説明

DNA解析方法

【課題】サンプルDNA調整時に生じる再結合DNAの抑制を行い、精度の高いDNA解析方法を提供する。
【解決手段】標識剤により修飾された第1の一本鎖DNAを含む第1の二本鎖DNA及び/または標識剤により修飾された前記第1のDNAに対して1塩基以上配列の異なる第2の一本鎖DNAを含む第2の二本鎖DNAとからなる試料DNAを作製する調整ステップと、前記第1及び/または第2の一本鎖DNAと同一の塩基配列を持つ各々第1及び/又は第2のコンペティションDNAの量を各々前記試料DNA中の二本鎖DNAのモル数よりも多く加えて混合する混合ステップと、前記混合ステップにより得られた混合液に変性剤を加えた後に所定の値で加熱する加熱ステップと、を行いDNA変性液を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAにおける一部の塩基配列の違いを検出するDNA解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、分子生物学の急速な進展により、様々な疾患における遺伝子の関与が明らかになってきた。そのため、遺伝子に着目した遺伝子治療が注目されている。
【0003】
現在、DNAのSNP(single nucleotide polymorphism;一塩基多型と呼ばれる。)が注目されている。このSNPは、ヒトや動物に普遍に見られるが、同じ種でも個体によりSNPが異なる。すなわちSNPの違いを調べることにより、各個人の疾患に対する罹患率や薬剤に対する効果や感受性を予測し、個人に合わせた医療を行うことが出来る。さらには、ヒトや動物の親子関係の特定ができると考えられる。
【0004】
SNPや一部の塩基配列が異なるDNAを調べる方法として、アフィニティキャピラリー電気泳動法を利用した遺伝子診断方法がある。この方法は、まず目的配列に相補的なプローブDNAに高分子化合物を結合させたコンジュゲートDNAを作製する。このコンジュゲートDNAは、高分子化合物のため、キャピラリー内で移動し難くなる性質を持つ。このコンジュゲートDNAを電気浸透流が起きないようにコーティングされたキャピラリー管に充填し、陰極側から一本鎖のサンプルDNAを注入して電圧を印加する。その際に、コンジュゲートDNAと完全に相補的な配列を持ったサンプルDNAは、充填したコンジュゲートDNAとの相互作用により泳動が妨げられる。このときSNPをもったサンプルDNAと完全に相補的な配列を持ったサンプルDNAとでコンジュゲートDNAとのハイブリダイゼーションにおける親和性の差を電気泳動の移動度で比較することにより、SNPを持つDNAを明瞭に識別出来る(例えば非特許文献1を参照。)。
【0005】
高分子化合物を結合させたコンジュゲートDNAを用いて、サンプルDNAのSNPを判別するときは、サンプルDNAとコンジュゲートDNAを結合(以下、ハイブリという)させるために一本鎖の状態にする。サンプルDNAは生体試料からゲノムDNAを抽出し、蛍光色素を標識したプライマーDNAを用いてPCRで増幅した後、一本鎖に変性する(サンプルDNA調整と呼ぶ。)。調整したサンプルDNAをコンジュゲートDNAが充填されたキャピラリー管内に注入し、電気泳動により増幅されたPCR産物を検出部で光学的に検出するが、キャピラリー管内でサンプルDNAがPCR産物を変性して相補鎖とサンプルDNAが再結合して二本鎖に戻ることがあった。この状態で、電気泳動を行うと、コンジュゲートDNAに結合しない非結合型DNA、二本鎖に再結合した二本鎖になった再結合DNA、コンジュゲートDNAに結合する結合型DNAの順番でピークが検出される。再結合DNAのピークは条件により非結合型あるいは結合型DNAのピークのいずれかと重なるので、ピーク面積から定量分析する場合には、正確な定量が出来ない。そこで、再結合DNAを抑制するために、キャピラリー管内に相補鎖除去用のコンジュゲートDNAを用いる方法が用いられている(例えば特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2002−340857号公報
【非特許文献1】Detection of single-base mutation by affinity capillary electrophoresis using a DNA-polyacrylamide conjugate; Kae Sato, Akira Inoue, Kazuo Hosokawa, Mizuo Maeda; Electrophoresis 2005, (26) 3076-3080
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
再結合DNAは、サンプルDNAがキャピラリー管内を電気泳動中に起こるだけでなく、サンプルDNAの調整段階でも変性したサンプルDNAの一部により生じる。前記従来の方法ではこのサンプルDNA調整時に生じる再結合DNAを抑制することができないという課題を有していた。
【0007】
本発明は、前記課題に檻みてなされたものであり、サンプルDNA調整時に生じる再結合DNAの抑制を行い、精度の高いDNA解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために本発明のDNA解析方法は、標識剤により修飾された第1の一本鎖DNAを含む第1の二本鎖DNA及び/または標識剤により修飾された前記第1のDNAに対して1塩基以上配列の異なる第2の一本鎖DNAを含む第2の二本鎖DNAとからなる試料DNAを作製する調整ステップと、前記第1及び/または第2の一本鎖DNAと同一の塩基配列を持つ各々第1及び/又は第2のコンペティションDNAの量を各々前記試料DNA中の二本鎖DNAのモル数よりも多く加えて混合する混合ステップと、前記混合ステップにより得られた混合液に変性剤を加えた後に所定の値で加熱する加熱ステップと、前記第1の一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列をもつプローブDNAにその電気泳動を遅らせる電気非泳動物質を結合したコンジュゲートDNAを作製するコンジュゲートDNA作製ステップと、前記加熱ステップを通した後のDNA変性液と前記コンジュゲートDNAとを用いて電気泳動させることにより前記第1あるいは第2の一本鎖DNAの標識剤を測定する測定ステップとから成ることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0009】
サンプルDNA調整時に生じる再結合DNAを抑制することで、ノイズとなるピークの発生を抑え、非結合型DNAのピークと結合型DNAのピークを独立して計測でき、定量測定を行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明のDNA解析方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1を用いて本発明のコンペティションDNAとコンペティションDNAを用いた再結合DNA防止の方法を説明する。
【0011】
<調製ステップ>
まず本発明の実施の形態1における試料DNAを作製する調製ステップの詳細を説明する。本実施の形態1で解析する試料DNAは、植物、動物、または人の細胞や血液等から入手したDNAを鋳型にPCRや大腸菌を使い既知のPCR法によって増幅する。PCR産物である試料DNAは、次ステップでの一本鎖変性時に絡み合わないような長さが良く、両末端に結合するプライマーDNAの長さを考慮すると40bpから200bp程度が好ましい。
【0012】
図1に示す201は第1のサンプルDNA、202はSNPを含む第2のサンプルDNAである。本実施例では、第1および第2のサンプルDNAの長さ(塩基数)を40塩基、GC含量が50%であるのものを用いた。また、PCRを行うフォワード側のプライマーDNAには5'末端に蛍光標識の標識剤Cy5が付加されたものを使用したので、PCRでDNAを増幅した際、片方の鎖の5’末端に標識剤Cy5が結合したPCR産物221及び222が作製される。このPCR産物は第1のサンプルDNA201からなる第1のPCR産物221とSNPを含む第2のサンプルDNA202からなる第2のPCR産物222の両方もしくはどちらか一方を含んでいる。
【0013】
<混合ステップ>
次に混合ステップの詳細を説明する。まず、本発明の第1のコンペティションDNA231と第2のコンペティションDNA232の詳細を説明する。なお、第1のコンペティションDNA231は、第1のサンプルDNA201と同じ塩基配列を持ち、第2のコンペティションDNA232は第2のサンプルDNA202と同じ塩基配列を持つ。なお、図1中の251及び252は、それぞれ第1及び第2のサンプルDNAに対する相補鎖DNAである。また、第1および第2のコンペティションDNAは、それぞれ第1及び第2のサンプルDNAの配列を元に作るので、第1および第2のコンペティションDNAの長さは、元となる第1及び第2のサンプルDNAの長さよりも長くならない。まず、第1のコンペティションDNA231の作製について以下に説明する。
【0014】
先に説明した通り、第1のサンプルDNAが40塩基でGC含量が50%なので、AとTの塩基は水素結合が2本、GとCの塩基は水素結合が3本となる。そのため、第1のサンプルDNA201と相補鎖DNA251との結合強度は、{(2(ATの水素結合)×20塩基)+(3(GCの水素結合)×20塩基)}×1(モル数)=100となる。ここで、第1のコンペティションDNA231の長さを第1のサンプルDNA201の長さより30塩基短い10塩基でGC含量が50%でありモル数が第1のサンプルDNA201の5倍とすると、第1のサンプルDNA201と第1のコンペティションDNA231との結合強度は、{(2(ATの水素結合)×5塩基)+(3(GCの水素結合)×5塩基)}×5(モル数)=125となる。すなわち、相補鎖DNA251は第1のサンプルDNA201よりも、第1のコンペティションDNA231と優先的に結合することができる。
【0015】
第1のコンペティションDNA231の長さを30塩基以上短くした場合は、このような相補鎖DNA251との優先的結合が生じない。例えば、第1のサンプルDNAの条件を同一にして第1のコンペティションDNA231の長さを8塩基にした場合は結合強度は100となり、第1のサンプルDNAの結合強度と同等となり、相補鎖DNA251との優先的結合は生じないので好ましくない。また、第1のコンペティションDNAの長さ(塩基数)の上限は第1のサンプルDNAの長さ(塩基数)と同一になる。
【0016】
次に、第1のコンペティションDNA231のモル数が第1のサンプルDNA201とのモル数よりも十分大きいことが重要である。仮に、第1のコンペティションDNAのモル数を下げて第1のサンプルDNAのモル数に対し4倍とすると、相補鎖DNA251と第1のコンペティションDNA231との結合強度は80に低下し、相補鎖DNA251は第1のサンプルDNA201と結合して再結合DNAを生じる確率が増大するので、好ましくない。
【0017】
以上、第1のコンペティションDNA231についてその詳細を説明したが、第2のコンペティションDNA232についても同様であるので割愛する。
【0018】
以上のようにして本実施例では、第1のコンペティションDNA231と第2のコンペティションDNA232を作製し、第1と第2のPCR産物に加えて混合液を作製した。
【0019】
<加熱ステップ>
上述の混合ステップにて作製された混合液に、変性剤としてPCR産物に対して10倍量の体積のホルムアミドまたは終濃度0.3〜7Mの尿素を加える。ホルムアミドが10倍以下の場合、PCR産物を一本鎖DNAにする処理が不十分であることがあり、好ましくない。10倍以上だとサンプルの濃度が薄まってしまい、光学的な検出が困難となり、好ましくない。また、尿素が0.3M以下だと変性処理が不十分であり、7M以上だと高濃度の尿素を調整することが難しく、好ましくない。
【0020】
上記の変性剤が加えられた混合溶液を95℃で1〜10分間、熱した後、急冷してDNA変性液を作製した。この変性液中には、第1のサンプルDNA201と第1のサンプルDNAの相補鎖251と第2のサンプルDNA202と第2のサンプルDNAの相補鎖252の全てあるいはいずれか含んでいる。上述の混合ステップで説明した通り、この変性液中には、第1のコンペティションDNA231もしくは第2のコンペティションDNA232は、第1のサンプルDNA201と第2のサンプルDNA202よりも大量に含まれているので、第1あるいは第2のコンペティションDNAは、それぞれ第1あるいは第2の相補鎖と優先的に結合するので、第1のサンプルDNA201と第2のサンプルDNA202は一本鎖の状態で存在することができる。
【0021】
<コンジュゲートDNA作製ステップ>
次にコンジュゲートDNAの作製について詳細に説明する。図2にコンジュゲートDNA210の構造を示す。図中の203はサンプルDNAであり、第1のサンプルDNA201と第2のサンプルDNA202とを含んでいる。本実施例では、第1のサンプルDNA201に特異的に結合するコンジュゲートDNAの作製方法を示すが、第2のサンプルDNA202に特異的に結合するコンジュゲートDNAの作製も同様に方法で行うことが出来る。
【0022】
さて、生体のDNAと特異的に結合するコンジュゲートDNAのプローブDNA212の配列は、本実施例では第1のサンプルDNA201に結合する配列を用いる。このプローブDNAに電気非泳動物質211を結合させることにより、第1のサンプルDNA201に特異的に結合するコンジュゲートDNAが作製できる。ここで、
電気非泳動物質211は電気泳動時のサンプルDNAの速度に対して遅い速度で電気泳動する物質で構成されるものであり、電荷を持たず、また高分子物質であれば良い。例えば一般的に使用されるリニアポリマーである、アクリルアミドやポリエチレングリコールが挙げられる。またマイクロビーズとしてはガラスビーズや磁気ビーズなどが挙げられる。そして前記プローブDNA212はサンプルDNAのSNP部位を含む一部の配列に対して相補的な配列であれば良く、6塩基以上18塩基以下の長さで任意の塩基配列を設定する。プローブDNAが5塩基以下の場合、サンプルDNAとの結合能力が不十分でなく、18塩基以上の場合、サンプルDNAとの結合力が強すぎて、結合型DNAと非結合型DNAの両方と非特異的に結合する場合があり、好ましくない。
【0023】
<測定ステップ>
続いて、キャピラリー電気泳動装置を用いて行う測定ステップを説明する。図3に本実施例で用いたキャピラリー電気泳動装置の構成を示す。主な構成は、正電極133を配置した第1容器131と負電極134を配置した第2容器132との間に密閉流路130で介しており、この密閉流路130にコンジュゲートDNAを充填した後、測定すべきサンプルDNAを第2容器132側の密閉流路130に入れて電気泳動のための電圧を可変電源部136により正電極133と負電極134とに与える。サンプルDNAに標識された蛍光色素による蛍光を検出部150で測定することにより、サンプルDNAの蛍光強度を測定する。検出部150はスリット152で光量制御を行い、フィルター153でレーザー151から照射される630nmの励起光をカットして励起光を取り除き、蛍光色素から発生した660nmの蛍光をフォトマルチプライヤー154で検出してプリアンプ155で増幅し、A/Dコンバータ156で信号をデジタル変換して制御部140に取り込む仕様になっている。
【0024】
さて、密閉流路130はコーティングされた内径50〜100μmのキャピラリー管やマイクロプレート上に微細加工で溝加工されている。図4に、本実施例で用いたキャピラリー管内部を示す。本実施例では、25cmのキャピラリー管を使用した。11は緩衝液である。密閉流路130の内部にコンジュゲートDNA210を充填した後、密閉流路130の一端に変性した試料DNA200を注入する。ここで、コンジュゲートDNA210の濃度は試料DNA200の濃度に対して10〜600倍とするのが好ましい。10倍以下だとサンプルDNAがコンジュゲートDNAと十分に結合出来なくなり、600倍以上であれば高濃度プローブが必要になるので高価なコンジュゲートの作製が必要となる。
【0025】
この後、図3に示すように、密閉流路130の両端を第1容器131及び第2容器132に入れ緩衝液11で満たし電気泳動を行う。本実施例のキャピラリー管を使用した場合には、可変電源部135より6kVの電圧を印加し、およそ3〜16μAの電流を流して試料DNA200の電気泳動を行った。
【0026】
次に、電気泳動中の試料DNA200の測定手法を示す。フォワード側の5'末端に標識された蛍光色素Cy5に、検出部150内部のレーザー151(630nm)を照射して660nmの蛍光をフォトマルチプライヤー154で検出する。試料DNA200に電気泳動を行うことにより、最初に余剰のプライマーDNAに標識された蛍光色素のピークが検出され、その次にコンジュゲートDNA210に結合しない第2のサンプルDNA202のピークが検出され、最後にコンジュゲートDNA210に結合する第1のサンプルDNA201のピークが検出される。このピークの状態を観測することで試料DNA200のDNA分析が出来る。
【0027】
以下、具体的な条件や試料を示して本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明はこれに記載した試料DNAや調製条件その他に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1の作製)
〔PCR産物の調整〕
PCRの増幅はTaKaRa Ex Taq(TaKaRa社製)を用いて増幅した。鋳型はras Mutant Set(TaKaRa社製)を用いた。フォワード側のプライマーは蛍光色素、ここではCy5で標識した、5’−(Cy5)−GACTGAATATAAACTTGTGG−3’(フォワードプライマー、配列表2)を、リバース側のプライマーは5’−ATCGTCAAGGCACTCTTGCC−3’(リバースプライマー、配列表3)を、それぞれ終濃度500nMになるように加えた。反応サイクルは以下のとおりである。95℃―10分、(95℃ー30秒、55℃―30秒、72℃―30秒)30サイクル、72℃―5分。これにより、60bpのPCR産物を作製した。
【0029】
〔PCR産物の変性〕
PCR産物を2μlと変性剤としてホルムアミドを40μl、第1のコンペティションDNA(配列表4)と第2のコンペティションDNA(配列表5)とを各々100μMに調整したものを1μlずつ加え、95℃で5分間熱した後、氷冷した。
【0030】
〔緩衝液の調整〕
Tris−Borate(pH7.4)を終濃度50mMで使用した。
【0031】
〔コンジュゲートDNAの作製〕
第1のサンプルDNAに相補的な配列をもつアミノ化DNAを1mMになるように水またはTE(pH7.4)を加えて調整した。アミノ化DNAの配列は5’−ACCAGC−3’(配列表1)である。分子量20,000のNHS−PEGにDMSOを445μl加え、撹拌した。溶かしたPEG−NHSにアミノ化DNAを50μlと1Mの炭酸水素ナトリウムを5μl加え、20℃で3時間振とう後、分子量10,000を分画する透析膜を用いて、一晩透析した後、乾燥した。コンジュゲートDNA210は100μMになるように緩衝液で溶かした。
【0032】
〔キャピラリー電気泳動装置によるSNP測定〕
前述した図3に示すキャピラリー電気泳動装置にてSNPの測定を行った。前記密閉流路130はコーティングされた内径100μmのキャピラリー管(大塚電子製)を使用した。そして、緩衝液11を含むコンジュゲートDNAを充たした密閉流路130に、図4に示すように試料DNA200を注入する。そしてこの後、両電極133,134間に可変電源部135により6kVの電圧を印加して、密閉流路130内の試料DNA200を電気泳動させ、該試料DNA200中の第1のサンプルDNA201と第2のサンプルDNA202それぞれの、前記コンジュゲートDNA210に対する親和性の差によって、該試料DNA200を分離する。なお、検出部150において、前述したように、プライマーDNAに蛍光色素を標識して、該蛍光色素から発せられる蛍光だけを検出するようにしておけば、前記第1のサンプルDNA201と前記第2のサンプルDNA202のみを検出することができる。
【0033】
検出部では、スリット152で光量制御を行い、フィルター153で前記レーザー151から照射される630nmの励起光をカットして励起光を取り除き、サンプルDNAに標識しているCy5の660nmの蛍光をフォトマルチプライヤー154で検出してプリアンプ155で増幅し、A/Dコンバータ156で信号をデジタル変換して制御部140に取り込む。
【0034】
第1のサンプルDNA201に相補的な配列を持つコンジュゲートDNA210を用いてキャピラリー電気泳動装置で測定した結果、フォワード側のプライマーが検出された後、第2のサンプルDNA202、そして第1のサンプルDNA201の順番でピークを検出した。この結果を図5に示す。
【0035】
(比較例の作製)
比較例として、従来のサンプルDNA調整法により作製された試料DNAを用いた。これは、実施例1と同一のサンプルDNAに蛍光標識されたPCR産物に10倍量の体積の変性剤を加え、95℃で5分間熱した後、氷冷し、一本鎖DNAを得たものである。測定装置も実施例1と同一のものを用いて測定した。その結果を図6に示す。
【0036】
(実施例1と比較例との蛍光スペクトルの対比)
図5に示すように、実施例1では、時間の早い方から、プライマーのピーク、非結合型DNAである第2のサンプルDNA202のピーク、結合型DNAである第1のサンプルDNA201のピークが検出されている。ところが、従来法で見られる二本鎖DNAのピークはバックグランドノイズに近いレベルまで減少している。一方、比較例での測定結果である図6では、非結合型DNAと結合型DNAのピークとの間に二本鎖DNAによる大きなピークが生じている。この結果から明らかなように、本発明によるコンペティションDNAの長さをサンプルDNAに対して調製し、且つサンプルDNAに対して過剰に投与することで、従来、DNA解析の際の課題となっていた二本鎖DNAを大幅に抑制することが出来る。
【0037】
以上、説明したように、本発明による遺伝子解析法を用いてSNP解析を行えば、再結合DNAのピークを除去でき、第1のサンプルDNA201と第2のサンプルDNA202の定量性を精度よく測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかるDNA解析方法は、SNP測定においてノイズピークとなる再結合DNAの形成を防止してピークの定量性や感度を向上させることが出来るので精度の高い遺伝子解析手法や装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態1におけるサンプル調整の方法を示す図
【図2】コンジュゲートDNAを示す図
【図3】キャピラリー電気泳動装置の構成を示す図
【図4】キャピラリー電気泳動装置でのキャピラリー管内を示す図
【図5】本実施の形態1の方法を適用した時の試料DNA(実施例1)を測定したときに検出される波形を示したグラフ
【図6】従来の方法で調整した試料DNA(比較例)を測定したときに検出される波形を示したグラフ
【符号の説明】
【0040】
11 緩衝液
210 コンジュゲートDNA
130 密閉流路
131 第1の容器
132 第2の容器
133 正電極
134 負電極
135 可変電源部
140 制御部
150 検出部
151 レーザー
152 スリット
153 フィルター
154 フォトマルチプライヤー
155 プリアンプ
156 A/Dコンバータ
200 試料DNA
201 第1サンプルDNA
202 第2サンプルDNA
203 サンプルDNA
210 コンジュゲートDNA
211 電気非泳動物質
212 プローブDNA
221 第1のサンプルDNAからなるPCR産物
222 第2のサンプルDNAからなるPCR産物
230 コンペティションDNA
231 第1コンペティションDNA
232 第2コンペティションDNA
241 第1コンペティションDNAと結合した二本鎖
242 第2コンペティションDNAと結合した二本鎖
251 第1サンプルDNAの相補鎖
252 第2サンプルDNAの相補鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識剤により修飾された第1の一本鎖DNAを含む第1の二本鎖DNA及び/または標識剤により修飾された前記第1のDNAに対して1塩基以上配列の異なる第2の一本鎖DNAを含む第2の二本鎖DNAとからなる試料DNAを作製する調整ステップと、
前記第1及び/または第2の一本鎖DNAと同一の塩基配列を持つ各々第1及び/又は第2のコンペティションDNAの量を各々前記試料DNA中の二本鎖DNAのモル数よりも多く加えて混合する混合ステップと、
前記混合ステップにより得られた混合液に変性剤を加えた後に所定の値で加熱する加熱ステップと、
前記第1の一本鎖DNAの一部と相補的な塩基配列をもつプローブDNAにその電気泳動を遅らせる電気非泳動物質を結合したコンジュゲートDNAを作製するコンジュゲートDNA作製ステップと、
前記加熱ステップを通した後のDNA変性液と前記コンジュゲートDNAとを用いて電気泳動させることにより前記第1あるいは第2の一本鎖DNAの標識剤を測定する測定ステップと、を含むDNA解析方法。
【請求項2】
前記第1の一本鎖DNAの長さをa、前記第2の一本鎖DNAの長さをb、前記第1のコンペティションDNAの長さをc、前記第2のコンペティションDNAの長さをdとすると、前記a、b、c及びdは、以下の式を満たす請求項1記載のDNA解析方法。
a−30≦c≦a, a≧40
b−30≦d≦b, b≧40
【請求項3】
前記第1のコンペティションDNAまたは前記第2のコンペティションDNAのモル数は第一と第二の二本鎖DNAに対して5倍以上である請求項1記載のDNA解析方法。
【請求項4】
前記測定ステップは、さらに前記コンジュゲートDNAを密閉流路に充填する充填ステップと、
前記加熱ステップによって得られたDNA変性液を前記密閉流路に注入する注入ステップと、
前記密閉流路中で前記混合液を前記第1の一本鎖DNAと前記第2の一本鎖DNAとを分離するために電気泳動させる分離ステップと、
前記密閉流路上に備えた検出部によって前記第1の一本鎖DNAの標識剤もしくは前記第2の一本鎖DNAの標識剤の少なくとも一つを検知する検知ステップと、を含む請求項1記載のDNA解析方法。
【請求項5】
前記プローブDNAが6塩基以上18塩基以下である請求項1記載のDNA解析方法。
【請求項6】
前記充填ステップにおいて用いられる緩衝液は、トリスボレート緩衝液(TB緩衝液)、トリス塩酸緩衝液、トリスアセテートエチレンジアミン四酢酸緩衝液(TAE緩衝液)もしくは、トリスボレートエチレンジアミン四酢酸緩衝液(TBE緩衝液)のいずれかである請求項4記載のDNA解析方法。
【請求項7】
前記電気非泳動物質は、アクリルアミド、もしくはエチレングリコールのいずれかで作られたリニアポリマーである請求項1記載のDNA解析方法。
【請求項8】
前記電気非泳動物質は、マイクロビーズである請求項1記載のDNA解析方法。
【請求項9】
前記マイクロビーズは磁性体、二酸化ケイ素、もしくはポリスチレンのいずれかを有する請求項8記載のDNA解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−11241(P2009−11241A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176917(P2007−176917)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】