説明

CdTe結晶の製造方法

【課題】 CdTe太陽電池などの原料として有用な高品位なCdTe結晶を、特殊な加熱装置を用いることなく、安全且つ安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】 ショット状のTe原料とCd原料を配合して、機械的に混合する前の原料におけるCdのモル分率の標準偏差をσ、機械的に混合した後の原料におけるCdのモル分率の標準偏差をσとしたとき、M=1−(σ/σ)で表される混合度Mが0.7以上1.0以下となるように機械的に混合した後、得られた原料混合物を石英容器内に入れて真空中又は不活性ガス雰囲気中で封止し、450〜1000℃の温度で加熱処理した後、冷却してCdTe結晶を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CdTe太陽電池などの原料として用いるCdTe結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はp型半導体とn型半導体を接合したpn接合からなる半導体デバイスであり、太陽電池を用いた太陽光発電は深刻化する地球環境問題やエネルギー問題を解決する手段として大きな期待が寄せられている。
【0003】
近年、化合物半導体であるテルル化カドミウム(以下、CdTeと記す)をp型半導体層とし、硫化カドミウム(以下CdSと記す)を窓層及びn型半導体層として用いたCdTe太陽電池が注目されている。CdTeは直接遷移型半導体であるため、光吸収係数が大きく、発電層の薄膜化が可能である。また、バンドギャップが約1.5eVであるため、太陽光を効率的に吸収でき、変換効率を高められるという特長がある。
【0004】
CdTe太陽電池を構成するCdTe層は、主に近接昇華法(CSS法)で作製される。近接昇華法とは、原料のCdTeを配設したソース保持体と薄膜形成用基板とを僅かな空隙を挟んで対向配置し、一般的には不活性ガス雰囲気中においてCdTe原料を薄膜形成用基板よりも高い温度に加熱して昇華させ、薄膜形成用基板上にCdTe膜を析出させる方法である。
【0005】
近接昇華法によりCdTe膜を形成する場合、CdTe原料としてCdTe粉末を焼結したものが一般的に用いられていた。しかし、特開2002−116160号公報(特許文献1)に記載されているように、CdTe原料中に金属Teが存在すると、これがCdSと反応してピンホールを形成して、太陽電池の変換効率などの光電特性を著しく悪化させることが知られている。
【0006】
この欠点をなくして良好なCdTe膜を形成するためには、Te相ができる限り少なく、CdTe単相からなる原料を用いることが望ましい。高品位のCdTe単相からなる原料を作製する方法としては、高純度のCd原料とTe原料とを石英容器内に入れて真空中若しくは不活性ガス雰囲気中で封止し、その石英容器を加熱昇温してCd原料とTe原料を反応させ、CdTe結晶を製造する方法が用いられる。
【0007】
例えば、T.L.Chu et al著、「Thin Film Cadmium Telluride Solar Cells」,Elsevier Sequoia(スイス)発行,1987年,21,p.73−80(非特許文献1)には、純度99.999%のCd原料とTe原料とを用い、1000℃まで温度を上げてCdTeを製造する方法が記載されている。しかし、上記文献には、製造したCdTeの結晶相は明示されていない。しかも、そのCdTeを用いて作製した太陽電池の変換効率が10.5%と比較的小さいことから、CdTe単相からなる良好なCdTeが生成されていない可能性がある。
【0008】
また、高品位のCdTeを作製するために、上記のごとくCd原料とTe原料を石英容器内に封入して加熱する方法では、CdとTeが反応する際の発熱により石英容器内の温度が急激に上昇し、Cdの蒸気圧が高くなって石英容器が破損する危険がある。石英容器が破損すると、単に製造歩留まりが悪くなるだけではなく、毒性のあるCd蒸気が周囲に飛散することがあるため、作業の安全性の点からも問題があった。
【0009】
石英容器の破損を防止する方法として、特開平08−259399号公報(特許文献2)には、インゴットを砕いたチャンク状のTe原料を用い、このTe原料がCd原料の下になるように石英アンプル内に入れて真空封入し、加熱昇温することにより生成したCd−Te合金を融解した後、アンプルの一端側から冷却してCd−Te結晶を析出させる方法が記載されている。しかし、CdTeの融点(1092℃)よりも高温の1150℃程度で融解する必要があるため、特殊な加熱装置を必要とするなどコスト高となる欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−116160号公報
【特許文献2】特開平08−259399号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】T.L.Chu et al著,「Thin Film Cadmium Telluride SolarCells」,Elsevier Sequoia(スイス)発行,1987年,21,p.73−80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、CdTe太陽電池などの原料として使用される高品位のCdTe結晶を、特殊な加熱装置を用いることなく、安全且つ安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために、CdTe太陽電池などの製造に用いるCdTe結晶について鋭意研究を重ねた結果、Cd原料とTe原料の形状を共にショット状として十分に混合すれば、石英容器内に封入してCdTeの融点よりも低い温度まで加熱昇温して保持することによって、特殊な加熱装置を用いることなく両原料を反応させることができ、高品位なCdTe結晶を安全且つ安価に製造できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
即ち、本発明によるCdTe結晶の製造方法は、ショット状のTe原料とショット状のCd原料を配合し、機械的に混合する前の当該原料におけるCdのモル分率の標準偏差をσとし、機械的に混合した後の当該原料におけるCdのモル分率の標準偏差をσとしたとき、M=1−(σ/σ)で表される混合度Mが0.7以上1.0以下となるように機械的に混合した後、得られた原料混合物を石英容器内に入れて真空中又は不活性ガス雰囲気中で封止し、加熱処理することを特徴とするものである。
【0015】
また、上記本発明によるCdTe結晶の製造方法においては、前記ショット状のTe原料及びショット状のCd原料の最長部長さが、共に0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、また前記加熱処理温度が450℃以上1000℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CdTe単相からなる高品位のCdTe結晶を簡単に製造することができる。また、CdTeの融点以下の温度でCdとTeを反応させることができるため、特殊な加熱装置を用いる必要がなく、しかも反応時に石英容器が損傷することもない。従って、太陽電池や放射線検出素子などの原料として有用な、高品位のCdTe結晶を安全且つ安価に提供することができるため、工業的にも極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、ショット状のTe原料とショット状のCd原料とを所定の混合度Mとなるまで機械的に充分に混合し、この原料混合物を石英容器内に入れ、真空中又は不活性ガス雰囲気中で封止する。この石英容器を加熱して、Cdの融点(320.9℃)及びTeの融点(449.5℃)よりも高い450℃以上で且つCdTeの融点(1092℃)よりも低い1000℃以下の温度で加熱処理した後、冷却することによりCdTe単相からなるCdTe結晶が得られる。
【0018】
ここで、CdとTeの反応機構に関して説明する。Cd原料とTe原料は、まずTeの融点に達したときに両者が反応して急激な発熱が起こる。その際に生成したCdTeが隔壁となってCdとTeの接触を妨げるため、その後の反応はしばらく停止する。しかし、加熱昇温により800℃以上になると、隔壁となっていたCdTeがCd融液又はTe融液に溶解して除去されるため、再びCdとTeの発熱反応が起こり、全てのCd原料とTe原料からCdTeが生成して反応が終了する。
【0019】
従来問題となっていた石英容器の破損は、上記2回目の反応での発熱により石英容器内の温度が急激に上昇し、残存していた未反応のCdの蒸気圧が上昇する結果、容器内の内圧上昇により起こると考えられる。そのため、安全に且つできるだけ低温でCdTe結晶を合成するためには、1回目の反応でほとんど全てのCd原料とTe原料が反応してCdTeの大部分が合成される必要がある。
【0020】
そのため、本発明においては、Cd原料及びTe原料として共にショット状のものを用い、これらの原料を機械的に十分混合した状態で石英容器内に仕込むこととした。即ち、原料として、インゴットやインゴットを砕いたチャンクのような塊状に比べて比表面積が大きい原料、具体的にはショット状又は粒状のCd原料とTe原料を用いる。尚、本発明においてショットとは、溶融状態の金属を水中に注いで得られる金属粒を意味する。
【0021】
更に、ショット状の原料は、最長部の長さが0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。原料の最長部の長さが0.5mmより短い場合は、比表面積が大きくなるため原料の表面が酸化しやすい。その結果、得られるCdTe結晶に酸素が混入し、太陽電池の特性に悪影響を及ぼすことがある。一方、原料の最長部の長さが10mmより長い場合には、比表面積が小さくなりすぎるため、450℃での1回目の反応においてCdTeが十分に合成されず、単体のTeや単体のCdが残存しやすくなるため好ましくない。
【0022】
次に、本発明によるCdTe結晶の製造方法を具体的に説明する。まず、高純度のショット状Cd原料と、高純度のショット状Te原料とを、モル比で1.00になるように秤量する。得られるCdTe結晶を太陽電池などの原料として用いる場合、CdTe結晶中に含まれる不純物が太陽電池などの特性に悪影響を及ぼすため、Cd原料とTe原料の純度はできるだけ高いことが好ましく、最低でも5N以上の純度のものが好ましい。
【0023】
上記のショット状Cd原料とショット状Te原料は、モル比で1.00に配合した後、石英容器内に投入する前に機械的に十分混合する必要がある。具体的には、ショット状Te原料とショット状Cd原料を互いに混ぜ合わせて配合した原料について、機械的に混合する前の組成分析により算出されたCdのモル分率の標準偏差をσ、機械的に混合した後の組成分析により算出したCdのモル分率の標準偏差をσとしたとき、混合度M=1−(σ/σ)が0.7以上1.0以下となるように機械的に混合する。
【0024】
上記混合度が0.7より小さいとTe原料の周りにCd原料が十分に存在せず、両者の接触が不十分となるため、1回目の反応で完全にCdTeを生成することができない。尚、混合度1.0は統計的に完全に均一に混合された状態であり、従って混合度は1.0に近いほど好ましい。
【0025】
上記混合度を算出する際、ショット状Cd原料とショット状Te原料についてCdのモル分率の標準偏差を求めるためのサンプリング回数は、仕込み原料の量に応じて決めれば良いが、仕込み原料の量が100g以上であれば、サンプリング回数を10回以上とすることが好ましい。
【0026】
また、ショット状のCd原料とTe原料の機械的混合は、石英容器に投入する前に実施することが好ましい。石英容器に投入した後に原料を機械的に混合することは難しく、強いて混合してもショット状Cd原料とショット状Te原料の密度差によって逆に各原料が分離してしまうからである。尚、原料の機械的混合には、Vブレンダーやロッキングミキサーなどの各種混合機を用いて混合することが好ましい。
【0027】
上記のごとくショット状Cd原料とショット状Te原料を所定の混合度となるまで機械的に混合した後、得られた原料混合物を石英容器内に装入する。石英容器の材質としては、石英(SiO)ガラスが一般的であるが、不純物の少ない合成石英や天然石英でも問題はない。ただし、石英ガラス製の容器の場合、ショット状Cd原料の表面にできる酸化物が石英ガラスと反応して複合酸化物を形成し、石英ガラスとの熱膨張係数差によって容器が破損する危険性がある。
【0028】
そこで、石英ガラス製容器の内壁に予めカーボン皮膜を付け、反応時に原料混合物が石英ガラス面に直接触れないようにすることが望ましい。石英ガラス製容器の内壁にカーボン皮膜を形成する方法としては、真空に引いた容器内にメタン、エタン、プロパン、ブタン、アセトン、トルエン、ベンゼンなどの有機物の蒸気を導入し、1000℃以上に加熱された電気炉内に投入するか、若しくはバーナーで加熱することによって、有機物の熱分解によりカーボン皮膜をコーティングすることができる。
【0029】
また、カ−ボン皮膜をコーティングする代わりに、石英ガラス製容器の内部にルツボを入れ、このルツボ内に原料混合物を収容することにより、石英ガラス面と溶解した原料混合物とが直接接触しない構造としてもよい。尚、ルツボの材質としては、溶解した原料混合物が反応付着しない窒化ホウ素(BN)であるか、少なくとも表面部分が熱分解BNからなることが最も好ましい。
【0030】
上記原料混合物を入れた石英容器は、真空中又は不活性ガス雰囲気中で封止する。例えば、石英容器として片端を封じた有底の石英ガラス管を用いる場合、この石英ガラス管の内径とほぼ同じ外径の片端丸閉じの石英ガラス蓋を、原料混合物と接しない程度まで石英ガラス管の開放端側に挿入し、石英ガラス管内を真空排気しながら、酸素−水素バーナーで石英ガラス管と石英ガラス蓋とを封着する。また、有底の石英ガラス管の開放端側を予め絞って口径を小さくし、原料混合物を装入した後、真空排気しながら、開放端側の口径を小さくした部分を酸素−水素バーナーでねじり切って封止することもできる。
【0031】
石英容器の真空排気に用いるポンプとしては、通常の油回転真空ポンプを用いることができるが、更に高真空にするためには油拡散ポンプあるいはターボ分子ポンプなどを用いることもできる。また、石英容器内をArガスのような不活性ガス雰囲気で満たした状態で封止してもよい。尚、石英容器内を真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気にするのは、原料の酸化を防止するためである。
【0032】
原料混合物を封入した石英容器は、縦型あるいは横型の電気炉やそれに準ずる加熱装置を用いて加熱処理する。具体的には、450℃以上1000℃以下の温度まで昇温し、その温度に保持してショット状Cd原料とショット状Te原料を反応させる。加熱処理(保持)温度が450℃以下では、CdとTeの反応がほとんど起こらず、結果的にCdTe結晶を得ることができない。一方、1000℃を超えると、仮にCdの単体が残っていた場合には、蒸気圧が数気圧以上となるため容器が破損する危険がある。尚、保持時間については、特に限定されないが、通常は30分以上4時間以下が好ましい。
【0033】
上記加熱処理後の石英容器を冷却することにより、Cd原料とTe原料の溶融反応物からCdTe結晶が析出する。加熱処理後の石英容器の冷却は、自然放冷でもよいし、石英容器の周囲を一端から他端に向け順次冷却させる方法でもよい。このような本発明方法により、CdTe相のみからなるCdTe結晶が得られる。尚、高品位のCdTe結晶を安定して得るためには、上記した一連の工程で不純物の混入をできるだけ防ぐことが必要である。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
片端丸閉じの石英ガラス管(外径35.5mm、肉厚2.0mm、全長250mm、コバレントマテリアル製T−1030)の内部を油回転ポンプ(アルバック製GLD−100)で真空排気し、アセトン蒸気を導入した後、酸素−水素バーナー(木下理化工業製KBSS−500)で外側から加熱することにより、石英ガラス管の内側にカーボンコーティングを施した。
【0035】
一方、ショット状Te原料として最長部長さが2mmのTeショット(大阪アサヒメタル製、純度6N)と、ショット状Cd原料として最長部長さが3mmのCdショット(大阪アサヒメタル製、純度6N)とを、Te原料とCd原料のモル比が1.00となるように合計200g秤量し、ステンレスバット(外寸158mm×128mm×25mm)に入れて5秒間振って混ぜ合わせ、これを機械的混合前の配合原料とした。
【0036】
この機械的混合前の配合原料をサンプリングし、蛍光X線による組成分析を実施して、Cdモル分率を算出した。分析後の配合原料を戻し、再度サンプリングして同様にCdモル分率を測定した。以上の操作を合計10回繰り返し、機械的混合前の配合原料におけるCdモル分率の標準偏差(σ)を算出したところ、0.245であった。
【0037】
次に、上記機械的混合前の配合原料を所定のガラス容器に入れ、Vブレンダー(筒井理化学器械製、S−3)に装着して、回転速度41.9rpmで2分混合した。得られた機械的混合後の混合原料におけるCdモル分率の標準偏差(σ)を上記と同じ方法で算出したところ、0.031であった。これらの結果から、1−(σ/σ)で表される混合度Mは0.87と算出された。
【0038】
このようにして得られた原料混合物を、上記カーボンコーティングされた石英ガラス管に装入し、更に片端丸閉じの石英ガラス蓋(外径31.5mm、肉厚2.0mm、全長30mm、コバレントマテリアル製T−1030)を原料混合物に触れないように挿入し、系内を油回転ポンプで真空に引きながら酸素−水素バーナーで封止した。
【0039】
その後、原料混合物を封入した石英ガラス管をSUS316製反応容器内に入れ、Arガスを流しながら5℃/分の速度で昇温した。温度が930℃に達した時点で昇温を停止し、930℃にて1時間保持した後、自然放冷した。この間、石英ガラス管が破損することはなかった。試料1の各ショット状原料の最長部長さと、原料の混合度M及び加熱処理温度を下記表1に示す。
【0040】
このようにして得られた試料1の反応生成物は、石英ガラス管から回収した後、めのう乳鉢を用いて粉砕し、粉末X線回折法により同定したところ、CdTe相のみからなる高品位なCdTe結晶であった。試料1の結晶相の同定結果を、上記した原料の混合度M及び加熱処理温度、石英ガラス管の破損の有無と共に、下記表2に示す。
【0041】
次に、試料2〜15として、TeショットとCdショットの最長部の長さ、混合度、加熱処理(保持)温度のいずれかを下記表1に示すように変化させた以外は、上記試料1の場合と同様に実施して反応生成物を得た。これらの試料2〜15では、試料12以外は石英ガラス管の破損は起こらなかった。試料2〜15におついても、結晶相の同定結果を、原料の混合度M及び加熱処理温度、石英ガラス管の破損の有無と共に、下記表2にまとめて示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
上記表1〜2から分るように、試料1〜8はいずれも、Cdショット及びTeショットの最長部の長さが0.7〜9mm、混合度が0.73〜0.90、及び熱処理(保持)温度が550〜1000℃の範囲にあり、得られた反応生成物はCdTe相のみからなる高品位なCdTe結晶であった。
【0045】
一方、試料9では原料の機械的混合が不十分なため、生成物にCdTe相だけでなくTe相が存在していた。試料10ではショット状Te原料の粒径が小さすぎるためTeが酸化され、CdTe相のほかにTeO相が存在していた。試料11ではショット状Te原料の粒径が大きすぎるため、原料が十分反応せず、CdTe相だけでなくTe相とCd相が存在していた。
【0046】
更に、試料12ではショット状Cd原料の粒径が大きすぎ、昇温しても未反応のCdが存在していたため、石英ガラス管が破損した。試料13ではショット状Cd原料の粒径が小さすぎてCdが酸化され、結晶中にXRDで検出される程度のCdOが存在していた。試料14では加熱処理(保持)温度が低すぎるため、Te及びCdが共に反応せず、Te相とCd相のみが存在していた。また、試料15は、熱処理(保持)温度を従来と同様に1130℃と高く設定して作製した結晶であり、CdTe単相となっていた。
【0047】
[実施例2]
上記実施例1における試料1、9、10、15の生成物である各CdTe結晶を用いて太陽電池セルを作製し、その変換効率を測定した。即ち、厚さ1.1mm、10cm角の硼珪酸ガラス上に、化学気相成長法により厚さ0.5μmの酸化錫の透明導電膜を形成し、その上にカドミウム有機錯体を熱分解させて厚さ0.08μmのCdS膜を形成して、CdTe成膜用基板(以下、単に基板と記す)とした。
【0048】
次に、この基板上に、上記試料1、9、10、15の各CdTe結晶を原料として、近接昇華法(CSS法)によりCdTeを成膜した。具体的には、原料と基板とを2mmの間隔を隔てて対向させ、基板の温度を680℃、原料を保持するカーボン製の保持体の温度を上記基板温度よりも40℃高い温度に設定し、アルゴン雰囲気中で基板の表面に厚さ約5μmのCdTe膜を成膜した。その後、このCdTe膜上に塩化カドミウムの水溶液をコートし、乾燥した後、400℃で30分間熱処理した。
【0049】
次いで、このCdTe膜上に、樹脂の有機溶媒溶液と炭素粉末を混合したカーボンペーストをスクリーン印刷法により塗布し、焼成して、カーボン電極を形成した。このカーボン電極の周囲のCdTe膜を、金属製の治具で削り取ってCdS膜の表面を露出させ、その露出部及びカーボン電極層上に、銀粉末、インジウム粉末及び樹脂の有機溶媒溶液を混合したペーストを塗布し、乾燥して、マイナス側電極及びプラス側電極をそれぞれ形成し、太陽電池セルとした。尚、電極面積は1cmとなるようにした。
【0050】
上記のごとく試料1、9、10、15の各CdTe結晶を原料として作製した太陽電池セルについて、通常の方法により短絡電流と開放電圧を測定すると共に、ソーラシュミレータによりAM1.5、100mW/cmの条件下で擬似太陽光を照射しながらI−V測定を実施し、太陽電池セル変換効率を算出した。得られた結果を下記表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
本発明により作製したCdTe結晶(試料1)を原料として作製した太陽電池は、14.1%と良好な変換効率であった。また、従来と同様に高い反応温度(1100℃)で作製したCdTe結晶(試料15)を原料として作製した太陽電池の変換効率は、本発明の試料1の太陽電池とほぼ同等であった。この結果から、本発明により作製したCdTe結晶は、太陽電池用CdTe原料として有効であることが分った。
【0053】
一方、試料9のCdTe結晶を原料として作製した太陽電池では、CdTe膜を成膜する際にCdTe結晶中のTe単相がCdS膜を侵食するため、CdS膜表面に凹凸が生じて良好なpn接合が形成されず、変換効率が6.0%に低下したものと考えられる。また、試料10のCdTe結晶を原料として作製した太陽電池では、TeO相中の酸素原子がCdと反応してCdOとなり、試料9の場合と同様にCdS膜を侵食するため、変換効率が低くなったと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショット状のTe原料とショット状のCd原料を配合して、機械的に混合する前の当該原料におけるCdのモル分率の標準偏差をσ、機械的に混合した後の当該原料におけるCdのモル分率の標準偏差をσとしたとき、M=1−(σ/σ)で表される混合度Mが0.7以上1.0以下となるように機械的に混合した後、得られた原料混合物を石英容器内に入れて真空中又は不活性ガス雰囲気中で封止し、加熱処理することを特徴とする太陽電池用CdTe原料の作製方法。
【請求項2】
前記ショット状のTe原料及びショット状のCd原料は、最長部長さが共に0.5mm以上10mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の太陽電池用CdTe原料の作製方法。
【請求項3】
前記加熱処理温度が450℃以上1000℃以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の太陽電池用CdTe原料の作製方法。

【公開番号】特開2011−11962(P2011−11962A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159580(P2009−159580)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】