説明

DNA合成酵素の阻害剤

【課題】製造が容易で、副作用の少ないDNA合成酵素阻害剤の提供。
【解決手段】アシル化ステロール配糖体を有効成分とするDNA合成酵素阻害剤。ステロール骨格としては、β−シトステロールが好ましく、配糖体として結合する糖としてはD−グルコースが好ましく、アシル基としてはリノール酸であることが好ましい。具体的化合物としてβ−シトステリル(6’−O−リノレオイル)−グルコシドが例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA合成酵素阻害作用を有する化合物とその利用に関する。この化合物は、DNA合成酵素阻害剤として例えば研究用試薬などに利用できるほか、細胞増殖抑制剤、抗癌剤、又はこれらのリード化合物として利用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの染色体には少なくとも15種類のDNA合成酵素がコードされている(非特許文献1、2)。真核生物の細胞には3種類の複製型(α、δ、及びε)、ミトコンドリア型γ、及び、少なくとも7種類の非複製型(β、ζ、η、θ、ι、κ、λ、μ、ν、terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)、及びREV1)が存在する(非特許文献1〜3)。塩基配列の相同性によって、真核生物のDNA合成酵素はA、B、X及びYの4つのファミリーに分類される(非特許文献4)。
【0003】
ファミリーA(A族)には、ミトコンドリア型のDNA複製酵素γ及びθが存在する。ファミリーB(B族)には、3種の複製型DNA合成酵素(α、δ、及びε)とDNA合成酵素ζが含まれる。ファミリーX(X族)には、DNA合成酵素β、λ、μ及びterminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)が含まれる。ファミリーY(Y族)には、DNA合成酵素η、ι、κ、及びREV1が含まれる。Y族のDNA合成酵素は、DNA損傷部を無視してDNA複製を行うことが知られており(非特許文献5)、このため遺伝子に突然変異が蓄積する原因となり、細胞をがん化させる原因の一つと考えられる。
【0004】
このようにDNA合成酵素は細胞の増殖等に関与することから、その酵素活性を阻害するDNA合成酵素阻害剤は、例えば、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示すことが考えられる。このため、DNA合成酵素阻害剤を用いた癌の予防、治療に効果のある医薬品の開発が期待されている。
【0005】
しかしながら、DNA合成酵素には多くの種類があり、生体の維持においてそれぞれ重要な役割を果たしている。このため、多くの種類のDNA合成酵素を非特異的に阻害すると生体の維持に大きな影響を及ぼし、最悪の場合死に至る可能性がある。
【0006】
例えば、DNA合成酵素阻害活性を有する糖脂質が、制癌剤、HIV由来逆転写酵素阻害剤、免疫抑制剤として有用であることが報告されている(特許文献1、2)。現在、DNA合成酵素阻害剤として、ジデオキシTTP(ddTTP)、N-メチルマレイミド、ブチルフェニル- 2'-デオキシグアノシン-5'-三リン酸(dGTP)などが知られている(非特許文献6)。これらは、製造が容易でないこと、さらに、抗癌剤は、一般的に強い副作用を有することが問題となっている。
【0007】
一方、Y族のDNA合成酵素阻害剤は抗がん剤として機能すると考えられている。本願発明者らは、Y族のDNA合成酵素阻害剤がヒトがん細胞増殖抑制活性を示し、さらにがん細胞に紫外線を照射すると増殖抑制活性が増強されることを報告している(非特許文献7)。
【0008】
これは、紫外線によって傷ついたDNAを修復するY族のDNAポリメラーゼの活性を阻害することでDNA修復能が失われて、がん細胞が死んでしまうためであると考えられる。従って、Y族のDNAポリメラーゼ阻害剤は、紫外線と併用することでさらに有用な抗がん剤になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−106395
【特許文献2】特開平2000−143516
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Hubscher, U., Maga, G. & Spadari, S. Eukaryotic DNA polymerases. Annu. Rev. Biochem. 71, 133-163 (2002).
【非特許文献2】Bebenek, K.; Kunkel, T.A. DNA Repair and Replication; Advances in Protein Chem. (Yang, W. ed.) Vol. 69, Elsevier, San Diego, USA, pp.137-165 (2004)
【非特許文献3】Takata, K., Shimizu, T., Iwai, S. & Wood, R. D. Human DNA polymerase N (POLN) is a low fidelity enzyme capable of error-free bypass of 5S-thymine glycol. J. Biol. Chem. 281, 23445-23455 (2006)
【非特許文献4】Friedberg, E. C., Feaver, W. J. & Gerlach, V. L. The many faces of DNA polymerases: strategies for mutagenesis and for mutational avoidance. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 5681-5683 (2000)
【非特許文献5】DePamphilis, M.L. DNA replication in eukaryotic cells Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, USA (1996).
【非特許文献6】Annual Review of Biochemistry, 2002, 71, 133-163頁
【非特許文献7】Mar. Drugs 2009, 7, 624-639; doi:10.3390/md7040624
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、従来のDNA合成酵素阻害剤の上記の問題点に鑑みて、製造が容易で、副作用の少ないDNA合成酵素阻害剤を提供し、さらに、従来の治療薬の上記問題点を解消し、副作用の少ない、がん抑制剤を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために、検討した結果、アシル化ステロール配糖体がDNA代謝系酵素のうちDNA合成酵素特にY族のDNA合成酵素を選択的に阻害することを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、アシル化ステロール配糖体を有効成分とするDNA合成酵素阻害剤を提供する。
【0014】
本発明のアシル化ステロール配糖体のステロール骨格は、β−シトステロールであることが好ましい。
【0015】
また、本発明のアシル化ステロール配糖体の結合する糖は、D−グルコースであることが好ましい。
【0016】
また、本発明のアシル化ステロール配糖体のアシル基は、リノール酸であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明のアシル化ステロール配糖体は、β−シトステリル(6’−O−リノレオイル)−グルコシドであることが最も好ましい。
【0018】
本発明のDNA合成酵素阻害剤は、特にY族のDNA合成酵素に有効である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明は、アシル化ステロール配糖体がDNA合成酵素阻害作用を有することに関するものであり、DNA合成酵素阻害剤として、生化学試薬として、さらには炎症および細胞増殖の抑制剤として医薬品等へ利用できるほか種々の有用性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の具体的態様、技術的範囲等について詳しく説明する。
【0021】
DNA合成酵素阻害剤は、DNA合成酵素が細胞の増殖、分裂および分化に関与していることから、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示すことが考えられる。従って、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、癌の予防・治療に効果のある食品や医薬品等となり得る。
【0022】
また、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、特にY族のDNA合成酵素に有効であることから、抗がん剤として用いることも可能である。
【0023】
このように、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、DNA合成酵素選択的阻害剤としての利用に止まらず、抗癌剤として医薬品等への応用が可能であり、その薬理上許容される塩についても同様に医薬品等への応用が可能である。
【0024】
本発明における「その薬理上許容される塩」としては、フッ化水素酸塩、塩酸塩などのハロゲン化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、スルホン酸塩、有機酸塩、及び、アミノ酸塩が挙げられ、好適には塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩を挙げることができる。
【0025】
本発明の各化合物、及びその薬理上許容される塩は、植物などから単離・精製した天然物であってもよいし、公知の合成方法により合成したものであってもよい。
【0026】
本発明の医薬品への利用には、本発明の化合物を医薬品開発過程におけるリード化合物として利用することも含まれる。なお、本発明の化合物を体内投与する際は経口投与よりも非経口投与が好ましく、またリポソームなどの運搬体に封入して投与することが好ましい。このとき癌細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位(病変部位)に本発明の化合物を効率よく運ぶことができ効果的である。
【0027】
また本発明の化合物は、医薬品への利用以外に、飲食品へ添加・配合することにより抗癌効果あるいは抗発癌効果をもった健康食品として利用することも可能である。
【0028】
次に、本発明の化合物を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。本発明の化合物を有効成分とする抗癌剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられ、好適には非経口剤を挙げることができる。
【0029】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の化合物の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0030】
ここに、結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例として挙げることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例として挙げることができる。また、本発明の化合物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0031】
非経口剤として本発明の所望の効果を発現せしめるには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射も有効であると考えられる。この非経口投与剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
【0032】
本発明の他の組成物の好適な態様は食用組成物である。即ち、本発明の化合物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0033】
なお、ヒトと他の哺乳類のDNA合成酵素の構造は殆ど同じであるため、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、ヒト以外の哺乳類由来のDNA合成酵素阻害剤としても利用可能である。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(試薬)
β−シトステロール、リノール酸、グルコース、及びDNAプライマー(oligo(dT)18)はシグマアルドリッチ社から購入した。
化学合成DNAテンプレート(poly(dA), and nucleotides, such as [3H]-deoxythymidine 5’-triphosphate (dTTP) (43 Ci/mmol)はGEヘルスケアバイオサイエンスから購入した。その他の試薬は市販の高純度品を購入して使用した。
(DNA合成酵素)
DNA合成酵素α
仔牛胸腺からTamaiらの方法により調製した(Tamai, K.; Kojima, K.; Hanaichi, T.; Masaki, S.; Suzuki, M.; Umekawa, H.; Yoshida, S. Structural study of immunoaffinity-purified DNA polymerase α-DNA primase complex from calf thymus. Biochim. Biophys. Acta 1988, 950, 263-273.)。
組み換え型のラットDNA合成酵素β
Dateらの方法に従い大腸菌JMpβ5から精製して調製した(Date, T.; Yamaguchi, M.; Hirose, F.; Nishimoto, Y.; Tanihara, K.; Matsukage, A. Expression of active rat DNA polymerase β in Escherichia coli. Biochemistry 1988, 27, 2983-2990.)。
ヒトDNA合成酵素γ
バキュロウィルスにて発現させ(Life Technologies, MD, USA)精製して使用した(Invitrogen Japan, Tokyo Japan)(Umeda, S.; Muta, T.; Ohsato, T.; Takamatsu, C.; Hamasaki, N.; Kang, D. The D-loop structure of human mtDNA is destabilized directly by 1-methyl-4-phenylpyridinium ion (MPP+), a parkinsonism-causing toxin. Eur. J. Biochem. 2000, 267, 200-206.)。
ヒトDNA合成酵素δ及びε
ヒト末梢血由来の株化細胞Molt-4からアフィニティーカラムクロマトグラフィーにより調製した(Oshige, M.; Takeuchi, R.; Ruike, R.; Kuroda, K.; Sakaguchi, K. Subunit protein-affinity isolation of Drosophila DNA polymerase catalytic subunit. Protein Expr. Purif. 2004, 35, 248-256.)。
切断型のヒトDNA合成酵素polη
Kusumotoらの方法によって調製した(Kusumoto, R.; Masutani, C.; Shimmyo, S.; Iwai, S.; Hanaoka, F. DNA binding properties of human DNA polymerase η: implications for fidelity and polymerase switching of translesion synthesis. Genes Cells 2004, 9, 1139-1150.)。
組換え型のマウスDNA合成酵素ι
既出の方法によって調製した(Masutani et al., in preparation)。
切断型のDNA合成酵素κ
Ohashiらの方法により調製した(Ohashi, E.; Murakumo, Y.; Kanjo, N.; Akagi, J.; Masutani, C.; Hanaoka, F.; Ohmori, H. Interaction of hREV1 with three human Y-family DNA polymerases. Genes Cells 2004, 9, 523-531.)。
組換え型のヒトDNA合成酵素λ
Shimazakiらの方法により調製した(Shimazaki, N.; Yoshida, K.; Kobayashi, T.; Toji, S.; Tamai, T.; Koiwai, O. Over-expression of human DNA polymerase λ in E. coli and characterization of the recombinant enzyme. Genes Cells 2000, 7, 639-651.)。
魚のDNA合成酵素δ
サクラマス(Oncorhynchus masou)の精巣からYamaguchiらの方法により調製した(Yamaguchi, T.; Saneyoshi, M.; Takahashi, H.; Hirokawa, S.; Amano, R.; Liu, X.; Inomata, M.; Maruyama, T. Synthetic Nucleoside and Nucleotides. 43. Inhibition of vertebrate telomerases by carbocyclic oxetanocin G (C.OXT-G) triphosphate analogues and influence of C.OXT-G treatment on telomere length in human HL60 cells. Nucleos. Nucleot. Nucleic Acids 2006, 25, 539-551.)。
ショウジョウバエのDNA合成酵素α、δ及びε
ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster )の初期胚からAoyagiらの方法により調製した(Aoyagi, N.; Matsuoka, S.; Furunobu, A.; Matsukage, A.; Sakaguchi, K. Drosophila DNA polymerase δ. Purification and characterization. J. Biol. Chem. 1994, 269, 6045-6050./Aoyagi, N.; Oshige, M.; Hirose, F.; Kuroda, K.; Matsukage, A.; Sakaguchi, K. DNA polymerase ε from Drosophila melanogaster. Biochem. Biophys. Res. Commun. 1997, 230, 297-301.)。
高等植物のDNA合成酵素α
Sakaguchiらの方法によりカリフラワーの花序から調製した(Sakaguchi, K.; Hotta, Y.; Stern, H. Chromatin-associated DNA polymerase activity in meiotic cells of lily and mouse. Cell Struct. Funct. 1980, 5, 323-334.)。
仔ウシ胸腺のTdT及びウシすい臓デオキシリボヌクレアーゼI(DNase I)
ストラタジーン社のクローニングシステム(La Jolla, CA, USA)を用いて調製した。
大腸菌由来のDNA合成酵素Iのクレノーフラグメント
Worthington Biochemical Corp. (Freehold, NJ, USA)から購入した。
T4合成酵素、 Taq 合成酵素、T7 RNA 合成酵素およびT4 ポリヌクレオチドキナーゼ
Takara Bio (Tokyo, Japan)から購入した。
【0036】
(アシル化ステロール配糖体の単離)
大豆(Glycine max L.)にn-ヘキサンを加えてn-ヘキサン抽出物を得た。n-ヘキサンを留去し、大豆粗原油を得た。大豆粗原油にクロロホルムを加え、クロロホルム抽出物を得た。クロロホルム抽出物からクロロホルムを留去したもの50gにn-ヘキサン(2L)と水(2L)を加え、pHを7に調整した後、有機相を回収し溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、クロロホルム:メタノール(v/v 10:1)で溶出したフラクションをさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。n-ヘキサン:アセトン(v/v 3:2)で溶出する画分を集め、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。ベンゼン:メタノール(v/v 10:1)で得られた画分をセファデックスLH-20カラムクロマトグラフィーに供し、クロロホルム:メタノール(v/v 1:1)で溶出する画分を得た。得られた画分から溶媒を留去し黄色ガム状の物質405.65mgを得た。
【0037】
得られた物質について1H-NMR、13C-NMR、COSY、HMQC、HMBCなどの各種核磁気共鳴分析を実施したところ、標準物質のβ-sitosteryl (6’-O-acyl)-glucosideのデータと一致した。
【0038】
さらに、ESIMS/MS分析を行ったところ、([M+Na] +)はステロール配糖体から得られるフラグメントイオンm/z 465 ([M-C29H49+Na] +) とβ-sitosterolから得られるフラグメントイオン m/z 397 ([M-(C6H10O66-CO-C17H31)] +)と一致した。以上の結果により、得られた物質はアシル化ステロール配糖体(β-sitosteryl (6’-O-linoleoyl)-glucoside)であると同定した。
【0039】
(DNA合成酵素の阻害活性測定)
DNA合成酵素活性を測定する際の反応液の組成は既報の通りとした(Mizushina, Y., Tanaka, N., Yagi, H., Kurosawa, T., Onoue, M., Seto, H., Horie, T., Aoyagi, N., Yamaoka, M., Matsukage, A., Yoshida, S. & Sakaguchi, K. Fatty acids selectively inhibit eukaryotic DNA polymerase activities in vitro. Biochim. Biophys. Acta 1308, 256-262 (1996)./ Umeda, S.; Muta, T.; Ohsato, T.; Takamatsu, C.; Hamasaki, N.; Kang, D. The D-loop structure of human mtDNA is destabilized directly by 1-methyl-4-phenylpyridinium ion (MPP+), a parkinsonism-causing toxin. Eur. J. Biochem. 2000, 267, 200-206./Mizushina, Y., Yoshida, S., Matsukage, A. & Sakaguchi, K. The inhibitory action of fatty acids on DNA polymerase β. Biochim. Biophys. Acta 1336, 509-521 (1997)./Ogawa, A.; Murate, T.; Suzuki, M.; Nimura, Y.; Yoshida, S. Lithocholic acid, a putative tumor promoter, inhibits mammalian DNA polymerase β. Jpn. J. Cancer Res. 1998, 89, 1154-1159.)。
【0040】
合成反応のテンプレートとしては、poly(dA)/oligo(dT)18 (A/T = 2/1) とdTTPを、DNA合成のプライマーとしては[i.e., 2’-deoxynucleoside 5’-triphosphate (dNTP)] を使用した。TdTの場合は oligo(dT)18 (3'-OH) と dTTPをDNAプライマーおよびヌクレオチド基質として使用した。
【0041】
阻害活性を調べる被験物質はジメチルスルホキシド(DMSO)に希釈し30秒間超音波処理して分散させた。被験物質溶液4μlを酵素溶液16μl(0.05 units)に加え、0℃で10分間保持した。この混合物のうち8μlを採取し、16μlの活性測定用溶液を加え、37℃で60分間保持した。ただし、Taq 合成酵素の場合は74℃で反応を行った。阻害剤を加えない場合の酵素活性を100%として、阻害剤を加えた場合の残存活性を算出した。阻害剤の濃度を様々に変えた際の残存酵素活性を求め、残存酵素活性が50%となる阻害剤の濃度(IC50値)を算出した。酵素活性の1ユニットは37℃で60分間に1 nmol のdNTP (i.e., dTTP) を合成のDNA鋳型プライマーに導入するのに必要な酵素量と定義した。
【0042】
被験物質としては、以下に化学構造式を示すアシル化ステロール配糖体、β-シトステロール、リノール酸、及び、D−グルコースを使用した(以下、化合物1、2、3、及び4と表記する)。結果を表1に示す。
【0043】
化合物1の化学構造式を以下に示す。
【化1】

【0044】
化合物2の化学構造式を以下に示す。
【化2】

【0045】
化合物3の化学構造式を以下に示す。
【化3】

【0046】
化合物4の化学構造式を以下に示す。
【化4】

【0047】
【表1】

【0048】
表1に示したように、アシル化ステロール配糖体は、ファミリーYのDNA合成酵素のみを特異的、且つ、強力に阻害した。一方、アシル化ステロール配糖体の構成成分であるリノール酸はファミリーA、B、X及びYのDNA合成酵素を非特異的に、弱く阻害した。また、アシル化ステロール配糖体の構成成分であるβ-シトステロール及びD−グルコースは何れのDNA合成酵素も阻害しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のようにアシル化ステロール配糖体は、DNA合成酵素阻害剤としての利用に止まらず、がん抑制剤として医薬品等への応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル化ステロール配糖体を有効成分とするDNA合成酵素阻害剤。
【請求項2】
前記アシル化ステロール配糖体のステロール骨格がβ−シトステロールである請求項1に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【請求項3】
前記アシル化ステロール配糖体の結合する糖がD−グルコースである請求項1又は2に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【請求項4】
前記アシル化ステロール配糖体のアシル基がリノール酸である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【請求項5】
前記アシル化ステロール配糖体がβ−シトステリル(6’−O−リノレオイル)−グルコシドである請求項1に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【請求項6】
Y族のDNA合成酵素を選択的に阻害することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のDNA合成酵素阻害剤。

【公開番号】特開2011−213609(P2011−213609A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80965(P2010−80965)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【出願人】(507307374)学校法人神戸学院 (9)
【Fターム(参考)】