説明

CYP110による芳香族化合物の製造方法

【課題】 本発明は、CYP110を合成させた大腸菌等の生きた細胞を用いて効率良く、(1)置換基を有する芳香族化合物に水酸基を導入する方法、(2)置換基を有する芳香族化合物のうち芳香環に水酸基を有する芳香族化合物に作用させることにより、二分子の芳香環を炭素−炭素単結合を介した縮合体に変換する方法、及び(3)置換基を有する芳香族化合物のうちフラバノン類に関しては、水酸基を導入した後、二重結合を導入することによりフラバノン類をフラボン類に変換する方法を提供することを主な課題とする。
【解決手段】 シトクロムP450のファミリー110(CYP110)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物に作用させて芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いる芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シトクロムP450 (以下、「P450」という)は、全ての真核生物と、大腸菌などの一部の原核生物を除くすべての生物種に広く保存されており、現在までに7,232種類のP450遺伝子が確認されている酵素最大のファミリー群である(http://drnelson.utmem.edu/CytochromeP450.html 2008年2月24日公表)。P450は、1958年にMartin KlingenbergとDavid Garfinkelによって、それぞれラットとブタの肝臓ミクロソーム分画からシトクロム様の一酸化炭素結合スペクトルを示す色素タンパク質として発見された (非特許文献1及び2)。そして、1962年に大村と佐藤らは、この肝臓ミクロソーム分画から色素を可溶化すると、420 nm付近に吸収極大を示すシトクロムb5とは異なる新しいシトクロムが得られたと報告している。また、この報告の中で、一酸化炭素結合型をP-450、結合していない状態をP-420と命名した (非特許文献3)。しかし、翌年の1963年、Estabrookらのグループは、シトクロムと考えられていたこの色素タンパク質が、17-HydroxyprogesteroneのC21の水酸化反応を行うことを発見し、シトクロムではなく一酸素原子を添加するモノオキシゲナーゼであることが判明した(非特許文献4)。だが、すでに“シトクロム”という呼称が一般化していたことから、現在でもシトクロムP450(通常、P450又はCYPと省略して呼ばれる)と呼称されている。その後、大村らのグループによりP450による酸素の活性化機構が提示され、モノオキシゲナーゼとしてのP450の研究が始まった (非特許文献5)。
【0003】
P450は、真核生物では500前後、原核生物では400前後のアミノ酸残基から構成されるヘムタンパク質であり、真核生物の場合、膜タンパク質、細菌の場合は、可溶性タンパク質として存在している。しかし、すべてのP450において、立体構造は極めて類似しており、一辺が約60Å、厚さは約30Åのプリズム型をしている。一次構造の特徴に数カ所の共通した領域があり、中でも、カルボキシル末端から約50〜60アミノ酸残基手前に存在するPhe-X-X-Gly-X-Arg/His-X-Cys-X-Gly(配列番号11及び12)というヘム結合領域のアミノ酸配列は、高度に保存されたP450特有の配列であり、ゲノム情報からP450遺伝子を同定する場合に利用される。この一次構造、立体構造の類似性から、P450は共通の祖先に由来すると考えられている (非特許文献6)。また、これらの共通性から、P450は、アミノ酸配列の類似度に基づいて分類される。分類は、シトクロムP450を示すCYPを接頭辞に付け、その後にファミリー番号、サブファミリー番号、遺伝子番号と分類する。原則的に、アミノ酸配列が40%以上一致する場合、同一ファミリーに分類し、55%以上一致する場合、同一サブファミリーに分類される。遺伝子番号は発見順に付与される。そして、命名された新規のP450は、順次Dr. Nelson博士のホームページに掲載される (http://drnelson.utmem.edu/CytochromeP450.html)。
【0004】
P450は、炭化水素や芳香族化合物のように、化学的に非常に安定な化合物の水酸化反応を触媒する。しかし、P450の触媒反応は水酸化反応だけではない。現在判明しているP450の触媒反応は、水酸化のほかに、エポキシ化、O-脱メチル化、スルホキシド化、酸化的アリル転移 (非特許文献7)、酸化的Baeyer-Villiger反応 (非特許文献8)等の様々な反応を触媒する (非特許文献9)。さらに、基質となる化合物の大きさは、2-ブロモフェノール(Mr 173)のような低分子から、シクロスポリン(Cyclosporin)A (Mr 1202)の様に非常に大きな化合物まで触媒可能であり、基質適応性の広さが特徴的である。
【0005】
P450がモノオキシゲナーゼとして機能するには通常、NAD(P)HからP450に電子を伝達するタンパク質の介在を必要とする。放線菌を始めとする細菌由来のP450は通常、フェレドキシンレダクターゼ(ferredoxin reductase;FADを補酵素とする)とフェレドキシン(ferredoxin;Fe-S小タンパク質)[この2つのタンパク質を総称して、電子伝達タンパク質、又はレドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質と呼ばれている。]の介在を必要とする(非特許文献10)。しかしながら、P450は、これらの電子伝達タンパク質との相性が厳しく、しかもP450自体が失活しやすい不安定酵素であるので、新しいP450遺伝子を取得しても、その機能発現は難しかった。
【0006】
また、このような複雑な反応系の故にP450の触媒機能の解析は困難となる場合が多かった(非特許文献10)。そこで、P450(特に真核生物由来のP450)の機能解析研究では、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)の発現系が利用されることが多かった。パン酵母発現系を使用する場合には、酵母に元々存在するP450還元酵素[NAD(P)H-P450還元酵素]を利用して、基質触媒反応試験を実施する。酵母のP450還元酵素は動物、植物や真核微生物を問わず、真核生物のミクロソームに存在するP450 (class IIに属するP450と言われる) (非特許文献10)との適応性が高いため、電子伝達タンパク質の検討を行わずに結果を得られる場合が多い。しかしながら、酵母発現系にはいくつかの問題点が存在した。一つ目の問題点は、パン酵母自身がCYP51、CYP56、CYP61の3種類のP450を保有しており、これらのP450による反応への影響を考慮しないといけないという点であった。そのため、異種性物のP450遺伝子を導入し、発現解析を実施する場合、厳密には宿主側のP450遺伝子をノックアウトしなければデータの信頼性に疑問点が残った。二つ目の問題点は、細菌等の原核生物由来のP450や真核生物のミトコンドリアで作用するP450 (class Iに属するP450と言われる)(非特許文献10)と酵母P450還元酵素との相性の問題であった。酵母のP450還元酵素の異種生物由来のclass IIのP450への適応性は高いが、class Iに属するP450との相性に問題があった。さらに、class IIに属するP450でも本来のP450還元酵素との差異による影響が不明瞭であった。
【0007】
また、大腸菌内でP450遺伝子を機能発現させる場合の難点は、機能を発現させるためのP450への電子伝達タンパク質の選出が難しい点にあった。細菌に多く見られるNAD(P)H‐鉄硫黄タンパク質還元酵素 (フェレドキシンレダクターゼ)と鉄硫黄タンパク質 (フェレドキシン)の組み合わせを電子伝達タンパク質として必要とするP450(class I)に対して、汎用性の高い電子伝達系が求められていた (非特許文献10)。
【0008】
ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌NCIMB9784株が有するP450RhF(CYP116)が、フェレドキシンレダクターゼ部分(FMNを補酵素とする)とフェレドキシン部分(Fe-S小タンパク質)からなる還元酵素末端(reductase domain、還元酵素ペプチド、レドックスパートナータンパク質部分;C末側)がリンカー配列を介してP450本体タンパク質部分(N末側)と一本に繋がった1本のポリペプチドと言う、一般的なP450とは異なる珍しい構造を持つことが、エジンバラ大学のグループによって示された(非特許文献11)。野舘らは、このP450RhFのリンカー配列を含む還元酵素末端を利用し、機能解析を行いたいP450遺伝子のクローニング部位としてNdeI部位及びEcoRI部位を付与した大腸菌用機能発現ベクターpREDを作製した(特許文献1及び非特許文献12)。なお、大腸菌用ベースベクターとしては、T7プロモーターにより制御を受けるpET21a(Novagen社製)が用いられている。pREDベクターの構造を図1に示す。このpREDベクターを用いると、細菌由来のいくつかのP450遺伝子[P450cam(CYP101)、P450Bzo(CYP203)、P450balk(CYP153)]が大腸菌で機能発現されることが示された(特許文献1及び非特許文献12)。この大腸菌発現系の最大の利点は、今まで機能的な発現が困難であった細菌由来のP450を汎用的に効率良く発現できることである。そのため、異種生物に由来するP450の機能解析に適していると考えられた。
【0009】
現在、シアノバクテリアは34種のゲノムの解読が終了しており、その情報が開示されている(CyanoBaseホームページhttp://bacteria.kazusa.or.jp/cyanobase/index.html参照)。ゲノム解析が終了しているシアノバクテリアの内、P450遺伝子を保有しているのは、20種類である。公開されたゲノム情報から14ファミリー、60分子種のP450遺伝子配列が確認された。例えば、CYP110ファミリーは、アナベナ属[Anabaena sp.;ノストック属(Nostoc sp.)とも呼ばれる。] PCC7120株、ノストック・パンクチホルメ(Nostoc punctiforme)、アナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)ATCC 29413株等のシアノバクテリアが保有するP450の最大のファミリーである。
【0010】
最近、CYP110に属するタンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、シアノバクテリアが保有するセスキテルペンのゲルマクレン(germacrene)Aに水酸基を導入する反応が発表された(非特許文献13)。これ以外のシアノバクテリア由来のP450の触媒機能が解析された例はない。
【0011】
上述したように、P450ファミリー群は基質適応性 (特異性)が極めて広く、触媒反応が多岐に及ぶために基質の同定が難しく、ゲノム上にP450の遺伝子が確認されても機能の推定に至る例は少ない。その結果、これまでのP450の研究は、代謝物解析の研究が進み、基質の推定が比較的容易であるヒトをはじめとする動物のP450を中心に研究が行われてきた。一方、細菌に由来するP450は、最近のゲノム研究の進展から多くのP450遺伝子配列が発見されてきているにもかかわらず、基質となる化合物の推測が困難を要する場合が多く、機能解析研究例が動物のP450に比べて極端に少ない。しかし、細菌の中で放線菌由来のP450は、ペニシリン(Penicillin)、エリスロマイシン(Erythromycin)、エバーメクチン(Avermectin)等の抗生物質の生合成に関与している。また、樟脳(Camphor)、シネオール(Cineol)、テルピネオール(Terpineol)等のテルペン類を炭素源として利用する細菌では、P450がこれらの資化に重要な役割を担っている。このように、細菌由来のP450の中には有機化学合成では合成が困難な化合物への代謝に関与するP450の分子種が存在すると期待され、新規の触媒機能を有するP450の同定や、その触媒反応の解明が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2006/051729
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Klingenberg, M. 1958. Pigments of Rat Liver Microsomes. Arch. Biochem. Biophys. 75: 376-386
【非特許文献2】Garfinkel, David. 1958. Studies on pig liver Microsomes. I. enzymic and pigment composition of different microsomal fraction. Arch. Biochem. Biophys. 77: 493-509
【非特許文献3】Omura, T. and Sato, R. 1962. A new cytochrome in liver Microsomes. J. Biol. Chem. 237: 1375-1376
【非特許文献4】Estabrook, R.W., Cooper, D.Y. and Rosenthal, O. 1963. The light reversible carbon monoxide inhibition of the steroid C21-hydroxylase system of the adrenal cortex. Biochem. Z. 338: 741-755
【非特許文献5】Omura, T., Sato, R., Cooper, D.Y., Rosenthal, O. and Estabrook, R.W. 1965. Function of cytochrome P-450 of Microsomes. Fed. Proc. 24: 1181-1189
【非特許文献6】Degtyarenko, K.N., Archakov, A.I. 1993. Molecular evolution of P450 superfamily and P450-containing monooxygenase systems. FEBS. Lett. 332: 1-8
【非特許文献7】Sawada, Y., Kinoshita, K., Akashi, T., Aoki, T. and Ayabe, S. 2002. Key amino acid residues require for aryl migration catalysed by the cytochrome P450 2-hydroxyisoflavanone synthase. Plant J. 31: 555-564
【非特許文献8】Kim, T.W., Hwang, J.Y., Kim, Y.S., Joo, S.H., Chang, S.C., Lee, J.S., Takatsuto, S. and Kim, S.K. 2005. Arabidopsis CYP85A2, a cytochrome P450, Mediates the Baeyer-Villiger oxidation of castasterone to brassinolide in brassinosteroid biosynthesis. Plant Cell 17: 2397-2412
【非特許文献9】Isin, E.M. Guengerich, F.P. 2007. Complex reactions catalyzed by cytochrome P450 enzymes. Biochim. Biophys, Acta. 1770: 314-329
【非特許文献10】F. Hannemann et al, Biochim. Biophys. Acta, 1770: 330-344 (2007)
【非特許文献11】G. A. Roberts et al, J. Bacteriol. 184: 3898-3908 (2002)
【非特許文献12】M. Nodate et al, Appl. Microbiol. Biotechnol., 71: 455-462 (2006)
【非特許文献13】S. A. Agger et al, J. Bacteriol., 190: 6084-6096 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、CYP110を合成させた大腸菌等の生きた細胞を用いて効率良く、(1)置換基を有する芳香族化合物に水酸基を導入する方法、(2)置換基を有する芳香族化合物のうち芳香環に水酸基を有する芳香族化合物に作用させることにより、二分子の芳香環が炭素−炭素単結合を介して結合した縮合体に変換する方法、及び(3)置換基を有する芳香族化合物のうちフラバノン類に関しては、水酸基を導入した後、二重結合を導入することによりフラバノン類をフラボン類に変換する方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、細菌由来のP450のバイオコンバージョン技術への応用を目的として、新規の触媒機能を有するP450の探索を後述するように行った。
研究を行う対象として、すでにゲノム情報が公開されている、放線菌 (Streptomyces griseus)から27個、古細菌 (Sulfolobus tokodaii strain7)から1個、根粒菌 (Mesorhizobium loti strain MAFF 303099、Bradyrhizobium japonicum strain USADA 110、Rhizobium etli strain CFN 42、Rhizobium sp. pNGR234ab、Rhodopseudomonas palustris CGA 009)から32個、シアノバクテリア [Anabaena (Nostocとも言う) sp. strain PCC 7120、Anabaena variabilis strain ATCC 29413]から10個の合計70個のP450遺伝子を取得した。そして、これらのP450遺伝子の機能解析を、pREDベクター(図1、特許文献1、非特許文献12)を用いて行った。
【0016】
pREDベクターは、上述したように、ロドコッカス属NCIMB 9784株が保有するP450RhF(非特許文献11)が、一般的なP450とは異なる構造(NAD(P)H-鉄イオウタンパク質還元酵素 (フェレドキシンレダクターゼ)領域と鉄イオウタンパク質 (フェレドキシン)領域とからなるP450還元酵素末端 (C末端側)が、リンカー配列を介してP450タンパク質と一本のポリペプチド鎖として融合している構造)を有することに着目して作製されたベクターであり、T7プロモーターにより制御を受けるpET21a (Novagen社製)を元に、P450RhFのリンカー配列を含む還元酵素末端とP450遺伝子のクローニング部位としてNdeIとEcoRI部位を付与した異種由来P450の大腸菌用機能発現ベクター(図1)である。このpREDベクターに異種細菌由来のいくつかのP450遺伝子を連結し、大腸菌で機能解析することにより、既に該ベクターの汎用性が確認されている(特許文献1、非特許文献12)。
【0017】
その過程において、CYP110に属するタンパク質であるアナベナ(Anabaena)属[ノストック属(Nostoc)とも言う]PCC 7120株由来のCYP110に属するP450(CYP110E1)(配列番号1;CyanoBaseホームページhttp://bacteria.kazusa.or.jp/cyanobase/index.htmlにおけるalr4833)を用いると、置換基を有する種々の芳香族化合物に水酸基を導入できることを見出した。
この中で、芳香環に水酸基を有する一部の芳香族化合物については、芳香環の水酸基の隣の炭素を水酸化し、カテコール体に変換できることを見出した。このようにP450が芳香環に水酸基を有する芳香族化合物をカテコール体に変換する例は珍しい。 数少ない例としては、動物由来P450では、CYP1A1やCYP1B1などが薬物代謝として17β-エストラジールやエストロンの3位水酸基の隣の2位又は4位を水酸化して対応するカテコール体を与える例が知られている(J. L. Anthony et al., Endocrinology, 144; 3382-3398 (2003))。また、植物由来P450では、CYP75Bがフラバノンであるジヒドロケンフェロールの4’位水酸基の隣の3’位を水酸化し、対応するカテコール体であるジヒドロケルセチンを与え、植物の花色色素の一つであるシアニジン合成に関与していることが知られている(F. Brugliera et al., Plant J., 19; 441-451 (1999))。
【0018】
一方、細菌由来のP450が芳香環の水酸基の隣の炭素を水酸化し、カテコール体に変換するのは極めて稀で、もちろんCYP110がこのような反応を行う知見は初めてである。 カテコール体は対応する基質に比べて抗酸化活性が高いことが多く、化粧品や機能性食品開発などへの応用が期待できる。
【0019】
また、芳香環に水酸基を有する一部の芳香族化合物については、二分子の芳香族化合物の芳香環が炭素−炭素結合により縮合することを見出した。 P450によるこのような芳香環どうしの縮合反応としては、P450melによる1,3,6,8-テトラヒドロナフタレンを基質とする炭素−炭素単結合(C-C結合)を介した縮合(N. Funa et al., J. Bacteriol., 187; 8149-8155 (2005))、CYP158A2によるフラビオリンを基質とする炭素−炭素結合を介した縮合(B. Zhao et al., J. Biol. Chem., 280; 11599-11607 (2005))、P450によるバンコマイシンの分子内でエーテル結合を形成させることによる縮合(K. Zerbe et al., J. Biol. Chem., 277; 47476-47485 (2002))等が知られている。しかしながら、これらのP450を用いる変換例では菌体から不安定な酵素タンパク質を取り出して反応を行う必要があり、目的化合物を大量に製造するには好ましくない反応であった。一方、化学合成による芳香環に水酸基を有する芳香族化合物の炭素−炭素結合を介する縮合としては、バナジルアセチルアセトネート(VO(acac)2)を触媒として用いる反応(C. Y. Chu et al, Tamkang Journal of Science and Engineering, 6; 65-72 (2003))、や3価の鉄である塩化第二鉄等を用いる反応等が知られている(K. Ding et al., Tertrahedron, 52; 1005-1010 (1996))。しかし、バナジルアセチルアセトネートを用いる反応では、高価な触媒を必要とし、有害なハロゲン系溶媒が必要であるという問題点があった。 また、塩化第二鉄を用いる反応は触媒量では進行せず、好ましくは1等量以上の塩化第二鉄を必要とし、触媒効率が悪いという問題点があった。
【0020】
さらに、置換基を有する種々の芳香族化合物のうちフラバノン類については、3-ヒドロキシ体を経由するという新規な反応経路により、これをフラボン類に変換できることを見出した。これらの知見はシアノバクテリアのP450では初めてのものであるばかりか、後者のフラボン形成反応はP450の中でも新規の反応であった。すなわち、フラバノンからフラボン形成への中間体として、3−ヒドロキシフラバノンができるが、これを経由するフラボン形成反応の例は従来なかったものである。多様な二次代謝産物を作る能力がある放線菌由来のP450ではなく、実用研究対象としては注目されていなかったシアノバクテリア由来のP450がこのような多様で新奇な反応を担うというのは思いがけないことであった。化学合成によるフラバノン類の合成はフラボン類の合成よりはるかに容易であるので、化学合成されたフラバノン類をバイオコンバージョンによりフラボン類に変換することにより安価にフラボン類を合成することが可能となる。
【0021】
すなわち本発明者らは、以下の知見を得た。
(i) CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物に作用させることにより、この芳香族化合物に水酸基を効率的に導入できる。
(ii) CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物のうち芳香環に水酸基を有する芳香族化合物に作用させることにより、二分子の該芳香族化合物を、芳香環が炭素−炭素単結合を介して結合した縮合体に効率的に変換できる。
(iii) CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物のうちフラバノン類に作用させることにより、この芳香族化合物をフラボン類に効率的に変換できる。
(iv) 上記(i)〜(iii)の反応は、CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質と、必要に応じて(特に前者の場合)CYP110に電子を伝達するタンパク質(電子伝達タンパク質;レドックスパートナータンパク質)とを共に発現する組換えベクターを導入した形質転換体を芳香族化合物に作用させることにより行うことができるが、従来のpREDベクターにCYP110遺伝子を挿入した組換えベクターで大腸菌(エシェリキア・コリ)を形質転換した形質転換体を用いれば、水酸基導入反応またはフラボン形成反応が進行し易い。
(v)上記(i)〜(iii)の反応は、CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を発現する大腸菌等の生きた細胞を用いて行うことができるので、反応の際に酵素を精製して使用する必要がなく、しかも反応後は遠心分離等により菌体を容易に除去することができることから、生成物の精製も容易である。このため、目的化合物を酵素法で簡便に、しかも大量に製造することができる。
【0022】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項の新規な芳香族化合物の効率の良い製造方法を提供する。
項1. シトクロムP450のファミリー110(CYP110)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物に作用させて芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
項2. CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有する芳香族化合物とを共存させることにより、CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有する芳香族化合物に作用させる項1に記載の製造方法。
項3. 置換基を有する芳香族化合物が、トランス-カルコン、フルルビプロフェンメチルエステル、イブプロフェンメチルエステル、2-ブロモフェノール、4-メチルビフェニル、2-メチルナフタレン、1,6-ジメチルナフタレン、2-(パラ-トリル)ピリジン、3-メチルビフェニル、4-ヒドロキシビフェニル、4-ブロモフェノール、3-ヒドロキシビフェニル、又は2-ヒドロキシナフタレンである項1又は2に記載の製造方法。
項4. シトクロムP450のファミリー110(CYP110)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物のうち芳香環に水酸基を有する芳香族化合物に作用させることにより、二分子の芳香環を炭素−炭素単結合を介して縮合させ、縮合体を生成する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
項5. 置換基を有する芳香族化合物が、芳香環に水酸基を有する4-ヒドロキシビフェニル、又は2-ヒドロキシナフタレンである項2又は4項に記載の製造方法。
項6. 置換基を有する芳香族化合物が、フラバノン類である項1又は2に記載の製造方法。
項7. 該水酸基を導入する工程の後、さらに、芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基が導入された芳香族化合物に二重結合を導入する工程を含む項6に記載の製造方法。
項8. フラバノン類が、ナリンゲニン、フラバノン、7-ヒドロキシフラバノン、又は6-ヒドロキシフラバノンである項6又は7に記載の製造方法。
項9. CYP110が以下の(a)又は(b)である項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
項10. 融合型タンパク質が、CYP110とレドックスパートナータンパク質との融合型タンパク質である、項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
項11. 融合型タンパク質が、CYP110と、レドックスパートナータンパク質であるロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド又はそれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質である、項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
項12. レドックスパートナータンパク質が以下の(c)又は(d)のペプチドである項10又は11記載の製造方法。
(c) 配列番号2記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(d) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するペプチド
項13. 形質転換体が、CYP110をコードする以下の(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合型タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌ベクターに挿入した組換えプラスミドを導入したものである項2〜12のいずれかに記載の製造方法。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【発明の効果】
【0023】
化学合成により芳香族化合物への水酸基の導入、芳香族化合物の炭素−炭素単結合を介した縮合体の合成や、フラボン類を合成する場合、多工程を要したり、保護基の導入や脱離反応を要する場合がある。また、高温高圧の過酷な条件、高価又は危険な試薬、廃液処理などを要する場合もある。この点、本発明方法は酵素を用いた反応であるため、1工程で、特異的に反応を進めることができる。さらに、CYP110を生産する大腸菌等の生きた細胞を用いて反応を行うので、酵素を精製する必要もなく簡便で、変換産物の大量製造も容易であるという優れた利点がある。また、酵素により反応を行うことから、温和な条件で反応を行うことができ、環境に悪影響を与える薬品を使用する必要がない、たいへん環境にやさしい製造方法である。
【0024】
従って、本発明によれば、医薬品、健康食品、農薬、染料及びこれらの合成中間体等として有用である各種芳香族化合物を、温和な条件下で簡便に、しかも効率よく大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、P450機能発現ベクターpREDの構造を示す図である。
【図2】図2は、シアノバクテリア由来CYP110ファミリーの系統樹を示す図である。
【図3】図3は、pHSG396に挿入したHindIII-NdeI-NotI- MfeI (MunI)-SpeI-HincIIの合成二本鎖DNAを示す図である。
【図4】図4は、CYP110E1-Redタンパク質のCO差スペクトル測定結果を示す図である。
【図5】図5は、植物由来P450のフラボン合成メカニズムの推定経路を示す図である。
【図6】図6は、フラバノン変換産物の経時変化を示す図である。
【図7】図7は、Anabaena属PCC 7120株由来CYP110E1のフラボン合成メカニズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の芳香族化合物の製造方法は、シトクロムP450の1ファミリーであるCYP110に属するタンパク質又はこれらを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物原料(基質)に作用させて、置換基を有する芳香族化合物の酸化物を製造する方法である。本発明の製造方法における原料(基質)には、種々の置換基を有する芳香族化合物を用いることができる。
【0027】
本発明の製造方法においては、シトクロムP450のファミリー110(CYP110)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、(1)置換基を有する芳香族化合物に作用させて芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する、(2)置換基を有する芳香族化合物のうち芳香環に水酸基を有する芳香族化合物に作用させることにより、二分子の芳香環を炭素-炭素単結合を介して縮合させ、縮合体を生成する、又は(3)置換基を有する芳香族化合物のうちフラバノン類に関しては、水酸基を導入した後、二重結合を導入することによりフラバノン類をフラボン類に変換する。
【0028】
置換基を有する芳香族化合物
本発明の製造方法の原料(原料化合物)には置換基を有する芳香族化合物が用いられる。このような芳香族化合物として、芳香環を1〜3個有する芳香族化合物が好ましい。中でも、ベンゼン環を1〜3個有する化合物、例えば、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、フェナントレンなどのように芳香族炭化水素だけで環構造を形成している化合物が好ましく挙げられる。また、複素環を含む芳香族化合物であってもよく、このような化合物として、インドール、キノリン、アントラキノン、ピリジルベンゼン、クロマン、クロマンの4位がカルボニル基である環状ケトン、フラバノンなどのようにベンゼン環と複素環とが縮合している構造を有する化合物が挙げられる。また、芳香環が直接結合しない芳香族化合物として、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノンなどのように、芳香環と芳香環が、酸素原子、イオウ原子、アミノ基、カルボニル基を介して結合しているものが挙げられる。
【0029】
置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基(特に、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、アミル基、ヘキシル機)、5〜7員環の飽和もしくは不飽和炭化水素基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ピリジル基、炭素数7〜9のフェニルアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、置換アミノ基、保護アミノ基、アルデヒド基、ホルミル基、カルボニル基、カルボキシル基、保護カルボキシル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、一般式−R1−CO−OH(式中、R1は直鎖又は分鎖のアルキル基を表す)で表されるカルボキシルアルキル基(例えば(2−ヒドロキシ−2−オキソ)メチル基、(2−ヒドロキシ−2−オキソ)エチル基、(2−ヒドロキシ−2−オキソ−1−メチル)エチル基等)、一般式 −R1’−CO−OR2’(式中、R1’及びR2’は、同一又は異なって、直鎖又は分鎖のアルキル基を表す)で表される保護カルボキシルアルキル基(例えば(2−メトキシ−2−オキソ)メチル基、(2−メトキシ−2−オキソ)エチル基、(2−メトキシ−2−オキソ−1−メチル)エチル基等)、アシル基(例えばアセチル基等)、シアノ基、オキソ基、ニトロ基、スルホニル基、アゾ基、アジド基等が挙げられる。なお、一般式−R1−CO−OHで表されるカルボキシルアルキル基である場合には、アルキル基であるR1としてはC1〜C8の直鎖又は分鎖のアルキル基が好ましい。さらに、一般式−R1’−CO−OR2’で表される保護カルボキシルアルキル基である場合には、カルボン酸の保護基であるR2’としてはC1〜C4の直鎖又は分鎖のアルキル基、アルキル基であるR1’としてはC1〜C8の直鎖又は分鎖のアルキル基が好ましい。中でも、置換基は、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、保護カルボキシル基、カルボキシルアルキル基、保護カルボキシルアルキル基が好ましい。また、これらの置換基は、置換基を有してもよい。
置換基の数は芳香族化合物の環の種類によって異なるが、例えば、ベンゼン環の場合は、1〜6個が可能であるが、1〜3個が好ましい。ナフタレンの場合は、1〜8個が可能であるが、1〜4個が好ましい。ビフェニルの場合は、1〜10個が可能であるが、1〜4個が好ましい。アントラセンの場合は、1〜10個が可能であるが、1〜4個が好ましい。フェナントレンの場合は、1〜10個が可能であるが、1〜4個が好ましい。
【0030】
置換基を有する芳香族化合物は特に限定されないが、例えば、実施例に記載されているトランス-カルコン、フルルビプロフェンメチルエステル、イブプロフェンメチルエステル、2-ブロモフェノール、4-ブロモフェノール、3-メチルビフェニル、4-メチルビフェニル、2-メチルナフタレン、1,6-ジメチルナフタレン、2-(パラ-トリル)ピリジン、3-ヒドロキシビフェニル、4-ヒドロキシビフェニル、2-ヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0031】
本発明における置換基を有する芳香族化合物としては、フラバノン類も好ましい。フラバノン類として、2−フェニルクロマンの4位がカルボニル基である環状ケトン(フラバノン)又はその誘導体が好適であり、水酸基などの置換基を有しているフラバノン、置換基を有しないフラバノンのいずれをも用いることができる。フラバノン類としては、例えば、ナリンゲニン、フラバノン、7-ヒドロキシフラバノン、6-ヒドロキシフラバノン等が好ましい。
【0032】
本発明の製造方法においては、上記置換基を有する芳香族化合物の芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する。
置換基を有する芳香族化合物の芳香環の炭素原子に水酸基を導入するとは、芳香環を構成する炭素原子に直接水酸基を導入することを意味する。
上記置換基を有する芳香族化合物の置換基の炭素原子に水酸基を導入する反応においては、例えば、置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜10のアルキル基、又は、一般式−R1−CO−OH(式中、R1は直鎖又は分鎖のアルキル基を表す)で表されるカルボキシルアルキル基、又は、一般式 −R1’−CO−OR2’(式中、R1’及びR2’は、同一又は異なって、直鎖又は分鎖のアルキル基を表す)で表される保護カルボキシアルキル基が好ましく、該アルキル基の炭素原子、該カルボキシルアルキル基、又は、該保護カルボキシアルキル基のR1で表されるアルキル基の炭素原子に、水酸基を導入することができる。また、一般式−R1−CO−OH(式R1は直鎖又は分鎖のアルキル基を表す)で表されるカルボキシルアルキル基である場合には、アルキル基であるR1としてはC1〜C8の直鎖又は分鎖のアルキル基が好ましい。さらに、一般式−R1’−CO−OR2’で表される保護カルボキシルアルキル基である場合には、カルボン酸の保護基であるR2’としてはC1〜C4の直鎖又は分鎖のアルキル基、アルキル基であるR1’としてはC1〜C8の直鎖又は分鎖のアルキル基が好ましい。上記置換基を有する芳香族化合物の置換基がアルコキシ基である場合には、該アルコキシ基の脱アルキル化により水酸基を導入する反応も、本発明における置換基を有する芳香族化合物の置換基の炭素原子に水酸基を導入する反応に含まれる。この場合、置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜2のアルコキシ基であることが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、置換基を有する芳香族化合物のうちの1化合物群としてフラバノン類を原料(基質)として用いる場合は、フラバノン類からフラボン類を製造することができる。フラバノン類を原料として用いる場合は、該水酸基を導入する工程の後、さらに、得られた芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基が導入された芳香族化合物に、二重結合を導入する工程を含むことが好ましい。二重結合は、炭素−炭素二重結合が好ましい。二重結合が導入される炭素原子の片方は、導入された水酸基が結合している炭素原子であることが好ましい。
【0034】
また、置換基を有する芳香族化合物のうち、芳香環に水酸基を有する芳香族化合物を原料として用いる場合、二分子の該芳香族化合物から芳香環が炭素-炭素単結合を介して縮合した縮合体を製造できる。原料である芳香族化合物は、2種以上の化合物であってもよい。該置換基を有する芳香族化合物のうち、芳香環に水酸基を有する芳香族化合物としては水酸基を有するベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フラボノイドが好ましい。中でも、置換基を有する芳香族化合物が、芳香環に水酸基を有する4-ヒドロキシビフェニル、又は2-ヒドロキシナフタレンであることが特に好ましい。
【0035】
本発明の製造方法おいて、原料(基質)となる、置換基を有する芳香族化合物は市販のものを利用しても良いし、従来から知られ、常用されている方法により製造して用いてもよい。
【0036】
反応
本発明の製造方法における反応は、適当な溶液又は溶媒中で、基質(原料化合物)とCYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質(以下、「CYP110」と略称することがある。)を、必要に応じてレドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質(電子伝達タンパク質)であるフェレドキシンレダクターゼ及びフェレドキシンと共に反応させることにより行うことが好ましい。CYP110は、生物材料から単離して用いることもできる。単離したCYP110としては、菌体のような生物材料の破砕物、抽出物、精製物などが挙げられる。単離したCYP110は適当な担体に固定化されたものであってもよい。この場合、酸化反応を触媒する電子伝達タンパク質であるフェレドキシンレダクターゼ及びフェレドキシンを、反応系に共存させることが好ましい。なお、CYP110タンパク質と、P450RhFの還元酵素末端のようなレドックスパートナータンパク質とが融合したタンパク質(融合型タンパク質)を原料化合物と反応させる場合は、別途フェレドキシンレダクターゼやフェレドキシンと共存させる必要は無い。CYP110とレドックスパートナータンパク質とを共に反応させることにより、CYP110はモノオキシゲナーゼとして機能する。
【0037】
また、P450ファミリータンパク質は不安定な酵素であるため、本発明における反応は、CYP110を生産する細胞と原料化合物とを接触ないしは共存させることにより行うことが好ましい。この反応は、CYP110を生産する細胞の培養液中に原料化合物を添加することにより行ってもよく、例えばバッファー中でCYP110を生産する細胞と原料化合物とを共存させることにより行ってもよい。
【0038】
CYP110、及びこれを生産する細胞については、後に詳述する。
以下、CYP110を生産する細胞を用いた方法について説明する。反応は、回分反応や流加(半回分)反応などのバッチ方式や灌流反応などの連続反応方式で行い得る。基質は一括、又は連続的に添加し得る。
反応条件は用いる細胞(CYP110を生産する微生物等の細胞)、及び原料化合物の種類によって異なるが、例えば、回分反応の場合は、反応液中の原料化合物濃度は約0.1〜10mMが好ましく、約0.5〜3mMがより好ましい。また、非水溶性かつ液体の原料化合物の場合は、重層することができる。反応液のpHは約5〜9が好ましく、約6〜8がより好ましい。また、反応は、通常、約20〜30℃で約12〜24時間行えばよい。流加(半回分)反応や連続反応の場合は、回分反応の条件に準じて条件を設定すればよい。上記範囲であれば、原料化合物の変換率が高く、かつ精製が容易となる。
【0039】
反応生成物(変換産物)
反応で生じた芳香族化合物は、常法により精製され得る。例えば、必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで一般的な抽出溶剤、例えば酢酸エチル、クロロホルム、メタノール等の有機溶剤で抽出し、有機溶剤を減圧下で除去し、そして減圧蒸留、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、又は吸着性樹脂等の処理を行うことにより精製され得る。
【0040】
モノオキシゲナーゼCYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質
モノオキシゲナーゼCYP110に属するタンパク質としては、例えば、アナべナ (Anabaena) 属、ノストック(Nostoc)属、シネココッカス(Synechococcus)属、シアノシス(Cyanothece)属、グロエオバクター(Gloeobacter)属等に属するシアノバクテリアが生産するものが挙げられる。
【0041】
具体的には、例えば、アナべナ (Anabaena) 属PCC 7120株由来のCYP110E(CYP110E1; DNA配列は、NCBIにおいて、アクセッション番号NP_488873で登録されている;CYP110E1のアミノ酸配列を、配列番号1に示す)、アナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)ATCC 29413株由来のCYP110E6 (DNA配列は、NCBIにおいて、アクセッション番号YP_322620で登録されている)、ノストック・パンクチホルメ(Nostoc punctiforme)ATCC29133(PCC73102)株由来のCYP110E2 (DNA配列は、NCBIにおいて、アクセッション番号YP_001867723で登録されている)等が好適に使用される。
【0042】
中でも、本発明におけるCYP110としては、(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。また、(b)配列番号1のアミノ酸配列において1もしくは数個(数個とは、例えば20個、好ましくは10個、以下同様である。)のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチドも好ましく使用できる。
配列番号1のポリペプチドは、アナべナ (Anabaena)属PCC 7120株由来のCYP110Eであり、アナべナ (Anabaena)属PCC 7120株の培養物から単離することができる。また、配列番号1に基づき化学合成することもできる。
【0043】
(a)のポリペプチドに基づき(b)のポリペプチドを得る方法について述べれば、生物学的機能を喪失しない改変は、例えば、得られるタンパク質の構造保持の観点から、極性、電荷、可溶性、親水性/疎水性等の点で、置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンは非極性アミノ酸に分類され;セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンは極性アミノ酸に分類され;フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンは芳香族側鎖を有するアミノ酸に分類され;リジン、アルギニン、ヒスチジンは塩基性アミノ酸に分類され;アスパラギン酸、グルタミン酸は酸性アミノ酸に分類される。従って、同じ群のアミノ酸から選択して置換することができる。
モノオキシゲナーゼ活性は、酸素分子を還元して1分子の水を作るとともに、残りの酸素原子を様々な低分子有機化合物に導入して、酸化生成物に変換する反応を触媒する活性を意味する。モノオキシゲナーゼP450活性を有することは、当該ポリペプチドに還元状態で一酸化炭素を通気すると吸収スペクトルが変化し450nmに極大をもつ差スペクトル(CO差スペクトル)が現れることで確認することができる。
【0044】
また、CYP110を含む融合型タンパク質としては、例えば、CYP110と電子伝達タンパク質(レドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質)との融合型タンパク質や分泌シグナルとの融合型タンパク質が挙げられるが、CYP110とレドックスパートナータンパク質との融合型タンパク質が好ましい。このようなタンパク質として、代表的には、CYP110と、シトクロムP450モノオキシゲナーゼに含まれる還元酵素ペプチド(レドックスパートナータンパク質)又はそれと同等の還元酵素活性を有するペプチドとの融合型タンパク質が挙げられる。この融合型タンパク質は、具体的には、CYP110と、フェレドキシンレダクターゼ及びフェレドキシンの機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質が好ましい。
【0045】
特に、CYP110を含む融合型タンパク質としては、CYP110と、レドックスパートナータンパク質であるロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド(ドメイン)又はそれと同等の還元酵素活性を有するペプチドとの融合型タンパク質が好ましい。ロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼに含まれる還元酵素ペプチド(ドメイン)は、(c)配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドである。また、(d)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するペプチドも好ましく用いることができる。還元酵素活性を有することは、基質が知られた既知のP450と還元酵素ペプチドの融合型タンパク質を作り、実際に反応生成物が生じるかどうかを確かめることで確認することができる。
【0046】
配列番号2のペプチドは、ロドコッカス属NCIMB9784株の培養物から単離することにより得られる。また、化学合成によっても得られる。(c)のペプチドの生物活性を保持しつつ配列を改変して(d)のペプチドを得る方法は、前述した(a)のポリペプチドに基づき(b)のポリペプチドを得る方法と同様である。
【0047】
CYP110モノオキシゲナーゼと還元酵素ペプチドとの間には、リンカーペプチドを介在させることができる。通常は、CYP110のC末端側にリンカーペプチドを介して還元酵素ペプチドが結合していればよい。リンカーペプチドの長さは、CYP110と還元酵素ペプチドとで効率良く反応を進める上で、約6〜26aa、好ましくは16aa前後とすることができる。
【0048】
これらのモノオキシゲナーゼCYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質は自然界に存在する微生物等から抽出しても良いし、アミノ酸配列に基づき化学合成してもよい。また、後述する本発明の形質転換体から単離、精製しても良い。
【0049】
組換えベクター
CYP110又はそれを含む融合型タンパク質を生産する細胞は、これらをコードするDNAを含む組換えベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体であることが好ましい。すなわち本発明においては、CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有する芳香族化合物とを共存させることにより、CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有する芳香族化合物に作用させることが好ましい。このようにCYP110を高発現する形質転換体を用いることにより、効率よく反応を行うことができる。
【0050】
この組換えベクターは、適当なベクターDNAに本発明のモノオキシゲナーゼCYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードするDNAを連結することにより得ることができる。ベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、公知のベクターを宿主に応じて広い範囲から選択することができる。例えば、ファージ、ファージミドベクター、プラスミドベクター等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌(エシェリキア・コリ)由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルス、トガウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
細菌細胞は生育が容易で反応を行い易いため、細菌由来のベクターが好ましく、エシェリキア・コリ由来のベクターがより好ましい。エシェリキア・コリ由来のベクターとしては、pUC系ベクター、pTTQベクターやpETベクターが好ましい。中でも、pETベクターが好ましい。
【0051】
モノオキシゲナーゼCYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を高発現させるためには、プロモーター及び翻訳シグナルの選択が重要である。プロモーターは、宿主中で機能できるものであればよいが、例えば、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなどが挙げられる。中でも、lacプロモーターやT7プロモーターを用いることにより、CYP110を高発現させることができる。より好ましくは、T7プロモーターを用いる。翻訳シグナルも宿主中で機能できるものであればいずれを用いてもよいが、例えば、pUC系ベクター(LacZ)の翻訳シグナル、pET系ベクターの翻訳シグナルなどが挙げられる。中でも、CYP110を高発現させることができる点で、pET系ベクターの翻訳シグナルが好ましい。
【0052】
組換えベクターで最も好ましいのは、モノオキシゲナーゼCYP110に属するタンパク質をコードするDNAの3’末端に、リンカーを介して、ロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450RhFの還元酵素ドメイン又はこれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドをコードするDNAを連結した融合型タンパク質発現カセットを、T7プロモーターとpET系ベクターのシグナルとを利用するようにpET系ベクターに挿入したCYP110遺伝子機能発現用プラスミドである。
【0053】
CYP110に属するタンパク質をコードするDNAとしては、(e)配列番号3の塩基配列からなるDNA、又は(f)配列番号3の塩基配列からなるDNA(配列番号3のDNA)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが好ましい。また、ロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450の還元酵素ドメイン又はこれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドをコードするDNAとしては、(g)配列番号4の塩基配列からなるDNA、又は(h)配列番号4の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAが好ましい。
配列番号3の塩基配列は、配列番号1のポリペプチドをコードするDNA配列であり、配列番号4の塩基配列は、配列番号2のポリペプチドをコードするDNA配列である。
【0054】
配列番号3の塩基配列からなるDNAは、例えば、アナべナ (Anabaena)属 PCC 7120株のゲノムDNAライブラリーから、配列番号3に基づき設計したプローブを用いたハイブリダイゼーションや、配列番号3に基づき設計したプライマーを用いて、アナべナ (Anabaena)属 PCC 7120株のゲノムDNAを鋳型としたPCRなどにより得ることが出来る。また、化学合成によっても得られる。配列番号4の塩基配列からなるDNAは、例えばロドコッカス属細菌のゲノムDNAやそのライブラリーを用いて、配列番号3のDNAの場合と同様にして得ることができる。また化学合成することもできる。また、(e)又は(g)のDNAの改変により(f)又は(h)の遺伝子を得る方法としては、例えば、(e)又は(g)のDNA配列を基に化学合成する方法、(e)又は(g)のDNAにγ-線を照射する方法、(e)又は(g)のDNAを鋳型として用いたエラープローンPCRを行なう方法等の一般的な方法が挙げられる。
【0055】
CYP110をコードする上記(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする上記(g)又は(h)のDNAを連結した融合型タンパク質発現カセットを、T7プロモーターとpET系ベクターの翻訳シグナルを利用するようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターは、本発明における好ましい実施態様の1つである。
【0056】
本発明において、あるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual(Sambrookら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年)に記載の方法等によって得ることができる。本発明において「ストリンジェント」な条件としては、6×SSC(standard saline citrate;1×SSC=0.15M NaCl,0.015M Sodium citrate)、0.5%SDS及び50%ホルムアミドの溶液中において42℃で一夜加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中において68℃で30分間洗浄した場合にそのポリヌクレオチドから脱離しない条件が挙げられる。より好ましい「ストリンジェントな条件」とは、90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性が配列間に存在するときにハイブリダイゼーションが起こることを意味する。このような「ストリンジェントな条件」については、上記Molecular Cloning、特に11.45節”Conditions for Hybridization of Oligonucleotide Probes”に記載されており、ここに記載の条件を使用し得る。
【0057】
なお、本発明において、あるDNA、例えば、配列番号3の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAは、配列番号3の塩基配列からなるDNAの塩基配列と約90%以上の配列相同性を有することが好ましく、約95%以上の配列相同性を有することがより好ましく、約98%以上の配列相同性を有することが特に好ましい。
【0058】
形質転換体
本発明における形質転換体は、CYP110と、レドックスパートナータンパク質との融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入したものであることが好ましく、CYP110をコードする上記(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合型タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌ベクターに挿入した組換えプラスミドを導入したものであることがより好ましい。組換えプラスミドとしては、上記(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする上記(g)又は(h)のDNAを連結した融合型タンパク質発現カセットを、T7プロモーターとpET系ベクターの翻訳シグナルを利用するようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターが特に好ましい。
【0059】
上記形質転換体は、上記の組換えベクターを宿主中に導入することにより得ることができる。組換えベクターの導入方法としては、特に限定されないが、細菌に導入する方法であれば、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Cohen et a1.: Proc. Nat1. Acad. Sci., USA, 69, 2110, 1972]やエレクトロポレーション法等が挙げられ、また、酵母へ導入する方法であれば、例えば、エレクトロポレーション法[Becker,D.M. et a1.: Methods Enzymo1., 194,182, 1990]、スフェロプラスト法[Hinnen, A. et a1.: Proc. Nat1. Acad. Sci., USA, 75, 1929, 1978]、酢酸リチウム法[Itoh, H.: J .Bacterio1.,153, 163, 983]等が、また、動物細胞へ導入する方法であれば、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が、また、昆虫細胞へ導入する方法であれば、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0060】
宿主はベクターに合わせて選択すればよい。動物、酵母等の真核細胞でも、放線菌や真正細菌(eubacteria)等の原核細胞でもよいが、生育が簡単で早く変換反応を行い易い点で、真正細菌細胞が好ましい。真正細菌細胞としては、例えば、大腸菌(エシェリキア・コリ;Escherichia coli)などのエシェリキア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌などが挙げられるが、中でも、大腸菌が好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
(1)シアノバクテリア由来のP450の系統樹的位置
かずさDNA研究所から公開されている以下のシアノバクテリア株のゲノム情報から推測されるP450のアミノ酸配列情報を検索及び収集した。ゲノム解析が終了しているシアノバクテリアの内、P450遺伝子を保有しているのは、20種類存在していた。得られたアミノ酸配列情報について、Blast (http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を使用して相同性検索し、それぞれのP450をファミリー、サブファミリーに分類した。
【0063】
Anabaena sp. PCC 7120
Anabaena variabilis ATCC 29413
Synechocystis sp. PCC 6803
Gloeobacter violaceus PCC 7421
Microcystis aeruginosa NIES-843
Prochlorococcus marinus MIT 9313
Synechococcus sp. WH 8102
Synechococcus elongatus PCC 6301
Synechococcus sp. CC 9311
Synechococcus sp. PCC 7002
Acaryochloris marina MBIC 11017
Synechococcus sp. CC 9902
Synechococcus sp. CC 9605
Synechococcus elongatus PCC 7942
Prochlorococcus marinus str. MIT 9303
Synechococcus sp. RCC 307
Synechococcus sp. WH 7803
Cyanothece sp. ATCC 51142
Nostoc punctiforme ATCC 29133
Rhodopseudomonas palustris CGA 009
【0064】
表1に、それぞれのシアノバクテリアが保有するP450のファミリー毎の個数を示す。表1に示した結果から、CYP110ファミリー群が最も広くシアノバクテリアに分布していることが判明した。次いでCYP120ファミリー群の分布が確認された。また、Synechococcus 属では、CYP213ファミリー群の保存が特徴的であった。
【0065】
【表1】

【0066】
得られたアミノ酸配列情報について、Blast (http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を使用して相同性検索し、それぞれのP450をファミリー、サブファミリーに分類した。
また、収集したアミノ酸配列について、Mega 4プログラム(http://www.megasoftware.net/)を使用してアミノ酸配列のマルチプルアライメントを作製した。その後、作製したマルチプルアライメントを基にMega 4プログラムを使用した近隣結合法による系統樹の作製を行った。その系統解析の結果、アナベナ属PCC 7120株及びアナベナ・バリアビリスATCC 29413株のP450が、シアノバクテリアのP450の中で、どのように位置しているのかが明らかとなった。CYP110はシアノバクテリア最大のファミリー群であり、一方、CYP284は、独自進化を遂げているファミリー群であった。本研究の目的は、新奇性の高い触媒機能を有するP450の探索であり、触媒機能を保有しているP450の選択が第一条件となる。この系統解析の結果は、CYP110のファミリー群がシアノバクテリアで保存されており、それは何らかの役割を担っていることを示唆していると考えられた。アナベナ属PCC 7120株のCYP110C1遺伝子(NS1)は大腸菌細胞での発現が確認されており、シアノバクテリアのセスキテルペンであるゲルマクレンAに水酸基を導入できることが最近、示された(非特許文献4)。一方で、CYP284のファミリー群のシアノバクテリアでの保存性は低く、CYP110の情報量と比較して機能解析の優先順位は低いと考えられた。よって、本研究で、CYP110のファミリーの機能解析を実施することは系統解析の上からも妥当であると考えられた。しかし、アナベナ属PCC 7120株及びアナベナ・バリアビリスATCC 29413株は、それぞれCYP110を6種類及び4種類保有しているので、次に、CYP110ファミリー群のみでの系統解析を実施した。
【0067】
(2)シアノバクテリア由来のCYP110の系統樹解析
機能解析を実施するファミリーをCYP110に決定したが、アナベナ属PCC 7120株及びアナベナ・バリアビリスATCC 29413株は、それぞれ6種類及び4種類のCYP110を保有する。そこでCYP110ファミリー群の系統解析から得られた情報を基に、機能解析を実施するP450の決定を行った。系統解析の方法は、前述の系統解析と同様に実施した。系統解析に使用したP450のアミノ酸配列情報は、表1に示したCYP110を保有しない種を除いた、以下に示す11種のシアノバクテリアに由来する。なお、アウトグループは、前述と同様にシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のCYP57 (Genbank accession No. AT4G33060)のアミノ酸配列情報を使用した。
【0068】
Anabaena sp. PCC 7120
A. variabilis ATCC 29413
G. violaceus PCC 7421
M. aeruginosa NIES-843
S. elongatus PCC 6301
Synechococcus sp. CC 9311
Synechococcus sp. PCC 7002
A. marina MBIC 11017
S. elongatus PCC 7942
Cyanothece sp. ATCC 51142
N. punctiforme ATCC 29133
【0069】
図2にCYP110ファミリーの系統解析結果を示した。同一ファミリー群であるため、各々40%以上の配列相同性がある。系統解析の結果、大まかにA、B及びCの大きな3つのグループとD、E、F及びGの小さなグループに分類された。アナベナ属PCC 7120株及びアナベナ・バリアビリスATCC 29413株のCYP110はすべて、グループA、B及びCのグループのいずれか位置していた。アナベナ属PCC 7120株及びアナベナ・バリアビリスATCC 29413株のいずれのCYP110もファミリー内の大きなグループに属していることが確認されたことから、いずれも重要な機能を保有している可能性があった。一方で、選択基準として、進化的に最も古い分子種を選択すること、または進化的に最も新しい分岐した分子種を選択することも可能である。アナベナ属PCC 7120株由来のCYP110E1(配列番号1にアミノ酸配列を示す。;CyanoBaseホームページhttp://bacteria.kazusa.or.jp/cyanobase/index.htmlにおけるalr4833)は、シアノバクテリアのCYP110のグループA、B及びCの中で、最も原始種に近いCYP110であった。つまりCYP110E1はCYP110の中で進化的に最も古いP450、すなわちCYP110の原型となるP450であることがわかった。
【0070】
上述したように、ゲノム解析が終了しているシアノバクテリアの内、P450遺伝子を保有しているのは、20種類存在しており、本研究で機能解析を行ったアナベナ属(Anabaena)属[ノストック属(Nostoc)とも言う]PCC 7120株とアナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)ATCC 29413もこの20種類に含まれていた (Ohmori, M., Ikeuchi, M., Sato, N., Wolk, P., Kaneko, T., Ogawa, T., Kanehisa, M., et al. 2001. Characterization of Genes Encoding Multi-domain Proteins in the Genome of the Filamentous Nitrogen-fixing Cyanobacterium Anabaena sp. Strain PCC 7120. DNA Res. 8: 271-284、及びSergio, T., Conrad, R.F. and Peter, J.L. 2005. Alkane-induced expression, substrate binding profile, and immunolocalization of a cytochrome P450 encoded on the nifD excision element of Anabaena 7120. BMC Microbiol. 5:16)。このアナベナ属PCC 7120株由来のCYP110E1は、シアノバクテリアのP450すなわちCYP110の原型となるP450であることがわかった。
【0071】
[実施例2]
アナベナ属PCC 7120株由来CYP110E1遺伝子の大腸菌での機能発現用プラスミドの作製
次に、アナベナ属PCC 7120株が有するCYP110E1の機能発現用プラスミドpRED-CYP110E1の作製を行った。
本発明者らは、上記でも述べたように大腸菌でのP450遺伝子の機能発現系を構築した(特許文献1、非特許文献12)。本研究で機能解析を実施するシアノバクテリア (アナベナ属PCC 7120株)由来のCYP110E1の機能発現解析に、このpREDベクターを利用した。
【0072】
(1) Anabaena属PCC 7120株由来CYP110E1遺伝子の塩基配列確認用プラスドの作製とPCR増幅したCYP110E1遺伝子の塩基配列の確認
塩基配列の確認の為に、α相補性を利用した青白選抜が可能である大腸菌用プラスミドベクターpHSG396 (クロラムフェニコール耐性;TaKaRa Bio 社製)を材料として用いた。その後のP450遺伝子のサブクローニング操作が容易となるように、マルチクローニング部位を新たに付与し、汎用性を高めたpHSG396NMSベクターを構築した。その後、このpHSG396NMSに、Anabaena属PCC 7120株のゲノムからPCR法により増幅したCYP110E1遺伝子(終止コドンは除いている)を挿入し、pHSG396NMS-CYP110E1プラスミドを作製し、CYP110E1遺伝子の塩基配列の確認を行った。pHSG396NMSに連結(挿入)したCYP110E1遺伝子の塩基配列は、配列番号3で示される塩基配列から終始コドン(TAG)を除去したもの(1,365 bp)である。
【0073】
1) P450遺伝子の塩基配列確認用プラスミドpHSG396NMSプラスミドベクターの作製
pHSG396プラスミドベクターをHindIIIとHincIIとで二重消化した後、アガロース電気泳動をかけてDNA断片をゲルから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN社製)を用いてゲル抽出を行った(2,218 bp)。次にHindIII-NdeI-NotI-MfeI(MunI)-SpeI-HincII部位を持つようにデザインした合成DNAを二重鎖になるようにアニーリングしたもの(0.5μg)(配列は図3)をHindIII-HincII切断したpHSG396ベクター(0.2μg)と混合し、Ligation high溶液 (東洋紡社製)と1:1の量比で混合し、16℃、45分間のライゲーション反応を行い、合成二本鎖DNAをpHSG396ベクターに連結した。その後、氷水中で大腸菌コンピテントセル[ECOS Competent E. coli DH5α (ニッポンジーン社製)]にライゲーション反応液を1/10量混合し、5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することで形質転換した。次に、SOC培地 (2% トリプトン、0.5% yeast extract、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4、20 mM グルコース)を菌体溶液の2倍量加え、37℃、30分間インキュベートした。その後、30μg/mlのクロラムフェニコールを含み、30μlの100 mM IPTG (イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)と30μlの20%のX-Gal (5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド)-DMSO (Dimethyl sulfoxide)溶液を塗布したLB培地プレート (1% Bacto-tryptone、0.5% Bacto-yeast extract、1% NaCl、0.02% 5 N NaOH、1.5%アガロース)にインキュベートした菌体溶液を塗布し、37℃で16時間培養した。16時間の培養後、プラスミドを抽出するために、白色コロニーを採り、クロラムフェニコールを30μg/ml含むLB培地 (1% Bacto-tryptone、0.5% Bacto-yeast extract、1% NaCl、0.02% 5 N NaOH)へ移植し、37℃で16時間、170 rpmの条件下、振盪培養器で振盪培養した。培養した形質転換大腸菌から、QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN社製)を用いてプラスミドの抽出を行った。抽出したプラスミドを、マルチクローニングサイトの外側の塩基配列から設計したプライマーを使用し、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems 社製)を用いてシークエンス反応に供した。シークエンス反応条件は、1μlのReady reaction premix、3.5μlの5×BigDye sequencing Buffer、プライマー {3.5μlのフォワードプライマー:pHSG396NMS-Fo (1μmol/μl)もしくは、3.5μlのリバースプライマー:pHSG396NMS-Rv (1μmol/μl)}、200 ngのプラスミドDNA、及び滅菌水蒸留水を20μlとなるように混合し、シークエンス反応として96℃で1分間加熱した後、96℃で10秒間、50℃で5 秒間、及び60℃で4分間を30サイクル行った。その後、model 3730 DNA analyzer (Applied Biosystems 社製)を使用して、インサートの塩基配列を確認し、P450遺伝子の塩基配列確認用プラスミドをpHSG396NMS (2,347 bp)とした。
【0074】
<シークエンス用プライマーの塩基配列>
シークエンス確認に使用したプライマーの塩基配列は以下の通りである。
pHSG396NMS-Fo : 5’- AGTCACGACGTTGTA -3’(配列番号5)
pHSG396NMS-Rv : 5’- CAGGAAACAGCTATGAC -3’(配列番号6)
【0075】
<pHSG396挿入塩基配列>
前述のpHSG396に挿入したHindIII-NdeI-NotI-MfeI(MunI)-SpeI-HincIIの合成二本鎖DNAは、図3に示す通りである。構築したpHSG396NMSの塩基配列を、配列番号7に示す。
【0076】
2) Anabaena属PCC 7120株由来CYP110E1遺伝子の塩基配列確認用プラスミドpHSG396NMS-CYP110E1の作製
Anabaena属PCC 7120株のゲノムDNAの抽出>
Anabaena属PCC 7120株凍結菌体(約1 g)を氷水中で溶解後、300μlのSTE Buffer {100 mM NaCl、10 mM Tris・HCl (pH8.0)、1 mM EDTA (pH8.0)}を加え、懸濁後、4℃、15分間、8000 rpm遠心分離し、上清を除いた。菌体を300μlのSTE Bufferに再懸濁し、68℃、15分間のインキュベートにより、DNaseを失活させた。4℃、15分間、8000 rpm遠心分離し、上清を除いた。菌体にリゾチームを終濃度5 mg/ml、及び60μlのRNase A (10mg/ml)を加えた600μlの溶菌 Buffer {50 mM グルコース、25 mM Tris・HCl (pH8.0)、10 mM EDTA (pH8.0)}を加え、再懸濁し、37℃、30分間保温した。12μlのProteinase K (20 mg/ml) (TaKaRa Bio 社製)を加え、混和後、さらに37℃で10分間保温した。6 mgのN-Lauroylsarcosine・Naを加え、混和後、37℃、16時間保温し、菌体を溶菌させた。600μlのフェノール/クロロホルム {TE Buffer {10 mM Tris・HCl (pH8.0)、1 mM EDTA (pH8.0)}飽和フェノール:(クロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)=1:1}を加え、5分間混和後、10℃、15分間、9000 rpm遠心分離した。上層を回収し、400μlのフェノール/クロロホルムを加え、5分間混和後、10℃、15 分間、9000 rpm遠心分離した。再度、上層を回収し、400μlのフェノール/クロロホルムを加え、5分間混和後、10℃、15 分間、9000 rpm遠心分離した。上層を回収し、1/10量の3 M酢酸ナトリウム、1/10量の125 mM EDTA、及び3倍量の100%エタノールを加え、4℃、20分間、10000 rpm遠心分離し、上清を除いた。70%エタノールを500μl加え、4℃、10分間、10000 rpm遠心分離し、上清をよく除いた。200μlのTE Bufferを加え、沈殿したゲノムDNAを4℃で24時間溶解させた。
【0077】
<pHSG396NMS-CYP110E1の作製>
pHSG396NMSプラスミドベクターを、制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、4時間、2重消化した。その後、1.5%アガロース電気泳動を行い、NdeIとEcoRIとで切断されたpHSG396NMSを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。このDNAをベクターDNAとした。
【0078】
次に、PCR法を用いて、Anabaena属PCC 7120株のCYP110E1遺伝子を増幅した。PCR増幅には、pHSG396NMSプラスミドベクターへの連結を行うためにCYP110E1遺伝子のN末端側にNde I配列、C末端側にEcoR I配列を付与するように設計したプライマーを使用した。また、後に述べるP450還元酵素とのキメラタンパク質としての発現のために、C末端側のプライマーは、終止コドンを除くように設計した。PCR増幅反応は、25μlの2×PrimeSTAR MaxPremix (TaKaRa Bio 社製)、1μlのフォワードプライマー:Ana4833F (10μmol/μl)、1μlのリバースプライマー:Ana4833R (10μmol/μl)、0.5μlのAnabaena属PCC 7120株ゲノムDNA (25 ng)、2.5μlのDMSO (ジメチルスルホキシド)、及び20μlの滅菌水蒸留水を混合し、PCR反応として98℃で2分間加熱した後、98℃で10秒間、55℃で10秒間、及び72℃で15秒間を5サイクル行った。その後、98℃で10秒間、62℃で5秒間、及び72℃で15秒間を30サイクル行い、CYP110E1遺伝子を増幅した。PCR増幅反応の終了後、反応液2μlを用いて1.5%アガロース電気泳動を行い、CYP110E1遺伝子(1,365 bp)の大きさのPCR増幅産物が得られたことを確認した。CYP110E1遺伝子の増幅を確認後、MinElute PCR Purification Kit (QIAGEN社製)を用いてPCR増幅産物を精製した。精製したPCR増幅産物は、1.5%アガロース電気泳動を行い、CYP110E1遺伝子の大きさのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。抽出したPCR増幅産物を、制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、4時間、2重消化した。その後、1.5%アガロース電気泳動を行い、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。このPCR増幅産物をインサートDNAとした。
【0079】
次いで、ベクターDNAとインサートDNAとをモル比で3:1の割合で混合し、Ligation Convenience Kit (ニッポンジーン社製)を等量加えて混合後、16℃、15分間ライゲーションした。氷水中で2.5μlのライゲーション反応液を25μlの大腸菌コンピテントセル (ECOS Competent E.coli DH5α)へ混合した。これを5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することでコンピテントセルを形質転換した。その後、得られた形質転換体に25μlのSOC培地を加え、37℃で、30分間放置した後、30μg/mlのクロラムフェニコールを含み、30μlの100 mM IPTGと30μlの20%のX-Gal-DMSO溶液とを塗布したLBプレートに塗り広げた。その後、37℃、16時間培養し、コロニーを形成させた。次に、生じた白色コロニーを採り、コロニーダイレクトPCR法を用いて、プラスミドのインサートを確認した。コロニーダイレクトPCRは、0.125μlのSpeedSTAR HS DNA polymelase (TaKaRa Bio 社製)、2.5μlの10×Fast Buffer I (TaKaRa Bio 社製)、0.7μlのフォワードプライマー:Ana4833F (10 pmol/μl)、0.7μlのリバースプライマー:Ana4833R (10 pmol/μl)、1.25μlのDMSO、2μlのdNTP Mixture (2.5 mM each)、及び17.725μlの滅菌水蒸留水のPCR反応溶液へコロニーを少量混合し、98℃で5秒間、64℃で10秒間、及び72℃で10秒間のPCR反応を30サイクル繰り返した。反応後、PCR反応液の内、3μlを1.5%アガロース電気泳動することで、インサートDNAが挿入されているコロニーを選び出した。インサートを確認したコロニーを、次に、30μg/mlのクロラムフェニコールを含む10 mlのLB培地に植菌し、37℃で16時間、170 rpmの条件下、振盪培養器で振盪培養した。培養した形質転換大腸菌から、QIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドの抽出を行った。抽出したプラスミドは、マルチクローニングサイトの外側の塩基配列から設計したプライマーを使用し、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを用いてシークエンス反応を行い、インサートDNAの塩基配列を確認した。シークエンス条件は、CYP110E1遺伝子のGC含有量が高いことから、DMSOを反応液に5%添加し、pHSG396NMSの作製と同様にシークエンス反応を行った。なお、CYP110E1遺伝子の挿入が確認されたプラスミドをpHSG396NMS-CYP110E1とした。
【0080】
<CYP110E1のPCR増幅に使用したプライマーの塩基配列>
前述のプライマーの塩基配列は以下の通りである。
Ana4833F: 5’-TACCATATGATGAAACTTCCAGATAGTC-3’(配列番号8)
Ana4833R: 5’-TACGAATTCTACTTCTACAGGGTTTTTG-3’(配列番号9)
CYP110E1のアミノ酸配列 (455アミノ酸)を、配列番号1に示す。
【0081】
(2) Anabaena属PCC 7120株由来CYP110E1遺伝子の機能発現用プラスミドpRED-CYP110E1の作製
pREDベクター(配列番号10)を制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、3時間、2重消化した。処理後は、0.8%アガロース電気泳動を行い、バンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。これを酵素機能発現用ベクターDNAとした。プラスミドpHSG396NMS-CYP110E1を制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、3時間、2重消化した。制限酵素処理後、0.8% アガロース電気泳動に供し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。これをインサートDNAとした。次いで、ベクターDNAとインサートDNAとをモル比で3:1の割合で混合し、Ligation Convenience Kitを等量加えて混合後、16℃、15分間ライゲーションした。氷水中で2.5μlのライゲーション反応液を25μlの大腸菌コンピテントセル [ECOS Competent E. coli DH5α]へ加え、5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することで形質転換した。その後、SOC培地を25μl加え、100μg/mlのアンピシリンを含むLBプレートへ塗り広げた。これを、37℃、16時間培養し、コロニーを形成させた。次に、生じたコロニーを採り、コロニーダイレクトPCR法を用いて、プラスミドへのインサート配列の挿入を確認した。コロニーダイレクトPCRの条件は、生じたコロニーを0.125μlのSpeedSTAR HS DNA polymelase、2.5μlの10×Fast Buffer I、0.7μlのフォワードプライマー:Ana4833F (10 pmol/μl)、0.7μlのリバースプライマー:Ana4833R (10 pmol/μl)、1.25μlのDMSO、2μlのdNTP Mixture (2.5 mM each)、及び17.725μlの滅菌水蒸留水に少量混合し、PCR反応として98℃で5秒間、64℃で10秒間、及び72℃で10秒間を30サイクル行った。反応後、PCR反応液を3μl、1.5%アガロース電気泳動することで、インサート配列の挿入を確認した。その後、プラスミドを抽出するために、インサートを確認したコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む10 mlのLB培地に植菌し、37℃で16時間振盪培養した。培養した形質転換大腸菌は、QIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出した。目的とするCYP110E1機能発現用プラスミド(pRED-CYP110E1と命名)は、7,745 bpの大きさであり、インサートチェックの結果、挿入したCYP110E1遺伝子の1,365 bpの増幅を確認し、pRED-CYP110E1の作製を確認した。
【0082】
[実施例3]
基質スクリーニング
シアノバクテリアAnabaena属PCC 7120株由来のCYP110E1は、これまでに機能解析された例がなく、また、シアノバクテリアの代謝系での機能も不明であった。そのため、基質のスクリーニングを行う必要があった。我々は、効率的に基質スクリーニングしCYP110E1の触媒機能を見つけるために、スクリーニング用有機低分子化合物として種々の基質候補物質を含む96穴プレートを作製した。その中から変換される化合物を探索し、さらに、変換した基質化合物についてはその類似体の変換試験を実施することで、CYP110E1の触媒する反応、触媒可能な基質の同定を行った。
【0083】
(1) BL21(DE3)株の大腸菌へのpRED-CYP110E1の導入と導入遺伝子の機能発現の確認
基質スクリーニングの前に、実施例2で作製したpRED-CYP110E1プラスミドを大腸菌BL21(DE3)で発現させ、これにコードされるCYP110E1とP450RhF還元酵素末端(reductase domain)との融合型タンパク質(以後CYP110E1-Redと呼ぶ)の活性型が作られるかどうかを確認した。以下にその詳細を示す。
【0084】
0.5μlのpRED-CYP110E1のプラスミド (約120 ng/μl)を5μlのBL21(DE3)大腸菌コンピテントセル [ECOS Competent E. coli BL21(DE3) (ニッポンジーン社製)]に加え、氷水中で10分間放置した。その後、42℃、45 秒間加熱し、氷水中で5秒間冷却し、25μl のSOC培地を形質転換溶液に加えた。得られた形質転換体を含む培地を、100μg/mlのアンピシリンを含むLBプレートへ塗り広げた後、37℃、16 時間培養した。生じたコロニー各3個を100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地3 mlへ移植し、25℃、15.5時間、170 rpmの条件下、振盪培養し、前培養液とした(ロータリー)。続いて、アンピシリン (終濃度100μg/ml) を含むLB培地 100 mlを2本の300 mlバッフル付三角フラスコに分注し、前培養液をそれぞれ0.5 ml移植し、OD600が約0.8になるまで20℃、120 rpmの条件で培養した。その後5-ALA (終濃度80μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2 (終濃度0.1 mM)、及びIPTG (終濃度0.5 mM)を加えて同条件で24時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。
【0085】
培養終了後、OD600を測定し、50 ml遠沈管に培養液を移し、8000 rpm、4℃、15分間遠心分離した。上清を除去後、菌体湿重量を測定し、本培養液の1/10量のCV-3 Buffer {50 mMリン酸ナトリウム、グリセロール (終濃度5%)、pH7.2}を菌体に加え、vortexで完全に菌体を再懸濁した。2本の培養液を合併した後、3本の15 mlファルコンチューブに再懸濁液を各2 ml分注し、100μlのBug Buster 10×Protein Extraction Reagent (Novagen 社製)、1μlのBenzonase Nuclease (Novagen 社製)、DTT (終濃度2 mM)、及びLysozyme (終濃度200μg/ml)を加え、室温で15℃、20分間、緩やかに回転式振器を用いて菌体を破砕した。15000 rpm、4℃、20分間遠心分離し、上清を回収した。回収したタンパク質抽出物をCOバブリングし、分光光度計(JASCO 社製 V630型)を用いて吸収波長400 nmから550 nmまで0.5 nm間隔で3本の試料(S1、S2及びS3)のCO差スペクトルを測定した。
【0086】
2本の本培養液のOD600と菌体湿重量は、1本目がOD600=3.09、菌体湿重量=0.47 gであり、2本目がOD600=3.03、菌体湿重量=0.47 gであった。CO差スペクトルの測定結果は、図4に示した。CO差スペクトルの測定の結果、3サンプル(S1、S2及びS3)共にヘムドメインにCOが結合すると確認されるP450に特有の約450 nmのソーレー帯が検出されたことから、活性型のCYP110E1-Redが発現していることが確認された。また、Omura とSatoの方法(T. Omura and R. Sato, The carbon monoxide-binding pigment of liver microsomes. I. Evidence for its hemoprotein nature. J. Biol. Chem. 239: 2370-2378, 1964)に基づいてCO差スペクトルから算出した本培養液中のP450の濃度は、図4に示したS1は311 nM、S2は229 nM、S3は279 nMであり、本培養液100 ml中に約270 nMのCYP110E1-Redが発現していることが判明した。
【0087】
(2) pRED-CYP110E1を保持する大腸菌BL21(DE3)によるバイオコンバージョンの方法
基質スクリーニングにおいては、プラスミドpRED-CYP110E1を導入した大腸菌BL21(DE3)株の懸濁液を、独自のスクリーニング用化合物基質が入ったプレートに加えて反応させ、その後、反応液から変換産物を抽出し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー;High Performance Liquid Chromatography)-PDA(PhotoDiode Array Detector)分析を行うことにより基質全体のバイオコンバージョンのプロフィールを調べた。以下にその詳細を示す。
【0088】
(a) BL21(DE3)株の大腸菌へのpRED-CYP110E1の導入とグリセロールストックの作製
0.5μlのpRED-CYP110E1のプラスミド (約120 ng/μl)を5μlの大腸菌BL21(DE3) 株コンピテントセルに加え、氷水中で10分間放置した。その後、42℃、45秒間加熱し、氷水中で5秒間冷却し、25μlのSOC培地を形質転換溶液に加えた。100μg/mlのアンピシリンを含むLBプレートへ塗り広げた後、37℃、16時間培養した。生じたコロニー各3個を100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地15 mlへ移植し、37℃、16時間、170 rpmの条件下、振盪培養した。培養後、培養液1.5 mlに対して80%グリセロールを700μl加え、-80℃でグリセロールストックとして各4本保存した。
【0089】
(b) 基質変換試験
プラスミドpRED-CYP110E1を保持した組換え大腸菌BL21(DE3)株のグリセロールストックをディスポーサブルスパーテルで少量掻き取り、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地5 mlを加えたガラス試験管に懸濁した。培養液は、培養液のOD600が約0.8になるまで37℃、3時間、150 rpmの条件で振盪培養した (Kuhner SHAKER X、Lab Therm LT-X キューナー社製)。
【0090】
続いて、アンピシリン(終濃度100μg/ml)を含むLB培地 125 mlを加えた500 mlバッフル付三角フラスコを2本調製し、前培養液をそれぞれ1.5 ml移植し、OD600が約0.8になるまで20℃、140 rpmの条件で培養 (Kuhner SHAKER X、Lab Therm LT-X、キューナー社製)した。その後5-ALA (終濃度80μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2(終濃度0.1 mM)、及びIPTG (終濃度0.5 mM)を加えて同条件で20時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。
【0091】
培養終了後、250 ml遠沈管に培養液を移し、8000 rpm、4℃、15分間遠心分離した。上清を除去後、25 mlのCV-3 Buffer[50 mMリン酸ナトリウム、グリセロール (終濃度5%)、pH7.2]を菌体に加え、vortexで完全に菌体を再懸濁した。次に、96穴ディープウェルプレート(PP-MASTER BLOCK 2ML、128,0/85 MM 96WELL STERIL、Greiner bio-one社製)の各ウェルに5μlの100 mMの基質候補物質-DMSO溶液をそれぞれ加え、細胞懸濁液を各500μl分注した。その後、シーリングマット(Flexible Sealing Mat for 2.2 ml Deep Well Plate、IWAKI社製)でウェルを密閉し、25℃、24時間、300 rpmの条件で(Kuhner SHAKER X、Lab Therm LT-X)変換試験を実施した。
【0092】
(c) 変換産物のHPLC-PDA分析
変換試験終了後、各ウェルに飽和食塩水を100μlと、カルボン酸などの酸性化合物を基質とした場合には、さらに25μlの1N HCl加えた後、酢酸エチルを500μl加えた1.5 mlエッペンチューブへ全量ピペットアウトした。5分間vortexした後、15000 rpm、25℃、15分間遠心分離を行い、酢酸エチル層を1 mlシリンジで回収した。回収した酢酸エチル層は、シリンジフィルター(0.2μm、φ 4 mm、Millex-LG、 日本ミリポア社製)でろ過した後、HPLC分析試料とした。HPLC分析条件は以下の通りに実施した。
【0093】
HPLCシステム:Waters 2695 Separation Module (waters社製)
検出器:Waters2996 Photodiode array detector (PDA) 検出器 (waters社製)
カラム:Waters Xterra MS C18 5μm I.D.4.6 mm×100 mm (waters社製)
移動相:0-3 min: 5% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
3-28 min: 5% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
→95% CH3CN/H2O (20 mM リン酸) (リニアグラジエント)
28-33 min: 95% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
33-38 min: 5% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
カラム温度:30℃
流速:1 ml/min
検出波長域:PDA (200-500 nm)
分析試料:20μl
変換率は、λmaxで抽出した基質、及び変換産物各々のピーク面積値から、生成物と基質との合計面積に占める生成物の面積の割合として算出した。
【0094】
(3) pRED-CYP110E1を保持する大腸菌BL21(DE3)によるバイオコンバージョン結果
HPLC-PDA分析の結果、トランス-カルコン(t-Chalcone)、フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen-methyl-ester)、イブプロフェンメチルエステル(Ibuprofen-methyl-ester)、2-ブロモフェノール(2-Bromophenol)、4-メチルビフェニル(4-Methyl-biphenyl)、2-メチルナフタレン(2-Methyl-naphthalene)、1,6-ジメチルナフタレン(1,6-Dimethyl-naphthalene)、2-(パラ-トリル)ピリジン(2-(p-Tolyl)pyridine)、及びナリンゲニン(Naringenin)それぞれを基質とした場合に変換率10%以上で変換産物が検出された。複数の変換産物のピークが見られたものも少なからずあった。フラバノン類であるナリンゲニン(Naringenin)が変換されたことから、他のフラバノン類についてもバイオコンバージョン試験を行ったところ、フラバノン(Flavanone)、7-ヒドロキシフラバノン(7-hydroxyflavanone)、及び6-ヒドロキシフラバノン(6-hydroxyflavanone)についてバイオコンバージョン反応が進行することがわかった。
【0095】
[実施例4]
変換産物の構造解析
基質スクリーニングの結果、変換産物への変換率が10%以上確認された実施例3の基質について、スケールアップした基質変換試験を行い、得られた変換産物について、標品が存在する場合には、HPLCで標品との重ね打ちによる化合物の同定を実施し、標品が存在しない場合には、MS (Mass Spectrometry、質量分析法)及びNMR (Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy、核磁気共鳴分光法)による構造解析を実施した。
【0096】
(1) スケールアップした基質変換試験
pRED-CYP110E1を導入した大腸菌BL21(DE3)株のグリセロールストックをディスポーサブルスパーテルで少量掻き取り、アンピシリン (100μg/ml)を含むLB培地12 mlを加えた50 mlガラス試験管に懸濁した。培養液は、培養液のOD600が約0.8になるまで37℃、170 rpm、4 時間振盪培養 (レシプロ恒温水槽)し、前培養液とした。続いて、アンピシリン (終濃度100μg/ml)を含むLB培地 500 mlを加えた2 Lバッフル付三角フラスコを2本調製し、前培養液をそれぞれ5 ml移植し、OD600が約0.8になるまで20℃、140 rpmの条件で培養 (Kuhner SHAKER X、Lab Therm LT-X、キューナー社製)した。その後5-ALA (終濃度80μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2(終濃度0.1 mM)、及びIPTG (終濃度0.5 mM)を加えて同条件で20時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。培養終了後、250 ml遠沈管に培養液を移し、8000 rpm、4℃、15分間遠心分離した。上清を除去後、200 mlのCV-3 Buffer [50 mMリン酸ナトリウム、グリセロール (終濃度5%)、pH7.2]を菌体に加え、vortexにより再懸濁した。次に、菌体懸濁液を2 Lバッフル付三角フラスコ2本に各100 ml移植し、100 mMのDMSO溶解基質をそれぞれ1 ml加えた後、軽く混和し、CO2透過シート(BREATHseal、Greiner bio-one社製)でフラスコの口をシールして25℃、48時間、180 rpmの条件下、変換試験を実施した。
【0097】
変換試験終了後、1.5 mlエッペンチューブに変換試験液を500μl回収し、飽和食塩水100μl、及び酢酸エチルを500μl加えた。5分間vortexした後、15000 rpm、25℃、15分間遠心分離を行い、上層の酢酸エチル層を1 mlシリンジで回収した。回収した酢酸エチル層は、0.2μmシリンジフィルターでろ過した後、HPLC分析試料とした。
【0098】
(2) 変換産物の構造解析法
(a) HPLCによる標品の重ね打ち分析
HPLC分析条件は前述と同様に実施した。ただし、HPLCの分析試料は、変換産物の酢酸エチル抽出物の他に、標品のDMSO溶液、そして、変換産物の酢酸エチル抽出物に標品のDMSO溶液を混合した重ね打ち試料の3種類の試料を分析することで、構造を決定した。構造が同一であることの判断は、(1)保持時間が同一である、(2)標品の重ね打ち結果、肩を生じることなくピークが重なる、及び(3)スペクトルデータが一致する、の三点である。以上の三点が一致した場合、構造が同一であると判断した。
【0099】
(b) 変換産物の精製およびMS及びNMRによる構造の同定
プラスミドpRED-CYP110E1を保持する大腸菌BL21(DE3)と基質との変換試験液200 mlに等量の酢酸エチルを添加し、分液する操作を2回繰り返して酢酸エチル層を回収した。
得られた酢酸エチル層を減圧下濃縮して粗体を得た。粗体をシリカゲル[Slicagel 60F-254 0.25 mm silica gel plate (Merck社製)]を用いた薄層クロマトグラフ (TLC)に供し、変換産物の確認を行った後、シリカゲルカラムクロマトグラフ[I.D. 10×200 mm、Silica Gel 60 (Merck 社製)]に供して精製品を得た。
【0100】
なお、各基質におけるTLCの展開溶媒は以下の通りである。
・トランス-カルコン(t-Chalcone) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen-methyl-ester) ヘキサン:酢酸エチル=4:1
・イブプロフェンメチルエステル(Ibuprofen-methyl-ester) ヘキサン:酢酸エチル=4:1
・2-メチルナフタレン(2-Methyl-naphthalene)ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・1,6-ジメチルナフタレン(1,6-Dimethyl-naphthalene) ヘキサン:酢酸エチル=6:1
・2-(パラ-トリル)ピリジン(2-(p-Tolyl)pyridine) クロロホルム:メタノール=20:1
・ナリンゲニン(Naringenin) クロロホルム:メタノール=30:1
・フラバノン(Flavanone) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
【0101】
また、カラムクロマトグラフの溶離液は以下の通りである。
・トランス-カルコン(t-Chalcone) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen-methyl-ester) ヘキサン:酢酸エチル=4:1
・イブプロフェンメチルエステル(Ibuprofen-methyl-ester) ヘキサン:酢酸エチル=4:1
・2-メチルナフタレン(2-Methyl-naphthalene) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・1,6-ジメチルナフタレン(1,6-Dimethyl-naphthalene) ヘキサン:酢酸エチル=6:1
・2-(パラ-トリル)ピリジン(2-(p-Tolyl)pyridine) クロロホルム:メタノール=20:1
・ナリンゲニン(Naringenin) クロロホルム:メタノール=30:1
・フラバノン(Flavanone) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
【0102】
カラムクロマトグラフによる変換産物の精製後、MS(EI: JEOL DX505W, ESI: JEOL JMS-T100LP)及びNMR(400 MHz、Bruker AMX400)スペクトルデータを分析した。
【0103】
(3)変換産物の同定結果
(a)トランス-カルコン(trans-Chalcone)
【0104】
【化1】

【0105】
トランス-カルコン(t-Chalcone)を基質とした場合、大腸菌内在酵素により、この基質はジヒドロカルコン(Dihydrochalcone;1,3-Diphenyl-propan-1-one)(構造は下図)に変換される(K. Shindo et al, J. Mol. Catalysis B: Eyzymatic 23: 9-16, 2003)。
【0106】
【化2】

【0107】
このため、組換え大腸菌内での実際のCYP110E1-Redの基質は、ジヒドロカルコンである。ジヒドロカルコンは、HPLCにおいて保持時間(以下、HPLCにおける保持時間を、単に「保持時間」と記載する)19.6分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、変換産物として、保持時間9.2分に変換率5.0%のピークが確認された。大腸菌(pRED-CYP110E1)によるトランス-カルコン(t-Chalcone)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (41.6 mg)をTLCに供したところ、1種類の変換産物が確認された。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより、精製し、化合物1(1.0 mg)を得た。HREI-MS分析で化合物1はm/z 226.09930にMイオンピークを与えることから、その分子式をC15H14O2 (計算値226.09938)と決定した。さらに詳細なNMR解析 (1H, 13C, 1H-1H COSY, HMQC, HMBC) の結果、化合物1を3-Hydroxy-1,3-diphenyl-propan-1-oneと同定した。化合物1の構造式を、以下に示す。
【0108】
【化3】

【0109】
参考のため、化合物1の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 3.38 (d, J=6.1 Hz, H-8), 3.59 (d, J=3.0 Hz, 9-OH), 5.35 (dt J=3.0, 6.1 Hz, H-9), 7.31 (dd, J=7.8, 7.8 Hz, H-13), 7.38 (dd, J=7.3, 7.8 Hz, H-12, 14), 7.44 (d, J=7.3 Hz, H-11, 15), 7.47 (dd, J=6.9, 7.5 Hz, H-2, 4), 7.59 (dd, J=6.9, 6.9 Hz, H-3), 7.96 (d, J=7.5 Hz, H-1, 5).
13C NMR (CDCl3) δ: 47.4 (C-8)、70.0 (C-9)、125.7 (C-11, 15)、128.1 (C-1, 5)、128.1 (C-13)、128.7 (C-2, 4)、128.6 (C-12, 14)、133.6 (C-3)、136.6 (C-6)、142.9 (C-10)、201.0 (C-7).
【0110】
(b)フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen methylester)
【0111】
【化4】

【0112】
基質のフルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen methylester)は保持時間21.0分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間17.5分に3.8%の変換産物のピークが観察された。大腸菌(pRED-CYP110E1)によるフルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen methyl ester)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (51.6 mg)をTLCに供したところ、1種類の産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製し、化合物2(1.8 mg)を得た。HRESI-MS分析で化合物2はm/z 273.09262に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC16H15O3F (計算値227.09269)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物2を2-(2-Fluoro-4'-hydroxy-biphenyl-4-yl)-propionic acid methyl esterと同定した。化合物2の構造式を、以下に示す。
【0113】
【化5】

【0114】
参考のため、化合物2の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 1.53 (d, J=7.2 Hz, H-15), 3.75 (q, J=7.2 Hz, H-13), 3.70 (s, H-16), 6.89 (d, J=9.2 Hz, H-2, 4), 7.09 (dd, J=1.6, 7.9 Hz, H-11), 7.11 (dd, J=1.6, 11.9 Hz, H-9), 7.34 (dd, J=7.9, 8.4 Hz, H-12), 7.41 (dd, J=2.0, 9.2 Hz, H-1, 5).
13C NMR (CDCl3) δ: 18.4 (C-15)、44.9 (C-13)、52.2 (C-16), 115.3 (J= 23.2 Hz, C-9),115.4 (C-2, 4), 123.4 (J=3.8 Hz, C-11), 127.4 (J=13.2 Hz, C-6), 128.7 (J=47.5 Hz, C-7), 130.2 (C-1, 5), 130.5 (J=3.7 Hz, C-12), 141.2 (J=7.6 Hz, C-10), 155.3 (C-3), 159.7 (J=248.2 Hz, C-8), 174.6 (C-14).
【0115】
(c) イブプロフェンメチルエステル(Ibuprofen methylester)
【0116】
【化6】

【0117】
基質のイブプロフェンメチルエステル(Ibuprofen methylester)は保持時間22.2分に検出された。HPLC-PDA分析により、保持時間14.5分(変換率2.6%)、14.9分(変換率5.1%)、及び15.4分(変換率2.1%)に3つの変換産物と考えられるピークを検出した。そのうち、保持時間15.4分の変換産物のピーク(化合物3)は、標品の2-[4-(3-Hydroxy-2-methyl-propyl)-phenyl]-propionic acid methyl ester標品(特許文献2:特開2009−5687において得られた化合物24)の重ね打ちによるHPLC-PDA分析の結果、完全に一致したので同物質と同定した。化合物3の構造式を、以下に示す。
【0118】
【化7】

【0119】
さらに、大腸菌(pRED-CYP110E1)によるイブプロフェンメチルエステル(Ibuprofen methyl ester)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物(44.0 mg)をTLCに供したところ、化合物3とは異なる1種類の変換産物を確認した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製し、化合物4(0.4 mg)を得た。HREI-MS分析で化合物4はm/z 236.14116にM+イオンピークを与えることから、その分子式をC14H20O3 (計算値236.14124)と決定した。さらに詳細なNMR解析 (1H, 13C, 1H-1H COSY, HMQC, HMBC) の結果、化合物4を2-[4-(2-Hydroxy-2-methyl-propyl)-phenyl]-propionic acid methyl esterと同定した。化合物4の構造式を、以下に示す。化合物4はCASデータベース解析の結果、新規物質であることが分かった。
【0120】
【化8】

【0121】
参考のため、化合物4の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 1.23 (s, H-1, 2), 1.50 (d, J=7.0 Hz, H-13), 2.74 (s, H-4), 3.67 (s, H-14), 3.72 (q, J=7.0 Hz, H-11), 7.17 (d, J=8.2 Hz, H-6, 10), 7.24 (d, J=8.2 Hz, H-7, 9).
13C NMR (CDCl3) δ: 18.6 (C-13), 29.2 (C-1, 2), 45.1 (C-11), 49.4 (C-4), 52.0 (C-14), 70.7 (C-3), 127.3 (C-7, 9), 130.8 (C-6, 10), 136.6 (C-5), 138.8 (C-8), 175.1 (C-12).
【0122】
(d) 2-ブロモフェノール(2-Bromophenol)
【0123】
【化9】

【0124】
基質の2-ブロモフェノール(2-Bromophenol)は保持時間13.2分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、変換産物は、保持時間8.0分に変換率44.6%の変換産物のピーク (化合物5)が確認された。2-Bromohydroquinone標品(東京化成工業社製)の重ね打ちによるHPLC分析の結果、化合物5は1,4-Dihydroxy-2-bromobenzene (CAS No. 583-69-7)と同定された。化合物5の構造式を、以下に示す。
【0125】
【化10】

【0126】
(e) 4-メチルビフェニル(4-Methylbiphenyl)
【0127】
【化11】

【0128】
基質の4-メチルビフェニル(4-Methylbiphenyl)は、保持時間22.0分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、変換産物は、保持時間15.8分に変換率7.8%の変換産物 (化合物6)のピークが確認された。4-Hydroxymethylbiphenyl標品(特開2009−5687において得られた化合物2)の重ね打ちによるHPLC分析の結果、化合物6は4-Hydroxymethylbiphenyl (CAS No. 3597-91-9)と同定された。化合物6の構造式を、以下に示す。
【0129】
【化12】

【0130】
(f) 2-メチルナフタレン(2-Methylnaphthalene)
【0131】
【化13】

【0132】
基質の2-メチルナフタレン(2-Methylnaphthalene)は、保持時間20.7分に検出された。HPLC-PDA分析により確認されたピークのうち、保持時間13.8分に確認された変換率2.1%の変換産物のピーク(化合物7)は、2-Hydroxymethylnaphthalene標品(特開2009−5687において得られた化合物3)の重ね打ちによるHPLC-PDA分析の結果、2-Hydroxymethylnaphthalene (CAS No. 1592-38-7)と同定された。化合物7の構造式を、以下に示す。
【0133】
【化14】

【0134】
さらに、大腸菌(pRED-CYP110E1)による2-メチルナフタレン(2-Methylnaphthalene)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物(28.4 mg)をTLCに供したところ、化合物7とは異なる1種類の変換産物を確認した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより、精製し、化合物8(1.2 mg)を得た。HRESI-MS分析で化合物8はm/z 157.06539に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC11H10O (計算値157.06534)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H, 13C, 1H-1H COSY, HMQC, HMBC)の結果、化合物8を4-Hydroxy-2-methylnaphthaleneと同定した。化合物8の構造式を、以下に示す。
【0135】
【化15】

【0136】
参考のため、化合物8の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ: 2.45 (s, 9-H), 6.67 (s, H-3), 7.22 (s, H-1), 7.40 (dd, J=8.0, 8.0 Hz, H-6), 7.45 (dd, J=8.0, 8.6 Hz, H-7), 7.71 (d, J=8.6 Hz, H-8), 8.10 (d, J=8.0 Hz, H-5).
13C NMR (CDCl3) δ: 21.8 (C-9), 110.8 (C-3), 119.8 (C-1), 121.3 (C-5), 122.6 (C-4a), 124.3 (C-7), 126.5 (C-6), 127.0 (C-8), 134.9 (C-8a), 149.2 (C-4).
【0137】
(g) 1,6-ジメチルナフタレン(1,6-Dimethylnaphthalene)
【0138】
【化16】

【0139】
基質の1,6-ジメチルナフタレン(1,6-Dimethylnaphthalene)は保持時間22.0分に検出された。HPLC-PDA分析により確認されたピークのうち、保持時間15.4分に検出された変換率1.1%の変換産物のピーク(化合物9)は、(1-Methyl-naphthalene-2-yl)-methanol標品(特開2009−5687に記載の方法にて得られた化合物20)の重ね打ちによるHPLC-PDA分析の結果、(1-Methyl-naphthalene-2-yl)-methanolと同定された。化合物9の構造式を、以下に示す。
【0140】
【化17】

【0141】
(h) 2-(パラ-トリル)ピリジン(2-(p-Tolyl)pyridine)
【0142】
【化18】

【0143】
基質の2-(パラ-トリル)ピリジン(2-(p-Tolyl)pyridine)の大腸菌(pRED-CYP110E1)によるバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物をシリカゲルクロマトグラフにより、精製し、化合物10(1.1 mg)を得た。HREI-MS分析で化合物10はm/z 185.08410にM+イオンピークを与えることから、その分子式をC12H11NO (計算値185.08405)と決定した。さらに詳細なNMR解析 (1H, 13C, 1H-1H COSY, HMQC, HMBC)の結果、化合物10を(4-Pyridin-2-yl-phenyl)-methanolと同定した。化合物10の構造式を、以下に示す。
【0144】
【化19】

【0145】
参考のため、化合物10の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ: 4.77 (s, H-12), 7.24 (m, H-2), 7.48 (d, J=8.1 Hz, H-8, 10), 7.75 (m, H-4), 7.76 (m, H-3), 7.99 (d, J=8.1 Hz, H=7, 11), 8.70 (d, J=4.2 Hz, H-1).
13C NMR (CDCl3) δ: 65.1 (C-12), 120.6 (C-4), 122.1 (C-2), 127.1 (C-7, 11), 127.3 (C-8, 10), 138.8 (C-6), 138.8 (C-3), 141.2 (C-9), 157.1 (C-5), 157.2 (C-1).
【0146】
(i) ナリンゲニン(Naringenin)
【0147】
【化20】

【0148】
基質のナリンゲニン(Naringenin)は保持時間13.7分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間12.4分に変換率29.2%の変換産物のピークが確認された。大腸菌(pRED-CYP110E1)によるナリンゲニン(Naringenin)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物(54.4 mg)をTLCに供したところ、1種類の産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより、精製し、化合物11(7.2 mg)を得た。NMR解析及び標品(東京化成工業社製)とのTLC重ね打ち分析の結果、化合物11をアピゲニン(Apigenin (CAS No. 520-36-5))と同定した。化合物11の構造式を、以下に示す。
【0149】
【化21】

【0150】
(4) CYP110E1の触媒機能の考察
基質スクリーニングの結果、CYP110E1-RedにおけるCYP110E1は、芳香族メチルのメチル基の水酸化など置換基を有する芳香族化合物の置換基の水酸化、さらには置換基を有する芳香族化合物の芳香環の水酸化反応といった触媒反応を担うことが判明した。特に、フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen methylester)のフェニル基のパラ位への水酸化反応やイブプロフェンメチルエステル(Ibuprofen methylester)のイソブチル基の水酸化反応の例に見られるように、難化学合成化合物を合成するCYP110E1による触媒反応は、これまでの医薬品等の研究開発段階におけるシード化合物のスクリーニングの範疇にない化合物の合成を触媒出来る可能性が高く、触媒機能の応用性が期待された。
【0151】
また、今回、フラボノイドの一種であるナリンゲニン(Naringenin)を基質としてフラボンであるアピゲニン(Apigenin)の合成、すなわちフラボン合成反応を確認することができた。これまで、フラボン合成反応は植物由来の酵素以外では見つかっていなかった。なお、植物ではフラボン合成反応は、P450より、2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼにより触媒される場合が多い(S. Ayabe and T. Akashi, Phytochem. Rev. 5: 271-282, 2006)。これは図5に示したように、P450の酸素分子活性化機構により、P450は2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼのようにフラバノン(Flavanone)の2,3位の還元を同時に実行することができないためである。植物由来のフラボン合成を担うP450の場合には、先ずCYP93B2-4によってフラバノンの2位が水酸化された2-ヒドロキシフラバノン(2-Hydroxyflavanone)へ変換され、さらにCYP93B2-4によって2-ヒドロキシフラバノンの2位と3位との間で結果的に脱水が起こることにより二重結合が形成されフラボンが合成されると推測されている。図5に、T. Akashi et al, Plant. Cell. Physiol. 40: 1182-1186、1999の研究結果を基に作成したCYP93B2-4によるC環の2、3位への二重結合の導入反応の推定経路を示す。すなわち、この場合、フラバノン及び2-ヒドロキシフラバノンの両方を基質として利用できる必要があるため、触媒可能なP450が限られるものだと推測される。したがって、フラボン合成反応はP450による反応の中でも特殊で高度な反応に属すると考えられる。今回、中間産物を検出することなしに、ナリンゲニンからアピゲニンへのバイオコンバージョンが見られたことより、CYP110E1による詳細なフラボン合成のメカニズムを探求すると共に、他のフラバノン類でも同様の反応が進むかどうかを検討することにした。
【0152】
[実施例5]
フラバノン類からフラボン類を合成する反応
(1) フラバノン類の大量培養基質変換試験
P450の場合、2段階の触媒反応を行うことが推測されるため、中間体の検出が可能かもしれないと考えた。そこで96穴プレートによるスクリーニングの際に変換率が5%未満であり、触媒反応の進行が遅く、中間体が検出されることが期待されるフラバノン(Flavanone)と、スクリーニングの際には基質に使用しなかった7-ヒドロキシフラバノン及び6-ヒドロキシフラバノンとを大量培養基質変換試験の基質として使用し、変換産物をHPLCにより分析した。
【0153】
詳細には、96穴基質スクリーニングの方法と同様に作製したpRED-CYP110E1を導入した大腸菌BL21(DE3)株のグリセロールストックをディスポーサブルスパーテルで少量掻き取り、アンピシリン(100μg/ml)を含むLB培地12 mlを加えた50 mlガラス試験管に懸濁した。培養液は、培養液のOD600が約0.8になるまで37℃、170 rpm、4時間振盪培養(レシプロ恒温水槽)し、前培養液とした。続いて、アンピシリン (終濃度100μg/ml)を含むLB培地 250 mlを加えた2 Lバッフル付三角フラスコを3本調製し、前培養液をそれぞれ2.5 ml移植し、OD600が約0.8になるまで20℃、150 rpmの条件で培養 (Kuhner SHAKER X、Lab Therm LT-X、キューナー社製)した。その後5-ALA(終濃度80μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2 (終濃度0.1 mM)、及びIPTG (終濃度0.5 mM)を加えて同条件で20時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。培養終了後、250 ml遠沈管に培養液を移し、8000 rpm、4℃、15分間遠心分離した。上清を除去後、300 mlのCV-3 Buffer[50 mMリン酸ナトリウム、グリセロール (終濃度5%)、pH7.2]を菌体に加え、vortexにより再懸濁した。次に、菌体懸濁液を2 Lバッフル付三角フラスコ3本に各100 ml移植し、100 mMのDMSO溶解基質 (7-ヒドロキシフラバノン、6-ヒドロキシフラバノン、フラバノン)をそれぞれ1 ml加えた後、軽く混和し、CO2透過シート (BREATHseal、Greiner bio-one社製)でフラスコの口をシールして25℃、48時間、180 rpmの条件下、変換試験を実施した。変換試験終了後、1.5 mlエッペンチューブに変換試験液を500μl回収し、飽和食塩水100μl、及び酢酸エチルを500μl加えた。5分間vortexした後、15000 rpm、25℃、15分間遠心分離を行い、上層の酢酸エチル層を1 mlシリンジで回収した。回収した酢酸エチル層は、0.2μmシリンジフィルターでろ過した後、HPLC分析試料とした。
【0154】
HPLC-PDA分析は、先の96穴基質スクリーニングの分析と同様に実施した。ただし、サンプルの分析は、それぞれ標品となる化合物を重ね打ちすることで変換産物の同定を実施した。
【0155】
(2) フラバノン類変換産物のHPLC-PDA分析結果
変換産物のHPLC分析結果(保持時間と変換率)を表2に示した。
【0156】
【表2】

【0157】
(3) フラバノン類変換産物の同定
(j) 7-ヒドロキシフラバノン(7-Hydroxyflavanone)
【0158】
【化22】

【0159】
基質の7-ヒドロキシフラバノン(7-Hydroxyflavanone)は、保持時間15.4分に検出された。変換産物として、保持時間14.5分に変換率1.4%の化合物12が確認された。7-ヒドロキシフラボン(7-Hydroxyflavone)標品(東京化成工業社製)の重ね打ちによるHPLC分析の結果、化合物12を7-(ヒドロキシフラボン(7-Hydroxyflavone) (CAS No. 583-69-7)と同定した。化合物12の構造式を、以下に示す。
【0160】
【化23】

【0161】
(k) 6-ヒドロキシフラバノン(6-Hydroxyflavanone)
【0162】
【化24】

【0163】
基質の6-ヒドロキシフラバノン(6-Hydroxyflavanone)は、保持時間15.9分に検出された。変換産物として、保持時間15.1 分に変換率12.1%の化合物13が確認された。6-ヒドロキシフラボン標品(Aldrich社製)の重ね打ちによるHPLC分析の結果、化合物13を6-ヒドロキシフラボン(6-Hydroxyflavone) (CAS No. 6665-83-4)と同定した。化合物13の構造式を、以下に示す。
【0164】
【化25】

【0165】
(l) フラバノン(Flavanone)
【0166】
【化26】

【0167】
基質のフラバノン(Flavanone)は、保持時間18.2分に検出された。HPLC-PDA分析により保持時間15.9分(変換率 5.7%)、保持時間17.2分(変換率2.1%)に2つの変換産物と考えられるピークを検出した。そのうち、保持時間17.2分変換産物のピーク(化合物14)は、フラボン標品(東京化成工業社製)の重ね打ちによるHPLC分析の結果、フラボン(Flavone)(CAS No. 525-82-6)と同定した。フラボン(化合物14)の構造式を、以下に示す。
【0168】
【化27】

【0169】
大腸菌(pRED-CYP110E1)によるフラバノン(Flavanone)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物(58.3 mg)をTLCに供したところ、化合物14とは異なる1種類の変換産物を確認した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより、精製し、化合物15(1.9 mg)を得た。HREI-MS分析で化合物15はm/z 240.07856にM+イオンピークを与えることから、その分子式をC15H12O3 (計算値240.07864)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H, 13C, 1H-1H COSY, HMQC, HMBC)の結果、化合物15を3-ヒドロキシ-2-フェニル-クロマン-4-オン(3-hydroxy-2-phenyl-chroman-4-one)(3-Hydroxyflavone)と同定した。化合物15の構造式を、以下に示す。
参考のため、化合物15の1H、13C化学シフトを以下に示す。
【0170】
【化28】

【0171】
1H NMR (CDCl3) δ: 4.65 (d, J=12.0 Hz, H-3), 5.15 (d, J=12.0 Hz, H-2), 7.06 (d, J=8.3 Hz, H-8), 7.12 (dd, J=7.2, 8.0 Hz, H-6), 7.46 (dd, J=7.6, 7.6 Hz, H-4’), 7.48 (dd, J=7.6, 7.6 Hz, H-3’, H-5’), 7.57 (ddd, J=1.8, 7.2, 8.3 Hz, H-7), 7.59 (d, J=7.6 Hz, H-2’, H-6’), 7.94 (dd, J=1.8, 8.0 Hz, H-5).
13C NMR (CDCl3) δ: 73.6 (C-3), 83.9 (C-2), 118.1 (C-8), 118.5 (C-4a), 122.1 (C-6), 126.1 (C-5), 127.5 (C-2’, C-6’), 128.7 (C-3’, C-5’), 129.3 (C-4’), 136.9 (C-7), 161.7 (C-8a), 194.2 (C-4).
【0172】
(4) フラバノン類からフラボン類の合成経路
6-ヒドロキシフラバノン(6-Hydroxyflavanone)及び7-ヒドロキシフラバノン(7-Hydroxyflavanone)の変換産物には、対応するフラボン以外の化合物は検出されなかった。しかし、フラバノン(Flavanone)を基質とした結果、フラボン(Flavone)及び3-ヒドロキシフラバノン(3-Hydroxyflavanone)が検出された。これまでに植物由来のP450によるフラボン合成の中間代謝物として推測されている化合物は、すべてC環の2位が水酸化されており、C環の3位が水酸化された化合物は、これまでに検出されていなかった。しかし、この結果は、変換開始から48時間の試料の分析のみであるため、中間代謝物なのか個別の変換産物なのか判断が難しい。そこで続いてフラバノンを基質とした変換試験における変換産物の経時変化を調べることにした。
【0173】
(a) フラバノン変換試験の変換産物経時変化観察(方法)
96穴基質スクリーニングの方法と同様に、BL21(DE3)株の大腸菌コンピテントセルにpRED-CYP110E1プラスミドを導入し、形質転換大腸菌コロニーを得た。得られたコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地15 mlを加えた50 mlガラス試験管に懸濁した。培養液は、培養液のOD600が約0.8になるまで37℃、3時間、150 rpmの条件で振盪培養し、前培養液とした。続いて、アンピシリン (終濃度100μg/ml)を含むLB培地 250 mlを加えた2 Lバッフル付三角フラスコを2本調製し、前培養液をそれぞれ2.5 ml移植し、OD600が約0.8になるまで20℃、130 rpmの条件で培養 (Kuhner SHAKER X、Lab Therm LT-X、キューナー社製)した。その後5-ALA (終濃度80μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2 (終濃度0.1 mM)、及びIPTG (終濃度0.5 mM)を加えて同条件で20時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。培養終了後、250 ml遠沈管に培養液を移し、8000 rpm、4℃、15分間遠心分離した。上清を除去後、100 mlのCV-3 Buffer {50 mMリン酸ナトリウム、グリセロール (終濃度5%)、pH7.2}を菌体に加え、vortexで完全に菌体を再懸濁した。菌体懸濁液に1 mlの100 mM フラバノン(Flavanone)を加え混合した後、96穴ディープウェルプレートへ各500μl分注し、CO2透過シールでシール後、25℃、300 rpmで変換試験を行った。
【0174】
変換産物は、0、3、6、9、21、24、27、30、33、45、51、69、及び93時間経過時に、各時間毎に4サンプル回収し、HPLC分析により、変換産物の分析を行った。HPLC分析条件は、96穴基質スクリーニング時と同条件で実施した。
【0175】
(b) フラバノン変換試験の変換産物経時変化観察(結果)
HPLC分析結果を図6に示した。図6は、フラバノンを基質として変換試験を行った際の変換産物(フラボン及び3-ヒドロキシフラバノン)の組成経時変化を測定した結果である。試験においては、各時間毎に4試料の変換産物を測定した。白丸のプロットはフラボンへの変換率を示し、黒丸は3-ヒドロキシフラバノンへの変換率を示す。なお、図6のグラフには示していないが、変換試験開始から51時間以降の変換産物の組成は、93時間経過時まで変化がなかった。
変換試験開始から21時間時までフラボン(Flavone)は検出されなかった。しかし、3-ヒドロキシフラバノン(3-Hydroxyflavanone)の合成は、変換開始から3時間経過の時点で確認された。そして、変換試験液中の3-ヒドロキシフラバノンが2%前後に達した後、フラボンの合成が開始されることが判明した。また、フラボン及び3-ヒドロキシフラバノン共に変換試験開始から33時間で増加量がプラトーに達し、変換産物の組成変化は検出されなかった。
【0176】
(c) CYP110E1によるフラボン合成の考察
CYP110E1によるフラバノン(Flavanone)変換産物の経時変化の観察により、中間産物として3-ヒドロキシフラバノンが合成された後に、フラボンが合成されることが明らかとなった。また、変換試験開始から33時間以後、変換産物の組成変化が検出されなかったことから、フラボンが酵素反応により合成されていることが示された。これらの結果は、CYP110E1によりフラバノンから中間産物として3-ヒドロキシフラバノンが合成され、さらに、CYP110E1により3-ヒドロキシフラバノンを基質としてフラボンが合成されることを示した。3-ヒドロキシフラバノンを経るフラボン合成は、既存のフラボン合成の反応メカニズムとは異なることが推測される。高等植物の一種、トレニアから取得されたCYP93B2-4の機能解析報告では、中間体とされる2-ヒドロキシフラバノン(2-Hydroxyflavanone)は実際には確認されていないが、2-ヒドロキシフラバノンのC環が開裂したLicodioneが検出されたことから、2-ヒドロキシフラバノンの存在が推測されている (T. Akashi et al, Plant. Cell. Physiol. 40: 1182-1186、1999)。すなわち、植物の場合には、C環の2位が水酸化された化合物を経て、C環の2位と3位との間に2重結合が形成されると考えられている。対して、今回発見したCYP110E1による触媒反応の場合、C環の3位が水酸化された化合物を経ることから、最終産物は同じだが、反応メカニズムが異なることが明らかとなった。図7にCYP110E1によるフラバノンからフラボンへの反応メカニズムを示す。
【0177】
[実施例6]
基質スクリーニング
(1) pRED-CYP110E1を保持する大腸菌BL21(DE3)によるバイオコンバージョンの方法
実施例3で調製したグリセロールストックを用いて、さらに様々な基質におけるバイオコンバージョンのプロフィールを調べた。以下にその詳細を示す。
【0178】
(a)基質変換試験
プラスミドpRED-CYP110E1を保持した組換え大腸菌BL21(DE3)株のグリセロールストックをディスポーサブルスパーテルで少量掻き取り、100 μg/mlのアンピシリンを含むLB培地3 mlを加えた15 mlファルコンチューブに懸濁した。培養液は、培養液のOD600が約0.8になるまで25℃、16時間、170 rpmの条件で振盪培養した (AT-12S、トーマス科学機械社製)。
【0179】
続いて、アンピシリン(終濃度100 μg/ml)を含むLB培地 100 mlを加えた500 mlバッフル付三角フラスコを1本調製し、前培養液をそれぞれ1 ml移植し、OD600が約0.8になるまで22℃、120 rpmの条件で培養 (AT-12S、トーマス科学機械社製)した。その後5-ALA (終濃度80 μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2(終濃度0.1 mM)、及びIPTG (終濃度0.5 mM)を加えて同条件で20時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。
【0180】
培養終了後、250 ml遠沈管に培養液を移し、8000 rpm、4℃、15分間遠心分離した。上清を除去後、10 mlのCV-3 Buffer[50 mMリン酸ナトリウム、グリセロール (終濃度5%)、pH7.2]を菌体に加え、ピペッティング操作により完全に菌体を再懸濁した。次に、96穴ディープウェルプレート(PP-MASTER BLOCK 2ML、128,0/85 MM 96WELL STERIL、Greiner bio-one社製)の各ウェルに5 μlの100 mMの基質候補物質-DMSO溶液をそれぞれ加え、菌体懸濁液を各500μl分注した。その後、CO2透過シート(BREATHseal、Greiner bio-one社製)でウェルをシールし、25℃、24時間、1700 rpmの条件で(M・BR-022UP、タイテック社製)変換試験を実施した。
【0181】
(b) 変換産物のHPLC-PDA分析
変換試験終了後、各ウェルに飽和食塩水を100μlと、カルボン酸などの酸性化合物を基質とした場合には、さらに25 μlの1N HCl加えた後、酢酸エチルを500μl加えた1.5 ml エッペンチューブへ全量ピペットアウトした。5分間vortexした後、15000 rpm、25℃、15分間遠心分離を行い、酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル層は、シリンジフィルター(0.2μm、φ 4 mm、Millex-LG、 日本ミリポア社製)でろ過した後、HPLC分析試料とした。HPLC分析条件は以下の通りに実施した。
【0182】
HPLCシステム:LC-20Aシステム (島津製作所社製)
検出器:SPD-M20A Diode array detector (PDA) 検出器 (島津製作所社製)
カラム:Waters Xterra MS C18 5μm I.D.4.6 mm×100 mm (waters社製)
移動相:0-3 min: 5% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
3-28 min: 5% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
→95% CH3CN/H2O (20 mM リン酸) (リニアグラジエント)
28-33 min: 95% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
33-38 min: 5% CH3CN/H2O (20 mM リン酸)
カラム温度:30℃
流速:1 ml/min
検出波長域:PDA (200-500 nm)
分析試料:10 μl
【0183】
変換率は、基質のλmaxにおける抽出した基質、及び変換産物各々のピーク面積値から、生成物と基質との合計面積に占める生成物の面積の割合として算出した。基質、保持時間及び変換率の測定を行った波長、並びに生成物の保持時間及び変換率を表3に示す。なお、表中の化合物番号は後述する構造決定における番号である。
【0184】
(2)pRED-CYP110E1を保持する大腸菌BL21(DE3)によるバイオコンバージョン結果
HPLC-PDA分析の結果、フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen-methyl-ester)、3-メチルビフェニル(3-Methyl-biphenyl)、4-ヒドロキシビフェニル(4-hydroxy-biphenyl)、4-ブロモフェノール(4-bromophenol)、3-ヒドロキシビフェニル(3-hydroxy-biphenyl)、及び2-ヒドロキシナフタレン(2-hydroxynaphthalene)それぞれを基質とした場合に変換率5%以上で変換産物が検出された。複数の変換産物のピークが見られたものも少なからずあった。
【0185】
【表3】

【0186】
[実施例7]
変換産物の構造解析
基質スクリーニングの結果、変換産物への変換率が5%以上確認された実施例6の基質について、スケールアップした基質変換試験を行い、MS (Mass Spectrometry、質量分析法)及びNMR (Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy、核磁気共鳴分光法)による構造解析を実施した。
【0187】
(1) スケールアップした基質変換試験
pRED-CYP110E1を導入した大腸菌BL21(DE3)株のグリセロールストックをディスポーサブルスパーテルで少量掻き取り、アンピシリン (100μg/ml)を含むLB培地3 mlを加えた4本の15 mlファルコンチューブに懸濁した。培養液は、培養液のOD600が約0.8になるまで25℃、170 rpm、16 時間振盪培養 (レシプロ恒温水槽)し、前培養液とした。続いて、アンピシリン (終濃度100μg/ml)を含むLB培地 100 mlを加えた500 mlバッフル付三角フラスコを10本調製し、前培養液をそれぞれ1 ml移植し、OD600が約0.8になるまで22℃、120 rpmの条件で培養 (AT-12S、トーマス科学機械 社製)した。その後5-ALA (終濃度80μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2(終濃度0.1 mM)、及びIPTG (終濃度0.5 mM)を加えて同条件で20時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。培養終了後、5本の250 ml遠沈管に培養液を移し、7000 rpm、4℃、15分間遠心分離した。上清を除去後、各々の遠沈管に20 mlのCV-3 Buffer [50 mMリン酸ナトリウム、グリセロール (終濃度5%)、pH7.2]を菌体に加え、ピペッティング操作により再懸濁した。
次に、2枚の96穴ディープウェルプレート(PP-MASTER BLOCK 2ML、128,0/85 MM 96WELL STERIL、Greiner bio-one社製)のすべてのウェルに5μlの100 mMの基質物質-DMSO溶液を加え、菌体懸濁液を各500 μl分注した。その後、CO2透過シート(BREATHseal、Greiner bio-one社製)でウェルをシールし、25℃、24時間、1700 rpmの条件で(M・BR-022UP、タイテック社製)変換試験を実施した。
【0188】
変換試験終了後、各区画の培養液をすべて合併し、100 mlの酢酸エチルで抽出する操作を2回繰り返して酢酸エチル層を回収した。得られた酢酸エチル層を減圧下濃縮して粗体を得た。
【0189】
(2) 変換産物の構造解析法
(a) 変換産物の精製およびMS及びNMRによる構造の同定
粗体をシリカゲル[Slicagel 60F-254 0.25 mm silica gel plate (Merck社製)]を用いた薄層クロマトグラフ (TLC)に供し、変換産物の確認を行った後、シリカゲルカラムクロマトグラフ[I.D. 20×200 mm、Silica Gel 60 (Merck 社製)]に供して精製品を得た。
【0190】
なお、各基質におけるTLCの展開溶媒は以下の通りである。
・フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen-methyl-ester) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・3-メチルビフェニル(3-Methyl-biphenyl) ヘキサン:酢酸エチル=20:1
・4-ヒドロキシビフェニル(4-hydroxy-biphenyl) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・4-ブロモフェノール(4-bromophenol) ヘキサン:酢酸エチル=1:1
・3-ヒドロキシビフェニル(3-hydroxy-biphenyl)ヘキサン:酢酸エチル=2:1
・2-ヒドロキシナフタレン(2-hydroxynaphthalene)ヘキサン:酢酸エチル=2:1
【0191】
また、カラムクロマトグラフの溶離液は以下の通りである。
・フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen-methyl-ester) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・3-メチルビフェニル(3-Methyl-biphenyl) ヘキサン:酢酸エチル=20:1
・4-ヒドロキシビフェニル(4-hydroxy-biphenyl) ヘキサン:酢酸エチル=5:1
・4-ブロモフェノール(4-bromophenol) ヘキサン:酢酸エチル=1:1
・3-ヒドロキシビフェニル(3-hydroxy-biphenyl)ヘキサン:酢酸エチル=3:1
・2-ヒドロキシナフタレン(2-hydroxynaphthalene)ヘキサン:酢酸エチル=2:1
【0192】
カラムクロマトグラフによる変換産物の精製後、MS(EI: JEOL DX505W, ESI: JEOL JMS-T100LP)及びNMR(400 MHz、Bruker AMX400)スペクトルデータを分析した。
【0193】
(3) 変換産物の同定結果
(a)フルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen methylester)
【0194】
【化29】

【0195】
大腸菌(pRED-CYP110E1)によるフルルビプロフェンメチルエステル(Flurbiprofen methyl ester)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (133.2 mg)をTLCに供したところ、Rf 0.3に検出される産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製し、化合物16(1.3 mg)を得た。HRESI-MS分析で化合物16はm/z 273.09261に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC16H15O3F (計算値227.09269 C16H14O3F)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物16を 2-(2-fluorobiphenyl-4-yl)-2-hydroxypropionic acid methyl esterと同定した。化合物16の構造式を以下に示す。
【0196】
【化30】

【0197】
参考のため、化合物16の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 1.80 (s, H-16), 3.83 (s, H-15), 7.29 (d, J=1.5 Hz, H-2), 7.37 (m, H-12), 7.40 (m, H-4), 7.40 (d, J=7.3 Hz, H-8), 7.43 (m, H-11, 13), 7.45 (dd, J=6.7, 7.3Hz, H-7), 7.54 (d, J=7.3 Hz, H-10, 14)
13C NMR (CDCl3) δ: 26.9 (C-16), 53.5 (C-15), 74.7 (C-2), 113.0 (C-4, J=24.0 Hz), 121.2 (C-8, J=3.5 Hz), 126.9 (C-6, J=13.5 Hz), 127.8 (C-12), 128.4 (C-11, 13), 128.9 (C-10, 14), 130.6 (C-7, J=3.5 Hz), 134.6 (C-9), 143.6 (C-3, J=6.8 Hz), 158.5 (C-5, J=248.2 Hz), 175.5 (C-1).
【0198】
(b) 3-メチルビフェニル(3-Methyl-biphenyl)
【0199】
【化31】

【0200】
大腸菌(pRED-CYP110E1)による3-メチルビフェニル(3-Methyl-biphenyl)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (97.8 mg)をTLCに供したところ、Rf 0.2に検出される産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製し、化合物17(2.2 mg)を得た。HRESI-MS分析で化合物17はm/z 183.0889に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC13H11O (計算値183.08099 C13H10O)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物17を 3-methylbiphenyl-4-olと同定した。化合物17の構造式を以下に示す。
【0201】
【化32】

【0202】
参考のため、化合物17の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 2.25 (s, H-13), 6.73 (d, J=8.1 Hz, H-5), 7.23 (dd, J=8.0, 8.0 Hz, H-10), 7.25 (dd, J=1.5, 8.1 Hz, H-6), 7.29 (d, J=1.5 Hz, H-2), 7.33 (dd, J=7.5, 8.0 Hz, H-9, 11), 7.47 (d, J=7.5 Hz, H-8, 12).
13C NMR (CDCl3) δ :15.9 (C-13), 115.2 (C-5), 124.0 (C-3), 125.8 (C-6), 126.6 (C-10), 126.7 (C-8, 12), 128.6 (C-9, 11), 129.8 (C-2), 134.0 (C-1), 141.0 (C-7), 153.4 (C-4).
【0203】
(c) 4-ヒドロキシビフェニル(4-hydroxy-biphenyl)
【0204】
【化33】

【0205】
大腸菌(pRED-CYP110E1)による4-ヒドロキシビフェニル(4-hydroxy-biphenyl)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (101.1 mg)をTLCに供したところ、Rf 0.3及び0.4に検出される産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製し、Rf 0.3の化合物18 (0.8 mg)及びRf 0.4の化合物19 (1.7 mg)を得た。
【0206】
HRESI-MS分析で化合物18はm/z 185.06018に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC12H10O2 (計算値185.06025 C12H9O2)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物18を biphenyl-4,4'-diolと同定した。化合物18の構造式を以下に示す。
【0207】
【化34】

【0208】
参考のため、化合物18の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 6.81 (d, J=8.6 Hz, H-3, 3’), 7.35 (d, J=8.6 Hz, H-2, 2’).
13C NMR (CDCl3) δ : 116.5 (C-3, 3’), 128.5 (C-2, 2’), 134.0 (C-1, 1’), 157.4 (C-4, 4’).
【0209】
HRESI-MS分析で化合物19はm/z 337.12351に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC24H18O2 (計算値337.12285 C24H17O2)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物19を [1,1’,3’,3’’,1’’,1’’’]quaterphenyl-4,4'-diolと同定した。化合物19の構造式を以下に示す。
【0210】
【化35】

【0211】
参考のため、化合物19の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 7.13 (d, J=7.7 Hz, H-4’,4’’), 7.32 (dd, J=7.4, 7.4 Hz, H=4, 4’’’), 7.42 (dd, J=7.4, 7.9 Hz, H-3, 5, 3’’’,5’’’), 7.57 (s, H-2’,2’’), 7.58 (dd, J=7.7 Hz, H-5’,5’’), 7.58 (d, J=7.9 Hz, H-2, 6, 2’’’,6’’’).
13C NMR (CDCl3) δ : 117.2 (C-5’, 5’’), 124.1 (C-3’, 3’’), 126.8 (C-2, 6, 2’’’, 6’’’), 127.0 (C-4, 4’’’), 128.7 (C-2’, 2’’), 128.8 (C-3, 5, 3’’’, 5’’’), 130.0 (C-6’, 6’’), 134.9 (C-1’, 1’’), 140.3 (C-1, 1’’’), 152.6 (C-4’, 4’’).
【0212】
(d) 4-ブロモフェノール(4-bromophenol)
【0213】
【化36】

【0214】
大腸菌(pRED-CYP110E1)による4-ブロモフェノール(4-bromophenol)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (146.3 mg)をTLCに供したところ、Rf 0.4に検出される産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製し、化合物20 (1.8 mg)を得た。HRESI-MS分析で化合物20はm/z 186.93951に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC6H5BrO2 (計算値186.93947 C6H4BrO2)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物20を 4-bromobenzene-1,2-diolと同定した。化合物20の構造式を以下に示す。
【0215】
【化37】

【0216】
参考のため、化合物20の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 6.74 (d, J=8.3 Hz, H-6), 6.91 (dd, J=1.9, 8.3 Hz, H-5), 7.02 (d, J=1.9 Hz, H-3).
13C NMR (CDCl3) δ : 112.5 (C-4), 116.6 (C-6), 118.7 (C-3), 123.8 (C-5), 142.9 (C-1), 144.6 (C-2).
【0217】
(e) 3-ヒドロキシビフェニル(3-hydroxy-biphenyl)
【0218】
【化38】

【0219】
大腸菌(pRED-CYP110E1)による3-ヒドロキシビフェニル(3-hydroxy-biphenyl)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (154.6 mg)をTLCに供したところ、Rf 0.4に検出される産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製したところ該産物3.5 mgを得た。これを60% メタノールを展開溶媒とした逆相TLCに供したところ、Rf 0.5及びRf 0.4に分かれる2つの化合物の混合物であることが判明した。これらの混合物をCAPCELL PAC C18(10 mm × 300 mm)のカラムを用いてHPLC分取を行い、保持時間9.85 minに溶出されたRf 0.5の化合物21 (20.9 mg)及び保持時間21.39 minに溶出されたRf 0.4の化合物22 (30.9 mg)を得た。
【0220】
HPLC分取条件:
移動相: 50% MeOH
流速: 3 ml/min
検出: PDA (200 − 500 nm)
【0221】
HRESI-MS分析で化合物21はm/z 185.06021に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC12H10O2 (計算値185.06025 C12H9O2)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物21を biphenyl-2,3-diolと同定した。化合物21の構造式を以下に示す。
【0222】
【化39】

【0223】
参考のため、化合物21の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 6.75 (m, H-4), 6.75 (m, H-6), 6.86 (m, H-5), 7.40 (m, H-4’), 7.46 (m, H-2’, 5’), 7.49 (m, H-3’, 6’).
13C NMR (CDCl3) δ : 115.8 (C-4), 116.7 (C-5), 116.7 (C-6), 128.0 (C-4’), 128.9 (C-1), 129.0 (C-3’, 6’), 129.3 (C-2’, 5’), 146.5 (C-2), 149.3 (C-3).
【0224】
HRESI-MS分析で化合物22はm/z 185.06028に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC12H10O2 (計算値185.06025 C12H9O2)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物22を biphenyl-3,4-diolと同定した。化合物22の構造式を以下に示す。
【0225】
【化40】

【0226】
参考のため、化合物22の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 6.92 (d, J=7.8 Hz, H-5), 7.03 (d, J=7.8 Hz, H-6), 7.12 (s, H-2), 7.28 (dd, J=7.1, 7.1 Hz, H-4’), 7.38 (dd, J=7.1, 7.4 Hz, H-3’, 6’), 7.50 (d, J=7.4 Hz, H-2’, 5’).
【0227】
(f) 2-ヒドロキシナフタレン(2-hydroxynaphthalene)
【0228】
【化41】

【0229】
大腸菌(pRED-CYP110E1)による2-ヒドロキシナフタレン(2-hydroxynaphthalene)のバイオコンバージョン反応物の酢酸エチル抽出物 (91.8 mg)をTLCに供したところ、Rf 0.5及び0.3に検出される産物が生成されていることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフにより精製し、Rf 0.5の化合物23 (0.3 mg)及びRf 0.3の化合物24 (3.1 mg)を得た。
【0230】
HRESI-MS分析で化合物23はm/z 159.04444に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC10H8O2 (計算値159.04460 C10H7O2)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物23を naphthalene-2,3-diolと同定した。化合物23の構造式を以下に示す。
【0231】
【化42】

【0232】
参考のため、化合物23の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 6.99 (dd, J=8.7, 8.7 Hz, H-6, 7), 7.01 (s, H-1, 4), 7.49 (d, J=8.7 Hz, H-5, 8).
13C NMR (CDCl3) δ : 110.1 (C-1, 4), 119.5 (C-6, 7), 128.6 (C-5, 8), 131.1 (C-4a, 8a), 154.1 (C-2, 3).
【0233】
HRESI-MS分析で化合物24 はm/z 285.09144に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC20H14O2 (計算値285.09155 C20H13O2)と決定した。さらに詳細なNMR解析(1H、13C、1H-1H COSY、HMQC、HMBC)の結果、化合物24を 1,1'-binaphthyl-2,2'-diolと同定した。化合物24の構造式を以下に示す。
【0234】
【化43】

【0235】
参考のため、化合物24の1H、13C化学シフトを以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ : 7.16 (d, J=8.1 Hz, H-8, 8’), 7.31 (dd, J=8.1, 8.1 Hz, H-7, 7’), 7.38 (dd, J=8.1, 8.2 Hz, H-6, 6’), 7.39 (d, J=9.2 Hz, H-3, 3’), 7.90 (d, J=8.2 Hz, H-5, 5’), 7.99 (d, J=9.2 Hz, H-4, 4’).
13C NMR (CDCl3) δ : 117.8 (C-3, 3’), 123.6 (C-1, 1’), 124.0 (C-7, 7’), 124.2 (C-6, 6’a), 127.5 (C-8, 8’), 128.4 (C-5, 5’), 129.4 (C-4a, 4’a), 131.4 (C-4, 4’), 133.3 (C-8a, 8’a), 152.8 (2, 2’).
【産業上の利用可能性】
【0236】
本発明の製造方法は、様々な芳香族化合物の製造、創薬段階における新規化合物の創製、代謝物の調製、長い工程を要する製造プロセスの短縮、化学合成では合成が困難な化合物の合成などにおいて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトクロムP450のファミリー110(CYP110)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物に作用させて芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有する芳香族化合物とを共存させることにより、CYP110に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有する芳香族化合物に作用させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
置換基を有する芳香族化合物が、トランス-カルコン、フルルビプロフェンメチルエステル、イブプロフェンメチルエステル、2-ブロモフェノール、4-メチルビフェニル、2-メチルナフタレン、1,6-ジメチルナフタレン、2-(パラ-トリル)ピリジン、3-メチルビフェニル、4-ヒドロキシビフェニル、4-ブロモフェノール、3-ヒドロキシビフェニル、又は2-ヒドロキシナフタレンある請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
シトクロムP450のファミリー110(CYP110)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物のうち芳香環に水酸基を有する芳香族化合物に作用させることにより、二分子の芳香環を炭素-炭素単結合を介して縮合させ、縮合体を生成する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
置換基を有する芳香族化合物が、芳香環に水酸基を有する4-ヒドロキシビフェニル、又は2-ヒドロキシナフタレンである請求項2又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
置換基を有する芳香族化合物が、フラバノン類である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
該水酸基を導入する工程の後、さらに、芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基が導入された芳香族化合物に二重結合を導入する工程を含む請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
フラバノン類が、ナリンゲニン、フラバノン、7-ヒドロキシフラバノン、又は6-ヒドロキシフラバノンである請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
CYP110が以下の(a)又は(b)である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
【請求項10】
融合型タンパク質が、CYP110とレドックスパートナータンパク質との融合型タンパク質である、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
融合型タンパク質が、CYP110と、レドックスパートナータンパク質であるロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド又はそれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質である、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
レドックスパートナータンパク質が以下の(c)又は(d)のペプチドである請求項10又は11に記載の製造方法。
(c) 配列番号2記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(d) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するペプチド
【請求項13】
形質転換体が、CYP110をコードする以下の(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合型タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌ベクターに挿入した組換えプラスミドを導入したものである請求項2〜12のいずれかに記載の製造方法。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−220609(P2010−220609A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34026(P2010−34026)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(598041795)神戸天然物化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】