EUVマスクブランクス用基板
【課題】EUVマスクまたはEUVマスクブランクスに好適な平坦性に優れた基板の提供。
【解決手段】EUVマスク用の基板11であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下であり、熱膨張係数が、0〜100℃の温度域において200ppb/℃であるEUVマスク用の基板。
【解決手段】EUVマスク用の基板11であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下であり、熱膨張係数が、0〜100℃の温度域において200ppb/℃であるEUVマスク用の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVリソグラフィ用マスクまたはマスクブランクスに好適に使用される基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、Si基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速している一方で、従来のフォトリソグラフィ法の限界に近づいてきた。フォトリソグラフィ法の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(193nm)の液浸法を用いても45nm程度が限界と予想される。そこで45nm以降の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている(非特許文献1参照)。なお、本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線をさし、具体的には波長10〜20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度の光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつこの波長で物質の屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用することができない。このため、EUVリソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスク(以下、「EUVマスク」という。)とミラーとが用いられる。
【0004】
マスクブランクスは、フォトマスク製造用に用いられるパターニング前の積層体である。EUVマスクブランクスの場合、ガラス等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収体層とがこの順で形成された構造を有している。反射層としては、高屈折層と低屈折層とを交互に積層することで、EUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められた多層反射膜が通常使用される。吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的には例えば、CrやTaを主成分とする材料が用いられる。基板としては、EUV光照射の下においても歪みが生じないよう低い熱膨張係数を有する材料が必要とされ、基板として、低い熱膨張係数を有するガラス等が検討されている。
【0005】
特許文献1〜3には、EUVマスク用の基板として好ましい特性の一例が記載されている。また、特許文献4には、EUVマスク用の基板として好ましいストリエのレベルが記載されており、具体的には、「出願人等は、火炎加水分解時のいくつかの製造パラメータの修正によりシリカ−チタニア超低膨張ガラスブール内のストリエを低減できることを実証した。出願人等は、約0.05MPaより小さく、好ましくは約0.03MPaより小さく、さらに好ましくは約0.02MPaより小さい、RMSストリエ値を有するブール(Boule)および極紫外光光学素子を製造することができた。山対谷ストリエ値は0.2MPaより小さく、好ましくは0.15MPaより小さい値まで低減された。」と記載されている。
【0006】
さらに、上記ストリエレベルを測定する方法として、特許文献4には「偏光計は試料を通るリターダンスを位置の関数として測定する。偏光計の空間分解能はチタニア−シリカガラス内のストリエの大きさよりはるかに小さく、したがってストリエ層を通る測定が可能になる。偏光計で観測されるリターダンスは、層間の熱膨張不整合によると最も思われるストリエ層間の応力を示す。図3はある試料についてなされたストリエ測定の比較を示す。図3の下側の線は偏光計でなされたストリエ測定を表し、上側の線はマイクロプローブでなされた測定を表す。用いた偏光計はケンブリッジ・リサーチ・インスツルメンテーション(CambrdgeResearchInstrumentation)から入手できるModelLCであり、これをニコン顕微鏡とともに用いた。図3に示されるように、2つの手法の間にはよい相関があり、チタニア−シリカガラスおよび極紫外光リソグラフィ用素子のような光学素子内のストリエを測定するために偏光計を用い得ることを示す。」という方法が記載されている。
【0007】
しかし、この特許文献4においては、基板を切り出す前のガラス体(ブール(boule)と呼んでいる)の製造方法は記載されているものの、どのような製造方法で、上記ストリエレベルを達成するような基板を作製するのかについては明確に記載されていない。また、特許文献4に記載の方法では、どのように応力を測定するのかが不明確である。また、特許文献4記載の方法では、詳細は不明だが、ブール(boule)という、基板にする前のガラス体の応力の値を測定していると思われるが、それだけで基板そのものの応力値と決め付けることはできない。また、特許文献5,6には、EUVマスクブランクの膜構成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6465272号公報
【特許文献2】米国特許第6576380号公報
【特許文献3】米国特許第6931097号公報
【特許文献4】米国特許第7053017号公報
【特許文献5】特開2004−6798号公報
【特許文献6】米国特許第7390596号明細書
【特許文献7】特公昭63−24973号公報
【特許文献8】特開2007−213020号公報
【特許文献9】米国出願公開第2008/311487号公報
【特許文献10】国際公開番号00/75727公報
【特許文献11】米国特許第6352803号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Extreme ultraviolet lithography C.W.Gwynら J.Vac.Sci.Tech.B 16(6) Nov.Dec 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、EUVリソグラフィ用マスクまたはマスクブランクスに好適に使用される平坦性に優れた基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成するため、下記(1)〜(33)を提供する。
(1)EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域において0.04MPa以下であるEUVマスク用の基板。
(2)EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下であるEUVマスク用の基板。
(3)前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下である(1)に記載のEUVマスク用の基板。
(4)前記表面品質領域における基板の表面粗さ(rms)が1nm以下である(1)〜(3)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(5)前記基板の表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超である(1)〜(4)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【0012】
(6)前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である(1)〜(4)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(7)前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である(5)に記載のEUVマスク用の基板。
(8)表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が、表面品質領域内における応力の標準偏差(σ)よりも0.02MPa以上大きい(1)〜(4)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(9)表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい(1)〜(4)のいずれかにEUVマスク用の基板。
(10)前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい(8)に記載のEUVマスク用の基板。
【0013】
(11)前記基板の熱膨張係数が、0〜100℃の温度域において0±200ppb/℃である(1)〜(10)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(12)前記基板の仮想温度が1000℃未満である(1)〜(11)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(13)前記基板の仮想温度のばらつきが基板全体で100℃以下である(1)〜(12)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(14)前記基板のOH基濃度が600ppm以下である(1)〜(13)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(15)前記基板のOH基濃度のばらつきが基板全体で50ppm以下である(14)に記載のEUVマスク用の基板。
【0014】
(16)前記基板の屈折率の変動幅Δnが4×10-4以内である(1)〜(15)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(17)前記基板の表面粗さ(rms)が表面品質領域において0.8nm以下である(1)〜(16)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(18)前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が22±3℃である(1)〜(17)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(19)前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が40〜100℃である(1)〜(17)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(20)前記基板の塩素濃度が50ppm以下である(1)〜(19)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【0015】
(21)前記基板のフッ素濃度が100ppm以上である(1)〜(20)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(22)前記基板のホウ素濃度が10ppb以上である(1)〜(21)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(23)前記基板の水素濃度が5×1016molecules/cm3以上である(1)〜(22)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(24)前記基板のTi3+濃度が、70ppm以下である(1)〜(23)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(25)前記基板の表面品質領域において、表面に60nm以上の凹形状のピットが存在しない(1)〜(24)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【0016】
(26)前記基板が、透明TiO2−SiO2ガラス体を成形加工温度まで加熱して第1成形体に成形した後、該第1成形体の外周を切断し、その後、成形加工温度まで加熱して第2成形体に成形する2度成形を行う方法により製造される(1)〜(25)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(27)前記基板が、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を800〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法により製造される、(1)〜(26)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(28)(1)〜(27)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層および吸収体層を少なくとも有するEUVマスクブランクス。
(29)前記EUVマスクブランクスの最表層の表面粗さが(rms)が表面品質領域内において、2nm以下である(28)に記載のEUVマスクブランクス。
(30)前記反射層表面でのEUV波長域におけるピーク反射率の面内均一性の要求値が、表面品質領域内において±1.2%以内である(28)または(29)に記載のEUVマスクブランクス。
【0017】
(31)(1)〜(27)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層およびパターニングされた吸収体層を少なくとも有するEUVマスク。
(32)マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑制された(31)に記載のEUVマスク。
(33)(31)または(32)に記載のEUVマスクを用いた半導体集積回路の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の基板は平坦度も良好であり、結果的にEUV露光に好適なマスクを形成することができる。
本発明の基板の好適態様によれば、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の基板の応力の測定方法を示した基板の一例の模式斜視図である。
【図2】本発明の基板の断面における、応力の測定点の一例の模式斜視図である。
【図3】本発明の基板を有するブランクスの一例の断面模式図である。
【図4】図3と同様の図である。但し、吸収体層の一部がパターニングにより除去されている。
【図5】例1の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図6】例1の基板の応力の標準偏差(σ)を示すグラフである。
【図7】例1の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図8】例2の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図9】例2の基板の応力の標準偏差(σ)を示す別のグラフである。
【図10】例2の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図11】例3の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図12】例3の基板の応力の標準偏差(σ)を示すグラフである。
【図13】例3の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図14】例4の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図15】例4の基板の応力の標準偏差(σ)を示す別のグラフである。
【図16】例4の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図17】マスクパターン領域の外周部からのEUV反射光の影響を説明するためのマスクの一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に好適に用いられる基板の材質はガラスであり、具体的にはTiO2−SiO2ガラス(TiO2を含むシリカガラス)である。TiO2−SiO2ガラスは、含有するTiO2濃度により熱膨張係数(CTE)が変化することが知られている。例えば、TiO2を約7質量%含むTiO2−SiO2ガラスの熱膨張係数が、22℃にてほぼゼロとなり、TiO2を約7.5質量%含むTiO2−SiO2ガラスの熱膨張係数が、50℃にてほぼゼロとなる。TiO2の含有量は1〜12質量%である。TiO2の含有量が1質量%未満であるとゼロ膨張にならないおそれがあり、12質量%を超えると熱膨張係数が負となる可能性があるからである。TiO2の含有量は好ましくは5〜9質量%、より好ましくは6〜8質量%である。
【0021】
TiO2−SiO2ガラス中の塩素濃度は、50ppm以下、特に20ppm以下、さらには10ppm以下であることが好ましい。特に、TiO2−SiO2ガラス中に塩素は実質的に含有しないことが好ましい。また、TiO2−SiO2ガラス中のフッ素濃度は、100ppm以上、特に200ppm以上、さらには500ppm以上であることが好ましい。フッ素濃度は1質量%以下であることが好ましい。フッ素濃度が上記範囲であると、ガラスの粘性を下げることができ、ガラスに発生する脈理を低減することが可能となる。さらに、TiO2−SiO2ガラス中のホウ素濃度は、10ppb以上、特に100ppb以上、さらには1ppm以上であることが好ましい。ホウ素濃度は1質量%以下であることが好ましい。ホウ素濃度が上記範囲であると、ガラスの粘性を下げることができ、ガラスに発生する脈理を低減することが可能となる。
【0022】
TiO2−SiO2ガラス中のTi3+濃度は、70ppm以下、特に30ppm以下、さらには10ppm以下であることが好ましい。Ti3+濃度を下げることで、平坦度測定に用いる光源の波長における透過率が向上するため好ましい。
【0023】
EUVリソグラフィを実施する際、EUV露光によりミラー等の光学系部材の寸法や形状が温度変化により変化する可能性がある。このような変化を防止するため、露光のチャンバー内は22±3℃に制御されることが好ましい。したがって、基板の温度も22±3℃に制御されることから、基板の材質であるガラスのCOT(熱膨張係数(CTE)が0ppb/℃となる温度(クロスオーバー温度:Cross−over Temperature))は22±3℃であることが好ましい。ここで、COTとは、基板の表面品質領域全体の熱膨張におけるCOTを意味する。なお、COTを22±3℃とするためには、基板のTiO2の含有量が約7質量%以上であることが好ましい。
【0024】
なお、将来的にスループットを向上させる目的で露光光源のパワーが上がってきたときには、温度を22±3℃に制御することは難しく、基板の温度も上昇することが想定される。そのような場合、前記ガラスのCOTは40〜110℃であることが好ましく、さらに好ましくは45〜100℃、特に好ましくは50〜80℃である。COTを40〜110℃とするためには、基板のTiO2の含有量が7.5質量%以上であることが好ましい。また、TiO2含有量が12質量%超であると、COTが110℃超となる可能性があったり、−150〜200℃の範囲で負膨張となりやすくなったり、ルチルなどの結晶が析出しやすくなったり、泡が残りやすくなる可能性がある、などの理由により好ましくない。
【0025】
基板の材質としてTiO2−SiO2ガラスを採用することで、0〜100℃の広い温度域において熱膨張係数を0±200ppb/℃、特に0±150ppb/℃、さらには0±125ppb/℃とすることが可能である。またTiO2−SiO2ガラスの仮想温度が1000℃未満の場合は、熱膨張係数がほぼゼロを示す温度域がより広くなり、−50〜150℃の範囲において、熱膨張係数を0±200ppb/℃とすることが可能である。
【0026】
露光中は、EUVマスクはある一定温度に保たれることが好ましいが、少しの温度変動であれば当然に生じうる。よって、その露光中の温度の範囲の全域で、平均熱膨張係数が0±30ppb/℃、特に0±20ppb/℃、さらには0±15ppb/℃であることが好ましい。また、基板の熱膨張係数の全体の空間的変動(total spatial variation)が10ppb/℃、特に6ppb/℃、さらには4ppb/℃、3ppb/℃であることが好ましい。露光中の温度は、通常19〜25℃であるが、前述のとおり、最近では若干高くなることが想定され、50〜80℃となる可能性が指摘されている。よって、19〜25℃の温度域、あるいは、50〜80℃の温度域で、基板の平均熱膨張係数が上記の範囲であることが好ましい。
【0027】
熱膨張係数は、通常、レーザー干渉式熱膨張計を用いて−150〜+200℃の範囲で測定することができる。基板の表面品質領域全体の熱膨張を測定するためには、例えば、基板から長さ100mm程度の比較的大きなガラスを切り出し、その長手方向の熱膨張をユニオプト社製レーザヘテロダイン干渉式熱膨張計CTE−01等で精密測定できる。なお、基板の表面品質領域については後述する。
また、熱膨張係数の全体の空間的変動を測定するためには、例えば、基板から12mm程度の比較的小さなガラスを切り出し、それぞれの小さな領域の熱膨張係数をULVAC社製レーザー膨張計LIX−1等で精密測定できる。熱膨張係数の算出には、その温度の前後1〜3℃の温度変化による寸法変化を測定し、その平均の熱膨張係数をその中間の温度における熱膨張係数とする方法、または、−150〜+200℃といった比較的広い温度の範囲を測定して熱膨張曲線を得て、その熱膨張曲線の温度微分値を各温度における熱膨張係数とする方法などを用いることができる。
【0028】
仮想温度(fictive temperature)と、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度範囲(ゼロ膨張の温度範囲)の広さとは関連がある。その結果に基づくと、仮想温度が1200℃を超えるとゼロ膨張の温度範囲が狭く、EUVマスクブランクスに用いる材料には不充分になるおそれがある。ゼロ膨張の温度範囲を広げるには、仮想温度は1000℃未満、特に950℃未満、さらには900℃未満、850℃未満が好ましい。
【0029】
仮想温度が1000℃未満のTiO2−SiO2ガラスを得るためには、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を800〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法が効果的である。より仮想温度を下げるためには、5℃/hr以下の速度で降温することが好ましく、3℃/hr以下の速度で降温することがより好ましい。より遅い平均降温速度で降温すれば、より低い仮想温度が達成される。例えば、1℃/hr以下の速度で降温すれば、仮想温度は900℃以下に成り得るが、その場合は1000〜800℃の温度範囲のみを遅い冷却速度、例えば、1℃/hr以下の速度で降温し、それ以外の温度域は5℃/hr以上の冷却速度で冷却することで時間を短縮することができる。
【0030】
基板の仮想温度は公知の手順で測定することができる。鏡面研磨された基板について、吸収スペクトルを赤外分光計(後述する実施例では、Nikolet社製Magna760を使用)を用いて取得する。この際、データ間隔は約0.5cm-1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値を用いる。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm-1付近に観察されるピークがTiO2−SiO2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。あるいは、表面の反射スペクトルを同様の赤外分光計を用いて、同様に測定する。このようにして得られた赤外反射スペクトルにおいて、約1120cm-1付近に観察されるピークがTiO2−SiO2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。なお、ガラス組成の変化によるピーク位置のシフトは、検量線の組成依存性から外挿することが可能である。
【0031】
本発明の基板を構成するTiO2−SiO2ガラスの水素分子濃度は、5×1016molecules/cm3以上、特に8×1016molecules/cm3以上であることが好ましい。水素濃度を上げることで、露光中に発生する炭素などのコンタミネーションを防止でき、かつ基板上に形成する膜を還元することで膜の酸化劣化を防ぐことが可能となる。水素分子濃度はラマン分光法により測定することができる。
本発明のTiO2−SiO2ガラスを直接法で作製する場合には、通常の合成条件と比べて、(1)合成時の水素分子濃度を上げる、(2)火炎温度を上げる、(3)堆積面温度を上げる、(4)原料ガス濃度を下げる、などを行うことが水素分子濃度が高くなるので好ましい。燃焼ガスとしては、分子式にHを含むものを用いるが、供給されるすべてのガスにおけるO/H比が1.5以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。火炎温度は1900℃以上が好ましく、より好ましくは2000℃以上である。堆積面温度は1800℃以上が好ましく、1900℃以上である。原料ガスがバーナーへ搬送される配管中の原料ガス濃度は20体積%以下が好ましく、より好ましくは10%以下である。上記4項目のうち2項目以上を行うことがより好ましく、3項目以上を行うことがさらに好ましく、これらすべてを行うことが特に好ましい。
【0032】
本発明の基板を構成するTiO2−SiO2ガラスのOH基濃度は600ppm以下であることが好ましく、より好ましくは400ppm以下、特に好ましくは200ppm以下である。OH基濃度が高いと、構造緩和が早いため、温度分布のつきやすい径の大きなガラス体を製造する場合に、仮想温度分布がつきやすくなると考えられる。
【0033】
OH基濃度はガラスの構造緩和に影響を及ぼすことが考えられる。これはOH基が、ガラスの網目構造においてネットワークを切断する終端基となるためであり、終端基が多いほどガラスの構造緩和は容易になると考えられる。つまり、OH基が多いほど構造緩和の時間は短くなるので、仮想温度は、冷却時に生じるガラス体内の温度分布の影響を受け易くなる。
【0034】
OH基濃度が低いTiO2−SiO2ガラスを得るための製造方法としては、スート法が好ましい。スート法とは、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子(スート)を堆積させ、その後透明ガラス化温度まで加熱して透明TiO2−SiO2ガラス体を得る製造方法である。またスート法はその作り方により、MCVD法、OVD法、およびVAD法などがある。詳しくは後述する。
【0035】
また、別な方法としては、特許文献4に記載されているような直接法によって、ガラス体を作製する方法がある。具体的には、ケイ素含有供給原料およびチタン含有供給原料の火炎加水分解によりシリカ−チタニア粉末を作製し、上記粉末を耐火炉に配置された回転している収集カップまたは炉中に存在するガラスの表面に堆積させ、上記粉末を固結させてTiO2−SiO2ガラスを作製する。本発明の基板としては、スート法も直接法でもどちらも製造可能である。また、別の製造方法である、いわゆる溶融法も使用可能である。
【0036】
OH基濃度は以下のように測定できる。赤外分光光度計による測定から、TiO2−SiO2ガラスの吸収スペクトルを測定し、そのスペクトルの2.7μm波長での吸収ピークからOH基濃度を求める。本法による検出限界は、通常約0.1ppmである。
【0037】
EUV用マスクの基板として、ガラス中におけるTiO2/SiO2組成比を一定とすることが、基板内での熱膨張係数の分布を小さくできる点で好ましい。このTiO2/SiO2組成比の変動は、ガラスの屈折率に影響を及ぼすので、TiO2−SiO2組成の均一性の指標として、屈折率の変動幅Δnを用いることが可能である。本発明の基板は、少なくとも一つの面内における30mm×30mmの範囲の屈折率の変動幅(Δn)が4×10-4(400ppm)以下であることが好ましい。4×10-4超であると研磨後の表面の粗さが大きくなり、超高平滑性が得られない可能性がある。より好ましくは3.5×10-4(350ppm)以下、さらに好ましくは3×10-4(300ppm)以下である。特に超平滑性(表面粗さ(rms)≦2nm)とするためには、屈折率の変動幅(Δn)は、好ましくは2×10-4(200ppm)以下、さらに好ましくは1×10-4(100ppm)以下、特に好ましくは0.5×10-4(50ppm)以下である。
【0038】
屈折率の変動幅Δnの測定方法は公知の方法、例えば、光干渉計を用いることで測定することができる。より具体的には、透明TiO2−SiO2ガラス体から、例えば40mm×40mm×40mm程度の立方体を切り出し、立方体の各面より厚さ0.5mm程度でスライス、研磨を行い、30mm×30mm×(0.2〜1)mmの板状TiO2−SiO2ガラスブロックを得る。小口径フィゾー干渉計にて、本ガラスブロックの30mm×30mmの面に例えば650±10nmのレーザ光をあて、脈理が十分観察可能な倍率に拡大して、面内の屈折率分布を調べ、屈折率の変動幅Δnを測定する。脈理のピッチが細かい場合は測定する板状TiO2−SiO2ガラスブロックの厚さを薄くすることが好ましい。
【0039】
本発明により得られる基板において、仮想温度のばらつきが100℃以内、OH基濃度のばらつきが50ppm以内、Δnが4×10-4以内とすることで、熱膨張係数分布を少なくとも1つの面内における約30mm×約30mm内で30ppb/℃以内とすることができ、EUV用マスクとして非常に好適である。
【0040】
仮想温度のばらつきとは、1つの面内における30mm×30mm内での仮想温度の最大値と最小値の差である。仮想温度のばらつきは以下のように測定できる。所定のサイズに成形した透明TiO2−SiO2ガラス体をスライスし、50mm×50mm×1mmのTiO2−SiO2ガラスブロックとする。このTiO2−SiO2ガラスブロックの50mm×50mm面について、10mmピッチの間隔で前述の方法に従い仮想温度の測定を行うことで、成形TiO2−SiO2ガラス体の仮想温度のばらつきを求める。
【0041】
本発明の基板の一態様に用いられるTiO2−SiO2ガラスを製造するためには、以下の製造方法が採用可能である。
【0042】
(a)工程
ガラス形成原料であるシリカ前駆体およびチタニア前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成させる。ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されないが、シリカ前駆体としては、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Clなどの塩化物、SiF4、SiHF3、SiH2F2などのフッ化物、SiBr4、SiHBr3などの臭化物、SiI4などのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またRnSi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられる。またチタニア前駆体としては、TiCl4、TiBr4などのハロゲン化チタン化合物、またRnTi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、シリカ前駆体およびチタニア前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシドなどのSiとTiの混合化合物を使用することもできる。
【0043】
基材としては石英ガラス製の種棒(例えば特許文献10,11記載の種棒)を使用できる。また棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。ガラス形成原料供給の際、原料タンクや原料ガス配管の温度やガス流速を精密に制御することでガラス原料ガスの供給を安定化させることが好ましい。さらに、ガラス原料ガスの撹拌機構をガス供給系の途中に設けることが好ましい。上記の方法により、TiO2−SiO2ガラスの脈理レベルを低減でき、脈理応力レベルや屈折率変動幅を所定の値以下にできるため好ましい。
【0044】
上記原料の供給を安定化に加え、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成する際の種棒の回転数を25回転/分以上で行うことが好ましく、50回転/分以上で行うことがより好ましく、100回転/分以上で行うことがさらに好ましく、250回転/分以上で行うことが特に好ましい。蒸気形態の原料の供給を安定化または均質化に加え、種棒を高速回転させることで、さらに脈理の小さいTiO2−SiO2ガラスが得ることが可能となる。
【0045】
(b)工程
(a)工程で得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を減圧下またはヘリウム雰囲気下にて緻密化温度まで昇温して、TiO2−SiO2緻密体を得る。緻密化温度は、通常は1250〜1550℃であり、特に1300〜1500℃であることが好ましい。緻密化温度とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体を緻密化できる温度をいう。
【0046】
(c)工程
(b)工程で得られたTiO2−SiO2緻密体を、透明ガラス化温度まで昇温して、透明TiO2−SiO2ガラス体を得る。透明ガラス化温度は1350〜1800℃、特に1400〜1750℃であることが好ましい。透明ガラス化温度とは、光学顕微鏡で結晶が確認できなくなり、透明なガラスが得られる温度をいう。
【0047】
昇温の雰囲気としては、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。圧力については、減圧または常圧であればよい。減圧の場合は13000Pa以下が好ましい。
【0048】
(d)工程
(c)工程で得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO2−SiO2ガラス体を得る。成形加工の温度としては、1500〜1800℃が好ましい。1500℃未満では、透明TiO2−SiO2ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSiO2の結晶相であるクリストバライトの成長またはTiO2の結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる可能性がある。1800℃超では、SiO2の昇華が無視できなくなる可能性がある。
さらに、応力値を良好とするためには以下のような2度成形を行うことが好ましい。まず、上記成形加工温度まで透明TiO2−SiO2ガラス体を加熱し第1成形体に成形した後、基板の外周部を切断する。外周を切断した第1成形体を上記成形加工温度まで加熱し第2成形体へ成形する。この2度成形は、脈理の間隔を小さくすることで濃度勾配が大きくなるため、脈理間での成分拡散が容易となる点で好ましい。また、ガラス体の内部に存在する脈理の応力が大きい部分が外周部分になるように調整できる点で好ましい。第1成形体の体積は、第2成形体の体積の3/4以下であることが好ましい。
【0049】
なお、(c)工程と(d)工程を連続的に、あるいは同時に行うこともできる。
【0050】
(e)工程
(d)工程で得られた成形TiO2−SiO2ガラス体をアニール処理する。具体的には、800〜1200℃の温度にて1時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、1200℃以上の(d)工程で得られた成形TiO2−SiO2ガラス体を700℃まで60℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。700℃以下まで降温した後は放冷できる。放冷の雰囲気は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス100%の雰囲気下、これらの不活性ガスを主成分とする雰囲気下、または空気雰囲気下で行うことが可能である。放冷の圧力は減圧または常圧が好ましい。
【0051】
(f)工程
(e)工程で得られたTiO2−SiO2ガラス体を、300〜1200℃の温度にて10時間以上、水素雰囲気下で保持することで水素を含有したTiO2−SiO2ガラス体を得る。雰囲気としては水素100%の雰囲気下、あるいはヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気を含む水素雰囲気下であることが好ましく、水素分圧は0.1気圧以上が好ましく、より好ましくは1気圧以上、さらに好ましくは5気圧以上である。水素濃度の分布を良くするためには、保持時間は10時間以上が好ましく、より好ましくは24時間以上である。
【0052】
より低い仮想温度を達成するためには、ガラスの徐冷点や歪点付近の温度域をより遅い冷却速度で冷却することが有効である。具体的には、(e)工程の冷却プロファイルにおいて、最も遅い冷却速度が10℃/hr以下であることが好ましく、より好ましくは5/hr以下、さらに好ましくは3℃/hr以下、特に好ましくは1℃/hr以下である。
本発明のTiO2−SiO2ガラスはインクルージョンがないことが好ましい。インクルージョンとは、ガラス中に存在する異物や泡などである。異物はガラス作製工程のコンタミや結晶析出によって生じる恐れがある。異物や泡などのインクルージョンを排除するためには、上記製造工程において、特に工程(a)でコンタミネーションを抑制すること、さらに工程(b)〜(d)の温度条件を正確にコントロールすることが好ましい。
【0053】
上記のような方法で形成されたTiO2−SiO2ガラス体を、基板サイズへ大まかに切断し、処理前基板を形成する。次に、処理前基板を粗研磨するため、機械研磨を行う。その後、特許文献8,9に記載されているような精密研磨・洗浄を行い、成膜前の基板を形成する。本発明における基板とは、通常、この成膜前の基板を意味する。
【0054】
上述したように、スート法も直接法でも、本発明の一態様であるTiO2−SiO2からなる基板を製造することが可能である。これらの方法でTiO2−SiO2ガラスを製造した場合、ガラス中に脈理(ストリエ(striae))が発生する場合が多い。脈理とはガラス中に筋状に見える欠点であり、通常、ガラスを薄く切断し研磨すると見やすくなる欠点である。この脈理の原因は、主としては、ガラス中のTiO2濃度の不均一性によるものであり、その発生状況は、製造方法や製造条件などによって変化するため、一つ一つの基板によってその脈理の発生状況が変わってくる。また、通常、EUV用の基板を製造する場合、その基板よりも大きいガラス体を形成した後、そこから複数の基板を切り出すことが多い。このことから、基板中の脈理の本数や強さは、個々の基板によって異なるのが通常である。
【0055】
基板における脈理の強さは、以下のような応力を測定することで評価可能である。以下、図1および2を用いて説明する。まず、基板11を準備する。この基板は、成膜前の基板を用いてもよいし、形成された膜を取り除いた基板であってもよい。基板11は、表面20(反射層や吸収体層を形成する面)と、裏面30(高誘電性コーティングを形成する面)とを有している。次に、表面20の中央点40を通り、かつ基板のいずれか一方の辺と平行な線で基板を切断する。すると、基板の中央の断面50が現れる。この断面を研磨後、特定波長の光を研磨面に対して垂直にあて、複屈折顕微鏡を用いて脈理が十分観察可能な倍率に観察域を拡大して、特定の測定点におけるレタデーション(光路差)を測定する。得られたレタデーション(光路差)を、以下の式(1)で応力に換算する。
【0056】
Δ=C×F×n×d…(1)
【0057】
ここで、Δはレタデーション、Cは光弾性定数、Fは応力、nは屈折率、dはサンプル厚である。ガラスの種類によりCおよびdは決まっており、かつサンプルの厚さdを一様とすることで、レタデーションから応力を換算することが可能である。
【0058】
なお、基板の応力値はその位置によって異なるため、ある1点のみの測定値を用いることは好ましくない。よって、応力の測定範囲を3.4mm×2.5mm(以下、この範囲を特定測定範囲という)とし、その範囲内において応力をランダムに約100万点測定することにより、この多数の測定値を用いて、特定測定範囲における基板の応力の標準偏差(σ)や最大ばらつき(PV)を求めることができる。なお、脈理は透過光で測定するため、基板の測定サンプルは厚さを約1mm程度まで薄くして測定することが多い。
【0059】
次に、脈理の強さの基板全体の分布を評価するため、つまり基板の応力の標準偏差(σ)の分布や、応力の最大ばらつき(PV)分布を評価するため、特定測定範囲の数を増やすことで対応可能である。本発明においては、図2のように、特定測定範囲の測定場所の中心点である測定点52として、断面方向で中央の位置において、基板の面(表面および裏面)と平行に約3.4mm間隔で合計44点選択し、各々の点を中心とした特定測定範囲において、応力測定を行う。
なお、脈理の強さを測定する場合、脈理の強さは、測定部分の厚さ方向の平均値として得られるため、厳密には実際に使用される面そのものの脈理の強さとは言いにくいかもしれない。しかし、実際に使用される表面近傍を測定すれば、その結果を使用される面における脈理の強さと考えることが可能である。またこの方法では、脈理の強さの分布は、基板のある一方向のみしか測定できないことになるが、ガラスの製造方法から考えた場合、脈理は通常連続的に変化しているため、この方法でもある程度基板全体の脈理の強さの分布を見積もることは可能である。また、複数の方向で測定したり、線対称や点対称など対称となる方向を考慮して測定することでも脈理の強さの分布をより精度よく見積もることは可能である。
【0060】
本発明の基板の応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域内において、0.04MPa以下であることが好ましい。0.04MPa超であると、表面粗さの面内分布のばらつきが非常に大きくなり、研磨を行う際の研磨設定が非常に困難になる結果、基板表面の超高平滑性が達成できない可能性がある。より好ましくは0.03MPa以下、さらに好ましくは0.02MPa以下、特に好ましくは0.15MPa以下である。
なお、「表面品質領域内」とは、本明細書において、基板の端から5mm以上中に入った部分、具体的には、図2に示す44点のうち、最も外側の点である測定No.1およびNo.44を除いた測定点すべてにおいて、という意味である。一方、基板の端からの距離が5mm未満の部分は、「表面品質領域外」とする。
脈理は通常連続的に変化しており、この方法でもある程度基板全体の脈理の強さの分布を見積もることは可能である。なお、本明細書における応力の標準偏差(σ)とは、特定の領域内で測定した値のうちの最大値である。
【0061】
本発明の基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域内において、0.2MPa以下であることが好ましい。0.2MPa超であると、面内のガラスの機械的および化学的物性の分布が大きくなるために、研磨レートが一定とならず、このため、研磨後の表面の粗さが大きくなる結果、基板表面の超高平滑性が達成できない可能性がある。より好ましくは0.15MPa以下、さらに好ましくは0.13MPa以下、特に好ましくは0.1MPa以下である。応力の標準偏差(PV)は、基板の表面粗さと相関があり、基板の表面粗さを良好とするためには、この値もある程度良好な値とすることが好ましい。上記のような脈理の値を良好とするためには、ガラス体を作成するときのバーナーの角度を調整することが重要なポイントの一つである。
なお、本明細書における応力の最大ばらつき(PV)とは、特定の領域内で測定した値のうちの最大値である。
【0062】
本発明の基板の応力の二乗平均平方根(rms)は、有効面内のすべての点において、0.05MPa以下であることが好ましい。0.05MPa超であると研磨後の表面の粗さが大きくなり、超高平滑性が得られない可能性がある。より好ましくは0.04MPa以下、さらに好ましくは0.03MPa以下、特に好ましくは0.015MPa以下である。
【0063】
上記では、表面品質領域内における、基板の応力の標準偏差(σ)、および、基板の応力の最大ばらつき(PV)について述べたが、表面品質領域外においても基板の応力の標準偏差(σ)、および、基板の応力の最大ばらつき(PV)が特定の条件を満たすことが好ましい。この点について、以下に説明する。
【0064】
EUVリソグラフィでは、露光光はEUVマスクに対して垂直方向から照射されるのではなく、垂直方向より数度、通常は6度傾斜した方向から照射される。吸収体層の膜厚が厚いと、EUVリソグラフィの際に、該吸収体層の一部をエッチングにより除去して形成したマスクパターンに露光光による影が生じ、該EUVマスクを用いてSiウェハなどの基板上レジストに転写されるマスクパターン(以下、「転写パターン」という。)の形状精度や寸法精度が悪化しやすくなる。この問題は、EUVマスク上に形成されるマスクパターンの線幅が小さくなるほど顕著となるため、EUVマスクブランクスの吸収体層の膜厚をより薄くすること好ましい。ただし、もちろん、EUV光の吸収性を維持するために、吸収体層はある程度以上の膜厚を有する必要はある。
【0065】
EUVマスクブランクスの吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料が用いられ、その膜厚も該吸収体層表面にEUV光を照射した際に、照射したEUV光が吸収体層で全て吸収されるような膜厚とすることが理想である。しかし、上記したように、吸収体層の膜厚を薄くすることが求められているため、照射されたEUV光を吸収体層ですべて吸収することはできず、その一部は反射光となる。
【0066】
EUVリソグラフィにより、基板上レジスト上に転写パターンを形成する際に要求されるのは、EUVマスクでの反射光の光学コントラスト、すなわち、マスクパターン形成時に吸収体層が除去され、反射膜が露出した部位からの反射光と、マスクパターン形成時に吸収体層が除去されなかった部位からの反射光と、の光学コントラストである。よって、反射光の光学コントラストが十分確保できる限り、照射されたEUV光が吸収体層で全て吸収されなくても全く問題ないと考えられていた。
特許文献2ではこのような考えに基づき、吸収体層の膜厚をより薄くするために、位相シフトの原理を利用したEUVマスクが提案されている。これは、マスクパターン形成時に吸収体層が除去されなかった部位におけるEUV光(反射光)が、5〜15%の反射率を有し、かつ、マスクパターン形成時に吸収体層が除去され反射膜が露出した部位からのEUV反射光に対して175〜185度の位相差を有すること、を特徴としている。このEUVマスクは、吸収体層からの反射光に対して、位相シフトの原理を利用することによって、反射膜との光学コントラストを十分維持することが可能であるため、吸収体層の膜厚を薄くすることが可能である、と記載されている。
【0067】
しかしながら、位相シフトの原理を利用したEUVマスクでは、実際のマスクパターン領域(マスクパターンが形成され、EUVリソグラフィの際にパターンの転写に用いられる領域)に関しては問題無いが、マスクパターン領域の外周部からのEUV反射光に関しては、位相シフトの原理を利用することができないので、反射膜からの反射光との光学コントラストが不十分となる場合があり得ることを本願発明者らは見出した。この点について、以下、図17を用いて説明する。図17は、マスクパターン形成後のEUVマスクの一例を示した概略断面図であり、基板120上に反射膜130および吸収体層140がこの順に形成されており、マスクパターン領域210には、吸収体層140を一部除去することによってマスクパターンが形成されている。
図17に示すEUVマスク100のマスクパターン領域210に関しては、上記の位相シフトの原理により、反射膜120の表面と吸収体層130の表面との反射光の光学コントラストが十分維持できる。しかしながら、実際の露光領域、すなわちEUV光が照射される領域は200である。よって、220で示されるマスクパターン領域210の外側の領域(マスクパターン領域の外周部)にもEUV光が照射されるが、このとき反射膜130からの反射光との位相シフトによる効果が十分得られず、吸収体層140の表面から5〜15%程度の反射が生じる。結果として、この5〜15%程度のEUV反射光がSi基板上のレジストに照射され、不必要なレジストが感光してしまう恐れがある。特に重ね合わせ露光を行う時にはこのような不必要なレジストの感光が問題となり得る。
【0068】
上述したマスクパターン領域の外周部からのEUV反射光によるレジストの感光を防止するため、本発明の基板は、表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超であることが好ましい。応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超であると、基板の上に反射層および吸収体層を形成した場合に、マスクパターン領域の外周部の部分における反射層の平坦性が悪化するため、反射率が下がり、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑えられるため好ましい。より好ましくは0.052MPa以上、さらに好ましくは0.055MPa以上、0.07MPa以上である。表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)は、5MPa以下であることが好ましい。
【0069】
また、上述したマスクパターン領域の外周部からのEUV反射光によるレジストの感光を防止するため、本発明の基板は、表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超であることが好ましい。応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超以上であると、基板の上に反射層および吸収体層を形成した場合に、マスクパターン領域の外周部の部分における反射層の平坦性が悪化するため、反射率が下がり、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑えられるため好ましい。より好ましくは0.25MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上、特に好ましくは0.35MPa以上、0.5MPa以上である。表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)は10MPa以下であることが好ましい。
【0070】
但し、応力の最大ばらつき(PV)および応力の標準偏差(σ)は、基板の表面粗さと相関があり、基板の表面粗さを良好とするためには、基板の表面品質領域内においてはこれらの値をある程度良好な値とすることが好ましく、上述したように、これらの値が以下の範囲を満たすことが好ましい。
表面品質領域内における基板の応力の標準偏差(σ):0.04MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.03MPa以下、さらに好ましくは0.02MPa以下、特に好ましくは0.15MPa以下。
表面品質領域内における基板の応力の最大ばらつき(PV):0.2MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.15MPa以下、さらに好ましくは0.13MPa以下、特に好ましくは0.1MPa以下。
よって、本発明の基板の表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域内における応力の標準偏差(σ)よりも0.02MPa以上大きいことが好ましい。特に好ましくは0.025MPa以上、さらに好ましくは0.04MPa以上である。
同様に、本発明の基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きいことが好ましい。特に好ましくは0.15MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上である。
【0071】
本発明の基板の表面粗さ(rms)は、研磨面において平滑性をあらわす指標である10μm〜1mmの範囲内にうねりのピッチをもつMSFR(Mid−Spatial Frequency Roughness)として、表面品質領域内で、2nm以下、好ましくは1.5nm以下、更に好ましくは1nm以下であることが、高性能なEUVL用マスクブランクを得られる点で好ましい。基板全体の表面粗さの値を100nm以下とすることで、基板上に形成する膜を均一にパターニングでき、良好なマスクを形成することが可能となる。本明細書において、「表面粗さ」とは、1mm2の領域内での凹凸の二乗平均平方根(rms)であり、「基板全体の表面粗さ」とは、図2における測定線54上の各点の表面粗さを測定したうちの、最も高い値である。
表面粗さを基板表面のある1点だけを測定して、その基板の代表値とする場合もある。しかし、表面粗さが基板の上に成膜する膜(反射膜や吸収体膜)の反射率分布や表面粗さ分布に影響を与えるのであれば、表面粗さの評価も1点では不十分であり、上記のように表面粗さを基板全体にわたって測定することが好ましい。表面粗さは、例えば、例えば、走査型干渉計による非接触表面形状測定機(例えば、ZYGO社製NewView)で測定できる。なお、基板としては、約6インチ(約152mm)×約6インチ(約152mm)×約6.35mmの大きさのものが通常使用される。
【0072】
なお、TiO2−SiO2ガラスの作製方法として、天然原料や合成原料を酸水素火炎や電気炉で溶融して作製する溶融法があるが、溶融法においても原料粒径にしたがった不均質が脈理同様に生じ、表面平滑性を損なわせる。したがって、このような溶融法における不均質も前記脈理と同様に扱うことができる。
本発明の基板は、表面品質領域において表面に60nm以上の凹形状のピットが存在しないことが好ましい。表面品質領域に60nm以上の大きさの欠点が存在すると、反射層の平坦性が悪化するため、反射率が下がるため好ましくない。欠点には凸型のものと凹型のものがあるが、凸型のものは異物の付着が原因であり、再研磨によって除去されるか、あるいは洗浄によって除去されやすいため問題になりにくい。しかし、凹型の欠点、すなわち凹型状のピットは凹みであるため、洗浄で除去されにくく、凹型状のピットが生成される状態で研磨を継続した場合、仮にその場所に凹型状のピットがなくなっても、他の場所の生成する可能性があり、凸型と比較して問題となりやすい。凹型状のピットの生成を回避するには、ガラスの均質性を上げてガラスに余計な研磨ムラを生じさせないことと、研磨砥粒の粒径を制御し、余計な異物が混入しないようにすることが好ましい。マスクの品質を考えると、表面品質領域において表面に40nm以上の凹形状のピットが存在しないことがより好ましい。
【0073】
本発明の基板の研磨方法としては、石英ガラス材料の表面の研磨に使用される公知の研磨方法から広く選択することができる。但し、研磨レートが大きく、表面積が大きい研磨パッドを使用することにより、一度に大面積を研磨加工できることから、通常は機械研磨方法が使用される。ここで言う機械研磨方法には、砥粒による研磨作用のみによって研磨加工するもの以外に、研磨スラリーを使用し砥粒による研磨作用と薬品による化学的研磨作用を併用する方法も含む。なお、機械研磨方法は、ラップ研磨およびポリッシュ研磨のいずれであってもよく、使用する研磨具および研磨剤も公知のものから適宜選択することができる。なお、機械研磨方法を使用する場合、加工レートを大きくするため、ラップ研磨の場合、面圧30〜70gf/cm2で実施することが好ましく、面圧40〜60gf/cm2で実施することが好ましく、ポリッシュ研磨の場合、面圧60〜140gf/cm2で実施することがより好ましく、面圧80〜120gf/cm2で実施することがより好ましい。研磨量としては、ラップ研磨の場合、100〜300μmで実施することが好ましく、ポリッシュ研磨の場合、1〜60μmの研磨量で実施することが好ましい。
ポリッシュ工程は複数回に分けて行うことが好ましい。具体的には、ポリッシュ工程は
1次ポシッリュ、2次ポリッシュ、3次ポリッシュに分けて行うことが好ましい。また、最終ポリッシュはコロイダルシリカを主成分とする研磨剤を使うことが好ましく、コロイダルシリカを使う直前の研磨には酸化セリウムを主成分とする研磨剤を使うことが好ましい。
【0074】
本発明のEUV用ブランクス150は、図3に示すとおり、上記基板11の上に、EUV光を反射させるための反射層3およびEUV光を吸収させるための吸収体層4を少なくとも有する。
【0075】
反射層3は、EUVマスクブランクスの反射層として所望の特性を有するものである限り特に限定されない。ここで、反射層3に特に要求される特性は、高EUV光線反射率であることである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を入射角6度で反射層3表面に照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。また、反射層3の上に保護層や低反射層を設けた場合であっても、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
【0076】
反射層3は、高EUV光線反射率を達成できることから、通常は高屈折層と低屈折率層を交互に複数回積層させた多層反射膜が反射層3として用いられる。反射層3をなす多層反射膜において、高屈折率層には、Moが広く使用され、低屈折率層にはSiが広く使用される。すなわち、Mo/Si多層反射膜が最も一般的である。但し、多層反射膜はこれに限定されず、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜も用いることができる。
【0077】
反射層3をなす多層反射膜を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層に要求されるEUV光線反射率に応じて適宜選択することができる。Mo/Si反射膜を例にとると、EUV光線反射率の最大値が60%以上の反射層12とするには、多層反射膜は膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
【0078】
なお、反射層3をなす多層反射膜を構成する各層は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など、周知の成膜方法を用いて所望の厚さになるように成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてSi/Mo多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×1-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi膜を成膜し、次に、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo膜を成膜することが好ましい。これを1周期として、Si膜およびMo膜を40〜50周期積層させることによりSi/Mo多層反射膜が成膜される。
【0079】
反射層3表面が酸化されるのを防止するため、反射層3をなす多層反射膜の最上層は酸化されにくい材料の層とすることが好ましい。酸化されにくい材料の層は反射層3のキャップ層として機能する。キャップ層として機能する酸化されにくい材料の層の具体例としては、Si層を例示することができる。反射層3をなす多層反射膜がSi/Mo膜である場合、最上層をSi層とすることによって、該最上層をキャップ層として機能させることができる。その場合キャップ層の膜厚は、11±2nmであることが好ましい。
【0080】
反射層3と吸収体層4との間に保護層を設けてもよい。保護層は、エッチングプロセス、通常はドライエッチングプロセスにより吸収体層4をパターニングする際に、反射層3がエッチングプロセスによるダメージを受けないよう、反射層3を保護することを目的として設けられる。したがって保護層の材質としては、吸収体層4のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチング速度が吸収体層4よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。この条件を満たす物質としては、例えばCr、Al、Taおよびこれらの窒化物、RuおよびRu化合物(RuB、RuSi等)、ならびにSiO2、Si3N4、Al2O3やこれらの混合物が例示される。これらの中でも、RuおよびRu化合物(RuB、RuSi等)、CrNおよびSiO2の少なくとも1つが好ましく、RuおよびRu化合物(RuB、RuSi等)が特に好ましい。保護層を設ける場合、その厚さは1〜60nmであることが好ましい。
【0081】
保護層を設ける場合、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法を用いて成膜する。マグネトロンスパッタリング法によりRu膜を成膜する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.0×10-2Pa〜10×10-1Pa)を使用して投入電力30〜1500V、成膜速度0.02〜1.0nm/secで厚さ2〜5nmとなるように成膜することが好ましい。
【0082】
吸収体層4に特に要求される特性は、反射層3との関係で、該反射層3上に保護層が形成されている場合、該保護層との関係で、反射光のコントラストが十分高くなることである。
【0083】
本明細書において、反射光のコントラストは下記式を用いて求めることができる。
反射光のコントラスト(%)=((R2−R1)/(R2+R1))×100
【0084】
ここで、R2はEUV光の波長に対する反射層3表面(該反射層3上に保護層が形成されている場合、保護層表面)での反射率であり、R1はEUV光の波長に対する吸収体層4表面(後述するように、該吸収体層4上に検査光の波長に対する低反射層が形成されている場合、該低反射層表面)での反射率である。なお、上記R1およびR2は、図4に示すように、吸収体層4の一部をパターニングにより除去した状態で測定する。なお、吸収体層上に低反射層が形成されている場合は、EUVマスクブランクスの吸収体層および低反射層の一部をパターニングにより除去した状態で測定する。上記R2は、パターニングによって吸収体層4(吸収体層4上に低反射層が形成されている場合、吸収体層4および低反射層)が除去され、外部に露出した反射層3表面(反射層3上に保護層が形成されている場合、保護層表面)で測定した値であり、R1はパターニングによって除去されずに残った吸収体層4表面(吸収体層4上に低反射層が形成されている場合、低反射層表面)で測定した値である。
【0085】
本発明のEUVマスクブランクスおよびEUVマスクは、上記式で表される反射光のコントラストが60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
【0086】
上記の反射光のコントラストを達成するため、吸収体層4は、EUV光線反射率が極めて低いことが好ましい。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収体層4表面に照射した際に、波長13.5nm付近の最大光線反射率が0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
【0087】
なお、吸収体層上に低反射層が形成されている場合、EUV光の波長領域の光線を低反射層表面に照射した際にも、波長13.5nm付近の最大光線反射率が0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
【0088】
上記の特性を達成するため、吸収体層4は、EUV光の吸収係数が高い材料で構成される。EUV光の吸収係数が高い材料としては、タンタル(Ta)を主成分とする材料を用いることが好ましい。本明細書において、タンタル(Ta)を主成分とする材料と言った場合、当該材料中Taを40at%以上、好ましくは、50at%以上、より好ましくは55at%以上含有する材料を意味する。
【0089】
吸収体層4に用いるTaを主成分とする材料は、Ta以外にハフニウム(Hf)、珪素(Si)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、硼素(B)および窒素(N)から選ばれる少なくとも一つの元素を含んでも良い。Ta以外の上記の元素を含有する材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrNなどが挙げられる。
【0090】
ただし、吸収体層4中には、酸素(O)を含まないことが好ましい。具体的には、吸収体層4中のOの含有率が25at%未満であることが好ましい。吸収体層4をパターニングする際には、通常はドライエッチングプロセスが用いられ、エッチングガスとしては、塩素系ガス(あるいは塩素系ガスを含む混合ガス)あるいはフッ素ガス(あるいはフッ素系ガスを含む混合ガス)が通常に用いられる。エッチングプロセスにより反射層がダメージを受けるのを防止する目的で、反射層上に保護層としてRuまたはRu化合物を含む膜が形成されている場合、保護層のダメージが少ないことから、エッチングガスとして主に塩素系ガスが使われる。しかしながら、塩素系ガスを用いてドライエッチングプロセスを実施する場合に、吸収体層4が酸素を含有していると、エッチング速度が低下し、レジストダメージが大きくなり好ましくない。吸収体層4中の酸素の含有率は、15at%以下であることが好ましく、特に10at%以下であることがより好ましく、5at%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
吸収体層4の厚さは、20〜100nmであることが好ましく、25〜90nmであることがより好ましく、30〜80nmであることがさらに好ましい。
【0092】
上記した構成の吸収体層4は、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施することにより形成することができる。
【0093】
例えば、吸収体層4として、マグネトロンスパッタリング法を用いてTaHf膜を形成する場合、以下の条件で実施すればよい。
スパッタリングターゲット:TaHf化合物ターゲット(Ta=30〜70at%、Hf=70〜30at%)
スパッタガス:Arガス等の不活性ガス(ガス圧1.0×10-1Pa〜50×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜40×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜30×10-1Pa)
成膜前真空度:1×10-4Pa以下、好ましくは1×10-5Pa以下、より好ましくは10-6Pa以下
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/min、好ましくは3.5〜45nm/min、より好ましくは5〜30nm/min。
【0094】
吸収体層4上に検査光における低反射層を形成してもよい。低反射層を形成する場合、該低反射層はマスクパターンの検査に使用する検査光において、低反射となるような膜で構成される。EUVマスクを作製する際、吸収体層にパターンを形成した後、このパターンが設計通りに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nm程度の光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の波長域の反射光のコントラストによって検査される。EUVマスクブランクスの吸収体層は、EUV光線反射率が極めて低く、EUVマスクブランクスの吸収体層として優れた特性を有しているが、検査光の波長について見た場合、光線反射率が必ずしも十分低いとは言えない。この結果、検査時のコントラストが十分得られない可能性がある。検査時のコントラストが十分得られないと、マスク検査においてパターンの欠陥を十分判別できず、正確な欠陥検査を行えないことになる。
【0095】
吸収体層上に検査光における低反射層を形成することにより、検査時のコントラストが良好となる、別の言い方をすると、検査光の波長での光線反射率が極めて低くなる。具体的には、検査光の波長域の光線を低反射層表面に照射した際に、該検査光の波長の最大光線反射率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0096】
低反射層における検査光の波長の光線反射率が15%以下であれば、該検査時のコントラストが良好である。具体的には、上記式で求められる検査光の波長域の反射光のコントラストが、30%以上となる。
【0097】
吸収体層上に検査光における低反射層を形成する場合、吸収体層と低反射層の合計厚が20〜100nmであることが好ましく、25〜90nmであることがより好ましく、30〜80nmであることがさらに好ましい。
【0098】
なお、本発明のEUVマスクブランクスにおいて、吸収体層上に低反射層を形成することが好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収体層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。検査光の波長が13.5nmである場合、吸収体層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。
【0099】
低反射層は、その結晶状態はアモルファスであることが好ましい。アモルファスにすることで、その表面が平滑性に優れている。具体的には、低反射層表面の表面粗さ(rms)が表面品質領域内において2nm以下、より好ましくは1nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下、さらに好ましくは0.4nm以下、特に0.3nm以下であることが好ましい。なお、吸収体層上に低反射層を形成しない場合は、吸収体層の結晶状態はアモルファスであることが好ましく、吸収体層表面の表面粗さ(rms)が表面品質領域内において2nm以下であることが好ましい。
【0100】
上記したように、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度の悪化が防止されるため、吸収体層表面は平滑であることが要求される。低反射層は、吸収体層上に形成されるため、同様の理由から、その表面は平滑であることが要求される。
【0101】
低反射層表面(吸収体層上に低反射層を形成しない場合は吸収体層表面)の表面粗さ(rms)が表面品質領域内において2nm以下であれば、低反射層表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。低反射層表面の表面粗さ(rms)は表面品質領域内においてより好ましくは1nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下、さらに好ましくは0.4nm以下、特に0.3nm以下であることが好ましい。表面粗さの低減という点では、低反射層にNを含有させることが好ましい。
【0102】
なお、吸収体層または低反射層の結晶状態がアモルファスであること、すなわち、アモルファス構造であること、または微結晶構造であることは、X線回折(XRD)法によって確認することができる。吸収体層または低反射層の結晶状態がアモルファス構造であるか、または微結晶構造であれば、XRD測定により得られる回折ピークにシャープなピークが見られない。
【0103】
上記した構成の低反射層は、用いたスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施することにより形成することができる。
【0104】
本発明のEUVマスクブランクスは、良好な露光を達成するため、最表層(吸収体層または低反射層)の表面粗さが(rms)が表面品質領域内において、2nm以下、より好ましくは1nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下、さらに好ましくは0.4nm以下、特に0.3nm以下であることが好ましい。本発明のような応力の標準偏差(σ)や応力の最大ばらつき(PV)を良好とすることで、EUVマスクブランクスの反射率分布などを良好とすることができ、好ましい。EUVマスクブランクスにおいて、通常測定する波長により反射率の値は異なり極大値Rmaxを有する。この極大値Rmaxのことを本明細書においてEUV波長域におけるピーク反射率という。ピーク反射率の面内均一性の要求値は、表面品質領域内において±1.2%以内、特に±0.6%以内、さらには±0.3%以内であることが好ましい。また、本発明のEUVマスクブランクスにおいて、反射層をなす多層反射膜表面での反射光の中心波長の面内均一性に関する要求値は、±0.03nm以内であり、±0.01nm以内であることが好ましい。ここで、中心波長の面内均一性に関する要求値とは、中心波長を多層反射膜表面全体にわたって測定した場合に、最も大きい中心波長と最も小さい中心波長の差の許容値である。
【0105】
本発明のEUVマスクブランクスは、反射層および吸収体層、ならびに、随意に形成される保護層および低反射層以外に、EUVマスクブランクスの分野において公知の機能膜を有していてもよい。このような機能膜の具体例としては、例えば、国際公開番号WO00/75727公報に記載されているものように、基板の静電チャッキングを促すために、基板の裏面側に施される高誘電性コーティングが挙げられる。ここで、基板の裏面とは、図3に示すEUVマスクブランクス150についてみた場合、基板11の反射層3が形成されている側とは反対側の面を指す。このような目的で基板の裏面に施す高誘電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。高誘電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択することができる。例えば、特許文献7に記載の高誘電率のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、TaSiからなるコーティングを適用することができる。高誘電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nmとすることができる。
【0106】
高誘電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法を用いて形成することができる。
【0107】
本発明のEUVマスクブランクスの吸収層を少なくともパターニングすることで、EUVマスクを製造することが可能となる。吸収体層のパターニング方法は特に限定されず、例えば、吸収体層上にレジストを塗布してレジストパターンを形成し、これをマスクとして吸収体層をエッチングする方法を採用できる。レジストの材料やレジストパターンの描画法は、吸収体層の材質等を考慮して適宜選択すればよい。吸収体層のエッチング方法も特に限定されず、反応性イオンエッチング等のドライエッチングまたはウエットエッチングが採用できる。吸収体層をパターニングした後、レジストを剥離液で剥離することにより、EUVマスクが得られる。
【0108】
本発明に係るEUVマスクを用いた半導体集積回路の製造方法について説明する。本発明は、EUV光を露光用光源として用いるフォトリソグラフィ法による半導体集積回路の製造方法に適用できる。具体的には、レジストを塗布したシリコンウェハ等の基板をステージ上に配置し、反射鏡を組み合わせて構成した反射型の露光装置に上記EUVマスクを設置する。そして、EUV光を光源から反射鏡を介してEUVマスクに照射し、EUV光をEUVマスクによって反射させてレジストが塗布された基板に照射する。このパターン転写工程により、回路パターンが基板上に転写される。回路パターンが転写された基板は、現像によって感光部分または非感光部分をエッチングした後、レジストを剥離する。半導体集積回路は、このような工程を繰り返すことで製造される。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、例1,3,4は実施例であり、例2は比較例である。
【0110】
[例1]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl4を、それぞれガス化させた後に混合する。得られた混合物を酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を25rpmの回転速度で回転する種棒に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成する((a)工程)。なお、SiCl4およびTiCl4の供給配管におけるガス温度変動幅は±0.5℃以内に制御し、SiCl4とTiCl4をバーナーに供給する手前に原料ガスの撹拌機構を設けている。
【0111】
ハンドリング性向上のため、得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて6時間保持したのち、種棒から外す。
【0112】
その後、外した多孔質TiO2−SiO2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて10Torrまで減圧した後、ヘリウムガス雰囲気下で1450℃まで昇温し、この温度で4時間保持してTiO2−SiO2緻密体を得る((b)工程)。
【0113】
得られたTiO2−SiO2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で内径φ165mmの円筒状のカーボン型中で1680℃に加熱し、φ165mmの円筒形状の透明TiO2−SiO2緻密体を得る((c)工程)。
【0114】
得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を、1750℃に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO2−SiO2ガラス体を得る((d)工程)。
【0115】
得られたガラス体を1000℃にて10時間保持後、950℃で48時間保持し、さらに900℃で48時間保持した後、電気炉中で冷却し、徐冷TiO2−SiO2ガラス体を得る((e)工程)。
【0116】
得られた徐冷TiO2−SiO2ガラス体を、500℃の温度にて72時間、水素100%1気圧の雰囲気下で保持することで水素を含有したTiO2−SiO2ガラス体を得る((f)工程)。
【0117】
得られたガラス体を内周刃スライサーを用いて縦約153.0mm×横約153.0mm×厚さ約6.75mmの板状に切断し、40枚の板材を作成する。次いで、これらを市販のNC面取り機で#120のダイアモンド砥石を用い、縦、横の外形寸法が約152mmで面取り幅が0.2〜0.4mmになるよう面取り加工を実施する。次いで、板材を、20B両面ラップ機(スピードファム社製)を使用し、研磨材として実質的にSiCからなるGC#400(フジミコーポレーション製商品名)を濾過水に18〜20質量%懸濁させたスラリーを用いて、厚さが約6.6mmになるまでその主表面(多層膜や吸収層を成膜する面)を研磨加工する。
【0118】
次に、1次ポリシュとして、20B両面ポリシュ機を使用し、研磨布としてウレタン製のLP66(ローデス社製商品名)、研磨剤として酸化セリウムを主成分とするミレーク801A(三井金属社製商品名)を10〜12質量%懸濁させたスラリーを用いて両面で約50μm研磨する。
【0119】
さらに、20B両面ポリシュ機を使用し、研磨布として発泡ウレタン製のシーガル7355(東レコーテックス社製商品名)を用いて両面で約10μm研磨(2次ポリシュ)した後、別の研磨機で最終研磨(3次ポリシュ)を行う。この最終研磨には、研磨剤としてコロイダルシリカ(コンポール20:フジミコーポレーション製商品名)、研磨布としてベラトリックスK7512(カネボウ製商品名)を使用する。
【0120】
次いで、これらの各グループの基材について、第一槽目を硫酸と過酸化水素水の熱溶液、第三槽目を中性界面活性剤溶液とした多段式自動洗浄機で洗浄を実施する。その後、フォトマスク用表面欠点検査機M1350(レーザーテック社製)で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの欠点(凸形状の突起や異物、あるいは凹形状のピット)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択する。
【0121】
上記検査済みの基板を、図1に示すように、表面20の中央点40を通り、かつ基板の辺と平行な線で基板を切断する。すると、基板の中央の断面50が現れる。次に、断面50の厚さが1mmとなるように切断し、得られた断面を両面研磨する。
断面50に546nmの光を研磨面に対して垂直にあて(測定点は図2に示す点を中心点とする特定測定範囲)、複屈折イメージングシステム(顕微鏡を含む測定システム。屈折率分布と応力との切り分けが可能。)を用いて脈理が十分観察可能な倍率に観察域を拡大して、特定測定範囲の測定点におけるレタデーションを測定する。測定したレタデーションを式(1)で応力に換算する。各測定点において、換算した応力の最大ばらつき(PV)および応力の標準偏差(σ)の値を表1および2に示し、そのグラフを図5および図6に示す。
また、レタデーションの測定に用いた断面50における、表面20に相当する線52において、1mm間隔で基板全体の表面粗さ(rms)の測定を行う。測定は、非接触表面形状測定機(ZYGO社製NewView)を用いる。結果を表3〜6に示し、そのグラフを図7に示す。
なお、表1および2における「測定No.22と23」が基板中央の測定点であり、これに相当するのは、表4における座標0(ゼロ)nmである。
【0122】
[例2](比較例)
例1における(a)工程において、バーナーの角度は、垂直方向に対して4°となるようにする以外は例1と同様にして基板を形成する。この例においても、フォトマスク用表面欠点検査機で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの粒子(異物)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択している。
得られた基板について、例1と同様の方法で、応力の最大ばらつき(PV)、応力の標準偏差(σ)および表面粗さ(rms)の測定を行う。結果を表1〜6に示し、そのグラフを図8、9および図10に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
上記のように、例1の基板は非常に表面粗さのよい結果が得られた。一方、例2の基板は表面粗さが悪く、実用的に好ましくない。
【0130】
[例3]
例1における(d)工程の代わりに、下記(d−1)工程、(d−2)工程を実施する以外は例1と同様にして基板を形成する。
得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を175mm□の立方体状のカーボン型中で1700℃で加熱し、175mm□の立方体形状の成形TiO2−SiO2ガラス体(第1成形体)を得る((d−1)工程)。
得られた成形TiO2−SiO2ガラス体を中心が同じになるように123mm□となるように外周を切断し、再び175mm□の立方体状のカーボン型中で1700℃で加熱し、175mm□の立方体形状の成形TiO2−SiO2ガラス体(第2成形体)を得る((d−2)工程)。
例3においても、フォトマスク用表面欠点検査機で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの粒子(異物)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択している。
得られた基板について、例1と同様の方法で、応力の最大ばらつき(PV)、応力の標準偏差(σ)および表面粗さ(rms)の測定を行う。結果を表7〜12に示し、そのグラフを図11、12および図13に示す。
【0131】
[例4]
例3における(d−2)工程を行わなかった以外は例3と同様にして基板を形成する。
例4においても、フォトマスク用表面欠点検査機で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの粒子(異物)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択している。
得られた基板について、例1と同様の方法で、応力の最大ばらつき(PV)、応力の標準偏差(σ)および表面粗さ(rms)の測定を行う。結果を表7〜12に示し、そのグラフを図14、15および図16に示す。
【0132】
【表7】
【0133】
【表8】
【0134】
【表9】
【0135】
【表10】
【0136】
【表11】
【0137】
【表12】
【0138】
上記のように、例3,4の基板は非常に表面粗さのよい結果が得られた。例3の基板は表面品質領域外に高い応力値を有する。一方、例4の基板は表面品質領域外に高い応力値を有しない。
【0139】
また、例1,3,4の基板では、0〜100℃の温度領域において熱膨脹係数が0±125ppb/℃であり、仮想温度が960℃、仮想温度のばらつきは基板全体で20℃以下、熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が21〜23℃、OH基濃度は60ppm、OH基濃度のばらつきは基板全体で10ppm以下であった。なお、測定方法は上記の方法を用いた。塩素濃度は蛍光X線では検出されず、その検出感度から10ppm以下となる。ホウ素濃度は25ppbである。ホウ素濃度の測定方法は次の通りである。基板を破砕したのち、その一部を王水およびふっ化水素酸で加温洗浄し、超純水で水洗後乾燥させる。この洗浄試料約1gをふっ化水素酸で分解し、加熱濃縮したのち、超純水で定容とする。この定容液について、ICP質量分析法によりホウ素の定量分析を行う。水素濃度は1.4×1017molecules/cm3である。水素分子濃度の測定は、特許第3298974号明細書に基づく電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置(Thermal Desorption Spectrometer;TDS)を用いて、測定サンプルと水素濃度が既知の標準サンプルとの上記水素分子の脱離ピークの積分強度比より、測定サンプルの脱離した水素分子数を算出することができる。Ti3+濃度は4ppmである。Ti3+濃度は電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)測定により求める。
【0140】
<EUVマスクブランクスの形成>
例1〜4と同等の基板を用いて、成膜用の基板とする。具体的には、基板は、SiO2−TiO2系のガラス基板(外形6インチ(約152mm)角、厚さが約6.3mm)であり、熱膨張率は0.2×10-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×107m2/s2である。組成はTiO2=約7質量%、SiO2=約93質量%である。50℃における熱膨張係数が0±7ppb/℃である。仮想温度は800℃であり、OH基濃度は30ppmであり、OH基濃度のばらつきは10ppmであり、屈折率の変動幅(Δn)は300ppmである。Ti3+濃度は5ppm以下である。塩素濃度はゼロppmである。基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が50℃である。水素濃度は、1.5×1017個/cm3である。
【0141】
基板の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の高誘電性コーティングを施す。
【0142】
平板形状をした通常の静電チャックに、形成したCr膜を用いて基板を固定して、該基板の表面上にイオンビームスパッタリング法を用いてSi膜およびMo膜を交互に成膜することを40周期繰り返すことにより、合計膜厚272nm((4.5nm+2.3nm)×40)のSi/Mo多層反射膜(反射層)を形成する。
【0143】
さらに、Si/Mo多層反射膜(反射層)上に、イオンビームスパッタリング法を用いてRu膜(膜厚2.5nm)と成膜することにより、保護層を形成する。
【0144】
Si膜、Mo膜およびRu膜の成膜条件は以下の通りである。
Si膜の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.077nm/sec
膜厚:4.5nm
Mo膜の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.064nm/sec
膜厚:2.3nm
Ru膜の成膜条件
ターゲット:Ruターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:500V
成膜速度:0.023nm/sec
膜厚:2.5nm。
【0145】
次に、保護層上に、TaおよびHfを含有する吸収体層(TaHf膜)を、マグネトロンスパッタリング法を用いて形成することにより、基板上に反射層、保護層および吸収体層がこの順で形成されたEUVマスクブランクスを得る。
【0146】
吸収体層の成膜条件は以下の通りである。
吸収体層(TaHf膜)の成膜条件
ターゲット:TaHf化合物ターゲット(組成比:Ta55at%、Hf45at%)
スパッタガス:Arガス(ガス圧:0.3Pa)
投入電力:150W
成膜速度:0.29nm/sec
膜厚:60nm
成膜前真空度:4×10-6Pa。
【0147】
上記の手順で得られるEUVマスクブランクスの吸収体層に対し下記の評価(1)〜(4)を実施する。
(1)膜組成
吸収体層(TaHf膜)の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定する。吸収体層(TaHf膜)の組成比(at%)は、Ta:Hf=55:45(Taの含有率が55at%、Hfの含有率が45at%)である。吸収体層におけるNの含有率は0.05at%以下である。吸収体層におけるZrの含有率は0.3〜0.7at%以下である。
(2)結晶状態
吸収体層(TaHf膜)の結晶状態を、X線回折装置(X−Ray Diffractmeter)(RIGAKU社製)で確認する。得られる回折ピークにはシャープなピークが見られないことから、吸収体層(TaHf膜)の結晶状態がアモルファス構造または微結晶構造であることを確認する。
(3)表面粗さ
吸収体層(TaHf膜)の表面粗さは、原子間力顕微鏡(SII製、SPI−3800)を用いて、dynamic force modeで測定する。表面粗さの測定領域は1μm×1μmであり、カンチレバーには、SI−DF40(SII製)を用いる。表面品質領域内における吸収体層の表面粗さ(rms)は0.10nmである。
例3、4の基板についてみた場合、表面品質領域外における吸収体層の表面粗さは、例3の基板から形成されたマスクブランクスの場合、該マスクブランクから作成したマスクを用いてEUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響がない程度であるのに対して、例4の基板から形成されたマスクブランクスの場合、該マスクブランクから作成したマスクを用いてEUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が生じる程度である。
(4)抵抗値
吸収体層(TaHf膜)の抵抗値を四探針測定器(三菱油化製:LorestaAP MCP−T400)を用いて測定したところ1.8×10-4Ω・cmである。
【0148】
<EUVマスクの形成>
得られたマスクブランクスの吸収層を少なくともパターニングすることで、マスクを得る。例1、3、4の基板から形成されたマスクは、マスクとしての十分な性能を有することが確認される。一方、例2の基板から形成されたマスクは、マスクとしての十分な性能を有していない。
例3の基板から形成されたマスクは、EUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響がなく、設計値通りの露光が可能である。一方、例4の基板から形成されたマスクは、EUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響があり、設計値通りの露光が困難となるおそれがある。
【0149】
本発明の精神または範囲を逸脱することなく本発明に様々な改変および変形がなされ得ることが当業者には明らかであろう。したがって、添付される特許請求の範囲またはそれらの等価物の範囲に本発明の改変および変形が入れば、本発明はそれらの改変および変形を包含するとされる。
【符号の説明】
【0150】
3、130:反射層
4、140:吸収体層
11、120:基板
20:表面
30:裏面
40:中央点
50:断面
52:測定点
54:測定線
100:EUVマスク
150:EUVマスクブランクス
210:マスクパターン領域
200:EUV光照射領域
220:マスクパターン領域の外側領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVリソグラフィ用マスクまたはマスクブランクスに好適に使用される基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、Si基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速している一方で、従来のフォトリソグラフィ法の限界に近づいてきた。フォトリソグラフィ法の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(193nm)の液浸法を用いても45nm程度が限界と予想される。そこで45nm以降の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている(非特許文献1参照)。なお、本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線をさし、具体的には波長10〜20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度の光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつこの波長で物質の屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用することができない。このため、EUVリソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスク(以下、「EUVマスク」という。)とミラーとが用いられる。
【0004】
マスクブランクスは、フォトマスク製造用に用いられるパターニング前の積層体である。EUVマスクブランクスの場合、ガラス等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収体層とがこの順で形成された構造を有している。反射層としては、高屈折層と低屈折層とを交互に積層することで、EUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められた多層反射膜が通常使用される。吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的には例えば、CrやTaを主成分とする材料が用いられる。基板としては、EUV光照射の下においても歪みが生じないよう低い熱膨張係数を有する材料が必要とされ、基板として、低い熱膨張係数を有するガラス等が検討されている。
【0005】
特許文献1〜3には、EUVマスク用の基板として好ましい特性の一例が記載されている。また、特許文献4には、EUVマスク用の基板として好ましいストリエのレベルが記載されており、具体的には、「出願人等は、火炎加水分解時のいくつかの製造パラメータの修正によりシリカ−チタニア超低膨張ガラスブール内のストリエを低減できることを実証した。出願人等は、約0.05MPaより小さく、好ましくは約0.03MPaより小さく、さらに好ましくは約0.02MPaより小さい、RMSストリエ値を有するブール(Boule)および極紫外光光学素子を製造することができた。山対谷ストリエ値は0.2MPaより小さく、好ましくは0.15MPaより小さい値まで低減された。」と記載されている。
【0006】
さらに、上記ストリエレベルを測定する方法として、特許文献4には「偏光計は試料を通るリターダンスを位置の関数として測定する。偏光計の空間分解能はチタニア−シリカガラス内のストリエの大きさよりはるかに小さく、したがってストリエ層を通る測定が可能になる。偏光計で観測されるリターダンスは、層間の熱膨張不整合によると最も思われるストリエ層間の応力を示す。図3はある試料についてなされたストリエ測定の比較を示す。図3の下側の線は偏光計でなされたストリエ測定を表し、上側の線はマイクロプローブでなされた測定を表す。用いた偏光計はケンブリッジ・リサーチ・インスツルメンテーション(CambrdgeResearchInstrumentation)から入手できるModelLCであり、これをニコン顕微鏡とともに用いた。図3に示されるように、2つの手法の間にはよい相関があり、チタニア−シリカガラスおよび極紫外光リソグラフィ用素子のような光学素子内のストリエを測定するために偏光計を用い得ることを示す。」という方法が記載されている。
【0007】
しかし、この特許文献4においては、基板を切り出す前のガラス体(ブール(boule)と呼んでいる)の製造方法は記載されているものの、どのような製造方法で、上記ストリエレベルを達成するような基板を作製するのかについては明確に記載されていない。また、特許文献4に記載の方法では、どのように応力を測定するのかが不明確である。また、特許文献4記載の方法では、詳細は不明だが、ブール(boule)という、基板にする前のガラス体の応力の値を測定していると思われるが、それだけで基板そのものの応力値と決め付けることはできない。また、特許文献5,6には、EUVマスクブランクの膜構成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6465272号公報
【特許文献2】米国特許第6576380号公報
【特許文献3】米国特許第6931097号公報
【特許文献4】米国特許第7053017号公報
【特許文献5】特開2004−6798号公報
【特許文献6】米国特許第7390596号明細書
【特許文献7】特公昭63−24973号公報
【特許文献8】特開2007−213020号公報
【特許文献9】米国出願公開第2008/311487号公報
【特許文献10】国際公開番号00/75727公報
【特許文献11】米国特許第6352803号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Extreme ultraviolet lithography C.W.Gwynら J.Vac.Sci.Tech.B 16(6) Nov.Dec 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、EUVリソグラフィ用マスクまたはマスクブランクスに好適に使用される平坦性に優れた基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成するため、下記(1)〜(33)を提供する。
(1)EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域において0.04MPa以下であるEUVマスク用の基板。
(2)EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下であるEUVマスク用の基板。
(3)前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下である(1)に記載のEUVマスク用の基板。
(4)前記表面品質領域における基板の表面粗さ(rms)が1nm以下である(1)〜(3)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(5)前記基板の表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超である(1)〜(4)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【0012】
(6)前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である(1)〜(4)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(7)前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である(5)に記載のEUVマスク用の基板。
(8)表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が、表面品質領域内における応力の標準偏差(σ)よりも0.02MPa以上大きい(1)〜(4)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(9)表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい(1)〜(4)のいずれかにEUVマスク用の基板。
(10)前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい(8)に記載のEUVマスク用の基板。
【0013】
(11)前記基板の熱膨張係数が、0〜100℃の温度域において0±200ppb/℃である(1)〜(10)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(12)前記基板の仮想温度が1000℃未満である(1)〜(11)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(13)前記基板の仮想温度のばらつきが基板全体で100℃以下である(1)〜(12)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(14)前記基板のOH基濃度が600ppm以下である(1)〜(13)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(15)前記基板のOH基濃度のばらつきが基板全体で50ppm以下である(14)に記載のEUVマスク用の基板。
【0014】
(16)前記基板の屈折率の変動幅Δnが4×10-4以内である(1)〜(15)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(17)前記基板の表面粗さ(rms)が表面品質領域において0.8nm以下である(1)〜(16)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(18)前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が22±3℃である(1)〜(17)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(19)前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が40〜100℃である(1)〜(17)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(20)前記基板の塩素濃度が50ppm以下である(1)〜(19)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【0015】
(21)前記基板のフッ素濃度が100ppm以上である(1)〜(20)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(22)前記基板のホウ素濃度が10ppb以上である(1)〜(21)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(23)前記基板の水素濃度が5×1016molecules/cm3以上である(1)〜(22)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(24)前記基板のTi3+濃度が、70ppm以下である(1)〜(23)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(25)前記基板の表面品質領域において、表面に60nm以上の凹形状のピットが存在しない(1)〜(24)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【0016】
(26)前記基板が、透明TiO2−SiO2ガラス体を成形加工温度まで加熱して第1成形体に成形した後、該第1成形体の外周を切断し、その後、成形加工温度まで加熱して第2成形体に成形する2度成形を行う方法により製造される(1)〜(25)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(27)前記基板が、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を800〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法により製造される、(1)〜(26)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
(28)(1)〜(27)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層および吸収体層を少なくとも有するEUVマスクブランクス。
(29)前記EUVマスクブランクスの最表層の表面粗さが(rms)が表面品質領域内において、2nm以下である(28)に記載のEUVマスクブランクス。
(30)前記反射層表面でのEUV波長域におけるピーク反射率の面内均一性の要求値が、表面品質領域内において±1.2%以内である(28)または(29)に記載のEUVマスクブランクス。
【0017】
(31)(1)〜(27)のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層およびパターニングされた吸収体層を少なくとも有するEUVマスク。
(32)マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑制された(31)に記載のEUVマスク。
(33)(31)または(32)に記載のEUVマスクを用いた半導体集積回路の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の基板は平坦度も良好であり、結果的にEUV露光に好適なマスクを形成することができる。
本発明の基板の好適態様によれば、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の基板の応力の測定方法を示した基板の一例の模式斜視図である。
【図2】本発明の基板の断面における、応力の測定点の一例の模式斜視図である。
【図3】本発明の基板を有するブランクスの一例の断面模式図である。
【図4】図3と同様の図である。但し、吸収体層の一部がパターニングにより除去されている。
【図5】例1の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図6】例1の基板の応力の標準偏差(σ)を示すグラフである。
【図7】例1の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図8】例2の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図9】例2の基板の応力の標準偏差(σ)を示す別のグラフである。
【図10】例2の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図11】例3の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図12】例3の基板の応力の標準偏差(σ)を示すグラフである。
【図13】例3の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図14】例4の基板の応力の最大ばらつき(PV)を示すグラフである。
【図15】例4の基板の応力の標準偏差(σ)を示す別のグラフである。
【図16】例4の基板の表面粗さ(rms)を示すグラフである。
【図17】マスクパターン領域の外周部からのEUV反射光の影響を説明するためのマスクの一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に好適に用いられる基板の材質はガラスであり、具体的にはTiO2−SiO2ガラス(TiO2を含むシリカガラス)である。TiO2−SiO2ガラスは、含有するTiO2濃度により熱膨張係数(CTE)が変化することが知られている。例えば、TiO2を約7質量%含むTiO2−SiO2ガラスの熱膨張係数が、22℃にてほぼゼロとなり、TiO2を約7.5質量%含むTiO2−SiO2ガラスの熱膨張係数が、50℃にてほぼゼロとなる。TiO2の含有量は1〜12質量%である。TiO2の含有量が1質量%未満であるとゼロ膨張にならないおそれがあり、12質量%を超えると熱膨張係数が負となる可能性があるからである。TiO2の含有量は好ましくは5〜9質量%、より好ましくは6〜8質量%である。
【0021】
TiO2−SiO2ガラス中の塩素濃度は、50ppm以下、特に20ppm以下、さらには10ppm以下であることが好ましい。特に、TiO2−SiO2ガラス中に塩素は実質的に含有しないことが好ましい。また、TiO2−SiO2ガラス中のフッ素濃度は、100ppm以上、特に200ppm以上、さらには500ppm以上であることが好ましい。フッ素濃度は1質量%以下であることが好ましい。フッ素濃度が上記範囲であると、ガラスの粘性を下げることができ、ガラスに発生する脈理を低減することが可能となる。さらに、TiO2−SiO2ガラス中のホウ素濃度は、10ppb以上、特に100ppb以上、さらには1ppm以上であることが好ましい。ホウ素濃度は1質量%以下であることが好ましい。ホウ素濃度が上記範囲であると、ガラスの粘性を下げることができ、ガラスに発生する脈理を低減することが可能となる。
【0022】
TiO2−SiO2ガラス中のTi3+濃度は、70ppm以下、特に30ppm以下、さらには10ppm以下であることが好ましい。Ti3+濃度を下げることで、平坦度測定に用いる光源の波長における透過率が向上するため好ましい。
【0023】
EUVリソグラフィを実施する際、EUV露光によりミラー等の光学系部材の寸法や形状が温度変化により変化する可能性がある。このような変化を防止するため、露光のチャンバー内は22±3℃に制御されることが好ましい。したがって、基板の温度も22±3℃に制御されることから、基板の材質であるガラスのCOT(熱膨張係数(CTE)が0ppb/℃となる温度(クロスオーバー温度:Cross−over Temperature))は22±3℃であることが好ましい。ここで、COTとは、基板の表面品質領域全体の熱膨張におけるCOTを意味する。なお、COTを22±3℃とするためには、基板のTiO2の含有量が約7質量%以上であることが好ましい。
【0024】
なお、将来的にスループットを向上させる目的で露光光源のパワーが上がってきたときには、温度を22±3℃に制御することは難しく、基板の温度も上昇することが想定される。そのような場合、前記ガラスのCOTは40〜110℃であることが好ましく、さらに好ましくは45〜100℃、特に好ましくは50〜80℃である。COTを40〜110℃とするためには、基板のTiO2の含有量が7.5質量%以上であることが好ましい。また、TiO2含有量が12質量%超であると、COTが110℃超となる可能性があったり、−150〜200℃の範囲で負膨張となりやすくなったり、ルチルなどの結晶が析出しやすくなったり、泡が残りやすくなる可能性がある、などの理由により好ましくない。
【0025】
基板の材質としてTiO2−SiO2ガラスを採用することで、0〜100℃の広い温度域において熱膨張係数を0±200ppb/℃、特に0±150ppb/℃、さらには0±125ppb/℃とすることが可能である。またTiO2−SiO2ガラスの仮想温度が1000℃未満の場合は、熱膨張係数がほぼゼロを示す温度域がより広くなり、−50〜150℃の範囲において、熱膨張係数を0±200ppb/℃とすることが可能である。
【0026】
露光中は、EUVマスクはある一定温度に保たれることが好ましいが、少しの温度変動であれば当然に生じうる。よって、その露光中の温度の範囲の全域で、平均熱膨張係数が0±30ppb/℃、特に0±20ppb/℃、さらには0±15ppb/℃であることが好ましい。また、基板の熱膨張係数の全体の空間的変動(total spatial variation)が10ppb/℃、特に6ppb/℃、さらには4ppb/℃、3ppb/℃であることが好ましい。露光中の温度は、通常19〜25℃であるが、前述のとおり、最近では若干高くなることが想定され、50〜80℃となる可能性が指摘されている。よって、19〜25℃の温度域、あるいは、50〜80℃の温度域で、基板の平均熱膨張係数が上記の範囲であることが好ましい。
【0027】
熱膨張係数は、通常、レーザー干渉式熱膨張計を用いて−150〜+200℃の範囲で測定することができる。基板の表面品質領域全体の熱膨張を測定するためには、例えば、基板から長さ100mm程度の比較的大きなガラスを切り出し、その長手方向の熱膨張をユニオプト社製レーザヘテロダイン干渉式熱膨張計CTE−01等で精密測定できる。なお、基板の表面品質領域については後述する。
また、熱膨張係数の全体の空間的変動を測定するためには、例えば、基板から12mm程度の比較的小さなガラスを切り出し、それぞれの小さな領域の熱膨張係数をULVAC社製レーザー膨張計LIX−1等で精密測定できる。熱膨張係数の算出には、その温度の前後1〜3℃の温度変化による寸法変化を測定し、その平均の熱膨張係数をその中間の温度における熱膨張係数とする方法、または、−150〜+200℃といった比較的広い温度の範囲を測定して熱膨張曲線を得て、その熱膨張曲線の温度微分値を各温度における熱膨張係数とする方法などを用いることができる。
【0028】
仮想温度(fictive temperature)と、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度範囲(ゼロ膨張の温度範囲)の広さとは関連がある。その結果に基づくと、仮想温度が1200℃を超えるとゼロ膨張の温度範囲が狭く、EUVマスクブランクスに用いる材料には不充分になるおそれがある。ゼロ膨張の温度範囲を広げるには、仮想温度は1000℃未満、特に950℃未満、さらには900℃未満、850℃未満が好ましい。
【0029】
仮想温度が1000℃未満のTiO2−SiO2ガラスを得るためには、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を800〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法が効果的である。より仮想温度を下げるためには、5℃/hr以下の速度で降温することが好ましく、3℃/hr以下の速度で降温することがより好ましい。より遅い平均降温速度で降温すれば、より低い仮想温度が達成される。例えば、1℃/hr以下の速度で降温すれば、仮想温度は900℃以下に成り得るが、その場合は1000〜800℃の温度範囲のみを遅い冷却速度、例えば、1℃/hr以下の速度で降温し、それ以外の温度域は5℃/hr以上の冷却速度で冷却することで時間を短縮することができる。
【0030】
基板の仮想温度は公知の手順で測定することができる。鏡面研磨された基板について、吸収スペクトルを赤外分光計(後述する実施例では、Nikolet社製Magna760を使用)を用いて取得する。この際、データ間隔は約0.5cm-1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値を用いる。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm-1付近に観察されるピークがTiO2−SiO2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。あるいは、表面の反射スペクトルを同様の赤外分光計を用いて、同様に測定する。このようにして得られた赤外反射スペクトルにおいて、約1120cm-1付近に観察されるピークがTiO2−SiO2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。なお、ガラス組成の変化によるピーク位置のシフトは、検量線の組成依存性から外挿することが可能である。
【0031】
本発明の基板を構成するTiO2−SiO2ガラスの水素分子濃度は、5×1016molecules/cm3以上、特に8×1016molecules/cm3以上であることが好ましい。水素濃度を上げることで、露光中に発生する炭素などのコンタミネーションを防止でき、かつ基板上に形成する膜を還元することで膜の酸化劣化を防ぐことが可能となる。水素分子濃度はラマン分光法により測定することができる。
本発明のTiO2−SiO2ガラスを直接法で作製する場合には、通常の合成条件と比べて、(1)合成時の水素分子濃度を上げる、(2)火炎温度を上げる、(3)堆積面温度を上げる、(4)原料ガス濃度を下げる、などを行うことが水素分子濃度が高くなるので好ましい。燃焼ガスとしては、分子式にHを含むものを用いるが、供給されるすべてのガスにおけるO/H比が1.5以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。火炎温度は1900℃以上が好ましく、より好ましくは2000℃以上である。堆積面温度は1800℃以上が好ましく、1900℃以上である。原料ガスがバーナーへ搬送される配管中の原料ガス濃度は20体積%以下が好ましく、より好ましくは10%以下である。上記4項目のうち2項目以上を行うことがより好ましく、3項目以上を行うことがさらに好ましく、これらすべてを行うことが特に好ましい。
【0032】
本発明の基板を構成するTiO2−SiO2ガラスのOH基濃度は600ppm以下であることが好ましく、より好ましくは400ppm以下、特に好ましくは200ppm以下である。OH基濃度が高いと、構造緩和が早いため、温度分布のつきやすい径の大きなガラス体を製造する場合に、仮想温度分布がつきやすくなると考えられる。
【0033】
OH基濃度はガラスの構造緩和に影響を及ぼすことが考えられる。これはOH基が、ガラスの網目構造においてネットワークを切断する終端基となるためであり、終端基が多いほどガラスの構造緩和は容易になると考えられる。つまり、OH基が多いほど構造緩和の時間は短くなるので、仮想温度は、冷却時に生じるガラス体内の温度分布の影響を受け易くなる。
【0034】
OH基濃度が低いTiO2−SiO2ガラスを得るための製造方法としては、スート法が好ましい。スート法とは、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子(スート)を堆積させ、その後透明ガラス化温度まで加熱して透明TiO2−SiO2ガラス体を得る製造方法である。またスート法はその作り方により、MCVD法、OVD法、およびVAD法などがある。詳しくは後述する。
【0035】
また、別な方法としては、特許文献4に記載されているような直接法によって、ガラス体を作製する方法がある。具体的には、ケイ素含有供給原料およびチタン含有供給原料の火炎加水分解によりシリカ−チタニア粉末を作製し、上記粉末を耐火炉に配置された回転している収集カップまたは炉中に存在するガラスの表面に堆積させ、上記粉末を固結させてTiO2−SiO2ガラスを作製する。本発明の基板としては、スート法も直接法でもどちらも製造可能である。また、別の製造方法である、いわゆる溶融法も使用可能である。
【0036】
OH基濃度は以下のように測定できる。赤外分光光度計による測定から、TiO2−SiO2ガラスの吸収スペクトルを測定し、そのスペクトルの2.7μm波長での吸収ピークからOH基濃度を求める。本法による検出限界は、通常約0.1ppmである。
【0037】
EUV用マスクの基板として、ガラス中におけるTiO2/SiO2組成比を一定とすることが、基板内での熱膨張係数の分布を小さくできる点で好ましい。このTiO2/SiO2組成比の変動は、ガラスの屈折率に影響を及ぼすので、TiO2−SiO2組成の均一性の指標として、屈折率の変動幅Δnを用いることが可能である。本発明の基板は、少なくとも一つの面内における30mm×30mmの範囲の屈折率の変動幅(Δn)が4×10-4(400ppm)以下であることが好ましい。4×10-4超であると研磨後の表面の粗さが大きくなり、超高平滑性が得られない可能性がある。より好ましくは3.5×10-4(350ppm)以下、さらに好ましくは3×10-4(300ppm)以下である。特に超平滑性(表面粗さ(rms)≦2nm)とするためには、屈折率の変動幅(Δn)は、好ましくは2×10-4(200ppm)以下、さらに好ましくは1×10-4(100ppm)以下、特に好ましくは0.5×10-4(50ppm)以下である。
【0038】
屈折率の変動幅Δnの測定方法は公知の方法、例えば、光干渉計を用いることで測定することができる。より具体的には、透明TiO2−SiO2ガラス体から、例えば40mm×40mm×40mm程度の立方体を切り出し、立方体の各面より厚さ0.5mm程度でスライス、研磨を行い、30mm×30mm×(0.2〜1)mmの板状TiO2−SiO2ガラスブロックを得る。小口径フィゾー干渉計にて、本ガラスブロックの30mm×30mmの面に例えば650±10nmのレーザ光をあて、脈理が十分観察可能な倍率に拡大して、面内の屈折率分布を調べ、屈折率の変動幅Δnを測定する。脈理のピッチが細かい場合は測定する板状TiO2−SiO2ガラスブロックの厚さを薄くすることが好ましい。
【0039】
本発明により得られる基板において、仮想温度のばらつきが100℃以内、OH基濃度のばらつきが50ppm以内、Δnが4×10-4以内とすることで、熱膨張係数分布を少なくとも1つの面内における約30mm×約30mm内で30ppb/℃以内とすることができ、EUV用マスクとして非常に好適である。
【0040】
仮想温度のばらつきとは、1つの面内における30mm×30mm内での仮想温度の最大値と最小値の差である。仮想温度のばらつきは以下のように測定できる。所定のサイズに成形した透明TiO2−SiO2ガラス体をスライスし、50mm×50mm×1mmのTiO2−SiO2ガラスブロックとする。このTiO2−SiO2ガラスブロックの50mm×50mm面について、10mmピッチの間隔で前述の方法に従い仮想温度の測定を行うことで、成形TiO2−SiO2ガラス体の仮想温度のばらつきを求める。
【0041】
本発明の基板の一態様に用いられるTiO2−SiO2ガラスを製造するためには、以下の製造方法が採用可能である。
【0042】
(a)工程
ガラス形成原料であるシリカ前駆体およびチタニア前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成させる。ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されないが、シリカ前駆体としては、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Clなどの塩化物、SiF4、SiHF3、SiH2F2などのフッ化物、SiBr4、SiHBr3などの臭化物、SiI4などのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またRnSi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられる。またチタニア前駆体としては、TiCl4、TiBr4などのハロゲン化チタン化合物、またRnTi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、シリカ前駆体およびチタニア前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシドなどのSiとTiの混合化合物を使用することもできる。
【0043】
基材としては石英ガラス製の種棒(例えば特許文献10,11記載の種棒)を使用できる。また棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。ガラス形成原料供給の際、原料タンクや原料ガス配管の温度やガス流速を精密に制御することでガラス原料ガスの供給を安定化させることが好ましい。さらに、ガラス原料ガスの撹拌機構をガス供給系の途中に設けることが好ましい。上記の方法により、TiO2−SiO2ガラスの脈理レベルを低減でき、脈理応力レベルや屈折率変動幅を所定の値以下にできるため好ましい。
【0044】
上記原料の供給を安定化に加え、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成する際の種棒の回転数を25回転/分以上で行うことが好ましく、50回転/分以上で行うことがより好ましく、100回転/分以上で行うことがさらに好ましく、250回転/分以上で行うことが特に好ましい。蒸気形態の原料の供給を安定化または均質化に加え、種棒を高速回転させることで、さらに脈理の小さいTiO2−SiO2ガラスが得ることが可能となる。
【0045】
(b)工程
(a)工程で得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を減圧下またはヘリウム雰囲気下にて緻密化温度まで昇温して、TiO2−SiO2緻密体を得る。緻密化温度は、通常は1250〜1550℃であり、特に1300〜1500℃であることが好ましい。緻密化温度とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体を緻密化できる温度をいう。
【0046】
(c)工程
(b)工程で得られたTiO2−SiO2緻密体を、透明ガラス化温度まで昇温して、透明TiO2−SiO2ガラス体を得る。透明ガラス化温度は1350〜1800℃、特に1400〜1750℃であることが好ましい。透明ガラス化温度とは、光学顕微鏡で結晶が確認できなくなり、透明なガラスが得られる温度をいう。
【0047】
昇温の雰囲気としては、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。圧力については、減圧または常圧であればよい。減圧の場合は13000Pa以下が好ましい。
【0048】
(d)工程
(c)工程で得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO2−SiO2ガラス体を得る。成形加工の温度としては、1500〜1800℃が好ましい。1500℃未満では、透明TiO2−SiO2ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSiO2の結晶相であるクリストバライトの成長またはTiO2の結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる可能性がある。1800℃超では、SiO2の昇華が無視できなくなる可能性がある。
さらに、応力値を良好とするためには以下のような2度成形を行うことが好ましい。まず、上記成形加工温度まで透明TiO2−SiO2ガラス体を加熱し第1成形体に成形した後、基板の外周部を切断する。外周を切断した第1成形体を上記成形加工温度まで加熱し第2成形体へ成形する。この2度成形は、脈理の間隔を小さくすることで濃度勾配が大きくなるため、脈理間での成分拡散が容易となる点で好ましい。また、ガラス体の内部に存在する脈理の応力が大きい部分が外周部分になるように調整できる点で好ましい。第1成形体の体積は、第2成形体の体積の3/4以下であることが好ましい。
【0049】
なお、(c)工程と(d)工程を連続的に、あるいは同時に行うこともできる。
【0050】
(e)工程
(d)工程で得られた成形TiO2−SiO2ガラス体をアニール処理する。具体的には、800〜1200℃の温度にて1時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、1200℃以上の(d)工程で得られた成形TiO2−SiO2ガラス体を700℃まで60℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。700℃以下まで降温した後は放冷できる。放冷の雰囲気は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス100%の雰囲気下、これらの不活性ガスを主成分とする雰囲気下、または空気雰囲気下で行うことが可能である。放冷の圧力は減圧または常圧が好ましい。
【0051】
(f)工程
(e)工程で得られたTiO2−SiO2ガラス体を、300〜1200℃の温度にて10時間以上、水素雰囲気下で保持することで水素を含有したTiO2−SiO2ガラス体を得る。雰囲気としては水素100%の雰囲気下、あるいはヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気を含む水素雰囲気下であることが好ましく、水素分圧は0.1気圧以上が好ましく、より好ましくは1気圧以上、さらに好ましくは5気圧以上である。水素濃度の分布を良くするためには、保持時間は10時間以上が好ましく、より好ましくは24時間以上である。
【0052】
より低い仮想温度を達成するためには、ガラスの徐冷点や歪点付近の温度域をより遅い冷却速度で冷却することが有効である。具体的には、(e)工程の冷却プロファイルにおいて、最も遅い冷却速度が10℃/hr以下であることが好ましく、より好ましくは5/hr以下、さらに好ましくは3℃/hr以下、特に好ましくは1℃/hr以下である。
本発明のTiO2−SiO2ガラスはインクルージョンがないことが好ましい。インクルージョンとは、ガラス中に存在する異物や泡などである。異物はガラス作製工程のコンタミや結晶析出によって生じる恐れがある。異物や泡などのインクルージョンを排除するためには、上記製造工程において、特に工程(a)でコンタミネーションを抑制すること、さらに工程(b)〜(d)の温度条件を正確にコントロールすることが好ましい。
【0053】
上記のような方法で形成されたTiO2−SiO2ガラス体を、基板サイズへ大まかに切断し、処理前基板を形成する。次に、処理前基板を粗研磨するため、機械研磨を行う。その後、特許文献8,9に記載されているような精密研磨・洗浄を行い、成膜前の基板を形成する。本発明における基板とは、通常、この成膜前の基板を意味する。
【0054】
上述したように、スート法も直接法でも、本発明の一態様であるTiO2−SiO2からなる基板を製造することが可能である。これらの方法でTiO2−SiO2ガラスを製造した場合、ガラス中に脈理(ストリエ(striae))が発生する場合が多い。脈理とはガラス中に筋状に見える欠点であり、通常、ガラスを薄く切断し研磨すると見やすくなる欠点である。この脈理の原因は、主としては、ガラス中のTiO2濃度の不均一性によるものであり、その発生状況は、製造方法や製造条件などによって変化するため、一つ一つの基板によってその脈理の発生状況が変わってくる。また、通常、EUV用の基板を製造する場合、その基板よりも大きいガラス体を形成した後、そこから複数の基板を切り出すことが多い。このことから、基板中の脈理の本数や強さは、個々の基板によって異なるのが通常である。
【0055】
基板における脈理の強さは、以下のような応力を測定することで評価可能である。以下、図1および2を用いて説明する。まず、基板11を準備する。この基板は、成膜前の基板を用いてもよいし、形成された膜を取り除いた基板であってもよい。基板11は、表面20(反射層や吸収体層を形成する面)と、裏面30(高誘電性コーティングを形成する面)とを有している。次に、表面20の中央点40を通り、かつ基板のいずれか一方の辺と平行な線で基板を切断する。すると、基板の中央の断面50が現れる。この断面を研磨後、特定波長の光を研磨面に対して垂直にあて、複屈折顕微鏡を用いて脈理が十分観察可能な倍率に観察域を拡大して、特定の測定点におけるレタデーション(光路差)を測定する。得られたレタデーション(光路差)を、以下の式(1)で応力に換算する。
【0056】
Δ=C×F×n×d…(1)
【0057】
ここで、Δはレタデーション、Cは光弾性定数、Fは応力、nは屈折率、dはサンプル厚である。ガラスの種類によりCおよびdは決まっており、かつサンプルの厚さdを一様とすることで、レタデーションから応力を換算することが可能である。
【0058】
なお、基板の応力値はその位置によって異なるため、ある1点のみの測定値を用いることは好ましくない。よって、応力の測定範囲を3.4mm×2.5mm(以下、この範囲を特定測定範囲という)とし、その範囲内において応力をランダムに約100万点測定することにより、この多数の測定値を用いて、特定測定範囲における基板の応力の標準偏差(σ)や最大ばらつき(PV)を求めることができる。なお、脈理は透過光で測定するため、基板の測定サンプルは厚さを約1mm程度まで薄くして測定することが多い。
【0059】
次に、脈理の強さの基板全体の分布を評価するため、つまり基板の応力の標準偏差(σ)の分布や、応力の最大ばらつき(PV)分布を評価するため、特定測定範囲の数を増やすことで対応可能である。本発明においては、図2のように、特定測定範囲の測定場所の中心点である測定点52として、断面方向で中央の位置において、基板の面(表面および裏面)と平行に約3.4mm間隔で合計44点選択し、各々の点を中心とした特定測定範囲において、応力測定を行う。
なお、脈理の強さを測定する場合、脈理の強さは、測定部分の厚さ方向の平均値として得られるため、厳密には実際に使用される面そのものの脈理の強さとは言いにくいかもしれない。しかし、実際に使用される表面近傍を測定すれば、その結果を使用される面における脈理の強さと考えることが可能である。またこの方法では、脈理の強さの分布は、基板のある一方向のみしか測定できないことになるが、ガラスの製造方法から考えた場合、脈理は通常連続的に変化しているため、この方法でもある程度基板全体の脈理の強さの分布を見積もることは可能である。また、複数の方向で測定したり、線対称や点対称など対称となる方向を考慮して測定することでも脈理の強さの分布をより精度よく見積もることは可能である。
【0060】
本発明の基板の応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域内において、0.04MPa以下であることが好ましい。0.04MPa超であると、表面粗さの面内分布のばらつきが非常に大きくなり、研磨を行う際の研磨設定が非常に困難になる結果、基板表面の超高平滑性が達成できない可能性がある。より好ましくは0.03MPa以下、さらに好ましくは0.02MPa以下、特に好ましくは0.15MPa以下である。
なお、「表面品質領域内」とは、本明細書において、基板の端から5mm以上中に入った部分、具体的には、図2に示す44点のうち、最も外側の点である測定No.1およびNo.44を除いた測定点すべてにおいて、という意味である。一方、基板の端からの距離が5mm未満の部分は、「表面品質領域外」とする。
脈理は通常連続的に変化しており、この方法でもある程度基板全体の脈理の強さの分布を見積もることは可能である。なお、本明細書における応力の標準偏差(σ)とは、特定の領域内で測定した値のうちの最大値である。
【0061】
本発明の基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域内において、0.2MPa以下であることが好ましい。0.2MPa超であると、面内のガラスの機械的および化学的物性の分布が大きくなるために、研磨レートが一定とならず、このため、研磨後の表面の粗さが大きくなる結果、基板表面の超高平滑性が達成できない可能性がある。より好ましくは0.15MPa以下、さらに好ましくは0.13MPa以下、特に好ましくは0.1MPa以下である。応力の標準偏差(PV)は、基板の表面粗さと相関があり、基板の表面粗さを良好とするためには、この値もある程度良好な値とすることが好ましい。上記のような脈理の値を良好とするためには、ガラス体を作成するときのバーナーの角度を調整することが重要なポイントの一つである。
なお、本明細書における応力の最大ばらつき(PV)とは、特定の領域内で測定した値のうちの最大値である。
【0062】
本発明の基板の応力の二乗平均平方根(rms)は、有効面内のすべての点において、0.05MPa以下であることが好ましい。0.05MPa超であると研磨後の表面の粗さが大きくなり、超高平滑性が得られない可能性がある。より好ましくは0.04MPa以下、さらに好ましくは0.03MPa以下、特に好ましくは0.015MPa以下である。
【0063】
上記では、表面品質領域内における、基板の応力の標準偏差(σ)、および、基板の応力の最大ばらつき(PV)について述べたが、表面品質領域外においても基板の応力の標準偏差(σ)、および、基板の応力の最大ばらつき(PV)が特定の条件を満たすことが好ましい。この点について、以下に説明する。
【0064】
EUVリソグラフィでは、露光光はEUVマスクに対して垂直方向から照射されるのではなく、垂直方向より数度、通常は6度傾斜した方向から照射される。吸収体層の膜厚が厚いと、EUVリソグラフィの際に、該吸収体層の一部をエッチングにより除去して形成したマスクパターンに露光光による影が生じ、該EUVマスクを用いてSiウェハなどの基板上レジストに転写されるマスクパターン(以下、「転写パターン」という。)の形状精度や寸法精度が悪化しやすくなる。この問題は、EUVマスク上に形成されるマスクパターンの線幅が小さくなるほど顕著となるため、EUVマスクブランクスの吸収体層の膜厚をより薄くすること好ましい。ただし、もちろん、EUV光の吸収性を維持するために、吸収体層はある程度以上の膜厚を有する必要はある。
【0065】
EUVマスクブランクスの吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料が用いられ、その膜厚も該吸収体層表面にEUV光を照射した際に、照射したEUV光が吸収体層で全て吸収されるような膜厚とすることが理想である。しかし、上記したように、吸収体層の膜厚を薄くすることが求められているため、照射されたEUV光を吸収体層ですべて吸収することはできず、その一部は反射光となる。
【0066】
EUVリソグラフィにより、基板上レジスト上に転写パターンを形成する際に要求されるのは、EUVマスクでの反射光の光学コントラスト、すなわち、マスクパターン形成時に吸収体層が除去され、反射膜が露出した部位からの反射光と、マスクパターン形成時に吸収体層が除去されなかった部位からの反射光と、の光学コントラストである。よって、反射光の光学コントラストが十分確保できる限り、照射されたEUV光が吸収体層で全て吸収されなくても全く問題ないと考えられていた。
特許文献2ではこのような考えに基づき、吸収体層の膜厚をより薄くするために、位相シフトの原理を利用したEUVマスクが提案されている。これは、マスクパターン形成時に吸収体層が除去されなかった部位におけるEUV光(反射光)が、5〜15%の反射率を有し、かつ、マスクパターン形成時に吸収体層が除去され反射膜が露出した部位からのEUV反射光に対して175〜185度の位相差を有すること、を特徴としている。このEUVマスクは、吸収体層からの反射光に対して、位相シフトの原理を利用することによって、反射膜との光学コントラストを十分維持することが可能であるため、吸収体層の膜厚を薄くすることが可能である、と記載されている。
【0067】
しかしながら、位相シフトの原理を利用したEUVマスクでは、実際のマスクパターン領域(マスクパターンが形成され、EUVリソグラフィの際にパターンの転写に用いられる領域)に関しては問題無いが、マスクパターン領域の外周部からのEUV反射光に関しては、位相シフトの原理を利用することができないので、反射膜からの反射光との光学コントラストが不十分となる場合があり得ることを本願発明者らは見出した。この点について、以下、図17を用いて説明する。図17は、マスクパターン形成後のEUVマスクの一例を示した概略断面図であり、基板120上に反射膜130および吸収体層140がこの順に形成されており、マスクパターン領域210には、吸収体層140を一部除去することによってマスクパターンが形成されている。
図17に示すEUVマスク100のマスクパターン領域210に関しては、上記の位相シフトの原理により、反射膜120の表面と吸収体層130の表面との反射光の光学コントラストが十分維持できる。しかしながら、実際の露光領域、すなわちEUV光が照射される領域は200である。よって、220で示されるマスクパターン領域210の外側の領域(マスクパターン領域の外周部)にもEUV光が照射されるが、このとき反射膜130からの反射光との位相シフトによる効果が十分得られず、吸収体層140の表面から5〜15%程度の反射が生じる。結果として、この5〜15%程度のEUV反射光がSi基板上のレジストに照射され、不必要なレジストが感光してしまう恐れがある。特に重ね合わせ露光を行う時にはこのような不必要なレジストの感光が問題となり得る。
【0068】
上述したマスクパターン領域の外周部からのEUV反射光によるレジストの感光を防止するため、本発明の基板は、表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超であることが好ましい。応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超であると、基板の上に反射層および吸収体層を形成した場合に、マスクパターン領域の外周部の部分における反射層の平坦性が悪化するため、反射率が下がり、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑えられるため好ましい。より好ましくは0.052MPa以上、さらに好ましくは0.055MPa以上、0.07MPa以上である。表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)は、5MPa以下であることが好ましい。
【0069】
また、上述したマスクパターン領域の外周部からのEUV反射光によるレジストの感光を防止するため、本発明の基板は、表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超であることが好ましい。応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超以上であると、基板の上に反射層および吸収体層を形成した場合に、マスクパターン領域の外周部の部分における反射層の平坦性が悪化するため、反射率が下がり、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑えられるため好ましい。より好ましくは0.25MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上、特に好ましくは0.35MPa以上、0.5MPa以上である。表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)は10MPa以下であることが好ましい。
【0070】
但し、応力の最大ばらつき(PV)および応力の標準偏差(σ)は、基板の表面粗さと相関があり、基板の表面粗さを良好とするためには、基板の表面品質領域内においてはこれらの値をある程度良好な値とすることが好ましく、上述したように、これらの値が以下の範囲を満たすことが好ましい。
表面品質領域内における基板の応力の標準偏差(σ):0.04MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.03MPa以下、さらに好ましくは0.02MPa以下、特に好ましくは0.15MPa以下。
表面品質領域内における基板の応力の最大ばらつき(PV):0.2MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.15MPa以下、さらに好ましくは0.13MPa以下、特に好ましくは0.1MPa以下。
よって、本発明の基板の表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域内における応力の標準偏差(σ)よりも0.02MPa以上大きいことが好ましい。特に好ましくは0.025MPa以上、さらに好ましくは0.04MPa以上である。
同様に、本発明の基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きいことが好ましい。特に好ましくは0.15MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上である。
【0071】
本発明の基板の表面粗さ(rms)は、研磨面において平滑性をあらわす指標である10μm〜1mmの範囲内にうねりのピッチをもつMSFR(Mid−Spatial Frequency Roughness)として、表面品質領域内で、2nm以下、好ましくは1.5nm以下、更に好ましくは1nm以下であることが、高性能なEUVL用マスクブランクを得られる点で好ましい。基板全体の表面粗さの値を100nm以下とすることで、基板上に形成する膜を均一にパターニングでき、良好なマスクを形成することが可能となる。本明細書において、「表面粗さ」とは、1mm2の領域内での凹凸の二乗平均平方根(rms)であり、「基板全体の表面粗さ」とは、図2における測定線54上の各点の表面粗さを測定したうちの、最も高い値である。
表面粗さを基板表面のある1点だけを測定して、その基板の代表値とする場合もある。しかし、表面粗さが基板の上に成膜する膜(反射膜や吸収体膜)の反射率分布や表面粗さ分布に影響を与えるのであれば、表面粗さの評価も1点では不十分であり、上記のように表面粗さを基板全体にわたって測定することが好ましい。表面粗さは、例えば、例えば、走査型干渉計による非接触表面形状測定機(例えば、ZYGO社製NewView)で測定できる。なお、基板としては、約6インチ(約152mm)×約6インチ(約152mm)×約6.35mmの大きさのものが通常使用される。
【0072】
なお、TiO2−SiO2ガラスの作製方法として、天然原料や合成原料を酸水素火炎や電気炉で溶融して作製する溶融法があるが、溶融法においても原料粒径にしたがった不均質が脈理同様に生じ、表面平滑性を損なわせる。したがって、このような溶融法における不均質も前記脈理と同様に扱うことができる。
本発明の基板は、表面品質領域において表面に60nm以上の凹形状のピットが存在しないことが好ましい。表面品質領域に60nm以上の大きさの欠点が存在すると、反射層の平坦性が悪化するため、反射率が下がるため好ましくない。欠点には凸型のものと凹型のものがあるが、凸型のものは異物の付着が原因であり、再研磨によって除去されるか、あるいは洗浄によって除去されやすいため問題になりにくい。しかし、凹型の欠点、すなわち凹型状のピットは凹みであるため、洗浄で除去されにくく、凹型状のピットが生成される状態で研磨を継続した場合、仮にその場所に凹型状のピットがなくなっても、他の場所の生成する可能性があり、凸型と比較して問題となりやすい。凹型状のピットの生成を回避するには、ガラスの均質性を上げてガラスに余計な研磨ムラを生じさせないことと、研磨砥粒の粒径を制御し、余計な異物が混入しないようにすることが好ましい。マスクの品質を考えると、表面品質領域において表面に40nm以上の凹形状のピットが存在しないことがより好ましい。
【0073】
本発明の基板の研磨方法としては、石英ガラス材料の表面の研磨に使用される公知の研磨方法から広く選択することができる。但し、研磨レートが大きく、表面積が大きい研磨パッドを使用することにより、一度に大面積を研磨加工できることから、通常は機械研磨方法が使用される。ここで言う機械研磨方法には、砥粒による研磨作用のみによって研磨加工するもの以外に、研磨スラリーを使用し砥粒による研磨作用と薬品による化学的研磨作用を併用する方法も含む。なお、機械研磨方法は、ラップ研磨およびポリッシュ研磨のいずれであってもよく、使用する研磨具および研磨剤も公知のものから適宜選択することができる。なお、機械研磨方法を使用する場合、加工レートを大きくするため、ラップ研磨の場合、面圧30〜70gf/cm2で実施することが好ましく、面圧40〜60gf/cm2で実施することが好ましく、ポリッシュ研磨の場合、面圧60〜140gf/cm2で実施することがより好ましく、面圧80〜120gf/cm2で実施することがより好ましい。研磨量としては、ラップ研磨の場合、100〜300μmで実施することが好ましく、ポリッシュ研磨の場合、1〜60μmの研磨量で実施することが好ましい。
ポリッシュ工程は複数回に分けて行うことが好ましい。具体的には、ポリッシュ工程は
1次ポシッリュ、2次ポリッシュ、3次ポリッシュに分けて行うことが好ましい。また、最終ポリッシュはコロイダルシリカを主成分とする研磨剤を使うことが好ましく、コロイダルシリカを使う直前の研磨には酸化セリウムを主成分とする研磨剤を使うことが好ましい。
【0074】
本発明のEUV用ブランクス150は、図3に示すとおり、上記基板11の上に、EUV光を反射させるための反射層3およびEUV光を吸収させるための吸収体層4を少なくとも有する。
【0075】
反射層3は、EUVマスクブランクスの反射層として所望の特性を有するものである限り特に限定されない。ここで、反射層3に特に要求される特性は、高EUV光線反射率であることである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を入射角6度で反射層3表面に照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。また、反射層3の上に保護層や低反射層を設けた場合であっても、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
【0076】
反射層3は、高EUV光線反射率を達成できることから、通常は高屈折層と低屈折率層を交互に複数回積層させた多層反射膜が反射層3として用いられる。反射層3をなす多層反射膜において、高屈折率層には、Moが広く使用され、低屈折率層にはSiが広く使用される。すなわち、Mo/Si多層反射膜が最も一般的である。但し、多層反射膜はこれに限定されず、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜も用いることができる。
【0077】
反射層3をなす多層反射膜を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層に要求されるEUV光線反射率に応じて適宜選択することができる。Mo/Si反射膜を例にとると、EUV光線反射率の最大値が60%以上の反射層12とするには、多層反射膜は膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
【0078】
なお、反射層3をなす多層反射膜を構成する各層は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など、周知の成膜方法を用いて所望の厚さになるように成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてSi/Mo多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×1-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi膜を成膜し、次に、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo膜を成膜することが好ましい。これを1周期として、Si膜およびMo膜を40〜50周期積層させることによりSi/Mo多層反射膜が成膜される。
【0079】
反射層3表面が酸化されるのを防止するため、反射層3をなす多層反射膜の最上層は酸化されにくい材料の層とすることが好ましい。酸化されにくい材料の層は反射層3のキャップ層として機能する。キャップ層として機能する酸化されにくい材料の層の具体例としては、Si層を例示することができる。反射層3をなす多層反射膜がSi/Mo膜である場合、最上層をSi層とすることによって、該最上層をキャップ層として機能させることができる。その場合キャップ層の膜厚は、11±2nmであることが好ましい。
【0080】
反射層3と吸収体層4との間に保護層を設けてもよい。保護層は、エッチングプロセス、通常はドライエッチングプロセスにより吸収体層4をパターニングする際に、反射層3がエッチングプロセスによるダメージを受けないよう、反射層3を保護することを目的として設けられる。したがって保護層の材質としては、吸収体層4のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチング速度が吸収体層4よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。この条件を満たす物質としては、例えばCr、Al、Taおよびこれらの窒化物、RuおよびRu化合物(RuB、RuSi等)、ならびにSiO2、Si3N4、Al2O3やこれらの混合物が例示される。これらの中でも、RuおよびRu化合物(RuB、RuSi等)、CrNおよびSiO2の少なくとも1つが好ましく、RuおよびRu化合物(RuB、RuSi等)が特に好ましい。保護層を設ける場合、その厚さは1〜60nmであることが好ましい。
【0081】
保護層を設ける場合、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法を用いて成膜する。マグネトロンスパッタリング法によりRu膜を成膜する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.0×10-2Pa〜10×10-1Pa)を使用して投入電力30〜1500V、成膜速度0.02〜1.0nm/secで厚さ2〜5nmとなるように成膜することが好ましい。
【0082】
吸収体層4に特に要求される特性は、反射層3との関係で、該反射層3上に保護層が形成されている場合、該保護層との関係で、反射光のコントラストが十分高くなることである。
【0083】
本明細書において、反射光のコントラストは下記式を用いて求めることができる。
反射光のコントラスト(%)=((R2−R1)/(R2+R1))×100
【0084】
ここで、R2はEUV光の波長に対する反射層3表面(該反射層3上に保護層が形成されている場合、保護層表面)での反射率であり、R1はEUV光の波長に対する吸収体層4表面(後述するように、該吸収体層4上に検査光の波長に対する低反射層が形成されている場合、該低反射層表面)での反射率である。なお、上記R1およびR2は、図4に示すように、吸収体層4の一部をパターニングにより除去した状態で測定する。なお、吸収体層上に低反射層が形成されている場合は、EUVマスクブランクスの吸収体層および低反射層の一部をパターニングにより除去した状態で測定する。上記R2は、パターニングによって吸収体層4(吸収体層4上に低反射層が形成されている場合、吸収体層4および低反射層)が除去され、外部に露出した反射層3表面(反射層3上に保護層が形成されている場合、保護層表面)で測定した値であり、R1はパターニングによって除去されずに残った吸収体層4表面(吸収体層4上に低反射層が形成されている場合、低反射層表面)で測定した値である。
【0085】
本発明のEUVマスクブランクスおよびEUVマスクは、上記式で表される反射光のコントラストが60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
【0086】
上記の反射光のコントラストを達成するため、吸収体層4は、EUV光線反射率が極めて低いことが好ましい。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収体層4表面に照射した際に、波長13.5nm付近の最大光線反射率が0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
【0087】
なお、吸収体層上に低反射層が形成されている場合、EUV光の波長領域の光線を低反射層表面に照射した際にも、波長13.5nm付近の最大光線反射率が0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
【0088】
上記の特性を達成するため、吸収体層4は、EUV光の吸収係数が高い材料で構成される。EUV光の吸収係数が高い材料としては、タンタル(Ta)を主成分とする材料を用いることが好ましい。本明細書において、タンタル(Ta)を主成分とする材料と言った場合、当該材料中Taを40at%以上、好ましくは、50at%以上、より好ましくは55at%以上含有する材料を意味する。
【0089】
吸収体層4に用いるTaを主成分とする材料は、Ta以外にハフニウム(Hf)、珪素(Si)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、硼素(B)および窒素(N)から選ばれる少なくとも一つの元素を含んでも良い。Ta以外の上記の元素を含有する材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrNなどが挙げられる。
【0090】
ただし、吸収体層4中には、酸素(O)を含まないことが好ましい。具体的には、吸収体層4中のOの含有率が25at%未満であることが好ましい。吸収体層4をパターニングする際には、通常はドライエッチングプロセスが用いられ、エッチングガスとしては、塩素系ガス(あるいは塩素系ガスを含む混合ガス)あるいはフッ素ガス(あるいはフッ素系ガスを含む混合ガス)が通常に用いられる。エッチングプロセスにより反射層がダメージを受けるのを防止する目的で、反射層上に保護層としてRuまたはRu化合物を含む膜が形成されている場合、保護層のダメージが少ないことから、エッチングガスとして主に塩素系ガスが使われる。しかしながら、塩素系ガスを用いてドライエッチングプロセスを実施する場合に、吸収体層4が酸素を含有していると、エッチング速度が低下し、レジストダメージが大きくなり好ましくない。吸収体層4中の酸素の含有率は、15at%以下であることが好ましく、特に10at%以下であることがより好ましく、5at%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
吸収体層4の厚さは、20〜100nmであることが好ましく、25〜90nmであることがより好ましく、30〜80nmであることがさらに好ましい。
【0092】
上記した構成の吸収体層4は、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施することにより形成することができる。
【0093】
例えば、吸収体層4として、マグネトロンスパッタリング法を用いてTaHf膜を形成する場合、以下の条件で実施すればよい。
スパッタリングターゲット:TaHf化合物ターゲット(Ta=30〜70at%、Hf=70〜30at%)
スパッタガス:Arガス等の不活性ガス(ガス圧1.0×10-1Pa〜50×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜40×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜30×10-1Pa)
成膜前真空度:1×10-4Pa以下、好ましくは1×10-5Pa以下、より好ましくは10-6Pa以下
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/min、好ましくは3.5〜45nm/min、より好ましくは5〜30nm/min。
【0094】
吸収体層4上に検査光における低反射層を形成してもよい。低反射層を形成する場合、該低反射層はマスクパターンの検査に使用する検査光において、低反射となるような膜で構成される。EUVマスクを作製する際、吸収体層にパターンを形成した後、このパターンが設計通りに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nm程度の光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の波長域の反射光のコントラストによって検査される。EUVマスクブランクスの吸収体層は、EUV光線反射率が極めて低く、EUVマスクブランクスの吸収体層として優れた特性を有しているが、検査光の波長について見た場合、光線反射率が必ずしも十分低いとは言えない。この結果、検査時のコントラストが十分得られない可能性がある。検査時のコントラストが十分得られないと、マスク検査においてパターンの欠陥を十分判別できず、正確な欠陥検査を行えないことになる。
【0095】
吸収体層上に検査光における低反射層を形成することにより、検査時のコントラストが良好となる、別の言い方をすると、検査光の波長での光線反射率が極めて低くなる。具体的には、検査光の波長域の光線を低反射層表面に照射した際に、該検査光の波長の最大光線反射率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0096】
低反射層における検査光の波長の光線反射率が15%以下であれば、該検査時のコントラストが良好である。具体的には、上記式で求められる検査光の波長域の反射光のコントラストが、30%以上となる。
【0097】
吸収体層上に検査光における低反射層を形成する場合、吸収体層と低反射層の合計厚が20〜100nmであることが好ましく、25〜90nmであることがより好ましく、30〜80nmであることがさらに好ましい。
【0098】
なお、本発明のEUVマスクブランクスにおいて、吸収体層上に低反射層を形成することが好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収体層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。検査光の波長が13.5nmである場合、吸収体層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。
【0099】
低反射層は、その結晶状態はアモルファスであることが好ましい。アモルファスにすることで、その表面が平滑性に優れている。具体的には、低反射層表面の表面粗さ(rms)が表面品質領域内において2nm以下、より好ましくは1nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下、さらに好ましくは0.4nm以下、特に0.3nm以下であることが好ましい。なお、吸収体層上に低反射層を形成しない場合は、吸収体層の結晶状態はアモルファスであることが好ましく、吸収体層表面の表面粗さ(rms)が表面品質領域内において2nm以下であることが好ましい。
【0100】
上記したように、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度の悪化が防止されるため、吸収体層表面は平滑であることが要求される。低反射層は、吸収体層上に形成されるため、同様の理由から、その表面は平滑であることが要求される。
【0101】
低反射層表面(吸収体層上に低反射層を形成しない場合は吸収体層表面)の表面粗さ(rms)が表面品質領域内において2nm以下であれば、低反射層表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。低反射層表面の表面粗さ(rms)は表面品質領域内においてより好ましくは1nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下、さらに好ましくは0.4nm以下、特に0.3nm以下であることが好ましい。表面粗さの低減という点では、低反射層にNを含有させることが好ましい。
【0102】
なお、吸収体層または低反射層の結晶状態がアモルファスであること、すなわち、アモルファス構造であること、または微結晶構造であることは、X線回折(XRD)法によって確認することができる。吸収体層または低反射層の結晶状態がアモルファス構造であるか、または微結晶構造であれば、XRD測定により得られる回折ピークにシャープなピークが見られない。
【0103】
上記した構成の低反射層は、用いたスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施することにより形成することができる。
【0104】
本発明のEUVマスクブランクスは、良好な露光を達成するため、最表層(吸収体層または低反射層)の表面粗さが(rms)が表面品質領域内において、2nm以下、より好ましくは1nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下、さらに好ましくは0.4nm以下、特に0.3nm以下であることが好ましい。本発明のような応力の標準偏差(σ)や応力の最大ばらつき(PV)を良好とすることで、EUVマスクブランクスの反射率分布などを良好とすることができ、好ましい。EUVマスクブランクスにおいて、通常測定する波長により反射率の値は異なり極大値Rmaxを有する。この極大値Rmaxのことを本明細書においてEUV波長域におけるピーク反射率という。ピーク反射率の面内均一性の要求値は、表面品質領域内において±1.2%以内、特に±0.6%以内、さらには±0.3%以内であることが好ましい。また、本発明のEUVマスクブランクスにおいて、反射層をなす多層反射膜表面での反射光の中心波長の面内均一性に関する要求値は、±0.03nm以内であり、±0.01nm以内であることが好ましい。ここで、中心波長の面内均一性に関する要求値とは、中心波長を多層反射膜表面全体にわたって測定した場合に、最も大きい中心波長と最も小さい中心波長の差の許容値である。
【0105】
本発明のEUVマスクブランクスは、反射層および吸収体層、ならびに、随意に形成される保護層および低反射層以外に、EUVマスクブランクスの分野において公知の機能膜を有していてもよい。このような機能膜の具体例としては、例えば、国際公開番号WO00/75727公報に記載されているものように、基板の静電チャッキングを促すために、基板の裏面側に施される高誘電性コーティングが挙げられる。ここで、基板の裏面とは、図3に示すEUVマスクブランクス150についてみた場合、基板11の反射層3が形成されている側とは反対側の面を指す。このような目的で基板の裏面に施す高誘電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。高誘電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択することができる。例えば、特許文献7に記載の高誘電率のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、TaSiからなるコーティングを適用することができる。高誘電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nmとすることができる。
【0106】
高誘電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法を用いて形成することができる。
【0107】
本発明のEUVマスクブランクスの吸収層を少なくともパターニングすることで、EUVマスクを製造することが可能となる。吸収体層のパターニング方法は特に限定されず、例えば、吸収体層上にレジストを塗布してレジストパターンを形成し、これをマスクとして吸収体層をエッチングする方法を採用できる。レジストの材料やレジストパターンの描画法は、吸収体層の材質等を考慮して適宜選択すればよい。吸収体層のエッチング方法も特に限定されず、反応性イオンエッチング等のドライエッチングまたはウエットエッチングが採用できる。吸収体層をパターニングした後、レジストを剥離液で剥離することにより、EUVマスクが得られる。
【0108】
本発明に係るEUVマスクを用いた半導体集積回路の製造方法について説明する。本発明は、EUV光を露光用光源として用いるフォトリソグラフィ法による半導体集積回路の製造方法に適用できる。具体的には、レジストを塗布したシリコンウェハ等の基板をステージ上に配置し、反射鏡を組み合わせて構成した反射型の露光装置に上記EUVマスクを設置する。そして、EUV光を光源から反射鏡を介してEUVマスクに照射し、EUV光をEUVマスクによって反射させてレジストが塗布された基板に照射する。このパターン転写工程により、回路パターンが基板上に転写される。回路パターンが転写された基板は、現像によって感光部分または非感光部分をエッチングした後、レジストを剥離する。半導体集積回路は、このような工程を繰り返すことで製造される。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、例1,3,4は実施例であり、例2は比較例である。
【0110】
[例1]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl4を、それぞれガス化させた後に混合する。得られた混合物を酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を25rpmの回転速度で回転する種棒に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成する((a)工程)。なお、SiCl4およびTiCl4の供給配管におけるガス温度変動幅は±0.5℃以内に制御し、SiCl4とTiCl4をバーナーに供給する手前に原料ガスの撹拌機構を設けている。
【0111】
ハンドリング性向上のため、得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて6時間保持したのち、種棒から外す。
【0112】
その後、外した多孔質TiO2−SiO2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて10Torrまで減圧した後、ヘリウムガス雰囲気下で1450℃まで昇温し、この温度で4時間保持してTiO2−SiO2緻密体を得る((b)工程)。
【0113】
得られたTiO2−SiO2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で内径φ165mmの円筒状のカーボン型中で1680℃に加熱し、φ165mmの円筒形状の透明TiO2−SiO2緻密体を得る((c)工程)。
【0114】
得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を、1750℃に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO2−SiO2ガラス体を得る((d)工程)。
【0115】
得られたガラス体を1000℃にて10時間保持後、950℃で48時間保持し、さらに900℃で48時間保持した後、電気炉中で冷却し、徐冷TiO2−SiO2ガラス体を得る((e)工程)。
【0116】
得られた徐冷TiO2−SiO2ガラス体を、500℃の温度にて72時間、水素100%1気圧の雰囲気下で保持することで水素を含有したTiO2−SiO2ガラス体を得る((f)工程)。
【0117】
得られたガラス体を内周刃スライサーを用いて縦約153.0mm×横約153.0mm×厚さ約6.75mmの板状に切断し、40枚の板材を作成する。次いで、これらを市販のNC面取り機で#120のダイアモンド砥石を用い、縦、横の外形寸法が約152mmで面取り幅が0.2〜0.4mmになるよう面取り加工を実施する。次いで、板材を、20B両面ラップ機(スピードファム社製)を使用し、研磨材として実質的にSiCからなるGC#400(フジミコーポレーション製商品名)を濾過水に18〜20質量%懸濁させたスラリーを用いて、厚さが約6.6mmになるまでその主表面(多層膜や吸収層を成膜する面)を研磨加工する。
【0118】
次に、1次ポリシュとして、20B両面ポリシュ機を使用し、研磨布としてウレタン製のLP66(ローデス社製商品名)、研磨剤として酸化セリウムを主成分とするミレーク801A(三井金属社製商品名)を10〜12質量%懸濁させたスラリーを用いて両面で約50μm研磨する。
【0119】
さらに、20B両面ポリシュ機を使用し、研磨布として発泡ウレタン製のシーガル7355(東レコーテックス社製商品名)を用いて両面で約10μm研磨(2次ポリシュ)した後、別の研磨機で最終研磨(3次ポリシュ)を行う。この最終研磨には、研磨剤としてコロイダルシリカ(コンポール20:フジミコーポレーション製商品名)、研磨布としてベラトリックスK7512(カネボウ製商品名)を使用する。
【0120】
次いで、これらの各グループの基材について、第一槽目を硫酸と過酸化水素水の熱溶液、第三槽目を中性界面活性剤溶液とした多段式自動洗浄機で洗浄を実施する。その後、フォトマスク用表面欠点検査機M1350(レーザーテック社製)で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの欠点(凸形状の突起や異物、あるいは凹形状のピット)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択する。
【0121】
上記検査済みの基板を、図1に示すように、表面20の中央点40を通り、かつ基板の辺と平行な線で基板を切断する。すると、基板の中央の断面50が現れる。次に、断面50の厚さが1mmとなるように切断し、得られた断面を両面研磨する。
断面50に546nmの光を研磨面に対して垂直にあて(測定点は図2に示す点を中心点とする特定測定範囲)、複屈折イメージングシステム(顕微鏡を含む測定システム。屈折率分布と応力との切り分けが可能。)を用いて脈理が十分観察可能な倍率に観察域を拡大して、特定測定範囲の測定点におけるレタデーションを測定する。測定したレタデーションを式(1)で応力に換算する。各測定点において、換算した応力の最大ばらつき(PV)および応力の標準偏差(σ)の値を表1および2に示し、そのグラフを図5および図6に示す。
また、レタデーションの測定に用いた断面50における、表面20に相当する線52において、1mm間隔で基板全体の表面粗さ(rms)の測定を行う。測定は、非接触表面形状測定機(ZYGO社製NewView)を用いる。結果を表3〜6に示し、そのグラフを図7に示す。
なお、表1および2における「測定No.22と23」が基板中央の測定点であり、これに相当するのは、表4における座標0(ゼロ)nmである。
【0122】
[例2](比較例)
例1における(a)工程において、バーナーの角度は、垂直方向に対して4°となるようにする以外は例1と同様にして基板を形成する。この例においても、フォトマスク用表面欠点検査機で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの粒子(異物)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択している。
得られた基板について、例1と同様の方法で、応力の最大ばらつき(PV)、応力の標準偏差(σ)および表面粗さ(rms)の測定を行う。結果を表1〜6に示し、そのグラフを図8、9および図10に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
上記のように、例1の基板は非常に表面粗さのよい結果が得られた。一方、例2の基板は表面粗さが悪く、実用的に好ましくない。
【0130】
[例3]
例1における(d)工程の代わりに、下記(d−1)工程、(d−2)工程を実施する以外は例1と同様にして基板を形成する。
得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を175mm□の立方体状のカーボン型中で1700℃で加熱し、175mm□の立方体形状の成形TiO2−SiO2ガラス体(第1成形体)を得る((d−1)工程)。
得られた成形TiO2−SiO2ガラス体を中心が同じになるように123mm□となるように外周を切断し、再び175mm□の立方体状のカーボン型中で1700℃で加熱し、175mm□の立方体形状の成形TiO2−SiO2ガラス体(第2成形体)を得る((d−2)工程)。
例3においても、フォトマスク用表面欠点検査機で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの粒子(異物)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択している。
得られた基板について、例1と同様の方法で、応力の最大ばらつき(PV)、応力の標準偏差(σ)および表面粗さ(rms)の測定を行う。結果を表7〜12に示し、そのグラフを図11、12および図13に示す。
【0131】
[例4]
例3における(d−2)工程を行わなかった以外は例3と同様にして基板を形成する。
例4においても、フォトマスク用表面欠点検査機で、各基材の表面に存在する60nm以上の大きさの粒子(異物)を計測し、問題のないレベルの基板のみを選択している。
得られた基板について、例1と同様の方法で、応力の最大ばらつき(PV)、応力の標準偏差(σ)および表面粗さ(rms)の測定を行う。結果を表7〜12に示し、そのグラフを図14、15および図16に示す。
【0132】
【表7】
【0133】
【表8】
【0134】
【表9】
【0135】
【表10】
【0136】
【表11】
【0137】
【表12】
【0138】
上記のように、例3,4の基板は非常に表面粗さのよい結果が得られた。例3の基板は表面品質領域外に高い応力値を有する。一方、例4の基板は表面品質領域外に高い応力値を有しない。
【0139】
また、例1,3,4の基板では、0〜100℃の温度領域において熱膨脹係数が0±125ppb/℃であり、仮想温度が960℃、仮想温度のばらつきは基板全体で20℃以下、熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が21〜23℃、OH基濃度は60ppm、OH基濃度のばらつきは基板全体で10ppm以下であった。なお、測定方法は上記の方法を用いた。塩素濃度は蛍光X線では検出されず、その検出感度から10ppm以下となる。ホウ素濃度は25ppbである。ホウ素濃度の測定方法は次の通りである。基板を破砕したのち、その一部を王水およびふっ化水素酸で加温洗浄し、超純水で水洗後乾燥させる。この洗浄試料約1gをふっ化水素酸で分解し、加熱濃縮したのち、超純水で定容とする。この定容液について、ICP質量分析法によりホウ素の定量分析を行う。水素濃度は1.4×1017molecules/cm3である。水素分子濃度の測定は、特許第3298974号明細書に基づく電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置(Thermal Desorption Spectrometer;TDS)を用いて、測定サンプルと水素濃度が既知の標準サンプルとの上記水素分子の脱離ピークの積分強度比より、測定サンプルの脱離した水素分子数を算出することができる。Ti3+濃度は4ppmである。Ti3+濃度は電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)測定により求める。
【0140】
<EUVマスクブランクスの形成>
例1〜4と同等の基板を用いて、成膜用の基板とする。具体的には、基板は、SiO2−TiO2系のガラス基板(外形6インチ(約152mm)角、厚さが約6.3mm)であり、熱膨張率は0.2×10-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×107m2/s2である。組成はTiO2=約7質量%、SiO2=約93質量%である。50℃における熱膨張係数が0±7ppb/℃である。仮想温度は800℃であり、OH基濃度は30ppmであり、OH基濃度のばらつきは10ppmであり、屈折率の変動幅(Δn)は300ppmである。Ti3+濃度は5ppm以下である。塩素濃度はゼロppmである。基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が50℃である。水素濃度は、1.5×1017個/cm3である。
【0141】
基板の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の高誘電性コーティングを施す。
【0142】
平板形状をした通常の静電チャックに、形成したCr膜を用いて基板を固定して、該基板の表面上にイオンビームスパッタリング法を用いてSi膜およびMo膜を交互に成膜することを40周期繰り返すことにより、合計膜厚272nm((4.5nm+2.3nm)×40)のSi/Mo多層反射膜(反射層)を形成する。
【0143】
さらに、Si/Mo多層反射膜(反射層)上に、イオンビームスパッタリング法を用いてRu膜(膜厚2.5nm)と成膜することにより、保護層を形成する。
【0144】
Si膜、Mo膜およびRu膜の成膜条件は以下の通りである。
Si膜の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.077nm/sec
膜厚:4.5nm
Mo膜の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.064nm/sec
膜厚:2.3nm
Ru膜の成膜条件
ターゲット:Ruターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:500V
成膜速度:0.023nm/sec
膜厚:2.5nm。
【0145】
次に、保護層上に、TaおよびHfを含有する吸収体層(TaHf膜)を、マグネトロンスパッタリング法を用いて形成することにより、基板上に反射層、保護層および吸収体層がこの順で形成されたEUVマスクブランクスを得る。
【0146】
吸収体層の成膜条件は以下の通りである。
吸収体層(TaHf膜)の成膜条件
ターゲット:TaHf化合物ターゲット(組成比:Ta55at%、Hf45at%)
スパッタガス:Arガス(ガス圧:0.3Pa)
投入電力:150W
成膜速度:0.29nm/sec
膜厚:60nm
成膜前真空度:4×10-6Pa。
【0147】
上記の手順で得られるEUVマスクブランクスの吸収体層に対し下記の評価(1)〜(4)を実施する。
(1)膜組成
吸収体層(TaHf膜)の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定する。吸収体層(TaHf膜)の組成比(at%)は、Ta:Hf=55:45(Taの含有率が55at%、Hfの含有率が45at%)である。吸収体層におけるNの含有率は0.05at%以下である。吸収体層におけるZrの含有率は0.3〜0.7at%以下である。
(2)結晶状態
吸収体層(TaHf膜)の結晶状態を、X線回折装置(X−Ray Diffractmeter)(RIGAKU社製)で確認する。得られる回折ピークにはシャープなピークが見られないことから、吸収体層(TaHf膜)の結晶状態がアモルファス構造または微結晶構造であることを確認する。
(3)表面粗さ
吸収体層(TaHf膜)の表面粗さは、原子間力顕微鏡(SII製、SPI−3800)を用いて、dynamic force modeで測定する。表面粗さの測定領域は1μm×1μmであり、カンチレバーには、SI−DF40(SII製)を用いる。表面品質領域内における吸収体層の表面粗さ(rms)は0.10nmである。
例3、4の基板についてみた場合、表面品質領域外における吸収体層の表面粗さは、例3の基板から形成されたマスクブランクスの場合、該マスクブランクから作成したマスクを用いてEUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響がない程度であるのに対して、例4の基板から形成されたマスクブランクスの場合、該マスクブランクから作成したマスクを用いてEUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が生じる程度である。
(4)抵抗値
吸収体層(TaHf膜)の抵抗値を四探針測定器(三菱油化製:LorestaAP MCP−T400)を用いて測定したところ1.8×10-4Ω・cmである。
【0148】
<EUVマスクの形成>
得られたマスクブランクスの吸収層を少なくともパターニングすることで、マスクを得る。例1、3、4の基板から形成されたマスクは、マスクとしての十分な性能を有することが確認される。一方、例2の基板から形成されたマスクは、マスクとしての十分な性能を有していない。
例3の基板から形成されたマスクは、EUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響がなく、設計値通りの露光が可能である。一方、例4の基板から形成されたマスクは、EUVリソグラフィを実施する際に、マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響があり、設計値通りの露光が困難となるおそれがある。
【0149】
本発明の精神または範囲を逸脱することなく本発明に様々な改変および変形がなされ得ることが当業者には明らかであろう。したがって、添付される特許請求の範囲またはそれらの等価物の範囲に本発明の改変および変形が入れば、本発明はそれらの改変および変形を包含するとされる。
【符号の説明】
【0150】
3、130:反射層
4、140:吸収体層
11、120:基板
20:表面
30:裏面
40:中央点
50:断面
52:測定点
54:測定線
100:EUVマスク
150:EUVマスクブランクス
210:マスクパターン領域
200:EUV光照射領域
220:マスクパターン領域の外側領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域において0.04MPa以下であるEUVマスク用の基板。
【請求項2】
EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下であるEUVマスク用の基板。
【請求項3】
前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下である請求項1に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項4】
前記表面品質領域における基板の表面粗さ(rms)が1nm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項5】
前記基板の表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超である請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項6】
前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項7】
前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である請求項5に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項8】
表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が、表面品質領域内における応力の標準偏差(σ)よりも0.02MPa以上大きい請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項9】
表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項10】
前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい請求項8に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項11】
前記基板の熱膨張係数が、0〜100℃の温度域において0±200ppb/℃である請求項1〜10のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項12】
前記基板の仮想温度が1000℃未満である請求項1〜11のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項13】
前記基板の仮想温度のばらつきが基板全体で100℃以下である請求項1〜12のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項14】
前記基板のOH基濃度が600ppm以下である請求項1〜13のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項15】
前記基板のOH基濃度のばらつきが基板全体で50ppm以下である請求項14に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項16】
前記基板の屈折率の変動幅Δnが4×10-4以内である請求項1〜15のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項17】
前記基板の表面粗さ(rms)が表面品質領域において0.8nm以下である請求項1〜16のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項18】
前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が22±3℃である請求項1〜17のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項19】
前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が40〜100℃である請求項1〜17のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項20】
前記基板の塩素濃度が50ppm以下である請求項1〜19のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項21】
前記基板のフッ素濃度が100ppm以上である請求項1〜20のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項22】
前記基板のホウ素濃度が10ppb以上である請求項1〜21のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項23】
前記基板の水素濃度が5×1016molecules/cm3以上である請求項1〜22のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項24】
前記基板のTi3+濃度が、70ppm以下である請求項1〜23のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項25】
前記基板の表面品質領域において、表面に60nm以上の凹形状のピットが存在しない請求項1〜24のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項26】
前記基板が、透明TiO2−SiO2ガラス体を成形加工温度まで加熱して第1成形体に成形した後、該第1成形体の外周を切断し、その後、成形加工温度まで加熱して第2成形体に成形する2度成形を行う方法により製造される請求項1〜25のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項27】
前記基板が、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を800〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法により製造される、請求項1〜26のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層および吸収体層を少なくとも有するEUVマスクブランクス。
【請求項29】
前記EUVマスクブランクスの最表層の表面粗さが(rms)が表面品質領域内において、2nm以下である請求項28に記載のEUVマスクブランクス。
【請求項30】
前記反射層表面でのEUV波長域におけるピーク反射率の面内均一性の要求値が、表面品質領域内において±1.2%以内である請求項28または29に記載のEUVマスクブランクス。
【請求項31】
請求項1〜27のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層およびパターニングされた吸収体層を少なくとも有するEUVマスク。
【請求項32】
マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑制された請求項31に記載のEUVマスク。
【請求項33】
請求項31または32に記載のEUVマスクを用いた半導体集積回路の製造方法。
【請求項1】
EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の標準偏差(σ)は、表面品質領域において0.04MPa以下であるEUVマスク用の基板。
【請求項2】
EUVマスク用の基板であって、前記基板の材質はTiO2を1〜12質量%含有するシリカガラスであり、前記基板の表面粗さ(rms)は表面品質領域において2nm以下であり、前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下であるEUVマスク用の基板。
【請求項3】
前記基板の応力の最大ばらつき(PV)は、表面品質領域において0.2MPa以下である請求項1に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項4】
前記表面品質領域における基板の表面粗さ(rms)が1nm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項5】
前記基板の表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が0.05MPa超である請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項6】
前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項7】
前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が0.2MPa超である請求項5に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項8】
表面品質領域外における応力の標準偏差(σ)が、表面品質領域内における応力の標準偏差(σ)よりも0.02MPa以上大きい請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項9】
表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい請求項1〜4のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項10】
前記基板の表面品質領域外における応力の最大ばらつき(PV)が、表面品質領域内における最大ばらつき(PV)よりも0.1MPa以上大きい請求項8に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項11】
前記基板の熱膨張係数が、0〜100℃の温度域において0±200ppb/℃である請求項1〜10のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項12】
前記基板の仮想温度が1000℃未満である請求項1〜11のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項13】
前記基板の仮想温度のばらつきが基板全体で100℃以下である請求項1〜12のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項14】
前記基板のOH基濃度が600ppm以下である請求項1〜13のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項15】
前記基板のOH基濃度のばらつきが基板全体で50ppm以下である請求項14に記載のEUVマスク用の基板。
【請求項16】
前記基板の屈折率の変動幅Δnが4×10-4以内である請求項1〜15のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項17】
前記基板の表面粗さ(rms)が表面品質領域において0.8nm以下である請求項1〜16のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項18】
前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が22±3℃である請求項1〜17のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項19】
前記基板の熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が40〜100℃である請求項1〜17のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項20】
前記基板の塩素濃度が50ppm以下である請求項1〜19のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項21】
前記基板のフッ素濃度が100ppm以上である請求項1〜20のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項22】
前記基板のホウ素濃度が10ppb以上である請求項1〜21のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項23】
前記基板の水素濃度が5×1016molecules/cm3以上である請求項1〜22のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項24】
前記基板のTi3+濃度が、70ppm以下である請求項1〜23のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項25】
前記基板の表面品質領域において、表面に60nm以上の凹形状のピットが存在しない請求項1〜24のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項26】
前記基板が、透明TiO2−SiO2ガラス体を成形加工温度まで加熱して第1成形体に成形した後、該第1成形体の外周を切断し、その後、成形加工温度まで加熱して第2成形体に成形する2度成形を行う方法により製造される請求項1〜25のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項27】
前記基板が、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を800〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法により製造される、請求項1〜26のいずれかに記載のEUVマスク用の基板。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層および吸収体層を少なくとも有するEUVマスクブランクス。
【請求項29】
前記EUVマスクブランクスの最表層の表面粗さが(rms)が表面品質領域内において、2nm以下である請求項28に記載のEUVマスクブランクス。
【請求項30】
前記反射層表面でのEUV波長域におけるピーク反射率の面内均一性の要求値が、表面品質領域内において±1.2%以内である請求項28または29に記載のEUVマスクブランクス。
【請求項31】
請求項1〜27のいずれかに記載のEUVマスク用の基板上に反射層およびパターニングされた吸収体層を少なくとも有するEUVマスク。
【請求項32】
マスクパターン領域の外周部の吸収体層表面からのEUV反射光による影響が抑制された請求項31に記載のEUVマスク。
【請求項33】
請求項31または32に記載のEUVマスクを用いた半導体集積回路の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−135732(P2010−135732A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139218(P2009−139218)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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