aが50〜200である硝酸を溶媒とする硝酸ルテニウム溶液を担体に含浸させることを特徴とするCO除去触媒の製造方法。
A=B−C×1.87
(ここで、Bは硝酸ルテニウム溶液のアルカリ消費量硝酸換算値[グラム/リットル]、Cは硝酸ルテニウム溶液のルテニウム濃度[グラム/リットル]である。)
5.1〜3のいずれか記載のCO除去触媒を搭載したCO除去装置を含んで構成されることを特徴とする水素製造システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、CO除去活性が高いCO除去触媒及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のCO除去触媒は、担体に硝酸ルテニウム溶液を含浸させて調製したものである。
硝酸ルテニウム溶液中では、ルテニウムと化合していない硝酸イオン(NO)は硝酸(HNO)としてフリーの状態で存在する。フリーの状態で存在する硝酸の濃度を、フリー硝酸濃度Aと定義する。Aは、下記式で求められる。
A=B−C×1.87
(ここで、Bは硝酸ルテニウム溶液のアルカリ消費量硝酸換算値[グラム/リットル]、Cは硝酸ルテニウム溶液のルテニウム濃度[グラム/リットル]である。尚、1.87という数値は、以下の計算によって得られたものである。[(硝酸の分子量=63.01)×(硝酸ルテニウム溶液中のルテニウムの価数=3)]/(ルテニウムの原子量=101.07)=1.87)
A値はルテニウムの量や、硝酸量、水量等を変えることにより調整できる。例えば、硝酸ルテニウムを調製する際に使う硝酸や水の量を変えることにより調整できる。また、市販の硝酸ルテニウム溶液を加熱して水を蒸発させ、硝酸を加えるとA値を高くできる。
本発明では、好ましくはA値が50〜200である硝酸を溶媒とする硝酸ルテニウム溶液を用いる。より好ましくはA値が50〜150である硝酸を溶媒とする硝酸ルテニウム溶液を用いる。A値が200を超えると、CO除去活性が低くなる場合があり、A値が50未満であると、ルテニウム水酸化物の沈殿が生成し、含浸液としての使用に不適当な場合がある。
【0009】
本発明のCO除去触媒に用いられる担体としては、通常、耐火性酸化物を用い、例えば、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア及びセリアから選ばれるものを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、触媒活性の点からアルミナが好ましく用いられる。
【0010】
次に、本発明のCO除去触媒の製造方法について以下に説明する。
まず担体に硝酸ルテニウム溶液を含浸させる。
始めに、A値が好ましくは50〜200、より好ましくは50〜150である硝酸ルテニウム溶液を作成する。硝酸ルテニウム溶液において、硝酸ルテニウムの含有量は、通常、100g−Ru/L以下であり、好ましくは60g−Ru/L以下である。硝酸ルテニウムによって担持されるルテニウムの担持量は特に制限はないが、通常、担体に対してRuとして0.05〜10重量%が好ましい。
【0011】
含浸後、一般に、担体を乾燥させる。乾燥方法としては、例えば自然乾燥、蒸発乾固法、ロータリーエバポレーターもしくは送風乾燥機による乾燥がいずれも使用可能である。通常乾燥は50〜200℃で、0.5〜24時間実施する。乾燥後、必要により350〜550℃で、1〜6時間焼成する。
【0012】
次に、本発明の触媒を用いて、水素を主成分とするガス中の一酸化炭素を酸素により酸化し、一酸化炭素の低減された水素含有ガスを製造する水素製造システムについて説明する。
上述のように調製された触媒の担持金属は、使用した塩の状態あるいは水酸化物か酸化物の状態で存在する。通常は、この触媒を使用前に水素還元により還元する。水素還元は、通常、水素気流下、300〜600℃、好ましくは350〜500℃の温度で、1〜5時間、好ましくは1〜2時間行う。以上のようにして得られる触媒により、水素を主成分とし、かつ少なくともCOを含有する水素含有ガスに酸素を添加して、COの酸素による選択的酸化反応を行う。本発明のCO除去触媒は、水素製造用原料を改質又は部分酸化することによって得られる水素を主成分とするガス(改質ガス)中のCOを選択的に除去するのに好適に利用される。
【0013】
水素含有ガスの原料として炭化水素を用いて水素を製造するシステムは、通常、脱硫装置、改質装置、変成装置、CO除去装置からなる(硫黄を含有しない原料を用いる場合は、脱硫装置を省略可能である。また、メタノールやジメチルエーテル等低温で改質可能な炭化水素を原料とする場合は、変成装置が省略できる場合もある。)。
ここで、脱硫装置は炭化水素原料に含まれる硫黄分を除去する装置であり、改質装置は脱硫処理した炭化水素原料から水素を得る装置である。改質の際、水素と共にCOが発生するので、変成装置でCOをCOとHに変成させる。CO除去装置は変成装置で変成されなかったCOを除去する装置であり、本発明のCO除去触媒はこの装置に用いられる。
本発明の方法で処理されたCO除去触媒は、水素製造用原料を改質又は部分酸化することによって得られる水素を主成分とするガス(改質ガス)中のCOを選択的に除去するのに好適に利用される。
このようにして製造される水素は燃料電池に好適に利用されるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
[各パラメータの求め方]
C値は硝酸ルテニウム溶液のルテニウム濃度[グラム/リットル]である。
B値(硝酸ルテニウム溶液のアルカリ消費量硝酸換算値[グラム/リットル])について以下の方法で求めた。
(1)硝酸ルテニウム溶液1mlを量りとりイオン交換水にて100倍に希釈した。
(2)(1)のうち1mlを量りとり、ビーカーに入れた。
(3)(2)にエタノール49mlを加えた。
(4)予め調製した2.04×10−2規定の水酸化ナトリウム水溶液にて(3)の溶液を滴定した。
(5)(4)にてpH7になった点を中和点とし、それまでに要した水酸化ナトリウム溶液量(ml)をDとした。下記式よりBを求めた。
B=D×(2.04×10−2)×63.01/(1×1/100)
(ここで63.01は硝酸(HNO)の分子量である。)
(3)では硝酸ルテニウムの溶液にエタノールを加えて希釈した。
分析の精度を向上するために希釈が必要であるが、この希釈のために水を使うと、水酸化ルテニウムの沈殿が生成する可能性がある。そこで有機溶媒のエタノールを使用した。尚、滴定の溶媒に水ではなく、エタノール等の有機溶媒を使用することは、例えば特開平7−286985等で公知である。
【0015】
A値(フリー硝酸濃度[グラム/リットル])は下記式より求めた。
A=B−C×1.87
実施例1〜4、比較例1、2でそれぞれ使用した硝酸ルテニウム溶液のA値、B値及びC値について表1に示す。
【0016】
実施例1
塩化ルテニウム(田中貴金属工業(株)製、ルテニウム金属として38.35wt%含有)52.15gをイオン交換水に溶解し、1Lとすることでルテニウムとして20g/L含有する塩化ルテニウム水溶液を1L調製した。
これを攪拌しながら、14%アンモニア水を加え、pH7まで中和して水酸化ルテニウムを生成させた。
次いで、静置して水酸化ルテニウムを沈降させ上澄み液を傾斜法で分離し、残った沈殿に0.1%アンモニア水を1000ml加えて攪拌して静置し、上澄み液を傾斜法で分離する操作を3回繰り返した。
その後、イオン交換水を1000ml加えて攪拌して静置し、水酸化ルテニウムを沈降させ上澄み液を傾斜法で分離する操作を3回行った。
さらに、この水酸化ルテニウムの沈殿物に硝酸溶液(184g−硝酸/L)を300ml加えて、100℃の湯浴中で攪拌下で8時間加熱溶解し、次いで冷却したのち未溶解物をメンブランフィルターを用いてろ過分離して、硝酸ルテニウム溶液250mlを得た。これにイオン交換水100mlを加えた。この硝酸ルテニウム溶液は、ルテニウム含有率が50g/Lで、A値=62(グラム/リットル)であった。
【0017】
上記調製した硝酸ルテニウム溶液7.4mlをビーカーにはかりとった。別のビーカーにγ−アルミナ担体KHD24(住友化学製、直径2〜4mmの球状)20gをはかりとった。
このアルミナ担体をガラス棒でよくかき混ぜる中に上記硝酸ルテニウム溶液を滴下した後、さらに1分間程度よくかき混ぜ、さらに硝酸ルテニウム溶液のほとんどがアルミナ担体に吸収されるまで5分間隔で1分間合計6回撹拌を繰り返した。
硝酸ルテニウム溶液を吸収したアルミナ担体を焼成皿に回収し、これを100℃で3時間静置乾燥することによりCO除去触媒を得た。
【0018】
実施例2
実施例1において、250g−硝酸/Lの硝酸溶液を使用した以外は同じ方法で、A値=118(グラム/リットル)の硝酸ルテニウム溶液を得た。
調製した硝酸ルテニウム溶液を用いて、実施例1と同様にして触媒を得た。
【0019】
実施例3
実施例1において、285g−硝酸/Lの硝酸溶液を使用した以外は同じ方法で、A値=150(グラム/リットル)の硝酸ルテニウム溶液を得た。
調製した硝酸ルテニウム溶液を用いて、実施例1と同様にして触媒を得た。
【0020】
実施例4
実施例1において、335g−硝酸/Lの硝酸溶液を使用した以外は同じ方法でA値=191(グラム/リットル)の硝酸ルテニウム溶液を得た。
調製した硝酸ルテニウム溶液を用いて、実施例1と同様にして触媒を得た。
【0021】
比較例1
実施例1において、495g−硝酸/Lの硝酸溶液を使用した以外は同じ方法でA値=330(グラム/リットル)の硝酸ルテニウム溶液を得た。
調製した硝酸ルテニウム溶液を用いて、実施例1と同様にして触媒を得た。
【0022】
比較例2
実施例1において、630g−硝酸/Lの硝酸溶液を使用した以外は同じ方法で、A値=446(グラム/リットル)の硝酸ルテニウム溶液を得た。
調製した硝酸ルテニウム溶液を用いて、実施例1と同様にして触媒を得た。
尚、A値が50より低い硝酸ルテニウム溶液の調製時には、水酸化ルテニウムの沈殿が完全に溶解しなかったり、溶解した沈殿が再生成するため、触媒を調製用の含浸液としては適当でない。
【0023】
評価例
[反応評価条件と性能]
以下の条件下で、触媒に原料ガス(多量のH中に微量のCOを含む)を通じた。その結果、表1に示すように、実施例1〜4の触媒は比較例1、2の触媒と比較して、高いCO除去活性を示した。
1.触媒前処理還元条件
温度:400℃
圧力:大気圧
時間:1時間
GHSV:24,000hr−1
2.反応条件
温度:120℃
圧力:大気圧
GHSV:20,000hr−1
原料ガス組成(容量%):CO/CO/O/N/HO/H
=0.6/15/0.9/3.5/20/Balance
尚、上記条件中のGHSVとは、供給ガスの標準状態における供給体積速度を使用する触媒層のみかけの体積で割った値(ガス空間速度)である。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のCO除去触媒は、燃料電池等に使用される水素を製造するシステムに利用できる。
また、本発明のCO除去触媒によって得られる水素含有ガスは、各種のH2 燃焼型燃料電池の燃料として好適に使用することができ、特に、少なくとも燃料極(負極)の電極に白金(白金触媒)を用いるタイプの各種のH2 燃焼型燃料電池(リン酸型燃料電池、KOH型燃料電池、固体高分子型燃料電池をはじめとする低温作動型燃料電池等)への供給燃料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で定義されるフリー硝酸濃度Aが50〜200である硝酸を溶媒とする硝酸ルテニウム溶液を担体に含浸させて得られることを特徴とするCO除去触媒。
A=B−C×1.87
(ここで、Bは硝酸ルテニウム溶液のアルカリ消費量硝酸換算値[グラム/リットル]、Cは硝酸ルテニウム溶液のルテニウム濃度[グラム/リットル]である。)
【請求項2】
フリー硝酸濃度Aが50〜150であることを特徴とする請求項1記載のCO除去触媒。
【請求項3】
前記担体が、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア及びセリアから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のCO除去触媒。
【請求項4】
下記式で定義されるフリー硝酸濃度Aが50〜200である硝酸を溶媒とする硝酸ルテニウム溶液を担体に含浸させることを特徴とするCO除去触媒の製造方法。
A=B−C×1.87
(ここで、Bは硝酸ルテニウム溶液のアルカリ消費量硝酸換算値[グラム/リットル]、Cは硝酸ルテニウム溶液のルテニウム濃度[グラム/リットル]である。)
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のCO除去触媒を搭載したCO除去装置を含んで構成されることを特徴とする水素製造システム。

【公開番号】特開2006−212466(P2006−212466A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24768(P2005−24768)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】