説明

Fcα/μレセプターを介する生体機能調節物質のスクリーニング方法

【課題】Fcα/μレセプターを介して生体機能を調節する化合物のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法であって、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fcα/μレセプターを介して生体機能を調節する化合物、特にB1a B細胞数及び/又はIgM量を増加させる物質をスクリーニング方法、並びに癌や感染症等の予防又は治療薬などに関する。
【背景技術】
【0002】
抗原に感作されていない生体に存在する抗体を自然抗体と呼ぶ。自然抗体の大部分はIgMに属している。IgM自然抗体の代表的な認識抗原としてリン脂質phosphorylcholine (PC)が知られている。また、IgM自然抗体の産生細胞は腹腔に存在するB1a B細胞であることも知られている。B1a B細胞はB細胞の一種である。
【0003】
IgMなどの抗体にはFc領域と呼ばれる領域が存在する。このFc領域に対する受容体がFcレセプターである。Fcレセプターは免疫系細胞上に発現し、抗体によって誘導される様々な免疫応答を調節している。これまでに同定されているFcレセプターとして、IgGのFc領域に対するFcγレセプター、IgEのFc領域に対するFcεレセプター、並びにIgA及びIgMのFc領域に対するFcα/μレセプターなどが知られている。このうち、FcγレセプターやFcεレセプターの機能は、多くの研究の積み重ねにより明らかにされつつあるが、Fcα/μレセプターの機能は、未だ不明な点が多い。
【0004】
ここで、特開2008-56647号公報(特許文献1)は、Fcα/μレセプターは慢性リンパ性白血病患者の白血病細胞で強発現していること、また、Fcα/μレセプターを特異的に認識する抗体を患者に投与することで白血病が治療できること、などを開示している。
【0005】
【特許文献1】特開2008-56647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の下、Fcα/μレセプターを介して生体機能を調節する化合物のスクリーニング方法などが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、Fcα/μレセプターとIgMとの会合を遮断又は阻害すると、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量が増加することを見出した。そして、本発明者らは、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触したときのFcα/μレセプターの発現量を測定することにより、その測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法であって、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む、前記方法。
(2)B1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法であって、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択する工程を含む、前記方法。
(3)B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬の選択は、(i)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させたときのFcα/μレセプターの発現量と、(ii)Fcα/μレセプターを発現する能力を有する細胞と候補物質とを接触させないときのFcα/μレセプターの発現量との比較により行われるものである、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬の選択は、(i)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させたときのFcα/μレセプターの発現量が、(ii)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させないときのFcα/μレセプターの発現量よりも低いときに、当該候補物質を、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として選択することにより行われるものである、上記(3)に記載の方法。
(5)疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、上記(2)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法であって、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む、前記方法。
(7)B1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患の予防・治療薬のスクリーニング方法であって、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択する工程を含む、前記方法。
(8)B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬の選択は、(i)候補物質の存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性と、(ii)候補物質の非存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性との比較により行われるものである、上記(6)又は(7)に記載の方法。
(9)B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患の予防・治療薬の選択は、(i)候補物質の存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性が、(ii)候補物質の非存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性よりも低いときに、当該候補物質を、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として選択することにより行われるものである、上記(8)に記載の方法。
(10)疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、上記(7)〜(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11)Fcα/μレセプターを認識する抗体を含む、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬。
(12)疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、上記(11)に記載の予防又は治療薬。
(13)Fcα/μレセプターをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAを含む、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬。
(14)疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、上記(13)に記載の予防又は治療薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法が提供される。本発明によりスクリーニングされた化合物は、生体内のB1a B細胞数や自然抗体であるIgM量を高めて免疫機能を賦活することができるため、感染症や癌等の治療薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0011】
1.本発明の概要
本発明者らは、B1a B細胞に、IgMのFc領域に対する受容体であるFcα/μレセプターが高発現していることを見出した。Fcα/μレセプターは、現在ヒト及びマウスにおいて唯一同定されているIgMのFc領域に対する受容体である。本発明者らは、Fcα/μレセプターを、IgMを介したB1a B細胞の免疫応答調節機構に直接関わる分子であると考えた。
【0012】
この考えを裏付けるため、本発明者らは、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスを用いて免疫能に関する実験を行った。その結果、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスでは、腹腔内のB2 B細胞数及びB1b B細胞数が野生型マウスと比較して変化しなかったにもかかわらず、腹腔内のB1a B細胞数が野生型マウスと比較して有意に増加していた(図1)。また、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの末梢血中では、リン脂質phosphorylcholine (PC)に対するIgM自然抗体の量が増加していた(図2)。さらに、肺炎球菌(105 cfu)経静脈感染後のFcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの生存率は、野生型マウスと比較して有意に増加していた(図3)。さらに、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス由来血清を移入したSCIDマウスにおいて肺炎球菌(105 cfu)を経静脈で感染させた後の生存率は、野生型マウス由来血清を移入したSCIDマウスの肺炎球菌(105 cfu)経静脈感染後の生存率と比較して、有意に亢進していた(図5)。
【0013】
上記のようにFcα/μレセプター遺伝子欠損マウスでは、腹腔内のB1a B細胞数が増加する。このことは、Fcα/μレセプターの発現量を低下させる化合物、あるいはFcα/μα/μレセプターとIgMのFc領域との会合を遮断又は阻害する化合物が、生体内のB1a B細胞数を増加させることを示している。また、上記のようにFcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの末梢血中では、PCを認識するIgM自然抗体の量が増加していた。このことは、Fcα/μレセプターの発現量を低下させる化合物、あるいはFcα/μレセプターとIgMのFc領域との会合を遮断又は阻害する化合物が、生体内のIgM量を増加させることを示している。
【0014】
そこで、本発明は、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法を提供する。この方法は、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定するというものであり、測定結果から、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む。また、本発明は、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法を提供する。この方法は、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定するというものである。そして、測定結果から、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む。
【0015】
また、肺炎球菌経静脈感染実験においては、上記のようにFcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの生存率、及びFcα/μレセプター遺伝子欠損マウス由来血清を移入したSCIDマウスの生存率が高かった。このことは、Fcα/μレセプターの発現量を低下させる化合物、あるいはFcα/μレセプターとIgMのFc領域との会合を遮断又は阻害する化合物が、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬となり得ることを示している。
【0016】
そこで、本発明は、B1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法を提供する。この方法は、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定するというものである。そして、測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択することを含む。また、本発明のスクリーニング方法は、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定する工程を含む。そして、測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択する工程を含む。
【0017】
さらに、本発明は、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を提供する。当該予防又は治療薬には、Fcα/μレセプターを認識する抗体、あるいは、Fcα/μレセプターをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAを含む。
【0018】
2.Fcα/μレセプター
Fcα/μレセプター(Fcα/μR)は、IgA及びIgMのFc領域に対するFcレセプターであり、細胞外領域に免疫グロブリン(Ig)様ドメインを有するI型膜貫通タンパク質である。
【0019】
免疫グロブリンは、液性免疫において中心的な働きをなす一方で、細胞性免疫を担う種々のエフェクター細胞(例えばリンパ球、顆粒球及びマクロファージなど)に結合することにより、エフェクター細胞の活性化を制御し、炎症やアレルギー、自己免疫などの免疫反応の調節に重要な役割を担っている。免疫グロブリンにはIgG、IgA、IgD、IgE及びIgMの5つのクラスが存在し、これらの免疫グロブリンとエフェクター細胞との結合は、エフェクター細胞に発現する受容体、すなわち免疫グロブリンFc領域に対する受容体(Fcレセプターという)を介して行われる。
【0020】
これまで同定されているFcレセプターには、IgGに対するFcγレセプター、IgEに対するFcεレセプター、及びIgAに対するFcαレセプターが存在し、その構造や機能の詳細な解析が行われてきた。
【0021】
IgMに対するヒト及びマウスのFcレセプターとして、近年、Fcα/μレセプターが同定された(Shibuya A. et al.;., Nat. Immunol (2000) 1: 441-446))。Fcα/μレセプターは、細胞外領域に1つの免疫グロブリンドメインを有し、免疫グロブリンファミリーに属する70kDaの分子である。
【0022】
マウス及びヒトのFcα/μレセプターの塩基配列情報は以下の通りデータベース等から得ることが可能であり、その塩基配列は配列番号1(マウス)及び配列番号3(ヒト)に示され、また、そのアミノ酸配列は配列番号2(マウス)及び配列番号4(ヒト)に示される。
【0023】
マウスFcα/μR:アクセッション番号AB048834
ヒトFcα/μR:アクセッション番号E15470
【0024】
そして、保存領域のポリペプチド配列は、マウスFcα/μレセプターではGly Gly Ala Val Thr Ile His Cys His Tyr Ala Pro Ser Ser Val Asn Arg His Gln Arg Lys Tyr Trp (配列番号5)で表わされ、ヒトのFcα/μレセプターでは、Val Thr Ile Gln Cys His Tyr Ala Pro Ser Ser Val Asn Arg His Gln Arg Lys Tyr Trp (配列番号6)で表される。
【0025】
3.スクリーニング方法
3.1.Fcα/μレセプターの発現量
Fcα/μレセプターの発現量は、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物をスクリーニングするための指標になり得る。また、Fcα/μレセプターの発現量は、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患の予防又は治療剤をスクリーニングするための指標にもなり得る。そこで、本発明は、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法であって、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む方法を提供する。また、本発明は、B1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法であって、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択する工程を含む、前記方法を提供する。
【0026】
本発明のスクリーニング方法においては、例えば、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療剤の選択は、例えば以下の工程が含まれる。
(i)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させたときのFcα/μレセプターの発現量と、
(ii)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させないときのFcα/μレセプターの発現量との比較を行う。
【0027】
具体的には、Fcα/μレセプタータンパク質量又はFcα/μレセプターをコードするmRNA量などを測定して両者を比較する。
【0028】
Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞としては、例えば、B1a B細胞、白血病細胞、又は形質転換細胞などが挙げられ、これらの細胞から選択される少なくとも1つの細胞を本発明のスクリーニング方法に用いることができる。B1a B細胞、及び白血病細胞は、公知の方法で入手することができる。形質転換細胞としては、例えば、マウスFcα/μレセプター遺伝子を安定発現するBa/F3細胞(マウスプロ-B細胞系)及びBW5147細胞(胸腺腫細胞)などを挙げることができる(例えば、特開2008-56647号公報参照)。形質転換細胞は、公知方法により樹立することができる(例えば、Shibuya A. et al., Nat. Immunol. 1 (2000) 441-446)。
【0029】
候補物質としては、例えば、天然又は人為的に合成された各種ペプチド、タンパク質(酵素又は抗体を含む)、核酸(ポリヌクレオチド(DNA若しくはRNA)、オリゴヌクレオチド(siRNA、shRNA若しくはデコイオリゴなど)、又はペプチド核酸(PNA)など)、低分子化合物、及びその他の高分子化合物などから選択される少なくとも1つの化合物を挙げることができる。
【0030】
「接触」とは、例えば、Fcα/μレセプターを発現する細胞と候補物質とを同一の反応系又は培養系に存在させることなどが挙げられる。さらに具体的には、細胞培養器に候補物質を添加すること、細胞と候補物質とを混合すること、あるいは細胞を候補物質の存在下で培養することなどが挙げられる。
【0031】
候補物質の存在下で細胞を培養する場合の、細胞の培養条件及び培養日数は、培養する細胞に合わせて適宜選択することができる。
【0032】
Fcα/μレセプターの発現量を測定する際には、例えば、細胞のライセートを調製し、ライセートからmRNAを抽出し、mRNAの発現量を測定すればよい。あるいは、ライセートからFcα/μレセプタータンパク質量を測定することもできる。
ライセートの調製及びmRNAの抽出は、公知の方法で行うことができ、例えば市販のキットを使用して行うことができる。また、細胞を含む培養液を、例えば、緩衝液等で希釈してFcα/μレセプター遺伝子をコードするmRNA量の測定などに利用しても良い。
【0033】
Fcα/μレセプタータンパク質量の測定は、例えば、免疫測定法などにより行うことができる。免疫測定法としては、放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme-linked Immunosorbent assay (ELISA))、又はWestern blot法などが挙げられる。
【0034】
RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、125I、131I、14C、3H、35S又は32Pを利用することができる。
【0035】
FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE又はTexas-Redなどの蛍光物質を利用することができる。
【0036】
免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等を用いることができる。
【0037】
酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GO)等を用いることができる。
【0038】
さらに、抗体又は抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン−アビジン系を用いることも可能である。
【0039】
mRNA量の測定は、公知の方法、例えば、プローブとしてFcα/μレセプターをコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号1又は3の塩基配列で表わされるポリヌクレオチド)から設計したポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを用いるノーザンハイブリダイゼーション、あるいはプライマーとしてFcα/μレセプターをコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号1又は3の塩基配列で表わされるポリヌクレオチド)から設計したポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを用いるPCR法を用いて行うことができる。
【0040】
そして、例えば、前記(i)の場合のFcα/μレセプターの発現量が、前記(ii)の場合のFcα/μレセプターの発現量と比較して変化している場合(例えば、低い場合)、例えば、前記(ii)におけるFcα/μレセプター遺伝子の発現量を基準(100%)としたときに、約5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、150%以上、又は200%以上低い場合に、候補物質を、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、あるいは、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として選択する。
【0041】
上記スクリーニングの結果は、候補物質を、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、あるいは、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として最終的に選択する際の補助とすることもできる。
【0042】
例えば、上記スクリーニングにより得られた化合物を、ヒト又は非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ若しくはウマ)に投与する。そして、化合物の投与の前後で、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量が変化する場合に、その化合物を、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物として最終的に選択しても良い。あるいは、上記スクリーニングにより得られた化合物の投与により、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患が予防及び/又は治療できたときは、その化合物を、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として最終的に選択しても良い。
【0043】
ここで、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患としては、例えば、感染症、癌、及び動脈硬化症から選択される少なくとも1つの疾患が挙げられる。
【0044】
感染症としては、細菌感染症、及びウイルス感染症などから選択される少なくとも1つの感染症が挙げられる。細菌感染症としては、例えば、肺炎球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌(例えば、MRSA)、サルモネラ、ボツリヌス、又はカンジダなどによる感染症が挙げられる。ウイルス感染症としては、例えば、呼吸器感染性ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、若しくはレオウイルスなどの呼吸器感染性ウイルス)、ヘルペスウイルス、ロタウイルス、又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)などによる感染症が挙げられる。
【0045】
癌としては、例えば、脳腫瘍、胃癌、食道癌、肺癌(小細胞癌、非小細胞癌等)、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、精巣癌、皮膚癌、骨肉腫、結腸直腸癌、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、急性非リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、ACTH生成腫瘍、副腎皮質癌、皮膚T細胞性リンパ腫、子宮内膜癌、ユーイング肉腫、胆嚢癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、メラノーマ、中皮腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、卵巣(胚細胞)癌、陰茎癌、前立腺癌、網膜芽腫、軟組織肉腫、扁平上皮細胞癌、甲状腺癌、栄養膜新生物、膣癌、外陰癌、又はウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【0046】
3.2.リガンドとFcα/μレセプターとの結合性
Fcα/μレセプターとリガンドの結合性は、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物をスクリーニングするための指標になり得る。また、Fcα/μレセプターとリガンドの結合性は、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療剤をスクリーニングするための指標にもなり得る。
【0047】
従って、本発明は、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法、並びに、B1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法を提供する。
本発明の方法は、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む。また、本発明の方法は、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択する工程を含む。
【0048】
本発明のスクリーニング方法では、例えば、
(i)候補物質の存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性と、
(ii)候補物質の非存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性との比較により行われるものである。
【0049】
Fcα/μレセプターに対するリガンドとしては、例えば、IgMを挙げることができる。
【0050】
「接触」とは、例えば、Fcα/μレセプターを産生する細胞又はその細胞抽出液とリガンドと候補物質とを同一の反応系又は培養系に存在させること、精製したFcα/μレセプターとリガンドと候補物質とを同一の反応系に存在させることなどが挙げられる。さらに具体的には、細胞培養器にリガンドと候補物質を添加すること、細胞とリガンドと候補物質とを混合すること、細胞をリガンドと候補物質の存在下で培養すること、細胞抽出液とリガンドと候補物質とを混合すること、精製したFcα/μレセプターとリガンドと候補物質とを混合することなどが挙げられる。候補物質の存在下などで細胞を培養する場合の、細胞の培養条件及び培養日数は、培養する細胞に合わせて適宜選択することができる。
【0051】
リガンドとFcα/μレセプターとの結合性は、公知の方法で検出することができる。本発明の1つの態様では、標識したリガンドを、Fcα/μレセプターに接触させた場合と、標識したリガンド及び候補物質をFcα/μレセプターに接触させた場合における、標識したリガンドのFcα/μレセプターに対する結合量をそれぞれ測定し、両者を比較することにより、Fcα/μレセプターとリガンドの結合性を検出する。リガンドの標識としては、リガンドに合わせて公知のものを適宜選択することができ、例えば、前記した標識を挙げることができる。
【0052】
そして、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を変化させる候補物質、例えば、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を対照と比較して減少させる、例えば、対照の結合性を基準(100%)として、約5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、150%以上、又は200%以上減少させる候補物質を、Fcα/μレセプターとリガンドの結合性を変化させる化合物として選択することができる。ここで、対照は、例えば、候補物質の非存在下でのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性である。
【0053】
上記スクリーニングの結果は、前記と同様に、候補物質を、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又は、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として最終的に選択する際の補助とすることができる。
【0054】
ここで、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患としては、例えば、感染症、癌及び動脈硬化症から選択される少なくとも1つの疾患が挙げられる。感染症及び癌の具体例は、前記と同様である。
【0055】
4.抗体
4.1.抗原の調製
Fcα/μレセプターのアミノ酸配列(例えば、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列)の全長又は保存領域のアミノ酸配列(例えば、配列番号5又は6に示すアミノ酸配列)のうちの少なくとも一部(全部又は一部)を含むポリペプチド又はペプチド(単にペプチドともいう)を抗原として使用することができる。
【0056】
ここで、抗原に用いるペプチド配列において、「アミノ酸配列の少なくとも一部」とは、長さに特に限定されるものではない。例えば配列番号2又は4に示すアミノ酸配列のうち連続する8アミノ酸残基以上が挙げられる。また、選択する場所は、細胞外領域であれば特に限定されるものではない。
【0057】
抗原には、配列番号2、4、5又は6に示すアミノ酸配列の少なくとも一部を、単独で又は混合して用いることができる。
【0058】
ペプチドの作製方法は、化学合成でも、大腸菌などを用いる遺伝子工学的手法による合成でもよく、これらは当業者に周知の方法を用いることができる。
【0059】
ペプチドの化学合成を行う場合は、ペプチドの合成の周知方法によって合成することができる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置(島津製作所製PSSM-8など)を使用してもよい。
【0060】
ペプチドを遺伝子工学的に合成する場合は、まず、該ペプチドをコードするDNA(例えば配列番号1又は3など)を設計し合成する。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによってタンパク質発現用組換えベクターを得、この組換えベクターを目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することによって形質転換体を得る(Sambrook J. et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。
【0061】
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。さらに、動物ウイルス、昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。組換えベクターの作製は、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位等に挿入してベクターに連結すればよい。形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌若しくは枯草菌など)、酵母、動物細胞(COS細胞若しくはCHO細胞など)、昆虫細胞又は昆虫が挙げられる。ヤギ等の哺乳動物を宿主として使用することも可能である。宿主への組換えベクターの導入方法は公知である。
【0062】
そして、前記形質転換体を培養し、その培養物から抗原として使用されるペプチドを採取する。「培養物」とは、(a)培養上清、又は(b)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物のいずれをも意味するものである。
【0063】
培養後、目的ペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりペプチドを抽出する。また、目的ペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、ペプチドの単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、又はアフィニティークロマトグラフィーなどを単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、目的のペプチドを単離精製することができる。
【0064】
本発明においては、in vitro翻訳によるペプチド合成を採用することもできる。この場合は、RNAを鋳型にする方法とDNAを鋳型にする方法(転写/翻訳)の2通りの方法を用いることができる。in vitro翻訳システムは、市販のシステム、例えばExpresswayTMシステム(Invitrogen社)、PURESYSTEM(登録商標;ポストゲノム研究所)、TNTシステム(登録商標;Promega社)などを用いることができる。
【0065】
上記のようにして得られたペプチドは、適当なキャリアタンパク質、例えば牛血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン (KLH)、ヒトチログロブリン、又はニワトリガンマグロブリンなどに結合することも可能である。
【0066】
さらに、本発明においては、Fcα/μレセプターを発現する細胞を抗原として用いることができる。上記形質転換体作製手法と同様にして、適当な宿主細胞に、Fcα/μレセプターをコードする遺伝子を導入し、細胞にFcα/μレセプターを発現させることができる。この場合、宿主細胞としては、例えばBa/F3細胞、BW5147細胞等を挙げることができる。Ba/F3細胞は、マウスのプロB細胞由来であり、BW5147細胞はマウス胸腺腫由来である。
【0067】
また、抗原は、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列又はこれらの部分配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であってFcα/μレセプターとしての機能を有する変異型Fcα/μレセプターであってもよい。例えば、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列のうち1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が欠失しており、1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されており、あるいは、1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記Fcα/μレセプターと同様の活性を有する変異型タンパク質を使用することもできる。
【0068】
本発明において、細胞に導入するためのFcα/μレセプター遺伝子は、上記Fcα/μレセプタータンパク質又は変異型タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。そのような遺伝子として、例えば配列番号1又は3に示す塩基配列又はこれらの部分配列を有するものを使用することができる。配列番号1又は3に示す塩基配列のうち、コード領域のみの塩基配列であってもよい。また、上記配列番号1又は3に示す塩基配列に相補的な配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Fcα/μレセプター活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用することも可能である。
【0069】
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイズさせた後の洗浄時の条件であって塩(ナトリウム)濃度が150〜900mMであり、温度が55〜75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が500〜700 mMであり、温度が65℃での条件をいう。
【0070】
遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばGeneTailorTMSite-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)を用いて行うことができる。
【0071】
4.2.ポリクローナル抗体の作製
上記の通り作製した抗原を、免疫のため哺乳動物に投与する。哺乳動物は特に限定されものではなく、例えばラット、マウス、又はウサギなどを挙げることができるがマウスが好ましい。
【0072】
抗原の動物一匹あたりの投与量は、アジュバントの有無により適宜設定することができる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、又は水酸化アルミニウムアジュバントなどが挙げられる。免疫は、主として静脈内、足蹠、皮下、又は腹腔内などに注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜3回免疫を行う。そして、最終の免疫日から3〜7日後に酵素免疫測定法(ELISA又はEIA)、放射性免疫測定法(RIA)等で抗体価を測定し、所望の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくはアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0073】
その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0074】
4.3.モノクローナル抗体の作製
4.3.1.抗体産生細胞の採取
前記のように作製した抗原を、免疫のため哺乳動物、例えばラット、マウス、又はウサギなどに投与する。抗原の動物一匹あたりの投与量は、アジュバントの有無により適宜設定することができる。アジュバントとしては上記と同様である。免疫手法も前記と同様である。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、又は末梢血細胞などが挙げられるが、脾臓細胞が好ましい。
【0075】
4.3.2.細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。
【0076】
ミエローマ細胞としては、例えば、P3-X63.Ag8(X63)、P3-X63.Ag8.U1(P3U1)、P3/NS I/1-Ag4-1(NS1)、又はSp2/0-Ag14(Sp2/0)などのマウスミエローマ細胞株を挙げることができる。ミエローマ細胞の選択に当たっては、抗体産生細胞との適合性を適宜考慮する。
【0077】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞用培地中で、1×106〜1×107個/mlの抗体産生細胞と2×105〜2×106個/mlのミエローマ細胞とを混合する。抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比は、5:1であることが好ましい。次に、細胞融合促進剤存在の下で融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトン(D)のポリエチレングリコールなどを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0078】
4.3.3.ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などに適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0079】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、Fcα/μレセプターに反応する抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、ELISA、EIA、又はRIAなどによってスクリーニングすることができる。
【0080】
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行う。Fcα/μレセプターに強い反応性を示す抗体をフローサイトメトリーなどにより判定し、これを産生するハイブリドーマを選択し、樹立する。
【0081】
4.3.4モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマを培養し、得られる培養物からモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法、又は腹水形成法等を採用することができる。「培養」とは、上記ハイブリドーマを培養皿又は培養ボトル中で生育させること、あるいは上記ハイブリドーマを下記のように動物の腹腔内で増殖させることを意味する。
【0082】
細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地などの動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0083】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集する。
【0084】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、又はアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0085】
4.4.抗体断片、ヒト型化抗体又はヒト化抗体
上記の抗体の断片、及びV領域の一本鎖抗体も本発明の抗体に含まれる。抗体の断片としては、前記ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはFab、F(ab’)2、Fv(variable fragment of antibody)等が挙げられる。
【0086】
本発明の抗体は、ヒト型化抗体又はヒト抗体でもよい。
【0087】
ヒト型化抗体を作製する場合は、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(complementarity determining region; CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものを、CDRはマウス由来のものからなる再構成した可変領域を作製する。次にこれらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。ヒト型化抗体の作製法は、当分野において周知である。
【0088】
ヒト抗体は、一般にV領域の抗原結合部位である超過変領域(Hyper Variable region)、V領域のその他の部分及び定常領域の構造が、ヒトの抗体と同じ構造を有するものである。但し、超可変部位は他の動物由来であってもよい。ヒト抗体を作製する技術も公知であり、ヒトに共通の遺伝子配列については遺伝子工学的手法によって作製する方法が確立されている。
【0089】
4.5.本発明の抗体の機能解析
本発明の抗体は、競合的結合試験、及び認識部位の解析などにより、その特徴付けを行なうことができる。
【0090】
本発明の抗体は以下の特徴を有するものであり、その認識エピトープの違いにより5つのグループに分類することができ、以下のような特徴を有する。
【0091】
グループI: IgM/IgA抗体の結合を完全に阻害する。
グループII: IgM/IgA抗体の結合をまったく阻害しない。
グループIII:IgM/IgA抗体の結合を部分的に阻害する。ヒト、マウスFcα/μレセプター間で交差反応する。
グループIV:IgM/IgA抗体の結合を部分的に阻害する。
グループV: IgM/IgA抗体の結合をまったく阻害しない。
【0092】
5.siRNA又はshRNA
本発明において、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患を予防・治療するために、Fcα/μレセプター遺伝子の発現を抑制する方法が採用される。生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患としては、例えば感染症、癌、及び動脈硬化症から選択される少なくとも1つの疾患が挙げられる。
【0093】
Fcα/μレセプター遺伝子の発現抑制には、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができるが、特にこれに限定されるものではない。Fcα/μレセプター遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。
【0094】
RNAiとは、dsRNA(double-strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
【0095】
5.1.siRNA
siRNAの設計は、以下の通り行なうことができる。
(a) Fcα/μレセプターをコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。例えば、配列番号1又は3の任意の領域を候補にすることができる。
(b) 選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18〜30塩基のもの、あるいは、AAを5’側に加えたときの長さが18〜30塩基、好ましくは19〜23塩基の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30〜70%となるものを選択すればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよい。
(c) 選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい。
(d) BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク質が存在しないことを確認することが好ましい。
【0096】
さらに、数種類のsiRNAを同時に細胞に導入することにより、遺伝子の発現をより効果的に抑制できることがある。
【0097】
siRNA合成の別法としてDicer法がある。Dicer法の概要とは以下の通りである。まず、Fcα/μレセプター遺伝子配列のスタートコドンから500 bp〜1 kbpの遺伝子配列をベクター等に組み込み、その遺伝子配列のセンスRNAとアンチセンスRNAを転写させた後、アニーリングしてdsRNAを作製する。次に、RNase IIIファミリーに属するDicer Enzymeにより、このdsRNAを3'末端側に2塩基の突出末端をもつ21-23塩基のsiRNAにプロセッシングさせる。
【0098】
siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成した2本相補鎖RNAをアニールしたds-RNAやDicer Enzymeによるds-RNAは、前述の宿主への組み換えDNAの導入方法を用いて行うことができる。別の導入方法として、2本の相補鎖RNAを別々にタンデムに発現させるプラスミドDNAを細胞に導入する方法も採用することができる。
【0099】
5.2.shRNA
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。このステムループ構造を有するRNA分子は生体内のDicer等によりプロセッシングを受け、siRNAが産生される。
【0100】
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で42〜120塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるFcα/μレセプターをコードする遺伝子(例えば、配列番号1又は3)の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは18〜50塩基、好ましくは21〜30塩基である。
【0101】
6.予防又は治療薬
前記Fcα/μレセプターに対する抗体、並びに前記shRNA及びsiRNAは、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患の予防又は治療薬(予防又は治療用医薬組成物)として使用することができる。
【0102】
生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患としては、感染症、癌、及び動脈硬化症から選択される少なくとも1つの疾患を挙げることができる。本発明の1つの態様では、疾患は、感染症又は動脈硬化症である。感染症及び癌の具体例は、前記と同様である。
【0103】
本発明の予防又は治療薬には、さらに、薬学的に許容できる担体を含めることができる。薬学的に許容できる担体には、例えば、医薬での使用に適する任意の担体(リポソーム、脂質小胞体、ミセル等)、希釈剤、賦形剤、湿潤剤、緩衝剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存料、界面活性剤、着色料、着香料、又は甘味料などが含まれる。
【0104】
本発明の予防又は治療薬は、注射剤、凍結乾燥剤、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、シロップ剤、坐剤、バップ剤、軟膏剤、クリーム剤、又は点眼剤などの剤型をとることができる。
【0105】
本発明の予防又は治療薬は、当業者に既知である任意の手段によって局所的又は全身に投与される。投与量は、患者の年齢、体重、健康状態、性別、症状、投与経路、投与回数、及び剤型などの要因に応じて変化し、具体的な投与手順は当業者により設定することができる。投与量は、成人に本発明の予防・治療薬を投与する場合には、体重1kgあたり、例えば、0.1μg〜1000mgを、一日あたり、1回〜数回(例えば、1〜5回)に分けて投与する。例えば、成人に本発明の予防・治療薬を注射剤として投与する場合には、体重1kgあたり、例えば10μg〜100mgの量を、一日あたり、1回〜数回(例えば、1〜5回)に分けて投与する。
【0106】
また、前記siRNA又はshRNAをリポソームなどのリン脂質小胞体に導入したものを用いても良い。この場合、例えば、前記siRNA又はshRNAを保持させたリン脂質小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内又は動脈内などに投与する。あるいは、脳などに局所投与することもできる。例えば、成人に本発明の予防・治療薬を細胞として投与する場合には、体重1kgあたり、例えば0.1μg〜1000mg、好ましくは1μg〜100mgの量を、一日あたり、1回〜数回(例えば、1〜5回)を投与する。
【0107】
また、前記siRNA又はshRNAを目的の組織又は器官に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えば、アデノエクスプレス:クローンテック社など)を用いることもできる。
【0108】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0109】
方法
1.Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの作製
BALB/cマウスのES細胞に対してBACクローンを用いたgene targetingを行って、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスを作製した。具体的手順は、次の通りである。
Fcα/μレセプター遺伝子を含む細菌人工染色体(BAC)に対して、Fcα/μレセプター遺伝子のエクソン1〜7をネオマイシン耐性遺伝子に置換し、ネオマイシン耐性遺伝子置換BACをBALB/cマウス由来ES 細胞へ遺伝子導入した。G418抵抗性ES細胞の中からネオマイシン耐性遺伝子置換BACがゲノムに組み込まれたES細胞を選択した。正常な核型を有したES 細胞クローンをBALB/sマウス3.5日杯盤胞へ注入して得られたキメラマウスからgene targetingされた対立遺伝子を有する産仔をスクリーニングして、さらに交配を重ねることによって、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスを作製した。Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスは予想されたメンデルの法則に従って産仔が得られた。
【0110】
2.腹腔内のB細胞分布の解析
生後8〜12週齢のマウスから回収した腹腔内細胞を各種表面抗原に対する抗体で染色し、Flowcytometry法を用いて、腹腔内のB細胞分布の解析行った。具体的手順は、次の通りである。
Fcα/μレセプター遺伝子欠損(-/-)マウス又は野生型(+/+)マウスの腹腔内を培養液で洗浄し、洗浄後の培養液から腹腔内細胞を回収した。得られた細胞を蛍光標識された抗B220抗体、抗CD11b抗体、および抗CD5抗体で染色し、その後、Flowcytmerty法を用いて解析を行った。そして、染色パターンから、細胞を、B1a B細胞 (CD11b+, B220dull, CD5+)、B1b B細胞 (CD11b+, B220dull, CD5-)、又はB2 B細胞 (CD5-, B220+)に分類し、各種細胞のリンパ球に占める割合(%)を検討した。その際、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスと野生型マウスのB1a B細胞の割合について、student’s unpaired t−test法により有意差の有無を求めた。
【0111】
3.血中自然抗体価の測定
生後8〜12週齢のマウスから採取した末梢血について抗原としてphosphorylcholine (PC)を、二次抗体に抗マウスIgM抗体を用いたELISA法により、血中自然抗体価の測定を行った。具体的手順は、次の通りである。
PC結合型ウシ血清アルブミン(BSA)および陰性コントロール抗原としてBSAをELISAプレートに付着させた。生後8〜12週齢のFcα/μレセプター遺伝子欠損(-/-)マウス又は野生型(+/+)マウスから採取した末梢血の血清を10倍稀釈した。10倍稀釈したマウス血清をプレートに接触させて、血清中のIgMをPCに結合させた。その後、プレートをよく洗浄し、HRP結合型抗マウスIgM抗体をプレートに接触させて、抗IgM抗体をIgMに付着させた。プレートを洗浄後、HRPの基質としてABTSをプレートに加えて発色させて405 nmにおける吸光度(OD)を測定した。Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスと野生型マウスの405 nmにおける吸光度(OD)について、student’s unpaired t−test法により有意差の有無を求めた。
【0112】
4.肺炎球菌感染実験
肺炎球菌株 (NU83127) をマウス一匹当たり105 cfu 経静脈的に感染させて生存率を観察した。具体的手順は、次の通りである。
肺炎球菌株 (NU83127)をBrain Heart Infusion (BHI)液体培地で振とう培養した後に、液体培地を1000gで3分間遠心して肺炎球菌を回収し、回収した肺炎球菌を生理食塩水で懸濁した。600nmにおける吸光度を指標に肺炎球菌の菌量を推定して、マウス一匹当たり105 cfuを経静脈的に感染させて、Fcα/μレセプター遺伝子欠損(-/-)マウス又は野生型(+/+)マウスの生存率を観察した。同時に血液寒天培地にも蒔いて生菌数を確認した。尚、実験開始時点でのマウスの生存数を基準(100%)として、各時点(0、12、24、36、48、60、72、84、96、108、及び120時間後の時点)でのマウスの生存率(%)を求めた。Fcα/μレセプター遺伝子欠損(-/-)マウスと野生型(+/+)マウスの生存率について、Kaplan-Meyer法により有意差の有無を求めた。
【0113】
5.SCIDマウスへの血清移入実験
さらに、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス又は野生型マウスから得られた血清500 μlを連日SCIDマウスへ移入した後に肺炎球菌株(NU83127)を感染させて生存率を観察した。具体的手順は、次の通りである(図4)。
先ず、Fcα/μレセプター遺伝子欠損(-/-)マウスおよび野生型(+/+)マウスから採血を行って血清分離した。CB17.SCIDマウス(日本クレア)に一匹当たり500 μlのそれぞれのマウス由来の血清を経静脈投与し、3時間後に1×105cfuの肺炎球菌株 (NU83127)を経静脈感染させた。翌日にもう一度血清の移入を行った後に生存率を検討した。実験開始時点でのマウスの生存数を基準(100%)として、各時点(0、12、24、36、48、60、72、84、96、108、及び120時間後の時点)でのマウスの生存率(%)を求めた。Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス由来血清移入SCIDマウスと野生型マウス由来血清移入SCIDマウスの生存率について、Kaplan-Meyer法により有意差の有無を求めた。
【0114】
結果
フローサイトメトリーによる腹腔内のB細胞分布の解析(方法2)の結果、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスでは、腹腔内B2 B細胞数及びB1b B細胞数は、野生型マウスと比較して変化しなかったものの、腹腔内のB1a B細胞数は、野生型マウスと比較して有意に増加することが分かった(図1)。
【0115】
また、ELISA法による血中自然抗体価の解析(方法3)の結果から、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの末梢血中では、PCに対するIgM自然抗体の量が増加することが分かった(図2)。
【0116】
また、肺炎球菌(105 cfu)経静脈感染実験(方法4)の結果、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの生存率は、野生型マウスと比較して有意に増加することが分かった(図3)。
【0117】
さらに、SCIDマウスへの血清移入実験(方法5)の結果から、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス由来血清を移入したSCIDマウスの肺炎球菌(105 cfu)経静脈感染後の生存率は、野生型マウス由来血清を移入したSCIDマウスの肺炎球菌(105 cfu)経静脈感染後の生存率と比較して、有意に亢進することが分かった(図5)。
【0118】
考察
自然抗体は腹腔に存在するB細胞の一種であるB1a B細胞から産生される。しかしながら、B1a B細胞数の変動及びB1a B細胞による抗体産生調節機構については、いまだ未知な点が多かった。
【0119】
本発明者らはFcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの腹腔内B1a B細胞数が、野生型マウスと比較して有意に多く、また、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの末梢血中IgM自然抗体の量も、野生型マウスと比較して有意に多いことを見出した。これまでに、Fcα/μレセプターのリガンドであるIgMを欠損した遺伝子改変マウスの腹腔内B1 B細胞数が、野生型マウスと比較して多いことが報告されている。今回の結果とこれまでの報告とを考慮すると、B1a B細胞上に発現するFcα/μレセプターとIgM自然抗体との会合が腹腔内B1a B細胞の生体内維持機構に関与していることが強く示唆された。このことは、生体内でのFcα/μレセプターとIgMとの会合を阻害又は遮断することで、生体内のB1a B細胞数の増加と、それに伴うIgM自然抗体の量の増加を人為的に操作できることを示している。
【0120】
以上のことから、Fcα/μレセプターの発現量、又はリガンドとFcα/μレセプターとの結合性を指標とすることで、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物をスクリーニングすることができることが分かった。
【0121】
上記肺炎球菌(105cfu)経静脈感染実験(方法4)及びSCIDマウスへの血清移入実験(方法5)で用いた肺炎球菌は、市中肺炎の起炎菌として最も多く見られる菌である。肺炎球菌の構成成分には、PCがある。方法4及び方法5で結果から、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスにおいて増加している抗PC IgM自然抗体は、肺炎球菌に対する感染抵抗性に寄与していることが明らかとなった。さらに、自然抗体はPC以外の様々な病原体構成成分に対しても交差反応性を示すことが知られている。よって、Fcα/μレセプターを介した自然抗体の増加は、肺炎球菌のみならず、種々の病原体感染に対する初期感染抵抗性の増強、及び癌の抑制などにつながることが示された。
【0122】
また、PCに対するIgM自然抗体は動脈硬化促進因子である酸化LDLに交差反応性を示し、酸化LDLの動脈効果促進効果を中和することも報告されている。よってFcα/μレセプターを介した自然抗体の増加は、動脈硬化症の抑制などにつながる。
【0123】
以上のことから、Fcα/μレセプターの発現量、又はFcα/μレセプターとリガンドの結合性を指標とすることで、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬をスクリーニングすることができる。また、Fcα/μレセプターの発現量を低下させるsiRNA又はshRNA、あるいはFcα/μレセプターとリガンドの結合性を低下させる抗体は、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬となる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】腹腔内B細胞分画のFACS解析の結果を示すグラフである。(+/+)野生型マウス、(-/-)Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス。
【図2】PCに対するIgM自然抗体の量を示すグラフである。(+/+)野生型マウス、(-/-)Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス。
【図3】肺炎球菌感染実験の結果を示すグラフである。(+/+マウス)野生型マウス、(-/-マウス)Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス。
【図4】SCIDマウスへの血清移入実験の概略を示す図である。
【図5】SCIDマウスへの血清移入実験の結果を示すグラフである。(+/+血清移入群)野生型マウス血清移入群、(-/-血清移入群)Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウス血清移入群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法であって、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
B1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法であって、Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させ、Fcα/μレセプターの発現量を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択する工程を含む、前記方法。
【請求項3】
B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬の選択は、(i)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させたときのFcα/μレセプターの発現量と、(ii)Fcα/μレセプターを発現する能力を有する細胞と候補物質とを接触させないときのFcα/μレセプターの発現量との比較により行われるものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬の選択は、(i)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させたときのFcα/μレセプターの発現量が、(ii)Fcα/μレセプターを発現する機能を有する細胞と候補物質とを接触させないときのFcα/μレセプターの発現量よりも低いときに、当該候補物質を、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として選択することにより行われるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物のスクリーニング方法であって、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物を選択する工程を含む、前記方法。
【請求項7】
B1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患の予防・治療薬のスクリーニング方法であって、候補物質の存在下で、Fcα/μレセプターとFcα/μレセプターに対するリガンドとを接触させて、リガンドとFcα/μレセプターとの結合性を測定し、前記測定結果からB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬を選択する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬の選択は、(i)候補物質の存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性と、(ii)候補物質の非存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性との比較により行われるものである、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量が低下することで引き起こされる疾患の予防・治療薬の選択は、(i)候補物質の存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性が、(ii)候補物質の非存在下でFcα/μレセプターとリガンドとを接触させたときのリガンドとFcα/μレセプターとの結合性よりも低いときに、当該候補物質を、B1a B細胞数及び/又はIgM量を変化させる化合物、又はB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬として選択することにより行われるものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
Fcα/μレセプターを認識する抗体を含む、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬。
【請求項12】
疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項11に記載の予防又は治療薬。
【請求項13】
Fcα/μレセプターをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAを含む、生体内のB1a B細胞数及び/又はIgM量の低下により引き起こされる疾患の予防又は治療薬。
【請求項14】
疾患が、感染症、癌及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項13に記載の予防又は治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−91497(P2010−91497A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263584(P2008−263584)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】