説明

Dbaitおよびその使用

本発明は、二本鎖切断(DSB)のDNA修復を妨げるための組成物および方法に関する。本発明は、ベイトとして作用し、そして、DNA DSB感知、シグナル伝達および/または修復経路、特にDSB修復の非相同末端連結(NHEJ)経路に関与する酵素のホロ複合体をハイジャックする新規の二本鎖核酸分子を開示する。本発明は、それらのDNA修復能を一時的に中和しそしてそれらの細胞死をトリガーするために腫瘍細胞核に導入されるに有効な量で、薬学的に許容される担体と組み合わせて、DNA切断治療、特に放射線療法または化学療法と関連して使用されるアジュバント組成物としてのこれらの分子の使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞におけるDNA修復経路を妨げる組成物および方法に関するものである。本発明は、特に、DNA損傷感知、シグナル伝達および/または修復経路、特に二本鎖切断(DSB)修復の非相同末端連結(NHEJ)経路を妨げる核酸分子、ならびに特に抗ガン療法へ提示された腫瘍の細胞致死をトリガーするための、それらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
放射線療法および化学療法は、単独でまたは手術と併用される、ヒトガンに対する必要不可欠な療法である。
【0003】
電離放射線は、直接または間接的に二本鎖切断(DSB)を引き起こし、そして細胞/組織死(壊死またはアポトーシス)をトリガーする。電離放射線の細胞傷害効果は、ヒトガンの治療において広く使用されている、放射線療法の基礎を形成する。放射線療法の効能は、特定の腫瘍(例えば、膠芽腫、頭頸部扁平上皮癌)の放射線耐性、および(例えば、乳ガンおよび子宮頸ガンの治療における)正常組織付近の放射線照射によって引き起こされる副作用によって、現在、制限されている。
【0004】
ここ数年において、多くの研究が、腫瘍細胞の放射線感受性または放射線耐性の基礎をなす現象の複雑さを理解するために、電離放射線反応に関連する生物学的機構に注目してきた。電離放射線に対する反応を細かく調節する種々の経路の理解が、放射線療法と共同して、放射線に対して高度に耐性である腫瘍(例えば、脳腫瘍または頭頸部腫瘍)からの回復の見込みを改善し得る、新規の薬物および療法についての分子ターゲットの同定への重要なステップである。
【0005】
化学療法剤の使用は、直接的または間接的なDSBを含む、DNA損傷を引き起こし得る。化学療法剤(細胞傷害剤)の主に使用されるファミリー例は、以下である:IまたはII型トポイソメラーゼの阻害剤(カンプトテシン/トポテカン、エピルビシン/エトポシド)、DNA架橋剤(シスプラチン/カルボプラチン/オキサリプラチン)、DNAアルキル化剤(カルムスチン/ダカルバジン)または抗代謝剤(5−フルオロウラシル/ゲムシタビン/カペシタビン)、ならびに紡錘体の阻害剤(パクリタキセル/ドセタキセル/ビノレルビン)。
【0006】
生物学的薬物(モノクローナル抗体、サイトカイン/キナーゼ阻害剤、免疫療法/ワクチン)を開発することにおける最近の進歩は、それらの効率および腫瘍のサブセットへの特異性を証明した。しかし、それらは、しばしば、細胞傷害剤と併用して使用されている。新規の細胞傷害薬の開発における多くの進歩にもかかわらず、化学療法に対する薬剤耐性は、依然としてガン治療において主要な臨床的懸念である。薬物取り込み/排出、代謝分解、ターゲットの突然変異誘発、増強された修復、細胞死(アポトーシスおよび壊死)のシグナル伝達に関する薬剤耐性の機構の理解は、化学療法の効率を保証するために必須であり、特に、ある治療耐性腫瘍において、治療指数を改善する。
【0007】
化学療法および放射線療法の共同は、ガン治療において広く使用された。依然として完全には解明されていないが、細胞傷害剤の作用の生物学的基礎は、細胞周期またはDNA損傷などの、細胞機構に依存しており、これはまた、放射線誘導細胞死について重要であり、ガン療法において種々の治療を併用することによって、付加的なまたはより十分な相乗的な利益へ導く。
【0008】
ここ10年において、多くの研究がこの分野において行われ、そして放射線に対する反応におけるシグナル伝達の複雑さが描かれ始めた。この点で、電離放射線でターゲッティングされる特に興味深い遺伝子は、アポトーシスまたはDNA修復などの放射線誘導致死機構の調節に関与するものである。DSBは最も致死性の高いDNA損傷であるので、電離放射線の効能は、DSB修復のそれが増加するについて、低下する。
【0009】
2つの機構がDSBの修復に関与している:非相同末端連結(NHEJ、配列非依存性経路)および相同組換え(HR、配列依存性経路)(Jackson,2002によって概説される)。これら2つの主要なDBS修復経路に関与する遺伝子をターゲッティングすることは、今までのところ、使用されるアプローチおよびガン細胞株に依存して、少しのまたは中程度の放射線感受性へと導いた(Belenkovら,2002;Marangoniら,2000;Ohnishiら,1998)。
【0010】
Ku(例えば、Ku70およびKu80)ならびにDNA−PKcsタンパク質は、放射線または化学物質で誘導されるDNA DSBの修復において重要である。損傷が時間通りに修復され得ない場合、細胞は死滅する。従って、それらは、放射線療法および化学療法に対してターゲット細胞および組織を増感させるための潜在的に興味深い分子ターゲットを示す。従って、哺乳動物細胞において優勢である、NHEJ経路に関与するこれらの重要なタンパク質(Ku70/Ku80、DNA−PKcsなど)を阻害しようとして、多くのアプローチが考え出されそして行われてきた:
1)PI3Kの阻害剤(ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ)(即ち、DNA−PKcs、ATM、ATR)(Boultonら,2000;DurantおよびKarran,2003;Willmoreら,2004;Vaugerら,2004);
2)ネガティブドミナントおよびペプチド(KU80のC末端)(Marangoniら,2000;Kimら,2002);
3)一本鎖抗体可変フラグメント(scFv)(DNA−PKcs)(Liら、2003);
4)RNAアプタマー(SELEX:RNA結合Ku)(YooおよびDynan,1998);
5)アンチセンス(Ku70、Ku80、DNA−PKcs)(Liら,2003b;Marangoniら,2000;Sakら,2002);
6)siRNA(DNA−PKcs)(Pengら,2000)。
【0011】
これらのすさまじい努力にもかかわらず、DNA修復経路に関与する遺伝子のターゲッティングとガン療法との併用は、依然として、初期実験段階にあり、臨床研究は、証明された利益を今まで示していない。上述のアプローチが共通の特徴を共有していることは、注目に値する:それらは、可能なバイパスまたは補償を有する複雑なカスケード経路(例えば、NHEJ)に関与する単一のエフェクター(タンパク質)をターゲッティングしている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明は、哺乳動物細胞におけるDNA修復経路を妨げる新規の組成物および方法に関する。本発明は、特に、非遺伝子特異的様式で、DNA損傷感知、シグナル伝達および/または修復経路を妨げる核酸分子、ならびに、特に抗ガン療法へ提示された腫瘍の細胞致死をトリガーするための、それらの使用に関する。
【0013】
本発明者は、直接または間接的なDNA損傷療法への細胞の感受性が、切断されたDNAフラグメントの模倣物として作用し、そして、DNA損傷治療によって誘導されたDSB部位として認識される(化学的に修飾されているかまたは修飾されていない)短いdsDNA分子(即ち、DSBの基質模倣物)を使用することによって増強され得ることを見出した。
【0014】
実施例において示されるように、本発明の分子は、インビトロおよびin vivoで有効であり、DNA損傷ガン療法に対して任意の腫瘍細胞の感受性を与えるかまたは増加させるために使用され得る。
【0015】
従って、本発明の目的は、放射線療法および化学療法に対する治療耐性腫瘍の反応を増強することができる、「DSBベイト(DNA bait)」分子(つまり、Dbait)という名称でも呼ばれる、このようなdsDNA分子に関する。下記にさらに開示するように、Dbait分子は、DNA修復酵素のホロ複合体(holocomplex)をベイトしそしてハイジャックすることによって作用し、そしてそれによってDNA損傷感知、シグナル伝達および/または修復プロセスを妨げる。この新規のアプローチを、「DNAベイト」と名付ける。
【0016】
好ましい態様において、本発明は、核酸分子であるDbait分子であって、該分子が、少なくとも24bpの二本鎖部分を含み、少なくとも1つの遊離末端を有し、CpGを欠いており、ヒトゲノムにおける任意の遺伝子に対して70%未満の配列同一性を有し、各鎖の末端にまたは少なくとも3’末端鎖に1または数個のホスホロチオエートまたはメチルホスホネート骨格を有するヌクレオチドを含み、かつ、該分子が、二本鎖切断(DSB)修復のNHEJ経路に関与する少なくともKuタンパク質による結合についての基質である、Dbait分子に関する。好ましくは、Dbait分子は、Dbait32Ha、Dbait32Hb、Dbait32Hc、Dbait32Hd、Dbait32Hc−3’mp、Dbait32Hc−5’3’mp、Dbait32Hc−Cy3、Dbait32Hc−Cy5、およびDbait32Hd−FITCからなる群より選択される。なおより好ましくは、Dbait分子は、Dbait32Hcである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、Dbait分子および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む組成物にある。特定の態様において、組成物は、経口経路、または静脈内、腫瘍内もしくは皮下注射、または頭蓋内もしくは動脈内注射もしくは注入、または局所投与に好適である。
【0018】
本発明のさらなる目的は、DNAのDSBを直接的または間接的に引き起こし得る物理および/または化学薬剤と併用されるDbait分子にある。特に、本発明は、ガンを治療するための使用のための併用調製物としての、本発明のDbait分子と、DNAの二本鎖切断を直接または間接的に引き起こし得る化学薬剤とを含む、医薬品に関する。好ましくは、Dbait分子は、化学薬剤より前にまたは化学薬剤と同時に投与される。
【0019】
本発明のさらなる目的は、Dbait分子とDNA損傷を直接的または間接的に引き起こす療法との併用を使用する、増殖性障害(例えば、ガン)を治療するための方法である。従って、本発明は、DNA損傷性抗ガン療法と併用して使用されるガンを治療するための医薬の製造のための本発明のDbait分子の使用に関する。特に、DNA損傷性抗ガン療法は、放射線療法および化学療法より選択される。好ましくは、Dbait分子は、放射線療法より前に投与される。または、Dbait分子は、化学療法より前または化学療法と同時に投与される。特定の態様において、分子は、経口経路、または静脈内、腫瘍内もしくは皮下注射、または頭蓋内もしくは動脈内注射もしくは注入、または局所投与によって投与される。好ましくは、ガンは、CNSガン、頭頸部ガン、結腸直腸ガン、肝臓ガン、消化管ガン、尿生殖路ガン(genitor-urinary tract cancer)、肺ガン、皮膚ガン、乳ガンおよび子宮頸ガンより選択される。
【0020】
本発明の別の目的は、特に放射療法および/または化学療法に対してほとんど反応しない腫瘍について、ガン治療の効率を増強するための抗ガン療法アジュバントを作製するためのDbait分子の使用に関する。
【0021】
本発明のさらなる目的は、上記で定義されるDbait分子を被験体へ投与することを含む、DNA損傷性抗ガン療法に対する腫瘍感受性を増強する方法である。
【0022】
従って、本発明は、DNA損傷性抗ガン療法に対する腫瘍感受性を増強させるための医薬の製造のための、本発明のDbait分子の使用に関する。特に、DNA損傷性抗ガン療法は、放射線療法および化学療法より選択される。好ましくは、Dbait分子は、放射線療法より前に投与される。または、Dbait分子は、化学療法より前または化学療法と同時に投与される。特定の態様において、分子は、経口経路、または静脈内、腫瘍内もしくは皮下注射、または頭蓋内もしくは動脈内注射もしくは注入、または局所投与によって投与される。好ましくは、ガンは、CNSガン、頭頸部ガン、結腸直腸ガン、肝臓ガン、消化管ガン、尿生殖路ガン、肺ガン、皮膚ガン、乳ガンおよび子宮頸ガンより選択される。
【0023】
本発明のさらなる目的は、DNA損傷性抗ガン療法と併用してDbait分子を被験体へ投与することを含む、ガンを治療する方法である。
【0024】
本発明のさらなる目的は、DNA切断治療、特に放射線療法または化学療法と共同しての使用のための組成物であり、該組成物は、腫瘍細胞の核に導入されるに有効な量で、少なくとも1つのDbait分子を薬学的に許容される担体と組み合わせて含む。
【0025】
本発明は、哺乳動物被験体における、特にヒト被験体における、種々のタイプのガン、例えば、固形ガンおよび白血病、特に放射線または化学物質耐性ガンにおけるガン療法に対する感受性を与えるために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1.1】Hep2細胞由来の種々の量の核抽出物(0、10、20、40、80、160、320ng/μl)の存在下で種々の32P放射標識Dbait分子について行ったバンドシフトアッセイ。シフトされたバンドは、番号1および2であった。バンド3は、十分にロードしている(loading well)。
【図1.2】Hep2細胞核抽出物(0、20、80、320ng/μl)中のタンパク質を含む種々の32P放射標識Dbait分子の遅延バンドにおけるKuタンパク質の存在の同定。ラインα−Kuにおいて、それは、ゲル上にサンプルをロードする前の結合反応へ抗Ku抗体を添加した場合は(+)または添加しなかった場合は(−)と示される。シフトされたバンドは番号1、2および3であり、抗Ku結合後にシフトされた移動を示すバンドについて、星印を番号に付加した。
【図1.3】20μg Hep2核タンパク質抽出物を用いてのDNA末端連結アッセイ。上パネル:種々の時間にわたる20μlアッセイ緩衝液中20μM Dbaitの非存在および存在下での0.2μM 32P標識DNAフラグメントの連結。バンド1〜4は、初期605bp DNAフラグメント(単量体[1])、二量体[2]、三量体[3]または四量体[4]として移動する連結生成物を示す。下パネル:連結生成物のパーセンテージを定量化し、時間の関数(菱形、Dbait無し;円、200nM Dbait32H有り)として、およびDbait分子の化学構造の関数(200nMの種々のDbaitと共の2時間のインキュベーション後)として示した。
【図1.4】種々の長さ、配列および化学構造(修飾された骨格を含む)を有する多数のDbait分子2μgの、Hep2核タンパク質抽出物1.5μg中におけるDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA−PK)活性アッセイ:Dbait32ssおよびDbait32cssは、2つの32nt一本鎖DNAであり;Dbait32Cは、ダンベル32bp二本鎖DNA(平滑末端を有さない)であり;Dbait8H、Dbait16H、Dbait24HおよびDbait32Hは、それぞれ、8、16、24および32bpの幹を有するヘアピン二本鎖DNAであり;Dbait32H、Dbait32Hb、Dbait32HcおよびDbait32Hdは、異なる配列を有するが同一の塩基組成を有する32bpヘアピンDNAであり;Dbait32d−FおよびDbaitHc−cy3は、それぞれ、フルオレセインおよびシアニン3タグされたDbait32HdおよびDbat32Hcであり;Dbait32H−poは、それぞれ3’末端または5’および3’末端の両方に3ntメチルホスホネートを有するDbaitHc−3’mpおよびDbait32Hc−5’3’mpを除いて、遊離平滑末端に3bpホスホロチオエートを有する他のDbait分子と比較した場合、全長ホスホジエステルDbait32Hである。Dbait32Hc5’5’は、3’−3’結合を有し、従って、5’/5’平滑末端を提示している;これらのDbait分子の詳細については表1.1および1.2を参照のこと。データは、少なくとも3つの独立した実験の平均値および標準偏差を示す。
【図2.1A】種々のDbait分子の存在下で137セシウム源由来のγ線で行った4×0.5Gy(2時間間隔)放射線照射後のHela細胞のクローン原性生存アッセイ(clonogenic survival assay)。パネルA:Dbait32およびDbait32Hの存在下での標準化生存クローン数の用量依存性。パネルB:83nM(培養培地中の濃度)での異なるDbait分子の存在下での標準化生存クローン数。
【図2.1B】種々のDbait分子の存在下で137セシウム源由来のγ線で行った4×0.5Gy(2時間間隔)放射線照射後のHela細胞のクローン原性生存アッセイ(clonogenic survival assay)。パネルA:Dbait32およびDbait32Hの存在下での標準化生存クローン数の用量依存性。パネルB:83nM(培養培地中の濃度)での異なるDbait分子の存在下での標準化生存クローン数。
【図2.2】種々のDbait分子の存在下で137セシウム源由来のγ線で行った4×0.5Gy(2時間間隔)放射線照射後のHela細胞のさらなるクローン原性生存アッセイ。上パネル:Dbait32HおよびDbait8Hの存在下での標準化生存クローン数の用量依存性。下パネル:異なるDbait分子2μgの存在下での標準化生存クローン数。
【図2.3】2μg Dbait32H分子による、ネオマイシン耐性をコードする遺伝子を有する線状プラスミドフラグメント(2μg)の放射線増強異常組込みの阻害。
【図2.4】種々のDbait32分子(2μg)による、プロマイシン耐性をコードする遺伝子を有する線状プラスミドフラグメント(2μg)の放射線増強異常組込みの阻害のさらなるアッセイ。上パネル:細分された(4×0.5Gy)放射線照射の存在下(黒丸)または放射線照射の非存在下(黒三角)でのDait32H分子の用量依存性;下パネル:放射線照射有り(黒色)または放射線照射無し(灰色)での、2μgの種々のDbait分子または200μM DNA−PK阻害剤(ワートマニンまたはNU7026)の存在下でのプラスミド組込みの効率。
【図2.5】2Gy放射線照射の2時間後での蛍光性Dbait32H−FITC分子によってトランスフェクションされたHela細胞中におけるγ−H2AXフォーカスによって明らかにされた二本鎖切断(DSB)部位の免疫検出。左パネル:Dbait32H−FITCの蛍光(明るいドットおよび斑点)および核中のγ−H2AX抗体の免疫蛍光検査によって検出されたDSB部位;右パネル:γ−H2AX抗体の免疫蛍光検査およびDAPI対比染色によって検出されたDSB部位を有する核の同一の画像。左下角の矢印は、核中にDbait32H−FITCおよびγ−H2AXシグナルが存在しないことを示す。右上角の矢印は、共局在化されたDbait32H−FITCおよびγ−H2AXシグナルを示す。
【図2.6】上パネル:PIKKによるヒストンH2AXリン酸化。総細胞抽出物を、総H2AXタンパク質と比較して、ヒストンH2AXのリン酸化形態(γ−H2AX)のレベルについて、ウエスタンブロッティングによって分析した。Hep2細胞に、5時間、種々のDbait分子、32Hc、24H、16Hおよび8Hを5時間トランスフェクションしたか、またはトランスフェクションしなかった。トランスフェクションの終わりに、それらに放射線照射し、1時間インキュベーションし、次いで分析した。結果を、γ−H2AX/H2AXの標準化比率のヒストグラムとして示す。下パネル:放射線照射された(IR)細胞におけるFACSによるγ−H2AXフォーカスによって明らかにされたDSB部位の存続の動態:Dbait32Hc+IR(実線)、IRのみ(破線)、および未処理(点線)。
【図3.1】未処理GMA32細胞、リポフェクタミンのみによってトランスフェションされた細胞、またはリポフェクタミンによって種々のDbait分子がトランスフェクションされた細胞のFACS分析;但し、さらなる放射線照射または有糸分裂阻害剤処理無し。M1相は、細胞死を示すsub−G1段階にある細胞のパーセンテージを示す。
【図3.2】未処理GMA32細胞、リポフェクタミンのみによってトランスフェションされた細胞、またはリポフェクタミンによって種々のDbait分子がトランスフェクションされた細胞におけるγ−H2AX標識化によるDNA修復フォーカスの免疫検出(核中の明るいドットまたは斑点)。細胞膜および核の対比染色を、FITC−DiOC6およびDAPIによって達成した。
【図3.3】未処理GMA32細胞、リポフェクタミンのみによってトランスフェションされた細胞、またはリポフェクタミンによって種々のDbait分子がトランスフェクションされた細胞のp53セリン15残基のリン酸化状態のウエスタンブロット分析;但し、さらなる放射線照射または有糸分裂阻害剤処理無し。
【図3.4】種々のDbait分子の存在下で4Gy放射線照射によってまたは種々の有糸分裂阻害剤(200nMノコダゾール、100nMナベルビン(ビノレルビン)または200nMタキソール(パクリタキセル))によって処理したGMA32細胞ならびに未処理のGMA32細胞のクローン原性生存。
【図4.1A】治療有りまたは無しでの、初期体積に対する時間tでの腫瘍体積の比率(V/V)としてモニタリングした、マウス上における異種移植されたヒト喉頭腫瘍の増殖。パネルA:未治療のアーム(n=38);パネルB:20μl培養培地(MEM)+3×2Gy/週 放射線照射で治療したコントロールアーム(n=30);パネルC:1nmol(20μg)Dbait32H+3×2Gy/週 放射線照射で治療したアーム(n=35)。MEMまたはDbait32Hを、放射線照射の5時間前に腫瘍内注射によって送達した。分割した放射線照射線量(2Gy)を、2日毎に1回、1週間に3回与えた。治療を5週間続け、合計で30Gy放射線照射となった。ドットは、各マウスの腫瘍体積の時間的経過を示す。実線は、最良の多項式フィッティング(best polynomial fitting)である。パネルDは、腫瘍体積の増加(V/V)<5である全てのマウスのKaplan−Meierプロットを示す。
【図4.1B】治療有りまたは無しでの、初期体積に対する時間tでの腫瘍体積の比率(V/V)としてモニタリングした、マウス上における異種移植されたヒト喉頭腫瘍の増殖。パネルA:未治療のアーム(n=38);パネルB:20μl培養培地(MEM)+3×2Gy/週 放射線照射で治療したコントロールアーム(n=30);パネルC:1nmol(20μg)Dbait32H+3×2Gy/週 放射線照射で治療したアーム(n=35)。MEMまたはDbait32Hを、放射線照射の5時間前に腫瘍内注射によって送達した。分割した放射線照射線量(2Gy)を、2日毎に1回、1週間に3回与えた。治療を5週間続け、合計で30Gy放射線照射となった。ドットは、各マウスの腫瘍体積の時間的経過を示す。実線は、最良の多項式フィッティング(best polynomial fitting)である。パネルDは、腫瘍体積の増加(V/V)<5である全てのマウスのKaplan−Meierプロットを示す。
【図4.1C】治療有りまたは無しでの、初期体積に対する時間tでの腫瘍体積の比率(V/V)としてモニタリングした、マウス上における異種移植されたヒト喉頭腫瘍の増殖。パネルA:未治療のアーム(n=38);パネルB:20μl培養培地(MEM)+3×2Gy/週 放射線照射で治療したコントロールアーム(n=30);パネルC:1nmol(20μg)Dbait32H+3×2Gy/週 放射線照射で治療したアーム(n=35)。MEMまたはDbait32Hを、放射線照射の5時間前に腫瘍内注射によって送達した。分割した放射線照射線量(2Gy)を、2日毎に1回、1週間に3回与えた。治療を5週間続け、合計で30Gy放射線照射となった。ドットは、各マウスの腫瘍体積の時間的経過を示す。実線は、最良の多項式フィッティング(best polynomial fitting)である。パネルDは、腫瘍体積の増加(V/V)<5である全てのマウスのKaplan−Meierプロットを示す。
【図4.1D】治療有りまたは無しでの、初期体積に対する時間tでの腫瘍体積の比率(V/V)としてモニタリングした、マウス上における異種移植されたヒト喉頭腫瘍の増殖。パネルA:未治療のアーム(n=38);パネルB:20μl培養培地(MEM)+3×2Gy/週 放射線照射で治療したコントロールアーム(n=30);パネルC:1nmol(20μg)Dbait32H+3×2Gy/週 放射線照射で治療したアーム(n=35)。MEMまたはDbait32Hを、放射線照射の5時間前に腫瘍内注射によって送達した。分割した放射線照射線量(2Gy)を、2日毎に1回、1週間に3回与えた。治療を5週間続け、合計で30Gy放射線照射となった。ドットは、各マウスの腫瘍体積の時間的経過を示す。実線は、最良の多項式フィッティング(best polynomial fitting)である。パネルDは、腫瘍体積の増加(V/V)<5である全てのマウスのKaplan−Meierプロットを示す。
【図4.2】ヌードマウスにおけるHep2異種移植腫瘍におけるシアニンC3標識Dbait32Hの分布。Superfect(トランスフェクション剤)を配合した20μg Dbait32H−Cy3を、1.5cm Hep2腫瘍中へ注射した。マウスを注射の6時間後に犠牲にした。腫瘍を取り出し、そして固定せずに分析のためクライオスライスした。DAPIを核染色のために使用した。
【図4.3】ヌードマウスにおけるHep2異種移植した腫瘍の放射線増感。腫瘍増殖を、種々の治療での10匹の動物の4つの群における治療の間(35日内に15セッション;灰色の背景)および治療後(白色の背景)、モニタリングした。個々の腫瘍増殖を各動物について示す。治療プロトコルを上部に示した。各治療セッションについて、トランスフェクション剤(PEI)を配合した2μg Dbait32Hを、2Gy放射線照射の5時間前に腫瘍中へ注射した。各群の腫瘍体積の5倍増加についての平均期間もまた示す。放射線照射のみを受けた群と比較しての、併用治療を受けた群について、p値を算出した。
【図4.4】上パネル:Hep2腫瘍によって皮下に異種移植されたヌードマウスの生存のKaplan−Meier表示。治療プロトコルを図4.3に記載した。5つの群を含めた:未治療;偽トランスフェクションそして放射線照射;組み合わせた放射線照射および増加する量のDbait32H(20、60および120μg/セッション)によって治療。各群についての動物の数を、表3.2に示す。灰色の背景は、治療の期間を示す。下パネル:治療の開始後15日、治療の終了時(35日)、および治療の終了後13日(35+13日)で撮影した3つの群(未治療;2Gy放射線照射と合わされた20および60μg Dbait32H/セッションで治療)を示す腫瘍の写真。
【図4.5A】中間段階治療(7セッション)での異種移植されたHep2腫瘍の組織学的分析。腫瘍を、記載される種々の治療プロトコルの開始の20日後に採取した。それらをホルマリンに固定し、そして組織切片をヘマトキシリン、エオシンおよびサフラン(safran)で染色した。各治療プロトコルについて2つの腫瘍を顕微鏡検査によって分析した。パネルa:各プロトコルの代表的な領域の写真。スケールバーは、400mm(パネル1〜4)および100mm(パネル5〜8)を示す。カラー写真は要請に応じて入手可能である。パネルb:壊死の程度を、壊死であると分析された組織切片の表面積の割合として表す。有糸分裂細胞およびアポトーシス細胞の数を、高出力で分析された約1000個の細胞の代表的な非壊死領域から推定した。
【図4.5B】中間段階治療(7セッション)での異種移植されたHep2腫瘍の組織学的分析。腫瘍を、記載される種々の治療プロトコルの開始の20日後に採取した。それらをホルマリンに固定し、そして組織切片をヘマトキシリン、エオシンおよびサフラン(safran)で染色した。各治療プロトコルについて2つの腫瘍を顕微鏡検査によって分析した。パネルa:各プロトコルの代表的な領域の写真。スケールバーは、400mm(パネル1〜4)および100mm(パネル5〜8)を示す。カラー写真は要請に応じて入手可能である。パネルb:壊死の程度を、壊死であると分析された組織切片の表面積の割合として表す。有糸分裂細胞およびアポトーシス細胞の数を、高出力で分析された約1000個の細胞の代表的な非壊死領域から推定した。
【図4.6】中間段階治療(7セッション)での異種移植されたHep2腫瘍のNMRイメージング。3つの代表的な断面画像を、未治療腫瘍、放射線照射(2Gy/セッション)によって治療した腫瘍、ならびに組み合わされたDbait32H(20μg/セッション)および放射線照射(2Gy/セッション)によって治療した腫瘍について示した。腫瘍の輪郭が白色の円によって描かれている。腫瘍内の灰色の塊は壊死領域を示した。
【図4.7】種々の腫瘍(Hep2:扁平上皮癌;U87:膠芽腫;LU1205およびSK28:2タイプの黒色腫)によって皮下に異種移植されたヌードマウスの生存のKaplan−Meier表示。治療期間を灰色の領域によって示す。
【図5.1A】パネルA:平均週齢12週のK−Rasv12G×Apc1638Nトランスジェニックマウスの3つの群/アームについての治療プロトコル:コントロール群(未治療)、5FU+CPT11によって治療した群、5FU+CPT11およびDbait32Hによって治療した群。それを3サイクルの治療によって行った。各サイクルは、経口投与による0.1mg Dbait32Hと共の、0.6mg 5FUおよび0.6mg CPT11の腹腔内注射、1週間に3回、続いて1週休息からなる。各群に含まれるマウスの数を括弧内に示す。終点は生存期間である;パネルB:3つの群の生存曲線のKaplan−Meyerプロット;パネルC:パネルBに示される3つの群の中央値生存期間。
【図5.1B】パネルA:平均週齢12週のK−Rasv12G×Apc1638Nトランスジェニックマウスの3つの群/アームについての治療プロトコル:コントロール群(未治療)、5FU+CPT11によって治療した群、5FU+CPT11およびDbait32Hによって治療した群。それを3サイクルの治療によって行った。各サイクルは、経口投与による0.1mg Dbait32Hと共の、0.6mg 5FUおよび0.6mg CPT11の腹腔内注射、1週間に3回、続いて1週休息からなる。各群に含まれるマウスの数を括弧内に示す。終点は生存期間である;パネルB:3つの群の生存曲線のKaplan−Meyerプロット;パネルC:パネルBに示される3つの群の中央値生存期間。
【図5.1C】パネルA:平均週齢12週のK−Rasv12G×Apc1638Nトランスジェニックマウスの3つの群/アームについての治療プロトコル:コントロール群(未治療)、5FU+CPT11によって治療した群、5FU+CPT11およびDbait32Hによって治療した群。それを3サイクルの治療によって行った。各サイクルは、経口投与による0.1mg Dbait32Hと共の、0.6mg 5FUおよび0.6mg CPT11の腹腔内注射、1週間に3回、続いて1週休息からなる。各群に含まれるマウスの数を括弧内に示す。終点は生存期間である;パネルB:3つの群の生存曲線のKaplan−Meyerプロット;パネルC:パネルBに示される3つの群の中央値生存期間。
【図5.2】5FU+CPT11によってならびに5FU+CPT11およびDbait32Hによって治療された群の肉眼検査または組織学検査による動物1匹当たりの消化管中の腫瘍の平均数。各群における動物数を括弧内に示した。全てのマウスを、上パネルに示すプロトコルの2週間後(第18週)に犠牲にした。コントロールアーム(未治療群、n=101)の平均数は、30.8/動物である(データを示さず)。
【図5.3A】消化管組織の蛍光顕微鏡検査分析。パネルA:プロトコル概要(i.p.:腹腔内注射;o.:経口投与)。パネルB:パネルAに与えられるプロトコルに従って治療された動物の腫瘍組織からの5μm切片上におけるDbait32H−FITC分子(左)および免疫蛍光標識γ−H2AX(右)の蛍光。下部は、上部(10×レンズを使用、白色のボックス)において示される領域の詳細(63xレンズを使用)を示す。蛍光性Dbait32H−FITCおよび標識されたγ−H2AXの共局在化は、DAPI対比染色された核の上の明るいドットとして現れている。
【図5.3B】消化管組織の蛍光顕微鏡検査分析。パネルA:プロトコル概要(i.p.:腹腔内注射;o.:経口投与)。パネルB:パネルAに与えられるプロトコルに従って治療された動物の腫瘍組織からの5μm切片上におけるDbait32H−FITC分子(左)および免疫蛍光標識γ−H2AX(右)の蛍光。下部は、上部(10×レンズを使用、白色のボックス)において示される領域の詳細(63xレンズを使用)を示す。蛍光性Dbait32H−FITCおよび標識されたγ−H2AXの共局在化は、DAPI対比染色された核の上の明るいドットとして現れている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
上述したように、本発明は、哺乳動物細胞におけるDNA修復システムを非遺伝子特異的様式で妨げ得る新規のクラスの治療分子を開示する。Dbait分子と呼ばれる、これらの新規の分子は、NHEJ経路(配列非依存性経路)に関与するタンパク質、特に、Kuおよび/またはDNA−PKcsタンパク質、のホロ複合体についての基質であり、細胞のDNA修復能を中和し、それによってDNA損傷治療に対するそれらの感受性を増大させ得る。
【0028】
従って、本発明は、このような分子、それらの製造、ならびに、特にDNA損傷治療と併用して増殖性疾患を治療するための、それらの治療的使用に関する。
【0029】
本発明のDbait分子は、それらの最小の長さ、少なくとも遊離末端の存在、および二本鎖部分の存在などの、多数の特徴によって定義され得る。下記に議論されるように、Dbait分子の重要な特徴は、それらの正確なヌクレオチド配列が、それらの活性に実質的に影響を与えないことである。さらに、Dbait分子は、未修飾および/または非天然骨格を含み得る。
【0030】
従って、本発明の第1目的は、核酸分子にあり、該核酸分子は、少なくとも約16bpを含み、少なくとも1つの遊離末端を有し、かつ、NHEJ経路に関与するKu複合体に少なくとも結合する。
【0031】
前記分子は、好ましくは、非ヒト起源のもの(即ち、そのヌクレオチド配列および/またはコンフォメーション(例えば、ヘアピン)はヒト細胞中にそうゆうものとして存在しない)、最も好ましくはリコンビナントおよび/または合成起源のものである。
【0032】
Dbait分子の作用機構によれば、Dbait分子の配列は、あったとしてもほとんど役割を果たさない。従って、遺伝子/タンパク質特異的ターゲッティングについて先行技術において使用された分子(例えば、アンチセンス、アンチジーン、siRNA、アプタマー、リボザイムなど)とは対照的に、Dbait分子は、公知の遺伝子、プロモーター、エンハンサー、5’−または3’−上流配列、エキソン、イントロンなどに対して顕著な程度の配列相同性または同一性を有さないかもしれない。言い換えれば、NHEJ経路を妨げるDbait分子の作用は配列非依存性であり、Dbait分子は、ヒトゲノム中の任意の遺伝子に対して70%未満、さらには50%未満の配列同一性を有し得る。
【0033】
この配列非依存性作用機構は、Dbait分子の特徴であり、このため、それらは、他の遺伝子特異的またはタンパク質特異的(配列依存性)治療薬剤、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、small interference RNA(siRNA、shRNAおよびmiRNA)、および免疫刺激性CpGオリゴヌクレオチド、ならびに特定のタンパク質を捕捉するように設計されたアプタマーとは明らかに異なる。
【0034】
好ましい態様において、Dbait分子の配列は、約70%、60%、55%または50%未満である、ヒト核酸配列に対する全体的な同一性程度を有する。配列同一性を測定する方法は、当該分野において周知であり、例えばBlastが挙げられる。
【0035】
特定の態様において、Dbait分子は、ストリンジェントな条件下で、ヒトゲノムDNAとハイブリダイズしない。典型的なストリンジェントな条件は、それらが完全に相補的な核酸と部分的に相補的な核酸とを区別することを可能にさせるようなものである(例えば、Sambrookらを参照のこと)。
【0036】
好ましい態様において、Dait分子の配列は、このような効果が望ましくない場合、周知のtoll様レセプター媒介免疫学的反応を回避するために、CpGを欠いている。CpGは、シトシン続いてグアニンからなるジヌクレオチドを指す。
【0037】
それらの作用機構を考慮して、Dbait分子の長さは、それがKuタンパク質複合体の適切な結合を可能にするに十分である限り、可変であり得る。実験セクションによって、Dbait分子の最小の長さは、Ku複合体への結合を確実にするためには、約16bpであることが示されている。好ましくは、Dbait分子は、16〜200bp、最も好ましくは24〜100bpを含む。Dbait分子の具体例は、24bp、最も好ましくは32bpを含む。実施例に示されるように、このような長さは、KuおよびDNA−PKcタンパク質を含むKu複合体の結合を可能にするに十分である。
【0038】
特に好ましいDbait分子は、24〜100bp、より有利には32〜100bpを含む。
【0039】
本発明に従うDbait分子は、DSBの模倣物として、少なくとも1つの遊離末端を有さなければならない。遊離末端は、遊離平滑末端または5’−/3’−突出末端のいずれかであり得る。特定の態様において、それらは、たった1つの遊離末端を含む。別の特定の態様において、それらは2つの遊離末端を含む。
【0040】
Dbait分子は、線形であり得、または、好ましくは、ヘアピン二本鎖核酸から作製され得る。このような場合、ループは、核酸、または当業者に公知の他の化学基、好ましくはリンカー、例えば、ヘキサエチレングリコールまたはテトラデオキシチミジレート(T4)であり得る。
【0041】
好ましい態様において、Dbait分子は、以下のようなものである:
1)二本鎖Dbait分子は、薬学的に許容される担体/賦形剤と共に使用される場合、細胞/組織体によって細胞核中へ取り込まれ得る;
2)Dbait分子の少なくとも1つの遊離末端が、DSB損傷感知、シグナル伝達および/または修復プロセスに関与する酵素のホロ複合体によって認識可能である;
3)Dbait分子の少なくとも1つの遊離末端が、該複合体によって腫瘍細胞ゲノムDNAに組み入れられやすい。
【0042】
特定の態様において、Dbait分子は、それらの構造および/または骨格に起因して、非複製性構造を有する。
【0043】
この点で、本発明に従うDbait分子は、排他的にあるいは主として(50%超)ネイティブなホスホジエステル骨格もしくは化学的に修飾されたホスホジエステル骨格、または化学基もしくは化学基の混合物を有する別の骨格を有し得、但し、修飾されたdsDNAは、NHEJ経路(特にKuおよびDA−PKcsタンパク質)ならびにDSB損傷感知またはシグナル伝達経路に関与するホロ複合体についての基質のままである。有利には、化学的修飾は、Dbait分子へ化学的安定性を与えるおよび/または起こるならばそれらのゲノム組込み時にそれらをさらなる複製(変異原性効果の可能性のある原因)から防止するように意図される。
【0044】
それらはまた、ペントフラノシル基の代わりに、糖模倣物、例えば、2’−O−アルキルリボース、2’−O−アルキル−C4’分岐リボース、シクロブチル類または他の炭素環式物またはヘキシトールを有し得る。
【0045】
好ましいDbaitは、各鎖の末端に(at the end of one or of each strand)1または数個の化学基を含む。好ましい化学基は、ホスホロチオエートを含む。または、好ましいDbaitは、メチルホスホネート骨格を含むヌクレオチドを有する。
【0046】
本発明の他の修飾された骨格は、ホスホルアミデート、モルホリノ核酸、2’−O,4’−Cメチレン/エチレン架橋固定化核酸、ペプチド核酸(PNA)、および短鎖アルキル、またはシクロアルキル糖間結合、または可変長の短鎖ヘテロ原子もしくはヘテロ環式糖間結合、または当業者に公知の任意の修飾ヌクレオチドを含む。
【0047】
米国特許第5,677,437号は、ヘテロ芳香族オリゴヌクレオシド結合を記載している。窒素リンカーまたは窒素含有基もまた、オリゴヌクレオチド模倣物を作製するために使用され得る(米国特許第5,792,844号および第5,783,682号)。米国特許第5,637,684号は、ホスホルアミデートおよびホスホロチオアミデートオリゴマー化合物を記載している。モルホリノ骨格構造を有するオリゴヌクレオチドも想定されている(米国特許第5,034,506号)。他の態様、例えば、ペプチド核酸(PNA)骨格において、オリゴヌクレオチドのホスホジエステル骨格は、ポリアミド骨格によって置換され得、塩基はポリアミド骨格のアザ窒素原子へ直接的または間接的に結合されている。他の合成オリゴヌクレオチドは、2位に以下のうちの1つを含む置換糖部分を含有し得る:OH、SH、OCH3、SCH3、F、OCN、OCH2CH2OCH3、O(CH2)nNH2またはO(CH2)nCH3、ここで、nは1〜約10である;C1〜C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリールまたはアラルキル;Cl;Br;CN;CF3;OCF3;O−S−;またはN−アルキル;O−、S−、またはN−アルケニル;SOCH3;SO2CH3;ONO;NO;N3。
【0048】
前記非複製性エレメントは、二本鎖フラグメントの内部位置または末端に組み入れられ得る。それ(それら)は、以下を含み得る:a)DNA複製のためのテンプレートとして使用され得ない単位、例えば、ポリエチレングリコール鎖、好ましくはヘキサエチレングリコール鎖、または、1つまたは複数のヘテロ原子、例えば、酸素、硫黄、窒素によって、または、1または複数のヘテロ原子を含む、ヘテロ原子基もしくはヘテロ環式基によって、最終的に(eventually)中断されたおよび/または置換された、任意の炭化水素鎖;b)DNAポリメラーゼまたはエキソヌクレアーゼによって影響されやすくないので、ブロッキングエレメントである単位、例えば、任意の3’−修飾ヌクレオチド、または当業者に公知の他のもの;c)ネイティブなオリゴヌクレオチド、例えば、ヘアピンフラグメントのループにおいて使用される場合、Tn、好ましくはテトラデオキシチミジレート(T4)。
【0049】
前記鎖は、化学合成、半生合成または生合成、任意の増幅方法、続いて任意の抽出および調製方法および任意の化学的修飾によって作製され得る。
【0050】
Dbait分子の生物活性は、例えば実施例2および3に記載されるように、インビトロおよび培養細胞に基づくアッセイによって、および/または、例えば実施例4および5に記載されるように、in vivoアッセイによって、評価され得る。最も容易かつ妥当であるアッセイは、DNA依存性プロテインキナーゼ活性アッセイである(実施例2、図1.4を参照のこと)。この簡易なアッセイは、Dbait分子のin vivo活性を今まで予測してきた。しかし、他の培養細胞に基づくアッセイ、例えば、放射線増強異常組込みの阻害のアッセイもまた、妥当である(実施例3、図2.3および図2.4を参照のこと)。
【0051】
特定の態様において、本発明のDbait分子は、DNA−PKを活性化することができる。
【0052】
特定の態様において、本発明のDbait分子は、放射線増強異常DNA組込みを阻害することができる。
【0053】
別の特定の態様において、本発明のDbait分子は、例えばゲルシフトアッセイによって測定されるように、インビトロでKu複合体に結合する。このようなKu複合体は、1または数個のKuタンパク質のみ、例えばKu70および/またはKu80、または1または数個のKuタンパク質と少なくともDNA−PKcタンパク質との組み合わせを含み得る。
【0054】
別の特定の態様において、本発明のDbait分子は、核に浸透する。
【0055】
本発明の最も好ましいDbait分子は、数個または全ての上記特徴を兼ね備える。
【0056】
培養細胞においてならびにヌードマウスおよび遺伝子操作されたマウス上の異種移植腫瘍において行われた実験によって、本発明のDbait分子は、放射線および/または化学療法へ提示された腫瘍の細胞/組織致死をトリガーすることが示された。
【0057】
従って、本発明はまた、DNA切断治療と共同して使用されるアジュバント組成物に関し、該組成物は、腫瘍細胞の核中に導入されるに有効な量で、薬学的に許容される担体/賦形剤と組み合わせて、上記に定義されるようなDbait分子を含む。
【0058】
本発明はまた、抗ガン療法に対する腫瘍感受性を促進するための方法に関し、該方法は、共同して、
−ガン細胞/組織中へ上記に定義されるようなDbait分子を導入すること、および
−DNA損傷法によってDNA切断を細胞内において誘導すること
を含む。
【0059】
本発明のある態様によれば、トランスフェクション剤が、前記導入工程に使用される。
【0060】
in vivo研究において使用されるプロトコルに基づいて、本発明は、放射線療法または化学療法と併用してのDbait分子の使用の臨床プロトコルを確立するための理論を提供する。プロトコルの基礎をなす理論は、Dbait分子が、DNA損傷事象が生じる場合に、細胞の核中へ送達されることである。従って、Dbait分子は、好ましくは、放射線療法より前に投与されるのに対して、それらは、各薬物の投与様式および薬物動態に依存して化学療法剤と共に提供され得る。
【0061】
典型的なプロトコルは、放射線照射より前に、例えば5時間前に、Dbait分子を投与することを含む。細分された放射線照射の使用が、特に有効である;例えば、6週間に15×2Gy、または2週間に6×5Gy。
【0062】
有利には、前記方法は、Dbait分子での治療と2つの化学療法とを合わせることを含む。例えば、5FUおよびCPT11が、丸1週間の休息によって間隔を空けて、3連続日、3回、一緒に注射される。または、Dbait分子での治療は、放射線療法と合わせられる。
【0063】
それは、特に患者の体重/体表面に依存して、当業者によってヒトに容易に適応される。
【0064】
好ましい態様において、Dbait分子は、上記で定義されるような化学的に修飾されたDbait分子である;およびヒト療法における他の実務。
【0065】
別の態様において、Dbait分子は、化学的に修飾されておらず、ネイティブな核酸フラグメントに対応し、しかし化学的に修飾されたフラグメントの特徴を示し、特に、前記化学的に修飾されたDbait分子に関して定義された塩基対の数および特性を有する。
【0066】
より特には、DNA鎖切断は、電離放射線(放射線療法)または化学反応(化学療法)によって達成される。
【0067】
このような方法は、制御されない細胞増殖に由来する疾患、特にガンを治療するためのDNA損傷療法と併用しての新規の治療アジュバントである。言い換えれば、Dbaitは、抗ガン療法において使用されるように主として意図とされるが、それはまた、多くの抗増殖治療において、例えば、乾癬を治療するために使用され得る。
【0068】
この方法は、増殖性障害を治療するために扱い可能である:
【0069】
それらは、非悪性、例えば、乾癬および血管増殖性狭窄/再狭窄であり得る。
【0070】
それらは、悪性であり得る。
【0071】
関係のある器官または領域は以下であり得る:肺および気管支、頭部および頸部、消化管、結腸直腸ガン、尿生殖路、婦人科学的器官、胸部、内分泌、皮膚、網膜、CNS、血液学的器官、既知または未知の原発部位の転移、レムナント(例えば、胸腺)。
【0072】
組織学的性質は、上皮、扁平上皮癌、腺癌、移行性癌(transitional carcinoma)、線維芽細胞/血管芽細胞由来(肉腫)、ニューロン、グリア由来、内分泌、カルチノイド、消化管支質、内皮、造血、胚であり得る。
【0073】
本発明はまた、腫瘍、特に、放射線療法および/または化学療法に対して高度に耐性である腫瘍を治療するための抗ガン剤を作製するための、前記化学的に修飾されていないDbait分子の使用に関し、該抗ガン剤は、DNA切断(例えば、損傷)治療、特に放射線療法または化学療法と共同して使用される。
【0074】
in vivoにおいて、化学的に修飾されたまたは修飾されていないDbait分子は、好適な許容される担体/賦形剤と共に、任意の好適な経路によって、例えば、経口、または静脈内、もしくは腫瘍内投与、または皮下注射、または局所投与などによって、投与される。
【0075】
本発明のさらなる目的は、DNA切断治療、特に放射線療法または化学療法と共同しての使用のための組成物であり、該組成物は、腫瘍細胞の核に導入されるに有効な量で、少なくとも1つのDbait分子を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む。例えば、腫瘍内投与が使用される場合、前記有効量は、腫瘍1cm当たり少なくとも0.01mg、好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも0.1mg、最も好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも0.5mgである。有効量は、デイリー治療プロトコル(例えば、3〜6連続週について1週間当たり5日、または3〜6連続週について1週間当たり3回)で投与され得る。または、腫瘍1cm当たり少なくとも0.1mg、好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも0.5mg、最も好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも1mgの有効量が、例えば、3〜6連続週について、ウィークリー治療プロトコルで投与され得る。他の投与経路が使用される場合、特にデイリー治療プロトコルにおいて、腫瘍1cm当たり少なくとも0.01mg、好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも0.1mg、最も好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも0.5mgの、腫瘍中におけるDbait分子の有効量を得るために、または、特にウィークリー治療プロトコルにおいて、腫瘍1cm当たり少なくとも0.1mg、好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも0.5mg、最も好ましくは腫瘍1cm当たり少なくとも1mgの、腫瘍中におけるDbait分子の有効量を得るために、当業者は前記量を適応させることができる。当然ながら、投薬量およびレジメンは、化学療法および/または放射線療法レジメンを考慮して当業者によって適応され得る。
【0076】
本発明のさらなる目的は、DNA損傷療法に対する細胞(例えば、腫瘍)感受性を増強するための医薬の製造のための、上記に定義されるDbait分子の使用にある。
【0077】
本発明のさらなる目的は、DNA損傷性抗ガン療法と併用してガンを治療するための医薬の製造のための、上記に定義されるDbait分子の使用にある。
【0078】
好ましくは、DNA損傷性抗ガン療法は、放射線療法および化学療法より選択される。さらに好ましくは、前記分子は、放射線療法より前におよび/または化学療法より前におよび/または化学療法と同時に投与される。
【0079】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図および表を参照して、以下の実施例において与えられる。
【0080】
実施例
分子および細胞研究、ならびにヌードマウス上の異種移植されたヒト放射線耐性腫瘍(頭頸部扁平上皮癌、膠芽腫、黒色腫)における、およびトランスジェニックマウスの消化管中のRasv12G×Apc1638N二重突然変異誘発腫瘍におけるアッセイを以下のために行った:
i)Dbait分子の生物学的活性を評価するため;
ii)抗ガン療法を増感させることにおいてDbait分子を使用することによるDNAベイトアプローチを検証するため;
iii)観察されたDbait媒介増感の基礎となる分子および細胞機構を解明するため。これらの研究の結果を、実施例において概説しそして要約する。
【0081】
実施例1:Dbait分子の設計、合成および作製
2タイプのDbait分子を設計した:線形またはヘアピンdsDNAフラグメント。ヘアピンDbait分子について、ヘキサエチレングリコールリンカーまたはテトラデオキシチミジレートをループとして使用した。
【0082】
dsDNA幹の末端は、ホスホロチオエート、メチルホスホネートまたは3’−3’ヌクレオチド結合の組み入れによって、3’−エキソヌクレアーゼによる化学分解から保護され得る。原則として、他の化学的修飾は、Ku70/Ku80結合およびDNA−PKcs活性化と適合性であるならば、使用され得る(MartenssonおよびHammarten,2002)。種々の幹長さ、8bp(Dbait8H)、16bp(Dbait16H)、24bp(Dbait24H)および32bp(Dbait32H)、ならびに異なる幹配列を有する異なるDbait分子をアッセイした。両末端が2つのヘキサエチレンループによってシールされたダンベル(dumbell)dsDNAフラグメント(Dbait32C)もまた、コントロールとして設計した。いくつかのDbait分子を、フルオレセイン(Dbait32H−FITC)、シアニン3(Dbait32H−Cy3)、シアニン5(Dbait32Hc−Cy5)、またはビオチン(Dbait32H−Biot)でタグされたTを介して標識した。表1.1、1.2および1.3に、この研究において使用したDbait分子の配列および化学構造を要約した。
【0083】
【表1】


表1.1:Dbait分子の配列および化学構造。大文字は、ホスホジエステル骨格を有するヌクレオチドである。ボールドの大文字は、ホスホロチオエート骨格を有するヌクレオチドである。半円の実線は、ヘキサエチレングリコールリンカーを象徴する。Dbait32−T4は、ヘキサエチレングリコールリンカーの代わりにリンカーとして4つのチミン(T)を含む。Dbait32Cは、ダンベル(クローズド)分子である。Dbait32Hc−5’5’は、シャッフルされた配列(同一の塩基組成、しかし異なる順序;表1.1中のDbait32Hbを参照のこと)および3’−3’結合を有する。Dbait32Ha、Dbait32Hb、Dbait32HcおよびDbait32Hdは、Dbait32Hの配列と比べた場合、同一の塩基組成を有し、しかし順序が異なる。
【0084】
【表2】


表1.2:記載される種々の標識されたDbait分子の配列および化学構造。大文字は、ホスホジエステル骨格を有するヌクレオチドである。ボールドの大文字は、ホスホロチオエート骨格を有するヌクレオチドである。ボールドの小文字は、メチルホスホネート骨格を有するヌクレオチドである。半円の実線は、ヘキサエチレングリコールリンカーを象徴する。種々の標識された(シアニン3または5、FITC)Dbat8Hc、Dbait32H、Dbait32HcおよびDbait32Hd分子が記載されている。
【0085】
【表3】


表1.3:64−bp Dbait64およびDbait64L分子の配列および化学構造。大文字は、ホスホジエステル骨格を有するヌクレオチドである。ボールドの大文字は、ホスホロチオエート骨格を有するヌクレオチドである。実線は、ヘキサエチレングリコールリンカーを象徴する。
【0086】
全てのDbait分子は、自動固相オリゴヌクレオチド合成(Eurogentec, Belgium)によって作製された。それらは、変性逆相HPLCによって精製された。変性キャピラリーゲル電気泳動。MALDI−TOF/LC−MSが品質管理のために使用された。90%を超えるオリゴヌクレオチドが全長である。全てのサンプルは出荷前に凍結乾燥された。
【0087】
受け取ると、全てのサンプルを、二重蒸留水に溶解した。Dbait分子の濃度を、変性条件(Dbait分子の熱安定性に依存して60℃〜90℃)下で、260nmでの吸光度から算出した(CantorおよびWarshaw,1970)。蛍光色素でタグされたDbait分子の濃度を、特定の色素の適切な波長での吸光度から算出した(FITC:ε=490nmで80000M−1・cm−1;Cy3:ε=550nmで150000M−1・cm−1;Cy5:ε=650nmで250000M−1・cm−1)。ダンベルdsDNAフラグメント(Dbait32C)を、アニーリング、および、3’−突出および相補末端とヘキサエチレングリコールリンカーとを有する2つのセミヘアピンのDNA T4リガーゼ(BioLabs)による連結によって作製した。
【0088】
熱力学および速度論を考慮して、以下のプロトコルを、それらの分子性に従って、Dbait分子のサンプルを作製するために使用した:
【0089】
− 二分子(bi-molecular)Dbait分子(Dbait32、Dbait32−NH2、Dbait64およびDbait64L)について:
二重蒸留水中の各鎖の1:1ストック溶液(可能な限り最も高い濃度)の混合物を、各鎖の完全な変性のために、90℃で5分間加熱しなければならない。アニーリングを、滑らかに室温へ戻すことによって行い(サンプルを典型的に水浴中に置く)、そして得られた二本鎖分子を−20℃においてアリコートで保存した。
【0090】
− 一分子(mono-molecular)Dbait分子(ヘアピン)について:
二重蒸留水中の200μMのヘアピンDbait分子を含有する溶液を、完全な変性のために、90℃で5分間加熱しなければならない。アニーリングを、氷水(0℃)中へサンプルを冷やすことによって行った。アリコートを−20℃で保存した。
【0091】
実施例2:Dbait分子の生化学分析
Dbait分子の作用機構を分析する第1工程として、一連のバンドシフトアッセイを、標準プロトコルに従って、Hep2細胞由来の核タンパク質抽出物の存在下において種々の32P放射標識Dbait分子を用いて行った。典型的に、10nM 32P放射標識Dbait分子を、TBE緩衝液中、30℃で10分間、種々の濃度の核タンパク質(0、10、20、40、80、160、および320ng/μL)の存在下でインキュベーションした。次いで、サンプルを5%アクリルアミドネイティブゲル上にロードした。電気泳動を4℃にて2時間95Vで行った。ゲルを乾燥し、そしてホスホルイメージャー(phosphorimager)(Molecular Dynamics)によってスキャンした。
【0092】
図1.1は、異なる長さの種々のDbait分子でのHep2核タンパク質抽出物の滴定の遅延バンドパターンを示している。最も短い8bp長のDbait分子(Dbait8H)を除いて、2つまでの遅延バンドが、より長いDbait分子について観察された:16、24bp長のDbait分子(Dbait16HおよびDbait24H)について1つの遅延バンドが観察され、一方、32bp長のDbait分子(Dbait32H、Dbait32H−poおよびDbait32)について2つの遅延バンドが観察された。32bp Dbait分子について、遅延バンド1の強度は、タンパク質の濃度が増加するにつれ、増加しそして次いで減少し、一方、遅延バンド2の強度は、核タンパク質抽出物の濃度の関数として増加する。
【0093】
マウスモノクローナル抗Ku70抗体(Santa Cruz Biotechnology)での免疫結合およびバンドシフトアッセイの組み合わせによって、遅延バンド1および2が、Ku複合体を含むことがわかった。バンド1および2は、抗Ku70抗体の添加時にバンド1および2へさらにシフトされた(図1.2)。バンド1は16〜32bp Dbaitへ結合された1つのKu70/80複合体を有し、一方、バンド2は、32bp Dbait分子へ結合された2つのKu70/80複合体を有するようである。精製したKuタンパク質を用いて行ったコントロール実験によって、この解釈が確認された。
【0094】
Kuタンパク質の同定は、Dbait分子は、長さ依存様式でNHEJ機構と相互作用することを示している。
【0095】
DNA末端連結を、種々のDbait分子の存在下においてHep2抽出物と共に32P標識605bp線形DNAフラグメントをインキュベーションすることによってモニタリングした。連結生成物は、605bp単量体から出発して、二量体、三量体または四量体として移動する。
【0096】
図1.3は、Hep2細胞の核抽出物中におけるDNA末端連結反応に対する種々のDbait分子の効果を示している。32P標識平滑線形二本鎖DNA分子の約16%が、インキュベーションの最初の2時間の間に二量体および三量体へ連結された。高分子量連結生成物の量は、16時間後、総投入DNAの30%まで増加した。Dbait32Hを線形32P標識フラグメントと比べて100倍モル過剰量で反応へ添加すると、反応は強力に阻害された。末端連結活性の同様の阻害が、HeLa細胞から調製した抽出物でも観察された(データを示さず)。大抵の実験において、Dbait32Hを、核抽出物へ、標識DNAフラグメントと同時に添加した。Dbait32Hを、フラグメントの添加前に30分間、前記抽出物と共にインキュベーションした場合、阻害の程度は同様であった。対照的に、Dbait32Hを核抽出物の30分後に添加した場合、連結の阻害はなかった(データを示さず)。これらのデータは、Dbait分子は、DNA末端連結反応の競争相手ではあるが、結合された複合体を置換しないことを示している。
【0097】
種々のDbait分子を、該分子を核抽出物へ添加しそしてDNAフラグメントと共に2時間インキュベーションすることによって、無細胞アッセイに対するそれらの効果について試験した。連結は、短い分子(Dbait8H)、一本鎖32nt長の分子(Dbait32ss)、またはダンベル分子(Dbait32C)によって大きく影響されなかた。Kuヘテロ二量体にのみ結合する、Dbait24HおよびDbait16Hは、Dbait32Hと同じぐらい効果的に連結を阻害した。これらのデータは、DNAフラグメント再連結が、Kuをリクルートし得るDbait分子によって強力に阻害されることを示している。
【0098】
DNA−PK活性を、キットSignaTECT DNA−dependent Protein Kinase Assay System(Promega,Madison,USA)を使用してモニタリングした。増加する量のHep2核抽出物(DEAE−Sepharose濾過によって内因性DNAを除去)を、250nM Dbaitの存在下においてアッセイした。抽出物、ビオチン化ペプチド基質および種々の量の核抽出物を、製造業者の指示に従って、(γ−32P)ATPと共に30℃で5分間インキュベーションした。ビオチン化基質を、ストレプトアビジン膜上に捕捉し、洗浄し、そしてシンチレーションカウンターにおいてカウントした。リン酸化のパーセンテージを、結合された放射能を1サンプル当たりの(γ−32P)ATPの総カウントによって割ることによって算出する。反応(10μl)を、60mM KOAc、100μg/ml BSA、0.5mM Mg(Cl)、1μl T4 DNAリガーゼ10×緩衝液(Promega,Madison,USA)中において行った。核抽出物およびDbaitを、32P標識DNA(10ng)の添加の2分前に、インキュベーションした。サンプルを37℃で種々の時間インキュベーションし、その後、連結を20mM EDTAおよび1mg/ml Proteinase K添加によって停止させた。連結生成物を、0.7%アガロースゲルによる電気泳動、続いてオートラジオグラフィー、およびホスホルイメージングによる定量によって、分析した。
【0099】
図1.4は、Hep2核タンパク質抽出物1.5μg中における、種々の長さ、配列および化学構造(修飾された骨格を含む)を有する多数のDbait分子2μgのDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA−PK)活性を示している。キナーゼ活性は、Dbait分子の二本鎖の「幹」の長さおよび構造に直接依存した。高いDNA−PK活性化が、2つのKu二量体複合体によって結合された32bp長のDbait分子で観察された。たった1つのKu二量体に結合するDbait分子(Dbait16HおよびDbait24H)は、Kuに結合しない短いDbait8Hと同じぐらい非効果的であった。同様に、一本鎖Dbait32ss/Dbait32cssおよびダンベルDbait32C(これは、遊離の二本鎖末端を有さない)は、DNA−PKを活性化しなかった。さらに、遊離平滑末端(3bpまで)での種々の骨格修飾物(ホスホチオエート(phosphothioate)、メチホスホネート(methyphosphonate)、3’−3’結合)、ならびに内部にタグされたリガンド(例えば、蛍光色素)は、DNA−PK活性を活性化し得る。Dbait32H、Dbait32Hb、Dbait32HcおよびDbait32Hdによって示されるように、DNA−PK活性は、たとえあったとしても顕著にはDbait分子の配列に依存しないことは、注目するに値する。
【0100】
この簡易な無細胞DNA−PK活性アッセイは、Dbait分子の遊離末端を有する二本鎖DNAおよび長さ(少なくとも約32bp)のみが、ある程度のそれらの配列および化学的修飾に関わらず、キナーゼ活性化のために必要とされることを指摘している。これは、配列非依存性DNA末端連結機構である、NHEJ経路におけるDNA−PKの意味合いと一致している。
【0101】
実施例3:Dbait分子のインビトロ活性
培養細胞中におけるDbait分子の活性を、外因性DNAフラグメントの異常組込みの阻害によって、およびDbait分子によってトランスフェクションされた細胞における放射線照射後の存続するDSBフォーカス(DSB foci)を検出することによって、電離放射線と共同しての、子宮頸癌(HeLa)およびHNSCC(Hep2)から誘導された2つの放射線耐性ヒトガン細胞株におけるクローン原性生存アッセイによって研究した。
【0102】
確立されたヒト細胞株Hep2(頭頸部扁平上皮癌、HNSCC)、LU1205およびSK28(黒色腫)を、動物実験について使用した。培養における細胞の研究を、Hep2、HeLa S3(子宮頸部上皮癌)、MO59KおよびMO59J(膠芽腫)を使用して行った。細胞を、100%湿度、95%空気および5%COの条件下で、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS;インビトロgen,Cergy Pontoise,France)および抗生物質(100μg/mlストレプトマイシンおよび100μg/mlペニシリン)を含有する完全DMEM中において単層培養で37℃にて増殖させた。LU1205を、4%熱不活性化FBS、1%グルタミンおよび抗生物質(100μg/mlストレプトマイシンおよび100μg/mlペニシリン)を含有するMCDB中において増殖させた。
【0103】
6ウエルプレート中において指数関数的に増殖している細胞を収穫し、そして1μg DNA当たり10μl Superfectの比率でDbait分子およびSuperfect試薬(Qiagen,Courtaboeuf,France)の混合物を含有する完全DMEM 700mlと共にインキュベーションした。標準条件下において37℃で5時間後、細胞をPBSで洗浄し、そして完全DMEMを添加した。示される場合、細胞を、トランスフェクションの開始の5時間後に1セッション(10Gy)で、またはトランスフェクションの開始の3、4、5および6時間後に137Cs単位(1Gy/分)で投与される0.5Gyの4セッションで、放射線照射へ曝露し、そして2週間増殖させた。プラスミド組込みが測定された場合、2μgのプラスミドをDbaitトランスフェクションへ添加し、そしてトランスフェクションの48時間後にプロマイシン(1.7μg/ml)を増殖培地へ添加した。プラスミドトランスフェクション効率を、FACScanフローサイトメーター(FACSalibur,Beckton−Dickinson,USA)においてGFP発現について10,000個の細胞を分析することによって評価した。
【0104】
3.1)誘導された細胞致死
Hela細胞中におけるDbait分子の8時間トランスフェクション、および137Cs源由来のγ線で行った2時間間隔を置いた0.5Gyの細分された放射線照射での4回の放射線照射(4×0.5Gy)によって、クローン原性生存の顕著な減少が、トランスフェクションされていない細胞と比較して観察された。結果を図2.1に与え、ここで、パネルAは、Dbait32およびDbait32Hの存在下での標準化生存クローン数の用量依存性を与え、パネルBは、83nM(培養培地中の濃度)での異なるDbait分子の存在下での標準化生存クローン数。細胞培養は、10%血清が補充されたMEMにおいてであった。Superfect(Qiagene)を、製造業者の指示に従って、トランスフェクション剤として使用した。クローン原性生存を、未処理細胞の数に対するコロニーを形成する処理細胞の数として評価した。
【0105】
前記効果は、用量依存性様式で、Dbait分子の長さおよび化学的性質に依存する。このアッセイにおいて、ヘアピンDbait分子(Dbait32H、Dbait32−T4およびDbait24H)および線形二本鎖Dbait分子(Dbait64およびDbait64L)は、クローン原性生存を顕著に減少させた。遊離dsDNA末端を欠いている(両末端でヘキサエチレングリコールリンカーによってキャッピングされた)ダンベルDbait32C分子はいかなる効果も示さなかったことは、注目する価値がある。ループの化学的性質は重要ではなかった(Dbait32H対Dbait32−T4)。これらの観察は、Dbait分子のいくつかが、培養細胞において電離放射線に対して細胞を効果的に増感し得ることを示している。
【0106】
図2.2は、前の観察を確認し、かつ、一本鎖または短い8bp Dbait分子はいかなる効果も有さなかったという追加のデータを提供している。さらに、それは、効果は配列依存性ではなかったことを示している(Dbait32H対Dbait32Hc)。
【0107】
【表4】


表2:放射線およびDbaitでの処理後のDNA−PKコンピテント細胞(MO59K)およびDNA−PK欠損細胞(MO59J)における細胞生存。細胞を希釈し、そして平板培養し、フラスコ上にコロニーを形成させ、次いでこれらに10Gyで放射線照射したおよび/または2μg Dbait32Hcをトランスフェクションした。両方の処理を合わせた場合、放射線照射をトランスフェクションの5時間後に行った。生存を、非処理サンプル中におけるクローン形成細胞数で割った処理後のクローン形成細胞数として算出する。平均値および標準偏差(括弧中)を、3つの独立した実験から算出した。
【0108】
γ放射線照射後のDNA−PK野生型および突然変異細胞生存に対するDbait32Hcトランスフェクションの効果を、コロニー形成によって評価した。放射線照射後の生存は、トランスフェクションされていないMO59K細胞における9.83%から、Dbait32Hcがトランスフェクションされた細胞における3.47%へ低下した。対応のDNA−PKヌル突然変異細胞株、MO59Jにおいて、対照的に、生存は、Dbait32Hcでのトランスフェクションによって影響されなかった。生存のレベルは、放射線照射のみの後のDNA−PKヌル突然変異細胞において観察されたものと比べて、放射線照射されかつDbait32Hcがトランスフェクションされた野生型細胞株において同様であった(3.97%と比べて3.47%)。これは、Dbait32Hcが、野生型トランスフェクション細胞においてDNA−PK依存性修復を阻害することを示唆している。
【0109】
3.2)Dbait分子による外因性DNAの異常組込みの阻害
電離放射線は、放射線増強組込みと呼ばれるプロセスである、外因性DNAの異常組込みを増進することが公知である。Hela細胞培養をこのアッセイのために使用した。細胞を、ネオマイシン耐性をコードする遺伝子を有する線状プラスミド2μg、および3つの異なる比率のDNA/Superfect(1:2、1:5、1:10)によって8時間の間トランスフェクションした。トランスフェクション時間の間、細胞を種々の放射線照射プロトコルへ曝露した:放射線照射無し、1Gyおよび2Gyの単回放射線照射、ならびに2時間毎に0.5Gyの細分された線量によって送達した2Gy放射線照射(4×0.5Gy)。プラスミドの組込みを、0.6mg/mlのG418を含有する培地において増殖するNeo細胞の選択によってモニタリングした。プラスミド組込みは、細分された放射線照射プロトコルによって顕著に増強された。2μgのDbait32H分子をトランスフェクションミックスへ添加すると、放射線増強組込みはなくなった(図2.3)。
【0110】
図2.4は、32bp Dbait分子(Dbait32HおよびDbait32Hc)のみが、プロマイシン耐性をコードする遺伝子を有する環状プラスミドの放射線増強異常組込みを阻害することができ、一方、より短いDbait分子(Dbait16H、Dbait8H)、一本鎖またはダンベルDbait分子(Dbait32ssおよびDbait32C)は有効ではなかったことを示す追加のデータを提供している。PI3K(DNA−PKを含む)の公知の阻害剤であるWortmann(Wort)およびNU7026(NU)をコントロールとして使用した。
【0111】
これらの実験は、Ku、DNA−PKおよびATMタンパク質を必要とする外因性DNAの放射線増強異常組込みが(Nimuraら,2002)、これらのDbait分子の作用機構がNHEJ経路に関与するタンパク質をさらうことによって作用するので、予想されるように、配列非依存性様式で32p Dbait分子によって阻害されることを示した。
【0112】
3.3)Dbait分子によってトランスフェクションされた細胞中における放射線照射後のDSB部位の残存
核中のDSB部位は、リン酸化H2AX(ヒストンH2Aの変異体)上に結合するγ−H2AX抗体の免疫蛍光検査によってモニタリングされ得る。大部分のγ−H2AXフォーカスが、放射線照射後、迅速に出現し、そしてDSB修復プロセスが進行するにつれ消滅する。
【0113】
トランスフェクションおよび放射線照射プロトコルは、上記のものと同様であった。免疫検出のために、細胞を、5cm直径ペトリ皿中の表面カバースリップ上において増殖させ、製造業者の指示に従って、Superfect(Qiagene)を用いて、FITCで標識されたDbait32H−FITC分子2μgをトランスフェクションした。トランスフェクションの開始の4時間後、細胞に放射線照射し(2Gy)、次いで、37℃で培地において2時間休息させた。3洗浄サイクル後、細胞を10分間2%PFAで固定した。1追加洗浄後、γ−H2AXの存在を、1×PBS,1%BSA中に1/100希釈したウサギ抗γ−H2AX抗体(4411−PC,Trevigen)で検出した。細胞を1×PBS,0.5%TritonX−100で3回洗浄し、次いで、1×PBS,1%BSA中に1/100希釈したローダミン結合ヤギ抗ウサギ抗体と共に、室温で1時間インキュベーションした。細胞を落射蛍光顕微鏡検査によって視覚化した。
【0114】
図2.5は、2Gy放射線照射の2時間後、蛍光性Dbait32H−FITC分子によってトランスフェクションされたHela細胞で得られた結果を示している。左パネル:Dbait32H−FITCの蛍光(明るいドットおよび斑点)および核中のγ−H2AX抗体の免疫蛍光検査によって検出されたDSB部位;右パネル:γ−H2AX抗体の免疫蛍光検査およびDAPI対比染色によって検出されたDSBフォーカスを有する核の同一の画像。左下角の矢印は、核中にDbait32H−FITCおよびγ−H2AXシグナルが存在しないことを示す。右上角の矢印は、共局在化されたDbait32H−FITCおよびγ−H2AXシグナルを示す。図2.5において示されるように、Dbait32H−FITCおよびγ−H2AX抗体のそれでの二重蛍光標識によって示されるように、DSB部位は、Dbait32H−FITC分子によってトランスフェクションされたHela細胞中において、放射線照射(2Gy)の2時間後に、残存していた。Dbait32H−FITCによって効果的にトランスフェクションされなかった細胞において、DSBフォーカスはほとんど検出不可能であったことは、注目するに値する。これらのデータは、DSB修復は、Dbait32Hによって効率的にトランスフェクションされた細胞中において害され、一方、DSB修復は、あまりトランスフェクションされなかった細胞中において完全であったことを示唆している。
【0115】
ウエスタンブロッティングを、ウサギモノクローナル抗ホスホThr68−Chk2(Cell Signaling Technology,Denver,USA)、モノクローナル抗β−アクチンクローンAC−15(Sigma,MS,USA)、抗H2AX(Cell Signaling Technology,Denver,USA)およびマウス抗ホスホ−ヒストンH2AX(Ser139)(Upstate,Tempcula,CA,USA)を使用して行った。
【0116】
図2.6上パネルは、PIKKによるヒストンH2AXの総H2AXタンパク質リン酸化と比べた場合の、ヒストンH2AXのリン酸化形態(γ−H2AX)のウエスタンブロット分析を示している。Hep2細胞に、5時間、種々のDbait分子、32Hc、24H、16Hおよび8Hを5時間トランスフェクションしたか、またはトランスフェクションしなかった。トランスフェクションの終わりに、それらに放射線照射し、1時間インキュベーションし、次いで分析した。Dbait32Hcは、コントロール(両方とも放射線照射細胞、または無し)と比較した場合、H2AXのリン酸化形態(γ−H2AX)を大いに増強したことが示されている。他のより短いDbait分子は、遥かに少ないかまたは全くない効果を有した。
【0117】
電離放射線誘導されるγ−H2AXフォーカス形成および消失に対するDbaitの効果を調べるために、Dbait32H−Cy3を、Superfect(Qiagen)によってHep2細胞中にトランスフェクションした。トランスフェクションされたまたはトランスフェクションされなかったHep2細胞に10Gyで放射線照射した。細胞を種々の時間(0分、30分、1時間、5時間、24時間、48時間、72時間、および7日)で固定した。g−H2AXについての一次マウスモノクローナル抗体(ser139)(Upstate,Tempcula,CA,USA)を、1/500希釈で使用し、そして0℃で2時間インキュベーションし、次いでPBS緩衝液で洗浄し、そして、1/200希釈したAlexa488結合二次抗体抗マウスIgG(Molecular Probe,Eugene,OR,USA)と共に暗室で1時間インキュベーションした。
【0118】
DSB部位の残存の動態を、FACScanフローサイトメーター(FACSalibur,Beckton−Dickinson,USA)によって、放射線照射した細胞中においてγ−H2AXによって明らかにした。図2.6下パネルは、γ−H2AXのレベルが、コントロール(放射線照射されたがトランスフェクションされなかった細胞、または未処理細胞)と比較して、Dbait32Hがトランスフェクションされた細胞において高くかつ長いままであったことを示している。この実験によって、Dbait32Hは、電離放射線誘導されたDSBの修復を実質的に遅延させたことが示された。
【0119】
実施例4:GMA32細胞株におけるDbait分子の効果ならびに放射線照射または有糸分裂阻害剤とのそれらの共同
【0120】
DNA切断を許容するGMA32チャイニーズハムスター線維芽細胞を、1mMピルビン酸ナトリウム、2mMグルタミン、1×MEM非必須アミノ酸、1×ペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%ウマ血清が補充されたMEM培地(Gibco)に維持した。典型的に、製造業者の指示に従って、種々のDbait分子(4.5μg)をトランスフェクション剤としてのリポフェクタミン2000(Life Technologies)(1:3の比)でトランスフェションする24時間前に、2×10〜4×10細胞を、5cm直径ペトリ皿中の、抗生物質を含まない培地中に播種した。トランスフェクションの終了時に、細胞に放射線照射するか(4Gy)または細胞を有糸分裂阻害剤:ノコダゾール(200nM)、ナベルビン(100nM)もしくはタキソール(200nM)で処理した。
【0121】
約16時間後、薬物を除去し、そして細胞を回復させた。細胞放射線照射は、137Cs源由来のγ線で行った。24時間回復後、細胞を回収し、そしてFACS、ウエスタンブロット分析のためにまたはクローン原性(生存)および各処理の効果を測定するために、使用した。
【0122】
図3.1は、未処理GMA32細胞、リポフェクタミンによってのみトランスフェクションされた細胞、またはリポフェクタミンによって種々のDbait分子がトランスフェクションされた細胞のFACS分析を示しており、但し、追加の放射線照射または有糸分裂阻害剤処理はない。M1相は、細胞死を示すsub−G1期にある細胞のパーセンテージを示す。顕著な細胞死は、二本鎖Dbait32およびヘアピンDbait32H分子の存在下においてのみ観察され、一方、ヘアピンDbait16Hおよび一本鎖Dbait32ssは、それぞれ、中間のおよび適度な細胞死を誘導した。最も短いヘアピンDait8Hは、コントロール(リポフェクタミンのみによってトランスフェクションされた細胞)と比べて、細胞死をトリガーしなかった。
【0123】
FACS Caliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて実験を行った。細胞を回収し、1mlの冷GM緩衝液(6.5mMグルコース、137mM NaCl、5.4mM KCl、2mM Na2HPO、1mM KHPO、0.5mM EDTA)中に懸濁し、そして3mlの冷100%エタノールを添加した後、4℃で少なくとも2時間保存した。
【0124】
その段階で、細胞を最終的に1×PBSで洗浄し、次いでPI溶液(50μg/mlヨウ化プロピジウム、25μg/ml RNase A、1×PBS緩衝液中)中において室温で30分間染色した。10,000事象をCellquestソフトウエアで分析し、そして細胞凝集物をゲートアウトした。DNAのsub−G1コンテントを有する細胞のパーセンテージをスコアリングした。
【0125】
同一の条件下で、γ−H2AX標識化によるセリン139上のリン酸化されたγ−H2AXのDSBフォーカスの免疫検出(核内の明るいドットまたは斑点)を、未処理GMA32細胞、リポフェクタミンによってのみトランスフェクションされた細胞、またはリポフェクタミンによって種々のDbait分子がトランスフェクションされた細胞において行った。細胞膜および核の対比染色をFITC−DiOC6およびDAPIによって達成した。Dbait分子の同様の効果が観察された(図3.2)。この実験は、二本鎖Dbait32およびヘアピンDbait32Hが両方とも、DNA損傷が核内で引き起こされたかのように同様の細胞反応を効果的にトリガーし得ることを示している。これは、これらのDbait分子が、NHEJ経路を介してのDSB修復に関与するタンパク質を捕捉するために使用され得るという物的証拠を提供している。
【0126】
免疫検出のために、種々のDbait分子をトランスフェクションする24時間前に、細胞を5cm直径ペトリ皿中のカバースリップ上において増殖させた。トランスフェクションの1日後、FITC−DiOC6(Molecular probes)を、37℃で5分間、培地に添加した(膜を対比染色するため)。3洗浄サイクル後、細胞を20分間4%PFAで固定した。
【0127】
さらに洗浄した後、セリン139上のリン酸化されたγ−H2AX(γ−H2AX)を、1×PBS,1%BSA中に1/100希釈したウサギ抗γ−H2AX抗体(4411−PC,Trevigen)で検出した。細胞を1×PBS,0.5%,TritonX−100で3回洗浄し、次いで、1×PBS,1%BSA中に1/100希釈したヤギ抗ウサギ抗体Alexa594(Molecular Probes)と共に室温で1時間インキュベーションした。細胞を落射蛍光顕微鏡検査によって視覚化した。
【0128】
さらなる実験を、DNA損傷シグナル伝達の証拠を探すために行った。タンパク質p53は、そのリン酸化状態を変化させることによって、DNA損傷シグナル伝達を媒介することおよび適切な反応(DNA修復、アポトーシスなど)を調整することにおいて、周知の主要なタンパク質である。特に、セリン15残基のリン酸化は、フィードバック制御として作用するMDM2タンパク質との相互作用に関与する。従って、p53のセリン15のリン酸化状態を、ウエスタンブロットによって評価した。図3.3は、細胞が二本鎖Dbait32分子またはヘアピンDbait32H分子のいずれかによってトランスフェクションされた場合に、p53セリン15が高度にリン酸化され、一方、より短いヘアピンDbait16Hは適度のリン酸化を誘導したことを示している。最も短いDbait8H分子および一本鎖Dbaut32ss分子はいずれも、p53タンパク質のセリン15において顕著なリン酸化を誘導することができなかった。この実験は、GMA32細胞中における二本鎖Dbait32およびヘアピンDbait32Hの両方の存在が、DNA損傷の場合に検出され、そして、恐らくATM活性化経路を介して、p53タンパク質リン酸化などのトランスデューサ反応に対するシグナルを誘導したという追加の証拠を提供している。
【0129】
ウエスタンブロット分析のために、細胞をLaemmli緩衝液中において溶解させた。等量の溶解物を、12%ポリアクリルアミドゲル中に再溶解した。タンパク質を、ニトロセルロース膜へ移し、これを5%脱脂乳でブロックし(1時間)、その後、5%脱脂乳を含有するTBST緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.5、150mM NaCl、0.1% Tween20)中に500倍に希釈した抗p53Ser15抗体(9284,Cell Signaling)と共に一晩インキュベーションした。次いで、ブロットを、TBST中において1/5000に希釈したホースラディシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(P0448,Dako)と共にインキュベーションした。タンパク質−抗体複合体を、増強された化学発光(RPN2106 ECL,Amersham)によって検出した。
【0130】
GMA32細胞中におけるDbait分子の放射線増感および化学増感の効果を、クローン原性(クローン生存)アッセイによって評価した。クローン原性アッセイのために、細胞をカウントした後、連続希釈を行い、種々の量の細胞を5cmペトリ皿に播種した。細胞の数は、100〜200(コントロール細胞)から3000(トランスフェクションされたおよび/または処理された細胞)までの範囲である。10日後、細胞(クローンを形成する)を4%パラホルムアルデヒドで固定し(20分)、次いで、メチレンブルー(15分)で着色し、そして各プレート(三重で)中のクローンの数をスコアリングした。
【0131】
図3.4は、4Gy放射線照射に対する放射線増感が、二本鎖Dbait32分子またはヘアピンDbait32H分子のいずれかがトランスフェクションされたGMA32細胞において観察されたことを示している。さらに、化学増感もまた、有糸分裂阻害剤(200nMノコダゾール、100nMナベルビン(ビノレルビン)または200nMタキソール(パクリタキセル))によって処理した場合、二本鎖Dbait32分子またはヘアピンDbait32H分子がトランスフェクションされたGMA32細胞について観察された。これらの薬物は、微小管の重合または脱重合の強力な阻害剤として公知である。Dbait32およびDait32Hは、これらの有糸分裂阻害剤の細胞傷害性活性を増強することができた。
【0132】
実施例5:ヌードマウス上の異種移植ヒト腫瘍の治療の放射線増感
放射線療法と共同してのDbait分子のin vivo活性を、放射線耐性細胞株(頭頸部扁平上皮癌HNSCC由来のHep2)または腫瘍フラグメント(膠芽腫由来のU87細胞株の皮下注射によって予め得た)の皮下注射によってヒト腫瘍が異種移植されたヌードマウスを使用して評価した。
【0133】
in vivoで概念実証を確立するために、研究を、主に、放射線耐性ヒトHNSCC腫瘍が異種移植されたマウスにおいて行った。腫瘍の局所放射線照射を行うために、マウスを適切に保護しながら、放射線照射を137Cs源由来のγ線で行った。典型的なアッセイ条件は、放射線照射の5時間前に、製造業者の指示に従って、トランスフェクション剤(カチオン性デンドリマー(Superefct,Qiagene)、ジオクタデシルアミドグリシル−スペルミン(DOGS,Polyplus transfection)、ポリエチレンイミン(PEI,Polyplus Transfection)を含む1nmol Dbait分子の好適な調製物の腫瘍内注射からなる。総線量30Gyを5週間で送達した:i)3×2Gy/週(2日毎に約1回);ii)5Gy/週;iii)15Gy/2週。
【0134】
腫瘍のサイズを1週間に2〜3回測定した。放射線照射およびMEM培地(Dbait希釈緩衝液)の腫瘍内注射による治療を、Dbait無しでの放射線照射治療のコントロールとして使用した。腫瘍の体積を算出した(V=2×a×b、式中、a=長さ、b=幅)。初期体積に対する時間tで測定された体積の比率(V/V)を、腫瘍進行の指標として使用した。マウスを100日まで追跡した。6匹の動物の少なくとも4つの独立したシリーズを試験した。
【0135】
結果を図4.1に示す(パネルA:未治療のアーム(n=38);パネルB:20μl培養培地(MEM)+3×2Gy/週 放射線照射のコントロールアーム(n=30);パネルC:1nmol(20μg)Dbait32H+3×2Gy/週 放射線照射のアーム(n=35)。
【0136】
MEMまたはDbait32Hを、放射線照射の5時間前に腫瘍内注射によって送達した。細分した放射線照射線量(2Gy)を、2日毎に1回、1週間に3回与えた。治療を5週間続け、合計で30Gy放射線照射となった。ドットは、各マウスの腫瘍体積の時間的経過を示す。実線は、最良の多項式フィッティングである。パネルDは、腫瘍体積の増加(V/V)<5である全てのマウスのKaplan−Meyerプロットを示す。
【0137】
有意な量のデータを、Dbait32H+3×2Gy/週 放射線照射(パネルC、n=35)のアームについて蓄積し、これは、コントロールアーム:未治療(パネルA、n=38)、MEM+3×2Gy(パネルB、n=30)と比較して、放射線増感を明らかに示した。Man−Whitney統計的検定によって、MEM+3×2Gyに対するDbait32H+3×2Gyのアームについてp値=0.00067が得られた。同一の傾向が、5倍の初期体積よりも小さい腫瘍体積(V/V<5)を有するマウスのKaplan−Meyerプロットにおいて観察された(パネルD)。
【0138】
引き続いて、さらなる研究を、Dait分子の分子特徴およびin vivo活性についての最適なプロトコルを規定するために、異種移植されたヒトHNSCC、U87、LU1205およびSK28腫瘍を有するマウスにおいて行った。研究したコホートから得られたデータは、生化学およびインビトロ研究(実施例2、3および4を参照のこと)において観察されたDbait分子の分子特徴と一致した。さらに、放射線増感は、Dbait32Hの腫瘍内注射と電離放射線との間の休止時間に依存することが示された:5時間>>1時間。
【0139】
放射線増感は、ヒト膠芽腫腫瘍が異種移植されたマウスにおいても観察された。膠芽腫は、最も高いグレードの脳腫瘍であり、迅速な致死的な結果を伴うその異常で攻撃的な進行ならびに放射線療法および化学療法に対する耐性を特徴とする。ヒト膠芽腫由来のU87細胞2〜3百万個を、先ず、ヌードマウスに皮下注射した。次いで、移植された腫瘍を取り出し、そして、約8mm膠芽腫腫瘍の皮下移植によって引き続いて他のヌードマウスに接種するために使用した。
【0140】
表3.1は、ヌードマウス上の異種移植されたヒト膠芽腫のパイロットシリーズのデータを示す。腫瘍内注射によってDbait32H(1nmol)および放射線照射(1×15Gy/週または3×5Gy/週、続いて1週間休息、続いて第2治療サイクル;電離放射線の総線量は30Gyであった)を受けたアームのうち50%のマウスが、治療開始後の第25日に<4cmの腫瘍体積を有し、一方、コントロールアーム(未治療、または放射線照射しかつ食塩水(PBS)を注射した)のうちの100%のマウスが、4cmを十分に超える腫瘍体積を有し、そして、治療終了前に動物倫理に関する現在の規則に従ってアッセイ終了前に殺した。
【0141】
【表5】


表3.1:Dbait32H(1nmol/腫瘍内注射)によるヌードマウスにおける異種移植ヒト膠芽腫の放射線増感のアッセイ。2つのプロトコルの放射線照射(腫瘍内注射後5時間)を使用した:1×15Gy/週または3×5Gy/週、続いて1週間休息、第2治療サイクル。総放射線照射線量は、30Gyであった。コントロール群は、未治療群、または食塩水(PBS)注射を受容した群であった。
【0142】
Dbait分子が放射線療法の効能を効果的に増強し得るという証拠を提供したこれらの心強いin vivoデータに基づいて、放射線療法を増感するためのアジュバント剤としてのDbait分子の使用に関する追加のデータを得、そして従って抗ガン療法におけるDNAベイトアプローチの原理の証明を補強するために、さらなる実験を設計し、そして行った。
【0143】
図4.2は、ヌードマウスにおけるHep2(HNSCC細胞株)異種移植腫瘍中における、シアニン3標識Dbait32Hの分布を示している。Superfect(トランスフェクション剤)が配合された20μg Dbait32H−Cy3を、1.5cm Hep2腫瘍中へ注射した。注射の6時間後にマウスを犠牲にした。腫瘍を取り出し、そして固定せずに分析のためにクライオスライスした。DAPIを核染色のために使用した。シアニン3の蛍光は、Dbait32H−Cy3分子が、毛細血管から腫瘍組織中に分布され、そして細胞核中に局在化されたことを示している。
【0144】
図4.3は、図4.1に記載されるHep2異種移植腫瘍についての別の実験を示している。種々の治療(未治療、Dbait32Hのみで治療、放射線照射のみによって治療、ならびに組み合わされたDbait32Hおよび放射線照射)での治療の間および後、10匹の動物の4つの群において、腫瘍増殖をモニタリングした。個々の腫瘍増殖を、各動物について示す。治療プロトコルは図4.1に記載されるものと同一であった。Hep2腫瘍の体積が150〜200mmに達した際に、実験を開始した。各治療セッションについて、製造業者に指示に従って、ポリエチレンイミン(PEI,Polyplus Transfection,Strasbourg,France)と配合した20μg Dbait32Hを、2Gy放射線照射の5時間前に、腫瘍へ注射した。腫瘍増殖は、放射線照射またはDbait32Hのみによって治療した群と比較して、組み合わされたDbait32Hおよび放射線照射によって治療した群において大幅に減少された。
【0145】
図4.4は、Hep2腫瘍によって皮下に異種移植されたヌードマウスの生存のKaplan−Meier表示を示している。倫理的理由のため、動物を、それらの腫瘍が2cmに到達した際に犠牲にした。この終点を、生存分析において死として使用した。治療プロトコルを図4.3に示した。5つの群を含めた:未治療群、偽トランスフェクションしそして放射線照射した群、組み合わせた放射線照射および増加する量のDbait32H(20、60および120μg/セッション)によって治療した群。各群についての動物の数を、表3.2に示す。明確な用量依存性効果が、Dbait32Hおよび2Gy放射線照射によって治療された群において観察された。治療の開始の15日後、治療の終了時(35日)、および治療の終了の13日後(35+13日)に撮影した群(未治療;2Gy放射線照射と合わされた20および60μg Dbait32H/セッションで治療)を示す腫瘍の写真。それらは、組み合わされたDbait32Hおよび放射線照射治療の利点の明確な視覚的比較を提供した。
【0146】
図4.5は、中間段階治療(7セッション)での異種移植Hep2腫瘍の組織学的分析を示す。図4.3に記載される種々の治療プロトコルの開始の20日後に、腫瘍を採取した。それらをホルマリン中に固定し、そして組織切片をヘマトキシリン、エオシンおよびサフランで染色した。各治療プロトコルについて2つの腫瘍を顕微鏡検査によって分析した。壊死およびアポトーシスの増強が、放射線照射のみによって治療された腫瘍と比べて、組み合わせられたDbait32Hおよび放射線照射によって治療された腫瘍において観察された。
【0147】
図4.6は、中間段階治療(7セッション)での異種移植Hep2腫瘍のNMRイメージングを示す。3つの代表的な断面画像を、未治療腫瘍、放射線照射によって治療した腫瘍、ならびに組み合わされたDbait32H(20μg/セッション)および放射線照射(2Gy/セッション)によって治療した腫瘍について示した。壊死領域は、放射線のみによって治療された腫瘍よりも、Dbait32Hおよび放射線照射によって治療された腫瘍においてより重要であった。これは、腫瘍の細胞学的分析(図4.5を参照のこと)と一致している。
【0148】
図4.7は、Hep2、U87、LU1205およびSK28腫瘍によって皮下に異種移植されたヌードマウス、ならびにそれらのコントロール群(未治療、放射線照射のみによって治療)の生存のKaplan−Meier表示を示す。Hep2のプロトコルを図4.3に示した。他の腫瘍を修飾したプロトコルによって治療し、ここで、5Gy細分化放射線照射を3連続日適用し、続いて4日休息し、そして治療を1回繰り返した。総放射線照射線量(6×5Gy)は、Hep2腫瘍を治療するために使用したプロトコルのそれ(15×2Gy)と等しい。
【0149】
組み合わせられたDbaut32Hおよび放射線照射の利益結果が、4つ全ての異種移植したヒト腫瘍において観察された。Dbait分子の基礎をなす作用機構は、全ての細胞に偏在するNHEJ経路であるので、これは、異なる組織構造を有する他の腫瘍についても当てはまることが予想される。
【0150】
腫瘍反応の記述的な分析を、各治療および各腫瘍タイプについて行った。第1日は、第1治療セッションの日であった。全ての動物を、少なくとも150日間またはそれらの倫理的犠牲まで追跡した。中央値の寿命を、Kaplan−Meier法に従って評価した。各治療群における個々のマウスの腫瘍体積四倍化時間からコントロール群の平均腫瘍体積四倍化時間を差し引くことによって、TGDを算出した。個々の測定値を使用して、平均TGDを各治療群について算出した。
【0151】
データは正規分布に従わないため、全体的生存曲線を、Kaplan−Meier推定値によって評価し、そしてノンパラメトリックLog Rank検定を使用して比較した。分析には、S−Plus 6.2バージョンソフトウエア(MathSoft Inc.,Seattle,WA)およびstatEL(ad Science,Paris,France)を使用した。グローバルLog Rankを、先ず、同一の腫瘍タイプを有する各群について行った。次いで、Dbaitでの治療を、偽治療コントロールと比較した。動物数(n)、相対リスク(RR)およびP値を表3.2に報告する。全ての検定を、0.05有意水準で有意と考えた。
【0152】
【表6】


表3.2は、上記のデータの一部を要約しており、かつ、ヌードマウスにおいて皮下に異種移植された3つのヒト腫瘍細胞株における異なるプロトコル(種々のDbait32分子+放射線照射 対 放射線照射+偽注射)によって治療された異種移植された動物の生存の比較を提供している。さらに、それは、Dbait32Hと比べてのDbait32Hcの同様の結果によって証明されるように、Dbait分子の配列は重要ではないことを示している。それはまた、一本鎖Dbaut32ssは高用量であっても不活性であったことを示している。
【0153】
Dbait32Hcは、周知のToll様レセプター媒介免疫刺激に起因する免疫反応の効果を避けるために、その配列においてCpGを欠いていることが指摘されるべきである。
【0154】
結論として、ヌードマウス上に異種移植されたヒト放射線耐性腫瘍(IHep2、U87およびSK28)および放射線感受性腫瘍(LU1205)の腫瘍増殖の顕著な減少は、Dbait分子がこれらの浸潤性腫瘍に対する放射線療法の効果を効果的に放射線増感し得るという証拠を提供している。従って、DNAベイトアプローチの概念実証がin vivoで達成された。
【0155】
実施例6:K−Rasv12G×Apc1638Nトランスジェニックマウスにおいて誘導した消化器腫瘍の治療の化学増感
内因性マウス腫瘍モデルを選択し、抗ガン化学療法を増感させるDbait分子の能力を評価した。このために、K−Rasv12GおよびApc1638N突然変異を有するトランスジェニックマウスを使用した。2つのトランスジェニックマウスを交配させることによってそれらを得た:一方は、マウスビリンプロモーターの制御下でK−Rasv12G突然変異体を有し(pVill/K−Rasv12G)(Janssenら,2002)、他方は、1アレル中にApc1638N突然変異を含む(Foddeら,1994)。pVill/K−Rasv12G×Apc1638N突然変異を有するトランスジェニックマウスは、約5月齢で消化管に自然発生腫瘍を発現し、そして急に死んだ。
【0156】
図5.1パネルAに示すプロトコルに従って、化学療法(5FU+CPT11)およびDbait32Hの併用によって、これに対して化学療法のみによって、平均週齢12週でそれらを治療した。プロトコルは3治療サイクルを含む。
【0157】
各サイクルは、経口投与による0.1mg Dbait32Hと共の、0.6mg 5FUおよび0.6mg CPT11の腹腔内注射、1週間に3回、続いて1週休息からなる。
【0158】
5FU(5フルオロウラシル,Teva)を50mg/mlの濃度で0.9%NaCl溶液中に調製した。CPT11/lrinotecan(Campto,Aventis)を20mg/mlの濃度で0.9%NaCl溶液中に調製した。マウスの健康状態および生存を、死亡するまでモニタリングした。Dbait分子に起因するさらなる毒性効果の臨床的兆候は観察されなかった。
【0159】
結果を図5.1に示す。パネルA:平均週齢12週のK−Rasv12G×Apc1638Nトランスジェニックマウスの3つの群/アームについての治療プロトコル:コントロール群(未治療)、5FU+CPT11によって治療した群、5FU+CPT11およびDbait32Hによって治療した群。それを3サイクルの治療によって行った。各サイクルは、経口投与による0.1mg Dbait32Hと共の、0.6mg 5FUおよび0.6mg CPT11の腹腔内注射、1週間に3回、続いて1週休息からなる。各群に含まれるマウスの数を括弧内に示す。終点は生存期間である;パネルB:3つの群の生存曲線のKaplan−Meierプロット;パネルC:パネルBに示される3つの群の中央値生存期間。
【0160】
減少されたコホートにもかかわらず、生存期間の改善が、化学療法のみ(173日)およびコントロールアーム(175日)のそれと比べて、化学療法(5FU+11CPT)およびDbait32Hの組み合わせを受容したアーム(中央値生存=226日、p値=0.2)において観察された(パネルBおよびC)。
【0161】
統計的有意性を高めるために、5FU+CPT11+Dbait32Hおよび5FU+CPT11アームのコホートを増加するさらなるアッセイが、現在進行中である。
【0162】
動物1匹当たりの腫瘍の平均数を評価するために、一連のマウスを治療の終了の2週後に犠牲にした(平均週齢18週)。腸を肉眼検査および組織学検査によって検査した(ヘマトキシリン−エオシン−サフランによって標準染色)。
【0163】
結果を図5.2に与える。各群における動物数を括弧内に示した。全てのマウスを、図5.1パネルAに示すプロトコルの2週間後(第18週)に犠牲にした。コントロールアーム(未治療群、n=101)の平均数は、30.8/動物である。
【0164】
検査は両方とも、化学療法のみを受容したアーム(n=7)と比較して、5FU+CPT11およびDbait32Hの組み合わせを受容したアーム(n=8)において腫瘍数の顕著な減少(>30%)を一貫して示した(図5.2)。コントロールアーム(未治療群、n=101)の平均数が30.8/動物であることは、注目するに値する。
【0165】
フルオレセインによってタグされたDbait分子(Dbait32H−FITC)ならびに5FU+CPT11で治療した腫瘍サンプルを、免疫蛍光染色法を使用して分析した。インビトロ知見(実施例3.3および4を参照のこと)を回顧して、γ−H2AX標識されたフォーカスを蛍光性Dbait分子で共染色した。図5.3はさらなるアッセイを示しており、ここで、パネルAに示されるように、18週齢K−Rasv12G×Apc1638Nトランスジェニックマウスを、3日間、化学療法(5FU+CPT11)およびDbait32H−FITCによって連続して治療し、そして最後の治療の2時間後に犠牲にした。腸を取り出し、そしてPBSによって洗浄した。次いで、腫瘍組織をサンプル化し、そして−80℃で凍結させた。分析のために、5μm組織学的サンプルを、クライオスタットによって凍結腫瘍組織から作製した。DNA複製フォーカスを、PBS中に1/500希釈したポリクローナルウサギ抗γ−H2AX抗体(Trevigen)、次いでPBS中に1/200希釈したシアニン3タグされたヤギ抗ウサギ抗体(Jackson)での免疫蛍光検査によって検出した。サンプルをさらにDAPIによって対比染色した。サンプルを落射蛍光顕微鏡検査によって視覚化した。Dbait32H−FITCの蛍光が、腫瘍組織中に不均一に広められ(腺構造体間の支質および上皮)、優先的な核局在化を有したことがわかった(図5.3、パネルB、左)。同様のパターンが、γ−H2AX部位について見られた(図5.3、パネルB、右)。共局在化されたDbait32H−FITCおよびγ−H2AXシグナルがほとんど観察された。
【0166】
結論として、生存の改善および動物1匹当たりの腫瘍数の減少は、Dbait分子(Dbait32H)による、K−Rasv12G×Apc1638N突然変異を有するトランスジェニックマウス中における消化器腫瘍の治療の化学増感の証拠を一貫して示している。治療した動物中における腫瘍組織の徹底的な分析は、Dbait分子はDNA修復プロセスを妨げるという証拠を提供する。
【0167】
Dbait32H分子の経口投与はこの研究においてトランスフェクション剤を含まなかったことが、指摘されるべきである。
【0168】
要約すると、生化学およびインビトロデータは、直接的または間接的なDNA損傷(電離放射線または化学療法剤)によって引き起こされる修復シグナル伝達経路およびNHEJ経路によるDSB修復を妨げることによるDbait分子の作用機構と明らかに一致している。配列非依存性、NHEJ経路(Jackson,2002;Barnes,2001、DownsおよびJackon,2004)の性質に起因して、最小の長さ(約32bp)を超えるDbait分子の長さおよび配列について制限はない。インビトロ研究によって、Dbait分子によるマウス中の腫瘍の効果的な放射線および化学増感が確認された。総合すると、全てのデータが、Dbait分子の分子特徴を特徴とする、DNAベイトアプローチの概念実証を一貫して提供した。
【0169】
【表7】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分子であって、該分子が、少なくとも24bpの二本鎖部分を含み、少なくとも1つの遊離末端を有し、CpGを欠いており、ヒトゲノムにおける任意の遺伝子に対して70%未満の配列同一性を有し、各鎖の末端にまたは少なくとも3’末端鎖に1または数個のホスホロチオエートまたはメチルホスホネート骨格を有するヌクレオチドを含み、かつ、該分子が、二本鎖切断DSB修復のNHEJ経路に関与する少なくともKuタンパク質による結合についての基質である、核酸分子。
【請求項2】
該分子が、24〜100bpを含む、請求項1記載の分子。
【請求項3】
該分子が、線形またはヘアピン核酸分子である、請求項1または2記載の分子。
【請求項4】
該分子が、ヘアピン核酸分子であり、ここで、該ループが核酸または化学基を含む、請求項3記載の分子。
【請求項5】
該遊離末端が、平滑であるかまたは5’もしくは3’突出している、請求項1〜4のいずれか1項記載の分子。
【請求項6】
該分子が、放射線増強異常外因性DNA組込みをインビトロで阻害する、請求項1〜5のいずれか1項記載の分子。
【請求項7】
該分子が、少なくともKu70またはKu80を含むKu複合体をインビトロで結合する、請求項1〜6のいずれか1項記載の分子。
【請求項8】
該分子が、少なくともDNA−PKcタンパク質を含むKu複合体をインビトロで結合する、請求項1〜7のいずれか1項記載の分子。
【請求項9】
該分子が、細胞によって細胞核中へ取り込まれ得る、請求項1〜8のいずれか1項記載の分子。
【請求項10】
該分子が、2’−デオキシヌクレオチド骨格を含み、かつ、場合により、アデニン、シトシン、グアニンおよびチミン以外の1または数個の修飾されたヌクレオチドおよび/または核酸塩基を含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の分子。
【請求項11】
ペントフラノシル基の代わりに、糖模倣物、例えば、2’−O−アルキルリボース、2’−O−アルキル−C4’分岐リボース、シクロブチルまたは他の炭素環式物またはヘキシトールをさらに含む、請求項10記載の分子。
【請求項12】
DNA複製、DNA修復、または損傷シグナル伝達プロセスを妨害する、少なくとも1つの埋め込まれたエレメントをさらに含み、該少なくとも1つのエレメントが、二本鎖分子の中央または末端に組み入れられている、請求項1〜11のいずれか1項記載の分子。
【請求項13】
a)ポリエチレングリコール鎖、好ましくはヘキサエチレングリコール鎖、または、1つまたは複数のヘテロ原子、例えば、酸素、硫黄、窒素によって、または、1または数個のヘテロ原子を含む、ヘテロ原子基もしくはヘテロ環式基によって、場合により中断されたおよび/または置換された、任意の炭化水素鎖;
b)DNAポリメラーゼまたはエキソヌクレアーゼによって影響されやすくないような、ブロッキングエレメントである単位、例えば、任意の3’−修飾ヌクレオチド;
c)ネイティブなオリゴヌクレオチド、例えば、ヘアピンフラグメントのループにおいて使用される場合、Tn、好ましくはテトラデオキシチミジレート(T4)
を含む、請求項12記載の分子。
【請求項14】
Dbait32Ha、Dbait32Hb、Dbait32Hc、Dbait32Hd、Dbait32Hc−3’mp、Dbait32Hc−5’3’mp、Dbait32Hc−Cy3、Dbait32Hc−Cy5、およびDbait32Hd−FITCより選択される、請求項1〜13のいずれか1項記載の分子。
【請求項15】
Dbait32Hcである、請求項14記載の分子。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項記載の分子および薬学的に許容される担体もしくは賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項17】
経口経路、または静脈内、腫瘍内もしくは皮下注射、または頭蓋内もしくは動脈内注射もしくは注入、または局所投与に好適である、請求項16記載の薬学的組成物。
【請求項18】
ガンを治療するための使用のための併用調製物としての、請求項1〜15のいずれか1項記載の分子と、DNAの二本鎖切断を直接または間接的に引き起こし得る化学薬剤とを含む、医薬品。
【請求項19】
該分子が、化学薬剤より前にまたは化学薬剤と同時に投与される、請求項18記載の医薬品。
【請求項20】
DNA損傷性抗ガン療法に対する腫瘍感受性を増強するための医薬の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項記載の分子の使用。
【請求項21】
DNA損傷性抗ガン療法と併用して使用されるガンを処置するための医薬の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項記載の分子の使用。
【請求項22】
該DNA損傷性抗ガン療法が、放射線療法および化学療法より選択される、請求項20または21記載の使用。
【請求項23】
該分子が放射線療法より前に投与される、請求項20〜22のいずれか1項記載の使用。
【請求項24】
該分子が化学療法より前または化学療法と同時に投与される、請求項20〜22のいずれか1項記載の使用。
【請求項25】
該ガンが、CNSガン、頭頸部ガン、結腸直腸ガン、肝臓ガン、消化管ガン、尿生殖路ガン、肺ガン、皮膚ガン、乳ガンおよび子宮頸ガンより選択される、請求項20〜24のいずれか1項記載の分子の使用。
【請求項26】
該分子が、経口経路、または静脈内、腫瘍内もしくは皮下注射、または頭蓋内もしくは動脈内注射もしくは注入、または局所投与によって投与される、請求項20〜25のいずれか1項記載の使用。

【図1.4】
image rotate

【図2.1A】
image rotate

【図2.1B】
image rotate

【図2.2】
image rotate

【図2.3】
image rotate

【図2.4】
image rotate

【図2.5】
image rotate

【図2.6】
image rotate

【図4.1A】
image rotate

【図4.1B】
image rotate

【図4.1C】
image rotate

【図4.1D】
image rotate

【図4.5B】
image rotate

【図5.1A】
image rotate

【図5.1B】
image rotate

【図5.1C】
image rotate

【図5.3A】
image rotate

【図5.3B】
image rotate

【図1.1】
image rotate

【図1.2】
image rotate

【図1.3】
image rotate

【図3.1】
image rotate

【図3.2】
image rotate

【図3.3】
image rotate

【図3.4】
image rotate

【図4.2】
image rotate

【図4.3】
image rotate

【図4.4】
image rotate

【図4.5A】
image rotate

【図4.6】
image rotate

【図4.7】
image rotate

【図5.2】
image rotate


【公表番号】特表2010−504085(P2010−504085A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528722(P2009−528722)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059948
【国際公開番号】WO2008/034866
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(500026533)アンスティテュ・キュリ (20)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT CURIE
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(506140550)ミュゼオム・ナショナル・ディストワール・ナチュレル (4)
【氏名又は名称原語表記】MUSEUM NATIONAL D’HISTOIRE NATURELLE
【出願人】(500366598)インセルム(アンスティチュ・ナショナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (17)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
【Fターム(参考)】