説明

GaAs単結晶の製造方法、及びGaAs単結晶

【課題】多結晶の発生を抑制することのできるGaAs単結晶の製造方法及びGaAs単結晶を提供する。
【解決手段】窒素を含む雰囲気ガスで充填される反応容器2内に設置され、GaAsの原料9を収容しているルツボ5を加熱し、原料を融解させて原料融液にする原料融解工程と、GaAsの種結晶4を原料融液に接触させ、種結晶4の先端からGaAs単結晶8を成長させると共に、GaAs単結晶8の表面に窒化物薄膜を形成する単結晶成長工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaAs単結晶の製造方法、及びGaAs単結晶に関する。特に、本発明は、LEC法により半絶縁性のGaAs単結晶を製造するGaAs単結晶の製造方法、及びGaAs単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器内に原料融液を収納し、その原料融液に種結晶を接触させ、容器あるいは種結晶を移動し、種結晶に化合物半導体の単結晶を成長させる製造方法において、少なくとも結晶成長初期に固液界面が原料融液側に凸化するように、種結晶の頭部を強制冷却する化合物半導体の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−222481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の化合物半導体の製造方法においては、例えば、化合物半導体単結晶としてGaAs単結晶を製造する場合、成長途中の単結晶表面が1300℃に近い温度に晒され続けるので、V族元素であるAsが単結晶から脱離する場合がある。単結晶表面からAsが脱離すると、単結晶表面にはIII族元素のGaが残され、残されたGaが凝集する場合がある。Gaが凝集すると、凝集したGaは、自重により単結晶表面を下方に伝い始める。そして、凝集したGaが単結晶と原料融液との固液界面に到達すると、凝集したGaが到達した固液界面の結晶成長の面方位が乱され、多結晶が生じる場合がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、多結晶の発生を抑制することのできるGaAs単結晶の製造方法、及びGaAs単結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、窒素を含む雰囲気ガスで充填される反応容器内に設置され、GaAsの原料を収容しているルツボを加熱し、原料を融解させて原料融液にする原料融解工程と、GaAsの種結晶を原料融液に接触させ、種結晶の先端からGaAs単結晶を成長させると共に、GaAs単結晶の表面に窒化物薄膜を形成する単結晶成長工程とを備えるGaAs単結晶の製造方法が提供される。
【0007】
また、上記GaAs単結晶の製造方法において、雰囲気ガスの窒素濃度が95%以上であってもよい。
【0008】
また、上記GaAs単結晶の製造方法において、反応容器内の雰囲気ガスの圧力が、7kgf/cm以上9kgf/cm以下であってもよい。
【0009】
また、上記GaAs単結晶の製造方法において、雰囲気ガスが、窒素と一酸化炭素の混合ガス、窒素と二酸化炭素の混合ガス、又は窒素と一酸化炭素と二酸化炭素との混合ガスであってもよい。
【0010】
また、上記GaAs単結晶の製造方法において、窒化物薄膜が、GaNAs薄膜又はGaN薄膜であり、GaNAs薄膜が、単結晶成長工程中にAsが脱離することによりGaN薄膜になってもよい。
【0011】
また、上記GaAs単結晶の製造方法において、窒化物薄膜が、2nm以上30nm以下の厚さを有して形成されてもよい。
【0012】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、表面にGaNAs又はGaNからなる窒化物薄膜が形成され、窒化物薄膜の厚さが2nm以上30nm以下の厚さで形成されるGaAs単結晶が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るGaAs単結晶の製造方法、及びGaAs単結晶によれば、多結晶の発生を抑制することのできるGaAs単結晶の製造方法、及びGaAs単結晶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】GaAs単結晶の製造に用いる成長炉の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係るGaAs単結晶の製造に用いる成長炉の概要を示す。
【0016】
本実施の形態に係る化合物半導体単結晶としてのGaAs単結晶の製造方法は、例えば、Liquid Encapsulated Czochralski(LEC)法を用いて半絶縁性のGaAs単結晶を製造する方法である。GaAs単結晶の製造には、単結晶を成長する成長炉1を用いる。
【0017】
(成長炉1の概要)
具体的には、図1に示すように、不活性ガス等の雰囲気ガス100が充填される反応容器としての高圧容器2を備える成長炉1内でGaAs単結晶が製造される。成長炉1は、成長炉1の上方から成長炉1内に挿入され、GaAs単結晶8を引き上げる引き上げ軸(上軸)3と、引き上げ軸3の先端に取り付けられるGaAsの種結晶(シード結晶)4と、成長炉1内であって、引き上げ軸3に対峙する位置に設置されるルツボ5とを備える。ここで、ルツボ5は、サセプタ6を介して回転及び昇降自在なペデスタル(下軸)7上に支持される。そして、ルツボ5には、GaAs単結晶8の原料9が収容される。原料9としては、例えば、III族元素を含む原料、V族元素を含む原料が挙げられる。また、ルツボ5には、例えば、B等の液体封止材10が更に収容される。
【0018】
また、ペデスタル7は、成長炉1の下方から引き上げ軸3の同心軸に沿って、成長炉1内に挿入される。そして、サセプタ6はペデスタル7の上端に固定される。ペデスタル7及び引き上げ軸3はそれぞれ、回転装置(図示しない)により回転自在に設けられ、昇降装置(図示しない)により昇降自在に設けられる。また、成長炉1は、原料9及び液体封止材10を融解する上部ヒーター11及び下部ヒーター12と、上部ヒーター11及び下部ヒーター12の温度を制御する温度コントローラー(図示しない)と、ルツボ5内の原料9及び液体封止材10の温度を検出する熱電対13とを更に備える。
【0019】
上部ヒーター11及び下部ヒーター12は、ルツボ5を外部から加熱し、結晶の外形を制御する。下部ヒーター12は、主として固液界面の形状を制御する。また、上部ヒーター11及び下部ヒーター12は、サセプタ6の円周方向に沿ってサセプタ6を包囲する成長炉1内の位置であって、サセプタ6と同心の位置に設置される。また、熱電対13は、ペデスタル7の内部であって、中心軸の上部(つまり、サセプタ6側)に設置される。
【0020】
(GaAs単結晶の製造方法)
化合物半導体単結晶としてのGaAs単結晶の製造は、以下のようにして実施される。まず、ルツボ5にGaAs単結晶の原料として、III族元素であるGaを含む原料とV族元素であるAsを含む原料とを収容する。例えば、GaAsの多結晶を原料として用いる。また、ルツボ5に液体封止材10を更に収容する。そして、このルツボ5を成長炉1内のペデスタル7上に設置する。次に、成長炉1内を予め設定された圧力の予め定められた雰囲気ガスで充填する。具体的に、ルツボ5にIII族元素を含む原料とV族元素を含む原料とを収容した場合、雰囲気ガスの圧力は、原料9からV族元素を含む原料の乖離が防止される圧力に設定する。
【0021】
より具体的に本実施の形態では、窒素を含む雰囲気ガスで高圧容器2内を充填する。例えば、窒素濃度が95%以上の雰囲気ガスを高圧容器2内に充填する。ここで、少なくとも以下に述べる単結晶成長工程中において、95%以上の窒素濃度を保持する。また、高圧容器2内の雰囲気ガスの圧力を、7kgf/cm以上9kgf/cm以下に制御する。そして、雰囲気ガスとしては、窒素と一酸化炭素の混合ガス、窒素と二酸化炭素の混合ガス、又は窒素と一酸化炭素と二酸化炭素との混合ガスを用いることができる。ここで、各混合ガスにおいて、一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度は、0.5%以上、好ましくは1%以上であり、5%を超えない範囲で制御される。
【0022】
次に、温度コントローラーを制御して、上部ヒーター11及び下部ヒーター12によりルツボ5を加熱する。上部ヒーター11及び下部ヒーター12の加熱によりルツボ5の温度が液体封止材10の溶融温度に達すると液体封止材10が溶融する。また、ルツボ5の温度が原料9の融解温度に達すると原料9が融解して原料融液になる(原料融解工程)。この場合に、液体封止材10の比重より原料9の融液の比重が大きいので、液体封止材10により原料融液の表面が覆われる。これにより、原料9の融液からのV族元素の乖離が抑制される。
【0023】
なお、成長炉1内の雰囲気ガス中には、一酸化炭素及び/又は二酸化炭素等の炭素含有ガスが含まれている。炭素含有ガスを雰囲気ガス中に含ませることにより、半絶縁性のGaAs単結晶を製造することに要する炭素のGaAs単結晶内への取り込みが実現される。
【0024】
続いて、単結晶成長時においては、引き上げ軸3の先端に固定されたGaAsの種結晶4(例えば、約50mmの長さを有する種結晶4)を原料9の融液である原料融液に接触させる。そして、種結晶4を原料融液に接触させた状態で、温度コントローラーをフィードバック制御させ、上部ヒーター11及び下部ヒーター12の温度を徐々に低下させつつ種結晶4をゆっくりと引き上げる(つまり、ルツボ5から離れる方向に予め定められた引き上げ速度で種結晶4を引き上げる)。
【0025】
具体的には、まず、種結晶4の先端の温度を原料融液の温度に一致させることを目的として、予め定められた時間、種結晶4の先端と原料融液とが接触した状態を保持する。その後、温度コントローラーにより上部ヒーター11及び下部ヒーター12の温度を適切な過冷度を保たせるように制御する。そして、上部ヒーター11及び下部ヒーター12の温度を制御しつつ、引き上げ軸3をゆっくりと引き上げる。なお、引き上げ速度は、例えば、8mm/h以上12mm/h以下の範囲に制御する。また、引き上げ軸3を引き上げる場合に、引き上げ軸3を時計回りに回転させ、ペデスタル7を(すなわち、ルツボ5を)反時計回りに回転させる。
【0026】
これにより、種結晶4の先端からGaAs単結晶の肩部が成長する。そして、当該肩部の径が予め定められた径に到達した後、胴部を成長させることを目的として、ヒータ温度、及び引き上げ速度をそれぞれ予め定められた温度及び速度に制御して種結晶4を引き上げる。なお、一例として、インゴットの直径が約160mmまで増径成長した時点を、肩部が成長した時点として判断することができる。また、胴部を成長させることを目的とする結晶成長を、以下、「直胴部形成モード」という。
【0027】
直胴部形成モードでは、成長したGaAs単結晶の質量を引き上げ軸3に設置したロードセルで計測することができる。そして、ロードセルで計測した単位時間当たりの質量増加分と引き上げ速度とから算出されるGaAs単結晶のインゴットの外径が予め定め設定した値になるように、原料9の温度(すなわち、成長温度)を制御する。また、結晶成長量の増加に伴い、原料9の融液の量が減少するので、当該融液の液面の位置が初期の位置から低下する。そこで、当該融液の液面の位置の低下を補正すべく、ロードセルで計測した成長結晶の質量から原料の融液の液面低下量を算出し、ペデスタル7の位置(すなわち、ルツボ5の位置)を上昇させることにより、上部ヒーター11及び下部ヒーター12に対する当該液面の位置を予め定められた位置に制御する。
【0028】
続いて、成長したGaAs単結晶が予め定められた質量に到達するまで引き上げを継続する。そして、成長したGaAs単結晶が予め定められた質量に到達した後、上部ヒーター11及び下部ヒーター12の温度を上昇させ、GaAs単結晶に結晶尾部を形成する。その後、インゴット(つまり、GaAs単結晶)を原料9の融液から切り離す。次に、切り離したインゴットを成長炉1内で室温まで徐冷する。これにより、種結晶4の先端からGaAs単結晶が成長し、成長した単結晶8が液体封止材10を貫いて引き上げられる(単結晶成長工程)。
【0029】
ここで、本実施の形態においては、成長炉1内、つまり高圧容器2は窒素を含む雰囲気ガスで充填されている。したがって、原料融液から引き上げられるGaAs単結晶の表面は、窒素を含む雰囲気ガスに晒される。これにより、GaAs単結晶の表面が窒化され、窒化物からなる薄膜(窒化物薄膜)がGaAs単結晶の表面に形成されつつGaAs単結晶の成長が継続する。窒化物薄膜は、例えば、GaNAs薄膜又はGaN薄膜である。すなわち、窒化物薄膜は、GaNAs1−x(ただし、0<x≦1)で表される化合物半導体から主として構成される。また、窒化物薄膜がGaNAs薄膜から構成される場合、単結晶成長工程中の高圧容器2内の温度によりGaNAs薄膜からAsが脱離すると、GaNAs薄膜はGaN薄膜に変わる。なお、窒化物薄膜は、2nm以上の厚さを有する。
【0030】
なお、単結晶の成長の進行に伴ってルツボ5内の原料融液が減少すると、上部ヒーター11及び下部ヒーター12に対する原料融液の液面位置が、結晶成長の開始時における液面位置から下がることになる。すると、上部ヒーター11及び下部ヒーター12と単結晶が成長する固液界面(つまり、GaAs単結晶8と原料融液との接触面)との位置関係が変化する。本実施の形態では、原料融液を効率よく加熱することを目的として、原料融液の上部ヒーター11及び下部ヒーター12の発熱帯に対する位置を制御することができる。
【0031】
例えば、成長炉1は、単結晶の成長量を測定する成長量測定部と、成長量測定部の測定結果から原料融液の液面の低下量を算出する低下量算出部と、低下量算出部が算出した低下量に基づいてペデスタル7を昇降させる昇降装置の昇降動作を制御する昇降制御部とを更に備えることができる。成長量測定部は、例えば、引き上げ軸3の引き上げ量に応じ、単結晶の成長量を測定できる。
【0032】
低下量算出部が単結晶の成長量から原料融液の液面の低下量を算出し、昇降制御部が低下量算出部において算出された低下量を補正すべく昇降装置の昇降動作を制御する。これにより昇降装置は昇降制御部に制御され、ペデスタル7を上部ヒーター11及び下部ヒーター12に対して徐々に上昇させ、ルツボ5の上部ヒーター11及び下部ヒーター12に対する位置を調整する。すなわち、昇降制御部は、上部ヒーター11及び下部ヒーター12の発熱帯に対し、原料融液の液面を常に略一定の位置に位置させる制御を実行する。
【0033】
(窒素濃度及び雰囲気ガスの圧力の詳細)
ここで、単結晶成長工程中において、雰囲気ガスの窒素濃度を95%以上にする理由、及び高圧容器2内の雰囲気ガスの圧力を7kgf/cm以上9kgf/cm以下に制御する理由を説明する。
【0034】
まず、窒素濃度について説明する。単結晶製造中の成長炉1内の雰囲気ガスの窒素濃度は、成長したGaAs単結晶表面での窒化効率を良くし、GaAs単結晶の表面に窒化物薄膜を適切に形成することによりGaAs単結晶からのAsの脱離によるGaの凝集を抑制し、凝集したGaが固液界面に到達することに起因する成長結晶の多結晶化を抑制すべく、95%以上に制御する。
【0035】
次に、雰囲気ガスの圧力について説明する。まず、成長したGaAs単結晶の表面において窒化反応を起こさせることにより当該表面に窒化物薄膜を形成し、Asの脱離によるGaの凝集を抑制し、凝集したGaが固液界面に到達することに起因する成長結晶の多結晶化を抑制すべく、雰囲気ガスの圧力は7kgf/cm以上に制御する。また、雰囲気ガス中に含まれる窒素と炭素を含むガスとの窒化反応が優位に発生し、GaAsを半絶縁性化することに要する炭素のGaAs単結晶への取り込みが阻害されることを抑制すべく、雰囲気ガスの圧力は9kgf/cm以下に制御する。
【0036】
すなわち、雰囲気ガス中の窒素濃度が95%未満である場合、又は雰囲気ガスの圧力が7kgf/cm未満である場合、成長したGaAs単結晶の表面での窒化反応が起きにくい。そして、雰囲気ガスの圧力が9kgf/cmを超える場合、GaAs単結晶への炭素の取り込みが阻害される易い。したがって、半絶縁性のGaAs単結晶を製造する観点においては、雰囲気ガス中の窒素濃度を95%以上に制御し、また、雰囲気ガスの圧力を7kgf/cm以上9kgf/cm以下に制御することが好ましい。なお、雰囲気ガス中の窒素濃度は、成長炉1内に流入する窒素ガスのガス流量から算出することができる。したがって、雰囲気ガス中の窒素濃度は、成長炉1内に流入させる窒素ガスのガス流量で制御できる。
【0037】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係るGaAs単結晶の製造方法においては、少なくとも単結晶成長工程中に、高圧容器2内の雰囲気ガスの窒素濃度を95%以上に保ち、雰囲気ガスの圧力を予め定められた圧力範囲内に保つので、成長したGaAs単結晶の表面が窒化される。これにより、成長したGaAs単結晶の表面が窒化物薄膜で覆われるので、GaAs単結晶からのAsの脱離が抑制される。また、GaAs単結晶の表面を覆う窒化物薄膜は、例えば、GaNAsから形成されているので、この窒化物薄膜からAsが脱離した場合であっても、GaAs単結晶の表面はGaN薄膜で覆われたままになる。したがって、本実施の形態に係るGaAs単結晶の製造方法によれば、成長したGaAs単結晶の表面にGaが凝集することを抑制できるので、凝集したGaが固液界面に到達することによる成長結晶の多結晶化を抑制することができる。なお、GaAs単結晶の表面、又はGaAsウェハの縁に窒化物薄膜若しくは窒化物が存在している場合、本実施の形態に係るGaAs単結晶の製造方法を用いたことを特定乃至推測できる。
【実施例1】
【0038】
実施例1においては、以下のようにしてGaAs単結晶を成長した。まず、6NのGaと6NのAsとを用い、多結晶のGaAs(以下、「GaAs多結晶」という)を製造した。次に、Pyrolytic Boron Nitride(PBN)製のルツボ5に、GaAs多結晶40,000gと液体封止材10としての三酸化ホウ素2,500gを収容した。そして、このルツボ5を高圧容器2に収容した。次に、高圧容器内2の雰囲気ガス100の圧力を8.0kgf/cmに制御すると共に、雰囲気ガス100を窒素と二酸化炭素との混合ガスにした。ここで、雰囲気ガス100の窒素濃度は97%に制御した。
【0039】
続いて、上部ヒーター11及び下部ヒーター12によりルツボ5を加熱することで三酸化ホウ素及びGaAs多結晶を融解した。これにより、ルツボ5内は原料融液で満たされると共に、原料融液の表面には溶解した三酸化ホウ素の層が生じた。そして、ルツボ5の温度を調整しつつ種結晶4を原料融液に接触させ、予め定められた引き上げ速度で種結晶4を引き上げることで結晶径がφ150mmのGaAs単結晶を成長させた。最終的に、結晶全長が300mmのGaAs単結晶を成長させた。
【0040】
ここで、単結晶の成長における温度プロファイルは、一例として、以下のとおりである。なお、温度は、ルツボ5の下に設置した熱電対13により測定した。まず、ルツボ5の温度を室温から1400℃程度まで昇温することにより三酸化ホウ素及びGaAs多結晶を融解させた。次に、種結晶4を原料融液に接触させて単結晶を成長させる温度を1200℃以上1250℃以下程度の温度範囲に制御した。結晶全長が300mmのGaAs単結晶が成長した後、GaAs単結晶を室温まで徐冷した。
【0041】
以上の条件で20本のGaAs単結晶を作成した。そして、各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は0本であった(発生率:0%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、全てのウェハにおいて比抵抗が1.0×10Ω・cm以上であり、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本であることが分かった(発生率:0%)。
【実施例2】
【0042】
実施例2においては、実施例1とは、窒素濃度を95%に制御した点を除き実施例1と同様にしてGaAs単結晶を成長した。
【0043】
そして、実施例2においても20本のGaAs単結晶を作成した。各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は0本であった(発生率:0%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本であることが分かった(発生率:0%)。
【実施例3】
【0044】
実施例3においては、実施例1とは、窒素濃度を99%に制御した点を除き実施例1と同様にしてGaAs単結晶を成長した。
【0045】
そして、実施例3においても20本のGaAs単結晶を作成した。各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は0本であった(発生率:0%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本であることが分かった(発生率:0%)。
【実施例4】
【0046】
実施例4においては、実施例1とは、高圧容器2内の圧力を7.0kgf/cmに制御した点を除き実施例1と同様にしてGaAs単結晶を成長した。
【0047】
そして、実施例4においても20本のGaAs単結晶を作成した。各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は0本であった(発生率:0%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本であることが分かった(発生率:0%)。
【実施例5】
【0048】
実施例5においては、実施例1とは、高圧容器2内の圧力を9.0kgf/cmに制御した点を除き実施例1と同様にしてGaAs単結晶を成長した。
【0049】
そして、実施例5においても20本のGaAs単結晶を作成した。各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は0本であった(発生率:0%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本であることが分かった(発生率:0%)。
【0050】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1とは、窒素濃度を93%に制御した点を除き実施例1と同様にしてGaAs単結晶を成長した。
【0051】
そして、比較例1においても20本のGaAs単結晶を作成した。各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は5本であった(発生率:25%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本であることが分かった(発生率:0%)。
【0052】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1とは、高圧容器2内の圧力を6.0kgf/cmに制御した点を除き実施例1と同様にしてGaAs単結晶を成長した。
【0053】
そして、比較例2においても20本のGaAs単結晶を作成した。各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は8本であった(発生率:40%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本であることが分かった(発生率:0%)。
【0054】
(比較例3)
比較例3においては、実施例1とは、高圧容器2内の圧力を10.0kgf/cmに制御した点を除き実施例1と同様にしてGaAs単結晶を成長した。
【0055】
そして、比較例3においても20本のGaAs単結晶を作成した。各GaAs単結晶の外観を目視にて確認した結果、Gaの凝集の発生は0本であった(発生率:0%)。また、結晶頭部、結晶全長の中間部、尾部からそれぞれ3枚のGaAsウェハを切り出し、電気的特性を評価した。その結果、単結晶の尾部で比抵抗が1.0×10Ω・cm未満の所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハがあり、規格を外れたGaAs単結晶が4本であることが分かった(発生率:20%)。
【0056】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1を参照すると明らかなように、GaAs単結晶の製造中における高圧容器2内の雰囲気ガスの窒素濃度を95%以上に制御し、また、雰囲気ガスの圧力を7kgf/cm以上9kgf/cm以下に制御することが好ましいことが示された。
【0059】
また、実施例1〜5及び比較例1〜3とは異なる圧力条件及び濃度条件で上記と同様の実験を実施した。具体的には、圧力を6.0〜10.0kgf/cmの範囲内で変更すると共に窒素濃度を93%〜100%の範囲で変更し、実施例と同様の実験を実施した。その結果、圧力が7.0kgf/cm以上9.0kgf/cm以下の範囲内であり、かつ窒素濃度が95%以上99%以下の範囲内においては、実施例1〜5と同様に、所期の半絶縁特性の範囲を外れたウェハはなく、規格を外れたGaAs単結晶が0本になることが分かった(発生率:0%)。
【0060】
一方、圧力を6.0kgf/cmに制御すると共に、窒素濃度を93%〜99%に制御した場合、及び圧力を7.0〜9.0kgf/cmの範囲内に制御すると共に、窒素濃度を93%に制御した場合、GaAs単結晶にGaの凝集が発生した。
【0061】
また、圧力を10.0kgf/cmに制御すると共に、窒素濃度を93%に制御した場合、及び圧力を6.0kgf/cmに制御すると共に、窒素濃度を100%に制御した場合、GaAs単結晶にGaの凝集が発生すると共に、電気特性も不良であった。
【0062】
更に、圧力を10.0kgf/cmに制御すると共に、窒素濃度を95%〜100%に制御した場合、及び圧力を7.0kgf/cm〜9.0kgf/cmに制御すると共に、窒素濃度を100%に制御した場合、GaAs単結晶の電気特性が不良であった。
【0063】
以上の実験結果を整理すると、表2のようになる。なお、表2においては、GaAs単結晶にGa凝集の発生がなく、電気特性が良好であるGaAs単結晶について「OK」と記し、Gaの凝集の発生、及び/又は電気特性が不良であるGaAs単結晶について「NG」と記した。また、良品のGaAs単結晶の表面に形成された窒化物薄膜は、2nm〜30nmの範囲の厚さを有していた。
【0064】
【表2】

【0065】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0066】
1 成長炉
2 高圧容器
3 引き上げ軸
4 種結晶
5 ルツボ
6 サセプタ
7 ペデスタル
8 GaAs単結晶
9 原料
10 液体封止材
11 上部ヒーター
12 下部ヒーター
13 熱電対
100 雰囲気ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を含む雰囲気ガスで充填される反応容器内に設置され、GaAsの原料を収容しているルツボを加熱し、前記原料を融解させて原料融液にする原料融解工程と、
GaAsの種結晶を前記原料融液に接触させ、前記種結晶の先端からGaAs単結晶を成長させると共に、前記GaAs単結晶の表面に窒化物薄膜を形成する単結晶成長工程と
を備えるGaAs単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記雰囲気ガスの窒素濃度が95%以上である請求項1に記載のGaAs単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記反応容器内の前記雰囲気ガスの圧力が、7kgf/cm以上9kgf/cm以下である請求項2に記載のGaAs単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記雰囲気ガスが、前記窒素と一酸化炭素の混合ガス、前記窒素と二酸化炭素の混合ガス、又は前記窒素と一酸化炭素と二酸化炭素との混合ガスである請求項3に記載のGaAs単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物薄膜が、GaNAs薄膜又はGaN薄膜であり、
前記GaNAs薄膜が、前記単結晶成長工程中にAsが脱離することによりGaN薄膜になる請求項4に記載のGaAs単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物薄膜が、2nm以上30nm以下の厚さを有して形成される請求項1〜5のいずれか1項に記載のGaAs単結晶の製造方法。
【請求項7】
表面にGaNAs又はGaNからなる窒化物薄膜が形成され、前記窒化物薄膜の厚さが2nm以上30nm以下の厚さで形成されるGaAs単結晶。

【図1】
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【公開番号】特開2012−101954(P2012−101954A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249595(P2010−249595)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】