HCMVタンパク質IE2に由来する炎症性サイトカイン転写阻害薬
本発明は、新規な炎症阻害薬、およびこれらの阻害薬を使用することによって炎症を治療する方法を提供する。より具体的には、本発明は、転写阻害薬、すなわち、インターロイキン1β(IFN−1β)などの炎症性サイトカインの産生を阻害できる、サイトメガロウイルス(CMV)IE2タンパク質の内部領域に由来するペプチドフラグメント、ならびにそのIE2フラグメントの使用による、炎症性疾患およびCMV感染および関連疾病を治療する方法を提供する。その転写阻害薬を含む医薬組成物も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的に、新規な炎症阻害薬、およびこれらの阻害薬を使用し炎症を治療する方法に関する。より具体的には、本発明は、サイトメガロウイルス(CMV)IE2タンパク質に由来するペプチドフラグメント、これらのペプチドをコードするDNA、ペプチド模倣体、および炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL−1β)および他の炎症性サイトカインの産生を阻害できる小型分子、ならびにそのペプチドフラグメントの投与によって炎症性疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、一連の組織学的事象によって特徴付けられ、そして身体損傷および感染性損傷を含む組織損傷の様々な形態が介在する複雑な過程である。対象の身体防御および修復機序は、IL−1βの機能に依存する。炎症という事象は治癒には重要であるが、長期にわたる、または制御されない炎症は、病気を引き起こす組織損傷および症状をもたらしうる。例えば、入院患者で病的状態および死亡の主要原因である敗血症性ショックは、部分的に、IL−1βが血管平滑筋および心筋機能に作用することによって生じる。リューマチ性関節炎は、壊滅的な慢性炎症性疾患であり、その病変が主として関節に限定されることによって特徴付けられる。リューマチ性関節炎は、関節の慢性全身性疾患であり、滑膜組織および関節構造体における炎症性変化、ならびに骨萎縮および骨粗鬆を特色とする。軟骨びらんおよび骨びらんは、IL−1βが介在する(Dinarello, C. A. (2002) Clin Exp Rheumatol 20(5 Suppl 27): S1-13; van’t Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Nad Acad Sci USA 97(14): 7993-8)。アテローム性動脈硬化症および虚血性再灌流障害を含む他の状態もまた、IL−1βの作用に依存するものである(Kato, A., C. Gabayら,(2002) Am J Pathol 161(5): 1797-803; Burne, M. J., A. Elghandourら,(2001) J Leukoc Biol 70(2): 192-8.; Haq, M., J. Normanら,(1998). J Am Soc Nephrol 9(4): 614-9); van’t Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Natl Acad Sci USA 97(14): 7993-8)。
【0003】
IL−1βは、(損傷を受けた上皮細胞および内皮細胞からも少量放出されるが)主として単球によって産生されるタンパク質であり、この単球は、損傷に続いて身体に早期警戒シグナルを発する白血球である。Toll様受容体など、単球上の様々な受容体は、刺激に続いてIL−1β産生を誘導するシグナルを核に送る。次いで、IL−1βは、周囲の環境に放出され、局所標的および遠隔標的に働きかけて身体防御の警戒態勢を取らせる。よく認識されているこのストレスシグナルの結果が発熱である。敗血症性ショック、ならびにリューマチ性関節炎およびループスを含む自己免疫疾患など、ある種の状況では、IL−1βは、関節、骨、および他の組織に重篤な損傷を引き起こす炎症の一因となる。リューマチ性関節炎で、IL−1βタンパク質の下流機能を遮断することは有益であることが分かっている。固形臓器移植の動物モデルでは、IL−1β機能の遮断は、拒絶という結果に至らないように移植を保護することが分かった。他の臨床試験では、IL−1βの封鎖が歯の健康に有益であることが実証されている。IL−1βの影響下で、慢性歯肉炎が、骨びらんを招き歯の安定性を失わせるためである。従って、IL−1β阻害薬にはいくつかの潜在的な治療的用途がある。
【0004】
IL−1βを標的にする強みは、非常に早い段階で炎症を撹乱することである。実際、IL−1βの炎症促進作用のいくつかには、シクロオキシゲナーゼ(COX)、NSAIDが阻害する酵素群の誘導が介在し、NSAIDは、数例を挙げるとViox(登録商標)およびCelebrex(登録商標)などである。本発明のIL−1β阻害薬の一利点は、いくつかのCOX阻害薬とは違って、IL−1βがCOX機能を阻害しないことである。従って、IL−1βの発現を阻害したために生じる心筋梗塞など、ある種の有害事象を懸念する先験的理由が存在しない。
【0005】
IL−1βプロモーターは、IL−1β遺伝子の前に位置するDNA領域であり、そして転写因子と呼ばれる一連のタンパク質と結合することによって転写を調節する。転写因子は、プロモーター中に存在する特異的DNA配列に結合するDNA結合ドメインを含む。結合すると、トランス活性化因子と呼ばれる転写に必要な他のタンパク質が、転写因子表面上の他のドメインと結合することによってプロモーターへ召集される。単球では、IL−1βプロモーターの主要な転写因子がSpi−1(PU.1ともいう)である。Spi−1は、転写因子であるETSファミリーのメンバーであり、造血中は細胞系譜の決定(lineage commitment)において中心的役割を果たし、そして中でもTNFα、IL−6、およびミエロペルオキシダーゼを含む免疫系中の複数のエフェクター遺伝子のトランス活性化に重要である(Friedman, A. D. (2002) Oncogene 21(21): 3377-90)。Spi−1は、IL−1βプロモーター上の2個の別々の標的部位と結合し、そして機能するためには別の転写因子であるC/EBPβも必要としうる(Kominato, Y., D. Galsonら,(1995) Mol Cell Biol 15(1): 59-68)。
【0006】
単球細胞系がサイトメガロウイルス(CMV)に感染すると、IL−1βが誘導されることが判明している(Iwamoto, G. K., M. M. Monickら,(1990). J Clin Invest 85(6): 1853-7)。後に、この観察は、CMVにコードされたトランス活性化因子前初期2タンパク質(IE2)は、細胞中にSpi−1と共に同時形質移入すると、IL−1β遺伝子の転写を誘導できることによって説明された。さらに、IE2活性は、IL−1プロモーター上のSpi−1と物理的に相互作用するその能力によって説明された。(Wara-aswapati, N., Z. Yangら,(1999). Mol Cell Biol 19(10): 6803-14)。
【0007】
多数の抗炎症治療が知られ、一般的に使用されている。その最も一般的なものが、アスピリンおよび非ステロイド系抗炎症剤、例えば、ナプロキセン、イブプロフィン(ibuprofin)、ジフルニサル、メフェナム酸、およびケトロラックトロメタミンである。一般的に、これらの薬剤は、短期の軽度の炎症および疼痛の治療に使用される。関節炎など、さらに重篤な炎症性疾患は、グルココルチコイドおよびアンタゴニスト抗体によって治療する。一般的に、前者は、多くの副作用のために慢性的にはあまり忍容性が高くなく、後者は製造するには非常に高価である。
【0008】
炎症を低減する抗腫瘍壊死因子(TNF)モノクローナル抗体が入手可能であり、現在、リューマチ性関節炎の治療にRemicadeTMおよびHumiraTMなどが市販されている。しかし、近年、これらの抗体の投与によって、癌と同様に感染の危険性も増大しうることが分かっている(Bongartzら,(2006) J. of the American Medical Association 295;2275)。
【非特許文献1】Dinarello, C. A. (2002) Clin Exp Rheumatol 20(5 Suppl 27): S1-13
【非特許文献2】van't Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Nad Acad Sci USA 97(14): 7993-8
【非特許文献3】Kato, A., C. Gabayら,(2002) Am J Pathol 161(5): 1797-803
【非特許文献4】Burne, M. J., A. Elghandourら,(2001) J Leukoc Biol 70(2): 192-8
【非特許文献5】Haq, M., J. Normanら,(1998). J Am Soc Nephrol 9(4): 614-9)
【非特許文献6】van't Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Natl Acad Sci USA 97(14): 7993-8
【非特許文献7】Friedman, A. D. (2002) Oncogene 21(21): 3377-90
【非特許文献8】Kominato, Y., D. Galsonら,(1995) Mol Cell Biol 15(1): 59-68
【非特許文献9】Iwamoto, G. K., M. M. Monickら,(1990). J Clin Invest 85(6): 1853-7
【非特許文献10】Wara-aswapati, N., Z. Yangら,(1999). Mol Cell Biol 19(10): 6803-14
【非特許文献11】Bongartzら,(2006) J. of the American Medical Association 295;2275
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、入手可能なIL−1β特異的阻害薬は数種しかない。遺憾ながら、これらの阻害薬は、IL−1βが既に合成され、放出され、そして機能し始めた後にのみ、標的細胞上のその受容体と結合することによってIL−1βを阻止する。この型のIL−1β阻害は、いくつかの炎症状況によっては遅すぎるであろうし、または治療の有効性を最小限に抑えかねない。抗炎症剤の多くは短時間しか作用せず、重度の副作用を招くことも多く(例えばグルココルチコイド)、かつ/または製造するには高価(例えば、モノクローナル抗体)なので、新規な療法の必要性が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも部分的に、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質のある内部領域に由来するペプチドフラグメントが、炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL−1β)の産生を阻害し、インタクトなIE2の機能を阻止または阻害するという発見に基づく。本発明は、発現がSpi−1により調節される分子、例えば、IL−1βおよび腫瘍壊死因子(TNF)などの炎症促進性サイトカインの発現に干渉する、競合的アンタゴニストを使用することによって、炎症を阻止し、それによって炎症を阻害し、予防し、そして治療するための新規な手法を提供する。
【0011】
単球細胞系がサイトメガロウイルス(CMV)に感染すると、IL−1βが誘導される(Iwamoto, G. K., M. M. Monickら,(1990) J Clin Invest 85(6): 1853-7)。この誘導は、CMVにコードされたトランス活性化因子である前初期2タンパク質(IE2)が、Spi−1との結合後にIL−1β遺伝子の転写を誘導することができるために生じる(Wara-aswapati, N., Z. Yangら,(1999) Mol Cell Biol 19(10): 6803-14)。
【0012】
IE2タンパク質は、細胞でのCMVの複製に役立つ。CMV IE2のアミノ酸配列の一例を配列番号4として記載し、CMV IE2ヌクレオチド配列の一例を配列番号5として記載する(Stenberg, RM, Depto, ASら,(1989) J Virol 63(6): 2699-2708; Stenberg RM, Witte, PRら,(1985) J Virol 56(3): 665-675、およびChee, M. S., Bankier, A. Tら,(1990) Curr. Top. Microbiol. Immunol. 154: 125-169も参照)。IE2は、DNAとタンパク質に結合活性を有する、ウイルスおよび宿主細胞の強力な遺伝子トランス活性化因子である。IE2をSpi−1と共に細胞中に同時形質移入すると、IL−1β遺伝子の転写が誘導される。転写因子C/EBPβもIL−1β遺伝子の転写に関与する。
【0013】
IL−1βプロモーターにおけるSpi−1およびC/EBPβの機能は、遺伝子レポーターアッセイによって実証される(図1Bおよび1C)。これらの研究では、HeLa S3細胞(Spi−1を発現しない非骨髄球細胞系)に、ホタルルシフェラーゼ遺伝子に連結させたIL−1βプロモーターを含むレポーターベクターを一時的に形質移入させた。これらの転写因子のcDNAを含む真核生物発現ベクターを加えると、このベクターは、滴定可能な方式でルシフェラーゼレポーターを発現する。レポーターアッセイでSpi−1およびC/EBPβを同時発現させると、IE2によるIL−1βプロモーターの超活性化が観察された(図1D)。
【0014】
本発明は、少なくとも部分的に、CMV IE2タンパク質のペプチドフラグメントが、競合的アンタゴニストとして、炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1β、TNF(例えば、TNFα)IL−6、さらにミエロペルオキシダーゼ、および転写がSpi−1によって調節される他の分子の転写に必要な天然の転写因子の機能を阻止または阻害し、それによってこれらのサイトカインおよび他の分子の発現を阻害し、さらにインタクトなIE2の機能を阻止または阻害する機能を有するという驚くべき発見に基づく。
【0015】
炎症の初期段階を阻害することによって、本発明は市販の抗炎症剤またはアンタゴニスト、例えば、グルココルチコイドまたはモノクローナル抗体よりも有利である。これらの市販薬は、炎症カスケードの最初期事象を停止させることができず、かつ慢性的に使用すると著しい副作用を示し、または製造するには高価である。
【0016】
従って、本発明の一態様は、CMV IE2タンパク質の単離したポリペプチドフラグメント(例えば、配列番号4中のIE2 291−364およびIE2 291−343)を対象とし、これらのフラグメントは、IL−1βおよび他の炎症促進性サイトカインの発現を阻止することによって炎症を阻害する能力を有する。本発明の別の態様は、IE2 291−364ポリペプチド中に含まれるSpi−1最小相互作用領域(配列番号4中のIE2 315−328)を含む小型ペプチドを対象とする。すなわち、一態様では、本発明は、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基315−328(配列番号4中のIE2 315−328)、好ましくは配列番号4中のヒトCMV(hCMV)IE2 315−328を含む単離したポリペプチドを対象とする。好ましい態様では、本発明のポリペプチドは、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)、およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)を含み、またはそれらからなるIE2タンパク質フラグメントである。本発明はまた、上記のポリペプチドのフラグメントであるポリペプチド、および上記のペプチドに少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上相同するポリペプチド、同様にそれらの誘導体も提供し、その際、そのポリペプチドは、Spi−1に結合し、かつ/または炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1βまたはTNFなど、Spi−1調節型分子の転写を阻害する能力を保持する。
【0017】
別の態様では、本発明は、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)を含み、かつIE2の全長アミノ酸配列未満までで、少なくとも約14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、150、160、170、180、190、200アミノ酸長以上であり、ならびにSpi−1に結合し、かつ/または炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1βまたはTNFなど、Spi−1調節型分子の転写を阻害する能力を保持する、IE2ポリペプチド/IE2フラグメントを対象とする。
【0018】
本発明はまた、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントをコードする核酸分子も対象とする。
【0019】
本発明は、IE2ペプチドフラグメントに限定されない。本発明の転写阻害薬はまた、Spi−1に結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子の転写を阻害するように機能する、ペプチド模倣体および低分子も含む。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、本発明の転写阻害薬の治療有効量および製薬上許容される担体を含む医薬組成物を対象とする。
【0021】
一態様では、本発明は、それを必要とする対象に本発明の転写阻害薬または医薬組成物の十分な量を投与するステップによる炎症を阻害する方法を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる炎症性疾病を治療する方法を提供する。本発明が企図する炎症性疾病には、それだけには限らないが、関節炎、リューマチ性関節炎、自己免疫疾患(例えば、炎症性腸疾患および全身性エリテマトーデス)、固形臓器の移植、急性感染、急性期応答、アレルギー性喘息、摂食障害、喘息、悪液質、心血管作用、凝血、発熱、歯肉炎、移植片対宿主疾患、出血、多発性硬化症、新生血管緑内障、骨関節炎、歯周病、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ熱、ショック、ならびに固形腫瘍増殖および二次転移による腫瘍浸潤が含まれる。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に、それだけには限らないが、選択的COX−2阻害薬、インターロイキン−1アンタゴニスト、ジヒドロオロト酸合成酵素阻害薬、p38MAPキナーゼ阻害薬、TNF−α阻害薬、TNF−α金属イオン封鎖剤、およびメトトレキサートを含む一種または複数の追加の抗炎症剤と組み合せて、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる、炎症性疾病の治療する方法を提供する。個々の阻害薬による治療では、ヒトでの試行において結果に著しい改善が見られない敗血症性ショックのような疾患で、この手法は成果をあげることができる(Vincent, J. L. (1997). "New therapies in sepsis." Chest 112(6): 330S-338)。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、単球などの細胞と、ポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬の十分な量とを接触させるステップを含む、細胞中で炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1βまたはTNFの発現を阻害する方法を提供する。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、対象に、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMV感染に随伴する疾患または疾病を治療する方法を提供する。一実施形態では、CMVに随伴する疾患または疾病は、例えば、CMV網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、または疲労である。
【0026】
別の態様では、本発明は、細胞と、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬とを接触させるステップを含む、細胞中でCMVの発現を阻害する方法を提供する。
【0027】
さらに別の実施形態では、本発明は、対象に、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬、医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMVウイルス感染を治療し、予防し、または制限する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、少なくとも部分的に、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質の内部領域に由来するペプチドフラグメント(例えば、配列番号4中のIE2アミノ酸315−328、例えば、配列番号4中のIE2アミノ酸291−364または291−343を含む、ヒトCMV(hCMV)IE2フラグメント)は、炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL−1β)の産生を阻害し、そしてインタクトなIE2の機能を阻止または阻害するという発見に基づく。IL−1βは、炎症カスケードの最初期段階の一つに関与するので、本発明によって実現するIL−1βの阻害によって、順次、炎症または炎症性疾患が予防され治療されうる。
【0029】
IL−1βに加えて主要な炎症促進性遺伝子(腫瘍壊死因子(TNF)をコードするものを含む)は、Spi−1に類似する転写因子を必要とするので、特定の実施形態では、本発明の転写阻害薬は、それだけには限らないが、TNFαなどのTNF、IL−6、およびリソソーム酵素ミエロペルオキシダーゼを含む、これらの追加の分子の発現も阻止できると本発明は考えられる。従って、他の多くの抗炎症剤は炎症の一経路しか阻止しないので、本発明の転写阻害薬は有利な抗炎症剤である。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、本発明の転写阻害薬は、遺伝コードをタンパク質に転換する初期過程である遺伝子転写レベルで、IL−1βの産生を阻害する小型のアンタゴニストペプチドである。特定の理論によって制限する意図はないが、炎症カスケードの初期段階でIL−1βの産生を減少させることにより、ある型の炎症応答を阻害して治療上の利益を得られる可能性が高まると考えられる。また、IE2フラグメントなどの小型のペプチドは、製造するのが容易、すなわち安価であり、従って本発明は医薬開発において魅力的な選択になると考えられる。本発明が提供するIE2フラグメントおよびその同定された標的転写因子相互作用部位は、別の種類の新規抗炎症薬として役立ちうる、さらに小型の分子を開発するための基礎として使用できるということも企図されている。
【0031】
また、特定の理論によって制限する意図はないが、本発明のIE2フラグメントは、Spi−1と結合するが、遺伝子の転写を活性化する機能は持たないと考えられる。というのは、IE2フラグメントは、転写を起こさせるのに必要なIE2タンパク質の機能性成分が欠損しているからである。本IE2フラグメントは、Spi−1との結合を求めてインタクトな機能性IE2タンパク質と競合し、それによってIL−1βなどの炎症性サイトカイン、および他のSpi−1調節型分子の転写を阻害すると考えられる。また、IE2ペプチドフラグメントは、感染細胞内でCMVの発現を阻害することにより、抗ウイルス剤として有効で有り得ると考えられる。それはIE2ペプチドが、IE2依存性遺伝子の作用を阻止することもできることが実証されたからである。
本明細書で使用するように、「転写阻害薬」または「アンタゴニスト」という用語は、Spi−1調節型遺伝子、例えば、それだけには限らないが、IL−1β、TNFαなどのTNF、IL−6、およびミエロペルオキシダーゼなどの転写を阻害できるあらゆる分子を含むものとする。アンタゴニストは、例えば、本発明のIE2タンパク質フラグメント、ペプチド模倣体、核酸分子、または低分子を含みうる。転写阻害薬は、CMVの発現および/または感染を阻害するために使用することもできる。本明細書で使用するように、本発明の「抗炎症剤」という用語は、上記アンタゴニストのいずれかを含み、ペプチドに限定されない。
【0032】
「炎症性疾病」、「炎症性疾患」、または「炎症状態」は、毛細管拡張、白血球性浸潤、発赤、発熱、疼痛、腫脹、およびしばしば機能喪失によって特徴付けられる細胞損傷に対する局所的な応答を伴う、または局所的な応答を引き起こす傾向がある状態を意味する。「炎症性疾病」、「炎症性疾患」、または「炎症状態」における哺乳動物の身体防御および修復機序は、IL−1βの機能に依存すると考えられる。「炎症性疾病」、「炎症性疾患」、または「炎症状態」は、自己免疫疾患または疾病も含む。
【0033】
「CMV感染に随伴する疾患または疾病」は、CMVによる感染に関する、またはCMVによる感染によって生じたあらゆる疾患、疾病、または状態を意味する。CMV感染に随伴する疾患または疾病には、それだけには限らないが、CMV網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、および疲労が含まれる。
【0034】
「IE2フラグメント」は、任意の前初期2(IE2)タンパク質に由来し、炎症促進性サイトカインの転写を誘導しないペプチドフラグメントを意味する。IE2フラグメントは、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328を含むが、炎症促進性遺伝子(例えば、IL−1βおよびTNF)の転写を誘導するのに必要な、そのIE2タンパク質中のいかなる機能性成分も含まないペプチドフラグメントであることが好ましい。より好ましくは、配列番号4中のアミノ酸残基291からアミノ酸残基364の範囲のhCMV IE2タンパク質領域に由来し、配列番号4中のアミノ酸残基315−328を含むペプチドフラグメントが本発明によって企図される。
【0035】
「治療有効量」は、状態または疾患、特に炎症状態または炎症性疾患を治療するのに必要な用量を意味する。「治療有効量」は、細胞中で、炎症またはCMV感染を阻害するのに有効であると主張する、ポリペプチド/本発明のIE2フラグメントの量、または複数のポリペプチド/IE2フラグメントの組合せの量を含むものとする。
【0036】
「治療」または「治療する」という用語は、哺乳動物における、特にヒトにける疾患状態、例えば、炎症性疾患または疾病または感染の治療を意味し、以下を含む。(a)哺乳動物で疾患状態が発生しないように予防することであって、特に、哺乳動物が疾患状態になりやすいが、まだその疾患または状態にあるとは診断されていない場合に予防すること、(b)疾患状態を阻害すること、すなわち、その進行(development)を抑止すること、(c)疾患状態、または感染、またはそれらの臨床症状を低減し、軽減し、または寛解すること、すなわち、疾患状態の退行を引き起こすこと;および/または(d)疾患の継続時間を短縮すること。
【0037】
疾患状態を「予防する」と、その用語を本明細書で使用するように、つまり、炎症性疾患または感染などの疾患状態にあるとはまだ診断されていない個体に与薬を行う場合、その個体が、疾患状態と診断されるに至るという危険性が減少する。
【0038】
感染を「制限する」ことは、その用語を本明細書で使用するように、個体内で、かつ/または個体間で感染の伝播を制限することを意味する。
【0039】
「対象」は、任意の哺乳動物対象、好ましくはヒトをさす。
【0040】
I.ポリペプチド
本発明によれば、IE2タンパク質のペプチドフラグメント、例えば、配列番号4中のアミノ酸領域291−364間のペプチドフラグメントは、IL−1βプロモーター上でSpi−1の機能を阻害することができる。一実施形態では、Spi−1と相互作用する本発明のペプチドフラグメントは、IE2のアミノ酸291−264中の14アミノ酸領域(IE2 315−328)である。
【0041】
本発明の別の実施形態は、少なくとも一種のポリペプチド/本発明のIE2フラグメントを含む、抗炎症剤を対象とする。
【0042】
特定の理論によって制限する意図はないが、IE2フラグメントは、Spi−1 ETSドメイン(DNA結合ドメイン)相互作用領域を含み、そしてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)または緑色蛍光タンパク質(GFP)主鎖の存在下で三次構造的統合性を保持すると考えられる。IE2フラグメントには、IE2のトランス活性化ドメインの大部分が欠損しているので、IL−1βプロモーター上で協同的IE2/Spi−1相互作用を阻止することによって、IE2フラグメントは優性阻害機能をもたらし、それによってIL−1βの転写を低減させ、従って抗炎症剤として機能すると考えられる。
【0043】
本発明の一実施形態は、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)、好ましくはヒトCMV(hCMV)IE2 315−328を含む、単離しまたは精製したポリペプチドであって、炎症を阻害するポリペプチドを対象とする。好ましい実施形態では、本発明のポリペプチドは、それだけには限らないが、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)を含むIE2タンパク質フラグメントである。本発明のポリペプチドはまた、Spi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFの転写を阻害する能力を保持する、IE2のアミノ酸291−364中に含まれる任意のIE2タンパク質フラグメント、例えば、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)(配列番号3)およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)なども含む。さらに、本発明のポリペプチドフラグメントは、全長IE2タンパク質未満ではあるが、少なくとも約14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75アミノ酸またはそれ以上でありうる。本フラグメントはまた、本ポリペプチドの阻害機能に作用しない、IE2のアミノ酸291−364の外側の追加のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0044】
本発明のポリペプチドは、上に挙げた配列中のアミノ酸の一つまたは複数が、別の天然または非天然アミノ酸で置換されている、上記ポリペプチドの誘導体または類似体も含み、その際、そのポリペプチドは、その活性、例えば、Spi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFの転写を阻害する能力を保持する。好ましくは、保存的アミノ酸置換は、一個または複数の予想される非必須アミノ酸残基で行われている。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似する側鎖を有するアミノ酸残基によって置換されているものである。類似する側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは当技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタリン(glutarine)、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0045】
ある実施形態では、アミノ酸と同様の置換または交換である相同置換、例えば、塩基性アミノ酸に対して塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸に対して酸性アミノ酸、極性アミノ酸に対して極性アミノ酸なども生じうる。非相同置換が生じることもあり、すなわち、一クラスの残基が別のクラスの残基へ置換されて、または代わりに非天然アミノ酸、例えば、オルニチン、ジアミノ酪酸オルニチン、ノルロイシンオルニチン、ピリイルアラニン(pyriylalanine)、チエニルアラニン、ナフチルアラニンおよびフェニルグリシンなどの封入を伴って生じることもある。アミノ酸置換は、変異体ペプチドの疎水性、変異体ペプチドの両親媒性性質を高め、そして変異体ペプチドがα−へリックス構造または下部構造を形成する確率を上昇しまたは低下させるために選択することができる。
【0046】
他の実施形態では、本発明のポリペプチドは、上記のアミノ酸配列に実質的に同一であり、そしてSpi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えばそれだけには限らないが、IL−1βまたはTNFなどの炎症促進性サイトカインの転写を阻害する能力を保持し、さらに天然対立形質の変化または変異誘導のためにアミノ酸配列が異なる。別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、上記のペプチドに少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上相同するアミノ酸配列を含む。
【0047】
本発明のポリペプチド/IE2フラグメントまたは抗炎症剤は、公知の組換え分子生物学手順(例えば、Mullisら,Methods Enzymol. 155: 335-50 (1987)およびAusubelら,Current Protocols in Molecular Biology, 例えば3.17.1-10ページ)によって調製することができる。本発明のポリペプチドはまた、ペプチドライゲーション法(例えば、Dawsonら,Science 266: 776-9 (1994)およびColiganら,Native chemical ligation of polypeptides, Wiley: 18.4.1-21 (2000) 参照)によって合成しうる。ポリペプチド、模倣体、およびそれらの変異体は、当技術分野で公知の標準的化学的合成法(例えば、Applied Biosystems社から購入できるペプチドシンセサイザー)によって産生させることができる。
【0048】
本発明のポリペプチドは、標準的精製手順を使用し単離することができる。「単離した」、または「精製した」ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、そのタンパク質が由来する細胞または供給源からの細胞性物質または他の混入タンパク質を実質的に含まない、あるいは化学的に合成した場合、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「実質的に含まない」は、非IE2ポリペプチド(本明細書では「混入タンパク質」ともいう)または、化学的前駆体、または非受容体、またはリガンドケミカルを約30%、20%、10%、より好ましくは5%(乾燥重量による)未満含む、ポリペプチドまたはその変異体を調製すること意味する。本ポリペプチドまたはその生物活性部分を組換えによって産生する場合、実質的に培地を含まないことが多く、具体的にはその場合、培地は、ポリペプチド調製物の容量の約20%未満、約10%未満、およびしばしば約5%未満を占める。単離し、または精製したポリペプチド調製物は、乾燥重量で0.01mg以上、または0.1mg以上、およびしばしば1.0mg以上、および10mg以上でありうる。
【0049】
同様に本発明に含まれるものは、追加の化合物、例えば、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)、PEG化されたペプチド(一個または複数の結合ポリエチレングリコール分子を有する)、または核移行シグナル(NLS)などに融合されたIE2ペプチドフラグメントである。さらに、本発明のIE2フラグメントは、第2のタンパク質に連結させることも、またはペプチドは、IE2ではない大型のペプチド中に含めて、例えば、細胞中での安定性を増大させることもできる。
【0050】
本明細書に記載したペプチドに加えて、本発明の転写阻害薬は、本IE2ポリペプチドフラグメントの阻害活性を模倣する、小さなペプチド様分子であるペプチド模倣体も含む。
【0051】
II.核酸分子
本発明の別の態様は、本発明のポリペプチドをコードする、単離した核酸分子に関連する。例えば、本発明は、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)(配列番号3)、およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)、およびそれらの相補鎖をコードするIE2核酸分子フラグメントを含む。Spi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFの転写を阻害する能力を保持するポリペプチドをコードする、これらの単離した核酸分子のフラグメントも本発明に含まれ、同様に上記のポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列の全長に少なくとも約80%,81%,82%、83%、84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含む単離した核酸分子、あるいはSpi−1と結合し、かつ/または炎症促進性サイトカインなどのSpi−1調節型分子の転写を阻害する能力を保持する、これらのヌクレオチド配列のいずれかの一部、およびそれらの天然対立形質変異体および相同物も含まれる。
【0052】
本明細書で使用するように、「核酸分子」という用語は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)およびRNA分子(例えばmRNA)、ならびにヌクレオチド類似体を使用して発生させたDNAまたはRNAの類似体も含むものとする。その核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってよいが、二本鎖DNAが好ましい。
【0053】
「単離した核酸分子」という用語は、その核酸の天然源中に存在する他の核酸分子から分離させた核酸分子を含む。例えば、ゲノムDNAに関しては、「単離した」という用語は、そのゲノムDNAに自然に付随する染色体から分離させた核酸分子を含む。好ましくは、単離した核酸は、その核酸を派生させたDNA中でその核酸を自然に側置する配列(すなわち、その核酸の5’および3’末端に位置する配列)を含まない。さらに、「単離した」核酸分子は、組換え技術によって産生した場合は、他の細胞性物質または培地を実質的に含まず、あるいは化学的に合成した場合は、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まないようにすることができる。
【0054】
III.追加の抗炎症剤
特定の実施形態では、本発明はまた、IL−1βの産生を阻害する薬物設計法であって、それだけには限らないが、懸垂液滴法(hanging drop)、放置液滴法(sitting drop)、自由液体拡散法、バッチ法、またはマイクロバッチ法を含む当技術分野で十分に確立された任意の結晶化設備を使用し、IE2 315−328およびSpi−1 ETSドメインを共結晶化するステップ、Spi−1 ETSドメインタンパク質上のIE2 315−328の少なくとも一つの結合部位の三次元表示を得るステップ、リガンド結合部位の三次元表示に、少なくとも一種の候補リガンド化合物、好ましくは分子サイズがIE2のアミノ酸315−328よりも小さいリガンド化合物を重ねるステップ、候補化合物と結合部位間の結合を評価するステップ、およびそのリガンド結合部位に空間的に適合する化合物を選択するステップを含む薬物設計法も企図する。
【0055】
IV.医薬組成物およびその投与
別の実施形態では、本発明は、少なくとも一種の本発明の転写阻害薬、例えば、本発明の、ポリペプチド/IE2フラグメント、ポリペプチド/IE2フラグメントをコードするDNA分子、ペプチド模倣体、または低分子、あるいはそれらの組合せの治療有効量、および製薬上許容される担体を含む医薬組成物を対象とする。
【0056】
IE2フラグメント、またはIE2フラグメントコードする核酸、または本発明の転写阻害薬以外の転写阻害薬を含む医薬組成物の活性成分は、例えば、炎症の阻害で、および炎症性疾病もしくは疾患またはCMV感染の治療で有効な治療活性を示すと考えられる。従って、IE2フラグメントなどの転写阻害薬を含む本治療組成物の活性成分は、特定の疾患に依存する治療量で投与する。限定しない具体例として、有効量は、対象の体重に応じて約1mg〜1g/kg、約1〜100mg/kg、または約5〜20mg/kgの範囲であろう。例えば、リューマチ性関節炎を治療するためのIE2フラグメントのピーク血中濃度は、一日当たり100mg〜1000mgを使用し約5〜100mcg/mlでありうる。投与計画は、最適治療応答を提供するように調節することができる。本発明による医薬組成物は、部分用量、単一用量、または複数回用量を含むことができる。例えば、数回分割用量は、毎日投与することができ、または当該用量は治療状況の緊急性によって示される通りに比例的に減少させることもできる。いくつかの実施形態では、本組成物は関節炎治療など、局所的に、または全身に投与される。
【0057】
IE2 315−328、IE2 291−343、およびIE2 291−364など、本転写阻害薬の一種または複数の形態の投与も企図される。一実施形態では、本発明のIE2ポリペプチドフラグメントは、これらと、細胞膜を超えるペプチドの輸送を促進するために、追加の形質導入配列、例えばタンパク質形質導入ドメイン(PTD)とを結合することによって細胞に送達される。タンパク質形質導入ドメインは、効率よく、そしてトランスポーターまたは特異的受容体から独立して生体膜を通過し、細胞へのペプチドおよびタンパク質、DNA、および他の化合物の送達を促進する小型タンパク質ドメインである。PTDの例は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)のTATタンパク質ドメイン、アンテナペディアホメオドメインの第3α−へリックスドメイン、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質ドメイン、およびポリアルギニンドメインである。例えば、公開されているTat形質導入シグナルペプチド配列YARAAAAQARA(配列番号6)を使用することができる。他のPTDも当技術分野で公知であり、例えば、Mi, Z.ら,(2000) Mol. Therapy (4):339-47; Ryu, Jら,(2003) Mol Cells., 16(3):385-91; Matsuiら,(2003) Curr Protein Pept Sci. (2):151; Matsuiら,(2003) Nippon Yakurigaku Zasshi 121(6):435; Dietz, G. P.およびBahr, M. (2004) Mol. Cell. Neurosci. 27(2):85; Torchilin (2006) Annual Review of Biomedical Engineering 8: 343-375;およびHaradaら,(2006) Breast Cancer 13(1):16にも記載されている。別のPTDは、米国特許第6,881,825号、および米国特許出願第20030104622号A1、同第20030219826号A1、および同第20050074884号A1に記載されている。Pep−1と称する別のペプチド担体も記載され、本発明のポリペプチドを送達するために使用することができる。Morris, M.ら,Nat Biotechnol. 2001 (12):1173-6。上記の全ての文献の内容を明示して、参照により本明細書に組み込む。
【0058】
投与経路に応じて、転写阻害薬を含む本活性成分は、酸、および成分を不活化させうる他の自然条件の作用から成分を保護するために、物質でコートする必要があるかもしれない。例えば、転写阻害薬は、例えばプロテアーゼによる分解から転写阻害薬を保護するために(例えば、Arhewohら,2005, African J. Biotechnol 4:1591-1597を参照)、アジュバントで、またはリポソーム、微小球、ナノ粒子(Shinjiら,1997, Int.J. Pharmacol. 149:93-106参照)またはマイクロカプセルで投与することができる。本明細書で考えられるアジュバントには、レゾルシノール、非イオン界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびn−ヘキサデシルポリエチレンエーテルが含まれる。リポソームには、従来のリポソームと同様に水中油滴中水滴P40乳濁液が含まれる。さらに特定の非限定的な例には、キトサンで被膜したアルギン酸ビーズ中の転写阻害薬、ヒドロゲル製剤中の転写阻害薬(例えば、Blanchetteら,2004, Biomed. & Pharmacother. 58:142-151参照)、経肺投与に適応させた液体製剤または乾燥粉製剤中に入れた転写阻害薬(例えば、Patton, 1997, Chemtech 27(12)27(12):34-38 and Patton, 1998, Nature Biotechnol. 16:141-143参照)、マトリックス放出器具中に組み込まれた転写阻害薬(Krishnaiahら,2001, J. Controlled Rel. 77:87-95参照)、またはプロドラッグ形の転写阻害薬(参照、Yanoら,2002, J. Controlled Rel. 79:103-112)を含む、製剤のカプセル化が含まれる。
【0059】
通常の保存および使用条件下では、本発明の調製物は、微生物の増殖を防止するために防腐剤を含む。注射に使用するのに適切な医薬形には、(水溶性)滅菌水溶液、または滅菌注射液もしくは分散液の即席調製用の分散液および滅菌粉末が含まれる。全ての場合において、形態は滅菌されていなければならず、容易に注射できる程度に液体でなければならない。製造および保存条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の混入作用がないように保存しなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被膜の使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用は、様々な抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって防止することができる。多くの場合、糖類または塩化ナトリウムなどの等張化剤を含めることも好ましいであろう。注射可能な組成物は、組成物に吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することよって、長時間吸収させることができる。
【0060】
滅菌注射液は、必要に応じて上記に列挙した様々な他の成分と共に、好適な溶媒中に本活性化合物を必要量組み込み、続いてろ過滅菌することによって調製される。一般的に、分散液は、基本的分散媒、および上記列挙したものから必要とされる他の成分を含む滅菌ビヒクル中に、様々な本滅菌活性成分(すなわち、IE2フラグメント、またはIE2フラグメントをコードするDNA分子、またはそれらの組合せ)を組み込むことによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合には、好適な調製方法は、真空乾燥技術および凍結乾燥技術であり、これらの技術によって、本活性成分に任意の追加所望成分を加えた粉末が、予めその滅菌ろ過した溶液から得られる。
【0061】
投与を容易にし投薬量を均一にするためには、単位用量形に組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書で使用する単位用量形は、単位投薬量として、治療する哺乳動物対象に適した物理的に別個の単位をさし、各単位は、必要な医薬用担体と共に、所望の治療効果をもたらすように計算された本活性物質の所定量を含む。本発明の新規な単位用量形の規格は、(a)本活性物質の特性および達成すべき特定の治療効果、ならびに(b)本明細書で詳細に開示するように身体健康状態が損なわれている状態の生体対象で、損傷を治療するための活性物質など、配合の技術分野での固有の限界によって決定され直接それらに依存する。
【0062】
主要な活性成分は、有効量で好都合に有効に投与するために、適切な製薬上許容される担体と共に、上記に開示するように単位用量形に調合される。単位剤形によって、例えば、一日当たり約100mg〜約1000mgの投薬量で、本発明のIE2ペプチドフラグメントの血中濃度を、例えば、約2mg〜約30mg/mlにすることができる。
【0063】
本発明の医薬組成物は、その意図した投与経路と適合するように製剤化する。投与経路の例には、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所的)、経粘膜、関節内、くも膜下腔内、眼内、脳室内、および経直腸投与が含まれる。本明細書で使用する「製薬上許容される担体」には、任意の全ての溶媒、分散媒、被膜、抗菌薬および抗真菌薬、等張化剤および吸着遅延剤などが含まれる。薬学活性物質にそのような媒体剤を使用することは、当技術分野で公知である。従来のいかなる媒体も、または薬剤も、本活性成分と不適合である場合を除き、治療組成物でのその使用が企図される。補足的な活性成分もまた、本組成物中に組み込むことができる。
【0064】
記載の医薬組成物は、医療器具内に収めてもよい。限定しない一例では、その器具は注射器である。別の非制限的な例では、その器具は吸入器であり、その際、具体例では、その吸入器は、陽圧送達することができる(参照、米国特許第6,708,688号)。
【0065】
IE2フラグメントなどの転写阻害薬の投与は、本転写阻害薬の変化させた形態または誘導体、あるいは対象でのその活性、安定性、または到達性を高める薬物も含みうる。適用可能な転写阻害薬増強薬物の同定は、上記のように共結晶化を使用する薬物設計法によって、あるいは薬物または転写阻害薬の(IE2フラグメントの)インビトロでのリン酸化の効果を検査することによって、容易に試験しまたはスクリーニングされる。
【0066】
それを必要とする対象へのIE2フラグメントをコードするDNAの投与は、遺伝子転移技術によっても行うことができる。そのような技術には、それだけには限らないが、ウイルス、リポソーム、ならびにDNAまたはRNAの変化させた形態または誘導体が含まれる。
【0067】
V.使用法
本発明は、炎症性疾患または疾病を治療し、制限し、または予防し、あるいはCMV感染または関連疾病を治療し、制限し、または予防するための、対象での転写阻害薬の使用を提供する。適切な転写阻害薬は先に記載され、前記転写阻害薬を含む適切な医薬組成物も同様に記載されている。
【0068】
一態様では、本発明は、細胞中でSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFなどの炎症促進性サイトカインの発現を阻害する方法であって、単球などの細胞と、転写阻害薬の十分な量とを接触させるステップを含む方法を提供する。
【0069】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に本発明の転写阻害薬または医薬組成物の十分な量を投与するステップによる炎症を阻害する方法を提供する。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に、本発明の抗炎症剤または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる、炎症性疾病を治療する方法を提供する。本発明が企図する炎症性疾病は、それだけには限らないが、関節炎、リューマチ性関節炎、自己免疫疾患(例えば、炎症性腸疾患および全身性エリテマトーデス)、固形臓器の移植、急性感染、急性期応答、アレルギー性喘息、摂食障害、喘息、悪液質、アテローム性動脈硬化症、回復期(resolving)心筋梗塞、凝血、発熱、歯肉炎、移植片対宿主疾患、出血、多発性硬化症、新生血管緑内障、骨関節炎、歯周病、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ熱、ショック、ならびに固形腫瘍増殖および二次転移による腫瘍浸潤を含む。
【0071】
さらに別の実施形態では、本発明は、それを必要とする対象に、それだけには限らないが、非ステロイド系抗炎症剤(例えば、NSAIDS)、アスピリン、コルチコステロイド、選択的COX−2阻害薬、インターロイキン−1アンタゴニスト、ジヒドロオロト酸合成酵素阻害薬、p38MAPキナーゼ阻害薬、TNF−α阻害薬、TNF−α金属イオン封鎖剤、およびメトトレキサートを含む、一種または複数の追加の抗炎症剤と組み合せて、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる炎症性疾病の治療する方法を提供する。
【0072】
本発明は、対象に、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMV感染に随伴する疾患または疾病を治療する方法も提供する。一実施形態では、CMVに随伴する疾患または疾病は、CMV網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、および疲労からなる群から選択される。
【0073】
別の態様では、本発明は、細胞と本発明のポリペプチド/IE2フラグメントとを接触させるステップを含む、細胞中で、CMVの発現または感染を阻害する方法を提供する。関連する態様では、本発明は、対象に、本発明の、ポリペプチド/IE2フラグメント、抗炎症剤、または医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMVウイルス感染を治療し、予防し、または制限する方法を提供する。
【0074】
例えば、医薬組成物に含まれるような転写阻害薬の治療有効量は、それだけには限らないが、(例えば、経鼻または経肺)エアロゾル、経口、皮下、局所的、眼内、筋肉内、静脈内、くも膜下腔内などを含む、任意の既知の投与経路によって投与することができる。
【0075】
本転写阻害薬は、単一用量、または長期にわたって投与される複数回用量で投与してもよい。複数回用量間の時間間隔の限定しない例には、4時間まで、8時間まで、12時間まで、24時間まで、36時間まで、48時間まで、72時間まで、1週間まで、2週間まで、1ヵ月まで、2ヵ月まで、3ヵ月まで、4ヵ月まで、6ヵ月、および1年までが含まれる。
【0076】
転写阻害薬の有効量は、予防的に、あるいは疾患または疾病に罹患している人、または炎症性疾患または疾病の危険にさらされている人、またはCMVウイルスに曝露されていることが分かっている、または懸念される人との状況において投与しうる。
【0077】
以下の非制限的な実施例によって本発明をさらに例示する。
【実施例】
【0078】
方法および物質
細胞培養
HeLa細胞(S3株)をATCCから入手し、推奨に従って培養した。手短に言えば、細胞を10%FBSおよび0.5%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。細胞を剥離するために、トリプシン(0.25%)EDTA(0.1%)(Cellgro)を使用し3日毎に細胞を1:10分割した。
【0079】
レポーター構築体および発現ベクター
プロモーター−ルシフェラーゼレポータープラスミドを構築するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、ヒトIL1βプロモーター領域(−131+12および−59/+12およびその変異体(図1A)を生成し、pGL3−ベーシックベクター(Promega)のMlu IおよびBgI IIまたはHind III部位に挿入した。HCMV IE発現ベクターpEQ273およびpEQ326は、pGEM1ベクターに挿入したゲノムHCMV IE DNAを含む。NFIL6 cDNAを発現ベクターpcDNA3.1またはpcDNA1(Invitrogen)に挿入することによって、全長NFIL6と、2個のSp1 I制限部位間に内部欠失を有する切断型異形とを発現するプラスミドを構築した(Tsukada, J., K. Saitoら,(1994) Mol Cell Biol 14(11): 7285-97)。pcDNA3.1に、PCR増幅した、アミノ酸269−345をコードするNFIL6フラグメントを挿入することによって、NFIL6のbZIP領域を含む発現ベクターを構築した(Yang, Z., N. Wara-Aswapatiら,(2000) J Biol Chem 275(28): 21272-7)。
【0080】
形質移入およびレポーター遺伝子アッセイ
Effectene試薬(Qiagen Inc.)を使用し、HeLa(S3)細胞に発現ベクターとルシフェラーゼレポータープラスミドを形質移入した。形質移入の24時間前に、細胞を24ウェルプレートに播種した。ウェル間で比較可能な形質移入効率を確実に得られるように、様々な量の親ベクターおよび/またはNFIL6またはIEタンパク質を発現するベクターを加えることによって、各実験内でウェルごとに形質移入したDNAの全量を一定に維持した。これらのベクターからの発現は、ウェスタンブロッティングによって確認した。形質移入24時間後または48時間後に、(Promega社製試薬を使用し)ルシフェラーゼ活性およびβ−ガラクトシダーゼ活性を定量して、プロモーターの活性を測定し、そしてそれぞれ、各実験でルシフェラーゼ活性を規準化できるようにした。エラーバーは、3回の反復の最小値の標準誤差を表す。
【0081】
融合タンパク質の精製およびGSTプルダウンアッセイ
前記方法(Wara-aswapati, 1999)を使用し、大腸菌BL21(DE)pLysS(Promega, ウィスコンシン州マディソン)からGST融合タンパク質を収集した。手短に言えば、培養を3、4時間0.5mM IPTGで誘導し、ペレットを1mM DTT、PefaBloc(Roche、インディアナ州インディアナポリス)、およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害薬カクテル(Roche)1錠/50mlを含む、NETN緩衝液(20mM Tris、100mM NaCl、1mM EDTA、0.05%NP−40)に懸濁した。氷上で懸濁液を超音波処理し上清を採取した。グルタチオン−セファロースビーズをNETN緩衝液で洗浄し、融合タンパク質と共に4℃で終夜回転させながらインキュベートした。ビーズをNETN緩衝液で3回洗浄し、インビトロで翻訳した当該タンパク質プローブと共に、4℃で45分間回転させながらインキュベートした。氷温NETNで3回洗浄後、ビーズを煮沸し、SDS−PAGEにより分離した。タンパク質を定量するためにゲルをSimplyBlue Safestain(Invitrogen)で染色し、オートラジオグラフィを使用し結合を分析をした。放射標識したタンパク質プローブをインビトロで合成し(TNT T7 Quick Coupled Reticulocyte Lysate System、Promega)、製造業者の使用説明書に従って35Sメチオニン(Amersham)で標識した。
【0082】
実施例1
IE2フラグメントによるIL−1β上でのSpi−1機能の阻害
IE2 291−364による、IL−1βプロモーター上でのSpi−1機能の阻害を試験するために、遺伝子レポーターアッセイを使用した。この系では、ホタルルシフェラーゼをコードするレポーター遺伝子の前でIL−1βプロモーターをスプライスした。Spi−1によりプロモーターが活性化された場合、細胞は、ルシフェラーゼ酵素を産生する。次いで、細胞がいかに明るく輝くかによって酵素活性を測定することができる。この一般的な技術を使用したのは、IL−1βなどの遺伝子産物を測定するよりも、プロモーター機能を測定する方が簡単で感度が高い方法であるからである。
【0083】
Spi−1およびC/EBPβがHeLa−S3細胞中に形質移入されたとき、レポーターは滴定可能な応答を示した(図1Bおよび1C)。しかし、全長野生型IE2 を細胞形質移入に加えたときは、遺伝子活性が4〜10倍増加した(図1D)。これによってIE2の強度が示された。しかし、阻害薬ペプチドを滴定添加した場合は、全長IE2の非存在下および存在下で、レポーターの活性の減少が見られた(図2A−2B)。
【0084】
さらに、IE2 291−364の効果を検証するために、RAW264.7細胞系で試験を行った。この細胞系は、内在性IL1B遺伝子および形質移入したIL1B遺伝子(Shirakawa, F., K. Saito,ら,Id.)のLPS誘導に応答することが示されており、豊富なレベルのSpi−1(Kominato, 1995)およびC/EBPβ(Tsukada, 1994)を発現する。RAW264.7細胞系を細菌細胞壁産生物LPSで処理した場合は、それは、正常単球がIL−1βを産生したのと同様にIL−1βを産生した。IE2−291−364ペプチドは、IL−1βプロモーターレポーターをこの系で約50%阻害した(図3)。
【0085】
より厳密に、IL1β遺伝子発現に及ぼすIE2ペプチドの阻害能力を試験するために、LPS応答エンハンサーおよび細胞型特異的Spi−1−依存性プロモーター(Shirakawa, F., K. Saitoら,(1993). Mol Cell Biol 13(3): 1332-44)を含むIL1B遺伝子の3.8kbpの単球特異的完全調節領域をルシフェラーゼレポーターとして、LPS処理したRAW264.7単球細胞に形質移入した。3.8kbpの完全IL1B調節領域と、Hisタグを含むIE2 291−364ペプチド発現ベクターとの同時形質移入によって、活性の用量依存的阻害がもたらされたことを結果は示している。IE2ベクターの非存在下、レポーターと比べた最大阻害は50〜75%であり、IE2 291−364領域を含むが残基315−328は内部欠失している対照ベクターdelAとの同時形質移入と比較した場合も阻害程度は類似する(図6)。
【0086】
実施例2
形質移入アッセイでのIE2フラグメントの発現
形質移入アッセイでIE2フラグメントの発現を確認するために、これらのフラグメントをGFP発現ベクターに挿入して、これらが核に局在化するかどうか判定した(図4A)。これにより、IE2フラグメント中に位置する推定核移行配列の機能と同様に、そのタンパク質の発現が示されるはずである。
【0087】
形質移入から24時間後、細胞質および核中にGFP291−364融合産生物が見られた。次いで、GFP291−364フラグメントが、Spi−1およびC/EBPβによってHTレポーターの内在性トランス活性化を阻害する能力を試験した。形質移入効率を制御するために、GFPを発現する細胞をFACSによりまず精製した。次いで、同数の細胞を使用して、レポーターアッセイ用にライセートを準備した。これらのデータにより、どちらのGPF融合産生物も優性阻害機能を保持することが示された(図4B)。この機能は、挿入したIE2フラグメントに特異的であった。Spi−1およびC/EBPβと、空のGFP発現ベクター(e.v.)とを同時形質移入した場合は、高いレポーター活性が存在したからである。
【0088】
IE2 291−364領域は、IE2上の3個のTBP結合部位の一個として予めマップしたので、阻害機能はTBPとの相互作用によるものとも考えられた。この可能性を取り除くために、それらのプロモーター中のTATAボックスを含む2個の他の遺伝子の発現を調査した。最初に、発現ベクターからのC/EBPβの発現をウエスタンブロット(図4C)により観察した。これでは、GFP291−364の同時発現による、C/EBPβタンパク質の減少は示されなかった。第二に、Hisタグ付き阻害薬をev GFPと共に同時形質移入し、形質移入細胞の幾何平均輝度をフローサイトメトリー(図4D)によって測定した。どちらの阻害薬もGFP発現を低減させず、IL−1βプロモーター活性の阻害が、IE2フラグメント阻害薬とTBPとの間の広汎な相互作用によるものではないことが示された。従って、本発明の実施例により、Spi−1およびC/EBPβと競合的に相互作用することによってIL−1β遺伝子の発現を阻害することができるIE2分子のペプチドフラグメントを発現する能力が実証された。相互作用の基礎は、IE2分子の残基315−328に局在すると考えられる。それは、315−328領域が欠損しているIE2 291−364の変異体(delA)は、GST融合プルダウンアッセイでSpi−1 ETSドメインと結合しないからである(図5)。
【0089】
本開示は、様々な変更形態および代替形を受け入れることができるが、具体例の実施形態を図に示し、本明細書により詳細に記載した。しかし、具体例の実施形態の記述は、本発明を開示した特定の形態に制限するものではなく、これに反して本開示は、添付の特許請求の範囲によって定義する通り全ての変更形態および同等物を包含すると理解されるものとする。
【0090】
特許、特許出願、刊行物、商品説明、およびプロトコル、および本明細書に引用した参照文献は全て、全ての目的において、そして特に参照した方法または手順を参照により組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1A】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。転写開始部位に近接する2個の複合体Spi−1−C/EBPβ結合部位を示すIL−1βプロモーターの概略図である。遺伝子レポーターホタルルシフェラーゼを含むベクター中に全長プロモーター(HT)をスプライスして挿入し、HeLa−S3細胞での一時的形質移入アッセイに使用した。
【図1B】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。滴定したSpi−1発現ベクター、および同時形質移入した固定量のC/EBPβ発現ベクターに対するHTレポーターの用量応答を示すグラフである。
【図1C】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。滴定したC/EBPβ発現ベクター、および固定量のSpi−1発現ベクターに対するHTレポーターの用量応答を示すグラフである。
【図1D】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。IE2との機能的協同性を示すグラフである。HTレポーターは、滴定したSpi−1発現ベクター(白棒)と、または固定量のC/EBPβ発現ベクター(碁盤縞棒)と、あるいはC/EBPβおよびIE2両発現ベクター(線影棒)と同時形質移入した。
【図2A】IL−1Βプロモーターの協同的トランス活性化が、IE2由来のフラグメントであるIE2 291−364およびIE2 291−343によって阻害されることを示すグラフである。ここで示すデータは、3個の独立した実験からプールした。Hela S3細胞に、(図1に記載した)Spi−1およびC/EBP発現ベクターと共に、HTレポーターを一時的に形質移入したことを示すグラフである。示した形質移入群には、滴定した量のIE2 291−364または291−343発現ベクターを同時形質移入した。
【図2B】IL−1Βプロモーターの協同的トランス活性化が、IE2由来のフラグメントであるIE2 291−364およびIE2 291−343によって阻害されることを示すグラフである。ここで示すデータは、3個の独立した実験からプールした。野生型IE2によるIL−1βプロモーターの外来的調節に及ぼすIE2フラグメントの阻害効果を示すグラフである。図2Bにより記載した実験は、図2Aにより記載した実験に類似するが、野生型IE2も示した形質移入群に加えた点が異なる。これらは、3個の独立した実験からプールしたデータである。
【図3】IE2 291−364フラグメントが、単球細胞系RAW264.7で全長IL−1βレポーターを阻害することを示すグラフである。ルシフェラーゼ遺伝子レポーターは、ルシフェラーゼ遺伝子の上流に、未変性IL−1β上流フラグメント(XT)をスプライシングすることにより作製したが、このフラグメントはプロモーター配列を通じてエンハンサーを含む。リン酸カルシウム沈殿によりRAW264.7細胞中に、これと、pCDNA3.1/V5−His空ベクター(対照)またはpCDNA3.1/V5−His IE2 291−364を(滴定した用量で)同時形質移入した。レポーターを活性化させるために、細胞はLPSで刺激した。
【図4A】HeLa−S3細胞への形質移入後、GFP−IE2 291−343融合タンパク質の細胞質局在および核局在を示す図である。
【図4B】IL−1βプロモーター活性のGFP IE2 291−343阻害を示すグラフである。
【図4C】図2Bに記載したように形質移入したHeLa−S3から得た細胞ライセートをウエスタンブロット分析することにより、ペプチドIE2 291−364がC/EBPβの発現を阻害しないことを示す特異的制御を示す図である。
【図4D】対照GFP発現ベクターが、IE2 291−343またはIE2 291−364の影響を受けなかったことを示す別の特異的制御を示す表である。HeLa−S3細胞はどちらも、GFP発現ベクターを形質移入し、かつIE2 291−343またはIE291−364発現ベクターを同時形質移入し、そして24時間後に蛍光活性化した細胞の分取器(fluorescence activated cell sorter)によりGFP発現を分析した。
【図5A】IE2、Spi−1 ETSドメイン、およびC/EBPβ bZIPドメインの放射標識プローブと、残基315−328が内部欠失しているIE2 291−364フラグメント(delA)との相互作用の消失を示す図である。示したプローブの相互作用は、対照ペプチドIE2 291−343およびIE2 291−364で保持されている。この結果は、IE2領域315−328が、これらのリガンドとの結合をもたらし、そして最小のペプチド阻害薬であろうことを示すものである。
【図5B】IE2、Spi−1 ETSドメイン、およびC/EBPβ bZIPドメインの放射標識プローブと、残基315−328が内部欠失しているIE2 291−364フラグメント(delA)との相互作用の消失を示す図である。示したプローブの相互作用は、対照ペプチドIE2 291−343およびIE2 291−364で保持されている。この結果は、IE2領域315−328が、これらのリガンドとの結合をもたらし、そして最小のペプチド阻害薬であろうことを示すものである。
【図6】ルシフェラーゼレポーターとして、全長IL−1β調節タンパク質と共に、RAW細胞中に形質移入したIE2 291−364Δ315−328またはIE2 291−364を発現するベクターの増加量を示すグラフである。CaPO4により一時的に形質移入後、RAW細胞ライセートをルミノメーターによる測定に使用し、形質移入効率用に制御するために、同時形質移入したβ−ガラクトシダーゼ発現ベクターにより導入したβ−ガラクトシダーゼ活性に結果を規準化した。見ての通り、IE2 291−364Δ315−328の値は、野生型フラグメント315−264と比較した相対的ルシフェラーゼ活性の%割合として報告する。
【図7−1】IE2分子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列の一例(配列番号4)、および本発明のフラグメントをコードするヌクレオチド配列の一例(配列番号5)を示す図である。図7は、配列番号1、2、および3として記載したIE2ペプチドフラグメントの例も含む。そのアミノ酸配列は、GenBank受託番号P19893(GI:59803018)に含まれており、そのヌクレオチド配列はGenBank受託番号M11298(GI:330552)に含まれている。本発明は、任意の特定のCMV株に由来するIE2配列に限定されない。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の別の変形例も公的に入手することができる。
【図7−2】IE2分子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列の一例(配列番号4)、および本発明のフラグメントをコードするヌクレオチド配列の一例(配列番号5)を示す図である。図7は、配列番号1、2、および3として記載したIE2ペプチドフラグメントの例も含む。そのアミノ酸配列は、GenBank受託番号P19893(GI:59803018)に含まれており、そのヌクレオチド配列はGenBank受託番号M11298(GI:330552)に含まれている。本発明は、任意の特定のCMV株に由来するIE2配列に限定されない。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の別の変形例も公的に入手することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的に、新規な炎症阻害薬、およびこれらの阻害薬を使用し炎症を治療する方法に関する。より具体的には、本発明は、サイトメガロウイルス(CMV)IE2タンパク質に由来するペプチドフラグメント、これらのペプチドをコードするDNA、ペプチド模倣体、および炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL−1β)および他の炎症性サイトカインの産生を阻害できる小型分子、ならびにそのペプチドフラグメントの投与によって炎症性疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、一連の組織学的事象によって特徴付けられ、そして身体損傷および感染性損傷を含む組織損傷の様々な形態が介在する複雑な過程である。対象の身体防御および修復機序は、IL−1βの機能に依存する。炎症という事象は治癒には重要であるが、長期にわたる、または制御されない炎症は、病気を引き起こす組織損傷および症状をもたらしうる。例えば、入院患者で病的状態および死亡の主要原因である敗血症性ショックは、部分的に、IL−1βが血管平滑筋および心筋機能に作用することによって生じる。リューマチ性関節炎は、壊滅的な慢性炎症性疾患であり、その病変が主として関節に限定されることによって特徴付けられる。リューマチ性関節炎は、関節の慢性全身性疾患であり、滑膜組織および関節構造体における炎症性変化、ならびに骨萎縮および骨粗鬆を特色とする。軟骨びらんおよび骨びらんは、IL−1βが介在する(Dinarello, C. A. (2002) Clin Exp Rheumatol 20(5 Suppl 27): S1-13; van’t Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Nad Acad Sci USA 97(14): 7993-8)。アテローム性動脈硬化症および虚血性再灌流障害を含む他の状態もまた、IL−1βの作用に依存するものである(Kato, A., C. Gabayら,(2002) Am J Pathol 161(5): 1797-803; Burne, M. J., A. Elghandourら,(2001) J Leukoc Biol 70(2): 192-8.; Haq, M., J. Normanら,(1998). J Am Soc Nephrol 9(4): 614-9); van’t Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Natl Acad Sci USA 97(14): 7993-8)。
【0003】
IL−1βは、(損傷を受けた上皮細胞および内皮細胞からも少量放出されるが)主として単球によって産生されるタンパク質であり、この単球は、損傷に続いて身体に早期警戒シグナルを発する白血球である。Toll様受容体など、単球上の様々な受容体は、刺激に続いてIL−1β産生を誘導するシグナルを核に送る。次いで、IL−1βは、周囲の環境に放出され、局所標的および遠隔標的に働きかけて身体防御の警戒態勢を取らせる。よく認識されているこのストレスシグナルの結果が発熱である。敗血症性ショック、ならびにリューマチ性関節炎およびループスを含む自己免疫疾患など、ある種の状況では、IL−1βは、関節、骨、および他の組織に重篤な損傷を引き起こす炎症の一因となる。リューマチ性関節炎で、IL−1βタンパク質の下流機能を遮断することは有益であることが分かっている。固形臓器移植の動物モデルでは、IL−1β機能の遮断は、拒絶という結果に至らないように移植を保護することが分かった。他の臨床試験では、IL−1βの封鎖が歯の健康に有益であることが実証されている。IL−1βの影響下で、慢性歯肉炎が、骨びらんを招き歯の安定性を失わせるためである。従って、IL−1β阻害薬にはいくつかの潜在的な治療的用途がある。
【0004】
IL−1βを標的にする強みは、非常に早い段階で炎症を撹乱することである。実際、IL−1βの炎症促進作用のいくつかには、シクロオキシゲナーゼ(COX)、NSAIDが阻害する酵素群の誘導が介在し、NSAIDは、数例を挙げるとViox(登録商標)およびCelebrex(登録商標)などである。本発明のIL−1β阻害薬の一利点は、いくつかのCOX阻害薬とは違って、IL−1βがCOX機能を阻害しないことである。従って、IL−1βの発現を阻害したために生じる心筋梗塞など、ある種の有害事象を懸念する先験的理由が存在しない。
【0005】
IL−1βプロモーターは、IL−1β遺伝子の前に位置するDNA領域であり、そして転写因子と呼ばれる一連のタンパク質と結合することによって転写を調節する。転写因子は、プロモーター中に存在する特異的DNA配列に結合するDNA結合ドメインを含む。結合すると、トランス活性化因子と呼ばれる転写に必要な他のタンパク質が、転写因子表面上の他のドメインと結合することによってプロモーターへ召集される。単球では、IL−1βプロモーターの主要な転写因子がSpi−1(PU.1ともいう)である。Spi−1は、転写因子であるETSファミリーのメンバーであり、造血中は細胞系譜の決定(lineage commitment)において中心的役割を果たし、そして中でもTNFα、IL−6、およびミエロペルオキシダーゼを含む免疫系中の複数のエフェクター遺伝子のトランス活性化に重要である(Friedman, A. D. (2002) Oncogene 21(21): 3377-90)。Spi−1は、IL−1βプロモーター上の2個の別々の標的部位と結合し、そして機能するためには別の転写因子であるC/EBPβも必要としうる(Kominato, Y., D. Galsonら,(1995) Mol Cell Biol 15(1): 59-68)。
【0006】
単球細胞系がサイトメガロウイルス(CMV)に感染すると、IL−1βが誘導されることが判明している(Iwamoto, G. K., M. M. Monickら,(1990). J Clin Invest 85(6): 1853-7)。後に、この観察は、CMVにコードされたトランス活性化因子前初期2タンパク質(IE2)は、細胞中にSpi−1と共に同時形質移入すると、IL−1β遺伝子の転写を誘導できることによって説明された。さらに、IE2活性は、IL−1プロモーター上のSpi−1と物理的に相互作用するその能力によって説明された。(Wara-aswapati, N., Z. Yangら,(1999). Mol Cell Biol 19(10): 6803-14)。
【0007】
多数の抗炎症治療が知られ、一般的に使用されている。その最も一般的なものが、アスピリンおよび非ステロイド系抗炎症剤、例えば、ナプロキセン、イブプロフィン(ibuprofin)、ジフルニサル、メフェナム酸、およびケトロラックトロメタミンである。一般的に、これらの薬剤は、短期の軽度の炎症および疼痛の治療に使用される。関節炎など、さらに重篤な炎症性疾患は、グルココルチコイドおよびアンタゴニスト抗体によって治療する。一般的に、前者は、多くの副作用のために慢性的にはあまり忍容性が高くなく、後者は製造するには非常に高価である。
【0008】
炎症を低減する抗腫瘍壊死因子(TNF)モノクローナル抗体が入手可能であり、現在、リューマチ性関節炎の治療にRemicadeTMおよびHumiraTMなどが市販されている。しかし、近年、これらの抗体の投与によって、癌と同様に感染の危険性も増大しうることが分かっている(Bongartzら,(2006) J. of the American Medical Association 295;2275)。
【非特許文献1】Dinarello, C. A. (2002) Clin Exp Rheumatol 20(5 Suppl 27): S1-13
【非特許文献2】van't Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Nad Acad Sci USA 97(14): 7993-8
【非特許文献3】Kato, A., C. Gabayら,(2002) Am J Pathol 161(5): 1797-803
【非特許文献4】Burne, M. J., A. Elghandourら,(2001) J Leukoc Biol 70(2): 192-8
【非特許文献5】Haq, M., J. Normanら,(1998). J Am Soc Nephrol 9(4): 614-9)
【非特許文献6】van't Hof, R. J., K. J. Armourら,(2000) Proc Natl Acad Sci USA 97(14): 7993-8
【非特許文献7】Friedman, A. D. (2002) Oncogene 21(21): 3377-90
【非特許文献8】Kominato, Y., D. Galsonら,(1995) Mol Cell Biol 15(1): 59-68
【非特許文献9】Iwamoto, G. K., M. M. Monickら,(1990). J Clin Invest 85(6): 1853-7
【非特許文献10】Wara-aswapati, N., Z. Yangら,(1999). Mol Cell Biol 19(10): 6803-14
【非特許文献11】Bongartzら,(2006) J. of the American Medical Association 295;2275
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、入手可能なIL−1β特異的阻害薬は数種しかない。遺憾ながら、これらの阻害薬は、IL−1βが既に合成され、放出され、そして機能し始めた後にのみ、標的細胞上のその受容体と結合することによってIL−1βを阻止する。この型のIL−1β阻害は、いくつかの炎症状況によっては遅すぎるであろうし、または治療の有効性を最小限に抑えかねない。抗炎症剤の多くは短時間しか作用せず、重度の副作用を招くことも多く(例えばグルココルチコイド)、かつ/または製造するには高価(例えば、モノクローナル抗体)なので、新規な療法の必要性が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも部分的に、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質のある内部領域に由来するペプチドフラグメントが、炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL−1β)の産生を阻害し、インタクトなIE2の機能を阻止または阻害するという発見に基づく。本発明は、発現がSpi−1により調節される分子、例えば、IL−1βおよび腫瘍壊死因子(TNF)などの炎症促進性サイトカインの発現に干渉する、競合的アンタゴニストを使用することによって、炎症を阻止し、それによって炎症を阻害し、予防し、そして治療するための新規な手法を提供する。
【0011】
単球細胞系がサイトメガロウイルス(CMV)に感染すると、IL−1βが誘導される(Iwamoto, G. K., M. M. Monickら,(1990) J Clin Invest 85(6): 1853-7)。この誘導は、CMVにコードされたトランス活性化因子である前初期2タンパク質(IE2)が、Spi−1との結合後にIL−1β遺伝子の転写を誘導することができるために生じる(Wara-aswapati, N., Z. Yangら,(1999) Mol Cell Biol 19(10): 6803-14)。
【0012】
IE2タンパク質は、細胞でのCMVの複製に役立つ。CMV IE2のアミノ酸配列の一例を配列番号4として記載し、CMV IE2ヌクレオチド配列の一例を配列番号5として記載する(Stenberg, RM, Depto, ASら,(1989) J Virol 63(6): 2699-2708; Stenberg RM, Witte, PRら,(1985) J Virol 56(3): 665-675、およびChee, M. S., Bankier, A. Tら,(1990) Curr. Top. Microbiol. Immunol. 154: 125-169も参照)。IE2は、DNAとタンパク質に結合活性を有する、ウイルスおよび宿主細胞の強力な遺伝子トランス活性化因子である。IE2をSpi−1と共に細胞中に同時形質移入すると、IL−1β遺伝子の転写が誘導される。転写因子C/EBPβもIL−1β遺伝子の転写に関与する。
【0013】
IL−1βプロモーターにおけるSpi−1およびC/EBPβの機能は、遺伝子レポーターアッセイによって実証される(図1Bおよび1C)。これらの研究では、HeLa S3細胞(Spi−1を発現しない非骨髄球細胞系)に、ホタルルシフェラーゼ遺伝子に連結させたIL−1βプロモーターを含むレポーターベクターを一時的に形質移入させた。これらの転写因子のcDNAを含む真核生物発現ベクターを加えると、このベクターは、滴定可能な方式でルシフェラーゼレポーターを発現する。レポーターアッセイでSpi−1およびC/EBPβを同時発現させると、IE2によるIL−1βプロモーターの超活性化が観察された(図1D)。
【0014】
本発明は、少なくとも部分的に、CMV IE2タンパク質のペプチドフラグメントが、競合的アンタゴニストとして、炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1β、TNF(例えば、TNFα)IL−6、さらにミエロペルオキシダーゼ、および転写がSpi−1によって調節される他の分子の転写に必要な天然の転写因子の機能を阻止または阻害し、それによってこれらのサイトカインおよび他の分子の発現を阻害し、さらにインタクトなIE2の機能を阻止または阻害する機能を有するという驚くべき発見に基づく。
【0015】
炎症の初期段階を阻害することによって、本発明は市販の抗炎症剤またはアンタゴニスト、例えば、グルココルチコイドまたはモノクローナル抗体よりも有利である。これらの市販薬は、炎症カスケードの最初期事象を停止させることができず、かつ慢性的に使用すると著しい副作用を示し、または製造するには高価である。
【0016】
従って、本発明の一態様は、CMV IE2タンパク質の単離したポリペプチドフラグメント(例えば、配列番号4中のIE2 291−364およびIE2 291−343)を対象とし、これらのフラグメントは、IL−1βおよび他の炎症促進性サイトカインの発現を阻止することによって炎症を阻害する能力を有する。本発明の別の態様は、IE2 291−364ポリペプチド中に含まれるSpi−1最小相互作用領域(配列番号4中のIE2 315−328)を含む小型ペプチドを対象とする。すなわち、一態様では、本発明は、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基315−328(配列番号4中のIE2 315−328)、好ましくは配列番号4中のヒトCMV(hCMV)IE2 315−328を含む単離したポリペプチドを対象とする。好ましい態様では、本発明のポリペプチドは、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)、およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)を含み、またはそれらからなるIE2タンパク質フラグメントである。本発明はまた、上記のポリペプチドのフラグメントであるポリペプチド、および上記のペプチドに少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上相同するポリペプチド、同様にそれらの誘導体も提供し、その際、そのポリペプチドは、Spi−1に結合し、かつ/または炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1βまたはTNFなど、Spi−1調節型分子の転写を阻害する能力を保持する。
【0017】
別の態様では、本発明は、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)を含み、かつIE2の全長アミノ酸配列未満までで、少なくとも約14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、150、160、170、180、190、200アミノ酸長以上であり、ならびにSpi−1に結合し、かつ/または炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1βまたはTNFなど、Spi−1調節型分子の転写を阻害する能力を保持する、IE2ポリペプチド/IE2フラグメントを対象とする。
【0018】
本発明はまた、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントをコードする核酸分子も対象とする。
【0019】
本発明は、IE2ペプチドフラグメントに限定されない。本発明の転写阻害薬はまた、Spi−1に結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子の転写を阻害するように機能する、ペプチド模倣体および低分子も含む。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、本発明の転写阻害薬の治療有効量および製薬上許容される担体を含む医薬組成物を対象とする。
【0021】
一態様では、本発明は、それを必要とする対象に本発明の転写阻害薬または医薬組成物の十分な量を投与するステップによる炎症を阻害する方法を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる炎症性疾病を治療する方法を提供する。本発明が企図する炎症性疾病には、それだけには限らないが、関節炎、リューマチ性関節炎、自己免疫疾患(例えば、炎症性腸疾患および全身性エリテマトーデス)、固形臓器の移植、急性感染、急性期応答、アレルギー性喘息、摂食障害、喘息、悪液質、心血管作用、凝血、発熱、歯肉炎、移植片対宿主疾患、出血、多発性硬化症、新生血管緑内障、骨関節炎、歯周病、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ熱、ショック、ならびに固形腫瘍増殖および二次転移による腫瘍浸潤が含まれる。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に、それだけには限らないが、選択的COX−2阻害薬、インターロイキン−1アンタゴニスト、ジヒドロオロト酸合成酵素阻害薬、p38MAPキナーゼ阻害薬、TNF−α阻害薬、TNF−α金属イオン封鎖剤、およびメトトレキサートを含む一種または複数の追加の抗炎症剤と組み合せて、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる、炎症性疾病の治療する方法を提供する。個々の阻害薬による治療では、ヒトでの試行において結果に著しい改善が見られない敗血症性ショックのような疾患で、この手法は成果をあげることができる(Vincent, J. L. (1997). "New therapies in sepsis." Chest 112(6): 330S-338)。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、単球などの細胞と、ポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬の十分な量とを接触させるステップを含む、細胞中で炎症促進性サイトカイン、例えば、IL−1βまたはTNFの発現を阻害する方法を提供する。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、対象に、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMV感染に随伴する疾患または疾病を治療する方法を提供する。一実施形態では、CMVに随伴する疾患または疾病は、例えば、CMV網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、または疲労である。
【0026】
別の態様では、本発明は、細胞と、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬とを接触させるステップを含む、細胞中でCMVの発現を阻害する方法を提供する。
【0027】
さらに別の実施形態では、本発明は、対象に、本発明のポリペプチド/IE2フラグメントなどの転写阻害薬、医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMVウイルス感染を治療し、予防し、または制限する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、少なくとも部分的に、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質の内部領域に由来するペプチドフラグメント(例えば、配列番号4中のIE2アミノ酸315−328、例えば、配列番号4中のIE2アミノ酸291−364または291−343を含む、ヒトCMV(hCMV)IE2フラグメント)は、炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL−1β)の産生を阻害し、そしてインタクトなIE2の機能を阻止または阻害するという発見に基づく。IL−1βは、炎症カスケードの最初期段階の一つに関与するので、本発明によって実現するIL−1βの阻害によって、順次、炎症または炎症性疾患が予防され治療されうる。
【0029】
IL−1βに加えて主要な炎症促進性遺伝子(腫瘍壊死因子(TNF)をコードするものを含む)は、Spi−1に類似する転写因子を必要とするので、特定の実施形態では、本発明の転写阻害薬は、それだけには限らないが、TNFαなどのTNF、IL−6、およびリソソーム酵素ミエロペルオキシダーゼを含む、これらの追加の分子の発現も阻止できると本発明は考えられる。従って、他の多くの抗炎症剤は炎症の一経路しか阻止しないので、本発明の転写阻害薬は有利な抗炎症剤である。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、本発明の転写阻害薬は、遺伝コードをタンパク質に転換する初期過程である遺伝子転写レベルで、IL−1βの産生を阻害する小型のアンタゴニストペプチドである。特定の理論によって制限する意図はないが、炎症カスケードの初期段階でIL−1βの産生を減少させることにより、ある型の炎症応答を阻害して治療上の利益を得られる可能性が高まると考えられる。また、IE2フラグメントなどの小型のペプチドは、製造するのが容易、すなわち安価であり、従って本発明は医薬開発において魅力的な選択になると考えられる。本発明が提供するIE2フラグメントおよびその同定された標的転写因子相互作用部位は、別の種類の新規抗炎症薬として役立ちうる、さらに小型の分子を開発するための基礎として使用できるということも企図されている。
【0031】
また、特定の理論によって制限する意図はないが、本発明のIE2フラグメントは、Spi−1と結合するが、遺伝子の転写を活性化する機能は持たないと考えられる。というのは、IE2フラグメントは、転写を起こさせるのに必要なIE2タンパク質の機能性成分が欠損しているからである。本IE2フラグメントは、Spi−1との結合を求めてインタクトな機能性IE2タンパク質と競合し、それによってIL−1βなどの炎症性サイトカイン、および他のSpi−1調節型分子の転写を阻害すると考えられる。また、IE2ペプチドフラグメントは、感染細胞内でCMVの発現を阻害することにより、抗ウイルス剤として有効で有り得ると考えられる。それはIE2ペプチドが、IE2依存性遺伝子の作用を阻止することもできることが実証されたからである。
本明細書で使用するように、「転写阻害薬」または「アンタゴニスト」という用語は、Spi−1調節型遺伝子、例えば、それだけには限らないが、IL−1β、TNFαなどのTNF、IL−6、およびミエロペルオキシダーゼなどの転写を阻害できるあらゆる分子を含むものとする。アンタゴニストは、例えば、本発明のIE2タンパク質フラグメント、ペプチド模倣体、核酸分子、または低分子を含みうる。転写阻害薬は、CMVの発現および/または感染を阻害するために使用することもできる。本明細書で使用するように、本発明の「抗炎症剤」という用語は、上記アンタゴニストのいずれかを含み、ペプチドに限定されない。
【0032】
「炎症性疾病」、「炎症性疾患」、または「炎症状態」は、毛細管拡張、白血球性浸潤、発赤、発熱、疼痛、腫脹、およびしばしば機能喪失によって特徴付けられる細胞損傷に対する局所的な応答を伴う、または局所的な応答を引き起こす傾向がある状態を意味する。「炎症性疾病」、「炎症性疾患」、または「炎症状態」における哺乳動物の身体防御および修復機序は、IL−1βの機能に依存すると考えられる。「炎症性疾病」、「炎症性疾患」、または「炎症状態」は、自己免疫疾患または疾病も含む。
【0033】
「CMV感染に随伴する疾患または疾病」は、CMVによる感染に関する、またはCMVによる感染によって生じたあらゆる疾患、疾病、または状態を意味する。CMV感染に随伴する疾患または疾病には、それだけには限らないが、CMV網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、および疲労が含まれる。
【0034】
「IE2フラグメント」は、任意の前初期2(IE2)タンパク質に由来し、炎症促進性サイトカインの転写を誘導しないペプチドフラグメントを意味する。IE2フラグメントは、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328を含むが、炎症促進性遺伝子(例えば、IL−1βおよびTNF)の転写を誘導するのに必要な、そのIE2タンパク質中のいかなる機能性成分も含まないペプチドフラグメントであることが好ましい。より好ましくは、配列番号4中のアミノ酸残基291からアミノ酸残基364の範囲のhCMV IE2タンパク質領域に由来し、配列番号4中のアミノ酸残基315−328を含むペプチドフラグメントが本発明によって企図される。
【0035】
「治療有効量」は、状態または疾患、特に炎症状態または炎症性疾患を治療するのに必要な用量を意味する。「治療有効量」は、細胞中で、炎症またはCMV感染を阻害するのに有効であると主張する、ポリペプチド/本発明のIE2フラグメントの量、または複数のポリペプチド/IE2フラグメントの組合せの量を含むものとする。
【0036】
「治療」または「治療する」という用語は、哺乳動物における、特にヒトにける疾患状態、例えば、炎症性疾患または疾病または感染の治療を意味し、以下を含む。(a)哺乳動物で疾患状態が発生しないように予防することであって、特に、哺乳動物が疾患状態になりやすいが、まだその疾患または状態にあるとは診断されていない場合に予防すること、(b)疾患状態を阻害すること、すなわち、その進行(development)を抑止すること、(c)疾患状態、または感染、またはそれらの臨床症状を低減し、軽減し、または寛解すること、すなわち、疾患状態の退行を引き起こすこと;および/または(d)疾患の継続時間を短縮すること。
【0037】
疾患状態を「予防する」と、その用語を本明細書で使用するように、つまり、炎症性疾患または感染などの疾患状態にあるとはまだ診断されていない個体に与薬を行う場合、その個体が、疾患状態と診断されるに至るという危険性が減少する。
【0038】
感染を「制限する」ことは、その用語を本明細書で使用するように、個体内で、かつ/または個体間で感染の伝播を制限することを意味する。
【0039】
「対象」は、任意の哺乳動物対象、好ましくはヒトをさす。
【0040】
I.ポリペプチド
本発明によれば、IE2タンパク質のペプチドフラグメント、例えば、配列番号4中のアミノ酸領域291−364間のペプチドフラグメントは、IL−1βプロモーター上でSpi−1の機能を阻害することができる。一実施形態では、Spi−1と相互作用する本発明のペプチドフラグメントは、IE2のアミノ酸291−264中の14アミノ酸領域(IE2 315−328)である。
【0041】
本発明の別の実施形態は、少なくとも一種のポリペプチド/本発明のIE2フラグメントを含む、抗炎症剤を対象とする。
【0042】
特定の理論によって制限する意図はないが、IE2フラグメントは、Spi−1 ETSドメイン(DNA結合ドメイン)相互作用領域を含み、そしてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)または緑色蛍光タンパク質(GFP)主鎖の存在下で三次構造的統合性を保持すると考えられる。IE2フラグメントには、IE2のトランス活性化ドメインの大部分が欠損しているので、IL−1βプロモーター上で協同的IE2/Spi−1相互作用を阻止することによって、IE2フラグメントは優性阻害機能をもたらし、それによってIL−1βの転写を低減させ、従って抗炎症剤として機能すると考えられる。
【0043】
本発明の一実施形態は、サイトメガロウイルス(CMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)、好ましくはヒトCMV(hCMV)IE2 315−328を含む、単離しまたは精製したポリペプチドであって、炎症を阻害するポリペプチドを対象とする。好ましい実施形態では、本発明のポリペプチドは、それだけには限らないが、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)を含むIE2タンパク質フラグメントである。本発明のポリペプチドはまた、Spi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFの転写を阻害する能力を保持する、IE2のアミノ酸291−364中に含まれる任意のIE2タンパク質フラグメント、例えば、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)(配列番号3)およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)なども含む。さらに、本発明のポリペプチドフラグメントは、全長IE2タンパク質未満ではあるが、少なくとも約14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75アミノ酸またはそれ以上でありうる。本フラグメントはまた、本ポリペプチドの阻害機能に作用しない、IE2のアミノ酸291−364の外側の追加のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0044】
本発明のポリペプチドは、上に挙げた配列中のアミノ酸の一つまたは複数が、別の天然または非天然アミノ酸で置換されている、上記ポリペプチドの誘導体または類似体も含み、その際、そのポリペプチドは、その活性、例えば、Spi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFの転写を阻害する能力を保持する。好ましくは、保存的アミノ酸置換は、一個または複数の予想される非必須アミノ酸残基で行われている。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似する側鎖を有するアミノ酸残基によって置換されているものである。類似する側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは当技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタリン(glutarine)、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0045】
ある実施形態では、アミノ酸と同様の置換または交換である相同置換、例えば、塩基性アミノ酸に対して塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸に対して酸性アミノ酸、極性アミノ酸に対して極性アミノ酸なども生じうる。非相同置換が生じることもあり、すなわち、一クラスの残基が別のクラスの残基へ置換されて、または代わりに非天然アミノ酸、例えば、オルニチン、ジアミノ酪酸オルニチン、ノルロイシンオルニチン、ピリイルアラニン(pyriylalanine)、チエニルアラニン、ナフチルアラニンおよびフェニルグリシンなどの封入を伴って生じることもある。アミノ酸置換は、変異体ペプチドの疎水性、変異体ペプチドの両親媒性性質を高め、そして変異体ペプチドがα−へリックス構造または下部構造を形成する確率を上昇しまたは低下させるために選択することができる。
【0046】
他の実施形態では、本発明のポリペプチドは、上記のアミノ酸配列に実質的に同一であり、そしてSpi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えばそれだけには限らないが、IL−1βまたはTNFなどの炎症促進性サイトカインの転写を阻害する能力を保持し、さらに天然対立形質の変化または変異誘導のためにアミノ酸配列が異なる。別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、上記のペプチドに少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上相同するアミノ酸配列を含む。
【0047】
本発明のポリペプチド/IE2フラグメントまたは抗炎症剤は、公知の組換え分子生物学手順(例えば、Mullisら,Methods Enzymol. 155: 335-50 (1987)およびAusubelら,Current Protocols in Molecular Biology, 例えば3.17.1-10ページ)によって調製することができる。本発明のポリペプチドはまた、ペプチドライゲーション法(例えば、Dawsonら,Science 266: 776-9 (1994)およびColiganら,Native chemical ligation of polypeptides, Wiley: 18.4.1-21 (2000) 参照)によって合成しうる。ポリペプチド、模倣体、およびそれらの変異体は、当技術分野で公知の標準的化学的合成法(例えば、Applied Biosystems社から購入できるペプチドシンセサイザー)によって産生させることができる。
【0048】
本発明のポリペプチドは、標準的精製手順を使用し単離することができる。「単離した」、または「精製した」ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、そのタンパク質が由来する細胞または供給源からの細胞性物質または他の混入タンパク質を実質的に含まない、あるいは化学的に合成した場合、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「実質的に含まない」は、非IE2ポリペプチド(本明細書では「混入タンパク質」ともいう)または、化学的前駆体、または非受容体、またはリガンドケミカルを約30%、20%、10%、より好ましくは5%(乾燥重量による)未満含む、ポリペプチドまたはその変異体を調製すること意味する。本ポリペプチドまたはその生物活性部分を組換えによって産生する場合、実質的に培地を含まないことが多く、具体的にはその場合、培地は、ポリペプチド調製物の容量の約20%未満、約10%未満、およびしばしば約5%未満を占める。単離し、または精製したポリペプチド調製物は、乾燥重量で0.01mg以上、または0.1mg以上、およびしばしば1.0mg以上、および10mg以上でありうる。
【0049】
同様に本発明に含まれるものは、追加の化合物、例えば、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)、PEG化されたペプチド(一個または複数の結合ポリエチレングリコール分子を有する)、または核移行シグナル(NLS)などに融合されたIE2ペプチドフラグメントである。さらに、本発明のIE2フラグメントは、第2のタンパク質に連結させることも、またはペプチドは、IE2ではない大型のペプチド中に含めて、例えば、細胞中での安定性を増大させることもできる。
【0050】
本明細書に記載したペプチドに加えて、本発明の転写阻害薬は、本IE2ポリペプチドフラグメントの阻害活性を模倣する、小さなペプチド様分子であるペプチド模倣体も含む。
【0051】
II.核酸分子
本発明の別の態様は、本発明のポリペプチドをコードする、単離した核酸分子に関連する。例えば、本発明は、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)(配列番号3)、およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)、およびそれらの相補鎖をコードするIE2核酸分子フラグメントを含む。Spi−1と結合し、かつ/またはSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFの転写を阻害する能力を保持するポリペプチドをコードする、これらの単離した核酸分子のフラグメントも本発明に含まれ、同様に上記のポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列の全長に少なくとも約80%,81%,82%、83%、84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含む単離した核酸分子、あるいはSpi−1と結合し、かつ/または炎症促進性サイトカインなどのSpi−1調節型分子の転写を阻害する能力を保持する、これらのヌクレオチド配列のいずれかの一部、およびそれらの天然対立形質変異体および相同物も含まれる。
【0052】
本明細書で使用するように、「核酸分子」という用語は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)およびRNA分子(例えばmRNA)、ならびにヌクレオチド類似体を使用して発生させたDNAまたはRNAの類似体も含むものとする。その核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってよいが、二本鎖DNAが好ましい。
【0053】
「単離した核酸分子」という用語は、その核酸の天然源中に存在する他の核酸分子から分離させた核酸分子を含む。例えば、ゲノムDNAに関しては、「単離した」という用語は、そのゲノムDNAに自然に付随する染色体から分離させた核酸分子を含む。好ましくは、単離した核酸は、その核酸を派生させたDNA中でその核酸を自然に側置する配列(すなわち、その核酸の5’および3’末端に位置する配列)を含まない。さらに、「単離した」核酸分子は、組換え技術によって産生した場合は、他の細胞性物質または培地を実質的に含まず、あるいは化学的に合成した場合は、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まないようにすることができる。
【0054】
III.追加の抗炎症剤
特定の実施形態では、本発明はまた、IL−1βの産生を阻害する薬物設計法であって、それだけには限らないが、懸垂液滴法(hanging drop)、放置液滴法(sitting drop)、自由液体拡散法、バッチ法、またはマイクロバッチ法を含む当技術分野で十分に確立された任意の結晶化設備を使用し、IE2 315−328およびSpi−1 ETSドメインを共結晶化するステップ、Spi−1 ETSドメインタンパク質上のIE2 315−328の少なくとも一つの結合部位の三次元表示を得るステップ、リガンド結合部位の三次元表示に、少なくとも一種の候補リガンド化合物、好ましくは分子サイズがIE2のアミノ酸315−328よりも小さいリガンド化合物を重ねるステップ、候補化合物と結合部位間の結合を評価するステップ、およびそのリガンド結合部位に空間的に適合する化合物を選択するステップを含む薬物設計法も企図する。
【0055】
IV.医薬組成物およびその投与
別の実施形態では、本発明は、少なくとも一種の本発明の転写阻害薬、例えば、本発明の、ポリペプチド/IE2フラグメント、ポリペプチド/IE2フラグメントをコードするDNA分子、ペプチド模倣体、または低分子、あるいはそれらの組合せの治療有効量、および製薬上許容される担体を含む医薬組成物を対象とする。
【0056】
IE2フラグメント、またはIE2フラグメントコードする核酸、または本発明の転写阻害薬以外の転写阻害薬を含む医薬組成物の活性成分は、例えば、炎症の阻害で、および炎症性疾病もしくは疾患またはCMV感染の治療で有効な治療活性を示すと考えられる。従って、IE2フラグメントなどの転写阻害薬を含む本治療組成物の活性成分は、特定の疾患に依存する治療量で投与する。限定しない具体例として、有効量は、対象の体重に応じて約1mg〜1g/kg、約1〜100mg/kg、または約5〜20mg/kgの範囲であろう。例えば、リューマチ性関節炎を治療するためのIE2フラグメントのピーク血中濃度は、一日当たり100mg〜1000mgを使用し約5〜100mcg/mlでありうる。投与計画は、最適治療応答を提供するように調節することができる。本発明による医薬組成物は、部分用量、単一用量、または複数回用量を含むことができる。例えば、数回分割用量は、毎日投与することができ、または当該用量は治療状況の緊急性によって示される通りに比例的に減少させることもできる。いくつかの実施形態では、本組成物は関節炎治療など、局所的に、または全身に投与される。
【0057】
IE2 315−328、IE2 291−343、およびIE2 291−364など、本転写阻害薬の一種または複数の形態の投与も企図される。一実施形態では、本発明のIE2ポリペプチドフラグメントは、これらと、細胞膜を超えるペプチドの輸送を促進するために、追加の形質導入配列、例えばタンパク質形質導入ドメイン(PTD)とを結合することによって細胞に送達される。タンパク質形質導入ドメインは、効率よく、そしてトランスポーターまたは特異的受容体から独立して生体膜を通過し、細胞へのペプチドおよびタンパク質、DNA、および他の化合物の送達を促進する小型タンパク質ドメインである。PTDの例は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)のTATタンパク質ドメイン、アンテナペディアホメオドメインの第3α−へリックスドメイン、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質ドメイン、およびポリアルギニンドメインである。例えば、公開されているTat形質導入シグナルペプチド配列YARAAAAQARA(配列番号6)を使用することができる。他のPTDも当技術分野で公知であり、例えば、Mi, Z.ら,(2000) Mol. Therapy (4):339-47; Ryu, Jら,(2003) Mol Cells., 16(3):385-91; Matsuiら,(2003) Curr Protein Pept Sci. (2):151; Matsuiら,(2003) Nippon Yakurigaku Zasshi 121(6):435; Dietz, G. P.およびBahr, M. (2004) Mol. Cell. Neurosci. 27(2):85; Torchilin (2006) Annual Review of Biomedical Engineering 8: 343-375;およびHaradaら,(2006) Breast Cancer 13(1):16にも記載されている。別のPTDは、米国特許第6,881,825号、および米国特許出願第20030104622号A1、同第20030219826号A1、および同第20050074884号A1に記載されている。Pep−1と称する別のペプチド担体も記載され、本発明のポリペプチドを送達するために使用することができる。Morris, M.ら,Nat Biotechnol. 2001 (12):1173-6。上記の全ての文献の内容を明示して、参照により本明細書に組み込む。
【0058】
投与経路に応じて、転写阻害薬を含む本活性成分は、酸、および成分を不活化させうる他の自然条件の作用から成分を保護するために、物質でコートする必要があるかもしれない。例えば、転写阻害薬は、例えばプロテアーゼによる分解から転写阻害薬を保護するために(例えば、Arhewohら,2005, African J. Biotechnol 4:1591-1597を参照)、アジュバントで、またはリポソーム、微小球、ナノ粒子(Shinjiら,1997, Int.J. Pharmacol. 149:93-106参照)またはマイクロカプセルで投与することができる。本明細書で考えられるアジュバントには、レゾルシノール、非イオン界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびn−ヘキサデシルポリエチレンエーテルが含まれる。リポソームには、従来のリポソームと同様に水中油滴中水滴P40乳濁液が含まれる。さらに特定の非限定的な例には、キトサンで被膜したアルギン酸ビーズ中の転写阻害薬、ヒドロゲル製剤中の転写阻害薬(例えば、Blanchetteら,2004, Biomed. & Pharmacother. 58:142-151参照)、経肺投与に適応させた液体製剤または乾燥粉製剤中に入れた転写阻害薬(例えば、Patton, 1997, Chemtech 27(12)27(12):34-38 and Patton, 1998, Nature Biotechnol. 16:141-143参照)、マトリックス放出器具中に組み込まれた転写阻害薬(Krishnaiahら,2001, J. Controlled Rel. 77:87-95参照)、またはプロドラッグ形の転写阻害薬(参照、Yanoら,2002, J. Controlled Rel. 79:103-112)を含む、製剤のカプセル化が含まれる。
【0059】
通常の保存および使用条件下では、本発明の調製物は、微生物の増殖を防止するために防腐剤を含む。注射に使用するのに適切な医薬形には、(水溶性)滅菌水溶液、または滅菌注射液もしくは分散液の即席調製用の分散液および滅菌粉末が含まれる。全ての場合において、形態は滅菌されていなければならず、容易に注射できる程度に液体でなければならない。製造および保存条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の混入作用がないように保存しなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被膜の使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用は、様々な抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって防止することができる。多くの場合、糖類または塩化ナトリウムなどの等張化剤を含めることも好ましいであろう。注射可能な組成物は、組成物に吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することよって、長時間吸収させることができる。
【0060】
滅菌注射液は、必要に応じて上記に列挙した様々な他の成分と共に、好適な溶媒中に本活性化合物を必要量組み込み、続いてろ過滅菌することによって調製される。一般的に、分散液は、基本的分散媒、および上記列挙したものから必要とされる他の成分を含む滅菌ビヒクル中に、様々な本滅菌活性成分(すなわち、IE2フラグメント、またはIE2フラグメントをコードするDNA分子、またはそれらの組合せ)を組み込むことによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合には、好適な調製方法は、真空乾燥技術および凍結乾燥技術であり、これらの技術によって、本活性成分に任意の追加所望成分を加えた粉末が、予めその滅菌ろ過した溶液から得られる。
【0061】
投与を容易にし投薬量を均一にするためには、単位用量形に組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書で使用する単位用量形は、単位投薬量として、治療する哺乳動物対象に適した物理的に別個の単位をさし、各単位は、必要な医薬用担体と共に、所望の治療効果をもたらすように計算された本活性物質の所定量を含む。本発明の新規な単位用量形の規格は、(a)本活性物質の特性および達成すべき特定の治療効果、ならびに(b)本明細書で詳細に開示するように身体健康状態が損なわれている状態の生体対象で、損傷を治療するための活性物質など、配合の技術分野での固有の限界によって決定され直接それらに依存する。
【0062】
主要な活性成分は、有効量で好都合に有効に投与するために、適切な製薬上許容される担体と共に、上記に開示するように単位用量形に調合される。単位剤形によって、例えば、一日当たり約100mg〜約1000mgの投薬量で、本発明のIE2ペプチドフラグメントの血中濃度を、例えば、約2mg〜約30mg/mlにすることができる。
【0063】
本発明の医薬組成物は、その意図した投与経路と適合するように製剤化する。投与経路の例には、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所的)、経粘膜、関節内、くも膜下腔内、眼内、脳室内、および経直腸投与が含まれる。本明細書で使用する「製薬上許容される担体」には、任意の全ての溶媒、分散媒、被膜、抗菌薬および抗真菌薬、等張化剤および吸着遅延剤などが含まれる。薬学活性物質にそのような媒体剤を使用することは、当技術分野で公知である。従来のいかなる媒体も、または薬剤も、本活性成分と不適合である場合を除き、治療組成物でのその使用が企図される。補足的な活性成分もまた、本組成物中に組み込むことができる。
【0064】
記載の医薬組成物は、医療器具内に収めてもよい。限定しない一例では、その器具は注射器である。別の非制限的な例では、その器具は吸入器であり、その際、具体例では、その吸入器は、陽圧送達することができる(参照、米国特許第6,708,688号)。
【0065】
IE2フラグメントなどの転写阻害薬の投与は、本転写阻害薬の変化させた形態または誘導体、あるいは対象でのその活性、安定性、または到達性を高める薬物も含みうる。適用可能な転写阻害薬増強薬物の同定は、上記のように共結晶化を使用する薬物設計法によって、あるいは薬物または転写阻害薬の(IE2フラグメントの)インビトロでのリン酸化の効果を検査することによって、容易に試験しまたはスクリーニングされる。
【0066】
それを必要とする対象へのIE2フラグメントをコードするDNAの投与は、遺伝子転移技術によっても行うことができる。そのような技術には、それだけには限らないが、ウイルス、リポソーム、ならびにDNAまたはRNAの変化させた形態または誘導体が含まれる。
【0067】
V.使用法
本発明は、炎症性疾患または疾病を治療し、制限し、または予防し、あるいはCMV感染または関連疾病を治療し、制限し、または予防するための、対象での転写阻害薬の使用を提供する。適切な転写阻害薬は先に記載され、前記転写阻害薬を含む適切な医薬組成物も同様に記載されている。
【0068】
一態様では、本発明は、細胞中でSpi−1調節型分子、例えば、IL−1βまたはTNFなどの炎症促進性サイトカインの発現を阻害する方法であって、単球などの細胞と、転写阻害薬の十分な量とを接触させるステップを含む方法を提供する。
【0069】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に本発明の転写阻害薬または医薬組成物の十分な量を投与するステップによる炎症を阻害する方法を提供する。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に、本発明の抗炎症剤または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる、炎症性疾病を治療する方法を提供する。本発明が企図する炎症性疾病は、それだけには限らないが、関節炎、リューマチ性関節炎、自己免疫疾患(例えば、炎症性腸疾患および全身性エリテマトーデス)、固形臓器の移植、急性感染、急性期応答、アレルギー性喘息、摂食障害、喘息、悪液質、アテローム性動脈硬化症、回復期(resolving)心筋梗塞、凝血、発熱、歯肉炎、移植片対宿主疾患、出血、多発性硬化症、新生血管緑内障、骨関節炎、歯周病、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ熱、ショック、ならびに固形腫瘍増殖および二次転移による腫瘍浸潤を含む。
【0071】
さらに別の実施形態では、本発明は、それを必要とする対象に、それだけには限らないが、非ステロイド系抗炎症剤(例えば、NSAIDS)、アスピリン、コルチコステロイド、選択的COX−2阻害薬、インターロイキン−1アンタゴニスト、ジヒドロオロト酸合成酵素阻害薬、p38MAPキナーゼ阻害薬、TNF−α阻害薬、TNF−α金属イオン封鎖剤、およびメトトレキサートを含む、一種または複数の追加の抗炎症剤と組み合せて、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップによる炎症性疾病の治療する方法を提供する。
【0072】
本発明は、対象に、本発明の転写阻害薬または医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMV感染に随伴する疾患または疾病を治療する方法も提供する。一実施形態では、CMVに随伴する疾患または疾病は、CMV網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、および疲労からなる群から選択される。
【0073】
別の態様では、本発明は、細胞と本発明のポリペプチド/IE2フラグメントとを接触させるステップを含む、細胞中で、CMVの発現または感染を阻害する方法を提供する。関連する態様では、本発明は、対象に、本発明の、ポリペプチド/IE2フラグメント、抗炎症剤、または医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でCMVウイルス感染を治療し、予防し、または制限する方法を提供する。
【0074】
例えば、医薬組成物に含まれるような転写阻害薬の治療有効量は、それだけには限らないが、(例えば、経鼻または経肺)エアロゾル、経口、皮下、局所的、眼内、筋肉内、静脈内、くも膜下腔内などを含む、任意の既知の投与経路によって投与することができる。
【0075】
本転写阻害薬は、単一用量、または長期にわたって投与される複数回用量で投与してもよい。複数回用量間の時間間隔の限定しない例には、4時間まで、8時間まで、12時間まで、24時間まで、36時間まで、48時間まで、72時間まで、1週間まで、2週間まで、1ヵ月まで、2ヵ月まで、3ヵ月まで、4ヵ月まで、6ヵ月、および1年までが含まれる。
【0076】
転写阻害薬の有効量は、予防的に、あるいは疾患または疾病に罹患している人、または炎症性疾患または疾病の危険にさらされている人、またはCMVウイルスに曝露されていることが分かっている、または懸念される人との状況において投与しうる。
【0077】
以下の非制限的な実施例によって本発明をさらに例示する。
【実施例】
【0078】
方法および物質
細胞培養
HeLa細胞(S3株)をATCCから入手し、推奨に従って培養した。手短に言えば、細胞を10%FBSおよび0.5%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。細胞を剥離するために、トリプシン(0.25%)EDTA(0.1%)(Cellgro)を使用し3日毎に細胞を1:10分割した。
【0079】
レポーター構築体および発現ベクター
プロモーター−ルシフェラーゼレポータープラスミドを構築するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、ヒトIL1βプロモーター領域(−131+12および−59/+12およびその変異体(図1A)を生成し、pGL3−ベーシックベクター(Promega)のMlu IおよびBgI IIまたはHind III部位に挿入した。HCMV IE発現ベクターpEQ273およびpEQ326は、pGEM1ベクターに挿入したゲノムHCMV IE DNAを含む。NFIL6 cDNAを発現ベクターpcDNA3.1またはpcDNA1(Invitrogen)に挿入することによって、全長NFIL6と、2個のSp1 I制限部位間に内部欠失を有する切断型異形とを発現するプラスミドを構築した(Tsukada, J., K. Saitoら,(1994) Mol Cell Biol 14(11): 7285-97)。pcDNA3.1に、PCR増幅した、アミノ酸269−345をコードするNFIL6フラグメントを挿入することによって、NFIL6のbZIP領域を含む発現ベクターを構築した(Yang, Z., N. Wara-Aswapatiら,(2000) J Biol Chem 275(28): 21272-7)。
【0080】
形質移入およびレポーター遺伝子アッセイ
Effectene試薬(Qiagen Inc.)を使用し、HeLa(S3)細胞に発現ベクターとルシフェラーゼレポータープラスミドを形質移入した。形質移入の24時間前に、細胞を24ウェルプレートに播種した。ウェル間で比較可能な形質移入効率を確実に得られるように、様々な量の親ベクターおよび/またはNFIL6またはIEタンパク質を発現するベクターを加えることによって、各実験内でウェルごとに形質移入したDNAの全量を一定に維持した。これらのベクターからの発現は、ウェスタンブロッティングによって確認した。形質移入24時間後または48時間後に、(Promega社製試薬を使用し)ルシフェラーゼ活性およびβ−ガラクトシダーゼ活性を定量して、プロモーターの活性を測定し、そしてそれぞれ、各実験でルシフェラーゼ活性を規準化できるようにした。エラーバーは、3回の反復の最小値の標準誤差を表す。
【0081】
融合タンパク質の精製およびGSTプルダウンアッセイ
前記方法(Wara-aswapati, 1999)を使用し、大腸菌BL21(DE)pLysS(Promega, ウィスコンシン州マディソン)からGST融合タンパク質を収集した。手短に言えば、培養を3、4時間0.5mM IPTGで誘導し、ペレットを1mM DTT、PefaBloc(Roche、インディアナ州インディアナポリス)、およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害薬カクテル(Roche)1錠/50mlを含む、NETN緩衝液(20mM Tris、100mM NaCl、1mM EDTA、0.05%NP−40)に懸濁した。氷上で懸濁液を超音波処理し上清を採取した。グルタチオン−セファロースビーズをNETN緩衝液で洗浄し、融合タンパク質と共に4℃で終夜回転させながらインキュベートした。ビーズをNETN緩衝液で3回洗浄し、インビトロで翻訳した当該タンパク質プローブと共に、4℃で45分間回転させながらインキュベートした。氷温NETNで3回洗浄後、ビーズを煮沸し、SDS−PAGEにより分離した。タンパク質を定量するためにゲルをSimplyBlue Safestain(Invitrogen)で染色し、オートラジオグラフィを使用し結合を分析をした。放射標識したタンパク質プローブをインビトロで合成し(TNT T7 Quick Coupled Reticulocyte Lysate System、Promega)、製造業者の使用説明書に従って35Sメチオニン(Amersham)で標識した。
【0082】
実施例1
IE2フラグメントによるIL−1β上でのSpi−1機能の阻害
IE2 291−364による、IL−1βプロモーター上でのSpi−1機能の阻害を試験するために、遺伝子レポーターアッセイを使用した。この系では、ホタルルシフェラーゼをコードするレポーター遺伝子の前でIL−1βプロモーターをスプライスした。Spi−1によりプロモーターが活性化された場合、細胞は、ルシフェラーゼ酵素を産生する。次いで、細胞がいかに明るく輝くかによって酵素活性を測定することができる。この一般的な技術を使用したのは、IL−1βなどの遺伝子産物を測定するよりも、プロモーター機能を測定する方が簡単で感度が高い方法であるからである。
【0083】
Spi−1およびC/EBPβがHeLa−S3細胞中に形質移入されたとき、レポーターは滴定可能な応答を示した(図1Bおよび1C)。しかし、全長野生型IE2 を細胞形質移入に加えたときは、遺伝子活性が4〜10倍増加した(図1D)。これによってIE2の強度が示された。しかし、阻害薬ペプチドを滴定添加した場合は、全長IE2の非存在下および存在下で、レポーターの活性の減少が見られた(図2A−2B)。
【0084】
さらに、IE2 291−364の効果を検証するために、RAW264.7細胞系で試験を行った。この細胞系は、内在性IL1B遺伝子および形質移入したIL1B遺伝子(Shirakawa, F., K. Saito,ら,Id.)のLPS誘導に応答することが示されており、豊富なレベルのSpi−1(Kominato, 1995)およびC/EBPβ(Tsukada, 1994)を発現する。RAW264.7細胞系を細菌細胞壁産生物LPSで処理した場合は、それは、正常単球がIL−1βを産生したのと同様にIL−1βを産生した。IE2−291−364ペプチドは、IL−1βプロモーターレポーターをこの系で約50%阻害した(図3)。
【0085】
より厳密に、IL1β遺伝子発現に及ぼすIE2ペプチドの阻害能力を試験するために、LPS応答エンハンサーおよび細胞型特異的Spi−1−依存性プロモーター(Shirakawa, F., K. Saitoら,(1993). Mol Cell Biol 13(3): 1332-44)を含むIL1B遺伝子の3.8kbpの単球特異的完全調節領域をルシフェラーゼレポーターとして、LPS処理したRAW264.7単球細胞に形質移入した。3.8kbpの完全IL1B調節領域と、Hisタグを含むIE2 291−364ペプチド発現ベクターとの同時形質移入によって、活性の用量依存的阻害がもたらされたことを結果は示している。IE2ベクターの非存在下、レポーターと比べた最大阻害は50〜75%であり、IE2 291−364領域を含むが残基315−328は内部欠失している対照ベクターdelAとの同時形質移入と比較した場合も阻害程度は類似する(図6)。
【0086】
実施例2
形質移入アッセイでのIE2フラグメントの発現
形質移入アッセイでIE2フラグメントの発現を確認するために、これらのフラグメントをGFP発現ベクターに挿入して、これらが核に局在化するかどうか判定した(図4A)。これにより、IE2フラグメント中に位置する推定核移行配列の機能と同様に、そのタンパク質の発現が示されるはずである。
【0087】
形質移入から24時間後、細胞質および核中にGFP291−364融合産生物が見られた。次いで、GFP291−364フラグメントが、Spi−1およびC/EBPβによってHTレポーターの内在性トランス活性化を阻害する能力を試験した。形質移入効率を制御するために、GFPを発現する細胞をFACSによりまず精製した。次いで、同数の細胞を使用して、レポーターアッセイ用にライセートを準備した。これらのデータにより、どちらのGPF融合産生物も優性阻害機能を保持することが示された(図4B)。この機能は、挿入したIE2フラグメントに特異的であった。Spi−1およびC/EBPβと、空のGFP発現ベクター(e.v.)とを同時形質移入した場合は、高いレポーター活性が存在したからである。
【0088】
IE2 291−364領域は、IE2上の3個のTBP結合部位の一個として予めマップしたので、阻害機能はTBPとの相互作用によるものとも考えられた。この可能性を取り除くために、それらのプロモーター中のTATAボックスを含む2個の他の遺伝子の発現を調査した。最初に、発現ベクターからのC/EBPβの発現をウエスタンブロット(図4C)により観察した。これでは、GFP291−364の同時発現による、C/EBPβタンパク質の減少は示されなかった。第二に、Hisタグ付き阻害薬をev GFPと共に同時形質移入し、形質移入細胞の幾何平均輝度をフローサイトメトリー(図4D)によって測定した。どちらの阻害薬もGFP発現を低減させず、IL−1βプロモーター活性の阻害が、IE2フラグメント阻害薬とTBPとの間の広汎な相互作用によるものではないことが示された。従って、本発明の実施例により、Spi−1およびC/EBPβと競合的に相互作用することによってIL−1β遺伝子の発現を阻害することができるIE2分子のペプチドフラグメントを発現する能力が実証された。相互作用の基礎は、IE2分子の残基315−328に局在すると考えられる。それは、315−328領域が欠損しているIE2 291−364の変異体(delA)は、GST融合プルダウンアッセイでSpi−1 ETSドメインと結合しないからである(図5)。
【0089】
本開示は、様々な変更形態および代替形を受け入れることができるが、具体例の実施形態を図に示し、本明細書により詳細に記載した。しかし、具体例の実施形態の記述は、本発明を開示した特定の形態に制限するものではなく、これに反して本開示は、添付の特許請求の範囲によって定義する通り全ての変更形態および同等物を包含すると理解されるものとする。
【0090】
特許、特許出願、刊行物、商品説明、およびプロトコル、および本明細書に引用した参照文献は全て、全ての目的において、そして特に参照した方法または手順を参照により組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1A】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。転写開始部位に近接する2個の複合体Spi−1−C/EBPβ結合部位を示すIL−1βプロモーターの概略図である。遺伝子レポーターホタルルシフェラーゼを含むベクター中に全長プロモーター(HT)をスプライスして挿入し、HeLa−S3細胞での一時的形質移入アッセイに使用した。
【図1B】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。滴定したSpi−1発現ベクター、および同時形質移入した固定量のC/EBPβ発現ベクターに対するHTレポーターの用量応答を示すグラフである。
【図1C】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。滴定したC/EBPβ発現ベクター、および固定量のSpi−1発現ベクターに対するHTレポーターの用量応答を示すグラフである。
【図1D】Spi−1、C/EBPβ、およびIE2による、IL−1βプロモーターの協同的トランス活性化を示す図である。IE2との機能的協同性を示すグラフである。HTレポーターは、滴定したSpi−1発現ベクター(白棒)と、または固定量のC/EBPβ発現ベクター(碁盤縞棒)と、あるいはC/EBPβおよびIE2両発現ベクター(線影棒)と同時形質移入した。
【図2A】IL−1Βプロモーターの協同的トランス活性化が、IE2由来のフラグメントであるIE2 291−364およびIE2 291−343によって阻害されることを示すグラフである。ここで示すデータは、3個の独立した実験からプールした。Hela S3細胞に、(図1に記載した)Spi−1およびC/EBP発現ベクターと共に、HTレポーターを一時的に形質移入したことを示すグラフである。示した形質移入群には、滴定した量のIE2 291−364または291−343発現ベクターを同時形質移入した。
【図2B】IL−1Βプロモーターの協同的トランス活性化が、IE2由来のフラグメントであるIE2 291−364およびIE2 291−343によって阻害されることを示すグラフである。ここで示すデータは、3個の独立した実験からプールした。野生型IE2によるIL−1βプロモーターの外来的調節に及ぼすIE2フラグメントの阻害効果を示すグラフである。図2Bにより記載した実験は、図2Aにより記載した実験に類似するが、野生型IE2も示した形質移入群に加えた点が異なる。これらは、3個の独立した実験からプールしたデータである。
【図3】IE2 291−364フラグメントが、単球細胞系RAW264.7で全長IL−1βレポーターを阻害することを示すグラフである。ルシフェラーゼ遺伝子レポーターは、ルシフェラーゼ遺伝子の上流に、未変性IL−1β上流フラグメント(XT)をスプライシングすることにより作製したが、このフラグメントはプロモーター配列を通じてエンハンサーを含む。リン酸カルシウム沈殿によりRAW264.7細胞中に、これと、pCDNA3.1/V5−His空ベクター(対照)またはpCDNA3.1/V5−His IE2 291−364を(滴定した用量で)同時形質移入した。レポーターを活性化させるために、細胞はLPSで刺激した。
【図4A】HeLa−S3細胞への形質移入後、GFP−IE2 291−343融合タンパク質の細胞質局在および核局在を示す図である。
【図4B】IL−1βプロモーター活性のGFP IE2 291−343阻害を示すグラフである。
【図4C】図2Bに記載したように形質移入したHeLa−S3から得た細胞ライセートをウエスタンブロット分析することにより、ペプチドIE2 291−364がC/EBPβの発現を阻害しないことを示す特異的制御を示す図である。
【図4D】対照GFP発現ベクターが、IE2 291−343またはIE2 291−364の影響を受けなかったことを示す別の特異的制御を示す表である。HeLa−S3細胞はどちらも、GFP発現ベクターを形質移入し、かつIE2 291−343またはIE291−364発現ベクターを同時形質移入し、そして24時間後に蛍光活性化した細胞の分取器(fluorescence activated cell sorter)によりGFP発現を分析した。
【図5A】IE2、Spi−1 ETSドメイン、およびC/EBPβ bZIPドメインの放射標識プローブと、残基315−328が内部欠失しているIE2 291−364フラグメント(delA)との相互作用の消失を示す図である。示したプローブの相互作用は、対照ペプチドIE2 291−343およびIE2 291−364で保持されている。この結果は、IE2領域315−328が、これらのリガンドとの結合をもたらし、そして最小のペプチド阻害薬であろうことを示すものである。
【図5B】IE2、Spi−1 ETSドメイン、およびC/EBPβ bZIPドメインの放射標識プローブと、残基315−328が内部欠失しているIE2 291−364フラグメント(delA)との相互作用の消失を示す図である。示したプローブの相互作用は、対照ペプチドIE2 291−343およびIE2 291−364で保持されている。この結果は、IE2領域315−328が、これらのリガンドとの結合をもたらし、そして最小のペプチド阻害薬であろうことを示すものである。
【図6】ルシフェラーゼレポーターとして、全長IL−1β調節タンパク質と共に、RAW細胞中に形質移入したIE2 291−364Δ315−328またはIE2 291−364を発現するベクターの増加量を示すグラフである。CaPO4により一時的に形質移入後、RAW細胞ライセートをルミノメーターによる測定に使用し、形質移入効率用に制御するために、同時形質移入したβ−ガラクトシダーゼ発現ベクターにより導入したβ−ガラクトシダーゼ活性に結果を規準化した。見ての通り、IE2 291−364Δ315−328の値は、野生型フラグメント315−264と比較した相対的ルシフェラーゼ活性の%割合として報告する。
【図7−1】IE2分子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列の一例(配列番号4)、および本発明のフラグメントをコードするヌクレオチド配列の一例(配列番号5)を示す図である。図7は、配列番号1、2、および3として記載したIE2ペプチドフラグメントの例も含む。そのアミノ酸配列は、GenBank受託番号P19893(GI:59803018)に含まれており、そのヌクレオチド配列はGenBank受託番号M11298(GI:330552)に含まれている。本発明は、任意の特定のCMV株に由来するIE2配列に限定されない。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の別の変形例も公的に入手することができる。
【図7−2】IE2分子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列の一例(配列番号4)、および本発明のフラグメントをコードするヌクレオチド配列の一例(配列番号5)を示す図である。図7は、配列番号1、2、および3として記載したIE2ペプチドフラグメントの例も含む。そのアミノ酸配列は、GenBank受託番号P19893(GI:59803018)に含まれており、そのヌクレオチド配列はGenBank受託番号M11298(GI:330552)に含まれている。本発明は、任意の特定のCMV株に由来するIE2配列に限定されない。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の別の変形例も公的に入手することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)を含む単離したポリペプチドを含む抗炎症剤であって、該ポリペプチドが炎症を阻害する抗炎症剤。
【請求項2】
ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)(配列番号3)、およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)からなる群から選択されるポリペプチド。
【請求項3】
治療有効量の請求項2に記載のポリペプチドおよび製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項4】
アミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)に少なくとも90%相同なアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項5】
アミノ酸残基(IE2 291−343)(配列番号3)に少なくとも90%相同なアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項6】
アミノ酸残基(IE2 315−328)(配列番号1)に少なくとも90%相同なアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸配列を含む、14〜75アミノ酸残基長のIE2ポリペプチドフラグメント。
【請求項8】
請求項4、5、6、または7に記載のポリペプチド、および製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項9】
Spi−1調節型分子の転写を阻害できるペプチド模倣体を含む医薬組成物。
【請求項10】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の十分な量を投与するステップを含む、炎症を阻害する必要がある対象で炎症を阻害する方法。
【請求項11】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、炎症性疾病を治療する必要がある対象で炎症性疾病を治療する方法。
【請求項12】
炎症性疾病が、関節炎、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、固形臓器の移植、急性感染、急性期応答、アレルギー性喘息、摂食障害、喘息、悪液質、アテローム性動脈硬化症、回復期(resolving)心筋梗塞、凝血、発熱、歯肉炎、移植片対宿主疾患、出血、多発性硬化症、新生血管緑内障、骨関節炎、歯周病、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ熱、リューマチ性関節炎、ショック、ならびに固形腫瘍増殖および二次転移による腫瘍浸潤からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
対象に、一種または複数の追加の抗炎症剤と組み合せて、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、炎症性疾病を治療する必要がある対象で炎症性疾病を治療する方法。
【請求項14】
追加の抗炎症剤が、選択的COX−2阻害薬、コルチコステロイド、インターロイキン−1アンタゴニスト、ジヒドロオロト酸合成酵素阻害薬、p38MAPキナーゼ阻害薬、TNF−α阻害薬、TNF−α金属イオン封鎖剤、およびメトトレキサートからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でサイトメガロウイルス(CMV)感染に随伴する疾患または疾病を治療する方法。
【請求項16】
CMVに随伴する疾患または疾病が、サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、および疲労からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞と請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドとを接触させるステップを含む、細胞中でサイトメガロウイルス(CMV)の発現を阻害する方法。
【請求項18】
細胞と請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドとを接触させるステップを含む、細胞中で炎症促進性サイトカインの発現を阻害する方法。
【請求項19】
細胞が単球である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
炎症促進性サイトカインがIL−1βである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
炎症促進性サイトカインがTNFである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でサイトメガロウイルス(CMV)ウイルス感染を治療し、予防し、制限する方法。
【請求項1】
ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)を含む単離したポリペプチドを含む抗炎症剤であって、該ポリペプチドが炎症を阻害する抗炎症剤。
【請求項2】
ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)前初期2(IE2)タンパク質のアミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)、hCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基291−343(IE2 291−343)(配列番号3)、およびhCMV IE2タンパク質のアミノ酸残基315−328(IE2 315−328)(配列番号1)からなる群から選択されるポリペプチド。
【請求項3】
治療有効量の請求項2に記載のポリペプチドおよび製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項4】
アミノ酸残基291−364(IE2 291−364)(配列番号2)に少なくとも90%相同なアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項5】
アミノ酸残基(IE2 291−343)(配列番号3)に少なくとも90%相同なアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項6】
アミノ酸残基(IE2 315−328)(配列番号1)に少なくとも90%相同なアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸配列を含む、14〜75アミノ酸残基長のIE2ポリペプチドフラグメント。
【請求項8】
請求項4、5、6、または7に記載のポリペプチド、および製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項9】
Spi−1調節型分子の転写を阻害できるペプチド模倣体を含む医薬組成物。
【請求項10】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の十分な量を投与するステップを含む、炎症を阻害する必要がある対象で炎症を阻害する方法。
【請求項11】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、炎症性疾病を治療する必要がある対象で炎症性疾病を治療する方法。
【請求項12】
炎症性疾病が、関節炎、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、固形臓器の移植、急性感染、急性期応答、アレルギー性喘息、摂食障害、喘息、悪液質、アテローム性動脈硬化症、回復期(resolving)心筋梗塞、凝血、発熱、歯肉炎、移植片対宿主疾患、出血、多発性硬化症、新生血管緑内障、骨関節炎、歯周病、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ熱、リューマチ性関節炎、ショック、ならびに固形腫瘍増殖および二次転移による腫瘍浸潤からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
対象に、一種または複数の追加の抗炎症剤と組み合せて、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、炎症性疾病を治療する必要がある対象で炎症性疾病を治療する方法。
【請求項14】
追加の抗炎症剤が、選択的COX−2阻害薬、コルチコステロイド、インターロイキン−1アンタゴニスト、ジヒドロオロト酸合成酵素阻害薬、p38MAPキナーゼ阻害薬、TNF−α阻害薬、TNF−α金属イオン封鎖剤、およびメトトレキサートからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でサイトメガロウイルス(CMV)感染に随伴する疾患または疾病を治療する方法。
【請求項16】
CMVに随伴する疾患または疾病が、サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎、肝炎、CMV随伴性急性横断性脊髄炎、多発性単神経障害、脳炎、発熱、発疹、および疲労からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞と請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドとを接触させるステップを含む、細胞中でサイトメガロウイルス(CMV)の発現を阻害する方法。
【請求項18】
細胞と請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドとを接触させるステップを含む、細胞中で炎症促進性サイトカインの発現を阻害する方法。
【請求項19】
細胞が単球である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
炎症促進性サイトカインがIL−1βである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
炎症促進性サイトカインがTNFである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
対象に、請求項2、4、5、6、または7に記載のポリペプチドを含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む、対象でサイトメガロウイルス(CMV)ウイルス感染を治療し、予防し、制限する方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7−1】
【図7−2】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7−1】
【図7−2】
【公表番号】特表2009−510092(P2009−510092A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533611(P2008−533611)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/037918
【国際公開番号】WO2007/041240
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(500091313)ユニヴァーシティ オヴ ピッツバーグ オヴ ザ コモンウェルス システム オヴ ハイアー エデュケーション (10)
【出願人】(508095256)ザ リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/037918
【国際公開番号】WO2007/041240
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(500091313)ユニヴァーシティ オヴ ピッツバーグ オヴ ザ コモンウェルス システム オヴ ハイアー エデュケーション (10)
【出願人】(508095256)ザ リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】
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