説明

CO2促進輸送膜及びその製造方法

【課題】 CO透過型メンブレンリアクターに適用可能な二酸化炭素透過性とCO/H選択性に優れたCO促進輸送膜を安定して提供する。
【解決手段】 CO促進輸送膜は、ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に2,3‐ジアミノプロピオン酸を添加したゲル層1を、親水性の多孔膜2に担持させて提供される。更に好ましくは、親水性の多孔膜2に担持されたゲル層1が疎水性の多孔膜3,4によって被覆支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の分離に用いられるCO促進輸送膜に関し、特に、水素を主成分とする燃料電池用等の改質ガスに含まれる二酸化炭素を水素に対する高い選択比率で分離可能なCO促進輸送膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在開発中の水素ステーション用改質システムでは、水蒸気改質により炭化水素を水素、一酸化炭素(CO)に改質し、更に、CO変成反応を用いて一酸化炭素を水蒸気と反応させることにより水素を製造している。
【0003】
しかし、これらの技術はケミカルプラント用の大規模な水素製造プロセスとして開発されたものであり、日産数10万m以上の大規模なものが普通で、しかも工場内に設置され、高圧・連続運転が前提となっている。これに対し、将来の水素エネルギ社会を支える重要なインフラとして天然ガスや石油からオンサイトで水素を製造し燃料電池自動車等に水素を供給する水素ステーションでは、水素を製造する規模や設置環境、運転パターンにおいて、従来の大規模水素プラントと大きく異なっており、それに起因する問題が多く残されている。
【0004】
性能面の課題としては、水素ステーションの場合、水素需要(具体的には、水素供給対象の燃料電池自動車の数量等)に対応して、頻繁な起動停止や負荷変化に対応する必要がある。特に、改質システム中でもサイズが最も大きく熱容量の大きなCO変成器に対して、起動時間や負荷応答性等の面で改善が必要となっている。
【0005】
また、燃料電池用改質システムの普及促進に必須とされる家庭用システムでのDSS(毎日の起動停止)運転に対しても、起動時間や負荷応答性等において、改質システム中でもCO変成器に課題が多く残されており、特に、CO変成器の小型化、低温度化が最大の課題である。
【0006】
更に、自動車用への適用についても、水蒸気改質方式はサイズや起動時間の点で目標との大きなギャップがあり、自動車業界ではオンボード改質に関しては効率の高い水蒸気改質よりは、寧ろ昇温反応性に優れた部分酸化方式での実用化を目指す傾向がある。しかし、部分酸化方式では、改質器については大幅な小型化が期待できるものの、CO変成器を伴うため、実用化に向けてはCO変成器の小型化が大きな課題となっている。このようにCO変成器の小型化は水素ステーションだけではなく、自動車用を含む燃料電池改質システムに共通の課題と言える。
【0007】
また、効率面から見ても、水蒸気改質を行う際、S/C(スチームと炭素(原料炭化水素)のモル比)の低下が熱効率上望ましいが、CO変成反応の化学平衡上の制約から効率の高い低S/C条件が採用されていなかった。
【0008】
コスト面での課題としては、水素ステーション全体のコストで最大の割合を占めるのがPSA(プレッシャー・スイング・アドソープション)であることから、そのコストダウンに直接繋がる水素濃度を上げる改質方式が望まれていた。改質器の出口ガス組成は水素以外に、10%程度の一酸化炭素及び二酸化炭素が含まれており、CO変成器では一酸化炭素は減少するものの二酸化炭素は増加するため、現状のプロセス(水蒸気改質+CO変成)では、1%程度のメタンとともに、20%程度の二酸化炭素と1%以下の一酸化炭素の残留は避けられず、その精製のために大型・高コストのPSA装置を設置せざるを得なかった。
【0009】
従来のCO変成器において、小型化や起動時間の短縮を阻害する原因として、以下の(化1)に示すCO変成反応の化学平衡上の制約から、多量のCO変成触媒が必要となっていることが挙げられる。一例として、50kWのPAFC(リン酸型燃料電池)用改質システムでは、改質触媒が20L必要であるのに対して、CO変成触媒は77Lと約4倍の触媒が必要となる。このことが、CO変成器の小型化や起動時間の短縮を阻害する大きな要因となっている。
【0010】
(化1)
CO + HO → H +CO
【0011】
そこで、CO変成器に二酸化炭素を選択的に透過させるCO促進輸送膜を備え、上記(化1)のCO変成反応で生成された右側の二酸化炭素を効率的にCO変成器外部に除去することで、化学平衡を水素生成側(右側)にシフトさせることができ、同一反応温度において高い転化率が得られる結果、一酸化炭素及び二酸化炭素を平衡の制約による限界を超えて除去することが可能となる。図10及び図11に、この様子を模式的に示す。図11(A)と(B)は、夫々、CO促進輸送膜を備えている場合と備えていない場合における、CO変成器の触媒層長に対する一酸化炭素及び二酸化炭素の各濃度変化を示している。
【0012】
上記のCO促進輸送膜を備えたCO変成器(CO透過型メンブレンリアクター)により、一酸化炭素及び二酸化炭素を平衡の制約による限界を超えて除去することが可能となるため、水素ステーションのPSAの負荷低減及び低S/C化が図れ、水素ステーション全体のコスト低減及び高効率化が図れる。また、CO促進輸送膜を備えることで、CO変成反応の高速化(高SV化)が図れるため、改質システムの小型化及び起動時間の短縮が図れる。
【0013】
かかるCO透過型メンブレンリアクターの先行例としては、下記の特許文献1(或いは、同じ発明者による同一内容の特許文献2)に開示されているものがある。
【0014】
該特許文献1、2において提案されている改質システムは、炭化水素、メタノール等の燃料を燃料電池自動車用の水素に車上で改質する際に発生する改質ガスの精製及び水性ガスシフト反応(CO変成反応)に有用なCO促進輸送膜プロセスを提供するもので、代表的な4種類のプロセスが、同文献の図1〜図4に示されている。炭化水素(メタンを含む)を原料とする場合、水性ガスシフターにCO促進輸送膜を備えたメンブレンリアクターを用いて二酸化炭素を選択的に除去することにより、一酸化炭素の反応率を高め一酸化炭素濃度を低下させるとともに生成水素の純度を向上させている。また、生成水素中に残留する%オーダーの一酸化炭素及び二酸化炭素はメタネーターで水素と反応させてメタンに変換して濃度を低下させ、燃料電池の被毒等による効率低下を防いでいる。
【0015】
該特許文献1、2では、CO促進輸送膜として、主としてハロゲン化四級アンモニウム塩((R))を二酸化炭素キャリアとして含むPVA(ポリビニルアルコール)等の親水性ポリマー膜が使用されている。また、該特許文献1、2の実施例6には、二酸化炭素キャリアとしてテトラメチルアンモニウムフルオリド塩50重量%を含む膜厚49μm50重量%のPVA膜とそれを支持する多孔質PTFE(四フッ化エチレン重合体)膜よりなる複合膜で形成されたCO促進輸送膜の作製方法が開示され、同実施例7には、混合ガス(25%CO、75%H)を全圧3気圧、23℃で処理したときの当該CO促進輸送膜の膜性能が開示されている。当該膜性能として、COパーミアンスRCO2が7.2GPU(=2.4×10−6mol/(m・s・kPa))、CO/H選択率が19となっており、後述するように、CO透過型メンブレンリアクターのCO促進輸送膜に適用するには十分な性能とは言えない。
【0016】
【特許文献1】特表2001−511430号公報
【特許文献2】米国特許6579331号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
CO促進輸送膜は、基本機能として二酸化炭素を選択的に分離することから、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素の吸収或いは除去等を目的とした開発も行われている。しかしながら、CO促進輸送膜は、CO透過型メンブレンリアクターへの応用を考えた場合、使用温度、COパーミアンス、CO/H選択率等に対して、一定以上の性能が要求される。つまり、CO変成反応に供するCO変成触媒の性能が温度とともに低下する傾向にあるため、使用温度は最低でも100℃が必要と考えられる。また、COパーミアンス(二酸化炭素透過性の性能指標の一つ)は、CO変成反応の化学平衡を水素生成側(右側)にシフトさせ、一酸化炭素濃度と二酸化炭素濃度を平衡の制約による限界を超えて例えば0.1%程度以下に低減し、且つ、CO変成反応の高速化(高SV化)を図るためには、一定レベル以上(例えば、2×10−5mol/(m・s・kPa)=60GPU程度以上)が必要と考えられる。更に、CO変成反応で生成された水素が二酸化炭素とともにCO促進輸送膜を通して外部に廃棄されたのでは、当該廃棄ガスから水素を分離回収するというプロセスが必要となる。水素は当然に二酸化炭素より分子サイズが小さいので、二酸化炭素を透過可能な膜は水素も透過できることになるが、膜中の二酸化炭素キャリアによって二酸化炭素のみを選択的に膜の供給側から透過側に向けて輸送可能な促進輸送膜が必要となり、その場合のCO/H選択率として90〜100程度以上が必要と考えられる。
【0018】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、CO透過型メンブレンリアクターに適用可能なCO促進輸送膜を安定して提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための本発明に係るCO促進輸送膜は、ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に2,3‐ジアミノプロピオン酸を添加したゲル層を、親水性の多孔膜に担持させてなることを第1の特徴とする。
【0020】
更に、本発明に係るCO促進輸送膜は、上記第1の特徴に加え、前記親水性の多孔膜に担持された前記ゲル層が疎水性の多孔膜によって被覆支持されていることを第2の特徴とする。
【0021】
更に、本発明に係るCO促進輸送膜は、上記第1または第2の特徴に加え、前記多孔膜が100℃以上の耐熱性を備えていることを第3の特徴とする。
【0022】
更に、本発明に係るCO促進輸送膜は、上記何れかの特徴に加え、前記ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸共重合体ゲル膜内に、2,3‐ジアミノプロピオン酸の他に、二酸化炭素透過性を促進するための添加剤として、イオン性流体(イオン液体とも呼称される)、または、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸の中から選択される化学物質を含有することを第4の特徴とする。
【0023】
更に、本発明に係るCO促進輸送膜は、上記第4の特徴に加え、前記イオン性流体が、下記のカチオン、アニオンの組合せよりなる化合物から選択される化学物質であり、前記カチオンが、1,3位に以下の置換基を有するイミダゾリウムで、置換基としてアルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基を有するもの、または、第4級アンモニウムカチオンで、置換基としてアルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基を有するものであり、前記アニオンが、塩化物イオン、臭化物イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、または、トリフルオロメタンスルホン酸イオンであることを第5の特徴とする。
【0024】
また、上記目的を達成するための本発明に係る上記第1の特徴のCO促進輸送膜の製造方法は、ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸共重合体と2,3‐ジアミノプロピオン酸を含む水溶液からなるキャスト溶液を作製する工程と、前記キャスト溶液を前記親水性の多孔膜にキャストした後にゲル化してゲル層を作製する工程と、を有することを第1の特徴とする。
【0025】
更に、本発明に係るCO促進輸送膜の製造方法は、上記第1の特徴に加え、前記キャスト溶液を作製する工程において、前記水溶液中に、イオン性流体、または、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸の中から選択される化学物質が更に含まれていることを第2の特徴とする。
【0026】
上記第1の特徴のCO促進輸送膜によれば、ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸(PVA/PAA)共重合体ゲル膜中に、2,3‐ジアミノプロピオン酸(DAPA)が含まれることから、当該DAPAが透過物質であるPVA/PAAゲル層の二酸化炭素の高濃度側界面から低濃度側界面へと二酸化炭素を捕獲して輸送する二酸化炭素キャリアとして機能し、100℃以上の高温において90〜100程度以上の対水素選択率(CO/H)、及び、2×10−5mol/(m・s・kPa)(=60GPU)程度以上のCOパーミアンスを達成可能となる。
【0027】
また、PVA/PAAゲル層を担持する多孔膜が親水性であるので、欠陥の少ないゲル層を安定して作製することができ、高い対水素選択率を維持できる。一般に、多孔膜が疎水性であると、100℃以下においてPVA/PAAゲル膜内の水分が多孔膜内の細孔に侵入して膜性能を低下させるのを防止でき、また、100℃以上においてPVA/PAAゲル膜内の水分が少なくなる状況でも同様の効果が期待できると考えられるため、疎水性の多孔膜の使用が推奨されるところ、本発明のCO促進輸送膜では、以下の理由から親水性多孔膜を使用することで、欠陥が少なく高い対水素選択率を維持できるCO促進輸送膜を安定して作製できるようになった。
【0028】
親水性の多孔膜上に、PVA/PAA共重合体とDAPAの水溶液からなるキャスト溶液をキャストすると多孔膜の細孔内が液で満たされ、更に、多孔膜の表面にキャスト溶液が塗布される。このキャスト溶液をゲル化すると、多孔膜の表面のみならず細孔内にもゲル層が充填されるので欠陥が生じ難くなり、ゲル層の製膜成功率が高くなる。細孔部分の割合(多孔度)、及び、細孔が膜表面に垂直に真っ直ぐではなく曲がりくねっていること(屈曲率)を考慮すると、細孔内のゲル層はガス透過の大きな抵抗となるので、多孔膜表面のゲル層と比較して透過性は低くなり、ガスパーミアンスは低下する。他方、疎水性の多孔膜上にキャスト溶液をキャストすると多孔膜の細孔内は液で満たされずに多孔膜の表面のみにキャスト溶液が塗布され細孔はガスで満たされるので、疎水性多孔膜上のゲル層におけるガスパーミアンスは、親水性多孔膜と比較して水素及び二酸化炭素の両方において高くなる。しかし、細孔内のゲル層と比較して膜表面のゲル層は欠陥が生じ易く、ゲル層の製膜成功率は低下する。水素は二酸化炭素より分子サイズが小さいので、微小な欠陥個所或いは局所的にガスパーミアンスが高い個所では二酸化炭素より水素の方が、ガスパーミアンスが高くなる可能性があるが、促進輸送機構で透過する二酸化炭素の透過速度は物理的な溶解拡散機構で透過する水素のパーミアンスよりも格段に大きいので,二酸化炭素パーミアンスは膜の局所的な欠陥の影響を殆ど受けないのに対して、水素のパーミアンスは欠陥により著しく増加する。結果として、疎水性多孔膜を使用した場合の対水素選択率(CO/H)は、親水性多孔膜を使用した場合と比較して低下することになる。従って、実用化の観点からは、CO促進輸送膜の安定性、耐久性が非常に重要となり、対水素選択率(CO/H)の高い親水性多孔膜を使用する方が有利となる。また、親水性多孔膜の使用は、PVA/PAAゲル層に二酸化炭素キャリアとしてDAPAを添加することで高いCOパーミアンスを達成可能であることを前提に実現できるものである。尚、疎水性多孔膜と親水性多孔膜の違いによるガスパーミアンスの差は、キャスト溶液中に予め二酸化炭素キャリアであるDAPAを添加せずにゲル化後に含侵させても、細孔内のゲル層がガス透過の大きな抵抗となる点は同じであり、同様に発現するものと推定される。
【0029】
以上より、上記第1の特徴のCO促進輸送膜によれば、100℃以上の使用温度、2×10−5mol/(m・s・kPa)(=60GPU)程度以上のCOパーミアンス、及び、90〜100程度以上のCO/H選択率が実現でき、CO透過型メンブレンリアクターへ応用可能なCO促進輸送膜が提供可能となり、CO変成器の小型化、起動時間の短縮、及び、高速化(高SV化)が図れる。
【0030】
更に、上記第2の特徴のCO促進輸送膜によれば、親水性の多孔膜で担持されたゲル層が疎水性の多孔膜によって保護され、使用時におけるCO促進輸送膜の強度が増す。この結果、CO促進輸送膜をCO透過型メンブレンリアクターへ応用した場合に、CO促進輸送膜の両側(反応器内外)での圧力差が大きく(例えば、2気圧以上)なっても十分な膜強度を確保できる。更に、ゲル層が疎水性の多孔膜によって被覆されるため、水蒸気が疎水性の多孔膜の膜表面に凝縮しても当該多孔膜が疎水性のために水がはじかれてゲル層内にしみ込むのを防止している。よって、疎水性の多孔膜によって、ゲル層中の二酸化炭素キャリアが水で薄められ、また、薄められた二酸化炭素キャリアがゲル層から流出することを防止できる。
【0031】
更に、上記第3の特徴のCO促進輸送膜によれば、常温から100℃以上に亘る広範な温度範囲での使用が可能となる。具体的には、多孔膜が100℃以上の耐熱性を備えることで100℃以上の温度領域での使用が可能となる。
【0032】
更に、上記第4または第5の特徴のCO促進輸送膜によれば、親水性と二酸化炭素キャリアとの相容性と二酸化炭素との親和性を兼ね備えたイオン性流体またはグリセリン等の添加剤を含有するため、二酸化炭素透過性が促進され、100℃以上のPVA/PAAゲル膜内の水分が少なくなる高温下においても、高いCOパーミアンスが実現できる。CO促進輸送膜を100℃以上の高温環境で使用すると、PVA/PAAゲル膜の架橋が更に進行し、二酸化炭素キャリアによる二酸化炭素の促進輸送が阻害され二酸化炭素透過性が低下する虞があるところ、当該添加剤が含まれることで、架橋の進行が抑制される結果、高温下での使用による二酸化炭素透過性の低下が抑制されることが、高COパーミアンスの理由として考えられる。尚、当該添加剤の効果は、温度に依存するものの、特定の温度では、特にCO促進輸送膜の両側(反応器内外)での圧力差が3気圧以下において顕著に現れ、2気圧以下でより顕著に現れることが実験結果より認められる。
【0033】
ところで、膜内に水分が無い場合でも二酸化炭素は促進輸送されるが、その透過速度は一般に非常に小さいため、高い透過速度を得るには膜内の水分が不可欠となる。従って、親水性の添加剤を使用することにより、可能な限り膜内に水分を保持することが可能となり、二酸化炭素透過性が促進される。また、二酸化炭素キャリアとの相容性と二酸化炭素との親和性を兼ね備えた添加剤を使用することで、二酸化炭素キャリアであるDAPAの二酸化炭素の促進輸送を阻害することなく、添加剤がDAPAとともに膜内に均質に分布でき、二酸化炭素透過性が促進される。
【0034】
更に、上記第1の特徴のCO促進輸送膜の製造方法によれば、膜材料(PVA/PAA)に対する二酸化炭素キャリアの配分を適正に調整したキャスト溶液が予め準備されるため、最終的なPVA/PAAゲル膜内の二酸化炭素キャリアの配合比率の適正化が簡易に実現でき、膜性能の高性能化が実現できる。
【0035】
更に、上記第2の特徴のCO促進輸送膜の製造方法によれば、膜材料(PVA/PAA)に対する二酸化炭素キャリアと添加剤の配分を適正に調整したキャスト溶液が予め準備されるため、最終的なPVA/PAAゲル膜内の二酸化炭素キャリアと添加剤の配合比率の適正化が簡易に実現でき、膜性能の高性能化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明に係るCO促進輸送膜及びその製造方法(以下、適宜「本発明膜」及び「本発明方法」という。)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0037】
〈第1実施形態〉
本発明膜は、水分を含むゲル膜内に二酸化炭素キャリアを含有したCO促進輸送膜であって、100℃以上の使用温度、高い二酸化炭素透過性とCO/H選択率を有するCO透過型メンブレンリアクターへ応用可能なCO促進輸送膜である。更に、本発明膜は、高いCO/H選択率を安定して実現するために、二酸化炭素キャリアを含有したゲル膜を担持する支持膜として、親水性の多孔膜を採用している。
【0038】
具体的には、本発明膜は、膜材料として、ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸(PVA/PAA)共重合体を使用し、二酸化炭素キャリアとして、2,3‐ジアミノプロピオン酸(DAPA)を使用する。また、本発明膜は、図1に模式的に示すように、二酸化炭素キャリアを含有するPVA/PAAゲル膜1を担持した親水性多孔膜2が、2枚の疎水性多孔膜3,4に挟持される3層構造で構成される。以下、二酸化炭素キャリアを含有するPVA/PAAゲル膜を、二酸化炭素キャリアを含有しないPVA/PAAゲル膜、及び、2枚の疎水性多孔膜を備えた構造の本発明膜と区別するために、適宜「含有ゲル膜」と略称する。また、この含有ゲル膜中のPVA/PAAとDAPAの全重量を基準として、含有ゲル膜中において、PVA/PAAは約20〜80重量%の範囲で存在し、DAPAは約20〜80重量%の範囲で存在する。
【0039】
二酸化炭素キャリアであるDAPAは、水酸化セシウム(CsOH)等のアルカリと中和させて、後述のキャスト溶液中に溶解して解離したNHをNHに変換する必要がある。これは、NHが二酸化炭素と反応しないためである。ここで、アルカリとして水酸化セシウム(CsOH)を用いても、炭酸セシウム(CsCO)を用いても最終のpH値が同じであれば、同等物となる。但し、炭酸セシウム(CsCO)を用いた場合には、含有ゲル膜中に、炭酸イオン、炭酸水素イオンが存在することになるが、当該イオンによる二酸化炭素の促進輸送への寄与は小さいと考えられる。
【0040】
親水性多孔膜は、親水性に加えて、100℃以上の耐熱性、機械的強度、含有ゲル膜との密着性を有するのが好ましく、更に、多孔度(空隙率)が55%以上で、細孔径は0.1〜1μmの範囲にあるのが好ましい。本実施形態では、これらの条件を備えた親水性多孔膜として、親水性化した四フッ化エチレン重合体(PTFE)多孔膜を使用する。
【0041】
疎水性多孔膜は、疎水性に加えて、100℃以上の耐熱性、機械的強度、含有ゲル膜との密着性を有するのが好ましく、更に、多孔度(空隙率)が55%以上で、細孔径は0.1〜1μmの範囲にあるのが好ましい。本実施形態では、これらの条件を備えた疎水性多孔膜として、親水性化していない四フッ化エチレン重合体(PTFE)多孔膜を使用する。
【0042】
次に、本発明膜の作製方法(本発明方法)の一実施形態について、図2を参照して説明する。
【0043】
先ず、PVA/PAA共重合体とDAPAを含む水溶液からなるキャスト溶液を作製する(工程1)。より詳細には、PVA/PAA共重合体(例えば、住友精化製の仮称SSゲル)を1g、DAPA一塩酸塩を0.25g、水酸化セシウム(CsOH)を0.54g(DAPA一塩酸塩に対して2当量)、サンプル瓶に秤取し、これに水20gを加えて室温で一昼夜攪拌して溶解させてキャスト溶液を得る。
【0044】
ここで、DAPA(NH‐CH‐CH(NH)‐COOH)はその一塩酸塩(monohydrochloride)として市販されており、水に溶解すると[NH‐CH‐CH(NHCl)‐COO]のように解離する。二酸化炭素はプロトン化したNHとは反応せず、フリーのNHと反応する。従って、二酸化炭素キャリアとしてDAPAを用いるには、市販のDAPA一塩酸塩に対して2当量の水酸化セシウムを添加してアミノ基をプロトン化していないフリーのアミノ基に変換する必要がある。
【0045】
次に、工程1で得たキャスト溶液中の気泡を除去するために、遠心分離(回転数5000rpmで30分間)を行う(工程2)。
【0046】
次に、工程2で得たキャスト溶液を、親水性PTFE多孔膜(例えば、アドバンテック製、H010A142C、膜厚35μm、細孔径0.1μm、空隙率70%)と疎水性PTFE多孔膜(例えば、住友電工製、フロロポアFP010、膜厚60μm、細孔径0.1μm、空隙率55%)を2枚重ね合わせた層状多孔膜の親水性PTFE多孔膜側の面上に、アプリケータでキャストする(工程3)。尚、後述する実施例のサンプルでのキャスト厚は500μmである。ここで、キャスト溶液は、親水性PTFE多孔膜中の細孔内に浸透するが、疎水性のPTFE多孔膜の境界面で浸透が停止し、層状多孔膜の反対面までキャスト溶液がしみ込まず、層状多孔膜の疎水性PTFE多孔膜側面にはキャスト溶液が存在せず取り扱いが容易となる。
【0047】
次に、キャスト後の親水性PTFE多孔膜を室温で約半日自然乾燥させ、キャスト溶液をゲル化させゲル層を生成する(工程4)。本発明方法では、工程3において、キャスト溶液を層状多孔膜の親水性PTFE多孔膜側の表面にキャストするため、工程4において、ゲル層は、親水性PTFE多孔膜の表面(キャスト面)に形成されるのみならず細孔内にも充填して形成されるので、欠陥(ピンホール等の微小欠陥)が生じ難くなり、ゲル層の製膜成功率が高くなる。尚、工程4において、自然乾燥させたPTFE多孔膜を、更に、120℃程度の温度で、2時間程度熱架橋するのが望ましい。尚、後述する実施例及び比較例のサンプルでは、何れも熱架橋を行っている。
【0048】
次に、工程4で得た親水性PTFE多孔膜表面のゲル層側に、工程3で用いた層状多孔膜の疎水性PTFE多孔膜と同じ疎水性PTFE多孔膜を重ね、図1に模式的に示すように、疎水性PTFE多孔膜/ゲル層(親水性PTFE多孔膜に担持された含有ゲル膜)/疎水性PTFE多孔膜よりなる3層構造の本発明膜を得る(工程5)。尚、図1において、含有ゲル膜1が親水性PTFE多孔膜2の細孔内に充填している様子を模式的に直線状に表示している。
【0049】
以上、工程1〜工程5を経て作製された本発明膜は、CO透過型メンブレンリアクターへ応用可能な膜性能、即ち、使用温度100℃、2×10−5mol/(m・s・kPa)(=60GPU)程度以上のCOパーミアンス、及び、100程度以上のCO/H選択率が実現できる。
【0050】
また、ゲル層を疎水性PTFE多孔膜で挟持した3層構造とすることにより、一方の疎水性PTFE多孔膜は、工程3及び工程4で用いられ、含有ゲル膜を担持する親水性PTFE多孔膜の支持とキャスト溶液の浸透防止に供せられ、他方の疎水性PTFE多孔膜は、含有ゲル膜を他方面側から保護するのに用いられる。
【0051】
更に、水蒸気が疎水性PTFE多孔膜の膜表面に凝縮しても当該PTFE多孔膜が疎水性のために水がはじかれて含有ゲル膜にしみ込むのを防止している。よって、他方のPTFE多孔膜によって、含有ゲル膜中の二酸化炭素キャリアが水で薄められ、また、薄められた二酸化炭素キャリアが含有ゲル膜から流出することを防止できる。
【0052】
以下、具体的な実施例の膜性能について説明する。
【0053】
先ず、含有ゲル膜を担持する多孔膜として、親水性PTFE多孔膜を使用した実施例と、疎水性PTFE多孔膜を使用した比較例の各サンプルの膜組成について説明する。実施例のサンプルは、上述の作製方法により作製した。(PVA/PAA:DAPA)の配合比率は、記載の順に、(80重量%:20重量%)となっている。比較例のサンプルは、上述の作製方法において、親水性PTFE多孔膜と疎水性PTFE多孔膜の層状多孔膜に代えて1層の疎水性PTFE多孔膜を使用して作製された。従って、比較例のサンプルは、図3に模式的に示すように、二酸化炭素キャリアを含有するPVA/PAAゲル膜1が、2枚の疎水性多孔膜3,4の間に挟持される3層構造で構成される。(PVA/PAA:DAPA)の配合比率は、実施例と同じである。尚、何れのサンプルも上述の3層構造を更にシリコンをコーティングしたポリプロピレン多孔膜で補強した4層構造としたものを使用した。
【0054】
次に、実施例、及び、比較例の各サンプルの膜性能を評価するための実験装置の構成及び実験方法について、図4を参照して説明する。
【0055】
図4に示すように、各サンプル10は、ステンレス製の流通式ガス透過セル11(膜面積:2.88cm)の原料側室12と透過側室13の間に、2枚のフッ素ゴム製ガスケットをシール材として用いて固定されている。原料ガス(CO、H、HOからなる混合ガス)FGを、2.24×10−2mol/minの流量で原料側室12に供給し、スイープガス(Arガス)SGを、8.18×10−4mol/minの流量で透過側室13に供給する。原料側室12の圧力は、排気ガスの排出路の途中の冷却トラップ14の下流側に設けられた背圧調整器15で調整される。透過側室13の圧力は大気圧である。透過側室13から排出するスイープガスSG’中の水蒸気を冷却トラップ16で除去した後のガス組成をガスクロマトグラフ17で定量し、これとスイープガスSG中のArの流量よりCO及びHのパーミアンス[mol/(m・s・kPa)]を計算し、その比より、CO/H選択率を算出する。
【0056】
原料ガスFGは、CO変成器内における原料ガスを模擬するために、CO、H、HOからなる混合ガスを、CO:3.65%、H:32.85%、HO:63.5%の混合比率(モル%)に調整した。具体的には、10%COと90%H(モル%)よりなる混合ガス流(25℃での流量:200cm/min、8.18×10−3mol/min)に水を定量送液ポンプ18で送入し(流量:0.256cm/min、1.42×10−2mol/min)、100℃以上に加熱して水分を蒸発させて、上記混合比率の混合ガスを調製し、これを原料側室12に供給した。
【0057】
スイープガスSGは、サンプル膜を透過する被測定ガス(CO、H)の透過側室側の分圧を低くして、透過推進力を維持するために供給され、被測定ガスと異なるガス種(Arガス)を用いる。具体的には、Arガス(25℃での流量:20cm/min、8.13×10−4mol/min)を透過側室13に供給した。
【0058】
尚、図示していないが、サンプル膜の使用温度、及び、原料ガスFGとスイープガスSGの温度を一定温度に維持するために、サンプル膜を固定した流通式ガス透過セル11と上記ガスを加熱する予熱コイルを、所定温度に設定したオイル恒温槽内に浸している。
【0059】
次に、図5に、実施例と比較例の各サンプルのCOパーミアンスRCO2とCO/H選択率を、原料側室12内の原料ガスFGの圧力を150kPa〜350kPaの範囲の加圧状態で測定した結果を示す。尚、測定温度は125℃である。
【0060】
図5より、COパーミアンスは、疎水性PTFE多孔膜を使用した比較例のサンプルの方が、親水性PTFE多孔膜を使用した実施例のサンプルより、全圧力範囲で僅かに高くなっているが、CO/H選択率では、実施例のサンプルの方が、比較例のサンプルより大幅に改善されていることが分かる。これは、親水性PTFE多孔膜を使用した場合に、PTFE多孔膜の表面のみならず細孔内にもゲル層が充填されるので欠陥(ピンホール等の微小欠陥)が生じ難くなり、当該微小欠陥を介してガスパーミアンス、特に、水素パーミアンスが上昇するのが抑制されるためと考えられる。
【0061】
また、上記特許文献1,2に開示されたCO促進輸送膜では、100℃以上の使用温度、2×10−5mol/(m・s・kPa)程度以上のCOパーミアンス、及び、90〜100程度以上のCO/H選択率の何れも満足していないのに対して、図5に示す実施例及び比較例の各サンプルは、全ての要件を概ね満足しており、特に、実施例のサンプルにおいて、良好な結果が得られていることが分かる。比較例のサンプルでは、300kPa以上でCO/H選択率が100を下回り、温度を更に上昇させるとCO/H選択率の低下がより顕著に現れる。
【0062】
次に、図6に、実施例と比較例の各サンプルのCOパーミアンスRCO2とCO/H選択率を、原料側室12内の原料ガスFGの圧力を150kPa〜550kPaの範囲の加圧状態で測定した結果を示す。尚、測定温度は140℃である。
【0063】
図6より、温度が125℃から140℃に上昇したことにより、COパーミアンスRCO2とCO/H選択率の何れもが低下しているが、温度上昇によってPVA/PAAゲル膜内の二酸化炭素の促進輸送に寄与する水分が減少したことに起因するものである。しかし、実施例のサンプルでは、温度が140℃に上昇しても、比較例のサンプルより高いCO/H選択率が得られるため、原料ガスFGの圧力が350kPa以上において、2×10−5mol/(m・s・kPa)程度以上のCOパーミアンス、及び、90〜100程度以上のCO/H選択率の何れも概ね満足できるのに対し、比較例のサンプルでは、CO/H選択率で期待値を大幅に下回る結果となっている。
【0064】
〈第2実施形態〉
第2実施形態の本発明膜は、水分を含むゲル膜内に二酸化炭素キャリアを含有したCO促進輸送膜であって、100℃以上の使用温度、高い二酸化炭素透過性とCO/H選択率を有するCO透過型メンブレンリアクターへ応用可能なCO促進輸送膜であり、高い二酸化炭素透過性を実現するために、二酸化炭素キャリアに加えて、二酸化炭素透過性を促進するための添加剤をゲル膜内に含有する。従って、ゲル膜内に添加剤が追加されている点で、第1実施形態の本発明膜と相違する。
【0065】
具体的には、本発明膜は、膜材料として、ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸(PVA/PAA)共重合体を使用し、二酸化炭素キャリアとして、2,3‐ジアミノプロピオン酸(DAPA)を使用し、添加剤として、グリセリン、または、イオン性流体を使用する。また、本発明膜は、二酸化炭素キャリアと添加剤を含有するPVA/PAAゲル膜を担持した親水性多孔膜2が、2枚の疎水性多孔膜3,4に挟持される3層構造(図1に示す第1実施形態の3層構造と同じ)で構成される。以下、二酸化炭素キャリアと添加剤を含有するPVA/PAAゲル膜を、二酸化炭素キャリアと添加剤を含有しないPVA/PAAゲル膜、及び、2枚の疎水性多孔膜を備えた構造の本発明膜と区別するために、適宜「含有ゲル膜」と略称する。また、この含有ゲル膜中のPVA/PAAとDAPAと添加剤の全重量を基準として、含有ゲル膜中において、PVA/PAAは約20〜80重量%の範囲で存在し、DAPAは約20〜80重量%の範囲で存在し、添加剤は約0〜30重量%の範囲で存在する。
【0066】
添加剤は、イオン性流体やオリゴマー等の低蒸気圧の液体であって、親水性、熱安定性、二酸化炭素に対する親和性、及び、二酸化炭素キャリアであるDAPAとの相溶性が必要である。かかる条件を備えたイオン性流体として、下記のカチオン、アニオンの組合せよりなる化合物から選択される化学物質が利用できる。
カチオン:1,3位に以下の置換基を有するイミダゾリウムで、置換基としてアルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基を有するもの、または、第4級アンモニウムカチオンで、置換基としてアルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基を有するもの。
アニオン:塩化物イオン、臭化物イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、または、トリフルオロメタンスルホン酸イオン。
【0067】
また、当該イオン性流体の具体例として、1‐アリル‐3‐エチルイミダゾリウムブロミド、1‐エチル‐3-メチルイミダゾリウムブロミド、1‐(2‐ヒドロキシエチル)‐3‐メチルイミダゾリウムブロミド、1‐(2‐メトキシエチル)‐3‐メチルイミダゾリウムブロミド、1‐オクチル‐3‐メチルイミダゾリウムクロリド、N,N‐ジエチル‐N‐メチル‐N‐(2‐メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボラート、エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホン酸、エチルメチルイミダゾリウムジシアナミド、及び、塩化トリヘキシルテトラデシルホスホニウム等が利用できる。また、添加剤として、イオン性流体以外に、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸の中から選択される化学物質が利用できる。
【0068】
二酸化炭素キャリアであるDAPA、親水性多孔膜、及び、疎水性多孔膜は、第1実施形態で使用したものと同じであるので、重複する説明は省略する。
【0069】
次に、本発明膜の作製方法の一実施形態(本発明方法の第2実施形態)について、図7を参照して説明する。
【0070】
先ず、PVA/PAA共重合体とDAPAと添加剤を含む水溶液からなるキャスト溶液を作製する(工程1)。より詳細には、PVA/PAA共重合体(例えば、住友精化製の仮称SSゲル)を1g、DAPA一塩酸塩を0.25g、水酸化セシウム(CsOH)を0.54g(DAPA一塩酸塩に対して2当量)、添加剤(イオン性流体AEB等)を0.2g、サンプル瓶に秤取し、これに水20gを加えて室温で一昼夜攪拌して溶解させてキャスト溶液を得る。キャスト溶液中に添加剤を加えた点以外は、第1実施形態の作製方法と同じあり、DAPAの処理方法についても重複する説明は割愛する。
【0071】
次に、工程1で得たキャスト溶液中の気泡を除去するために、遠心分離(回転数5000rpmで30分間)を行う(工程2)。
【0072】
次に、工程2で得たキャスト溶液を、親水性PTFE多孔膜(例えば、アドバンテック製、H010A142C、膜厚35μm、細孔径0.1μm、空隙率70%)と疎水性PTFE多孔膜(例えば、住友電工製、フロロポアFP010、膜厚60μm、細孔径0.1μm、空隙率55%)を2枚重ね合わせた層状多孔膜の親水性PTFE多孔膜側の面上に、アプリケータでキャストする(工程3)。尚、後述する実施例及び比較例のサンプルでのキャスト厚は254μmである。
【0073】
次に、キャスト後の親水性PTFE多孔膜を室温で約半日自然乾燥させ、キャスト溶液をゲル化させゲル層を生成する(工程4)。本発明方法では、工程3において、キャスト溶液を層状多孔膜の親水性PTFE多孔膜側の表面にキャストするため、工程4において、ゲル層は、親水性PTFE多孔膜の表面(キャスト面)に形成されるのみならず細孔内にも充填して形成されるので、欠陥(ピンホール等の微小欠陥)が生じ難くなり、ゲル層の製膜成功率が高くなる。尚、工程4において、自然乾燥させたPTFE多孔膜を、更に、120℃程度の温度で、2時間程度熱架橋するのが望ましい。尚、後述する実施例及び比較例のサンプルでは、何れも熱架橋を行っている。
【0074】
次に、工程4で得た親水性PTFE多孔膜表面のゲル層側に、工程3で用いた層状多孔膜の疎水性PTFE多孔膜と同じ疎水性PTFE多孔膜を重ね、疎水性PTFE多孔膜/ゲル層(親水性PTFE多孔膜に担持された含有ゲル膜)/疎水性PTFE多孔膜よりなる3層構造の本発明膜を得る(工程5)。工程2〜工程5の各処理は、第1実施形態の作製方法と全く同じある。
【0075】
以上、工程1〜工程5を経て作製された本発明膜は、CO透過型メンブレンリアクターへ応用可能な膜性能、即ち、使用温度100℃、2×10−5mol/(m・s・kPa)(=60GPU)程度以上のCOパーミアンス、及び、100程度以上のCO/H選択率が実現できる。
【0076】
また、ゲル層を疎水性PTFE多孔膜で挟持した3層構造とすることにより、一方の疎水性PTFE多孔膜は、工程3及び工程4で用いられ、含有ゲル膜を担持する親水性PTFE多孔膜の支持とキャスト溶液の浸透防止に供せられ、他方の疎水性PTFE多孔膜は、含有ゲル膜を他方面側から保護するのに用いられる。
【0077】
以下、添加剤として下記の4種類のイオン性流体を個々に使用した4つの実施例1〜4の各サンプルを参考にして、夫々の膜性能について説明する。4種類のイオン性流体は、実施例1:1‐アリル‐3‐エチルイミダゾリウムブロミド、実施例2:1‐(2‐ヒドロキシエチル)‐3‐メチルイミダゾリウムブロミド、実施例3:1‐オクチル‐3‐メチルイミダゾリウムクロリド、実施例4:N,N‐ジエチル‐N‐メチル‐N‐(2‐メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボラートである。
【0078】
先ず、実施例1〜4の各サンプルの膜組成について説明する。実施例1のサンプルは、添加剤として1‐アリル‐3‐エチルイミダゾリウムブロミドを使用して、上述の作製方法により作製した。(PVA/PAA:DAPA:添加剤)の配合比率は、記載の順に、(66.3重量%:20重量%:13.7重量%)となっている。実施例2のサンプルは、添加剤として1‐(2‐ヒドロキシエチル)‐3‐メチルイミダゾリウムブロミドを使用して、上述の作製方法により作製した。(PVA/PAA:DAPA:添加剤)の配合比率は、記載の順に、(66.3重量%:20重量%:13.7重量%)となっている。実施例3のサンプルは、添加剤として1‐オクチル‐3‐メチルイミダゾリウムクロリドを使用して、上述の作製方法により作製した。(PVA/PAA:DAPA:添加剤)の配合比率は、記載の順に、(66.3重量%:20重量%:13.7重量%)となっている。実施例4のサンプルは、添加剤としてN,N‐ジエチル‐N‐メチル‐N‐(2‐メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボラートを使用して、上述の作製方法により作製した。(PVA/PAA:DAPA:添加剤)の配合比率は、記載の順に、(66.3重量%:20重量%:13.7重量%)となっている。
【0079】
次に、実施例1〜4の各サンプルで使用した添加剤の効果、即ち、二酸化炭素透過性の促進効果を評価するために作製したPVA/PAAゲル膜内に添加剤を加えない比較用サンプルは、第1実施形態の実施例のサンプルと同条件で作製されたものを使用する。
【0080】
実施例1〜4、及び、比較用の各サンプルの膜性能を評価するための実験装置の構成は、第1実施形態と同じであるので、重複する説明は省略する。但し、実験方法は、原料ガス及びスイープガスの組成と流量以外は、第1実施形態と同じである。原料ガス(CO、N、HOからなる混合ガス)FGを、2.24×10−2mol/minの流量で原料側室12に供給し、スイープガス(Heガス)SGを、8.18×10−4mol/minの流量で透過側室13に供給する。
【0081】
原料ガスFGは、CO、N、HOからなる混合ガスを、CO:3.65%、N:32.85%、HO:63.5%の混合比率(モル%)に調整した。具体的には、10%COと90%N(モル%)よりなる混合ガス流(25℃での流量:200cm/min、8.18×10−3mol/min)に水を定量送液ポンプ18で送入し(流量:0.256cm/min、1.42×10−2mol/min)、100℃以上に加熱して水分を蒸発させて、上記混合比率の混合ガスを調製し、これを原料側室12に供給した。
【0082】
スイープガスSGは、サンプル膜を透過する被測定ガス(CO、N)の透過側室側の分圧を低くして、透過推進力を維持するために供給され、被測定ガスと異なるガス種(Heガス)を用いる。具体的には、Heガス(25℃での流量:20cm/min、8.13×10−4mol/min)を調製し、これを透過側室13に供給した。
【0083】
次に、図8に、実施例1〜4、及び、比較用の各サンプルのCOパーミアンスRCO2とCO/N選択率、原料側室12内の原料ガスFGの圧力を150kPa〜450kPaの範囲の加圧状態で測定した結果を示す。尚、測定温度は140℃である。
【0084】
図8より、本発明膜は、140℃の高温条件であっても、添加剤を用いることで、原料ガスFGの圧力が350kPa以下でも、添加剤を用いない比較用サンプルに比べて、COパーミアンスが改善されることが分かる。また、CO/N選択率に関しては、300kPa以下の圧力範囲で、一部の実施例1、2及び4で比較用サンプルに比べて改善されることが分かる。
【0085】
次に、図9に、添加剤の使用によるCOパーミアンス改善効果をCO/H系の原料ガスで確認した測定結果を示す。図9は、添加剤として上記実施例1と同じイオン性流体の1‐アリル‐3‐エチルイミダゾリウムブロミドを添加した実施例5、及び、比較用の各サンプルのCOパーミアンスRCO2とCO/H選択率、原料側室12内の原料ガスFGの圧力を150kPa〜450kPaの範囲の加圧状態で測定した結果を示す。尚、測定温度は140℃である。
【0086】
実施例5のサンプルは、添加剤として1‐アリル‐3‐エチルイミダゾリウムブロミドを使用して、上述の作製方法により作製した。(PVA/PAA:DAPA:添加剤)の配合比率は、記載の順に、(66.3重量%:20重量%:13.7重量%)となっている。PVA/PAAゲル膜内に添加剤を加えない比較用のサンプルは、第1実施形態の実施例のサンプルと同条件で作製されたものを使用する。
【0087】
実施例5及び比較用の各サンプルの膜性能を評価するための実験装置の構成は、第1実施形態と同じであるので、重複する説明は省略する。但し、実施例5及び比較用の各サンプルの膜面積は、第1実施形態及び実施例1〜4のサンプルと異なり、3.65cmである。また、実験方法は、原料ガス及びスイープガスの組成と流量以外は、第1実施形態と同じである。原料ガス(CO、H、HOからなる混合ガス)FGを、1.64×10−2mol/minの流量で原料側室12に供給し、スイープガス(Arガス)SGを、8.18×10−4mol/minの流量で透過側室13に供給する。
【0088】
原料ガスFGは、CO、H、HOからなる混合ガスを、CO:5%、H:45%、HO:50%の混合比率(モル%)に調整した。具体的には、10%COと90%H(モル%)よりなる混合ガス流(25℃での流量:200cm/min、8.13×10−3mol/min)に水を定量送液ポンプ18で送入し(流量:0.147cm/min、8.06×10−3mol/min)、100℃以上に加熱して水分を蒸発させて、上記混合比率の混合ガスを調製し、これを原料側室12に供給した。
【0089】
スイープガスSGは、サンプル膜を透過する被測定ガス(CO、H)の透過側室側の分圧を低くして、透過推進力を維持するために供給され、被測定ガスと異なるガス種(Arガス)を用いる。具体的には、Arガス(25℃での流量:20cm/min、8.13×10−4mol/min)を透過側室13に供給した。
【0090】
図9より、本発明膜は、140℃の高温条件であっても、添加剤を用いることで、原料ガスFGの圧力が150〜450kPaの全圧力範囲で、添加剤を用いない比較用サンプルに比べて、COパーミアンス及びCO/H選択率が改善されることが分かる。
【0091】
尚、添加剤の使用によるCOパーミアンス改善効果が低圧側で発現する理由は、低圧下では水蒸気分圧が低くPVA/PAAゲル膜内の水分量が減少するので、添加剤が一種の可塑化剤の役割を果しているためと考えられる。
【0092】
以下に、本発明に係るCO促進輸送膜の別実施形態につき説明する。
【0093】
〈1〉上記実施形態では、本発明膜は、PVA/PAA共重合体と二酸化炭素キャリアのDAPA(またはDAPAと添加剤)を含む水溶液からなるキャスト溶液を、ゲル膜担持用の親水性PTFE多孔膜にキャストした後にゲル化して作製したが、本発明膜は、当該作製方法以外の作製方法で作製しても構わない。例えば、PVA/PAA共重合体ゲル膜に、DAPAと添加剤の少なくとも何れか一方を後から含浸させて作製しても構わない。
【0094】
〈2〉上記実施形態では、本発明膜は、疎水性PTFE多孔膜/ゲル層(親水性PTFE多孔膜に担持された含有ゲル膜)/疎水性PTFE多孔膜よりなる3層構造としたが、本発明膜の支持構造は、必ずしも当該3層構造に限定されない。例えば、疎水性PTFE多孔膜/ゲル層(親水性PTFE多孔膜に担持された含有ゲル膜)よりなる2層構造でも構わない。
【0095】
〈3〉上記実施形態では、本発明膜がCO透過型メンブレンリアクターへ応用される場合を想定したが、本発明膜は、CO透過型メンブレンリアクター以外にも、二酸化炭素を選択的に分離する目的で使用可能である。従って、本発明膜に供給される原料ガスは、上記実施形態に例示した混合ガスに限定されるものではない。
【0096】
〈4〉上記実施形態において例示した、本発明膜の組成における各成分の混合比率、膜の各部の寸法等は、本発明の理解の容易のための例示であり、本発明はそれらの数値のCO促進輸送膜に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係るCO促進輸送膜は、二酸化炭素の分離に利用可能であり、特に、水素を主成分とする燃料電池用等の改質ガスに含まれる二酸化炭素を水素に対する高い選択比率で分離可能なCO促進輸送膜に利用可能であり、更には、CO透過型メンブレンリアクターに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係るCO促進輸送膜の一実施形態における構造を模式的に示す断面図
【図2】本発明に係るCO促進輸送膜の作製方法の第1実施形態を示す工程図
【図3】CO促進輸送膜の比較例サンプルの構造を模式的に示す断面図
【図4】本発明に係るCO促進輸送膜の膜性能を評価するための実験装置の構成図
【図5】本発明に係るCO促進輸送膜の親水性多孔膜の使用によるCO/H選択率の改善効果を示す図
【図6】本発明に係るCO促進輸送膜の親水性多孔膜の使用によるCO/H選択率の改善効果を示す図
【図7】本発明に係るCO促進輸送膜の作製方法の第2実施形態を示す工程図
【図8】本発明に係るCO促進輸送膜の添加剤使用によるCOパーミアンスの促進効果を示す図
【図9】本発明に係るCO促進輸送膜の添加剤使用によるCOパーミアンスの促進効果を示す図
【図10】CO促進輸送膜を備えたCO変成器における各種ガスの流れを示す図
【図11】CO促進輸送膜を備えている場合と備えていない場合における、CO変成器の触媒層長に対する一酸化炭素及び二酸化炭素の各濃度変化の比較図
【符号の説明】
【0099】
1: 二酸化炭素キャリアを含有するPVA/PAAゲル膜(ゲル層)
2: 親水性多孔膜
3、4: 疎水性多孔膜
10: CO促進輸送膜(サンプル)
11: 流通式ガス透過セル
12: 原料側室
13: 透過側室
14、16: 冷却トラップ
15: 背圧調整器
17: ガスクロマトグラフ
18: 定量送液ポンプ
FG: 原料ガス
SG、SG’: スイープガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に2,3‐ジアミノプロピオン酸を添加したゲル層を、親水性の多孔膜に担持させてなることを特徴とするCO促進輸送膜。
【請求項2】
前記親水性の多孔膜に担持された前記ゲル層が疎水性の多孔膜によって被覆支持されていることを特徴とする請求項1に記載のCO促進輸送膜。
【請求項3】
前記多孔膜が100℃以上の耐熱性を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のCO促進輸送膜。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸共重合体ゲル膜内に、2,3‐ジアミノプロピオン酸の他に、二酸化炭素透過性を促進するための添加剤として、イオン性流体、または、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸の中から選択される化学物質を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のCO促進輸送膜。
【請求項5】
前記イオン性流体が、下記のカチオン、アニオンの組合せよりなる化合物から選択される化学物質であり、
前記カチオンが、1,3位に以下の置換基を有するイミダゾリウムで、置換基としてアルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基を有するもの、または、第4級アンモニウムカチオンで、置換基としてアルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基を有するものであり、
前記アニオンが、塩化物イオン、臭化物イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、または、トリフルオロメタンスルホン酸イオンであることを特徴とする請求項4に記載のCO促進輸送膜。
【請求項6】
請求項1に記載のCO促進輸送膜の製造方法であって、
ポリビニルアルコール‐ポリアクリル酸共重合体と2,3‐ジアミノプロピオン酸を含む水溶液からなるキャスト溶液を作製する工程と、
前記キャスト溶液を前記親水性の多孔膜にキャストした後にゲル化して前記ゲル層を作製する工程と、
を有することを特徴とするCO促進輸送膜の製造方法。
【請求項7】
前記キャスト溶液を作製する工程において、前記水溶液中に、イオン性流体、または、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸の中から選択される化学物質が更に含まれていることを特徴とする請求項6に記載のCO促進輸送膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−36463(P2008−36463A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209816(P2006−209816)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(305009898)株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ (9)
【Fターム(参考)】