説明

Hsp90の阻害による神経変性疾患の処置

Hsp90を阻害し、血液脳関門を越える能力を有し、又は他の方法で脳に送達される、小分子プリン骨格の化合物を用いて、神経変性疾患の処置が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、本明細書に参照によって全ての目的で組み入れられる、2006年6月30日出願の米国仮出願第60/806427号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、NIH助成金AG09464によって一部支援されている。米国政府は、本発明にある種の権利を有することができる。
【背景技術】
【0003】
本出願は、熱ショックタンパク質90(HSP90)の阻害による神経変性疾患の処置に関する。
【0004】
HSP90ファミリーのタンパク質は、哺乳動物細胞において認められたメンバー4つ:Hsp90α及びβ、Grp94、並びにTrap−1を有する。Hsp90α及びβは、サイトゾル及び核において、数々の他のタンパク質と会合して存在している。その様々な形態のHsp90は、最も豊富な細胞シャペロンであり、変性又は「アンフォールドの」タンパク質のATP依存性のリフォールディングに必要とされていることが実験上のシステムで示されている。したがって、これは、ストレスに対する細胞防御の一部として機能すると提唱されている。細胞が、熱又は他の環境ストレスに曝露されると、アンフォールドのタンパク質の凝集は、そのリフォールディング又は変性を触媒する経路によって防止される。このプロセスは、複数のシャペロン(Hsp60、90、及び70、並びにp23)との秩序ある様式において、アンフォールドのタンパク質の会合に依存しており、「リフォルドソーム(refoldosome)」を形成し、最終的にリフォールドされたタンパク質からシャペロンをATP依存性に放出する。
【0005】
Hsp90は、変異タンパク質の安定性及び機能を維持する役割も果たしていることがある。これは、変異p53及びv−srcの発現には、それらの野生型の対応物よりもかなりの度合いで必要とされると思われる。これはタンパク質のアンフォールディングをもたらす突然変異の表現型の、Hsp90が媒介する抑制の結果として起こることが示唆されていた。
【0006】
Hsp90は、細胞外因子に対する細胞の増殖応答に関与するいくつかの主要なタンパク質の立体配座上の成熟にも必要である。これらには、ステロイド受容体、及びある種の膜貫通型のキナーゼ(即ち、Rafセリンキナーゼ、v−src、及びHer2)が含まれる。Hsp90がこれらのタンパク質に影響を及ぼす機序は完全に理解されていないが、タンパク質のリフォールディングにおけるその役割に類似する様子である。プロゲステロン受容体の場合は、受容体からのHsp90の結合及び放出は、他のシャペロン及びイムノフィリンの放出に協力して循環様式で起こり、受容体に対するステロイドの高親和性の結合に必要とされることが示されている。このように、Hsp90は、ストレスの非存在下でも、シグナル経路の生理学的調節因子として機能し得る。
【0007】
Hsp90は、複数の腫瘍型において、及び癌化の機能として過剰発現されることが示されている。トランスフォーメーションを維持する上でそれが必要な役割を果たしているか否かは知られていないが、この点について少なくとも3つの機能を有すことができる。癌細胞は、低酸素、低pH、及び低濃度の栄養の環境で増殖する。癌細胞は、また、放射線照射及び細胞毒性の化学療法剤に耐性になるように速やかに適応し、又は選択される。このように、ストレス下でタンパク質の安定性を維持するHsp90の一般的役割は、これらの条件下での細胞の生存性にとって必要であり得る。第2に、癌細胞は、突然変異の発癌タンパク質を内部に持つ。これらのいくつかは、トランスフォームされた表現型に必要である機能獲得型の突然変異である。Hsp90は、これらのタンパク質のフォールドされ、機能的に活性な立体配座を維持するのに必要とされ得る。第3に、Raf及び他のHsp90のターゲットである、ステロイド受容体によって媒介されるシグナル経路の活性化は、このような機能的なHsp90もおそらく必要とする多くの腫瘍の増殖及び生存に必要とされる。
【0008】
神経変性は、癌と同様、単一の調節不全の事象の結果ではない様子であるが、それどころか、異常な発現、翻訳後修飾、及びある種のタンパク質のプロセシングによって明らかにされる複雑なトランスフォームされた表現型の創出をもたらす、環境の、エピジェネティックの、及び遺伝的な事象を伴う数ステップのプロセスである。ニューロンにおいて、これら調節不全のタンパク質を機能的に維持するには、癌に罹患している細胞に類似して、トランスフォームのプロセスとともに進化する分子シャペロンの制御の機序が必要とされ得る。
【0009】
神経変性疾患の状況下では、Hsp90は2つの役割を果たし得る。第1に、神経変性疾患において、異常に活性化したキナーゼ(例えば、cdk5/p35.gsk3β)は、機能するのにHsp90を必要とし得る。したがって、Hsp90を阻害することで、罹患している脳において損傷を受けたシグナリングネットワークを、異常なリン酸化を軽減することによって修復し、異常なタンパク質の凝集の低減、並びに凝集物及びそれらに付随する毒性の排除又は低減をもたらす。第2に、病原性の突然変異体(例えば、ADにおけるAPP若しくはプレセニリン、又はFTDP−17におけるmタウ、又は延髄性筋萎縮症における突然変異体のアンドロゲン受容体)は、正確なフォールディング及び機能にHsp90を必要とすることがあり、したがってHsp90を阻害すると、これらのタンパク質の排除をもたらし、凝集及び結果としてプラーク又は濃縮体の形成の低減をもたらし得る。
【0010】
殆どの神経変性疾患は、おそらく、突然変異体及び異常なシグナリングの両方を特徴とし、Hsp90は病原性の突然変異体に関しても役割を果たすことができる。タウ突然変異は、常染色体優性の前頭側頭型認知症を引き起こす。アンドロゲン受容体の突然変異に関連する病原性には、完全型アンドロゲン不応症(CAIS)、及び球脊髄性筋萎縮症(SBMA又はKennedy病)が含まれる(4)。プレセニリン遺伝子における突然変異は、家族性ADの主な原因である。コンディショナルノックアウトマウスの分析により、プレセニリンの不活性化が進行性の記憶障害及び年齢依存性の神経変性をもたらすことが示されており、プレセニリンの活性を低減すると、重要な病原の機序を表し得ることを示唆している。プレセニリンは、cAMP応答エレメント(CRE)含有遺伝子の転写を正方向に調節し、そのいくつかは、記憶の形成及びニューロンの生存にとって重要であることが知られている(5)。アルツハイマー病(AD)は、NFT(タウ凝集物)及びプラーク(Aβ沈着)の両方を特徴とする。アルツハイマー病では、アミロイド前駆タンパク質又はプレセニリンにおける突然変異が、常染色体優性遺伝病を引き起こす。これらは、沈着したペプチドAβの生成を担う基質及びプロテアーゼである。プリオンの突然変異は、ゲルストマンシュトロイスラー症候群、及び遺伝性クロイツフェルトヤコブ病を引き起こし、αシヌクレインの突然変異は、常染色体優勢性パーキンソン病を引き起こす。これらの場合において、病原性の突然変異は罹患している組織に沈着しているタンパク質におけるものであリ、タンパク質全体が沈着している。ハンチントン病は、突然変異体のハンチンチンに起因する(9)。このように、全ての場合において、突然変異が、沈着のプロセスを伴う機序によって疾患をもたらす。
【0011】
Hsp90のこれらの特徴により、Hsp90は治療用薬剤として実行可能な標的となっている。HSP90ファミリーのメンバーは、細菌から哺乳動物までの全てのHsp90に特異的であり、且つその間に保存されている独特のポケットをそのN末端領域に保有しているが、このポケットは他の分子シャペロンには存在しない。このポケットに対する内在性のリガンドは知られていないが、これはATP及びADPに低親和性で結合し、弱いATPアーゼ活性を有する。アンサマイシン系抗生物質であるゲルダナマイシン(GM)及びハービマイシン(HA)は、この保存されているポケットに結合することが示されており、この結合親和性は、Hsp90ファミリーの全メンバーに対して示されている。国際特許公開第WO98/51702号は、標的の細胞におけるタンパク質の変性、及び標的の細胞の死滅をもたらすアンサマイシンの標的送達を提供するための、ターゲットとする部分に連結しているアンサマイシン系抗生物質の使用を開示している。国際特許公開第WO00/61578号は、特に、アンサマイシン系抗生物質のホモダイマー及びヘテロダイマーを含む、シャペロンタンパク質Hsp90と相互作用する2つの部分を有する二官能性の分子に関する。これらの二官能性分子は、HERファミリーチロシンキナーゼの変性及び/又は阻害を促進するように作用し、Her−キナーゼを過剰発現する癌の処置に有効である。
【0012】
ATP及びアンサマイシン系抗生物質と同じHsp90の結合ポケットに結合する例示の小分子治療法は、PCT公開第WO02/36075号、PCT出願第PCT/US06/03676号、及び米国特許公開第2005−0113339号、第2005−0004026号、第2005−0049263号、第2005−0256183号、第2005−0119292号、第2005−0113340号、及び第2005−0107343号に開示されており、これら全てが本明細書に参照によって組み入れられる。
【0013】
老齢の生物体においては、シャペロンの過負荷は、細胞の網状組織の頑強さにおける大幅な低減をもたらし、これらの機能をより確率論的な挙動に向かって転換する。不均衡なシャペロンの要求及びシャペロンの能力は、非常に制限されたニューロンの増殖の可能性により、特に神経系において、ミスフォールドされ、凝集したタンパク質の蓄積を助ける。さらに、損傷を受けたシグナリングネットワークは、それらのもともとの厳密さを失い、不規則なタンパク質のリン酸化が起こる。このような損傷効果を軽減及び逆転する訴求力ある取組みは、Hsp90活性を変調することによるものである。Hsp90活性の阻害薬は、Hsp90複合体からHSF1を放出し、熱ストレス後のHSF1活性の欠陥のある制御を修正し、Hsp70及びHsp40などのシャペロンの細胞レベルにおける増大をもたらす。これらのシャペロンの過剰発現は、適切なフォールディングを回復させ、ミスフォールドされたタンパク質の毒性効果を軽減する一般的な方法を代表することが示されている。正確なフォールディングの回復に対するこれらの効果の他に、Hsp90阻害薬は、罹患しているニューロンのシグナリングネットワークに関与するタンパク質を制御し得る。
【0014】
しかし、神経変性疾患の処置における臨床薬としてのHsp90阻害薬の有用性は、患者にとって許容できる薬物の濃度でそれらの効果が生じるか否かに、及び脳においてこれらの濃度を達成するような様式で薬物を投与することができるか否かに依存している。残念なことに、ゲルダナマイシン及び17AAGなどの知られているHsp90阻害薬、癌に対する第I相の臨床試験中のその誘導体、及び非関連の化合物であるラジシコールには、重大な限界が存在する。これらは難溶性であり、調合するのが困難であり、血液脳関門を越えない。したがって、神経変性疾患の処置に対する可能性を実現するために、Hsp90を阻害する治療薬、並びに十分な可溶性及び血液脳関門を超える能力を有し、又は他の方法で脳に送達される治療薬が必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に従って、神経変性疾患の処置が、Hsp90を阻害し、血液脳関門を越える能力を有する小分子プリン骨格の化合物を用いて実現される。したがって、本発明に従って、そのような処置を必要とする個体に、Hsp90を阻害し、血液脳関門を越え、又はその他の方法で脳に送達される、プリン骨格の化合物の有効量を投与するステップを含む神経変性疾患を処置するための方法が提供される。
【0016】
一実施形態では、本発明の方法で用いられるプリン骨格の化合物は、リンカーによって単環式の置換基に、8位又は9位で連結しているプリン部分を有する。このような化合物は、PCT公開第WO02/36075号、PCT出願第PCT/US06/03676号、及び米国特許公開第2005−0113339号、第2005−0004026号、第2005−0049263号、第2005−0256183号、第2005−0119292号、第2005−0113340号、及び第2005−0107343号に記載されている。
【0017】
一実施形態では、本発明の方法は、一般構造:
【化1】


[式中、
Rは、水素;場合により2’位に連結して8から10員環を形成する、N又はOなどのヘテロ原子を場合により含む、CからC10アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアルコキシアルキル基であり、
及びYは、Y及び/又はYがOである場合は二重結合が欠損している、又は環のアリールの性質を保持するように再構成されるという条件で、独立に、C、N、S、又はOであり、
は、水素、ハロゲン、例えば、F、又はCl、又はBrであり、
は、CH、CF、S、SO、SO、O、NH、又はNRであり、式中Rはアルキルであり、
は、ハロゲン、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ、ヒドロキシアルキル、ピロリル、場合により置換されているアリールオキシ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルバミル、アミド、アルキルアミド、ジアルキルアミド、アシルアミノ、アルキルスルホニルアミド、トリハロメトキシ、トリハロ炭素、チオアルキル、SO−アルキル、COO−アルキル、NH、OH、又はCN、又はRによって形成される環の部分であり、
は、Xが5’位における少なくとも1つの置換基を表す場合は5’位における前記置換基はXと同じ選択、即ちCからCアルキル若しくはアルコキシから選択されるという条件で、アリール基上のもう1つの置換基を表し、又はXは式−O−(CH−O−を有し、式中nは1又は2であり、酸素の一方はアリール環の5’位で結合しており、他方は4’位に結合している]
を有する小分子プリン骨格の化合物を使用する。
【0018】
右側のアリール基は、フェニルであってもよく、又は1つ若しくは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。例えば、右側のアリール基は、ピリミジンなどの含窒素芳香族複素環であってよい。
【0019】
本発明の化合物の詳しい実施形態では、右側のアリール基は2’及び5’位のみで置換されている。他の実施形態では、右側のアリール基は2’、4’、及び5’位で置換されている。さらに他の実施形態では、右側のアリール基は4’及び5’位のみで置換されている。当業者であれば理解されるように、番号付けは描いた通りの構造をもとにしており、ヘテロ原子の挿入など、構造における変動により、公式の命名法の目的で番号付けが変更されることがある。
【0020】
本発明の化合物の他の詳しい実施形態では、右側のアリール基は2’位に置換基を有し、Xは、式−X−Y−Z−を有し、X及びZは右側のアリールに対して4’及び5’位で連結しており、式中、X、Y、及びZは独立に、単結合若しくは二重結合によって、及び原子価を満たすのに好適な水素、アルキル、又は他の置換と連結しているC、N、S、又はOである。いくつかの実施形態では、X、Y、及びZの少なくとも1つは炭素原子である。詳しい一実施形態では、Xは−O−(CH−O−であり、式中nは1又は2であり、酸素原子の一方はアリール環の5’位で、及び他方は4’位で結合している。このタイプの化合物のさらなる例を、図4に示す。
【0021】
本発明の詳しい実施形態によると、プリン骨格の化合物は、図5に示す式を有する。
【0022】
本発明の化合物は、化合物がhsp90を阻害し、さらに血液脳関門を越える能力も維持していれば、式:
【化2】


を有するこれらの化合物のホモダイマー又はヘテロダイマーであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】PU24FCl短期投与後のマウスの脳におけるタウのリン酸化活性を示す図である。
【図1B】短期投与後のマウスの脳におけるPU24FClの濃度を示す図である。
【図2】PU24FClでのHsp90長期阻害の、タウのリン酸化及び他のタンパク質の発現に対する効果を示す図である。
【図3】PU−DZ8でのHsp90長期阻害の、タウのリン酸化に対する効果を示す図である。
【図4】本発明の方法に有用な化合物を示す図である。
【図5】本発明の方法に有用な化合物を示す図である。
【図6】本発明に有用な化合物を作成する合成図式を示す図である。
【図7】本発明に有用な化合物を作成する合成図式を示す図である。
【図8A】プリン骨格の化合物の腹腔内投与による、本発明に従って処置したマウスの脳における様々なタンパク質のレベルを示す図である。
【図8B】プリン骨格の化合物の腹腔内投与による、本発明に従って処置したマウスの脳における様々なタンパク質のレベルを示す図である。
【図9】PU−DZ8を1投与量投与後の、変異タンパク質であるmタウ(HT7)の分解を示す図である。シャペロンレベル(hsp70の増大)及びキナーゼ発現(p35レベル)における変化も示されている。
【図10】hsp90のシャペロニング(chaperoning)に対する変異タウタンパク質の依存性を示す図である。
【図11A】神経芽細胞腫細胞におけるプリン骨格の化合物によるhsp90の結合及びhsp70の誘発を示す図である。
【図11B】神経芽細胞腫細胞におけるプリン骨格の化合物によるhsp90の結合及びhsp70の誘発を示す図である。
【図12】JNPL3脳抽出物におけるPU−DZ8、PU24FCl、及び17AAGのhsp90に対する結合親和性を示す図である。
【図13】PU−DZ8の1投与量75mg/kgをi.p.投与後、JNPL3トランスジェニックマウスの脳において、PU−DZ8が薬理学的に関連ある濃度に到達することを示す図である。
【図14A】PU−DZ8の1投与量の短期投与の、JNPL3マウス脳における可溶性の変異タウのレベルに対する効果を示す図である。2.5から4カ月齢のマウスの皮質下の脳領域を表す。ヒトタウのレベルを、Hsp90のレベルに標準化した。
【図14B】PU−DZ8の1投与量の短期投与の、JNPL3マウスの脳における不溶性の変異タウのレベルに対する効果を示す図である。PU−DZ8(75mg/kg)で4、8、12、及び24時間処置後の6カ月齢のマウスの皮質下の脳領域から抽出した不溶性タウ(P3)分画の分析を表す。
【図15】PU−DZ8の長期投与の、毒性のタウ凝集物における過剰リン酸化のタウに対する効果を示す図である。
【図16A】アルツハイマー病患者に類似する、病原性に過剰リン酸化されたWTタウを発現するhタウマウスにおけるp35に対するPU−DZ8の効果を示す図である。
【図16B】アルツハイマー病患者に類似する、病原性に過剰リン酸化されたWTタウを発現するhタウマウスにおけるPU−DZ8のタウのリン酸化の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、そのような処置を必要とする個体に、Hsp90を阻害し、血液脳関門を越え、又はその他の方法で脳に送達される、プリン骨格の化合物の治療有効量を投与するステップを含む、神経変性疾患を処置するための方法を提供する。
【0025】
本出願で用いられる、「処置」の語は、個体における神経変性疾患の、徴候の開始を遅らせ、重症度を低減し、又は徴候の進行を遅らせることを意味する。疾患の治療法は、処置の範囲内である必要はない。さらに、これらの処置の目的の詳しい結果は個体によって変化し、個体によっては、代表的な集団に対する統計学的な平均値を超え、又はそれより劣る恩恵を得ることがあることが理解されよう。このように、処置は、治療上の恩恵を得るであろうという期待を持って、必要とする個体に化合物を投与することを意味する。
【0026】
「神経変性疾患」の語は、キナーゼ活性の調節不全、突然変異のタンパク質(変異タウ、突然変異APP)、並びにミスフォールディング及びアポトーシスの増大をもたらすシャペロンの不均衡による異常なリン酸化など、シグナル経路における異常を特徴とする疾患を意味する。詳しい一実施形態では、神経変性疾患は、タウオパシー、即ち、過剰リン酸化したタウタンパク質、及び細胞内神経原線維変化(NFT)の形成の特徴を共有するタウタンパク質の異常を特徴とする神経変性疾患である。制限なしに、本出願で用いられる「神経変性疾患」の語は、アルコール誘導性神経変性(10)、アルツハイマー病(11)、筋萎縮性側索硬化症(13、14)、脳虚血(15:20)、コカイン中毒(21)、びまん性レビー小体病(22)、電撃痙攣(23)、胎児性アルコール症候群(10)、限局性皮質形成異常(24)、遺伝性イヌ脊髄筋萎縮症(25)、封入体筋炎(26)、多系統萎縮症(27、28)、ニーマン−ピック タイプC、パーキンソン病(22)、及び末梢神経損傷(71)を意味し、包含する。
【0027】
「投与する」の語は、個体中に治療用化合物を導入する行為を意味する。一般に、あらゆる投与経路を用いることができる。本発明の方法に用いられる化合物は、血液脳関門を越えることができる可能性があるので、全身的な投与を用いることができる。したがって、本発明のある実施形態では、経口の、静脈内の、筋肉内の、又は非経口の注射による投与が好適である。投与は、吸入によって脳に対して行ってもよい、というのは、BBB毛細血管を有することなしに脳と連結している鼻の上側にコンパートメントが存在するからである。血液脳関門を越える化合物は、この投与様式にとって、同様に好ましいが、この特徴が厳密に必要とされるわけではない。
【0028】
「治療有効量」の語は、投与する化合物の量、及び統計学的根拠に基づいて個体における神経変性疾患の防止、重症度の低減、又は進行の遅延の結果を得る投与スケジュールの両方を包含する。理解されるように、好ましい量は、毒性/耐性を、治療効果及び投与様式と釣り合わせるために、化合物によって変化する。投与の数及び頻度に関する、最大耐容薬量の決定、及び処置レジメンの決定は、化合物の早期の臨床評価のルーチンの部分である。
【0029】
本明細書で用いられる「血液脳関門を越える」の語は、全身投与の後、検出可能な量の化合物が脳に移行する能力を意味する。化合物が血液脳関門を越える能力は、マウスなどの動物モデルを用いて評価することができる。以下の実施例で説明するように、例えば50から200mg/kgの単一投与量の投与を用い、間をおいて動物を屠殺し、化合物の脳内濃度を決定することができる。化合物が脳に移行する程度は、やはり、必要である治療用化合物の量に影響を及ぼすことも理解されよう。しかし、一般的に、血液脳関門を越える化合物は、分子量が400ダルトン未満であり、本明細書に開示する化合物に好ましくは匹敵するある程度の脂溶性があり、血漿タンパク質の結合に制限がなく、p糖タンパク質などのいくつかのBBB活性排出トランスポーターのいずれにも有意な親和性がないものとなろう。この点に関して、17−AAGは血液脳関門を効果的に越えず、P−糖タンパク質の基質であることが注目されている。
【0030】
本発明の方法で使用される治療用化合物は、適切には、Hsp90を阻害し、血液脳関門を越える能力を有する小分子プリン骨格の化合物である。「プリン骨格の化合物」の語は、それに対して8位又は9位にさらなるアリール環又はヘテロアリール環が結合しているプリン部分を有する化合物を意味し、化合物は全体として、Hsp90のN末端ポケット内に受け止められるべき必要な柔軟性及び置換基を有している。これらの一般的な必要条件はPCT公開第WO02/36075号で論じられている。
【0031】
一実施形態では、本発明の方法は、一般構造:
【化3】


[式中、
Rは、水素;場合により2’位に連結して8から10員環を形成する、N又はOなどのヘテロ原子を場合により含む、CからC10アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアルコキシアルキル基であり、
及びYは、Y及び/又はYがOである場合は二重結合が欠損している、又は環のアリールの性質を保持するように再構成されるという条件で、独立に、C、N、S、又はOであり、
は、水素、ハロゲン、例えば、F、若しくはCl、又はBrであり、
は、CH、CF、S、SO、SO、O、NH、又はNRであり、式中Rはアルキルであり、
は、ハロゲン、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ、ヒドロキシアルキル、ピロリル、場合により置換されているアリールオキシ、アルキルアミノ、ジアリルアミノ、カルバミル、アミド、アルキルアミド、ジアルキルアミド、アシルアミノ、アルキルスルホニルアミド、トリハロメトキシ、トリハロ炭素、チオアルキル、SO−アルキル、COO−アルキル、NH、OH、又はCN、又はRによって形成される環の部分であり、
は、Xが5’位における少なくとも1つの置換基を表す場合は5’位における前記置換基はXと同じ選択、即ちCからCアルキル若しくはアルコキシから選択されるという条件で、アリール基上のもう1つの置換基を表し、又はXは式−O−(CH−O−を有し、式中nは1又は2であり、酸素の一方はアリール環の5’位で結合しており、他方は4’位に結合している]
を有する小分子プリン骨格の化合物を使用する。
【0032】
右側のアリール基はフェニルであってもよく、又は1つ若しくは複数のヘテロ原子を含んでいてもよい。例えば、右側のアリール基は、ピリミジンなどの含窒素芳香族複素環でもよい。
【0033】
本発明の化合物の詳しい実施形態では、右側のアリール基は2’及び5’位のみで置換されている。他の実施形態では、右側のアリール基は2’、4’、及び5’位で置換されている。さらに他の実施形態では、右側のアリール基は4’及び5’位のみで置換されている。当業者であれば理解されるように、番号付けは描いた通りの構造をもとにしており、ヘテロ原子の挿入など、構造における変動により、公式の命名法の目的で番号付けが変更されることがある。
【0034】
本発明の化合物の他の詳しい実施形態では、右側のアリール基は2’位に置換基を有し、Xは、式−X−Y−Z−を有し、X及びZは右側のアリールに対して4’及び5’位で連結しており、式中、X、Y、及びZは独立に、単結合若しくは二重結合によって、及び原子価を満たすのに好適な水素、アルキル、又は他の置換と連結しているC、N、S、又はOである。いくつかの実施形態では、X、Y、及びZの少なくとも1つは炭素原子である。−X−Y−Z−におけるYは、X−Y−Z基が6員環を形成するように、−(CHであってもよい。詳しい一実施形態では、Xは−O−(CH−O−であり、式中nは0から2までの1又は2であり、酸素原子の一方はアリール環の5’位で、及び他方は4’位で結合している。このタイプの化合物のさらなる例を図4に示す。
【0035】
本発明の詳しい実施形態では、Rは、3−イソプロピルアミノプロピル、3−(イソプロピル(メチル)アミノ)プロピル、3−(イソプロピル(エチル)アミノ)プロピル、3−((2−ヒドロキシエチル)(イソプロピル)アミノ)プロピル、3−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)プロピル、3−(アリル(メチル)アミノ)プロピル、3−(エチル(メチル)アミノ)プロピル、3−(シクロプロピル(プロピル)アミノ)プロピル、3−(シクロヘキシル(2−ヒドロキシエチル)アミノ)プロピル、3−(2−メチルアジリジン−1−イル)プロピル、3−(ピペリジン−1−イル)プロピル、3−(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−イル)プロピル、3−モルホリノプロピル、3−(トリメチルアンモニオ)プロピル、2−(イソプロピルアミノ)エチル、2−(イソブチルアミノ)エチル、2−(ネオペンチルアミノ)エチル、2−(シクロプロピルメチルアミノ)エチル、2−(エチル(メチル)アミノ)エチル、2−(イソブチル(メチル)アミノ)エチル、又は2−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)エチルである。
【0036】
本発明の詳しい実施形態によると、プリン骨格の化合物は図5に示す式を有する。
【0037】
本発明の化合物は、化合物がhsp90を阻害し、さらに血液脳関門を越える能力を保持していれば、式:
【化4】


を有するこれらの化合物のホモダイマー又はヘテロダイマーであってもよい。
【0038】
in vivoの活性化合物がダイマーの形態である場合、化合物は、hsp90を阻害する能力、及び血液脳関門を越える能力も保持している。この場合、リンカーは、ダイマーの2つの部分に、両方がHSP90のN末端ポケットと独立に相互作用するのを可能にする十分な回転の自由を提供する原子の、あらゆる一般的に直鎖の基であってよい。適切なリンカーの非限定的な例には、CからC10アルキル、アルケニル、又はアルキニル基、及び原子4個から10個の全長を有する第2級アミンが含まれる。
【0039】
このタイプの化合物には、モノマーの薬剤がin vivoで提供されるように、分解可能な、又は切断可能なリンカーも提供され得る。この実施形態では、ダイマーの形態は、血液脳関門を越える活性又は能力を保持している必要はなく、したがってリンカーの性質は、活性に関連なく、活性のモノマー種を形成する能力だけに関連している。一般的に、PUなどの中程度に親油性の薬物は、受動拡散によってBBBを越える。BBB透過性に対する優れた骨格上の理解は未だに欠如しているが、いくつかのパラメータがこのような挙動を促進すると考えられている。親油性は、CNS透過に重要であると同定されている最初の記述子であった。いくつかのクラスのCNS活性物質について、Hansch及びLeo(89)は、LogP値が1.5〜2.7の範囲であり、平均値2.1である場合に血液脳関門の透過が最適であることを見出した。販売されているCNS薬物に対するClogPの平均値は2.5である。PU−DZ8のlogPの計算値は1.73(Molinspirationを使用)であり、実験的に求めた値は1.53(RP−HPLCを使用)である。CNS薬物は、他の治療法に比べると、分子量(MW)が大幅に低減している。CNS薬物における分子量に対するルールは再検討されており、この場合、小分子は、分子量が400から600Daの範囲に、又はそれ未満に保たれている場合、血液脳関門を通して著しい受動性の脂質媒介性の輸送を受けることがある(90)。PU−DZ8のMWは512である。QSARの方程式は全て、水素結合−CNS透過が5又はそれ未満の水素結合のアクセプターを必要とする重要性を強調している(91)。PU−DZ8は4を有する。PSAは、腸管吸収、バイオアベイラビリティー、Caco−2透過性、及びBBB透過を含めた薬物吸収を特徴付ける、非常に優れた記述子であることが示されている。PSAは、多くの研究者によって、BBB透過に関するプレディクターとして用いられている(92)。一般的に、CNSを目標とする薬物は、他のクラスよりも極性表面積が小さい傾向にある(93、94)。CNS薬物に対するPSAは、他の治療法に対するよりも大幅に低く、CNS透過に対するPSAは、60〜70Åから90Åと推定されている(95、96)。分子が脳を透過するPSAの上限は、約90Åである。DZ8のPSAは104Åである。第2級アミンから第3級アミンまでの9N位に付着している鎖の性質を変化させると、PSAは90Åに低下する。回転可能な結合の数は、薬物の経口バイオアベイラビリティーの非常に優れた記述子であることが示されている(97〜99)。(1)回転可能な結合が10又はそれより少なく、(2)極性表面積が140Åに等しく若しくはそれ未満である(又は、H結合ドナー及びアクセプターが12若しくはそれより少ない)という2つの判定基準だけを満たす化合物は、ラットにおいて経口のバイオアベイラビリティーが優れている可能性が高いことが示唆されている(99)。CNS薬物の多くは塩基性であり、生理学的条件下ではその荷電状態と中性状態との間の平衡で存在しており、又はCNS薬物が酸性基も有する場合は両親媒性である。pH7〜8で正の電荷を有すると、脳の透過性を好む傾向にある(100)。さらに、第3級窒素を有する化合物(多くのCNS薬物の特徴)は、高度の脳の透過性を示す。これらの特徴は全て、本明細書に記載する、プリン骨格の化合物を倣うものである。
【0040】
血液脳関門を越える能力の指標となる別の特徴は、タンパク質の結合である。薬物−タンパク質相互作用は、可逆的なプロセスであり、成功しているCNS薬物は、効率的なP−糖タンパク質基質ではないはずである(in vivo)(102)。潜在的な神経治療薬がBBBを横切って移動するのは十分ではなく、それはまた、脳に十分長く留まって望ましい作用を遂行しなければならない。これは、脳から化合物を追放するように働く様々な輸送タンパク質に対する基質であることも避けなければならないことを意味している。Hsp90阻害薬である17AAGはP−gp基質であるが、プリン骨格の治療用PU−DZ8はP−pgの基質ではなく、したがってこの機序によって脳から簡単に追放されることはない。
【0041】
本発明の方法で有用な化合物を作成する合成方法は、PCT公開第WO02/36075号、PCT出願第PCT/US06/03676、及び米国特許公開第2005−0113339号、第2005−0004026号、第2005−0049263号、第2005−0256183号、第2005−0119292号、第2005−0113340号、及び第2005−0107343号に記載されている。図6及び図7は、図4に示す構造を有する化合物を作成する合成図を示している。炭素のリンカーの場合には、メチレンジオキシ架橋を図6に図示した代謝上安定なアイソスターで置き換えることによって、フェニル酢酸を最初に産生する。2,4,5,6−テトラアミノピリミジンを、対応するカルボキシル酸の酸フッ化物とカップリングすることによって合成が開始する。フェニル酢酸をCHCl中のフッ化シアヌル及びピリジンで処理することによって、酸フッ化物が産生される。水で手早く洗浄した後、得られた酸フッ化物を、さらなる精製なしで次のステップで用いる。ピリミジン−酸フッ化物のカップリングから得られたアミドを、アルコール性NaOMe中加熱することによって環化する。C2−アミノ基のフッ素への変換(NHからF)をNaNOの存在下HF/ピリジン中アミノ誘導体の改変シーマンジアゾ化−フルオロ脱ジアゾ化によって行う。一般にこの位置におけるフッ素は、おそらくC6NH2の水素ドナー能力を増大することによって、得られるプリンの効力を増強することが、本発明者ら及び他者らによって以前に決定されている。NIS又はNBSのいずれかを用いたさらなる選択的ハロゲン化によって、対応するヨウ素又は臭素誘導体がもたらされる。これらを、CsCOの存在下、最初に1,3−ジブロモプロパン、又は1,2−ジブロモブタンでアルキル化する。ダイマーの形成は、この反応では検出されない。得られた臭素を、過剰のRNHの存在下でさらにアルキル化して、最終生成物を得る。
【0042】
イオウのリンカーを含む誘導体に関しては、Heら(1)によって以前に記載された方法を用いて合成を行い、銅が触媒する8−メルカプトアデニンのヨウ化アリールとのカップリングを用いる(図7)。反応は、窒素下、110℃の無水DMFで起こる。8−アリールスルファニルアデニンを、求電子性のヨウ素の供給源としてNIS、触媒としてTFAを用いてアリール部分の2位を、さらに選択的にヨウ素化する。これを、過剰のRNHの存在下で9Nをさらにアルキル化して、最終生成物を得る。
【0043】
タウオパシーへの本発明の適用
アルツハイマー病(AD)は、主に大脳皮質及び海馬における、老人斑の存在、神経原線維変化、及びニューロンの大量の喪失に付随する認知及び記憶の進行性の悪化を特徴とする、最も一般的な神経変性障害である。老人斑は、異栄養性の神経突起、反応性のミクログリア、及びアストロサイトによって取り囲まれているβアミロイド(Aβ)原線維からなる、細胞外沈着物である。繊維状タウの封入は、AD、ダウン症候群(DS)、プリオン病のいくつかの変種、進行性核上性麻痺(PSP)、筋萎縮性側索硬化症/グアムのパーキンソニズム−認知症コンプレックス(ALS/PDC)、パーキンソニズムを伴う孤発性前頭側頭型認知症(FTDP)、ピック病、及び家族性FTDP−17症候群を含めた神経変性疾患の増大するファミリーであるタウオパシーの顕著な特徴としてますます認められている。タウは、ニューロンの細胞骨格の決定的な成分である。ニューロンのアポトーシスに付随する形態学的変化のいくつかは、細胞骨格の網状構造の著しい修飾を伴い、その後のニューロンの変性の一因となる可能性があり、細胞骨格の網状構造の破壊が神経変性を引き起こし得ることを示している。軸索では、タウタンパク質は、タンパク質に会合する主な微小管の1つである(30)。これは微小管を安定化し、神経突起の成長を促進する。タウのこの見かけ上有益な役割は、いくつかの神経変性疾患、最も顕著にはADにおける異常なその挙動と対照をなし、ADでは、タウは高度にリン酸化した形態で生じ、微小管から引き離され、凝集する。病原性のタウの突然変異又は異常なタウのリン酸化(AD及び前頭側頭型認知症で生じる)は、NFT及び神経原性疾患のより速やかな発生をもたらし、この特徴は、これらの疾患がタウの凝集に起因するという見解と一致する(31)。
【0044】
染色体17上のヒトタウイソ型におけるいくつかの突然変異により、「第17染色体に連鎖する前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム(FTDP−17)」と呼ばれる一団の神経変性疾患がもたらされ、罹患した脳の領域においてADにおけるものと同様の神経原線維変化の蓄積によって特徴づけられる。これらのタウ突然変異体の生化学的研究により、これらが正常タウよりも安定性が劣り、原繊維の凝集物を形成する傾向があることが明らかにされ(32)、タウオパシーがタンパク質のフォールディング及び安定性に関連する疾患であるという見解に一致している。ADにおけるタウタンパク質は突然変異していないが、それにもかかわらずNFTを含んでいる。ADでは、タウは過剰リン酸化となり、これがタウの微小管を安定化する役割を損なうことが仮定されている。
【0045】
過剰リン酸化されたタウは、ミスフォールドし、微小管からの最終的な解離を経験し、異常な繊維状の凝集(ペアードヘリカルフィラメント、PHF)を形成し、重合してNFTになると考えられている(33)。このプロセスにおけるタンパク質のミスフォールディングの主な役割は、FDTP−17に関連する様々なタウの突然変異はそれらのリン酸化のレベルにおいて異なり、微小管に対するそれらの効果において異なるという観察によって説明される(34)。本発明者らは、凝集したタウと、タウトランスジェニックマウス及びアルツハイマー病の脳における熱ショックタンパク質(Hsp)70/90のレベルとの間の逆相関を示している。様々な細胞モデルにおいて、Hsp70及びHsp90のレベルの増大がタウの可溶性及びタウの微小管への結合を促進し、不溶性タウを低減し、タウのリン酸化の減少を引き起こした。それとは逆に、Hsp70及びHsp90のレベルの低下は逆の効果をもたらした。本発明者らは、シャペロンのタウタンパク質との直接の会合も実証している。本発明者らの結果は、タウを生産的なフォールディング経路に分割することによって、及びそれによってタウの凝集を防ぐことによって、分子シャペロンの上方制御が神経原線維変化の形成を抑制し得ることを示唆していた(12)。
【0046】
Hsp90阻害薬は、他の神経変性システムにおいてHsp70シャペロンのレベルを有益に増大することが見出された。シャペロン、特にHsp70及びHsp40の誘発は、フォールディングの疾患における開始を遅らせ、又は症状を低減することが見出された(3)。GMは、熱ショック反応を活性化し、ハンチントン病の細胞培養モデルにおいてハンチンチン凝集を阻害することが見出された(16)。GMは、スクレーピー感染細胞における欠陥のある熱ショック反応に対する機能を回復することが報告された(17、18)。Auluckら(19)は、GMを有するパーキンソン病のハエモデルの処置は、α−シヌクレインの毒性に対して完全に保護することを報告した。これらの効果は、ニューロン封入体の顕微鏡的外観を変えることなく観察され、シャペロンは、タンパク質の凝集の形成を単に防止するよりも、タンパク質凝集物を、より微妙な方法で「解毒する」ことを示唆している。Auluckは、また、シャペロンの中程度の変化又は再分布だけでも、神経保護には十分であり得ることも示唆した(19)。
【0047】
Hsp90阻害薬のこれらの効果は、これらのHSF1−hsp90複合体の調節によって生じる。正常細胞では、ミスフォールドされた、又は凝集されたタンパク質の存在が、熱ショック反応と呼ばれる、複合の生物学的反応を誘発する(6)。これは熱ショックタンパク質(HSP、分子シャペロン)の発現、及びユビキチン−プロテアソーム経路に関与するタンパク質の発現に関与する。このような複合の機構の進化は、アンフォールドのタンパク質が出現するとすぐに細胞が単離し、速やかに一掃することが必要であるという事実を証明するものである。ストレス無負荷の細胞では、HSF1は、Hsp90との動的複合体を形成する(7)。タンパク質のアンフォールディングが増大すると、これらの非天然タンパク質は、Hsp90の結合に対してHSF1と競合し、非結合のHSF1における増大及びHSPの誘発をもたらす。ストレス誘発性のシャペロンの合成が損なわれる場合に、フォールディングの疾患が可能である(8)。そのHSF1活性の制御によって示唆されるように、Hsp90阻害薬によるHsp90活性の妨害は、熱ショック反応を誘発する。ニューロンの疾患が活性化するキナーゼの活性は、Hsp90によって制御される。
【0048】
本発明者らは、また、病理学的部位におけるタウのリン酸化レベルは、ADの細胞モデルにおいてHsp90阻害薬であるゲルダナマイシン(GM)で処置した後に低減したことも示している。Cdk5、Gsk3、及びMAPKは、病理学的部位でタウをリン酸化することができる、主要な3つのキナーゼである。リン酸化によりタウが微小管から放出され、PHFにおけるタウは高度にリン酸化されているので、キナーゼの病原性における可能な役割については疑わしいと考えられている。CDK5及びGSK3aは、いくつかの神経変性障害の病原性に関与し得ることに、ますます増加する証拠が存在する。最早分割されないニューロンでは、Cdk、特にCdk5の脱制御は、アルツハイマー病(AD)及びパーキンソン病(PD)を含めた多くの神経学的障害に生じる。Fathらは、知られているリン酸化の部位のあるアミノ酸の、荷電したアミノ酸との置換により、過剰リン酸化タウの構造及び機能的側面を模倣し得る「偽過剰リン酸化された」タウが創出されることを示している(35)。タウとの相互作用に対するin vivoの証拠は、Cdk5及びGsk3に対して存在する。マウスにおけるヒトp25(Cdk5の活性化因子)の過剰発現は、タウの過剰リン酸化、及びADを暗示する細胞骨格の破壊を誘発したが、繊維状の沈着物を誘発しなかった(36)。Nobleらは、Cdk5活性化因子であるp25を過剰発現するトランスジェニックマウスを、突然変異の(P301L)ヒトタウを過剰発現するトランスジェニックマウスと交雑させた。タウは、ダブルトランスジェニックにおけるいくつかの部位で過剰リン酸化され、脳幹及び皮質において、凝集タウの非常に著しい蓄積が生じた。銀染色した神経原線維変化(NFT)の数の増大は、これらの変化、及び活性GSKの不溶性タウとの会合を伴っていた(37)。テトラサイクリンに感受性のトランス活性化因子の制御下でのGSK−3の過剰発現もまた、タウの過剰リン酸化、タウの細胞体樹状突起の誤った局在化、及びニューロンのアポトーシスを誘発した(38)。最近の研究は、β−アミロイドペプチド(Aβ)は培養した脳細胞においてCdk5の脱制御を誘発し、Aβによって誘発されるニューロン死をもたらす一連の分子事象における、このタウリン酸化タンパク質キナーゼの可能な役割について問題を提起していることを示す。この状況下では、このオリゴマー形態のAβによって促進されるタウの過剰リン酸化にCdk5が関与する証拠が存在する(42)。Cdk5阻害薬は、タウの異常なリン酸化及びニューロン死に対して、海馬のニューロンを保護する。正常の神経発生におけるCdk5/p35システムと、神経変性における主張されている関与の研究との間の接点は、このキナーゼシステムの調節の関連性を理解するための枠組みを提供し、その調節における変化はアルツハイマー病において生じるものなどの妨害に結びつけられ得る(70)。これらの研究は全体的に、タウの過剰リン酸化をタウに関連する神経変性に結びつけ、プロセスにおける主要なプレーヤーとしてCdk5、Gsk3、及びMAPKをほのめかすものである。
【0049】
以下に述べる実施例で実証するように、小分子プリン骨格の化合物は、タウのリン酸化に関与するキナーゼを不活性化することができ、好適な置換パターンが選択される場合に血液脳関門を越えることができる。さらに、Hsp90阻害薬であるPU24FClを1パネルのトランスフォームした細胞に加えることで、Hsp70及びHsp40の投与量依存性の誘発がもたらされる。この現象は、その起源となる組織に無関係に試験した細胞系全てで起こり、ラット皮質の1次ニューロンで繰り返された。ストレス反応を誘発するPU24FCl及びPU29FCl(別の、初期のPUクラス化合物)の投与量は、1パネルの正常の上皮細胞及び繊維芽細胞で実証されたように、正常細胞に対して毒性ではなかった。
【0050】
本発明の他の神経変性疾患への応用
筋萎縮性側索硬化症は、脳及び脊髄の運動ニューロンを選択的に冒す神経学的障害である。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、重篤な筋力低下及び骨格筋の萎縮をもたらす、運動ニューロンの進行性の変性を特徴とする。この疾患は進行性であり、患者は通常、発症2〜5年以内に、延髄麻痺、悪液質、又は呼吸不全のため死亡する(44)。ALSの顕著な特徴は、脊髄の運動ニューロンの核周囲部及び軸索における神経フィラメントの蓄積である(再考には、Julien、2001年、45巻を参照されたい)。NF−H及びNF−MはCDK5の基質であり、ALSの症例に生じる運動ニューロンの封入体は、過剰リン酸化されたNF−Hを含んでいる(再考には、Julien、1999年、47巻を参照されたい)。明らかになりつつある証拠は、病原におけるセリン/スレオニンサイクリン依存キナーゼ5(Cdk5)の関与を指摘している。その切断された活性化補助因子であるp25及びp29によるCdk5の脱制御は、細胞質ゾルの、及び細胞骨格のタンパク質のリン酸化の状態を変えることによって、且つ、おそらく細胞周期の制御因子の誘発によって、神経変性の一因となっている。
【0051】
パーキンソン病は、殆どの患者において動作緩慢を特徴とし、患者の多くが静止時振戦を発症し得る(再考には、Fahn、2003年、48巻を参照されたい)。古典的な病理学上所見には、黒質内のニューロメラニン含有ニューロンの喪失、及びレビー小体の存在が含まれる(48)。レビー小体は、好酸性の細胞質内ニューロン封入であり(再考には、Fahn、2003年、48巻を参照されたい)、CDK5の免疫反応性は、パーキンソン病患者の中脳におけるレビー小体で生じる(22)。ラットでは、黒質ニューロンにおけるアポトーシスの誘発により、CDK5レベルの増大、及びアポトーシスの後期において活性がもたらされた(49)。さらに、CDK5及びp35の免疫反応性が、アポトーシスのニューロンの周囲及び核に観察されたが、健康なニューロンにおける免疫反応性は軸索に限定されていた(49)。
【0052】
PDにおいてやはり脱制御される他のキナーゼ、及びそれに対して病原性の突然変異が孤発性PD患者で同定されている他のキナーゼは、HSP90クライアントの強力な候補である。これらには、ロイシンリッチリピートキナーゼ−2(LRRK2)遺伝子が含まれ、これは常染色体優性及び孤発性パーキンソン病のある種の症例を引き起こす病原性の突然変異であった。LRRK2におけるG2019S置換は、これまでに同定されているパーキンソン病の最も一般的な遺伝的決定要因であり、活性化セグメントと呼ばれるキナーゼドメインの特定の領域に対するマップである。ここで、本発明者らは、LRRK2の自己リン酸化は分子間反応であり、活性化セグメント内の2つの残基を標的にすることを示している。LRRK2における顕著な病原性のG2019突然変異は、活性化セグメントの再構成を伴うと思われるプロセスによって、自己リン酸化の変更、並びに自己リン酸化及び基質のリン酸化の増大をもたらす。PTENにおける別の突然変異のキナーゼは、推定上のキナーゼ1(PINK1)遺伝子を誘発した。これらの突然変異は、もともと、劣性遺伝のPDを有する3つの系統で発見されたものである。短縮型ナンセンス突然変異(W437X)及びG309Dミスセンス突然変異の、2つのホモ接合性のPINK1突然変異が最初に同定された。引き続き、複数のさらなるタイプのPD関連の突然変異、又はPINK1における切断が報告され、PINK1は劣性PDの2番目に最も一般的な原因遺伝子となった。興味深いことに、PINK1関連の早発性PDの常染色体の劣性の伝達にも関わらず、PINK1対立遺伝子の1個だけに影響を及ぼす数々のヘテロ接合型の突然変異が、遅発性PDと関連していた。それによってPINK1突然変異が神経変性をもたらす病理学的機序は知られていない。
【0053】
PINK1は、予想されているN末端ミトコンドリアの標的配列、及び保存されているセリン/スレオニンキナーゼドメインを有する、アミノ酸タンパク質581個をコードしている。PINK1タンパク質は、ミトコンドリアに局在し、in vitroで自己リン酸化活性を表すことが示されている。in vivoの基質、及びPINK1の生化学的機能は、依然として知られていない。培養哺乳動物細胞では、野生型PINK1の過剰発現は、アポトーシス刺激に対して細胞を保護するが、短い干渉RNA(siRNA)が媒介するPINK1の枯渇は、アポトーシス細胞死に対する感受性を増大する。ショウジョウバエでは、PINK1の喪失によりミトコンドリアの欠陥、並びに筋肉及びドパミン性ニューロンの変性がもたらされる。細胞保護におけるPINK1の本質的な役割を示す証拠が十分あるにもかかわらず、それによってPINK1がアポトーシスに対して保護する機序は理解されていない。
【0054】
本発明者らの結果は、少なくともCdk5及びP35はHsp90のクライアントタンパク質であることを示していた。Hsp90を阻害すると、in vitroにおけるCdk5/P35タンパク質レベル、及びin vivoにおけるP35レベルを低減し得る。蓄積した証拠は、Cdk5/P35がこれらの神経変性疾患に関連することを意味づけているので、Hsp90阻害薬をこれらの疾患の処置にも用いることができる。
【0055】
本発明を、ここに、以下の非限定的な実施例を参考にしてさらに記載する。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
若年マウス:4から6週齢のnu/nuメス胸腺欠損マウスを、国立癌研究所−Frederick Cancer Centerから入手し、換気式ケージで維持した。実験はInstitutional Animal Care及びUse Committee認可のプロトコールの下で行い、研究における動物の適切且つ人道的使用のための制度的なガイドラインにしたがった。投与前に、PU24FClの溶液を、50μLのビヒクル(1:1:1の割合の、PBS:DMSO:EtOH)中、望ましい濃度で調製した。PU24FClの、タウのリン酸化に対する短期の効果を規定するためにデザインした実験では、マウス(1時間点あたり2匹)を、PU24FCl 200mg/kg又はビヒクル単独で処置した。屠殺の時間点に脳を回収し、直ちに瞬間凍結した。タンパク質分析用に、脳をSDS溶解バッファー(50mM Tris pH7.4、2%SDS)でホモジナイズした。長期投与の研究用には、マウス(n=5)を1日おきに30日間、PU24FClの示された投与量で処置した。全ての動物に対して、体重及び行動の変化をモニターした。マウスを、最終PU24FClの注射8時間後、CO安楽死によって屠殺した。脳を、上記に記載したように回収し、処理加工した。タンパク質を、ウエスタンブロットによりさらに分析した。
【0057】
若年及び胎仔の脳においてタウのリン酸化は増強され(50)、ADに罹患した脳に類似する(51、52)。さらに、4〜6週齢の胸腺欠損ヌードマウスは、関連する疾患のエピトープでタウのリン酸化を発現している可能性がある。最初のin vivoの実験で、これらの動物の脳におけるHsp90の短期の変調を評価した。PU24FClの1投与量(200mg/kg)をこれらのマウスに腹腔内投与し、0、6、12、24、36、及び48時間後に動物を屠殺した。脳全体を溶解バッファーでホモジナイズし、S202/T205のタウのリン酸化をウエスタンブロットにより評価した。このエピトープにおけるタウのリン酸化の突発が、投与12時間後に観察され、直後に基底レベルに低下した(図1A)。脳組織における薬物レベルをLC−MSによって分析し、約24時間後にスパイクのある、治療上関連のあるレベルが脳組織に存在することが示された(図1B)。これら同じマウスにおいて、PU24FClは、肝臓、血清、及び子宮から速やかに一掃された。
【0058】
第2の実験で、本発明者らは、PU24FClで30日間、隔日処置したタウのリン酸化マウスに対するHsp90長期阻害の効果を分析し、これらの動物において顕著な毒性又は体重の喪失は観察されなかった。図2に見られるように、S202/T205のタウのリン酸化における有意な低下が、全ての処置マウスにおいて明らかであった。Hsp90の短期と長期の変調との間の効果におけるこのような相違が、Hsp90によってシャペロンされた他のタンパク質に対して記録されている。Hsp90阻害薬での細胞の処置により、長期の時間経過にわたってRaf−1の分解が引き起こされ、短期間投与した場合にはRaf−1活性の一過性の突発が引き起こされた(53)。同様の証拠が、RNA依存性キナーゼPKRの活性に対して実証されており、PKRはGMで短期の処置時に活性となっている(54)。これらの所見は、Hsp90が、これらのキナーゼの基底のシグナリングを制限するように作用し得ることを示唆している。さらなる例は、ステロイドホルモン受容体の制御に見出される。Hsp90は、典型的にはホルモン結合の結果として2量体化をマスクし、シャペロンの相互作用が中断されるまでステロイドホルモン受容体のDNA結合を阻害する。このように、シャペロンから剥がされたステロイドホルモン受容体は、ホルモンの非存在下で2量体化及びDNA結合に対して能力がある(55)。Hsp90のこの機能は、全てのそのクライアントタンパク質に対して当てはまらないことがあるが、p35/cdk5の場合には、Hsp90は複合体の内因性の活性を抑制する同様の役割を果たすことがあり、一方、タウと相互作用する用意ができているプライムされた立体配座に保持する。
【0059】
長期処置の実験におけるタウのリン酸化における低下は、p35の発現における60から70%の低減に関連づけられた(図2)。さらに、誘導性のHsp70の発現における増大が、これらのマウスで観察された(図2)。脳全体におけるcdk5の発現は、影響を受けなかった。cdk5タンパク質は、哺乳動物組織及び培養細胞系統に広く分布しており、数多くの他のタンパク質と複合しており、各会合は多様な細胞の役割を果たしている。cdk5/p35に関連するキナーゼ活性は、大脳皮質においてのみ実証されている(56、57)。免疫沈降したcdk5活性をADの脳で試験した場合、前頭前野皮質において上昇することが見出された(58)。p35/cdk5の局在が皮質に限定されていることが、Hsp90の阻害に際して脳全体における全cdk5の発現が変更しなかった理由を説明し得る。他のコンパートメントに局在するcdk5が引き起こした高いバックグラウンドのために、ウエスタンブロットによるcdk5の安定状態における小さな変化をモニターすることが不可能になった可能性がある。これらの結果は、脳におけるHsp90によるcdkの管理は、p35/cdk5複合体の活性の制御に制限される可能性があることも示唆し得る。
【0060】
(実施例2)
トランスジェニックマウス:この試験では、突然変異のヒトタウを過剰発現するJNPL3系(59)トランスジェニックマウス(P301L、4R0N)を用いた。マウスはヘテロ接合性であり、参考文献59に公開されるように、C57BL/DBA2/SWからなる混合のハイブリッドの遺伝的バックグラウンド上にあった。これらのマウスは、基底終脳、間脳、脳幹、及び脊髄にNFTを発症し、>12カ月齢のマウスではジストニア、麻痺、及び死をもたらす脊髄における変性を伴う重篤な病理を有する。9カ月齢のオスJNPL3マウス(n=2)を、5日間、PU−DZ8又はビヒクルで腹腔内処置した。最終の処置の12時間後にマウスを、麻酔下、頚椎脱臼によって屠殺した。
【0061】
タウのリン酸化に対するHsp90の効果をさらに実験するために、本発明者らは、突然変異の(P301L)タウタンパク質を発現するJNPL3系マウスを用いた(59)。遺伝的分析により、タウ遺伝子における突然変異がFTDP−17に関連付けられている(60、61)。20を超える明らかな病原性の突然変異が同定されており、P301Lが、タウオパシーにおける最も一般的な突然変異として同定されている(33)。JNPL3マウスは、タウのリン酸化及びNFTの発生において、年齢、及び遺伝子の投与量依存性の増大を表している(59、62)。JNPL3におけるタウタンパク質は、主にヒトであり、複数の部位でリン酸化されている:T181(AT270)、S202/T205(AT8)、T212(AT100)、T231(AT180)、S262、S396/S404、S409、及びS422(59、62)。若年胸腺欠損ヌードマウスにおける実験に一致して、水溶性PU24FCl誘導体であるPU−DZ8で、9カ月齢オスJNPL3マウスを5日間処置(2)すると、脳全体におけるp35レベルは低減し、推定上のcdk5部位であるS202/T205及びT212でタウのリン酸化の著しい軽減がもたらされた。p35発現の度合いは、リン酸化の軽減に言い換えられる。p35レベルにおける50%の低減は、S202/T205(AbAT−8)に対してほぼ同様の効果ということになるが、T212/S214(AbAT−100)に対して殆ど完全にリン酸化を低減する。PHFにおけるタウと会合しているT231(AbAT−180)のタウのリン酸化に対しては著しい効果はなく、濃縮体(63、64)が、p35発現において50%低減して見られた。しかし、コントロールと比べて効果がより顕著であり、p35の発現が約20%に低減したマウスでは、S202/T205及びT212/S214におけるタウのリン酸化に対して著しい効果、並びにT231に対して50%の低減が観察された。本発明者らは、T181では著しい量のタウのリン酸化を検出することができず、部位は、PHF、濃縮体、及び神経フィラメントにおいて過剰リン酸化されていることが見出された(65)。繰り返すと、cdk5の脳全体の発現は、影響を受けなかった(図3)。
【0062】
薬理学的に関連のあるレベルのPU−DZ8が、これらの脳において記録された。
【0063】
(実施例3)
6.5カ月齢のJNPL3メスマウスを、5日/週で30日間、Hsp90阻害薬であるPU−DZ8(図5)若しくはビヒクルで処置し、或いは時間ゼロで屠殺した。1グループあたりn=4。脳を、皮質下及び皮質の領域で分割し、Greenberg及びDaviesの抽出プロトコールを用いて処理加工した(77)。サルコシル可溶性の分画(S1)を、p35及びHsp70に対してWBによって分析し、AT8によって認識されるS202及びT205、AT270によって認識されるT181、AT180によって認識されるT231など、ADの脳において異常に過剰リン酸化されていることが見出されたタウのエピトープに対して分析した。これらは推定上のcdk/p35部位である。タンパク質のバンドをHsp90に対して標準化し、相対的な単位としてプロットした。結果を図8A及びBに示す。タウの病原性のリン酸化を特徴とするタウオパシーは異常なキナーゼ活性によることもあるので、hsp90阻害薬が有効である、というのは、hsp90は病原性のある部位でタウをリン酸化することが知られているcdk5の活性化因子であるp35タンパク質の発現に影響を及ぼし、したがってこの部位でタウのリン酸化を軽減するからである。
【0064】
(実施例4)
6カ月齢のJNPL3メスマウスを、Hsp90阻害薬であるPU−DZ8(75mg/kg)でIP処置し、図9に示すように様々な時間に屠殺した。脳を、皮質下及び皮質の領域で分割し、Greenberg及びDaviesの抽出プロトコールを用いて処理加工した(77)。皮質下の領域から抽出されたサルコシル可溶性の分画(S1)を、p35、cdk5、変異タウ(HT7)、Hsp90、及びHsp70に対してWBによって分析した。タンパク質のバンドをアクチンに対して標準化し、非処置のマウスからの相対的な変化としてプロットした。図9は、DZ8を1投与量投与した後の、突然変異のタンパク質であるmタウ(HT7)の分解を示している。これはまた、シャペロンのレベル(hsp70増大)及びキナーゼ発現(p35レベル)における変化も示している。
【0065】
(実施例5)
COS−7細胞に、WT及びmタウに対応するcDNAをトランスフェクトし、細胞をPU24FClで24時間さらに処置した。細胞を溶解し、タンパク質内容物をウエスタンブロットによって分析した。結果を図10に示す。示したように、変異タウ(P301L)は、Hsp90阻害薬であるPU24FClに対して非常に感受性であるが、WTタウは同様の投与量の薬物によって影響を受けない。
【0066】
(実施例6)
本発明による化合物であるHsp90阻害薬がHsp90に結合する能力を、Chiosisら(WO2005012482、66、67、68)が開発した蛍光偏光アッセイを用いて試験した。SK−N−SH神経芽細胞腫細胞を、Hsp90阻害薬で24時間処置し、Hsp70のレベルを、Chiosisら(WO2005012482、69)が開発した表現型の細胞ベースのアッセイによって検出した。結果を図11A及びBにまとめてある。示したように、阻害薬はSK−N−SH神経芽細胞腫細胞においてストレス反応を誘発し、Hsp90阻害薬によるHsp70の誘発は、Hsp90シャペロンのATP制御ポケットへの結合におけるこれらの効力に相関する。
【0067】
(実施例7)
胎仔性原発性ラット皮質ニューロン、並びに、p35単独(COS−7/p35)又はp35及びタウの両方(COS−7/p35/タウ)のいずれかに対応するcDNAをトランスフェクトしたCOS−7細胞は、異常のニューロンのキナーゼ活性を研究するのに、関連ある実験システムである、というのは、推定上のcdk5部位におけるタウのリン酸化は、これらの細胞、並びに胎仔及び若年の脳において増強され(50、52)、ADに罹患している脳におけるリン酸化に類似しているからである(50)。ヒトWTタウ(COS−7/タウ)又は第7染色体に連鎖する前頭側頭型認知症及びパーキンソニズムに特徴的なP301L突然変異を内部に持つタウ(COS−7/タウP301L)のいずれかに対応するcDNAをトランスフェクトしたCOS−7細胞は、その正常の対応物に比べて、突然変異のタンパク質に対するHsp90阻害の効果を区別するのに用いることができる細胞モデルである。
【0068】
タウオパシーにおいてHsp90が果たす役割をさらに試験するために、本発明者らは、PU24FCl及び17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17AAG)の両方を使用し、1次ニューロン及びCOS−7細胞の培養物において、cdk5/p35及びタウP301Lの両方に対するこれらの効果を調査した。1次ニューロンの培養物は、胎生17日のラット胎仔の大脳皮質に由来しており、先に記載してあるように維持した(105)。タンパク質の定常状態に対する、及びタウのリン酸化に対する、PU24FClの効果を決定するために、培養6日目にPU24FClを加え、示したように細胞を37度でインキュベートした。10%FBS及びペニシリン/ストレプトマイシン(それぞれ50単位及び50μg/ml)を含むDMEM中で増殖させたCOS−7細胞を、FuGENE6試薬(Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN)を用いることによって、p35、及びWTタウ又はP301L突然変異を内部に持つタウのいずれかを過剰発現するように、一過性にトランスフェクトした。トランスフェクト12時間後、示された濃度のPU24FClとともに、細胞を24時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を収集し、2%SDSで溶解し、得られたサンプルをウエスタンブロッティングによって分析した。
【0069】
cdk5によるタウのリン酸化は、ニューロン特異的なタンパク質であるp35又はp39の1つとの複合体の形成による活性化によって開始する。しかし、高度に関連しているイソ型のp39の抑制ではなく、アンチセンスのオリゴヌクレオチド処置によるp35の抑制のみが、選択的にcdk5活性を低減した。さらに、cdk5タンパク質ではなくp35のレベルが、cdk5活性に対して律速的である。それと一致して、本発明者らは、p35の細胞発現に対するHsp90阻害の影響を評価した。PU24FClによる投与量及び時間依存性のp35の分解が、免疫ブロット及び免疫蛍光の技術によって1次ニューロンにおいて検出され、同様にCOS−7/p35及びCOS−7/p35/タウ細胞において検出された。Hsp90に対するこの化合物の親和性に一致して、約1〜5μMのPU24FClで効果が見られ、10μMのHsp90阻害薬で最大であった。外因性に導入されたp35は、内因性のタンパク質よりもHsp90阻害に対して感受性であり、Hsp90腫瘍性タンパク質との類似性によって、タウオパシーにおける異常なタンパク質の緩衝作用及び安定化がHsp90を取り込むことによって遂行され得ることを示唆していた。Hsp90の阻害によるp35レベルの低減は、cdk5の基質であるヒストン−H1を用いて測定して、cdk5/p35複合体の活性に影響を及ぼし、正常のタウタンパク質の発現に影響を及ぼさずにADの脳においてリン酸化されることが示されている推定のcdk5のタウのリン酸化を低減した。しかし、mタウは、WTタウの発現を妨害しなかったPU24FClの濃度に感受性であった。Hsp90阻害に対して、WTタウに比べて高いmタウの感受性は、Hsp90の突然変異の腫瘍タンパク質のクライアントの観察された不安定さに一致している。p35及びmタウに対する類似の効果が、17AAGで観察された。正常のタウの活性を制御するいくつかのキナーゼ及びホスファターゼ(PKA、CK−1、CK−2、PP−1−α、PP−1−γ、及びPP2A)の発現はHsp90阻害薬によって影響を受けないので、PU24FClのニューロンタンパク質に対する効果は、詳細に明らかにされ、選択的である。
【0070】
Hsp90阻害薬によるHsp70の誘発は、いくつかの神経変性疾患モデルで記述されている(12、16、19)。Hsp70の発現は、Hsp90によって間接的に制御されている(7)。したがって、1次ニューロン又はトランスフェクトしたCOS−7細胞のいずれかをPU24FClで処置すると、Hsp70における投与量依存性の増大をもたらした。Hsp70の誘発は、p35及びmタウの両方をやはり変調するPU24FClの投与量で起こり、異常なタンパク質の分解及び熱ショック反応の誘発は、両方ともPU24FClによるHsp90阻害の直接的な結果であることを示唆していた。
【0071】
(実施例8)
Hsp90がこれらp35及びmタウの安定性を維持するのに直接的な役割を果たすか否かを調べるために、本発明者らは、PU24FClによるHsp90機能の阻害がこれらの半減期に影響を及ぼすか否かを試験した。1次ニューロンの培養物を、シクロヘキシミドの存在下、阻害薬又はビヒクルで処置した。タンパク質レベルの定量により、内因性p35の半減期は、ビヒクルの存在下で120分であり、PU24FClをシステムに加えると60分に低減することが実証された。外因性p35は内因性タンパク質よりも、COS−7/p35/タウ細胞及び1次ニューロンの両方に関して、内因性タンパク質よりも不安定であり、半減期が大幅に短い(t1/2=ビヒクルの存在下で60分、及びPU24FClの存在下で30分)。mタウに対して同様の結果が観察され、Hsp90阻害薬の存在下タンパク質の50%が2〜4時間で分解され、ビヒクル処置細胞におけるmタウの半減期は10時間を超えた。阻害薬は、WTタウのレベルに影響がなかった。さらに、mタウ及びp35は、Hsp70の誘発がシクロヘキシミドによって阻止された場合でも、PU24FCl処置時に分解された。これらの所見は、Hsp90を、p35及び変異タウ両方の安定性の直接的且つ重要な制御因子として強力に位置付けるものである。
【0072】
(実施例9)
Hsp90が、タンパク質複合体の形成によって、これらのタンパク質の安定性を制御するのか否かを試験するために、本発明者らは、Hsp90又はその推定上のクライアントタンパク質のいずれかに選択的に結合する、いくつかの化学的及び免疫学的ツールを用いた。Hsp90の、p35及びmタウとの会合が観察された。細胞を、コントロールのIgGと免疫精製した場合には、著しい会合は観察されなかった。Hsp90のコシャペロンであるCdc37は、いくつかのシャペロン−キナーゼの集合と会合することが見出され、Lamphereらの以前の観察と一致して(106)、p35−免疫精製した複合体に非存在であった。細胞をPU24FClと前処置すると、Hsp90のp35との相互作用を変更した。
【0073】
上記に示した細胞モデルは、Hsp90と異常なニューロンのタンパク質との間の相互作用は、分子レベルで可能であることを実証している。しかし、トランスフェクションによるタンパク質の外来性の導入は、細胞のタンパク質含有量を不安定化し、Hsp90による異質のタンパク質の安定性の制御を強要する。したがって、内因性の環境におけるHsp90の、タウP301L及びP35との相互作用を評価するために、本発明者らは、タウオパシーの動物モデルから得た脳のホモジネートを使用した。突然変異の(P301L)ヒトタウ(hタウ)タンパク質を発現するJNPL3系統のマウスは、タウのリン酸化及び不溶性のタウ沈着における年齢、性別、及び遺伝子の投与量依存性の増大を示した。これらの脳においてHsp90と会合しているタンパク質を単離するために、本発明者らは、10カ月齢のJNPL3メスマウス(n=4)から得た脳ホモジネートを使用し、ストレプトアビジンビーズ上に固定化したビオチン化PU誘導体、又は特異的な抗Hsp90抗体のいずれかを使用した。PUビーズによって単離したHsp90は、mタウに特異的に結合した。タンパク質のフォールディングを促進する上で分子シャペロンと協力することが見出されているユビキチンE3リガーゼである熱ショック類似70−相互作用性タンパク質のC末端の存在も、Hsp90複合体において同定されており、Saharaら(62)の所見と一致していた。Hsp90抗体は、p35及びそのキナーゼパートナーであるcdk5と複合しているシャペロンを特異的に同定した。まとめると、これらのデータは、直接的なタンパク質複合体の形成により、p35及びmタウの安定性の制御因子として、Hsp90を位置付けるものである。
【0074】
(実施例10)
JNPL3脳Hsp90への結合。アッセイバッファー(HFB)は、20mM HEPES(K)pH7.3、50mM KCl、5mM MgCl、20mM NaMoO、0.01%NP40を含んでいた。各々を使用する前に、0.1mg/mLウシγグロブリン(BCG)(Panvera Corporation、Madison、WI)及び2mM DTT(Fischer Biotech、Fair Lawn、NJ)を新たに加えた。特異的なHsp90のリガンドであるGM−cy3Bを先に報告されている通りに合成し(10)、DMSO中に溶解して10μM溶液を形成した。脳を、プロテアーゼ及びホスファターゼの阻害薬を加えたHFBでホモジナイズした。GM−cy3B(3nM)を増大量の脳ホモジネートで処置した飽和曲線を記録した。Hill及びScatchardのプロット分析の実験を構築して、飽和に到達するのに必要とされる少量の脳ホモジネートでは、他の細胞材料からの相互作用は除外されることを示した。それに対して90%を超えるGM−cy3Bが平衡時(24時間)に結合するHsp90であった脳ホモジネートの量を、競合試験用に選択した。競合実験には、各96ウェルは、最終体積100μLの、3nM GM−cy3B、脳ホモジネート、及び試験した阻害薬(DMSOに初期保存)を含んでいた。プレートを、4℃、24時間、シェーカー上に放置し、mPにおける蛍光偏光の値を記録した。EC50値を、50%のGM−cy3Bが置き換えられた競合物質の濃度として決定した。蛍光偏光の測定を、AnalystGT機器(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)上で行った。GM−cy3Bに対して、565nmのダイクロイックミラーとともに、545nmの励起フィルター、及び610から675nmの発光フィルターを用いた。測定を、黒色96ウェルマイクロタイタープレートで行った。
【0075】
図12は、この手順を用いて決定した、JNPL3脳抽出物におけるPU−DZ8、PU24FCl、及び17AAGのhsp90に対する結合親和性を示す。示したように、PU−DZ8に対するEC50は、他の化合物に対するEC50よりも低い(PU24FClに対する822.6nM、及び17AAGに対する98.40nMに対して、46.71nM)。
【0076】
図5の化合物を用いて、同じ手順を繰り返した。これらの化合物に対して決定したEC50値を表1に示す。様々なプリン骨格の化合物による、神経芽細胞腫細胞におけるHsp70の誘発を測定した。hsp70の誘発に対する効力は、hsp90の結合親和性に対応している。
【表1】

【0077】
(実施例11)
PU−DZ8脳レベルの評価。化合物の濃度を、タンデム高速液体クロマトグラフィー−マス/マススペクトロメトリー(HPLC/MS/MS)を用いて、MRMモードによって決定し、定量した。脳断片の重量を量り、等張食塩水ですすぎ、ガーゼで水分を取り、次いで移動相(アセトニトリル(ACN)/0.1%ギ酸=1.2/2.8、v/v)でホモジナイズした。内部標準としてハロペリドールを加えた。PU−DZ8を塩化メチレンに抽出し、有機層を分離し、真空下で速やかに乾燥し、移動相で再構成した。Shimadzu LCシステム及び96ウェルプレートオートサンプラーと連結したAPI4000(商標)LC/MS/MS(Applied Biosystems)で化合物の分析を行った。LC分離用に、Gemini C18カラム(粒子サイズ5μ、内径50×4.6mm)を用いた。分析物を、均一濃度の条件下、4分間、流速0.4mL/分で溶出した。
【0078】
PU−DZ8の1投与量(75mg/kg)を、2.5〜4カ月齢のメスマウス(n=32)に腹腔内(i.p.)投与し、0から36時間の間隔で動物を屠殺した。これらのマウスの皮質下及び皮質の領域から、凝集なしのタウ(S1)及び不溶性タウ(P3)の分画の両方を調製した。脳におけるPU−DZ8レベルは、4時間で0.35μg/g(約700nM)に到達し、薬理学的に関連性のある投与量が、投与後少なくとも12時間保持された(0.2μg/g、約390nM)。結果を図13に示す。
【0079】
図13は、PU−DZ8が、i.p.投与の75mg/kgの1投与量のPU−DZ8を投与後、JNPL3トランスジェニックマウスの脳において、薬理学的に関連性のある濃度に到達したことを示している。これは、PU−DZ8は、PU24FClよりもずっと速やかに脳組織に到達することを示している(図1B)。
【0080】
(実施例12)
「第17染色体に連鎖する前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム(FTDP−17)」と呼ばれる一団のタウオパシーでは、トランスフォーメーションが第17染色体上のヒトタウのイソ型におけるいくつかの突然変異によって引き起こされ、ADにおけるものに類似した凝集したタウの蓄積をもたらし、またそれを特徴としている(10、11)。20を超える特徴的な病原性の突然変異が同定されており、P301Lがタウオパシーにおける最も一般的な突然変異である。
【0081】
Hsp90制御からのmタウ及びp35の放出が、正常ニューロンの活性を回復し、毒性タウの凝集物の排除をもたらすか否かを調べるために、本発明者らはタウオパシーのJNPL3マウスモデルを使用した。JNPL3マウスの脳組織は溶解性の異なるタウタンパク質を含んでおり、これらをバッファー抽出可能(S1)、高濃度の塩で抽出可能(S2)、及びサルコシル不溶性(P3)の分画に分離にすることができる。S1分画は50〜60kDaのヒトタウタンパク質を含んでいるが、ヘミ接合性のメスにおいて3カ月という早期に、64kD及びそれより高い分子量のサルコシル不溶性タウタンパク質が、JNPL3マウスの皮質下の脳領域で検出されている。これらは、T181、S202/T205、T212、及びT231などの複数の部位で、リン酸化された不溶性の毒性タウを含んでいる(37、38)。
【0082】
マウスのJNPL3系統に存在するヒトタウP301LがHsp90阻害に感受性の標的であるか否かを調べるために、動物を、脳関門透過性のHsp90阻害薬であるPU−DZ8で処置した。この薬剤は、PU24FClの、効力の高い水溶性誘導体である(EC50JNPL3脳Hsp90=70nM)。PU−DZ8の1投与量(75mg/kg)を、2.5〜4カ月齢のメスマウス(n=32)に腹腔内(i.p.)投与し、0から36時間の間隔で動物を屠殺した。これらのマウスの皮質下及び皮質の領域から、凝集なしのタウ(S1)及び不溶性タウ(P3)の分画の両方を調製した。ヒトタウのレベルを、ヒト特異的抗タウ抗体(HT−7)で免疫ブロッティングすることによって評価した。投与4時間後、Hsp90阻害薬は、皮質下の脳領域に存在する、可溶性の前駆体プールのmタウにおける有意な低減を誘発し(4時間のP=0.0031)、これらの効果は36時間まで維持された(8時間のP=0.0066、12時間0.0030、24時間0.0111、及び36時間0.042)(図14A)。本発明者らは、次に、タウ凝集物(P3分画)に存在するmタウの安定性が、Hsp90によってさらに制御されるか否かを、4から6カ月齢のマウスのグループ(n=15)で試験した。図14Bで実証するように、不溶性のタウ(P<0.0001)及び過剰リン酸化されたタウ(P=0.001)の有意の減少が、Hsp90阻害薬を投与しなかったマウス(n=7)に比べて、処置マウス(n=8)に観察された。
【0083】
cdk5発現において有意な変化は検出されず、脳におけるHsp90によるcdk5の管理は、p35/cdk5複合体の活性を制御することに制限され得ることを示していた。悪性細胞においてHsp90によって厳重に制御されている、それぞれ細胞の生存及び増殖の経路における結節タンパク質である、Akt及びRaf−1の発現は、PU−DZ8によって変更されなかった。
【0084】
Hsp90阻害薬によるmタウ及びp35の変調の動力学を試験するためにデザインされた実験用に、動物にPBS中(6%DMSO)PU−DZ8 75mg/kgを腹腔内(i.p.)投与した。PU−DZ8投与後、示された時間に、マウスをCO2安楽死によって屠殺した。脳半球を、皮質−辺縁(皮質、扁桃体、及び海馬)、並びに皮質下の(大脳基底核、間脳、脳幹、及び小脳)領域に分け、ドライアイス上で速やかに凍結し、−80℃で貯蔵し、処理加工した。要約すると、各脳片の重量を量り、プロテアーゼ及びホスファターゼの阻害物質を含むTris緩衝食塩水(TBS)(25mM Tris−HCl、pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、5mM ピロリン酸ナトリウム、30mM β−グリセロリン酸、30mM フッ化ナトリウム、1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))の3容量でホモジナイズした。ホモジネートを、4℃、27000gで15分間遠心分離した。上清をS1分画として回収し、ペレット(P1)を3容量の塩/ショ糖バッファー(0.8M NaCl、10%ショ糖、10mM Tris/HCl、pH7.4、1mM EGTA、1mM PMSF)で再びホモジナイズし、上記同様遠心分離した。得られたペレットを廃棄し、上清をサルコシル(Sigma、St Louis、MO、USA、最終濃度1%)と、37℃で1時間インキュベートした。次いで、サルコシル混合液を、4℃、15000gで30分間遠心分離した。上清(S2分画)を回収し、ペレット(P3)をTBS中2%SDS50μLで再懸濁し、ウエスタンブロッティング用に−80℃で貯蔵した。タンパク質をウエスタンブロットによって分析した。
【0085】
図14Aは、JNPL3マウス脳における可溶性の変異タウのレベルに対する、PU−DZ8の1投与量の、短期投与の効果を示す図である。2.5〜4カ月齢のマウスの皮質下の脳領域を表す。ヒトタウのレベルを、Hsp90のレベルに標準化した。図14Bは、JNPL3マウスの脳における不溶性の変異タウのレベルに対する、PU−DZ8の1投与量の、短期投与の効果を示す。4、8、12、及び24時間、PU−DZ8(75mg/kg)で処置した6カ月齢のマウスの皮質下の脳領域から抽出した不溶性タウ(P3)分画の分析を表す。
【0086】
(実施例13)
mタウの変調が、マウスに毒性であることなしに、Hsp90阻害薬でのより長い処置期間にわたって維持され得るか否かを調べるために、JNPL3マウスをこれらの物質に30日間曝露した。6.5カ月齢のJNPL3メスマウス(n=10)に、ビヒクル(n=5)、又はHsp90阻害薬であるPU24FCl(200mg/kg)若しくはPU−DZ8(75mg/kg)の1つ(n=5)を、毎日、1週間あたり5回のスケジュールでi.p.投与し、阻害薬の投与量の最終投与の8時間後に動物を屠殺した。動物の体重、毛生、食欲、及び姿勢において著しい変化がないことによって明らかなように、毒性は観察されなかった。さらに、屠殺時の肉眼による検査時には、肉眼で観察できる内部臓器の損傷は検出されなかった。これらのマウスの皮質下の脳領域から抽出したS1分画及びP3分画の両方を、mタウの発現及びリン酸化について分析した。前駆タンパク質のプール(S1分画)(hタウ、P<0.0001)及び毒性の凝集物(P3分画)(T231におけるリン酸化したタウ、P=0.0034)の両方におけるタウの発現及びリン酸化における有意の低減、並びにS1分画におけるp35の低減が、Hsp90阻害薬で処置したマウスに観察された。
【0087】
まとめると、可溶性のプール、及びHsp90阻害薬による凝集形態の両方におけるタウの分解の動力学が速やかなことは、Hsp90が毒性のタウ凝集物を制御し、その形成及び蓄積を促進することが示唆される。これらのデータは、また、Hsp90阻害薬を、毒性の凝集物の形成を防ぐため、及びすでに凝集した毒性のタウを可溶化するための両方で、タウオパシーの処置において用いることができることを示唆するものである。
【0088】
図15は、毒性のタウ凝集物における過剰リン酸化のタウに対する、PU−DZ8の長期投与の効果を示す。
【0089】
(実施例14)
タウオパシーにおいて、トランスフォーメーションは、過剰リン酸化され、凝集したタウの蓄積をもたらすタウタンパク質における異常を特徴とする(5〜7)。アルツハイマー病(AD)では、タウの過剰リン酸化は、いくつかのキナーゼ、特にサイクリン依存性タンパク質キナーゼ5(cdk5)及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(gsk3β、病原性の部位上のタウのリン酸化をもたらす)の異常な活性化によってもたらされる病原プロセスであることが示唆されている。ADにおいて過剰リン酸化されたタウは、ミスフォールドされ、微小管からの純粋な解離を経験し、毒性のタウ凝集物を形成すると考えられている(9、10)。cdk5によるタウのリン酸化は、ニューロン特異的なタンパク質であるp35又はp39の1つとの複合体形成による活性化によって開始する(22、23)。しかし、高度に関連するイソ型のp39の抑制ではなく、アンチセンスのオリゴヌクレオチド処置によるp35の抑制だけが、cdk5活性を選択的に低減する(24)。さらに、cdk5タンパク質ではなくp35のレベルは、cdk35活性に対して律速的である(25)。それと一致して、本発明者らは、p35発現に対するHsp90阻害の影響を評価した。
【0090】
本発明者らは、1次ニューロン、並びにCOS−7/p35及びCOS−7/p35/タウ細胞におけるPU24FClによるp35の投与量及び時間依存的の分解を検出した。p35単独(COS−7/p35)、又はp35及びタウの両方(COS−7/p35/タウ)のいずれかに対応するcDNAをトランスフェクトした、ラット胎仔性1次皮質ニューロン及びCOS−7細胞が、cdk5/p35活性及び安定性に対して、並びに推定上のcdk5部位におけるタウのリン酸化にも対してこれらの阻害薬を評価することを可能にする細胞のシステムである。これらは、異常なニューロンのキナーゼ活性を研究するための関連ある実験上のシステムである、というのは、これらの部位でのタウのリン酸化は、胎仔及び若年の脳において増強され(20)、ADに罹患している脳に類似しているからである(21)。さらに、cdk5の活性化因子であるp35をトランスフェクトしたCOS−7細胞は、病原性の部位でリン酸化されたタウを発現する(21)。Hsp90に対するこの化合物の親和性と一致して、約1〜5μMのPU24FClで効果が見られ、10μMのHsp90阻害薬で最高であった。外因性に導入したp35は、内因性のタンパク質よりもHsp90の阻害に対してより感受性であり、Hsp90腫瘍性タンパク質に対する類似性によって、タウオパシーにおける異常タンパク質の緩衝及び安定化が、Hsp90を取り込むことによって遂行し得ることが示唆された。cdk5の基質であるヒストン−H1を用いて測定して、Hsp90の阻害によるp35のレベルの低減は、cdk5/p35複合体の活性に影響を及ぼした。
【0091】
p35発現の低減が、タウのリン酸化の低減をもたらすか否かを調べるために、本発明者らは、3つの推定上のcdk5部位、即ちS202/T205、T231、及びT181上のタウのリン酸化を測定した(26、27)。これらの部位は、ADの脳において異常にリン酸化されていることが示されている(28)。PU24FClは、これらの部位上で、正常タウタンパク質の発現に影響を及ぼすことなしに、投与量依存性の様式でリン酸化を低減する。p35レベル及び活性に対して観察されるように、効果は阻害薬5μMで明白であり、10μMで最高であった。さらに、p35分解の動力学は、タウのリン酸化における低減に観察された物に類似していた。
【0092】
WTタウの環境における、Hsp90阻害のp35に対するin vivoの効果を調べるために、本発明者らはhタウマウスを使用した(41)。hタウマウスは、ADの早期に生じるものに匹敵する分布を有するタウの病理を発症する。hタウマウスにおけるタウの病理の大多数は、皮質の脳領域に位置する。これらのマウスは、6つのイソ型の非変異のヒトタウを発現するが、AD様のタウの病理を発症する。これらのマウスの皮質のホモジネートから調製した熱安定性の分画(S1)は、推定上のcdk5部位でリン酸化されたタウの年齢に関連した蓄積を示している。本発明者らは、これらの脳におけるHsp90の阻害は、p35の発現における低減及びその結果としてのタウのリン酸化の軽減をもたらし得るか否かを試験した。4及び8〜10カ月齢のhタウメスマウス(n=10)に、ビヒクル又は1投与量のPU−DZ8(75mg/kg)のいずれかをi.p.投与し、投与4時間又は8時間後に動物を屠殺した。凝集物のないタウ(S1)分画をこれらのマウスの皮質領域から調製し、ヒトのタウのレベルを、3リピートドメインのタウ(RD3)に特異的な抗体での免疫ブロッティングによって評価した。1次ニューロン培養物及びWTタウをトランスフェクトした細胞に対する実験との類似性によって、Hsp90阻害薬は可溶性のWTタウの発現に効果がなかった。しかし、p35レベルにおける時間依存性の有意な低減(P=0.0019)(図16A)及び抗体CP13によって検出したSer202上のタウのリン酸化の軽減(P=0.0078)は両方とも、Hsp90阻害薬の投与8時間後に明らかであった(図16B)。モノクローナル抗体CP13は、タウの凝集が蓄積する早期及びより進行した段階の両方において、タウの病理を検出するのに一般的に用いられる(41)。まとめると、これらのデータは、WT及び変異タウを異常にリン酸化する傾向があるキナーゼ複合体としてp35/cdk5を位置づけており、Hsp90を、両方のタウの環境におけるその活性の調節因子として示唆している。
【0093】
図16Aは、アルツハイマー患者に類似する、病原性に過剰リン酸化されたWTタウを発現するhタウマウスにおけるp35に対するPU−DZ8の効果を示している。図16Bは、アルツハイマー患者に類似する、病原性に過剰リン酸化されたWTタウを発現するhタウマウスにおけるPU−DZ8タウのリン酸化の効果を示している。
(参考文献)
以下の参考文献を本明細書に引用し、その全文が参照として本明細書に組み入れられる。





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の処置のための方法であって、そのような処置を必要とする個体にHsp90を阻害するプリン骨格の化合物の治療有効量を投与するステップを含み、化合物が脳に送達されるような化合物及び投与様式が選択される方法。
【請求項2】
化合物が血液脳関門を越える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プリン骨格の化合物が、それに対してさらなるアリール環又はヘテロアリール環が8位又は9位でリンカーによって結合しているプリン部分を含む化合物であり、化合物が全体として、Hsp90のN末端ポケット内に受け止められるのに必要な柔軟性及び置換基を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
さらなるアリール環又はヘテロアリール環が、9位に結合しており、4’位及び5’位のみで置換されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
プリン骨格の化合物が、一般構造:
【化1】


[式中、
Rは、水素;N又はOなどのヘテロ原子を場合により含む、CからC10アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアルコキシアルキル基であり、
及びYは、Y及び/又はYがOである場合は二重結合が欠損している、又は環のアリールの性質を保持するように再構成されるという条件で、独立に、C、N、S、又はOであり、
は、水素、ハロゲン、例えば、F、又はCl、又はBrであり、
は、CH、CF、S、SO、SO、O、NH、又はNRであり、式中Rはアルキルであり、
は、ハロゲン、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ、ヒドロキシアルキル、ピロリル、場合により置換されているアリールオキシ、アルキルアミノ、ジアリルアミノ、カルバミル、アミド、アルキルアミド、ジアルキルアミド、アシルアミノ、アルキルスルホニルアミド、トリハロメトキシ、トリハロ炭素、チオアルキル、SO−アルキル、COO−アルキル、NH、OH、又はCNであり、
は、Xが5’位における少なくとも1つの置換基を表す場合は5’位における前記置換基はXと同じ選択、即ちCからCアルキル若しくはアルコキシから選択されるという条件で、アリール基上のもう1つの置換基を表し、又はXは式−X−Y−Z−を有し、式中X、Y、及びZは、独立に、単結合又は二重結合によって連結しており原子価を満たすのに好適な水素置換のあるC、N、S、又はOであり、Yは(CHであってよく、X及びZの一方はアリール環の5’位で結合しており、他方は4’位に結合している]
を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
右側のアリール基が2’及び5’位のみで置換されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
右側のアリール基が2’、4’、及び5’位で置換されている、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
X、Y、及びZの少なくとも1つが炭素原子である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
が−O−(CH−O−であり、式中nが1又は2である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
がハロゲンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
がBr又はIである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Rが、窒素ヘテロ原子を含むアルキル基である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
Rが、3−イソプロピルアミノプロピル、3−(イソプロピル(メチル)アミノ)プロピル、3−(イソプロピル(エチル)アミノ)プロピル、3−((2−ヒドロキシエチル)(イソプロピル)アミノ)プロピル、3−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)プロピル、3−(アリル(メチル)アミノ)プロピル、3−(エチル(メチル)アミノ)プロピル、3−(シクロプロピル(プロピル)アミノ)プロピル、3−(シクロヘキシル(2−ヒドロキシエチル)アミノ)プロピル、3−(2−メチルアジリジン−1−イル)プロピル、3−(ピペリジン−1−イル)プロピル、3−(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン)−1−イル)プロピル、3−モルホリノプロピル、3−(トリメチルアンモニオ)プロピル、2−(イソプロピルアミノ)エチル、2−(イソブチルアミノ)エチル、2−(ネオペンチルアミノ)エチル、2−(シクロプロピルメチルアミノ)エチル、2−(エチル(メチル)アミノ)エチル、2−(イソブチル(メチル)アミノ)エチル、又は2−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)エチルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
Rが3−イソプロピルアミノプロピルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
がハロゲンである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
がBr又はIである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
がハロゲンである、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
がハロゲンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
がBr又はIである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
Rが、窒素ヘテロ原子を含むアルキル基である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
Rが、3−イソプロピルアミノプロピル、3−(イソプロピル(メチル)アミノ)プロピル、3−(イソプロピル(エチル)アミノ)プロピル、3−((2−ヒドロキシエチル)(イソプロピル)アミノ)プロピル、3−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)プロピル、3−(アリル(メチル)アミノ)プロピル、3−(エチル(メチル)アミノ)プロピル、3−(シクロプロピル(プロピル)アミノ)プロピル、3−(シクロヘキシル(2−ヒドロキシエチル)アミノ)プロピル、3−(2−メチルアジリジン−1−イル)プロピル、3−(ピペリジン−1−イル)プロピル、3−(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン)−1−イル)プロピル、3−モルホリノプロピル、3−(トリメチルアンモニオ)プロピル、2−(イソプロピルアミノ)エチル、2−(イソブチルアミノ)エチル、2−(ネオペンチルアミノ)エチル、2−(シクロプロピルメチルアミノ)エチル、2−(エチル(メチル)アミノ)エチル、2−(イソブチル(メチル)アミノ)エチル、又は2−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)エチルである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
Rが3−イソプロピルアミノプロピルである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
がハロゲンである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
がBr又はIである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
Rが末端アルキンである、請求項9に記載の方法。
【請求項26】
Rがプロピニルである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
がハロゲンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
プリン骨格の化合物が、式:
【化2】


を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
プリン骨格の化合物が、式:
【化3】


[式中、
Rは、2’位に連結して8又は10員環を形成する、N又はOなどのヘテロ原子を場合により含む、アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアルコキシアルキル基であり、
及びYは、Y及び/又はYがOである場合は二重結合が欠損している、又は環のアリールの性質を保持するように再構成されるという条件で、独立に、C、N、S、又はOであり、
は、水素、ハロゲン、例えば、F、又はCl、又はBrであり、
は、CH、CF、S、SO、SO、O、NH、又はNRであり、式中Rはアルキルであり、
は、Rの部分であり、
は、Xが5’位における少なくとも1つの置換基を表す場合は5’位における前記置換基はXと同じ選択、即ちCからCアルキル若しくはアルコキシから選択されるという条件で、アリール基上のもう1つの置換基を表し、又はXは式−X−Y−Z−を有し、式中X、Y、及びZは、独立に、単結合又は二重結合によって連結しており原子価を満たすのに好適な水素置換のあるC、N、S、又はOであり、Yは(CHであってよく、X及びZの一方はアリール環の5’位で結合しており、他方は4’位に結合している]
を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項30】
プリン骨格の化合物が、式:
【化4】


を有する、請求項1に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【公表番号】特表2009−542716(P2009−542716A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518602(P2009−518602)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/072671
【国際公開番号】WO2008/005937
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(500516056)スローン − ケッタリング インスティチュート フォー キャンサー リサーチ (14)
【出願人】(509002095)ザ ロックフェラー ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】