説明

ERK2ノックダウン非ヒト動物

【課題】 特定の遺伝子の機能を低減させた、長期記憶障害モデル及び先天性心疾患モデル非ヒト動物、当該動物を用いて被検物質の期記憶や心筋障害の改善効果を有する物質を効率よくスクリーニングする方法等を提供する。
【解決手段】 本発明の非ヒト動物は、染色体上のERK2遺伝子の機能が低減しており、長期記憶障害又は先天性心疾患のモデル動物として有用である。本発明の非ヒト動物としては、例えば、染色体上のERK2遺伝子の発現調節領域が改変されたERK2遺伝子低発現アレルのホモ接合体、又は染色体上のERK2遺伝子の改変によりERK2遺伝子の機能が欠損されたERK2遺伝子欠損アレルのヘテロ接合体等が挙げられる。本発明の非ヒト動物を用いることにより、長期記憶傷害や心筋障害の治療等に有用な物質を評価、選別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ERK2遺伝子を改変させた非ヒト動物、当該動物を疾患モデルに用いて長期記憶障害を治療・予防に適した薬剤を評価、探索する方法、及び先天性心疾患を含む心筋障害の治療に適した薬剤を評価、スクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ERKはMAPKスーパーファミリーの一員であり、細胞外の刺激を核へ伝達する主要なシグナル伝達経路を形成する。もともと細胞分裂と分解を制御する因子として見いだされたERKシグナル経路は、シナプスの可塑性や学習と記憶の分野においても主要な役割を担うことが報告されている。例えば、非特許文献1〜3には、ERK活性が海馬における長期記憶増強(LTP)の誘導に必要であることが開示されている。
【0003】
ERK1とERK2は、脊椎動物で最初のMAPKキナーゼとして知られ、両者はアミノ酸配列で84%の相同性がある。これら2つのERKは、共に組織全体に分布し、いずれもMAPKキナーゼ(MEK)により活性化され、基質特異性が類似するなど多くの共通点を有している。従来、ERKのシグナル解析には、MEK阻害剤が用いられることが多いが、ERK1とERK2を識別できないMEKの阻害剤によっては、ERK1とERK2とが機能的に重複するものなのか、相補的なのか、それとも互いに異なるのか、という点について理解することは極めて困難である。
【0004】
非特許文献4には、ERK1ノックアウトマウスに顕著な学習障害は見られなかったことが報告されている。また、非特許文献5には、ERK1欠損マウスは、線条体依存性の長期記憶を亢進することが示されている。一方、ERK2は、そのダブルノックアウトマウスが胚性致死であるため、ERK2の機能は十分に解明されていない。
【0005】
また、RAS−RAF−MEK−ERKカスケードにおける変異は、神経−心臓−顔面−皮膚(NCFC)症候群と総称される一群の遺伝病を引き起こす。これらの遺伝病患者は、顔面の異常、心臓奇形、小人症、性器異常、知的障害等の症状がある点で共通している。さらに、ディジョージ症候群や軟口蓋心臓顔貌症候群は、ヒト第22染色体長腕(q11.2)領域のヘテロ遺伝子の欠失を原因とするため22q11.2欠失症候群と総称され、心血管奇形や異常顔貌等の共通した特徴を示すことが知られている。しかし、ERK2遺伝子と、NCFC症候群や22q11.2欠失症候群との関係についてはよく知られていない。
【0006】
【非特許文献1】Nature Neuroscience 1:602-609 (1998)
【非特許文献2】Journal of Neuroscience 19:3535-3544 (1999)
【非特許文献3】Learn Memory 6:478-490 (1999)
【非特許文献4】Learn Memory 8: 11-19 (2001)
【非特許文献5】Neuron 34:807-820 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特定の遺伝子の機能を低減させた非ヒト動物、及び長期記憶障害や先天性心疾患の治療に有用な病態モデル非ヒト動物を提供することにある。
本発明の他の目的は、長期記憶の改善効果を簡易に評価する方法、同方法を用いて長期記憶障害の予防・治療薬を効率よくスクリーニングする方法、及び薬理効果に優れた長期記憶増強剤を効率よく得る方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、心筋障害の改善効果を簡易に評価する方法、心筋障害の治療薬を効率よくスクリーニングする方法、及び薬理効果に優れた心筋分化促進剤や心筋障害の治療薬を効率よく得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、染色体上のERK2遺伝子を改変することにより、当該ERK2遺伝子の機能を低減させた非ヒト動物が、長期記憶障害モデル及び先天性心疾患モデルとして利用できること、さらに、これらのモデル動物を用いて、長期記憶障害や心筋障害を改善する効果のある物質を容易に評価でき、さらに同障害の予防・治療薬を効率よく得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、染色体上のERK2遺伝子の機能が低減した非ヒト動物を提供する。前記動物は、長期記憶障害又は先天性心疾患のモデル動物として利用できる。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする方法により、被検物質について長期記憶の改善効果又は心筋障害に対する効果を評価する方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記方法を用いた長期記憶障害の予防・治療薬又は心筋障害の治療薬のスクリーニング方法、前記方法により得られる長期記憶障害の予防・治療薬又は心筋障害の治療薬を提供する。
【0012】
本発明は、また、ERK2アゴニストを有効成分に含む長期記憶増強剤、心筋分化促進剤、心筋障害の治療薬を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば 染色体上のERK2遺伝子の機能を低減させた非ヒト動物を長期記憶障害や先天性心疾患のモデルとして用いることにより、長期記憶障害の予防・治療や心筋障害の治療に有効な物質を効率よく評価、選別することができる。また、ERK2アゴニストを有効成分に用いることにより、長期記憶増強や心筋分化促進、心筋障害治療などの効果に優れた薬剤を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ERK2は、MAPKスーパーファミリーの一員であって、MEKによるリン酸化によって活性化されてシグナル伝達を促進する蛋白質である。ERK2遺伝子の塩基配列及びERK2のアミノ酸配列は公知であり、例えばヒト及びマウスERK2遺伝子の塩基配列は、GenBank Accession No.NC_000022及びNo.NC_000082で表される配列等が挙げられる。
【0015】
本発明の非ヒト動物は、染色体上のERK2遺伝子を改変することにより、当該ERK2遺伝子の機能を低減させた構成である。本発明における「ERK2遺伝子の機能を低減させた」とは、個体全体のERK2遺伝子の発現量が野生型より減少させた、またはERK2タンパク質の機能変異により減少させたことを意味している。
【0016】
本発明のERK2遺伝子の機能を低減させた非ヒト動物の代表的な例としては、ERK2遺伝子低発現アレルのホモ接合体、ERK2遺伝子産物低機能アレルのホモ接合体、ERK2遺伝子欠損アレルと野生型アレルとのヘテロ接合体、ERK2遺伝子低発現アレルと野生型アレルのヘテロ接合体、ERK2遺伝子産物低機能アレルと野生型アレルのヘテロ接合体、ERK2遺伝子産物低機能アレルとERK2遺伝子低発現アレルのヘテロ接合体、ERK2遺伝子低発現アレルとERK2遺伝子欠損アレルのヘテロ接合体、及びERK2遺伝子産物低機能アレルとERK2遺伝子欠損アレルのヘテロ接合体等が挙げられる。なかでも、個体を用いてERK2遺伝子の機能解析が容易となる程度にERK2遺伝子が機能している点で、好ましくは、ERK2遺伝子低発現アレルのホモ接合体、ERK2遺伝子産物低機能アレルのホモ接合体、ERK2遺伝子欠損アレルと野生型アレルとのヘテロ接合体、ERK2遺伝子低発現アレルと野生型アレルのヘテロ接合体、ERK2遺伝子産物低機能アレルと野生型アレルのヘテロ接合体等が用いられ、特に好ましくはERK2遺伝子低発現アレルのホモ接合体、ERK2遺伝子欠損アレルと野生型アレルとのヘテロ接合体、ERK2遺伝子低発現アレルと野生型アレルのヘテロ接合体等が用いられる。
【0017】
前記ERK2遺伝子欠損アレルとは、染色体上のERK2遺伝子の一部又は全部が欠失、付加、置換された構成であって、ERK2遺伝子が転写・翻訳されないか、転写・翻訳産物に異常があるためERK2の機能が発揮されないものを意味している。ERK2遺伝子欠損アレルの構成は、ERK2の機能が欠損されていれば特に限定されず、ERK2遺伝子の改変は適宜な部位へ一又は複数箇所施すことができ、部分的な転写・翻訳によるmRNAやポリペプチド断片が生成されていてもよい。
【0018】
前記ERK2遺伝子低発現アレルとは、染色体上のERK2の一部の塩基配列が欠失、付加、置換された構成であって、ERK2遺伝子産物は野生型と同じであるが、その発現量が低減されているものを意味している。ERK2遺伝子低発現アレルの構成は、ERK2の発現が低減されていれば特に限定されない。改変は、機能を維持したままで、発現量が低下していればイントロン、エキソンのいずれの領域に施されてもよいが、イントロンが好ましい。例えば、図1(C)に示されるように、染色体上のintron 1にLoxP配列や選択マーカー等の任意の塩基配列を挿入した構成が挙げられる。
【0019】
また、発現量を効率よく低減しうる点で、発現制御領域に改変を施すことも好ましい。発現制御領域は、ERK2遺伝子の転写・翻訳を制御できれば公知でも未知の領域であってもよく、例えば、プロモーター、エンハンサー、調節配列等が例示できる。プロモーター領域としては、例えば、ERK2の転写開始領域より上流148bp(-148)から下流223bp(+223)に渡る371bpが知られている(J Biol Chem 272, 34; 21575-21581 (1997)。
【0020】
前記ERK2遺伝子産物低機能アレルとは、染色体上のERK2の一部の塩基配列が欠失、付加、置換された構成であって、ERK2遺伝子産物が野生型と異なり、ERK2遺伝子産物(ERK2タンパク質)の機能が低減されているものを意味している。ERK2遺伝子産物低機能アレルの構成は、ERK2タンパク質の機能が低減されていれば特に限定されない。改変は、エキソンの改変によりその機能が低減されているものであればよく、例えば翻訳領域の改変であってもよい。
【0021】
ERK2遺伝子の機能を低減させた非ヒト動物の作製方法としては、公知の遺伝子改変法を用いてトランスジェニック動物を作出することができ、例えば点変異の導入、相同組換え、Cre/LoxPシステム等を利用できる。
【0022】
ERK2遺伝子欠損アレルを持つERK2遺伝子の機能を低減させた非ヒト動物は、例えば、Cre/LoxPシステムを用いて作製できる。例えば、図1に示されるように、野生型のERK2遺伝子のintron 1からintron 6の領域(B)に対し、ERK2遺伝子のintron 1にLoxP配列で挟まれた選択マーカー遺伝子(ネオマイシン:neo)カセットを逆位で挿入し、intron 3に第3のLoxP配列を挿入し、且つ3’末端にDTフラグメントを連結した構成のターゲティングベクター(A)を利用できる。このターゲティングベクター(A)で相同組換えを起こさせ、DT活性を指標として、染色体上にLoxP配列で挟まれたneo遺伝子カセットが逆位で組み込まれたERK2-floxed-neo(floxN:C)ES細胞を選択し、次いで、染色体上のfloxN領域にCre酵素を作用させて、exon 2とexon 3とneo遺伝子を除去することにより、染色体上のERK2遺伝子が欠損されたERK2遺伝子欠損アレルが形成される(D)。
【0023】
Cre酵素を作用させる方法の一例として、ERK2-floxN-ES細胞にCre酵素を作用させて特異的組換えを起こさせ、染色体上のexon 2とexon 3とneo遺伝子とを除去することによりERK2遺伝子欠損アレルを持つES細胞を得る方法を利用できる。こうして得られるES細胞を用いて、トランスジェニック動物を作製する公知の方法に従うことにより、例えば、ERK2遺伝子欠損アレルと野生型アレルとのヘテロ接合体をERK2遺伝子低発現体として得ることができる。
【0024】
Cre酵素を作用させる方法の他の例としては、ERK2-floxN-ES細胞を用いて作製されたERK2-floxN動物と、Cre酵素を発現可能な動物とを交配し、選別することにより、例えば、ERK2遺伝子欠損アレルと野生型アレルとのヘテロ接合体の個体をERK2遺伝子低発現体として得る方法を利用できる。前記ERK2-floxN動物は、例えば、ES細胞を用いてトランスジェニック動物を作製する公知の方法に従って得ることができる。また、前記Cre酵素を発現可能な動物は、Cre酵素発現ベクターを導入する方法等の公知の方法で作製することができる。例えば、Cre酵素を発現可能な動物として、組織特異的及び/又は時期特異的(一過性)に発現誘導可能なプロモーターの制御下でCre酵素を発現可能なマウス(Cre酵素コンディショナル発現マウス)等を用いることにより、ERK2遺伝子の発現量のコンディショナルな制御を容易に行うことができる。
【0025】
ERK2遺伝子低発現アレルを持つERK2遺伝子低発現体の作製には、例えば、イントロンや発現調節領域の一部に任意の配列を挿入する方法等を利用できる。ERK2遺伝子低発現アレルとして、例えば、図1(C)に示されるERK2-floxed-neo(floxN)アレルを利用できる。すなわち、ERK2-floxed-neo(floxN)ES細胞を用いて作製されるERK2-floxNホモ接合体(ERK2floxN/floxN)をERK2遺伝子低発現体として利用できる。
【0026】
本発明における非ヒト動物には、例えば、マウス、ラット、サル、ウシ、イヌ等の非ヒト哺乳動物を利用でき、なかでも、マウス、ラットが好ましく用いられる。これらのERK2遺伝子の塩基配列はGenBankに公開されている。
【0027】
本発明の非ヒト動物は、長期記憶障害モデルとして利用できる。本発明者らは、ERK2遺伝子低発現マウスの表現型を詳細に解析したところ、ERK1の発現に影響はなかったが、10〜25週齢のERK2遺伝子低発現アレルのホモ接合体マウス(例えばERK2floxN/floxN)には長期記憶障害が見られた。以下に、恐怖条件付け試験及び8方向放射状迷路試験を例に挙げて、ERK2floxN/floxNマウスの長期記憶障害について詳述する。
【0028】
図2は、恐怖条件付け(fear conditioning)試験の結果を示している。恐怖条件付け試験は、評価方法として後述する方法で行われる。結果、図2に示されるように、23〜25週齢の野生型(ERK2+/+)マウスとERK2遺伝子低発現ホモ接合体(ERK2floxN/floxN)マウスについて、条件付けの2時間後の恐怖反応は同程度であったのに対し(A)、48時間後の試験におけるERK2floxN/floxNマウスの恐怖反応は著しく低下していた(B,C)。このことから、ERK2の機能低減は、短期記憶への影響はないが、長期記憶に障害を及ぼすことが明らかとなった。
【0029】
さらに、恐怖条件付け試験とERK2のリン酸化レベル(p−ERK2)を比較したところ、ERK2floxN/floxNマウスにおけるERK2のリン酸化レベルは野生型より低かった(図2D)。しかし、訓練後は、ERK2の活性化状態はERK2floxN/floxNマウスとERK2+/+マウスとでほぼ同程度を示し、ERK2floxN/floxNマウスのリン酸化ERK2レベルが低いことから、ERK2の機能低減は、恐怖条件付け試験における長期記憶障害の大きな原因となっていると考えられる。
【0030】
図3は、8方向放射状迷路試験の結果である。8方向放射状迷路試験は、評価方法として後述する方法で行われる。図3に示されるように、15〜17週齢のERK2floxN/floxNマウスは、最初の4つの選択肢の間の正答率がERK2+/+マウスより低く、参照記憶に劣っていた(B、C)。一方、空間記憶については両者に差異はみられなかった(データ省略)。このように、ERK2遺伝子低発現マウスの参照記憶は、ある程度は維持されているものの、野生型より著しく劣っていた。
【0031】
上述したように、ERK2遺伝子低発現マウスは、野生型と比較して長期記憶及び参照記憶が著しく損なわれていることから、長期記憶障害モデルとして利用することが可能である。また、ERK2遺伝子には、マウス、ラット、サル、ウシ、イヌ等のホモログの存在が知られており、これらの塩基配列はGenBankに公開されている。従って、マウス以外の非ヒト動物についても同様に長期記憶障害モデルとして利用可能である。本発明における長期記憶障害は、脳への直接的又は間接的原因により長期記憶機能が低下又は喪失した状態を意味しており、例えば、健忘症、頭部外傷、薬剤、認知症、アルツハイマー病、ピック病、レビー小体病、クロイッツフェルト・ヤコブ病、脳血管障害、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、学習能力障害、精神疾患、又は老化に起因する障害等に起因する。
【0032】
本発明の非ヒト動物は、また、先天性心疾患モデルとしても利用できる。本発明者らは、ERK2遺伝子低発現マウスを詳細に解析したところ、特にERK2遺伝子欠損アレルのヘテロ接合体マウス(ERK2+/-)の表現型が先天性心疾患の症状と非常に多くの点で共通することを見出した。ここで、ERK2遺伝子欠損アレルのホモ接合体マウス(ERK2-/-)は胚性致死であるが、ERK2遺伝子欠損アレルのヘテロ接合体マウス(ERK2+/-)は7%程度が成体まで生存した。本発明における先天性心疾患は、先天的に心筋等の心臓に障害を有する疾患であって、ERK2遺伝子の関与が既知又は未知のものを含んでいる。先天性心疾患としては、例えば、神経線維腫症Type I、ヌーナン症候群、レオパード症候群、心臓−顔面−皮膚症候群、及びコステロ症候群等を含むNCFC症候群;ディジョージ症候群及び軟口蓋心臓顔貌症候群等を含む22q11.2欠失症候群が挙げられる。
【0033】
組織学的解析によれば、ERK2+/-マウス新生児の心臓内部は、大血管が適切に配置されているにもかかわらず、大動脈と肺動脈が完全に分離してそれぞれ左心室と右心室から生じていた。ERK2+/-マウス胎児は、5例中4例が重篤な心房中隔欠損症(ASD)を発症し、5例全てが心室中隔欠損症(VSD)を発症し、さらに、5例中3例に両室挿入左心室(DILV)を伴う三尖弁閉鎖症(TA)が認められた。TAは、右心房(RA)を右心室(RV)へつなぐ三尖弁の先天性欠損に特徴があり、先天性心疾患に共通する形態であって、先天性心障害の1〜3%を占める。TAを発症しているERK2+/-マウスの右心室の空洞サイズは野生型よりかなり小さく、右心室形成不全を示していた。さらに、5例中3例のERK2+/-マウスは、心臓に、左室心筋緻密化(LVNC)が見られ、心室壁における多孔質の心筋に解剖学的に特徴づけられる心筋症を有していた。程度は様々であるが、ERK2+/-マウスにおける心筋が極めて薄いのは、原発性の心筋欠損を反映するものと考えられる。このように、ERK2+/-マウスには、先天性心疾患に共通する心筋障害が認められることから、先天性心疾患のモデルとして有用である。
【0034】
心臓弁の形成には、心内膜と神経冠細胞との複雑な相互作用が関与している。神経冠細胞は心内膜床欠損症の原因となり、ERK経路は正常な神経冠細胞の発生に重要であることが報告されている。従って、ERK2遺伝子欠損アレルを有するマウスは、神経冠に由来する心臓細胞の増殖、生存、及び/又は分化に関与する局所的なシグナル経路に影響を受けると考えられる。
【0035】
また、ヒトにおける22q11.2欠失症も、神経冠細胞における異常に起因すると広く考えられている。22q11.2欠失症患者の90%以上は、染色体上の3MbのDNAからなる典型的欠失領域(TDR)が欠失しているが、TDR領域以外の欠失のみを有する患者も存在するため、22q11.2欠失症は、TDR以外に別の遺伝子が関与すると考えられてきた。染色体上のERK2は、TDR領域の外側に位置し、同領域が欠失している22q11.2欠失症患者の存在も報告されている。本発明は、ERK2+/-マウスを作製し、その表現型が22q11.2欠失症と類似していることを見出した。このことから、ERK2が22q11.2欠失症の新たな原因遺伝子であることが強く示唆され、ERK2+/-マウスは、22q11.2欠失症モデル動物として有用である。
【0036】
なお、ERK2遺伝子低発現アレルとERK2遺伝子欠損アレルを持つマウス(ERK2floxN/-)を作製したが、ERK2-/-と同様、E13.5以前で胚性致死であった。このことから、ERK2の発現量には生存のための閾値が存在することが考えられる。
【0037】
本発明の非ヒト動物における個体内のERK2の発現量は、胚性致死を回避できる量を下限とし、表現型において野生型との有意な差が得られる量を上限とする範囲から、発現時期及び部位に応じて適宜選択できるが、特に限定されない。本発明においては、ERK2の発現量が高すぎると、長期記憶障害や心筋障害が軽度又は消失して、モデル動物として利用できない場合がある。このような観点から、本発明の非ヒト動物における脳内のERK2の発現量(モル量)は、野生型基準で、例えば45〜95%、好ましくは50〜90%、より好ましくは60〜85%程度である。
【0038】
本発明の非ヒト動物は、被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることにより、被検物質について長期記憶の改善効果を評価する方法に利用できる。さらに、前記評価方法を、長期記憶障害の予防・治療薬のスクリーニングに利用することも有用である。
【0039】
前記被検物質は、公知又は新規化合物の何れであってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物等の合成又は天然由来の有機化合物を用いることができる。
【0040】
被検物質を非ヒト動物へ投与する方法は、特に限定されず、経口及び非経口投与の何れであってもよい。非経口投与には、例えば、静脈、動脈、筋肉、腹腔、気道等を経路とする全身投与、又は局所投与を利用できる。被検物質の投与量は、被検物質の種類、投与方法、モデル動物の種類、大きさ等に応じて適宜設定できる。
【0041】
被検物質をモデル動物由来の組織、器官、若しくは細胞と接触させる方法としては、特に限定されず、モデル動物から採取した組織や器官の標本に被験物質を投入する方法、モデル動物から採取した細胞を被験物質存在下で培養する方法等の公知の方法を利用できる。前記組織や器官の標本に被験物質を投入する方法としては、上述した非経口投与と同様の方法を用いることができる。
【0042】
長期記憶の改善効果の評価は、特に限定されず、モデル動物の長期記憶を評価する公知の方法に準じて行うことができる。具体的には、マウスの長期記憶を評価する方法としては、記憶学習能力の行動学的測定方法、例えば、水迷路(water maze)、恐怖条件付け(fear conditioning)、放射状迷路(8-arm radial maze)等を利用できる。これらの方法において、被検物質投与(接触)後のERK2遺伝子低発現マウスが、同投与(接触)前に比べて試験結果が有意に向上していた場合に、当該被検物質が、長期記憶の改善効果を有する長期記憶障害の予防・治療薬として有用であると評価することができる。
【0043】
本発明のスクリーニング方法により、長期記憶障害の予防や治療に有用な薬剤を得ることができる。本発明における長期記憶障害は、例えば、健忘症、頭部外傷、薬剤、認知症、アルツハイマー病、ピック病、レビー小体病、クロイッツフェルト・ヤコブ病、脳血管障害、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、学習能力障害、精神疾患、又は老化に起因する障害が含まれる。
【0044】
本発明における長期記憶障害の予防・治療薬は、上記スクリーニング方法により得られる被検物質を有効成分として含んでいる。このような予防・治療薬は、例えば、適宜なビヒクルに溶解又は懸濁して、経口又は非経口投与される。非経口投与には、例えば、静脈、動脈、筋肉、腹腔、気道等を経路とする全身投与、又は血管又はその近傍への局所投与を利用できるが、これらに限定されない。疾患の症状に応じて、経口投与が好ましく行われ、また患部又はその近傍へ非経口的に局所投与することもできる。前記予防・治療薬は、例えば、ドラッグデリバリーシステムの設計がされていることも好ましい。
【0045】
前記予防・治療薬の剤形としては、液剤、固形剤の何れであってもよく、例えば、水、生理食塩水等の希釈液又は分散媒に有効量の阻害剤を溶解、分散、乳化させた液剤;有効量の阻害剤を粉末、顆粒状等で含むDDS製剤、サッシェ剤、錠剤等の固形剤などが挙げられる。これらの予防・治療薬には、医薬上許容される公知の添加剤を添加することができる。
【0046】
予防・治療薬は、また、有効成分がリポソームや徐放性材料等に封入された封入体や担体に担持された担持体などであってもよい。リポソーム等に封入することにより、有効成分をヌクレアーゼやプロテアーゼによる分解から保護し、リポソーム膜が細胞表面と結合してエンドサイトーシスにより細胞内に到達しやすくなる点で有利である。コラーゲン等の徐放性材料に封入することにより、有効成分の長期持続性が得られる。予防・治療薬には、上記以外に、医薬上許容される公知の添加剤を添加することができる。
【0047】
予防・治療薬の投与量は、有効成分の種類、投与方法、症状、投与対象の種類、大きさ、薬物特性等に応じて異なるが、通常、成人1日当たり例えば0.5〜50mg程度、好ましくは1〜20mg程度であり、1日に1回、又は複数回に分けて投与することができる。
【0048】
本発明の非ヒト動物は、また、被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることにより、被検物質について心筋障害の改善効果を評価する方法に利用できる。さらに、前記評価方法を、心筋障害の治療薬のスクリーニングに利用することも有用である。
【0049】
本発明における心筋障害には、心筋の変性を伴う障害及び疾患であれば特に限定されず、心筋梗塞、心筋症、心不全などの後天性心疾患であってもよく、上記に例示の先天性心疾患であってもよい。先天性心疾患の中でも、特に心筋の障害を主な原因とする心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、両室挿入左心室(DILV)、三尖弁閉鎖症(TA)、左室心筋緻密化(LVNC)等が挙げられる。
【0050】
心筋障害の改善効果の評価は、特に限定されないが、例えば、形態学的分析、顕微鏡分析、組織学的分析等の公知の手法を用いて行うことができる。好ましくは、心筋再生の効果を指標に用いて評価することができる。具体的には、被検物質投与(接触)後の非ヒト動物を解剖し、心筋障害部位の心筋細胞の増殖を心筋マーカー等により測定する方法;心筋障害部位の心筋の厚みを形態学的に測定し、同投与(接触)前に比べて増殖又は向上していた場合に、当該被検物質が、心筋障害の改善効果を有する長期記憶障害の予防・治療薬として有用であると評価することができる。
【0051】
心筋マーカーとしては、心筋に特異的に発現する物質であれば特に限定されないが、例えば、デスミン、M−カドヘリン、ミオゲニン、アクチン、ミオシン等が挙げられる。これらの心筋マーカーを用いて、例えば、マーカー蛋白質に対する抗体を用いて免疫学的手法により確認する方法、マーカー遺伝子の発現をRT−PCR法等により確認する方法等により、心筋細胞の増殖や心筋組織の再生を確認できる。心筋障害部位としては、例えば、心房中隔、心室中隔、三尖弁、心房壁、心室壁等が挙げられる。被検物質及びその投与、接触方法等その他の条件は、上記長期記憶の改善効果の評価と同様である。
【0052】
本発明のスクリーニング方法により、心筋障害の治療に有用な薬剤を得ることができる。本発明における心筋障害の治療薬は、上記スクリーニング方法により得られる被検物質を有効成分として含んでいる。このような治療薬の投与条件(方法、量)や剤形等は、上記長期記憶障害の予防・治療薬と同様である。
【0053】
また、ERK2アゴニストは、長期記憶増強剤、心筋分化促進剤、心筋障害の治療薬を構成する有効成分として有用である。前記ERK2のアゴニストとは、ERK2を介したシグナル伝達を促進する物質であればよく、ERK2に直接的又は間接的に関与するものであってもよい。このようなERK2アゴニストとしては、例えば、ERK2蛋白質、リン酸化ERK2蛋白質、ERK2蛋白質のドミナントアクティブ変異体等の機能性ERK2;ERK2遺伝子の転写、転写後調節、蛋白質への翻訳、翻訳後修飾(チロシンリン酸化)、蛋白質フォールディング等の段階で作用してERK2の発現を亢進する物質;MEK等のERK2の上流、下流、又は相互作用因子を活性化してERK2を介したシグナル伝達を促進する物質等が挙げられる。
【0054】
ERK2の発現を亢進する物質としては、低分子化合物、高分子化合物のいずれであってもよく、例えば、転写促進因子、蛋白質合成促進剤、蛋白質安定化酵素、スプライシングやmRNAの細胞質移行を促進しうる因子、mRNA安定化酵素、mRNAに結合して活性化する因子等が挙げられ、特に他の遺伝子や蛋白質への副作用を最小限にするため、標的分子に特異的に作用しうる物質が好ましい。これらの機能性核酸及び蛋白質は、投与後に投与対象内で産生される形態であってもよく、必要に応じて発現ベクター、細胞等を用いて公知の方法で調製することができる。剤形、投与方法、投与量等は上記予防・治療薬と同様である。
【0055】
本発明の長期記憶増強剤の薬理効果は、上記長期記憶の改善効果を評価する方法に準じて確認することができる。さらに、本発明の心筋分化促進剤及び心筋障害の治療薬の薬理効果は、上記心筋障害の改善効果を評価する方法に準じて確認することができる。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、「ERK2+/+」は野生型、「ERK2+/-」はERK2遺伝子欠損ヘテロ接合体、「ERK2-/-」はERK2遺伝子欠損ホモ接合体、「ERK2floxN/floxN」はERK2遺伝子低発現ホモ接合体、「ERK2floxN/+」はERK2遺伝子低発現ヘテロ接合体をそれぞれ意味している。
【0057】
(1)ターゲティングベクターの作製
J Biol Chem 282:21575-21581(1997)に記載の方法に従い、129/SvJマウスゲノムライブラリーから、ERK2遺伝子を単離した。ERK2-floxNアレルを生成するため、ERK2遺伝子におけるイントロン1のApaIからイントロン6のTaq1に相当する16.8kb(図1(B))に、ポジティブ選択のため、イントロン1のEcoRIサイトに、loxPで挟まれたPgk-neoカセットが逆位で挿入され、3番目のloxP、KpnI、及びSapI部位がイントロン3のBglIIサイトに挿入され、ジフテリア毒素A(TA)フラグメントDNAがベクターの3’末端に連結されたターゲティングベクターを作製した(図1(A))。
【0058】
(2)ERK2遺伝子低発現アレルのヘテロ接合体(ERK2floxN/+、ERK2floxN/floxN)マウスの作製
120由来ES細胞株E14における相同組換え体を5',3'の外部プローブを用いてサザンブロッティングにより同定した。確認されたクローンを胚盤胞にインジェクトした。キメラマウスを得るため、胚盤胞を偽妊娠マウスの子宮へ移植した。C57BL/6Jマウスとキメラマウスの交配により変異アレルを持つ子孫を得、5'-,3'-外部プローブを用いたサザンブロッティングで確認した。ERK2-floxNアレルを有するマウスはPCRにより遺伝子型を決定した。プライマーとして、図1Bに矢印で表されているmE2-F2(配列番号1)とmE2-R1(配列番号2)を用いて、ERK2-floxNアレルとERK2野生型アレルを検出し、ERK2floxN/+マウスとERK2floxN/floxNマウスを特定した。
配列番号1:5' AAGGCTCACAGTGACAGTGACACC 3'(mE2-F2)
配列番号2:5' CAGAGTTTCATTATGGAGTCCTCGC 3'(mE2-R1)
【0059】
(3)ERK2遺伝子欠損アレルのヘテロ接合体(ERK2+/-)マウスの作製
ERK2を除去するため、Genesis 20:1-6(2001)に記載の方法に従い、ERK2-floxNアレルを有するマウス(ERK2floxN/+)をEIIA-Creマウスと交配させた。EIIA-Creマウスの元株は、FVB/Nで構築され、C57BL/6と7世代バッククロスしたものである。ERK2+/-マウスは、サザンブロッティングで確認し、プライマーとして、図1C及びDに矢印で表されているmE2-F2、mE2-R1、及びmE2-F3 (配列番号3)を用いた定法によりPCRで遺伝子型を決定した。
配列番号3:5' GATCTGATGCTTGCCAAAGCC 3'(mE2-F3)
【0060】
全ての実験は、防衛医科大学、理研、沖縄科学技術研究基盤整備機構における動物実験のための施設倫理ガイドライン及び遺伝子操作実験のための安全性ガイドラインに従って行われた。
【0061】
(4)変異マウスの形態学的解析
ERK2を完全に欠失したERK2-/-は、すでに報告されているように、非常に早期の胚性致死(E13.5以前)を引き起こした(Genes Cells 11: 847-856 (2003)、EMBO Rep 4:964-968)。欠損アレルのヘテロ接合体マウス(ERK2+/-)は、ヘテロ接合子の交雑雑種から期待されるメンデル則に従って生まれなかった(14/167; 8.4%)。また、ERK2+/-は野生型より体重が軽かった。
【0062】
ERK2floxN/floxNマウスはヘテロ接合子を交雑雑種から期待されるメンデル則に従って生まれた(62/258; 24.0%)。ERK2floxN/+とERK2floxN/floxNマウスは、8月齢で全体的に健康で、外見、体重に異常は見られなかった(ERK2+/+, 33.9 ± 4.0 g; ERK2floxN/+, 32.5 ± 3.7g; ERK2floxN/floxN, 32.1 ± 4.4 g; ANOVA, F(2,41) = 0.93, p > 0.05)。このように、ERK2floxN/floxNマウスとERK2floxN/+は共に大きな形態学的欠陥はみられなかった。
【0063】
(5)変異マウスの組織学的解析
ERK2floxN/+とERK2floxN/floxNマウスについて、組織構造上の変異の有無を調べるため、後述する方法で体全体を組織学的に解析した。6週齢、6月齢、15月齢マウスの肺、肝臓、腎臓、心臓、胸腺及び脾臓を含む広く多様な組織をHE染色した結果、ERK2floxN/floxNと野生型の間で大きな違いは認められなかった。HE染色したERK2floxN/floxNマウスの脳を詳細の組織学的解析では野生型と大きな違いはみられなかった。ニッスル染色切片に濃縮した核として検出される細胞死の増加の兆候も見あたらなかった。新皮質は正常な層構造を示し、皮質神経はNeuN,GFAP及びTuJ染色に基づけば外観は正常であった。これらの結果は、ERK2floxN/floxNマウスとERK2floxN/+が大きな形態学的欠陥なく発生し、少なくとも顕微鏡レベルでは海馬構造及び細胞/神経突起密度への影響は最小限であった。
【0064】
ERK2+/-マウスについて、その新生児の心臓内部は、大血管が適切に配置されているにもかかわらず、大動脈と肺動脈が完全に分離してそれぞれ左心室と右心室から生じていた。大半(5匹中4匹)のERK2+/-マウス胎児が重篤な心房中隔欠損症(ASD)を発症し、全てのERK2+/-マウス胎児が心室中隔欠損症(VSD)を発症していた。さらに、一部のERK2+/-マウス(5匹中3匹)には、両室挿入左心室(DILV)を伴う三尖弁閉鎖症(TA)が認められた。TAは、右心房(RA)を右心室(RV)へつなぐ三尖弁の先天性欠損に特徴があり、先天性心疾患に共通する形態であって、先天性心障害の1〜3%を占める。TAを発症しているERK2+/-の右心室の空洞サイズは野生型よりかなり小さく、右心室形成不全を示していた。さらに、5匹中3匹のERK2+/-マウスは、心臓に、左室心筋緻密化(LVNC)が見られ、心室壁における多孔質の心筋に解剖学的に特徴づけられる心筋症を有していた。程度は様々であるが、ERK2+/-マウスにおける心筋が極めて薄いのは、原発性の心筋欠損を反映するものと考えられる。
【0065】
上述したように、ERK2+/-マウスは、心筋の発生が著しく損なわれていることから、心筋障害モデルとして利用できる。
【0066】
(6)変異マウスにおけるERK2等の発現レベル
1月齢及び12月齢のマウスの脳抽出物をウェスタンブロッティングにて解析した結果、作出した細胞系列の脳におけるERK2蛋白質の発現レベルは、ERK2+/+ > ERK2floxN/+ > ERK2floxN/floxN、の順で徐々に減少していた(図4)。ERK2floxN/floxNにおけるERK2の発現は減少するのに対し、Cre組換え酵素を発現するトランスジェニックマウスとvivoで交配させることによりneoカセットを除去した後は、通常のレベルに回復する。このように、得られたERK2floxNアレルは、5'非翻訳領域に挿入されたPgk-neoカセットの存在のため、低発現アレルとなる。
【0067】
変異マウスの脳における蛋白質の発現プロファイルを解析した。1月齢マウスでは、ERK2の発現が、変異マウスの海馬及び大脳で著しく減少した(図4A,C; ANOVA (F(2,15) = 13.78, p < 0.0005, hippocampus; F(2,15) = 10.44, p < 0.005, cerebellum)。変異マウスの(海馬でなく)小脳におけるERK2の発現の平均値は減少していたが、統計的に有意ではない(図4A,C; ANOVA (F(2,15) = 3.40, p > 0.05)。12月齢のマウスでは、ERK2の発現が変異マウスの海馬、大脳、及び小脳でも減少していた(図4B,C; ANOVA (F(2,21) = 5.25, p < 0.05, cerebrum; F(2,21) = 14.73, p=0.0001,hippocampus; F(2,21) = 36.27, p < 0.0001, cerebellum)。
【0068】
ERK2ノックダウンマウスにおけるERK1の発現の補完的変化の可能性を調べるため、ERK1の蛋白質発現レベルを調べた。1月齢及び12月齢マウス共にERK2変異マウスと野生型マウスとの間でERK1の発現に違いは見られなかった(図4A,B,D; ANOVA (all p values > 0.05)。リン酸化ERKに対する抗体を用い、脳抽出物中のERK2のvivoにおける活性状態を評価した。変異マウスにおいてERK2のリン酸化がわずかに減少しているようであったが、野生型と変異マウスとの間でERK2のリン酸化レベルの差は、統計的に重要ではなかった(図4A,B,E; ANOVA (all pvalues >0.05)。
【0069】
(7)恐怖条件付け試験
野生型(ERK2+/+)マウスとERK2遺伝子低発現ホモ接合体(ERK2floxN/floxN)マウスについて、後述する条件で恐怖条件付け試験を行った。その結果を図2に示す。図2に示されるように、手がかりのない条件付きの部屋(文脈恐怖条件付け)については、ERK2floxN/floxNマウスのすくみ反応は、2時間の保持遅延(記憶保持時間)後の試験結果は野生型と同程度であった(A;t-test (t = 0.16, p > 0.05))。これに対し、48時間後は野生型に比べてERK2floxN/floxNマウスの応答が著しく低下していた(B;5B; t-test (t = 4.17, p < 0.0005)。また、手がかり恐怖条件付けに対するERK2floxN/floxNマウスの応答は、48時間の保持遅延(記憶保持時間)後は野生型に比べて著しく低下していた(C;t-test (t = 7.54, p < 0.0001))。これらの結果は、ERK2の抑制による短期記憶への影響はないが、古典的な恐怖試験における長期記憶にERK2は重要な役割があることを示唆している。
【0070】
さらに、野生型(ERK2+/+)マウスとERK2floxN/floxNマウスについて、恐怖条件付けの間のERK2の活性化レベルを、リン酸化ERK2に対する抗体を用いたウェスタンブロッティングで調べた。その結果、ERK2+/+マウスとERK2floxN/floxNマウスマウスのリン酸化ERK2レベルは、共に、足部電気ショックなしの対照用マウスと比べて、訓練後一時間で著しく増加していた(図2D; Erk2+/+, t-test (t = 7.30, p < 0.005); Erk2floxN/floxN t-test (t =3.95, p < 0.005))。しかし、ERK2floxN/floxNマウスのリン酸化ERK2レベルは野生型より低かった(図2E; t-test (t = 2.81, p < 0.05))。訓練前後のERK2発現レベルは、両マウス変わらなかったが、ERK2floxN/floxNマウスにおけるp−ERK2/ERK2のシグナル比は、訓練前の野生型マウスより1.3倍以上高い。このことは、ERK2のリン酸化の基礎レベルは低いが、訓練後は同程度になることを示している。これらの結果は、訓練後は、ERK2の活性化状態はERK2floxN/floxNマウスとERK2+/+マウスとでほぼ同程度であること、また、ERK2floxN/floxNマウスのリン酸化ERK2レベルが低いことは恐怖条件付け試験における長期記憶障害の大きな原因となっていると考えられる。
【0071】
(8)8方向放射状迷路試験
野生型(ERK2+/+)マウスとERK2遺伝子低発現ホモ接合体(ERK2floxN/floxN)マウスについて、後述する条件で8方向放射状迷路試験を行った。その結果を図3に示す。図3に示されるように、最初の4つの選択肢における正答率は、ERK2floxN/floxNマウスは、ERK2+/+マウスより低かった(B)。また、応答時間(A)及び参照記憶(C)についても同様にERK2floxN/floxNは野生型より劣っていた。一方、空間記憶については両者に差異はみられなかった(データ省略)。以上の結果は、ERK2遺伝子低発現マウスの参照記憶は、一定レベル存在するものの、正常型より損なわれていることを示唆している。
【0072】
上述したように、ERK2floxN/floxNマウスは、長期記憶及び参照記憶が著しく損なわれていることから、長期記憶障害モデルとして利用できる。
【0073】
実施例2(ERK2floxN/floxNマウスの恐怖条件付け試験)
実施例1で得た23〜25週齢のERK2floxN/floxNマウスに被検物質を生理的食塩水に溶解して調製した15mg/0.5mlの注射液を静脈注射し、対照用として、ERK2floxN/floxN、ERK2+/+の各マウスに0.5mlの生理的食塩水を静脈注射して、それぞれ後述の方法に従って恐怖条件付け試験を行う。被検物質を注射されたERK2floxN/floxNマウスが、生理的食塩水を注射されたERK2floxN/floxNマウスの試験結果より優れ、より好ましくはERK2+/+マウスの試験結果と同程度か超える結果であった場合に、その被検物質は長期記憶の改善効果に優れていると評価できる。このような被検物質は、長期記憶障害の治療・予防薬、及び長期記憶増強剤の有効成分として好ましく用いられる。
【0074】
実施例3(ERK2floxN/floxNマウスの8方向放射状迷路試験)
実施例1で得た15〜17週齢のERK2floxN/floxNマウスに被検物質を生理的食塩水に溶解して調製した15mg/0.5mlの注射液を静脈注射し、対照用として、ERK2floxN/floxN、ERK2+/+の各マウスに0.5mlの生理的食塩水を静脈注射して、それぞれ後述の評価方法に従って8方向放射状迷路試験を行う。その結果、応答時間、最初の4選択肢の正答率、参照記憶について、被検物質を注射されたERK2floxN/floxNマウスが、生理的食塩水を注射されたERK2floxN/floxNマウスより優れた結果を示し、より好ましくはERK2+/+マウスの試験結果と同程度か超える結果であった場合に、その被検物質は長期記憶の改善効果に優れていると評価できる。このような被検物質は、長期記憶障害の治療・予防薬、及び長期記憶増強剤の有効成分として好ましく用いられる。
【0075】
実施例4(ERK2+/-マウスの心筋障害の改善評価)
実施例1で得たERK2+/-新生児マウスの心房壁に、被検物質を生理的食塩水に溶解して調製した15mg/0.5mlの注射液を静脈注射し、対照用として、ERK2+/-マウス及びERK2+/+マウスのそれぞれの心房壁に、0.5mlの生理的食塩水を静脈注射して、1週間ごとに4回心臓を摘出し、後述する方法で組織学的分析を行う。被検物質を注射されたERK2+/-マウスにおける心房壁の厚みが増加するか、心房壁におけるミオシン及びアクチンへの抗体による染色部位の拡大により心筋細胞の増殖が確認された場合に、その被検物質は心筋障害の改善効果に優れていると評価できる。このような被検物質は、心筋障害の治療薬、及び心筋分化促進剤の有効成分として好ましく用いられる。
【0076】
実施例5(ERK2アゴニスト)
ERK2遺伝子は、その転写開始点から約60bp上流に位置するCCAATボックスを介して転写が活性化されることが示唆されている(J Biol Chem 272, 34; 21575-21581 (1997))。従って、CCAAT/エンハンサー結合蛋白質(C/EBP)ファミリー、CTF/NF−I、NF−Y/CP1/CBF関連蛋白質などのCCAATボックス結合蛋白質は、ERK2アゴニストとして有用と考えられる。これらのCCAATボックス結合蛋白質は、被検物質として前記実施例2及び3の試験に付されることにより、長期記憶の改善効果及び心筋障害の改善効果を示す。従って、これらの蛋白質は、長期記憶障害の予防・治療薬、長期記憶増強剤、心筋障害の治療薬、心筋分化促進剤の有効成分として有用である。
【0077】
(評価方法)
組織学的解析
ペントバービタルで動物を麻酔し、ヘパリン添加リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、次いで4%パラフォルムアルデヒド含有0.1Mリン酸緩衝液を心臓へかん流した。脳及びその他の臓器は、厚み40μmの凍結切片又は厚み10μmのパラフィン包埋切片を用いて組織学的に解析した。ニッスルとヘマトキシリン−エオシン染色(HE)は標準的な方法に従って行った。また、アクチンとミオシンに対する抗体を用いた免疫組織化学染色を慣用の方法に従って行うことにより、心筋細胞の増殖を確認できる。
【0078】
蛋白質発現抽出物の調製
安楽死させた後のマウスの脳を頭蓋骨から外し、大脳、小脳及び海馬を得た。得られた脳組織は、4容量倍の20mM Tris-HCl(pH7.4)、2mM EDTA、完全阻害剤混合物(ロシュ社製)及びフォスファターゼ阻害剤(20mMグリセロリン酸、1mM Na3VO4、2mM NaF)中でホモジェナイズした。ホモジェナイズ後、各サンプルを速やかに-80℃で凍結した。残りのホモジェネートは4℃、15000gで30分間遠心分離した。上澄みを回収し、使用まで-80℃で保管した。各サンプル中の蛋白質量はMicroBCAアッセイ(Pierce, Rockford, IL社製)を用いて測定した。
【0079】
ウェスタンブロッティング
ホモジェネートの上澄みをSDS-PAGEにかけた。SDS-PAGEゲル中の蛋白質をイモビロンPメンブレン上へ転写した(Millipore, Bedford, MA社製)。ブロットは、抗ERK1抗体(1:500; マウスモノクローナル6B11, Zymed, South San Francisco, CA、)、抗ERK2(1:5000; マウスモノクローナル33; ransduction Laboratories, Lexington, KI)、抗ERK1/2(1:1000; ラビットポリクローナル#9102, Cell Signaling, Beverly, MA)、抗リン酸ERK2(1:1000; ラビットポリクローナル#9101, Cell Signaling)、又は抗β−アクチン(1:5000; マウスモノクローナルAC-15, Sigma)抗体で免疫反応をさせ、ケミルミネッセンス検出システム(Super Signal West Pico; Pierce or ECL plus; Amersham, Arlington Heights, IL)により蛋白質のバンドを可視化した。イムノブロット上のシグナルは、LAS3000デジタルイメージングシステム(Fujifilm, Tokyo, Japan)で解析した。
【0080】
恐怖条件付け試験
本試験は、短期記憶と長期記憶を評価できる。恐怖条件付けは、ステンレスグリッド床を備えた黒いプラスチック製のチャンバーで行った。チャンバーには、ビデオモニターとコンピュータに接続されたCCDカメラが設置されている。グリッド床には電気ショック発生器が配線されて足部に電気を付すことができ、スピーカーからは音が出される。状況(context)及び音(cue)に対する条件付け試験は、3分間の探索期間後、CS(音)-US(足部電気ショック)の組み合わせ刺激を1分間の間隔で3回繰り返した(US: 強度 1 mA, 持続時間 1秒; CS: 84 db 白色雑音, 20秒 持続, USはCS刺激の残り1秒から付与した)。状況試験(context test)は、条件付けの2時間後又は48時間後、白色雑音非存在下、条件付けチャンバーで5分間行った。同じ群のマウスに対し、音試験(cued text)は、別の状況下で、明確な視覚的及び聴覚的手がかり(cue)を提示することにより行われ(84 dbの白色雑音、持続時間3分)、そのテストチャンバーは、薄い青色の条件付けチャンバーと異なり、グリッドのない床構造で、床にはチップが敷かれていた。音試験(cued text)は、状況試験(context test)文脈終了後に行った。マウスの恐怖反応(呼吸と心臓の拍動以外に全体の動きがないこと)の頻度を、恐怖記憶の測定に利用した。新たな状況(context)で引き起こされる非特異的な恐怖反応のレベルを、新たな状況による音(cue)の提示前3分間で制御した。
【0081】
8方向放射状迷路試験
本試験は、空間作業記憶と参照記憶を評価できる。8方向放射状迷路のうち4アームに餌を置き、残りの4アームには餌を置かない迷路を用い、餌を置いた4つのアームのうち、2本は隣接させ、残りの2本は90°離し訓練中維持した(例えば図5。図中、Aは餌を置く位置を示す)。参照記憶エラー数として、餌を置いていないアームへ進入した回数を、作業記憶エラー数として、一度進入したアームに再進入した回数をカウントした。さらに、作業記憶エラー数を2つのタイプに再分類した(J Neurosci 23:3953-3959)。すなわち、「餌を置いたアームへ再進入したエラー数」と、「餌のない道へ再進入したエラー数」に再分類してカウントした。15〜17週齢のマウスに対し、一日に4試行、5分間隔で行う試験を16日連続して全64回の試験を受けさせた。試験の結果として、4試行を平均して試験日数に対する参照記憶エラー数をグラフ化した(図3C)。また、最初の4選択中に餌の置いてあるアームに進入した回数を正選択数として、試験日数との関係をグラフ化した(図3B)、さらに、運動機能の指標として、各試行の課題遂行に要する時間をアーム進入回数で除して得た応答時間と試験日数との関係をグラフ化した(図3A)。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の非ヒト動物の作製方法の一例を示す模式図であり、(A)はターゲティングベクター、(B)は野生型アレル、(C)はLoxPと選択マーカーが挿入されたERK2-floxNアレル、(D)はCre酵素の作用により(C)からエキソンが除去されたERK2遺伝子欠損アレルである。
【図2】実施例1で得たERK2floxN/floxNとERK2+/+について、Aは条件付け2時間後の状況的条件付け試験、Bは同48時間後の試験、Cは条件付け後48時間後の音に対する条件付け試験の結果であり、Dは訓練前後のリン酸化ERK2(p−ERK2)のウェスタンブロッティング、Eは訓練前後の相対p−ERK2レベルのグラフである。
【図3】実施例1で得たERK2floxN/floxNとERK2+/+の8方向放射状迷路試験の結果であり、Aは達成時間と試験日数との関係、Bは最初の4選択肢から選択した正しいアームの数と試験日数との関係、Cは参照記憶エラーと試験日数との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1で得た野生型、ERK2floxN/+、及びERK2floxN/floxNの各マウスにおけるERK2、ERK1及びp−ERK2の蛋白質レベルの発現をウェスタンブロッティングで確認した結果を示し、Aは1月齢マウスの電気泳動写真、Bは12月齢マウスの同写真、CはERK2の相対値、DはERK2の相対値、Eはp−ERK2の相対値を示すグラフである。
【図5】本発明における8方向放射状迷路試験に用いられる迷路の一例である。
【符号の説明】
【0083】
A アームに置く餌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色体上のERK2遺伝子の機能が低減した非ヒト動物。
【請求項2】
長期記憶障害又は先天性心疾患のモデル動物である請求項1記載の非ヒト動物。
【請求項3】
染色体上のERK2遺伝子の発現調節領域が改変されたERK2遺伝子低発現アレルのホモ接合体、又は染色体上のERK2遺伝子の改変によりERK2遺伝子の機能が欠損されたERK2遺伝子欠損アレルのヘテロ接合体からなる請求項2記載の非ヒト動物。
【請求項4】
ラット又はマウスである請求項1〜3の何れかの項に記載の非ヒト動物。
【請求項5】
被検物質について長期記憶の改善効果を評価する方法であって、請求項1〜4の何れかの項に記載の非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする方法。
【請求項6】
長期記憶の改善効果を、記憶学習能力の行動学的測定方法を用いて評価する請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の方法を用いた長期記憶障害の予防・治療薬のスクリーニング方法。
【請求項8】
長期記憶障害が、健忘症、頭部外傷、薬剤、認知症、アルツハイマー病、ピック病、レビー小体病、クロイッツフェルト・ヤコブ病、脳血管障害、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、学習能力障害、精神疾患、又は老化に起因する請求項7記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載のスクリーニング方法により得られる長期記憶障害の予防・治療薬。
【請求項10】
ERK2アゴニストを有効成分に含む長期記憶増強剤。
【請求項11】
被検物質について心筋障害の改善効果を評価する方法であって、請求項1〜4の何れかの項に記載の非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする方法。
【請求項12】
心筋再生の効果を指標として評価する請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法を用いた心筋障害の治療薬のスクリーニング方法。
【請求項14】
請求項13記載のスクリーニング方法により得られる心筋障害の治療薬。
【請求項15】
ERK2アゴニストを有効成分に含む心筋分化促進剤。
【請求項16】
ERK2アゴニストを有効成分に含む心筋障害の治療薬。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−82090(P2009−82090A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258186(P2007−258186)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(506086797)独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構 (10)
【Fターム(参考)】