説明

HMG−CoA還元酵素阻害剤フルバスタチンの徐放性医薬組成物

【課題】HMG−CoA還元酵素阻害剤であるフルバスタチンの水溶性塩を活性成分として含有する、安価で長い持続時間などの改良された特性を有する、徐放性医薬組成物を提供することが、本発明の課題である。
【解決手段】上記課題は活性成分としてフルバスタチンの水溶性塩を含有しており、そして基質処方物、拡散制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれる徐放性医薬組成物を提供することにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明はHMG−CoA還元酵素阻害剤フルバスタチンの水溶性塩を活性成分として含有する徐放性医薬組成物に関し、前記組成物は基質処方物、透過制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
徐放性組成物
近年、薬物をその摂取後に徐やかに放出するように設計された徐放性錠剤の開発及び使用が大きく増加している。これらの種類の投薬形態を使用して、薬物の臨床的有用性を治療効果の改良、副作用の発生の低減及び簡略化された投薬方式により改良することができる。
【0003】
徐放性錠剤は薬物を数時間にわたり、一般的には3時間以上そして30時間未満放出する。その他の一般に使用される用語例えば「制御された放出」、「延長された放出」、「長くした放出」などはすべて、通常3時間を超えて薬物を放出する製造物の定義に対応する。
【0004】
薬物の徐放性を獲得するための数種の異なる処方物が存在する。これらの異なる処方物はすべて、薬物の吸収過程よりむしろ薬物の処方物からの放出を律速段階とすることを意図する。このため、例えば溶解、拡散、膨潤、浸透圧、錯体化、イオン交換などの調節に基づく方法を使用することができる。所定の薬物について実際に採られる方法はとりわけ薬物の物理化学的性質に基づく。これらの性質の一つに薬物の溶解性があり、これは医薬処方のストラテジーに大きな影響を与える。薬剤物質の高い溶解度は後に更に論ずるように問題を引き起こすことがある。しかしながら、一般に、徐放性は下記の原理、又はそれらの組合せにより得ることができる。
【0005】
(i)薬物を不溶性基質(matrix)中で処方する。胃腸液が基質に浸透すると、薬物は溶解しそして基質外に拡散しそして吸収される。拡散の推進力は胃腸液の浸透により形成される水溶液中の薬物の濃度である。従って、溶解度が高くなればなるほど、基質中の薬物の水溶液濃度は高くなり、そして基質外への薬物の拡散輸送も速くなる。基質が膨潤性基質、例えば固型薬物を中に取り込んでいる橋架けされた(イオン性)ポリマーの場合、基質の膨潤動態、薬物の溶解速度、そして薬物の拡散はすべて全体の放出速度に寄与するであろう。しかしながら、薬物の溶解度が高い場合、放出速度は最初の膨潤が起こった後に拡散輸送という特性を表すであろう。
【0006】
同様の原理は薬物粒子又は活性薬物を含むコアがポリマーの不溶性であるが多孔質の膜で被覆されている場合にもあてはまる。この場合、胃腸液が膜に浸透すると、薬物は溶解しそしてその後膜を通って被覆粒子の外へ拡散する。拡散の推進力は胃腸液の浸透により形成される水溶液中の薬物の濃度である。従って、溶解度が高くなればなるほど、基質中の薬物の水溶液濃度は高くなり、そして基質外への薬物の拡散輸送は速くなる。この種の処方物における輸送速度は膜の細孔により支配されると論証することができる。しかしながら、膜に高い濃度勾配を生成させそしてそれが後に処方物からの輸送速度にとって重要であるのは溶解度である。
【0007】
(ii)浸食性基質、例えば可溶性ポリマー中で薬物を処方する。吸収部位で薬物が有効となる速度はこれらの基質にとっては基質の膨潤及び浸食速度の組合せであり、そして薬物の溶解及び拡散速度である。可溶性薬物の場合この原理に基づく処方物はポリマーの最初の膨潤の後に生成し得る薬物の高い濃度勾配が浸食、すなわちポリマーの溶解により制御される放出の代わりに薬物の拡散輸送を引き起こすため、許容される徐放性を示さないかもしれない。
【0008】
(iii)浸透による水の処方物の中への輸送を可能にする半透膜を錠剤又は薬物粒子の回りに付着させることにより浸透圧により放出を制御する。薬物が溶解する時内圧が増加する結果、続いて薬物溶液は被膜の細孔を通って錠剤の外へ押し出される。被膜中のオリフィスの大きさはコア溜めへの流量、並びに薬物溶液放出速度の両方を制御する。薬物が高い溶解度を有する場合、オリフィスの大きさは放出速度を引き延ばすため小さく作らなければならない。これにより次に被覆物の内側に高い水圧が形成されるという問題を生じ壁の破壊を引き起こすかもしれない。
【0009】
徐放性が改良されたドラッグデリバリーシステムは、例えば下記のような文献において一層広範囲に論じられている。
【0010】
Langer及びWise(編集)、「Medical Applications of Controlled Release」、I巻及びII巻、CRC Press Inc,Boca Raton,1984年刊;Robinson及びLee(編集)、{(Controlled Drug Delivery-fundamentals and applications」、Marcel Dekker,NY,1987年刊;Bogentoft及びSjoegren“Towards Better Safety and PharmaceuticalProducts」(Breimer編集)、Elsevier,1980年刊に所載}。
【0011】
上で述べたように、徐放性処方物からの薬物放出は薬物の溶解性に関連する。
【0012】
薬物の水溶解度が高いほど、薬物放出は速くそしてドラッグデリバリーシステムの持続時間は短い。薬物の急速な放出は所望の速度及び持続時間を得ることができず、そして徐放性投与の有利な影響が失われることを意味する。従って、水溶性物質を徐放性処方物に調製しようと試みる場合特別な困難に遭遇する。この問題を解決する試みの一つは徐やかに放出する賦形剤を処方物に大量に含有させることである。しかしながら、この方法は費用の増加及び製剤のサイズが大きくなるという欠点がある。投薬形態の物理的サイズが大きくなることは患者によっては問題となることがあり、それは錠剤ののみ込みが一層困難になるからである。別の方法は水溶解度のより低い塩を使用することである。しかしながら、そのような変更はより多大の開発努力を必要としそして不完全な溶解に基づくバイオアベイラビリティの問題を生ずるかも知れない。
【0013】
HMG−CoA還元酵素阻害剤
高コレステロール血症は冠動脈性心臓疾患の危険の増加と関連する。患者のコレステロール濃度を下げる可能な一つの方法はコレステロール生合成の制御における重要な酵素である3−ヒドロキシ−3−メチル−グルタリル補酵素A(HMG−CoA)還元酵素を阻害することである。HMG−CoA還元酵素阻害剤はよく知られた高コレステロール血症の治療のための治療剤の一群であり、この群はロバスタチン及びプラバスタチンのような発酵生産物、並びにシンバスタチンのような半合成類似体を包含する。より最近になり完全合成の薬剤、例えばフルバスタチンが開発された。
【0014】
時間調整した投与に適する薬の製造のためのあるHMG−CoA還元酵素阻害剤の使用がEP-B-0 375 156に開示されている。
【0015】
フルバスタチン(R,S−(E)−(±)−7−[3−(4−フルオロフェニル)−1−(1−メチル−エチル)−1H−インドール−2−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸)はEP-A-0 114 027により公知である。
【化1】

フルバスタチンは水溶性薬物である。例えば、フルバスタチンのナトリウム塩の水溶解度は50g/L以上に達する。この水溶性薬物の徐放性製造物の生物薬剤学的必要条件から直ちに上で論じたような処方上の問題に直面するであろう。すなわち、この可溶性物質のために拡散制御放出装置、例えばポリマーの不溶性基質を使用する場合、基質外へ拡散するための推進力としての高い濃度勾配を形成するフルバスタチンの高い溶解度により速い放出速度が予想される。
【0016】
第二に、フルバスタチンの浸食性基質は胃腸液が基質に浸透した場合結果的になる溶液状態の薬物の高い濃度により有用であるとは期待しにくい。例えば外側の水和ポリマー層の溶解による基質の浸食は、多分基質の水和及び膨潤の間の最初の短時間を除いては実際に律速因子とはなり得ないであろう。
【0017】
最後に、高い製造費用を伴う進歩した方法が浸透圧制御処方物を製造するため必要になることが予想される。フルバスタチンの高い溶解度はそのような処方物の作用を複雑にすることも予想される。従って、そのような装置を用いてある量の薬物が押し出される速度を低く保つためには小さいオリフィスが必要であろう。しかしながら、小さなオリフィスの場合、形成される静水圧に堪える丈夫なポリマー膜の選択が求められるであろう。
【0018】
従って、上述の欠点がなくそして例えば大量の徐放性賦形剤を含むことなく、又高度な最新技術を使用しなくても製造することが可能なHMG−CoA還元酵素阻害剤の医薬処方物が求められている。好ましくは、処方物の製造費用は低くなければならない。
【0019】
図面の簡単な説明
図1は、ポリエチレンオキシド(PEO)8,000,000を基剤とする徐放性錠剤のフルバスタチン及びメチルパラベンの放出、並びに錠剤の浸食を示す。
図2は、キサンタンを基剤とする徐放性錠剤からのフルバスタチン、メチルパラベン及びジクロフェナックの放出を示す。
図3は、パラフィンを基剤とする徐放性錠剤からのフルバスタチン及びメチルパラベンの放出、及び即時放出(IR)カプセルからのフルバスタチンの放出を示す。
図4は、供給室における異なる濃度において二区画室におけるポリマー膜を通過するフルバスタチン及びジクロフェナックの放出速度を示す。
【発明の開示】
【0020】
発明の開示
驚くべきことにフルバスタチンを水溶性塩として含む徐放性組成物が特に好ましい放出特性例えば薬物放出の予期しなかった長い持続時間及び遅い速度を示すことを見いだした。本明細書において、用語「水溶性」は37℃、水中で30mg/mlを超える溶解度と理解すべきである。
【0021】
従って、本発明は活性成分としてフルバスタチンの水溶性塩、好ましくはナトリウム塩を含有する徐放性医薬組成物を提供する。これらの好ましい性質が得られる徐放性フルバスタチン組成物は基質処方物、拡散制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれる。
【0022】
前記浸食性及び非浸食性基質は親水性及び/又は疎水性基質形成賦形剤を基剤とすることができる。基質及び膜被覆処方物は錠剤のような一体構造であるか、又は錠剤、カプセル又はサシェーとして投与される多重単位の形態であってもよい。
【0023】
親水性又は疎水性、浸食性又は非浸食性、基質材料及び膜形成用材料としては下記のものが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0024】
・セルロース誘導体、例えばエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロースなど;
・多糖類、例えばアルギネート;キサンタン;カラゲナン;スクレログルカン;
プルラン;デキストラン;ヒアルロン酸;キチン;キトサン;澱粉など;
・その他の天然ポリマー、例えばタンパク質(例えばアルブミン、ゼラチン);
天然ゴムなど;
・合成ポリマー、例えばアクリレート(例えばポリメタクリレート、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート−コメチルメタクリレート)、Carbopol 934TM);ポリアミド(例えばポリアクリルアミド、ポリ(メチレンビスアクリルアミド))
;ポリアンヒドリド(例えばポリ(ビスカルボキシフェノキシ)メタン);PEO−PPOブロック共重合体(例えばポロキサマーなど);ポリ塩化ビニル;ポリビニルピロリドン;ポリ酢酸ビニル;ポリビニルアルコール;ポリエチレン、ポリエチレングリコール及びその共重合体;ポリエチレンオキシド及びその共重合体;ポリプロピレン及びその共重合体;ポリスチレン;ポリエステル(例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンなど、及びその共重合体、及びポリ(オルトエステル)、及びその共重合体);樹脂(例えばDowexTM,Amber1iteTM);ポリカーボネート;セロファン;シリコーン(例えばポリ(ジメチルシロキサン));ポリウレタン;合成ゴム(例えばスチレンブタジエンゴム、イソプロペンゴム)など;
・その他の物質、例えばシェラック;蝋(例えば、カルナウバ蝋、蜜蝋、グリコ蝋、ヒマ蝋);ナイロン;ステアレート(例えばグリセロールパルミトステアレート、グリセリルモノステアレート、グリセリルトリステアレート、ステアリルアルコール);脂質(例えばグリセリド、リン脂質);パラフィンなど。
【0025】
上記物質の組合せも可能である。
【0026】
好ましい形態においては、本発明は基質物質がポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びパラフィンからなる群より選ばれる浸食性基質処方物である上述の医薬組成物を提供する。
【0027】
別の好ましい形態においては、前記医薬組成物は基質物質がキサンタン及びポリ塩化ビニルからなる群より選ばれる非浸食性基質処方物である。
【0028】
更に別の好ましい形態においては、前記医薬組成物は膜形成用物質がエチルセルロース、ヒドロキシプロプルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選ばれる拡散制御膜被覆処方物である。
【0029】
本明細書においては、用語「フルバスタチン」は純粋な鏡像異性体、並びにラセミ混合物の両方を包含する。
【0030】
本発明の組成物に使用するフルバスタチンの水溶性塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム塩を含む。ナトリウム塩が好ましい。
【0031】
本発明の医薬処方物は動物、特に哺乳動物、例えば人における血液コレステロール濃度を下げるために有用である。従ってそれらは高コレステロール血症剤及び抗アテローム性動脈硬化剤として有用である。
【0032】
従って、本発明は別の態様としての高コレステロール血症の治療のための徐放性医薬組成物のためのフルバスタチンの使用に関する。好ましくは、前記組成物は基質処方物、拡散制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれる。
【0033】
更に別の態様として、本発明は人を含む哺乳動物にフルバスタチンを含む徐放性医薬組成物の治療上有効な量を投与することからなる高コレステロール血症の治療方法を提供する。前記組成物は基質処方物、拡散制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれるのが好ましい。
【0034】
本発明の医薬処方物はよく知られた製剤技術例えば混合、顆粒化、粉砕、噴霧乾燥、圧縮、又は被覆を使用することにより製造することができる。
【0035】
活性物質フルバスタチンの典型的な一日当たりの用量は広い範囲内で変動しそして例えばそれぞれの患者及び病気の個別の必要条件といった種々の要因によるであろう。一般に、徐放性投薬は一日当たりフルバスタチンの1〜1000mgの範囲内、好ましくは2〜200mg/日であろう。
【0036】
発明の実施例
基質処方物及び膜被覆処方物中におけるフルバスタチンの予想外の良好な特性を例証するため、フルバスタチンナトリウム(水溶解度>50mg/ml)の放出プロフィールを二種の他の水溶性薬物、すなわちメチルパラベン(p−ヒドロキシ安息香酸メチル;水溶解度≒2mg/ml及びジクロフェナックナトリウム(2−[(2,6−ジクロロフェニル)アミノ]ベンゼン酢酸一ナトリウム塩;水溶解度≒5mg/ml)と比較した。
【0037】
【化2】

メチルパラベン及びジクロフェナックナトリウムは低い水溶解度によりいくらか緩慢な放出速度と長い放出持続時間とを示すことが予想された。しかしながら、予期しなかったことに、フルバスタチンの放出は試験した徐放性処方物のすべての種類について一貫してメチルパラベン及びジクロフェナックナトリウムよりも緩慢であった。
【0038】
次の実施例1〜3において、種々の種類の錠剤からの薬物の放出を櫂型撹拌速度75rpmでUSPII装置を使用してpH6.8,+37℃で測定した。すべての錠剤処方物は慣用の技術により、そして各実施例につき薬物成分を除いて同一の方法で製造した。
【実施例】
【0039】
実施例1:浸食性ポリエチレンオキシド(PEO)基質錠剤の薬物放出及び錠剤浸食
フルバスタチン又はメチルパラベン(各々10mg)をPE08,000,000の浸食性基質(58mg)及びステアリン酸マグネシウム(0.7mg)中で処方した。
錠剤浸食は溶解装置から錠剤を除きそして一定重量になるまで乾燥した後秤量して測定した。
その結果(図1)は、徐放性錠剤からのフルバスタチンの放出はメチルパラベンの放出より高い溶解度にもかかわらず緩慢であったことを示している。メチルパラベン錠剤は水溶性薬物であることから予想されるように薬物放出が錠剤浸食より速かったが、これに対してフルバスタチンは錠剤浸食と薬物放出とがほとんど同じであった。この結果はフルバスタチンを浸食性基質錠剤として投与した場合、錠剤浸食データから予想されるものと比較してそして他のいくらか溶解度の低い薬物と比較していずれも予期しないほど好ましい延長された放出特性を有することのさらなる証拠であった。
【0040】
実施例2:非浸食性高分子キサンタン基質錠剤からの放出
フルバスタチン、メチルパラベン又はジクロフェナック(各々5mg)をキサンタンの非浸食性基質(195mg)中で処方した。
その結果(図2)は、徐放性錠剤からのフルバスタチンの放出はジクロフェナック及びメチルパラベンの両方の放出より高い溶解度にもかかわらず緩慢であったことを示している。この結果はフルバスタチンが非浸食性基質錠剤として投与した場合、予期しないほど好ましい徐放特性を有することの証明である。
【0041】
実施例3:浸食性パラフィン基質錠剤からのそして慣用的な(即時放出)硬ゼラチンカプセルからの放出
フルバスタチン又はジクロフェナック(各々20mg)をパラフィン(120mg)、ラクトース(30mg)、エチルセルロース(3mg)及びステアリン酸マグネシウム(1.7mg)の浸食性基質中で処方した。即時放出カプセルは20mgのフルバスタチンを含む硬ゼラチンカプセルであった。
その結果(図3)は、徐放性錠剤からのフルバスタチンの放出はジクロフェナックの放出より高い溶解度にもかかわらず緩慢であったことを示している。この結果は、フルバスタチンが基質錠剤として投与した場合、予期しないほど良好な徐放特性を有することの別の証明である。
即時放出カプセルからの薬物放出はフルバスタチン徐放性製剤が10時間を超える薬物放出の持続時間であるのと対照的にほとんど即時であった。この結果はフルバスタチンの予期しないほど緩慢な放出がすべての種類の経ロフルバスタチン処方物の一般的性質ではなく、本発明のある種の徐放性処方物に限定されることを示している。
【0042】
実施例4:拡散制御膜を通過する輸送
フルバスタチンナトリウム及びジクロフェナックナトリウムの放出速度を、活性薬物を含有する膜被覆処方物に相当する当初すべての薬剤物質を含む供給区画から、薬物が放出される媒質をシュミレートした受け室へポリマー膜を通過させて研究した。放出速度は活性薬物の異なる始発濃度で研究した。区画内の溶液(pH6.8)はよく撹拌しそして+37℃に温度調節した。累計放出量対時間の結果から、放出速度(放出量/時間)は定常状態で得られる曲線の直線部分の傾斜から求めた。膜における蓄積はいずれの薬物でも認められなかった。この結果は図4に放出速度対実験に使用した濃度として示す。
供給区画におけるジクロフェナックの濃度を上げると、予想したようにジクロフェナックの放出速度は増加した。しかしながら、驚くべきことにフルバスタチンの放出速度は供給区画におけるフルバスタチンの濃度とは無関係であり、フルバスタチンの放出速度はジクロフェナックと比較してはるかに緩慢な結果になった。この結果はそのような処方物におけるフルバスタチンの予期しないほど緩慢な放出速度が膜被覆処方物の中の溶解した薬物の量に関わりなく維持され得るという知見を補強するものである。
【0043】
実施例5:医薬処方物の製造
5.1.
フルバスタチン療法の必要な患者へのフルバスタチンナトリウムの経口送達に適合させ、計画しそして成形した投薬形態は次のように製造する。すなわち、まず30.0gのフルバスタチンナトリウム、90.0gのパラフィン、50.0gの炭酸カルシウム及び20.0gのソルビトールを1.0mmのふるいで分別する。篩別した材料を遊星形ミキサーで10分間撹拌して均質な混合物を作る。次に150.0gの95%エタノール中で2.0gのエチルセルロース(10cps)を6時間絶えず撹拌しながら溶解して顆粒溶液を作る。顆粒溶液を乾燥混合物に撹拌しながらゆっくり添加して湿潤顆粒を得る。顆粒を+50℃で12時間乾燥する。乾燥後、顆粒を1.5mmのふるいを通過させる。ステアリン酸マグネシウム(2.0g)を顆粒の中に3分間混合する。次いで、それぞれ30mgのフルバスタチンナトリウムを含有する8mmの円形錠剤をKorsch(R)圧縮機で25kNの圧力下で圧縮する。
【0044】
5.2.
フルバスタチンナトリウム(20.0g)、150.0gのヒドロキシプロピルメチルセルロース(分子量30,000)、30.0gのソルビトール、30.0gのケイ酸アルミニウムナトリウムを遊星形ミキサー中で5分間乾燥混合する。次に、10.0gのポリビニルピロリドン(分子量360,000)を200gの99.5%エタノールに溶解して顆粒溶液を作る。顆粒溶液を乾燥混合物に撹拌しながらゆっくり添加して湿潤塊状物を得る。顆粒を+60℃で一晩乾燥する。次に、顆粒を振動造粒機で粉砕し0.7mmのふるいを通す。ステアリン酸マグネシウム(2.0g)を顆粒に2分間混合する。次に、組成物を30kNの圧縮力で圧縮して徐放性の10mm円形錠剤を調製する。このフルバスタチン錠剤は20mgのフルバスタチンナトリウムを含有する。
【0045】
5.3.
フルバスタチンナトリウム(10g)、50gの分子量8,000,000のポリエチレンオキシド、50gのラクトースを乾燥混合する。次に、60gの99.5%エタノール及び乾燥混合物を遊星形ミキサー中で一緒に5分間ゆっくり混合する。顆粒を+45℃で12時間乾燥する。次に、顆粒を1.0mmのふるいを通す。1.0gのステアリン酸マグネシウムを顆粒に2分間混合する。次に、20kNの圧縮力で圧縮して徐放性の円形8mm錠剤を調製する。このフルバスタチン錠剤は10mgのフルバスタチンナトリウムを含有する。
【0046】
5.4.
フルバスタチン錠剤を次のように製造する。まず、3gのフルバスタチンナトリウム、20gの分子量30,000のヒドロキシプロピルメチルセルロース、10gのケイ酸アルミニウムナトリウム及び0.2gのカルボキシポリメチレンを乾燥混合する。次に、2.0gのエチルセルロース(10cps)を20.0gの99.5%エタノールに溶解して顆粒溶液を作る。顆粒溶液を乾燥混合物に撹拌しながらゆっくり添加して湿潤顆粒を得る。顆粒を+45℃で12時間乾燥する。次に、顆粒を1.0mmのふるいを通す。ステアリルフマル酸ナトリウム(0.8g)を顆粒に2分間混合する。次に、25kNの圧縮力で圧縮して徐放性の円形11mm錠剤を調製する。このフルバスタチン錠剤は20mgのフルバスタチンナトリウムを含有する。
【0047】
5.5.
フルバスタチンナトリウムを含有するビーズを最初に成形した後、得られたビーズをペレットからの放出を制御するポリマー層で被覆する。この被覆の例は下で説明する。ポリマー混合物は有機溶媒例えばエタノール、イソプロピルアルコール及び/又は塩化メチレンに溶解する。噴霧はコーティングパンで行なうことができるが、好ましくは流動床で行なう。
【0048】
【表1】

【0049】
溶液はフルバスタチンナトリウムを99.5%エタノール及び塩化メチレンに溶解して製造し、次いでこの溶液を流動床中で二酸化ケイ素のコアの上に噴霧する。
100gのビーズ(0.4〜0.65mmの画分)をエチルセルロース10cps、ヒドキシプロピルメチルセルロース及びクエン酸アセチルトリブチルを含むポリマー層で、前記物質の塩化メチレン及びイソプロピルアルコール中の溶液を噴霧することにより被覆する。次に被覆したビーズを硬ゼラチンカプセルの中に充填する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ポリエチレンオキシド(PEO)8,000,000を基剤とする徐放性錠剤のフルバスタチン及びメチルパラベンの放出、並びに錠剤の浸食を示す。
【図2】キサンタンを基剤とする徐放性錠剤からのフルバスタチン、メチルパラベン及びジクロフェナックの放出を示す。
【図3】、パラフィンを基剤とする徐放性錠剤からのフルバスタチン及びメチルパラベンの放出、及び即時放出(IR)カプセルからのフルバスタチンの放出を示す。
【図4】供給室における異なる濃度において二区画室におけるポリマー膜を通過するフルバスタチン及びジクロフェナックの放出速度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてフルバスタチンの水溶性塩を含有しており、そして基質処方物、拡散制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれる徐放性医薬組成物。
【請求項2】
前記フルバスタチンの水溶性塩がナトリウム塩である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
浸食性基質処方物である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
基質物質がポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びパラフィンからなる群より選ばれる請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
非浸食性基質処方物である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
基質物質がキサンタン及びポリ塩化ビニルからなる群より選ばれる請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
拡散制御膜被覆処方物である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
膜形成用物質がエチルセルロース、ヒドロキシプロプルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選ばれる請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
高コレステロール血症の治療に使用するための請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
高コレステロール血症の治療用徐放性医薬組成物の製造のためのフルバスタチンの水溶性塩の使用。
【請求項11】
前記医薬組成物が基質処方物、拡散制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれる請求項10に記載の使用。
【請求項12】
人を含む哺乳動物にフルバスタチンの水溶性塩を含有する徐放性医薬組成物の治療上有効な量を投与することからなる高コレステロール血症の治療方法。
【請求項13】
前記医薬組成物が基質処方物、拡散制御膜被覆処方物;及びそれらの組合せからなる群より選ばれる請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−102339(P2009−102339A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308734(P2008−308734)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【分割の表示】特願平10−517440の分割
【原出願日】平成9年9月24日(1997.9.24)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】