説明

ESRイメージング方法及び装置

【課題】 本発明はESRイメージング方法及び装置に関し、検体の実際の臓器とESRイメージング画像との対応関係を把握することができるESRイメージング方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 動物のESR画像を得るESRイメージング装置において、動物をその内部に閉じ込める透明な動物固定装置8に所定間隔でラジカル試薬を埋め込むラジカル試薬ポイント47を設けると共に、前記動物固定装置8を3次元方向から写真撮影できるカメラ35を具備し、該カメラ35で撮影した動物固定装置8の撮影像と、ESRイメージ画像を重畳して表示するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はESRイメージング装置に関し、特にマウス、モルモット等の小動物を用いてESRイメージングを得るESRイメージング方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ESRイメージング装置は、電子スピン共鳴を用いて動物の各部所のイメージング画像を得るようにしたものである(例えば特許文献1参照)。図8はESRイメージング装置の構成例を示す図である。図において、1は静磁場Hoを発生する磁石で、電源2から電流が供給される励磁コイル3により励磁される。この静磁場内には、発振器4から100kHz程度の高周波が供給される静磁場変調用変調コイル5が配置され、更に静磁場の中心部分にループギャップ共振器6及び該ループギャップ共振器6と電磁的に結合するアンテナコイル7が配置されている。8はこのループギャップ共振器6内に移動可能に挿入される載置台で、移動機構9の駆動棒10に取り付けられている。
【0003】
11はマイクロ波発振器で、生成されたマイクロ波方向性結合器12、サーキュレータ13、アンテナコイル7を介してループギャップ共振器6へ供給される。載置台に載置された測定対象の電子スピン共鳴によるマイクロ波エネルギーの吸収に基づいて発生するループギャップ共振器6からの反射マイクロ波は、サーキュレータ13を介して取り出され、マイクロ波増幅器14を介してクォドラチャ検波器15へ送られる。このクォドラチャ検波器15は、前記方向性結合器12から分岐されたマイクロ波を参照信号としてクォドラチャ検波(直角位相検波)を行ない、90゜位相の異なる2つの検波出力信号A,Bを得る。
【0004】
得られた検出信号A,Bは、前記発振器4から参照信号が供給される復調器16a,16bへ増幅器17a,17bを介して供給される。復調器16a,16bの出力として得られる共鳴信号Ea,Ebは、A/D変換器18a,18bを介して中央制御装置19のデータ処理部へ送られ格納される。この中央制御装置19は、前記電源2及び移動機構9に付属するパルスモータを駆動する駆動回路20をそれぞれ制御する。
【0005】
21は高周波発振器で、得られる高周波fmは、加算器22を介してマイクロ波発振器11の制御端子へ供給され、その結果、マイクロ波発振器11の発振周波数はfmによる周波数変調を受ける。23はこの高周波fmを参照信号として前記検出信号Aを復調する復調器で、得られた復調出力は、前記加算器22を介してマイクロ波発振器11にフィードバックされる。
【0006】
ギャップを有する環状のループギャップ共振器6の中に測定対象の小動物例えばマウスMを保持した載置台(動物固定装置)8が挿入されている。図9は従来の動物固定装置の外観構成例を示す図である。図において、8は動物固定装置、30は該動物固定装置8の中ほどに設けられた半割の動物挿入部である。この動物固定装置8には、既知のスペクトル位置にESR信号を発生する濃度既知の例えば粉末状の基準試料Rを一様に詰めたキャピラリー(図示せず)が台の全長にわたって取り付けられており、載置台を移動させると、キャピラリーとマウスMは台と共にループギャップ共振器6に対して一体的に移動する。
【0007】
ループギャップ共振器6は、その厚みが例えば2〜3mm程度に薄く作られているため、ループギャップ共振器6が内部に発生するESR測定に寄与するマイクロ波磁界もそれに対応してX方向の幅が極めて狭いものとなる。そのため、測定により得られるESR信号は、マウスをループギャップ共振器6の位置で薄くスライスした領域からの情報のみに基づくものとなる。そして、マウスMのループバック共振器6に対する位置は、マウスを移動機構9により磁極間隙方向(X方向)に移動させることにより任意に設定できる。
【0008】
例えば、測定位置をマウスMの頭から尾まで適宜な間隔(例えば数mm程度)でステップ的に移動させ、各位置において励磁コイル3への励磁電流を掃引することにより静磁場を掃引し、掃引に伴って得られるESR信号Ea,Ebをその都度制御装置19へ格納すれば、マウスMを数mm間隔でスライスした各領域についてのESR測定を順次行なうことができる。
【特許文献1】特許第3117847号公報(段落0009〜0014、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記ESRイメージング装置では、検体(前述の例ではマウス)はラジカル試薬を注入された後、動物固定装置に入れられ、そのままESR信号を測定する共振器に挿入される。挿入された状態でESRイメージング信号が測定される。得られたESRイメージング信号は、画像処理されて2次元断層画像及び3次元立体画像として表示されるが、画像はラジカル試薬分布のみが表示される。
【0010】
従来の装置では、得られる画像はラジカル試薬分布のみであるため、実際の臓器との位置関係が明確とならない。ラジカル試薬分布が目的とする臓器等の形状を反映している場合は分かりやすいが、臓器内の一部に偏っている場合又は複数の臓器にまたがって分布している場合は、判断するのが困難である。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、検体の実物写真とESRイメージング画像とを重畳して見ることができるようにして、検体の実際の臓器とESRイメージング画像との対応関係を把握することができるESRイメージング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)請求項1記載の発明は、動物のESR画像を得るESRイメージング装置において、動物をその内部に閉じ込める透明な動物固定装置に所定間隔でラジカル試薬を埋め込むラジカル試薬ポイントを設ける工程と、前記動物固定装置を3次元方向から写真撮影できるカメラを具備する工程と、該カメラで撮影した動物固定装置の撮影像と、ESRイメージ画像を重畳して表示する工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
(2)請求項2記載の発明は、動物のESR画像を得るESRイメージング装置において、動物をその内部に閉じ込める透明な動物固定装置に所定間隔でラジカル試薬を埋め込むラジカル試薬ポイントを設けると共に、前記動物固定装置を3次元方向から写真撮影できるカメラを具備し、該カメラで撮影した動物固定装置の撮影像と、ESRイメージ画像を重畳して表示することを特徴とする。
【0014】
(3)請求項3記載の発明は、前記動物固定装置のESR画像とカメラの撮影画像を重畳する場合に、ESR画像のラジカル試薬ポイントとカメラで撮影した画像のラジカル試薬ポイントが一致するように合わせ込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
(1)請求項1記載の発明によれば、ESRイメージング装置の画像と、カメラの撮影画像とを重畳して表示するので、検体の実際の臓器とESRイメージング画像との対応関係を把握することが可能となる。
【0016】
(2)請求項2記載の発明によれば、ESRイメージング装置の画像と、カメラの撮影画像とを重畳して表示するので、検体の実際の臓器とESRイメージング画像との対応関係を把握することが可能となる。
【0017】
(3)請求項3記載の発明によれば、ESR画像のラジカルポイントと、カメラで撮影した画像のラジカル試薬ポイントとが一致するように合わせ込むことができるので、検体の撮影部分の位置を正確に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の要部の一実施の形態例を示す構成図である。図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、8は検体(例えばマウス)を固定する動物固定装置、35は3次元方向から動物固定装置8を撮影するカメラである。36,37,38はカメラ35が取り付けられるカメラ支持部、39は動物固定装置8が取り付けられるステージである。該ステージ39は、所定方向に移動することができるようになっている。40は、ステージ39や、カメラ支持部36〜38が支持される支持部である。
【0019】
このように構成された装置において、カメラ35はカメラ支持部36〜38に必要に応じて取り付けられ、動物固定装置8を上下、左右、前後から撮影することができるようになっている。図2は本発明の動物固定装置の外観構成例を示す図である。図において、45はアクリル等の透明樹脂で作られた半割部、46は動物挿入部である。半割部45を透明樹脂にしたのは、カメラで動物の写真をとるためである。以下、動物としてマウスを用いる場合について説明するが、その他の動物であってもよいことはいうまでもない。
【0020】
47は半割部45に設けられたラジカル試薬ポイントである。このラジカル試薬ポイント47は、図に示すように一定間隔で複数設けられている。このラジカル試薬ポイントは、ESRイメージデータと写真撮影データとの位置と大きさとの一致をとるために設けられるものであり、詳細については後述する。
【0021】
このラジカル試薬ポイント47の形状は、ポイント状であっても、線状であってもよい。そして、同一の大きさにラジカル試薬が埋め込まれる。48は、ステージ39に動物固定装置8を取り付ける際に、水平方向と垂直方向の位置決めを行なうための水平・垂直線である。動物固定装置8を支持するステージ39は、マウスを磁場が形成されている撮影位置に移動させるための移動機構が設けられている。
【0022】
図3は動物固定装置にマウスが固定された状態を示す図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、Mは動物固定装置8に取り付けられたマウスである。該マウスMは、動かないようにテープ等で固定される。
【0023】
図4は本発明の一実施の形態例を示す構成図である。図1、図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、35は動物固定装置8に取り付けられたマウスを撮影するためのカメラである。このカメラ35は、どのような種類のものであっても構わないが、ディジタルカメラであることが望ましい。カメラ35から直にディジタル画像データが得られるからである。通常のフィルムカメラの場合、撮影したフィルムに記録された画像をディジタル画像データに変換するためのA/D変換器を必要とする。
【0024】
前記カメラ35は、マウスMを上下方向、左右方向、前後方向に撮影することができるようにカメラ支持部36〜38(図1参照)に取り付けられる。そして、該カメラ35からの出力信号(ディジタル画像データ)は、中央制御装置19に入力される。50は、ESR画像と写真撮影画像とを表示する表示部、51は中央制御装置19に各種コマンド等を入力するための操作部であり、例えばキーボードやマウス等が用いられる。39aは動物固定装置8を撮影位置方向に移動させる移動部、39bはこの移動部39aに駆動力を与える駆動部である。該移動部39aと駆動部39bとで図1のステージ39を構成している。このように構成された動作を説明すれば、以下の通りである。
【0025】
先ず、動物固定装置8にマウスMを取り付ける。そして、マウスMにラジカル試薬を注入する。それと同時に、ラジカル試薬ポイント47にラジカル試薬を埋め込む。ここで、マウスMに注入する試薬と、ラジカル試薬ポイント47に埋め込む試薬は同一のものでなくてもよい。そして、マウスMを動物固定装置8にテープ等で固定する。図5は、マウスの固定状態を上から見た図である。本発明によれば、マウスMの拡大画像を得ることもできる。図6はマウスの頭部の拡大例を示す図である。
【0026】
次に、操作部51から指令を送り、マウスMを撮影位置まで移動させる。この状態でESR画像を得ると共に、カメラ35でマウスMの撮影を行なう。ESRイメージ画像を得る工程については、図8について詳述したので、ここではその説明は省略する。中央制御装置19は、ESR画像を表示部50に表示する。それと同時に、カメラ35で撮影された画像は、中央制御装置19に入力される。そこで、中央制御装置19は、ESRイメージング画像とカメラ35による撮影画像とを重ね合わせて表示する。
【0027】
ここでは、例としてXY面(水平面)に貼り付けた写真データとESRイメージング画像(2次元XY面切片に投影)を重ねあわせる。図7は画像の合わせ方の説明図である。図7の(a)は表示部50に表示された画像例を示す図である。図において、Mはマウスで、55はラジカル試薬ポイントに反応して抽出されたESRイメージ画像である。47はESRイメージングにより抽出されたラジカル試料ポイント、47’はカメラ35で撮影されたマウス像と一緒に写っているラジカル試料ポイントである。図の例では、ラジカル試料ポイント47と47’はずれている。
【0028】
ここで、オペレータは、操作部51を操作して、ラジカル試料ポイント47’がラジカル試料ポイント47に一致するようにする。具体的には、カメラ35の倍率と撮影位置を調整する。この結果、ラジカル試料ポイント47と47’が図7の(b)に示すように完全に一致する。この状態で、ESRイメージング画像を観察すると、そのESRイメージング画像55の位置は、マウスMのどの部分であるのかを正確に判断することができる。
【0029】
このように、本発明によれば、ESRイメージング装置の画像と、カメラの撮影画像とを重畳して表示するので、検体(マウス)の実際の臓器とESRイメージング画像との対応関係を把握することが可能となる。また、ESR画像のラジカル試薬ポイントと、カメラで撮影した画像のラジカル試薬ポイントとが一致するように合わせ込むことができるので、検体(マウス)の撮影部分の位置を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の要部の一実施の形態例を示す構成図である。
【図2】本発明の動物固定装置の外観構成例を示す図である。
【図3】動物固定装置にマウスが固定された状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態例を示す構成図である。
【図5】マウスの固定状態を上から見た図である。
【図6】マウスの頭部の拡大例を示す図である。
【図7】画像の合わせ方の説明図である。
【図8】ESRイメージング装置の構成例を示す図である。
【図9】従来の動物固定装置の外観構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 磁石
2 電源
3 励磁コイル
4 発振器
5 静磁場変調用コイル
6 ループギャップ共振器
7 アンテナコイル
8 動物固定装置
11 マイクロ波発振器
12 方向性結合器
13 サーキュレータ
15 クォドラチャ検波器
16a 復調器
16b 復調器
18a A/D変換器
18b A/D変換器
19 中央制御装置
20 駆動回路
21 高周波発振器
22 加算器
23 復調器
25 勾配コイル
35 カメラ
39a 移動部
39b 駆動部
50 表示部
51 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物のESR画像を得るESRイメージング装置において、
動物をその内部に閉じ込める透明な動物固定装置に所定間隔でラジカル試薬を埋め込むラジカル試薬ポイントを設ける工程と、
前記動物固定装置を3次元方向から写真撮影できるカメラを具備する工程と、
該カメラで撮影した動物固定装置の撮影像と、ESRイメージ画像を重畳して表示する工程と、
を含むことを特徴とするESRイメージング方法。
【請求項2】
動物のESR画像を得るESRイメージング装置において、
動物をその内部に閉じ込める透明な動物固定装置に所定間隔でラジカル試薬を埋め込むラジカル試薬ポイントを設けると共に、
前記動物固定装置を3次元方向から写真撮影できるカメラを具備し、
該カメラで撮影した動物固定装置の撮影像と、ESRイメージ画像を重畳して表示することを特徴とするESRイメージング装置。
【請求項3】
前記動物固定装置のESR画像とカメラの撮影画像を重畳する場合に、ESR画像のラジカル試薬ポイントとカメラで撮影した画像のラジカル試薬ポイントが一致するように合わせ込むことを特徴とする請求項2記載のESRイメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−149723(P2006−149723A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345589(P2004−345589)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】