説明

HTRA1変異と家族性虚血性脳小血管病との関連

本発明は、ヒトにおける脳血管疾患の診断方法であって、(a)前記ヒトの試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異を測定するステップ、および(b)前記試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異が前記ヒトにおける脳血管疾患と相関するかどうかを決定するステップを含む診断方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体を参照により本明細書に組み込んだ2009年4月20日出願の米国仮出願第61/170,762号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症(CARASIL)の診断方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高血圧は、非遺伝性脳小血管病のよく知られた危険因子である。遺伝性脳小血管病、すなわち、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症、白質ジストロフィーを伴う常染色体優性網膜脈管障害、出血を伴う脳小血管病ならびに家族性脳アミロイド血管症には遺伝的原因があることが確認されている。これらの脳小血管病における動脈症は、詳細に報告されているが、その遺伝的基礎についてはほとんど知られていない。
【0004】
皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症(CARASIL)の特徴は、早期成人期に発症する皮質下梗塞、脱毛症および脊椎症を伴う非高血圧性脳小血管動脈症である6〜8。神経病理学的な検査では、内膜肥厚および高密度のコラーゲン繊維に関連した動脈硬化症、血管平滑筋細胞の減少ならびに中膜の硝子室変性が脳小動脈で認められた7〜9。これらの病理学的所見は、非遺伝性虚血性脳小血管病の患者において認められた所見と類似している7〜11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明において、本発明者らは、HtrAセリンペプチダーゼ1をコードする遺伝子、HTRA1の変異がCARASILの原因となることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
脱毛症および脊椎症を伴う虚血性、非高血圧性脳小血管病である、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症(CARASIL)の遺伝的原因は報告されていない。我々は、全ゲノム連鎖分析を実施し、CARASILの5家族の関連領域を詳細に位置づけし、その後候補遺伝子の配列分析を行った。野生型および変異型遺伝子産物の機能分析を実施し、2名のCARASIL患者の大脳の小動脈における、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)ファミリーのシグナル伝達ならびに遺伝子およびタンパク質発現をアッセイした。
【0007】
我々は、HTRA1遺伝子を含有する染色体10qの2.4-Mb領域とこの疾患との連鎖を観察した。HTRA1は、TGF-βファミリーのメンバーによるシグナル伝達を抑制するセリンプロテアーゼである。配列分析によって、HTRA1における2つのナンセンス変異および2つのミスセンス変異が明らかになった。このミスセンス変異およびナンセンス変異の1つによって、比較的低いレベルのプロテアーゼ活性を有し、TGF-βファミリーのシグナル伝達を抑制しないタンパク質産物が生じた。もう1つのナンセンス変異によって、ナンセンス依存mRNA分解機構によるHTRA1タンパク質の欠如が生じた。患者の脳小動脈の免疫組織化学によって、肥厚した内膜におけるED-Aフィブロネクチンおよびバーシカンならびに内膜におけるTGF-β1の発現増加が示された。
【0008】
CARASILは、HTRA1遺伝子における変異が原因である。我々の知見は、TGF-βファミリーのシグナル伝達阻害の抑制と虚血性脳小血管病、脱毛症および脊椎症との間の関係を示唆している。
【0009】
本発明は、ヒトにおける脳血管疾患の診断および検出における使用を記載する。HTRA1遺伝子の変異は、脳血管疾患のいくつかの種類の指標となる。
【0010】
一実施形態では、本発明は、ヒトにおける脳血管疾患の診断方法であって、(a)前記ヒトの試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異を測定するステップ、および(b)前記試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異が前記ヒトにおける脳血管疾患と相関するかどうかを決定するステップを含む診断方法に関する。
【0011】
一実施形態では、本発明は、ヒトにおける脳血管疾患の検出方法であって、(a)前記ヒトの試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異を測定するステップ、および(b)前記試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異を前記ヒトにおける脳血管疾患と相関させるステップを含む検出方法に関する。
【0012】
試験試料は、限定はしないが、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、口腔粘膜および爪を含む群から選択することができる。好ましい実施形態では、試験試料は血液である。
【0013】
好ましい実施形態では、脳血管疾患は、限定はしないが、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症(CARASIL)、急性脳血管疾患、虚血性脳血管疾患、ビンスワンガー病、白質病変、脳小血管病および白質脳症を含む群から選択される。
【0014】
一実施形態では、本発明は、変異型HTRA1遺伝子および野生型HTRA1遺伝子を増幅するためのプライマーセットを含む、ヒトにおける脳血管疾患を診断または検出するためのキットに関する。
【0015】
いくつかの実施形態では、決定ステップまたは相関ステップは、試験試料のヌクレオチド配列とHTRA1遺伝子の野生型ヌクレオチド配列とを比較することである。
【0016】
一実施形態では、本発明は、TGF-βファミリータンパク質によるシグナル伝達を阻害する物質を含む医薬組成物に関する。好ましい実施形態では、TGF-βファミリータンパク質によるシグナル伝達を阻害する物質は、TGF-βをコードする遺伝子を標的とするsiRNA、shRNAまたはデコイ核酸である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CARASILの家族の系図およびHTRA1変異を示した図である。
【図2】CARASILにおけるHTRA1変異の機能的結果を示した図である。
【図3】ナンセンス変異したHTRA1mRNAのナンセンス依存分解機構を示した図である。
【図4】変異したHTRA1タンパク質によるTGF-βファミリー媒介転写応答のモジュレーションを示した図である。
【図5】TGF-βファミリー媒介転写応答アッセイにおける形質移入HTRA1タンパク質の発現レベルを示した図である。
【図6】Smadタンパク質のリン酸化のアッセイにおける形質導入HTRA1タンパク質の発現レベルを示した図である。
【図7】培養した皮膚線維芽細胞におけるNOGmRNA発現に対するTGF-βの効果を示した図である。
【図8】脳小動脈における免疫組織化学分析を示した図である。
【図9】脳小動脈におけるフィブロネクチンのエキストラドメインAのmRNA発現を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.HTRA1遺伝子の遺伝子変異の検出および診断
(1)HTRA1遺伝子の遺伝子変異
遺伝子変異の情報は、遺伝子変異を検出するための従来の方法によって得ることができる。例えば、配列決定法、PCR法、鋳型として配列特異的オリゴヌクレオチドを使用するハイブリダイゼーション法(例えば、TaqManPCR法)などを使用することができる。PCR法および直接配列決定法は、遺伝子変異の任意の種類を検出するために使用することができる。
【0019】
本発明では、脳血管疾患を検出または診断するための好ましい変異には、限定はしないが、HTRA1遺伝子(アクセッション番号NM_002775(配列番号1))のナンセンス変異およびミスセンス変異が含まれる。
【0020】
本発明では、「変異体」または「変異」は、1個または複数の(例えば、1個から10個、好ましくは1個から5個の)アミノ酸またはヌクレオチドの欠失、付加または置換などの改変から生じるタンパク質またはDNAを意味し、TGF-βファミリーのシグナル伝達の脱抑制を起こす物質が含まれる。例えば、CARASILの分析は、限定はしないが、A252T、V297M、R302XおよびR370XなどのHTRA1変異の発見につながった。A252Tは、HTRA1のアミノ酸配列(配列番号2)における252番目のアラニン(Ala)のトレオニン(Thr)による置換によって生じる変異体である。V297Mは、HTRA1のアミノ酸配列における297番目のバリン(Val)のメチオニン(Met)による置換によって生じる変異体である。R302Xは、HTRA1のアミノ酸配列における302番目のアルギニン(Arg)の終止コドンによる置換によって生じる変異体である。R370Xは、HTRA1のアミノ酸配列における370番目のアルギニン(Arg)の終止コドンによる置換によって生じる変異体である。
【0021】
HTRA1遺伝子のDNA配列において、1108位のヌクレオチドは、野生型HTRA1遺伝子(配列番号1)と比較して、CからTに変化していた。(以後、この変異を「C1108→T」と表現する。その他の変異も同様の方法で表現する。)さらに、野生型HTRA1遺伝子(配列番号1)と比較したとき、DNA配列はG754→A、G889→A、C904→TまたはC1108→Tの変異を有する。
【0022】
本発明では、検出または診断は、例えば、前述の変異に基づいて実施する。
【0023】
(2)直接配列決定アッセイ
HTRA1遺伝子の変異は、直接配列決定法を使用することによって検出することができる。このアッセイでは、DNA試料はまず、適切な方法によって対象から採取する。標的検出領域は、適切なベクターにクローニングし、宿主細胞(例えば、細菌細胞)の増殖によって増幅させる。あるいは、標的検出領域内のDNAはPCRを使用することによって増幅してもよい。増幅後、標的検出領域内のDNAに適切な方法による配列決定を実施する。このような配列決定法の例には、限定はしないが、自動配列決定法が含まれる。このような自動配列決定法の例には、ダイターミネーターを使用する方法などが含まれる。 配列決定結果は、適切な表示方法によって示される。その後、予め決定した変異の有無が測定される。
【0024】
(3)PCRアッセイ
本発明では、HTRA1遺伝子の変異は、PCRをベースにしたアッセイを使用することによって検出することができる。PCRアッセイは、変異型または野生型対立遺伝子内においてのみハイブリッドを形成するオリゴヌクレオチドプライマーを使用する。DNA試料は、変異型および野生型のためのプライマーからなるプライマーセットを使用することによって増幅する。変異型プライマーのみがPCR産物を生成するとき、対象は変異型対立遺伝子を有することを示唆している。野生型プライマーのみがPCR産物を生成するとき、対象が野生型対立遺伝子を有することを示唆している。
【0025】
RT-PCRはまた、HTRA1 mRNAを同定するために使用することができる。RT-PCRでは、疾患組織由来のmRNAは、当業者に周知の方法を使用して、逆転写酵素によってcDNAに変換される。cDNAの全コーディング配列は次に、3’非翻訳領域に位置するフォワードプライマーおよび5’非翻訳領域に位置するリバースプライマーを使用してPCRによって増幅される。増幅産物は、例えば、増幅産物の大きさを正常なmRNAから予測される産物の大きさと比較することによって、例えば、アガロースゲル電気泳動によって、分析することができる。その後、予め決定した変異の有無を測定する。
【0026】
(4)ハイブリダイゼーションアッセイ
本発明では、HTRA1遺伝子の変異は、ハイブリダイゼーションアッセイを使用することによって検出することができる。ハイブリダイゼーションアッセイは、試料から得られたDNAが相補的DNA分子(例えば、オリゴヌクレオチドプローブ)とハイブリダイズする能力に基づいて、予め決定した変異の有無を測定する方法である。ハイブリダイゼーションアッセイは、様々なハイブリダイゼーション技術および検出技術によって実施する。プローブが標的検出配列(例えば、変異)とハイブリダイズするかどうかは、ハイブリダイズしたプローブを視覚化することによって直接検出することができる。この方法は、ノーザンアッセイまたはサザンアッセイとして知られている(Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、NY(1991))。その後、予め決定した変異の有無を測定する。
【0027】
2.TGF-βによるシグナル伝達の阻害
(1)siRNAおよびshRNA
TGF-βによるシグナル伝達を阻害するために、TGF-βの発現および/または機能を阻害する方法を使用する。TGF-βによるシグナル伝達を阻害するために、RNA干渉(RNAi)を使用することができる。TGF-β遺伝子を標的とするsiRNA(低分子干渉RNA)は、RNAi用の細胞を形質導入するために設計し、合成することができる。RNAiとは、dsRNA(2本鎖RNA)が特異的および選択的に標的遺伝子に結合し、その後除去されて、標的の発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞に導入すると、RNAと相同な配列を有する遺伝子の発現がノックダウンする。siRNAは以下のように設計する。
【0028】
(a)遺伝子がTGF-βまたはプロTGF-βをコードする限り遺伝子に制限はなく、任意のドメインを候補として使用することができる。例えば、ヒトの場合、GenBank アクセッション番号NM_000660(配列番号3および4)の任意のドメインを候補として使用することができる。
【0029】
(b)選択したドメインから、AAで開始する長さが19から25塩基、好ましくは19から21塩基の配列を選択する。配列のGC含量は、例えば、40〜60%が便利である。siRNAは、インビトロで合成したsiRNAがプラスミドDNAに結合し、その後細胞に導入される方法または2本のRNAがアニールする方法によって細胞内に導入することができる。
【0030】
本発明では、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用してもよい。shRNAは、1本鎖分子の1ドメインとその他のドメインとの間に相補鎖を形成するためのステムループ構造を有する短いヘアピンRNAと呼ばれるRNA分子である。
【0031】
shRNAは、一部がステムループを形成するように設計することができる。例えば、配列Aが1ドメインの配列を表し、配列Bが配列Aに相補的な配列を表すとき、配列A、スペーサーおよび配列Bは、この順番で全長が45から60塩基の1本のRNA鎖中に並ぶ。標的ドメインは、特に限定されず、任意のドメインが候補となり得る。
【0032】
(2)デコイ核酸
本発明におけるデコイ核酸とは、転写因子が結合する部位を含む短いデコイ核酸を意味する。この核酸が細胞に形質移入されると、転写因子はこの核酸に競合的に結合して、転写因子がゲノム上の本来の結合部位に結合するのを阻害する。結果として、転写因子の発現が阻害される。通常は、デコイ核酸は、標的結合配列に結合することができる少なくとも1つの核酸配列を含有する核酸およびその核酸の類似体である。デコイ核酸は、1本鎖または相補鎖を含む2本鎖を作製することによって、TGF-βまたはプロTGF-βのヌクレオチド配列をベースにして設計することができる。長さに特に制限はないが、所望する長さは、15から60塩基、好ましくは20から30塩基の範囲である。
【0033】
本発明で使用されるsiRNA、shRNAまたはデコイ核酸は、当分野で知られた化学合成法または生化学合成法によって生成することができる。例えば、一般的なDNA/RNA合成装置を使用する核酸合成法は、遺伝子組み換え技術として使用することができる。
【0034】
3.siRNA、shRNAまたはデコイ核酸を含有する医薬組成物
本発明は、脳血管疾患を治療または予防するための、1つまたは複数の前記siRNA、shRNAまたはデコイ核酸を含有する医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物が適用可能な疾患には、CARASILが含まれる。本発明の医薬組成物をこれらの疾患に適用するとき、前記疾患は、単独で存在することができ、または複数の疾患を伴うこともできる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、siRNA、shRNAまたはデコイ核酸が細胞障害部分または組織細胞中に取り込まれることができるような形態で使用することができる。本発明の医薬組成物の投与様式は、経口または非経口経路のいずれかであることができる。経口投与の場合、適切な剤形は、錠剤、パール(pearl)、糖衣錠、カプセル、液剤、ジェル、シロップ、スラリーおよび懸濁液から選択することができる。非経口投与の場合は、肺投与型(例えば、噴霧器の使用など)、鼻内投与型、皮下注射型(例えば、軟膏、クリーム剤)および注射型が有用である。注射型の場合、医薬組成物は全身または局所的に、疾患領域に直接または間接的に、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射および皮下注射などの様々な点滴注入によって投与することができる。
【0036】
本発明の医薬組成物を遺伝子治療として使用するとき、組成物の注射による直接投与に加えて、前述のsiRNA、shRNAまたはデコイ核酸を取り込んだベクターを投与する方法が有用である。前述のベクターとして、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが有用である。
【0037】
本発明の医薬組成物は、リン脂質小胞、例えば、リポソームに導入することができ、この小胞を投与することができる。本発明の医薬組成物を保持した小胞は、リポフェクション法によって特定の細胞に導入する。次に、得られた細胞を静脈内または動脈内に全身投与する。局所的に、例えば、脳、脳血管、クモ膜下腔または脳室に投与することもできる。本発明の医薬組成物を標的組織または臓器に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えば、Adeno Express、Clontech Corp.)を使用することができる。リポソーム構造を形成する脂質として、リン脂質、コレステロールおよびニトロ脂質を使用することができる。
【0038】
本発明の医薬組成物は、従来の方法によって製剤化することができ、薬学的に許容される担体を含有することができる。このような担体は、添加物であることができ、または以下の添加物が有用である:水、薬学的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、乳糖および医薬品添加物として許容される界面活性剤。
【0039】
前述の添加物は、本発明の医薬組成物の種類に従って単独で、または組み合わせて選択することができる。例えば、注射製剤として使用するときは、精製した核酸を溶媒(例えば、生理食塩水、緩衝液、グルコース溶液など)に溶解し、その後Tween80、Tween20、ゼラチンおよびヒト血清アルブミンなどと混合する。あるいは、使用前に溶解するための凍結乾燥形態にすることができる。凍結乾燥用の賦形剤として、以下の物質が有用である:糖類(例えば、マンニトール、グルコース、乳糖、スクロース、マンニトールおよびソルビトールなど)、デンプン(例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、ジャガイモおよびその他の野菜のデンプン)、セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナトリウム)、ゴム(例えば、アラビアゴム、トラガントゴム、ゼラチンならびにコラーゲン)など。所望するならば、崩壊剤または溶解剤、例えば、架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)が有用である。
【0040】
本発明の医薬組成物の用量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与頻度および製剤の種類によって変化する。投与方法は、患者の年齢および症状に基づいて適切に選択する。効果的な用量は、脳血管疾患の症状を軽減するために必要な核酸の量である。本発明の医薬組成物の1回の用量は、体重1kg当たり0.1μgから100mg、好ましくは1から10μgの範囲である。しかし、前述の治療薬は、これらの用量に限定はされない。
【0041】
4.キット
「キット」という用語は、野生型または変異型HTRA1遺伝子を増幅するプライマーセットを供給するための供給システムを意味する。反応アッセイ法で使用する場合は、反応試薬および/または補助物質を保存、輸送または供給するためのシステムをこのような供給システムに含める。このような反応試薬の例には、限定はしないが、容器に含めたオリゴヌクレオチドおよび酵素が含まれる。このような補助物質の例には、限定はしないが、緩衝剤および指示書が含まれる。このようなキットの例には、関連反応試薬および/または補助物質などを含有する少なくとも1種の収納単位(例えば、箱)が含まれる。
【実施例】
【0042】
以後、本発明は、以下の実施例を参照にしてより具体的に記載する。但し、本発明の技術範囲は、この実施例に限定はされない。
【0043】
方法
被験者および遺伝子分析
アジア人(日本人)を祖先とする血縁家族の5人の発端者および連鎖分析のためにそれらの家族のメンバーの数人を登録した(表1および図1Aにおける家族2285、1872、2321、2402および2520)。CARASILの原因遺伝子を同定した後、病理学的に確認されたCARASILを有する家族3119の被験者を一人追加登録した(表1)。家族3119の患者の神経病理学的検査において、内膜肥厚および高密度のコラーゲン繊維に関連した動脈硬化症が脳小動脈に認められた(図1I)。参加者または家族のメンバーの自己申告書類によって、祖先を決定した。発端者は、核磁気共鳴画像法においてびまん性白質病変、常染色体劣性遺伝、20年から50年の間の症状の発症および脊椎症または脱毛症を示した(表1および図1E、1F、1Gおよび1H)6〜8
【0044】
【表1】

【0045】
家族2520の患者は脱毛症および認知障害を有さなかったが、核磁気共鳴画像法においてびまん性白質病変および脊椎症があり、罹患した兄弟はCARASILの患者と同一の病理学的所見を有するのでこの家族を登録した。CARASILを有するこれら5家族の5人の発端者を含む11人の被験者からゲノムDNAを単離した。763のマイクロサテライトマーカー(Applied Biosystems)を使用して、全ゲノム連鎖解析を実施した。ペアワイズ対数オッズ(LOD)スコアをLINKAGE 5.2のMLINKプログラムおよびFASTLINK 4.1Pパッケージで算出した12、13。UCSCのヒトのゲノムブラウザの単純反復情報に基づいて、5つの新たなマイクロサテライトマーカー、すなわち、M1236、M1238、M1241、M1260およびM1264を確立した。これらのマーカーのプライマー配列を表2にまとめて示す。
【0046】
本来確立されている多型マーカーのプライマー配列
候補領域を絞るために、カリフォルニア大学サンタクルーズゲノムブラウザデータベース(http://genome.ucsc.edu/index.html)の2006のヒト参照配列から得られた単純反復情報に基づいて、5つの新たなマイクロサテライトマーカー、すなわち、M1236、M1238、M1241、M1260およびM1264を確立した。
【0047】
以下の表2は、マーカーの増幅プライマーの概要である。
【0048】
【表2】

【0049】
HTRA1の9つのコーディングエキソンを増幅するためのプライマー対を設計した。DNAおよび線維芽細胞を提供するための対照患者は、自己申告によって決定された通り、アジア人(日本人)を祖先とする健康な個体から集めた。対照患者の年齢は74歳と90歳の間で、ミニメンタルステート検査によって確認された通り、認知症の徴候はなかった。患者およびその家族のメンバーから書面によるインフォームドコンセントならびに対照患者から書面および口頭によるインフォームドコンセントを得た。新潟大学の施設内倫理委員会によってこの研究は認可された。
【0050】
HTRA1プロテアーゼ活性のアッセイ
野生型または1〜140コドンを欠如した変異型HTRA1相補DNA(cDNA)をベクターpGEX 6P-3にサブクローニングして、大腸菌(Escherichia coli)内でグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合物としてポリペプチドを発現させた(GE Healthcare)。HTRA1のプロテアーゼ活性が消失するセリンプロテアーゼモチーフS328Aのアミノ酸置換を陰性対照として使用した14。GST融合タンパク質を過剰発現させ、精製した。FITC標識基質β−カゼインを使用したプロテアーゼ活性を、組換えGST-HTRA1を使用することによってQuantiCleave Fluorescentプロテアーゼアッセイキット(Pierce)で評価した。GST-HTRA1のN-末端の欠如がプロテアーゼ活性の結果に影響を及ぼす可能性を排除するために、緑色蛍光蛋白質(GFP)でタグ付けした完全長野生型または変異型HTRA1を安定的に発現する細胞の培養上清を使用して同一のプロテアーゼアッセイも実施した。GFPタグ付けHTRA1タンパク質は、抗GFP抗体(MBL)を使用することによって検出した。
【0051】
α1-アンチトリプシンとの安定な複合体の形成をアッセイするために、α1-アンチトリプシンおよびV5タグをC末端に備えた野生型もしくは変異型HTRA1 cDNAをHEK293細胞で一時的に発現させた。これらの細胞は、無血清培地で増殖し、その後培養上清を抗V5抗体でイムノブロットした14
【0052】
HTRA1およびNOG mRNAの発現
全RNAは、全血または培養皮膚線維芽細胞から単離した。cDNAは、High-Capacity cDNA Reverse Transcription kit(Applied Biosystems)で合成した。HTRA1の遺伝子特異的プライマーを使用して、全血中のHTRA1mRNAの発現をアッセイした。グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素の発現と比較して、培養した皮膚線維芽細胞におけるHTRA1 mRNAレベルをアッセイするために、特異的TaqMan(登録商標)プローブおよびプライマーセット(Applied Biosystems)を使用して、リアルタイム定量的逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を実施した。SYBR Greenアッセイ(Applied Biosystems)を使用したリアルタイム定量的RT-PCRによって、β−アクチンの発現と比較した培養皮膚線維芽細胞におけるNOG mRNAレベルをアッセイした。
【0053】
HTRA1およびNOG mRNAを増幅するための逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応アッセイ
HTRA1におけるR370Xナンセンス変異が変異型対立遺伝子のmRNAの欠如を生じるかどうかを測定するために、全血のmRNAを分析した。全RNAをPAX Gene Blood RNA kit(Pre-Analytix)で単離した。cDNAは、High-Capacity cDNA Reverse Transcription kit(Applied Biosystems)で合成した。PCRは以下のプライマー対で実施した。
フォワードプライマー:5’-CGCCATCATCAACTATCG-3’(配列番号15)
リバースプライマー:5’-GTCAAAAGTCTTGAGTGTCC-3’(配列番号16)
RT-PCR産物は、2%アガロースゲルで分析し、同じプライマーを使用して配列決定した。
【0054】
培養皮膚線維芽細胞におけるHTRA1mRNAレベルを定量するために、TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を使用したリアルタイムRT-PCRを実施した(対照としてHTRA1にはHs01016151m1、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素にはHs99999905m1)。リアルタイムRT-PCR増幅は、ABI Prism 7100 Sequence Detection System(Applied Biosystems)で実施した。β-アクチンmRNAレベルと比較して、培養皮膚線維芽細胞におけるNOG mRNAレベルを定量するために、以下のプライマーセットを設計した。
NOG mRNAについて
フォワードプライマー:5’-CCAGCACTATCTCCACATC-3’(配列番号17)
リバースプライマー:5’-GCAGCGTCTCGTTCAGATC-3’(配列番号18)
β−アクチンmRNAについて
フォワードプライマー:5’-CTTCTACAATGAGCTGCGTG-3’(配列番号19)
リバースプライマー:5’-GTCTCAAACATGATCTGGGTC-3’(配列番号20)
【0055】
TGF-βファミリータンパク質によるシグナル伝達のアッセイ
GeneTailor部位特異的変異導入システム(Invitrogen)を使用してHTRA1変異型および構成的活性型TGF-β1プロタンパク質(活性化した変異型C223S/C225Sを含有するproTGF-β1)17をコードするcDNAを合成し、その後pcDNA DEST-40ベクター(Invitrogen)にこれらのcDNAを個々にサブクローニングした。構成的活性型TGF-β1は、活性化した変異型C223S/C225Sを含有するpro-TGF-β1から合成した。ヒト全脳cDNAライブラリー(Clontech)からSMAD2 cDNAを単離し、pcDNA DEST-40ベクターにサブクローニングした。ルシフェラーゼアッセイは以前に記載されたように実施した15、16。マウスC2C12筋芽細胞をpRL-TKウミシイタケルシフェラーゼ発現プラスミド、HTRA1発現ベクター並びに以下の構築物で同時形質移入した:(SBE)−ホタルルシフェラーゼベクター(TGF-β応答性レポーターベクター)並びにSMAD2、SMAD4およびTGF-β1(2つの点突然変異(C223S、C225S)を有するTGF-β1をコードする)を含有するベクター17;pGL3-Id985WT-ホタルルシフェラーゼベクター(BMP応答性レポーターベクター)16並びにSMAD1、SMAD4およびBMP-4(プロ骨形態形成タンパク質4をコードする)を含有するベクター;pGL3-Id985WT-ホタルルシフェラーゼベクター(BMP応答性レポーターベクター)16並びにSMAD1、SMAD4およびBMP-2(pro-BMP-2をコードする)を含有するベクター18。細胞抽出物をルシフェラーゼ活性に関してDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)を使用してアッセイした。活性は、pRL-TKウミシイタケルシフェラーゼ活性を使用して形質移入効率について補正した。各試料を3連で形質移入し、各実験は3回繰り返した。
【0056】
Smadタンパク質のリン酸化
ヒト胚性腎(HEK)293細胞を、HTRA1を含有するベクター並びに以下の構築物で同時形質移入した:SMAD2、SMAD4およびTGF-β1(2つの点突然変異(C223S、C225S)を有するpro-TGF-β1をコードする)を含有するベクター;SMAD1、SMAD4およびBMP-4を含有するベクター;SMAD1、SMAD4およびBMP-2を含有するベクター17、18。細胞は、ホスファターゼ阻害剤を含有するRIPA緩衝液中で溶解した。抗Smad1、抗ホスホ-Smad1/5/8、抗Smad2/3および抗ホスホ-Smad2(Cell Signaling)抗体を使用して、ウエスタンブロットによる分析によって、それぞれSmad1、リン酸化Smad1、Smad2およびリン酸化Smad2タンパク質を検出した。
【0057】
免疫組織化学およびIn situハイブリダイゼーション
検死解剖した2人のCARASIL患者および検死解剖した対照患者(脳卒中の84歳女性患者、統合失調症患者および筋萎縮性側索硬化症患者)から採取し、ホルマリン固定し、パラフィン包埋した脳の免疫ペルオキシダーゼ染色を実施した8、9。1次抗体はTGF-β1(1:50、Santa Cruz)、バーシカン(1:100、Seikagaku)およびフィブロネクチンED-A(1:100、Abcam)に対するものである。陰性対照として、非免疫性イムノグロブリンGを使用した。ジゴキシゲニン標識アンチセンスおよびセンス相補的RNAプローブの鋳型として、フィブロネクチンのED-Aドメイン(フィブロネクチンアイソフォーム1:NM_212482.1の5404〜5704ヌクレオチド断片)をコードするcDNAを使用した。陰性対照として、センスプローブを使用した。パラフィン包埋切片においてプローブでin situハイブリダイゼーションを実施した。洗浄およびブロッキングを行った後、この切片をアルカリホスファターゼ結合抗ジゴキシゲニン抗体でインキュベートした。4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド/5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸溶液(Roche)中でシグナルを発生させた。この切片をファストレッドで対比染色した。
【0058】
結果
遺伝子分析
5家族の全ゲノム連鎖解析の実施において、D10S587およびD10S1656(θ=0.0)で最大累積ペアワイズLODスコア3.97および3.59が得られ、これらのマーカーは全患者においてホモ接合型であった(図1A)。次に、D10S1483および5つの確立された多型マイクロサテライトマーカー(M1236、M1238、M1241、M1260およびM1264、表2参照)を使用して、D10S597とD10S575との間の領域をファインマップした(図1Aおよび1B)。M1236とM1260との間の領域は、発端者全てにおいてホモ接合型であったため、原因遺伝子は、この2.4Mb領域内に位置することが示唆された。
【0059】
HTRA1は、血管、皮膚および骨で発現するので19、候補としてまず選択した(図1B)。2つのホモ接合型ナンセンス変異:家族2285におけるC1108→T(370に終止コドンを生じる:R370X)および家族1872におけるC904→T(302に終止コドンを生じる:R302X)を同定した(図1C)。また、2つのホモ接合型ミスセンス変異:家族2321および2404におけるG889→A(アミノ酸置換V297Mを生じることが予測される)並びに家族2520におけるG754→A(アミノ酸置換A252Tを生じることが予測される)を同定した。さらに、家族3119の発端者においてホモ接合型ナンセンス変異G904→Tを認めた。ミスセンス変異V297MおよびA252Tは、セリンプロテアーゼドメインをコードする遺伝子領域に位置し、影響を受けることが予測されたアミノ酸は、HTRAホモログおよびHTRA1オルソログで完全に、または強力に保存されている(図1Cおよび1D)。125人の被験者患者ではこれらの変化は認められなかった。
【0060】
変異型HTRA1のプロテアーゼ活性
ミスセンス変異またはR370Xのいずれかを含有する構築物によってコードされたHTRA1のプロテアーゼ活性は、野生型HTRA1の活性の21〜50%であった。対照的に、R370X変異を含有する構築物によってコードされたHTRA1は、野生型HTRA1と類似のプロテアーゼ活性を有した(図2AおよびB)。HTRA1はα1-アンチトリプシンの反応性中心ループを攻撃し、α1-アンチトリプシンのセリンプロテアーゼ活性を高め、それによって2分子間の共有結合複合体の形成を媒介する14。α1-アンチトリプシンとV297M、A252TまたはR302Xのいずれかを含有するcDNAによってコードされた変異型HTRA1との間には、安定な複合体の形成は認められなかった。対照的に、野生型HTRA1およびR370Xを含有するcDNAによってコードされたHTRA1は、α1−アンチトリプシンと安定な複合体を形成した(図2C)。
【0061】
ナンセンスによって媒介される分解
未成熟終止コドンが最も3’側のエキソン−エキソン接合部の少なくとも50から55ヌクレオチド上流に位置する場合は、メッセンジャーRNA(mRNA)はナンセンス変異依存分解機構によって分解され得る20。R370Xの位置はこれらの基準を満たすので(図1C)、R370X含有HTRA1 mRNAがナンセンス変異依存分解機構によって分解されるかどうかを測定した。R370X変異を有する患者の線維芽細胞におけるHTRA1 mRNA発現のレベルは、対照患者のレベルの6.0%であり、ナンセンス変異依存分解機構の阻害剤、シクロヘキシミドで処理すると、R370X HTRA1 mRNAの発現は基準レベルの発現の4倍に増加した(図3A)。R370X変異を有する患者の線維芽細胞の培地中では、HTRA1タンパク質は検出されなかった(図3B)。さらに、この変異のヘテロ接合型の保有者の白血球のHTRA1の分析によって、野生型HTRA1 mRNAのみの存在が示された(図3C)。
【0062】
変異型HTRA1およびTGF-βホモログによるシグナル伝達
HTRA1のセリンプロテアーゼ活性は、TGF-βファミリーシグナル伝達の阻害に必要である15。したがって、「ミスセンス」アミノ酸を有するHTRA1の変異種がTGF-βファミリーのメンバー、TGF-β、BMP-4およびBMP-2によるシグナル伝達を抑制する能力を試験した(図4Aおよび図5)。予測通り、ミスセンス変異したHTRA1タンパク質はいずれもこれらの分子によるシグナル伝達を抑制しなかった。HTRA1プロテアーゼ活性がリポーター系に直接影響を及ぼす可能性を排除するため、これらのアッセイにおいてSmadのリン酸化をアッセイし(リン酸化SmadはTGF-βシグナル伝達経路の下流エフェクターである)、変異型HTRA1がいずれもSmadタンパク質のその後のリン酸化を抑制しないことを観察した(図4Bおよび図6)。
【0063】
次に、R370X変異を有するCARASILの被験者の線維芽細胞におけるTGF-βシグナル伝達を調査し、これらの線維芽細胞におけるTGF-βシグナル伝達が対照患者の3倍を上回ることを認めた(図4C)。さらに、線維芽細胞におけるTGF-βシグナル伝達によって誘導されるNOG mRNAはまた、発端者において上昇していた(図4Dおよび図7)21
【0064】
TGF-βシグナル伝達の増加は、ED-Aフィブロネクチンおよびバーシカンを含む細胞外マトリクスタンパク質を合成する血管線維症を生じる22〜24。R302XまたはA252T変異を有するCARASIL患者の内膜は、被験者患者の内膜(図4M、4Nおよび4O)と比較した場合、ED-Aフィブロネクチン(図4E、4F、4G、4Hおよび図8)およびバーシカン(図4Kおよび図8)の増加の発現を示した。この結果は、ED-Aフィブロネクチンのプローブを使用したin situハイブリダイゼーションアッセイによって確認された(図4I、4Jおよび図9)。さらに、CARASIL患者の中膜は、TGF-β1の発現上昇を示した(図4L、4Pおよび図8)。これらの結果は、CARASILの脳小動脈におけるTGF-βシグナル伝達の増加を示唆している。
【0065】
考察
TGF-βファミリーのシグナル伝達は、血管新生および再構築に密接に関与しており、細胞の種類および細胞外マトリクスに応じて、血管の内皮細胞および血管の平滑筋細胞において多面的な役割を果たしている25、26。さらに、TGF-βファミリーのシグナル伝達の調節異常は、遺伝性血管障害を生じる26。TGF-β受容体における変異による不完全なTGF-βのシグナル伝達は、遺伝性出血性毛細血管拡張症を引き起こし、他方、TGF-βのシグナル伝達の活性化は、マルファン症候群および関連障害に関与する26。我々の知見は、遺伝性虚血性脳小血管病を含めるため、TGF-βのシグナル伝達の調節異常によって引き起こされることが示された様々な疾患に適用される。さらに、CARASILにおける病理学的所見は、高血圧を有する非遺伝性虚血性脳小血管病で認められたものと類似しており、高血圧はTGF-βのシグナル伝達を増加させる可能性がある7〜11、27。したがって、TGF-βのシグナル伝達は高血圧を伴う非遺伝性虚血性脳小血管病の分子的基礎となり得る。
【0066】
TGF-βファミリーのシグナル伝達阻害の調節異常はまた、脱毛症および脊椎症、CARASILのその他の主要な臨床的特徴に関係している。BMP-4、BMP-2およびTGF-βを過剰発現する遺伝子導入マウスは、脱毛または毛包発達の遅延を示す28、29。BMPファミリーのメンバーは、骨形成、修復および再生のよく知られた調節因子である30。さらに、HTRA1過剰発現は、BMP-2誘導性石灰化を減少させるのに対し、HTRA1発現の減少は石灰化を加速する31。その他の基質に対するHTRA1によるプロテアーゼ活性の欠如はCARASILの病理発生に関連する可能性があるが、これらの所見はTGF-βファミリーのシグナル伝達の増加がCARASILの病理発生に関与するという仮説を強める14、31〜33。変異型HTRA1によって引き起こされるTGF-βファミリーのメンバーによるシグナル伝達の脱抑制が、なぜ狭く制限された臨床像を生じるのかはまだわかっていない。TGF-βファミリーのシグナル伝達の組織特異的調節またはHTRA1の組織特異的発現が1つの説明である14、33、34、25、26
【0067】
HTRA1によるTGF-βシグナル伝達調節の分子的基礎は依然として解明されていない15、35、36。TGF-β1は、プロタンパク質(プロ-TGF-β1)として合成され、その後プロタンパク質転換酵素によって潜伏関連タンパク質(LAP)および成熟TGF-β1に切断される26。成熟TGF-β1は、LAPに非共有結合し、細胞外マトリクス中にLAP-TGF-β1複合体として隔離される26。成熟TGF-β1は、LAP-TGF-β1複合体から遊離し、提示される。したがって、TGF-β1シグナル伝達は、成熟、隔離および提示の間の均衡によって調節される。興味深いことに、エミリン1はpro-TGF-βの成熟TGF-β1へのプロセシングを妨害することによってTGF-β1シグナル伝達を阻害する37。CARASIL患者は、成熟TGF-β1の発現増加を示し、HTRA1はまた、そのプロテアーゼ活性に応じてpro-TGF-β1の成熟TGF-β1へのプロセシングを阻害することを示唆している。HTRA1の発現レベル上昇に関連するHTRA1のプロモーター領域における一塩基多型は、加齢黄斑変性(AMD)の血管新生形態の遺伝子危険因子である38、39。我々はCARASILの患者では黄斑変性は認められないことを観察したが、HTRA1発現増加は加齢黄斑変性に関与するという仮説と一致している6〜8、38。とはいうものの、患者は全て、新生血管形態のAMDを発症する通常の年齢より若かった。
【0068】
これらの結果は、TGF-βファミリーシグナル伝達の脱抑制がCARASILの分子的基礎となっており、虚血性脳小血管病、脱毛症および脊椎症の治療戦略のさらなる探究の基礎となることを示唆している。
【0069】
図の説明
図1.CARASILの家族の系図およびHTRA1変異
パネルAは、CARASILの患者の系図を示す。四角は男性、丸は女性、黒い印は罹患した家族のメンバー、白い印は罹患していないメンバー、2重の横線は近親婚を示す。マイクロサテライトマーカーは、セントロメアからq腕末端までの順番で示す。元々開発されたマイクロサテライトマーカーは、青色で示す。相が明瞭に特定されていない対立遺伝子は括弧内に示す。罹患した対象それぞれのホモ接合体の領域は四角で囲ってある。パネルBは、染色体10qのCARASILの候補領域の物理地図を示す。パネルCは、9つのエキソン(四角)からなるHTRA1の変異の分布を示す。色のついた四角は、インシュリン様増殖因子結合タンパク質ドメイン(緑)、Kazal型セリンプロテアーゼ阻害因子ドメイン(赤)、トリプシン様セリンプロテアーゼドメイン(青)、PDZドメイン(黄色)および非翻訳領域(灰色)に対応するエキソンを表す。ミスセンス変異は黒であり、ナンセンス変異は赤である。パネルDは、CARASILにおいて変異したHTRA1残基の保存を示す。保存されたアミノ酸残基は影付きである(黒、100%、濃灰色、80%、灰色 60%)。配列はGenBankから入手した。厚さ5mmの脳のT2強調核磁気共鳴画像法(繰り返し時間、5000msec、エコー時間、150msec)は、大脳基底核および白質における虚血領域を示しており(パネルEおよびF、被験者II-7、家族2321)、厚さ5mmの腰部T1強調核磁気共鳴画像法(繰り返し時間、519msec、エコー時間、19msec)は腰椎の脊椎性変化を示した(パネルG、被験者II-3、家族1872)。頭部の側頭部および/または頭頂部のびまん性脱毛が認められた(被験者II-2、家族2285、パネルH)。家族3119の被験者II-1のクモ膜の脳小動脈は、著しい内膜肥厚、管腔の狭小化、ヒアリン症および内部の弾性膜の分裂を示した(パネルI、エラスチカワンギーソン染色)。
【0070】
図2.CARASILにおけるHTRA1変異の機能的結果
パネルAおよびBは、変異したHTRA1のFITC標識β-カゼインアッセイを示す。蛍光単位は、プロテアーゼ活性を表す。C末端に緑色蛍光蛋白質(GFP)でタグ付けしたHTRA1(パネルA)または大腸菌(E.coli)で発現したN末端欠失組換えHTRA1(パネルB)を安定発現するHEK293細胞の培養上清を、FITC標識β-カゼインと共にインキュベートした。HTRA1タンパク質の量は、抗GFP抗体によるイムノブロッティング(パネルA)またはクーマシーブリリアントブルー(CBB)染色(パネルB)によって示された。棒は標準誤差を表す。パネルCは、α-アンチトリプシンと野生型(WT)またはR370X HTRA1のいずれかとの間の共有結合複合体形成(高分子量産物、上図)を示す。安定なHtrA/α1-アンチトリプシン複合体の形成は、その他の変異型HTRA1では生じなかった。HTRA1タンパク質の量は、抗V5抗体によるイムノブロッティングによって示された(下図)。
【0071】
図3.ナンセンス変異したHTRA1 mRNAのナンセンス依存分解機構
パネルAは、ナンセンス変異依存分解機構阻害剤シクロヘキシミド(CHX;100μg/ml)の存在下、または非存在下において4時間後の、R370X HTRA1を有する家族2285、被験者II-2の培養皮膚線維芽細胞におけるHTRA1 mRNAレベルを対照患者(n=4)の細胞のレベルのパーセントとして示している。棒は標準誤差を表す。パネルBは、R370Xを有する家族2285、被験者II-2および対照患者の培養皮膚線維芽細胞を使用したHTRA1抗体(MAB2916; R&D Systems)によるHTRA1のウエスタンブロット分析を示している。パネルCは、RT-PCRアッセイの結果を示している。転写物の長さが600bpであることが予測されるHTRA1 PCR増幅産物は、家族2285、ヘテロ接合型II-1の末梢血から調製したcDNAから得られたのに対し、家族2285、被験者II-2の末梢血から調製したcDNAからは得られなかった。電気泳動図は、影響を受けなかった家族2285、ヘテロ接合型被験者II-1の白血球のゲノムDNAから得られたPCR産物における野生型および変異型(C1108→T)を示しており、他方、野生型対立遺伝子のみが同一個体の白血球のRNAから得られた逆転写PCR産物において検出された。
【0072】
図4.変異したHTRA1タンパク質によるTGF-βファミリー媒介転写応答のモジュレーション
パネルAでは、C2C12細胞をpRL-TKウミシイタケルシフェラーゼ発現プラスミド、野生型(WT)または変異型HTRA1発現プラスミド並びに以下の構築物で同時形質移入した:(左)(SBE)−ホタルルシフェラーゼベクター(TGF-β応答性レポーターベクター)並びにSMAD2、SMAD4およびTGF-β1(2つの点突然変異(C223S、C225S)を有するpro-TGFβ1をコードする)を含有するベクター17;(中央)pGL3-Id985WT-ホタルルシフェラーゼベクター(BMP応答性レポーターベクター)16並びにSMAD1、SMAD4およびBMP-4(プロ骨形態形成タンパク質4をコードする)を含有するベクター;(右)pGL3-Id985WT-ホタルルシフェラーゼベクター(BMP応答性レポーターベクター)16並びにSMAD1、SMAD4およびBMP-2(pro-BMP-2をコードする)を含有するベクター18。データは、3回の独立した実験から正規化したホタルルシフェラーゼ/ウミシイタケルシフェラーゼ活性の標準誤差を含む平均を表す。パネルBでは、HEK293細胞をWTまたは変異型HTRA1-V5発現ベクター以下の構築物で同時形質移入した:(左)(SBE)SMAD2、SMAD4およびTGF-β1(2つの点突然変異(C223S、C225S)を有するpro-TGF-β1をコードする)を含有するベクター17;(中央)SMAD1、SMAD4およびBMP-4(プロ骨形態形成タンパク質4をコードする)を含有するベクター;SMAD1、SMAD4およびBMP-2(プロBMP-2をコードする)を含有するベクター18。リン酸化Smadタンパク質の比は、全細胞溶解物のイムノブロッティングによって調べた。データは、4回の独立した実験の標準誤差を含む平均を表す。パネルAおよびBでは、WT-HTRA1の平均値は、チューキー多重比較試験によって他のものよりも著しく低かった(P<0.05)。パネルCでは、2人の対照患者およびR370X HTRA1を有する家族2285、被験者II-2の線維芽細胞をpRL-TKウミシイタケルシフェラーゼ発現プラスミド並びにSMAD2、SMAD4およびTGF-β1(2つの点突然変異(C223S、C225S)を有するpro-TGF-β1をコードする)を含有するベクター17で同時形質移入した。R370Xの平均値は、チューキー多重比較試験によって他のものよりも著しく高かった(P<0.05)。パネルDは、R370X HTRA1を有する家族2285、被験者II-2の線維芽細胞におけるNOG mRNAレベルを対照患者(n=4)の線維芽細胞のレベルの比として示している。パネルE、F、G、H、I、J、KおよびLでは、検死解剖した家族3119、被験者II-1(R302X変異のホモ接合型)の脳小動脈は、著しい内膜増殖(パネルEおよびG、エラスチカワンギーゾン染色)、内膜におけるED-Aフィブロネクチンの発現増加(パネルFおよびH、IST-9抗体)、内皮細胞および内皮下平滑筋細胞におけるED-AフィブロネクチンのmRNA発現増加(パネルIおよびJ)並びに内膜におけるバーシカン(パネルK)および中膜におけるTGF-β1(パネルL)の発現増加を示す。パネルM、N、OおよびPでは、検死解剖した対照患者(筋萎縮性側索硬化症を有する40歳女性)の脳小動脈の免疫組織化学分析。エラスチカワンギーゾン染色(パネルM)ならびに抗EDA-フィブロネクチン抗体(IST-9、パネルN)、抗バーシカン抗体(パネルO)および抗TGF-β1抗体(パネルP)による染色。同じ結果が、2人の他の対照患者(脳卒中の84歳女性、脳卒中の62歳男性および統合失調症の36歳女性)から得られた。
【0073】
図5
TGF-β1ファミリー依存性転写応答アッセイにおける形質導入HTRA1タンパク質の発現レベル
C2C12細胞は、pRL-TKウミシイタケルシフェラーゼ発現プラスミド、野生型(WT)または変異型HTRA1発現プラスミド並びに以下の構築物で同時形質移入した:
(左)(SBE)−ホタルルシフェラーゼベクター(TGF-β応答性レポーターベクター)並びにSMAD2、SMAD4およびTGF-β1(2つの点突然変異(C223S、C225S)を有するpro-TGF-β1をコードする)を含有するベクター、
(中央)pGL3-Id985WT-ホタルルシフェラーゼベクター(BMP応答性レポーターベクター)並びにSMAD1、SMAD4およびBMP-4(プロ骨形態形成タンパク質4をコードする)を含有するベクター、
(右)pGL3-Id985WT-ホタルルシフェラーゼベクター(BMP応答性レポーターベクター)並びにSMAD1、SMAD4およびBMP-2(pro-BMP2をコードする)を含有するベクター。
【0074】
データは、3回の独立した実験から正規化したホタルルシフェラーゼ/ウミシイタケルシフェラーゼ活性の標準誤差を含む平均を表す(上図)。HTRA1タンパク質は抗V5抗体で染色した(下図)。
【0075】
図6
Smadタンパク質のリン酸化のアッセイにおける形質導入HTRA1タンパク質の発現レベル
HEK293細胞は、WTまたは変異型HTRA1-V5発現ベクターおよび以下の構築物で同時形質移入した:
(左)SMAD2、SMAD4およびTGF-β1(2つの点突然変異(C223S、C225S)を有するpro-TGF-β1をコードする)を含有するベクター、
(中央)SMAD1、SMAD4およびBMP-4(プロ骨形態形成タンパク質4をコードする)を含有するベクター、
(右)SMAD1、SMAD4およびBMP-2(プロBMP-2をコードする)を含有するベクター。
【0076】
リン酸化Smadタンパク質の比は、全細胞溶解物のイムノブロッティングによって調べた。データは、4回の独立した実験の標準誤差を含む平均を表し(上図)、HTRA1タンパク質は抗V5抗体で染色した(下図)。
【0077】
図7
培養した皮膚線維芽細胞におけるNOG mRNA発現に対するTGF-βの効果
健康な日本人被験者(n=3)の培養した皮膚線維芽細胞を組換えTGF-β1、0.04〜5.0ng/mlで2時間処理した。NOG mRNAレベルは、TGF-β1を有さない細胞におけるレベルの倍率変化である。棒は標準誤差を表す。
【0078】
図8
脳小動脈における免疫組織化学分析
パネルA、BおよびCにおいて、検死解剖した家族5、被験者II-3(A252T変異のホモ接合型)の脳小動脈は、フィブロネクチンのエキストラドメインA(パネルA)および内膜におけるバーシカン(パネルB)および中膜におけるTGF-β1の発現増加(パネルC)を示す。
【0079】
図9
脳小動脈におけるフィブロネクチンのエキストラドメインAのmRNA発現
In situハイブリダイゼーションは、フィブロネクチンのエキストラドメインAから得られたアンチセンスプローブ(パネルAおよびC)およびセンスプローブ(パネルBおよびD)を使用して、検死解剖した家族6、被験者II-1(R302X変異のホモ接合型)の脳小動脈において実施した。パネルEおよびFは、検死解剖した被験患者(筋萎縮性側索硬化症を有する40歳女性)の脳小動脈におけるフィブロネクチンアンチセンスプローブによるエキストラドメインAのin situハイブリダイゼーション分析。
【0080】
参考文献
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【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症(CARASIL)の診断または検出に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
配列番号5〜20:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける脳血管疾患の診断方法であって、
(a)前記ヒトの被検試料におけるHTRA1遺伝子の変異を測定するステップ、および
(b)前記試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異が前記ヒトにおける脳血管疾患と相関するかどうかを決定するステップ
を含む診断方法。
【請求項2】
ヒトにおける脳血管疾患の検出方法であって、
(a)前記ヒトの試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異を測定するステップ、および
(b)前記試験試料におけるHTRA1遺伝子の変異を前記ヒトにおける脳血管疾患と相関させるステップ
を含む検出方法。
【請求項3】
前記試験試料が、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、口腔粘膜および爪からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記試験試料が血液である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
脳血管疾患が、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症、急性脳血管疾患、虚血性脳血管疾患、ビンスワンガー病、白質病変、脳小血管病および白質脳症からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
変異型HTRA1遺伝子および野生型HTRA1遺伝子を増幅するためのプライマーセットを含む、ヒトにおける脳血管疾患を診断または検出するためのキット。
【請求項7】
TGF-βファミリータンパク質によるシグナル伝達を阻害する物質を含む医薬組成物。
【請求項8】
TGF-βファミリータンパク質によるシグナル伝達を阻害する物質が、TGF-βをコードする遺伝子を標的とするsiRNA、shRNAまたはデコイ核酸である、請求項7に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−523819(P2012−523819A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545523(P2011−545523)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【国際出願番号】PCT/JP2010/057323
【国際公開番号】WO2010/123136
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】