説明

DLP式エバネッセンス顕微鏡

【課題】 照射光の効率的な利用,発生位置の精度,簡易な制御,他の照明方式にも容易に切替え可能にするため、DMDの制御によってエバネッセント光を発生させることができるDLP式エバネッセンス顕微鏡を提供する。
【解決手段】 レーザ光は凹レンズ2で発散され凸レンズ3によって平行光となり、DMD装置4に入射する。DMD装置4ではカバーガラス8で臨界角以上になるような入射光となるリング形状のマイクロミラーがオン制御される。凸レンズ22はリング形状にオン制御されるマイクロミラーからの反射光のみを通過させ、この通過光を超高開口数対物レンズ7の後焦点面に集束させるレンズである。リング形状の光はダイクロイックミラー5で反射され、後焦点面を通過して超高開口数対物レンズ7に入射し屈折する。カバーガラス8の下面で全反射し、エバネッセント光が発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DMDの制御によってエバネッセント光照明を行うDLP式エバネッセンス顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞などの標本を観察する場合、エバネッセント光を発生させ、標本の特定の部分(わずかな厚さ部分)のみ照明し、その部分を観察するためのエバネッセント光照明を行う顕微鏡が供されている。場合によっては標本の極めて薄い部分のみを観察して分析しなければならない必要性があるからである。
従来のエバネッセント光照明を発生させる方法の1つは、照明光が全反射する角度でカバーガラスに入射するように光学系の反射ミラー面を設置することにより実現している。
【0003】
上記のように光学素子の位置の調整によって、または切替方式で光学素子の位置を定めることによってエバネッセント光照明を実現する構成は、光学系の各要素の配置に一定の制限を与えることとなり、エバネッセント光発生のための照射光の効率的な利用,エバネッセント光発生位置,光学系を複雑にすることなく容易に発生させる点,さらに他の照明方式に容易に切り替えることができること等を考慮した場合、十分な構成とは言えない。上記条件を満たす顕微鏡を構成できれば、細胞などの様々な標本に対し種々の角度からさらに幅広い観察が可能になる。
【0004】
特許文献1〜4はエバネッセント光照明またはリング状に照明する照明装置を搭載した顕微鏡を開示する例である。
特許文献1は、レーザ顕微鏡によるコンフォーカル画像と蛍光顕微鏡によるエバネッセント蛍光画像を選択的に取得可能な顕微鏡で、エバネッセント光照明は光ファイバを利用して実現し、スキャナの偏向角度の停止位置を決定することによりエバネッセント蛍光観察の際のエバネッセント光照明の調節を行うものである。DMDの使用はなく、リング状照明でもないので入射光の利用効率に限界がある。
特許文献2は、ビデオプロジェクタでLCD以外にDMDを使用する点およびリング照明が記載され、当該文献の中で実施の一例として投光照明と透過照明を選択的に切り替える技術が開示されているが、エバネッセント光照明を実現するものではない。
【0005】
特許文献3は、透過照明と近接場照明のいずれかを選択して試料を観察する光学顕微鏡で、例えば特許文献3の図4においては前者は試料の下側に全反射ミラーを配置してケーラー照明系からの照明光を全反射ミラーにより上方に反射し試料を照明し、試料の透過光を上方のCCDカメラの受光面に結像させている。後者は試料の上にカンチレバーのプローブを配置し、上方からレーザ光を前記プローブに照射し、プローブの先端の微小開口からエバネッセント波を発生させ、エバネッセント波による試料からの伝搬光は図5に示すように透過し予め移動させたミラーユニットの全反射ミラーで全反射させレンズで集光してフォトダイオードに入射させるようになっている。
特許文献3における近接場照明はカンチレバーで実現するものであり、エバネッセント光による試料からの伝搬光は、試料の下側に配置した全反射ミラー,レンズによる光学系で観察する構成となっており、特許文献1と同様、DMDを使用するものではない。
特許文献4は、通常の落射照明とエバネッセント光照明とを切り替え可能な照明光学系を開示している。しかしながら、エバネッセント光照明を当てるための構造はレンズに入射する光を光ファイバの位置を変えて実現するものである。これについてもDMDの使用はない。
【特許文献1】特開2003−307682号公報
【特許文献2】特表2000−502472号公報
【特許文献3】特開平8−220113号公報
【特許文献4】特開2001−272606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記状況に鑑みたもので、照射光の効率的な利用,標本上の発生位置の調整,簡易な構成による制御,他の照明方式に容易に切替え可能にするため、DMDの制御によってエバネッセント光を発生させることができるDLP式エバネッセンス顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明の請求項1は、レーザ光源と、前記レーザ光源からの光を発散する第1レンズ系と、前記第1レンズ系で発散された光束を、対物レンズ系の後焦点面に集束させる第2レンズ系と、前記第2レンズ系からの光が入射し、多数のマイクロミラーのオンオフ制御によって光を反射するDMD装置と、前記DMD装置からの反射光を入射して光路を変更するダイクロイックミラーと、前記ダイクロイックミラーからの光を入射する前記対物レンズ系と、前記対物レンズ系の前側に配置されたカバーガラスと、前記カバーガラス上の標本からの光が、前記対物レンズ系および前記ダイクロイックミラーを通過し、該光を結像させる第3レンズ系と、前記第3レンズ系で結像された前記標本の像を観察するための観察手段とを備え、前記DMD装置のマイクロミラーをリング形状でオン制御して前記カバーガラス下面に臨界角以上で入射させて全反射させ、前記カバーガラスに搭載された標本にエバネッセント光を発生させることを特徴とする。
本発明の請求項2は、請求項1記載の発明において前記第2レンズ系は前記第1レンズ系と前記DMD装置の間に凸レンズを配置して平行光にし、前記DMD装置とダイクロイックミラーの間にさらに凸レンズを配置して前記対物レンズ系の後焦点面に集束させることを特徴とする。
本発明の請求項3は、レーザ光源と、前記レーザ光源からの光を発散する第1レンズ系と、前記第1レンズ系で発散された光束を平行光にする第2レンズ系と、前記第2レンズ系からの光が入射し、多数のマイクロミラーのオンオフ制御によって光を反射するDMD装置と、前記DMD装置からの反射光を入射して光路を変更するダイクロイックミラーと、前記DMD装置と前記ダイクロイックミラーの間に配置され、光束を対物レンズ系の後焦点面に集束させる集光用レンズ群系と、前記ダイクロイックミラーからの光を入射する対物レンズ系と、前記対物レンズ系の前側に配置されたカバーガラスと、前記カバーガラスに搭載された標本からの光が、前記対物レンズ系および前記ダイクロイックミラーを通過し、該光を結像させる第3レンズ系と、前記第3レンズ系で結像された前記標本の像を観察するための観察手段とを備え、前記DMD装置のマイクロミラーをリング形状でオン制御し、かつ集光用レンズ群系で前記オン制御されたマイクロミラーからの光を集光することにより前記カバーガラス下面に臨界角以上で入射させて全反射させ、前記カバーガラスに搭載された標本にエバネッセント光を発生させることを特徴とする。
本発明の請求項4は、請求項3記載の発明において前記集光用レンズ群系は、リング状に配置されたマイクロレンズ群で構成したことを特徴とする。
本発明の請求項5は、請求項3記載の発明において前記集光用レンズ群系は、トーリックレンズ(環状レンズ)を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、従来のエバネッセント光照明方式に比較し、光の利用効率や発生位置精度の向上,簡易な構成による制御および他の照明方式に簡単に切り替えられ、幅広い標本の観察ができる顕微鏡を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。
図1は、本発明によるDLP式エバネッセンス顕微鏡の実施の形態を示すブロック図である。
この実施の形態は、本発明に直接関連する光学系を中心に記載したもので、他の部分は省略してある。
レーザ光源1,凹レンズ2,凸レンズ3,DMD装置4,凸レンズ22,ダイクロイックミラー5,超高開口数対物レンズ7,カバーガラス8,標本9,凸レンズ10およびCCD装置11によって構成されている。
【0010】
レーザ光源1から出射した光は、凹レンズ2によって発散され、凸レンズ3,DMD装置4,レンズ22を介して超高開口数対物レンズ(開口数が1.33以上)7の後焦点面に集束される。凸レンズ3を出射した光は、平行光になってDMD装置4に入射する。DMD装置4では、所定の径以上のリング状の多数のマイクロミラーがオン制御される。オン制御されるマイクロミラーに入射した光は、該マイクロミラーで反射され凸レンズ22に達する。凸レンズ22はトーリックレンズ(環状レンズ)などが用いられ、DMD装置4でリング状に反射される光に対応する部分のみを入射し集束させる。オフ状態にあるマイクロミラーに入った光は図示しない光トラップに反射する。
DMD装置4は図示しない制御回路によってオンオフ制御され、エバネッセント光照明を得るために所定径以上の4aで示す部分のマイクロミラーをオン状態にする。
【0011】
DMD装置4のマイクロミラーをオン制御するリング形状の幅を調整することによりエバネッセント光の照射領域を変えることができる。
凸レンズ22を出射したリング形状の光はダイクロイックミラー5で反射され、超高開口数対物レンズ7の後焦点面で一旦集束した後、超高開口数対物レンズ7に入射して屈折し所定の角度でカバーガラス8に入射する。カバーガラス8上の下面に対し臨界角以上の入射であるため、全反射を起こし、再度、超高開口数対物レンズ7へ入射する(入射位置と対象位置)。
カバーガラス8の表面には薄いエバネッセント光が伝搬し、蛍光物質が含まれている標本を照射する。標本で発生した蛍光は超高開口数対物レンズ7,ダイクロイックミラー5,凸レンズ10を通過してCCD装置11の受光面に結像する。標本の蛍光像は、図示しないモニタなどによって観察することができる。
【0012】
図2は、エバネッセント光照明された標本の詳細を説明するための図で、(a)は標本部分の平面図,(b)は超高開口数対物レンズ,カバーガラスおよび標本部分の側面図をぞれぞれ示している。
リング形状の光L1 は超高開口数対物レンズ7で屈折されカバーガラス8に対し臨界角以上で入射し、全反射を起こして超高開口数対物レンズ7の対称位置に戻る。カバーガラス8の全反射を起こした下面部分付近にエバネッセント光L2 が発生し、これらはカバーガラスの上面に向けて伝搬し標本の下面の領域に達する。標本には蛍光物質が含まれているため、エバネッセント光により蛍光が発生し蛍光によるエバネッセント光照射部分の像を観察することができる。
【0013】
図3は、本発明によるDLP式エバネッセンス顕微鏡の他の実施の形態を示すブロック図である。
この実施の形態は、図1と第2のレンズ系の構成が異なり、他の部分は変わらない。図1と同じ機能部分には同じ符号を付してある。
凹レンズ2とDMD装置4の間に凸レンズ3を挿入するとともにダイクロイックミラー5とDMD装置4の間に集光用レンズ群20を配置してある。凸レンズ3によって凹レンズ2からの発散光を平行光にしてDMD装置4に入射させ、DMD装置4からの平行光を集光用レンズ群20のリング部分のレンズ20aによって超高開口数対物レンズ7の後焦点面に集束させている。
【0014】
DMD装置4のマイクロミラーのオン制御範囲は、所定の径(臨界角相当)の外側の部分である。中心付近をオン制御すると落射照射になり、臨界角内の範囲ではスリット光照明になる。所定の径以上の範囲のマイクロミラーのオン制御によりエバネッセント光照明を行うことができ、他の照明方式に切り替えることも容易に実現できる。
集光用レンズ群20からの光はダイクロイックミラー5によって反射され、後焦点面6を通って超高開口数対物レンズ7で屈折しカバーガラス8の下面に臨界角以上の角度で入射して全反射しエバネッセント光を発生させる。
【0015】
図4は図3におけるDMDのマイクロミラーをオン制御するパターン例を、図5は図3における集光用レンズ群の具体例を示す図である。
集光用レンズ群がトーリックレンズの場合、エバネッセント光照明するには図4(a)の4a1 に示すリング状のマイクロミラーをオン制御する。また、マイクロレンズ群の場合、図4(b)の4a2 に示すリング状のマイクロレンズ相当のマイクロミラーをオン制御する。エバネッセント光照明からスリット光照明に切り替えるには、DMDのマイクロミラーをリング状のマイクロミラー4a1 ,4a2 から内側のリング部分のマイクロミラーをオン制御し、さらに落射照明に切り替えるには中心の円部分のマイクロミラーをオン制御する。
図5(a)の20a1 は図4(a)で示すオン制御されるDMDに対応したトーリックレンズの例を、図5(b)の20a2 は図4(b)で示すオン制御されるDMDに対応したマイクロレンズ群の例をそれぞれ示している。
このように臨界角以上を実現するリング状の照明は、リングの幅をDMD装置の対応するマイクロミラーをオン制御することによって変えることができ、エバネッセント光の発生領域の大きさを変えることができる。
【0016】
以上の各実施の形態で示した凹レンズおよび凸レンズは、説明の便宜上、1枚の場合を示したが、複数枚のレンズによってそれぞれ発散,集束を行うようにしたレンズ群を構成することが可能である。
また、標本として細胞の例を説明したが、半透明体や液体などを対象としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0017】
細胞などの標本の特定部分を蛍光観察する顕微鏡などに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるDLP式エバネッセンス顕微鏡の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】エバネッセント光照明された標本の詳細を説明するための図である。
【図3】本発明によるDLP式エバネッセンス顕微鏡の他の実施の形態を示すブロック図である。
【図4】図3におけるDMDのマイクロミラーをオン制御するパターン例を示す図である。
【図5】図3における集光用レンズ群の具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 レーザ光源
2 凹レンズ
3,10 凸レンズ
4 DMD装置
5 ダイクロイックミラー(DM)
6 後焦点面
7 超高開口数対物レンズ
8 カバーガラス
9 標本(細胞)
11 CCD装置(観察手段)
12 エバネッセント光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からの光を発散する第1レンズ系と、
前記第1レンズ系で発散された光束を、対物レンズ系の後焦点面に集束させる第2レンズ系と、
前記第2レンズ系からの光が入射し、多数のマイクロミラーのオンオフ制御によって光を反射するDMD装置と、
前記DMD装置からの反射光を入射して光路を変更するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーからの光を入射する前記対物レンズ系と、
前記対物レンズ系の前側に配置されたカバーガラスと、
前記カバーガラス上の標本からの光が、前記対物レンズ系および前記ダイクロイックミラーを通過し、該光を結像させる第3レンズ系と、
前記第3レンズ系で結像された前記標本の像を観察するための観察手段とを備え、
前記DMD装置のマイクロミラーをリング形状でオン制御して前記カバーガラス下面に臨界角以上で入射させて全反射させ、前記カバーガラスに搭載された標本にエバネッセント光を発生させることを特徴とするDLP式エバネッセンス顕微鏡。
【請求項2】
前記第2レンズ系は前記第1レンズ系と前記DMD装置の間に凸レンズを配置して平行光にし、前記DMD装置とダイクロイックミラーの間にさらに凸レンズを配置して前記対物レンズ系の後焦点面に集束させることを特徴とする請求項1記載のDLP式エバネッセンス顕微鏡。
【請求項3】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からの光を発散する第1レンズ系と、
前記第1レンズ系で発散された光束を平行光にする第2レンズ系と、
前記第2レンズ系からの光が入射し、多数のマイクロミラーのオンオフ制御によって光を反射するDMD装置と、
前記DMD装置からの反射光を入射して光路を変更するダイクロイックミラーと、
前記DMD装置と前記ダイクロイックミラーの間に配置され、光束を対物レンズ系の後焦点面に集束させる集光用レンズ群系と、
前記ダイクロイックミラーからの光を入射する対物レンズ系と、
前記対物レンズ系の前側に配置されたカバーガラスと、
前記カバーガラスに搭載された標本からの光が、前記対物レンズ系および前記ダイクロイックミラーを通過し、該光を結像させる第3レンズ系と、
前記第3レンズ系で結像された前記標本の像を観察するための観察手段とを備え、
前記DMD装置のマイクロミラーをリング形状でオン制御し、かつ集光用レンズ群系で前記オン制御されたマイクロミラーからの光を集光することにより前記カバーガラス下面に臨界角以上で入射させて全反射させ、前記カバーガラスに搭載された標本にエバネッセント光を発生させることを特徴とするDLP式エバネッセンス顕微鏡。
【請求項4】
前記集光用レンズ群系は、リング状に配置されたマイクロレンズ群で構成したことを特徴とする請求項3記載のDLP式エバネッセンス顕微鏡。
【請求項5】
前記集光用レンズ群系は、トーリックレンズを用いたことを特徴とする請求項3記載のDLP式エバネッセンス顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−275685(P2006−275685A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93685(P2005−93685)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】