説明

Fe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法

【課題】Fe、Cr及びレジスト含有水の膜分離装置における膜モジュールの膜面に付着した酸化クロム、酸化鉄及びレジストを効率的に洗浄除去して、長期間にわたって膜性能を高く維持するための膜の洗浄方法を提供する。
【解決手段】Fe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法は、膜モジュールをNaOH溶液による第1の洗浄工程と、酸による第2の洗浄工程とを有する。前記第2の洗浄工程において途中で酸溶液を1回又は2回以上入れ替えて、新しい酸溶液で再び膜洗浄してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の製造工場や半導体工場等から排出されるFe、Cr及びレジスト含有水を処理する膜分離装置の膜モジュールの膜面に付着した酸化クロム、酸化鉄及びレジストを効率的に洗浄除去して、長期間にわたって膜性能を高く維持するための膜の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離処理は、各種排水処理や浄水処理等の分野において広く採用されている。ところで、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の製造工場や半導体工場等からの排水には、Fe及びCr等の金属成分の他に、樹脂等のレジスト成分が含まれており、膜面への酸化鉄や酸化クロムの析出や、さらにはレジスト成分の付着等によりファウリングが生じ、膜の透過性能が低下する。
【0003】
そこで、酸化クロム、酸化鉄等が付着した場合には、塩酸、硫酸等の酸で膜モジュールを洗浄する。しかしながら、レジスト成分は酸では容易に除去できないため、膜の透過性能を十分に回復できないという問題点があった。このため、従来は酸化剤である次亜塩素酸ソーダ溶液による洗浄を行い膜面に付着したレジストを酸化して除去した後、塩酸等による洗浄により、酸化鉄や酸化クロムを除去する、というサイクルを1回又は2回以上行っていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような次亜塩素酸ソーダ(酸化剤)と酸との併用により、膜性能を回復することが可能であるが、その後の本発明者の研究の結果、酸化剤である次亜塩素酸ソーダと鉄とが並存すると、鉄と塩素との触媒作用により膜素材が劣化しやすく、膜寿命が短くなることがわかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、Fe、Cr及びレジスト含有水の膜分離装置における膜モジュールの膜面に付着した酸化クロム、酸化鉄及びレジストを効率的に洗浄除去して、長期間にわたって膜性能を高く維持するための膜の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のFe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法は、NaOH溶液による第1の洗浄工程と、酸による第2の洗浄工程とを有することを特徴とする(請求項1)。
【0007】
鉄、クロムは水中で酸化されて酸化物を形成して膜面に析出し、またレジストは膜面に付着する。これらのうち、金属酸化物はアルカリには溶解しないが、NaOH溶液で処理した後、酸で処理することにより酸溶解が急激に進む。一方、レジスト成分は酸には溶解しないが、アルカリには溶解する。そこで、上記発明(請求項1)においては、まずNaOH溶液で膜モジュールを洗浄することでレジストを除去するとともにアルカリ領域とし、続いて酸で処理することで酸性領域に転じて処理することにより、鉄、クロムの酸化物を溶解除去する。これらの洗浄においては、酸化剤としての次亜塩素酸ソーダを使用しないので、鉄と塩素との触媒反応により、膜の劣化をきたすことがない。
【0008】
なお、本発明が適用される分離膜は特に制限されるものではなく、逆浸透膜やナノ濾過膜にも使用できるが、特に限外濾過膜(UF膜)、精密濾過膜(MF膜)に好適に用いることができる。また、膜の素材も特に限定されるものではないが、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系の膜に好適に使用できる。
【0009】
上記発明(請求項1)においては、前記NaOH溶液の濃度が、2質量%以上であることが好ましい(請求項2)。これにより、レジストを確実に除去することができる。
【0010】
上記発明(請求項1,2)においては、前記第2の洗浄工程において、途中で酸溶液を1回又は2回以上入れ替えて、新しい酸溶液で再び膜洗浄することが好ましい(請求項3)。このように、NaOH溶液による第1の洗浄工程後の第2の洗浄工程において、酸溶液を長時間保持すると溶解した金属イオンが滞留してくるため、洗浄効果が経時とともに低下してくるが、酸溶液を交換することで、溶解した金属イオンが新しい酸溶液中に拡散するようになり、膜内への金属イオンの浸透が防止され、洗浄効果が向上し、付着した鉄やクロムは十分に除去されることになる。
【0011】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記第1の洗浄工程及び第2の洗浄工程を2サイクル以上繰り返すことが好ましい(請求項4)。このように、膜面の汚れの度合いや洗浄による膜性能の回復に応じて、第1及び第2の洗浄工程を複数回繰り返すことで、Fe、Cr及びレジストを十分に除去することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のFe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法によれば、次亜塩素酸ソーダ等の酸化剤を使用することがないため、膜素材に悪影響を及ぼすことがなく、効率的に膜を洗浄することができ、長期間にわたって膜性能を高く維持することができる。また、酸化剤を使用していないので、クロムが過度に酸化されるおそれもないという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のFe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法の一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態に係る洗浄方法は、Fe、Cr及びレジストを含有する水、例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の製造工場、半導体工場等からの排水を膜分離処理する膜モジュールを、定期的に、又は膜の分離性能が所定値を下回った時点で、NaOH溶液にて洗浄し(第1の洗浄工程)、続いて酸にて洗浄する(第2の洗浄工程)。
【0014】
NaOH溶液による洗浄(第1の洗浄工程)において、洗浄に用いるNaOH溶液としては、2質量%以上の濃度のNaOH水溶液を用いることが好ましい。NaOH水溶液の濃度が2質量%未満では、膜面に付着したレジストを十分に除去できないおそれがある。特に、十分なレジストの除去効果を得るには3質量%以上の濃度のNaOH水溶液を用いるのが好ましい。
【0015】
第1の洗浄工程の洗浄時間は、0.1時間〜5時間が好ましく、特に0.5時間〜2時間が好ましい。洗浄時間が0.1時間未満では、十分なレジストの除去効果が得られないおそれがあり、洗浄時間が5時間を超えてもそれ以上の洗浄効果が得られないばかりか、洗浄工程が全体として長時間となり作業効率が低下するおそれがある。
【0016】
なお、第1の洗浄工程における洗浄方法は、NaOH溶液を膜モジュールの一次側に注入して保持する浸漬洗浄方式であってもよいし、膜モジュールの被処理水導入口又は濃縮水取出口から一次側にNaOH溶液を導入し、濃縮水取出口又は被処理水導入口から取り出して循環させる循環洗浄方式であってもよい。
【0017】
NaOH溶液による洗浄後、酸による洗浄を行う(第2の洗浄工程)。酸化鉄、酸化クロムは、アルカリに溶解せず酸に溶解するが、本実施形態のようにNaOH溶液で処理した後に酸で処理することにより、酸化鉄や酸化クロムの酸溶解が急激に進み、より効果的に酸化鉄や酸化クロムを溶解させることができる。
【0018】
この酸洗浄に用いる酸としては、塩酸、硫酸等の鉱酸を用いることができ、その濃度は0.5〜5質量%、好ましくは1〜3質量%、特に好ましくは2質量%程度である。
【0019】
また、酸による第2の洗浄工程の洗浄時間は0.1時間〜5時間程度、特に0.5時間〜2時間とすればよい。洗浄時間が0.1時間未満では、十分な鉄及びクロムの除去効果が得られないおそれがあり、洗浄時間が5時間を超えてもそれ以上の洗浄効果が得られないばかりか、洗浄工程が全体として長時間となり作業効率が低下するおそれがある。
【0020】
この第2の洗浄工程では、途中で酸溶液を1回又は2回以上入れ替えて、新しい酸溶液で再び膜洗浄するのが好ましい。酸溶液を交換することで、溶解した金属イオンが新しい酸溶液中に拡散するようになり、膜内への金属イオンの浸透を防止し、洗浄効果が向上する。
【0021】
この酸溶液の交換は、第2の洗浄工程の洗浄時間を均等に配分するように行えばよく、例えば、第2の洗浄工程の全体の洗浄時間が1時間であって、酸溶液を1回交換する場合には、第2の洗浄工程における洗浄開始から30分経過後に1回交換すればよい。なお、酸溶液の交換回数は2回以上としてもよいが、あまり交換頻度を多くしてもそれに見合う洗浄効果の向上が得られないばかりかコストの増加を招くので、1回の酸溶液で30分程度は洗浄するのが望ましい。
【0022】
この酸溶液による洗浄方法も、上述した第1の洗浄工程における浸漬洗浄方式、循環洗浄方式のいずれであってもよい。酸洗浄後は、必要に応じて処理水、原水、水道水、工水等による仕上げ洗浄を行ってから運転を再開する。
【0023】
上述したような本実施形態の洗浄パターンは、図1に示す通りである。なお、図1中において、「NaOH洗浄」は、NaOH水溶液による洗浄を意味し、「酸交換」は、酸溶液を新しいものに交換することを意味する。基本的には、図1(1)に示すようにNaOH洗浄後、酸洗浄を行えばよいが、(2)に示すように酸洗浄の途中で酸溶液を新しいものに交換して、酸洗浄を続けて複数回(2回)行うのが好ましい。特に、膜面の汚れがひどく、透過水量の回復が低いときには、(3)に示すように上記(2)のサイクルを2回、又は3回以上繰り返すことができる。
【0024】
上記実施形態においては、酸又はアルカリによる洗浄工程の途中において、洗浄を一時中断して市水等を通水し、透過水量と膜透過差圧とを測定し、膜性能の回復具合をチェックしたり、併せて酸洗浄液の交換の要否や交換時期を判断したりしてもよい。
【実施例】
【0025】
〔実施例1〕
鉄、クロム及びレジストを含む排水中からこれらを除去する目的で、膜モジュールとして日東電工社製のMF膜を用いた膜分離装置で膜分離処理を行っている系において、膜のファウリングにより膜(新膜での透過水量:7m/hr at 0.1MPa)の透過水量が1.8m/hrとなったときに、まず、3質量%NaOH水溶液により1時間洗浄し(第1の洗浄工程)、続いて2.5質量%HCl溶液により、30分ごとにHCl溶液を交換して1時間洗浄した(第2の洗浄工程)。これら第1の洗浄工程及び第2の洗浄工程を2回繰り返したところ、透過水量は大幅に回復した。
【0026】
〔比較例1〕
鉄、クロム及びレジストを含む排水中からこれらを除去する目的で、膜モジュールとして日東電工社製のMF膜を用いた膜分離装置で膜分離処理を行っている系において、膜のファウリングにより膜(新膜での透過水量:7m/hr at0.1MPa)の透過水量が2.8m/hrとなったときに、まず、0.5質量%NaClO水溶液により50分洗浄を行い、続いて2.5質量%HCl溶液により50分洗浄を行った。その後さらに、0.5質量%NaClO水溶液により50分洗浄し、HCl溶液により50分ごとにHCl溶液を交換して100分洗浄したところ、透過水量は大幅に回復した。
【0027】
これらの実施例1及び比較例1の洗浄方法における、洗浄時間と膜の透過水量との関係は図2に示す通りであり、本発明の方法によれば、次亜塩素酸を用いることなく、従来の方法(次亜塩素酸を用いた洗浄方法)と同程度以上の洗浄効果が得られることが確認された。
【0028】
また、上述した実施例1及び比較例1の膜モジュールの洗浄を180回行ったところ、実施例1の洗浄方法では、膜モジュール自体に異常は見られずに透過水量は回復したが、比較例1の洗浄方法では、膜モジュールのスキン層(PTFE製)と支持層(PP製)とを接着するバインダー(不織布層,PP+PE製)が劣化し、スキン層と支持層とが分離していた。このことから、本発明の方法によれば、膜の劣化が少ないことが確認された。これは、膜モジュールの洗浄に次亜塩素酸ソーダを使用していないためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の膜モジュールの洗浄方法を示す工程図である。
【図2】実施例1及び比較例1の膜モジュールの洗浄方法による膜洗浄の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaOH溶液による第1の洗浄工程と、
酸による第2の洗浄工程と
を有することを特徴とするFe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法。
【請求項2】
前記NaOH溶液の濃度が、2質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のFe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法。
【請求項3】
前記第2の洗浄工程において、途中で酸溶液を1回又は2回以上入れ替えて、新しい酸溶液で再び膜洗浄することを特徴とする請求項1又は2に記載のFe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法。
【請求項4】
前記第1の洗浄工程及び第2の洗浄工程を2サイクル以上繰り返すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のFe、Cr及びレジスト含有水の膜分離処理用の膜モジュールの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−196158(P2007−196158A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19121(P2006−19121)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】