説明

FM−CWレーダ装置及び移動物体の距離・速度検出方法

【課題】 FM-CWレーダの変調に三角波による場合のような対称性が求められない方式により、歩行者等の低速移動物体に適した距離・速度検出を可能にする。
【解決手段】 VCO12で鋸歯状に変化する制御信号によりFM変調したレーダ波をアンテナ19から送信する。ターゲットとなる移動物体からの反射波を受け、送信波とミキサ23で合波し、ミキサ出力からドプラー周波数を検出する。ターゲットとの距離がドプラー周波数の関数であるから、この関数関係に従い距離を求めることができる。また、所定時間を隔てた2時点で移動するターゲットを捕らえ、2点の距離から速度を求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いるFM-CW(Frequency Modulation - continuous wave )レーダに関し、例えば、歩行人物等の低速移動物体に適した距離・速度の検出方法及び同移動物体の距離・速度の検出が可能なFM-CWレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電波を利用した移動速度の測定は、移動物体からの反射波のドプラー効果を用いる方式がよく知られている。また、電波を用いて移動物体との距離を離れた地点から測る方法として、知られているのは、送信パルス波と、この送信波の移動物体からの反射波の遅延時間を用いて測定する方式である。
しかし、この遅延時間による測定方式では、電波の速度が早いため,近距離の測定では、パルス波をナノ秒の精度で検出することが求められ、高精度で検出するためには、装置規模が大きくなってしまう。
この問題を解決すべく提案された従来技術として、下記特許文献1をあげることができる。特許文献1記載の移動体の距離及び速度の測定方法は、マイクロ波またはミリ波を用いるドプラーレーダ装置によるもので、送信波に三角波のFM変調を掛けている。三角波のFM変調による周波数の上昇期間と下降期間のドプラー周波数をそれぞれ検出し、この周波数に基づいて距離を算出する方式を用いることが示されている。
【特許文献1】特開平6−222132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の三角波のFM変調を掛けるFM-CWレーダ方式では、三角波の上昇期間と下降期間の対称性(即ち、上昇、下降の違いはあっても、傾き:変化率は絶対値を等しくすること)が検出精度に直接影響することから、対称性を保つ必要があるが、精度良くこれを維持することは難しい。
また、移動体が低速である場合、上昇期間と下降期間のドプラー周波数差が小さくなるので、高精度の検出が困難になる。
本発明は、従来のFM-CWレーダ方式による移動体の距離及び速度の測定における上記問題に鑑み、これを解決するためになされたもので、その目的は、FM変調に上記の対称性が求められないFM-CWレーダ方式により、歩行人物等の低速移動物体に適した距離・速度の検出ができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1の発明は、制御入力によって出力周波数が変化する可変周波発振器と、前記可変周波発振器の出力信号をもとにCWレーダ波を発信するレーダ波発信手段と、移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信手段と、前記レーダ波受信手段の受信信号を前記可変周波発振器の発信信号とミキシングするミキサと、前記ミキサの出力から周波数差成分を濾波するフィルタと、前記フィルタにより濾波された信号の周波数を検出する周波数検出回路と、前記可変周波発振器への制御入力として、該発振器の出力周波数を鋸歯状に変化させる信号を生成する手段と、前記周波数検出回路の検出した周波数と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める演算手段と、を有することを特徴とする。
請求項2の発明は、制御入力によって出力周波数が変化する可変周波発振器と、前記可変周波発振器の出力信号をもとにCWレーダ波を発信するレーダ波発信手段と、移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信手段と、前記レーダ波受信手段の受信信号を前記可変周波発振器の発信信号とミキシングするミキサと、前記ミキサの出力から周波数差成分を濾波するフィルタと、前記フィルタにより濾波された信号の周波数を検出する周波数検出回路と、前記可変周波発振器への制御入力として、該発振器の出力周波数を鋸歯状に変化させる信号を生成する手段と、前記周波数検出回路の検出した周波数と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める距離演算手段と、時間Tを隔てて前記距離演算手段によって求めた移動物体との距離Ra及びRbに基づいて移動物体の速度を求める速度演算手段と、を有することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載されたFM-CWレーダ装置において、前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の複数にまたがる時間としたことを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項2に記載されたFM-CWレーダ装置において、前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の1周期内の時間としたことを特徴とする。
請求項5の発明は、FM-CWレーダ方式により移動物体の距離を検出する方法であって、鋸歯状に出力周波数が変化するCWレーダ波を発信するレーダ波発信工程と、移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信工程と、レーダ波受信工程の受信信号をレーダ波発信工程の発信信号とミキシングし、周波数差を検出する周波数差検出工程と、周波数差検出工程で検出した周波数差と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める演算工程と、を有することを特徴とする。
請求項6の発明は、FM-CWレーダ方式により移動物体の速度を検出する方法であって、鋸歯状に出力周波数が変化するCWレーダ波を発信するレーダ波発信工程と、移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信工程と、レーダ波受信工程の受信信号をレーダ波発信工程の発信信号とミキシングし、周波数差を検出する周波数差検出工程と、周波数差検出工程で検出した周波数差と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める距離演算工程と、時間Tを隔てて前記距離演算工程によって求めた移動物体との距離Ra及びRbに基づいて移動物体の速度を求める速度演算工程と、を有することを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項6に記載された移動物体の速度検出方法において、前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の複数にまたがる時間としたことを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項6に記載された移動物体の速度検出方法において、前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の1周期内の時間としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、鋸歯状制御信号によりCWレーダ波の出力周波数を変化させ、検出したドプラー周波数と、該鋸歯状制御信号の傾きに基づいて移動物体の距離・速度を求めるので、高精度の検出を安定して行うことが可能になる(請求項1,2,5,6)。
また、CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の複数にまたがる時間を検出時点として求めた距離に基づいて速度を求めるので、低速移動物体の速度を高精度に検出することが可能になる(請求項3,7)。
また、CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の1周期内の時間を検出時点として求めた距離に基づいて速度を求めるので、高速移動物体の速度を高精度に検出することが可能になる(請求項4,8)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明のFM-CWレーダ装置及び移動物体の距離・速度検出方法に係わる実施形態を説明する。
FM-CWレーダ装置に係わる実施形態として以下に示す装置は、本発明の移動物体の距離・速度検出方法に従って動作するので、FM-CWレーダ装置の実施形態に集約した形で方法発明に係わる実施形態についても説明する。
本例のFM-CWレーダ装置は、歩いたり、走ったりする人物のように、それ程遠くない移動物体をターゲットにして、その移動物体までの距離及び速度を測定することが可能な装置を狙いとし、例えばマイクロ波をレーダ波に用いて、実施するものである。この装置は、アンテナから検出対象の移動物体に向けてマイクロ波等の電波を発信させ、移動物体で反射して戻ってくる波を受信するレーダ方式の動作を行う。
ここでは、FM-CWレーダとしての動作を行わせる。アンテナから送信するCWレーダ波は、時間に比例して周波数が変化する変調が掛けられる。移動物体で反射され戻ってくるこのCWレーダ波を受信した時に、装置が連続して発信しているFM変調波信号とこの受信信号をミキシングする。反射波の方は、発信波に比べ、移動物体との距離に応じた時間遅れがあり、その分ミキシングする信号間の周波数にずれが生じているのでドプラー周波数として、この周波数差を検出する。この周波数差は、後記で詳述するように、距離と所定の関係がある。
【0007】
図1は、本発明のFM-CWレーダ装置に係わる実施形態の概略構成を示す。
図1に示す装置は、上記したFM-CWレーダとしての基本動作を行うことが可能な構成を有する。
送信側の構成としては、FM変調波を発信するので、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)12とVCO12を制御する制御入力信号を生成する制御電圧生成回路11よりなる信号源を有する。また、VCO12の出力を増幅するパワーアンプ13、不要な信号成分を濾波するフィルタ14、サーキュレータ15及びアンテナ19よりなる送信回路を有する。
受信側の構成としては、対象物体からの反射波を捕らえるアンテナ19、サーキュレータ15、必要な信号成分だけを濾波するフィルタ20、フィルタ20の出力を増幅するアンプ21よりなる受信回路を有する。なお、アンテナ19及びサーキュレータ15は、送信と受信に共通の要素で、サーキュレータ15は、送信の際に内部回路からの信号をアンテナ19から発信し、受信の際にアンテナ19で受けた信号を内部回路に取り込む。また、送信波信号と受信波信号の周波数差を検出するので、送信側のVCO出力信号を分波する分波器22、受信信号と分波器出力信号をミキシングするミキサ23、ミキサ出力から必要なドプラー周波数(差周波)信号成分だけを濾波するフィルタ24、フィルタ出力をもとに周波数差を検出する周波数検出回路25を有する。
制御回路10は、制御電圧生成回路11の動作を制御し、また、周波数検出回路25から検出結果として取得する周波数差に基づいて、距離及び速度を求めるための演算手段(演算方法は後記で詳述)を有する。
【0008】
図1に示すFM-CWレーダ装置の動作の概略を以下に説明する。
制御回路10は、VCO12にFM変調をかけ、後述するように、出力周波数を鋸歯状に変化させるので、動作の始めに、鋸歯状に変化する制御信号の生成タイミング等の制御条件を制御電圧生成回路11に設定する。この設定条件に従い制御電圧生成回路11は、VCO12の周波数制御端子に電圧を印加する。この制御電圧により、VCO12の出力周波数は、鋸歯状に変化する信号になる。
VCO12の出力信号は、次に、一部が分波器22で分波されるが、送信される信号は、パワーアンプ13、不要な信号成分を濾波するフィルタ14、サーキュレータ15及びアンテナ19を経由して、ターゲットである移動物体を照射する。
アンテナ19からの発信波は、移動物体で反射され、反射波として戻ってくるので、これをアンテナ19で受信する。受信信号は、サーキュレータ15、必要な信号成分だけを濾波するフィルタ20、フィルタ20の出力を増幅するアンプ21を経由した後、ミキサ23に入力される。
【0009】
受信信号が入力されるミキサ23の他の入力端子には、送信側の回路から分波器22で分波された送信信号が入力されているので、この送信信号と受信側の移動物体で反射された信号とがミキシングされる。
ミキシングされる信号間には、送信信号に対して反射波の受信信号は、移動物体で反射を往復してくる間に生じる時間遅れがあるため、ミキシング出力には、時間遅れに伴う周波数差が現れる。なお、ミキシング後の出力には、和の周波数成分も含まれるが、この成分は不要であるから、必要なドプラー周波数(差周波)信号成分だけを濾波するLPF(ローパスフィルタ)といったフィルタ24にて除去される。
フィルタ24からの出力信号は、周波数差に応じた信号であるから、周波数検出回路25によって所定のタイミングでこの周波数差を示す信号をサンプリングして、周波数データとして検出する。
次いで、検出したドプラー周波数のデータを受取る制御回路10は、このデータに基づいて、距離及び速度を求めるための演算を行う。
【0010】
次に、ドプラー周波数に基づいて距離及び速度を求めるための方法について、説明する。
本発明のドプラー周波数に基づく距離及び速度の検出では、上記した装置構成の説明で触れたように、送信出力信号の周波数を鋸歯状に変化させるようにFM変調をかける。
鋸歯状にFM変調された送信波,反射波の信号を、図2及び図3に示している。両図の横軸は時間で、縦軸は周波数をとっており、送信出力信号の周波数を鋸歯状に周期的に変化させている。変化の周期は、Tmによって与えられる。また、本例では、周波数の変化幅をΔfとし、一定の変化率(傾き)で周波数を変調するようにしているので、変化率(傾き)は、どの時点でもΔf/Tmで表すことができる。
なお、図示のように、図2の変化率を図3に比べて大きくしているが、後述するように、変化率をこのように変えることにより、検出対象の移動物体の速度に応じた異なる検出方式を用いることによって、検出精度を高めることを可能にする。
【0011】
まず、鋸歯状にFM変調するレーダ波を用いて移動物体の距離を検出する方法について、図2を参照して説明する。
移動物体の距離を検出する方法は、ある時点、1点のドプラー周波数を検出した結果に基づいて求めることができる。例えば、図2におけるように、不安定な動作が起きる可能性のある鋸歯状波の切替点を避けた、第1の鋸歯状波区間のA1のような適当なタイミングを検出点に選ぶ。
図2のA1では、送信波に対して移動物体からの反射波が、移動物体の距離に応じた時間遅れによって生じるずれをもって捕らえられる。このずれは、送信波の周波数に対する反射波の周波数の差、即ちドプラー周波数faとして、ミキサ23の出力に現れる。
このドプラー周波数faと移動物体の距離Raとの間には、
Ra=c・(Tm/Δf)・fa/2 式(1)
の関係がある。なお、上記式(1)中のc:光速(定数)である。
ここに、Tm/Δfは、制御回路10が制御条件として制御電圧生成回路11に設定する値として管理するデータである。つまり、c・(Tm/Δf)は、検出前に既知量して与えられる。
また、ドプラー周波数faは、周波数検出回路25によって、制御回路10に出力される。よって、制御回路10は、上記式(1)に従って、ドプラー周波数faのデータに基づいて、第1の鋸歯状波区間のA1時点の移動物体の距離Raを演算することができる。
【0012】
次に、鋸歯状にFM変調するレーダ波を用いて移動物体の速度を検出する方法について、説明する。
本願の速度検出方法は、上記した距離検出方法をベースにする方法で、時間Tを隔てて移動物体との距離Ra及びRbを上記した距離検出方法に基づいて検出し、検出結果から、
速度V=(Ra−Rb)/T 式(2)
によって、移動物体の速度Vを求める方法である。時間Tは、制御回路10にタイマを持ち、不安定な動作が起きる可能性のある鋸歯状波の切替点を避けること等を考慮して、予めタイマに設定した時間で検出点を規定する方法により実施することができる。なお、距離Raを検出した後、時間Tを隔てる間に移動体が変位するが、この間に速度が変動しないとみなせる条件が存在する場合の方が誤差を少なくできる。
上記速度検出プロセスに従う方法として、本願では、下記方式1,2の2つの検出方式を示す。
方式1: 時間Tを、送信出力信号の変調周波数を鋸歯状に変化させる周期の複数にまたがる時間とする。
方式2: 時間Tを、送信出力信号の変調周波数を鋸歯状に変化させる周期の1周期内の時間とする。
上記方式1,2それぞれについて、図2、図3を参照して、以下に説明する。
【0013】
「方式1による速度検出」
この方式は、時間Tを隔てて移動物体との距離Ra及びRbを検出する際に、第1の検出点を選んだ後、次の検出点を鋸歯状の変調周期の複数にまたがる時間に設定し、低速で移動する物体の速度の検出精度を出すことを意図するものである。
図2に例示するA1時点とB1時点が方式1による検出点で、A1時点から鋸歯状の変調周期の複数周期を隔ててB1時点を設定している。
A1時点の距離検出は、上記で説明したとおりである。B1時点の距離検出は、基本的には、A1時点と同様に行う。即ち、図2のB1時点のドプラー周波数fbに基づいて、
Rb=c・(Tm/Δf)・fb/2 式(3)
に従い距離Rbを求める。なお、図2の場合、レーダ装置から離れる方向に移動する物体をターゲットにしているので、B1時点のドプラー周波数fbは、大きくなり(周波数差が拡がり)、距離も拡がる。また、B1時点の距離検出を行うタイミングについても、上記のように制御回路10においてタイマ管理することにより、実施が可能である。
速度Vは、距離Ra及びRbをもとに上記式(2)に従い求める。
【0014】
「方式2による速度検出」
この方式は、時間Tを隔てて移動物体との距離Ra及びRbを検出する際に、第1の検出点を選んだ後、次の検出点を鋸歯状の変調周期内の時間に設定し、高速で移動する物体の速度の検出精度を出すことを意図するものである。
図3に例示するA2時点とB2時点が方式2による検出点である。
高速の場合、時間Tを短くしても、A2時点とB2時点におけるドプラー周波数fa,fbの違いを大きくとることができるので、鋸歯状の変調周期内に2検出点を選択することが可能で、誤差も少なくできる。ただ、不安定な動作が起きる可能性のある鋸歯状波の切替点の近傍を避けることが必要である。
A2時点とB2時点における距離Ra、Rbの検出は、上記方式1におけると同様に、それぞれ、式(1)、式(3)に従い求める。また、B2時点の距離検出を行うタイミングについても、上記のようにタイマで管理することにより、実施が可能である。
速度Vは、距離Ra及びRbをもとに上記式(2)に従い求める。
【0015】
「FM-CWレーダ装置の利用例」
次に、本願のFM-CWレーダ装置の利用例として、平面上を移動する物体の位置・速度を検出するシステムを構成する要素として、このレーダ装置を用いた検出システムの例を示す。
上記した本願のFM-CWレーダ装置は、装置とターゲットの距離・速度検出を基本的には1次元で行うもので、単独で用いる場合、観測点(装置の設置点)からの距離が求められても、検出可能エリアのどの方向に存在するか、平面上の位置まで特定することができない。そこで、このFM-CWレーダ装置を平面上で移動する物体を検出対象にして、2次元の検出を可能にするシステムを構成する要素に拡張して利用する例を次に示す。
2次元の検出システムへの第1の利用例は、本発明のFM-CWレーダ装置に方向(角度)を検出することができる方向検出装置を組み合わせて用いるシステムである。
このシステムは、FM-CWレーダ装置を設置した観測点上に、検出対象の移動物体がどの方向に存在するかを検出できる、例えば、カメラや強い指向性を持つ走査ビーム方式の方向(角度)センサ等の方向検出装置をもう1つの検出手段としてシステムを構成する。
このシステムでは、観測点からの距離をFM-CWレーダ装置により、方向を方向検出装置により検出することにより移動物体の平面上の位置を特定し、その位置データを求めることができる。また、所定の時間を隔てた2時点の位置を検出することにより、移動物体の速度ベクトルを求めることができる。
【0016】
2次元の検出システムへの第2の利用例は、三角測量の原理に従い本発明のFM-CWレーダ装置を2台組み合わせるか、或いは本発明のFM-CWレーダ装置に方向(角度)を検出することができる方向検出装置を組み合わせて用いるシステムである。
このシステムは、FM-CWレーダ装置を設置した1観測点と所定の距離を隔てた他の観測点上にもう1台のFM-CWレーダ装置或いは方向検出装置を設定することによりシステムを構成する。なお、方向検出装置は、例えば、カメラや強い指向性を持つ走査ビーム方式の方向(角度)センサ等を用いる。
このシステムは、検出対象の移動物体と2観測点で作る三角形に働く三角測量の原理に従い、移動物体の位置を特定する。ただ、この原理に従う場合に、検出可能なエリアが広くなると、検出値として得られる距離・方向(角度)が同一になる三角形が一意に定まらない場合があるので、条件を付けることによって一意に定める必要がある。
2観測点にそれぞれFM-CWレーダ装置を設けるシステムでは、検出対象の移動物体と2観測点で作る三角形の3辺が定まるので、移動物体の平面上の位置を特定し、その位置データと移動方向を示す速度ベクトルを求めることができる。また、2観測点にそれぞれFM-CWレーダ装置、方向検出装置を設けるシステムでは、2観測点により作る三角形の1辺を挟む角度のうちのFM-CWレーダ装置側の角度を定めるための条件を付与することで、検出対象の移動物体と2観測点で作る三角形が一意に定まるので、移動物体の平面上の位置を特定し、その位置データと移動方向を示す速度ベクトルを求めることができる。
また、所定の時間を隔てた2時点の位置を検出することにより、移動物体の速度ベクトルを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のFM-CWレーダ装置に係わる実施形態の概略構成を示す。
【図2】本発明のFM-CWレーダの動作原理(方式1)を説明するための線図で、鋸歯状にFM変調された送信波,反射波信号及び検出点の関係を示す。
【図3】本発明のFM-CWレーダの動作原理(方式2)を説明するための線図で、鋸歯状にFM変調された送信波,反射波信号及び検出点の関係を示す。
【符号の説明】
【0018】
10・・・制御回路、11・・・制御電圧生成回路、12・・・VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)、14,20・・・フィルタ、15・・・サーキュレータ、19・・・アンテナ、22・・・分波器、23・・・ミキサ、24・・・ローパスフィルタ(LPF)、25・・・周波数検出回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御入力によって出力周波数が変化する可変周波発振器と、
前記可変周波発振器の出力信号をもとにCWレーダ波を発信するレーダ波発信手段と、
移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信手段と、
前記レーダ波受信手段の受信信号を前記可変周波発振器の発信信号とミキシングするミキサと、
前記ミキサの出力から周波数差成分を濾波するフィルタと、
前記フィルタにより濾波された信号の周波数を検出する周波数検出回路と、
前記可変周波発振器への制御入力として、該発振器の出力周波数を鋸歯状に変化させる信号を生成する手段と、
前記周波数検出回路の検出した周波数と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める演算手段と、
を有することを特徴とする移動物体の距離の検出が可能なFM-CWレーダ装置。
【請求項2】
制御入力によって出力周波数が変化する可変周波発振器と、
前記可変周波発振器の出力信号をもとにCWレーダ波を発信するレーダ波発信手段と、
移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信手段と、
前記レーダ波受信手段の受信信号を前記可変周波発振器の発信信号とミキシングするミキサと、
前記ミキサの出力から周波数差成分を濾波するフィルタと、
前記フィルタにより濾波された信号の周波数を検出する周波数検出回路と、
前記可変周波発振器への制御入力として、該発振器の出力周波数を鋸歯状に変化させる信号を生成する手段と、
前記周波数検出回路の検出した周波数と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める距離演算手段と、
時間Tを隔てて前記距離演算手段によって求めた移動物体との距離Ra及びRbに基づいて移動物体の速度を求める速度演算手段と、
を有することを特徴とする移動物体の速度の検出が可能なFM-CWレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたFM-CWレーダ装置において、
前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の複数にまたがる時間としたことを特徴とするFM-CWレーダ装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたFM-CWレーダ装置において、
前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の1周期内の時間としたことを特徴とするFM-CWレーダ装置。
【請求項5】
FM-CWレーダ方式により移動物体の距離を検出する方法であって、
鋸歯状に出力周波数が変化するCWレーダ波を発信するレーダ波発信工程と、
移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信工程と、
レーダ波受信工程の受信信号をレーダ波発信工程の発信信号とミキシングし、周波数差を検出する周波数差検出工程と、
周波数差検出工程で検出した周波数差と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める演算工程と、前記周波数検出回路の検出した周波数と
を有することを特徴とする移動物体の距離検出方法。
【請求項6】
FM-CWレーダ方式により移動物体の速度を検出する方法であって、
鋸歯状に出力周波数が変化するCWレーダ波を発信するレーダ波発信工程と、
移動物体により反射された前記CWレーダ波を受信するレーダ波受信工程と、
レーダ波受信工程の受信信号をレーダ波発信工程の発信信号とミキシングし、周波数差を検出する周波数差検出工程と、
周波数差検出工程で検出した周波数差と鋸歯状に前記CWレーダ波の出力周波数を変化させる制御信号の傾きとに基づいて移動物体との距離を求める距離演算工程と、
時間Tを隔てて前記距離演算工程によって求めた移動物体との距離Ra及びRbに基づいて移動物体の速度を求める速度演算工程と、
を有することを特徴とする移動物体の速度検出方法。
【請求項7】
請求項6に記載された移動物体の速度検出方法において、
前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の複数にまたがる時間としたことを特徴とする移動物体の速度検出方法。
【請求項8】
請求項6に記載された移動物体の速度検出方法において、
前記時間Tを、前記CWレーダ波の出力周波数を鋸歯状に変化させる周期の1周期内の時間としたことを特徴とする移動物体の速度検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−89388(P2008−89388A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269884(P2006−269884)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(304020498)サクサ株式会社 (678)
【Fターム(参考)】