説明

DNAに於けるDNA結合性タンパク質の結合部位の検出方法

【課題】 簡便に且迅速に、DNA結合性タンパク質と結合するDNAの結合部位を含むDNAの領域を検出する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の方法は、蛍光標識したDNA結合性タンパク質とそのタンパク質が結合することが既知である第一のDNAとを含む第一の混合液と、第二のDNAと蛍光標識したDNA結合性タンパク質とを含む第二の混合液を調製し、第一及び第二の混合液の蛍光強度に基づいて、第一の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さと第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さとに差があるか否かを判定して、その結果に基づいて、DNAの結合部位を含む領域を検出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAの或る特定の領域又は塩基配列を検出又は同定する方法に係り、より詳細には、DNA(デオキシリボ核酸)にあるDNA結合性タンパク質(DNAに結合するタンパク質)との相互作用に関わる塩基配列(結合配列)又は結合部位を含む領域を検出する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
DNA結合性タンパク質は、DNA中の特定の塩基配列に結合し、多くの生物のDNAの塩基配列により決定される遺伝子の発現の制御機構及び代謝や発生、疾患など幅広い生理現象に於いて、重要な役割を担っていると考えられている。例えば、ゲノム上に存在する遺伝子が、タンパク質として発現されて機能を発揮するべく、mRNAへと転写される制御(転写制御)に於いて、特定のタンパク質群がゲノムを構成するDNAに結合して、そのDNAと相互作用することが知られている。そのような相互作用の例は、大腸菌のLacIタンパク質(リプレッサー)とラクトースオペレーターとの結合による転写制御、ショウジョウバエの胚発生の各段階で働く母性効果遺伝子産物、分節遺伝子産物及びホメオドメイン遺伝子産物による転写制御、ヒトのがん抑制遺伝子として知られるp53の遺伝子産物による転写制御に於いて観察されている。また、DNA結合性タンパク質とDNAとの相互作用が関与する転写制御を人為的に操作して、未知のタンパク質の同定(非特許文献1)や特定の化合物の検出(非特許文献2)に応用することも試みられている。更に、最新医療の分野では、DNA結合性タンパク質とDNA(プロモーター配列)の相互作用を制御する「アンチセンス/デコイDNA」が開発され、かかるDNAを体内に投与する事で、DNA結合性タンパク質とDNAの相互作用が関わる転写制御を人為的に操作して心筋梗塞などの病気を治療することが試みられている(非特許文献3)。
【0003】
上記の如きDNA結合性タンパク質とDNAの相互作用に関する研究やDNA結合性タンパク質とDNAの相互作用を利用した治療方法の開発の現場に於いて、DNA結合性タンパク質とDNAの相互作用の検出又はDNA結合性タンパク質と相互作用するDNAの塩基配列の検出の方法は、種々提案されている。例えば、非特許文献4には、プロモーター配列に発光タンパク質の一種であるルシフェラーゼをコードした遺伝子を接続するとともに、プロモーター配列に欠失変異を導入して、ルシフェラーゼの発現の有無(発光するか否かを判定)により、転写制御(即ち、DNA結合性タンパク質との相互作用)に必要なDNAの塩基配列を同定することが開示されている。また、非特許文献5に記載された「ヌクレアーゼプロテクションアッセイ」では、タンパク質と相互作用させた放射性標識したDNAをヌクレアーゼにより処理したDNA断片を電気泳動により分離して、プロモーター配列中にあるタンパク質と結合する領域と結合しない領域を、ヌクレアーゼによる感受性の違いを利用することにより同定することが可能である。更に、特許文献1に於いては、蛍光標識された短い(約50bp以下)のDNA断片を用いて、蛍光相関分光法により、DNAとDNA結合性タンパク質との反応を検出する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−006566公報
【特許文献2】特表2002−543414公報
【非特許文献1】ホール等、ザ・プラント・セル(The Plant Cell)、2003年、15巻、p2719−2739
【非特許文献2】ティナ・ケー・バンダイク、アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー、1994年、60巻、p.1414-1420
【非特許文献3】モリシタ等、ネイチャーメディシィン(Nature Medicine)、1997年3(8)巻、p.834-835
【非特許文献4】マイケル等、2002年、プラントフィジオロジー(Plant Physiology)、2002年、130巻、p.627−638
【非特許文献5】マイケル等、1993年、ジーントランスクリプション:プラクティカルアプローチ、p.229−276
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、或るタンパク質がDNAに結合することが分かっている場合、又は、或るタンパク質が転写制御などのDNA結合性タンパク質とDNAの相互作用に関わっていることが分かっている場合に、そのタンパク質が具体的にDNAのどの塩基配列に結合するか、即ち、DNAの塩基配列中に於けるDNA結合性タンパク質との相互作用に関わる塩基配列(結合配列)が同定されれば、DNA結合性タンパク質とDNAの相互作用に関する研究及びそれを利用した治療方法の開発に於いて、非常に有用な情報となる。結合配列が分かれば、転写制御等のDNA結合性タンパク質とDNAの相互作用の人為的な制御又は操作に於いて、無駄な試行錯誤を行う必要が低減され、前記の研究又は治療方法の確立に於いて費用と時間が節約できることとなる。
【0005】
しかしながら、従来の技術に於いて、或る所与のDNA結合性タンパク質の結合配列を、簡便に或いは迅速に検出又は同定する方法は提案されていない。当業者にとって知られているように、ゲノム上の塩基配列は、非常に膨大な数であるところ、例えば、プロモーター配列のうち実際にDNA結合性タンパク質に結合する結合配列は、6〜50mer程度の比較的短いDNA配列であると考えられている。従って、上記に例示した如き、細胞に於いて所定の遺伝子が発現されたか否かにより特定のDNA塩基配列を検出する方法では、膨大な塩基配列のうちの結合配列を同定することは、非常に多くの時間と労力を要することとなる。また、従前のいくつかの塩基配列を同定する方法は、放射性同位元素や電気泳動法を用いるなど、試料の取り扱いや使用する試料量が多いなどの不具合を有する。従って、もし或るタンパク質についてそのタンパク質がDNAに結合するか否か、或いは、結合する場合にどの塩基配列が結合配列なのかが容易に且迅速に決定できる方法があれば、DNA結合性タンパク質とDNAの相互作用に関する研究及びかかる相互作用を利用した治療方法の開発に非常に有用となろう。また、かかる新規な方法に於いては、多量の試料を要しないことが好ましい。
【0006】
かくして、本発明の一つの目的は、多量の試料を要せず、比較的簡便に且迅速に、DNA結合性タンパク質と相互作用するDNA中の結合配列を同定するために有利に用いられるDNA結合性タンパク質と結合するDNAの結合部位を含むDNA分子又はその領域若しくはその塩基配列を検出する方法を提供することである。
【0007】
また、本発明のもう一つの目的は、上記の如き方法であって、試験管内の系で、DNA結合性タンパク質に対するDNA中の結合配列を含むDNA分子又はその領域若しくはその塩基配列を検出する方法を提供することである。
【0008】
また更に、本発明のもう一つの目的は、上記の如き方法であって、遺伝子の発現又は転写制御に関わるプロモーター配列に於けるDNA結合性タンパク質に対するDNA中の結合配列を同定するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記の課題を解決する新規なDNA結合性タンパク質と結合するDNAの結合部位を含む領域を検出する方法が提供される。本発明の方法は、蛍光標識したDNA結合性タンパク質と該DNA結合性タンパク質が結合することが既知である第一のDNAとを含む第一の混合液を調製する過程と、第一のDNA上の結合配列を含んでいるか否かが検査される第二のDNAと前記蛍光標識したDNA結合性タンパク質とを含む第二の混合液を調製する過程と、第一及び第二の混合液の蛍光強度を測定する過程と、第一及び第二の混合液の蛍光強度に基づいて、第一の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さと第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さとに差があるか否かを判定する過程とを含み、DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があるか否かに基づいて、第一のDNAに於ける結合部位を含む領域を検出することを特徴とする。
【0010】
上記の本発明の方法は、概して述べれば、種々の鎖長や配列のDNA分子に結合したDNA結合性タンパク質の運動の速さの違いを観測することにより、該タンパク質の結合するDNAの結合部位を含むDNA分子又はその領域を特定しようというものである。水溶液中に於いて、DNA結合性タンパク質とDNAとが結合すると、DNA結合性タンパク質はDNAと一体となるので、DNA結合性タンパク質のブラウン運動の速さは、結合したDNA分子の大きさ又は形状によって変化する。そこで、DNA結合性タンパク質を予め蛍光標識しておき、その蛍光標識されたタンパク質と種々の鎖長や配列のDNA分子とを相互作用させて、タンパク質の蛍光標識の蛍光強度を測定し、測定された蛍光強度から得られるDNA結合性タンパク質のブラウン運動の速さの情報に基づいて、DNA結合性タンパク質が如何なる塩基配列を有するDNA分子又は如何なる種類のDNA分子に結合しているかを特定する。
【0011】
より詳細には、上記から理解される如く、まず、蛍光標識されたDNA結合性タンパク質が、そのDNA結合性タンパク質と結合することは分かっているが、DNA結合性タンパク質が具体的に結合する部位がどこに在るかが未知のDNA分子(第一のDNA)と、第一のDNA上の結合配列を含んでいるか否かが検査されるDNA(第二のDNA)のそれぞれと混合され、次いで、第一の混合液(DNA結合性タンパク質と第一のDNAとの混合液)と第二の混合液(DNA結合性タンパク質と第二のDNAとの混合液)の蛍光測定により、第一の混合液と第二の混合液に於けるDNA結合性タンパク質の運動の速さに差があるか否かが判定される。第一の混合液では、タンパク質は第一のDNAに結合することとなる。しかしながら、第二の混合液では、第二のDNAの塩基配列がDNA結合性タンパク質の結合部位を含んでいる場合に、DNA結合性タンパク質と第二のDNAが結合する。即ち、第二のDNA中の塩基配列にDNA結合性タンパク質が結合するか否かにより、第二の混合液でのDNA結合性タンパク質のDNAへの結合状態又はDNA結合性タンパク質の結合するDNAの分子種が異なり、水溶液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さが変化することとなる。従って、第一のDNAと結合したタンパク質の運動の速さを基準として、第二のDNAと混合されたタンパク質の運動の速さを参照することにより、DNA結合性タンパク質が第二のDNAに結合しているか否かが決定され、かくして、第一のDNAと第二のDNAに共通する塩基配列がDNA結合性タンパク質と結合する部位を含んでいるか否かが決定されることとなる。なお、上記の方法に於いて、第一のDNAの全ての塩基配列が、分かっていても分かっていなくてもよい。しかしながら、第一のDNA上の結合配列の詳細な位置を効率的に絞り込むためには、第二のDNAは、第一のDNAの塩基配列の少なくとも一部と同一の塩基配列を有するものであることが好ましい。また、本発明の方法に於いて使用されるDNA分子は、水溶液中で略棒状を為しているものであってよい。その場合、蛍光測定で観測されるDNA結合性タンパク質の運動の速さは、DNA結合性タンパク質が結合するDNA分子の長さの関数であるとみなしてよい。
【0012】
上記の本発明の第一の態様に於いては、第二のDNAは、第一のDNAより短いDNA断片であってよく、第二の混合液が第一の混合液にDNA断片を加えることにより調製されてよい。第一の混合液に第一のDNAより短いDNA断片を混合した場合、もしその混合したDNA断片がDNA結合性タンパク質の結合部位を含んでいると、第一の混合液中に初めから存在する第一のDNAに結合していたタンパク質の幾分かの量が新たに加えられたDNA断片に移ることとなる(DNA結合性タンパク質とDNAとの結合は、通常、可逆的であるので、第一のDNAとDNA断片が競合関係となる)。DNA結合性タンパク質がDNA断片に移ると、DNA結合性タンパク質が結合するDNA分子の平均の長さが低減することとなり、かくして、蛍光測定で観察されるDNA結合性タンパク質の運動がみかけ上速くなる。他方、もしその混合したDNA断片がDNA結合性タンパク質の結合部位を含んでいなければ、DNA結合性タンパク質は、DNA断片に移らないので、蛍光測定で観察されるDNA結合性タンパク質の運動の速さに変化は生じない。かくして、この態様に於いては、DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があると判定された場合に、DNA断片にある塩基配列に於いて、DNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていると特定することができる。また、第一の混合液に追加されるDNA断片の塩基配列を通常の方法により特定すれば、DNA結合性タンパク質の結合部位の塩基配列を具体的に決定できることとなる。なお、この態様に於いて、複数の種類の、第一のDNAより短いDNA断片を調製し、複数の種類のDNA断片の各々を、別々に第一の混合液へ加えて複数の第二の混合液を調製し、複数の第二の混合液に於ける蛍光強度により、それぞれ、第一の混合液の場合とDNA結合性タンパク質の運動の速さの差があるか否かを判定すれば、複数のDNA断片のうち、どの断片に結合部位が存在するかが特定できることとなる。また、この態様に於いて、第二のDNAとなるDNA断片として、第一のDNAの一部分と同一の塩基配列から成るものを選択すれば、効率的に、第一のDNAに於ける結合部位の位置を絞り込むことができる。
【0013】
上記の本発明の第二の態様としては、第二の混合液が第一の混合液へ制限酵素を加えることにより調製されてよい(第二のDNAは、制限酵素で処理された第一のDNAである。)。この場合、もし第一のDNAが、添加された制限酵素により切断される塩基配列を含んでいれば、第一のDNAは、断片化され、その結果、DNA結合性タンパク質の運動が速くなるので、蛍光測定によってその変化が観察されるはずである。従って、この場合、第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さに差があった(運動が速くなった)と判定された場合には、制限酵素で切断される第一のDNAの塩基配列にDNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていることを特定することができる。
【0014】
上記の態様に於いて、第一のDNAが複数の種類のDNAから成り、そのうちの少なくとも一つがDNA結合性タンパク質と結合することが既知であるがどのDNAに結合するかが未知であるDNA混合物であってよく、第二の混合液が第一の混合液へ任意の制限酵素(第一の制限酵素)を加えて調製される。この場合、第二のDNAは、DNA混合物の一部を第一の制限酵素により断片化してなるDNA断片を含むこととなる。もし第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動が速くなったとすれば、DNA結合性タンパク質が結合するDNA分子が制限酵素により断片化され、そのDNA分子の長さが変わったことになる。即ち、第一及び第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さに差があったと判定された場合には、第一のDNAのうち第一の制限酵素により切断されたDNA分子の塩基配列中にDNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていることを特定できることとなる。なお、この態様に於いて、もし第一のDNAに含まれる複数の種類のDNAが互いに異なる制限酵素により切断されることがわかっていれば、それらの制限酵素を第一の混合液へ別々に又は順次追加し(それらを第二の混合液として)、蛍光測定を行い、DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があった(運動が速くなった)と判定された際の制限酵素を特定することにより、第一のDNAに含まれる複数の種類のDNAのうちどのDNAにDNA結合性タンパク質の結合部位が含まれているかが特定できることとなる。
【0015】
更に、上記の第二の態様に於いて、第一又は第二の混合液若しくはそれまで調製された混合液へ第一の制限酵素とは異なる第二の制限酵素又はそれまで添加された制限酵素とは異なる制限酵素を更に加えて、第三の混合液又は新たな混合液を調製し、上記と同様に蛍光測定により、それまで調製された混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さと新たに調製された混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さとに差があるか否かを判定されてよい。もし新たに制限酵素が添加された混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さが速くなったとすれば、DNA結合性タンパク質の結合するDNAが切断されたこととなる。従って、それまで調製された混合液及び新たな混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さに差があった場合に、それまで調製された混合液中に含まれるDNAのうち、新たに添加された制限酵素により切断されたDNAの塩基配列にDNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていることが特定されることとなる。更に、それまで添加した制限酵素とは異なる制限酵素を、それまで調製された混合液へ添加して蛍光測定を行ってDNA結合性タンパク質の運動の速さの変化の有無を観測することを反復すれば、DNA結合性タンパク質の運動の速さの変化が検出される毎に、DNA結合性タンパク質の結合部位の存在する領域をより詳細に絞っていくことが可能となる。
【0016】
上記の本発明の更に別の態様として、前記の態様と同様に、第一のDNAを、複数の種類のDNAから成り、そのうちの少なくとも一つがDNA結合性タンパク質と結合することが既知であるがどのDNAに結合するかが未知であるDNA混合物とすると共に、複数の制限酵素を各々別々に、DNA混合物を含む第一の混合液へ与えることにより複数の第二の混合液を調製するようになっていてよい。この場合、複数の第二の混合液に於いて、対応する制限酵素によりDNA混合物の一部が断片化され、それぞれDNA断片(各々の断片が第二のDNAとなる)が生成される。第一の混合液のDNA結合性タンパク質の運動の速さと複数の第二の混合液のいずれかのうちのDNA結合性タンパク質の運動の速さとに差があった場合に、その差があった第二の混合液に於いて、DNA結合性タンパク質が結合するDNAが切断されたことになるので、DNA結合性タンパク質の結合部位が、第一のDNAのうち、DNA結合性タンパク質の運動の速さに差を生じた第二の混合液に加えられた制限酵素により切断されたDNAの塩基配列に含まれていることが特定できることとなる。
【0017】
ところで、DNA結合性タンパク質の運動の速さの変化を観察するための蛍光強度の測定方法は、具体的には、蛍光相関分光法、蛍光偏光解消法など、蛍光標識された分子の大きさの変化に伴う分子運動の変化を検出できる任意の蛍光測定方法であってよい。蛍光偏光解消法は、二次元蛍光強度分布分析法(例えば、特許文献2を参照)を用いたものであってもよい。なお、上記以外のDNAに結合したDNA結合性タンパク質の運動の速さの変化を検出できる任意の蛍光測定分析技術が、本発明に於いて採用されてよいことは理解されるべきであり、そのような場合も本発明の範囲に属する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法は、上記の説明から理解されるように、従来のDNA結合性タンパク質が結合するDNAの結合部位を同定又は検出する方法、例えば、細胞への遺伝子の導入及び発現の有無の判定などを用いる方法とは異なり、従来に比して簡単で比較的短時間にDNA結合性タンパク質と結合するDNAの結合部位を含む領域を検出することが可能である。また、本発明の処理過程に於いては、端的に述べれば、所定の試料を調製した後には、DNA結合性タンパク質とDNA(及び制限酵素)を試験管内で反応させることと、その反応液の蛍光測定に行うだけで、結果が得られることとなり、放射性同位元素や電気泳動法或いはクロマトグラフィなどの煩雑な操作や試料の分画を行わなくてもよく、検出に要する試料量を従前に比して大幅に低減できることが期待される。更に、蛍光測定の際、前記の如き蛍光相関分光分析等に用いられる共焦点光学顕微鏡の光学系を備えた装置を用いれば、試料量は、より一層低減することが可能となる。
【0019】
特に、試料量を従前に比して低減できるということは、DNA結合性タンパク質とDNAの相互作用に関する研究を含む生化学的研究の分野及び治療方法の開発の研究の分野に於いて、非常に有利であることは理解されるべきである。この分野の現場に於いて使用される試薬又は物質は、しばしば、高価であったり、或いは稀少であるために、大量に入手することが困難である場合がある。しかしながら、本発明の方法は、少量の試料でも検査ができるので、極めて有効である。また、本発明によれば、DNA結合性タンパク質の結合配列を含む領域を特定する際、事前に検査されるべきDNAの塩基配列が分かっていなくても、DNA試料が入手できれば(従前に比して少量でよい。)、DNA上のDNA結合性タンパク質との結合部位(又は結合部位を含む領域)を特定することができる。本発明の方法の処理過程では、使用されたDNAは、(制限酵素で切断されることを除き)実質的に変性しないので、結合部位が分かった後に、その部位のみを取り出して、その部位のみの塩基配列を調べることも可能である。
【0020】
更に、本発明の方法は、特に、DNAの転写制御に関わるプロモーター配列に於けるDNA結合性タンパク質の結合部位をより詳細に特定するために有利に用いることができる。プロモーター配列の長さは、数kbp程度に及び、しかも、長さ又はゲノム上の位置も生物種によって異なる。かかる状況に於いて通常20bp〜100bp程度であると考えられるDNA結合性タンパク質の結合配列を特定することは、従前の方法では、時間と労力を多く必要とするが、本発明の方法によれば、プロモーター配列中のDNA結合性タンパク質の結合配列を含む領域を、初めは大雑把に特定した後、本発明の方法の過程を繰り返すことで、効率的に絞り込むことが可能となるので、従前に比して、DNA結合性タンパク質の結合配列を特定するための作業速度を速くすることができると期待される。また、本発明の方法は、DNA結合性タンパク質の結合配列を、従前に比して少ない手間にて、検出できるので、短い結合配列を利用した転写制御を介する生体内のシグナルや生体外の環境を検出するシステムの開発、例えば、短い配列を直接生体に対してデコイDNAとして導入する核酸医薬の開発に於いて、有利に用いることができるであろう。勿論、本発明は、プロモーター配列以外の任意のDNAの配列とDNA結合性タンパク質との相互作用の部位又は結合部位を特定するために用いられてもよい。
【0021】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の物質又は部位を示す。
【0023】
第一の実施形態
第一の実施形態では、概して述べれば、蛍光標識されたDNA結合性タンパク質と、そのDNA結合性タンパク質と結合することは分かっているが、DNA結合性タンパク質が具体的に結合する部位がどこに在るかが未知のDNA分子(第一のDNA)との混合液(第一の混合液)と、かかる混合液に、第一のDNA上の結合配列を含んでいるか否かが検査される第一のDNAより短いDNA断片(第二のDNA)を加えた混合液(第二の混合液)とが調製され、蛍光相関分光法又は蛍光偏光解消法などの蛍光測定により、第一及び第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さの違いを観測する。上記の如く調製された混合液に於いて、第一の混合液中では、DNA結合性タンパク質と第一のDNAとが結合しているものと考えられる。一方、第二の混合液では、DNA断片が、DNA結合性タンパク質との結合部位を含んでいなければ、DNA結合性タンパク質は、第一のDNAと結合したままであるが、DNA断片が、DNA結合性タンパク質との結合部位を含んでいれば、DNA結合性タンパク質の一部は、DNA断片と結合する(第一のDNA分子とDNA断片の間で競合が生ずる)。その結果、DNA断片が、DNA結合性タンパク質との結合部位を含んでいる場合には、第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の結合するDNA分子の平均の長さが短くなり、蛍光測定で観測されるDNA結合性タンパク質の運動が速くなる。かくして、DNA結合性タンパク質の運動を速くさせるDNA断片と同一の塩基配列中にDNA結合性タンパク質との結合部位が存在することが特定できることとなる。
【0024】
図1は、本発明の方法の好ましい第一の実施形態に於ける処理過程をフローチャートの形式で表したものであり、図2は、図1の処理に於いて想定される分子の状態の変化を模式的に示したものである。
【0025】
図1及び図2を参照して、本発明の方法の実施を開始する当たり、予め、第一のDNA1と、蛍光標識されたDNA結合性タンパク質7と、第一のDNA1より短いDNA断片2〜5とが準備される。なお、DNA断片2〜5は、好ましくは、第一のDNA1の一部分と同一の塩基配列から成るものであり、例えば、第一のDNA1を断片化して調製されたものでよく、又、図に例示されているよりも、細かく断片化されていてもよい。実験を実施する際には、DNA断片のいずれかにDNA結合性タンパク質7との結合部位(塩基配列)6が存在するようDNA断片が準備されていることが望ましい。なお、図2では、説明の目的で、結合部位6が断片3に存在するよう示されているが、実際には、どの断片に存在するかはわかっていない。
【0026】
DNA結合性タンパク質の調製及び蛍光標識は、任意の方法でなされてよい。例えば、DNA結合性タンパク質の調製した後、タンパク質中の特定の基を標的にしたケミカルラベリング法により、蛍光分子がタンパク質に付加されてよい(特定のアミノ酸配列を持つタンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作成し、そのアミノ酸配列の特徴を元に蛍光色素を付加してもよい。)。蛍光色素としては、この分野で通常使われる任意の蛍光色素、例えば、TAMRA(carboxymethylrhodamine)、TMR(tetramethylrhodamine)、Alexa647、Rhodamine Green、Alexa488などであってよいが、これらに限定されない。或いは、遺伝子組み換え技術を用いて蛍光発光するDNA結合性タンパク質(GFP融合タンパク質など)が調製されてもよい。
【0027】
第一のDNA分子1は、DNA結合性タンパク質と結合することがわかっている任意のDNAであってよいが、DNA結合性タンパク質と相互作用するプロモーター配列である場合には、好ましくは、転写制御が行われている遺伝子の近傍にある1kbp程度の断片が用いられてよい。かかる1kbpの範囲は、生物種によって大きく異なる。プロモーター配列は、ゲノムサイズが小さいシロイヌナズナなどの場合は、転写開始点から1kbp程度に上流に存在するが、ヒトやマウスなどの哺乳類のゲノム上では、遺伝子から20〜30kbp程度離れた位置に存在することもある。従って、DNA結合性タンパク質の種類に応じて、適切な範囲の1kbpのDNAが任意の方法で選択されることが好ましい。プロモーター配列は、どのような生物種のプロモーター配列を用いる場合でも、ゲノムDNAを鋳型としたPCRを用いて増幅したものが用いられてよい。また、DNA断片2〜5は、前記の第一のDNAを任意の方法で断片化したものであってよく、プロモーター配列を鋳型としたPCRを用いて増幅したものであってよい。
【0028】
かくして、上記の試料が準備された後、まず、第一のDNA1と蛍光標識されたDNA結合性タンパク質7とが混合され、第一の混合液が調製される(ステップ1)。上記から理解される如く、第一の混合液では、図2(B)に模式的に示されている如く、DNA結合性タンパク質7が第一のDNA1に結合することとなる。なお、第一の混合液の水溶液の条件及び温度は、DNA結合性タンパク質7がDNAに結合する適当な条件に設定される。かかる条件は、当業者に於いて任意に選択することができる。また、DNA結合性タンパク質7が第一のDNA1に十分に結合するよう、タンパク質とDNAの混合後、適当な時間インキュベーションされてよい。
【0029】
次いで、まず、第一の混合液の蛍光測定が行われる(ステップ2)。蛍光測定は、蛍光標識されたDNA結合性タンパク質7の運動の早さの変化を検出することのできる蛍光相関分光法、蛍光偏光解消法などを有利に用いることができる。
【0030】
蛍光相関分光法では、微小の蛍光観察領域をブラウン運動により通過する分子の移動(並進運動)の速さが観測される。分子の並進運動の速さは、測定された蛍光強度の時間を変数とした自己相関関数の形状に反映される(図2(E)参照)。分子の並進運動の速さの指標としては、測定開始時から自己相関関数の値が半分になるまでの時間の長さ(並進拡散時間)が用いられる。分子の移動は、分子の大きさが小さいほど、速くなるので、並進拡散時間が短くなる。本発明の場合、DNA結合性タンパク質7の結合するDNAが短いほど、DNA結合性タンパク質7の運動が速くなり、従って、並進拡散時間が短くなるので、並進拡散時間の変化からDNA結合性タンパク質7の運動の速さの変化、従って、DNA結合性タンパク質7の結合するDNAの長さの変化の有無を検出することができる。
【0031】
蛍光偏光解消法では、この分野に於いて知られている如く、分子の回転ブラウン運動(自転)の速さが観測される。分子の回転運動の速さは、測定された蛍光の縦偏光と横偏光の強度の割合又は偏光度に反映される。分子の回転は、分子の大きさが小さいほど、速くなるので、偏光度が小さくなる。本発明の場合、DNA結合性タンパク質7の結合するDNAが短いほど、DNA結合性タンパク質7の回転運動が速くなり、従って、偏光度が下がるので、偏光度の変化から、DNA結合性タンパク質7の運動の速さの変化、従って、DNA結合性タンパク質7の結合するDNAの長さの変化の有無を検出することができる。なお、蛍光偏光解消法による測定は、蛍光相関分光法と同一の光学系を用いた二次元蛍光強度分散分析法により行われてよい。
【0032】
第一の混合液の蛍光測定の後、第一の混合液へDNA断片2〜5が添加される。DNA断片の添加に際して、一つの態様としては、第一の混合液を添加されるべきDNA断片の種類の数の分だけ分注しておき、分注されたそれぞれに一種類のDNA断片が添加されてよい(ステップ3−4)。DNA断片を添加すると、結合部位を含まない断片が添加された混合液に於いては、図2(D)に示す如く、DNA結合性タンパク質7は、第一のDNA1に結合したままである。しかしながら、DNA結合性タンパク質7とDNAの結合反応は、可逆的であり、DNA結合性タンパク質7は、所定の結合定数にて、DNAに結合するので、結合部位を含む断片が添加された混合液に於いては、図2(C)に示す如く、DNA結合性タンパク質7と第一のDNA1との結合反応と、DNA結合性タンパク質7とDNA断片3との結合反応とが競合し、DNA結合性タンパク質7の一部がDNA断片3へ移動することとなる。かかるDNA結合性タンパク質7のDNA断片3への移動が多ければ多いほど、DNA結合性タンパク質7の運動の速さの変化は顕著に成るので、DNA断片の添加後、ほとんどのタンパク質がDNA断片へ移るように、DNA断片の量は、第一のDNA1の分子数より過剰に多いことが好ましい。
【0033】
かくして、DNA断片が添加された混合液の各々について、任意に適当な時間インキュベーションした後、前記と同様に蛍光測定が行われる(ステップ5)。上記から理解される如く、DNA断片が結合部位を含む場合には、DNA結合性タンパク質7の運動の速さが速くなり、このことは、蛍光相関分光法に於ける並進拡散時間が短くなり、或いは、蛍光偏光解消法に於ける偏光度が低減することにより検出することができる。例えば、蛍光相関分光法の場合、図2(E)に例示されている如く、第一のDNA1からDNA断片3へタンパク質が移動した図2(C)の混合液の自己相関関数は、混合液中のタンパク質7の運動の速さが速くなることで、図2(B)及び図2(D)の混合液の自己相関関数より速く減衰し、並進拡散時間が短くなる。かくして、ステップ2の並進拡散時間又は偏光度の値とステップ5の並進拡散時間又は偏光度の値とが有意に異なるか否かが判定され(ステップ6)、異なる場合には、その断片に結合部位が含まれており(ステップ7)、有意な差が認められない場合は、その断片に結合部位が含まれていないと判定される(ステップ8)。
【0034】
上記のステップ3−5に於いて、第一の混合液が分注されていたが、DNA断片を一種類ずつ添加する毎に蛍光測定を行うようにしてもよい。その場合、蛍光測定の並進拡散時間又は偏光度の値に有意な差を発生した際に、そのときに加えられたDNA断片に結合部位が含まれていると判定される。また、上記の一連の過程により、結合部位を含むDNA断片が特定された後、DNA断片を更に断片化して、上記の手順を実行すれば、更に詳細に結合部位を特定することができる(結合部位を絞り込むことができる。)。
【0035】
なお、上記に於いては、第一の混合液に第二のDNA、即ち、第一のDNAよりも短いDNA断片を加えて第二の混合液を調製したが、第一のDNAを含まない第二のDNAとタンパク質とを含む溶液を第二の混合液として、第一の混合液と第二の混合液との蛍光測定の結果を比較する場合でも原理的には、同様の結果が得られる。従って、そのような場合も本発明の範囲に属すると理解されるべきである。しかしながら、第一の混合液にDNA断片を混合して第二の混合液を調製する場合の方が、試料量が低減され、また、タンパク質又はDNA試料の個体差又は各調製ロットの差の観点から試料の信用度が高くなるので好ましいであろう。
【0036】
ところで、上記の方法に於いて、DNA断片の各々に、第一のDNAの不存在下で、直接にDNA結合性タンパク質7を与えた場合には、DNA断片に結合したDNA結合性タンパク質7と、フリーのDNA結合性タンパク質7との運動の速さの差により、結合部位を含む断片が特定できそうである。しかしながら、DNA断片が結合部位の長さと同等レベルの長さになると、通常、DNA断片に結合したDNA結合性タンパク質7とフリーのDNA結合性タンパク質7との運動の速さの差が蛍光測定では観測が困難となる。一方、本発明によれば、第一のDNAに結合したDNA結合性タンパク質7と、DNA断片に結合したDNA結合性タンパク質7との運動の速さの差を見ているので、DNA断片が結合部位の長さと同等レベルの長さまで落としても、蛍光測定により、DNA断片に結合部位があるかないかを特定することができる。
【0037】
更に、第二のDNAとして第一のDNAよりも長いDNAを採用してもよいことは、理解されるべきである。例えば、第一のDNAよりも長く、且、或る特定の領域のみ、第一のDNAと同じ塩基配列を持つDNAが調製され、第二の混合液の調製に用いられてよい。その場合、第二のDNAが結合部位をもっていれば、第二の混合液中のタンパク質の運動の速さは遅くなる。
【0038】
第二の実施形態
第二の実施形態では、概して述べれば、蛍光標識されたDNA結合性タンパク質と、そのDNA結合性タンパク質と結合することは分かっているが、DNA結合性タンパク質が具体的に結合する部位がどこに在るかが未知のDNA分子(第一のDNA)との混合液(第一の混合液)と、かかる混合液に、制限酵素を添加した混合液(第二の混合液)とが調製され、前記の第一の実施例と同様に、蛍光測定により第一及び第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動の速さの違いを観測する。この場合、第一及び第二の混合液の双方に於いて、DNA結合性タンパク質は、DNAと結合しているものと考えられるところ、第二の混合液では、もしDNA結合性タンパク質との結合部位を含むDNA分子が、制限酵素により切断されて断片化される場合(第二のDNAの生成)には、DNA結合性タンパク質の結合するDNA分子の平均の長さが短くなり、蛍光測定で観測される第二の混合液中のDNA結合性タンパク質の運動は、第一の混合液中の場合に比して速くなる。かくして、DNA結合性タンパク質との結合部位を含むDNAの塩基配列に制限酵素により切断される塩基配列が存在することが特定される。
【0039】
例えば、第一のDNAに複数種のDNA分子が含まれている場合、即ち、複数種のDNA分子のうちの少なくとも一つが前記DNA結合性タンパク質と結合することが既知であるがどのDNAに結合するかが未知であるDNA混合物に於いて、或る制限酵素を添加して、DNA結合性タンパク質の結合するDNA分子が切断されれば、そのことが蛍光測定で観測できる。かくして、上記の如き制限酵素によりDNAを処理した前後のDNA結合性タンパク質の運動の速さの変化を観測する手法によれば、複数種のDNA分子のうち、添加された制限酵素で切断される部位をもつDNA分子に、DNA結合性タンパク質との結合部位が存在することが特定できることとなる。また、その溶液に、更に別の制限酵素(第二の制限酵素)を添加して、蛍光測定をして、DNA結合性タンパク質の運動が速くなることが観測されれば、第二の制限酵素の添加直前の溶液中に存在するDNA又はDNAの断片(先に添加された制限酵素によるDNAの切断で生成された断片)のうち、第二の制限酵素により切断される塩基配列にDNA結合性タンパク質との結合部位が存在することが特定できることとなる。以上の如く、DNAと蛍光標識されたDNA結合性タンパク質との混合液に種々の制限酵素を順次加えていく毎に、蛍光測定により、DNA結合性タンパク質の結合するDNA分子が切断された否かを判定することを繰り返せば、DNA結合性タンパク質の結合する部位を含む領域を絞ることができることとなる。(なお、更に結合部位を絞るために、DNA結合性タンパク質との結合部位が存在することが特定されたDNAを第一のDNAとして、前記の第一の実施形態の方法が実施されてよいことは理解されるべきである。)
【0040】
上記の制限酵素を用いた手法は、次の例の如く実行されてよい。
【0041】
第一の例として、例えば、図3(A)に模式的に示されている如く、少なくとも2種類の第一の実施形態の第一のDNAと同様の、100bp以上(典型的には、1kbp程度)のプロモーター配列の一部であるDNAの混合物A(DNA8、9、10)が在り、その複数種のDNAのうちの少なくとも一つがDNA結合性タンパク質と結合することがわかっている場合を考える。なお、図3(A)では、三種類のDNA8、9、10が示されているが、混合物に含まれるDNAの種類は、いくつであってもよい。また、説明の目的でDNA8にタンパク質の結合部位11が存在するよう記載されているが、実際には、混合物に含まれるDNAのうちいずれの分子種に結合部位11が存在するかは、分かっていないものとする。
【0042】
上記のDNA混合物A中の結合部位11を含むDNAは、例えば、図4のフローチャートに記載の処理過程により特定される(蛍光標識されたタンパク質の調製、蛍光測定の方法等は、第一の実施形態の場合と同様である。)。図4を参照して、まず、DNA混合物Aに蛍光標識されたDNA結合性タンパク質12が混合される(ステップ11、図3(B))。次いで、タンパク質とDNAの混合液を任意にインキュベーションした後、混合液の蛍光測定を行い、タンパク質12の運動の速さを表す指標(並進拡散時間又は偏光度)を測定する(ステップ12)。しかる後に、DNA混合物Aに含まれるDNA分子のうちのいずれかを切断することが分かっている(又は切断すると予想される)制限酵素Zを、混合液に添加する(ステップ13)。制限酵素は、当業者に於いて任意に選択されてよい。次いで、混合液を任意にインキュベーションした後、混合液の蛍光測定を行い、タンパク質12の運動の速さを表す指標を測定する(ステップ14)。ここでもしタンパク質12の運動の速さを表す指標がステップ12で得られた指標から有意に変化した場合(並進拡散時間又は偏光度が低減した場合)、タンパク質12が結合したDNA分子が断片化され長さが短くなったことになるので、タンパク質の結合部位11が制限酵素Zで切断されるDNA分子に存在することが特定される(ステップ15,16)。他方、タンパク質12の運動の速さを表す指標に変化がない場合には、タンパク質の結合部位11は、制限酵素Zで切断されるDNAとは別のDNAに存在していることになるので(図3(C))、更に別の制限酵素Yが混合液に添加され(ステップ17)、任意にインキュベーションした後、混合液の蛍光測定が行われる(ステップ18)。ステップ18でのタンパク質12の運動の速さを表す指標がステップ12で得られた指標から有意に変化した場合、タンパク質の結合部位11が制限酵素Yで切断されるDNA分子に存在することが特定される(ステップ19,20)。他方、タンパク質12の運動の速さを表す指標に変化がない場合(図3(D))には、更に別の制限酵素が混合液に添加され(ステップ21)、任意にインキュベーションした後、混合液の蛍光測定が行われる(ステップ22)。以上の如く、タンパク質12の運動の速さを表す指標に変化がない場合には、次々に制限酵素の添加及び蛍光測定を繰り返して、タンパク質12の運動の速さを表す指標の変化を観測し、最終的に指標の変化が検出された際(ステップ23、図3(E))、タンパク質の結合部位11がその直前に添加された制限酵素で切断されるDNA(図3の例では、DNA8)上に存在することが特定できることとなる。もし変化が見られなければ、更に別の制限酵素が加えられ、上記の操作が実行されてよい。
【0043】
制限酵素を用いる場合の第二の例として、図5に例示されている如く、少なくとも2種類の第一の実施形態の第一のDNAと同様の、100bp以上(典型的には、1kbp程度)のプロモーター配列の一部であるDNAの混合物B(DNA13、14)が在り、その複数種のDNAのうちの少なくとも一つがDNA結合性タンパク質と結合することがわかっている場合を考える。また、DNA混合物に含まれるDNA分子の各々について、各DNAを切断する制限酵素(R、S、T、U、V、W)及びその切断部位がわかっているものとする。なお、図5(A)では、2種類のDNA13、14が示されているが、混合物に含まれるDNAの種類は、いくつであってもよい。また、同図に於いて、各DNAを切断する制限酵素及びその切断部位(認識部位)は、S、R、T、U、V、Wとなっているが、各DNAを切断する制限酵素の数と部位の位置は、例示であって、これらに限定するものではない。更に、説明の目的でDNA13上の制限酵素T及びUの切断部位の間にタンパク質の結合部位11が存在するよう記載されているが、実際には、混合物に含まれるDNAのうちいずれの分子種のどこに結合部位11が存在するかは、分かっていないものとする。
【0044】
上記のDNA混合物B中の結合部位11を含むDNAの領域は、例えば、図6のフローチャートに記載の処理過程により特定される(なお、蛍光標識されたタンパク質の調製、蛍光測定の方法等は、第一の実施形態の場合と同様である。)。図6を参照して、まず、前記の第一の例と同様に、DNA混合物Bに蛍光標識されたDNA結合性タンパク質12が混合され(ステップ31、図5(B))、任意にインキュベーションした後、混合液の蛍光測定を行い、タンパク質12の運動の速さを表す指標を測定する(ステップ32)。しかる後に、混合液を二つに(又はDNA混合物Bに含まれるDNAの分子種の数に)分注し(ステップ33)、分注されたそれぞれの混合液に、別々の制限酵素、例えば、制限酵素T、W、を添加する(ステップ34)。ここで添加される制限酵素は、互いに別のDNA分子を切断するものである。従って、それぞれの分注の混合液について蛍光測定を行うと(ステップ35)、いずれか一つの混合液に於いて、タンパク質12が結合するDNA分子が制限酵素により切断されているはずであるから(図5(C)、(D))、かかるタンパク質12の運動の速さを表す指標に変化を示す溶液が決定される(ステップ36,図5の例では、DNA13が制限酵素Tにより切断されている。)。かくして、タンパク質12の運動の速さを表す指標の変化が在った溶液(図5(D))に添加された制限酵素で切断されるDNAに、タンパク質の結合部位が存在することが特定される。なお、図では、結合部位11が、DNA13が断片化されて出来たDNA断片15上に在るように示されているが、この時点では、断片15、16のいずれに存在するかは分からない。
【0045】
次いで、タンパク質12の運動の速さを表す指標の変化が在った溶液を、更に二つに分注し(ステップ36)、結合部位11が存在すると特定されたDNAを更に切断する二つの別々の制限酵素(U,V)が、分注された溶液に添加される(ステップ37)。ここで添加される二つの制限酵素U,Vは、図5(E)、(F)に示されている如く、前の過程で結合部位11を有するDNAを切断した制限酵素の切断部位を挟む別々の側を切断するものであることが好ましい。これにより、DNA断片15は、制限酵素Uにより、DNA断片16は、制限酵素Vにより、それぞれ切断され、その後、蛍光測定が為されると(ステップ38)、結合部位11を有するDNAが切断された方の溶液に於いて、タンパク質12の運動の速さを表す指標の変化が観測され、かくして、結合部位11がDNA断片15、16のいずれに存在するかが特定できることとなる。以上の操作を繰り返していけば、初めに準備されたDNA分子のどの領域に結合領域11が存在するかを絞り込むことができることとなる。
【0046】
なお、上記の図3〜6で説明した例は、制限酵素を用いて、タンパク質の結合部位を絞り込んでいく例であって、当業者に於いて、上記の例を参考にして、制限酵素の添加と蛍光測定を任意に組み合わせて、或るDNA上に於けるタンパク質の結合部位を絞り込んでいくことが可能であろう。例えば、上記の例では、複数の種類のDNAを含むDNA混合物から処理が開始されているが、1種類のDNAを順次制限酵素で切断しつつ、蛍光測定を行って、結合部位の位置を絞り込んでいってもよい。また、図3及び4の過程を実行した後に、図5及び6の過程を実行してもよい。
【0047】
ところで、前記の第一及び第二の実施形態に於いて、DNA結合性タンパク質が結合する第一のDNA又はDNA混合物の選択は、既に知られた知見又は任意の別の方法に於ける結果に基づいて為されてよいが、上記と同様の蛍光測定によるタンパク質の運動の速さの変化の観測に基づいて行われてもよい。溶液中のタンパク質のブラウン運動の速さは、タンパク質が検査されるべきDNAに結合する場合には、フリーの状態にある場合よりも遅くなる。従って、DNAとタンパク質を含む溶液とDNAが無い状態でのタンパク質を含む溶液の蛍光測定をすれば、タンパク質とDNAの結合の有無は確認できる。
【0048】
上記に説明した本発明の有効性を検証するために、以下の実験を行った。なお、以下の実施例は、本発明の有効性を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
【実施例1】
【0049】
競合反応による結合配列を含む領域の特定(第一の実施形態)
図1に記載の処理過程により、DNA結合性タンパク質の一種であるλ−cro(ラムダクロ)のλDNA上の結合配列を含む領域が検出されることを以下の手順により確認した。
【0050】
まず、本発明の方法の実施に先立って、タンパク質λ-croを、ロシュ・ダイアグノスティック社製無細胞タンパク質合成キット(RTS 100 E.coli HYキット製品番号3 186 148)を用いて調製した。また、調製されたλ−croは、インビトロピンポイントラベリングキット543(オリンパス社)を用いて、蛍光分子TAMRAを付加することにより、蛍光標識した。1kbpのλDNA断片は、λDNAを鋳型として結合配列
taaatctatcaccgcaagggataaatatc
を含む領域1kbpをPCR法で増幅することにより調製した。また、1kbpのλDNA断片の更に短い断片として、以下の4種類の塩基配列とその相補鎖を有する29bpの二本鎖DNA断片を調製した。
断片a taaatctatcaccgcaagggataaatatc
断片b gcaagcaatgcggcgttataagcatttaa
断片c ttcttttttttcataaattgctttaaggcg
断片d gtgcgtgttgactattttacctctggcgg
なお、断片aが、タンパク質λ-croの結合配列である。
【0051】
本発明の方法の実施に於いて、まず、蛍光標識されたタンパク質TAMRA−λ-croと1kbpのλDNA断片を含む混合液を以下の溶液を混合することより調製した(ステップ1)。
10nM TAMRA−λ-cro 2μl、
2×(PBS+Tween)バッファ 15μl、
400ng/μl λDNA1kbp断片 1μl、
純水 12μl
総量は、30μlである。2×(PBS+Tween)バッファは、200μlの10倍濃度のリン酸緩衝溶液のストック溶液、100μlの1% Tween20、700μlの純水を混合して調製した。混合液に於ける塩濃度は、137mM NaCl、8.1mM NaHPO、2.7mM KCl、1.5mM KHPO、0.05% Tween20 (pH7.4)である。
【0052】
かくして、調製された混合液の蛍光強度を、共焦点顕微鏡の光学系を備えた1分子蛍光分析システム MF20(オリンパス)を用いて蛍光相関分光法により計測した(ステップ2)。また、対照試料として、上記の混合液のうち、λDNA断片を含まない溶液(TAMRA−λ-croのみ)を調製し、同様に計測した。一つの試料について、1回15秒間の蛍光測定を5回行い、タンパク質の運動の速さの指標として、並進拡散時間を算出した。その結果は、TAMRA−λ-croのみの対照試料の並進拡散時間は、374(±12.4)μ秒であったのに対し、TAMRA−λ-croと1kbpλDNA断片を含む混合液の並進拡散時間は、1107.3(±106.9)μ秒であった。従って、TAMRA−λ-croと1kbpλDNA断片とを混合すると、TAMRA−λ-croの運動の速さが顕著に低減することが確認された。これは、TAMRA−λ-croが1kbpλDNA断片に結合することで、TAMRA−λ-croの運動が遅くなったことを示している。
【0053】
次いで、上記のTAMRA−λ-croと1kbpのλDNA断片を含む溶液を4つに分注し(ステップ3)、それぞれに、前記のDNA断片a−dのうちのいずれか一つを、各々最終濃度が53.7nMとなるように添加し(ステップ4)、適当な時間インキュベーションした後、各々の蛍光強度を、上記と同様に蛍光相関分光法により計測した(ステップ5)。結果は、以下の通りであった。
添加されたDNA断片 並進拡散時間(±標準偏差)(単位は、μ秒)
追加なし 1094.4(±28.9)
断片a 545.8(±25.8)
断片b 1074.7(±88.6)
断片c 1127.3(±56.1)
断片d 1037.3(±96.9)
上記の並進拡散時間の結果を参照して、断片aを添加すると、TAMRA−λ-croの運動の速さが顕著に速くなったことが判定され、断片aが結合配列を含んでいることを検出することができた。かくして、図1の手順によれば、DNA結合性タンパク質が結合するDNAに於ける結合配列を含む領域又は結合配列の部位を検出できることが示された。
【実施例2】
【0054】
制限酵素を用いた結合配列を含む領域の特定(第二の実施形態)
第二の実施形態のうち、図4に記載の処理過程により、複数種のDNA分子を含むDNA混合物から、DNA結合性タンパク質λ−croの結合配列を含むDNA分子が検出されることを以下の手順により確認した。
【0055】
蛍光標識されたタンパク質λ-croと1kbpのλDNA断片は、実施例1と同様に調整した。また、DNA混合物を調製すべく、1kbpのλDNA断片の他に、human pS2遺伝子プロモーター領域中の1kbp断片と、human cathepsin D遺伝子プロモーター領域中の1kbp断片とを、ヒトゲノムDNAを鋳型としてPCR法で増幅することによって調製した。
【0056】
本発明の方法の実施に於いて、まず、蛍光標識されたタンパク質TAMRA−λ-croと複数の1kbpのDNA(λDNAの1kbp断片、human pS2遺伝子プロモーターの1kbp断片、human cathepsin D遺伝子プロモーターの1kbp断片を含む混合液を以下の溶液を混合することより調製した(ステップ11)。
10nM TAMRA−λ-cro 2μl、
500mM Tris−HClバッファ(pH7.5) 3μl、
300mM MgCl 1μl、
1M NaCl 3μl、
30mM DTT 1μl、
400ng/μl λDNA1kbp断片 1μl、
400ng/μl human pS2DNA1kbp断片 1μl、
400ng/μl human cathepsin DDNA1kbp断片 1μl、
純水 17μl
総量は、30μlである。
【0057】
かくして、調製された混合液の蛍光強度を、1分子蛍光分析システム MF20(オリンパス)を用いて二次元蛍光強度分散分析法による蛍光偏光解消法により計測した(ステップ12)。また、実施例1と同様に、対照試料として、上記の混合液のうち、DNA断片を含まない溶液(TAMRA−λ-croのみ)を調製し、同様に計測した。一つの試料について、1回15秒間の蛍光測定を5回行い、タンパク質の運動の速さの指標として、mP値(縦偏光と横偏光の強度の差分を縦偏光と横偏光の和で割った値の1000倍に相当する)を算出した。その結果、TAMRA−λ-croのみの対照試料のmP値は、203(±1.2)であったのに対し、TAMRA−λ-croとDNA断片を含む混合液のmP値は、267(±0.8)であった。従って、TAMRA−λ-croとDNA断片とを混合すると、TAMRA−λ-croの運動の速さが顕著に低減することが確認された。これは、TAMRA−λ-croがDNA混合物に含有されるいずれかのDNAに結合したことで(本実験では、1kbpλDNA断片に結合することは予め分かっているが)、TAMRA−λ-croの運動が遅くなったことを示している。
【0058】
次いで、上記のTAMRA−λ-croとDNA混合物を含む溶液に、DNA混合物中のいずれかのDNAを切断する制限酵素を添加し、制限酵素による反応が十分に進行するよう室温にて30分静置し、しかる後に、上記と同様に蛍光測定を行い、mP値を算出した。本実験に於いては、本発明の有効性を示すための実験のため、DNA混合物中に含まれているDNAの分子種が分かっているので、制限酵素として、human cathepsin DのDNA1kbp断片を特異的に切断する制限酵素NotI、human pS2のDNA1kbp断片を特異的に切断する制限酵素EcoRI及びλDNA1kbp断片を特異的に切断する制限酵素BglIIを順々に添加し、その都度、蛍光測定を行った。測定により得られたmP値は、以下の通りである。
偏光度(±標準偏差)
制限酵素添加前 268(±1.5)
NotI添加後 267(±0.3)
EcoRI添加後 268(±1.3)
BglII添加後 230(±0.3)
【0059】
上記の結果から理解される如く、mP値は、NotI又はEcoRIを添加しても実質的に変化せず、BglIIを添加することで、初めて、変化することを示している。即ち、上記の結果は、λDNA1kbp断片を特異的に切断するBglIIを添加することで、タンパク質λ−croが結合するDNA、即ち、λDNA1kbp断片が切断され、これにより、λ−croの運動の速さが変化したことを示している。かくして、本発明の第二の実施形態に於ける制限酵素を用いた手法によれば、DNA結合性タンパク質の結合部位を含むDNA分子又は断片を特定することができることが示された。
【0060】
なお、上記の実施例は、本発明の有効性を検証するために、結合部位が既知のDNAとDNA結合性タンパク質を試料としているが、結合部位が未知のDNAとDNA結合性タンパク質を用いても、ほぼ同様に上記の処理過程が実施され、結合配列又は結合配列を含む領域若しくは塩基配列を検出又は同定することができることは理解されるべきことである。
【0061】
また、上記の二つの実施例を参照して、理解されるべきことは、本発明の方法に於いては、実施例に示したようにタンパク質を蛍光標識することで、未標識のオリゴDNAを用いて相互作用を調べることができる点である。未標識のオリゴDNAを使った場合、蛍光標識DNAを使う実験系に比べ大幅にコストを下げることができる。更には蛍光標識がタンパク質にあるため、任意の長さのDNAにて相互作用の検出を行なうことができる。(蛍光標識されたDNAを使うとすれば、予め、被検DNAの種類の数だけ、蛍光標識されたDNAを準備する必要があるかもしれない。)また、試験管内の反応であること、或いは、同一の反応液に酵素を添加していくことで最小の反応液で実験を行うことができ、実験材料と手間を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の方法の好ましい第一の実施形態に於ける処理過程をフローチャートの形式にて示したものである。
【図2】図2は、図1の実施形態の処理過程中に於けるDNA分子の構造の変化を模式的に表したものである。(E)は、(B)、(C)、(D)の状態の蛍光相関分光法に於ける蛍光強度の自己相関関数の時間変化の例を示す。
【図3】図3は、本発明の方法の好ましい第二の実施形態の複数種のDNAを含むDNA混合物からDNA結合性タンパク質の結合部位を含むDNA分子を検出する過程に於けるDNA分子の構造の変化を模式的に表したものである。
【図4】図4は、図3に例示されるDNA結合性タンパク質の結合部位を含むDNA分子を検出する処理過程をフローチャートの形式にて示したものである。
【図5】図5は、本発明の方法の好ましい第二の実施形態のDNA結合性タンパク質の結合部位を絞り込む過程に於けるDNA分子の構造の変化を模式的に表したものである。
【図6】図6は、図5の例示されるDNA結合性タンパク質の結合部位を絞り込む処理過程をフローチャートの形式にて示したものである。
【符号の説明】
【0063】
1、8−10、13、14…DNA
2−5…DNA断片
6、11…結合部位
7、12…DNA結合性タンパク質
15、16…DNA断片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA結合性タンパク質と結合するDNAの結合部位を含む領域を検出する方法であって、
蛍光標識したDNA結合性タンパク質と該DNA結合性タンパク質が結合することが既知である第一のDNAとを含む第一の混合液を調製する過程と、
前記第一のDNA上の結合配列を含んでいるか否かが検査される第二のDNAと前記蛍光標識したDNA結合性タンパク質とを含む第二の混合液を調製する過程と、
前記第一及び第二の混合液の蛍光強度を測定する過程と、
前記第一及び第二の混合液の蛍光強度に基づいて、前記第一の混合液中の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さと前記第二の混合液中の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さとに差があるか否かを判定する過程とを含み、
前記DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があるか否かに基づいて、前記第一のDNAに於ける結合部位を含む領域を検出することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記第二のDNAが前記第一のDNAの塩基配列の少なくとも一部と同一の塩基配列を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、前記DNA結合性タンパク質の運動の速さが前記DNA結合性タンパク質の結合するDNA分子の長さの関数であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、前記第二のDNAが前記第一のDNAより短いDNA断片であり、前記第二の混合液が前記第一の混合液に前記DNA断片を加えることにより調製され、前記DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があると判定された場合に、前記DNA断片にある塩基配列が前記DNA結合性タンパク質の結合部位を含んでいると判定することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4の方法であって、複数の種類の前記第一のDNAより短いDNA断片が調製され、前記複数の種類のDNA断片が各々前記第一の混合液へ加えられて複数の第二の混合液が調製されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4の方法であって、前記DNA断片が、前記第一のDNAの一部分と同一の塩基配列から成ることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、前記第二の混合液が前記第一の混合液へ第一の制限酵素を加えて調製され、前記DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があると判定された場合に、前記制限酵素で切断される第一のDNAに前記DNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていると判定することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1の方法であって、前記第一のDNAが複数の種類のDNAから成り、そのうちの少なくとも一つが前記DNA結合性タンパク質と結合することが既知であるがどのDNAに結合するかが未知であるDNA混合物であり、前記第二の混合液が前記第一の混合液へ第一の制限酵素を加えて調製され、前記第二のDNAが前記DNA混合物の一部を前記第一の制限酵素により断片化してなるDNA断片を含み、前記第一及び第二の混合液中の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があった場合に、前記第一のDNAのうち前記第一の制限酵素により切断されたDNAに前記DNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていると判定することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8の方法であって、前記第一のDNAに含まれる前記複数の種類のDNAが互いに異なる制限酵素により切断されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項7乃至9の方法であって、更に、前記第一又は第二の混合液に前記第一の制限酵素とは異なる第二の制限酵素を加えて第三の混合液を調製する過程と、前記第三の混合液の蛍光強度を測定する過程とを含み、前記第一又は第二及び第三の混合液の蛍光強度に基づいて、前記第一又は第二の混合液中の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さと前記第三の混合液中の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さとに差があるか否かを判定する過程とを含み、前記第一又は第二及び第三の混合液中の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があった場合に、前記第一又は第二のDNAのうち前記第二の制限酵素により切断されたDNAに前記DNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていると判定することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項7乃至9の方法であって、更に、それまで調製された混合液に更にそれまで追加された制限酵素とは別の制限酵素を加えて新たな混合液を調製する過程と、前記新たな混合液の蛍光強度を測定する過程と、前記それまで調製された混合液の蛍光強度と前記新たな混合液の蛍光強度とに基づいて、前記それまで調製された混合液及び前記新たな混合液中の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さに差があった場合に、前記それまで調製された混合液中に含まれるDNAのうち前記別の制限酵素により切断されたDNAに前記DNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていると判定する過程を少なくとも一回反復することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1の方法であって、前記第一のDNAが複数の種類のDNAから成り、そのうちの少なくとも一つが前記DNA結合性タンパク質と結合することが既知であるがどのDNAに結合するかが未知であるDNA混合物であり、複数の第二の混合液が、複数の制限酵素を各々別々に前記第一の混合液へ与えることにより調製され、前記複数の第二の混合液の各々の第二のDNAが、対応する制限酵素により前記DNA混合物の一部を断片化してなるDNA断片を含み、前記第一の混合液の前記DNA結合性タンパク質の運動の速さと前記複数の第二の混合液のいずれかのうちの前記DNA結合性タンパク質の運動の速さとに差があった場合に、前記第一のDNAのうち、前記DNA結合性タンパク質の運動の速さに差を生じた第二の混合液に加えられた制限酵素により切断されたDNAに前記DNA結合性タンパク質の結合部位が含まれていると判定することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1乃至12の方法であって、前記混合液の蛍光強度の測定が蛍光相関分光法により行われることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1乃至12の方法であって、前記混合液の蛍光強度の測定が蛍光偏光解消法により行われることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1乃至12の方法であって、前記混合液の蛍光強度の測定が二次元蛍光強度分布分析法による蛍光偏光解消法により行われることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−278866(P2009−278866A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238819(P2006−238819)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】